説明

電子式巻尺

【課題】巻尺の引出量を正確且つ小さいコストで導出可能な電子式巻尺を提供する。
【解決手段】電子式巻尺1が、巻尺4と、筐体2の内部で巻尺4を巻き取る巻取手段Rと、巻尺4に半導体レーザ素子からのレーザ出力を照射するレーザ照射手段8と、巻尺4のレーザ照射された部分を撮像する撮像手段9と、撮像手段9によって設定時間毎に撮像される複数の撮像画像の模様を互いに比較して、撮像画像中における巻尺4の変位量及び変位方向を導出する変位情報導出手段11と、撮像画像中における巻尺4の変位量と、巻尺4の実際の移動量との相関関係を記憶する記憶手段14と、巻尺4の変位量及び変位方向と記憶手段14に記憶されている相関関係とに基づいて巻尺4の実際の移動量を導出し、筐体2からの巻尺4の引出量を決定する引出量決定手段12と、筐体2からの巻尺4の引出量を筐体2の外部に向けて表示する表示手段15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻尺の引出量を電子的な手法により読みとって表示する電子式巻尺に関する。
【背景技術】
【0002】
数値の読み間違いなどを防止するために、筐体からの巻尺の引出量を電子的に読み取り表示する電子式巻尺が提案されている。例えば、特許文献1には、光学的な読み取り機構を備えた電子式巻尺が記載されている。図7は、特許文献1に記載の電子式巻尺の動作原理を説明するための模式図である。図示するように、巻尺104の表面には黒白の縞模様が等間隔(例えば、1mm間隔)で描かれている。発光ダイオード(LED)102から放射された光は巻尺表面の微小領域で反射され、受光素子103で受光される。このとき、発光ダイオード102から放射された光が巻尺の白部分の微小領域で反射されたとき、受光素子103で受光される光強度は大きくなる。一方で、発光ダイオード102から放射された光が黒部分の微小領域で反射されたとき、受光素子103で受光される光強度は小さくなる。よって、演算処理部101は、受光素子103で受光した光強度の増減(即ち、白の回数又は黒の回数)をカウントすることで、縞模様の間隔に応じた巻尺の引出量を導出できる。
【0003】
【特許文献1】特開平6−58701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電子式巻尺では、巻尺の表面に対して黒白の縞模様が正確に描かれていなければ、巻尺の引出量を正確に導出することができない。また、巻尺の引き出し方向を検出するためには、発光ダイオード及び受光素子で構成される読取部を2個備え、その2個の読取部を用いて、引き出し方向に沿った巻尺表面の2つの微小領域での光強度の増減を検出する必要がある。ここで、2つの微小領域は、巻尺表面に描かれた縞模様の間隔よりも短い間隔で位置している必要がある。
【0005】
以上のように、従来の電子式巻尺では、巻尺表面の縞模様を高い精度で印刷する必要があり、更に、巻尺表面の汚れ、印刷のにじみなどは許容されない。また、発光ダイオード及び受光素子で構成される複数の読取部が必要になるため、部品点数の増加の問題や、複数の読取部について高い実装精度が要求されるという問題が存在する。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、巻尺の引出量を正確に導出可能な電子式巻尺を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る電子式巻尺の特徴構成は、筐体外部に引き出し可能な巻尺と、
前記筐体内部で前記巻尺を巻き取る巻取手段と、
前記巻尺に半導体レーザ素子からのレーザ出力を照射するレーザ照射手段と、
前記巻尺のレーザ照射された部分を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段によって設定時間毎に撮像される複数の撮像画像の模様を互いに比較して、前記撮像画像中における前記巻尺の変位量及び変位方向を導出する変位情報導出手段と、
前記撮像画像中における前記巻尺の変位量と、前記巻尺の実際の移動量との相関関係を記憶する記憶手段と、
前記変位情報導出手段により導出される前記巻尺の前記変位量及び前記変位方向と前記記憶手段に記憶されている前記相関関係とに基づいて前記巻尺の実際の移動量を導出し、前記筐体からの前記巻尺の引出量を決定する引出量決定手段と、
前記筐体からの前記巻尺の引出量を前記筐体の外部に向けて表示する表示手段と、を備える点にある。
【0008】
上記特徴構成によれば、巻尺の表面に微細な模様(凹凸模様や色による模様を含む)が固有に存在することを利用して、変位情報導出手段が、複数の撮像画像の模様を互いに比較して、前記撮像画像中における巻尺の変位量及び変位方向を導出する。つまり、従来のように、巻尺の表面に縞模様などを描く必要はない。また、従来のように発光ダイオードなどの発光素子及び受光素子で構成される読取部を2個備える必要もないので、従来から問題となっていた部品点数の増加の問題や、複数の読取部について高い実装精度が要求されるという問題を回避できる。
更に、巻尺に対して、半導体レーザ素子からのレーザ出力を照射するので、表面に光沢があり且つ凹凸が少ない巻尺であっても、LEDなどの他の光源を用いて巻尺を照射した場合に比べて、撮像手段は、巻尺表面の模様を正確に得ることができる。その結果、引出量決定手段は、筐体からの巻尺の引出量を正確に決定できる。
従って、巻尺の引出量を正確に導出可能な電子式巻尺を提供できる。
【0009】
本発明に係る電子式巻尺の別の特徴構成は、前記撮像手段による撮像画像から、前記巻尺に付された基準位置表示を検出する基準位置検出手段を備え、前記引出量決定手段は、前記基準位置検出手段が基準位置表示を検出すると、前記筐体からの前記巻尺の引出量を所定の基準量に決定する点にある。
【0010】
上記特徴構成によれば、基準位置検出手段が、撮像手段による撮像画像から、巻尺に付された基準位置表示を検出したとき、即ち、巻尺の引出量が基準状態にあるとき、引出量決定手段は、筐体からの巻尺の引出量を所定の基準量に自動的に決定する。つまり、巻尺の引出量が基準量へ定期的に自動で校正されるので、巻尺の引出量の精度を継続的に維持できる。
なお、基準表示は、基準位置検出手段により検出可能なものであれば特に限定はされないが、例えば、基準位置を示す所定の模様や基準位置を示す孔部などを適用することができる。
【0011】
本発明に係る電子式巻尺の別の特徴構成は、前記筐体からの前記巻尺の引き出し状態が基準状態であることの入力を受け付ける基準状態受付手段を備え、
前記引出量決定手段は、前記基準状態受付手段が前記基準状態であることの入力を受け付けたときの前記筐体からの前記巻尺の引出量を所定の基準量に決定する点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、基準状態受付手段が、巻尺の引き出し状態が基準状態であることの入力を受け付けると、引出量決定手段は、筐体からの巻尺の引出量を所定の基準量に自動的に決定する。つまり、巻尺の引出量を基準量へ手動で校正できる。
【0013】
本発明に係る電子式巻尺の別の特徴構成は、前記引出量決定手段により決定される前記巻尺の引き出し量を補正するべく前記巻尺に付された補正表示と、前記補正表示を検出する補正表示検出手段とを備え、前記引出量決定手段は、前記補正表示検出手段が補正表示を検出すると、決定した前記巻尺の引出量を補正する点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、補正表示検出手段が、撮像手段による撮像画像から、巻尺に付された補正表示を検出したとき、引出量決定手段は、決定した前記巻尺の引出量を補正する。このため、引出量が定期的に補正されるので、決定された引出量に誤差が累積するのを防止することができ、巻尺の引出量の精度を継続的に維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下に図面を参照して第1実施形態の電子式巻尺1について説明する。
図1は、第1実施形態の電子式巻尺1の構成を示す概略図である。図示するように、筐体2の内部には巻尺4が、筐体2の外部に引き出し可能に収容されている。巻尺4は、筐体2の内部において、ゼンマイ軸5に巻回されたゼンマイ式バネ6に接続される。よって、ゼンマイ軸5及びゼンマイ式バネ6は、筐体2の内部で巻尺4を巻き取る巻取手段Rとして機能する。巻尺4は筐体2に形成された引出口3を通って筐体2の外部に引き出し可能であるが、ゼンマイ式バネ6によって筐体2の内部に引き込もうとする力が巻尺4には常に加わっている。但し、巻尺4の先端にはストッパ7が装着されており、そのストッパ7によって、巻尺4が全て筐体2の内部に引き込まれることが防止されている。ストッパ7が筐体2に当接するまで巻尺4が筐体2の内部に最大限引き込まれている状態を基準状態、即ち、筐体2からの巻尺4の引出量が零である状態とする。
【0016】
電子式巻尺1は、上記巻尺4及び上記巻取手段Rに加えて、レーザ照射手段8、撮像手段9、演算処理部10、記憶手段14、及び、表示手段15を備える。演算処理部10は、少なくとも変位情報導出手段11と引出量決定手段12とを備え、更には基準位置検出手段13を備える。
レーザ照射手段8は、半導体レーザ素子を用いて構成され、巻尺4にその半導体レーザからのレーザ出力を照射する。撮像手段9は、巻尺4のレーザ照射された部分を撮像する。レーザ照射手段8は、半導体レーザ素子からのレーザ出力を、レンズやプリズムなどの光学素子(図示せず)を用いて巻尺4の表面の少なくとも撮像領域Aを含む範囲に導く。そして、撮像手段9は、レーザ照射手段8によってレーザ照射された巻尺4の撮像領域Aの反射像を撮像する。
【0017】
変位情報導出手段11は、撮像手段9によって設定時間毎に撮像される複数の撮像画像の模様を互いに比較して、撮像画像中における巻尺4の変位量及び変位方向を導出する。例えば、変位情報導出手段11は、ある時刻における巻尺4の撮像領域Aの撮像画像の模様と、別の時刻の巻尺4の撮像領域Aの撮像画像の模様とを比較する。このとき、変位情報導出手段11は、3以上の撮像画像を比較してもよい。そして、変位情報導出手段11は、撮像画像中に共通して存在している模様の変位量(本実施形態では、「カウント」と表記することもある)及び変位方向を導出する。
【0018】
引出量決定手段12は、変位情報導出手段11により導出される巻尺4の変位量及び変位方向に基づいて巻尺4の実際の移動量を導出し、筐体2からの巻尺4の引出量を決定する。本実施形態では、EEPROMなどの不揮発性メモリを用いて構成される記憶手段14は、上述したような撮像画像中における巻尺4の変位量(カウント)と、巻尺4の実際の移動量との相関関係を記憶する。図2は、巻尺4の変位量(カウント)と実際の移動量(mm)との相関関係を示すグラフである。記憶手段14は、このグラフの傾き値:K(mm/カウント)を記憶している。よって、変位情報導出手段11により導出される巻尺4の変位量(カウント)と傾き値:Kとを乗算することで、巻尺4の実際の移動量を導出できる。そして、引出量決定手段12は、記憶手段14に記憶されている先の巻尺4の引出量と、新たに導出した巻尺4の移動量とに基づいて、新たな巻尺4の引出量を決定する。以上のように、引出量決定手段12は、変位情報導出手段11により導出される巻尺4の変位量及び変位方向と記憶手段14に記憶されている相関関係(傾き値:K)とに基づいて巻尺4の実際の移動量を導出し、筐体2からの巻尺4の引出量を決定している。
【0019】
演算処理部10は、引出量決定手段12によって筐体2からの巻尺4の引出量が決定されると、その引出量の情報を表示手段15に送る。表示手段15は、液晶表示装置、自発光式のEL(エレクトロルミネッセンス)素子などの様々な表示装置を用いて実現可能である。そして、表示手段15は、受け取った筐体2から巻尺4の引出量の値を筐体2の外部に向けて表示する。
【0020】
以上のように、演算処理部10は、変位情報導出手段11を用いて巻尺4の変位量及び変位方向を常時導出し、引出量決定手段12を用いて決定される筐体2からの巻尺4の引出量に常時反映させている。よって、巻尺4を筐体2から引き出している途中では、表示手段15で表示される巻尺4の引出量の値は徐々に増加してゆき、巻尺4の引き出しを停止すると、表示手段15で表示される引出量の値も停止する。そして、巻尺4が巻取手段Rによって巻き取られると、表示手段15で表示される巻尺4の引出量の値も減少する。
【0021】
以下に、電子式巻尺1の具体例な構成及び動作について説明する。図1では、変位情報導出手段11、引出量決定手段12及び基準位置検出手段13の機能が一つの演算処理部10で実現されるような形態で図示しているが、具体例には、レーザ照射手段8、撮像手段9、変位情報導出手段11及び基準位置検出手段13の機能は光学センサモジュールによって実現可能であり、引出量決定手段12の機能はマイコンなどによって実現可能である。また、記憶手段14はEEPROMなどの不揮発性メモリなどによって実現可能である。
【0022】
上記光学センサモジュールでは、レーザ照射手段8によって照射された巻尺4の反射像が撮像手段9によって所定のフレームレートで撮像される。そして、得られた撮像画像を変位情報導出手段11が信号処理して、巻尺4の変位量(カウント)及び変位方向が導出される。
上記マイコンでは、引出量決定手段12が、上記光学センサモジュールに対して、導出された巻尺4の変位量(カウント)及び変位方向に関する情報を所定時間毎(例えば、1m秒毎)に要求する。そして、引出量決定手段12が、その要求に応じて上記光学センサモジュールから送られてきた、上記所定時間の間の巻尺4の変位量及び変位方向と、記憶手段14に記憶されている相関関係(傾き値:K)とに基づいて、上記所定時間の間の巻尺4の実際の移動量を導出し、筐体2からの巻尺4の引出量を決定する。
また、マイコンは、光学センサモジュールの撮像手段9に対して、反射像の撮像のフレームレートを設定する機能や、光学センサモジュールのレーザ照射手段8に対して、レーザ出力強度を設定する機能などを有している。
【0023】
上述のように、本実施形態の電子式巻尺1では、巻尺4の引出量が零であるときを基準として巻尺4の引出量が累積されて表示される。そのため、巻尺4の引出量が零であるときの表示手段15における表示が確実に零になっていることが必要である。そこで、本実施形態の電子式巻尺1では、演算処理部10が、後述する基準位置検出手段13の機能を有するように構成されている。
【0024】
具体的には、本実施形態の電子式巻尺1は、巻尺4に基準位置表示Mの模様m1を付し、巻尺4の引出量が零である状態で(即ち、巻尺4の先端に装着されたストッパ7が筐体2の引出口3に当接するまで巻尺4が巻取手段Rに巻き取られた状態で)、基準位置表示Mの模様m1(本実施形態では黒色の線模様)が撮像領域Aに位置するようにしている。
基準位置検出手段13は、撮像手段9によって撮像された撮像領域Aの濃淡を数値で算出する機能を有している。具体的には、基準位置検出手段13は、撮像領域Aに黒色が多くなると小さい数値を出力し、白色が多くなると大きい数値を出力する。よって、上述したように基準位置表示Mの模様m1が撮像領域Aに存在しているとき、撮像領域Aは全て黒色になるので、基準位置検出手段13は、「0(零)」を算出する。つまり、基準位置検出手段13は、撮像手段9による撮像画像から、巻尺4に付された基準位置表示Mの模様m1を数値化して検出する。
引出量決定手段12は、基準位置検出手段13が出力する撮像領域Aの濃淡の数値を受け取り、その値が「0」であると(即ち、基準位置検出手段13が基準位置表示Mの模様m1を検出すると)、筐体2からの巻尺4の引出量を所定の基準量(本実施形態では「0(零)」)に決定する。
【0025】
尚、基準位置検出手段13の機能は上記光学センサモジュールが有している。そして、上記マイコンでは、引出量決定手段12が、上記光学センサモジュールに対して、基準位置検出手段13が検出する撮像領域Aの濃淡の数値を所定時間毎(例えば、1m秒毎)に要求する。そして、引出量決定手段12が、その要求に応じて上記光学センサモジュールから送られてきた、撮像領域Aの濃淡の数値に基づいて、筐体2からの巻尺4の引出量が「0」であるか否かを判定している。
【0026】
以上のように、本実施形態の電子式巻尺1は、巻尺4の表面に微細な模様が固有に存在することを利用して、巻尺の変位量及び変位方向を導出するので、従来のように、巻尺の表面に縞模様などを描く必要はない。また、従来のように発光ダイオードなどの発光素子及び受光素子で構成される読取部を2個備える必要もないので、従来から問題となっていた部品点数の増加や、複数の読取部について高い実装精度が要求されることなどの問題を回避できる。更に、巻尺4に対して、半導体レーザ素子(レーザ照射手段8)からのレーザ出力を照射するので、表面に光沢があり且つ凹凸が少ない巻尺であっても、LEDなどの他の光源を用いて巻尺を照射した場合に比べて、撮像手段9は、巻尺4の表面の模様を正確に得ることができる。その結果、筐体2からの巻尺4の引出量を正確に決定できる。
【0027】
<第2実施形態>
第2実施形態の電子式巻尺30は、基準状態受付手段16を備えている点で上記第1実施形態の電子式巻尺1と異なっている。以下に第2実施形態の電子式巻尺30について説明するが、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0028】
図3は、第2実施形態の電子式巻尺30の構成を示す概略図である。図示するように、本実施形態の電子式巻尺30は、操作者から、筐体2からの巻尺4の引き出し状態が基準状態であることの入力を受け付ける基準状態受付手段16を備える。そして、第1実施形態の電子式巻尺1には備えられていた基準位置検出手段13を備えていない。また、巻尺4には第1実施形態のような基準位置表示Mの模様m1は付されていない。例えば、この基準状態受付手段16は、筐体2からの巻尺4の引出量が零(基準量の一例)であることの指示を受け付けるためのスイッチ、所謂、ゼロ補正スイッチである。
【0029】
引出量決定手段12は、基準状態受付手段16が基準状態であることの入力を受け付けたときの筐体2からの巻尺4の引出量を所定の基準量に決定する。この場合、引出量決定手段12は、上記基準状態受付手段16の操作入力が行われると、その時点での筐体2からの巻尺4の引出量を零に決定し、表示手段15に表示される引出量の値を零にさせる。
【0030】
<第3実施形態>
次に図面を参照して第3実施形態の電子式巻尺50について説明する。図4は、第3実施形態の電子式巻尺50の構成を示す概略図である。第3実施形態の電子式巻尺50は、基準位置表示Mとして、上述の第1実施形態で説明した模様m1に変えて、巻尺4に孔部m2が形成されている。また、巻尺4に補正表示Cが付されているとともに、演算処理部10に基準位置検出手段18を備える点で上述の第1実施形態の電子式巻尺1とは異なっている。以下に第3実施形態の電子式巻尺50について説明するが、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0031】
本実施形態では、基準位置表示Mの孔部m2は、巻尺4の引出量が零である状態で、即ち、巻尺4の先端に装着されたストッパ7が筐体2の引出口3に当接するまで巻尺4が巻取手段Rに巻き取られた状態で、基準位置表示Mの孔部m2が撮像領域Aに位置するように形成されている。基準位置表示Mの孔部m2が撮像領域Aに存在しているとき、レーザ照射手段8からのレーザ出力は孔部m2を通過するため巻尺4の表面で反射されない。このため、レーザ照射された巻尺4の撮像領域Aの反射像の撮像も行われない。基準位置検出手段13は、撮像領域Aの反射像の撮像が行われない状態を検出する。
【0032】
また、巻尺4には補正表示Cが付され、引出量決定手段12は、補正表示検出手段18が補正表示Cを検出すると、決定した巻尺4の引出量を補正する。
補正表示Cは、例えば所定の模様であり、複数の模様が既知の間隔(ピッチ)で配置されている。この実施形態では、補正表示Cは黒線であり、巻尺4に複数の黒線が一定の間隔(ピッチ)で付されている。補正表示検出手段18は、撮像手段9によって撮像された撮像領域Aの濃淡を数値で算出する機能を有している。具体的には、補正表示検出手段18は、撮像領域Aに黒色が多くなると小さい数値を出力し、白色が多くなると大きい数値を出力する。補正表示Cが撮像領域Aに存在しているとき、撮像領域Aは全て黒色になるので、補正表示検出手段18は、「0(零)」を算出する。つまり、補正表示検出手段18は、撮像手段9による撮像画像から、巻尺4に付された補正表示Cの黒線を数値化して検出する。引出量決定手段12は、基準位置検出手段13が出力する撮像領域Aの濃淡の数値を受け取り、その値が「0」であると(即ち、補正表示検知手段18が補正表示Cを検出すると)、筐体2からの巻尺4の引出量を補正する。
【0033】
具体的には、図4に示すように、隣接する補正表示C1,C2の間の領域が撮像領域Aに位置する場合(即ち、補正表示検知手段18が補正表示Cを検出していない場合)には、引出量決定手段12は、変位情報導出手段11により導出される巻尺4の変位量及び変位方向に基づいて補正表示C1,C2の間の領域における巻尺4の移動量Δd(すなわち、補正表示C1を基準とした巻尺4の移動量)を導出する。そして、補正表示C1が撮像領域Aに位置する際の補正後の巻尺4の引出量に移動量Δdを積算することにより、巻尺4の引出量を決定する。補正表示C2が撮像領域Aに達す、即ち、補正表示検知手段18が補正表示C2を検出すると、上述の変位情報導出手段11による導出結果に基づく変位量Δdに変えて、隣接する補正表示C1,C2の間のピッチを、補正表示C1が撮像領域Aに位置する際の補正後の巻尺4の引出量に積算することにより、巻尺4の引出量を決定する。さらに巻尺4を引出し、補正表示C2と補正表示C3の間の領域が撮像領域Aに達すると、上述と同様に、変位情報導出手段11による導出結果に基づく補正表示C2を基準とした移動量Δdを算出し、引出量を決定する。補正表示C3が撮像領域Aに達すると、上述と同様に補正表示C2,C3の間のピッチを積算することにより、引出量を決定する。このように、引出量決定手段12は、補正表示Cが撮像領域Aに達する毎に引出量を補正する。
【0034】
本実施形態では、EEPROMなどの不揮発性メモリを用いて構成される記憶手段14は、第1の実施形態で説明したように、撮像画像中における巻尺4の変位量(カウント)と巻尺4の実際の移動量との相関関係K(mm/カウント)を記憶している。また、隣接する補正表示Cの間の間隔(ピッチ)を記憶している。よって、変位情報導出手段11により導出される巻尺4の変位量(カウント)とKとを乗算することで、巻尺4の隣接する補正表示Cの間の移動量Δdを導出できる。そして、引出量決定手段12は、記憶手段14に記憶されている前回の補正後の引出量と、導出した巻尺4の移動量Δdとに基づいて、新たな巻尺4の引出量を決定する。なお、記憶手段14に、補正表示検出手段18が検出した補正表示Cの数を記憶するように構成し、検出した補正表示Cの数と補正表示Cの間のピッチとを掛け合せた値に移動量Δdを積算して引出量を決定してもよい。
【0035】
<別実施形態>
<1>
別実施形態の電子式巻尺40は、図2に例示したような撮像画像中における巻尺4の変位量(カウント)と、巻尺4の実際の移動量との相関関係を校正可能に構成されている点で上記実施形態と異なっている。以下に、第1実施形態の電子式巻尺4を改変して得られる別実施形態の電子式巻尺40について説明するが、第2実施形態の電子式巻尺4を改変することもできる。
【0036】
図5は、別実施形態の電子式巻尺40の構成を示す概略図である。図示するように、本実施形態の電子式巻尺40は、演算処理部10を外部装置と通信可能にする通信手段17を備える。この通信手段17は、外部装置と無線通信を行うためのアンテナ、又は、外部装置と有線通信を行うための通信用端子などを用いて構成される。
【0037】
図6は、電子式巻尺40と、上記外部装置としてのコンピュータなどの情報処理装置20とを、上記通信手段17を介して有線接続した状態を示す図である。また、図7は、情報処理装置20の表示画面例である。まず、図2に例示したような巻尺4の変位量(カウント)と巻尺4の実際の移動量との相関関係を校正するために、図6に示すように電子式巻尺40と情報処理装置20とを通信可能に接続する。次に、情報処理装置20の操作者は、情報処理装置20にインストールされている校正ソフトウェアを起動する。図7は、その校正ソフトウェアを起動したときの情報処理装置20の表示画面例である。操作者が電子式巻尺40の筐体2から巻尺4を引き出すと、電子式巻尺40の変位情報導出手段11で導出された巻尺4の変位量(カウント)が通信手段17を介して情報処理装置20に送られ、表示画面に表示される。また、操作者が巻尺4の引出量を入力する入力ボックス21も表示されている。図7に示す例では、ある電子式巻尺40を用いて、操作者が筐体2から巻尺4を30cm引き出したときのカウント値(4735カウント)が表示されている。この状態で操作者が入力ボックス21に「30」cmと入力し、OKボタン22を選択入力すると、このカウント値(4735カウント)と実際の引出量(30cm)とについての情報が情報処理装置20から電子式巻尺40に送られる。そして、電子式巻尺40の演算処理部10において、情報処理装置20から受け取った実際の引出量をカウント値で除算した値(0.0634mm/カウント)が導出される。或いは、情報処理装置20において実際の引出量をカウント値で除算した値が情報処理装置20から電子式巻尺40に送られるように構成してもよい。
【0038】
実際の引出量をカウント値で除算した値は、図2に例示した傾き値:Kに相当する。よって、電子式巻尺40の演算処理部10は、この校正作業によって得られた値:Kを記憶手段14に記憶して、巻尺4の実際の移動量を導出するために利用できる。
【0039】
尚、傾き値:Kを校正する手法は上述したものに限定されない。例えば、操作者が巻尺4を10cm引き出したときのカウント値:C10と、30cm引き出したときのカウント値:C30とを取得し、K(mm/カウント)=(300mm−100mm)/(C30−C10)の演算から傾き値:Kを導出することなども可能である。
【0040】
また、上述の図4に示す第3実施形態の電子式巻尺においても、巻尺4の変位量(カウント)と、巻尺4の実際の移動量との相関関係を校正可能に構成することができる。 この場合も、上述の電子式巻尺(図5を参照)と同様に、演算処理部10を外部装置と通信可能にする通信手段17を備える。この実施形態においても傾き値:Kを校正する手法は上述の実施形態と同様である。なお、この実施形態においては、巻尺4に基準位置表示Mとして孔部m2が形成されている。撮像領域Aが孔部m2に位置する場合、レーザ照射手段8による反射像が存在せず、変位情報導出手段11は巻尺4の変位を導出することができない。このため、校正に際しては孔部m2の径aを求める必要がある。巻尺4を既知の引出量(例えば20mm)まで引出し、既知の引出量(例えば20mm)と変位情報導出手段11の検出結果(例えば17mm)との差を孔部m2の径aとする。この例の場合には、孔部m2の径aは3mmとなる。求められた孔部m2の径aは記憶手段14に記憶される。
【0041】
<2>
上記第1実施形態では、基準位置検出手段13が、撮像手段9によって撮像された撮像領域Aの濃淡を数値で算出することで基準位置表示Mの模様m1を検出する例を説明したが、他の形態で基準位置表示Mの模様m1を検出するように改変してもよい。例えば、記憶手段14に、巻尺4の引出量が零である状態で撮像手段9によって撮像された、基準位置表示Mの模様m1を含む撮像領域Aの像(基準画像)を記憶しておき、基準位置検出手段13が、撮像手段9による撮像画像の模様が、上記記憶手段14に記憶された基準画像の模様と同じであるとき、巻尺4に付された基準位置表示Mの模様m1を検出したと判定するように構成してもよい。
【0042】
<3>
上記第2実施形態では、補正表示検出手段18が、撮像手段9によって撮像された撮像領域Aの濃淡を数値で算出することで補正表示Cを検出する例を説明したが、他の形態で補正表示Cを検出するように改変してもよい。例えば、記憶手段14に補正表示Cの模様を記憶しておき、補正表示検出手段18が、撮像手段9による撮像画像の模様が、上記記憶手段14に記憶された補正表示Cの模様と同じであるとき、巻尺4に付された補正表示Cを検出したと判定するように構成してもよい。
【0043】
<4>
上記実施形態では、数値を例示して本発明に係る電子式巻尺の特徴構成について説明したが、それらの数値例によって本発明は限定されず、様々な変更が可能である。また、レーザ照射手段、撮像手段、基準位置検出手段、演算処理部などが、光学センサモジュールとマイコンという2つのモジュールで構成される例について説明したが、レーザ照射手段、撮像手段、基準位置検出手段、演算処理部などを一つのモジュールで構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る電子式巻尺は、巻尺の引出量を電子的な手法により読みとって、操作者が読みやすいように表示するための巻尺に利用可能である。表示手段として自発光式の表示装置を用いれば、暗い場所であっても巻尺の引出量を正確に知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1実施形態の電子式巻尺の構成を示す概略図
【図2】巻尺の変位量(カウント)と実際の移動量との相関関係を示すグラフ
【図3】第2実施形態の電子式巻尺の構成を示す概略図
【図4】第3実施形態の電子式巻尺の構成を示す概略図
【図5】別実施形態の電子式巻尺の構成を示す概略図
【図6】電子式巻尺とコンピュータ等の情報処理装置とを有線接続した状態を示す図
【図7】情報処理装置の表示画面例
【図8】従来の電子式巻尺の動作原理を説明するための模式図
【符号の説明】
【0046】
1 電子式巻尺
2 筐体
4 巻尺
5 ゼンマイ軸(巻取手段 R)
6 ゼンマイ式バネ(巻取手段 R)
8 レーザ照射手段
9 撮像手段
11 変位情報導出手段
12 引出量決定手段
14 記憶手段
15 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体外部に引き出し可能な巻尺と、
前記筐体内部で前記巻尺を巻き取る巻取手段と、
前記巻尺に半導体レーザ素子からのレーザ出力を照射するレーザ照射手段と、
前記巻尺のレーザ照射された部分を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段によって設定時間毎に撮像される複数の撮像画像の模様を互いに比較して、前記撮像画像中における前記巻尺の変位量及び変位方向を導出する変位情報導出手段と、
前記撮像画像中における前記巻尺の変位量と、前記巻尺の実際の移動量との相関関係を記憶する記憶手段と、
前記変位情報導出手段により導出される前記巻尺の前記変位量及び前記変位方向と前記記憶手段に記憶されている前記相関関係とに基づいて前記巻尺の実際の移動量を導出し、前記筐体からの前記巻尺の引出量を決定する引出量決定手段と、
前記筐体からの前記巻尺の引出量を前記筐体の外部に向けて表示する表示手段と、を備える電子式巻尺。
【請求項2】
前記撮像手段による撮像画像から、前記巻尺に付された基準位置表示を検出する基準位置検出手段を備え、
前記引出量決定手段は、前記基準位置検出手段が基準位置表示を検出すると、前記筐体からの前記巻尺の引出量を所定の基準量に決定する請求項1記載の電子式巻尺。
【請求項3】
前記基準位置表示が前記基準位置を示す所定の模様である請求項2記載の電子式巻尺。
【請求項4】
前記基準位置表示が前記基準位置を示す孔部である請求項2記載の電子式巻尺。
【請求項5】
前記筐体からの前記巻尺の引き出し状態が基準状態であることの入力を受け付ける基準状態受付手段を備え、
前記引出量決定手段は、前記基準状態受付手段が前記基準状態であることの入力を受け付けたときの前記筐体からの前記巻尺の引出量を所定の基準量に決定する請求項1記載の電子式巻尺。
【請求項6】
前記引出量決定手段により決定される前記巻尺の引き出し量を補正するべく前記巻尺に付された補正表示と、前記補正表示を検出する補正表示検出手段とを備え、
前記引出量決定手段は、前記補正表示検出手段が補正表示を検出すると、決定した前記巻尺の引出量を補正する請求項1〜5の何れか一項に記載の電子式巻尺。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−58497(P2009−58497A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138304(P2008−138304)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000194918)ホシデン株式会社 (527)
【Fターム(参考)】