説明

電子線装置および電子線装置用試料保持装置

【課題】
本発明の目的は、薄い隔膜でもガス雰囲気を保持した状態で試料とガスの反応が高分解能で観察可能な電子線装置および電子線装置用試料保持装置を提供することにある。
【解決手段】
上記の課題の一つを解決するため、本発明では、鏡体の電子線照射部と試料室および観察室を別個に排気する機能を備えた電子線装置において、試料保持手段に、試料にガスを供給するガス供給手段、および排気する排気手段を備え、ガス雰囲気と試料室の真空を隔離,試料周囲の雰囲気を密閉したセルを構成するために、試料の上下に隔膜を配し、さらに、前記試料室内部に、前記隔膜の外側にガスを噴射する機構を備えた。隔膜の外側に噴射するガスは、電子線散乱能が低いガス、例えば水素,酸素,窒素などを用いた。隔膜の材質は電子線が透過可能なカーボン膜,酸化膜,窒化膜などの軽元素で構成される非晶質膜とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線を用いて試料の観察を行う電子線装置および電子線装置用試料保持装置に係り、特に、試料室内部に隔膜で試料を包含する雰囲気ガスの微小ガス空間(環境セル)をつくり、環境セル内での圧力を正確に制御し、高圧ガス雰囲気中での反応プロセスや反応直後の高分解能観察と高感度分析を行うことが可能な電子線装置および電子線装置用試料保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線装置において、常温で試料を観察するほかに、高温に加熱、あるいは冷却して試料の変化を観察する方法がある。また、より実際の条件に近づけるために反応ガス雰囲気中での、その変化の様子を観察する方法がある。
【0003】
ガス雰囲気中での観察については、特許文献1,特許文献2に記載のように、試料を2枚のグリッドで挟み込み、その間にガスを導入,排気する機講を試料ホルダに設ける方法がある。また、特許文献3に記載のように試料周りに筒状のカバーを設けそのカバーに2つの電子線が通過する隔膜を張った穴を設ける方法がある。
【0004】
高温,特定雰囲気下での試料の反応をリアルタイムで観察する電子顕微鏡としては、特許文献4に記載のように、試料ホルダに、試料を気密に保持するための薄膜で真空と仕切られた試料室と、前記試料室にガスを導入するためのパイプおよび試料加熱機構を設け、試料を特定雰囲気下に保った状態において試料を加熱し、種々の反応を観察する方法がある。
【0005】
また、特許文献5に記載のように、試料を加熱するヒータと対抗するようにガスを吹き付けるためのキャピラリーチューブを設け、高温でのガス反応を観察する方法がある。
【0006】
また、別の従来技術では、特許文献6のように試料保持部周辺に試料を冷却する冷媒を収容する冷媒溜が設けられ、試料を冷却し観察する方法がある。
【0007】
また、別の従来技術では、特許文献7,特許文献8,特許文献9に記載のように、荷電粒子ビーム装置に試料を加熱する機構と反応部位にガスを吹き付けることによって急冷する機構を備え、反応プロセスを観察、その後、観察部位を集束イオンビームにより切り出し透過電子顕微鏡観察する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−133186号公報
【特許文献2】特開平9−129168号公報
【特許文献3】米国特許第5326971号公報
【特許文献4】特開昭51−267号公報
【特許文献5】特開2003−187735号公報
【特許文献6】特開2000−208083号公報
【特許文献7】特開2001−305028号公報
【特許文献8】特開2005−190864号公報
【特許文献9】特開2008−108429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術において、ガス雰囲気と真空を仕切り、試料のガス反応を観察するために、電子線が通過する隔膜の保護については配慮されておらず、高い圧力での観察には、隔膜が破れてしまうという問題があった。また、隔膜の破れるのを防ぐために厚い隔膜を用いた場合、電子線が散乱されてしまうために像にボケが生じるという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、薄い隔膜でもガス雰囲気を保持した状態で試料とガスの反応が高分解能で観察可能な電子線装置および電子線装置用試料保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題の一つを解決するため、本発明では、鏡体の電子線照射部と試料室および観察室を別個に排気する機能を備えた電子線装置において、試料保持手段に、試料にガスを供給するガス供給手段、および排気する排気手段を備え、ガス雰囲気と試料室の真空を隔離,試料周囲の雰囲気を密閉したセルを構成するために、試料の上下に隔膜を配し、さらに、前記試料室内部に、前記隔膜の外側にガスを噴射する機構を備えた。
【0012】
隔膜の外側に噴射するガスは、電子線散乱能が低いガス、例えば水素,酸素,窒素などを用いた。
【0013】
隔膜の材質は電子線が透過可能なカーボン膜,酸化膜,窒化膜などの軽元素で構成される非晶質膜とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子線装置を用いて、試料室内部に隔膜で試料を包含する雰囲気ガスの微小ガス空間(環境セル)をつくり、薄い隔膜でもガス雰囲気を保持した状態で試料とガスの反応が高分解能で観察可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例である電子線装置1および電子線装置用試料保持装置6の基本構成図。
【図2】一実施例の電子線試料室14および電子線装置用試料保持装置6の構成図。
【図3】一実施例の電子線装置用試料保持装置6の構成図、(a)電子線装置用試料保持装置全体断面図,(b)電子線装置用試料保持装置先端断面図,(c)電子線装置用試料保持装置先端上面図。
【図4】一実施例の電子線装置用試料保持装置6の動作説明図、(a)電子線装置用試料保持装置6全体断面図,(b)電子線装置用試料保持装置6先端断面図,(c)電子線装置用試料保持装置6先端上面図。
【図5】一実施例の電子線装置用試料保持装置6の先端断面図。
【図6】一実施例の電子線装置用試料保持装置6の動作説明図。
【図7】一実施例の電子線装置用試料保持装置6電子線装置用試料保持装置断面図及びその上面図。
【図8】一実施例の電子線装置用試料保持装置6、(a)電子線装置用試料保持装置断面図,(b)電子線装置用試料保持装置上面図。
【図9】一実施例の電子線装置用試料保持装置6、(a)電子線装置用試料保持装置断面図,(b)電子線装置用試料保持装置上面図。
【図10】一実施例の電子線装置用試料保持装置6、(a)電子線装置用試料保持装置断面図,(b)電子線装置用試料保持装置上面図。
【図11】一実施例の電子線装置用試料保持装置6の説明図。
【図12】一実施例の電子線装置用試料保持装置6。
【図13】一実施例の電子線装置用試料保持装置6、(a)電子線装置用試料保持装置断面図,(b)電子線装置用試料保持装置上面図。
【図14】一実施例の電子線試料室14および電子線装置用試料保持装置6の構成図。
【図15】一実施例の電子線装置用試料保持装置6の使用説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に本発明の一実施例である電子線装置1および電子線装置用試料保持装置6の基本構成図を示す。電子線装置1の鏡体は、電子銃2,コンデンサーレンズ3,対物レンズ4,投射レンズ5により構成されている。コンデンサーレンズ3,対物レンズ4の間には、電子線装置用試料保持装置6が挿入される。投射レンズ5の下方には、蛍光板7が、蛍光板7の下には、TVカメラ8が装着されている。TVカメラ8は、画像表示部9に接続されている。TVカメラ8の下部には、EELS検出器10が取り付けられ、EELS制御部11に接続されている。電子線装置用試料保持装置6上方には、EDX検出器12が装備されており、EDX制御部13に接続されている。
【0017】
電子銃2近傍,コンデンサーレンズ3近傍,電子線試料室14,観察室15はそれぞれ、バルブ16を介して、異なる真空ポンプ17に接続されている。電子線装置用試料保持装置6にはカーボンや酸化物,窒化物などのアモルファスで形成された隔膜18で密封されたセル19内部に試料20が装填されており、ガス導入管21a先端部およびガス排気管22先端部がセル19内部に挿入されている。
【0018】
ガス導入管21aはガス圧コントロールバルブ23aを介してガス貯蔵部24aに接続されている。ガス排気管22はバルブ16を介して真空ポンプ17に接続されている。また、電子線試料室14には、隔膜18部分セル外部にガスを吹き付けられるように、ガス導入管21b先端部が挿入されガス圧コントロールバルブ23bを介してガス貯蔵部24bに接続されている。
【0019】
電子銃2から発生した電子線25はコンデンサーレンズ3により収束され試料20に照射される。試料20を透過した電子線25は対物レンズ4により結像され、投射レンズ5により拡大、蛍光板7上に投影される。または、蛍光板7を持ち上げ、TVカメラ8に投影し、画像表示部9に透過像が表示される。
【0020】
図2に一実施例の電子線試料室14構成図および電子線装置用試料保持装置6の一部拡大図を示す。ガス導入管21aからガス圧コントロールバルブ23aでセル19内部のガス圧を調整し、ガス内部での試料20の観察を行う。セル19内部のガスの排気は、ガス排気管22から真空ポンプ17により排気する。
【0021】
この際、電子線試料室14にも、ガス導入管21bからガスを吹き付けることにより、セル19内外の圧力差を軽減し、隔膜18を保護することにより、セル19内部の圧力を高めに設定しても隔膜18が破れないようにする。
【0022】
また、電子線試料室14と電子銃2の間には絞りを儲けた壁で区切られた中間室26を有し、異なる真空ポンプ17で排気することにより、ガスが直接電子銃2に到達し、電子銃2を破損するのを防ぐことが可能である。
【0023】
隔膜の材質は電子線が透過可能なカーボン膜,酸化膜,窒化膜などの軽元素で構成される非晶質膜とした。
【0024】
隔膜の外側に噴射するガスは、電子線散乱能が低いガス、例えば、水素,酸素,窒素などを用いた。
【0025】
図3に一実施例の隔膜を水平方向に移動可能な電子線装置用試料保持装置6の全体断面図(a),先端断面図(b),先端上面図(c)を示す。隔膜18は隔膜駆動部27に取り付けられており、隔膜駆動部27は電子線装置1の鏡体外のマイクロメータ28に接続されており、マイクロメータ28を回転することにより隔膜駆動部27を水平稼働可能である。試料20は、直径3mm程度のグリッドなどに固定あるいは、直径3mm程度の円板状に打ち抜かれた形状で、セル19内にリングバネ32で固定されている。隔膜駆動部27と電子線装置用試料保持装置6本体にはOリング30が介在しており、電子線25通過部分に隔膜18部分が配置するように隔膜駆動部27をセットすることによりセル19内の雰囲気を外部と遮断することが可能である。セル19内部にガス導入管21aからガスを導入し、ガス雰囲気での試料20を観察可能である。
【0026】
図4を用いて、隔膜部を可動にした実施例について説明する。
【0027】
従来技術では、隔膜部の稼働については考慮されておらず、反応後の試料のEDX分析やEELS分析は不可能であった。また、反応のためのガス雰囲気の交換を短時間で行うことが困難であるという問題があった。
【0028】
図4に一実施例のセル19を開放するように隔膜駆動部27を移動した場合の電子線装置用試料保持装置6の全体断面図(a),先端断面図(b),先端上面図(c)を示す。セル19の開放は電子線装置1の鏡体外からマイクロメータ28を回転することにより可能であり、ガス反応後のセル19内部のガス排気を短時間で可能であり、その後、視野を失うことなく隔膜18やガスにより阻害されていた高分解能透過像観察,EDX分析,EELS分析を迅速に行うことが可能となる。
【0029】
図4では上下の隔膜18が同時に移動するような構造であるが、片方あるいは、両方の隔膜18が別個に水平移動するようにマイクロメータ28を備えてもよい。
【0030】
図5では、隔膜を垂直方向に移動可能な実施例について説明する。
【0031】
従来技術では、ガス空間と試料の距離の調節については考慮されていないために、セル中のガス圧力が高い場合には、ガスによる電子線の散乱により、高分解能観察が困難であるという問題があった。
【0032】
図5(a,b,c)に一実施例の隔膜18を垂直方向に移動可能な電子線装置用試料保持装置6(試料ホルダ)の先端断面図を示す。
【0033】
隔膜18は押さえ31に固定され、押さえ31と隔膜稼働部27の接触部にはネジが切ってあり、隔膜18は垂直方向に移動することが可能である(a)。
【0034】
また、電子線装置用試料保持装置6本体中央部分にもネジをきることによって、隔膜18をより試料20により近づけることが可能である(b)。これにより、ガス容積を小さくし電子線の散乱を抑え、より高分解能観察を行うことが可能である。
【0035】
さらに、試料20に対して下方の隔膜18を電子線装置用試料保持装置6本体中央部分にセットし、上部隔膜18は隔膜駆動部27にセットすることによって、上部隔膜18のみ移動することが可能である。これにより、隔膜18でセル19を密封した際も、セル19の容積が少なくでき、ガスの容積も抑えることができ高分解能観察が可能である。さらに反応後は、上部隔膜18を水平移動させ、セル19を開放することによって、セル19内の排気が短時間で行え、反応直後の高分解能観察および、より感度の高いEDX分析,EELS分析が可能となる(c)。
【0036】
図6に隔膜18を垂直方向に移動する場合の説明図を示す。隔膜18が取り付けられた押さえ31にはOリング30が取り付けられ、セル19内部と外部と遮断している。隔膜18の移動には特殊ドライバー33を用い、特殊ドライバー33に設けた突起部を押さえ31に設けた穴に差込回転させることにより、隔膜18を取り付けた押さえ31を上下に移動させる。
【0037】
図7を用いて、試料の加熱機構について説明する。
【0038】
図7に一実施例の電子線装置用試料保持装置6の先端断面図(a−1,b−1),先端上面図(a−2,b−2)を示す。電子線装置用試料保持装置6のセル19内部にヒータ34が電子線装置用試料保持装置6にネジ35で固定されている。ヒータ34はリード線36を介して電子線装置1鏡体外の加熱電源37に接続している。試料20は粉体であり、ヒータ34に直接付着している。密閉されたセル19内部に、ガス導入管21aよりガスを導入し、その後ヒータ34に電流を流すことにより、試料20が直接加熱され、ガス反応が生じ、その様子を観察することが可能となる(a−1,2)。
【0039】
その後ヒータ34に電流を流したまま、ガスを排気し、上下隔膜18を水平移動させ、セル19を開放することによって、試料20の同一視野の反応直後の高分解能観察が可能である。また、電子線25を絞って、微小領域のEELS分析を行う際も、空間分解能が高く、かつ隔膜18の影響のない分析が可能となる(b−1,2)。
【0040】
図8を用いて、加熱した試料への蒸着について説明する。
【0041】
図8に一実施例の電子線装置用試料保持装置6の先端断面図(a),先端上面図(b)を示す。電子線装置用試料保持装置6の先端部には試料20,加熱用ヒータ34aの他に、試料20に異なる金属などを蒸着するために別の蒸着用ヒータ34bが電子線装置用試料保持装置6にネジ35bで固定されている。蒸着用ヒータ34bは隔膜18で密閉されたセル19内部に設置される。蒸着用ヒータ34bはリード線36bに接続され、試料20加熱とは別の加熱電源にリード線36bを介し、接続される。蒸着用ヒータ34bには、蒸着用の金属38が直接付着されている。蒸着用ヒータ34bを加熱することによりヒータ34b上の蒸着用の金属38が試料20へ蒸着される。
【0042】
図9に一実施例の電子線装置用試料保持装置6の先端断面図(a),先端上面図(b)を示す。電子線装置用試料保持装置6の先端部には試料20,加熱用ヒータ34a,蒸着用ヒータ34bの他に、直径3mm程度のグリッドなどに固定あるいは、直径3mm程度の円板状に打ち抜かれた試料20bが装着されている。試料20bはセル19内にリングバネ32で固定されている。これにより、加熱用ヒータ34aも蒸着源として使用することが可能で、異なる種類の蒸着源を試料20bに蒸着することが可能である。また、ヒータの輻射熱を利用して、試料20bを加熱することも可能である。
【0043】
図10に一実施例の電子線装置用試料保持装置6の先端断面図(a),先端上面図(b)を示す。電子線装置用試料保持装置6の先端部に取り付けられた試料20,加熱用ヒータ34にはリード線36を介して加熱電源37および液体窒素貯蔵部39に接続可能となっている。また、試料20近傍には熱電対40を設け温度測定が可能とする。試料20はヒータ34に直接付着されており、冷却棒29を介して液体窒素貯蔵部39に接続することにより、試料20およびヒータ34を冷却することが可能である。これにより、広い温度範囲での試料20の反応を観察可能である。
【0044】
また、高温加熱および冷却による試料ドリフトが生じる場合の実施例について説明する。
【0045】
図11に、本実施例を用いて試料20を加熱した場合の説明図を示す。
【0046】
電子線装置1内の試料室14に電子線装置用試料保持装置6をセットした場合、対物レンズ4の磁界は垂直方向であるので、加熱電流の方向からヒータ34は水平方向のローレンツ力を受ける。
【0047】
図12に本実施例の電子線装置用試料保持装置6の先端上面図を示す。電子線装置用試料保持装置6の隔膜18の形状は、移動方向と長軸が合うような楕円形あるいは長方形状とする。図11から、試料20加熱時のヒータ34および試料20の移動方向は水平方向となるため、移動しても、視野を逃すことなく観察することが可能である。
【0048】
図13に一実施例の電子線装置用試料保持装置6の先端断面図(a),先端上面図(b)を示す。隔膜18で密閉されたセル19内部の電子線装置用試料保持装置6本体に微小圧力測定素子41設け、電子線装置1外の圧力計42に接続されている。これにより、隔膜18で密閉されたセル19内部の圧力を直接測定することが可能である。
【0049】
図14に一実施例の電子線試料室14および電子線装置用試料保持装置6を示す。セル19内部の電子線装置用試料保持装置6本体に微小圧力測定素子41aを設けた他に、セル19外部の電子線装置用試料保持装置6本体に別の微小圧力測定素子41bを設ける。微小圧力測定素子41bは、圧力計42bに接続されている。これによりセル19内部の圧力のほかに、セル19外部近傍の電子線試料室14内部の圧力を測定することが可能である。
【0050】
図15に図7の実施例の電子線装置用試料保持装置6の使用説明図を示す。
(1)試料20を加熱用ヒータ34aに付着させる。また、試料20に異なる蒸着用の金属38を蒸着用ヒータ34bに付着させる。
(2)電子線装置用試料保持装置6を電子線試料室14に挿入する。
(3)隔膜18のない状態で試料20を観察する。必要があればEDX分析・EELS分析を行う。
(4)隔膜18により、セル19を密閉する。ガス例えば空気を導入し、セル19内の圧力を設定する。圧力が高いために隔膜18が破損する恐れのある場合、セル19外部すなわち電子線試料室14にもガスを導入する。
(5)試料20加熱する。加熱による試料のガス反応を観察,分析する。
(6)反応後、加熱を停止。
(7)隔膜18を水平移動させ、セル19内外のガスを排気する。
(8)反応生成物高分解能観察、および分析する。
【0051】
以上のように、観察視野を保持したまま、電子線装置1から一度も試料20を出すことなく、自由にガス雰囲気での反応プロセスを観察可能で、さらに、高分解能観察,分析が可能である。
【0052】
上記の構成を組み合わせることにより、環境セル内での圧力を正確に制御し、高圧ガス雰囲気中あるいは液体中での反応プロセス、例えば高温ガス反応による結晶成長プロセス,酸化還元反応の観察,微小大気空間内での生物などの観察、また、高圧ガス雰囲気中での反応直後の高分解能観察と高感度分析を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1 電子線装置
2 電子銃
3 コンデンサーレンズ
4 対物レンズ
5 投射レンズ
6 電子線装置用試料保持装置
7 蛍光板
8 TVカメラ
9 画像表示部
10 EELS検出器
11 EELS制御部
12 EDX検出器
13 EDX制御部
14 電子線試料室
15 観察室
16 バルブ
17 真空ポンプ
18 隔膜
19 セル
20 試料
21 ガス導入管
22 ガス排気管
23 ガス圧コントロールバルブ
24 ガス貯蔵部
25 電子線
26 中間室
27 隔膜駆動部
28 マイクロメータ
29 冷却棒
30 Oリング
31 押さえ
32 リングバネ
33 特殊ドライバー
34 ヒータ
35 ネジ
36 リード線
37 加熱電源
38 蒸着用の金属
39 液体窒素貯蔵部
40 熱電対
41 微小圧力測定素子
42 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次電子線を放出する電子源と、
前記電子源から放出される電子線を収束し、試料に照射する電子線制御手段と、
試料から発生した電子を検出する検出器と、
前記検出器からの信号に基づいて試料像を作成する制御手段と、前記試料像を表示する表示手段と、
前記試料を保持する試料保持手段と、
を備えた電子顕微鏡において、
前記試料保持手段に、前記試料にガスを供給するガス供給手段、および排気する排気手段を備え、
試料の上下に隔膜を配し、ガス雰囲気と試料室の真空を隔離し試料周囲の雰囲気を密閉したセルを構成し、
前記試料室内部に、前記隔膜の外側にガスを噴射する機構を備え、前記隔膜の外側に真空より高い圧力のガス層を作ることを特徴とする電子線装置および電子線装置用試料保持装置。
【請求項2】
請求項1記載の電子線装置において、隔膜の外側に噴射するガスは、電子線散乱能が低いガスであることにより、試料とガスの反応が高分解能で観察,分析が可能なことを特徴とする電子線装置。
【請求項3】
請求項1記載の電子線装置用試料保持装置において、隔膜の材質は電子線が透過可能なカーボン膜,酸化膜,窒化膜などの軽元素で構成される非晶質膜であることを特徴とする電子線装置用試料保持装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の電子線装置用試料保持装置において、試料の上下に配した隔膜は、上下隔膜の両方或いは片方の隔膜が水平方向に移動可能な機構を有することを特徴とする電子線装置および電子線装置用試料保持装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか記載の電子線装置用試料保持装置において、試料の上下に配した隔膜は、垂直方向に移動可能な機構を有することを特徴とする電子線装置および電子線装置用試料保持装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の電子線装置および電子線装置用試料保持装置において、セル内に試料を加熱する機構を設けたことにより、試料加熱時におけるガス雰囲気中での試料の状態を観察可能な電子線装置および電子線装置用試料保持装置。
【請求項7】
請求項6記載の電子線装置用試料保持装置において、試料を加熱する機構はらせん状ヒータであり、1個あるいは複数個備え、試料を直接ヒータに付着させることで、ガス雰囲気中での試料加熱あるいは、一つのヒータに付着させた試料へ別のヒータに付着させた物質の蒸着が可能であることを特徴とする電子線装置および電子線装置用試料保持装置。
【請求項8】
請求項7記載の電子線装置用試料保持装置において、らせん状ヒータに、冷却機構を連結したことを特徴とする電子線装置および電子線装置用試料保持装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の電子線装置用試料保持装置において、セルを構成する隔膜部の形状は長方形および楕円形とし、前記隔膜部の長手方向とヒータ軸が直交するように配置することを特徴とする電子線装置用試料保持装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか記載の電子線装置用試料保持装置において、セル内にマイクロプレッシャーゲージを備えることを特徴とする電子線装置用試料保持装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか記載の電子線装置および電子線装置用試料保持装置において、セル外部かつ隔膜近傍にマイクロプレッシャーゲージを備えたことを特徴とする電子線装置または電子線装置用試料保持装置。
【請求項12】
請求項1乃至5のいずれか記載の電子線装置および電子線装置用試料保持装置において、セル内部に液体を導入する機構を設けたことを特徴とする電子線装置または電子線装置用試料保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−192126(P2010−192126A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32124(P2009−32124)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】