説明

電子顕微鏡の観察方法及び電子顕微鏡

【課題】正確で精度の高いSTEM像を得ることのできる電子顕微鏡の観察方法を提供する。
【解決手段】電子線を試料に照射し、前記試料を透過または散乱した電子線を検出器において検出し、前記試料を観察する電子顕微鏡の観察方法において、前記検出器により前記試料の画像を取得する工程と、前記取得された画像に最も近い画像を、前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像より選択し、前記選択された画像の位置情報に基づき、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程と、算出された前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量に基づき、前記検出器を移動させる工程と、を有することを特徴とする電子顕微鏡の観察方法により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡の観察方法及び電子顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料等における高分解能な像を観察する装置としてSTEM(Scanning Transmission Electron Microscope:走査透過型電子顕微鏡)がある。図1に示されるように、STEMでは、試料11に電子線12を照射し、試料11により散乱等された電子線をSTEM検出器13により検出することにより、試料の観察が行なわれる。
【0003】
STEMの観察手法としては、円形型検出器を用いた明視野(BF:Bright Field)−STEM観察、環状型検出器を用いた環状型明視野(ABF:Annular Bright Field)−STEM観察及び環状型暗視野(ADF:Annular Bright Field)−STEM観察等がある。STEM検出器13は、これらの観察手法に応じて円形型検出器または環状型検出器が用いられている。図1において、試料11に照射された電子線12の散乱の程度と観察方法とのおおまかな関係を示す。
【0004】
BF−STEM観察では、電子線の透過波と回折波による位相干渉像を観察することができ、ABF−STEM観察では、従来は困難とされていた軽元素の分布を原子分解能で観察することができる。また、ADF−STEM観察では、特に高角度散乱電子により結像されるHAADF(High Angle ADF)−STEM観察において、強度が原子番号に依存するZ-contrast像の観察をすることができる。このように、試料11に照射された電子線12が試料11において透過、散乱され、この透過、散乱された電子線の検出位置を変えることにより、様々な手法のSTEM観察を行なうことができる。また、このような検出器を複数設置することにより、各々の手法によるSTEM観察像を同時に取得することができる。
【0005】
このような様々な手法のSTEM観察を行なうことにより、試料11における原子を直接観察することができ、試料11を形成している材料における原子の配列や原子位置等の変位による応力場の解析等を行なうことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−22059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、STEM等による原子分解能観察において、最も重要なことは原子の位置を正確に観察及び測定することである。このため、レンズ位置を調整することによる入射する電子線の光軸調整、試料における結晶方位の調整が重要であることから、この点に着目した電子線の光軸調整を行なう電子線の入射条件の様々な調整方法の検討が行なわれている。
【0008】
しかしながら、STEM観察においては、入射する電子線の調整だけでは十分ではなく、散乱した電子線のSTEM検出器への入射方位により、観察される原子位置、原子形状が大きく影響することが、発明者の長年の研究の結果、知見として得ることができた。即ち、精度の高いSTEM観察像を得るためには、STEM検出器の位置が極めて重要である。言い換えるならば、図2に示されるように、電子線11における照射条件である入射角度やコマ収差、非点収差の調整、また、試料11における傾斜角度の調整だけではなく、STEM検出器13の位置の調整も極めて重要である。
【0009】
ところで、電子顕微鏡では、電磁レンズを用いて光軸調整を行なっているため、電界や磁界等の影響を受けることから、電子線の光軸は適宜調整が必要となり、これに連動してSTEM検出器における入射方位の調整も適宜必要となる。また、通常、図3に示すように、STEM装置には、蛍光板や画像検出素子等により形成される電子線の位置やプロファイルを検出するための電子線位置検出器14が設けられている。この電子線位置検出器14よりも上に、第1の環状型検出器21が設けられている場合には、第1の環状型検出器21の中心部に電子線が照射されるように、電子線位置検出器14等を用いて調整することにより調整可能であるが、精度が十分とはいえない。また、BF−STEM観察を行なうために用いる円形状検出器22が電子線位置検出器14よりも下に設けられている場合、電子線位置検出器14により電子線が遮られてしまうため、精度の高い位置合せを行うことはできない。尚、電子線位置検出器14としてカメラ等を用い、このようなカメラを複数台設置することにより、位置合せの精度を高めることも可能であるが、装置が高額となり好ましくない。
【0010】
尚、図3に示されるSTEM装置は、円形状検出器22と同様に、電子線位置検出器14の下に、第2の環状型検出器23が設けられており、第2の環状型検出器23の開口部を通過した電子線は、EELS検出器24に入射する構造のものである。このSTEM装置において、例えば、第1の環状型検出器21は、HAADF−STEM観察等を行なうためのものであり、第2の環状型検出器23は、ADF−STEM観察及びABF−STEM観察等を行なうためのものである。また、EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)検出器24は、試料11を透過した電子線のエネルギー損失スペクトルの測定を行なうためのものである。本願においては、第1の環状型検出器21を上部STEM検出器と、円形状検出器22及び第2の環状型検出器23を下部STEM検出器と称する場合がある。図3(a)は、電子線を第1の環状型検出器21及び円形状検出器22により検出する場合を示すものであり、図3(b)は、電子線を第1の環状型検出器21及び第2の環状型検出器23により検出する場合を示すものである。
【0011】
ところで、円形状検出器22の位置合せを電子線回折の中心となる000ディスク(電子線回折ディスク)の全体が円形状検出器22に入射するように、円形状検出器22により得られる強度が最大となるところを中心とする方法がある。しかしながら、試料11の厚さが厚くなると必ずしも最大強度の位置が中心とは限らないため、この方法では十分に調整を行なうことができない。また、上述した方法では、図4(a)に示すように、電子線回折ディスクが円形状検出器22に対し小さい場合は、位置合せが可能であるが、図4(b)及び、図4(a)に示すように、電子線回折ディスクが大きい場合には、正確な位置合せをすることができない。
【0012】
また、第1の環状型検出器21及び第2の環状型検出器23の場合は、図5に示されるように、検出器は環状型検出器31であるため、中心部分に開口部32を有している。よって、環状型検出器31からの最大強度に基づく位置合せを行なうことは困難である。尚、図5は、環状型検出器31と電子線回折ディスクとの関係を示すものであり、図5(a)は、ABF−STEM観察における関係を示し、図5(b)は、ADF−STEM観察における関係を示し、図5(c)は、HAADF−STEM観察における関係を示す。
【0013】
このため、STEM検出器を最適な検出位置に調整することができ、透過、散乱された電子線を正確に入射させることのでき、正確で精度の高いSTEM像を得ることのできる電子顕微鏡の観察方法及び電子顕微鏡が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本実施の形態の一観点によれば、電子線を試料に照射し、前記試料を透過または散乱した電子線を検出器において検出し、前記試料を観察する電子顕微鏡の観察方法において、前記検出器により前記試料の画像を取得する工程と、前記取得された画像に最も近い画像を、前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像より選択し、前記選択された画像の位置情報に基づき、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程と、算出された前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量に基づき、前記検出器を移動させる工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本実施の形態の他の一観点によれば、電子線を試料に照射し、前記試料を透過または散乱した電子線を、偏向レンズを介した後、検出器において検出し、前記試料を観察する電子顕微鏡の観察方法において、前記検出器により前記試料の画像を取得する工程と、前記取得された画像に最も近い画像を、前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像より選択し、前記選択された画像の位置情報に基づき、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程と、算出された前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量に基づき、前記偏向レンズにより電子線を偏向させる工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、本実施の形態の他の一観点によれば、試料に電子線を照射する電子銃と、前記試料を透過または散乱した電子線を検出する検出器と、前記検出器を移動させる移動機構部と、前記検出器により得られた画像に基づき前記移動機構を制御し、前記検出器を移動させる制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
開示の電子顕微鏡の観察方法及び電子顕微鏡によれば、STEM検出器を最適な検出位置に調整することができ、正確で精度の高いSTEM像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】STEMにおける観察方法の説明図
【図2】STEMにおける位置ずれの説明図
【図3】複数のSTEM検出器を有するSTEMの説明図
【図4】円形型検出器の説明図
【図5】環状型検出器の説明図
【図6】本実施の形態における電子顕微鏡の構造図
【図7】本実施の形態における電子顕微鏡の要部の説明図
【図8】電子顕微鏡による原子像図
【図9】円形型検出器の位置ずれの説明図
【図10】STEMにおける散乱角度の説明図
【図11】本実施の形態における電子顕微鏡の観察方法のフローチャート
【図12】本実施の形態における電子顕微鏡の観察方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0020】
(電子顕微鏡)
本実施の形態における電子顕微鏡について図6に基づき説明する。本実施の形態における電子顕微鏡は、走査透過型電子顕微鏡である。本実施の形態における電子顕微鏡は、電子銃111、収束レンズ112及び113、収束レンズ絞り114、走査コイル115、収差補正部116、対物レンズ117、投影レンズ118、偏向レンズ119、上部STEM検出器120、上部電子線位置検出器121、下部STEM検出器122、下部電子線位置検出器123を有している。
【0021】
観察対象となる試料110は、単結晶等により形成されており、対物レンズ117と投影レンズ118との間に設置される。また、本実施の形態における電子顕微鏡は、制御部130を有しており、制御部130には、記憶部140が接続されている。また、制御部130は、収差補正部116、対物レンズ117、投影レンズ118、偏向レンズ119、上部STEM検出器120、上部電子線位置検出器121、下部STEM検出器122、下部電子線位置検出器123に接続されている。
【0022】
電子銃111は、所定の加速電圧により電子を加速し、電子線として出力する。電子銃111の下には収束レンズ112及び113が設けられている。収束レンズ112及び113は、電子銃111から出力された電子線を所望の大きさに収束させるためのものであり、複数段(図6に示す場合には2段)設けられている。
【0023】
収束レンズ絞り114は、収束レンズ112及び113の下に設けられており、収束レンズ112及び113により収束された電子線が不要な広がり部分をもつため、不要な広がり部分を除くものである。
【0024】
走査コイル115は、収束レンズ絞り114の下に設けられており、電子線を偏向させることにより、試料110の表面に照射される電子線を走査させるものである。
【0025】
収差補正部116は、走査コイル115の下に設けられており、制御部130からの制御信号に基づき、電子線の球面収差及び非点収差等の収差の補正を行なうものである。
【0026】
対物レンズ117は、収差補正部116の下に設けられており、制御部130からの制御信号に基づき、試料110の表面又はその近傍において、照射される電子線の焦点が合うように電子線を屈折させる。
【0027】
投影レンズ118は、試料110の下に設けられており、制御部130からの制御信号に基づき、測定に用いられるSTEM検出器に入射するように、試料110を透過、回折した電子線の広がり角度を調節するものである。
【0028】
偏向レンズ119は、試料110の下に設けられており、制御部130からの制御信号に基づき、電子線の向きを偏向させる。
【0029】
上部STEM検出器120は、偏向レンズ119の下に設けられており、図7に示されるような環状型検出器であり、検出された情報は、制御部130に伝達される。上部STEM検出器120は、上部STEM検出器120を移動させるための移動機構部151を有しており、移動機構部151により上部STEM検出器120を移動させることができる。
【0030】
上部電子線位置検出器121は、上部STEM検出器120の下に設けられており、電子線の照射位置等を検出することができるよう、CCD(Charge Coupled Device)カメラ、蛍光板等により形成されている。
【0031】
下部STEM検出器122は、上部電子線位置検出器121の下に設けられており、例えば、図7に示されるような円形型検出器122a及び環状型検出器122bを有しており、検出された情報は、制御部130に伝達される。下部STEM検出器122は、下部STEM検出器122を移動させるための移動機構部152を有しており、移動機構部152により下部STEM検出器122を移動させることができる。
【0032】
下部電子線位置検出器123は、下部STEM検出器122の下に設けられており、電子線の照射位置等を検出することができるよう、CCDカメラ等により形成されている。
【0033】
制御部130では、上部STEM検出器120、下部STEM検出器122からの情報に基づき、偏向レンズ119の制御又は上部STEM検出器120、下部STEM検出器122の位置の制御を行ない、更には、得られた情報に基づき解析等を行なう。
【0034】
記憶部140には、例えば、下部STEM検出器122における円形状検出器122aを様々な位置に設置した場合におけるSTEM像等が蓄積されている。
【0035】
本実施の形態では、円形型検出器122aは、BF−STEM観察を行なうためのものであり、環状型検出器122bは、ADF−STEM観察及びABF−STEM観察等を行なうためのものである。環状型検出器である上部STEM検出器120は、HAADF−STEM観察等を行なうためのものである。尚、本実施の形態では、上部STEM検出器120は第1の環状型検出器に相当し、環状型検出器122bは第2の環状型検出器に相当する。
【0036】
また、本実施の形態においては、上部電子線位置検出器121及び下部電子線位置検出器123がなくても調整可能であるが、上部電子線位置検出器121及び下部電子線位置検出器123を設けることにより、より精度の高い調整を行なうことができる。
【0037】
(電子顕微鏡による観察位置の調整方法)
次に、本実施の形態における電子顕微鏡の観察位置の調整方法について説明する。図8は、Si(001)を観察した際に得られたBF−STEM像を示すものである。具体的には、図8は、図9に示すように、円形状検出器122aが最適となる位置と、円形状検出器122aが最適となる位置に対し8方向に10mradずれた位置におけるBF−STEM像を示す。即ち、図8(a)は、円形状検出器122aが最適となる位置において観察されるSi原子像を示す。また、図8(b)〜(i)は、円形状検出器122aが最適となる位置に対し、図面において、円形状検出器122aが左上、上、右上、右、右下、下、左下、左、左上の8方向に各々10mradずれている位置において観察されるSi原子像を示す。
【0038】
具体的には、円形状検出器122aの位置が正確に中心に位置している場合には、図8(a)に示されるように、Si原子像は同心円状に円形に観察される。しかしながら、円形状検出器122aの位置がずれている場合には、図8(b)〜図8(i)に示されるように、ずれた方向に対してSi原子像が歪んで観察される。よって、観察されたSi原子像が歪んでいるか否かにより、円形状検出器122aの位置がずれているか否かを知ることができ、また、Si原子像が歪んでいる場合、どちらの方向に歪んでいるかにより、円形状検出器122aがずれている方向を知ることができる。
【0039】
尚、観察条件は、電子線の加速電圧が200kV、電子線入射半角が20mrad、下部STEM検出器122における円形状検出器122aの取り込み角度が0(中心)〜16mrad、フォーカスずれ量が−20nmである。このSi原子分解能像では、電子線のフォーカスが試料110に対しアンダーフォーカスとなるように設置されている。このように試料110に対しアンダーフォーカスにすることにより、原子の形状において、円形状検出器の位置に依存した特徴がより一層顕著に表れる。尚、アンダーフォーカスとは、試料110に対し、試料110内部の側に、フォーカスが位置する場合を意味する。
【0040】
よって、図8に示される9つの画像を予め記憶部140に記憶させておき、円形状検出器122aにおいて観察された画像に対し最も近い画像を図8に示される画像の中から選択する。この選択された画像に基づき、円形状検出器122aのずれている方向とずれ量を制御部130等において算出し、ずれている方向とずれ量に基づき制御部130等の制御により、移動機構部152により円形状検出器122aの位置を移動させる。これにより、円形状検出器122aの位置を最適な位置になるよう調整することができる。
【0041】
尚、上記においては、ずれ量が10mradの場合について説明したが、より細かいずれ量における画像を取得し記憶部140に記憶させておくことにより、より高い精度で円形状検出器122aの位置を最適な位置となるよう調整することができる。例えば、円形状検出器122aの位置が、1mrad毎にずれた位置で観察される画像を予め取得して、記憶部140に記憶させておくことにより、より高い精度で円形状検出器122aの位置を最適な位置となるよう調整することができる。また、記憶部140に記憶される画像は、実際に観察することにより得られた画像以外にも、試料110となる単結晶等の標準試料に基づきシミュレーションを行なうことにより得られた画像であってもよい。
【0042】
また、本実施の形態における説明では、図10に示すように、試料110と円形状検出器122aとを距離L離れた位置に設置した場合において、ブラッグの条件は、2dsinθ=λである。TEMの場合では、散乱角度sが半角となるため、dsinθ=λとなり、s=sinθ/λとなる。尚、θの単位は、電子線の加速電圧が200kV(λ=0.00251nm)の条件では、1°=1.745mrad=6.95nm−1となる。
【0043】
(電子顕微鏡の観察方法)
次に、図11に基づき本実施の形態における電子顕微鏡の観察方法について説明する。
【0044】
最初に、ステップ102(S102)において、本実施の形態における電子顕微鏡である走査透過型電子顕微鏡の観察条件の設定を行なう。
【0045】
次に、ステップ104(S104)において、走査透過型電子顕微鏡における電子線の光軸調整を行なう。
【0046】
次に、ステップ106(S106)において、観察対象となる試料110を走査透過型電子顕微鏡の所定の位置に設置する。試料110は、例えば、単結晶等により形成されているものであり、Si単結晶等である。
【0047】
次に、ステップ108(S108)において、下部STEM検出器122における円形状検出器122a等の位置を手動等により調節し設定する。
【0048】
次に、ステップ110(S110)において、フォーカスずれ量を設定する。
【0049】
次に、ステップ112(S112)において、試料110に電子線を照射し試料110の原子像を取得する。
【0050】
次に、ステップ114(S114)において、原子像マッチングを行なう。具体的には、取得された原子像に最も近い画像を記憶部140に予め記憶されている画像の中から選択する。
【0051】
次に、ステップ116(S116)において、ステップ114において選択された画像に基づき、下部STEM検出器122における円形状検出器122aのずれている方向及びずれ量を算出する。
【0052】
次に、ステップ118(S118)において、ステップ116において算出された円形状検出器122aのずれ量が所定の値以下であるか否かを判断する。円形状検出器122aのずれ量が所定の値以下である場合にはステップ122に移行する。一方、円形状検出器122aのずれ量が所定の値を超える場合にはステップ120に移行する。ここで、所定の値とは、例えば、0.5mradである。
【0053】
次に、ステップ120(S120)において、円形状検出器122aに照射される電子線の位置、または、円形状検出器122aの位置をステップ116において算出された円形状検出器122aのずれている方向及びずれ量に基づき移動させる。具体的には、照射される電子線の位置を移動する場合には、ずれている方向及びずれ量に基づき電子線の偏向方向及び偏向距離を算出し、図12(a)に示されるように、偏向レンズ119によって、円形状検出器122aに照射される電子線を偏向させる。また、円形状検出器122aの位置を移動する場合には、ずれている方向及びずれ量に基づき円形状検出器の移動方向及び移動距離を算出し、図12(b)に示すように、円形状検出器122aを電子線の入射方向に対し略垂直方向に移動させる。尚、円形状検出器122aの移動は、移動機構部152等により行なう。この後、ステップ112に移行し、再度、試料110の原子像の取得を行なう。
【0054】
次に、ステップ122(S122)において、取得されたSTEM像は、円形状検出器122aが最適となる位置の画像であるため、取得されたSTEM像を保存した後、終了する。
【0055】
以上により、本実施の形態における電子顕微鏡の観察方法が終了する。本実施の形態における電子顕微鏡の観察方法では、円形状検出器122a等を最適な検出位置に調整することができるため、透過、散乱された電子線を正確に入射させることのでき、正確で精度の高いSTEM像を得ることができる。
【0056】
尚、上記においては、下部STEM検出器122における円形状検出器122aについて説明したが、下部STEM検出器122における環状形検出器122bや上部STEM検出器120である環状形検出器についても同様に適用することができる。
【0057】
以上、実施の形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0058】
上記の説明に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
電子線を試料に照射し、前記試料を透過または散乱した電子線を検出器において検出し、前記試料を観察する電子顕微鏡の観察方法において、
前記検出器により前記試料の画像を取得する工程と、
前記取得された画像に最も近い画像を、前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像より選択し、前記選択された画像の位置情報に基づき、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程と、
算出された前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量に基づき、前記検出器を移動させる工程と、
を有することを特徴とする電子顕微鏡の観察方法。
(付記2)
前記試料の画像を取得する工程、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程、前記検出器を移動させる工程は、前記算出されたずれ量が所定の値以下となるまで繰り返し行なうものであることを特徴とする付記1に記載の電子顕微鏡の観察方法。
(付記3)
電子線を試料に照射し、前記試料を透過または散乱した電子線を、偏向レンズを介した後、検出器において検出し、前記試料を観察する電子顕微鏡の観察方法において、
前記検出器により前記試料の画像を取得する工程と、
前記取得された画像に最も近い画像を、前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像より選択し、前記選択された画像の位置情報に基づき、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程と、
算出された前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量に基づき、前記偏向レンズにより電子線を偏向させる工程と、
を有することを特徴とする電子顕微鏡の観察方法。
(付記4)
前記試料の画像を取得する工程、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程、前記偏向レンズにより電子線を偏向させる工程は、前記算出されたずれ量が所定の値以下となるまで繰り返し行なうものであることを特徴とする付記3に記載の電子顕微鏡の観察方法。
(付記5)
前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像は、前記検出器が各々4方向にずれた状態において観察される画像、または、前記検出器が各々8方向にずれた状態において観察される画像であって、
前記各々の方向における所定のずれ量ごとにずれた位置において、検出器により観察される画像であることを特徴とする付記1から4のいずれかに記載の電子顕微鏡の観察方法。
(付記6)
前記検出器は、円形状検出器または環状型検出器であることを特徴とする付記1から5のいずれかに記載の電子顕微鏡の観察方法。
(付記7)
前記試料は、単結晶であることを特徴とする付記1から6のいずれかに記載の電子顕微鏡の観察方法。
(付記8)
前記試料に照射される電子線は、前記試料に対しアンダーフォーカスとなるように照射されるものであることを特徴とする付記1から7のいずれかに記載の電子顕微鏡の観察方法。
(付記9)
試料に電子線を照射する電子銃と、
前記試料を透過または散乱した電子線を検出する検出器と、
前記検出器を移動させる移動機構部と、
前記検出器により得られた画像に基づき前記移動機構を制御し、前記検出器を移動させる制御部と、
を有することを特徴とする電子顕微鏡。
(付記10)
前記制御部には、前記検出器の位置がずれている状態において観察される画像が複数記憶されている記憶部が接続されており、
前記制御部は、前記記憶部に記憶されている画像の位置情報に基づき前記検出器の移動方向及び移動距離を算出し、前記検出器を移動させるものであることを特徴とする付記9に記載の電子顕微鏡。
(付記11)
前記制御部は、前記記憶部に記憶されている画像のうち、前記試料を観察した際に前記検出器において得られる画像と最も近い画像を選択し、前記選択された画像の位置情報に基づき、前記検出器の移動方向及び移動距離を算出するものであることを特徴とする付記10に記載の電子顕微鏡。
(付記12)
試料に電子線を照射する電子銃と、
前記試料を透過または散乱した電子線を検出する検出器と、
前記検出器に入射する電子線の位置を制御する偏向レンズと、
前記検出器を移動させる移動機構部と、
前記検出器により得られた画像に基づき前記偏向レンズを制御する制御部と、
を有することを特徴とする電子顕微鏡。
(付記13)
前記制御部には、前記検出器の位置がずれている状態において観察される画像が複数記憶されている記憶部が接続されており、
前記制御部は、前記記憶部に記憶されている画像に基づき前記偏向レンズによる電子線の偏向方向及び偏向距離を算出し、前記偏向レンズにおいて電子線を偏向させるものであることを特徴とする付記12に記載の電子顕微鏡。
(付記14)
前記制御部は、前記記憶部に記憶されている画像のうち、前記試料を観察した際に前記検出器において得られる画像と最も近い画像を選択し、前記選択された画像の位置情報に基づき、前記偏向レンズにおける電子線の偏向方向及び偏向距離を算出するものであることを特徴とする付記13に記載の電子顕微鏡。
(付記15)
前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像は、前記検出器が各々4方向にずれた状態において観察される画像、または、前記検出器が各々8方向にずれた状態において観察される画像であって、
前記各々の方向における所定のずれ量ごとにずれた位置において、検出器により観察される画像であることを特徴とする付記10、11、13、14のいずれかに記載の電子顕微鏡。
(付記16)
前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像は、前記検出器の位置がずれた状態において観察される画像を撮像したもの、または、前記試料の構造に基づきシミュレーションにより得られた画像であることを特徴とする付記10、11、13、14、15のいずれかに記載の電子顕微鏡。
(付記17)
前記検出器は、円形状検出器または環状型検出器であることを特徴とする付記9から16のいずれかに記載の電子顕微鏡。
(付記18)
前記検出器は、複数設けられており、
前記複数設けられている検出器には、円形状検出器と環状型検出器とが含まれていることを特徴とする付記9から16のいずれかに記載の電子顕微鏡。
【符号の説明】
【0059】
110 試料
111 電子銃
112 収束レンズ
113 収束レンズ
114 収束レンズ絞り
115 走査コイル
116 収差補正部
117 対物レンズ
118 投影レンズ
119 偏向レンズ
120 上部STEM検出器(環状型検出器)
121 上部電子線位置検出器
122 下部STEM検出器
122a 円形型検出器
122b 環状型検出器
123 下部電子線位置検出器
130 制御部
140 記憶部
151 移動機構部
152 移動機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を試料に照射し、前記試料を透過または散乱した電子線を検出器において検出し、前記試料を観察する電子顕微鏡の観察方法において、
前記検出器により前記試料の画像を取得する工程と、
前記取得された画像に最も近い画像を、前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像より選択し、前記選択された画像の位置情報に基づき、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程と、
算出された前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量に基づき、前記検出器を移動させる工程と、
を有することを特徴とする電子顕微鏡の観察方法。
【請求項2】
前記試料の画像を取得する工程、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程、前記検出器を移動させる工程は、前記算出されたずれ量が所定の値以下となるまで繰り返し行なうものであることを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡の観察方法。
【請求項3】
電子線を試料に照射し、前記試料を透過または散乱した電子線を、偏向レンズを介した後、検出器において検出し、前記試料を観察する電子顕微鏡の観察方法において、
前記検出器により前記試料の画像を取得する工程と、
前記取得された画像に最も近い画像を、前記検出器の位置がずれた状態において観察される複数の画像より選択し、前記選択された画像の位置情報に基づき、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程と、
算出された前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量に基づき、前記偏向レンズにより電子線を偏向させる工程と、
を有することを特徴とする電子顕微鏡の観察方法。
【請求項4】
前記試料の画像を取得する工程、前記検出器の位置のずれている方向及びずれ量を算出する工程、前記偏向レンズにより電子線を偏向させる工程は、前記算出されたずれ量が所定の値以下となるまで繰り返し行なうものであることを特徴とする請求項3に記載の電子顕微鏡の観察方法。
【請求項5】
試料に電子線を照射する電子銃と、
前記試料を透過または散乱した電子線を検出する検出器と、
前記検出器を移動させる移動機構部と、
前記検出器により得られた画像に基づき前記移動機構を制御し、前記検出器を移動させる制御部と、
を有することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項6】
前記制御部には、前記検出器の位置がずれている状態において観察される画像が複数記憶されている記憶部が接続されており、
前記制御部は、前記記憶部に記憶されている画像の位置情報に基づき前記検出器の移動方向及び移動距離を算出し、前記検出器を移動させるものであることを特徴とする請求項5に記載の電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−58363(P2013−58363A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195446(P2011−195446)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】