説明

電子機器の放熱構造

【課題】 機器が小型化、薄型化しても充分な放熱能力を発揮することができ、熱による異常を防止することができる電子機器の放熱構造を提供する。
【解決手段】 本発明の電子機器の放熱構造は、IC等の電子部品3(発熱源)が実装された基板2がケース4の内部に収納された電子機器の放熱構造であり、電子部品3から熱を受ける受熱板5a,5bがケース4の内部に設けられるとともに、受熱板5a,5bの一部がケース4の外部に引き出され、その引き出された部分が、ケース表面の一部を覆うように折り曲げられ、ケース表面に接触しないように空気層を介してケース表面に沿うように配置されている。さらに、受熱板5a,5bはカバー6a,6bで覆われているが、カバー6a,6bとも接触していない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子機器の放熱構造、特に小型、薄型の携帯用電子機器等に用いて好適な放熱構造であって、小型、薄型の特長を損なうことなく、電子機器内部で発生する熱を効率良く放熱するための構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、ノート型パソコン、PDA(Personal Didital Assistant)、携帯電話等に代表される携帯型電子機器の分野では機能向上、処理能力向上に伴い、機器本体に内蔵される基板上のCPU等をはじめとする電子部品からの発熱量が増大する傾向にある。
【0003】従来、この種の携帯型電子機器において、機器本体の内部の熱を放熱する方法としては、例えば、熱伝導の良い金属材料などからなる板体やヒートパイプなどの熱伝導部材を介してCPU等の発熱源から電子機器の筐体に熱を伝達し、筐体から自然空冷する方法が採用されていた。さらに、自然空冷で不充分な場合にはファンを用いて熱風を筐体の外部に排気し、強制的に空冷する方法が採用されていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記電子機器は、近年、ますます小型化、薄型化の傾向にあり、さらには使用者が身に着けて使用する、いわゆるウェアラブルな電子機器の提供が求められるようになってきた。そこで、放熱構造について考えると、自然空冷の場合、電子機器の小型化に伴って筐体の表面積が小さくなっていることから、放熱能力が低下して充分な放熱が行われず、熱による電子機器の異常が問題となる。強制空冷の場合、機器の小型化によりファンを設置するスペースがなくなるという問題がある。
【0005】本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、機器が小型化、薄型化しても充分な放熱能力を発揮することができ、熱による異常を防止することができる電子機器の放熱構造を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の第1の電子機器の放熱構造は、発熱部が配置された基板が筐体の内部に設けられた電子機器の放熱構造であって、発熱部から熱を受ける受熱部が筐体の内部に設けられるとともに、受熱部の一部が筐体の内部から外部に引き出され、受熱部の筐体外部に引き出された部分が、筐体表面の少なくとも一部を覆うように折り曲げられ、空気層を介して筐体表面に沿うように配置されたことを特徴とする。
【0007】本発明の第1の電子機器の放熱構造は、熱が発熱部から受熱部に伝達され、受熱部から空気中に自然に放熱される自然空冷を利用したものである。そして、上記の構成を言い換えると、筐体は基板の保護のために基本的には密閉されているが、筐体内部に設けられた受熱部の一部は筐体外部に引き出された構造となっており、その引き出された部分は筐体表面に直接接触することなく、空気層を介してある程度の面積をもって筐体表面に沿うように配置される。したがって、受熱部に伝えられた熱が筐体外部に引き出された部分から空気中に放熱されるので、充分な放熱が行われ、熱による電子機器の異常を防止することができる。また、筐体外部に引き出された部分が筐体表面に接触していないので、筐体自身も充分に自然空冷され、これによっても筐体内部の温度上昇が抑制されるという作用がある。そして、受熱部のうち、筐体外部に引き出された部分は筐体から突出する方向に配置されるのではなく、筐体表面に沿うように折り曲げられて配置されるので、電子機器の小型化、薄型化を阻害することはない。
【0008】本発明の第2の電子機器の放熱構造は、発熱部が配置された基板が筐体の内部に設けられた電子機器の放熱構造であって、発熱部から熱を受ける受熱部が筐体と一体に構成されるとともに、受熱部の一部が筐体からその外部に向けて延在し、受熱部の筐体の外部に延在する部分が、筐体表面の少なくとも一部を覆うように折り曲げられ、空気層を介して筐体表面に沿うように配置されたことを特徴とする。
【0009】上記第1の放熱構造は筐体と受熱部が別体であることを前提としているのに対し、本発明の第2の電子機器の放熱構造は、受熱部が筐体と一体に構成されている、言い換えると、基板を収納する筐体本体からその一部が外部に向けて延び、この部分が受熱部として機能するという構成のものである。本発明の第2の電子機器の放熱構造においても、受熱部に伝えられた熱が筐体本体の外部に延びた部分から空気中に放熱されるので、充分な放熱が行われ、熱による電子機器の異常を回避できる、筐体自身も空冷されることにより筐体内部の温度上昇がさらに抑制される、筐体本体の外部に引き出された部分が筐体表面に沿うように折り曲げられて配置されるので、電子機器の小型化、薄型化を阻害しない、という本発明の第1の放熱構造と同様の作用、効果を奏することができる。
【0010】また、基板上で発熱部を設置する位置は任意でよいが、例えば複数の発熱部が基板の両面に配置された場合には、受熱部を発熱部を挟むように基板の両面側にそれぞれ設けた上で、各受熱部の筐体外部に位置する部分を筐体表面の異なる面に沿うようにそれぞれ配置することが望ましい。
【0011】この構成においては、発熱部が基板の両面に配置された場合でも受熱部が各発熱部に対応して設けられているので、いずれの側の発熱部から発生する熱も確実に各受熱部に伝達され、充分な空冷を行うことができる。また、各受熱部の筐体外部に位置する部分が筐体表面の異なる面に沿うように配置されるので、放熱が効率良く行われるのと同時に、複数の受熱部を有していても機器の小型化、薄型化が実現できる。
【0012】前記受熱部の具体的な材料としては、熱伝導率の高い材料を用いることが望ましく、金属ならば銅、アルミニウム、銀等を用いることが望ましい。また、無機材料であればグラファイト材等を用いることが望ましい。ここで言う「熱伝導率の高い材料」とは、熱伝導率がおおよそ400W/m・K以上である材料を指しているが、これに限るものではない。特にグラファイト材を用いた場合、熱伝導率が高く、かつ銅などの金属に比べて密度が小さいという特性によって小型のセットに用いたときにも重量が増加する恐れがないという利点が得られる。
【0013】また、前記受熱部は単体材料で構成してもよいし、例えば絶縁性部材と熱伝導性部材(熱伝導率の高い部材)とを接合した積層体などを用いてもよい。
【0014】さらに、受熱部の筐体外部に位置する部分は、そのままむき出しでも良いが、この部分を覆うカバーを設けることが望ましく、その場合、受熱部からの放熱を促進する放熱手段をカバーに設けることがより望ましい。カバーは、筐体と別体でもよいし、一体に形成してもよい。
【0015】この構成においては、受熱部を覆うカバーを設けたことによって電子機器の取り扱いが容易となる。しかしながら、カバーを設けたことによって放熱効率が低下する恐れがあるため、カバーに受熱部からの放熱を促進する何らかの放熱手段を設けることが望ましい。放熱手段の具体例については後述するが、例えばカバーに空気の流路を設ける、表面積増大のための凹凸を設けるなどである。
【0016】本発明の第3の電子機器の放熱構造は、発熱部が配置された基板が筐体の内部に設けられた電子機器の放熱構造であって、前記発熱部から熱を受ける受熱部が前記筐体の内部に設けられるとともに、前記受熱部の一部が前記筐体の内部から外部に引き出され、前記受熱部の筐体外部に引き出された引き出し部分を振動させる振動手段が前記引き出し部分に設けられたことを特徴とする。
【0017】本発明の第3の電子機器の放熱構造は、筐体内部に設けられた受熱部の一部が筐体外部に引き出されたものであり、発熱部からの熱が受熱部の引き出し部分に伝導され、引き出し部分から空気中に放散されるというように、熱を逃がす経路に関しては上記第1、第2の放熱構造と基本的に同じである。しかしながら、第1、第2の放熱構造では引き出し部分が静止しており、引き出し部分からの放熱は専ら自然空冷に頼っているのに対し、第3の電子機器の放熱構造は、振動手段の作用によって引き出し部分を振動させることで空気の流れを作り、放熱をより促進する、という点で強制空冷の要素を付加したものである。
【0018】ただし、放熱(回転)ファンなどを用いた従来の強制空冷の構造では、任意の熱伝導材を用いて発熱部から放熱部まで熱を伝導させた後、放熱ファンに接続する必要があり、ファンの設置に大きなスペースを要していた。これに対し、上記第3の放熱構造は受熱部の一部である引き出し部分そのものを振動させるものであり、いわば熱伝導材を用いて熱を筐体外部に運搬し、その同じ熱伝導材を振動させることで強制空冷するものであるから、回転ファンのような大型の部品を使用する必要がなく、電子機器の小型化や薄型化を阻害することがない。
【0019】第3の放熱構造における受熱部の構成材料においては、熱伝導率が高く、ある程度の弾性を有する材料を用いることが望ましく、金属ならば銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等からなる板体を用いることができる。また、無機材料であればグラファイトシート、シリコン系シートなどを用いることができる。
【0020】そして、上記の材料からなる板体やシートは上記材料単体で形成されていてもよいし、少なくともその一部が絶縁材で被覆された構成であってもよい。絶縁材で被覆した場合、この受熱部が筐体内において他の電子部品などと接触することがあっても、短絡等の不具合が生じる恐れがない。
【0021】また、第3の放熱構造においては、前記振動手段によって前記受熱部の引き出し部分の固有振動数で振動させることが望ましい。この構成によれば、振動手段から与えられるエネルギーによって大きい振幅の振動が得られ、放熱効率をより高めることができる。
【0022】前記受熱部の引き出し部分の形状としては、引き出し部分の断面形状(厚み、幅など)が一定のものであってもよいが、筐体外部へ引き出された箇所の近傍と振動先端側(すなわち、引き出し部分の基端側と先端側)とで異なるものであってもよい。例えば、引き出し部分を構成する熱伝導材の厚みを変える構成としてもよい。これは、引き出し部分の基端側はそれ程振動しないため、伝熱効率の方を重視して必要な熱抵抗から決まる板厚に設定し、先端側は振動が大きいため、振動のしやすさを重視して振動に最適な固有振動が得られる板厚に設定するという理由からである。このように、引き出し部分の基端側と先端側とで要求される伝熱と振動とのバランスを考慮して断面形状を変えることによって受熱部の最適な設計を行うことができる。
【0023】前記振動手段としては、例えば圧電振動子を用いることができる。圧電振動子は現在、0.1mmオーダーの薄型軽量のものが提供されており、この種の圧電振動子を用いることによって受熱部の引き出し部分に容易に取り付けることができ、電子機器の小型化や薄型化を阻害することなく、引き出し部分の振動を電気的に制御することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】[第1の実施の形態]以下、本発明の第1の実施の形態を図1〜図4を参照して説明する。図1は本実施の形態の電子機器の放熱構造を示す図であって、この放熱構造を適用した電子機器の斜視図である。図2は図1のII−II線に沿う断面図、図3は電子機器を分解した状態(カバーを除く)を示す斜視図、図4R>4は電子機器を分解した状態(カバーを含む)を示す斜視図、である。図中符号2はプリント基板(基板)、3は電子部品(発熱部)、4はケース(筐体)、5a,5bは受熱板(受熱部)、6a,6bはカバーである。
【0025】本実施の形態の電子機器1は、図1、図2に示すように、プリント基板2(以下、基板と略記する)の一端側の両面に、IC等の電子部品3が片面に6個ずつ、計12個実装されている。電子機器1の動作時にこれら電子部品3が発熱源となる。ケース4はABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene)樹脂等からなる中空の箱体であって、図3に示すように、上ケース7、下ケース8に2分割されており、電子部品3が実装された基板2が内部に収納できるようになっている。
【0026】例えばグラファイトなどの熱伝導率の高い材料からなる2枚の受熱板5a,5bが、基板2の上面、下面に実装された電子部品3にそれぞれ当接するように装入されている。受熱板5a,5bの配置は、図3に示すように、基板下面側の電子部品3からの熱を放熱する受熱板5aは、基板下面側の電子部品3に当接した後、基板2の側方で上向きに折り曲げられ、上ケース7の上板7aに設けられたスリット7bを通って上ケース7の上方に引き出されている。さらに図4に示すように、受熱板5aは上ケース7の上板7aを覆うように折り曲げられ、空気層を介して上板7aに沿って配置されている。すなわち、受熱板5aは上ケース7の上板7aを覆うように配置されているが、図1、図2に示すように、上板7aには接触していない。
【0027】基板上面側の電子部品3からの熱を放熱する受熱板5bについても、同様の構成である。基板上面側の電子部品3に当接した後、基板2の側方で下向きに折り曲げられ、下ケース8の下板8aに設けられたスリットを通って下ケース8の下方に引き出され、下ケース8の下板8aを覆うように折り曲げられ、空気層を介して下板8aに沿って配置されている。
【0028】上記の構成により、電子部品3から発生した熱は、電子部品3の表面から各受熱板5a,5bに伝わり、受熱板5a,5bの内部を伝わってケース4の外側に引き出された部分から受熱板5a,5bの両面に接する空気層に自然放熱される。また、熱はケース内に配置された受熱板5a,5bからケース4にも伝わるので、ケース4から空気層に自然放熱される分もある。
【0029】そして、ケース4の上面側、下面側に配置された受熱板5a,5bを覆うように、ケース4と同様のABS樹脂等からなるカバー6a,6bがケース4に固定されている。カバー6a,6bは受熱板6a,6bをそれぞれ外側から覆ってはいるが、受熱板6a,6bとは接触していない。よって、ケース4とカバー6a,6bとの間の空間内に、ケース4ともカバー6a,6bとも接触しないように受熱板5a,5bが装入された状態となっている。
【0030】仮にケース4とカバー6a,6bの間の空間が完全に密閉された空間であると、受熱板5a,5bから放熱された熱がカバー6a,6bの内部にこもり、放熱効率が低下してしまうため、カバー6a,6bには放熱を促進するための手段が施されている。具体的には、図1、図4に示すように、カバー6a,6bの側面には全周にわたって多数の切り込み9が設けられており、この切り込み9によってケース4とカバー6a,6bとの間の空間が外気に解放された空間となっている。これにより、ケース4とカバー6a,6bの間の空間と外気との間で空気の交換が生じ、放熱効率を向上させることができる。
【0031】さらに、カバー6a,6bの表面には全面にわたって多数の突起10が形成されている(図1、図4R>4では図面を見やすくするため、突起10の図示を一部省略した)。受熱板5a,5bから放熱された熱は空気層からカバー6a,6bを通じて放熱される分もあるが、カバー6a,6bの表面に多数の突起10が形成されたことでカバー6a,6bの表面積が大きくなっており、放熱効率を向上させる効果を持つ。また、使用者がこの電子機器1を手で持つ場合などは、突起10の上面だけが指に直接接することになるので、カバー6a,6bの温度が多少上昇したとしても使用者が熱さを感じにくいという効果があるし、突起10があることで滑り止めなどの効果もある。
【0032】本実施の形態の電子機器1の放熱構造においては、一端側が電子部品3に接触した受熱板5a,5bの他端側がケース4の外部に引き出され、その引き出された部分はケース4やカバー6a,6bの表面に接触することなく、空気層を介してある程度の面積をもってケース表面に沿うように配置されている。したがって、電子部品4から受熱板5a,5bに伝わった熱がケース外部に引き出された受熱板5a,5bの一部から空気層に充分放熱されることにより電子機器1の内部に極端な温度上昇が生じることがなく、熱による電子機器の異常を防止することができる。また、受熱板5a,5bのケース外部に引き出された部分がケース表面に接触していないので、ケース自身も充分に自然空冷され、これによってもケース内部の温度上昇が抑制されるという作用がある。そして、受熱板5a,5bのケース外部に引き出された部分はケース4から突出する方向に配置されるのではなく、ケース表面に沿うように折り曲げられて配置されるので、電子機器の小型化、薄型化を阻害することはない。
【0033】また、本実施の形態の場合、基板2の両面に電子部品3が実装されているが、2枚の受熱板5a,5bが各面に対応して設けられているので、いずれの側の電子部品3から発生する熱も確実に各受熱板5a,5bに伝わり、充分な空冷を行うことができる。また、各受熱板5a,5bのケース外部に位置する部分がケース4の異なる面に沿うように配置されるので、放熱が効率良く行われるのと同時に、2枚の受熱板を有していても電子機器がそれ程厚くなることがない。
【0034】[第2の実施の形態]以下、本発明の第2の実施の形態を図5を参照して説明する。図5は本実施の形態の電子機器の放熱構造を示す図であって、この放熱構造を適用した電子機器の斜視図である。基本構造は第1の実施の形態とほぼ同様であるが、受熱板の部分がケースと一体に形成されている点が異なっている。また、図5において図1と共通の構成要素には同一の符号を付す。
【0035】本実施の形態の電子機器20は、図5に示すように、上ケース7の上方に、上ケース7の上板7aの一辺側から上板7aに沿って延びる板部7cが上ケース7と一体に成形されている。この板部7cは上板7aと接触しておらず、板部7cと上板7aとの間には空気層が介在している。下ケース側も同様の構成であり、下ケース8の下方に、下ケース8の下板8aの一辺側から下板8aに沿って延びる板部8cが下ケース8と一体に成形されている。板部8cは下板8aと接触しておらず、板部8cと下板8aとの間には空気層が介在している。
【0036】本実施の形態の場合、上記のケース7,8と板部7c,8cが一体となって受熱部を構成するが、ただ単にABS樹脂等で形成された受熱部では熱伝導率が低く、受熱部が充分な放熱効果を発揮できない。そこで、各ケース7,8の内面および板部7c,8cの両面は、ABS樹脂よりも充分に高い熱伝導率を有する、例えばシリコン系熱伝導シートなどの材料でコーティングされている(図中、コーティング層21で示す)。コーティング層21はケース7,8の内面と板部7c,8cの両面の全面にわたって連続して形成されている。本実施の形態においては、ABS樹脂で形成されたケース7,8および板部7c,8c(絶縁性部材)とコーティング層21(熱伝導性部材)とで受熱部が構成されるが、主に熱の伝達に寄与するのはコーティング層21ということになる。よって、実際にはコーティング層21が発熱源である電子部品3に当接し、熱がコーティング層21内を伝わった後(ABS樹脂内も勿論伝わる)、板部表面のコーティング層21の部分からカバー6a,6b内の空気層に自然放熱される。
【0037】本実施の形態の電子機器20の放熱構造においても、電子機器の小型化、薄型化を阻害することなく、電子機器の内部に極端な温度上昇が生じるのを防止し、熱による電子機器の異常を防止することができる、という第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。さらに、筐体内の温度の均一化が図れるという本実施の形態特有の効果を得ることもできる。
【0038】[第3の実施の形態]以下、本発明の第3の実施の形態を図8〜図10を参照して説明する。図8は本実施の形態の電子機器の放熱構造を示す図であって、この放熱構造を適用した電子機器の斜視図である。図9は本実施の形態の特徴である受熱板の引き出し部分を拡大視した断面図である。
【0039】本実施の形態の電子機器30は、図8に示すように、基板31の一端側の両面に、IC等の電子部品32(発熱部)が片面に6個ずつ、計12個実装されている。電子機器30の動作時にこれら電子部品32が発熱源となる。ケース33はABS樹脂等からなる中空の箱体であって、上ケース34、下ケース35に2分割されており、電子部品32が実装された基板31が内部に収納できるようになっている。
【0040】1枚の受熱板36(受熱部)が、折り曲げられた状態で基板31の上面、下面に実装された電子部品32にそれぞれ当接するように装入されている。この受熱板36は、例えばグラファイトなどの熱伝導率の高い材料からなる薄板の両面に有機絶縁膜をコーティングしたものであり、全体の厚みが0.5mm程度である。グラファイトに代えて、シリコンシート、金属材料であれば銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金などを用いてもよい。また、受熱板36の一端側は上ケース34の上板34aに設けられたスリット34bを通って上ケース34の上方に引き出されている。この受熱板36の引き出し部分36aは上ケース34の上板34aを覆うように折り曲げられ、空気層を介して上ケース34の上板34aに沿って配置されている。すなわち、受熱板36の引き出し部分36aは上ケース34の上板34aを覆うように配置されているが、上板34aには接触していない。
【0041】受熱板36の引き出し部分36aの両面には、上ケース34の上方に引き出された箇所の近傍(引き出し部分36aの基端側)に圧電振動子37(振動手段)がそれぞれ設置されている。この圧電振動子37は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電体薄板の両面に駆動用電極を形成したものであり、電極間に交流電圧を印加することによって、図9に示すように、各圧電振動子37が引き出し部分36aの長手方向(図9の矢印Aの方向)に交互に伸縮を繰り返すことで引き出し部分36aをケース33外に引き出された箇所を支点としてその板厚方向(図9の矢印Bの方向)に振動させるものである。
【0042】そして、上ケース34の上面側に配置された受熱板36の引き出し部分36aを覆うように、ケース33と同様のABS樹脂等からなるカバー38が上ケース34に固定されている。カバー38は受熱板36を外側から覆ってはいるが、受熱板36の引き出し部分36aとは接触していない。よって、上ケース34とカバー38との間の空間内に、上ケース34ともカバー38とも接触しないように受熱板36の引き出し部分36aが装入された状態となっている。
【0043】また図8では図示を省略したが、第1、第2の実施の形態と同様、カバー38内部の熱を外部に逃がすための切り込みや、カバー38の表面積を大きくすることでカバー38からの放熱を促進する多数の突起などをカバー38に設けるようにしてもよい。
【0044】上記構成の放熱構造においては、電子部品32から発生した熱は電子部品32の表面から受熱板36に伝導され、受熱板36の内部を伝導してケース33の外側に引き出された引き出し部分36aから両面に接する空気層に放熱される。同時に、引き出し部分36aに設置した圧電振動子37を駆動することにより引き出し部分36aが振動するので、強制空冷の形となって放熱がより促進される。この際、圧電振動子37を駆動する印加交流電圧の周波数を調整し、引き出し部分36aの固有振動数(あるいは共振周波数)でできるだけ振動させるようにする。このようにすると、引き出し部分36aが大きい振幅で振動し、放熱効率をより高めることができる。
【0045】ここで、受熱板の構成材料を変えた場合の固有振動数および共振周波数を計算した例を示す。受熱板の振動を片持ち梁の振動とみなした時の固有振動数ω、共振周波数fはそれぞれ次式で表される。
ω=(λ/l)2・√{(E・I)/(ρ・A)} …(1)
f=ω/2π …(2)
ただし、λ≒1.875、E:ヤング率、I:断面二次モーメント(断面が長方形の時、I=bh3/12(b:梁の幅、h:梁の厚み))、ρ:密度、A:梁の断面積、l:梁の長さ、である。
【0046】受熱板の構成材料を銅、アルミニウム、シリコンとしたときの固有振動数ω、共振周波数fの値を表1に示す。
【0047】
【表1】


【0048】このように、固有振動数(共振周波数)は受熱板の構成材料や寸法によって固有の値であるから、この固有振動数(共振周波数)に合致した振動が得られるように圧電振動子の駆動を制御することが望ましい。
【0049】放熱(回転)ファンなどを用いた従来の強制空冷の構造では、任意の熱伝導材を用いて発熱部から放熱部まで熱を伝導させた後、放熱ファンに接続する必要があり、ファンの設置に大きなスペースを要していた。これに対し、本実施の形態の放熱構造は受熱部36の一部である引き出し部分36a自体を振動させる構成であり、いわば熱伝導材を用いて熱をケース外部に運搬し、その同じ熱伝導材を振動させることで強制空冷するものであるから、回転ファンのような別の大型の部品を使用する必要がなく、放熱構造の簡略化が図れるとともに電子機器の小型化や薄型化を阻害することがない。
【0050】さらに本実施の形態においては、圧電振動子37を用いて受熱部36の引き出し部分36aを振動させているが、圧電振動子37は現在、0.1mmオーダーの薄型軽量のものが提供されており、この種の圧電振動子37を受熱部36の引き出し部分36aに容易に取り付けることができ、電子機器の小型化や薄型化を阻害することなく、引き出し部分の振動を電気的に制御することができる。
【0051】本実施の形態の放熱構造においては、受熱板36がグラファイトシートなどの表面に有機絶縁コーティングが施されたものであるから、受熱部36がケース33内において他の電子部品などと接触することがあっても、短絡等の電気的な不具合が生じる恐れがない。
【0052】なお、本実施の形態では、図9に示したように、受熱部36の引き出し部分36aの断面形状(厚み、幅など)が基端側から先端側にかけて一定のものを用いたが、基端側と先端側とで異なるものを用いてもよい。例えば図10に示すように、引き出し部分40の基端側40aの厚みを厚く、先端側40bの厚みを薄くというように引き出し部分40を構成する熱伝導材の厚みを変える構成としてもよい。これは、引き出し部分40の基端側40aはそれ程振動しないため、伝熱効率の方を重視して必要な熱抵抗から決まる厚みに設定し、先端側40bは振動が大きいため、振動のしやすさを重視して振動に最適な固有振動が得られる厚みに設定するという観点の構造である。このように、引き出し部分の基端側と先端側とで要求される伝熱と振動とのバランスを考慮して断面形状を変えれば、受熱部の最適な設計を行うことができる。
【0053】さらに、受熱部の引き出し部分にフィンや開口部を形成して放熱面積を大きくしたり、引き出し部分の平面形状を例えば音叉状に変えたりしてもよく、これらの手段により放熱効率をさらに高めることが可能である。
【0054】なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば基板および電子部品を収納するケースの構成、受熱部の形状、カバーの構成などの具体的な記載については上記実施の形態に限ることなく、適宜設計変更が可能である。受熱部の材料に関しては、グラファイトに限らず、金属材料を使うならば銅、アルミニウム、銀等を用いることができる。上記実施の形態ではケースとカバーは別体のものとしたが、ケースとカバーは一体のものであってもよい。また、本発明が適用される電子機器の種類は問わず、小型、薄型が要求される種々の電子機器に好適である。
【0055】
【実施例】本発明者らは、本発明の効果を実証するために、機器を実際に作製して放熱効果の測定を行った。以下、その結果について報告する。
【0056】60mm×20mmの基板の一端側の両面に、第1の実施の形態で説明したように、片面6個ずつ、計12個の電子部品(IC)を実装したものを準備し、この基板を種々の形態のケース内に収納したサンプルを作製した。
【0057】比較例1として、図6に示すように、基板100を単にABS樹脂からなるケース101内に収納しただけで電子部品102とケース101との間に空隙があるサンプル、比較例2として、図7に示すように、基板100をABS樹脂からなるケース101内に収納するとともに電子部品102とケース101との間に厚さ0.1mmのグラファイトシート103を挟持させたサンプル、比較例3として、比較例2のグラファイトシート103を同じ厚さの銅板に変えたサンプル、実施例1として本発明の第1の実施の形態の放熱構造(グラファイトシートをケース外に引き出して折り返したもの)を有するサンプルをそれぞれ作製した。
【0058】上の4種類のサンプルにおいて、同じ条件で電子部品を駆動させ、定常状態に達した時の電子部品(発熱源)の温度、基板上の9箇所の測定点における温度を測定した。その結果を表2に示す。
【0059】
【表2】


【0060】ただし、表2において、「T0」は電子部品の温度、「Tmax」は9箇所の測定点のうちの最高温度、「Tmin」は同、最低温度、「Tmax−Tmin」は最高温度と最低温度の差、「ΔT」は比較例1を基準としたときの「Tmax−Tmin」の低下分を示す。
【0061】表2に示すように、比較例1では電子部品の温度が85.1℃、基板の温度が30.7〜73.1℃、基板面内の温度差が42.4℃であった。これに対し、グラファイトシートを装入した比較例2では電子部品の温度が67.6℃に下がり、基板の温度が31.6〜62.1℃、基板面内の温度差が30.5℃となった。したがって、基板面内の温度差で見ると、グラファイトシートを装入したことで比較例1に対して基板温度を11.9℃下げることができた。また、銅板を装入した比較例3も比較例2とほぼ同様の傾向を示し、比較例1に対する温度低減効果は11.2℃であった。
【0062】これに対して、実施例1の場合、電子部品の温度は68.9℃で比較例2,3とほとんど変わらないものの、基板の温度が30.1〜54.7℃、基板面内の温度差が24.6℃と、比較例2,3と比べて大きく低下させることができた。基板面内の温度差で見ると、グラファイトシートを装入し、さらにケース外方に引き出して折り返した構造としたことで比較例1に対して基板温度を17.8℃も下げることができた。
【0063】この結果から、電子部品等の発熱源と筐体との間に熱伝導部材がない(空気層が介在している)場合に比べて、上のようなグラファイト、銅等の熱伝導率の高い材料からなる熱伝導材を介在させるだけで放熱効果をある程度までは向上させることはできる。しかしながら、さらに本発明のように、熱伝導材を筐体の外部まで引き出し、筐体に接触しないように筐体に沿って折り曲げる構造とすると、単に熱伝導材を介在させた場合と比べて放熱効果をより大きく改善できることが実証された。
【0064】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明によれば、電子機器の小型化、薄型化を阻害することなく、電子機器の内部に極端な温度上昇が生じるのを防止し、熱による電子機器の異常を防止することができる。これにより、近年望まれている、より小型、薄型で信頼性の高い電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態の電子機器の放熱構造を示す斜視図である。
【図2】 図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】 同、電子機器を分解した状態(カバーを除く)を示す斜視図である。
【図4】 同、電子機器を分解した状態(カバーを含む)を示す斜視図である。
【図5】 本発明の第2の実施の形態の電子機器の放熱構造を示す斜視図である。
【図6】 本発明の効果検証実験で用いた比較例1のサンプルの構造を示す断面図である。
【図7】 本発明の効果検証実験で用いた比較例2,3のサンプルの構造を示す断面図である。
【図8】 本発明の第3の実施の形態の電子機器の放熱構造を示す斜視図である。
【図9】 同、放熱構造における受熱板の引き出し部分を拡大視した図であって、図8のIX−IX線に沿う断面図である。
【図10】 同、受熱板の引き出し部分の断面形状の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
1,20,30 電子機器
2,31 プリント基板
3,32 電子部品(発熱部)
4,33 ケース(筐体)
5a,5b,36 受熱板(受熱部)
6a,6b,38 カバー
7,34 上ケース
7c,8c 板部
8,35 下ケース
9 切り込み(放熱手段)
10 突起(放熱手段)
37 圧電振動子(振動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 発熱部が配置された基板が筐体の内部に設けられた電子機器の放熱構造であって、前記発熱部から熱を受ける受熱部が前記筐体の内部に設けられるとともに、前記受熱部の一部が前記筐体の内部から外部に引き出され、前記受熱部の筐体外部に引き出された部分が、筐体表面の少なくとも一部を覆うように折り曲げられ、空気層を介して筐体表面に沿うように配置されたことを特徴とする電子機器の放熱構造。
【請求項2】 発熱部が配置された基板が筐体の内部に設けられた電子機器の放熱構造であって、前記発熱部から熱を受ける受熱部が前記筐体と一体に構成されるとともに、前記受熱部の一部が前記筐体からその外部に向けて延在し、前記受熱部の前記筐体の外部に延在する部分が、筐体表面の少なくとも一部を覆うように折り曲げられ、空気層を介して筐体表面に沿うように配置されたことを特徴とする電子機器の放熱構造。
【請求項3】 前記発熱部が前記基板の両面に配置され、前記受熱部が前記発熱部を挟んで前記基板の両面側にそれぞれ設けられ、前記受熱部の筐体外部に位置する部分の各々が前記筐体表面の異なる面に沿うように配置されたことを特徴とする請求項1または2記載の電子機器の放熱構造。
【請求項4】 前記受熱部が、グラファイト材からなることを特徴とする請求項1または2記載の電子機器の放熱構造。
【請求項5】 前記受熱部が、絶縁性部材と該絶縁性部材に接合された熱伝導性部材とからなることを特徴とする請求項1または2記載の電子機器の放熱構造。
【請求項6】 前記受熱部の筐体外部に位置する部分を覆うカバーが設けられ、該カバーに前記受熱部からの放熱を促進する放熱手段が設けられたことを特徴とする請求項1または2記載の電子機器の放熱構造。
【請求項7】 前記カバーが前記筐体と一体に形成されたことを特徴とする請求項6記載の電子機器の放熱構造。
【請求項8】 発熱部が配置された基板が筐体の内部に設けられた電子機器の放熱構造であって、前記発熱部から熱を受ける受熱部が前記筐体の内部に設けられるとともに、前記受熱部の一部が前記筐体の内部から外部に引き出され、前記受熱部の筐体外部に引き出された引き出し部分を振動させる振動手段が前記引き出し部分に設けられたことを特徴とする電子機器の放熱構造。
【請求項9】 前記受熱部が、銅または銅合金、もしくはアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板体、グラファイトシート、シリコン系シートのいずれかからなることを特徴とする請求項8記載の電子機器の放熱構造。
【請求項10】 前記受熱部が、銅または銅合金、もしくはアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板体、グラファイトシートのいずれかからなり、少なくともその一部が絶縁材で被覆されていることを特徴とする請求項8記載の電子機器の放熱構造。
【請求項11】 前記受熱部の引き出し部分の固有振動数で振動させることを特徴とする請求項8記載の電子機器の放熱構造。
【請求項12】 前記受熱部の引き出し部分の断面形状が、前記筐体外部へ引き出された箇所の近傍と振動先端側とで異なることを特徴とする請求項8記載の電子機器の放熱構造。
【請求項13】 前記振動手段が圧電振動子であることを特徴とする請求項8記載の電子機器の放熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2002−344180(P2002−344180A)
【公開日】平成14年11月29日(2002.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−184830(P2001−184830)
【出願日】平成13年6月19日(2001.6.19)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】