説明

電子銃およびX線源

【課題】消耗品を交換した場合でも精度を維持できる電子銃ユニットを提供する。
【解決手段】電子ビームを発生する電子源31を設ける。電子源31が発生した電子ビーム28を収束させる収束レンズ32を設ける。収束レンズ32により収束した電子ビーム28の開き角を設定するNAアパチャー33を設ける。電子源31の凸部54を収束レンズ32の嵌合孔79に嵌め込んで収束レンズ32の中心軸に対して位置決めする。NAアパチャー33の凸部85を収束レンズ32の嵌合孔76に嵌め込んで収束レンズ32の中心軸に対して位置決めする。電子源31あるいはNAアパチャー33などの消耗品を交換した場合でも、精度を維持することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを発生する電子銃、および、この電子銃を備え、微小焦点を有するX線源で、特に軟X線領域のエネルギのX線を放出するX線源に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な微小焦点を有するX線源は、マイクロフォーカスX線源として既に製品化がなされており、対象物の微小領域を高分解能で検査する非破壊検査装置などに広く利用されている。このX線源は、電子源から放出される電子ビームを電解または磁界レンズなどの電子光学系により収束させ、ターゲット表面のμmオーダ、またはそれ以下の狭い領域に焦点を持たせて、そこで放出されるX線を、ターゲットを透過させて放出させる構成が採られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一定量の電流値で、電子ビームを小さなスポットに収束させるためには、電子源と電磁レンズとを、マッチングを採って設計することが重要であるが、現在では、様々な工夫を凝らすことによって、0.1μmに迫る微小焦点のX線源が達成されている。
【0004】
ここで、高い分解能で検査対象の透過撮影を行うX線源には、空間分解能を確保する上で、上記のような微小焦点を持つことが必要条件であるが、もう一方、高いコントラストを確保するために適切なエネルギのX線を放出できることが重要となる。これは、検査部位の微小領域の透過撮影を行うとき、使用するX線のエネルギが高すぎると、撮影画像にコントラスト(濃淡度)がつかず、欠陥の有無などの判定ができなくなることによる。
【0005】
現有のマイクロフォーカスX線源は、70kV以上、あるいは150kV以上の高い電圧で駆動し、高エネルギのX線を放出させるものがほとんどである。しかし、検査対象が数10μmの小さなサンプル、あるいは、その構成元素がX線の減弱率の小さな軽元素、とりわけ有機物であったりするような場合には、利用するX線のエネルギとしては、30keV以下、場合によっては5keV以下の軟X線領域のものを利用することが必要となる。さらに、近年、有機系材料を多用するような製品分野、製薬の分野、さらには細胞に至るような軽元素で構成される微小な対象物に対する高分解能検査の要求が高まっていることから、上記の軟X線領域に及ぶような低エネルギのX線を放出できる微小焦点のX線源の実用化が産業ニーズに非常にマッチしたものとなっている。
【0006】
しかし、現在の高エネルギ対応のマイクロフォーカスX線源を、駆動電圧を低減して動作させるだけでは、当初の微小な焦点サイズは維持しきれず、また、その構成のまま低電圧駆動に対応できるように設計変更するだけでは、達成しうる焦点サイズの限界点は、満足できる範囲に収めることは困難である。したがって、エネルギを低減させて、高い効率で充分な強度(線量)の軟X線を放出でき、さらに現状の高エネルギマイクロフォーカスX線源と同等、またはそれより優れた微小焦点性能を達成するためには、X線源の構成上の工夫が必要となる。
【0007】
低エネルギのX線を放出できる微小焦点のX線源を構成する場合、可能な限り単純な構成の静電レンズを用いた電子光学系を適用することが有効となる。これは、低エネルギの電子、特に10kV以下の電圧で加速された電子ビームは、空間電荷効果によって発散しやすく、収束が困難であるからである。
【0008】
これを解決するための手段として、電子発生点から収束ポイントまでの距離、すなわちキャビティ長を短く設定することが効果的となるが、そのためには一段の静電レンズの構成を採ることが有効となる。
【0009】
しかし、電子ビーム軌道、プロファイルに対する補正機構を備えないため、静電レンズを構成する各電極の偏芯、傾き精度を極力高いものとすることが重要となる。
【0010】
このように高精度で構成されたX線源の内部構造には、電子源、NAアパチャー、透過ターゲットのように有寿命品すなわち消耗品を含んでおり、これを交換し、元通りの精度を維持できなければ、X線源の寿命は、これらの構成部品の寿命よって依存してしまうものとなる。
【0011】
また、密閉型のX線源とする場合には、放出ガス量を抑制するためにX線源本体を高温でベーキングすることが必要となるが、その際に熱膨張がもたらす変形によって精度が低下しない構成を採ることが必要となる。
【0012】
さらに、従来の低エネルギ微小焦点型のX線源の電子銃ユニットは、エミッタを有する電子源と、電子光学系である収束レンズと、NAアパチャーとが軸方向に一体的に接続されている。ここで、電子源と収束レンズとには、金属製の電極、およびその支持材と、通常セラミックス製の絶縁材とを接続することが必要となり、その場合の金属材料としては、セラミックスとの熱膨張率の差が極力小さいコバール合金を利用することが一般的となる。
【0013】
しかし、コバール合金は磁性体であるため着磁しやすく、この着磁が生じると電子ビーム軌道のずれが発生し、収束レンズを高精度で構成する効果が損なわれるものとなる。そのため、X線源の製作プロセスおよび動作中に磁場を近接させない措置を採り、確実な磁気遮蔽を備えることが必要となる。
【特許文献1】特開2004−28845号公報(第4−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、上記従来のX線源では、電子源あるいはアパチャーなどの各種消耗品を交換した場合の精度を維持することが容易でなく、また、ベーキングなどの際の熱膨張、あるいは、構成部材の着磁により発生する磁場の影響などにより精度が低下するおそれがあるという問題点を有している。
【0015】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、消耗品を交換した場合でも精度を維持できる電子銃およびこれを備えたX線源を提供することを目的とする。また、本発明は、熱膨張による精度の低下を防止した電子銃およびこれを備えたX線源を提供することを目的とする。さらに、本発明は、磁場の影響による精度の低下を防止した電子銃およびこれを備えたX線源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の電子銃は、電子ビームを発生する電子源と、この電子源が発生した電子ビームを収束させる電子光学系と、この電子光学系により収束された電子ビームの開き角を設定するアパチャーとを具備し、前記電子源と前記電子光学系とは、少なくとも一方の一部が他方に嵌め込まれて前記電子光学系の軸に対して位置決めされ、前記電子光学系と前記アパチャーとは、少なくとも一方の一部が他方に嵌め込まれて前記電子光学系の軸に対して位置決めされるものである。
【0017】
また、本発明のX線源は、透過ターゲットを備え、接地電位に設定された真空容器と、この真空容器内に収納された請求項1ないし4いずれか記載の電子銃とを具備したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電子源と電子光学系との少なくとも一方の一部を他方に嵌め込んで電子光学系の軸に対して位置決めするとともに、電子光学系とアパチャーとの少なくとも一方の一部を他方に嵌め込んで電子光学系の軸に対して位置決めすることで、これら電子源あるいはアパチャーなどの消耗品を交換した場合でも、精度を維持することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1および図2に、X線源11の第1の実施の形態を示す。
【0021】
X線源11は、内部が真空保持される真空容器12を有し、この真空容器12は、一端側に透過ターゲット13が配設されているとともに、他端側に絶縁体としての絶縁筒14を介して接続部である金属プレート部15が接続され、この金属プレート部15に絶縁体としての絶縁筒16を介して接続部である金属プレート部17が接続され、かつ、この金属プレート部17に絶縁体としての絶縁筒18を介して接続部である金属プレート部19が接続されている。
【0022】
また、真空容器12内には、電子銃である電子銃ユニット22が収納され、この電子銃ユニット22は、真空容器12の内側に突設された支持部23に、固定部材としての固定用ねじ24を介して固定されている。さらに、真空容器12の外部には、電気的に接地されて真空容器12および透過ターゲット13を接地電位に設定するための接地部25が突設されている。
【0023】
金属プレート部19には、導入端子27が設けられ、この導入端子27は、各金属プレート部15,17,19とともに、電子ビーム28を発生させる駆動電源29に電気的に接続されている。
【0024】
電子銃ユニット22は、透過ターゲット13へ向けて電子ビーム28を発生する電子源31と、電子源31から発生した電子ビーム28を収束、偏向、さらに収差補正を加えて透過ターゲット13に入射させる電子光学系としての静電レンズである収束レンズ32と、透過ターゲット13へと通過させる電子ビーム28の入射開き角を設定する絞り部すなわちアパチャーであるNAアパチャー33とを一体的に備えている。
【0025】
電子源31としては、例えば最も代表的な例としてTFE(Thermal Field Emission:熱電界放出型)電子源などの、電子顕微鏡用の電子源として汎用的に使用されているものがある。そして、この電子源31は、電子ビーム28を発生するエミッタ35と、このエミッタ35を収束レンズ32に固定するためのフランジ部36とを有している。
【0026】
エミッタ35は、フィラメント41の先端にエミッタチップ42を接合したものを筒状の制御電極43で覆って構成されている。
【0027】
また、フランジ部36は、エミッタ35の制御電極43に接続されて径方向に突出した支持用の筒状の支持フランジ45に、絶縁体としての絶縁筒46を介して収束レンズ32に組込むための筒状の組込み用フランジ47が接続され、この組込み用フランジ47の一端に、エミッタチップ42の先端に対向して環状の引出し電極48が接合され、この引出し電極48の孔中心が、エミッタチップ42の先端に対して高精度で配置されている。
【0028】
支持フランジ45は、通電部材としての通電用ロッド51を介して金属プレート部19に電気的に接続されている。したがって、制御電極43は、支持フランジ45、通電用ロッド51および金属プレート部19を介して駆動電源29に電気的に接続され、この駆動電源29から所定の電流および電圧の供給を受けるように構成されている。
【0029】
また、組込み用フランジ47は、外周側が絶縁筒46よりも径方向に突出し、この外周部近傍が、固定部材としての固定用ねじ53により固定される。また、組込み用フランジ47には、エミッタ35と反対側の位置に、収束レンズ32との位置決め用の第1嵌合部としての筒状の凸部54が突設され、この凸部54の内部に引出し電極48が接合されている。さらに、この組込み用フランジ47は、通電部材としての通電用ロッド56を介して金属プレート部17に電気的に接続されている。したがって、引出し電極48は、絶縁筒46を介してエミッタ35と絶縁されているとともに、組込み用フランジ47、通電用ロッド56および金属プレート部17を介して駆動電源29に電気的に接続され、この駆動電源29から所定の電流および電圧の供給を受けるように構成されている。
【0030】
そして、電子源31は、エミッタ35に対して駆動電源29から正電圧を引出し電極48に印加することによってエミッタチップ42の先端から電子が放出され、駆動電源29から制御電極43に負電圧が印加されることで、エミッタチップ42の先端部以外の周辺部分からの電子放出を抑制するように構成されている。
【0031】
また、収束レンズ32は、支持部材としての筒状のレンズ本体であるレンズ筐体61に、電子銃ユニット22を真空容器12内に固定するための固定用フランジ62が径方向に突設されているとともに、レンズ筐体61の軸方向の一端に、NAアパチャー33を固定するためのアパチャー組込み用フランジ63が設けられ、かつ、レンズ筐体61の他端側に、絶縁体としての絶縁筒64を介して電子源31の組込み用の電子源組込み用フランジ65が接続されている。そして、レンズ筐体61内には、固定用フランジ62の内周側のレンズ筐体61内に突出した位置に、第1電極としての環状のレンズ第1電極71が支持されているとともに、この位置から電子源組込み用フランジ65側に、絶縁部材としての絶縁筒72を介して第2電極としての筒状のレンズ第2電極73が支持され、かつ、アパチャー組込み用フランジ63の内周側に、第3電極としての環状のレンズ第3電極74が支持されている。したがって、レンズ第2電極73のみが他の電極71,74に対して絶縁された状態で支持されている。
【0032】
固定用フランジ62は、固定用ねじ24により真空容器12の支持部23に固定される部分である。そして、この固定用フランジ62の開孔中心は、軸中心に対して高精度に加工されている。
【0033】
アパチャー組込み用フランジ63は、NAアパチャー33の一部が挿入嵌合されて位置決めされる第2嵌合部としての位置決め用の嵌合孔76が中心軸側に形成された筒状となっている。そして、この嵌合孔76は、軸中心に対して高精度に加工されている。
【0034】
電子源組込み用フランジ65は、電子源31の組込み用フランジ47が、固定用ねじ53を介して固定される部分である。また、この電子源組込み用フランジ65は、電子源31の凸部54が挿入嵌合されて位置決めされる第2嵌合部としての位置決め用の嵌合孔79が中心軸側に形成された筒状となっている。そして、この嵌合孔79は、軸中心に対して高精度に加工されている。
【0035】
レンズ第1電極71とレンズ第3電極74とは、それぞれの孔中心が、レンズ第2電極73の孔中心に対して精度よく配置された状態でそれぞれ接合されている。
【0036】
さらに、レンズ第2電極73は、通電部材としての通電用ロッド81を介して金属プレート部15に電気的に接続されている。したがって、レンズ第2電極73は、通電用ロッド81および金属プレート部15を介して駆動電源29に電気的に接続され、この駆動電源29から所定の電流および電圧の供給を受けるように構成されている。
【0037】
また、NAアパチャー33は、このNAアパチャー33を収束レンズ32に固定するための組込み用フランジ83が筒状に形成されているとともに、この組込み用フランジ83の一端側に、絞り部本体である環状のNAディスク84が、組込み用フランジ83の軸中心に対して高精度に位置した状態で接合され、かつ、組込み用フランジ83の他端側に第1嵌合部としての筒状の凸部85が突設されている。
【0038】
組込み用フランジ83は、固定部材としての固定用ねじ87により、収束レンズ32のアパチャー組込み用フランジ63に固定され、この固定状態で凸部85が嵌合孔76に挿入嵌合されることで、NAアパチャー33が収束レンズ32と軸中心を高精度に合わせた状態に位置決めされている。
【0039】
次に、上記X線源11の組立て手順を説明する。
【0040】
まず、電子源31の組込み用フランジ47の凸部54と収束レンズ32の電子源組込みフランジ65の嵌合孔76とを嵌合させて固定用ねじ53で固定する。
【0041】
次いで、収束レンズ32のアパチャー組込み用フランジ63の嵌合孔79とNAアパチャー33の組込み用フランジ83の凸部85とを嵌合させて固定用ねじ87で固定する。
【0042】
この結果、電子銃ユニット22が完成される。
【0043】
そして、この電子銃ユニット22を、真空容器12内に収納し、支持フランジ45を支持部23に固定用ねじ24により固定した後、電子銃ユニット22の動作に必要な到達真空度になるまで真空容器12の内部を真空排気し、封じ切る措置が採られる。
【0044】
この操作によりエミッタ35から放出される電子ビーム28は、収束レンズ32によって収束ビームとなり透過ターゲット13の表面に焦点(収束スポット)を形成し、そこからX線89が放出されるものとなる。
【0045】
このように構成された電子銃ユニット22では、電子源31の凸部54を収束レンズ32の嵌合孔79に嵌め込んで収束レンズ32の中心軸に対して位置決めするとともに、NAアパチャー33の凸部85を収束レンズ32の嵌合孔76に嵌め込んで収束レンズ32の中心軸に対して位置決めすることで、エミッタチップ42の先端、引出し電極48、レンズ第1電極71、レンズ第2電極73、レンズ第3電極74、および、NAディスク84のそれぞれの孔中心すなわち軸を、基準軸である収束レンズ32の軸に対して100μm以内、一般的な高精度加工技術を適用すれば50μm以内の精度で着脱可能となる。
【0046】
この結果、例えば電子源31あるいはNAアパチャー33などの消耗品を交換した場合でも、元通りの精度を維持することが可能になり、電子ビーム28の収束サイズ(X線89の焦点サイズ)を再現可能となる。
【0047】
以上、本発明によって単純な1段レンズ構成で、キャビティ長が比較的短い収束レンズ32を高い軸芯精度で構成でき、低エネルギの電子ビーム28を良好な真円度を持って小さなスポットに収束できる、すなわち高精度な低エネルギ微小焦点型のX線源11を提供することが可能となる。
【0048】
次に、図3に、X線源11の第2の実施の形態を示す。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0049】
この第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態において、真空容器12が、電子源31を含む電子銃ユニット22を取り出し可能な開口部91を有する第1本体部としての端子側容器92と、この端子側容器92に対して着脱可能な第2本体部としてのターゲット側容器93とに分割され、このターゲット側容器93が、NAアパチャー33を取り出し可能な取出開口部95を備えた取出用本体としてのターゲット側容器本体96と、このターゲット側容器本体96に対して着脱可能なターゲット側本体としてのターゲット支持フランジ97とに分割されているとともに、真空容器12に、真空度設定部としてのイオンポンプである真空ポンプ98が設けられているものである。
【0050】
端子側容器92は、電子銃ユニット22の外形よりも大きい形状の開口部91が、軸方向の一端側にて、ターゲット側容器93の支持部23および接地部25に対向する位置に形成され、電子銃ユニット22の電子源31側を覆っている。また、開口部91の周縁部には、径方向に突出したフランジ101が設けられ、このフランジ101が、ターゲット側容器93の支持部23に固定用ねじ102により着脱可能に取り付けられる。また、端子側容器92には、真空ポンプ98が取り付けられた排気管104が突設されている。
【0051】
なお、フランジ101は、例えばコンフラット(登録商標)などの金属パッキンを用いるICFフランジなどを適用することで300℃以上の高温でのベーキングにも対応可能となる。
【0052】
ターゲット側容器93は、電子銃ユニット22の収束レンズ32の一部とNAアパチャー33とを覆っている。このターゲット側容器93を構成するターゲット側容器本体96は、NAアパチャー33の外形よりも大きい形状の取出開口部95を一端側に備え、他端側に開口部91に連通する連通開口部106を備えた筒状に形成されている。また、ターゲット側容器93を構成するターゲット支持フランジ97は、中央部に透過ターゲット13を一体的に備えた環状の部材であり、外周縁近傍が固定部材としての固定用ねじ108により、ターゲット側容器本体96の取出開口部95の周縁部に着脱可能に取り付けられる。
【0053】
真空ポンプ98は、真空容器12内の真空度を設定するもので、例えばX線源11が動作している際の放出ガスなどを、排気管104を介して吸着可能に設けられている。
【0054】
そして、高い軸心精度で組み込まれた電子源31のエミッタ35が寿命に達したときは、このエミッタ35を収束レンズ32から取り外し交換することが可能であるが、従来の場合には、X線源11の真空容器12の一部を切断して開放し、エミッタ35を交換した後、再度真空容器12を溶接により接合し、真空排気をすることが必要となるのに対して、本実施の形態のX線源11では、真空容器12に、エミッタ35を備えた電子源31を取り出し可能な開口部91を有する端子側容器92と、この端子側容器92に対して固定用ねじ102により着脱可能で、かつ、この着脱により開口部91を開閉するターゲット側容器93とを備えることにより、エミッタ35の交換が容易になるとともに、この交換の際に真空容器12を切断する必要がなく、何度でも繰り返し交換作業を実施することが可能となり、低エネルギ電子ビームを良好な真円度を持って小さなスポットに収束できる低エネルギ微小焦点型のX線源11を提供することが可能となる。
【0055】
また、例えば収束スポット径(X線焦点径)を変更する必要がある場合には、NAアパチャー33を、孔径の異なるものに交換することで対応可能となる。また、低エネルギ微小焦点型のX線源11では、透過ターゲット13に加わる熱負荷は小さいため、寿命による交換の必要性は低いものの、異なる種類の透過ターゲット13に交換する必要が生じる場合がある。
【0056】
このため、本実施の形態では、真空容器12に、NAアパチャー33を取り出し可能な取出開口部95を有するターゲット側容器本体96と、このターゲット側容器本体96に対して固定用ねじ108により着脱可能で、かつ、この着脱により取出開口部95を開閉するターゲット支持フランジ97とを備えることにより、上記NAアパチャー33、あるいは透過ターゲット13の交換に容易に対応でき、これにより繰り返し利用を可能となり、低エネルギ電子ビームを良好な真円度を持って小さなスポットに収束できる低エネルギ微小焦点型のX線源11を提供することが可能となる。
【0057】
さらに、上記のように、エミッタ35、NAアパチャー33、あるいは透過ターゲット13の交換を実施した場合には、真空容器12内を再度真空排気し、ベーキング処理を施すことが必要となる。
【0058】
このとき、エミッタ35の安定動作に必要とされる真空度(圧力)である1×10-6Pa以下に到達させるためには、充分なベーキング温度と処理時間を設定する必要があるが、これらの処理後、X線源11の動作中にフィラメント41の加熱、あるいは各電極71,73,74などの内部構成部品へ電子ビーム28が入射することで放出されるガスによって、充分な真空度を維持できなくなることが考えられる。特に、電子源31としてTFE電子源を適用する場合には、1×10-6Pa以上の圧力下で動作させると、使用寿命を短縮する大きな要因ともなる。
【0059】
したがって、本実施の形態では、真空ポンプ98を設け、X線源11の動作中の放出ガスを効率良く吸着し、安定な動作を維持するように構成することで、初期起動時からX線源11内の真空度を良好に保ち、エミッタ35を長時間安定に動作させることができる低エネルギ微小焦点型のX線源11を提供することが可能となる。
【0060】
なお、上記第2の実施の形態において、X線源11は、端子側容器92とターゲット側容器93とを固定用ねじ102で固定して電子源31を交換可能な構成、ターゲット側容器本体96とターゲット支持フランジ97とを固定用ねじ108で固定してNAアパチャー33と透過ターゲット13とを交換可能な構成、および、真空ポンプ98により真空容器12内の真空度を設定可能な構成を備えたものとしたが、これら構成をそれぞれ単独で備える構成としたり、これら構成を任意に組合わせた構成としたりしても、それぞれの効果を奏することが可能である。
【0061】
また、真空ポンプ98の容量、排気性能は、放出ガス量によって任意に設定すればよいが、これらが非常に小さい場合には、真空ポンプ98に代えてゲッタ素子を真空度設定部として適用することも可能となる。
【0062】
次に、図4および図5に、第3の実施の形態を示す。なお、上記各実施の形態と同様の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0063】
この第3の実施の形態は、収束レンズ32のレンズ筐体61と絶縁筒72との間、および、レンズ第2電極73と絶縁筒72との間に、ロウ材111を挟んで、緩衝部材としての緩衝用リング112をそれぞれ装着するものである。
【0064】
ここで、レンズ筐体61、レンズ第1電極71およびレンズ第2電極73は、それぞれ加工が容易で安価な非磁性材である例えばステンレス製とし、絶縁筒72は、非磁性材である例えばセラミックス製とし、緩衝用リング112は、絶縁筒72を形成するセラミックスと熱膨張率が近い非磁性材である例えばチタン製とし、かつ、ロウ材111としては、例えばメタライズ処理を施さなくてもセラミックスと金属の直接接合が可能な活性ロウを選択する。
【0065】
また、レンズ筐体61には、緩衝用リング112と接合する部分に、筒状の接合部115が軸方向に突設されている。この接合部115は、薄肉に形成され、等位相すなわち周方向に略等間隔に、複数のスリット116が軸方向に沿って形成され、歪み(応力)を吸収する構造とする。
【0066】
同様に、レンズ第2電極73には、緩衝用リング112と接合する部分に、筒状の接合部118が軸方向に突設されている。この接合部118は、薄肉に形成され、等位相すなわち周方向に略等間隔に、複数のスリット119が軸方向に沿って形成され、歪み(応力)を吸収する構造とする。
【0067】
一般的に、電子銃ユニットにおいては、セラミックスにより構成した絶縁筒と、金属製構成材とを接合することが必要となるが、このときの接合方法としては、高温のベーキングに耐えうるようにロウ付け接合が最も妥当なものとなる。このとき、一般的な手法としては、金属との接合部のセラミックス表面にあらかじめモリブデン(Mo)−マンガン(Mn)合金を塗布し、高温でセラミックス内部に浸透させるメタライズという手法が採られ、これに対してセラミックスと最も近い熱膨張率を持つコバール合金で構成された部品が接合される。しかしながら、マンガンおよびコバール合金は磁性材であるため、着磁作用によって残留磁場が生じた場合には、電子ビームの軌道が影響を受けるおそれがある。
【0068】
そこで、本実施の形態では、電子ビーム28が通過する近傍の構成材であるレンズ筐体61、レンズ第1電極71、絶縁筒72、レンズ第2電極73、および、緩衝用リング112などを全て非磁性材とすることにより、電子ビーム28の軌道に対する影響を排除できる電子源31および収束レンズ32を提供でき、安定した電子ビーム収束性能を持った低エネルギ微小焦点型のX線源11を提供することが可能となる。
【0069】
また、レンズ筐体61をステンレス製とすることによって同じステンレス製のレンズ第1電極71をスポット溶接で簡単に接合することが可能となり、製造性が向上する。
【0070】
さらに、絶縁筒72との熱膨張率差が、レンズ筐体61(レンズ第2電極73)と絶縁筒72との熱膨張率差よりも小さい緩衝用リング112を、レンズ筐体61およびレンズ第2電極73と絶縁筒72との間に設けることで、熱膨張などによる接合部115,118への応力によってレンズ筐体61およびレンズ第2電極73と絶縁筒72との接合面にて破損が生じることを抑制できる。
【0071】
そして、接合部115,118には、応力を吸収するためのスリット116,119を設けることで、レンズ筐体61およびレンズ第2電極73と緩衝用リング112との接合時に発生する応力がスリット116,119による接合部115,118の変形によって分散して加えられ、歪みを吸収でき、これによりセラミックス製の絶縁筒72が接合部分から破損することを防止できる。
【0072】
次に、図6および図7に、第4の実施の形態を示す。なお、上記各実施の形態と同様の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0073】
この第4の実施の形態は、絶縁筒72をセラミックスにより形成し、この絶縁筒72に対して、レンズ筐体61とレンズ第2電極73とを直接ロウ付け接合するものである。
【0074】
この場合、熱膨張率差の大きいステンレス製構成材であるレンズ筐体61およびレンズ第2電極73とセラミックスである絶縁筒72とを直接接合するので、接合部115,118の構造は、上記第3の実施の形態と比較してさらに応力に対して歪みやすい構造とする。この場合、最も破損しやすいのは、レンズ筐体61およびレンズ第2電極73と絶縁筒72との接合面であり、この部分では熱膨張率による応力が集中し、クラックが発生しやすい部分となるため、接触面積を極力小さくしてこの部分に加わる拘束力を破壊限度以下とすることで、上記第3の実施の形態と同様の作用効果を奏することが可能になる。
【0075】
また、絶縁筒72に対して、レンズ筐体61とレンズ第2電極73とを直接接合するため、収束レンズ32の構造を、より簡便化でき、より容易な手順で電子源31および収束レンズ32を組立てることが可能となる。
【0076】
なお、上記各実施の形態において、真空容器12の細部は、上記構成に限定されるものではない。
【0077】
また、電子銃ユニット22は、収束レンズ32の軸に対して電子源31およびNAアパチャー33を、軸が100μm以内の精度となるように互いの嵌め合いで着脱できる構成であれば、収束レンズ32側に第1嵌合部を設け、電子源31およびNAアパチャー33に第2嵌合部を設けたり、あるいは、電子源31、収束レンズ32およびNAアパチャー33のそれぞれに第1嵌合部と第2嵌合部とを設けて、それぞれ嵌め込むように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図2】同上X線源の電子銃の説明分解図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態を示す電子銃の説明分解図である。
【図5】同上電子銃の説明図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態を示す電子銃の説明分解図である。
【図7】同上電子銃の説明図である。
【符号の説明】
【0079】
11 X線源
12 真空容器
13 透過ターゲット
22 電子銃である電子銃ユニット
28 電子ビーム
31 電子源
32 電子光学系としての収束レンズ
33 アパチャーであるNAアパチャー
61 支持部材としてのレンズ筐体
71 第1電極としてのレンズ第1電極
72 絶縁部材としての絶縁筒
73 第2電極としてのレンズ第2電極
91 開口部
92 第1本体部としての端子側容器
93 第2本体部としてのターゲット側容器
95 取出開口部
96 取出用本体としてのターゲット側容器本体
97 ターゲット側本体としてのターゲット支持フランジ
98 真空度設定部としての真空ポンプ
112 緩衝部材としての緩衝用リング
115,118 接合部
116,119 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する電子源と、
この電子源が発生した電子ビームを収束させる電子光学系と、
この電子光学系により収束された電子ビームの開き角を設定するアパチャーとを具備し、
前記電子源と前記電子光学系とは、少なくとも一方の一部が他方に嵌め込まれて前記電子光学系の軸に対して位置決めされ、
前記電子光学系と前記アパチャーとは、少なくとも一方の一部が他方に嵌め込まれて前記電子光学系の軸に対して位置決めされる
ことを特徴とした電子銃。
【請求項2】
電子光学系は、
非磁性材により形成され、第1電極を支持する支持部材と、
非磁性材により形成され、前記支持部材と別体の第2電極と、
非磁性材により形成され、前記支持部材と前記第2電極とを絶縁する絶縁部材とを備えている
ことを特徴とした請求項1記載の電子銃。
【請求項3】
電子光学系は、支持部材および第2電極と絶縁部材との間に、この絶縁部材との熱膨張率差が、前記支持部材および前記第2電極と前記絶縁部材との熱膨張率差よりも小さい緩衝部材を備えている
ことを特徴とした請求項2記載の電子銃。
【請求項4】
支持部材と第2電極との少なくともいずれか一方の絶縁部材との接合部に、応力吸収用のスリットが設けられている
ことを特徴とした請求項2または3記載の電子銃。
【請求項5】
透過ターゲットを備え、接地電位に設定された真空容器と、
この真空容器内に収納された請求項1ないし4いずれか記載の電子銃と
を具備したことを特徴としたX線源。
【請求項6】
真空容器は、
電子源を取り出し可能な開口部を備えた第1本体部と、
この第1本体部に着脱されることで前記開口部を開閉可能な第2本体部とを備えている
ことを特徴とした請求項5記載のX線源。
【請求項7】
真空容器は、
アパチャーを取り出し可能な取出開口部を備えた取出用本体と、
透過ターゲットが設けられ、前記取出用本体に着脱されることで前記取出開口部を開閉可能なターゲット側本体とを備えている
ことを特徴とした請求項5または6記載のX線源。
【請求項8】
真空容器内の真空度を設定する真空度設定部を具備している
ことを特徴とした請求項5ないし7いずれか記載のX線源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−26600(P2009−26600A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188431(P2007−188431)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】