説明

電子線装置

【課題】電子線鏡筒の先端部からの絞り部材の着脱動作を、単純な動作及び簡易な機構によって自動的に行うことのできる電子線装置を提供する。
【解決手段】基端側に位置する電子線源から放出された電子線5を先端側から放出する電子線鏡筒1と、電子線鏡筒1の先端側に接続された試料室2と、試料室2内において、電子線鏡筒1の先端部に着脱可能に配置される絞り部材とを備えた電子線装置において、電子線5の進行方向に沿う所定の平面に沿って絞り部材を回動動作させ、これにより電子線鏡筒1の先端部に対して絞り部材を着脱可能とするための回動機構20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低真空状態での試料観察が可能とされる走査形電子顕微鏡等の電子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、試料の低真空観察を行うことのできる走査形電子顕微鏡の要部の概略構成図(断面図)を示す。同図において、電子線鏡筒1には、電子線5が通過する電子線通過路4が形成されている。この電子線通過路4は管路となっており、電子線通過路4内を通る電子線5は、電子線鏡筒1の先端側に配置された対物レンズ3を介して、電子線鏡筒1の先端(すなわち、対物レンズ3の先端)から放出される。ここで、電子線鏡筒1には、電子線源としての電子銃及び偏向コイル(共に図示せず)等が設置されている。
【0003】
電子線鏡筒1の先端側は、試料室2に取り付けられている。電子線鏡筒1の先端から放出された電子線5は、試料室2内に配置された試料6上に照射される。このとき、試料6上に照射された電子線5は、偏向コイルにより偏向され、試料6上を走査する。
【0004】
この電子線5の走査時において、所定の走査信号に基づく走査駆動電流が偏向コイルに供給される。そして、この走査駆動電流により偏向コイルが駆動され、当該偏向コイルによって電子線5が偏向される。
【0005】
電子線5が照射(走査)された試料6からは、反射電子等の被検出電子(図示せず)が発生する。このようにして試料6から発生した被検出電子は、試料室2内に設置された図示しない電子検出器によって検出される。そして、この電子検出器による被検出電子の検出信号と上述した走査信号とに基づいて、試料6の走査像が形成され、その像の表示が行われる。この走査形電子顕微鏡の操作を行うオペレータは、表示された像を目視にて確認することにより、試料観察を行うことができる。なお、このように試料6の低真空観察を行うときには、2次電子よりもエネルギーが大きい反射電子を被検出電子とすることが多い。
【0006】
ここで、試料6の低真空観察を行う場合には、試料6が配置されている試料室2内部の真空雰囲気を、高真空雰囲気とされた電子線鏡筒1の電子線通過路4内部の真空雰囲気に対して、低真空状態にする必要がある。
【0007】
そこで、図1に示すような低真空観察用の走査形電子顕微鏡においては、電子線鏡筒1の電子線通過路4内を高真空雰囲気に維持した状態で、試料室2内を低真空雰囲気に保持するために、電子線通過路4内部と試料室2内部との間において、差動排気が行われる構成となっている。
【0008】
すなわち、電子線鏡筒1の電子線通過路4の先端側に、絞り8を配置する。この絞り8には、差動排気用の開口8aが形成されている。なお、電子線通過路4内部及び試料室2内部は、それぞれ別々の真空排気系により真空排気される。このとき、電子線通過路4内部の真空度は、高真空に設定される。また、試料室2内部の真空度は、それに対して低真空に設定される
絞り8の開口8aは、試料室2内の低真空雰囲気が、電子線通過路4内の高真空雰囲気に対して殆ど影響を与えることのないような微小な開口となっているが、電子線5は開口8aを通過可能である。
【0009】
図1に示す構成において、絞り8は、絞りホルダ7上に載置されている。ここで、絞りホルダ7は、絞り8が載置される凸部と本体部7bとから構成されており、絞り8は、その凸部の上面に固定されている。該凸部は、電子線鏡筒1における対物レンズ3の先端部分の電子線通過路4内に位置している。これより、該凸部の上面に固定された絞り8は、対物レンズ3における先端部分の電子線通路4内に配置される。
【0010】
また、絞りホルダ7には、貫通孔7aが設けられている。この貫通孔7aは、絞りホルダ7を構成する凸部及び本体部7bを貫通するように形成されている。これにより、電子線鏡筒1の電子線通過路4内を通る電子線5は、絞り8の開口8a及び絞りホルダ7の貫通孔7aを通過し、試料室2内の試料6に到達する。
【0011】
試料室2内において、絞りホルダ7は、同図に示すように対物レンズ3の先端に配置されており、複数のスプリング9により支持されている。すなわち、絞りホルダ7の本体部7bには、スプリング9の一端側が取り付けられており、スプリング9の他端側は、支持ブロック10に係止されている。この支持ブロック10は、試料室2の上部内壁面に固定されている。これにより、絞りホルダ7は、支持ブロック10に係止されたスプリング9を介して、試料室2内部で支持されている。
【0012】
なお、図1に示す構成による絞り8の支持構造の他に、差動排気絞りを上下方向に昇降させる昇降手段と、降下後の差動排気絞りを水平方向に移動させる水平移動機構とを備えるものもある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−010177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図1に示す構成からなる低真空観察用の走査形電子顕微鏡においては、絞り8を保持する絞りホルダ7は、上述のごとく、スプリング9を介して試料室2内で支持されている。このような支持構造では、絞りホルダ7は試料室2内部において固定状態となっており、観察モードを切り換えて、試料6の高真空観察を行う場合にも、絞り8が電子線通過路4内にそのまま配置されている状態となる。
【0015】
このような状態では、観察モード切換後の高真空観察時においても、低真空観察時と同様に、絞り8の存在に起因する視野制限や観察位置制限が生じることとなる。すなわち、電子線鏡筒1の先端(すなわち、対物レンズ3の先端)から試料6に向けて照射される電子線5の照射範囲が、絞り8の開口8aの大きさに依存して影響を受ける。この結果、電子線5の照射範囲に制限が加わることとなり、観察時における試料6上での視野及び観察位置が制限を受けることとなる。
【0016】
従って、低真空観察から高真空観察への観察モードの切換時には、絞りホルダ7を移動させて、絞り8の開口8aが電子線5の軌道上から完全に外れるように、電子線鏡筒1の先端部から絞り8を退避させる必要がある。
【0017】
しかしながら、上記の装置構成では、試料室2の内部雰囲気を一旦大気圧に復帰させ、その後、試料室2における一部の側壁2aを開けて試料室2内を開放し、このようにして開けられた開口部分を介して、オペレータの人手(手作業)によりスプリング9を係止ブロック10から取り外して、スプリング9と共に絞りホルダ7及び絞り8を人手によって試料室2外に取り出す必要があった。そして、絞りホルダ7、絞り8及びスプリング9が試料室2外に取り出された後には、上記側壁2aによって上記開口部分を閉じて、その後試料室2内部を所定の高真空状態まで真空引きすることとなる。
【0018】
また、絞り8が電子線通過路4内に位置している状態で、電子線5が絞り8の開口8aの周囲部分等に照射されると、絞り8にコンタミネーション(汚染)が生じることとなり、この場合、絞り8を適宜交換する必要がある。しかしながら、この交換作業においても、スプリング9を係止ブロック10から取り外した後、絞りホルダ7及び絞り8を対物レンズ3の先端部から外し、スプリング9と共に絞りホルダ7及び絞り8を人手によって試料室2外に取り出して絞り8を交換することとなり、交換作業に長い時間が必要となっていた。
【0019】
なお、特許文献1に記載された装置においては、試料室内を大気圧に戻すことなく、差動排気絞りを対物レンズから着脱可能となっている。しかしながら、当該装置では、差動排気絞りの対物レンズからの取り外し時には、試料室外に設けられた操作部(摘み)をオペレータが手動操作することにより、差動排気絞りを上下方向に降下させ、その後、差動排気絞りを水平方向に移動させるという手動動作による構成となっている。
【0020】
このような手動動作では、当該動作時に、オペレータが試料室まで手を伸ばして手作業を行う必要があり、操作性の向上という観点からは要改善点があった。
【0021】
また、このように上下方向に移動後に水平方向に移動させるという二段階の動作を要する構成では、モータ等の駆動手段を用いて、自動的に絞りの着脱動作を行うことを検討したときに、装置構成が複雑化することが考えられる。
【0022】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、電子線鏡筒の先端部(対物レンズの先端部)からの絞り部材の着脱動作を、単純な動作及び簡易な機構によって自動的に行うことのできる電子線装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に基づく第1の電子線装置は、基端側に位置する電子線源から放出された電子線を先端側から放出する電子線鏡筒と、電子線鏡筒の先端側に接続された試料室と、試料室内において、電子線鏡筒の先端部に着脱可能に配置される絞り部材とを備えた電子線装置であって、電子線の進行方向に沿う所定の平面に沿って絞り部材を回動動作させることにより、電子線鏡筒の先端部に対して絞り部材が着脱されることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に基づく第2の電子線装置は、基端側に位置する電子線源から放出された電子線を先端側から放出する電子線鏡筒と、電子線鏡筒の先端側に接続された試料室と、試料室内において、電子線鏡筒の先端部に着脱可能に配置される絞り部材とを備えた電子線装置であって、電子線の進行方向に沿う所定の平面に沿って絞り部材を回動動作させ、これにより電子線鏡筒の先端部に対して絞り部材を着脱可能とするための回動機構を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明においては、電子線の進行方向に沿う所定の平面に沿って絞り部材を回動動作させることにより、電子線鏡筒の先端部に対して絞り部材を着脱できるようにしている。特に、本発明における第2の電子線装置においては、このように絞り部材を回動動作させることにより、電子線鏡筒の先端部に対して絞り部材を着脱可能とするための回動機構が備えられている。
【0026】
これにより、本発明では、単純な動作及び簡易な機構によって、電子線鏡筒の先端部からの絞り部材の着脱を自動的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来技術における低真空観察用走査形電子顕微鏡を示す概略構成図である。
【図2】本発明における低真空観察用走査形電子顕微鏡を示す概略構成図である。
【図3】本発明における回動機構の構成を示す斜視図である。
【図4】絞りホルダが対物レンズ先端部に接触した状態を示す図である。
【図5】対物レンズ先端部での絞りホルダの接触を解除した状態を示す図である。
【図6】対物レンズ先端部から絞りホルダが取り外された状態を示す図である。
【図7】対物レンズ先端部から絞りホルダが取り外された後、退避位置に移動した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図2は、本発明における低真空観察用の走査形電子顕微鏡の要部を示す概略構成図(断面図)である。なお、図1に示した構成要素と同様のものには、同じ番号が付されている。
【0029】
図2において、電子線鏡筒1には、電子線5が通過する電子線通過路4が形成されている。電子線通過路4は、管路となっている。この電子線通過路4内を通る電子線5は、電子線鏡筒1の先端部に配置された対物レンズ3を介して、電子線鏡筒1の先端(すなわち、対物レンズ3の先端)から放出される。
【0030】
電子線鏡筒1の基端側には、電子線源としての電子銃(図示せず)が備えられている。電子銃は、所定の加速電圧により電子線5を放出する。電子銃から放出された電子線5は、電子線鏡筒1内部において、電子線通過路4内を通る。なお、電子線鏡筒1には、図示しない偏向コイル等が設置されている。
【0031】
電子線鏡筒1の先端側は、試料室2に取り付けられている。電子線鏡筒1の先端から放出された電子線5は、試料室2内に配置された試料6に照射される。このとき、試料6上に照射された電子線5は、当該偏向コイルにより偏向され、試料6上を走査する。
【0032】
この電子線5の走査時において、所定の走査信号に基づく走査駆動電流が偏向コイルに供給される。この走査駆動電流により偏向コイルが駆動され、当該偏向コイルによって電子線5が偏向される。
【0033】
電子線が照射(走査)された試料6からは、図示しない反射電子等の被検出電子が発生する。このようにして試料6から発生した被検出電子は、試料室2内に設置された電子検出器16により検出される。この電子検出器16による被検出電子の検出信号と上述した走査信号とに基づいて、試料像としての走査像が形成される。当該試料像は、図示しない表示装置によって表示される。オペレータは、表示された試料像を目視にて確認することにより、試料観察を行うことができる。
【0034】
本実施の形態においては、電子検出器16は、反射電子検出器となっており、被検出電子としての反射電子を検出する。ここで、電子検出器16は、絞りホルダ17の底面に設けられている。
【0035】
図2に示す状態は、低真空観察を行うときの装置状態を示しており、電子線鏡筒1の電子線通過路4の先端側に、開口18aが形成された絞り18が配置されている。この絞り18により、電子線鏡筒1の電子線通過路4内を高真空雰囲気に維持した状態で、試料室2内を低真空雰囲気に保持するための差動排気を行うことができる。
【0036】
ここで、電子線通過路4内部及び試料室2内部は、それぞれ別々の真空排気系により真空排気される。低真空観察を行うときには、電子線通過路4内部の真空度は高真空に設定され、試料室2内部の真空度は、それに対して低真空に設定される。
【0037】
絞り18の開口18aは、試料室2内の低真空雰囲気が、電子線通過路4内の高真空雰囲気に対して殆ど影響を与えることのないような微小な開口となっているが、電子線5は開口18aを通過可能である。
【0038】
絞り18は、試料室2内に配置された絞りホルダ17に載置されている。ここで、図4を参照して説明すると、絞りホルダ17は、本体部17b及び該本体部17bの先端部に配置された絞り載置部19から構成されている。絞り載置部19は、該本体部17bの先端部に設けられた凸部17cに係合している。該凸部17cの外側面にはネジが切られており、また、絞り載置部19の内部にもネジが切られている。これらのネジ同士が螺合することにより、絞り載置部19が該凸部17cに係合する。
【0039】
なお、絞りホルダ17と絞り18とにより、絞り部材が構成される。また、当該凸部17cに係合された絞り載置部19により、絞り部材の突起部が構成される。
【0040】
絞りホルダ17において、該凸部17cが位置する側に対する反対側の面(底面)には、上述した電子検出器16が配置されている。そして、絞りホルダ17の先端部には、絞り載置部19、該凸部17c及び電子検出器16を貫通するように貫通孔17aが設けられている。絞り載置部19上に固定された絞り18の開口18aは、該貫通孔17aに対応するように位置している。これにより、電子線鏡筒1の電子線通過路4内を通る電子線5は、絞り18の開口18a及び絞りホルダ7の貫通孔17aを通過し、試料室2内の試料6に到達する。
【0041】
絞りホルダ17の基端部には、棒状(円筒状)の軸(回動軸)14が固定されている。この軸14の長手方向は、電子線15の進行方向(垂直方向)に対して直交する方向(水平方向)に沿った方向となっている。また、該軸14は、支持部材11の先端部11aを貫通している。
【0042】
ここで、図3に示すように、支持部材11の先端部11aには切り欠き部11bが形成されている。これにより、該先端部11aは二股構造となっている。該切り欠き部11b内には絞りホルダ17の基端部が位置し、該基端部に取り付けられた軸14が支持部材11の先端部11aを回転可能に貫通している。なお、該軸14は、絞りホルダ17の基端部を貫通しているとともに、該基端部に固定されている。絞りホルダ17は、軸14を介して、支持部材11に支持される。支持部材11の先端部11aを貫通している軸14の一端側には、歯車13が取り付けられている。
【0043】
また、支持部材11の一方の側面には、固定部材12aを介して、モータ12が取り付けられている。モータ12の回転軸には、ウォームギア15が取り付けられている。このウォームギア15は、歯車13と係合している。
【0044】
これにより、モータ12が駆動することによって、その回転軸とともにウォームギア15が回転することとなる。このウォームギア15の回転により、これに係合する歯車13が回転する。歯車13の回転に伴って、軸14も回転し、絞り18が載置された状態で絞りホルダ17の回動が行われる。
【0045】
このとき絞りホルダ17は、電子線5の進行方向(垂直方向)に沿う所定の平面に沿って回動することとなる。なお、歯車13とウォームギア15及びモータ12とにより回動機構20が構成される。
【0046】
以上が、本装置の構成である。次に、図4から図6を参照して、その動作について説明する。
【0047】
図4に示すように低真空観察を行う状態では、絞りホルダ7の先端部は、電子線鏡筒1の対物レンズ3の先端部と接している。そして、絞りホルダ7の先端部に位置する絞り載置部19に載置された絞り18は、対物レンズ3内部の電子線通過路4内に配置されている。
【0048】
この状態から、電子線通過路4内から絞り18を退避させ、高真空観察を行える状態にする場合には、モータ12を駆動させて、モータ12の回転軸に固定されたウォームギア15を回転させる。ウォームギア15の回転に伴い、これに係合する歯車13が回転する。このときの歯車13の回転方向は、図3中の矢印Aの方向となる。モータ12は、歯車13が矢印Aの方向に回転するように、ウォームギア15の回転を行う。
【0049】
この結果、図4における矢印Bの方向(上記矢印Aの方向と同じ回転方向)に軸14が回転する。軸14は絞りホルダ17の基端部に固定されているので、軸14の回転に伴い、絞りホルダ17が矢印Bの方向に回動する。
【0050】
ここで、図5は、絞りホルダ17の回動直後の状態を示す図である。同図に示す状態では、対物レンズ3の先端部に対する絞りホルダ17の接触が解除されている。
【0051】
さらに、絞りホルダ17の回動動作が進むと、図6に示す状態となる。この状態では、対物レンズ3の先端部から絞りホルダ17が取り外されており、絞りホルダ17に載置されている絞り18は、対物レンズ3の電子線通過路4から外れた場所に位置している。
【0052】
また、さらに絞りホルダ17の回動動作が進むと、図7に示す状態となる。この状態では、絞りホルダ17は退避位置に位置した状態となっている。
【0053】
以上の動作は、オペレータによる観察モードの切り替え操作に基づき、モータ12の駆動によって、自動的に行われる。このとき、試料室2内部を大気圧に復帰させる必要はない。従って、短時間で効率良く観察モードの移行を行うことができる。
【0054】
なお、上述した図4の状態から図7の状態に至るまでの退避動作を行う際には、試料室2内において試料6を載置する試料ステージ(図示せず)を下降させておく。当該動作時において、絞りホルダ17と試料ステージとの接触(衝突)を回避するためである。この試料ステージの下降動作も、オペレータによる観察モードの切り替えに基づき、自動的に行われる。
【0055】
図7に示す状態では、絞り18が対物レンズ3の電子線通過路4内から退避した位置に配置されているので、電子線通過路4内部と試料室2内部との差動排気は解除された状態となっている。従って、試料室2内を高真空状態とすることにより、試料6の高真空観察を行うことができる。このときには、試料室2内部に配置された図示しない2次電子検出器によって、試料6からの2次電子が検出される。
【0056】
なお、本発明における回動機構20の構成では、モータ12の回転軸に取り付けられたウォームギア15によって、歯車13を回転するようにしている。従って、図4に示す状態又は図7に示す状態の何れかの状態でモータ12の駆動を停止しても、絞りホルダ17の位置状態を保持することができる。すなわち、モータ12の駆動が停止した状態であっても、歯車13の回転は、これに係合するウォームギア15によって制動されているからである。
【0057】
また、図7に示す高真空観察を行う状態から低真空観察を行う状態に移行する際には、モータ12を上記とは逆の方向に回転させ、これにより上述した動作とは逆の動作を行うようにする。すなわち、図7の状態から図6及び図5の状態を経由して、図4の状態とする。図4の状態では、上述したように、差動排気が行える構成となっている。この状態で、試料室2内を低真空状態として、試料6の低真空観察を行う。
【0058】
以上の構成により、電子線鏡筒1の電子線通過路4内からの絞り18の着脱動作を、モータ12の駆動により自動的に行うことができる。これにより、オペレータによる観察モードの切り換えに基づいて、差動排気の実施/不実施を自動的に切り換えることができ、低真空観察及び高真空観察の切り替えを自動的に行うことができる。
【0059】
特に、高真空観察時には、絞り18が載置された絞りホルダ17が対物レンズ3の先端部から完全に退避されているので、試料6を対物レンズ3の先端に近づけることができ、観察距離(ワーキングディスタンス)を短縮することができる。また、高真空観察時において、絞り18による観察視野の制限が生じることがない。
【0060】
さらに、高真空観察時には、絞り18は退避されており、絞り18に電子線5が照射されることがないので、絞り18のコンタミネーションの発生が低減される。
【0061】
また、絞り18の交換を行う際には、図7に示すように絞り8を退避状態とし、その後試料室2を大気圧復帰させ、側壁2aを開ける。このようにして開けられた開口部分を介して、オペレータが手を試料室2内に入れることにより、手作業により絞り18の交換を行うことができる。
【0062】
この場合、絞りホルダ17が試料室2内に位置した状態で、絞り18の交換を行うことができる。すなわち、絞り18が載置されている絞り載置部19を、試料室2内においてオペレータが手作業により回すことにより、絞り載置部19の凸部17cとのネジによる係合が解除され、絞り18と共に絞り載置部19を凸部17cから取り外すことができる。
【0063】
そして、新しい絞り18が載置された絞り載置部19を凸部17cにネジ止めによって取り付けることにより、絞り18の交換を手際よく行うことができる。その後、当該側壁2aを閉じて、試料室2を密閉し、試料室2内の真空排気を行う。
【0064】
本発明では、低真空観察モードから高真空観察モードへの移行時には、モータ12の駆動によって自動的に絞り18の電子線通過路4からの取り外しを行うことができ、高真空観察時においては、絞り18による視野制限を受けずに試料観察を行うことができる。
【0065】
そして、高真空観察モードへ移行したときには、絞り18が退避位置にあるので、絞り18のコンタミネーションを低減することができ、絞り18の使用寿命を延ばすことができる。また、コンタミネーションが増加した状態の絞り18を交換するときに、当該交換作業を簡易化することができる。
【0066】
このように、本願発明における電子線装置は、基端側に位置する電子線源から放出された電子線5を先端側から放出する電子線鏡筒1と、電子線鏡筒1の先端側に接続された試料室2と、試料室2内において、電子線鏡筒1の先端部に着脱可能に配置される絞り部材(絞り18及び絞りホルダ17)とを備え、電子線5の進行方向に沿う所定の平面に沿って絞り部材を回動動作させることにより、電子線鏡筒1の先端部に対して絞り部材が着脱可能となっている。
【0067】
特に、本発明においては、電子線5の進行方向に沿う所定の平面に沿って絞り部材を回動動作させ、これにより電子線鏡筒1の先端部に対して絞り部材を着脱可能とするための回動機構20が設けられている。ここで、回動機構20は、絞り部材の回動軸14に固定された歯車13と、この歯車13に係合するウォームギア15が取り付けられたモータ12とを備えている。
【0068】
支持部材11は先端部11aが二股構造となっており、支持部材11の基端側は対物レンズ3に取り付けられている。そして、絞り部材を構成する絞りホルダ17の基端部は、支持部材11の先端部11aの間隙(二股間)に位置しており、絞りホルダ17の該基端部に設けられた回転軸14は、支持部材11の先端部11aを貫通している。
【0069】
絞りホルダ17には、凸部17cに係合された絞り載置部19から構成される突起部が備えられている。該突起部の側面(すなわち、絞り載置部19の側面)は、テーパ面となっている。これにより、対物レンズ3の電子線通過路4に対する絞り18の着脱動作を、対物レンズ3の先端部への接触が生じることなくスムーズに行うことができる。
【0070】
また、絞り部材を構成する絞りホルダ17の底面(絞り18が載置される側に対する反対側の面)には、被検出電子となる反射電子を検出するための電子検出器16が設けられている。これにより、装置構成を複雑化することなく、簡易な装置構成で電子検出器16を試料室2内に配置することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…電子線鏡筒、2…試料室、3…対物レンズ、4…電子線通過路、5…電子線、6…試料、7…絞りホルダ、8…絞り、9…スプリング、10…支持ブロック、11…支持部材、12…モータ、13…歯車、14…回転軸、15…ウォームギア、16…電子検出器、17…絞りホルダ、18…絞り、19…絞り載置部、20…回動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端側に位置する電子線源から放出された電子線を先端側から放出する電子線鏡筒と、電子線鏡筒の先端側に接続された試料室と、試料室内において、電子線鏡筒の先端部に着脱可能に配置される絞り部材とを備えた電子線装置であって、電子線の進行方向に沿う所定の平面に沿って絞り部材を回動動作させることにより、電子線鏡筒の先端部に対して絞り部材が着脱されることを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
基端側に位置する電子線源から放出された電子線を先端側から放出する電子線鏡筒と、電子線鏡筒の先端側に接続された試料室と、試料室内において、電子線鏡筒の先端部に着脱可能に配置される絞り部材とを備えた電子線装置であって、電子線の進行方向に沿う所定の平面に沿って絞り部材を回動動作させ、これにより電子線鏡筒の先端部に対して絞り部材を着脱可能とするための回動機構を具備することを特徴とする電子線装置。
【請求項3】
回動機構は、絞り部材の回動軸に固定された歯車と、該歯車に係合するウォームギアが取り付けられたモータとを備えることを特徴とする請求項2記載の電子線装置。
【請求項4】
絞り部材の基端部に回動軸が設けられ、先端部が二股構造とされた支持部材の該先端部の間隙(二股間)に絞り部材の基端部が位置するとともに、該回転軸が支持部材の先端部を貫通していることを特徴とする請求項3記載の電子線装置。
【請求項5】
絞り部材は、絞りを載置するための突起部を備えることを特徴とする請求項1乃至4何れか記載の電子線装置。
【請求項6】
絞り部材に備えられた突起部の側面は、テーパ面となっていることを特徴とする請求項5記載の電子線装置。
【請求項7】
絞り部材における絞りが載置される側に対する反対側の面には、試料から発生する被検出電子を検出するための電子検出器が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6何れか記載の電子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−18506(P2011−18506A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161532(P2009−161532)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】