説明

電子源及び画像表示装置

【課題】 放電による影響を抑制する。
【解決手段】 放電が生じた場合に電子放出素子が短絡しにくくすることで、短絡によって電流が流れることを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電子源及びそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電子源基板およびそれを用いた表示装置が開示されている。特に、電子放出素子の素子電極に放電が生じた場合に、その電子放出素子に隣接する電子放出素子へのダメージを抑制する構成が開示されている。
【特許文献1】特開2003−157757
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された技術を採用することで、放電が発生した電子放出素子に隣接する電子放出素子へのダメージを抑制できるが、該ダメージをさらに抑制する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
特許文献1には、電子放出素子の列配線側もしくは行配線側の素子電極において放電が発生した場合に、その電子放出素子は破壊されることが記載されている。本願発明者は放電が発生した際に、電子放出素子が破壊に至る過渡状態に着目した。
【0005】
本願発明者は、放電が発生した電子放出素子が破壊される際に一瞬抵抗が低くなり(短絡状態となり)、該短絡状態になっている時に、放電による電流が他の電子放出素子に流れてダメージが発生する場合があることを見出した。すなわち、放電が発生してから電子放出素子の破壊が完了するまでの間の過渡状態において流れる電流が他の電子放出素子にダメージを与え得ることを見出した。
【0006】
この短絡状態を抑制することで、放電が発生した電子放出素子以外の電子放出素子にダメージが及ぶことをさらに抑制できることがわかった。
【0007】
具体的には本願発明では、以下の構成を採用する。
【0008】
複数の電子放出素子と、
複数の走査配線と複数の変調配線を有しており、前記複数の電子放出素子をマトリックス接続するマトリックス配線と、
前記走査配線に、前記複数の電子放出素子を線順次駆動するための走査信号を印加する第1の集積回路と、
前記変調配線に、前記複数の電子放出素子を線順次駆動するための変調信号を印加する第2の集積回路と、
前記電子放出素子と離間して設けられるアノードと、
を有しており、
前記複数の電子放出素子の各々は、前記走査配線に接続される第1の導電部材と、前記変調配線に接続される第2の導電部材とを有しており、第1の導電部材と第2の導電部材とは間隙をおいて対向しており、
前記複数の電子放出素子は、
第1の導電部材の前記間隙に面する位置から、前記走査配線を介して前記第1の集積回路の出力端子までの間の抵抗をRU、
第2の導電部材の前記間隙に面する位置から、前記変調配線を介して前記第2の集積回路の出力端子までの間の抵抗をRL、
前記間隙の間に印加する電圧の許容値をVmax、
前記第1の集積回路が、選択されている走査配線が接続される出力端子に生じさせる電位をVy、
前記第2の集積回路が、電子を放出させるべき電子放出素子が接続されている変調配線が接続される出力端子に生じさせる電位をVx、
前記電子放出素子と前記アノードとの間で放電が生じた時に第1の集積回路の出力端の位置に流れる電流の最大値をIdis2、第2の集積回路の出力端の位置に流れる電流の最大値をIdis3としたとき、
Idis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vx≦Vmax
を満たす電子放出素子を含むことを特徴とする電子源である。
【発明の効果】
【0009】
電子放出素子において放電が発生した際の他の電子放出素子へのダメージを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ここで説明する実施形態で用いる電子放出素子は、2つの導電部材の間の間隙に電圧を印加して電子を放出するものである。
【0011】
図1は本実施形態にかかわる電子源の構成を示す図である。ここでは、6×6のマトリックス構成を例示している。
【0012】
複数の走査配線1001(Y1からY6)と複数の変調配線1002(X1からX6)がマトリックス配線を構成している。
【0013】
走査配線1001の各々は、接続配線1004を介して走査側ドライバである第1の集積回路1003の出力端1005とそれぞれ接続されている。
【0014】
変調配線1002の各々は、接続配線1007を介して変調側ドライバである第2の集積回路1006の出力端1008とそれぞれ接続されている。
【0015】
第1の集積回路1003、第2の集積回路1006はそれぞれICチップであり、接続配線1004、接続配線1007はそれぞれフレキシブル印刷配線である。
【0016】
電子放出素子1009はこの実施形態では表面伝導型放出素子である。電子放出素子は間隙をおいて対向する第1の導電部材1010と第2の導電部材1011を有している。導電部材1010は走査配線1001と接続され、導電部材1011は変調配線1002と接続される。電子放出素子は走査配線と変調配線によってマトリックス接続されている。走査配線に印加される走査信号(選択信号)と変調配線に印加される変調信号によってマトリックス駆動される。
【0017】
制御回路1012には映像信号が入力される。制御回路1012は第1の集積回路及び第2の集積回路に対してタイミング信号、階調データを出力する。
【0018】
第1の集積回路1003は、複数の走査配線1001に対して順次に走査信号を印加する。
【0019】
走査信号の印加状態を示すタイミングチャートを図2に示す。
【0020】
選択期間H1においては、走査配線Y1に走査信号が印加される。そして、選択期間が遷移するごとに、順次走査配線Y2からY6に走査信号が印加される。
【0021】
一方第2の集積回路からは、選択期間に同期して変調信号を出力する。選択期間H1においては、走査配線Y1に走査信号が印加されており、走査配線Y1に接続される複数の電子放出素子が選択された状態になっている。そこで、選択期間H1において、複数の変調配線のそれぞれから、選択された電子放出素子に対応する変調信号を印加する。選択期間H2においては、走査配線Y2に接続される複数の電子放出素子が選択された状態になっているので、複数の変調配線のそれぞれから、選択された電子放出素子に対応する変調信号を印加する。
【0022】
複数の変調配線からは、選択されている走査配線に接続される複数の電子放出素子に同時に変調信号を印加することができる。
【0023】
変調信号を変調配線X1からX6に印加している状態の一例を図2のタイミングチャートに示している。ここではパルス幅変調信号を印加する例を示している。
【0024】
このように、走査配線を順次に選択して、選択された走査配線に接続される複数の電子放出素子に同時に変調信号を印加し得る駆動を線順次駆動という。
【0025】
線順次駆動においては、走査信号が印加される走査配線には、最大で、該走査配線に接続される全部の電子放出素子を経由する電流が同時に流れ得る。したがって、第1の集積回路の各出力端ごとの電流許容値は、この大電流に耐えうるように設定されている。一方第2の集積回路の各出力端には、通常は、同時には1つの電子放出素子に流れる電流しか流す必要がない。同時に複数の走査配線を選択する駆動方法も採用できるが、その場合でも同時に選択される走査配線の数はせいぜい2,3本程度である。従って、その場合でも第2の修正回路の各出力端に流れる電流の最大値は第1の集積回路の各出力端に流れる電流の最大値に比べると小さい。したがって、第2の集積回路の各出力端ごとの電流許容値は、第1の集積回路の各出力端ごとの電流許容値に比べると小さい値でよい。
【0026】
このように線順次駆動においては、走査配線に接続される集積回路の一つの出力端の電流許容値は、変調配線に接続される集積回路の一つの出力端の電流許容値よりも大きい。本実施形態でも、第1の集積回路の各出力端の電流許容値は、第2の集積回路の各出力端の許容値よりも大きい。この構成においては、放電が生じることによって流れる電流を、走査配線に接続される集積回路側に流すように設定する構成を好適に採用できる。
【0027】
ここで、電子放出素子1009の導電部材1010においてアノードとの間で放電が発生した場合を考える。
【0028】
放電によって導電部材1010に流れ込む電流Idis1は、導電部材1010が接続される走査配線1001に流れる電流Idis2と、間隙を介して対向している導電部材1011に流れる電流Idis3とに分流される。
【0029】
この放電によって電子放出素子が破壊される際に、導電部材1010と導電部材1011の間が短絡する状態が発生する。放電電流が導電部材1011の側に分流される割合Idis3/Idis1は、短絡が生じる場合(放電が生じた電子放出素子が破壊される場合)には短絡が生じない場合に比べて大きくなる。したがってこの短絡を抑制することで放電電流が導電部材1011の側に分流される割合Idis3/Idis1を小さくすることができる。
【0030】
ここで、短絡を抑制する条件は以下のとおりである。
【0031】
走査配線、走査配線と第1の集積回路の出力端との間を接続する接続配線、第1の導電部材、第2の導電部材、変調配線、変調配線と第2の集積回路の出力端との間を接続する接続配線、はそれぞれ抵抗を有する。
【0032】
ここで、ある電子放出素子に着目し、
第1の導電部材の間隙(この間隙は第1の導電部材と第2の導電部材との間の間隙)に面する位置から、走査配線を介して第1の集積回路の出力端子までの間の抵抗をRU、
第2の導電部材の間隙(この間隙は第1の導電部材と第2の導電部材との間の間隙)に面する位置から、変調配線を介して第2の集積回路の出力端子までの間の抵抗をRL、
とする。
【0033】
また、第1の集積回路が、この電子放出素子が接続される走査配線に対応する出力端子に生じさせる電位であって、その走査配線を選択状態にする電位をVy、
第2の集積回路が、この電子放出素子が接続される変調配線に対応する出力端子に生じさせる電位であって、この電子放出素子が電子を放出すべき電子放出素子である場合の電位をVx、
とする。なお第2の集積回路が電子を放出すべき電子放出素子が接続される変調配線に接続される出力端子に生じさせる電位は、振幅変調を行う際には一つの値にはならない。その場合は、最大の階調で発光させる際に用いる電位をVxとする。
【0034】
図3はこの電子放出素子と配線と出力端と抵抗の関係を示す模式図である。
【0035】
ここで、第1の導電部材1010の間隙に面する位置の電位をVy1、第2の導電部材1011の間隙に面する位置の電位をVx1、とすると、電位Vy1と電位Vx1の電位差を間隙の間に印加する電圧の許容値であるVmax以下にすればよい。
【0036】
ここで、第1の集積回路の出力端の電位と第1の導電部材の間隙に面する位置との間の電位差はVy1−Vyであり、その間の抵抗はRU、その間に流れる電流はIdis2=Idis1−Idis3なので、オームの法則から、
Vy1−Vy=Idis2*RU
となる。
【0037】
一方、第2の集積回路の出力端の電位と第2の導電部材の間隙に面する位置との間の電位差はVx1−Vxであり、その間の抵抗はRL、その間に流れる電流はIdis3なので、オームの法則から、
Vx1−Vx=Idis3*RL
となる。
【0038】
この2つの式からVy1−Vx1を求めると、
Vy1−Vx1=Idis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vx
となる。
【0039】
このVy1−Vx1をVmax以下にすればよいので、
Vy1−Vx1≦Vmax
Idis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vx≦Vmax
となる。
【0040】
なお、Vmaxは、以下のようにして定められる値である。
【0041】
アノードにこの電子源を通常に駆動する条件における電位を印加した状態を維持する。アノードに印加する電位が可変である場合は、その最大の電位を印加した状態とする。
【0042】
電子源が有する複数の電子放出素子のうちの一つを対象とし、その電子放出素子が接続される走査配線に対応する第1の集積回路の出力端の位置にグランド電位を印加する。また、その電子放出素子が接続される変調配線に対応する第2の集積回路の出力端の位置にグランド電位を印加する。
【0043】
第1の集積回路の出力端の位置の電位をグランドに固定し,第2の集積回路の出力端の位置に、パルス信号を印加する。このパルス信号は、グランド電位を基準電位とし、最大電位Vmが0.1ボルト、パルス幅が10ナノ秒のパルスとする。このとき、他の走査配線に対する第1の集積回路の出力端の位置のそれぞれには、該パルス信号と同じタイミングで同一のパルス信号を印加する。また、他の変調配線に対する第2の集積回路の出力端の位置のそれぞれにはグランド電位を印加する。
【0044】
このパルス信号を印加した時に対象としている電子放出素子が接続される変調配線に対応する第2の集積回路の出力端に流れる電流を計測する。
【0045】
次にVmを0.2ボルトとして、パルス信号の印加及び電流の計測ステップを行う。
【0046】
Vmを0.1ボルト刻みで大きくしながら、順次パルス信号の印加及び電流の計測ステップを行う。各ステップの間の休止期間(先のステップのパルス信号の印加が終了してから次のステップのパルス信号の印加を開始するまでの期間)は1秒とする。計測した電流の値が直前のステップにおける電流の値に比べて100分の1以下になったステップの直前のステップにおけるVmをここで対象とした電子放出素子のVmax’とする。また該直前のステップにおいて計測した電流をここで対象とした電子放出素子のIfmax’とする。
【0047】
そして、Vmax’−Ifmax’(RU+RL)をここで対象とした電子放出素子のVmax”とする。
【0048】
10個の互いに異なる電子放出素子を対象としてそれぞれのVmax”を決定する。
【0049】
それら10個のVmax”の単純相加平均をこの電子源の各電子放出素子の共通のVmaxとする。
RLとRUは以下の手法で決定する。
【0050】
上記Vmax’、Ifmax’をすべて計測した後(及び後述のIdis2、Idis3など、分離前に行う計測が終了したのち)、電子源を、電子放出素子及びマトリックス配線とが形成された基体と、アノードとを分離する。
【0051】
計測対象となる電子放出素子の第1の導電部材の間隙に面する位置の近傍と第1の集積回路の出力端の部分にプローブをそれぞれ当てて、プローブ間の抵抗計測を行う。プローブをそれぞれ間隙の部分及び出力端の部分から離した後、再度第1の導電部材の間隙に面する位置の近傍と第1の集積回路の出力端の部分にそれぞれプローブを当てて、プローブ間の抵抗計測を行う。これを同一の測定対象において10回繰り返し、それぞれで計測された抵抗値の単純相加平均をここで計測対象とした電子放出素子のRUとする。またこの電子放出素子のRLについても同様に決定する。すなわち、第2の導電部材の間隙に面する位置の近傍と第2の集積回路の出力端の部分にそれぞれプローブを当てて抵抗計測を行う。これを同一の測定対象において10回繰り返した結果の単純相加平均をRLとする。
RU,RLを計測する対象となる電子放出素子ごとに同様にしてRU,RLを決定する。
【0052】
Idis2、Idis3は以下のように定める。
【0053】
アノードにこの電子源を通常に駆動する条件における最大の電位を印加した状態を維持する。
【0054】
第1の集積回路の各出力端、第2の集積回路の各出力端にはいずれもグランド電位を印加する。
【0055】
この状態で、対象とする電子放出素子の位置にレーザを照射する。レーザを照射することで、レーザを照射した位置で放電を生じさせる。なお本願でいう放電とは電子源を通常に駆動している状態での電子放出素子からの通常の電子放出とは異なるものである。
【0056】
なお本願での放電とは、
一つの走査配線にのみ第1の集積回路の出力端から走査信号を印加し、
他の走査配線には第1の集積回路からは走査信号を印加せずに他の走査配線を非選択状態にする電位を印加し、
一つの変調配線にのみ第2の集積回路から通常の駆動時の最大階調の変調信号を印加したときに前記走査信号を印加した一つの走査配線に対する第1の集積回路の出力端に流れる電流をI1としたとき、
1000*I1以上の電流が、該一つの走査配線に対する第1の集積回路の出力端に流れる現象を指す。
【0057】
本願の発明者はレーザの照射によってこのような放電を誘発させることができることを確認している。
【0058】
この放電が生じた際に、該選択した電子放出素子が接続される走査配線に対応する第1の集積回路の出力端の位置に流れる電流の最大値をIdis2とする。一方、この放電が生じた際に、該選択した電子放出素子が接続される変調配線に対応する前記第2の集積回路の出力端の位置に流れる電流の最大値をIdis3とする。
【0059】
なお、本願において記号*は積算を示す。
【0060】
このように定まるIdis2、RU、Idis3、RL、Vmaxが先に述べた条件、
Idis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vx≦Vmax
を満たせばよい。
【0061】
好適には全ての電子放出素子においてこの条件を満たすようにすればよい。
【0062】
なお第1の集積回路の各出力端の電流許容値および第2の集積回路の各出力端の電流許容値は以下のようにして定める。
【0063】
通常の駆動時に一つの出力端に流れる最大電流量を測定し、これをIaとする。パルスジェネレータによりパルス幅が1msecであり、テスト用の振幅を有するテスト用パルスを出力端に流す。その後通常の駆動条件であって当該出力端に前記Iaが流れる条件で駆動し、実際にその出力端に流れる電流量を測定する。このとき測定された電流をIa1とする。
【0064】
最初に印加するパルスの振幅はIa+0.01*Iaとし、順次テスト用の振幅を0.01*Iaずつ大きくしていく。各テスト用パルスの印加を終了するごとに、Ia1を求める。各テスト用ステップの印加とその直後のIa1の測定を1サイクルとし、Ia1が0.9*Ia以下になったサイクルの直前のサイクルで印加したテスト用パルスの振幅を、電流許容値とする。
【0065】
以下では上述の条件を満たす電子源の具体的な構成例及びその製造方法の例を実施例として示す。
【0066】
(実施例)
図4(a)は、本実施例の第1、第2の導電部材の構成を示す模式図であり、(b)はその等価回路図である。また、図5は図4(a)の作製プロセスを説明する工程図である。
【0067】
本実施例においては、アルカリ成分が少ないPD−200(旭硝子(株)社製)の2.8mm厚ガラス基板を準備し、更にこのガラス基板上にナトリウムブロック層として膜厚100nmのSiO2膜を塗付焼成したものを電子源を構成するための基板として用いた。
【0068】
[素子電極形成]
まず、図5(a)に示すように、上記の基板上に第1の素子電極13および第2の素子電極12を形成した。これらは、スパッタ法によって、まず下引き層としてTi膜を成膜し、その上に膜厚20nmのPt膜を成膜した後、全面にフォトレジストを塗布し、露光、現像、エッチングという一連のフォトリソグラフィー法によってパターニングして形成した。
【0069】
この際、第1の素子電極13の、後述する信号配線から間隙までの抵抗を低くするために、その断面積を大きくすべく、第2の導電部材を構成する第2の素子電極12よりも幅広に形成した。一方第2の素子電極12は、後述する変調配線から間隙までの抵抗を高くするために、第1の導電部材を構成する第1の素子電極13よりも長く形成した。
【0070】
比較例として、電子源基板の一部に、図7で示す素子電極形状の電子放出素子を形成した。比較例における素子電極の抵抗は、第1および第2の素子電極でほぼ同等の値をとる。
【0071】
[変調配線形成]
図5(b)の変調配線1002のパターン形成では、材料として銀のフォトペーストインキを用い、スクリーン印刷した後、乾燥させてから、所定のパターンに露光し現像した。この後、約480℃で焼成して配線を形成した。変調配線1002の厚さは約10μm、配線幅は20μmとした。
【0072】
[層間絶縁層形成]
図5(c)に示すように、変調配線1002とその上に形成される後述する走査配線1001を絶縁するために、層間絶縁層10を配置した。この層間絶縁層10は、後述の走査配線1001下に、先に形成した変調配線1002との交差部を覆うように、かつ、走査配線1001と第1の素子電極13との電気的接続が可能なように、接続部にコンタクトホール19を開けて形成した。この層間絶縁層10の形成では、PbOを主成分とする感光性のガラスペーストをスクリーン印刷した後、露光・現像し、最後に約460℃で焼成した。
【0073】
[走査配線形成]
先に形成した絶縁膜15の上に走査配線1001を形成した(図5(d))。この走査配線1001の形成では、銀のペーストインキをスクリーン印刷した後、乾燥し、その後450℃前後の温度で焼成した。
【0074】
[Pd膜形成]
上記マトリクス配線を有する基板を十分にクリーニングした後、撥水剤を含む溶液で表面を処理し、表面が疎水性になるようにした。これは、この後塗布するPd膜形成用の水溶液が、素子電極上に適度な広がりをもって配置されるようにする事が目的である。その後、素子電極間にインクジェット塗布方法により、Pd膜11を形成した(図5(e))。その後、この基板を空気中にて、350℃で10分間の加熱焼成処理をして酸化パラジウム(PdO)とした。以上の工程により、素子部分に酸化パラジウムPdO膜(導電性薄膜65)が形成された。
【0075】
[フォーミング]
次の工程である、フォーミングでは、基板全体を覆うようにフード状の蓋をかぶせて基板との間で内部に真空空間を作り、外部電源より電極端子部から走査配線と変調配線の間に電圧を印加して、素子電極13、12間を通電する。この通電処理によって、Pd膜11を局所的に破壊、変形もしくは変質させることにより、電気的に高抵抗な状態の間隙を形成する。
【0076】
[活性化−カーボン堆積]
上記フォーミング処理が施されただけの状態では、電子発生効率が非常に低いものとなっている。よって、電子放出効率を上げるために、上記素子に活性化と呼ばれる処理を行うことが望ましい。
【0077】
この処理では、有機化合物が存在する適当な真空度のもとで、上述のフォーミングと同様に、フード状の蓋をかぶせて基板との間で内部に真空空間を作り、外部から配線電極を通じてパルス電圧を素子電極に繰り返し印加する。そして、炭素原子を含むガスを導入し、それに由来する炭素あるいは炭素化合物を、上述した亀裂近傍にカーボン膜として堆積させる。この活性化工程では、例えばカーボン源であるトルニトリルをスローリークバルブを通して真空空間内に導入し、1.3×10−4Paを維持した。第1の素子電極13に接続されるカーボン膜と第2の素子電極12に接続されるカーボン膜との間には間隙24が形成されている(図5(f))。
【0078】
以上の工程で、電子源基板を作製する事ができた。
【0079】
以上のように形成された、第1および第2の素子電極13および12、Pd膜11、カーボン23をまとめて導電部材とし、該導電部材のうち、間隙24を境に走査配線に接続されるものが第1の導電部材であり、変調配線に接続されるものが第2の導電部材である。また、上記第1および第2の導電部材と、間隙24とをまとめて電子放出素子1009とする。
【0080】
[封着−パネル化]
上記のような単純マトリクス配置の電子源、及び、表示等に用いる画像表示装置の一例について説明する。図6は、そのような電子源を備える画像表示装置の一例を示す概略構成図である。図6において、111は電子放出素子1009が多数配置された電子源である。
【0081】
112はガラス基板の内面に発光体である蛍光膜114とメタルバック115等が形成されたアノードであり、116は支持枠である。アノード112は支持枠及びスペーサによって電子源とは離間して配置される。電子源111、支持枠116及びアノード112をフリットガラスによって接着し、400℃〜500℃で、10分以上焼成することで、封着して、外囲器を構成する。
【0082】
電子源111には、前述したような作製工程により、電子放出素子1009が形成され、この電子放出素子16の一対の素子電極に信号配線、変調配線が接続されている。アノード112と電子源111間には、スペーサー113と呼ばれる支持体が設置され、これにより、大面積パネルの場合にも大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器を実現できる。
【0083】
電子放出素子から放出された電子が発光体である蛍光膜に照射されることで発光が生じ、その発光によって画像が表示される。
【0084】
[画像表示装置駆動系]
以下、本実施例の電子源基板を備える画像表示装置の駆動条件の概要について説明する。
【0085】
本実施例において、電圧変調方式を実施する場合は、第2の集積回路1006として、入力されるデータに応じてパルスの波高値を変調する回路を用いる。また、パルス幅変調方式を実施する場合には、第2の集積回路1006として、入力されるデータに応じて電圧パルスの時間幅を変調する回路を用いる。いずれの場合も、抵抗素子による電圧降下を考慮し、電子放出素子に印加したい所望の電圧値の1.1〜1.2倍の電圧値が第1の集積回路の出力端と第2の集積回路の出力端との間に発生するように構成する。本実施例においては、Vyを−13V、Vxを5Vとした。
【0086】
以上のように構成された表示装置において、各電子放出素子に、表示パネル内の配線を通じ、電圧を印加することにより電子放出させる。メタルバック115には高圧を印加し、発生した電子ビームを加速し、蛍光膜114に衝突させる。これによって、画像を表示することができる。
【0087】
[集積回路の許容電流値]
先に述べた電流許容値の測定方法で、各集積回路の電流許容値を測定した。その結果、第1の集積回路の電流許容値は3A、第2の集積回路の電流許容値は、0.1Aであった。
【0088】
[Vmax測定]
以上のように形成された電子放出素子1009のうち、第1の集積回路1003に最も近く、第2の集積回路1006から最も遠い間隙24に対し、それぞれの集積回路から電圧を印加し、電流−電圧特性を測定した。先に述べた測定方法で電位差が30.4Vを印加したステップにおいて、直前のステップにおける電流の値に比べて100分の1以下になった。すなわち、本実施例におけるVmax’は30.3Vであった。このときのIfmax’は0.005Aであった。一方、比較例ではVmax’は21.8V、Ifmax’は0.005Aであった。
【0089】
[放電実験]
次に、本実施例の画像表示装置の効果を確認するため、放電のトリガとしてレーザーを用いて実験を行った。本実施例及び比較例の画像表示装置のアノード102に3KVの電圧を印加し、−13V、+5V第1、第2の集積回路の出力端に発生させて通常の駆動を行った。この系に対し、電圧プローブ及び電流プローブを用いて、電圧印加ラインの電圧、電流波形をモニターした。この系に対し、スポット径10μmに絞ったYAGレーザーをリアプレートから照射し、第1の素子電極13の一部を溶融することで、放電を誘発させた。
【0090】
本実施例においては、放電電流は、大半が走査配線1001側に流れ、その最大値Idis2は1Aであった。一方変調配線1002側からの放電電流の最大値Idis3は20mAであった。
【0091】
一方、比較例では、大半が走査配線1001側に流れる、放電電流の最大値Idis2は1Aであった。一方変調配線1002側からの放電電流の最大値Idis3は100mAであった。
【0092】
放電実験後に光学顕微鏡を用いて各素子電極の様子を観察したところ、本実施例の画像表示装置では、レーザーを照射した電子放出素子にはダメージを受けていたが、それ以外の電子放出素子にダメージは確認できなかった。一方、比較例では、変調配線1002に沿って、レーザーを照射していない電子放出素子にもダメージが及んでいた。
【0093】
[抵抗測定]
放電実験後の電子源を、電子放出素子及びマトリックス配線とが形成された基体と、アノードとを分離し、各抵抗値を全て同一のプローブを用いて測定した。放電実験を行っていない、第1の集積回路1003からの抵抗値が最も小さい間隙24から、第1の導電部材1010、走査配線1001、第1の集積回路1003までの抵抗RUは50Ωであった。また、同一の電子放出素子1009における間隙24から、第2の素子電極12、変調配線1002、第2の集積回路1006までの抵抗RLは2000Ωであった。一方、比較例の電子放出素子では、RUが100Ω、RLが250Ωであった。
【0094】
また本実施例ではVmaxは20Vであった。一方比較例ではVmaxは20Vであった。
【0095】
すなわち、本実施例ではIdis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vxは1A*50Ω−20mA*2000+(−13V)+5V=2Vであり、Idis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vx≦Vmaxを満たす。
【0096】
一方の比較例ではIdis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vxは1A*100Ω−100mA*250+(−13V)+5V=67Vであり、Idis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vx≦Vmaxを満たさない。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施例の構成を示す図
【図2】実施例のタイミングチャート
【図3】実施例の等価回路図
【図4】実施例の構成を示す図
【図5】実施例の製造工程を示す図
【図6】実施例の構成を示す図
【図7】比較例の構成を示す図
【符号の説明】
【0098】
10 層間絶縁層
11 Pd膜
12 第2の素子電極
13 第1の素子電極
1010 第2の導電部材
1011 第1の導電部材
109 電子放出素子
1002 変調配線
1001 走査配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子放出素子と、
複数の走査配線と複数の変調配線を有しており、前記複数の電子放出素子をマトリックス接続するマトリックス配線と、
前記走査配線に、前記複数の電子放出素子を線順次駆動するための走査信号を印加する第1の集積回路と、
前記変調配線に、前記複数の電子放出素子を線順次駆動するための変調信号を印加する第2の集積回路と、
前記電子放出素子と離間して設けられるアノードと、
を有しており、
前記複数の電子放出素子の各々は、前記走査配線に接続される第1の導電部材と、前記変調配線に接続される第2の導電部材とを有しており、第1の導電部材と第2の導電部材とは間隙をおいて対向しており、
前記複数の電子放出素子は、
第1の導電部材の前記間隙に面する位置から、前記走査配線を介して前記第1の集積回路の出力端子までの間の抵抗をRU、
第2の導電部材の前記間隙に面する位置から、前記変調配線を介して前記第2の集積回路の出力端子までの間の抵抗をRL、
前記間隙の間に印加する電圧の許容値をVmax、
前記第1の集積回路が、選択されている走査配線が接続される出力端子に生じさせる電位をVy、
前記第2の集積回路が、電子を放出させるべき電子放出素子が接続されている変調配線が接続される出力端子に生じさせる電位をVx、
前記電子放出素子と前記アノードとの間で放電が生じた時に第1の集積回路の出力端の位置に流れる電流の最大値をIdis2、第2の集積回路の出力端の位置に流れる電流の最大値をIdis3としたとき、
Idis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vx≦Vmax
を満たす電子放出素子を含むことを特徴とする電子源。
【請求項2】
前記マトリックス配線に接続され、マトリックス駆動によって電子を放出する複数の前記電子放出素子のすべてが、
Idis2*RU−Idis3*RL+Vy−Vx≦Vmax
を満たす請求項1に記載の電子源。
【請求項3】
請求項1もしくは2に記載の電子源と、前記電子放出素子が放出する電子が照射されることで発光する発光体とを有する画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−309939(P2008−309939A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156389(P2007−156389)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】