説明

電子安全エレベータ

【課題】高信頼,高機能な安全を実現すると共に、構成を簡素化して設計,保守を容易にする。
【解決手段】エレベータの動作状態を検出するセンサ(41〜43)を入力情報として異常を判定し、乗りかご1を安全な状態に移行させるための指令信号を発生する安全コントローラ(マイコン(A)50,マイコン(B)60)を有する電子安全エレベータにおいて、入力情報に基づいてエレベータの休止が判定された場合、安全コントローラは、正常に動作しているか否かの自己診断を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの安全システムに関し、特に、機械式の安全装置を削減して電子式にしてより高機能化したものに好適である。
【背景技術】
【0002】
エレベータの機械式安全スイッチ,安全装置等が電子化されるに伴い、より、高度でインテリジェント化された機能が実現可能となっている。例えば、精度良く誤動作も防ぐため、電子式の調速器を用い、乗りかごの昇降に伴って変化するエンコーダの出力から二つのマイクロコンピュータで速度を算出し、異常速度レベルを超えたと判定した場合、乗りかごを停止させると共に、二つのマイクロコンピュータで演算して得た検出速度を比較し、所定の偏差があった場合に異常として停止することが知られ、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
また、エレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を発生する電子安全コントローラを有するエレベータにおいて、安全システムの信頼性をさらに向上させるため、電子安全コントローラは第1及び第2のマイクロプロセッサを含み、互いの演算処理結果を比較することにより第1及び第2のマイクロプロセッサ自体の健全性を確認することが知られ、例えば特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2004/076326号パンフレット(図7)
【特許文献2】国際公開2006/090470号パンフレット(段落0038、図12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術においては、演算装置であるマイクロコンピュータ(以下、マイコン)を二重化して信頼性を高めているが、演算装置の最終的な演算結果、すなわち1/0のビット情報である乗りかごを停止させるための出力信号(かご停止信号)を比較するだけなので、故障を見逃す可能性がある。例えば、一方の演算装置のかご停止信号が演算装置の故障(例えばマイコン自体の故障や、かご停止信号出力部の故障など)により、かご停止しない側に固着した場合、正常動作時においてかご停止が不要の条件下では、固着した故障を発見することができない。
【0006】
つまり、一方の演算装置で故障が潜在している状態のとき、他方の演算装置が故障した場合、かごを停止させることができなくなり、安全装置の信頼性が低下したことになる。
【0007】
また、特許文献2に記載のものでは、演算装置の演算部自体の故障を検出できる可能性は高まるが、例えばかご停止信号出力部の故障を検出することは困難である。さらに、各演算装置の処理タイミングのずれに伴うかご位置、かご速度演算結果の差異に対処するため、両演算装置の処理タイミングを同期させたり、誤差閾値を適切に設定するなどの工夫が必要であり、設計が煩雑になったり、ソフトウェア処理負荷が増大する。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、より高信頼,高機能な安全を実現すると共に、構成を簡素化してエレベータの機種、使用部品に係らず高信頼な設計,保守を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、エレベータの動作状態を検出するセンサを入力情報として異常を判定し、乗りかごを安全な状態に移行させるための指令信号を発生する安全コントローラを有する電子安全エレベータにおいて、前記入力情報に基づいて前記エレベータの休止が判定された場合、前記安全コントローラは、正常に動作しているか否かの自己診断を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエレベータによれば、エレベータの休止状態において、安全コントローラの自己診断を行うので、演算部から出力部に至るまでの故障を検出できるようになり、より高信頼,高機能な安全を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による一実施の形態における全体構成を示すブロック図。
【図2】一実施の形態における安全コントローラを示す信号結線図。
【図3】一実施の形態における安全コントローラのブロック図。
【図4】一実施の形態における異常判定処理を示すブロック図。
【図5】一実施の形態において停止判定に必要とされるセンサと安全コントローラとを示すブロック図。
【図6】一実施の形態における診断用入力情報を示す図。
【図7】一実施の形態における終端階過速異常判定処理で用いるデータテーブルを説明するグラフ。
【図8】一実施の形態における安全コントローラの出力タイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して一実施形態について詳細を説明する。
エレベータにおける安全装置として、安全スイッチの投入により乗りかごを停止させるものがあり、例えば、昇降路の上下端部に備えられ、乗りかごの位置が通常の運行範囲を超過したことを検出するファイナルリミットスイッチが安全スイッチの一つである。
【0013】
乗りかごの停止は、乗りかごの主ロープを駆動するモータ等に備え付けられたブレーキの作動、巻上機等の駆動モータへの通電遮断、乗りかごの速度超過を検出して作動させる非常止めで行われる。非常止めは、乗りかごに取り付けられ、作動するとガイドレールを把持して乗りかごに急停止を掛ける。
【0014】
乗りかごの停止作動としては、ブレーキ作動や通電遮断であればスイッチとリレー・コンタクタ、非常止めであればガバナとガバナロープといった機械部品の組合せが用いられている。これら機械式の安全装置を電子化したエレベータでは、安全スイッチやエンコーダ等センサの入力情報を用いてマイコン等が乗りかごの位置、速度の演算(検出)を行い、危険事象を検出した際には乗りかごを停止せる信号を出力する。つまり、安全コントローラ40は、動作状態を検出するセンサに基づいて、乗りかごの位置,速度を検出して、エレベータの異常を検出し、乗りかごを安全な状態に移行(停止)させるための指令信号を発生する。
【0015】
図1は、電子安全エレベータの全体構成を示し、乗りかご1は、モータ2がカウンターウェイト11の繋がれた主ロープ10を駆動することにより、昇降路内を移動する。モータ2は通電遮断回路6を介して交流電源7に接続されたインバータ5により駆動される。
通電遮断回路6が作動すると、インバータ5に電力が供給されなくなりモータ2の駆動力が消失する。またブレーキ3はモータ2の駆動を抑制し、乗りかご1に対する制動力を発する。ブレーキ3は常時作動であり、通電されると作動が解除される。
【0016】
ガバナロープ12は、乗りかご1の移動に伴い牽引され、ガバナ13を回転させる。ガバナ13は把持装置14とロータリーエンコーダ21を備えており、把持装置14は作動するとガバナロープ12を把持し、そのとき乗りかご1が移動中であれば非常止め装置15がレール16を挟むことにより乗りかごを停止させる。ロータリーエンコーダ21はガバナ13とともに回転してパルス信号を発生する。そのパルス信号の変化量を積算すれば乗りかご1の位置が、変化量の時間平均を計算すれば乗りかご1の速度を求めることができる。
【0017】
昇降路の下端にはバッファ17が設置されており、バッファ17は、乗りかご1がブレーキ3や非常止め装置15の制動力で完全に停止できない場合、乗りかご1を受け止め衝撃を吸収する。
【0018】
昇降路の下端付近と上端付近にはファイナルリミットスイッチ22,23が設けられ、これら安全スイッチは、常時はオン状態であり、乗りかご1が下方又は上方から進入して接触するとオフ状態となり、乗りかご1の行き過ぎを検出する。
【0019】
制御コントローラ30と安全コントローラ40は、昇降路又はその付近のモータ2側に設置された制御盤内に設けられ、制御コントローラ30はインバータ5を制御して乗りかご1を運行させる。また、安全コントローラ40はロータリーエンコーダ21,ファイナルリミットスイッチ22,23を入力として、ブレーキ3,通電遮断回路6,把持装置14を介した非常止め装置15により乗りかごを制動する。なお、エレベータには、図示していないが、上記ファイナルリミットスイッチ以外にも保守時に保守員保護のために使用するスイッチなど多数の安全スイッチが備わっている。
【0020】
図2は、エレベータの信号結線図を示し、制御コントローラ30は、インバータ制御信号31を出力し、インバータ5を制御している。
【0021】
安全コントローラ40は、2ケのマイコン、マイコン50とマイコン60を備え、マイコン50,60は、ROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),デジタル入出力やエンコーダ入力,通信インタフェースなどの周辺回路により、それぞれがCPU(Central Processing Unit)と内部バスで接続された構成をとっている(図示せず。)。
【0022】
マイコン50,60へは、ロータリーエンコーダ21からエンコーダ信号41、ファイナルリミットスイッチ22,23からファイナルリミットスイッチ信号42,43が入力される。
【0023】
マイコン50の出力は、停止要求信号51がAND回路70に、通電遮断信号52が通電遮断回路6のコンタクタに、ブレーキ作動信号53がブレーキ3へ通電するブレーキ駆動回路4に、非常止め作動信号54が把持装置14へ出力する。これら4つの出力信号は、同時にマイコン60にも入力されている。同様に、マイコン60の出力として、停止要求信号61がAND回路70に、通電遮断信号62が通電遮断回路6のコンタクタに、ブレーキ作動信号63がブレーキ駆動回路4に、非常止め作動信号64が把持装置14に接続されている。これら4つの出力信号は、マイコン50にも入力されている。以上の8つの出力信号は、乗りかご1の停止手段を作動させるための停止出力である。
【0024】
停止要求信号51,61は、乗りかご1を制御コントローラ30により停止させるための信号であり、例えば、信号レベルH(High)が要求なし、信号レベルL(Low)が要求ありとなる。また、エレベータ診断時に乗りかご1の運転を抑止するためにも使用される。2つの信号はAND回路70を介して制御コントローラ30に出力されるため、停止要求信号51,61どちらかの信号がLowになれば、制御コントローラ30は乗りかご1を停止させる。
【0025】
通電遮断信号52,62は、通電遮断回路6内にて2つのコンタクタにそれぞれ接続し、オンのときコンタクタは接続、オフのときコンタクタは切断となる。2つのコンタクタは直列接続されているため、通電遮断信号52,62どちらかの信号がオフになれば、通電遮断回路6は交流電源7とインバータ5の間の通電を遮断する。
【0026】
ブレーキ作動信号53,63は、ブレーキ駆動回路4内において2つのコンタクタにそれぞれ接続し、オンのときコンタクタは接続、オフのときコンタクタは切断となる。2つのコンタクタは直列接続されているため、どちらかの信号がオフになれば、ブレーキ駆動回路4はブレーキ3への通電を遮断する。
【0027】
非常止め作動信号54,64は、把持装置14を作動させるソレノイドに入力され、両方の信号がオンのとき把持装置14は非作動であり、どちらか一方の信号がオフのとき作動する。
【0028】
図3は、図2のマイコン50,60が備える機能のブロック図を示す。マイコン50には演算部81A,入力部82A,出力部83A,比較部84A,入力切替部85A,休止判定部86A,診断用入力情報保存部87Aがあり、同様にマイコン60には演算部81B,入力部82B,出力部83B,比較部84B,入力切替部85B,休止判定部86B,診断用入力情報保存部87Bを有する。
【0029】
各部は、マイコン内部あるいは外部のROMに格納され、マイコンのCPUにて各機能が実行,実現されるプログラムである。本プログラムはマイコン50,60のタイマを利用して周期10ms毎のように周期的に実行しても、入力部82A,82Bが入力信号の変化を検出した際に割込みを発生させて実行してもよい。以下ではマイコン50,60で実現する安全機能の詳細を説明する。
【0030】
入力部82A,82Bはエレベータの動作状態を検出するセンサからの信号を取り込む機能であり、センサであり、エンコーダ信号41,ファイナルリミットスイッチ信号42,43、他の安全スイッチの信号(図示せず)として入力される。
【0031】
エンコーダ信号41は乗りかご1の速度と位置を示す値に換算され、位置情報はファイナルリミットスイッチ信号42,43の検出時に予め設定された初期値にリセットされる。ファイナルリミットスイッチ信号42,43はオンがHigh、オフがLowに置き換えられる。これらの入力情報は入力切替部85A,85Bと休止判定部86A,86Bに伝達される。
【0032】
休止判定部86A,86Bは入力情報に基づいてエレベータの休止を判定し、入力切替部85A,85Bに通知する。入力切替部85A,85Bは、エレベータの通常運行時は入力部82A,82Bからの入力情報を、休止判定部86A,86Bからエレベータ休止の通知があった場合は自己診断を実施するために診断用入力情報を演算部81A,81Bに出力する。
【0033】
診断用入力情報は診断用入力情報保存部87A,87Bに記録して保存されている。出力部83A,83Bは演算部81A,81Bの演算結果であるかご停止信号(Lowで停止)を出力する。比較部84A,84Bは、出力部83A,83Bが出力したかご停止信号と、他方のマイコンが出力したかご停止信号を比較し、両系(両マイコン)が正常に動作しているか否かを判定し(自己診断)、両者の不一致を検出した際には図3に示すように、かご停止信号がLow(かご停止側)になるように出力部83A,83Bを制御する。
【0034】
図4は演算部81A,81Bで実施される異常判定処理の例を示す。図4では入力部と入力切替部は省略している。
図では安全チェーン異常判定処理90と終端階過速異常判定処理91が実装されている。安全チェーン異常判定処理90は、ファイナルリミットスイッチ22,23など安全スイッチのいずれか一つがオフ、すなわちファイナルリミットスイッチ信号42,43,・・・のいずれか一つがLowの場合、Lowを出力し、通電遮断信号52およびブレーキ作動信号53をLowにすることでブレーキ3と通電遮断回路6の作動指令を出力する。
【0035】
終端階過速異常判定処理91は、乗りかご1の昇降路内における位置を横軸、速度を縦軸として描いた第1速度上限カーブ92と第2速度上限カーブ93をデータテーブルとして記録している。
【0036】
終端階過速異常判定処理91は、ロータリーエンコーダ21の信号より乗りかご1の位置に応じた第1速度上限を第1速度上限カーブ92から求め、ロータリーエンコーダ21の信号より算出される乗りかご1の速度が第1速度上限を超過している場合、Lowを出力し、通電遮断信号52およびブレーキ作動信号53をLowにすることでブレーキ3と通電遮断回路6の作動を指令する。
【0037】
また、終端階過速異常判定処理91は、乗りかご1の位置に応じた第2速度上限を第2速度上限カーブ93から求め、乗りかご1の速度が第2速度上限を超過している場合、Lowを出力し、非常止め作動信号54をLowにすることで把持装置14を介した非常止め装置15を作動する。
【0038】
休止判定部86A,86Bが、エレベータ休止状態にあることを判定し、この間にマイコン50,60の診断を実施する。つまり、図5において、エレベータの動作状態を検出するセンサを入力情報のうち、乗りかごに設けられた戸の開閉を検出するかご戸スイッチ25,かご内監視カメラ26,かご重量センサ27などの信号が安全コントローラ40に入力され、休止判定部86A,86Bがこれらの情報によりエレベータの休止判定を実施する。
【0039】
例えば、エレベータ停止の状態、すなわちかご速度ゼロの状態、あるいは、かご戸スイッチ25がオン、かご戸が閉まっており、かつかご速度ゼロの状態が所定時間継続した場合、エレベータが休止状態にあると判定される。
【0040】
また、乗りかご内の乗客の有無をかご内監視カメラ26やかご重量センサ27で検知し、乗客がいなくなってから所定時間経過後にエレベータ休止状態と判定する。さらに、マイコン50,60に通常モードと保守モードの2つの動作モードを設け、これを外部から通信やスイッチで変更できるようにし、保守モードのときにエレベータ休止状態と判定しても良い。
【0041】
図6は診断用入力情報保存部87A,87Bに記憶して保存された診断用入力情報の例を示したものである。診断用入力情報は、ファイナルリミットスイッチ(上端,下端),かご位置,かご速度を組合せた4種類の診断パターンとしている。かご位置,かご速度に関しては、図7に示すように終端階過速異常判定処理で用いるデータテーブルにおいて、正常領域、第1速度上限92と第2速度上限93の間の領域、第2速度上限93を超える領域内の各々A点,B点,C点のデータを保存する。
【0042】
診断パターン1,2では、各々ファイナルリミットスイッチ22,23をオフにして異常状態を作り出す。かご位置,かご速度には正常領域内のA点を用いる。また、診断パターン3,4では、ともにファイナルリミットスイッチはオン(正常)とし、かご位置,かご速度を各々B点,C点とすることで異常状態を模擬する。
【0043】
上記のような診断用入力情報を用いて演算部81A,81Bが演算を行った場合の出力信号51〜54,61〜64のタイムチャートを図8に示す。
【0044】
マイコンが正常に動作している場合は、いずれの診断パターンの入力値でも乗りかご1を停止させる信号(Low)を出力する。休止判定部86A,86Bがエレベータの休止状態を判定すると、この信号が入力切替部85A,85Bに出力され、入力切替部は診断パターン1から4の診断用入力情報を順次演算部81A,81Bに供給する。
【0045】
診断パターン1,2,3では、停止要求信号51,61,通電遮断信号52,62,ブレーキ作動信号53,63はいずれもLowとなるが、非常止めは作動させないため非常止め作動信号54,64はHighのままである。一方、診断パターン4では、非常止め作動信号54,64はLowを出力する。ただし、非常止めは一旦作動してしまうと自動的には解除できず復旧作業が必要になってしまうため、把持装置14が作動しない時間幅のパルス出力とする。なお、診断パターン4では、停止要求信号51,61と通電遮断信号52,62はLowになるが、ブレーキ作動信号53,63については、ブレーキ3と非常止め装置15を同時に作動させると制動力が強くなりすぎる可能性があるため、Highのままとし、ブレーキ3をかけないようにしている。
【0046】
比較部84A,84Bでは、両マイコンのかご停止出力を比較し、両者が不一致の場合は出力部83A,83Bを介してLowレベルのかご停止信号を出力し、かごを停止させる。これにより、一方のマイコンの演算部や出力部の故障によりかご停止信号の値が異なる場合のみならず、入力部,休止判定部、あるいは入力切替部の故障に起因して診断タイミングがずれたような場合でもその異常を検出することができる。
【0047】
比較タイミングに関しては、一方のマイコンのかご停止出力が変化してから例えば数100ms以内に他方のかご停止出力が変化すれば良いというように比較タイミング条件を緩く設定する。これにより、かご位置やかご速度などの演算途中結果を比較する場合のように両マイコンの演算を厳密に同期させる必要はない。
【0048】
以上、安全コントローラ40のマイコン50,60において休止判定部86A,86Bがエレベータの休止状態を判定し、休止状態において、演算部81A,81Bが、乗りかごを停止させるための出力信号51〜54,61〜64がかご停止側になるような診断用入力情報を用いて演算を行い、比較部84A,84Bで演算結果を相互に比較する。したがって、安全コントローラが自己診断を行ったことになり、演算部から出力部に至るまでの故障を検出できる。そして、安全コントローラの故障検出率、信頼性を向上させ、高安全なエレベータを提供することが可能となる。
【0049】
また、マイコン間でかご位置やかご速度などの演算途中結果を相互比較する必要がなくなるため、両マイコンの処理タイミングを同期させるなどの煩雑な処理が不要となる。これにより、安全装置の高信頼設計が容易になるとともに、ソフトウェア処理負荷を低減できる。
【0050】
なお、上記の実施例では、安全コントローラはマイコンを二重化して構成しているが、三重化以上より信頼性が高まる。また、演算装置として論理回路IC(Integrated Circuit)や、マルチコア(1つの半導体チップに複数のCPUを持つもの)のマイクロコントローラを利用することが安全性の点からは望ましい。
【0051】
また、ロータリーエンコーダ21を二つとして二重化し、それぞれの信号を各々のマイコンに入力すれば、より信頼性を向上させることができる。これによれば、ロータリーエンコーダの故障も上記の診断方式で検出することができる。具体的には、一方のマイコンに接続されるロータリーエンコーダに故障、例えばエンコーダ値の固定故障が発生した場合、このマイコンはかご速度がゼロであると判定し、診断を開始するため、両マイコンのかご停止出力が不一致となる。したがって、この場合は、安全コントローラの演算部と出力部だけでなく、ロータリーエンコーダとその信号の入力部まで含めて故障検出が可能となる。
【0052】
さらに、比較の一方となるかご停止信号は、マイコンの出力ではなく、安全コントローラの外部に出力された信号とする構成とすれば、出力との確認を行うことになり、より総合的な故障検出となる。
【符号の説明】
【0053】
1 乗りかご
2 モータ
3 ブレーキ
10 主ロープ
12 ガバナロープ
14 把持装置
15 非常止め装置
21 ロータリーエンコーダ
22,23 ファイナルリミットスイッチ
25 かご戸スイッチ
26 かご内監視カメラ
27 かご重量センサ
40 安全コントローラ
41 エンコーダ信号
42,43 ファイナルリミットスイッチ信号
50 マイコン(A)
60 マイコン(B)
51,61 停止要求信号
52,62 通電遮断信号
53,63 ブレーキ作動信号
54,64 非常止め作動信号
81A,81B 演算部
82A,82B 入力部
83A,83B 出力部
84A,84B 比較部
85A,85B 入力切替部
86A,86B 休止判定部
87A,87B 診断用入力情報保存部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの動作状態を検出するセンサを入力情報として異常を判定し、乗りかごを安全な状態に移行させるための指令信号を発生する安全コントローラを有する電子安全エレベータにおいて、
前記入力情報に基づいて前記エレベータの休止が判定された場合、前記安全コントローラは、正常に動作しているか否かの自己診断を行うことを特徴とする電子安全エレベータ。
【請求項2】
請求項1に記載の電子安全エレベータにおいて、前記安全コントローラは、診断用入力情報を用いて前記自己診断を行うことを特徴とする電子安全エレベータ。
【請求項3】
請求項1に記載の電子安全エレベータにおいて、前記安全コントローラは、前記エレベータの休止を判定する休止判定部と、
エレベータの通常運行時は前記センサによる入力情報を出力し、前記休止判定部で休止と判定されたときは診断用入力情報を出力する入力切替部と、
前記入力切替部の出力により前記エレベータの異常を判定する演算部と、
をそれぞれ複数備えたことを特徴とする電子安全エレベータ。
【請求項4】
請求項3に記載の電子安全エレベータにおいて、前記診断用入力情報は前記エレベータを停止させる情報であり、一方の前記演算部の出力と、他方の前記演算部の出力と、を比較する比較部を備えたことを特徴とする電子安全エレベータ。
【請求項5】
請求項3に記載の電子安全エレベータにおいて、前記診断用入力情報は前記エレベータを停止させる情報であり、一方の前記演算部の出力と、他方の前記演算部の出力と、を比較し、不一致の場合、前記乗りかごを停止させることを特徴とする電子安全エレベータ。
【請求項6】
請求項3に記載の電子安全エレベータにおいて、前記休止判定部で休止と判定された場合、前記診断用入力情報は前記エレベータを停止させる情報であり、一方の前記演算部の出力と、他方の前記演算部の出力と、を比較し、停止信号として一致している場合、前記安全コントローラは正常に動作していると診断することを特徴とする電子安全エレベータ。
【請求項7】
請求項3に記載の電子安全エレベータにおいて、エレベータの動作状態を検出するセンサは、前記乗りかごの速度と位置を検出するエンコーダと、乗りかごに設けられたかご戸の開閉を検出するかご戸スイッチと、を含み、前記かご戸が閉まっており、前記乗りかごの速度ゼロの状態が所定時間継続した場合、前記エレベータの休止と判定することを特徴とする電子安全エレベータ。
【請求項8】
請求項3に記載の電子安全エレベータにおいて、エレベータの動作状態を検出するセンサは、乗りかご内の乗客の有無を検出するかご内監視カメラ、あるいはかご重量センサ27であり、乗客無しの状態が所定時間継続した場合、前記エレベータの休止と判定することを特徴とする電子安全エレベータ。
【請求項9】
請求項3に記載の電子安全エレベータにおいて、前記安全コントローラは、前記休止判定部、前記入力切替部、前記演算部をそれぞれ備えた二つのマイコンで構成されたことを特徴とする電子安全エレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−82059(P2012−82059A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231084(P2010−231084)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】