説明

電子増倍器

【課題】ダイノードにおける電子増倍構造が設けられた有効領域の減少を抑制する。
【解決手段】光電子増倍管は、金属材料をプレス加工して形成された複数のダイノード10を積層してなる電子増倍器を備え、複数のダイノード10は、入射電子を増倍する電子通過孔11が設けられた電子通過孔形成部EMを有するとともに、積層方向に隣り合うダイノードを含み、一方のダイノード10の周縁部には、凸部23が設けられ、他方のダイノード10の周縁部には、凹部24が設けられ、隣り合うダイノード10,10同士は、凸部23と凹部24とが、嵌め合わされることにより、互いに位置決めされ、凸部23及び凹部24の少なくとも一方には、隣り合うダイノード10,10同士を絶縁する絶縁層が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数段に積層されたダイノードによって入射電子を増倍する電子増倍器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のダイノードが積層された構造の電子増倍器として、絶縁体等を用いて隣り合うダイノード間の絶縁性を確保しつつ、隣り合うダイノードの間隔を均一にする電子増倍器が知られている。例えば、下記の特許文献1には、ダイノード板にアルミナの絶縁層が形成され、この絶縁層を介して複数のダイノード板が積層された構成が記載されている。また、下記の特許文献2及び特許文献3には、隣り合うダイノード間に絶縁部材が設けられ、ダイノードの枠上に設けられた突起部と絶縁部材の枠上に設けられた孔部とが嵌め合わされて、複数のダイノードが積層された構成が記載されている。また、下記の特許文献4には、電極の全面に凹部と凸部とが設けられ、隣り合う電極間の凹部と凸部とが嵌め合わされて、複数の電極が積層された構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】英国特許第1401969号明細書
【特許文献2】特開2008−293917号公報
【特許文献3】特開2009−152121号公報
【特許文献4】特許第4615816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜4に記載された構成は、いずれも電極(ダイノード)の表面に嵌合構造又は絶縁構造を有している。このため、電極の表面積に対する電子増倍構造等の有効領域の割合が、嵌合構造又は絶縁構造が設けられた領域の面積に応じて減少する。
【0005】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ダイノードにおける電子増倍構造が設けられた有効領域の減少を抑制可能な構造を有する電子増倍器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る電子増倍器は、金属材料をプレス加工して形成された複数のダイノードを積層してなる電子増倍器であって、複数のダイノードは、入射電子を増倍する電子増倍孔が設けられた電子増倍孔形成部を有するとともに、積層方向に隣り合う第1及び第2のダイノードを含み、第1のダイノードの周縁部には、積層方向に突出する凸部が設けられ、第2のダイノードの周縁部には、凸部が突出する方向に窪む凹部が設けられ、第1及び第2のダイノード同士は、第1のダイノードに設けられた凸部と、第2のダイノードに設けられた凹部とが、嵌め合わされることにより、互いに位置決めされ、第1のダイノードに設けられた凸部及び第2のダイノードに設けられた凹部の少なくとも一方には、第1及び第2のダイノード同士を絶縁する絶縁層が設けられていることを特徴とする。
【0007】
この電子増倍器においては、複数のダイノードのうちの第1のダイノードの周縁部に設けられた凸部と、第2のダイノードの周縁部に設けられた凹部とを備え、第1のダイノードに設けられた凸部及び第2のダイノードに設けられた凹部の少なくとも一方に絶縁層が設けられた状態で、凸部と凹部とが嵌め合わされる。このため、周縁部において第1及び第2のダイノード同士が位置決めされるとともに確実に絶縁されるので、ダイノードにおける電子増倍孔形成部(有効領域)の割合を減少させることなく第1及び第2のダイノードが積層されることが可能となる。
【0008】
また、複数のダイノードは、第2のダイノードと隣り合う第3のダイノードを更に含み、第2のダイノードの周縁部には、凹部が窪む方向に突出する凸部が更に設けられ、第3のダイノードの周縁部には、第2のダイノードに設けられた凸部が突出する方向に窪む凹部が設けられ、第2及び第3のダイノード同士は、第2のダイノードに設けられた凸部と、第3のダイノードに設けられた凹部とが、嵌め合わされることにより、互いに位置決めされ、第2のダイノードに設けられた凸部及び第3のダイノードに設けられた凹部の少なくとも一方には、第2及び第3のダイノード同士を絶縁する絶縁層が設けられていることが好ましい。
【0009】
この場合、複数のダイノードのうちの第2のダイノードの周縁部に設けられた凸部と、第3のダイノードの周縁部に設けられた凹部とを備え、第2のダイノードに設けられた凸部及び第3のダイノードに設けられた凹部の少なくとも一方に絶縁層が設けられた状態で、凸部と凹部とが嵌め合わされる。このため、第2及び第3のダイノード同士が周縁部において位置決めされるとともに確実に絶縁されるので、ダイノードにおける電子増倍孔形成部(有効領域)の割合を減少させることなく複数のダイノードが積層されることが可能となる。
【0010】
また、複数のダイノードは、電子増倍孔形成部を囲むとともに周縁部を規定する枠部を有し、凸部及び凹部は、枠部に設けられていることが好ましい。この場合、電子増倍孔形成部を囲む枠部に凸部及び凹部が設けられることにより、ダイノードにおける有効領域の割合を減少させることなく、凸部及び凹部が安定して設けられる。
【0011】
また、凸部及び凹部は、枠部の外形より外側に位置するように設けられていることが好ましい。この場合、電子増倍孔形成部を囲む枠部の外形より外側に位置するように凸部及び凹部が設けられることにより、枠部が大きくなることを抑制し、ダイノードにおける有効領域の割合を減少させることなく、凸部及び凹部が安定して設けられる。
【0012】
また、凸部及び凹部は、枠部の外形より内側に位置するように設けられていることが好ましい。この場合、電子増倍孔形成部を囲む枠部の外形より内側に位置するように凸部及び凹部が設けられることにより、ダイノードの外形を大きくできるので、有効領域の面積を減少させることなく、凸部及び凹部が安定して設けられる。
【0013】
また、凸部及び凹部に絶縁層が設けられることが好ましい。この場合、凸部及び凹部の両方に絶縁層が設けられることにより、積層方向に隣り合うダイノード同士がより確実に絶縁される。
【0014】
また、絶縁層は、金属材料の表面を絶縁化する膜からなることが好ましい。さらに、金属材料の表面を絶縁化する膜は、金属材料の表面を酸化処理した酸化膜であることが好ましい。この場合、絶縁層とダイノードとの密着性が高いため、積層方向に隣り合うダイノード同士がより確実に絶縁される。
【0015】
また、複数のダイノードの各々には、その周縁部に、積層方向に突出する凸部及び当該凸部が突出する方向に窪む凹部が設けられており、凸部及び凹部は、積層方向において互いに対向して配置されていることが好ましい。この場合、ダイノードにおいて、凸部が設けられる領域と凹部が設けられる領域とが集約される。このため、凸部と凹部とが別の位置に設けられる場合と比較して、凸部及び凹部を大きくすることができ、積層方向に隣り合うダイノード同士がより安定的に支持される。
【0016】
また、複数のダイノードに設けられた凸部及び凹部は、積層方向に沿って配置されていることが好ましい。この場合、積層方向に隣り合うダイノードの凸部及び凹部が嵌め合わされる部分が列をなし、柱状構造を呈するため、積層方向に隣り合うダイノード同士がより強固に固定される。
【0017】
また、凸部は、当該凸部が設けられたダイノードの周縁部に沿った方向と交差する一対の第1の面を有し、凹部は、一対の第1の面に対向する一対の第2の面を有し、積層方向に隣り合うダイノード同士は、凸部の一対の第1の面と、凹部の一対の第2の面とが、接することにより、周縁部に沿った方向において互いに位置決めされることが好ましい。この場合、凸部の一対の第1の面と、凹部の一対の第2の面とが、接することにより、積層方向に隣り合うダイノード同士は、周縁部に沿った方向において互いに位置決めされ、より確実に固定される。
【0018】
また、凹部の深さは、金属材料の厚さより大きいことが好ましい。この場合、互いに嵌め合わされる凸部及び凹部の嵌合長が大きくなり、積層方向に隣り合うダイノード同士がより強固に固定される。
【0019】
また、複数のダイノードは、平面視において多角形であり、凸部は、当該凸部が設けられたダイノードの角部に位置しており、凹部は、当該凹部が設けられたダイノードの角部に位置していることが好ましい。この場合、ダイノードの角部に凸部及び凹部が設けられることによって、積層方向に隣り合うダイノード同士がより安定的に支持され、積層方向に隣り合うダイノード同士がより確実に離間される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ダイノードにおける電子増倍構造が設けられた有効領域の減少を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る光電子増倍管の管軸方向に沿った概略端面図である。
【図2】図1の収束電極および電子増倍器の一部を示す分解斜視図である。
【図3】(a)は図1のダイノードの凹部及び凸部の正面図、(b)は(a)のIII(b)−III(b)線に沿っての端面図である。
【図4】図1の収束電極および電子増倍器の積層構造を示す斜視図である。
【図5】(a)は図4の複数段のダイノードの嵌合部分を拡大した図、(b)は(a)のV(a)−V(a)線に沿っての端面図である。
【図6】図1のダイノードの製造過程を示す図である。
【図7】図1のダイノードの製造過程を示す図である。
【図8】図1のダイノードのI−V特性を示す図である。
【図9】図1の収束電極および電子増倍器の他の例を示す図である。
【図10】変形例に係る凸部及び凹部の配置を示す図である。
【図11】変形例に係る凸部及び凹部の配置を示す図である。
【図12】変形例に係る凸部及び凹部の配置を示す図である。
【図13】変形例に係る凸部及び凹部の配置を示す図である。
【図14】変形例に係る凸部及び凹部の配置を示す図である。
【図15】変形例に係る凸部及び凹部の配置を示す図である。
【図16】変形例に係る凸部及び凹部の形状を示す図である。
【図17】変形例に係る凸部及び凹部の形状を示す図である。
【図18】変形例に係る凸部及び凹部の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る電子増倍管の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子増倍管である光電子増倍管1の管軸方向に沿った概略端面図である。なお、図1においては、各部を明確に示すためハッチングを省略している。光電子増倍管1は、入射光を電気信号に変換して出力する装置であって、例えばTO−8サイズの光電子増倍管である。この光電子増倍管1は、金属側管2を有しており、この金属側管2の一端側の開口部には、ガラス等の光透光性材料により形成された略矩形状の受光面板3が融着等により気密に固定されている。この受光面板3の内側表面には、入射光を電子に変換する光電陰極3aが設けられている。
【0024】
一方、金属側管2の他端側の開口部には、ガラス等の絶縁性材料により形成された矩形状のステム4が取り付けられている。より具体的には、ステム4には、その側面を取り囲む金属製の管状部材5が融着等により気密に固定されており、この管状部材5の一端に形成されたフランジ5aと、金属側管2の他端とが溶接等により気密に接合されている。このように、金属側管2、受光面板3及びステム4等によって構成された真空容器Vの内部には、収束電極6、電子増倍器7及びアノード8が配置されている。ここで、光電子増倍管1の説明において、管軸方向をz軸方向、z軸方向に直交する一方向をx軸方向、x軸方向及びz軸方向で規定される面に直交する方向をy軸方向とする。また、z軸方向の受光面板3側を一方側、ステム4側を他方側とする。
【0025】
収束電極6は、光電陰極3aと電子増倍器7との間に設けられた板状の部材である。この収束電極6には、y軸方向に延在する複数のスリット61がx軸方向に略等間隔で形成されている。電子増倍器7は、少なくとも2つの複数のダイノード10がz軸方向(積層方向)に積層されてなる。各ダイノード10には、入射電子を増倍する複数の電子通過孔11(電子増倍孔)がy軸方向に沿って互いに並列に設けられている。電子増倍器7及びダイノード10の詳細については後述する。
【0026】
更に、真空容器V内において電子増倍器7とステム4との間には、y軸方向に延在する複数のアノード8が配列されている。また、各アノード8には、出力信号を取り出すためのステムピン12の一端が接続されており、各ステムピン12の他端は、ステム4を気密に貫通して外部に突出している。
【0027】
以上のように構成された光電子増倍管1の光電子増倍作用について説明する。受光面板3を透過した入射光が光電陰極3aに照射されると、真空容器V内に光電子が放出される。放出された光電子は収束電極6のスリット61を通って最も一方側に配置されたダイノード10上に収束される。これにより、光電子は、受光面板3とアノード8との間に位置する電子通過孔11を通りながら、ダイノード10により増倍され、最も他方側に配置されたダイノード10から二次電子群が放出される。この二次電子群はアノード8に到達し、このアノード8に接続されたステムピン12を介して出力信号が送出される。
【0028】
次に、図2〜図5を参照して、電子増倍器7の積層構造について詳細に説明する。図2は、図1の収束電極6および電子増倍器7の一部を示す分解斜視図である。図3の(a)は図2のダイノード10の一部拡大図、(b)は(a)のIII(b)−III(b)線に沿っての端面図である。図4は、図1の収束電極6および電子増倍器7の積層構造を示す斜視図である。図5の(a)は図4の複数段のダイノード10の嵌合部分を拡大した図、(b)は(a)のV(a)−V(a)線に沿っての端面図である。
【0029】
図2に示されるように、収束電極6は、略矩形状の板状部材の電極である。この収束電極6は、スリット61が形成されたスリット形成部18と、スリット形成部18を囲む枠部16とを備えている。この枠部16の外周縁には、収束電極6の裏面6bからz軸方向に沿って一方側に窪んだ凹部17が設けられている。枠部16の各辺のうち一方の対辺については、各辺の略中央に対辺の凹部17と互いに対向する位置に1つの凹部17が設けられ、他方の対辺については、対辺の凹部17と互いに対向する位置に各辺に2つの凹部17が所定の間隔で設けられている。
【0030】
ダイノード10は、アルミニウム、ステンレス、Cu−Be、銅等の金属材料Mにより形成された略矩形状の板状部材の電極である。ダイノード10は、z軸方向に直交する一方側の面である主面10aと、z軸方向に直交する他方側の面である裏面10bとを備えている。このダイノード10は、電子通過孔形成部EM(電子増倍孔形成部)と、枠部21と、複数の突出部22と、電荷供給部26とを一体的に備えている。電子通過孔形成部EMは、y軸方向に沿って互いに並列に延びる複数のスリット状の電子通過孔11が設けられた部分である。枠部21は、電子通過孔形成部EMを囲み、ダイノード10の周縁部を規定する部分であって、その外形は略矩形状である。
【0031】
枠部21の各辺のうち一方の対辺については、各辺の略中央に対辺の突出部22と互いに対向する位置に1つの突出部22が設けられ、他方の対辺については、対辺の突出部22と互いに対向する位置に各辺に2つの突出部22が所定の間隔で設けられている。この突出部22は、ダイノード10の周縁部に設けられた部分であって、第1部分22aと第2部分22bとからなる。第1部分22aは、枠部21の外周縁から外側に向かって枠部21に平行に突出する部分である。第2部分22bは、第1部分22aの突出方向の先端に設けられ、z軸方向に沿って一方側に延びる部分である。このように、突出部22は、z軸方向と第1部分22aの突出方向によって規定される断面において、L字状である。枠部21の各辺のうち一方の対辺については、各辺の略中央に1つの突出部22が設けられ、他方の対辺については、各辺に2つの突出部22が所定の間隔で設けられている。そして、各突出部22の第2部分22bには、凸部23及び凹部24が設けられている。電荷供給部26は、枠部21の一方の対辺から外側に向かって枠部21と平行に、突出部22と略同じ長さで枠部21から突出した部分である。この電荷供給部26は、電子通過孔形成部EMに二次電子増倍のための電圧及び電流を供給するための部分である。
【0032】
図2及び図3に示されるように、凸部23は、第2部分22bの一方側の端部に設けられており、z軸方向に沿って一方側に延びている。凸部23は、第2部分22bと同一の厚さを有し、厚さ方向に直交する外側の面である外側面23bと、厚さ方向に直交する内側の面である内側面23cと、外側面23b及び内側面23cと交差しz軸方向に延びる一対の面である側端面23d,23d(第1の面)と、凸部23の先端の面である先端面23eとを備えている。また、第1部分22aの突出方向とz軸方向によって規定される面に直交する方向(以下、突出部22、凸部23及び凹部24の説明において、「幅方向」という。)における凸部23の長さ(以下、「幅」という。)は、第2部分22bの幅よりも小さい。
【0033】
凹部24は、第2部分22bの他端側の端部に設けられており、z軸方向に沿って一方側に窪んでいる。凹部24は、z軸方向に直交する面である底面24bと、第2部分22bの厚さ方向に直交する面である側面24cと、側面24cと交差しz軸方向に延びる一対の面である側端面24d,24d(第2の面)とによって形成されている。この凹部24は、凸部23に対応する形状を有し、凸部23と凹部24とは互いに嵌合可能である。また、凹部24の幅は、第2部分22bの幅よりも小さく、凹部24の深さ(z軸方向の長さ)は、金属材料Mの厚さより大きい。この凸部23と凹部24とは、z軸方向において互いに対向して第2部分22bに設けられている。なお、凸部23のz軸方向の長さは、凹部24の深さ以上である。
【0034】
また、凸部23の内側面23c、側端面23d,23d及び先端面23eには絶縁層23aが設けられ、凹部24の底面24b、側面24c及び側端面24d,24dには絶縁層24aが設けられている。この絶縁層23a及び絶縁層24aは、例えばダイノード10を形成する金属材料を酸化させた酸化膜である。ダイノード10がアルミニウムから形成されている場合、絶縁層23a及び絶縁層24aは、アルミナからなる膜である。また、突出部22の第1部分22aと第2部分22bとの内側の境界部分に隆起部27が設けられている。
【0035】
このような形状を有する隣り合うダイノード10,10では、一方側のダイノード10の凹部24と他方側のダイノード10の凸部23とが互いに対向する位置に設けられている。そして、一方側のダイノード10の凹部24と他方側のダイノード10の凸部23とが嵌め合わされることによって、隣り合うダイノード10,10は互いに積み重ねられる。隣り合うダイノード10,10が嵌め合わされている状態において、他方側のダイノード10の凸部23の先端面23eは、一方側のダイノード10の凹部24の底面24bに接し、他方側のダイノード10の凸部23の側端面23d,23dは、一方側のダイノード10の凹部24の側端面24d,24dに接し、他方側のダイノード10の凸部23の内側面23cは、一方側のダイノード10の凹部24の側面24cに接している。
【0036】
同様に、収束電極6の凹部17と、最も一方側に配置されたダイノード10の凸部23とが互いに対向する位置に設けられている。そして、収束電極6の凹部17と最も一方側に配置されたダイノード10の凸部23とが嵌め合わされることによって、収束電極6と最も一方側に配置されたダイノード10とは互いに積み重ねられる。その結果、図4に示される電極構造体15が形成される。なお、隣り合うダイノード10,10の凸部23と凹部24とは、絶縁層23a及び絶縁層24aを介して嵌め合わされることにより、隣り合うダイノード10,10同士が絶縁されている。最も一方側に配置されたダイノード10の凸部23と収束電極6の凹部17とは、凸部23に設けられた絶縁層23aを介して互いに嵌め合わされることにより、収束電極6とダイノード10とが絶縁されている。
【0037】
図4及び図5に示されるように、収束電極6及び電子増倍器7の積層構造では、各ダイノード10が同一の形状を有しているため、隣り合うダイノード10,10の凸部23と凹部24とが嵌め合わされた部分(嵌合部)の各々が、積層方向に沿って一直線上に並ぶ。その結果、嵌合部が全体として柱状構造を成す。また、隣り合うダイノード10,10の一方側のダイノード10の凹部24の底面24bと他方側のダイノード10の凸部23の先端面23eとが接しているため、隣り合うダイノード10,10はz軸方向において位置決めされる。また、一方側のダイノード10の凹部24の側面24cと他方側のダイノード10の凸部23の内側面23cとが接しているため、隣り合うダイノード10,10は第1部分22aの突出方向において位置決めされる。さらに、一方側のダイノード10の凹部24の側端面24d,24dと他方側のダイノード10の凸部23の側端面23d,23dとが接しているため、隣り合うダイノード10,10は幅方向において位置決めされる。
【0038】
また、隣り合うダイノード10,10間の離間距離は、積層方向に沿って主面10aから凸部23の先端面23eまでの長さを、積層方向に沿って裏面10bから凹部24の底面24bまでの深さ(凸部23の先端面23eが凹部24の底面24bに接していない場合は、凸部23と凹部24との嵌合部分の長さ)で減算した距離となる。
【0039】
次に、図6及び図7を参照して、ダイノード10の製造方法の一例について説明する。まず、図6の(a)に示されるように、板状の金属材料Mを準備する。この金属材料Mは、アルミニウム、ステンレス、Cu−Be、銅等からなる一枚の金属板である。そして、図6の(b)に示されるように、金属材料Mの中央領域の矩形状の平坦部分pを囲むような所定位置においてz軸方向に沿って一方側に折り曲げる。これによって、突出部22及び凸部23が形成される。続いて、図6の(c)に示されるように、y軸方向に平行な複数の切れ目をx軸方向に略等間隔で平坦部分pに設けることにより、電子通過孔形成部EMと枠部21とを平坦部分pに形成する。そして、隣り合う2つの切れ目に挟まれた電子増倍片sの一端側を主面Maより一方側に、他端側を主面Maより他方側に位置するように曲げ加工する。
【0040】
次に、図7の(a)に示されるように、曲げ加工した電子増倍片sの両面を押圧し、電子増倍片sを所望の形状に加工する。そして、図7の(b)に示されるように、突出部22の折れ曲げられた部分を突出部22の延在方向に沿って外側から押圧して凹部24を形成する。このとき、押圧された部分が内側に押し込まれ、突出部22の折れ曲げられた部分の内側に隆起部27が形成される。以上のようにして、ダイノード10を作製する。なお、上述の成型処理及び加工処理は、いずれも一回のプレス加工によって行われるが、複数回の工程に分割してプレス加工してもよい。
【0041】
次に、光電子増倍管1の作用効果を説明する。光電子増倍管1は、金属材料Mをプレス加工して形成されたダイノード10を複数段に積層してなる電子増倍器7を備えている。そして、各ダイノード10は、入射電子を増倍する電子通過孔11が設けられた電子通過孔形成部EMを有し、各ダイノード10の周縁部には、積層方向に突出する凸部23及び凸部23が突出する方向に窪む凹部24が設けられている。積層方向において互いに隣り合うダイノード10,10は、他方側のダイノード10の凸部23と、一方側のダイノード10の凹部24とが、嵌め合わされることにより、互いに位置決めされる。このように、ダイノード10の周縁部に凸部23及び凹部24が設けられていることによって、積層のための構造を電子通過孔形成部EMの外部のみに設けることができ、ダイノード10における電子通過孔形成部EMの割合を減少させることなく複数のダイノード10が位置決めされて積層されることが可能となる。すなわち、電子増倍器7において、電子増倍構造が設けられた有効領域を減少させることなく、複数のダイノード10が積層されることが可能となる。
【0042】
また、他方側のダイノード10の凸部23に絶縁層23aが設けられ、一方側のダイノード10の凹部24に絶縁層24aが設けられているため、隣り合うダイノード10,10同士は、絶縁性を確保して積層される。以上のことから、絶縁のための構造も電子通過孔形成部EMの外部のみに設けることができ、ダイノード10における電子通過孔形成部EMの割合を減少させることなく複数のダイノード10が互いに絶縁されて積層されることが可能となる。すなわち、電子増倍器7において、電子増倍構造が設けられた有効領域を減少させることなく、複数のダイノード10が積層されることが可能となる。さらに、隣り合うダイノード10,10の凹部24と凸部23とを嵌め合わせるだけの簡単な作業で、複数のダイノード10を積層することができる。また、ダイノード10は、金属材料Mをプレス加工して一体的に形成されるため、ダイノード10の製造作業が簡略化される。
【0043】
また、ダイノード10では、凸部23及び凹部24は、電子通過孔形成部EMを囲む枠部21の外形の外側に設けられているため、枠部21の幅を大きくすることなく凸部23及び凹部24を安定して設けることができる。このため、ダイノード10における電子通過孔形成部EMの割合を低下させることなく、凸部23及び凹部24が安定して設けられる。さらに、絶縁層23aが設けられた凸部23及び絶縁層24aが設けられた凹部24が、電子が通過する電子通過孔形成部EMから離間されているために、絶縁層23a及び絶縁層24aへの電子入射による耐圧不良といった悪影響を抑制できる。
【0044】
また、ダイノード10に設けられた凸部23及び凹部24は、積層方向に沿って互いに対向して配置されているため、ダイノード10において、凸部23が設けられる領域と凹部24が設けられる領域とが集約される。このため、例えばダイノード10の一辺に凸部23と凹部24とが設けられる場合、それらが別々の位置に設けられる場合と比較して、凸部23及び凹部24を大きく形成することができ、隣り合うダイノード10,10がより安定的に支持されることが可能となる。
【0045】
また、各段のダイノード10に設けられた凸部23及び凹部24は、積層方向に沿って配置されており、隣り合うダイノード10,10間の嵌合部が全体として柱状構造を呈する。このため、隣り合うダイノード10,10同士がより強固に固定される。
【0046】
また、他方側のダイノード10の凸部23と幅及び一方側のダイノード10の凹部24とが嵌め合わされた状態において、凸部23の側端面23d,23dは凹部24の側端面24d,24dに接している。このため、凸部23の凹部24に対する幅方向のズレが抑制され、隣り合うダイノード10,10同士が幅方向において位置決めされる。
【0047】
また、凹部24の深さは、金属材料Mの厚さより大きいため、互いに嵌め合わされる凸部23及び凹部24の嵌合長が大きくなり、隣り合うダイノード10,10同士がより強固に固定される。
【0048】
ここで、図8を参照して、隣り合うダイノード10,10間の絶縁性について説明する。図8は、ダイノード10のI−V特性を示す図である。グラフA1は窒素雰囲気中におけるI−V特性を示すグラフ、グラフA2はアルカリ活性真空中におけるI−V特性を示すグラフである。このI−V特性は、シュウ酸アルマイト処理(アルマイト膜厚:20μm)されたダイノード10を積層し、ダイノード10,10間の耐電圧を測定した結果を示している。横軸は一方のダイノード10に印加した電圧、縦軸はダイノード10,10間に流れた電流を示している。
【0049】
グラフA1によれば、窒素雰囲気中では、印加電圧が450V以下において、電流はほとんど流れなかった(10pA以下)。また、グラフA2によれば、アルカリ活性真空中では、印加電圧が400V以下において、電流がほとんど流れなかった(10pA以下)。以上のように、いずれの場合においても、300V以上の高い耐電圧が確認され、隣り合うダイノード10,10間の現実的な電位差においても、十分な耐電圧能を有することが確認された。
【0050】
このように、絶縁層23a及び絶縁層24aは、絶縁性アルマイト被膜等の金属材料Mの酸化膜であることが好ましい。この場合、絶縁層のダイノード10との密着性が高いため、絶縁構造の脱落といった可能性を抑制し、隣り合うダイノード10,10同士がより確実に絶縁される。
【0051】
なお、本発明に係る光電子増倍管は本実施形態に記載したものに限定されない。例えば、図9に示されるように、ダイノード10は、行方向及び列方向に複数の電子通過孔11が形成されたマルチチャンネル(例えば64チャンネル)ダイノード電極であってもよい。また、ダイノード10の積層段数は、所望の段数とすることができる。
【0052】
また、ダイノード10の形状としては、平面視において、略円形、略楕円形又は略多角形(例えば六角形、八角形)等の様々な形状を採用することができる。また、ダイノード10の形状に応じて、凸部23及び凹部24の数及び配置は適宜選択され得る。図10〜図13は、様々な形状を有するダイノード10に対する凸部23及び凹部24の数及び配置の一例を示す図である。なお、図10〜図13の説明において、便宜上、電子通過孔11が形成された領域と枠部21とを含む領域を電極部20とし、突出部22と凸部23と凹部24とを含む領域を嵌合部25とする。
【0053】
例えば、図10の(a)に示されるように、平面視において、電極部20が略円形状である場合、嵌合部25は電極部20の周縁部に略等間隔で3箇所以上配置されるのが好ましい。また、図10の(b)に示されるように、平面視において、電極部20が略矩形状である場合、嵌合部25は電極部20の辺上に略等間隔で3箇所以上配置されるのが好ましい。このように、電極部20に撓み等が生じない程度の強度がある場合は、嵌合部25が電極部20の周縁部に略等間隔で3箇所以上設けられることにより、隣り合うダイノード10,10同士は、x軸−y軸−z軸方向の位置決めされる。その結果、相互の位置調整を行うことなく、隣り合うダイノード10,10の凹部24と凸部23とを嵌め合わせるだけの簡単な作業で、複数のダイノード10を積層することができる。
【0054】
また、図11の(a)に示されるように、平面視において、電極部20が略矩形状である場合、嵌合部25が電極部20の一辺の両端又は辺上に2箇所設けられ、その対辺に1箇所以上設けられることにより、隣り合うダイノード10,10同士は、x軸−y軸−z軸方向の位置決めされる。また、嵌合部25が多く設けられることにより、電極部20の強度が補われ、電極部20の撓み等が抑制されることが可能となる。
【0055】
また、図11の(b)に示されるように、嵌合部25は、電極部20の周縁部全体に設けられてもよい。このように、電極部20の周縁部に十分なスペースがある場合には、嵌合部25が周縁部全体に設けられることにより、隣り合うダイノード10,10同士がより強固に固定される。
【0056】
また、図12の(a)〜(c)に示されるように、平面視において電極部20が多角形である場合、嵌合部25は、電極部20の角部に設けられてもよい。この場合、嵌合部25は、図12の(a)及び(c)に示されるように、角部を形成する2つの辺に跨がって設けられてもよいし、図12の(b)に示されるように、角部を形成する2つの辺のうち一方において角部に接するように設けられてもよい。いずれの場合も、嵌合部25が電極部20の角部に設けられることにより、隣り合うダイノード10,10同士はより安定的に支持され、隣り合うダイノード10,10同士はより確実に離間される。また、電極部20の角部において、嵌合部25が回転対称に配置されることにより、嵌合部25の配置数が抑制されつつ、隣り合うダイノード10,10同士は安定的に支持されることが可能となる。
【0057】
また、図13に示されるように、平面視において電極部20が多角形であって、嵌合部25が電極部20の角部に設けられない場合には、嵌合部25は、電極部20の辺上に設けられてもよい。この場合、電極部20は、撓み等が生じない程度の強度を有している必要がある。
【0058】
また、図14の(a),(b)に示されるように、突出部22のうち、実質的に枠部21の外周縁から外側に向かって枠部21に平行に突出する部分である第1部分22aを有さず、z軸方向に沿って一方側に延びる突出部22(第2部分22b)のみが枠部21の外周縁に設けられ、この突出部22に凸部23及び凹部24が設けられてもよい。このとき、図14の(a)に示されるように、枠部21の外周縁に対して突出部22の外側面が外側に突出するように突出部22が設けられてもよい。この場合、凸部23及び凹部24は、電子通過孔形成部EMを囲む枠部21の外形の外側に設けられているため、枠部21の幅を大きくしなくても凸部23及び凹部24が安定して設けられる。このため、ダイノード10における電子通過孔形成部EMの割合を低下させることなく、凸部23及び凹部24が安定して設けられる。さらに、絶縁層23aが設けられた凸部23及び絶縁層24aが設けられた凹部24が、電子通過孔形成部EMから離間されているために、絶縁層23a及び絶縁層24aへの電子入射による耐圧不良といった悪影響を抑制できる。また、図14の(b)に示されるように、枠部21の外周縁と突出部22の外側面とが面一となるように突出部22が設けられてもよい。この場合、凸部23及び凹部24は、電子通過孔形成部EMを囲む枠部21の外形の内側に設けられているため、ダイノード10全体を大きくすることができる。このため、ダイノード10における電子通過孔形成部EMの面積を減少させることなく、凸部23及び凹部24が安定して設けられる。
【0059】
また、図15の(a)に示されるように、凹部24が設けられる第2部分22bの他方端が裏面10bとz軸方向において同じ位置になるように、突出部22が設けられてもよい。この場合、突出部22の加工精度が出しやすいために、より安定した固定構造とすることができる。また、図15の(b)に示されるように、第2部分22bの他方端が裏面10bよりも他方側に位置するように、突出部22が設けられてもよい。この場合、部品としてのダイノード10を載置面に置いた際、ダイノード10の主面10a及び裏面10bはともに載置面から離間するため、載置面と電子増倍片sとが接触することによる電子増倍片sの変形を抑制できる。
【0060】
また、凸部23及び凹部24の形状としては、様々な形状を採用することができる。凸部23の幅方向に沿った側面形状は、図16の(a)〜(e)に示されるように、矩形状、流線形状、三角形状、半円状、五角形状等とすることができる。また、凹部24の幅方向に沿った側面形状は、図16の(a)〜(c)に示されるように、矩形状、流線形状、三角形状等とすることができる。
【0061】
なお、図16の(a)〜(e)に示されるように、凸部23の幅と凹部24の幅とが略同一で第2部分22bの幅より小さく、凸部23の長さが凹部24の深さより大きいあるいは略同一とすることにより、凸部23の先端及び両側端面が凹部24の底面及び両側端面にそれぞれ点接触又は面接触する。このため、凸部23は、三方向でしっかりと固定される。その結果、凸部23及び凹部24の配置数が少なくても、隣り合うダイノード10,10同士は、強固に固定される。さらに、図16の(a)〜(c)に示されるように、凸部23の幅方向に沿った側面形状と凹部24の幅方向に沿った側面形状とが、略同一の形状であれば、凸部23の先端面及び両側端面が凹部24の底面及び両側端面に各々面接触する。このため、隣り合うダイノード10,10同士は、さらに強固に固定される。
【0062】
また、図17の(a)〜(d)に示されるように、凸部23は、第2部分22bの一方側の端部の右側において、第2部分22bの幅方向の右端面221に沿ってz軸方向に設けられてもよい。なお、図17の説明において、「左」、「右」の語は、第2部分22bを正面から見た場合の「左」、「右」に対応する。また、凸部23の幅方向に沿った形状は、矩形状、半円状、三角形状、円弧状等とすることができる。また、凹部24は、第2部分22bの他方側の端部において、右端面221に沿ってz軸方向に設けられてもよい。この場合、凹部24は、右端面221に沿って設けられているため、右側が開放されている。また、凹部24の幅方向に沿った形状は、例えば底面24b及び左側端面24dとを有する矩形状等とすることができる。そして、凸部23の長さが凹部24の深さより大きいあるいは略同一であれば、凸部23の先端23tが凹部24の底面24bに点接触又は面接触する。さらに、凸部23の幅と凹部24の幅とが略同一であれば、凸部23の左端23sが凹部24の左側端面24dに点接触又は面接触する。このため、凸部23は、二方向で固定されることになり、隣り合うダイノード10,10同士が固定されるためには凸部23及び凹部24が複数設けられる必要がある。一方、凸部23の形状及び凹部24の形状は、図16に示された形状と比較して単純で小型化可能である。このため、凸部23及び凹部24を配置するスペースが少ない場合に用いることができる。
【0063】
また、図17の(e),(f)に示されるように、凸部23は、第2部分22bの右端面221に沿ってz軸方向に延びる右側端面23dと、右側端面23dから第2部分22bの左端面222に向けて傾斜した傾斜面23gと、を有する形状としてもよい。傾斜面23gは、図17の(e)に示されるように平面であってもよいし、図17の(f)に示されるように、湾曲面であってもよい。凹部24は、第2部分22bの幅方向の左端面222から右端面221に向けて、凸部23の傾斜面23gに沿って傾斜した傾斜面24gを有する形状としてもよい。この場合、凸部23の傾斜面23gと凹部24の傾斜面24gとが互いに面接触する。このため、凸部23と凹部24とが傾斜面23g,24gのみで互いに接触し、隣り合うダイノード10,10同士は、この傾斜面23g,24gのみで位置決めされることになる。したがって、隣り合うダイノード10,10同士が固定されるためには凸部23及び凹部24を複数設ける必要がある。一方、凸部23の形状及び凹部24の形状は、図16に示された形状と比較して単純で小型化可能である。このため、凸部23及び凹部24が配置され得るスペースが少ない場合に用いることができる。
【0064】
このように、隣り合うダイノード10に設けられた凸部23及び凹部24は、他方側のダイノード10に設けられた凸部23と一方側のダイノード10に設けられた凹部24とが嵌合可能であれば、同じ形状を有している必要はない。図18は、変形例に係る電子増倍器7の積層部分の幅方向に直交する断面の一例を示す図である。図18に示されるように、幅方向に直交する断面において、第1段目のダイノード10の凸部23Aは矩形状、第2段目のダイノード10の凸部23Bは半円状、第3段目のダイノード10の凸部23Cは外側から内側に向けて他方側に傾斜した三角形状、第4段目のダイノード10の凸部23Dは内側から外側に向けて他方側に傾斜した三角形状である。一方、幅方向に直交する断面において、第1段目のダイノード10の凹部24A、第2段目のダイノード10の凹部24B、第3段目のダイノード10の凹部24C及び第4段目のダイノード10の凹部24Dは、いずれも矩形状である。
【0065】
このように、隣り合うダイノード10,10のうち、他方側のダイノード10の凸部23と一方側のダイノード10の凹部24とが嵌合可能で、かつ、他方側のダイノード10の凸部23の長さが、一方側のダイノード10の凹部24の深さより略同じか大きければ、各ダイノード10の凸部23及び凹部24は如何なる形状であってもよい。この場合、一方側のダイノード10の凹部24に他方側のダイノード10の凸部23が嵌め合わされたとき、凸部23の先端が凹部24の底面に接触することによって、隣り合うダイノード10,10同士が離間される。
【0066】
また、上記実施形態では、凸部23はz軸方向に沿って一方側に突出し、凹部24はz軸方向に沿って一方側に窪んでいるが、凸部23はz軸方向に沿って他方側に突出し、凹部24はz軸方向に沿って他方側に窪んでいてもよく、1つのダイノード10において一方側に沿って突出する凸部23及び窪む凹部24と、他方側に沿って突出する凸部23及び窪む凹部24とが混在していてもよい。隣り合うダイノード10,10のうち、一方のダイノード10の凸部23と、他方のダイノード10の凹部24とが、互いに対向する位置に設けられて、嵌合可能であれば、凸部23及び凹部24は、z軸方向に沿ったいずれの方向に設けられてもよい。また、ダイノード10が2段のみの場合は、一方のダイノード10に凸部23のみが設けられ、他方のダイノード10に凹部24のみが設けられてもよい。
【0067】
また、絶縁層23a及び絶縁層24aは、金属材料Mの表面を絶縁化する膜であって、金属材料Mの表面に陽極酸化処理や熱酸化処理といった酸化処理を施すことにより形成することができる。例えば、金属材料Mがアルミニウムからなる場合、絶縁層23a及び絶縁層24aは、金属材料Mをアルマイト処理して形成される絶縁性アルマイト被膜とすることができる。このアルマイト処理としては、シュウ酸アルマイト処理、リン酸アルマイト処理、ホウ酸アルマイト処理、硫酸アルマイト処理、塩酸アルマイト処理、ケプラコート(KEPLA−COAT:登録商標)等を用いることができる。また、絶縁層23a及び絶縁層24aは、金属材料Mの酸化膜の他、金属材料Mの表面に形成された絶縁材料からなる膜とすることもできる。例えば、絶縁層23a及び絶縁層24aは、二酸化ケイ素、酸化鉄、酸化銅、酸化クロム、アルミナ及び酸化マグネシウム等の酸化物、無機系ポリマー(例えばアルコキシシラン化合物等)、絶縁性樹脂、アノード酸化皮膜(例えばアルマイト皮膜等)又はポリシラザン等からなる層を凸部23及び凹部24に蒸着、溶射、めっき又は塗布等することによって形成された絶縁層であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
7…電子増倍器、10…ダイノード、11…電子通過孔(電子増倍孔)、21…枠部、23…凸部、23a…絶縁層、23d…側端面(第1の面)、24…凹部、24a…絶縁層、24d…側端面(第2の面)、EM…電子通過孔形成部(電子増倍孔形成部)、M…金属材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料をプレス加工して形成された複数のダイノードを積層してなる電子増倍器であって、
前記複数のダイノードは、入射電子を増倍する電子増倍孔が設けられた電子増倍孔形成部を有するとともに、積層方向に隣り合う第1及び第2のダイノードを含み、
前記第1のダイノードの周縁部には、積層方向に突出する凸部が設けられ、
前記第2のダイノードの周縁部には、前記凸部が突出する方向に窪む凹部が設けられ、
前記第1及び第2のダイノード同士は、前記第1のダイノードに設けられた前記凸部と、前記第2のダイノードに設けられた前記凹部とが、嵌め合わされることにより、互いに位置決めされ、
前記第1のダイノードに設けられた前記凸部及び前記第2のダイノードに設けられた前記凹部の少なくとも一方には、前記第1及び第2のダイノード同士を絶縁する絶縁層が設けられていることを特徴とする電子増倍器。
【請求項2】
前記複数のダイノードは、前記第2のダイノードと隣り合う第3のダイノードを更に含み、
前記第2のダイノードの周縁部には、前記凹部が窪む方向に突出する凸部が更に設けられ、
前記第3のダイノードの周縁部には、前記第2のダイノードに設けられた前記凸部が突出する方向に窪む凹部が設けられ、
前記第2及び第3のダイノード同士は、前記第2のダイノードに設けられた前記凸部と、前記第3のダイノードに設けられた前記凹部とが、嵌め合わされることにより、互いに位置決めされ、
前記第2のダイノードに設けられた前記凸部及び前記第3のダイノードに設けられた前記凹部の少なくとも一方には、前記第2及び第3のダイノード同士を絶縁する絶縁層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電子増倍器。
【請求項3】
前記複数のダイノードは、前記電子増倍孔形成部を囲むとともに前記周縁部を規定する枠部を有し、
前記凸部及び前記凹部は、前記枠部に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子増倍器。
【請求項4】
前記凸部及び前記凹部は、前記枠部の外形より外側に位置するように設けられていることを特徴とする請求項3に記載の電子増倍器。
【請求項5】
前記凸部及び前記凹部は、前記枠部の外形より内側に位置するように設けられていることを特徴とする請求項3に記載の電子増倍器。
【請求項6】
前記凸部及び前記凹部に前記絶縁層が設けられることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の電子増倍器。
【請求項7】
前記絶縁層は、前記金属材料の表面を絶縁化する膜からなることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の電子増倍器。
【請求項8】
前記膜は、前記金属材料の表面を酸化処理した酸化膜であることを特徴とする請求項7に記載の電子増倍器。
【請求項9】
前記複数のダイノードの各々には、その周縁部に、前記積層方向に突出する凸部及び当該凸部が突出する方向に窪む凹部が設けられており、
前記凸部及び前記凹部は、前記積層方向において互いに対向して配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の電子増倍器。
【請求項10】
前記凸部及び前記凹部は、前記積層方向に沿って配置されていることを特徴とする請求項9に記載の電子増倍器。
【請求項11】
前記凸部は、前記凸部が設けられた前記ダイノードの周縁部に沿った方向と交差する一対の第1の面を有し、
前記凹部は、前記一対の第1の面に対向する一対の第2の面を有し、
前記積層方向に隣り合う前記ダイノード同士は、前記凸部の前記一対の第1の面と、前記凹部の前記一対の第2の面とが、接することにより、前記周縁部に沿った方向において互いに位置決めされることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の電子増倍器。
【請求項12】
前記凹部の深さは、前記金属材料の厚さより大きいことを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の電子増倍器。
【請求項13】
前記複数のダイノードは、平面視において多角形であり、
前記凸部は、当該凸部が設けられた前記ダイノードの角部に位置しており、
前記凹部は、当該凹部が設けられた前記ダイノードの角部に位置していることを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の電子増倍器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−45748(P2013−45748A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185100(P2011−185100)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)