説明

電子銃

【課題】 発生磁場を極力抑制して高輝度化を達成できるとともに長寿命化を図ることができる電力効率に優れたカソードアセンブリを有する電子銃を提供すること。
【解決手段】 電子銃のカソードアセンブリCに、電子を放出するカソード6と、カソード6の周囲に所定の間隔を置いて配置された円筒状のグラファイトヒータ12とを設け、グラファイトヒータ12により並列回路を構成して電流を流すことによりグラファイトヒータ12の内面からの熱輻射によりカソード6を加熱するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線自由電子レーザー発振装置において高密度電子ビームを発生する電子銃に関し、特に電子銃に設けられるカソードアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自由電子レーザー発振装置等の電子銃の内部に設けられた電子銃カソードは、陰極電極部の中にカソードが配置されており、カソードには加熱コイルが巻回されている。また、カソードから放出される電子の進行方向に陰極電極と対向して陽極電極部が設けられ、その中央に穿設された小孔から電子ビームが放出される。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−14503号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加熱コイルはタングステン等の金属を螺旋状に巻いて形成されており、タングステンは融点が高いが(3000℃以上)、高温では結晶粒が粗大化してコイルが脆くなってしまうという問題がある。
【0005】
また、加熱コイルに電流を流すと、カソードを垂直に突き抜ける磁場が発生し、この磁場により電子ビームが回転して高輝度化を妨げるという問題があるばかりでなく、電力効率の点で加熱コイル以外の加熱手段を検討する余地もあった。
【0006】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、発生磁場を極力抑制して高輝度化を達成できるとともに長寿命化を図ることができる電力効率に優れたカソードアセンブリを有する電子銃を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のうちで請求項1に記載の発明は、電子を放出するカソードアセンブリを有する電子銃であって、カソードアセンブリが、電子を放出するカソードと、該カソードの周囲に所定の間隔を置いて配置された円筒状のグラファイトヒータとを備え、該グラファイトヒータにより並列回路を構成して電流を流すことにより前記グラファイトヒータの内面からの熱輻射により前記カソードを加熱するようにしたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記グラファイトヒータに複数のスリットを形成し、電流をジグザグ状に流すようにしたことを特徴とする。
【0009】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記グラファイトヒータの一端部と他端部からそれぞれ同数の切り込みを入れることにより前記スリットを形成したことを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、前記カソードを円筒状スリーブに挿入したことを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、前記スリーブを絶縁基板の中心部にサポート部材を介して保持したことを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、前記グラファイトヒータを前記絶縁基板に取り付けるための一対の取付脚を前記サポート部材の両側に設け、前記一対の取付脚を介して前記グラファイトヒータに電流を流すようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる電子銃は、電子を放出するカソードの周囲に所定の間隔を置いて配置された円筒状のグラファイトヒータをカソードアセンブリに採用しており、グラファイトは高温でも安定していることからカソードアセンブリの長寿命化を達成することができる。また、グラファイトヒータにより並列回路を構成して電流を流すことによりグラファイトヒータの内面からの熱輻射によりカソードを加熱するようにしたので、電力効率を向上することができる。
【0014】
さらに、グラファイトヒータに複数のスリットを形成し、電流をジグザグ状に流すようにしたので、カソードを垂直に突き抜ける磁場が発生せず、高輝度化を達成することができる。
【0015】
また、グラファイトヒータを絶縁基板に取り付けるための一対の取付脚をサポート部材の両側に設けたので、グラファイトヒータを安定した状態で支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1乃至図6は、本発明にかかる電子銃に設けられるカソードアセンブリCを示しており、カソードを加熱する手段として円筒状のグラファイトヒータが採用されている。このカソードアセンブリCは通常カソードが水平に配置されるが、ここでは便宜上図1及び図2の状態(カソードが垂直に配置された状態)に対し「上」あるいは「下」という用語を使用している。
【0017】
なお、図2に示される2点鎖線は、カソードアセンブリCが取り付けられる電子銃の一部を示している。
【0018】
このカソードアセンブリCは、ディスク状の絶縁基板2と、絶縁基板2の中央に取り付けられた円筒状のスリーブ4と、スリーブ4の内部に挿入されたカソード6とを備えている。絶縁基板2の底面にはサポートプレート8が取り付けられ、このサポートプレート8に一端が取り付けられたサポート部材10は、絶縁基板2の中心孔を貫通して上方に延び、サポート部材10の他端にスリーブ4が取り付けられている。
【0019】
カソード6が挿入されたスリーブ4の周囲には所定の間隔を置いて円筒状のグラファイトヒータ12が配置されており、グラファイトヒータ12は左右一対の取付脚14を介して絶縁基板2に取り付けられている。
【0020】
また、絶縁基板2の中心孔の両側には絶縁基板2を貫通する左右一対の電流導入リード16が設けられており、電流導入リード16はナット18を下方より螺合することにより絶縁基板2に固定されている。絶縁基板2より上方に突出する電流導入リード16には取付脚14が圧入されて保持されており、絶縁基板2より下方に突出する電流導入リード16にはリード端子20が取着されている。
【0021】
さらに、グラファイトヒータ12の周囲には所定の間隔を置いて円筒状のシールド部材22が設けられており、このシールド部材22は絶縁基板2に取着されている。シールド部材22の下部両側には矩形開口部22aが形成されており、この矩形開口部22aに取付脚14の一部が配置されている。
【0022】
なお、絶縁基板2は例えばSiNセラミックにより作製され、スリーブ4は例えばグラファイトにより作製され、カソード6は例えば単結晶のCeB(六ホウ化セリウム)により作製される。また、サポートプレート8、サポート部材10、シールド部材22は例えばタンタルにより作製され、取付脚14、電流導入リード16、ナット18、リード端子20は例えばモリブデンにより作製される。
【0023】
図1及び図6に示されるように、グラファイトヒータ12には、グラファイトヒータ12の上端部と下端部からそれぞれ同数の切り込みを入れることによりジグザグ状に複数のスリット12aが所定の間隔で形成されている。さらに詳述すると、これらのスリット12aは、例えばワイヤ放電加工により軸心方向に形成されたもので、グラファイトヒータ12の上方から下方に向かって下端部近傍の所定の位置まで複数(例えば、八つ)のスリット(切り込み)12aが平行にまず形成され、次に既に形成された平行なスリット12aの中央を通るように下方から上方に向かって上端部近傍の所定の位置まで同数のスリット12aが形成されている。
【0024】
このように形成されたグラファイトヒータ12の下端部の一部12bに取付脚14の一方が接続され、この部位12bの180度反対側に位置するグラファイトヒータ12の下端部の別の一部12cに取付脚14の他方が接続されている。
【0025】
グラファイトヒータ12をこのように構成し、図6に示されるように、一対のリード端子20に所定の電圧を印可すると一対の電流導入リード16を介して部位12b,12c間に電流が流れるが、部位12bで二つに分かれた電流がグラファイトヒータ12を左右対称にジグザグに流れることになり、温度が上昇してスリーブ4及びカソード6を加熱する。
【0026】
また、図7に示されるように、電流が隣接するヒータセグメントを逆方向に流れることから、電流により発生する磁場は局部的には互いに相殺され、全体として矢印Aの方向に電流が流れることになる。この電流により磁場Bが発生するが、この磁場Bはカソード6を垂直に突き抜けるものではなく、電子ビームが回転する力は発生しないので、高輝度化の点で有利である。
【0027】
なお、グラファイトは高融点(3000℃以上)の材料で、高温下でも安定しているため、長寿命が要求される電子銃のヒータとして好ましく、また、カソード6を内部に収容したスリーブ4の周囲にグラファイトヒータ12を配置したことで、グラファイトヒータ12の内面の広い面積からの熱輻射によりカソード6を加熱することができ、電力効率に優れている。
【0028】
さらに、グラファイトヒータ12により並列回路を構成し、二分した電流の一方を右側面に、電流の他方を左側面に流すようにすることで、グラファイトヒータ12の形状を対称的に設定することが可能となり、加工も容易となる。また、並列回路を構成することで、グラファイトヒータ12を支持する電流導入リード16を両側(180度反対側)に配置することができ、グラファイトヒータ12を安定した状態に取り付けることができる。
【0029】
なお、並列回路は抵抗が小さくなるが、切り込み数を図1あるいは図6に示される数よりも増大することで線路長を長くすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明にかかる電子銃のカソードアセンブリは、発生磁場を極力抑制して高輝度化を達成することができ、かつ、寿命が長く電力効率に優れているので、X線自由電子レーザー発振装置のような高密度電子ビームを必要とする装置等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明にかかるカソードアセンブリの分解斜視図である。
【図2】図1のカソードアセンブリの部分断面正面図である。
【図3】図1のカソードアセンブリの部分断面側面図である。
【図4】図1のカソードアセンブリの平面図である。
【図5】図1のカソードアセンブリの底面図である。
【図6】図1のカソードアセンブリの斜視図であり、特に電流が流れる方向を示している。
【図7】図1のカソードアセンブリに設けられたグラファイトヒータの側面図であり、特に流れる電流と発生磁場を示している。
【符号の説明】
【0032】
2 絶縁基板、
4 スリーブ、
6 カソード、
8 サポートプレート、
10 サポート部材、
12 グラファイトヒータ、
12a スリット、
12b,12c グラファイトヒータの取付脚との接続部
14 取付脚、
16 電流導入リード、
18 ナット、
20 リード端子、
22 シールド部材、
22a 開口部
C カソードアセンブリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出するカソードアセンブリを有する電子銃であって、
カソードアセンブリが、電子を放出するカソードと、該カソードの周囲に所定の間隔を置いて配置された円筒状のグラファイトヒータとを備え、該グラファイトヒータにより並列回路を構成して電流を流すことにより前記グラファイトヒータの内面からの熱輻射により前記カソードを加熱するようにしたことを特徴とする電子銃。
【請求項2】
前記グラファイトヒータに複数のスリットを形成し、電流をジグザグ状に流すようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項3】
前記グラファイトヒータの一端部と他端部からそれぞれ同数の切り込みを入れることにより前記スリットを形成したことを特徴とする請求項2に記載の電子銃。
【請求項4】
前記カソードを円筒状スリーブに挿入したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項5】
前記スリーブを絶縁基板の中心部にサポート部材を介して保持したことを特徴とする請求項4に記載の電子銃。
【請求項6】
前記グラファイトヒータを前記絶縁基板に取り付けるための一対の取付脚を前記サポート部材の両側に設け、前記一対の取付脚を介して前記グラファイトヒータに電流を流すようにしたことを特徴とする請求項5に記載の電子銃。
【請求項7】
前記グラファイトヒータの周囲に所定の間隔を置いて円筒状のシールド部材を配置したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子銃。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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