説明

電子写真用転写紙の製造方法

【課題】高温高湿環境下で、開封後直ちに使用しても走行不良を起こさない電子写真用転写紙を提供すること。
【解決手段】原紙の片面に、顔料及び結着剤を主成分とする塗被液を塗工し、湿潤状態にある塗工層を加熱した鏡面仕上げ面に圧着させ、乾燥することによりキャスト塗工層を形成させる電子写真用転写紙の製造方法。前記塗被液が数平均分子量60万〜90万の高分子シリコーンを含有すると共に、前記乾燥後に、20〜80℃、50〜90%RHに調節された空気中に20秒以上保持し、加湿することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の複写機等に用いる転写紙の製造方法に関し、特に白紙光沢が高いだけでなく、複写機内での走行性、特に高湿度環境下における走行性に優れた電子写真用転写紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般商業印刷や高級印刷分野ではオフセット印刷が主流で、アート紙、コート紙、キャストコート紙等の塗工紙が使用されている。これは、塗工紙の表面が非常に平滑であり、インキの転移性が良好で画像の再現性が高いだけでなく、色の再現性が良好であるためであるからである。同様に、複写機の分野においても、従来より鮮やかな画像を得るために、従来のPPC用紙やプリンター用紙に代えて上記の塗工紙を使用するケースが増えてきており、特に高白紙光沢を有する高級感を求める場合には、キャストコート紙が用いられている。この傾向は、近年の、複写機やプリンターのカラー化、高速化、高画質化の進展や、オンデマンド出版の分野において、カラー複写機やプリンターによって手軽に少部数の出版をしたり、印刷物を複写機等で作製、出版する例が顕著に現れることにより増大している。
【0003】
複写機やプリンターは、使用する紙を機械本体内部のトレイや本体外部に設置されている手差しトレイに入れることによって印字部に紙を供給する。このような複写機やプリンターに、印刷用の高白紙光沢の塗工紙を供給し、高湿度の環境下で通紙すると、紙と紙が貼り付いて供給が困難となるために、給紙不良や走行不良が発生し、紙詰まりを起こしやすいことが知られている。
【0004】
高白紙光沢の塗工紙は高平滑である上顔料層を有しているために、上質系PPC用紙が10〜20秒と透気度が高いのに対して、その透気度は、数千から1万秒程度であり、透気性が低い。このため、シート状で積層されると紙間の空気が加圧により層間から押し出されるので、紙同士が密着しやすくなる。特に、積層シートが高湿度の環境下に曝されると、用紙の断裁面からの吸湿によって急激にシート周辺部が膨潤するために、密着状態が維持されて給紙不良や走行不良が発生し、紙詰まりの原因となると推定される。給紙不良の発生に影響する他の因子としては、白紙カール(コピー前カール)が挙げられる。従って、白紙カールをできるだけ抑えてフラットになるように仕上げること、また、広範囲の環境下で、生じるカールが小さいことが望まれる。
【0005】
一方、キャストコート紙の製造方法は、原紙表面に塗被液を塗工した後、塗工層が湿潤状態にあるうちに、直ちにフォーミングロールによってキャストドラムに圧着させる直接法と、塗被液を塗工した後、塗工層を凝固浴に通して変形可能な可塑性を持ったゲル状態に凝固させ、次いでキャストドラムに圧着させる凝固法と、塗被液を塗工した後一旦乾燥させて乾燥塗工面を得た後、該乾燥塗工面を水または適当な再湿潤液で再湿可塑化させ、次いでキャストドラムに圧着させる再湿潤法などに大別される。これらの方法は、いずれも顔料及び結着剤を有する塗被液を原紙に塗工し、可塑状態にある塗工層を、加熱された鏡面を有するキャストドラム表面にフォーミングロール(プレスロール)を用いて圧着し、乾燥、離型させて強光沢仕上げをするという点で共通している。また、一般に、キャストコート紙は表裏の塗工量差が大きいために、例えば環境湿度を変化させた場合等に、一般の塗工紙と比べて製造時にカールが発生しやすい傾向にある。
例えば、カール等を抑制するために、原紙に塗被液を塗工した後、乾燥工程または乾燥終了後に、原紙の裏面にポリエチレングリコールを塗工したキャストコート紙を製造することにより、カールを防止し、走行性の良好な転写紙を得ることが開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、高湿度などの環境変化におけるカールの抑制や走行性については、未だ不十分であった。
【特許文献1】特開平9−228296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、キャスト面の表面性が良好であるにもかかわらず紙間の密着及びカールが抑制され、電子写真方式による印字を高湿度下で実施した際の走行性が良好な、電子写真用転写紙を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、顔料及び結着剤を主成分とするキャスト塗工紙製造時の塗被液中に数平均分子量60万〜90万の高分子シリコーンを含有させると共に、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥後であって巻き取り前に調湿することによって、紙間の密着及びカールが抑制され、走行性が良好となることを見出した。
即ち、本発明は、原紙の片面に、顔料及び結着剤を主成分とする塗被液を塗工した後、湿潤状態にある塗工層を加熱した鏡面仕上げ面に圧着させ、乾燥することによりキャスト塗工層を形成させる電子写真用転写紙の製造方法において、前記塗被液が数平均分子量60万〜90万の高分子シリコーンを含有すると共に、前記乾燥後に、20〜80℃、50〜90%RHに調節された空気中に20秒以上保持し、加湿することを特徴とする電子写真用転写紙の製造方法である。特に、高温度、高湿度のチャンバーを通す際に、キャスト塗工面とその反対面に、そのチャンバー内の空気とほぼ同じ温度および湿度の空気を吹き付けることが好ましい。また、調節された空気を吹き付けて紙を加湿する際に、エキスパンダーロールを使用してシワの発生を抑制することが好ましく、特に上記調湿直前に、キャスト塗工面の反対面に、水または水溶液もしくは顔料などの水性分散液を塗布することが好ましい。更に、キャスト塗工面の反対側を乾燥する際に、乾燥時のCD方向への拘束力が大きいシリンダードライヤーを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって得られた転写紙は、その含水量が、電子写真方式による印字を高湿度下で実施する際に達する含水量に近く、紙間の密着性及びカールが抑制されるので、走行性が良好であると共に塗工面の表面性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用する原紙は、例えば、パルプ繊維を離解してスラリーとし、必要に応じて填料やサイズ剤及び他の添加剤を添加し、抄紙機で抄造した後乾燥するか、抄造後、更に澱粉や高分子物質の水溶液などをサイズプレスし、乾燥した後マシンカレンダーをかけることによって得ることができる。使用するパルプとしては、L(広葉樹)材およびN(針葉樹)材の化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプなど、通常の抄紙において使用されるパルプの中から適宜選択して使用することができる。内添填料としては、例えばタルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカ等、通常使用される填料の中から適宜選択して使用することができる。
【0010】
本発明で使用する原紙は、一般の印刷用塗工紙やキャストコート紙に用いられる坪量50〜400g/mの原紙であり、目的により、上質紙、中質紙、再生紙等を選択して使用する。また、原紙として、上記原紙に顔料と接着剤を含有する塗料を下塗りしたものを使用しても良い。下塗りの際の塗工方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、スプレーコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、コンマコーター等の公知の塗工機を用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
【0011】
本発明において、キャスト加工する際の塗工層に使用する顔料としては、例えば、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、タルク、無定形シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、サチンホワイト、二酸化チタン、珪酸アルミニウム、コロイダルシリカ、モンモリロナイト、プラスチックピグメント等の顔料を、単独でもしくは2種類以上併用して使用することができる。
【0012】
本発明の塗工層に使用する結着剤としては、例えばカゼイン、大豆蛋白や合成蛋白、スチレン/ブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、ポリウレタン、酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロール、ヒドロキシセルロース等の中から選択される、単独もしくは2種類以上の結着剤を使用することができる。
更に、本発明の塗被液には、一般の塗料に使用される分散剤、流動性変性剤、消泡剤、染料、滑剤、保水剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、導電剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などの各種の助剤を添加する事もできる。
【0013】
本発明においては、顔料と結着剤、及び離形剤として数平均分子量60万〜90万の高分子シリコーン、代表的にはポリアルキルシロキサンを含有する塗被液を塗布して塗工層を設けた後、この塗工層が湿潤状態にある内に、該塗工層を加熱した鏡面仕上げ面に圧着して乾燥する。塗工層に数平均分子量60万〜90万の高分子シリコーンを配合すると紙間の密着性が抑制されるという理由は明らかではないが、加熱した鏡面仕上げ面に塗工層を圧着して乾燥する際に、高分子シリコーンが塗工層中に一様に分布するのではなく、最表面に移行することによって、塗工層の最表面に高分子シリコーンが分布し、シリコーンが持つ潤滑性及び衝撃緩和性により、塗工層と該塗工層の反対層との密着性が抑制されるものと考えられる。また、ごく表面に高分子シリコーンを存在させることが可能となるので、高分子シリコーン溶液を塗布する場合と比較して、トナー転移性や画像再現性等の電子写真記録品質を劣化させることなく、紙間の密着性を抑制することができるものと推測される。
【0014】
高分子シリコーンの数平均分子量が60万未満であると、移行性が高すぎて電子写真用複写機での搬送性に悪影響を及ぼし、紙詰まり等を起こす恐れがある。また、数平均分子量が90万を越えると移行性が低すぎ、高分子シリコーンを塗被液に含有させる効果が見られない。数平均分子量はGPC法等の公知の分析により求めることができる。
前記高分子シリコーンは、塗工層中の顔料100重量部に対し、0.5〜10重量部の割合で添加して使用することが好ましい。高分子シリコーンの配合量が多いほど紙間の密着性を抑制することが可能であるが、配合割合が多いと密着性以外の性能(印字適性等)が悪化する傾向にある。上記の配合割合とすることによって、電子写真印字適性を損なうことなく、紙間の密着性を抑制することができる。高分子シリコーンとしては、ポリアルキルシロキサン、ポリアミノシロキサン、ポリアミドシロキサン、ポリエポキシシロキサン、ポリカルボキシルシロキサン、ポリフェノールシロキサン、ポリエーテルシロキサン、ポリフルオロアルキルシロキサン等を使用することができ、特にポリアルキルシロキサンを使用することが好ましい。
【0015】
本発明においては、顔料、結着剤、高分子シリコーン、及び、必要に応じて配合するその他の添加剤を水系で分散させて塗工層用の塗被液を調整する。水系の塗被液を用いる場合には、ポリエーテル変性シリコーン等の乳化剤を用いて、高分子シリコーンを水分散液(高分子シリコーンディスパージョン)として塗被液に添加することが好ましい。高分子シリコーンディスパージョンを用いることによって、高分子シリコーンが均一に分散した安定な塗被液が得られる。このときの乳化剤の配合量は、高分子ディスパージョンの乳化の状態を見ながら適宜決定することができるが、通常は高分子シリコーンに対して乳化剤20〜50重量%程度を配合すればよい。
【0016】
原紙表面に塗被液を塗工する方法は、前記下塗層の塗工方法の場合と同様であり、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、スプレーコーター等の公知の塗工機を用いた塗工方法の中から適宜選択することができる。塗工層の塗工量は、原紙の表面を覆い、かつ充分にトナーが均一に定着される範囲で任意に調整することができるが、片面あたりの固形分換算量で5〜30g/mであることが好ましく、特に10〜25g/mであることが好ましい。
【0017】
このようにして原紙上に形成された塗工層は、湿潤状態で、加熱された鏡面仕上げ面を有する円筒状のドラムに圧着・乾燥させて形成される。湿潤状態の塗工層を鏡面ドラムに圧着・乾燥する方法としては、未乾燥状態の塗工層をそのまま鏡面ドラムに圧着する直接法、塗工後の未乾燥面を凝固液で処理して塗工層をゲル状態にした後圧着する凝固法、あるいは、塗工後一旦乾燥した塗工層に再湿潤液を塗布してこれを可塑化し、次いで圧着する再湿潤法を用いることができる。
【0018】
本発明においては、特に、湿潤状態の塗工層を、有機酸、オキソ酸、あるいはそれらの酸の金属塩を含有する凝固液で凝固させた後鏡面ドラムに圧着・乾燥する凝固法を使用することが、直接法、再湿潤法に比べてキャスト塗工層の表面性を良好にすることができるので好ましい。
【0019】
本発明においては、上記の様にして鏡面ドラムに圧着・乾燥した塗工紙を巻き取る前に、温度20〜80℃、湿度50〜90%RHの雰囲気内を通過させる。これによって、キャスト塗工面の表面性を損なうことなく、紙の両面から水分を付与することができる。従来のように水蒸気を使用して水分を付与すると、キャスト塗工面の表面性を損ねないように、キャスト塗工面の反対面からしか水蒸気を付与することができない上、水蒸気を多量に使用すると周辺設備に結露が生じるため、水分を多く付与することは困難であった。これに対し、前記した本発明の方法によれば、紙の両面から水分を付与することができる上結露の発生も抑制できるので、水蒸気を使用する従来方法の場合よりも水分を多く付与することができる。また、両面から水分を付与するため、水分付与によるカールの発生も抑制することができる。
【0020】
本発明においては、水分を付与するために、キャスト塗工面形成後の用紙が通過する周囲を、高温、高湿度にすることが好ましく、用紙が通過する際に結露などを起こさないように、20〜80℃、50〜90%RHの範囲で、温度及び湿度を一定に保つことが好ましい。さらに、多量の水分を付与するためには、パスライン長を比較的長く設計し、通過時間を20秒以上とすることが好ましい。具体的な構成例としては、例えば図2に示されるものが挙げられる。
【0021】
水分が付与される速度は、温度及び湿度をそれぞれ高めることによって増大するため、水分付与効率も高くなる。しかしながら、温湿度の高い環境とした場合には、作業環境の悪化や周辺設備における結露の発生などが問題となりやすくなるため、40〜60℃、60〜90%RHに調節することが好ましい。
尚、鏡面ドラムへの圧着、乾燥直後では、キャスト塗工紙のウェブの温度は非常に高い。恒温恒湿のチャンバーにウェブを送り込む際にウェブの温度が高いままであるよりも、チャンバー導入前に紙面温度を下げる方がウェブへの水分付着量が多くなり、チャンバーでの水分付与効率が高くなる。従って、チャンバー導入前にウェブの温度を低下させることが好ましい。
【0022】
ウェブの温度を低下させる方法としては、冷却装置を用いる方法、冷却水等を内部に有する金属ロール表面に接触させる方法、或いは低温の空気を吹き付ける方法などがある。また、恒温恒湿チャンバーへの導入の前に、塗工面の反対面に水を塗布したり、ウェブ表面に空気を吹き付けても良い。
ウェブをチャンバー内に導入した後は、ウェブを前記チャンバー内に20秒以上、好ましくは30秒以上保持させるため、チャンバー内でループ状に繰り返してウェブを走行させることができる。この際、特にチャンバー内の温湿度を高く設定すると、急激に吸湿して走行方向と垂直の方向に紙が急激に伸びるので、ループ状に紙を走行させる際に、通常のペーパーロールを使用して紙の走行方向を変えると、紙の伸びを吸収できずにロール上でシワが発生する場合が多い。従って、特にチャンバーでウェブが走行する初期段階で、紙を横方向に伸ばす効果のあるエキスパンダーロールを使用することが好ましい。
【0023】
さらに、高温、高湿度のチャンバーを通す際には、キャスト塗工面とその反対面の両面に、そのチャンバー内の空気とほぼ同じ温度および湿度の空気を吹き付けることが好ましい。これによって、キャスト塗工面の表面性を損なうことなく水分付与効率を高くすることができる上、その空気の風量をキャスト塗工面とその反対面についてそれぞれ調整することにより、カールの大きさや形状を更に抑制することが可能である。また、環境湿度を変化させた場合や、電子写真方式での印字後に発生するカールをより小さくするためには、鏡面ドラムへの圧着・乾燥直後に、更にキャスト塗工面の反対面に、水又は水溶液もしくは顔料などの水性分散液を塗布し、乾燥を行った後に高温・高湿度に制御された部屋で水分を付与するか、高温・高湿度に制御した部屋で水分を付与した後、キャスト塗工面の反対面に水を付与し、乾燥を行うことが好ましい。
【0024】
上記のようにしてキャスト塗工紙に水分が付与されることによりカールが改善される理由は必ずしも明らかではないが、キャスト塗工紙の紙中水分率が上昇した結果、上記のように外気に接触した際の吸湿量が少なくなり、カールが抑えられるものと考えられる。また、反対面への水性分散液の塗布・乾燥によって、環境湿度の変化に伴って発生するカールが改善されることも考えられる。これは、鏡面ドラムへの圧着・乾燥後に形成したキャスト塗工面の反対面に、水、水溶液または顔料などの水性分散液を塗布し、再度乾燥を行うことによってキャスト塗工面の反対面が伸ばされ、その後適度に縮む過程の中で応力が解放されるだけでなく、キャスト塗工面側に近い繊維についても、キャストドラムにおける乾燥時に蓄積した収縮応力が解放されるため、カールを防止することができるものと考えられる。
【0025】
このようにして水分が付与された高水分シートは、高湿度環境下に曝されても、断裁面からの吸湿によってシート周辺部が膨潤する程度が低水分シートに比べて小さく抑えられるため、密着性が抑制されると共に走行性が良化すると推定される。
本発明においては、キャスト塗工面の性質及び要求される品質レベルにもよるが、製品の紙中水分率を8重量%以上とするとキャスト塗工面の表面性を若干損ねてしまうため、製品としての最終的な紙中水分率を、5.5〜8重量%程度とすることが好ましい。
【0026】
前記鏡面ドラムに圧着、乾燥してキャスト塗工面を形成させた後に、更にキャスト塗工面の反対面に水または澱粉などの水溶液もしくは顔料などの水性分散液を塗布する方法に対しては、均一に塗布されるものであればどのような装置を用いても良く、特に限定されることはない。一般的には、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、スプレーコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、コンマコーター等の公知の塗工機を用いた塗工方法の中から適宜選択して使用される。
また、一般にキャスト塗工時の塗工速度は一般塗工紙の塗工時と比べて遅く、均一な塗布プロファイルを得ることが難しい。そこで、適切な塗布量を得るために、公知の塗工方法による塗布装置を塗工方向に複数個配置しても良い。反対面に水を塗布する際の水分量は、目的とする品質特性により、0.1〜20g/m、好ましくは1〜10g/mの範囲から任意に選択される。
【0027】
また、CD方向への拘束を伴う乾燥を行う方法としては、回転する熱のかかったシリンダーに圧接した状態で乾燥させるシリンダードライヤー、シリンダーなどに紙を圧接した状態で熱風を吹き付けるタイプのドライヤー、2枚のベルトやカンバスの間に紙を挟んだまま熱をかけて乾燥させるタイプのドライヤーなどが挙げられる。一般にキャストドラムによる乾燥方法は、シリンダードライヤーの乾燥機構と同様なものであり、乾燥時のCD方向への拘束力が強いため、反対面の塗布処理後の乾燥方法についてもシリンダードライヤーなどのCD方向の拘束を与えた状態で乾燥を行うことが、表裏それぞれの乾燥におけるバランスが取れ、カールの発生をより抑制することができるので好ましい。
乾燥後のキャスト塗工紙の紙中水分率は、キャスト面の表面性及びカール抑制の点から、1〜10重量%であることが好ましく、特に3〜8重量%であることが好ましい。
【0028】
以下に、実施例、比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、以下において示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り、「重量部」及び「重量%」を示す。尚、各評価項目の評価方法は、下記の通りである。
【0029】
〈評価方法〉
(1)波打ち、カールの評価
各実施例、比較例で製造されたキャスト塗工紙を、各々A4サイズ(297×210mm)の大きさに断裁し、直ちに200枚重ねて23℃、50%RHの環境下に4時間以上静置して、断裁面に発生する波打ち状の変形の様子を、目視にて評価した。
○:波打ちは発生しておらず、良好な断裁面を有する。
△:若干波打ちが見られるが、比較的断裁面は良好である。
×:波打ちがひどい。
【0030】
カールについては、各々100mm×100mmの大きさに断裁し、キャスト塗工面を上にして4時間以上静置した後に評価した。カールの計測は、カール内側の面が上になるように各試料を平らな板の上に載せ、各試料の4隅の高さを測ることによって行った。表に示す値は、4隅の高さの平均値である。また、キャスト塗工面を内側にしてカールした場合に正の値、反対面を内側にしてカールした場合に、負の値とした。このため、カールは表中の数値の絶対値が小さいほど良好である。
【0031】
(2)キャスト塗工面の表面性
キャスト塗工面の表面性を目視で評価した。
○:鏡面模様が良好に再現され、平滑な面状を有する。
△:鏡面模様が十分に再現されず、若干の光沢ムラがある。
×:鏡面模様の再現が不十分であり、光沢ムラがある。
【0032】
(3)白紙光沢度
JIS P 8142に準じて75度光沢度で測定した。
(4)密着性
30℃、80%RH環境下で、包装紙開封直後の堆積状態で、最上の紙を水平に引いた時の最大の力を吸着力とし、紙間の密着性の指標とした。
【0033】
(5)走行性
電子写真複写機(DocuPrint C1250:富士ゼロックス社の製品名)を用い、30℃、80%RHの高湿度の環境下で包装紙を開封した後、直ちに両面プリントで100枚走行させて以下のように評価した。
◎:重送、紙詰まりの発生が全くない。
○:重送、紙詰まりの発生がほとんどない。
△:重送、紙詰まりの発生が時々発生する。
×:重送、紙詰まりの発生が頻繁に起こる。
【実施例1】
【0034】
ろ水度が400mlの広葉樹晒クラフトパルプ100部からなるパルプスラリーに、重質炭酸カルシウム15部、アルキルケテンダイマー0.2部及び硫酸アルミニウム0.5部を添加して抄紙した後カレンダー処理を施し、平滑度が40秒で坪量130g/mの原紙を得た。
得られた原紙の表面に、顔料として一級カオリン(ウルトラホワイト90、EMC社製)60部及び軽質炭酸カルシウム(TP−121、奥多摩工業社製)40部を用い、接着剤としてスチレン−ブタジエンラテックス(JSR0617、日本合成ゴム社製)を10部、カゼイン(ラクチックカゼイン、ニュジーランド産の商品名)を5部、及び離型剤としてステアリン酸カルシウム(ノプコートC−104―HS、サンノプコ社製)を0.5部配合し、新たにポリアルキルシロキサン(数平均分子量70万)60重量%、ポリエーテル変性シリコーン20重量%、および水20重量%を分散させたディスパージョン5部(固形分)添加して調整した、固形分濃度50%の塗被液を、ロールコーターを用いて塗工量が20g/mとなるように原紙の片面に塗布した後、蟻酸カルシウムの10%水溶液を用いて凝固処理し、塗工層が湿潤状態にあるうちに、105℃に加熱した鏡面(キャストドラム)に圧着し、乾燥してキャスト塗工層を得た。
次いで、45℃、75%RHの雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒間通紙することにより、紙中水分率が7%である電子写真用転写紙を得た(図1参照)。この場合の塗工量は、乾燥重量で18g/mであった。
【実施例2】
【0035】
実施例1と同様にしてキャスト塗工面を得た後、45℃、75%RHの雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒間通紙する際に、キャスト塗工面及びその反対面にそれぞれ7m/秒の風速で、45℃、75%RHに調整された空気をノズルで吹き付けることにより、紙中水分率が7.3%であること以外は、実施例1と同様の電子写真用転写紙を得た(図1)。
【実施例3】
【0036】
実施例1と同様にしてキャスト塗工面を得た後、45℃、75%RHの雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒間通紙する際に、キャスト塗工面に5m/秒、その反対面に10m/秒の風速で、45℃、75%RHに調整された空気をノズルで吹き付けることにより、紙中水分率が7.3%であること以外は、実施例1と同様の電子写真用転写紙を得た(図1)。
【実施例4】
【0037】
実施例1と同様にしてキャスト塗工面を得た後、キャスト塗工面の反対面に、ロールコーターを用いて水を6.1g/m塗布し、シリンダードライヤーを用いて乾燥した。次いで、45℃、75%RHの雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒間通紙することにより、紙中水分率が7%であること以外は、実施例1と同様の電子写真用転写紙を得た。シリンダードライヤーで乾燥する際は、キャスト塗工面がシリンダードライヤーに接触するように乾燥を行った(図3)。
【実施例5】
【0038】
実施例1と同様にしてキャスト塗工面を得た後、50℃、85%RHの雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒間通紙する際に、キャスト塗工面及びその反対面にそれぞれ7m/秒の風速で、50℃、85%RHに調整された空気を、ノズルで吹き付けることにより、紙中水分率が8.1%であること以外は、実施例1と同様の電子写真用転写紙を得た。この際、エキスパンダーロールを使用した加湿装置を用いた(図2)。
【0039】
[比較例1]
実施例1と同様にしてキャスト塗工面を得た後、水分付与を行うことなく、紙中水分率が3.1%であること以外は、実施例1と同様の電子写真用転写紙を得た。
【0040】
[比較例2]
実施例1と同様にしてキャスト塗工面を得た後、45℃、85%RHの雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに15秒間通紙することにより、紙中水分率が4.3%であること以外は、実施例1と同様の電子写真用転写紙を得た。
【0041】
[比較例3]
実施例1と同様にしてキャスト塗工面を得た後、キャスト塗工面の反対面に蒸気加湿を用いた加湿処理を行い、紙中水分率が4.5%であること以外は、実施例1と同様の電子写真用転写紙を得た。
【0042】
[比較例4]
実施例1と同様にしてキャスト塗被面を得た後、キャスト塗被面の反対面に、ロールコーターを用いて水を6.1g/m塗布した後、シリンダードライヤーを用いて乾燥し、紙中水分率が3.6%であること以外は、実施例1と同様の電子写真用転写紙を得た。シリンダードライヤーで乾燥する際は、キャスト塗被面がシリンダードライヤーに接触するようにして乾燥を行った。
【0043】
実施例1〜5、比較例1〜4で得られた塗工紙について、断裁面の波打ち、カール高さ、キャスト面の白紙光沢度、高湿度環境下での用紙間の密着性(吸着力)、及び電子写真複写機の走行性を評価した結果を表1に示す。表1の結果から明らかなように、本発明の方法で得られたキャスト塗工紙は、比較例で得られた塗工紙とは異なり、高湿度環境下での用紙間の密着性が抑制されて、電子写真方式の走行性が良好であることが確認された。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の電子写真用転写紙は走行性が良好であるので、高温多湿の環境で使用する場合に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の電子写真用転写紙の製造工程の1例を示す図である。尚、図中の空気吹き付けノズルの数は、適宜変更することができる。
【図2】チャンバー内でエキスパンダーロールを使用する場合の、本発明の電子写真用転写紙の製造工程を示す図である。
【図3】シリンダーロールを使用する場合の、本発明の電子写真用転写紙の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 キャストドラム
2 コーターヘッド
3 凝固液塗布箇所
4 裏面水塗り装置
5 シリンダードライヤー
6 空気吹付けノズル
7 恒温恒湿チャンバー
8 送風機
9 エキスパンダーロール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の片面に、顔料及び結着剤を主成分とする塗被液を塗工した後、湿潤状態にある塗工層を加熱した鏡面仕上げ面に圧着させ、乾燥することによりキャスト塗工層を形成させる電子写真用転写紙の製造方法において、前記塗被液が数平均分子量60万〜90万の高分子シリコーンを含有すると共に、前記乾燥後に、20〜80℃、50〜90%RHに調節された空気中に20秒以上保持し、加湿することを特徴とする電子写真用転写紙の製造方法。
【請求項2】
前記調節された空気を、キャスト塗工面とその反対面のそれぞれに吹き付けて加湿する、請求項1に記載された電子写真用転写紙の製造方法。
【請求項3】
前記加湿に際し、エキスパンダーロールを使用してシワの発生を抑制する、請求項1又は2に記載された電子写真用転写紙の製造方法。
【請求項4】
前記加湿前に、鏡面仕上げ面への圧着・乾燥によって高温となったウェブを冷却する工程を有する、請求項1〜3の何れかに記載された電子写真用転写紙の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程が、キャスト塗工面の反対面に水または水溶液もしくは顔料などの水性分散液を塗布する工程である、請求項4に記載された電子写真用転写紙の製造方法。
【請求項6】
前記高分子シリコーンが、ポリアルキルシロキサンである、請求項1〜5の何れかに記載された電子写真用転写紙の製造方法。
【請求項7】
キャスト塗工面と反対側の面の乾燥がシリンダードライヤーによってなされる、請求項1〜6の何れかに記載された電子写真用転写紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−98910(P2006−98910A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286789(P2004−286789)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】