説明

電子機器の端子装置

【課題】樹脂製端子台のナット挿入穴に嵌合して回り止め保持したナットに端子ネジを螺合して外線ケーブルを主回路の導体バーに接続する端子装置において、端子台の強度確保,信頼性向上が図れるようにナットの回り止め構造を改良する。
【解決手段】端子台1に形成したナット挿入穴6に六角ナット4を嵌め合い保持した上で、六角ナット4に端子ネジ3を螺合したものにおいて、前記ナット挿入穴6を、六角ナット4の外形に相応した穴形状を基本としてこの六角穴の各対角部に六角ナット4の角部4aとの接触を避ける凹状の逃げ溝6aを形成した異形穴とし、さらに前記逃げ溝6aを挟んで六角穴の各辺にはナット4の平坦な周面が当接するように角度付けしたテーパー壁面6b,6cを形成し、端子ネジ3の締め付け時に六角ナット4の角部4aがナット挿入穴6の壁面を削ってナット4が空回りしたり、端子台が応力でクラック割れするのを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汎用インバータ装置などを対象とする電子機器の端子装置に関し、詳しくは樹脂製の端子台に嵌め込み装着して端子ネジを螺合するナットの回り止め構造に係わる。
【背景技術】
【0002】
頭記のインバータ装置は、その主回路に電源,負荷を接続するための端子装置として、樹脂成型品になるケースの端子台に引出した主回路の導体バーに端子ネジを介して外線ケーブルを接続するようにしており、その構造例として前記端子台に形成したナット挿入穴に六角ナットを嵌め込んで回り止め保持した上で、該六角ナットに前記導体バーに挿通した端子ネジを螺合し、該端子ネジの締め付けにより接続ケーブルを導体バーとの間に挟持圧接するようにした端子装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記端子台に形成したナット挿入穴は、端子ネジを締め付けた際にナットが共回りしないように六角ナットの外形に相似な六角形状であり、ナット挿入の組立性を考慮してあらかじめナット外形よりも一回り大きな寸法(0.5〜0.8mm程度)に設定してナットを嵌め合い保持(緩合)するようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
次に、前記構成に基づく従来構造の端子装置を図2,図3に示す。図において1は樹脂成型品になる端子台、2は端子台1の上に引出した主回路の導体バー、3は導体バー2に嵌挿した端子ネジ、3aは端子ネジ3の座金、4は端子ネジ3に螺合する六角ナット、5は導体バー2に接続する外線ケーブルであり、前記六角ナット4は端子台1の台面に形成した凹状のナット挿入穴6に嵌合して回り止め保持されている。
【0005】
ここで、前記ナット挿入穴6は六角ナット4の外形に相似な六角形状の穴であって、図3に示すナット挿入状態でナット挿入穴6と六角ナット4との間にクリアランス(遊び隙間)を確保するように穴の大きさが設定されている。
【0006】
上記の端子装置で導体バー2に外線ケーブル5を接続するには、図示のように外線ケーブル5の端部を前方から導体バー2と該導体バー2に嵌挿した端子ネジ3の座金3aとの間に差込み、この状態で六角ナット4に螺合した端子ネジ3を工具により締め付けるようにしている。なお,端子台1に形成したナット挿入穴6の上面は導体バー2で塞がれているので、ナット挿入穴6に嵌め込んだ六角ナット4は脱落することはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−324855号公報(図6)
【特許文献2】特開2001−118615号公報(図1〜図3,[0008])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記した従来構造の端子装置は、端子台の強度,信頼性の面で次記のような問題点がある。すなわち、端子装置の組立状態で六角ナット4に螺合した端子ネジ3を締め付けると、図3で表すように端子台1のナット挿入穴6に嵌合した六角ナット4は、ナット挿入穴6との間の遊び間隙(クリアランス)により端子ネジ3と共回りして軸中心Oの回りを破線位置に回動し、六角ナット4の角部4a(エッジ状に尖っている)が端子台1のナット挿入穴6の内周壁面に当たる。この状態で端子ネジ3に加える締め付け力を更に増すと、締め付けトルクにより六角ナット4の角部4aがナット挿入穴6の内周壁面に食い込み、六角ナットの角部4aとの当接部Pに齧りが発生してナット挿入穴6の壁面に過大な応力が集中的に加わるようになる。
【0009】
このために、端子ネジ3に大きな締め付けトルクを加えると、六角ナット4の角部4aとの齧りによって樹脂成型品の端子台1に形成したナット挿入穴6の壁面が削られてナット4が空回りするようになったり、集中応力により端子台1にクラック割れが生じたりして端子装置としての機能が喪失するおそれがある。そこで、従来は端子台1におけるナット挿入穴周辺の肉厚を厚く設計したり、端子ネジ3の締め付けトルクを低めに管理するなどして対応しているのが現状である。しかしながら、ナット挿入穴周辺の肉厚を厚く設計すると、端子台1が大形化するほか、樹脂材料の重量が増してコストアップとなる。また、端子ネジ3の締め付けトルクを低めに管理すると、端子ネジ3の締結力が小さくなってバー導体2に接続した外線ケーブル5が抜け易くなる。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、端子台に嵌め込み装着したナットの回り止め構造を改良することにより、前記課題を解消して端子台の強度確保,信頼性向上が図れるようにした電子機器の端子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明によれば、樹脂成型品になる端子台に引出した導体バーに端子ネジを介して外線ケーブルを接続する電子機器の端子装置で、前記端子台に形成したナット挿入穴に六角ナットを嵌合して回り止め保持した上で、該六角ナットに前記端子ネジを螺合したものにおいて、
前記のナット挿入穴を、六角ナットの外形に相応した六角形の穴形状を基本として該六角穴の各対角部に六角ナットの角部との接触を避ける凹状の逃げ溝を形成した異形穴で形成する(請求項1)。
【0012】
また、前記形状のナット挿入穴には、凹状の逃げ溝を挟んで六角形状の各辺に六角ナットの平坦な周面が当接するように角度付けしたテーパー壁面を形成する(請求項2)。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によるナットの回り止め構造によれば、端子装置の組立状態で六角ナットに螺合した端子ネジを締め付け操作する過程で六角ナットが共回りしようとしても、六角ナットの角部はナット挿入穴にあらかじめ形成しておいた凹状の逃げ溝内を非接触のまま変位するだけで、六角ナットの角部がナット挿入穴の壁面に当たって食い込むような齧り現象が発生しない。しかも、端子ネジの締め付け操作により六角ナットが僅かな角度だけ共回りし始めると、六角ナットの角部との干渉なしにナットの平坦な周面がナット挿入穴の各辺に形成したテーパー壁面に当接して六角ナットがこれ以上は回動しないように回り止め保持される。
【0014】
したがって、この状態から端子ネジに加える締め付けトルクを増しても、六角ナットの角部とナット挿入穴との間には齧りが発生せず、しかもナットの周面とナット挿入穴のテーパー面が面接触状態に重なり合うので、ナット挿入穴の壁面に作用する応力が分散して軽減される。
【0015】
これにより、従来構造で問題になっていた六角ナットの空回り,端子台の集中荷重によるクラック割れなどのダメージを回避して端子装置の強度確保,信頼性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例による端子台のナット回り止め構造を表す図であって、(a)は端子台のナット挿入穴に六角ナットを嵌め合い保持した状態の平面図、(b)は六角ナットに螺合した端子ネジを締め付けた状態図、(c)はナット挿入穴の形状を表す平面図である。
【図2】本発明の実施対象となる端子装置の組立構造を表す分解斜視図である。
【図3】図2における端子台のナット挿入穴に嵌合した六角ナットの従来の回り止め構造を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1(a)〜(c)に示す実施例に基づいて説明する。なお、実施例の図中で図2,図3に対応する同一部材には同じ符号を付してその説明は省略する。
【0018】
図示実施例の端子装置は基本的に図2の構造と同じであるが、端子台1に形成したナット挿入穴6が次記のような異形形状に形成されている。すなわち、従来の回り止め構造ではナット挿入穴6は図3で示すように六角ナット4の外形に相似な六角穴形状であるのに対して、図1に示す本発明の実施例では、六角ナット4の外形に相応した六角形の穴形状を基本として該六角穴の各対角部には六角ナット4の角部4aとの接触を避ける凹状の逃げ溝6aを形成し、さらに前記逃げ溝6aを挟んで六角形状穴の各辺には、六角ナット4の周面(平坦面)が面接触するように角度付けしたテーパー壁面6b、および6cが形成されている。
【0019】
次に、端子台1に形成した図示実施例のナット挿入穴6による回り止め機能,および効果を図1(a),(b)で説明する。まず、異形形状のナット挿入穴6に六角ナット4を挿入した嵌め合い状態(図1(a)参照)では、六角ナット4の各角部4aがナット挿入穴6の凹状逃げ溝6aに遊嵌してナット挿入穴6の内壁面とは離間している。この状態で六角ナット4に螺合した端子ネジ3に締め付け力を加えると(図1(b)参照)、六角ナット4は端子ネジ3と共回りして軸中心Oの回りに変位しようとするが、僅かな角度だけ移動(矢印方向)したところで、図示のように六角ナット4の周面(平坦面)がナット挿入穴6の各辺部に角度付けして形成したテーパー壁面6bに当たって面接触状態に重なり合うようになる。
【0020】
この状態では、前記テーパー壁面6bがナットの共回りを阻止するストッパとして機能し、六角ナット4はこれ以上共回りしないように係止保持される。しかも、六角ナット4の周面とナット挿入穴6のテーパー面6bとは面接触しているので、端子台1には端子ネジ3の締め付け応力が分散して集中することがない。なお、この回り止め位置では六角ナット4の角部4aが前記逃げ溝6aの領域内に止まっていてナット挿入穴6の壁面とは非接触の状態を維持している。
【0021】
なお、端子ネジ3を締め付けた締結状態から弛める方向に操作すると、六角ナット4には締め付けと逆方向に端子ネジ3と共回りするような力が加わるが、この場合には六角ナット4の周面がナット挿入穴6の各辺に形成したテーパー壁面6cに当接(面接触)したところで六角ナット4のその以上の回動が阻止されるので、角部4aとの齧り発生を避けつつ端子ネジ3を弛めることができる。
【0022】
これにより、図3で述べた従来形状のナット挿入穴のように、六角ナット4の角部4aとナット挿入穴6との壁面との当接により生じた齧りが原因で、端子ネジ3を大きな締め付けトルクを加えて締め付けた際にナット挿入穴6の壁面が削られて六角ナット4が空回りしたり、ナット挿入穴6の壁面に加わる集中応力で樹脂成型品の端子台1にクラック割れが生じたりする危惧を未然に防いで端子台1の強度確保,信頼性の向上が図れる。
【0023】
そのほか、端子台1の強度面から端子ネジ3の締め付けトルク値を低めに管理する必要もなく、外線ケーブル5を主回路の導体バー3に強固に締結接続することができるほか、従来構造のように六角ナット4の角部4aとの齧りに起因する集中応力を考慮して端子台1のナット挿入穴周域で樹脂の肉厚を増す必要もなくて樹脂材料費を低減できる効果も得られる。
【0024】
なお、本発明は頭記したインバータ装置の端子台への適用に限定されるものではなく、各種電子機器の端子装置にも同様に実施適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0025】
1 端子台
2 導体バー
3 端子ネジ
4 六角ナット
4a 角部
5 外線ケーブル
6 ナット挿入穴
6a 逃げ溝
6b テーパー面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成型品になる端子台に引出した導体バーに端子ネジを介して外線ケーブルを接続する電子機器の端子装置であって、前記端子台に形成したナット挿入穴に六角ナットを嵌合して回り止め保持した上で、該六角ナットに前記端子ネジを螺合したものにおいて、
前記ナット挿入穴を、六角ナットの外形に相応した六角形の穴形状を基本として該六角穴の各対角部に六角ナットの対角エッジとの接触を避ける凹状の逃げ溝を形成した異形穴で形成したことを特徴とする電子機器の端子装置。
【請求項2】
請求項1に記載の端子装置において、ナット挿入穴には、凹状の逃げ溝を挟んで六角形状の各辺に六角ナットの周面が当接するように角度付けしたテーパー壁面を形成したことを特徴とする電子機器の端子装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−8619(P2013−8619A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141641(P2011−141641)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】