説明

電子放出装置

電子放出装置(10)を提供する。本装置は、少なくとも1つのカソード電極(12A)と少なくとも1つのアノード電極(12B)とを含む電極構成(12)を有し、カソード電極およびアノード電極は離間配置される。本装置は、少なくとも1つのカソード電極を励起照射に曝すことによりカソード電極からの電子放出を引き起こすよう構成され、光電子放出スイッチング装置として動作可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオードまたはトライオード構造等の電子放出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオードおよびトライオードの装置はエレクトロニクスにおいて広く使用されている。これら装置の中のある分類においては、真空マイクロエレクトロニクスの原理が利用される。すなわち、その動作は、真空における電子の軌道運動(ballistic movement)に基づく(非特許文献1、非特許文献2)。真空マイクロエレクトロニクスの原理によると、非常に高い電界(1V/nm以上)が局部的に印加されると、電界放射により電子がカソード電極から放出され障壁電位を通り抜ける(非特許文献3)。
【0003】
特許文献1は、電界放射冷陰極を有する真空マイクロ装置を開示している。この装置は第1電極と第2電極とを備え、第1電極は、鋭端部を有する突出部を有する。絶縁膜は、突出部の鋭端部を除く第1電極の領域に形成され、第2電極は、突出部の鋭端部を除く絶縁膜上の領域に形成される。構造基板は、第1電極の下面に接合され、第1電極の下面との接合面に凹部を有する。当該凹部は、第1電極の下面に形成された突出部の鋭端部を反映する凹部を覆うのに十分な大きさを有する。構造基板に形成された凹部の内部は、装置外部の大気と連通している。支持構造は、第2電極の表面に形成され、第1電極に形成された各突出部を包囲する。この構造により、空洞による特性変動を抑制できるとともに長時間にわたり優れた信頼性を実現できる真空マイクロ装置を提供することができる。
【0004】
別分類のトライオード(トランジスタ)は、「固体マイクロエレクトロニクス」の原理に基づいた半導体装置であり、電荷キャリアが固体内に閉じ込められ、格子との相互作用による損傷を受ける(非特許文献4)。この種の装置においては、電流は半導体内で伝導されるので、電子の移動速度は結晶格子またはその内部の不純物に作用される。半導体に基づくアクティブ電子装置の根本的な欠点は、電子の搬送が半導体結晶格子により妨害されることであり、これにより装置の小型化とスイッチング速度とが制限される。
【0005】
真空マイクロ電子装置は、固体マイクロ電子装置を上回る潜在的な利点を有する。真空マイクロ電子装置は、金属および誘電体のみに基づくものであるため、危険な環境条件(温度、照射など)に対し高い耐性を有する。これらの装置においては、電子速度が格子との相互作用により制限を受けないため、非常に高い動作周波数を得ることができる(非特許文献5)。一般に、真空マイクロ電子装置は、低出力コンダクタンス、高電圧および高電力処理能力等の優れた出力回路(電力供給ループ)特性を有する。しかしながら、これらの入力回路(制御ループ)特性は比較的劣悪であり、低い電流能力、低トランスコンダクタンス、高変調/ターンオン電圧、および劣悪な雑音特性を有する。この結果、当該分野における膨大な研究努力にもかかわらず、これらの装置は、特にRF信号増幅器およびRF信号源としての、極めて少数の応用を見出したのみである(非特許文献6)。
【0006】
現在のエレクトロニクスのほとんどは、Siまたは化合物半導体ベースの構造からなる装置に基づいている。これらの装置の固有抵抗のため、当該装置中の電子の伝送により熱が生じる。この熱は、与えられた面積当たりの集積回路内のトランジスタの数を最大化する際に主要な障害となる。
【0007】
マイクロチップ(microtip)型真空トランジスタを利用する半導体装置が開発されている。ここでは、電子は真空を移動し、従って高速に移動する。それ故、真空トランジスタは超高速動作が可能である。しかしながら、これらの装置は不安定であり、寿命が比較的短く、かつその動作には比較的高電圧を要とするという不利な点がある。
【0008】
特許文献2は、真空電界トランジスタ(VFT:Vacuum Field Transistor)を表しMOSFETに似た平面型または縦型のトランジスタ構造を開示している。ここでは、電子が真空自由空間を移動することにより、この構造を使用する装置の高速動作を実現している。この平面型構造は、導体からなるソースおよびドレインであって、これらの間の真空チャネルを有する薄いチャネル絶縁体上に所定の距離離れて位置するソースおよびドレインと、上記ソースおよびドレインの下に、所定の幅を持って形成された、導体からなるゲートであって、チャネル絶縁体がソースとドレインとからゲートを絶縁させるように機能するゲートと、チャネル絶縁体とゲートとを下支えするための基部として機能する絶縁体とから形成される。真空電界トランジスタは、ソースと真空チャネルとの間、およびドレインと真空チャネルとの間の接触領域において低仕事関数の材料を有する。縦型構造は、チャネル絶縁体上に形成され、空洞を中心とした導電性の連続した円周状のソースと、チャネル絶縁体下に形成され、ソースを横切って延伸する導電性のゲートと、ゲートとチャネル絶縁体とを支持する基部としての機能を果たす絶縁体と、ソースを見下ろすように立ち、閉真空チャネルを形成する絶縁壁と、真空チャネル上に形成されたドレインとを有する。上記両タイプでは、適切なバイアス電圧をゲート、ソース、ドレイン間に印加することにより、電子をソースから真空チャネルを介してドレインまで電界放射することができる。
【特許文献1】米国特許第5,834,790号明細書
【特許文献2】米国特許第6,437,360号明細書
【非特許文献1】Brodie, Keynote address to the first international vacuum microelectronics conference, June 1988, IEEE Trans. Electron Devices, 36, 11 pt. 2 2637, 2641 (1989)
【非特許文献2】I. Brodie, C.A. Spindt, in "Advances in Electronics and Electron Physics", vol. 83 (1992), p. 1-106
【非特許文献3】R.H. Fowler, L.W. Nordheim, Proc. Royal Soc. London A119 (1928), p. 173
【非特許文献4】S.M. Sze, Physics of semiconductor devices, Interscience, 2nd edition, New York
【非特許文献5】T. Utsumi, IEEE Trans. Electron Devices, 38,10,2276 (1991)
【非特許文献6】S. Iannazzo, Solid State Electronics, 36,3,301 (1993)
【非特許文献7】Phys Rev. B, Vol.50, pp. 13054, 1994
【発明の開示】
【0009】
新規な電子放出装置を提供することにより、一般的な電子装置の性能、特にトランジスタの性能を著しく改善するとともに、これらの装置の製造および操作を容易にする必要が当該技術分野にはある。
【0010】
本発明による電子放出装置は新技術に基づく。この新技術により、装置内の真空環境の要件を無くすまたは少なくとも同要件を著しく軽減することが可能となり、上述の従来の同種装置と比較して、カソード電極およびアノード電極の間の距離がより大きくなり効果的な装置動作が可能となり、より安定的かつ高い電流動作が可能となり、また、実質的に大きなエネルギー散逸の影響を受けず、しかも放射に対して頑強となる。これは光電効果を利用することで実現される。これによれば、光子は、光子エネルギーが個体導電材料の仕事関数を越えることを条件としてこの導電材料から電子を放出させるために用いられる。
【0011】
本発明の装置は電子放出スイッチング装置として構成される。「スイッチング」なる語は、当該装置を流れる電流(カソードおよびアノードの間における電流)の変化に対する作用を意味し、動作モードおよび非動作モードの間の切り替え、電流を変化させること、ならびに電流を増幅させること等の作用を含む。このようなスイッチングは、装置電極間に一定の電位差を保持しながらカソードの照射を変化させることにより、またはカソードの照射を保持しながら装置電極間の電位差を変化させることにより、またはこれら手法の組合せにより実現することができる。
【0012】
本発明の広範な一態様によると、少なくとも1つのカソード電極と少なくとも1つのアノード電極とを含む電極構成を有する電子放出装置が提供される。カソード電極とアノード電極とは離間配置され、当該装置は、少なくとも1つのカソード電極を励起照射に曝すことによりカソード電極から電子放出を引き起こすよう構成され、光電子放出スイッチング装置として動作可能である。
【0013】
第1電極と第2電極との間のギャップは、ガス媒体ギャップ(例えば空気)または真空ギャップである。上記ギャップにおけるガス圧力は、カソードからアノードへ加速する電子の平均自由行程が、カソード電極とアノード電極との間の距離より大きい(ギャップ長より長い)ということを保証するために十分低い。
【0014】
上記電極は、金属材料または半導体材料よりなる。カソード電極は、比較的低い仕事関数または負電子親和力を有する(ダイヤモンドおよびセシウムで被覆されたガリウム砒素表面のように)ことが好ましい。これは、適切な材料で電極を作成することにより、または/およびカソード電極上に有機または無機の被覆を設ける(仕事関数を低減するダイポール層を表面上に作成する)ことにより、実現される。
【0015】
カソード電極は、例えば、断面寸法が実質60nmを越えない(例えば半径30nmの)鋭端部を有する部分を有することができる。
【0016】
当該装置は、スイッチング機能を実現させるよう動作する制御ユニットと関連付けられる。制御ユニットは、カソード電極の照射を保持し、カソード電極とアノード電極との間の電位差を変化させてスイッチングに作用し、これにより電極間の電流に作用するよう動作することができる。あるいは、制御ユニットは、照射アセンブリを適切に動作させることによりスイッチング機能に作用し、これにより照射の変化を引き起こし電流に作用することができる。
【0017】
電極構成は、1つ以上のアノード電極に関連付けられた(少なくとも2つの)カソード電極のアレイ、または同じカソード電極に関連付けられた(少なくとも2つの)アノード電極のアレイを含んでよい。例えば複数のアノードと単一のカソードとの構成を考えると、制御ユニットは、カソード電極の照射を保持するとともに、カソード電極と各アノード電極との間の電位差を変化させることによりその間の電流を制御するように動作可能である。一般的には、本発明の装置では、カソード電極とアノード電極との様々な組合せを使用することができ、例えば、その電極構成は画素化構造の形態でよい。カソード電極およびアノード電極は、共有の面に収容してもよいし、異なる面にそれぞれ収容してもよい。
【0018】
上記電極構成は、カソード電極とアノード電極とから電気的に絶縁された少なくとも1つの追加の電極(ゲート)を含んでよい。ゲート電極は板状でもよいし板状でなくとも(例えば円筒形状)よい。ゲート電極は、カソード電極とアノード電極との間に配置されたグリッドとして構成することができる。ゲート電極は、カソード電極とアノード電極との設置面から離間されかつ当該設置面に平行な面に収容してもよい。あるいはカソード電極、アノード電極およびゲート電極をすべて異なる面に設けてもよい。
【0019】
ゲート電極を使用してカソード電極とアノード電極との間の電流を制御することができる。例えば、制御ユニットは、カソードの一定の照射を保持するとともに、ゲートへの印加電圧を変化させることによりカソードとアノードとの間の電流に作用するように動作する(カソードとアノードとの間の電位差は一定に保持したままで)。
【0020】
電極構成は、離間配置されるとともにカソード電極とアノード電極とから電気的に絶縁されたゲート電極のアレイを含んでもよい。当該装置は例えば、様々な論理回路を実装するか、あるいは様々な電気回路を連続的にスイッチするよう動作可能である。
【0021】
通常、本電極構成は、例えば容量を低下させるよう構成されたテトロード(tetrode)、ペントード(pentode)等、適宜任意の構成とすることができる。
【0022】
この電極構成は、カソード電極およびゲート電極の対と関連付けられたアノード電極のアレイを含んでもよい。例えば、制御ユニットは、カソード電極の一定の照射を保持するとともに、ゲート電極への印加電圧を変化させることによりカソード電極とアノード電極との間の電流を制御するように動作する。
【0023】
照射アセンブリは1つ以上の光源を含んでもよいし、および/または周囲光を利用してもよい。いくつかの非制限的な例では、照射アセンブリは、低圧放電ランプ(例えばHgランプ)、および/または高圧放電ランプ(例えばXeランプ)、および/または連続波レーザ装置、および/またはパルスレーザ装置(例えば高周波)、および/または少なくとも1つの非線形水晶、および/または少なくとも1つの発光ダイオードを含んでもよい。
【0024】
カソード電極およびアノード電極は、それぞれの磁気モーメント方向が逆である点で異なる強磁性体から構成することができ、これによりスピンバルブを実現することができる(非特許文献7)。したがって、本装置は、カソード電極およびアノード電極のいずれかをスピンアップ状態とスピンダウン状態との間で移行させることにより、非動作位置と動作位置との間を移行することができる。この目的のために、本装置は、電極構成に対し外部磁界を印加するよう動作可能な磁界発生源を含む。外部磁界の印加により、電極の1つをスピンアップ状態とスピンダウン状態との間で移行させる。
【0025】
カソード電極は、非強磁性の金属または半導体から構成することができ、アノード電極は強磁性体から構成することができる。この場合、照射アセンブリは、円偏光光を生成し、カソードからスピン偏極電子の放出を引き起こすよう構成され、動作することができる。本装置は、カソードを照射する光の偏光を変化させることにより、またはアノード電極をスピンアップ高透過状態とスピンダウン高透過状態との間で移行させることにより動作位置と非動作位置との間を移行することができる。照射光の偏光の変化は、特定の偏光の光を発光する1つ以上の光源と、発光光の光路において偏光回転子(例えばλ/4板)とを使用することにより、またはそれぞれ異なる偏光の光を発光する光源を使用して選択的にこれらの光源のいずれかを動作させることにより、実現することができる。
【0026】
カソード電極は、カソード電極を励起するのに使用される波長範囲に対して透明な基板上に設置することができる。この場合、照射アセンブリは、この透明基板を通してカソード電極を照射するように方向付けることができる。代替的または追加的に、アノード電極(そして、可能性としてカソード電極も)を搭載する基板は透明であって、カソードの面から離間した面に設置することができ、これによりアノード外部のアノード搭載基板の領域を通して(または場合に応じて、アノード搭載基板とアノードとを通して)カソードの照射を行うことができる。
【0027】
全般的にはナノテクノロジーの最近の発展により、特に光リソグラフィの最近の発展により、本発明の装置は、低コストのサブミクロン構造として製造することができる。電極構成は、カソード電極とアノード電極とを搭載する第1基板層と第2基板層と、第1基板層と第2基板層との間のスペーサ層構造とを含む集積化構造である。スペーサ層構造は、カソード電極およびアノード電極の間のギャップを画定するようにパターン化される。スペーサ層構造は少なくとも1つの誘電材料層を含んでよい。例えば、スペーサ層構造は、第1誘電体層と第2誘電体層とそれらの間の導電層(ゲート)とを含む。第1基板および第2基板のいずれか、または両方は、励起波長範囲に対して透明な材料から構成され、これによりカソードの照射を可能にする。
【0028】
電極構成は、サブユニットのアレイを画定するよう構成された集積化構造であってもよい。各サブユニットは、上述のように構成される。すなわちこの集積化構造は、離間されたカソード電極のアレイを搭載する第1基板層と、離間されたアノード電極のアレイを搭載する第2基板層と、第1基板層と第2基板層との間のスペーサ層構造とを含む。スペーサ層構造は、第1の電極アレイと第2の電極アレイとの間の離間されたギャップのアレイを画定するようにパターン化される。
【0029】
本発明の別の態様によると、離間配置された少なくとも1つのカソード電極と少なくとも1つのアノード電極とを含む電極構成を有する電子放出装置が提供される。当該装置は、少なくとも1つのカソード電極を励起照射に曝すことにより当該カソード電極から電子放出を引き起こすよう構成されるとともに、カソード電極とアノード電極との間の電流に作用することにより光電子放出スイッチング装置として動作可能である。上記スイッチングは、カソード電極の照射を変化させるかまたはカソード電極とアノード電極との間の電界を変化させることで実現される。
【0030】
上記電界は、カソード電極とアノード電極との間の電位差を変化させることにより、または、少なくとも1つのゲート電極を使用する場合はゲート電極への印加電圧を変化させることにより変化させることができる。
【0031】
本発明のさらに別の態様によると、離間配置された、少なくとも1つのカソード電極と、少なくとも1つのアノード電極と、少なくとも1つの追加の電極とを含む電極構成を有する電子放出装置が提供される。本装置は、少なくとも1つのカソード電極を励起照射に曝すことにより少なくとも照射された1つのカソード電極から少なくとも1つのアノード電極へ電子放出を引き起こすよう構成される。本装置は、カソード電極とアノード電極との間の電流に作用することにより光電子放出スイッチング装置として動作可能である。上記スイッチングは、カソード電極の照射を変化させるかまたはカソード電極とアノード電極との間の電界を変化させることで実現される。
【0032】
本発明のさらに別の態様によると、少なくとも1つのカソード電極と、少なくとも1つのアノード電極とを含む電極構成であって、カソード電極およびアノード電極がそれらの間のガス媒体ギャップにより間隔をおいて配置された電極構成を有する電子放出装置が提供される。本装置は、少なくとも1つのカソード電極を励起照射に曝すことにより少なくとも照射された1つのカソード電極から電子放出を引き起こすよう構成されるとともに、光電子放出スイッチング装置として動作可能である。
【0033】
本発明のさらに別の態様によると、離間配置された、少なくとも1つのカソード電極と、少なくとも1つのアノード電極と、少なくとも1つの追加の電極とを含む電極構成を有する電子放出装置が提供される。本装置は、少なくとも1つのカソード電極を励起照射に曝すことにより少なくとも照射された1つのカソード電極から少なくとも1つのアノード電極へ電子放出を引き起こすよう構成され、光電子放出スイッチング装置として動作可能である。
【0034】
本発明のさらに別の態様によれば、電子放出ユニットとして動作可能な少なくとも1つの構造を含む集積化装置が提供される。上記少なくとも1つの構造は、第1基板層と第2基板層とによりそれぞれ搭載される少なくとも1つのカソード電極と少なくとも1つのアノード電極とを含み、第1基板層と第2基板層とは少なくとも1つの誘電体層を含むスペーサ層構造により相互に離間され、上記スペーサ層構造は、カソード電極とアノード電極との間のギャップを画定するようにパターン化され、第1基板および第2基板の少なくともいずれかが、ある励起放射に対し透明な材料よりなる。これにより少なくとも1つのカソード電極の照射を可能にし、これより電子放出を引き起こす。本装置は、光電子放出スイッチング装置として動作可能である。
【0035】
本発明のさらに別の態様によれば、電子放出ユニットとして動作可能な少なくとも1つの構造を含む集積化装置が提供される。上記少なくとも1つの構造は、第1基板層と第2基板層とによりそれぞれ搭載される少なくとも1つのカソード電極と少なくとも1つのアノード電極とを含み、第1基板層と第2基板層とは第1誘電体層と第2誘電体層とこれらの誘電体層間の導電層とを含むスペーサ層構造により相互に離間される。上記スペーサ層構造は、カソード電極とアノード電極との間のギャップを画定するようにパターン化され、第1基板および第2基板の少なくともいずれかは、ある励起放射に対し透明な材料で構成されることによりカソード電極の照射を可能にし、そこから電子放出を引き起こす。本装置は光電子放出スイッチング装置として動作可能である。
【0036】
本発明のさらに別の態様によれば、電子放出ユニットとして動作可能な構造のアレイを有する集積化装置が提供される。本装置は、離間されたカソード電極のアレイを搭載する第1基板層と、離間されたアノード電極のアレイを搭載する第2基板層と、上記第1基板と第2基板との間のスペーサ層構造とを含む。上記スペーサ層構造は、少なくとも1つの誘電体層を含むとともに、それぞれのカソード電極とアノード電極との間に存在するギャップのアレイを画定するようにパターン化される。上記第1基板および第2基板の少なくともいずれかが、ある励起放射に対し透明な材料で構成されることによりカソード電極の照射を可能にし、そこから電子放出を引き起こす。本装置は光電子放出スイッチング装置として動作可能である。
【0037】
本発明のさらに別の態様によれば、電子放出装置を光電子放出スイッチング装置として動作させる方法が提供される。本方法は、ある励起放射によりカソード電極を照射してカソード電極からアノード電極へ電子放出を引き起こす工程と、カソードの照射を制御可能に変化させることおよびカソード電極とアノード電極との間の電界を制御可能に変化させることの少なくともいずれかを行うことでスイッチングに作用する工程とを有する。
【0038】
上に示したように、カソード電極およびアノード電極は、ガス媒体ギャップ(例えば空気、不活性ガス)により相互に離間されてよい。この装置は、光電効果を利用しても利用しなくてもよい。したがって、本装置は「ガスナノテクノロジー」と称する新技術に基づく。この技術は、真空マイクロエレクトロニクスの欠点がなく、既存の半導体に基づいたエレクトロニクスとは反対に、大きなエネルギー散逸を蒙ることがなく、しかも放射に対して頑強である。本発明のこのようなガスナノ装置により、空気または別のガス環境における電子の通路が提供される。本装置は、スイッチング装置または表示装置として構成され、動作可能である。
【0039】
したがって、本発明のさらに別の態様によれば、離間配列された、少なくとも1つのカソード電極と少なくとも1つのアノード電極とを有する少なくとも1つのユニットを含む電極構成を有する電子放出装置であって、アノード電極およびカソード電極が、ガス媒体中の電子の平均自由行程を実質的に超過しないガス媒体ギャップにより相互に離間された電子放出装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明を理解し本発明が実際どのようにして実行できるかを見るために、ここでは、非制限的な例としてのみであるが添付図面を参照し好ましい実施の形態を説明する。
【0041】
図1を参照すると、本発明の一実施の形態に従って構成された電子装置10が概略的に例示されている。本装置は電子光電子放出スイッチング装置として構成され動作可能である。本例では、当該装置はダイオード構造の構成を有する。装置10は、第1のカソード電極12Aと第2のアノード電極12Bとにより形成された電極構成12を有する。第1のカソード電極12Aおよび第2のアノード電極12Bは、それらの間のギャップ15により、基板14上に離間配置される。本装置は、カソード12Aを励起放射に曝し、そこからアノードへの電子放出を引き起こすよう構成される。本例に示すように、本装置は、少なくともカソード電極12Aを照射することによりカソードからアノードへの電子放出を引き起こすように方向付けられ動作可能である照射器アセンブリ20を含む。
【0042】
上記スイッチング(すなわち、カソードとアノードとの間の電流に対する作用)は、カソード電極の照射と、アノード電極およびカソード電極の間への適切な電界の印加とにより制御される。例えば、カソードおよびアノードは、一定の電位差に保持されてもよく、スイッチングは、照射強度を変化させることで実現される。スイッチングを実現するための別の例は、一定の照射強度を保持しながら、電極間の電位差を変化させることによる。さらに別の例では、上記照射および電極間の電位差の両方を変化させる。照射を変化させることは、例えば発光アセンブリの動作モードを変化させること、発光光の偏光または位相を変化させること、など様々な方法で達成できることに注意されたい。装置10は、特に、カソード電極およびアノード電極に電圧を印加するための電源ユニット22Aと、照射器20を動作させる適切な照射制御ユーティリティ22Bとを含む制御ユニット22と関連付けられている。
【0043】
カソード電極12Aおよびアノード電極12Bは、金属または半導体の材料より作成してよい。カソード電極12Aは、仕事関数が低減された電極であることが好ましい。負電子親和力(NEA)材料(例えばダイヤモンド)を使用してもよく、これにより、光電子放出を誘起するのに必要な光子エネルギー(励起エネルギー)を低減させることができる。仕事関数を低減させる別の方法は、仕事関数を低減させる有機または無機の材料(図面で点線により示された被覆16)によりカソード電極12Aを被覆またはドープすることである。例えば、これは、セシウムで被覆またはドープされた、金属、マルチアルカリ、バイアルカリ、任意のNEA材料、もしくはガリウム砒素の電極を用いることができ、これにより約1〜2eVの仕事関数を得ることができる。有機または無機の被覆は、カソード電極の汚染を防止する役割を果たす。
【0044】
照射器アセンブリ20は、装置に使用されるカソード電極用の励起照射の波長範囲を含む波長範囲で動作可能な1つ以上の光源を含むことができる。限定するものではないが、これは、低圧放電ランプ(例えばHgランプ)、他のランプ(例えば、高圧放電Xeランプ)、連続波(CW)またはパルスレーザ装置(例えば高周波パルス)、1つ以上の非線形水晶、1つ以上の発光ダイオード(LED)、他の光源、もしくは複数光源の組合せを用いてよい。
【0045】
照射器アセンブリ20により生成された光は、電極に対して直接または透明な基板14(同図では点線で示される)を介して印加することができる。
【0046】
カソード電極12Aおよびアノード電極12Bは、真空またはガス媒体(例えば空気、不活性ガス)のギャップ15により相互に離間されてよい。同図では点線で示されるように、装置10全体、またはその電極構成だけを封入し、ガスで充填してもよい。そのガス圧力は、カソードからアノードに加速する電子の平均自由行程がカソード電極とアノード電極との間の距離(ギャップ15の長さ)より大きいということを保証するために十分低いので、当該電極間を真空にする必要を無くすか、または少なくともその真空要件を著しく軽減することに注意されたい。例えば、カソード層とアノード層との間が10ミクロンのギャップに対しては、数mBarのガス圧力を使用してよい。換言すれば、電極12A、12B間のギャップ15の長さは、実質的にガス環境における電子の平均自由行程を超過しない。
【0047】
しかしながら、本発明の原理(カソード照射)は、従来の真空ベースの電界放出装置において有利に用いることができ、従ってカソード電極材料の低仕事関数、および/または形状に対する要件を著しく軽減し、および/または高電界の必要性を軽減することに注意されたい。
【0048】
図1に点線で示すように、カソード電極12Aは、例えば断面寸法が実質60nmを越えない(例えば約30nm未満の半径の)非常に鋭い端部17を有するように設計することができる。通常、このようなカソードの設計は、平らな端部のカソードと比較してより低い電位での装置動作を可能とするのに利用される。しかしながら、カソードの照射を利用することにより、鋭端部を有するカソードを作る必要が実質無くなることにも注意されたい。本発明の装置(カソードの照射が利用される)を特定種の従来の装置と比較すると、本発明の装置は、より優れた電流安定性、電極の表面効果の変化に対する低感応性、カソードとアノードとの間のより大きな距離での効果的な装置動作の実現の可能性、低電界印加、およびカソードの鋭端部の不要性等により特徴付けられる。カソードの照射を使用することにより、より低い電圧での動作が可能となる。すなわち、アノードに到達する電子のエネルギーはより低く、これによりスパッタリングや蒸着等、アノード電極に好ましくない効果が防止される。
【0049】
図2は、トライオード構造として構成された本発明の電子光電子放出スイッチング装置100を概略的に示す。理解を容易にするため、本発明のすべての例で共通な構成要素を識別するために同一の参照符号が用いられる。装置100は、ギャップ15(真空ギャップまたはガス媒体ギャップ)により相互に離間されたカソード電極12Aおよびアノード電極12Bにより形成された電極構成12、ならびにカソード電極およびアノード電極から電気的に絶縁されたゲート電極12Cを含む。本例では、ゲート電極12Cは、アノード12B上に設置され、絶縁体18によって離間されている。電子抽出装置(照射器)20は、少なくともカソード電極を、直接に(同図に示すように)、または光学的に透明な基板14を介して照射するように適合されつつ設けられる。
【0050】
図2の構成では、電極12Bおよび12Cは、それぞれアノードおよびスイッチング制御素子としての機能を果たす。より具体的には、カソードおよびアノードの間の電流の変化は、カソードの一定の照射と、カソードおよびアノードの間の一定の電位差を保持しながらゲートへ選択的に電圧を印加することとにより作用される。
【0051】
しかしながら、スイッチングは別の構成を利用することによっても実現できることに注意されたい。例えば、電極12B、12Cを入れ替えることにより、電極12B、12Cを並べて配置することにより、「ゲート」電極12Cを除去するとともに電極12B、12C間の電圧印加によりその間の電流を制御することにより(図1の構成に示す)、および/または照射強度を変化させることにより、実現できる。
【0052】
説明を要するまでもないが、図3A〜図3Cは、装置100に用いて好適な電極構成設計の複数の可能な例、但し非限定的な例を示す。
【0053】
図4は、全体的に参照符号200で示された、本発明の電子光電子放出スイッチング装置の別の構成を示す。ここで電極構成12は、カソード電極12Aと、(通常少なくとも2つの)離間されたアノード電極12Bのアレイとを含む。本例では、円弧状または円形のアレイに配置されたこのような4つのアノード電極が示される。アノード電極12Bは上述のように、その間に真空またはガス媒体のギャップが用いられるかどうかに依存してカソード電極12Aから適切に離間される。照射器20は、カソード層を照射するように適合され、これは本例ではカソード電極をその上に搭載する光学的に透明な基板14を介して実現される。カソード電極およびアノード電極のそれぞれは、電源によって別々にアドレスされる。装置の動作中、制御ユニット22は、カソード電極の一定の照射を保持する(または、制御可能に変化させる)ことによりカソード電極からの電子抽出を可能にするとともに、一定の電位差をカソード電極と各アノード電極との間へ選択的に印加させるように照射器を動作させる。これにより、データストリーム系列の作成/多重化が可能である。
【0054】
さらに本発明の電子光電子放出スイッチング装置300の別の構成を概略的に示す図5を参照されたい。装置300は、電極構成12と照射器20とを含む。電極構成12は、カソード電極12Aと、単一のアノード電極および複数のゲート電極または単一のゲート電極および複数のアノード電極のいずれかと、を含む。本例では、ゲート電極12CとN個のアノード電極のアレイとが用いられる。5個のこのようなアノード電極12B(1)〜12B(5)が同図では示されている。照射器20はカソード電極12Aを照射するように適合される。本例では、当該装置は、透明な基板14を通したカソード照射が可能となるよう構成される。データストリーム系列は、カソード電極およびアノード電極に対する一定の電圧印加を保持するとともにカソード電極12Aの一定の照射を保持しながら(または、制御可能に照射を変化させながら)、ゲート12Cへの電圧印加を変化させることにより、作成/多重化することができる。ゲート12Cの電圧の変化が、カソードからアノード電極への電子の経路を決定する。ゲート12Cの負電圧の絶対値を増加させることにより、電子がカソードからそれぞれアノード電極12B(1)、12B(2)、12B(3)、12B(4)、12B(5)へ順次通過する。
【0055】
図6は、図1で説明した装置10として構成された電子放出装置の動作実験結果を示す。グラフGは、照射アセンブリ(図1の参照符号20)を動作(光オン)位置と非動作(光オフ)位置との間で移行させつつ、当該装置を流れる電流の時間変動を示す。本例では、カソード電極およびアノード電極は、互いに45nm離間され、それらの間には4.5Vの電位差が保持される。
【0056】
本発明の特徴を例示する別の実験結果を示す図7A〜図7Cを参照されたい。
【0057】
図7Aは、単純な平面トライオード構造として構成された本発明の電子光電子放出スイッチング装置400を示す。該装置は真空封止されており、光源アセンブリ(照射器)20は、光学的に透明な基板14を介し外部から半透明なフォトカソード12Aを照射するのに用いられた。電極構成12は、さらにアノード電極12Bと、カソードおよびアノードの間のグリッド形態のゲート電極12Cとを含む。
【0058】
基板14は厚さ500umの融解石英ガラスである。フォトカソード12Aは、基板14の表面上に光電子放出被覆として作成される。フォトカソードは、Eビーム蒸着(0.1nm/秒)により基板上に堆積した厚さ15nmのW−Ti(90%−10%)である。ゲートグリッド12Cは、径50μm、ワイヤ間(中心間)スペーシング150μmで離間された平行な金属ワイヤのアレイにより形成される。アノード電極12Bは、銅で構成され、10mmの厚さを有する。光源20は、有効範囲(240〜280nm)において100mWの光出力電力を有するUV源(超高圧水銀ランプ)である。特別な液体導光体21により光をフォトカソードの背面上に誘導した。電極構成12は、セラミックの外囲器内に封止され、測定に先立って空気を外囲器から汲み出し(簡単な真空ポンプを用いて)、10−5Torrの圧力を得た。測定中、フォトカソード12Aは接地状態を維持した。
【0059】
図7Bおよび図7Cは測定結果を示し、図7Bは、ゲートグリッド12C上の異なる電圧に対しアノード(図7A内の12B)で測定された電圧電流特性を示し、図7Cは、アノード12B上の異なる電圧に対するゲート電圧の関数としてのアノード電流を示す。図7BのグラフH〜H13は、0.4V、0.2V、0.0V、−0.2V、−0.4V、−0.6V、−0.8V、−1.0V、−1.2V、−1.4V、−1.6V、−1.8V、および−2.0Vのゲート電圧値にそれぞれ対応する。図7CのグラフR〜R10は、アノード電圧10V、20V、30V、40V、50V、60V、70V、80V、90V、100Vにそれぞれ対応する。
【0060】
発明者らは、W−Tiフォトカソードを例えばCs−Sbのようなより効率的な光電子放出材料に置き換えることにより、6桁高い電流を得ることができ、同時に可視スペクトル範囲内でUV光源の代わりに簡単なLEDの使用が可能となることを示した。
【0061】
ミクロスケールにおける本発明の電子光電子放出スイッチング装置の別の実施の形態をさらに例示する図8A〜図8Eを参照されたい。このような装置は様々な既知の半導体技術により製作することができる。図8Aは、図8Bに示された複合ユニット装置600の基本ユニットを示す装置500を示す。図8C〜図8Eは、図8Aの装置の動作の静電気シミュレーションを示す。
【0062】
図8Aに示されるように、装置500は、電極構成12と照射器20とを含む。電極構成12は、スペーサ層構造により画定されたギャップ15により離間されたカソード電極12Aおよびアノード電極12Bを画定する多層(スタック)構造23であり、本例のトランジスタ構成ではゲート電極12Cを含む。
【0063】
構造23は、高導電材料(例えば、アルミニウムまたは金)で構成されるアノード層12Bを搭載する基板層L(絶縁体材料(例えばガラス))と、誘電材料層L(例えば約1.5μm厚のSiO)と、例えば約2μm厚の高導電材料(例えば、アルミニウムまたは金)で構成されるゲート電極層Lと、さらなる誘電材料層L(例えば約1.5μm厚のSiO)と、励起放射のスペクトル範囲において光に対して透明な材料(例えば石英)から構成されるとともに、半透明の光電子放出材料から構成されたカソード層12A(例えば数十ナノメータの厚さ)を搭載する上部基板層Lとを含む。スペーサ層構造(誘電体およびゲート層L〜L)は、カソード電極12Aおよびアノード電極12Bの間のギャップ15を画定し、ゲートグリッド電極12Cを画定するようにパターン化される。本例では、ギャップ15は、約3μm幅と、高さ約5μmの真空の溝である。
【0064】
基板Lを搭載するアノードは透明であってもよく、また、照射はギャップ15を介して装置のアノード側から反射性のカソードへ印加してもよいことに注意されたい。アノードがカソードの下の基板Lの全表面を占める場合、アノードも光学的に透明とされる。そうでなければ、照射は、アノード搭載領域外の基板Lの領域を介してカソードに方向付けられる。
【0065】
装置500は(図8Bの装置600もまた同様に)他の様々な構成を用いて構成できることに注意されたい。例えば、アノードとカソードの位置を入れ替えてもよく、アノードおよびカソードのいずれか1つまたは双方が、対応する基板の全面を覆ってもよい(しかし、これははるかに高い電極間容量、したがって高周波では性能の劣化をもたらす)。上部基板層Lとその上の電極層(本例ではカソード層12A)は、ウェーハボンディング、フリップチップまたは他の技術により誘電体層L上に配置することができる。各層の厚さおよびギャップ15の幅は、装置の基本的な機能を損なうことなく、相互に大きく変えることができる。すべての寸法は、数桁の大きさに亘り拡大、縮小することができ、それでもなお本装置の同じ動作原理を保持することができる。
【0066】
より高い出力電流を電子放出装置から得るためには、幾つかのこのような空洞500を並列に、例えば4個のサブユニット500により形成された装置600を例示する図8Bに示すように一緒に接続することができる。
【0067】
溝15は、比較的広い(水平面に沿った寸法)、例えば数ミリメータに構成できることに注意されたい。並設されたこのような広い溝を数千個含む装置600全体は、約1cmの面積を占有してもよく、したがって比較的高い電流値をもたらす。積算される電流出力を獲得するためは、アノード電極12B、カソード電極12Aおよびゲート電極12Cは、すべて並列に接続される(同図では相互接続は示されない)。あるいは、上記の装置ユニットは、例えばフェーズドアレイを生成するために個々にアクセスすることもできる。照射器20は単一の光源アセンブリを含んでもよく、光はユニット500へ(例えばファイバーを介して)適切に誘導されることも注意すべきである。
【0068】
図8C〜図8Eは、装置500または装置600のサブユニットの動作の静電気シミュレーションを示す。図解を容易にするため、電極のみ、すなわちフォトカソード12A、アノード12Bおよびゲート12Cが示されている。これらのシミュレーションでは、フォトカソード12Aは照射されて0Vに保持され、アノード12Bは5Vに保持される。図8Cは、ゲート電圧が0Vのときの電子軌道(全アノード電流(full Anode current))を示す。図8Dは、ゲート電圧が0.7Vの状況を示し、図8Eは、−1Vのゲート電圧に対応する(アノード電流無し(no Anode current))。電子は、0.15eVのエネルギーEで放出される。
【0069】
トランジスタ構造におけるスピントロニック効果を利用して構成され動作可能な本発明の装置の別の実施の形態をさらに例示する図9A〜図9Cを参照されたい。
【0070】
図9Aは、電極構成12(カソード12A、アノード12Bおよびゲート12C)により形成されたトランジスタ構造と、照射器20と、磁界源30とを含む本発明の電子光電子放出スイッチング装置700Aを示す。カソード電極およびアノード電極は、それらの磁気モーメント方向が逆である点で異なる強磁性体から構成され、スピンバルブを実現している。カソードおよびアノードの両電極のスピンアップ(SPIN UP)状態での動作により、信号対雑音の改善が得られる。磁界源30を動作させて外部磁界を電極構成へ印加することにより、カソード電極またはアノード電極をスピンアップ状態とスピンダウン(SPIN DOWN)状態との間で移行させ、こうしてトランジスタをオン状態とオフ状態との間で移行させる。
【0071】
図9Bおよび図9Cは、カソードが非強磁性金属または半導体から構成され、アノードが強磁性体から構成された電子光電子放出スイッチング装置700B、700Cを示す。この場合、照射器20を適切に構成し動作させ選択的に異なる偏光光をカソードに印加するとき、スピン偏極電子をカソードから放出することができる。図9Bの例に示されるように、照射器20は、偏光回転子20B(例えばλ/4板)を備えた単一の光源アセンブリ20Aを含む。図9Cの例では、照射器20は、異なる偏光P、Pの光を出力する2つの光源アセンブリ(LS)21A、21Bをそれぞれ含む。これらの例では、トランジスタをオン状態とオフ状態との間で移行させることは、照射光の偏光を変化させることにより(すなわち、図9Bの例において照射光の光路にある偏光回転子20Bを選択的に動作させ、または図9Cの例における光源21A、21Bのいずれかを選択的に動作させ)、またはアノード電極をスピンアップ高透過状態とスピンダウン高透過状態との間で移行させることにより、達成される。
【0072】
カソードとアノードとの間の電流を制御するために、図9Cの装置構成を用いてもよいことに注意されたい。この場合、光源21A、21Bは異なる比で動作される。さらに、上述のすべての装置において、2つ以上のカソード、アノード、ゲートおよび光源を用いることができる。
【0073】
上に示したように、カソード電極およびアノード電極の間のギャップは、真空ギャップではなくガス媒体ギャップ(例えば空気、不活性ガス)であってよい。ガス媒体ギャップの長さは、実質的にガス環境における電子の平均自由行程を超過しない。例えば、ギャップの長さは、数十ナノメータ(例えば50nm)から数百ナノメータ(例えば800nm)の範囲にある。
【0074】
カソードとアノードとの間にガス媒体ギャップを有し、光電効果を持たない(例えば図1または図2の照射器20が無い)装置構成を考えると、スイッチングは、カソード電極とアノード電極との間の電位差に作用することにより、そしてそれらの間の電流に作用することにより、またはカソードおよびアノードを一定の電位差に保持してゲートへの電圧印加に作用することにより、達成することができる。図9Aへ戻ると、同原理は、スピンバルブを実現する光電効果を持たないこのようなガス媒体に基づいた装置に適用できるということに注意されたい。
【0075】
当業者は、添付の請求項において、またその請求項により定義された範囲を逸脱することなく、これまで説明された本発明の実施の形態に対し様々な修正および変更を加えることができることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施の形態による、ダイオード構造として動作可能な電子光電子放出スイッチング装置の概略図である。
【図2】トライオード構造として設計された本発明の別の実施の形態による電子光電子放出スイッチング装置の概略図である。
【図3】図3A〜3Cは、図2の装置で使用するのに好適な電極構成設計のいくつかの例を示す。
【図4】本発明の電子光電子放出スイッチング装置の別の構成をさらに例示し、ここでは電極構成が、共通のカソード電極と関連付けられたアノード電極構成を含む。
【図5】本発明の電子光電子放出スイッチング装置のさらに別の構成を概略的に例示する。
【図6】図1の装置として構成された本発明の電子放出装置の動作実験結果を例示する。
【図7A】本発明の特徴を例示する別の実験結果を示し、単純な平面トライオード構造として設計された本発明の電子光電子放出スイッチング装置を示す。
【図7B】本発明の特徴を例示する別の実験結果を示し、単純な平面トライオード構成として設計された本発明の電子光電子放出スイッチング装置の測定結果を示し、ゲートグリッドの異なる電圧に対してアノードで測定された電圧電流特性を示す。
【図7C】本発明の特徴を例示する別の実験結果を示し、単純な平面トライオード構成として設計された本発明の電子光電子放出スイッチング装置の測定結果を示し、異なるアノード電圧に対するゲート電圧の関数としてのアノード電流を示す。
【図8A】ミクロスケールにおける本発明の電子光電子放出スイッチング装置の実施の形態を例示し、図8Bの複合ユニット装置の基本ユニットを表す装置を示す。
【図8B】ミクロスケールにおける本発明の電子光電子放出スイッチング装置の実施の形態を例示する。
【図8C】ミクロスケールにおける本発明の電子光電子放出スイッチング装置の実施の形態を例示し、図8Aの装置の動作の静電シミュレーションを示す。
【図8D】ミクロスケールにおける本発明の電子光電子放出スイッチング装置の実施の形態を例示し、図8Aの装置の動作の静電シミュレーションを示す。
【図8E】ミクロスケールにおける本発明の電子光電子放出スイッチング装置の実施の形態を例示し、図8Aの装置の動作の静電シミュレーションを示す。
【図9】図9A〜9Cは、トランジスタ構造におけるスピントロニクス効果を利用することにより構成され、動作可能な本発明の電子光電子放出スイッチング装置のさらに別の例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのカソード電極と少なくとも1つのアノード電極とを離間配置してなる電極構成を有し、
前記少なくとも1つのカソード電極を励起照射に曝して前記カソード電極から電子放出を引き起こすよう構成されるとともに、光電子放出スイッチング装置として動作可能である、電子放出装置。
【請求項2】
前記カソード電極および前記アノード電極は、ガス媒体ギャップにより離間配置される、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記カソード電極および前記アノード電極は、真空ギャップにより離間配置される、請求項1記載の装置。
【請求項4】
ガス圧力は、前記カソードから前記アノードに加速する電子の平均自由行程が前記カソード電極と前記アノード電極との間のギャップ長より大きくなるよう十分低く選択される、請求項2記載の装置。
【請求項5】
前記電極構成は、離間配置された前記アノード電極のアレイを有する、請求項1から請求項4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記電極構成は、離間配置されたカソード電極のアレイを有する、請求項1から請求項5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
アノード電流に作用することにより前記カソード電極と前記アノード電極との間の電流を制御するように動作可能であり、
前記アノード電流は、前記カソード電極の一定の照射を保持しながらそれらの間の電位差を変化させることと、前記カソード電極および前記アノード電極の間に一定の電位差を保持しながら前記カソードの照射を変化させることと、の少なくともいずれかを実行することにより、作用される、請求項1から請求項6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記電極構成は、前記カソード電極と前記アノード電極とから電気的に絶縁された少なくとも1つの追加の電極を含む、請求項1から請求項6のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記追加の電極は、前記カソード電極および前記アノード電極の間に配置されグリッドとして構成される、請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記追加の電極は、前記カソード電極と前記アノード電極とが配置された面から離間された面に収容される、請求項8または請求項9記載の装置。
【請求項11】
各電極は異なる面に配置される、請求項8または請求項9記載の装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つの追加の電極は、前記カソード電極とアノード電極との間の電流を制御するよう動作可能である、請求項8から請求項11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記カソードの照射ならびに前記カソード電極および前記アノード電極の間の一定の電位差を保持しながら前記少なくとも1つの追加の電極への印加電圧を変化させることにより、前記カソード電極および前記アノード電極の間の電流を制御し、これにより前記アノード電流に作用するよう動作可能である、請求項12記載の装置。
【請求項14】
前記少なくとも1つの追加の電極への印加電圧および前記カソードの照射を変化させることにより、前記カソード電極および前記アノード電極の間の電流を制御し、これにより前記アノード電流に作用するように動作可能である、請求項12記載の装置。
【請求項15】
前記カソード電極は、鋭端部を有する部分とともに形成される、請求項1から請求項14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記カソードから電子放出を引き起こす前記励起照射を含む波長範囲で動作可能な照射アセンブリを有する、請求項1から請求項15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記照射アセンブリは、低圧放電ランプ、高圧放電ランプ、連続波レーザ装置、パルスレーザ装置、少なくとも1つの非線形水晶、および少なくとも1つの発光ダイオードのうち少なくともいずれかを含む、請求項16記載の装置。
【請求項18】
前記照射アセンブリは、Hgランプを含む、請求項17記載の装置。
【請求項19】
前記照射アセンブリは、Xeランプを含む、請求項17記載の装置。
【請求項20】
前記カソード電極は、有機または無機の材料により被覆またはドープされる、請求項1から請求項19のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
各電極は、金属材料よりなる、請求項1から請求項20のいずれかに記載の装置。
【請求項22】
各電極は、半導体材料よりなる、請求項1から請求項20のいずれかに記載の装置。
【請求項23】
前記カソード電極および前記アノード電極の一方は金属よりなり、他方は半導体材料よりなる、請求項1から請求項20のいずれかに記載の装置。
【請求項24】
前記カソード電極および前記アノード電極の一方は金属よりなり、他方は金属および半導体の混合物よりなる、請求項1から請求項20のいずれかに記載の装置。
【請求項25】
前記カソード電極および前記アノード電極は、反対の磁気モーメント方向を有する点で異なる強磁性体よりなり、これにより前記装置は、スピンバルブとして動作可能であり、前記カソード電極および前記アノード電極の一方を、スピンアップ状態とスピンダウン状態との間で移行させることにより前記装置を非動作位置と動作位置との間で移行させる、請求項1から請求項20のいずれかに記載の装置。
【請求項26】
前記電極構成に外部磁界を印加するよう動作可能な磁界発生源を有し、前記外部磁界の印加により、前記カソード電極および前記アノード電極の一方をスピンアップ状態とスピンダウン状態との間で移行させる、請求項25記載の装置。
【請求項27】
前記カソード電極は、非強磁性の金属または半導体よりなり、前記アノード電極は、強磁性体よりなり、前記装置は、前記照射の偏光を変化させることにより動作位置と非動作位置との間を移行可能である、請求項1から請求項20のいずれかに記載の装置。
【請求項28】
前記励起照射を含む波長範囲で動作可能な照射アセンブリを有し、前記照射アセンブリは、様々な偏光光を生成するよう構成される、請求項27記載の装置。
【請求項29】
前記カソード電極は、非強磁性の金属または半導体よりなり、前記アノード電極は、強磁性体よりなり、前記装置は、前記アノード電極をスピンアップ高透過状態とスピンダウン高透過状態との間で移行させることにより異なる動作モード間を移行可能である、請求項1から請求項20のいずれかに記載の装置。
【請求項30】
前記カソード電極は、前記カソードからの電子放出を引き起こす励起照射を含む波長範囲に対し透明な基板上に配置され、これにより前記透明基板を通して前記カソード電極の照射を可能にする、請求項1から請求項29のいずれかに記載の装置。
【請求項31】
前記アノード電極は、前記カソードからの電子放出を引き起こす励起照射を含む波長範囲に対し透明な基板上に設置され、これによりアノード電極外部のアノード搭載基板の領域を通して前記カソード電極の照射を可能にする、請求項1から請求項30のいずれかに記載の装置。
【請求項32】
前記アノード電極は、前記カソードからの電子放出を引き起こす励起照射を含む波長範囲に対して透明であり、これにより前記アノード電極を通して前記カソード電極の照射を可能にする、請求項1から請求項31のいずれかに記載の装置。
【請求項33】
前記電極構成は、前記カソード電極および前記アノード電極をそれぞれ搭載するための第1基板層および第2基板層と、前記カソード電極および前記アノード電極の間にギャップを画定するようパターン化された、前記第1基板層および前記第2基板層の間のスペーサ層構造と、を有する集積化構造である、請求項1から請求項32のいずれかに記載の装置。
【請求項34】
前記第1基板は、離間配置された前記カソード電極のアレイを搭載する、請求項33記載の装置。
【請求項35】
前記第2基板は、離間配置された前記アノード電極のアレイを搭載する、請求項33または請求項34記載の装置。
【請求項36】
前記スペーサ層構造は、少なくとも1つの誘電材料層を有する、請求項33から請求項35のいずれかに記載の装置。
【請求項37】
前記スペーサ層構造は、第1誘電体層および第2誘電体層と、前記第1誘電体層および前記第2誘電体層の間の導電層と、を有し、パターン化された前記導電層は、追加の電極を画定する、請求項36記載の装置。
【請求項38】
前記スペーサ層構造は、それぞれの前記カソード電極および前記アノード電極の間で各々離間されたギャップのアレイを画定するようパターン化される、請求項34から請求項37のいずれかに記載の装置。
【請求項39】
電子放出装置を光電子放出スイッチング装置として動作させる方法であって、
一定の励起放射によりカソード電極を照射してカソード電極からアノード電極への電子放出を引き起こす工程と、
前記カソードの照射を制御可能に変化させることと、前記カソード電極および前記アノード電極の間の電界を制御可能に変化させることと、の少なくともいずれかによって、スイッチングに作用する工程と、を有する方法。
【請求項40】
少なくとも1つのカソード電極と少なくとも1つのアノード電極とを有する少なくとも1つのユニットを含む電極構成を有し、
前記カソード電極および前記アノード電極は、離間配置され、それらの間のガス媒体ギャップの長さは、前記ガス媒体の電子の平均自由行程を実質的に超過しない、電子放出装置。
【請求項41】
前記カソード電極および前記アノード電極の間の前記ギャップの長さは、実質800nmを超過しない、請求項40記載の装置。
【請求項42】
前記カソード電極および前記アノード電極の間の前記ギャップの長さは、約数十ナノメータである、請求項40記載の装置。
【請求項43】
前記カソード電極および前記アノード電極の間の前記ギャップの長さは、数十ナノメータから数百ナノメータである、請求項40記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−534138(P2007−534138A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520983(P2006−520983)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000671
【国際公開番号】WO2005/008711
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(503202608)イエダ リサーチ アンド ディベロプメント カンパニー リミテッド (5)
【出願人】(506023079)
【Fターム(参考)】