説明

電子時計

【課題】 論理緩急パターン切断後において、隣接する他の論理緩急パターン及び地板とショートせず、所定の時間精度に調整、維持する。
【解決手段】 電子時計は、ムーブメント10に組み込まれた回路基板30に形成された論理緩急パターン42〜46を切断して論理緩急回路86の設定を変更し、時間精度の調整を行う電子時計であって、地板20と、地板20の上面に組み込まれる回路基板30と、地板20に穿設された逃げ穴21と、回路基板30に開設され、逃げ穴21の上部に配置される論理緩急パターン切断孔31と、論理緩急パターン切断孔31の範囲内に設けられる論理緩急パターン42〜46の切断部aと、が備えられ、論理緩急パターン42〜46が切断された際、論理緩急回路86に接続する側の切断部が、地板20の逃げ穴21と接触しない距離と、隣接する他の論理緩急パターンと接触しない距離と、を有して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムーブメントの状態で論理緩急パターンを切断して時間精度調整を行う電子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ムーブメントの状態での時間精度調整を、レーザ光を用いて論理緩急パターンを切断する電子時計であって、地板に形成したレーザ回避部の下方に日車が組み込まれ、日車は、地板に組み込まれる日車案内部材の日ジャンパにより日車歯部に係合して位置決めし、日車案内部材の遮蔽部を、地板のレーザ回避部と日車との中間に設け、回路ブロックに形成した論理緩急パターンにレーザ光を照射させ、論理緩急パターンを切断し、時間精度調整を行う電子時計というものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−237486号公報(第3頁、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような特許文献1では、論理緩急パターンを切断した後のレーザ残光を日車案内部材に形成された遮蔽部にて、被遮蔽部である日車を遮蔽することにより、ムーブメントを構成する部材の変形や溶解を防ぐことができるが、このような構成の電子時計は、日車を有する時計に限定され、日車を備えない薄型デザインの電子時計には不向きの構造であると考えられる。
【0005】
また、前述の特許文献1の図1に示されるように、レーザ光による論理緩急パターンの切断部は、張り出された論理緩急パターンの略中央であって、切断後に論理緩急パターンが変形した場合等において、隣接する論理緩急パターンが接触し、ショートすることが考えられる。
【0006】
さらに、レーザ光による論理緩急パターン切断には、大型,且つ高価なレーザ装置が必要になり製造コスト面において不利となるというような課題もある。
【0007】
本発明の目的は、前述した課題を解決することを要旨とし、ムーブメントの状態において、論理緩急パターン切断後において、隣接する他の論理緩急パターン及び電気伝導性を有する機枠とショートせず、所定の時間精度に調整、維持することができ、また、特別な切断装置を用いることなく時間精度調整ができ、低消費電力の電子時計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子時計は、ムーブメントに組み込まれた回路基板に形成された論理緩急パターンを切断して論理緩急回路の設定を変更し、時間精度の調整を行う電子時計であって、機枠と、該機枠の上面に組み込まれる前記回路基板と、前記機枠に穿設された逃げ穴と、前記回路基板に開設され、前記逃げ穴の上部に配置される論理緩急パターン切断孔と、前記論理緩急パターン切断孔の範囲内に設けられる前記論理緩急パターンの切断部と、が備えられ、前記論理緩急パターンが切断された際、前記論理緩急回路に接続する側の切断部が、隣接する他の論理緩急パターンと接触しない距離を有して設けられていることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、論理緩急パターンが切断された際、論理緩急回路に接続する側の切断部が、隣接する他の論理緩急パターンと接触しない距離を有しているために、時間精度調整後において、他の論理緩急パターンにショートすることがないので、正確な時間精度調整ができるうえ、その状態を維持し続けることができる。
【0010】
また、前記機枠が電気伝導性を有する材料から構成され、前記論理緩急パターンが切断された際、前記論理緩急回路に接続する側の切断部が、前記機枠の逃げ穴と接触しない距離を有していることが好ましい。
ここで、機枠としては、例えば、金属製、金属粒体を混在した合成樹脂、合成樹脂表面に金属薄膜等を形成した電気伝導性を有する材料を採用できる。
【0011】
このようにすれば、論理緩急パターンが切断された際、論理緩急回路に接続する側の切断部が、機枠の逃げ穴と接触しない距離を有しているために、時間精度調整後において、機枠にショートすることがないので、正確な時間精度調整ができるうえ、その状態を維持し続けることができる。
【0012】
また、本発明の構造によれば、前記論理緩急パターンが前記論理緩急回路に接続する側において、前記論理緩急パターン切断孔の端部から前記切断部までの距離をL1、前記逃げ穴の端部から突出する前記論理緩急パターン切断孔の端部までの距離をL2、としたとき、L1<L2の関係にあることが好ましい。
【0013】
このように、L1とL2とを設定することによって、切断後の論理緩急回路に接続する側の論理緩急パターンの切断部が、機枠と接触してショートすることを防止することができる。このような寸法関係に設定することで、切断後において、上述の論理緩急パターンが変形するようなことがあっても、機枠とショートすることがなく、設定された時間精度を維持することができる。
【0014】
また、前述の構造では、前記論理緩急パターン切断孔の端部から前記切断部までの距離をL1、前記逃げ穴の深さをL3、としたとき、L1<L3の関係にあることが好ましい。
【0015】
このように、L1とL3とを設定することにより、論理緩急回路に接続する側の論理緩急パターンが、電気伝導性を有する機枠に形成される逃げ穴の底部にショートすることを防止できる。
【0016】
また、本発明では、前記論理緩急パターンが前記論理緩急回路に接続する側において、前記論理緩急パターン切断孔の端部から前記切断部までの距離をL1、前記論理緩急パターン切断孔の端部における隣接する前記論理緩急パターンの間の距離をL4、としたとき、2×L1<L4の関係にあることが好ましい。
【0017】
このように、L1とL4とを設定することにより、仮に、論理緩急パターンを切断する際に、隣り合う論理緩急パターンそれぞれが変形した場合においても、論理緩急パターン同士のショートを防止することができる。
【0018】
また、前記切断部の切断前の構造的強度が、前記論理緩急パターンの前記切断部の周縁部の構造的強度よりも小さく形成されていることが好ましい。
ここで、切断部の構造的強度を小さくする手段としては、例えば、切断部の幅を切り欠き状に狭くする、あるいは厚みを局部的に薄くする手段を採用することができる。
【0019】
このようにすれば、前述した従来技術のようにレーザ装置、またはプレスのような切断装置を用いずに、切断部を簡単な治具等で押すことで容易に切断することができるため、高価な装置や大型の装置を用意しなくてもよく、そのことにより製造コストを低減することができる。
【0020】
また、前述したような形状の切断部はその位置を視認することができるので、ハンドワークでも切断部のみに切断力を加え、容易に切断することができる。
【0021】
さらに、前記機枠の電位と、切断される前の前記論理緩急パターンの電位と、が同電位であることが望ましい。
ここで、切断される前の前記論理緩急パターンの電位とは、論理緩急パターンが接続される論理緩急回路の電位を意味する。
【0022】
前述のL1、L2、L3それぞれの関係式に設定されると、切断後の論理緩急回路とは接続しない側の論理緩急パターンの方が、論理緩急回路と接続する側の論理緩急パターンよりも長くなり、電気伝導性を有する機枠または隣接する論理緩急パターン同士が接触することが考えられるが、切断後の論理緩急回路とは接続しない側の論理緩急パターンと機枠の電位が同じであるため時間精度への影響がないという効果がある。
【0023】
また、本発明の電子時計は、ムーブメントに組み込まれた回路基板に形成された論理緩急パターンを切断して論理緩急回路の設定を変更し、時間精度の調整を行う電子時計であって、電子時計の駆動制御を行うICを備え、前記ICには、少なくとも発振回路と、前記論理緩急パターンに接続される論理緩急回路と、が設けられ、前記発振回路に形成されるゲート容量が8pF以下であることを特徴とする。
【0024】
詳しくは、後述する実施形態で説明するが、発振回路の消費電力は、ゲート容量に影響され、消費電力の低減のためにはゲート容量を小さくするが、ゲート容量を小さくすると、回路基板をムーブメントに組み込んだ際の寄生容量によって発振回路の周期変化量が増加する。そのために、ゲート容量を8pF以下にし、ムーブメントの状態で論理緩急を行うことで、消費電力を低減し正確な時間精度調整をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図7には、本発明に係る実施形態の電子時計が示されている。
(実施形態)
【0026】
図1は、本実施形態に係る電子時計のムーブメント10の構造を示す部分断面図である。図1において、機枠としての地板20の上面には、電子時計の駆動制御を行うIC70と他の回路素子95等が搭載される回路基板30と、その上面に絶縁板60が装着され、さらに、金属成形される回路枠94、第1の受部材90、第2の受部材91が載置されている。
なお、回路枠94は、合成樹脂製とすることができる。この場合、絶縁板60をなくすことができる。
【0027】
回路枠94、第1の受部材90、第2の受部材91は、地板20に植立された固定軸92で案内され、固定螺子93によって螺合固定されている。
本発明の電子時計には、ムーブメント10に、図示しないが、アナログ式時計の場合には、ステップモーターや輪列、電池、時刻指示針等が装着され、デジタル式時計の場合には、液晶表示パネルや液晶駆動回路、電池等が装着され、ケースに格納されて構成されている。
【0028】
地板20は、黄銅系合金からなり、表面にNiめっき、Pd合金めっき、金めっき等が層成されており電気伝導性を有する。地板の材料としては、黄銅系合金の他に合成樹脂を基材として金属粒を混在させた材料、合成樹脂の表面に金属膜を層成した材料等を採用することができる。
地板20の外周部には、後述する論理緩急パターン42〜46を切断するための逃げ穴21が穿設されている。
【0029】
回路基板30の地板20に接触しない主面には、回路パターンが形成されており、図1においては、回路パターンのうち、本発明に係る論理緩急パターン40が図示されている。論理緩急パターン40の一方の端部はIC70に接続されている。
【0030】
また、回路基板30にも、地板20に穿設された逃げ穴21よりも小さい論理緩急パターン切断孔31が開設されている。この論理緩急パターン切断孔31の上部をわたって論理緩急パターン40が形成されており、論理緩急パターン40は、論理緩急パターン切断孔31の範囲内で剥き出しの状態である。以降、このような状態の部位をオーバーハング部と呼称する。
【0031】
続いて、図2を参照して本実施形態に係る回路基板30及び論理緩急パターン40の構成について説明する。
図2は、本実施形態の回路基板の一部を示す部分平面図である。図2において、回路基板30には、複数の回路パターン40が形成されているが、論理緩急パターンの構成を中心に説明する。回路基板30には、IC70と、水晶振動子75が搭載されている。
【0032】
水晶振動子75には、2本の接続端子が延在され、IC70に形成されているゲート電極端子、ドレイン電極端子に、ゲート電極パターン47とドレイン電極パターン48とによって接続されている。
【0033】
IC70には、図示しない発振回路、分周回路、論理緩急回路(図3、参照)と、モーター駆動回路、電源回路、それらの回路を制御する制御回路等を含んで構成されている。論理緩急回路には、5本の論理緩急パターン42〜46からなる論理緩急パターン40と、Vddパターン50とが接続されている。回路基板単体の際には、論理緩急パターン42〜46の一方とVddパターン50とが接続されており、他方は論理緩急回路(IC70)の電極端子に接続されている。即ち、論理緩急回路、論理緩急パターン42〜46とVddパターン50とは同電位である。
なお、Vddパターン50は、Vssパターンと置き換えることができる。
【0034】
続いて、本実施形態に係る発振回路及び論理緩急回路について説明を加える。
図3は、本発明の時間精度調整に係る回路構成を示すブロック図である。図3には、発振回路80の等価回路が示されている。発振回路80は、インバータなどの増幅器83と帰還抵抗84とゲートコンデンサー81とドレインコンデンサー82とから構成されている。図示しない電源である電池から供給される電力は、電源回路によって電圧Vregをつくり発振回路80に供給される。
なお、本実施形態では、アース電位がVddである。
【0035】
発振回路80は、時間標準源である水晶振動子75を用いて源振となる32KHz(32768Hz)の発振信号を出力し、この発振信号は複数の分周器(例えば、15段のフリップフロップ)からなる分周回路85によって所定の周期まで分周される。
【0036】
時間精度調整は、予め個別の発振回路80(水晶振動子75)の特性を検査し、各発振回路80に応じた緩急量が論理緩急回路86で設定される。具体的には、論理緩急パターン42〜46を適宜選択して切断することで、予め各発振回路80に応じた緩急量を設定している。本実施形態では、5個の論理緩急パターンを備え、5ビットつまり32通りの調整が可能とされている。
【0037】
各論理緩急パターン42〜46を「1」(論理緩急パターンが切断されておらず、論理緩急回路86に電圧Vddが加えられている状態)と、「0」(論理緩急パターンが切断されており、論理緩急回路86がOPEN状態)と、に設定した場合の緩急補正量を表1,2に示す。これらの表に示すように論理緩急パターン42〜46を切断前の状態をFo点として進み、時間精度の遅れ、進みの組み合わせを設定している。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
なお、本実施形態では、5ビットの論理緩急回路とし、1ステップ毎に0.264秒(sec/day)に緩急量を調整するように構成されている。
【0041】
一般に、電子時計の時間精度調整は、回路基板に所定の回路素子を搭載した後、ムーブメントに搭載したときの周期変化量を予め予測し、変化量分だけ補正して行われる。しかし、発振回路の消費電力を低減した場合には、ムーブメントに組み込まれた際の周期変化量のばらつきが大きくなり、所望の時間精度が得られないことが考えられる。
そこで、ムーブメントの状態で時間精度調整が必要となるが、その理由について図面を参照して説明する。
【0042】
図4には、図3に示すゲートコンデンサー81と発振回路80(水晶振動子75)の周期変化量ΔTとの関係を表すグラフである。発振回路80には、ゲートコンデンサー81とドレインコンデンサー82との二つの容量(コンデンサー)が備えられているが、周期変化量ΔTにはゲート容量の影響が大きいためゲートコンデンサー81を例にあげ説明する。横軸にゲート容量(単位:pF)、縦軸に周期変化量ΔT(単位:ppm)を示す。
【0043】
図4において、周期変化量ΔTは、ゲート容量が大きくなるに従い大きくなる。なお、ゲート容量が大きくなると発振回路80の消費電力が大きくなることが知られているため、ゲート容量は、安定した発振回路80の駆動が得られる範囲で小さく設定されることが好ましいとされる。
【0044】
例えば、発振回路80の消費電流iは、i=fcV(f:周波数、c:ゲート容量及びドレイン容量、V:駆動電圧)で表される。周波数fと駆動電圧V(Vreg)とを一定にしたとき、cを小さくすることで消費電流iを低減することができる。しかしながら、一般に用いられるゲート容量は10pF程度であり、本実施形態では低消費電力を目指すために4pFを選択する例をあげ説明する。
【0045】
ここで、回路基板30がムーブメントに組み込まれると、地板20や周辺部材との間で寄生容量がゲート容量に重畳され、トータルのゲート容量値が変化することがある。本実施形態では寄生容量のばらつきを±1pFとして周期変化量ΔTを測定する。
【0046】
ゲート容量を4pF±1pFとしたときの周期変化量の幅B2は約9ppmで、ゲート容量を10±1pFとしたときの周期変化量の幅B1は約4ppmである。つまりB2はB1の2倍以上の周期変化量があることを示している。本発明では、ゲート容量の範囲を8pF以下に管理することにより、消費電流の低減をはかることができ、また、ムーブメントの状態で時間精度調整をすることで寄生容量の影響を排除し、正確な時間精度調整を容易にしている。
【0047】
そこで、ムーブメント状態における時間精度調整のための構造について、さらに詳しく説明する。
図5は、回路基板30の各論理緩急パターンの切断部を拡大表示した部分平面図である。図5において、IC70から延在された論理緩急パターン42〜46は、回路基板30の外周部に形成されるVddパターン50と接続されている。
【0048】
回路基板30の論理緩急パターン42〜46の延在途中には、論理緩急パターン切断孔31が開設され、論理緩急パターン42〜46の一部がオーバーハング部を形成している。論理緩急パターン切断孔31の論理緩急回路(IC70)側の周縁に形成される論理緩急パターン42〜46は、延在される他の部位よりも面積が広く形成されている。これは、論理緩急パターン42〜46を切断する際の切断力で、回路基板30から論理緩急パターン42〜46が剥離されることを防止するために設けられている。
【0049】
続いて、論理緩急パターン42〜46のオーバーハング部の形状について説明する。論理緩急パターン42〜46のオーバーハング部の形状は略同じ形状であるので、論理緩急パターン44を例示して説明する。論理緩急パターン44のオーバーハング部44eの論理緩急パターン切断孔31の内面32からL1の距離に切断部aが形成されている。
【0050】
切断部aの形状は、幅方向両側から切り欠き状に形成されている。切断部aは、オーバーハング部44eの他の部位の幅よりも狭く構造的強度が小さくなるように設定されている。切断部aの形状は、切断力を加えた際に容易に切断することができ、また、切断しない際には、電子時計の通常使用状態、製造工程で切断されない範囲の構造的強度を有するように設定されている。
従って、この切断部aの形状は、切り欠き形状に限らず、厚み方向を局部的に薄くしてもよい。
【0051】
ここで、論理緩急パターン切断孔31の論理緩急回路(IC70)側の端部(内面)32(図中、b部で表す)から切断部aまでの距離がL1、論理緩急パターン切断孔31の論理緩急回路(IC70)側の端部(内面)32から地板の逃げ穴21の論理緩急回路(IC70)側の端部(内面)22(図中、c部で表す)までの距離がL2に設定されている。L1とL2とは、L1<L2で表される関係とされる。
【0052】
さらに、論理緩急パターン切断孔31の内面32と論理緩急パターン42〜46との交差部において、論理緩急パターン44と論理緩急パターン43、論理緩急パターン44と論理緩急パターン45との距離はそれぞれL4に設定される。ここで、L1とL4との関係は、2×L1<L4で表される関係にある。このことから、仮に、切断後において、隣接する論理緩急パターンが直角方向に曲げられても相互に接触することはない。他の論理緩急パターン42と43、45と46も同様な関係に設定されている。
なお、論理緩急パターン42と隣接するVddパターン50とも同様な関係に設定されることが好ましい。
【0053】
続いて、さらに論理緩急パターン42〜46の設定条件について図6(図5も参照)を参照して説明する。代表して論理緩急パターン44を例示し説明する。
図6は、論理緩急パターン切断前の状態を示す部分断面図である(図5におけるA−A断面を示す)。図6において、地板20の逃げ穴21のIC70(論理緩急回路)との接続側の内面22(図中、cで表す位置)と、回路基板30の論理緩急パターン切断孔31のIC70(論理緩急回路)との接続側の内面32(図中、bで表す)との距離はL2、内面32と論理緩急パターン44のオーバーハング部44eに設けられる切断部aとの距離はL1である。また、逃げ穴21の深さはL3で表されている。
【0054】
LIとL2とは、前述したようにL1<L2の関係にあり、L1とL3とは、2×L1<L3の関係にある。次に、図7を参照して論理緩急パターン44を切断した後の状態について説明する。
図7は、論理緩急パターン44を切断した状態を示す部分断面図である。図7において、切断部aを切断治具等で上方から押して切断する場合、論理緩急パターン44のオーバーハング部44eは、切り離されて逃げ穴21方向に折り曲げられることになる。
【0055】
この際、切断部aまでの距離L1が回路基板30の突出量L2よりも小さいため、先端部44gが逃げ穴21の内面22に接触することはない。また、L1<L3の関係にあるため、逃げ穴21の底部24に先端部44gが接触することはない。
【0056】
一方、Vddパターン50側の切断部の先端部51は、逃げ穴21の内面23や底部24に接触することが考えられるが、地板20とVddパターン50の電位が同じであるため、時間精度には影響しない。
【0057】
従って、前述した実施形態によれば、論理緩急パターン42〜46が論理緩急回路86(IC70)に接続する側において、論理緩急パターン切断孔31の内面32から前記切断部aまでの距離をL1、地板20の逃げ穴21の内面から突出する論理緩急パターン切断孔31の内面32までの距離をL2、としたとき、L1<L2の関係にあるため、切断後の論理緩急回路86に接続する側の論理緩急パターンの切断部aの先端部44gが、地板20と接触してショートすることを防止することができる。このような寸法関係に設定することで、切断後において、上述の論理緩急パターン42〜46が変形するようなことがあっても、地板20とショートすることがなく、設定された時間精度を維持することができる。
【0058】
また、前述した距離L1、逃げ穴21の深さをL3、としたとき、L1<L3の関係にあるため、論理緩急回路86(IC70)に接続する側の論理緩急パターンが、地板20に形成される逃げ穴21の底部24にショートすることを防止できる。
【0059】
また、論理緩急パターン42〜46が論理緩急回路86(IC70)に接続する側において、前述した距離L1、論理緩急パターン切断孔31の内面における隣接する論理緩急パターン間の距離をL4、としたとき、2×L1<L4の関係にあるため、仮に、論理緩急パターン42〜46を切断する際に、隣り合う論理緩急パターンそれぞれが直角方向に変形した場合においても、論理緩急パターン同士のショートを防止することができる。
【0060】
また、切断前の切断部aの幅を切り欠き状に狭くする、あるいは厚みを局部的に薄くする等により切断部aの構造的強度が、切断部aの周縁部の構造的強度よりも小さく形成されているので、前述した従来技術のようにレーザ装置、またはプレスのような切断装置を用いずに、切断部aを簡単な切断治具等で押すことで容易に切断することができるため、高価な装置や大型の装置を用意しなくてもよく、そのことにより製造コストを低減することができる。
【0061】
また、切断部aは視認することができるので、ハンドワークで切断部のみに切断力を加え、容易に切断することができる。
【0062】
さらに、地板20の電位と、切断される前の論理緩急パターン42〜46の電位と、が同電位であるために、切断後の論理緩急回路86とは接続しない側の論理緩急パターンが、論理緩急回路と接続する側の論理緩急パターンの長さL1よりも長くなり、電気伝導性を有する地板20または隣接する論理緩急パターン同士が接触することが考えられるが、地板20と論理緩急パターンの電位が同じであるため時間精度への影響がないという効果がある。
【0063】
さらに、ゲート容量の範囲を8pF以下に管理することにより、消費電流の低減をはかることができ、また、ムーブメントの状態で時間精度調整をすることで寄生容量の影響を排除し、正確な時間精度調整を容易にしている。
【0064】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前述の実施形態では、論理緩急パターンは5個備えているが、論理緩急パターンの数は5個に限定されず、任意に設定することができる。
【0065】
また、前述の実施形態では、発振回路が低消費電力の形態を例示したが、一般の発振回路においても、本発明の構造を採用し、本発明の目的を実現できることはいうまでもない。
【0066】
さらに、本発明は、電子時計に限らず、時計機能を有する電子機器等に応用することができる。
【0067】
従って、前述の実施形態によれば、ムーブメントの状態において、論理緩急パターンの切断後に、隣接する他の論理緩急パターン及び地板とショートせず、所定の時間精度を調整、維持することができ、また、特別な切断装置を用いることなく時間精度調整ができる低消費電力の電子時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施形態に係る電子時計のムーブメントの構造を示す部分断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る回路基板及び論理緩急パターンの構成を示す部分平面図。
【図3】本発明の実施形態に係る時間精度調整に係る回路を示すブロック図。
【図4】本発明の実施形態に係るゲート容量と周期変化量ΔTとの関係を表すグラフ。
【図5】本発明の実施形態に係る論理緩急パターンの切断部を示す部分平面図。
【図6】本発明の実施形態に係る論理緩急パターン切断前の状態を示す部分断面図。
【図7】本発明の実施形態に係る論理緩急パターンを切断した状態を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0069】
10…ムーブメント、20…地板、21…逃げ穴、30…回路基板、31…論理緩急切断孔、42〜46…論理緩急パターン、86…論理緩急回路、a…切断部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムーブメントに組み込まれた回路基板に形成された論理緩急パターンを切断して論理緩急回路の設定を変更し、時間精度の調整を行う電子時計であって、
機枠と、該機枠の上面に組み込まれる前記回路基板と、
前記機枠に穿設された逃げ穴と、
前記回路基板に開設され、前記逃げ穴の上部に配置される論理緩急パターン切断孔と、
前記論理緩急パターン切断孔の範囲内に設けられる前記論理緩急パターンの切断部と、が備えられ、
前記論理緩急パターンが切断された際、前記論理緩急回路に接続する側の切断部が、隣接する他の論理緩急パターンと接触しない距離を有して設けられていることを特徴とする電子時計。
【請求項2】
請求項1に記載の電子時計において、
前記機枠が電気伝導性を有する材料から構成され、前記論理緩急パターンが切断された際、前記論理緩急回路に接続する側の切断部が、前記機枠の逃げ穴と接触しない距離を有していることを特徴とする電子時計。
【請求項3】
請求項2に記載の電子時計において、
前記論理緩急パターンが前記論理緩急回路に接続する側において、
前記論理緩急パターン切断孔の端部から前記切断部までの距離をL1、
前記逃げ穴の端部から突出する前記論理緩急パターン切断孔の端部までの距離をL2、としたとき、L1<L2の関係にあることを特徴とする電子時計。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電子時計において、
前記論理緩急パターン切断孔の端部から前記切断部までの距離をL1、
前記逃げ穴の深さをL3、としたとき、L1<L3の関係にあることを特徴とする電子時計。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の電子時計において、
前記論理緩急パターンが前記論理緩急回路に接続する側において、
前記論理緩急パターン切断孔の端部から前記切断部までの距離をL1、
前記論理緩急パターン切断孔の端部における隣接する前記論理緩急パターンの間の距離をL4、としたとき、2×L1<L4の関係にあることを特徴とする電子時計。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の電子時計において、
前記切断部の切断前の構造的強度が、前記論理緩急パターンの前記切断部の周縁部の構造的強度よりも小さく形成されていることを特徴とする電子時計。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の電子時計において、
前記機枠の電位と、切断される前の前記論理緩急パターンの電位と、が同電位であることを特徴とする電子時計。
【請求項8】
ムーブメントに組み込まれた回路基板に形成された論理緩急パターンを切断して論理緩急回路の設定を変更し、時間精度の調整を行う電子時計であって、
電子時計の駆動制御を行うICを備え、
前記ICには、少なくとも発振回路と、前記論理緩急パターンに接続される論理緩急回路と、が設けられ、
前記発振回路に形成されるゲート容量が8pF以下であることを特徴とする電子時計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate