説明

電子部品の製造方法および電子部品の評価方法

【課題】電子部品の再酸化状態を直接的かつ適切に評価でき、再酸化処理に起因する酸素欠損量を定量化できる電子部品の製造方法および評価方法を提供すること。
【解決手段】ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを有する素子本体を有する電子部品を製造する方法であって、素子本体を再酸化処理する工程と、再酸化処理の前後にラマンスペクトルを測定する工程と、スペクトルにおける最大ピークから高波数側で最初に現れるボトムまでの波数領域を高波数領域とし、該領域における再酸化処理前後のスペクトルから強度変化を算出する第1工程と、最大ピークから低波数側の領域を低波数領域とし、該領域における再酸化処理前後のスペクトルの強度変化と、第1工程の強度変化とから、再酸化処理のみに起因するラマンスペクトルの強度変化を算出する第2工程と、第2工程の強度変化を評価する評価工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造方法および電子部品の評価方法に係り、さらに詳しくは電子部品の再酸化状態を評価する方法、およびこの評価方法を利用する電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チップコンデンサなどの電子部品は、通常、誘電体などを含むセラミック層と、卑金属等の内部電極との積層体を焼成することによって製造される。このようにセラミックス層と内部電極とを同時に焼成する場合、内部電極の主成分である卑金属の酸化を防ぐために、還元雰囲気中で焼成が行われている。このような還元雰囲気中で焼成を行うと、セラミック層に含まれる酸化物に酸素欠損が生じ、その結果、絶縁抵抗性などが大幅に低下してしまうことが知られている。そのため、通常は還元雰囲気中での焼成後に、焼結体に再酸化処理(アニール処理)を施すことによって、酸素を補っている。
【0003】
この再酸化処理を高温・長時間で行うと、Niなどの卑金属を含む電極が酸化するなどの弊害がある。このため、再酸化処理は、低温かつ短時間で行うことが好ましい。一方、上述の酸化物中における酸素欠損量は、電子部品の寿命に大きな影響を及ぼす。このため、酸化物中における酸素欠損量をできるだけ正確に把握できる測定技術を確立する必要がある。
【0004】
しかしながら、還元雰囲気中における焼成によって生じる酸素欠損量はわずかであるため、酸素欠損量を直接的に測定することは困難である。このため、現状は、加速寿命試験などの破壊試験を用いて、再酸化処理によって酸素欠損量が低減されているか否かを間接的に評価している。このように酸素欠損量を直接把握できる手法が確立されていないことが、特に電子部品の量産工程において、歩留まりの低下や製造工程の長期化の原因となっている。
【0005】
このような状況の下、たとえば非特許文献1では、チタン酸バリウムの酸素欠損量を測定する方法として、カソード・ルミネッセンス法を用いる方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、上述の非特許文献1のカソード・ルミネッセンス法を用いる方法は、純粋なチタン酸バリウムを対象にしたものであり、ピークの高さから、酸素欠損量を求めるものである。また、電子部品に含まれる焼結体など、種々の成分を含む焼結体を対象とした場合、成分ごとにピーク位置が異なり、ピーク同士が重なってしまう。そのため、酸素欠損量に対応するピーク位置や高さを特定することが極めて困難である。このため、非特許文献1の方法は、複数の成分を含有する焼結体の酸素欠損量を測定することが極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】G. Koschek, E. Kubalek, "Micron-Scaled Spectral-Resolved Cathodoluminescence of Grains in Bariumtitanate Ceramics", physica status solidi (a), Vol.79, issue 1, p.131-139, 1983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、電子部品の再酸化状態を直接的かつ適切に評価することができ、再酸化処理に起因する酸素欠損量を定量化することができる電子部品の評価方法を提供することを目的とする。また、この評価方法を用いた、電子部品の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る電子部品の製造方法は、
ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物を含む焼結体と電極とを有する素子本体を有する電子部品を製造する方法であって、
前記素子本体を再酸化処理する再酸化工程と、
前記再酸化工程の前に、ラマン分光法により、前記焼結体について第1ラマンスペクトルを測定する第1測定工程と、
前記再酸化処理の後に、ラマン分光法により、前記焼結体について第2ラマンスペクトルを測定する第2測定工程と、
前記第1ラマンスペクトルおよび第2ラマンスペクトルにおける最大強度を示す波数から高波数側に向かって最初に現れるボトムを示す波数までの波数領域を、高波数領域としたときに、前記高波数領域において、前記第1ラマンスペクトルと第2ラマンスペクトルとから強度変化を算出する第1算出工程と、
前記最大強度を示す波数から低波数側に向かう波数領域を低波数領域としたときに、前記低波数領域における前記第1ラマンスペクトルと前記第2ラマンスペクトルとの強度変化と、前記第1算出工程において算出された強度変化と、から、前記再酸化処理にのみ起因するラマンスペクトルの強度変化を算出する第2算出工程と、
前記第2算出工程において算出された強度変化を評価する評価工程と、を有する。
【0010】
本発明では、素子本体の再酸化状態を評価するためにラマン分光法を用いている。ラマン分光法は、物質の構造を解析するために用いられる方法であり、誘電体の分野においては、フォノンバンド構造を解析するために用いられることがある。
【0011】
本発明者等は、特定の波数領域において、素子本体のラマンスペクトルの強度が、再酸化処理前後で変化することを見出し、この強度変化を用いて、素子本体の再酸化状態を評価している。
【0012】
しかしながら、素子本体は、セラミック焼結体の原料と電極を構成する導電材(主に卑金属)の原料とを同時焼成して得られる。セラミック焼結体と導電材とは異なる材質であり、焼結温度や収縮開始温度が異なる。そのため、素子本体の同時焼成においては、両材質の焼結のずれによる収縮差のため、焼成後の素子本体には内部応力が生じている。
【0013】
このような内部応力は、ラマンスペクトルの強度にも影響を与えることがあるため、単に、再酸化処理前後でのセラミック焼結体のラマンスペクトルを解析するだけでは、内部応力による影響を排除できない。
【0014】
本発明者等は、再酸化処理前後のラマンスペクトルにおいて、特定の波数領域では、再酸化処理による影響と内部応力による影響とが反映されたラマンスペクトルが得られ、別の波数領域では、内部応力による影響のみが反映されたラマンスペクトルが得られることを見出した。そこで、本発明では、上記の方法を採用することで、再酸化処理前後のラマンスペクトルの強度から、再酸化処理による影響のみが反映されたラマンスペクトルの強度変化を得ている。
【0015】
そして、得られた強度変化を用いて、再酸化状態を評価している。このようにすることで、電子部品の再酸化状態を適切かつ短期間で評価することができ、その結果、製造工程の効率や製品の歩留まりを向上させることができる。
【0016】
好ましくは、前記第2算出工程において算出された強度変化に応じて、再酸化処理条件を調整する。
【0017】
得られる強度変化に基づき、電子部品の再酸化状態を評価できるため、再酸化処理条件をより適切な条件とすることで、製造工程の効率や製品の歩留まりを向上させることができる。
【0018】
本発明に係る電子部品の評価方法は、
ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物を含む焼結体と電極とを有する素子本体を有する電子部品の再酸化状態を評価する方法であって、
前記素子本体を再酸化処理する再酸化工程と、
前記再酸化工程の前に、ラマン分光法により、前記焼結体について第1ラマンスペクトルを測定する第1測定工程と、
前記再酸化処理の後に、ラマン分光法により、前記焼結体について第2ラマンスペクトルを測定する第2測定工程と、
前記第1ラマンスペクトルおよび第2ラマンスペクトルにおける最大強度を示す波数から高波数側に向かって最初に現れるボトムを示す波数までの波数領域を、高波数領域としたときに、前記高波数領域において、前記第1ラマンスペクトルと第2ラマンスペクトルとから強度変化を算出する第1算出工程と、
前記最大強度を示す波数から低波数側に向かう波数領域を低波数領域としたときに、前記低波数領域における前記第1ラマンスペクトルと前記第2ラマンスペクトルとの強度変化と、前記第1算出工程において算出された強度変化と、から、前記再酸化処理にのみ起因するラマンスペクトルの強度変化を算出する第2算出工程と、
前記第2算出工程において算出された強度変化を評価する評価工程と、を有する。
【0019】
再酸化処理前後のラマンスペクトルから、再酸化処理にのみ起因するラマンスペクトルの強度変化を求めることができるため、電子部品の再酸化状態を直接的かつ適切に評価することができる。さらには、この強度変化を用いて酸素欠損量を定量化することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、内部応力が存在する素子本体についても、内部応力の影響を排除し、再酸化処理による影響のみが反映されたラマンスペクトルの強度変化を得ることができる。その結果、電子部品の再酸化状態を適切に評価することができ、しかも再酸化処理に起因する酸素欠損量を定量化することができる。
【0021】
さらに、上記の方法を電子部品の製造方法に適用することで、製造工程の効率や製品の歩留まりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る方法により製造または評価される積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【図2】図2(A)は、内部応力が存在する素子本体の再酸化処理前後に測定したラマンスペクトルであり、図2(B)は、内部応力が存在しない焼結体単体の再酸化処理前後に測定したラマンスペクトルである。
【図3】図3(A)は、図2(B)に示す再酸化処理前の焼結体単体に対し、外部から応力を印加させた状態および応力を印加しない状態で測定したラマンスペクトルであり、図3(B)は、図2(B)に示す700℃での再酸化処理後の焼結体単体に対し、外部から応力を印加させた状態および応力を印加しない状態で測定したラマンスペクトルであり、図3(C)は、図2(B)に示す900℃での再酸化処理後の焼結体単体に対し、外部から応力を印加させた状態および応力を印加しない状態で測定したラマンスペクトルである。
【図4】図4は、高波数領域における特定の波数(acm−1)において、印加した応力と、ラマンスペクトルの強度と、の検量線を示す模式的なグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例に係る方法において、素子本体(X5R試料)の再酸化処理前後のラマンスペクトルを示すグラフである。
【図6】図6は、焼結体単体について測定したラマンスペクトルにおいて、300cm−1における、印加した応力と、ラマンスペクトルの強度と、の関係、およびその関係から求められる検量線を示すグラフである。
【図7】図7は、焼結体単体について測定したラマンスペクトルにおいて、192cm−1における、印加した応力と、ラマンスペクトルの強度と、の関係、およびその関係から求められる検量線、並びに素子本体の再酸化処理後の192cm−1におけるラマンスペクトル強度を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の実施例に係る方法において、素子本体(X7R試料)の再酸化処理前後のラマンスペクトルを示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の実施例に係る方法において、素子本体(PZT試料)の再酸化処理前後のラマンスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0024】
積層セラミックコンデンサ
まず、本実施形態に係る方法により製造または評価される電子部品の一例として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態において、積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両側端部には、コンデンサ素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。内部電極層3は、各側端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。
【0026】
コンデンサ素子本体10の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができる。通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度とすることができる。
【0027】
誘電体層2の材質は、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物を含む焼結体で構成されていれば特に限定されない。本実施形態では、該焼結体は、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムまたはこれらの混合物など、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物を主成分として含む。これらの成分以外に、希土類元素酸化物などの成分を副成分として含んでいてもよい。また、誘電体層2の厚みは、特に限定されず、用途等に応じて決定すればよい。
【0028】
内部電極層3を構成する導電材としては、特に制限されないが、本実施形態では、後述するように、素子本体10は還元雰囲気での焼成により形成されるため、卑金属であるニッケルまたはニッケル合金、銅または銅合金で構成することができる。また、内部電極層3の厚みは、特に限定されず、用途等に応じて決定すればよい。
【0029】
外部電極4の材質も特に限定されないが、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。外部電極4の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
【0030】
次に、本実施形態に係る電子部品の製造方法の一例として、上記のセラミック焼結体を誘電体層として有する積層セラミックコンデンサの製造方法を説明する。
【0031】
まず、誘電体原料(誘電体磁器組成物粉末)を準備し、これを塗料化して、誘電体層を形成するためのペースト(誘電体層用ペースト)を調製する。
【0032】
誘電体原料としては、上記した成分(主成分および副成分)の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0033】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0034】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤に溶解したものである。バインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、誘電体層を形成する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0035】
内部電極層用ペーストは、上記した金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0036】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0037】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0038】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0039】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷し内部電極パターンを形成した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0040】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、保持温度を好ましくは200〜600℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0041】
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。焼成時の保持温度は、好ましくは1100〜1300℃であり、その保持時間は、好ましくは0.5〜8時間である。焼成雰囲気は還元性雰囲気とし、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。また、本実施形態では、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いるため、焼成雰囲気中の酸素分圧は、好ましくは10−5Pa以下、より好ましくは10−14〜10−5Paとする。
【0042】
焼成後、セラミック焼結体から構成される誘電体層と卑金属から構成される内部電極層とを有する素子本体10が得られる。この素子本体では、異材質である誘電体層と内部電極層とが同時焼成されて形成されているため、素子本体には内部応力が生じる。
【0043】
また、素子本体には、還元性雰囲気での焼成により極微量の酸素欠損が生じている。このような酸素欠損は極微量であっても、誘電体磁器組成物の絶縁抵抗を大幅に低下させてしまうことが知られている。そのため、この酸素欠損を減少させるために、後述する再酸化処理が行われる。この処理を行うことによりIR寿命(絶縁抵抗の寿命)を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0044】
得られた素子本体に再酸化処理を施す前に、素子本体の誘電体層(セラミック焼結体)に対しラマン分光法により、ラマンスペクトルを測定する(第1測定工程)。得られたラマンスペクトルを第1ラマンスペクトルとする。測定条件としては、特に制限されず、公知の条件により測定すればよい。
【0045】
続いて、第1測定工程後の素子本体に対し、再酸化処理を行う。再酸化処理の条件としては、特に制限されないが、保持温度は、焼成温度よりも低い温度とすることが好ましく、たとえば700〜1100℃とすることができる。保持時間は、たとえば1〜5時間である。また、再酸化処理における酸素分圧は、焼成時よりも高い酸素分圧とすることが好ましく、たとえば10−8〜10−1Paとすることができる。また、再酸化処理における雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることができる。
【0046】
再酸化処理後の素子本体の誘電体層に対しラマン分光法により、ラマンスペクトルを測定する(第2測定工程)。得られたラマンスペクトルを第2ラマンスペクトルとする。測定条件としては、特に制限されず、公知の条件により測定すればよいが、第1測定工程における測定条件と同じとすることが好ましい。
【0047】
焼結体がチタン酸バリウムを主成分とする材料から構成されている場合に、素子本体の再酸化処理前に測定したラマンスペクトル(第1ラマンスペクトル)を図2(A)に示す。また、700℃および900℃での再酸化処理後に測定したラマンスペクトル(第2ラマンスペクトル)も図2(A)に示す。なお、図2(A)に示すラマンスペクトルにおいて、260cm−1付近におけるピーク強度が、得られたラマンスペクトル全体における最大強度を示している。
【0048】
なお、上記では、再酸化処理温度を変化させているが、たとえば再酸化処理における酸素分圧を変化させても同様のラマンスペクトルが得られる。
【0049】
図2(A)より、再酸化処理を行うことで、ラマンスペクトルの強度が変化していることが分かる。また、再酸化処理の条件(保持温度)が異なる場合にも、ラマンスペクトルの強度が変化していることが分かる。
【0050】
したがって、再酸化処理前後でのラマンスペクトルの強度は、再酸化処理の程度、すなわち誘電体層の再酸化状態に応じて変化していると考えられる。
【0051】
しかしながら、図2(A)に示すラマンスペクトルは、異材質同士を同時焼成して得られた素子本体について測定されたものである。この素子本体には内部応力が存在している。
【0052】
このような内部応力もラマンスペクトルの強度に影響を与えるため、図2(A)に示す再酸化処理前後でのラマンスペクトルの強度変化には、再酸化処理に起因する影響だけでなく、内部応力に起因する影響も含まれている可能性がある。
【0053】
そのため、図2(A)に示す素子本体の再酸化処理前後でのラマンスペクトルの強度変化から、内部応力に起因する強度変化のみを除去することが必要となる。
【0054】
そこで、本発明者等は、以下に示すような方法を用いることで、内部応力に起因する強度変化のみを除去して、素子本体の再酸化処理前後でのラマンスペクトルの強度変化から、再酸化状態を評価することを可能とした。
【0055】
まず、上記の焼結体と同一組成を有する原料を成形・焼成し、焼結体単体を得る。この焼結体単体は電極等の異材質と同時焼成されていないため、焼成過程で内部応力が生じず、該焼結体単体中には内部応力は存在していない。
【0056】
この焼結体単体に対し再酸化処理を行う前後において、上記と同様にして、ラマンスペクトルを測定する。図2(B)に、再酸化処理前のラマンスペクトル、700℃での再酸化処理後のラマンスペクトル、900℃での再酸化処理後のラマンスペクトルを、それぞれ示す。
【0057】
図2(B)より、波数が260cm−1付近において各スペクトルは最大強度を示していることが分かる。また、最大強度を示す波数(260cm−1付近)よりも低波数側の領域(低波数領域:260cm−1以下)では、図2(A)と同様に、再酸化処理を行うことで、ラマンスペクトルの強度が変化していることが分かる。また、再酸化処理の条件(保持温度)が異なる場合にも、ラマンスペクトルの強度が変化していることが分かる。
【0058】
これに対し、最大強度を示す波数(260cm−1付近)よりも高波数側に向かって最初のボトムまでの領域(高波数領域:260〜300cm−1付近)では、図2(A)とは異なり、再酸化処理前後におけるラマンスペクトルの強度変化は生じていないことが分かる。また、再酸化処理の条件(保持温度)が異なる場合にも、強度変化は生じていない。
【0059】
このことは、内部応力が存在していない焼結体(焼結体単体)のラマンスペクトルは、高波数領域において、再酸化処理に起因する影響を受けないことを示している。一方、図2(A)より、内部応力が存在している素子本体のラマンスペクトルは、高波数領域において、再酸化処理の前後で強度が変化していることが分かる。
【0060】
したがって、高波数領域におけるラマンスペクトルは、応力のみに起因して強度が変化すると考えられる。
【0061】
次に、図2(B)に示す再酸化処理前の焼結体単体に対し、外部から応力を印加させた状態および応力を印加しない状態で測定したラマンスペクトルを図3(A)に示す。
【0062】
図3(A)より明らかなように、高波数領域(260〜300cm−1付近)において、応力が印加されるとラマンスペクトルの強度が変化し、しかも、印加される応力が変化すると、それに応じて、ラマンスペクトルの強度も変化している。このことは、高波数領域においては、応力のみに起因して強度が変化することを示している。
【0063】
一方、低波数領域においても、応力が印加されるとラマンスペクトルの強度が変化し、印加される応力が変化すると、それに応じて、ラマンスペクトルの強度も変化している。このことは、低波数領域においては、再酸化処理だけではなく、応力によっても強度が変化することを示している。
【0064】
さらに、図3(A)に示す、再酸化処理前の焼結体単体に対し、700℃で再酸化処理を行った後のラマンスペクトルを図3(B)に、900℃で再酸化処理を行った後のラマンスペクトルを図3(C)に示す。
【0065】
図3(B)および図3(C)により、再酸化処理後、あるいは処理条件を変化させた場合であっても、印加される応力に応じて、ラマンスペクトルの強度が変化していることが分かる。
【0066】
以上より、高波数領域においては、応力のみに起因して、ラマンスペクトルの強度が変化し、低波数領域においては、再酸化処理および応力の双方に起因して強度が変化することが理解できる。
【0067】
また、外部から応力が印加された状態の焼結体単体は、素子本体における誘電体層(焼結体)とみなすことができる。したがって、図2(A)において、高波数領域でのラマンスペクトルの強度変化は、素子本体に存在している内部応力のみに起因しており、低波数領域におけるラマンスペクトルの強度変化は再酸化処理および内部応力の双方に起因するものである。
【0068】
以上より、図2(A)において、再酸化処理にのみ起因する強度変化を算出するには、以下のようにすればよい。まず、素子本体の再酸化処理前後での高波数領域におけるラマンスペクトルの強度変化から、内部応力のみに起因する強度変化を算出する。そして、この強度変化を用いて、素子本体の再酸化処理前後での低波数領域におけるラマンスペクトルの強度変化から、上記で算出した内部応力に起因する強度変化分をキャンセルすることで、再酸化処理のみに起因する強度変化を算出できる。
【0069】
なお、低波数領域における強度変化は、低波数領域のほぼ全域において現れるため、特定のピーク等でのみ測定されるものではない。しかしながら、比較の容易さ等の観点から、低波数領域におけるピークやボトムあるいはショルダーを示す波数において強度変化を算出してやればよい。このピーク等は再酸化処理前後でシフトしない。
【0070】
上記で得られた再酸化処理のみに起因する強度変化から、再酸化処理が適切に行われているか(酸素が十分に補充されているか)を、評価することができる。また、この強度変化に基づき酸素欠損量を定量化することができる。
【0071】
なお、上記では、チタン酸バリウムを主成分とし、さらに種々の副成分を有する焼結体を例示している。しかしながら、たとえば副成分の組成が変化した場合であっても、ラマンスペクトルの強度やピークの形状等は変化するものの、高波数領域でのラマンスペクトルの強度変化は応力の影響を受けないこと、および低波数領域におけるラマンスペクトルの強度変化は再酸化および応力の影響を受けることは変わらない。
【0072】
また、主成分がチタン酸バリウム以外の化合物であっても、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物が主成分である場合には、ラマンスペクトルの強度やピークの形状等は変化するものの、高波数領域でのラマンスペクトルの強度変化は応力の影響を受けないこと、および低波数領域におけるラマンスペクトルの強度変化は再酸化および応力の影響を受けることは変わらない。たとえば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が主成分である化合物についても上記の方法を採用することができる。
【0073】
したがって、上記の方法を用いることで、種々の組成を有する焼結体に対して、再酸化状態を適切に評価することができる。
【0074】
再酸化処理前後での高波数領域におけるラマンスペクトルの強度変化から、再酸化処理のみに起因する強度変化を算出する方法としては、特に制限されないが、たとえば、検量線や半価幅を利用して算出する方法が挙げられる。検量線を利用する具体的な方法としては、以下に示すように、素子本体に存在している内部応力を求めるための検量線を作成してから算出する方法が挙げられる。
【0075】
まず、測定対象となる素子本体の誘電体層と同一の組成を有し、再酸化処理前の焼結体単体について、印加する応力を変化させた場合のラマンスペクトルを測定する。このとき、応力を印加していない状態でのラマンスペクトルを測定してもよい。
【0076】
得られた各ラマンスペクトルから、高波数領域での特定の波数(acm−1)におけるラマンスペクトルの強度を求める。そして、acm−1における、印加した応力と、ラマンスペクトルの強度と、の関係式(検量線)を求める。この検量線を用いることで、acm−1におけるラマンスペクトル強度から、印加されている応力を算出することができる。そして、この検量線の傾きと、測定対象の素子本体の再酸化処理前後での高波数領域における強度変化と、から、素子本体に存在している内部応力を見積もることができる。図4に上記の検量線の模式図を示す。なお、検量線を作成するための測定点の数は、5点以上であることが好ましい。
【0077】
また、再酸化状態が良好であることが確認されている試料についてラマンスペクトルを測定し、低波数領域での特定の波数において、上記と同様に、応力とラマンスペクトルの強度との関係式(検量線)を求めてもよい。この検量線と、測定対象の素子本体の再酸化処理後の低波数領域におけるラマンスペクトルの強度とを比較することで、再酸化状態が良好であるかどうかを評価することができる。
【0078】
なお、検量線の作成方法としては、上記に制限されず、応力と、ラマンスペクトルの強度が反映されたパラメータと、の関係式を作成する方法であればよい。たとえば、得られたラマンスペクトルにおいて、最大強度を示すピークの頂点から垂線を引き、特定の強度を示す直線と該垂線との交点と、該直線とラマンスペクトルとの交点と、の間の長さを上記のパラメータとしてもよい。また、該垂線、該直線およびラマンスペクトルに囲まれる領域の面積をパラメータとしてもよい。
【0079】
上記のようにすることで、素子本体の再酸化処理前後のラマンスペクトルから、素子本体の再酸化状態を直接かつ適切に評価することができる。再酸化状態が最適ではない場合には、再酸化処理条件を調整すればよい。あるいは、適切な再酸化処理条件に調整した後、再度、再酸化処理すればよい。
【0080】
上記のような工程を有することにより、再酸化処理を最適な条件とすることができるため、製品の歩留まりを向上させることができる。しかも、再酸化の評価を短時間で行えるため、生産効率を向上させることができる。
【0081】
また、強度変化の値と、再酸化状態とを対応させることで、酸素欠損量を定量化し評価することができる。
【0082】
素子本体に対し上記の評価を行い、適切な再酸化状態であると確認された素子本体の端面に外部電極4を形成することで、図1に示す積層セラミックコンデンサ1が得られる。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。なお、素子本体ではなく、電子部品の状態で上記の評価を行ってもよい。
【0083】
このようにして製造された積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0085】
たとえば、上述した実施形態では、積層セラミックコンデンサの誘電体層としての焼結体についての評価方法を例示したが、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物を含む焼結体であれば、誘電体層に限定されず、サーミスタ層、抵抗体、バリスタ等であってもよい。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0087】
実施例1
まず、主成分の原料としてチタン酸バリウムと、副成分の原料として酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化マンガンおよび酸化シリコンを準備した。次いで、主成分原料および副成分原料をボールミルで混合し、誘電体原料粉末を得た。なお、この誘電体原料を用いて製造される積層セラミックコンデンサは、X5R特性を満足するコンデンサである。
【0088】
次いで、得られた誘電体原料粉末:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、溶媒としてのアルコール:130重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0089】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0090】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを用いて、内部電極層を所定パターンで印刷した。その後、PETフィルムからシートを剥離し、内部電極層を有するグリーンシートを作製した。これを次々と積層し、加圧接着することによりグリーン積層体を得て、これを所定のサイズに切断してグリーンチップを得た。
【0091】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理を行い、その後、誘電体原料を含むグリーンシートとNiを含む内部電極層との同時焼成を行い、チタン酸バリウムとその他の副成分とを含む焼結体を誘電体層として有する素子本体を得た。
【0092】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200℃、温度保持時間:3時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−12Pa)とした。
【0093】
得られた素子本体に対し再酸化処理を行う前に、市販のラマン分光分析装置を用いて、焼結体のラマンスペクトルを測定した。得られたラマンスペクトル(第1ラマンスペクトル)を図5に示す。
【0094】
ラマンスペクトル測定後の素子本体に対し再酸化処理を行った。再酸化処理の条件は、保持温度:700℃または900℃、保持時間:3時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−1Pa)とした。
【0095】
再酸化処理後に、再度、焼結体のラマンスペクトルを測定した。測定条件は、再酸化処理前の測定と同じ条件とした。得られたラマンスペクトル(第2ラマンスペクトル)を図5に示す。
【0096】
また、上記の焼結体と同一の組成を有する誘電体原料を用いて、加圧成形等を行い成形体を得た。得られた成形体を上記と同様の条件で焼成し、焼結体単体を得た。再酸化処理前の焼結体単体に対し、外部から応力をそれぞれ0、50および70MPa印加した状態で、上記と同じ測定条件により、ラマンスペクトルを測定した。また、700℃および900℃での再酸化処理後の焼結体単体に対し、応力を印加した状態で、上記と同じ測定条件により、ラマンスペクトルを測定した。700℃での再酸化処理後の測定では、応力を0、40および50MPaとし、900℃での再酸化処理後の測定では、応力を0、60および90MPaとした。
【0097】
焼結体単体の各ラマンスペクトルにおいて、300cm−1(高波数領域)におけるスペクトルの強度と、印加した応力と、の関係をプロットしたグラフを図6に示す。そして、この関係から検量線(y=0.0007x+0.7829)を求めた。すなわち、300cm−1におけるラマンスペクトルの強度が分かれば、図6の検量線により、その焼結体に存在している応力を求めることができる。
【0098】
一方、図5より、素子本体(チップコンデンサ)の再酸化処理前後での300cm−1における強度変化(再酸化処理後の強度−再酸化処理前の強度)を求めた。強度変化は、700℃での再酸化処理の場合は0.0226、900℃での再酸化処理の場合は、0.0356であった。
【0099】
この強度変化は、応力のみに起因するものであり、応力に対し線形的に変化する。したがって、強度変化の値と図6の検量線の傾きとから、再酸化処理後に素子本体に存在している内部応力は、700℃の場合が32.3MPa、900℃の場合が50.9MPaであった。
【0100】
さらに、焼結体単体に対して、再酸化処理前後に測定したラマンスペクトルから、192cm−1(低波数領域)でのスペクトルの強度と、印加した応力と、の関係を示す検量線を作成した。作成した検量線を図7に示す。図7では、再酸化処理前のラマンスペクトルから作成した検量線を検量線1、700℃での再酸化処理後のラマンスペクトルから作成した検量線を検量線2、900℃での再酸化処理後のラマンスペクトルから作成した検量線を検量線3とした。
【0101】
さらに、上記で求めた素子本体に存在している内部応力の値において、再酸化処理後の素子本体のラマンスペクトルの192cm−1における強度を図7にプロットした。図7より、700℃での再酸化処理後の素子本体のラマンスペクトルの強度(図7の黒四角)は、検量線2とほぼ一致し、900℃での再酸化処理後の素子本体のラマンスペクトルの強度(図7の黒丸)は、検量線3とほぼ一致した。
【0102】
したがって、素子本体の再酸化状態と、焼結体単体の再酸化状態とがほぼ同じであることが確認できた。また、図7に示す検量線として、たとえば、再酸化状態が良好であることが確認されている試料のラマンスペクトルから作成した検量線を用いることで、測定対象の素子本体の再酸化状態が良好か否かを評価することができる。
【0103】
図5〜7より、高波数領域における再酸化処理前後のラマンスペクトルの強度変化を用いて、低波数領域における再酸化処理前後のラマンスペクトルの強度変化から、応力に起因する影響を排除して、再酸化処理にのみ起因する強度変化を求められることが確認できた。
【0104】
上記でラマンスペクトルを測定した再酸化処理前後の素子本体(X5R試料)に対し、高温負荷寿命(HALT)を評価した。試料に対し、初期絶縁抵抗が1×10Ω以上であることを確認し、140℃にて、40Vの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温負荷寿命(平均故障時間)を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
表1より、ラマンスペクトルの強度変化を用いた再酸化状態の評価と、実際の寿命とが対応していることが確認できた。すなわち、再酸化処理温度が高くなり、強度変化が大きくなるにつれ、高温負荷寿命が良好になっていることが確認できた。一方、再酸化処理を行わなかった試料は、高温負荷寿命が0となっていることが確認できた。なお、表1に示す強度変化は、素子本体の再酸化処理後の192cm−1におけるラマンスペクトル強度と、図7の検量線1との差である。
【0107】
したがって、表1に示す強度変化と高温負荷寿命とを対応させることで、酸素欠損量を定量化して評価することができる。
【0108】
実施例2
主成分の原料としてチタン酸バリウム、副成分の原料として、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化イットリウムおよび酸化バナジウムを用い、焼成時の酸素分圧を10−7Paとした以外は、実施例1と同様にして、素子本体を作製した。なお、この誘電体原料を用いて製造される積層セラミックコンデンサは、X7R特性を満足するコンデンサである。
【0109】
得られた素子本体に対して、再酸化処理温度を600℃および1000℃とした以外は、実施例1と同様にして、第1および第2ラマンスペクトルを測定し、得られたラマンスペクトルから強度変化を算出した。測定したラマンスペクトルを図8に示す。図8において、高波数領域はほぼ290cm−1以上の領域であり、低波数領域はほぼ290cm−1以下の領域である。また、得られた素子本体に対し、190℃にて、200Vの電界下の条件とした以外は、実施例1と同様にして、高温負荷寿命(HALT)を評価した。結果を表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
表2より、X7R試料についても、実施例1と同様に、ラマンスペクトルの強度変化を用いた再酸化状態の評価と、実際の寿命とが対応していることが確認できた。
【0112】
実施例3
原料として、酸化鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび酸化ニオブを準備し、組成が、Pb{(Zn1/3Nb2/30.1(Ti0.5Zr0.50.9}Oとなるように秤量し、ボールミルで混合し、圧電体原料粉末を得た。なお、この圧電体原料を用いて製造される圧電素子は、PZTを主成分とする素子である。
【0113】
得られた圧電体原料粉末をペースト化し、内部電極層を構成する導電材として、Cuを用いて、実施例1と同様にして、グリーンチップを作製した。
【0114】
得られたグリーンチップを、還元雰囲気下、950℃、10時間の条件で焼成し、圧電素子本体を得た。得られた圧電素子本体に対して、再酸化処理温度を700℃とした以外は、実施例1と同様にして、第1および第2ラマンスペクトルを測定し、得られたラマンスペクトルから強度変化を算出した。測定したラマンスペクトルを図9に示す。図9において、高波数領域はほぼ205〜245cm−1の領域であり、低波数領域はほぼ205cm−1以下の領域である。
【0115】
なお、圧電素子本体についても、実施例1および2と同様に、ラマンスペクトルの強度変化を用いた再酸化状態の評価と、実際の寿命とが対応していることが本発明者等により確認されている。
【0116】
以上より、本発明によれば、再酸化処理前後のラマンスペクトルから、再酸化処理のみに起因するラマンスペクトルの強度変化を得られることが確認できた。また、この強度変化を用いて、素子本体(焼結体)の再酸化状態を直接かつ適切に評価できることが確認できた。さらに、ペロブスカイト型結晶構造を有する焼結体であれば、組成が異なっていても、本発明に係る方法により再酸化状態を評価できることが確認できた。また、この評価方法を、電子部品の製造方法に適用することで、製品の特性のバラツキを低減し、歩留まりを向上できることが確認された。
【符号の説明】
【0117】
1… 積層セラミックコンデンサ
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
10… コンデンサ素子本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物を含む焼結体と電極とを有する素子本体を有する電子部品を製造する方法であって、
前記素子本体を再酸化処理する再酸化工程と、
前記再酸化工程の前に、ラマン分光法により、前記焼結体について第1ラマンスペクトルを測定する第1測定工程と、
前記再酸化処理の後に、ラマン分光法により、前記焼結体について第2ラマンスペクトルを測定する第2測定工程と、
前記第1ラマンスペクトルおよび第2ラマンスペクトルにおける最大強度を示す波数から高波数側に向かって最初に現れるボトムを示す波数までの波数領域を、高波数領域としたときに、前記高波数領域において、前記第1ラマンスペクトルと第2ラマンスペクトルとから強度変化を算出する第1算出工程と、
前記最大強度を示す波数から低波数側に向かう波数領域を低波数領域としたときに、前記低波数領域における前記第1ラマンスペクトルと前記第2ラマンスペクトルとの強度変化と、前記第1算出工程において算出された強度変化と、から、前記再酸化処理にのみ起因するラマンスペクトルの強度変化を算出する第2算出工程と、
前記第2算出工程において算出された強度変化を評価する評価工程と、を有する電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記第2算出工程において算出された強度変化に応じて、再酸化処理条件を調整する請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物を含む焼結体と電極とを有する素子本体を有する電子部品の再酸化状態を評価する方法であって、
前記素子本体を再酸化処理する再酸化工程と、
前記再酸化工程の前に、ラマン分光法により、前記焼結体について第1ラマンスペクトルを測定する第1測定工程と、
前記再酸化処理の後に、ラマン分光法により、前記焼結体について第2ラマンスペクトルを測定する第2測定工程と、
前記第1ラマンスペクトルおよび第2ラマンスペクトルにおける最大強度を示す波数から高波数側に向かって最初に現れるボトムを示す波数までの波数領域を、高波数領域としたときに、前記高波数領域において、前記第1ラマンスペクトルと第2ラマンスペクトルとから強度変化を算出する第1算出工程と、
前記最大強度を示す波数から低波数側に向かう波数領域を低波数領域としたときに、前記低波数領域における前記第1ラマンスペクトルと前記第2ラマンスペクトルとの強度変化と、前記第1算出工程において算出された強度変化と、から、前記再酸化処理にのみ起因するラマンスペクトルの強度変化を算出する第2算出工程と、
前記第2算出工程において算出された強度変化を評価する評価工程と、を有する電子部品の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−211058(P2011−211058A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78833(P2010−78833)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】