電子顕微鏡及び三次元像構築方法
【課題】CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることが可能な、電子顕微鏡及び三次元像構築方法を提供すること。
【解決手段】試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜手段と、前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度θにおいて得られる透過電子顕微鏡像TIを取得する像取得手段と、取得した傾斜角度θ毎の透過電子顕微鏡像TIに基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築手段とを含み、試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像TIの領域の幅bを、傾斜角度θに応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる。
【解決手段】試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜手段と、前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度θにおいて得られる透過電子顕微鏡像TIを取得する像取得手段と、取得した傾斜角度θ毎の透過電子顕微鏡像TIに基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築手段とを含み、試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像TIの領域の幅bを、傾斜角度θに応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡及び三次元像構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、試料の三次元像を構築する機能を備えた電子顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1)。この電子顕微鏡では、試料を一定の角度毎に傾斜させて一連の透過像を取得し、取得した透過像にCT法(Computerized Tomography Method)を適用して再構成を行い断面像(二次元像)を取得し、取得した二次元像を重ね上げることで三次元像を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−19218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電子顕微鏡では、傾斜角度0°のときに傾斜軸に垂直な方向の幅がaの透過像をCT法を用いて再構成を行う場合に、傾斜角度θのときにおいても傾斜軸に垂直な方向の幅がaである画像を用いて再構成を行っている。しかしながら、本来傾斜角度が大きくなるほど再構成に用いる透過像の領域は小さくなるはずである。この再構成に用いる領域以外の領域を再構成に用いることで、再構成に用いる領域以外の領域にアーティファクト(例えば、極端に輝度が低い部分)が存在する場合に、CT法によって得られる再構成断面像(及び再構成断面像から得られる三次元像)の分解能が低下してしまう。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることが可能な、電子顕微鏡及び三次元像構築方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る電子顕微鏡は、
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜手段と、
前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度において得られる透過電子顕微鏡像を取得する像取得手段と、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築手段とを含み、
試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる。
【0007】
本発明において、透過電子顕微鏡像は、TEM像でもよいし、STEM像(走査透過電子顕微鏡像)でもよい。
【0008】
また本発明において、傾斜角度0°のときの三次元像の構築(断面像の再構成)に用いる透過電子顕微鏡像の領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、傾斜角度θのときの試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をacosθとしてもよい。
【0009】
本発明によれば、試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させることで、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0010】
(2)本発明に係る電子顕微鏡では、
前記三次元像構築手段は、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築するようにしてもよい。
【0011】
本発明において、取得した透過電子顕微鏡像の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、取得した傾斜角度θ毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度θに応じて傾斜軸に垂直な方向の幅acosθでトリミングするようにしてもよい。
【0012】
本発明によれば、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0013】
(3)本発明に係る電子顕微鏡では、
前記像取得手段は、
試料上を走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得するようにしてもよい。
【0014】
本発明において、傾斜角度0°のときの電子線の走査領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、傾斜角度θのときの電子線の走査領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をacosθとしてもよい。
【0015】
本発明によれば、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0016】
(4)本発明に係る電子顕微鏡では、
前記像取得手段は、
各傾斜角度において、対物レンズの焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を取得し、
前記三次元像構築手段は、
各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成するようにしてもよい。
【0017】
本発明によれば、ほぼ全ての領域で焦点の合った過電子顕微鏡像を傾斜角度毎に取得することができ、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0018】
(5)本発明に係る三次元像構築方法は、
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜工程と、
前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度において得られる透過電子顕微鏡像を取得する像取得工程と、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築工程とを含み、
試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる。
【0019】
本発明において、透過電子顕微鏡像は、TEM像でもよいし、STEM像(走査透過電子顕微鏡像)でもよい。
【0020】
また本発明において、傾斜角度0°のときの三次元像の構築(断面像の再構成)に用いる透過電子顕微鏡像の領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、傾斜角度θのときの試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をacosθとしてもよい。
【0021】
本発明によれば、試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させることで、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0022】
(6)本発明に係る三次元像構築方法では、
前記三次元像構築工程において、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築するようにしてもよい。
【0023】
本発明において、取得した透過電子顕微鏡像の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、取得した傾斜角度θ毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度θに応じて傾斜軸に垂直な方向の幅acosθでトリミングするようにしてもよい。
【0024】
本発明によれば、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0025】
(7)本発明に係る三次元像構築方法では、
前記像取得工程において、
試料上を走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得するようにしてもよい。
【0026】
本発明において、傾斜角度0°のときの電子線の走査領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、傾斜角度θのときの電子線の走査領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をacosθとしてもよい。
【0027】
本発明によれば、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0028】
(8)本発明に係る三次元像構築方法では、
前記像取得工程において、
各傾斜角度において、対物レンズの焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を取得し、
前記三次元像構築工程において、
各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成するようにしてもよい。
【0029】
本発明によれば、ほぼ全ての領域で焦点の合った過電子顕微鏡像を傾斜角度毎に取得することができ、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係る電子顕微鏡の構成の一例を示す図。
【図2】電子線が試料を透過している様子を示す模式図と、透過像を示す図。
【図3】電子線が試料を透過している様子を示す模式図と、透過像を示す図。
【図4】傾斜角度に対するb/aのグラフを示す図。
【図5】本実施形態の第1の手法について説明するための図。
【図6】本実施形態の第1の手法で得られた透過像の一例を示す図。
【図7】従来の手法で得られた再構成断面像と、本実施形態の第1の手法で得られた再構成断面像を示す図。
【図8】本実施形態の第2の手法について説明するための図。
【図9】電子線が試料を透過している様子を示す模式図と、透過像を示す図。
【図10】合焦点透過像を取得する手法について説明するための図。
【図11】合焦点透過像を取得する手法について説明するための図。
【図12】傾斜角度60°のときに取得されたTEM像を示す図。
【図13】本実施形態の手法により生成した合焦点透過像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0032】
1.構成
図1に、本実施形態に係る電子顕微鏡の構成の一例を示す。ここでは、電子顕微鏡が、透過型電子顕微鏡(TEM)の構成を有する場合について説明するが、電子顕微鏡は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有していてもよい。なお本実施形態の、電子顕微鏡は図1の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。
【0033】
図1に示すように、電子顕微鏡100は、電子線源1と、照射レンズ系2と、偏向器4と、試料Sを保持するステージ6と、ステージ制御装置7と、対物レンズ8と、対物レンズ制御部9と、投影レンズ10と、検出器12と、鏡筒14と、処理部20と、操作部30と、表示部32と、記憶部34と、情報記憶媒体36とを含んでいる。
【0034】
電子線源1、照射レンズ系2と、偏向器4、ステージ6、対物レンズ8、投影レンズ10、検出器12は、鏡筒14の内部に収容されている。鏡筒14の内部は、排気装置(図示省略)によって減圧排気されている。
【0035】
電子線源1は、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する。電子線源1の例として、公知の電子銃を挙げることができる。
【0036】
照射レンズ系2は、電子線源1の後段に配置されている。照射レンズ系2は、複数の集束レンズ(図示省略)で構成されている。照射レンズ系2は、試料Sに照射される電子線(入射電子線)の量を調整する。
【0037】
偏向器4は、照射レンズ系2の後段に配置されている。偏向器4は、複数の偏向コイルと、当該複数の偏向コイルに流れる電流量を制御するための電流制御部(図示省略)とを有する。偏向器4は、電流制御部で各偏向コイルに流れる電流を制御することにより入射電子線を二次元的に偏向させる。これにより、試料Sに対する入射電子線の入射角度を変えることができるため、透過波の光路および散乱波の光路を変えることができる。偏向器4により、入射電子線を対物レンズ8の光軸に一致させるための軸合わせを行うことができる。
【0038】
ステージ6は、試料Sを偏向器4の後段に位置させるように保持している。ステージ6は、ステージ制御装置7により制御され、試料Sを水平方向や垂直方向に移動させ、また試料Sを回転、傾斜させる。ステージ4は、光軸OAに直交する傾斜軸TAを中心として左右に傾斜可能に構成されている。
【0039】
対物レンズ8は、試料Sの後段に配置されている。対物レンズ8は、対物レンズ制御装置9により制御され、試料Sを透過した電子線を結像させる。投影レンズ10は、対物レンズ8の後段に配置されている。投影レンズ10は、対物レンズ8によって結像された像をさらに拡大し、検出器12上に結像させる。
【0040】
検出器12は、投影レンズ10の後段に配置されている。検出器12は、投影レンズ10によって結像された透過電子顕微鏡像を検出する。検出器12の例として、二次元的に配置されたCCD(Charge Coupled Device)で形成された受光面を有するCCDカメラを挙げることができる。検出器12が検出した透過電子顕微鏡像の像情報は、処理部20に出力される。
【0041】
操作部20は、ユーザが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部20に出力する。操作部20の機能は、キーボード、マウス、タッチパネル型ディスプレイなどのハードウェアにより実現することができる。
【0042】
表示部32は、処理部20によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部32は、処理部20により生成された、透過電子顕微鏡像や、再構成断面像、三次元像を表示する。
【0043】
記憶部34は、処理部20のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。情報記憶媒体36(コンピュータにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、或いはメモリ(ROM)などにより実現できる。処理部20は、情報記憶媒体36に格納されるプログラムに基づいて本実施形態の種々の処理を行う。情報記憶媒体36には、処理部20の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記憶することができる。
【0044】
処理部20は、ステージ制御装置7、対物レンズ制御装置9等を制御する処理や、透過電子顕微鏡像を取得する処理、試料の三次元像を構築する処理などの処理を行う。処理部20の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部20は、制御信号生成部22と、像取得部24と、三次元像構築部26とを含む。
【0045】
制御信号生成部22は、各種制御信号を生成してステージ制御装置7や対物レンズ制御装置9に出力する。例えば、制御信号生成部22は、ステージ6(試料S)を複数段階に傾斜させるための制御信号を生成してステージ制御装置7に出力する。すなわち、本発明の試料傾斜手段は、ステージ6とステージ制御装置7と制御信号生成部22により構成される。また、制御信号生成部22は、対物レンズ8の焦点位置を変化させるための制御信号を生成して対物レンズ制御装置9に出力する。
【0046】
また、電子顕微鏡100が走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有する場合には、制御信号生成部22は、電子線の試料S上での走査を行うための走査コイルを制御する走査コイル制御装置に制御信号を出力する。また、制御信号生成部22は、試料S上を走査する電子線の走査領域の幅を、ステージ6(試料S)の傾斜角度に応じて傾斜軸TAに垂直な方向に変化させるための制御信号を生成して走査コイル制御装置に出力するようにしてもよい。
【0047】
像取得部24は、検出器12から出力された像情報を取り込むことで透過電子顕微鏡像(TEM像或いはSTEM像)を取得する処理を行う。像取得部24は、ステージ6(試料S)が各傾斜角度に設定されたときに得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得する。例えば、像取得部24は、ステージ6(試料S)が−60°から+60°まで1°ステップで121段階に傾斜されたときに得られる121枚の透過電子顕微鏡像を取得する。
【0048】
三次元像構築部26は、像取得部24によって取得された傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築するための処理を行う。具体的には、三次元像構築部26は、傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像から断面像を再構成し、得られた断面像のシリーズを重ね合わせることで三次元像を構築する。
【0049】
また、三次元像構築部26は、取得された傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸TAに垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき三次元像を構築するようにしてもよい。
【0050】
また、電子顕微鏡100が走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有する場合には、像取得部24は、試料Sを走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸TAに垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像(STEM像)を取得し、三次元像構築部26は、このように取得された傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築するようにしてもよい。
【0051】
また、像取得部24は、対物レンズ8の焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を、ステージ6(試料S)が各傾斜角度に設定される度に取得し、三次元像構築部26は、各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成し、生成した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき三次元像を構築するようにしてもよい。
【0052】
2.本実施形態の手法
次に本実施形態の手法について図面を用いて説明する。
【0053】
2−1.トリミング幅を変化させる手法(第1の手法)
図2(A)は、試料S(ステージ6)の傾斜軸TA周りの傾斜角度が0°に設定された場合に、電子線が試料Sを透過している様子を示す模式図であり、図2(B)は、このときに取得される透過像(透過電子顕微鏡像)を示す図である。同図では、試料Sは試料断面を表しており、上から下に向けて電子線が試料断面に入射している。
【0054】
同図のaは、電子線の照射領域の幅(傾斜軸TAに垂直な方向の幅)及び取得される透過像TIの幅(傾斜軸TAに垂直な方向の幅)を示している。また、同図のbは、三次元像の構築(断面像の再構成)に用いられる透過像の領域の幅(傾斜軸TAに垂直な方向の幅)を示している。試料Sの傾斜角度が0°である場合には、電子線の照射領域の幅(及び透過像の幅)aと、三次元像の構築に用いられる領域(再構成可能領域)の幅bは一致している。
【0055】
図3(A)は、図2(A)の試料Sの傾斜角度が高傾斜に設定された場合の模式図であり、図3(B)は、このときに取得される透過像を示す図である。
【0056】
図3(A)に示すように、電子線の照射領域(及び透過像)の傾斜軸TAに垂直な方向の幅aは、試料Sの傾斜角度θによらず一定であるが、再構成可能領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅bは、傾斜角度θが大きくなるほど小さくなる。ここで、再構成可能領域の幅bは、
b=a×cosθ
で表すことができる。
【0057】
図4は、傾斜角度θに対するb/aのグラフである。例えば、傾斜角度θが60°のときの、再構成可能領域の傾斜軸に垂直な方向の幅bは、
b=0.5×a
となり、傾斜角度θが0°のときの半分となる。すなわち、三次元像の構築に必要な透過像の領域(再構成可能領域)は、透過像TIの傾斜軸TAに平行な方向の幅をcとすると、acosθ×cとなる。
【0058】
本実施形態の第1の手法では、図5(A)に示すように、取得した傾斜角度θ毎の一連の透過像のそれぞれを、傾斜軸TAに垂直な方向に、再構成可能領域の幅b(=acosθ)でトリミングする処理(切り出し処理)を行う。なお、傾斜角度θが0°の場合には、acosθ=aとなるため、トリミングは行わない。
【0059】
また、本実施形態の第1の手法では、図5(B)に示すように、透過像TIにおける切り出した領域以外の領域CA(切り取った領域)に、切り出し処理を行う前の透過像の輝度の平均値を画素値として有する平均値画像AIを足し合わせて、切り出し処理を行う前の透過像TIと同一サイズの画像CIを生成する。そして、切り出し処理と平均値画像AIの足し合わせ処理を行った傾斜角度θ毎の透過像CIに基づいて、断面像の再構成と三次元像の構築処理を行う。
【0060】
図6(A)〜図6(C)は、本実施形態の第1の手法で得られた透過像の一例である。ここでは、試料Sとして、汎用的な高分子材料の1つである、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン重合合成樹脂(ABS樹脂)を用いた。まず、ABS樹脂からウルトラミクロトームを用いて1μm厚みの試料切片を切り出し、TEM・STEM観察用銅製のグリッドの上に乗せた。その後、四酸化オスミウム溶液の蒸気により、ポリブタジエン(PB)相を金属染色させ、STEMを用いて染色した試料のSTEM像を得た。
【0061】
図6(A)は、傾斜角度0°のときに取得されたSTEM像であり、図6(B)は、傾斜角度60°のときに取得されたSTEM像である。また、図6(C)は、図6(B)のSTEM像に対して、切り出し処理と平均値画像AIの足し合わせ処理を施した画像である。各図中の破線の領域は、再構成可能領域を示す。
【0062】
図6(B)に示すように、再構成可能領域外に、極端に輝度の低い異物AF(アーティファクト)があると、再構成断面像と三次元像に影響を及ぼす恐れがある。そこで、本実施形態の第1の手法では、図6(C)に示すように、再構成可能領域以外の領域を切り取り、切り取った領域に平均値画像AIを足し合わせることで、再構成可能領域外に存在する異物ATによる影響を排除している。
【0063】
図7(A)は、従来の手法(取得した透過像をそのまま用いて断面像を再構成する手法)で得られた再構成断面像であり、図7(B)は、本実施形態の第1の手法で得られた再構成断面像である。図7(A)の断面像には、図6(B)の異物ATに由来する虚像が現れていることが分かる。一方、図7(B)の断面像では、本実施形態の手法により異物部分が切り取られているため虚像が現れず、分解能の高い像が取得できている。
【0064】
このように、本実施形態の手法によれば、取得した傾斜角度θ毎の透過像から断面像の再構成及び三次元像の構築に必要な部分だけを切り出して断面像の再構成及び三次元像の構築を行うことで、分解能の高い再構成断面像及び三次元像を得ることができる。
【0065】
2−2.電子線走査領域を変化させる手法(第2の手法)
本実施形態の第2の手法は、電子顕微鏡100が走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有する場合に適用可能な手法である。
【0066】
本実施形態の第2の手法では、取得した傾斜角度θ毎の透過像を再構成可能領域の幅bでトリミングすることに代えて、試料上Sを走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度θに応じて変化させることで、再構成可能領域に含まれる透過像のみを取得する。
【0067】
すなわち、図8(A)に示すように、電子線の走査領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅を、再構成可能領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅b(=acosθ)とすることで、傾斜軸TAに垂直な方向の幅がbである傾斜角度θ毎の一連の透過像TIを取得する。
【0068】
本実施形態の第2の手法によっても、第1の手法と同様に、再構成可能領域外に存在する異物による影響を排除して分解能の高い再構成断面像及び三次元像を得ることができる。また、第2の手法によれば、試料の傾斜角度θが大きくなるほど、走査領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅が小さくなるため、傾斜角度θの大きな透過像の画像取得時間(露光時間、走査時間)を短縮することができ、一連の透過像を取得するための全体としての画像取得時間も短縮することができる。
【0069】
なお、再構成可能領域以外の範囲も用いて傾斜角度θ毎の一連の透過像の位置合わせ(アライメント)を行う場合には、図8(B)に示すように、まず、短い露光時間で、走査領域の幅を傾斜角度が0°のときの走査領域の幅aとすることで、傾斜軸TAに垂直な方向の幅がaである第1の透過像TI1を取得する。次に、長い露光時間(必要な露光時間)で、走査領域の幅を再構成可能領域の幅bとすることで、傾斜軸TAに垂直な方向の幅がbである第2の透過像TI2を取得する。そして、第1の透過像TI1に第2の透過像TI2に重ね合わせることで傾斜角度θにおける透過像TIを取得する。このようにしても、一連の透過像の画像取得時間を短縮することができる。
【0070】
2−3.合焦点透過像の取得
図9(A)、図9(B)に示すように、試料Sをθだけ傾斜させたとき、被写界深度をf(単位:nm)とすると、取得される透過像TIにおいて、焦点(フォーカス)が合っている合焦点領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅w(単位:ピクセル)は、
w=f/(p×tanθ)
と表すことができる。ここでpは、1ピクセルの大きさ(単位:nm)である。
【0071】
図9(B)の透過像TIにおいて、合焦点領域w以外の左右の領域は、アンダーフォーカス又はオーバーフォーカス領域となる。
【0072】
本実施形態では、各傾斜角度において、対物レンズ8の焦点位置を変化させて得られる複数の透過像を取得し、各傾斜角度に対応する複数の透過像のそれぞれから焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで、ほぼ全ての領域で焦点のあった傾斜角度毎の透過像を生成する。
【0073】
具体的には、図10に示すように、傾斜角度θにおいて、対物レンズ8の焦点位置を変化させて、合焦点領域wを互いにΔwだけ重なり合うように(オーバーラップするように)ずらしながら複数の透過像を取得する。
【0074】
そして、図11に示すように、合焦点領域をずらしながら取得した傾斜角度θに対応する複数の透過像(同図では、透過像A〜D)のそれぞれから、合焦点領域wを切り出す(抽出する)処理を行う。次に、切り出した複数の画像について、互いに重なりあう領域Δwで画像の相関をとって位置合わせを行い、位置合わせを行った複数の画像を重ね合わせる(合成する)ことで、傾斜角度θに対応する透過像TIを生成する。
【0075】
このようにすると、試料Sを高傾斜させた場合であっても、ほぼ全ての領域で焦点のあった透過像(合焦点透過像)を得ることができ、合焦点透過像を用いて断面像の再構成及び三次元像の構築を行うことで、分解能の高い再構成断面像及び三次元像を得ることができる。例えば、本実施形態の第1の手法により三次元像を構築する場合には、傾斜角度θ毎の合焦点透過像に対して、再構成可能領域の幅bで切り出す処理と、平均値画像AIの足し合わせ処理とを施すようにすればよい。
【0076】
なお、STEMについては、傾斜軸に平行な方向の走査ライン毎にフォーカスを合わせるダイナミックフォーカス法が既に提案されているが、TEMについては、ダイナミックフォーカス法に相当する手法は提案されていない。本実施形態の合焦点透過像を取得する手法は、TEMに適用することが可能である点で有効な手法である。
【0077】
図12は、傾斜角度60°のときに取得されたTEM像である。ここでは、図6(A)〜図6(C)の例と同様に、試料Sとして金属染色させたABS樹脂を用いている。図12のTEM像において、微小な黒色の像は金粒子の像である。図12を見ると、合焦点領域w以外の領域(合焦点領域wの上下の領域)では、金粒子の像がぼけていることがわかる。
【0078】
図13は、本実施形態の手法により、傾斜角度60°のときに合焦点領域wをずらしながら複数の透過像を取得し、複数の透過像から切り出した合焦点領域wの画像をΔwの領域で位置合わせを行って合成した透過像である。図13を見ると、図12のTEM像とは異なり、透過像の全領域に渡って焦点が合っていることがわかる。
【0079】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0080】
1 電子線源、2 照射レンズ系、4 偏向器、6 ステージ、7 ステージ制御装置、8 対物レンズ、9 対物レンズ制御装置、10 投影レンズ、12 検出器、14 鏡筒、20 処理部、22 制御信号生成部、24 像取得部、26 三次元像構築部、30 操作部、32 表示部、34 記憶部、36 情報記憶媒体
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡及び三次元像構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、試料の三次元像を構築する機能を備えた電子顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1)。この電子顕微鏡では、試料を一定の角度毎に傾斜させて一連の透過像を取得し、取得した透過像にCT法(Computerized Tomography Method)を適用して再構成を行い断面像(二次元像)を取得し、取得した二次元像を重ね上げることで三次元像を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−19218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電子顕微鏡では、傾斜角度0°のときに傾斜軸に垂直な方向の幅がaの透過像をCT法を用いて再構成を行う場合に、傾斜角度θのときにおいても傾斜軸に垂直な方向の幅がaである画像を用いて再構成を行っている。しかしながら、本来傾斜角度が大きくなるほど再構成に用いる透過像の領域は小さくなるはずである。この再構成に用いる領域以外の領域を再構成に用いることで、再構成に用いる領域以外の領域にアーティファクト(例えば、極端に輝度が低い部分)が存在する場合に、CT法によって得られる再構成断面像(及び再構成断面像から得られる三次元像)の分解能が低下してしまう。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることが可能な、電子顕微鏡及び三次元像構築方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る電子顕微鏡は、
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜手段と、
前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度において得られる透過電子顕微鏡像を取得する像取得手段と、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築手段とを含み、
試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる。
【0007】
本発明において、透過電子顕微鏡像は、TEM像でもよいし、STEM像(走査透過電子顕微鏡像)でもよい。
【0008】
また本発明において、傾斜角度0°のときの三次元像の構築(断面像の再構成)に用いる透過電子顕微鏡像の領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、傾斜角度θのときの試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をacosθとしてもよい。
【0009】
本発明によれば、試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させることで、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0010】
(2)本発明に係る電子顕微鏡では、
前記三次元像構築手段は、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築するようにしてもよい。
【0011】
本発明において、取得した透過電子顕微鏡像の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、取得した傾斜角度θ毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度θに応じて傾斜軸に垂直な方向の幅acosθでトリミングするようにしてもよい。
【0012】
本発明によれば、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0013】
(3)本発明に係る電子顕微鏡では、
前記像取得手段は、
試料上を走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得するようにしてもよい。
【0014】
本発明において、傾斜角度0°のときの電子線の走査領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、傾斜角度θのときの電子線の走査領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をacosθとしてもよい。
【0015】
本発明によれば、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0016】
(4)本発明に係る電子顕微鏡では、
前記像取得手段は、
各傾斜角度において、対物レンズの焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を取得し、
前記三次元像構築手段は、
各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成するようにしてもよい。
【0017】
本発明によれば、ほぼ全ての領域で焦点の合った過電子顕微鏡像を傾斜角度毎に取得することができ、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0018】
(5)本発明に係る三次元像構築方法は、
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜工程と、
前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度において得られる透過電子顕微鏡像を取得する像取得工程と、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築工程とを含み、
試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる。
【0019】
本発明において、透過電子顕微鏡像は、TEM像でもよいし、STEM像(走査透過電子顕微鏡像)でもよい。
【0020】
また本発明において、傾斜角度0°のときの三次元像の構築(断面像の再構成)に用いる透過電子顕微鏡像の領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、傾斜角度θのときの試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をacosθとしてもよい。
【0021】
本発明によれば、試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させることで、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0022】
(6)本発明に係る三次元像構築方法では、
前記三次元像構築工程において、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築するようにしてもよい。
【0023】
本発明において、取得した透過電子顕微鏡像の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、取得した傾斜角度θ毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度θに応じて傾斜軸に垂直な方向の幅acosθでトリミングするようにしてもよい。
【0024】
本発明によれば、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0025】
(7)本発明に係る三次元像構築方法では、
前記像取得工程において、
試料上を走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得するようにしてもよい。
【0026】
本発明において、傾斜角度0°のときの電子線の走査領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をaとすると、傾斜角度θのときの電子線の走査領域の傾斜軸に垂直な方向の幅をacosθとしてもよい。
【0027】
本発明によれば、本来再構成すべき領域のみを再構成に用いて三次元像を構築することが可能となり、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【0028】
(8)本発明に係る三次元像構築方法では、
前記像取得工程において、
各傾斜角度において、対物レンズの焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を取得し、
前記三次元像構築工程において、
各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成するようにしてもよい。
【0029】
本発明によれば、ほぼ全ての領域で焦点の合った過電子顕微鏡像を傾斜角度毎に取得することができ、CT法によって得られる三次元像の画質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係る電子顕微鏡の構成の一例を示す図。
【図2】電子線が試料を透過している様子を示す模式図と、透過像を示す図。
【図3】電子線が試料を透過している様子を示す模式図と、透過像を示す図。
【図4】傾斜角度に対するb/aのグラフを示す図。
【図5】本実施形態の第1の手法について説明するための図。
【図6】本実施形態の第1の手法で得られた透過像の一例を示す図。
【図7】従来の手法で得られた再構成断面像と、本実施形態の第1の手法で得られた再構成断面像を示す図。
【図8】本実施形態の第2の手法について説明するための図。
【図9】電子線が試料を透過している様子を示す模式図と、透過像を示す図。
【図10】合焦点透過像を取得する手法について説明するための図。
【図11】合焦点透過像を取得する手法について説明するための図。
【図12】傾斜角度60°のときに取得されたTEM像を示す図。
【図13】本実施形態の手法により生成した合焦点透過像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0032】
1.構成
図1に、本実施形態に係る電子顕微鏡の構成の一例を示す。ここでは、電子顕微鏡が、透過型電子顕微鏡(TEM)の構成を有する場合について説明するが、電子顕微鏡は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有していてもよい。なお本実施形態の、電子顕微鏡は図1の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。
【0033】
図1に示すように、電子顕微鏡100は、電子線源1と、照射レンズ系2と、偏向器4と、試料Sを保持するステージ6と、ステージ制御装置7と、対物レンズ8と、対物レンズ制御部9と、投影レンズ10と、検出器12と、鏡筒14と、処理部20と、操作部30と、表示部32と、記憶部34と、情報記憶媒体36とを含んでいる。
【0034】
電子線源1、照射レンズ系2と、偏向器4、ステージ6、対物レンズ8、投影レンズ10、検出器12は、鏡筒14の内部に収容されている。鏡筒14の内部は、排気装置(図示省略)によって減圧排気されている。
【0035】
電子線源1は、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する。電子線源1の例として、公知の電子銃を挙げることができる。
【0036】
照射レンズ系2は、電子線源1の後段に配置されている。照射レンズ系2は、複数の集束レンズ(図示省略)で構成されている。照射レンズ系2は、試料Sに照射される電子線(入射電子線)の量を調整する。
【0037】
偏向器4は、照射レンズ系2の後段に配置されている。偏向器4は、複数の偏向コイルと、当該複数の偏向コイルに流れる電流量を制御するための電流制御部(図示省略)とを有する。偏向器4は、電流制御部で各偏向コイルに流れる電流を制御することにより入射電子線を二次元的に偏向させる。これにより、試料Sに対する入射電子線の入射角度を変えることができるため、透過波の光路および散乱波の光路を変えることができる。偏向器4により、入射電子線を対物レンズ8の光軸に一致させるための軸合わせを行うことができる。
【0038】
ステージ6は、試料Sを偏向器4の後段に位置させるように保持している。ステージ6は、ステージ制御装置7により制御され、試料Sを水平方向や垂直方向に移動させ、また試料Sを回転、傾斜させる。ステージ4は、光軸OAに直交する傾斜軸TAを中心として左右に傾斜可能に構成されている。
【0039】
対物レンズ8は、試料Sの後段に配置されている。対物レンズ8は、対物レンズ制御装置9により制御され、試料Sを透過した電子線を結像させる。投影レンズ10は、対物レンズ8の後段に配置されている。投影レンズ10は、対物レンズ8によって結像された像をさらに拡大し、検出器12上に結像させる。
【0040】
検出器12は、投影レンズ10の後段に配置されている。検出器12は、投影レンズ10によって結像された透過電子顕微鏡像を検出する。検出器12の例として、二次元的に配置されたCCD(Charge Coupled Device)で形成された受光面を有するCCDカメラを挙げることができる。検出器12が検出した透過電子顕微鏡像の像情報は、処理部20に出力される。
【0041】
操作部20は、ユーザが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部20に出力する。操作部20の機能は、キーボード、マウス、タッチパネル型ディスプレイなどのハードウェアにより実現することができる。
【0042】
表示部32は、処理部20によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部32は、処理部20により生成された、透過電子顕微鏡像や、再構成断面像、三次元像を表示する。
【0043】
記憶部34は、処理部20のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。情報記憶媒体36(コンピュータにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、或いはメモリ(ROM)などにより実現できる。処理部20は、情報記憶媒体36に格納されるプログラムに基づいて本実施形態の種々の処理を行う。情報記憶媒体36には、処理部20の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記憶することができる。
【0044】
処理部20は、ステージ制御装置7、対物レンズ制御装置9等を制御する処理や、透過電子顕微鏡像を取得する処理、試料の三次元像を構築する処理などの処理を行う。処理部20の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部20は、制御信号生成部22と、像取得部24と、三次元像構築部26とを含む。
【0045】
制御信号生成部22は、各種制御信号を生成してステージ制御装置7や対物レンズ制御装置9に出力する。例えば、制御信号生成部22は、ステージ6(試料S)を複数段階に傾斜させるための制御信号を生成してステージ制御装置7に出力する。すなわち、本発明の試料傾斜手段は、ステージ6とステージ制御装置7と制御信号生成部22により構成される。また、制御信号生成部22は、対物レンズ8の焦点位置を変化させるための制御信号を生成して対物レンズ制御装置9に出力する。
【0046】
また、電子顕微鏡100が走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有する場合には、制御信号生成部22は、電子線の試料S上での走査を行うための走査コイルを制御する走査コイル制御装置に制御信号を出力する。また、制御信号生成部22は、試料S上を走査する電子線の走査領域の幅を、ステージ6(試料S)の傾斜角度に応じて傾斜軸TAに垂直な方向に変化させるための制御信号を生成して走査コイル制御装置に出力するようにしてもよい。
【0047】
像取得部24は、検出器12から出力された像情報を取り込むことで透過電子顕微鏡像(TEM像或いはSTEM像)を取得する処理を行う。像取得部24は、ステージ6(試料S)が各傾斜角度に設定されたときに得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得する。例えば、像取得部24は、ステージ6(試料S)が−60°から+60°まで1°ステップで121段階に傾斜されたときに得られる121枚の透過電子顕微鏡像を取得する。
【0048】
三次元像構築部26は、像取得部24によって取得された傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築するための処理を行う。具体的には、三次元像構築部26は、傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像から断面像を再構成し、得られた断面像のシリーズを重ね合わせることで三次元像を構築する。
【0049】
また、三次元像構築部26は、取得された傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸TAに垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき三次元像を構築するようにしてもよい。
【0050】
また、電子顕微鏡100が走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有する場合には、像取得部24は、試料Sを走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸TAに垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像(STEM像)を取得し、三次元像構築部26は、このように取得された傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築するようにしてもよい。
【0051】
また、像取得部24は、対物レンズ8の焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を、ステージ6(試料S)が各傾斜角度に設定される度に取得し、三次元像構築部26は、各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成し、生成した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき三次元像を構築するようにしてもよい。
【0052】
2.本実施形態の手法
次に本実施形態の手法について図面を用いて説明する。
【0053】
2−1.トリミング幅を変化させる手法(第1の手法)
図2(A)は、試料S(ステージ6)の傾斜軸TA周りの傾斜角度が0°に設定された場合に、電子線が試料Sを透過している様子を示す模式図であり、図2(B)は、このときに取得される透過像(透過電子顕微鏡像)を示す図である。同図では、試料Sは試料断面を表しており、上から下に向けて電子線が試料断面に入射している。
【0054】
同図のaは、電子線の照射領域の幅(傾斜軸TAに垂直な方向の幅)及び取得される透過像TIの幅(傾斜軸TAに垂直な方向の幅)を示している。また、同図のbは、三次元像の構築(断面像の再構成)に用いられる透過像の領域の幅(傾斜軸TAに垂直な方向の幅)を示している。試料Sの傾斜角度が0°である場合には、電子線の照射領域の幅(及び透過像の幅)aと、三次元像の構築に用いられる領域(再構成可能領域)の幅bは一致している。
【0055】
図3(A)は、図2(A)の試料Sの傾斜角度が高傾斜に設定された場合の模式図であり、図3(B)は、このときに取得される透過像を示す図である。
【0056】
図3(A)に示すように、電子線の照射領域(及び透過像)の傾斜軸TAに垂直な方向の幅aは、試料Sの傾斜角度θによらず一定であるが、再構成可能領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅bは、傾斜角度θが大きくなるほど小さくなる。ここで、再構成可能領域の幅bは、
b=a×cosθ
で表すことができる。
【0057】
図4は、傾斜角度θに対するb/aのグラフである。例えば、傾斜角度θが60°のときの、再構成可能領域の傾斜軸に垂直な方向の幅bは、
b=0.5×a
となり、傾斜角度θが0°のときの半分となる。すなわち、三次元像の構築に必要な透過像の領域(再構成可能領域)は、透過像TIの傾斜軸TAに平行な方向の幅をcとすると、acosθ×cとなる。
【0058】
本実施形態の第1の手法では、図5(A)に示すように、取得した傾斜角度θ毎の一連の透過像のそれぞれを、傾斜軸TAに垂直な方向に、再構成可能領域の幅b(=acosθ)でトリミングする処理(切り出し処理)を行う。なお、傾斜角度θが0°の場合には、acosθ=aとなるため、トリミングは行わない。
【0059】
また、本実施形態の第1の手法では、図5(B)に示すように、透過像TIにおける切り出した領域以外の領域CA(切り取った領域)に、切り出し処理を行う前の透過像の輝度の平均値を画素値として有する平均値画像AIを足し合わせて、切り出し処理を行う前の透過像TIと同一サイズの画像CIを生成する。そして、切り出し処理と平均値画像AIの足し合わせ処理を行った傾斜角度θ毎の透過像CIに基づいて、断面像の再構成と三次元像の構築処理を行う。
【0060】
図6(A)〜図6(C)は、本実施形態の第1の手法で得られた透過像の一例である。ここでは、試料Sとして、汎用的な高分子材料の1つである、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン重合合成樹脂(ABS樹脂)を用いた。まず、ABS樹脂からウルトラミクロトームを用いて1μm厚みの試料切片を切り出し、TEM・STEM観察用銅製のグリッドの上に乗せた。その後、四酸化オスミウム溶液の蒸気により、ポリブタジエン(PB)相を金属染色させ、STEMを用いて染色した試料のSTEM像を得た。
【0061】
図6(A)は、傾斜角度0°のときに取得されたSTEM像であり、図6(B)は、傾斜角度60°のときに取得されたSTEM像である。また、図6(C)は、図6(B)のSTEM像に対して、切り出し処理と平均値画像AIの足し合わせ処理を施した画像である。各図中の破線の領域は、再構成可能領域を示す。
【0062】
図6(B)に示すように、再構成可能領域外に、極端に輝度の低い異物AF(アーティファクト)があると、再構成断面像と三次元像に影響を及ぼす恐れがある。そこで、本実施形態の第1の手法では、図6(C)に示すように、再構成可能領域以外の領域を切り取り、切り取った領域に平均値画像AIを足し合わせることで、再構成可能領域外に存在する異物ATによる影響を排除している。
【0063】
図7(A)は、従来の手法(取得した透過像をそのまま用いて断面像を再構成する手法)で得られた再構成断面像であり、図7(B)は、本実施形態の第1の手法で得られた再構成断面像である。図7(A)の断面像には、図6(B)の異物ATに由来する虚像が現れていることが分かる。一方、図7(B)の断面像では、本実施形態の手法により異物部分が切り取られているため虚像が現れず、分解能の高い像が取得できている。
【0064】
このように、本実施形態の手法によれば、取得した傾斜角度θ毎の透過像から断面像の再構成及び三次元像の構築に必要な部分だけを切り出して断面像の再構成及び三次元像の構築を行うことで、分解能の高い再構成断面像及び三次元像を得ることができる。
【0065】
2−2.電子線走査領域を変化させる手法(第2の手法)
本実施形態の第2の手法は、電子顕微鏡100が走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有する場合に適用可能な手法である。
【0066】
本実施形態の第2の手法では、取得した傾斜角度θ毎の透過像を再構成可能領域の幅bでトリミングすることに代えて、試料上Sを走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度θに応じて変化させることで、再構成可能領域に含まれる透過像のみを取得する。
【0067】
すなわち、図8(A)に示すように、電子線の走査領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅を、再構成可能領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅b(=acosθ)とすることで、傾斜軸TAに垂直な方向の幅がbである傾斜角度θ毎の一連の透過像TIを取得する。
【0068】
本実施形態の第2の手法によっても、第1の手法と同様に、再構成可能領域外に存在する異物による影響を排除して分解能の高い再構成断面像及び三次元像を得ることができる。また、第2の手法によれば、試料の傾斜角度θが大きくなるほど、走査領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅が小さくなるため、傾斜角度θの大きな透過像の画像取得時間(露光時間、走査時間)を短縮することができ、一連の透過像を取得するための全体としての画像取得時間も短縮することができる。
【0069】
なお、再構成可能領域以外の範囲も用いて傾斜角度θ毎の一連の透過像の位置合わせ(アライメント)を行う場合には、図8(B)に示すように、まず、短い露光時間で、走査領域の幅を傾斜角度が0°のときの走査領域の幅aとすることで、傾斜軸TAに垂直な方向の幅がaである第1の透過像TI1を取得する。次に、長い露光時間(必要な露光時間)で、走査領域の幅を再構成可能領域の幅bとすることで、傾斜軸TAに垂直な方向の幅がbである第2の透過像TI2を取得する。そして、第1の透過像TI1に第2の透過像TI2に重ね合わせることで傾斜角度θにおける透過像TIを取得する。このようにしても、一連の透過像の画像取得時間を短縮することができる。
【0070】
2−3.合焦点透過像の取得
図9(A)、図9(B)に示すように、試料Sをθだけ傾斜させたとき、被写界深度をf(単位:nm)とすると、取得される透過像TIにおいて、焦点(フォーカス)が合っている合焦点領域の傾斜軸TAに垂直な方向の幅w(単位:ピクセル)は、
w=f/(p×tanθ)
と表すことができる。ここでpは、1ピクセルの大きさ(単位:nm)である。
【0071】
図9(B)の透過像TIにおいて、合焦点領域w以外の左右の領域は、アンダーフォーカス又はオーバーフォーカス領域となる。
【0072】
本実施形態では、各傾斜角度において、対物レンズ8の焦点位置を変化させて得られる複数の透過像を取得し、各傾斜角度に対応する複数の透過像のそれぞれから焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで、ほぼ全ての領域で焦点のあった傾斜角度毎の透過像を生成する。
【0073】
具体的には、図10に示すように、傾斜角度θにおいて、対物レンズ8の焦点位置を変化させて、合焦点領域wを互いにΔwだけ重なり合うように(オーバーラップするように)ずらしながら複数の透過像を取得する。
【0074】
そして、図11に示すように、合焦点領域をずらしながら取得した傾斜角度θに対応する複数の透過像(同図では、透過像A〜D)のそれぞれから、合焦点領域wを切り出す(抽出する)処理を行う。次に、切り出した複数の画像について、互いに重なりあう領域Δwで画像の相関をとって位置合わせを行い、位置合わせを行った複数の画像を重ね合わせる(合成する)ことで、傾斜角度θに対応する透過像TIを生成する。
【0075】
このようにすると、試料Sを高傾斜させた場合であっても、ほぼ全ての領域で焦点のあった透過像(合焦点透過像)を得ることができ、合焦点透過像を用いて断面像の再構成及び三次元像の構築を行うことで、分解能の高い再構成断面像及び三次元像を得ることができる。例えば、本実施形態の第1の手法により三次元像を構築する場合には、傾斜角度θ毎の合焦点透過像に対して、再構成可能領域の幅bで切り出す処理と、平均値画像AIの足し合わせ処理とを施すようにすればよい。
【0076】
なお、STEMについては、傾斜軸に平行な方向の走査ライン毎にフォーカスを合わせるダイナミックフォーカス法が既に提案されているが、TEMについては、ダイナミックフォーカス法に相当する手法は提案されていない。本実施形態の合焦点透過像を取得する手法は、TEMに適用することが可能である点で有効な手法である。
【0077】
図12は、傾斜角度60°のときに取得されたTEM像である。ここでは、図6(A)〜図6(C)の例と同様に、試料Sとして金属染色させたABS樹脂を用いている。図12のTEM像において、微小な黒色の像は金粒子の像である。図12を見ると、合焦点領域w以外の領域(合焦点領域wの上下の領域)では、金粒子の像がぼけていることがわかる。
【0078】
図13は、本実施形態の手法により、傾斜角度60°のときに合焦点領域wをずらしながら複数の透過像を取得し、複数の透過像から切り出した合焦点領域wの画像をΔwの領域で位置合わせを行って合成した透過像である。図13を見ると、図12のTEM像とは異なり、透過像の全領域に渡って焦点が合っていることがわかる。
【0079】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0080】
1 電子線源、2 照射レンズ系、4 偏向器、6 ステージ、7 ステージ制御装置、8 対物レンズ、9 対物レンズ制御装置、10 投影レンズ、12 検出器、14 鏡筒、20 処理部、22 制御信号生成部、24 像取得部、26 三次元像構築部、30 操作部、32 表示部、34 記憶部、36 情報記憶媒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜手段と、
前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度において得られる透過電子顕微鏡像を取得する像取得手段と、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築手段とを含み、
試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる、電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記三次元像構築手段は、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する、電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1において、
前記像取得手段は、
試料上を走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得する、電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記像取得手段は、
各傾斜角度において、対物レンズの焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を取得し、
前記三次元像構築手段は、
各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成する、電子顕微鏡。
【請求項5】
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜工程と、
前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度において得られる透過電子顕微鏡像を取得する像取得工程と、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築工程とを含み、
試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる、三次元像構築方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記三次元像構築工程において、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する、三次元像構築方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記像取得工程において、
試料上を走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得する、三次元像構築方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかにおいて、
前記像取得工程において、
各傾斜角度において、対物レンズの焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を取得し、
前記三次元像構築工程において、
各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成する、三次元像構築方法。
【請求項1】
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜手段と、
前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度において得られる透過電子顕微鏡像を取得する像取得手段と、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築手段とを含み、
試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる、電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記三次元像構築手段は、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する、電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1において、
前記像取得手段は、
試料上を走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得する、電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記像取得手段は、
各傾斜角度において、対物レンズの焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を取得し、
前記三次元像構築手段は、
各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成する、電子顕微鏡。
【請求項5】
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜工程と、
前記試料傾斜手段によって設定された各傾斜角度において得られる透過電子顕微鏡像を取得する像取得工程と、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する三次元像構築工程とを含み、
試料の三次元像の構築に用いる透過電子顕微鏡像の領域の幅を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させる、三次元像構築方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記三次元像構築工程において、
取得した傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させた幅でトリミングし、トリミングした傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像に基づき試料の三次元像を構築する、三次元像構築方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記像取得工程において、
試料上を走査する電子線の走査領域の幅を傾斜角度に応じて傾斜軸に垂直な方向に変化させて得られる傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を取得する、三次元像構築方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかにおいて、
前記像取得工程において、
各傾斜角度において、対物レンズの焦点位置を変化させて得られる複数の透過電子顕微鏡像を取得し、
前記三次元像構築工程において、
各傾斜角度に対応する複数の透過電子顕微鏡像から焦点の合っている領域を抽出して組み合わせることで傾斜角度毎の透過電子顕微鏡像を生成する、三次元像構築方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−204041(P2012−204041A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65445(P2011−65445)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]