説明

電子部品用樹脂組成物および電子部品

【課題】環境変化に対する誘電特性の変化を十分に抑制し、誘電特性を等方的に有する電子部品、および該電子部品を製造するための電子部品用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート、カルボン酸変性された熱可塑性エラストマー、およびチタン酸系無機化合物を含有することを特徴とする電子部品用樹脂組成物、および該樹脂組成物を成形してなる電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品用樹脂組成物および該樹脂組成物を成形してなる電子部品に関する。詳しくは、本発明は高周波用途に適し、耐環境性に優れた電子部品、特にアンテナ部品、および該電子部品を製造するための樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アンテナ部品等の電子部品に適した樹脂組成物として、誘電率および誘電損失が低く、かつ温度や湿度などの環境変化に対して誘電率および誘電損失の変化が小さい材料が求められている。
【0003】
例えば、合成樹脂と誘電性セラミックスの複合材料であって、特定の誘電特性を示す射出成形が可能な材料により構成された樹脂製誘電体アンテナが報告されている(特許文献1)。しかしながら、環境変化に対する誘電特性の変化が十分に小さいアンテナは得ることはできず、高温高湿環境下において特に誘電損失が増大した。誘電損失が増大すると、電波が伝送され難くなり、アンテナ部品としての使用が難しい。
【0004】
また例えば、合成樹脂マトリックス中に特定のチタン酸アルカリ土類金属塩の繊維状物を含有させてなる樹脂組成物であって、特定の誘電特性を示す高周波通信機のアンテナ基板材料成形用樹脂組成物が報告されている(特許文献2)。しかしながら、環境変化に対する誘電特性の変化が十分に小さいアンテナ基板はやはり得ることは難しく、高温高湿環境下において特に誘電損失が増大する傾向にある。しかも得られたアンテナ基板が誘電異方性を有するため、設計の制約が発生し、カットアンドトライのよる設計期間の増大、更に量産時においてアンテナ特性にバラツキが生じる傾向にある。
【0005】
また例えば、マトリックス樹脂中に、無機充填剤と、エラストマー部材が微分散されてなる耐衝撃性樹脂組成物が報告されている(特許文献3)。しかしながら、環境変化に対する誘電特性の変化が十分に小さい成形物はやはり得ることはできず、高温高湿環境下において特に誘電損失が増大する傾向にある。
【特許文献1】特開2005−94068号公報
【特許文献2】特許第2873541号
【特許文献3】特開2003−147211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、環境変化に対する誘電特性の変化を十分に抑制し、誘電特性を等方的に有する電子部品(例えば、アンテナ部品)、および該電子部品を製造するための電子部品用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はポリブチレンテレフタレート、カルボン酸変性された熱可塑性エラストマー、およびチタン酸系無機化合物を含有することを特徴とする電子部品用樹脂組成物、および該樹脂組成物を成形してなる電子部品、特にアンテナ部品に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物からなる電子部品は、環境変化に対する誘電特性の変化を十分に抑制し、特に高温高湿環境下における誘電損失の経時的な増大を有効に抑制できる。
また本発明において電子部品は射出成形法等によって製造可能であり、しかも誘電特性を等方的に有するので、電子部品設計の自由度確保や量産性に優れている。
また本発明において電子部品は難燃性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る電子部品用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ということがある)は少なくともマトリックス樹脂、エラストマー、およびチタン酸系無機化合物を含有するものである。
【0010】
樹脂組成物を構成するマトリックス樹脂はポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」という)であり、所望によりさらにポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、シンジオタクティックポリスチレン(SPS)、液晶ポリマー(LCP)、テフロン(PTFE)等の他の樹脂を含んでよい。
【0011】
PBTの分子量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、メルトボリュームフローレート(MVR)が5〜60cm3/10min.、特に20〜40cm3/10min.のものが好適である。
【0012】
本明細書中、MVRはISO1133に従って温度250℃、荷重2.16kgにて測定された値を用いている。
【0013】
そのようなPBTは市販のものが使用可能であり、例えば、ノバデュラン5010N5,5010N6,5010R3,5010R5,5010R5L,5010CR2(以上、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製)、ジュラネックス2000、2002、2016、CN7000、CRN7000(以上、ウィンテックポリマー(株)社製)等として入手可能である。
【0014】
マトリックス樹脂の含有量は通常、樹脂組成物全量に対して50〜95体積%であり、特に60〜90体積%が好ましい。
【0015】
PBTのマトリックス樹脂に対する含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されないが、通常は50体積%以上、特に70〜100体積%であり、好ましくは80〜100体積%である。PBTの含有量が少なすぎると、PBTと他マトリックスの相溶性、耐熱性や機械的強度が課題となり、また誘電特性が環境変化に対して顕著に変化するので、電子部品としての使用に耐えない。
【0016】
エラストマーは室温でゴム弾性を示すポリマーであって一般的に天然ゴム系と合成ゴム系がある。本発明では、合成ゴム系エラストマーの、カルボン酸変性されたものを用いる。すなわちカルボキシル基が導入されたエラストマーを用いる。これによって、環境変化に対する誘電特性の変化を抑制できる。そのメカニズムの詳細は明らかではないが、カルボン酸変性エラストマーを用いることによって、後述のチタン酸系無機化合物とマトリックス樹脂との間の密着が促進されるので、それらの間からの水分子の侵入を防止でき、環境変化に対する誘電特性の変化を抑制するものと考えられる。
【0017】
カルボン酸変性エラストマーは通常、酸価0.5〜10CHONamg/g、特に1.0〜2.0CHONamg/gのものを使用する。酸価が大きすぎるものは、成形加工時において粘度が上がり、加工性が悪くなる。又環境試験後の誘電特性が悪くなる。酸価が小さすぎるものは、PBTとの相溶性が悪くなり、成形時の不具合、強度低下などを起こしやすい。また、環境変化に対する誘電特性の変化を十分に抑制できない。
酸価は滴定法によって測定された値を用いている。
【0018】
カルボン酸変性エラストマーは、カルボキシル基がエラストマー分子の末端に導入されたものであることが好ましい。カルボキシル基がグラフト重合されているタイプのエラストマーは、一般的に酸価が大きく、このため誘電特性(特に誘電正接)が大きくなる傾向にあり好ましくない。
【0019】
カルボン酸変性エラストマーは、エラストマー分子にカルボキシル基を導入できる限りいかなる方法によっても製造できる。例えば、(1)原料エラストマーをトルエン等の溶剤に溶解した後、不飽和カルボン酸を添加し重合させる方法、(2)押出機中に原料エラストマー、過酸化物、不飽和カルボン酸を投入してグラフト反応させる方法、(3)押出機中で原料エラストマーに不飽和カルボン酸を付加反応させる方法などがあげられる。特に上記(3)の方法によると、末端がカルボン酸変性されたエラストマーが有効に得られる。上記(1)〜(3)の反応では、必要によりラジカル開始剤を使用する。
【0020】
原料エラストマーはカルボキシル基を導入され得るものであれば特に制限されない。例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEPS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン(SBBS)等のスチレン系エラストマー;ウレタン系エラストマー;オレフィン系エラストマー;及びポリエステル系エラストマー等が挙げられる。上記原料エラストマーの中でも、電子部品の強度の観点や誘電特性の観点から、モノマー成分としてスチレンモノマーを含有するスチレン系エラストマーを使用することが好ましい。スチレン系エラストマー、特にSEBSは電子部品強度のさらなる向上や誘電特性の観点から、スチレンモノマー成分を、当該エラストマーを構成する全モノマーに対して10〜60重量%、特に15〜50重量%含むことが好ましい。また、ウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーは誘電特性に影響を及ぼさない範囲でスチレン系エラストマーと併用されてもよい。
【0021】
原料エラストマーの数平均分子量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、電子部品の成形加工性および強度の観点から、2万〜30万、特に3万〜25万が好ましい。
【0022】
本明細書中、数平均分子量はGPC(島津製作所社製)によって測定された値を用いている。
【0023】
原料エラストマーは市販品として入手可能である。例えば、タフテックH1031、H1043、H1051旭化成(株)社製等が挙げられる。
【0024】
不飽和カルボン酸は原料エラストマーにカルボキシル基を導入できるものであれば特に制限されない。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、フタル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。
【0025】
不飽和カルボン酸はカルボン酸変性エラストマーが上記酸価を有する程度の量で使用されればよく、通常は原料エラストマーに対して0.01〜2重量%、特に0.05〜1.5重量%が適当である。
【0026】
カルボン酸変性エラストマーは市販品として入手することもできる。例えば、N502,M1911、M1913旭化成(株)(旭化成(株)製)等が挙げられる。
【0027】
カルボン酸変性エラストマーの含有量は通常、樹脂組成物全量に対して5〜50体積%であり、特に5〜40体積%が好ましい。
【0028】
チタン酸系無機化合物はチタン酸金属塩であれば特に制限されず、入手容易性および入手コストの観点から、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、およびチタン酸マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種類の無機化合物が好ましく使用される。より好ましくは少なくともチタン酸ストロンチウムが使用され、最も好ましくはチタン酸ストロンチウムが単独で使用される。チタン酸ストロンチウムは、環境変化に対する誘電特性の変化をより有効に抑制でき、誘電率を含有量によってより効率よく制御できるためである。チタン酸系無機化合物の代わりに他の無機化合物、例えば、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン等を使用すると、誘電特性が環境変化に対して顕著に変化するので、電子部品としての使用に耐えない。
【0029】
チタン酸系無機化合物は表面処理されたものであることが好ましい。表面処理されたチタン酸系無機化合物を含有させることによって、吸水の抑制により環境変化に対する誘電特性の変化をより有効に抑制できる。チタン酸系無機化合物表面には水分子が存在するが、表面処理によって水分子を除去できるので、電子部品において当該無機化合物とマトリックス樹脂との界面に残存する水分子を有効に低減できる。その結果、当該無機化合物とマトリックス樹脂との間の密着が一層促進されるので、それらの間からの水分子の侵入を防止でき、環境変化に対する誘電特性の変化をより有効に抑制できるものと考えられる。表面処理は、チタン酸系無機化合物と表面処理剤とを混合しながら加温することによって達成される。表面処理剤は電子部品に含有される無機化合物の分野で公知のものが使用され、例えば、いわゆるシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウムカップリング剤、脂肪酸等が挙げられる。好ましくはチタネート系カップリング剤が使用される。表面処理剤の使用量は特に制限されるものではなく、通常はチタン酸系無機化合物に対して0.1〜2重量%が好適である。
【0030】
チタン酸系無機化合物は、上記のように表面処理された後、有機溶剤で洗浄されたものであることがより好ましい。そのような表面処理および洗浄処理されたチタン酸系無機化合物を含有させることによって、環境変化に対する誘電特性、特に誘電正接の変化をより一層有効に抑制できる。そのようなチタン酸系無機化合物を含有させることによって、当該無機化合物とマトリックス樹脂との間の密着がより一層促進されるので、それらの間からの水分子の侵入を防止でき、環境変化に対する誘電特性をより一層有効に抑制できるものと考えられる。洗浄処理は、前記表面処理されたチタン酸系無機化合物を有機溶剤中に分散させ、濾過し、乾燥させることによって達成される。有機溶剤は表面処理剤を溶解し得る溶剤であれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、ヘキサン、トルエン、キシレン等の一般的な溶剤等が使用可能である。
【0031】
チタン酸系無機化合物は通常、粒子の形態を有するものを用いる。
チタン酸系無機化合物の平均粒径は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、通常は0.01〜10μmであり、特に0.1〜3μmが好ましい。
【0032】
本明細書中、平均粒径はLA−920(堀場製作所(株)社製)によって測定された値を用いている。
【0033】
チタン酸系無機化合物のアスペクト比は、誘電特性の等方性のさらなる向上)の観点から、1〜3、特に1〜2であることが好ましい。
【0034】
アスペクト比とはチタン酸系無機化合物の断面における最大長に対する最小長の割合(最大長/最小長)であり、1に近いほど球形であることを意味する。
アスペクト比はチタン酸系無機化合物の電子顕微鏡写真(倍率約1000〜2000倍)を撮影し、当該写真より任意の50〜100個の粒子のアスペクト比を算出し、平均することによって得ることができる。
【0035】
チタン酸系無機化合物は市販品として容易に入手可能である。特に、表面処理されていないチタン酸系無機化合物の市販品の具体例として、例えば、BT、CT、ST(共立マテリアル(株)製)、BT、ST、BTZ(富士化学(株)製)等が挙げられる。
【0036】
チタン酸系無機化合物の含有量は樹脂組成物全量に対して1〜45体積%、特に誘電率を高める為には20〜45体積%が好ましい。
【0037】
樹脂組成物には、上記したマトリックス樹脂、エラストマーおよびチタン酸系無機化合物の他に、電子部品原料の分野で公知のいわゆる難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、加水分解抑制剤、滑剤、強化剤(ガラス繊維、ウォラストナイト、ゾノライト、セピオライト、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、層状ケイ酸塩、有機化処理ベントナイト)等の添加剤が誘電特性に悪影響を及ぼさない範囲で含有されてもよい。
【0038】
電子部品は上記樹脂組成物用いて各種方法によって製造可能である。
例えば、マトリックス樹脂、エラストマー、チタン酸系無機化合物、およびその他の添加剤を溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得る。次いで、ペレットを、射出成形法、押出成形法、トランスファ成形法等によって所定の形状に成形し、冷却して、電子部品を得る。
【0039】
本発明の電子部品はチタン酸系無機化合物の含有量を調整することによって、誘電率を制御できる。例えば、含有量を増量すると、誘電率は増加し、一方で減量すると、誘電率は低減する。具体的には、チタン酸系無機化合物含有量を前記範囲内とすることによって、誘電率を4〜20、特に8〜15とすることができる。電子部品、特に高周波用途のものでは、誘電率は大きいほど、波長短縮効果によりアンテナ等の電子製品の小型化に有利である。
【0040】
また本発明の電子部品は誘電正接を比較的低く設定可能で、しかも当該誘電正接の環境変化に対する変化は小さい。例えば、高温高湿環境下で長時間保管したときであっても、誘電正接を0.01未満に確保できる。その結果、電子部品、特にアンテナ部品内での電波の伝送損失を長期にわたって有効に抑えることができる。
【実施例】
【0041】
(チタン酸系無機化合物A)
チタン酸ストロンチウム(共立マテリアル(株)製;ST)および当該チタン酸ストロンチウムに対して0.5重量%のチタネート系カップリング剤(味の素ファインテック(株)製;KR)を、加温可能なヘンシェルミキサーに投入し、加温させながら混合して表面処理を行い、チタン酸系無機化合物Aを得た。
【0042】
(チタン酸系無機化合物B)
チタン酸系無機化合物Aを有機溶剤(メタノール、エタノールなど)で洗浄した後、濾過・乾燥し、チタン酸系無機化合物Bを得た。
【0043】
(チタン酸系無機化合物C)
チタン酸ストロンチウム(共立マテリアル(株)製;ST、平均粒径0.9μm)をそのまま用いた。
【0044】
(実施例1)
120℃8時間熱風乾燥した難燃性非強化ポリブチレンテレフタレート(PBT:三菱エンジニアリングプラスチック(株)製;ノバデュラン5010N5)を樹脂組成物全体に対し50体積%と、カルボン酸変性SEBS(旭化成(株)製;N502)を樹脂組成物全体に対し20体積%とを前もって混合させた。
得られた混合物と、チタン酸系無機化合物Aを樹脂組成物全体に対し30体積%とを、スクリュー径30mmのベント付き2軸押出し機を用いて真空に引きながらシリンダー温度250℃、回転数200rpm、吐出量25Kg/hにて溶融混練した。ダイスから吐出したストランドを冷却水に通し、切断して樹脂組成物のペレットを作成した。
【0045】
(実施例2)
チタン酸系無機化合物Aの代わりにチタン酸系無機化合物Bを用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物のペレットを作成した。
【0046】
(比較例1)
120℃8時間熱風乾燥した難燃性非強化ポリブチレンテレフタレート(PBT:三菱エンジニアリングプラスチック(株)製;ノバデュラン5010N5)を樹脂組成物全体に対し65体積%と、チタン酸系無機化合物Cを樹脂組成物全体に対し35体積%とを、スクリュー径30mmのベント付き2軸押出し機を用いて真空に引きながらシリンダー温度250℃、回転数200rpm、吐出量25Kg/hにて溶融混練した。ダイスから吐出したストランドを冷却水に通し、切断して樹脂組成物のペレットを作成した。
【0047】
(比較例2)
チタン酸系無機化合物Cの代わりにチタン酸系無機化合物Aを用いたこと以外、比較例1と同様の方法により、樹脂組成物のペレットを作成した。
【0048】
(比較例3)
チタン酸系無機化合物Cの代わりにチタン酸系無機化合物Bを用いたこと以外、比較例1と同様の方法により、樹脂組成物のペレットを作成した。
【0049】
(比較例4)
カルボン酸変性SEBSの代わりにSEBS(旭化成(株)製;H1041、カルボン酸未変性)を用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物のペレットを作成した。
【0050】
(比較例5)
カルボン酸変性SEBSの代わりにSEBS(旭化成(株)製;H1041、カルボン酸未変性)を用いたこと、およびチタン酸系無機化合物Aの代わりにチタン酸系無機化合物Bを用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物のペレットを作成した。
【0051】
(評価)
実施例/比較例で得られた各ペレットを用いて評価を行った。
・誘電率および誘電正接の変化率
ペレットから、型締め力40tの射出成形機を用いて樹脂温度260℃にて約89mm×89mm×厚さ2mmの平板を成形した。この平板を任意の方向で切削加工し、85mm長×1.7mm×1.7mmの試験片を作成した。試験片の3GHz時の誘電率及び誘電正接を、空洞共振器摂動法誘電率測定装置(関東電子(株)社製)及びネットワークアナライザ(8722ES;アジレント・テクノロジーズ社製)を用いて測定し、初期値とした。次に、恒温恒湿槽内に温度85℃湿度85%の条件で200時間保管した後で、再度3GHz時の誘電率及び誘電正接を測定し、△ε、△tanを求め、初期値に対する変化率を算出した。
誘電率の変化率は3%以下が実用上問題のない範囲であり、好ましくは2.5%以下、最も好ましくは2.4%以下である。
誘電正接の変化率は15%以下が実用上問題のない範囲であり、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、最も好ましくは1%以下である。
【0052】
・誘電異方性
誘電率および誘電正接の変化率の評価方法と同様の方法により、ペレットから平板を成形した。この平板を、図1に示すように、射出成形時の流動方向(MD方向)および該流動方向に対して垂直方向(TD方向)に沿って切削加工し、それぞれの方向について4本ずつの試験片(85mm長×1.7mm×1.7mm)を作成した。全ての試験片の3GHz時の誘電率を、空洞共振器摂動法誘電率測定装置(関東電子(株)社製)及びネットワークアナライザ(8722ES;アジレント・テクノロジーズ社製)を用いて測定し、誘電異方性指数「MD方向に沿って得られた試験片の誘電率平均値/TD方向に沿って得られた試験片の誘電率平均値」を求めた。
誘電異方性指数は0.9〜1.1が実用上問題のない範囲であり、好ましくは0.95〜1.05、最も好ましくは0.97〜1.03である。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1,2と比較例1〜5とを比較すると、実施例1,2は、アンテナの伝送損失にとって重要特性である誘電損失の変化率が小さく、最も優れていことが判る。
実施例1,2と比較例4,5との比較より、カルボン酸変性したエラストマーを導入することで誘電率および誘電正接の変化率に改善が認められる。
比較例1と比較例2との比較より、チタン酸系無機化合物に対して表面処理を行うことで誘電率および誘電正接の変化率に改善が認められる。
実施例1と実施例2との比較、比較例2と比較例3との比較、及び比較例4と比較例5との比較より、チタン酸系無機化合物に対して表面処理だけでなく、洗浄処理を行うことで誘電率および誘電正接の変化率に改善が認められる。
特に、実施例1と実施例2とを比較すると、チタン酸系無機化合物に対して表面処理だけでなく、洗浄処理を行い、かつカルボン酸変性したエラストマーを導入することで、実施例2のとおり、誘電率変化率が最も小さく、さらに誘電損失が全く変化しない特異的に良好な特性が得られることがわかる。
【0055】
誘電異方性は電場の印加方向の違いにより誘電特性に違いが発生する現象であり、この異方性が大きいと、シミュレーション結果と実際のアンテナ特性結果の乖離などの発生や成形時の樹脂流動の影響で成形品の流動ばらつきによりアンテナ特性がばらつくなどの懸念がある。
実施例1,2の樹脂組成物は誘電異方性指数がほぼ1であって、等方的な誘電特性を有しており、非常に良好な誘電特性を示している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の電子部品は、環境変化に対して安定な誘電特性が要求される用途への適用が有効である。特に誘電特性の変化が性能を左右するコイル、フィルタ、SAWフィルタ、センサ、アンテナ等の高周波領域で用いる電子部品で優れた性能を発揮する。
特に、本発明のアンテナ部品は、種々の型のアンテナにおける樹脂製部材であれば、いかなる部材としても有用である。本発明のアンテナ部品用樹脂組成物およびアンテナ部品が適用可能なアンテナの具体例として、例えば、モノコニカルアンテナ、レンズアンテナ、ホーンアンテナ、ループアンテナ等が挙げられる。
本発明のアンテナ部品は、特に、水による悪影響が大きい高周波用途への適用が最も有効である。アンテナ部品は高周波領域で吸水による伝送損失が顕著であり、伝送特性が大きく低下するが、本発明のアンテナ部品は環境変化に対する誘電特性の変化を有効に抑制できるので、そのような高周波領域においても優れた伝送特性を有効に発揮できるためである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例において作成した評価用試験片を説明するための概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート、カルボン酸変性された熱可塑性エラストマー、およびチタン酸系無機化合物を含有することを特徴とする電子部品用樹脂組成物。
【請求項2】
チタン酸系無機化合物がチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、およびチタン酸マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種類の無機化合物であり、該チタン酸系無機化合物の含有量が樹脂組成物全量に対して1〜45体積%である請求項1に記載の電子部品用樹脂組成物。
【請求項3】
チタン酸系無機化合物がチタン酸ストロンチウムである請求項1または2に記載の電子用樹脂組成物。
【請求項4】
チタン酸系無機化合物がチタネート系カップリング剤で表面処理された後、有機溶剤で洗浄されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の電子用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電子部品用樹脂組成物を成形してなる電子部品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の電子部品用樹脂組成物を成形してなるアンテナ部品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−19382(P2008−19382A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194117(P2006−194117)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】