説明

電子源及び処理装置

【課題】活性雰囲気で長時間の使用が可能な、簡単な構造でなる電子源、及びこの電子源が用いられた処理装置を提供する。
【解決手段】アノード電極1及びカソード電極2間に電圧が加えられ、カソード電極2から電子が放出される。主にカソード電極2の磁気ギャップ6の近傍から放出された電子は、磁気ギャップ6での磁界の作用によりホール運動を行う。この電子がガス導入部3により導入されたガスの分子に衝突することで、ガスの分子が効率よく電離される。これにより磁気ギャップ6の近傍でプラズマ16が発生する。発生したプラズマ16内にある電子は、アノード電極1及びカソード電極2間の電界により、アノード電極1の方向へ加速され、スリット4を介して照射対象物に照射される。つまり、アノード電極1及びカソード電極2間に電圧が加えられることで、プラズマ16の発生と電子の加速及び照射とが共に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子を照射する電子源、及びこの電子源が用いられた処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや電子製品等を製造する技術として、プラズマイオンプレーティングやイオンビームスパッタリング等の様々な成膜技術が知られている。これらの成膜技術では、正のイオンを対象物に照射するイオンビーム源が用いられる場合が多い。例えば特許文献1には、基板上に金属酸化膜を形成する際の、酸化アシスト等のために用いられるイオンビーム源が記載されている。
【0003】
ところで、イオンビーム源により基板に正のイオンが照射されると、イオンが基板に蓄積され、基板全体が帯電する場合がある。この場合、帯電した基板から異常放電が生じ、基板が損傷してしまうことがある。基板損傷の原因となる基板の帯電を防止するために、電子銃により電子ビームを基板に照射して、基板上の正の電荷を中性化する技術が知られている。例えば特許文献2には、電子ビームを基板に照射する電子銃として、高周波電源に接続された高周波誘導コイルが用いられる電子銃や、フィラメントを加熱することで熱電子を放出させる電子銃が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−127611号公報(段落[0008]、図2)
【特許文献2】特許第3606842号(段落[0004]、[0038]、図2、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フィラメント等の熱陰極から熱電子を放出させる電子銃や、ホローカソードを用いた電子銃では、酸素等の活性雰囲気では寿命が短くなってしまう。また高周波やマイクロ波を用いた電子銃では、高周波やマイクロ波を発生させるための構造が必要となり、また電源も高価である。電子銃としては、ペニング放電等の冷陰極放電が用いられるものもあるが、このような電子銃では電子を引き出すための電極が必要となる。そうすると、プラズマ生成用の電源に加えて上記電極用の電源が必要となり、そのための配線等で構造が複雑になる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、活性雰囲気で長時間の使用が可能な、簡単な構造でなる電子源、及びこの電子源が用いられた処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る電子源は、カソード電極と、アノード電極と、ガス導入部とを具備する。
前記カソード電極は、磁気ギャップを有する磁気回路でなる。
前記アノード電極は、前記磁気ギャップと向かい合う開口を有し、前記磁気回路の外側に配置され、前記カソード電極との間に電界を発生させる。
前記ガス導入部は、前記電界及び前記磁気回路による前記磁気ギャップでの磁界の作用によりプラズマを発生させ、前記プラズマ中の電子を前記開口を介して放出させるために、前記磁気回路内にガスを導入する。
【0008】
本発明の一形態に係る処理装置は、チャンバと、電子源とを具備する。
前記電子源は、カソード電極と、アノード電極と、ガス導入部とを有し、前記チャンバ内に設けられる。
前記カソード電極は、磁気ギャップを有する磁気回路でなる。
前記アノード電極は、前記磁気ギャップと向かい合う開口を有し、前記磁気回路の外側に配置され、前記カソード電極との間に電界を発生させる。
前記ガス導入部は、前記電界及び前記磁気回路による前記磁気ギャップでの磁界の作用によりプラズマを発生させ、前記プラズマ中の電子を前記開口を介して放出させるために、前記磁気回路内にガスを導入する。
【0009】
本発明の別の形態に係る電子源は、磁気回路と、アノード電極と、カソード電極と、ガス導入部とを具備する。
前記磁気回路は、磁気ギャップを有する。
前記アノード電極は、前記磁気ギャップと向かい合う開口を有し、前記磁気回路の外側に配置される。
前記カソード電極は、前記磁気回路と前記アノード電極との間に配置され、前記アノード電極との間に電界を発生させる。
前記ガス導入部は、前記電界及び前記磁気回路による前記磁気ギャップでの磁界の作用によりプラズマを発生させ、前記プラズマ中の電子を前記開口を介して放出させるために、前記磁気回路内にガスを導入する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子源を示す模式的な斜視図である。
【図2】図1に示す電子源のA−A線断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る電子源の磁気回路を説明する模式的な図である。
【図4】本発明の別の実施形態に係る電子源を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る処理装置を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態に係る電子源は、カソード電極と、アノード電極と、ガス導入部とを具備する。
前記カソード電極は、磁気ギャップを有する磁気回路でなる。
前記アノード電極は、前記磁気ギャップと向かい合う開口を有し、前記磁気回路の外側に配置され、前記カソード電極との間に電界を発生させる。
前記ガス導入部は、前記電界及び前記磁気回路による前記磁気ギャップでの磁界の作用によりプラズマを発生させ、前記プラズマ中の電子を前記開口を介して放出させるために、前記磁気回路内にガスを導入する。
【0012】
アノード電極及びカソード電極間に電圧が加えられることで、カソード電極から電子が放出される。放出された電子は、磁気ギャップでの磁界の作用によりホール運動を行う。この電子がガス導入部により導入されたガスの分子に衝突することで、ガスの分子が効率よく電離される。これにより磁気ギャップの近傍でプラズマが発生する。発生したプラズマ内にある電子は、アノード電極及びカソード電極間の電界により、アノード電極の方向へ加速される。アノード電極には開口が設けられているので、アノード電極の方向へ加速された電子はその開口を介して、照射対象物に照射される。つまり、アノード電極及びカソード電極間に電圧が加えられることで、プラズマの発生と電子の加速及び照射とが共に行われる。
【0013】
つまり本形態の電子源では、高周波やマイクロ波を発生させるための構造や、電子を引き出すための電極が不要となる。また、カソード電極及びアノード電極として、フィラメント等の熱陰極を用いなくてもプラズマを発生させることができる。従って、活性雰囲気で長時間の使用が可能な、簡単な構造でなる電子源を実現することができる。
【0014】
前記アノード電極は、前記磁気回路を覆う筐体の一部又は全部を構成してもよい。磁気回路を覆う筐体内部にガスが導入されるので、ガスが拡散する範囲が狭められ、ガスの圧力が高くなる。これにより、ガスの電離が効率よく行われる。また、筐体内部への異物の混入を防ぐことで、プラズマの発生や電子の加速等を効率よく行うことができる。また、例えば本形態の電子源が他の装置と共に用いられる場合に、磁気回路内に導入されたガスが他の装置へ流出し、その装置に悪影響をおよぼすことを防ぐことができる。
【0015】
前記開口の形状は、前記磁気ギャップの形状に対応していてもよい。これにより、磁気ギャップの近傍で発生したプラズマから、開口を介して、効率よく電子が照射対称物に照射される。
【0016】
前記磁気ギャップ及び前記開口の形状は、スリット状であってもよい。これにより、スリット状の磁気ギャップ及び開口の長さ方向にわたって、電子を照射対称物に照射することができる。スリット状の磁気ギャップ及び開口の長さを所望のものとすることで、電子が照射される範囲を所望のものとすることができる。
【0017】
前記電子源は、前記カソード電極及び前記アノード電極のうち少なくとも一方を冷却する冷却部材をさらに具備してもよい。
【0018】
本発明の一形態に係る処理装置は、チャンバと、電子源とを具備する。
前記電子源は、カソード電極と、アノード電極と、ガス導入部とを有し、前記チャンバ内に設けられる。
前記カソード電極は、磁気ギャップを有する磁気回路でなる。
前記アノード電極は、前記磁気ギャップと向かい合う開口を有し、前記磁気回路の外側に配置され、前記カソード電極との間に電界を発生させる。
前記ガス導入部は、前記電界及び前記磁気回路による前記磁気ギャップでの磁界の作用によりプラズマを発生させ、前記プラズマ中の電子を前記開口を介して放出させるために、前記磁気回路内にガスを導入する。
【0019】
電子源が簡単な構造でなるので、チャンバ内に簡単に電子源を設置することができる。またチャンバ内での電子源を設置できる箇所が多くなる。
【0020】
本発明の別の形態に係る電子源は、磁気回路と、アノード電極と、カソード電極と、ガス導入部とを具備する。
前記磁気回路は、磁気ギャップを有する。
前記アノード電極は、前記磁気ギャップと向かい合う開口を有し、前記磁気回路の外側に配置される。
前記カソード電極は、前記磁気回路と前記アノード電極との間に配置され、前記アノード電極との間に電界を発生させる。
前記ガス導入部は、前記電界及び前記磁気回路による前記磁気ギャップでの磁界の作用によりプラズマを発生させ、前記プラズマ中の電子を前記開口を介して放出させるために、前記磁気回路内にガスを導入する。
【0021】
磁気回路及びカソード電極は一体に設けられてもよいし、それぞれが別体に設けられてもよい。
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。以下の説明では、典型的な例として材料や寸法等が挙げられているが、これはその材料や寸法等に限られるという意味ではない。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子源を示す模式的な斜視図である。図2は、そのA−A線断面図であるが、図2には模式的な配線図も図示されている。
【0024】
電子源100はアノード電極1と、カソード電極2と、ガス導入部3とを有する。アノード電極1は筐体の形態でなり、カソード電極2を内部に収容している。またアノード電極1の前方面14にはレーストラック状のスリット(開口)4が形成されており、このスリット4を介して照射対象物に電子が照射される。
【0025】
アノード電極1としては、例えばステンレス、アルミニウム又は銅等が用いられる。アノード電極1の典型的な寸法としては、長さ(Y方向の大きさ)が380mmであり、幅(X方向の大きさ)が100mmであり、高さ(Z方向の大きさ)が80mmである。また、スリット4の幅は、典型的には2mmである。
【0026】
カソード電極2は磁性を有する材料でなり、アノード電極1の内部に配置された永久磁石5及びカソード電極2により磁気回路が構成される。この磁気回路を構成するカソード電極2の前方面15には、アノード電極1のスリット4と向かい合うレーストラック状の磁気ギャップ6が形成されている。図2には磁気ギャップ6における磁束の向きが示されている。
【0027】
図3は、上記の磁気回路を説明する模式的な図である。カソード電極2の内部に永久磁石5が、カソード電極2の長さ方向にわたって配置される。永久磁石5は、例えばS極がカソード電極2に形成された2つの磁気ギャップ6の間に位置するように、またN極がカソード電極2の後方面7の略中央部に位置するように設けられる。これにより、図3に示す向きでカソード電極2を磁束が通る磁気回路が構成される。
【0028】
カソード電極2の後方面7の略中央部には、磁気回路内にガスが導入されるための導入口8が設けられている。導入口8にはガス導入部3が取り付けられる取付部9が設けられている。ガス導入部3は、アノード電極1の後方面10の略中央部に設けられる。ガス導入部3は、絶縁物11を介して後方面10を貫通する導入管12を有し、導入管12の先端は、カソード電極2の取付部9から導入口8へ通じている。これにより磁気回路内へガスが導入される。カソード電極2は、図示しない絶縁性のスペーサにより、アノード電極1との間に隙間ができるように配置されている。
【0029】
カソード電極2としては、典型的にはSUS430等の磁性を有するステンレスが用いられるが、この他に純鉄やパーマロイ等が用いられてもよい。永久磁石5は、典型的にはSmCo合金からなる。また磁気ギャップ6の幅は典型的には2mmであり、アノード電極1及びカソード電極2の隙間の大きさも典型的には2mmである。
【0030】
図2に示すように、アノード電極1とカソード電極2の間には、直流の電源13が接続される。アノード電極1は接地され、カソード電極2は負電極に接続される。
【0031】
電子源100の動作について説明する。図示しないガスの供給源からガス導入部3の導入管12を介して、例えばAr、N、O2又はXe等のガスが磁気回路内に導入される。また、アノード電極1及びカソード電極2間に電圧が加えられる。加えられる電圧の大きさは、典型的には1500Vである。
【0032】
アノード電極1及びカソード電極2間に電圧が加えられることで、カソード電極2から電子が放出される。放出された電子のうち、主にカソード電極2の磁気ギャップ6の近傍から放出された電子は、磁気ギャップ6での磁界の作用によりホール運動を行う。この電子がガス導入部3により導入されたガスの分子に衝突することで、ガスの分子が効率よく電離される。これにより図2で示すように磁気ギャップ6の近傍でプラズマ16が発生する。発生したプラズマ16内にある電子は、アノード電極1及びカソード電極2間の電界により、アノード電極1の方向へ加速される。アノード電極1にはスリット4が設けられているので、アノード電極1の方向へ加速された電子はスリット4を介して、照射対象物に照射される。つまり、アノード電極1及びカソード電極2間に電圧が加えられることで、プラズマ16の発生と電子の加速及び照射とが共に行われる。
【0033】
つまり本実施形態の電子源100では、高周波やマイクロ波を発生させるための構造や、電子を引き出すための電極が不要となる。また、アノード電極1及びカソード電極2として、フィラメント等の熱陰極を用いなくてもプラズマ16を発生させることができる。従って、活性雰囲気で長時間の使用が可能な、簡単な構造でなる電子源を実現することができる。
【0034】
本実施形態では、アノード電極1は筐体の形態でなり、磁気回路を構成するカソード電極2を内部に収容している。従って、磁気回路を覆う筐体内部にガスが導入されるので、ガスが拡散する範囲が狭められ、ガスの圧力が高くなる。これにより、ガスの電離が効率よく行われる。また、筐体内部への異物の混入を防ぐことで、プラズマ16の発生や電子の加速等を効率よく行うことができる。また、例えば電子源100が他の装置と共に用いられる場合に、磁気回路内に導入されたガスが他の装置へ流出し、その装置に悪影響をおよぼすことを防ぐことができる。
【0035】
また、図1に示すように、アノード電極1のスリット4の形状に対応して、カソード電極2の磁気ギャップ6が形成されるので、磁気ギャップ6の近傍で発生したプラズマ16から、スリット4を介して、効率よく電子が照射対象物に照射される。
【0036】
本実施形態ではアノード電極1にスリット4が設けられるが、例えばスリット形状ではない形状の、1つまたは複数の開口が設けられていてもよい。その場合、磁気ギャップ6はスリット形状でもよいし、その開口の形状に対応した磁気ギャップ6が設けられてもよい。開口の形状は、円、楕円、多角形でよい。
【0037】
本実施形態では、スリット4及び磁気ギャップ6がレーストラック状に形成されるので、その直線部分の長さ方向にわたって、電子を照射対象物に照射することができる。直線部分の長さを所望のものとすることで、電子が照射される範囲を所望のものとすることができる。スリット4及び磁気ギャップ6がレーストラック状ではなく、例えば単数のスリットであっても、又は並ぶように形成された複数のスリットであっても、上記の効果は得られる。
【0038】
図4は、本発明の別の実施形態に係る電子源を示す模式的な断面図である。これ以降の説明では、上記の実施形態で説明した電子源100における構成及び作用と同様な部分については、その説明を省略又は簡略化する。
【0039】
電子源200は、上記の実施形態で説明した電子源100のアノード電極1及びカソード電極2に、冷却用パイプ17及び18がそれぞれ巻装されたものである。冷却用パイプ17及び18の内部には冷却媒体が封入され、冷却媒体が熱を輸送することによりアノード電極1及びカソード電極2が冷却される。これにより、プラズマ16の発生に伴う熱による磁気ギャップ6やスリット4の変形等を防ぎ、電子源200の長時間の使用を実現することができる。
【0040】
本実施形態では、アノード電極1及びカソード電極2に冷却用パイプ17及び18がそれぞれ巻装されているが、どちらか一方のみに冷却用パイプが巻装された形態でもよい。また、冷却用パイプの代わりに、内部に冷却媒体が封入された冷却用ジャケットがアノード電極1又はカソード電極2に設けられてもよい。冷却媒体としては、例えば水、オイル等が用いられる。
【0041】
図5は、本発明の一実施形態に係る処理装置を示す模式的な平面図である。処理装置300は、接地された真空チャンバ19と、真空チャンバ19内の略中央部に設けられた、回転ドラム20とを有する。回転ドラム20は、側面21に例えばフォルダ等が設けられており、側面21に取り付けられる基板を支持しながら真空チャンバ19内を回転する。また、真空チャンバ19内には、回転ドラム20の回転方向に順に、第1の成膜ゾーン400、第2の成膜ゾーン500、酸化ゾーン600が配置され、酸化ゾーン600及び第1の成膜ゾーン400の間には、電子源100が設けられる。
【0042】
第1の成膜ゾーン400及び第2の成膜ゾーン500は、隔壁410a、410b、510a及び510bにより、真空チャンバ19内でそれぞれ仕切られて設けられている。第1の成膜ゾーン400及び電子源100の間に設けられた隔壁410aには、開口部411が形成されており、この開口部411にはシャッター412が開閉可能に設けられている。
【0043】
第1の成膜ゾーン400は、2つの電極からなるスパッタカソード420と、スパッタカソード420に隣接して配置される、例えばTa、Nb、又はTi等のターゲット部材430とを有する。また、第1の成膜ゾーン400は、スパッタカソード420に交流電圧を加えるための交流電源440と、第1の成膜ゾーン400内に例えばAr等のガスを導入するガス導入部450とを有する。
【0044】
第2の成膜ゾーン500は、第1の成膜ゾーン400と同様に、スパッタカソード520と、ターゲット部材530と、交流電源540と、ガス導入部550とを有する。ターゲット部材530は、第1の成膜ゾーン400が有するターゲット部材430と異なる材料であってもよいし、同じ材料であってもよい。
【0045】
酸化ゾーン600は、隔壁610a及び610bにより真空チャンバ19内で仕切られて設けられており、酸化プラズマ源660を有する。
【0046】
処理装置300の動作を説明する。側面21に基板が取り付けられた回転ドラム20が回転する。第1の成膜ゾーン400及び第2の成膜ゾーン500において、スパッタカソード420及び520に交流電圧が加えられ、各成膜ゾーンに導入されたガスがプラズマ化される。プラズマ中のイオンにより、ターゲット部材430及び530がスパッタリングされ、基板に金属薄膜が形成される。つづいて酸化ゾーン600において、酸化プラズマ源660により基板上の金属薄膜が酸化される。これらの工程を繰り返すことにより、所望の金属酸化薄膜が基板上に形成される。
【0047】
上記の工程において、第1の成膜ゾーン400で基板に金属薄膜が形成される場合に、電子源100により、ターゲット部材430に電子が照射される。この際、隔壁410aの開口部411に設けられたシャッター412が開き、開口部411を介して電子がターゲット部材430に照射される。これにより、ターゲット部材430をスパッタリングするイオンにより、ターゲット部材430に蓄積された正の電荷が中性化される。
【0048】
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更され得る。
【0049】
例えば、上記の実施形態において説明した電子源100では、アノード電極1が筐体の形態でなるが、これに限られない。例えば図2において、前方面14がアノード電極1であり、その他の面は導電性を有さない材料で構成された筐体が、電子源100に用いられてもよい。つまり、アノード電極が筐体の一部を構成していてもよい。
【0050】
カソード電極が磁気回路を構成しなくてもよい。例えば、磁気ギャップを有する磁気回路及びアノード電極の間に、磁気回路と隣接するようにカソード電極が設けられてもよい。つまり、磁気回路及びカソード電極は一体に設けられてもよいし、それぞれが別体に設けられてもよい。
【0051】
あるいは、図2において、磁気ギャップ6を有する前方面15がカソード電極であり、その他が、導電性を有さない部材で構成された磁気回路が用いられてもよい。この場合、磁気ギャップ6を有する前方面15が、電源13の負電極に接続される。
【0052】
その他にも、磁気回路を構成するカソード電極が筐体に収容されていない形態も考えられる。例えば板状のアノード電極及びカソード電極が並んで配置され、アノード電極のスリットと、カソード電極に形成された磁気ギャップとが向かい合うように形成されている形態でもよい。
【0053】
また、磁気ギャップを有する磁気回路を構成するために、例えば複数の永久磁石が用いられてもよく、またその配置も適宜設定されてよい。また、永久磁石が用いられず、例えば電磁石等により磁気回路が構成されてもよい。
【0054】
電子源100では、ガス導入部3が設けられる位置がアノード電極1の後方面の略中央部であるが、これに限られない。カソード電極の磁気ギャップの近傍でプラズマが発生するように、磁気回路内にガスが導入される位置ならばどこでもよい。また、複数のガス導入部が設けられてもよい。ガス導入部が設けられる位置や数に対応して、カソード電極に導入口及び取付部が設けられる。
【0055】
電子が照射される照射対象物としては、例えば基板や、スパッタリング技術に用いられるターゲット部材等が挙げられる。基板としては、半導体ウェハまたはガラス基板等が挙げられる。
【0056】
上記の実施形態で説明した処理装置300では、スパッタリングされるターゲット部材430に、電子源100により電子が照射されるが、これに限られない。例えば、第2の成膜ゾーン500及び酸化ゾーン600の間に電子源100が設けられ、また隔壁510aに開口部及びシャッターが設けられる。そして、電子源100により、ターゲット部材530に電子が照射されてもよい。また、回転ドラム20の側面21に取り付けられる基板に電子が照射されるように、真空チャンバ19内に電子源100が設けられてもよい。この際、電子源100が簡単な構造でなるので、真空チャンバ19内に簡単に電子源100を設置することができる。また真空チャンバ19内での電子源100を設置できる箇所が多くなる。
【0057】
処理装置300では、ターゲット部材430に蓄積した電荷を中性化するために電子源100が用いられたが、これに限られない。本発明の実施形態に係る処理装置として、チャンバ内に電子源100を有し、電子源100により例えば基板に電子が照射されることで、基板のエッチング又はクリーニング等が行われる処理装置でもよい。その他にも、電子源100により基板の表面改質が行われるような処理装置も考えられる。
【符号の説明】
【0058】
1…アノード電極
2…カソード電極
3…ガス導入部
4…スリット
6…磁気ギャップ
16…プラズマ
17、18…冷却用パイプ
19…真空チャンバ
100、200…電子源
300…処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ギャップを有する磁気回路でなるカソード電極と、
前記磁気ギャップと向かい合う開口を有し、前記磁気回路の外側に配置され、前記カソード電極との間に電界を発生させるためのアノード電極と、
前記電界及び前記磁気回路による前記磁気ギャップでの磁界の作用によりプラズマを発生させ、前記プラズマ中の電子を前記開口を介して放出させるために、前記磁気回路内にガスを導入するガス導入部と
を具備する電子源。
【請求項2】
請求項1に記載の電子源であって、
前記アノード電極は、前記磁気回路を覆う筐体の一部又は全部を構成する電子源。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子源であって、
前記開口の形状は、前記磁気ギャップの形状に対応している電子源。
【請求項4】
請求項3に記載の電子源であって、
前記磁気ギャップ及び前記開口の形状は、スリット状である電子源。
【請求項5】
請求項1から4のうちいずれか1項に記載の電子源であって、
前記カソード電極及び前記アノード電極のうち少なくとも一方を冷却する冷却部材をさらに具備する電子源。
【請求項6】
チャンバと、
磁気ギャップを有する磁気回路でなるカソード電極と、前記磁気ギャップと向かい合う開口を有し、前記磁気回路の外側に配置され、前記カソード電極との間に電界を発生させるためのアノード電極と、前記電界及び前記磁気回路による前記磁気ギャップでの磁界の作用によりプラズマを発生させ、前記プラズマ中の電子を前記開口を介して放出させるために、前記磁気回路内にガスを導入するガス導入部とを有し、前記チャンバ内に設けられた電子源と
を具備する処理装置。
【請求項7】
磁気ギャップを有する磁気回路と、
前記磁気ギャップと向かい合う開口を有し、前記磁気回路の外側に配置されたアノード電極と、
前記磁気回路と前記アノード電極との間に配置され、前記アノード電極との間に電界を発生させるためのカソード電極と、
前記電界及び前記磁気回路による前記磁気ギャップでの磁界の作用によりプラズマを発生させ、前記プラズマ中の電子を前記開口を介して放出させるために、前記磁気回路内にガスを導入するガス導入部と
を具備する電子源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−225410(P2010−225410A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71351(P2009−71351)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】