説明

電子顕微鏡

【課題】 モノクロメータのオンオフを、取得データの劣化を押さえ、信頼性の低下を伴うことなく速やかに行う電子顕微鏡を実現する。
【解決手段】 モノクロメータ12のオンオフ動作を、電源のオンオフ動作を繰り返し行うことなく、駆動電圧源36の出力電圧調整および3端子スイッチ41の切り換え動作のみで行うこととしているので、電源のオンオフに伴う出力電圧の安定化までの時間を設けること無く、確実で信頼性の高いモノクロメータ12のオンオフ動作を行うことを実現させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ウイーンフィルタを有するモノクロメータにより、電子ビームのエネルギーを単色化する電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡を用いて取得される顕微鏡像等の取得データを改善することを目的として、電子ビームを発生する電界放出型電子銃(以下、電子銃と称する)の直下に電子ビームのエネルギーフィルタであるモノクロメータが装着される。このモノクロメータは、電子銃から射出される電子ビームから、特定のエネルギーを有するもののみを選択する単色化を行い、エネルギー分解能の向上を計る(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、この電子ビームの単色化により、モノクロメータの有する収差に起因する試料上の電子ビームサイズの拡大、さらに電子銃が射出する電子ビームの中から抽出されることに起因する電流量の減少が生じる。これにより、電子ビームの単色化により、エネルギー分解能を省いた取得データの特性は劣化する。
【0004】
これらのことから、モノクロメータは、撮像目的に応じてオンオフされ、オペレータにとって最適な取得データの取得が計られる。ここで、モノクロメータの動作をオンオフする手段として、
(1)モノクロメータの電子ビーム出力部分に存在するスリットを開閉する。
(2)モノクロメータを動作させるフィルタ電源の出力を可変にする。
(3)モノクロメータを装着する電子顕微鏡の接地端子にモノクロメータの電源入力 部をオンオフ接続する。
等のことが行われる。
【特許文献1】特開平11―135047号公報、(第1頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記背景技術によれば、取得データの劣化、電源回路の破壊による電子顕微鏡の信頼性の低下およびモノクロメータのオンオフを行う切り替え時間の長時間化が生じる。すなわち、(1)のスリットを開閉する場合には、単色化を行わないスリットの開放時に、モノクロメータの収差がそのまま電子ビームに反映され、試料に照射される電子ビームサイズの拡大が生じ、取得データの劣化を引き起こす。
【0006】
また、(2)のフィルタ電源の出力を可変にする場合には、モノクロメータの入力電圧あるいは電流を概ねを零にすることができる。しかし、この電源出力は、若干の不安定さを有するものであり、しかも直接キャパシタあるいはコイルに接続されるものなので、電子ビームのフィルタリングに直接的な影響を与え、取得データの劣化を引き起こす。
【0007】
また、(3)のモノクロメータの電源入力部を電子顕微鏡の接地端子と直接オンオフ接続する場合には、単色化を行う際のモノクロメータ電源出力が、数十万ボルトの電子ビーム加速電圧に重畳されたものなので、モノクロメータをオフする際には、この電位差を短絡することになる。この短絡により、放電等の突入電流が生じ、電子機器を破壊することも生じる。
【0008】
さらに、この短絡による突入電流を防止するために、電子ビーム加速電圧を接地電圧まで減少させ、その後で短絡することもできる。しかし、電子ビーム加速電圧の昇降は、電圧の安定性を考慮すると、数時間を要するものであり、実用的な手段とは言えない。
【0009】
また、上述したモノクロメータのオンオフ時には、モノクロメータ内で磁場の形成に係わる磁性体のヒステリシスに起因する、残留磁場が発生する。この残留磁場は、モノクロメータの収差を大きなものとし、試料に照射される電子ビームサイズを拡大させ、取得データの劣化を引き起こす。
【0010】
これらのことから、モノクロメータのオンオフを、取得データの劣化を押さえ、信頼性の低下を伴うことなく速やかに行う電子顕微鏡をいかに実現するかが重要となる。
この発明は、上述した背景技術による課題を解決するためになされたものであり、モノクロメータのオンオフを、取得データの劣化を押さえ、信頼性の低下を伴うことなく速やかに行う電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の発明にかかる電子顕微鏡は、電子ビームを発生する電子銃と、前記電子ビームのエネルギーを単色化するウイーンフィルタを有するモノクロメータと、前記モノクロメータの前記ウイーンフィルタが内蔵される筐体を電気的に安定させ、かつ前記電子ビームを加速する筐体電圧を発生するモノクロメータ電源と、前記筐体電圧を接地電位として、前記ウイーンフィルタに出力される駆動電圧および駆動電流を発生する出力可変のフィルタ電源と、前記モノクロメータ電源あるいは前記フィルタ電源の出力と前記ウイーンフィルタとを電気的に切り換え接続する電源切換手段と、前記電子ビームを単色化しない際に、前記駆動電圧の出力を概ね零ボルトとし、前記モノクロメータ電源の出力および前記ウイーンフィルタを電気的に接続する制御部と、を備える。
【0012】
この請求項1に記載の発明では、電源切換手段により、モノクロメータ電源あるいはフィルタ電源の出力とウイーンフィルタとを電気的に切り換え接続し、制御部は、電子ビームを単色化しない際に、駆動電圧の出力を概ね零ボルトとし、モノクロメータ電源の出力およびウイーンフィルタを電気的に接続する。
【0013】
また、請求項2に記載の発明にかかる電子顕微鏡は、請求項1に記載の発明において、前記電源切換手段が、前記モノクロメータ電源、前記フィルタ電源および前記ウイーンフィルタの3つの入出力端子が電気的に各端子と接続される3端子スイッチを備えることを特徴とする。
【0014】
この請求項2に記載の発明では、電源切換手段は、3端子スイッチの各端子と、モノクロメータ電源、フィルタ電源およびウイーンフィルタの3つの入出力端子とが電気的に接続される。
【0015】
また、請求項3に記載の発明にかかる電子顕微鏡は、請求項1に記載の発明において、前記電源切換手段が、前記フィルタ電源および前記ウイーンフィルタを電気的に接続する電源ライン、並びに、前記モノクロメータ電源の入出力端子が電気的に各端子と接続される2端子スイッチを備えることを特徴とする。
【0016】
この請求項3に記載の発明では、電源切換手段は、2端子スイッチの各端子と、フィルタ電源およびウイーンフィルタを電気的に接続する電源ライン、並びに、モノクロメータ電源の入出力端子とが電気的に接続される。
【0017】
また、請求項4に記載の発明にかかる電子顕微鏡は、請求項2あるいは3に記載の発明において、前記フィルタ電源が、前記駆動電圧の出力端子に電気抵抗を備えることを特徴とする。
【0018】
この請求項4に記載の発明では、フィルタ電源は、電気抵抗を、駆動電圧の出力端子に有する。
また、請求項5に記載の発明にかかる電子顕微鏡は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の発明において、前記フィルタ電源が、前記駆動電流の出力端子と電気的に接続され、AC電流を重畳するAC電流源を備えることを特徴とする。
【0019】
この請求項5に記載の発明では、フィルタ電源は、AC電流源を、駆動電流の出力端子と電気的に接続し、AC電流を重畳する。
また、請求項6に記載の発明にかかる電子顕微鏡は、請求項5に記載の発明において、前記制御部が、前記フィルタ電源から出力される駆動電流の大きさを変更する際に、前記変更の直後に前記AC電流を重畳することを特徴とする。
【0020】
この請求項6に記載の発明では、制御部は、フィルタ電源から出力される駆動電流の大きさを変更する際に、この変更の直後にAC電流を重畳する。
また、請求項7に記載の発明にかかる電子顕微鏡は、請求項5または6に記載の発明において、前記制御部が、前記電子ビームを単色化しない際に、前記駆動電流の出力を概ね零アンペアとし、前記AC電流を前記出力に重畳の後に、前記モノクロメータ電源の出力および前記ウイーンフィルタを電気的に接続することを特徴とする。
【0021】
この請求項7に記載の発明では、制御部は、電子ビームを単色化しない際に、駆動電流の出力を概ね零アンペアとし、AC電流をこの出力に重畳の後に、モノクロメータ電源の出力およびウイーンフィルタを電気的に接続する。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、請求項1に記載の発明によれば、電源切換手段により、モノクロメータ電源あるいはフィルタ電源の出力とウイーンフィルタとを電気的に切り換え接続し、制御部は、電子ビームを単色化しない際に、駆動電圧の出力を概ね零ボルトとし、モノクロメータ電源の出力およびウイーンフィルタを電気的に接続することとしているので、ウイーンフィルタを確実にオフ状態として取得データの劣化を押さえ、フィルタ電源およびモノクロメータ電源、さらには電子ビーム加速電源のオンオフを行うことなく、速やかにモノクロメータのオンオフを行うことができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、電源切換手段は、3端子スイッチの各端子と、モノクロメータ電源、フィルタ電源およびウイーンフィルタの3つの入出力端子とが電気的に接続されることとしているので、2つの電源出力端子とウイーンフィルタとの接続を確実に切り換えることができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、電源切換手段は、2端子スイッチの各端子と、フィルタ電源およびウイーンフィルタを電気的に接続する電源ライン、並びに、モノクロメータ電源の入出力端子とが電気的に接続されることとしているので、2つの電源出力端子とウイーンフィルタとの接続を、簡易な構成で確実に切り換えることができる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、フィルタ電源は、電気抵抗を、駆動電圧の出力端子に有することとしているので、電源の切り換え時に生じる突入電流を小さなものにすることができる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、フィルタ電源は、AC電流源を、駆動電流の出力端子と電気的に接続し、AC電流を重畳することとしているので、ウイーンフィルタ内の磁性体に存在する残留磁化を抹消し、モノクロメータの収差を減少させ、ひいては取得データの劣化を押さえることができる。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、制御部は、フィルタ電源から出力される駆動電流の大きさを変更する際に、この変更の直後にAC電流を重畳することとしているので、駆動電流の変更ごとに磁性体を残留磁化の存在しない初期状態とすることができる。
【0028】
請求項7に記載の発明によれば、制御部は、電子ビームを単色化しない際に、駆動電流の出力を概ね零アンペアとし、AC電流をこの出力に重畳の後に、モノクロメータ電源の出力およびウイーンフィルタを電気的に接続することとしているので、モノクロメータのオフ状態を残留磁化の存在しない初期状態とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる電子顕微鏡を実施するための最良の形態について説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
まず、本実施の形態1にかかる電子顕微鏡の全体構成について説明する。図1は、本実施の形態1にかかる電子顕微鏡の一例である透過型電子顕微鏡9の全体構成を示すブロック図である。透過型電子顕微鏡9は、鏡筒部10の内部に電子銃11、モノクロメータ12、集束レンズ13、試料14、拡大レンズ15および蛍光板16を含み、鏡筒部10の壁面には、蛍光板16の画像を観察するのぞき窓17、鏡筒部10の外部に電源部20、ドライブ部21、制御部22および入力部23を含む。ここで、鏡筒部10の内部は、高真空に保たれており、鏡筒部10の内部に存在する残留ガスにより、後述する電子ビーム1が散乱されることを防止している。なお、鏡筒部10には、図示しない真空ポンプが接続されている。
【0030】
電子銃11は、加熱されたフィラメントから放出される電子を陽極と電子銃間にかかる電圧で加速し、試料14に照射する電子ビーム1を生成する。モノクロメータ12は、電子ビーム1に含まれる電子から、単一の電子エネルギーを有するもののみを抽出する単色化を行う。なお、モノクロメータ12は、後述する制御により、単色化がオンオフされる。
【0031】
集束レンズ13は、モノクロメータ12から射出された電子ビーム1を、一様なビームとして試料14に照射する。ここで、集束レンズ13は、複数のレンズにより構成され、収差の少ないものとされる。
【0032】
拡大レンズ15は、試料14を透過した電子ビーム1を拡大し、蛍光板16上に投影する。拡大レンズ15は、対物レンズ、複数の中間レンズおよび投影レンズ等により構成されている。そして、これらレンズには、電流を供給し、電子ビーム1の磁界を励起するドライブ部21およびドライブ部21による励磁を制御する制御部22が接続されており、蛍光板16上に投影される像の倍率が変更される。
【0033】
蛍光板16は、電子ビーム1の強度に比例する蛍光を発し、試料14の透過像を形成する。そして、オペレータは、例えば、鏡筒部10の側面に位置するのぞき窓17から蛍光板16上の透過像を観察する。また、透過像を記録する際には、蛍光板16の下に配設される乾板等が用いられる。
【0034】
電源部20は、電子銃11およびモノクロメータ12に電圧および電流を供給する電源である。なお、電源部20の詳細については、後述する。
制御部22は、電源部20およびドライブ部21を制御して、電子銃11およびモノクロメータ12のオンオフ、並びに、蛍光板16上の透過像の拡大率等の設定を行う。
【0035】
入力部23は、キーボード等からなり、制御部22への設定値情報の入力を行う。ここで、設定値情報は、モノクロメータ12のオンオフ情報、蛍光板16上に投影される拡大率情報等を含む。
【0036】
図2は、電子銃11、モノクロメータ12および電源部20の詳細を示すブロック部である。電子銃11は、フィラメント51、グリッド52およびアノード53を有し、フィラメント51は熱電子を放出し、グリッド52は電子線量のコントロール等を行い、アノード53は電子線の加速を行う。
【0037】
モノクロメータ12は、筐体47、ウイーンフィルタ43およびスリット46を有する。筐体47は、電気的な導体からなるウイーンフィルタ43およびスリット46を内蔵する容器で、通過する電子ビーム1の電位を安定させ、ひいてはウイーンフィルタ43の動作を安定させる。
【0038】
ウイーンフィルタ43は、電子ビーム1のエネルギーフィルタで、電子ビーム1から単一エネルギーの電子のみを抽出する。図3は、ウイーンフィルタ43の構成を示す図である。ウイーンフィルタ43は、電子ビーム1の進行方向と直交する面内で、互いに直交する静電場Eおよび静磁場Bを形成する。この静電場Eは、電極板44間に電圧を印加することにより形成され、また静磁場Bは、磁性体45に巻かれたコイルに電流を流すことにより形成される。
【0039】
なお、ウイーンフィルタ43では、目的とする単一エネルギーを有する電子は、電子に作用する静電場Eによる静電気力および静磁場Bによるローレンツ力が等しくなり、ウイーンフィルタ43内を直進し、目的としないエネルギーを有する電子は、ウイーンフィルタ43内で曲線軌道を描き、進行方向に向かって扇型に拡がる電子ビームを形成する。
【0040】
図2に戻り、スリット46は、ウイーンフィルタ43を通過した扇型に拡がる電子ビーム1の中心部分のみを選択的に透過させる。これにより、単一エネルギーの電子ビームのみが、電子ビーム1から抽出される。なお、スリット46は、単一エネルギーの電子ビーム1が通過する開口部の広さを、開口部調節機構により変化させる。
【0041】
電源部20は、加速電源31、電子銃電源32、モノクロメータ電源33、スリット電源34、フィルタ電源35および電源切換手段40を含む。加速電源31は、電子銃11で発生された電子を加速するための電源で、数十万ボルト程度の電圧を有し、鏡筒部10の接地端子に対して負の電圧を発生する。
【0042】
電子銃電源32は、加速電源31の出力電圧を接地電位として、電子銃11で必要とされる電圧および電流を形成する。これら電源としては、電子銃11のフィラメント51に供給するフィラメント電流、グリッド52に供給するバイアス電圧、アノード53に供給するアノード電圧が含まれる。
【0043】
モノクロメータ電源33は、加速電源31の出力電圧を接地電位として、モノクロメータ12で必要とされる筐体電圧を形成する。この筐体電圧は、筐体の接地電位に対して数キロボルトの正電圧を有し、モノクロメータ12の筐体47と電気的に接続される。
【0044】
フィルタ電源35は、モノクロメータ電源33の出力電圧を接地電位として、ウイーンフィルタ43の電極板44および磁性体45に巻かれたコイルで必要とされる電圧および電流を形成する。フィルタ電源35は、駆動電圧源36および駆動電流源37を有する。駆動電圧源36は、電極板44の供給される1キロボルト程度の電圧を形成する。駆動電流源37は、磁性体45のコイルに供給される数百ミリアンペア程度の電流を形成する。なお、駆動電圧源36は、出力電圧が可変となっており、零ボルトから1キロボルト程度までの出力電圧を、制御部22からの指示により設定することができ、また、駆動電流源37は、出力電流が可変となっており、零アンペアから数百ミリアンペア程度までの出力電流を、制御部22からの指示により設定することができる。
【0045】
電源切換手段40は、3端子スイッチ41および42を有する。3端子スイッチ41は、1つの共接続端子および2つの切り換え端子からなり、共接続端子は、電極板44の一方の電極に接続され、切り換え端子の一方の端子は、駆動電圧源36の出力端子、そして切り換え端子のもう一方の端子は、モノクロメータ電源33の出力端子に接続される。なお、電極板44のもう一方の電極板は、筐体47と同電位にされる。
【0046】
3端子スイッチ42は、3端子スイッチ41と同様の接点構成からなり、共接続端子は、磁性体45に巻かれるコイルの一方の端子に接続され、切り換え端子の一方の端子は、駆動電流源37の出力端子に接続され、そして切り換え端子のもう一方の端子は、モノクロメータ電源33の出力端子に接続される。ここで、3端子スイッチ41および42は、制御部22からの同一の指示信号により、接続端子の切り換えを同期して行う。
【0047】
つづいて、本実施の形態1にかかる透過型電子顕微鏡9の動作について説明する。図4は、透過型電子顕微鏡9の動作を示すフローチャートである。まず、オペレータは、透過型電子顕微鏡9の電源を入力する(ステップS400)。この入力により、電源部20を構成する加速電源31、電子銃電源32、モノクロメータ電源33、フィルタ電源35およびスリット電源がオンとされる。なお、この電源入力の後に、透過型電子顕微鏡9が動作可能な程度に電源出力が安定する迄、数時間を要する。
【0048】
その後、制御部22は、透過型電子顕微鏡9各部の初期設定を行う(ステップS401)。この初期設定では、3端子スイッチ41および42は、フィルタ電源35側に接続される。
【0049】
その後、オペレータは、入力部23から、モノクロメータ12をオン状態としてデータの収集を行うか、オフ状態でデータの収集を行うかの設定を行う(ステップS402)。そして、制御部22は、モノクロメータ12の設定がオフであるかどうかを判定する(ステップS403)。
【0050】
ここで、制御部22は、モノクロメータ12の設定がオフである場合には(ステップS403肯定)、駆動電圧源36の出力電圧を0ボルトに調整し(ステップS404)、その後、3端子スイッチ41の切り換え端子をモノクロメータ電源33の出力端子側、すなわち駆動電圧源36の接地電位であり筐体47の電位でもある端子に切り換えて接続する(ステップS405)。これにより、電極板44は、電気的に安定したオフ状態となる。また、制御部22は、モノクロメータ12の設定がオンである場合には(ステップS403否定)、3端子スイッチ41の切り換え端子を駆動電圧源36の出力端子側に切り換えて接続する(ステップS406)。なお、3端子スイッチ41の切り換えに同期して、3端子スイッチ42も同様の切り換えを行い、磁性体45のコイルへの電流供給をオンオフする。
【0051】
その後、オペレータは、入力部23から、加速電圧、画像のコントラスト、照射電流、試料位置、スリット46の開口幅および倍率等のデータ取得条件を設定し(ステップS407)、データの取得を行う(ステップS408)。
【0052】
その後、オペレータは、モノクロメータ12のオンオフを切り換えて再度データの取得を行うかどうかを判定する(ステップS409)。そして、モノクロメータ12のオンオフを切り換えて再度データの取得を行う場合には(ステップS409肯定)、ステップS400で電源のオンオフを行うこと無くステップS402に移行し、モノクロメータ12のオンオフ設定を行う。そして、制御部22は、このオンオフ設定に基づいてステップS404および405、あるいは、ステップS406を実行する。また、制御部22は、モノクロメータ12のオンオフを切り換えない場合には(ステップS409否定)、本処理を終了する。
【0053】
上述してきたように、本実施の形態1では、モノクロメータ12のオンオフ動作を、ステップS400で行う電源のオンオフ動作を繰り返し行うことなく、駆動電圧源36の出力電圧調整および3端子スイッチ41の切り換え動作のみで行うこととしているので、電源のオンオフに伴う出力電圧の安定化までの時間を設けること無く、確実で信頼性の高いモノクロメータ12のオンオフ動作を行うことができる。
【0054】
また、本実施の形態1では、透過型電子顕微鏡9を用いた例を示したが、走査型電子顕微鏡を用いて全く同様の構成および動作を行わせることもできる。
また、本実施の形態1では、駆動電圧源36の出力端子は、3端子スイッチ41の端子と直接に電気接続されることとしたが、抵抗を介して接続することもできる。これにより、3端子スイッチ41の切り換え時に生じる突入電流等の防止を計り、安全性を向上することができる。
(実施の形態2)
ところで、上記実施の形態1では、3端子スイッチ41および42を用いて、モノクロメータ12の動作をオンオフさせたが、2端子スイッチを用いた簡単な構成で、同様の動作を行わせることもできる。そこで本実施の形態2では、2端子スイッチを用いて、モノクロメータ12の動作をオンオフさせる場合を示すことにする。
【0055】
図5は、本実施の形態2にかかる電源部60の構成を示すブロック図である。なお、電源部60は、実施の形態1の電源部20に対応するものであり、透過型電子顕微鏡9のその他の構成は、図1および3に示すものと全く同様であるので詳しい説明を省略する。
【0056】
電源部60は、加速電源31、電子銃電源32、モノクロメータ電源33、スリット電源34、フィルタ電源55および電源切換手段50を含む。ここで、加速電源31、電子銃電源32、モノクロメータ電源33およびスリット電源34は、実施の形態1と全く同様であるので説明を省略する。
【0057】
フィルタ電源55は、モノクロメータ電源33の出力電圧を接地電位として、ウイーンフィルタ43の電極板44および磁性体45に巻かれたコイルで必要とされる電圧および電流を形成する。フィルタ電源55は、駆動電圧源36、駆動電流源37および抵抗58を有する。ここで、駆動電圧源36および駆動電流源37は、実施の形態1に示すものと全く同様である。
【0058】
駆動電圧源36は、電圧出力端子に抵抗58を有する。抵抗58は、後述する様に2端子スイッチ56の両端子間に若干電位が異なる2つの電源が接続されることによる、電位の不一致、ひいては電源の破損を未然の防ぐ役割を有する。
【0059】
電源切換手段50は、2端子スイッチ56および57を有する。2端子スイッチ56は、2つの端子を有し、一方の端子は、電極板44の一方の電極と駆動電圧源36とを接続する電源ラインに電気的に接続されており、もう一方の端子はモノクロメータ電源33の出力端子に接続される。なお、電極板44のもう一方の電極は、筐体47と同電位にされる。
【0060】
2端子スイッチ57は、2端子スイッチ56と同様の接点構造を有し、一方の端子は、磁性体45に巻かれるコイルの一方の端子と駆動電流源37とを接続する電源ラインに電気的に接続され、もう一方の端子は、モノクロメータ電源33の出力端子に接続される。
【0061】
ここで、本実施の形態2にかかる透過型電子顕微鏡9の動作は、図4のフローチャートに示されるものと全く同様であり詳しい説明を省略する。なお、制御部22からの指示により、3端子スイッチ41および42の切り換えタイミングと全く同様のタイミングで、2端子スイッチ56および57がオンオフされる。しかし、図4のステップS405あるいは406で行われる2端子スイッチ56および57の切り換え動作は、実施の形態1と異なるので、詳しく説明する。
【0062】
ステップS405では、2端子スイッチ56および57は接続状態であるオンにされる。ここで、駆動電圧源36の出力電圧はステップS404で概ね0ボルトに設定されているものの、若干の出力電圧を有する。一方、2端子スイッチ56の一方の端子はモノクロメータ電源33の出力端子、すなわち駆動電圧源36の接地電位に接続されている。これにより、2端子スイッチ56が接続状態にある場合には、抵抗58により、2端子スイッチ56の両端子間に生じる若干の電位差が吸収され、駆動電圧源36あるいはモノクロメータ電源33にとって好ましい状態となる。
【0063】
また、ステップS406では、2端子スイッチ56および57は切り離し状態であるオフにされる。この際、駆動電圧源36の出力は、電極板44に印加される。一方、消費電流は小さいので、抵抗58の電圧降下は無視される程に小さい。
【0064】
上述してきたように、本実施の形態2では、モノクロメータ12のオンオフ動作を、抵抗58を出力端子に有する駆動電圧源36とモノクロメータ電源33との2端子スイッチ56によるオンオフの切り換え動作で行うこととしているので、簡易な構成で、電源のオンオフに伴う出力電圧の安定化までの時間を設けること無く、確実で信頼性の高いモノクロメータ12のオンオフ動作を行うことができる。
(実施の形態3)
ところで、上記実施の形態1および2では、駆動電流源37および磁性体45に巻かれたコイルを接続する電源ラインは、モノクロメータ12のオンオフ動作に同期してオンオフ動作することとしたが、このオンオフ動作に付随して発生する磁性体45の残留磁場を除去するために、オンオフ動作の際にAC励磁を行うこともできる。そこで本実施の形態3では、駆動電流源37のオンオフ動作時に出力電流にAC励磁を行う場合を示すことにする。
【0065】
ここで、磁性体45の残留磁場について簡単に説明する。磁性体45は、いわゆるヒステリシス特性を有し、駆動電流源37から供給される励磁電流およびこの励磁電流により形成される磁場は、1対1の関係になく過去の励磁履歴に依存する。例えば、磁場の存在しない初期状態から磁性体45を巻くコイルに電流を流し磁場を形成し、その後電流をオフにした場合には、磁性体45は初期状態に戻らず残留磁化を残存させる。この残留磁化は、モノクロメータ12の正常動作を妨げるものであり、消磁により初期化されることが好ましい。そして、この消磁は、AC電流を磁性体45に印加することによりなされる。
【0066】
図6は、本実施の形態3にかかる電源部70および制御部73の構成を示すブロック図である。なお、電源部70および制御部73は、実施の形態1の電源部20および制御部22に対応するものであり、透過型電子顕微鏡9のその他の構成は、図1および3に示すものと全く同様であるので詳しい説明を省略する。
【0067】
電源部70は、加速電源31、電子銃電源32、モノクロメータ電源33、スリット電源34、フィルタ電源75および電源切換手段40を含む。ここで、加速電源31、電子銃電源32、モノクロメータ電源33、スリット電源34および電源切換手段40は、実施の形態1と全く同様であるので説明を省略する。
【0068】
フィルタ電源75は、モノクロメータ電源33の出力電圧を接地電位として、ウイーンフィルタ43の電極板44および磁性体45で必要とされる電圧および電流を形成する。フィルタ電源75は、駆動電圧源36、駆動電流源37およびAC電流源72を有する。ここで、駆動電圧源36および駆動電流源37は、実施の形態1に示すものと全く同様である。
【0069】
AC電流源72は、制御部73からの指示により、3端子スイッチ42の切り換えタイミングに同期してAC電流を発生する。そして、このAC電流は、駆動電流源37の出力に電流加算され、磁性体45に出力される。図7は、AC電流源72により発生されるAC電流波形の一例である。AC電流波形は、所定の振幅Aを有する持続時間t1の振動波形およびこの振動波形に連続する持続時間t2の減衰波形からなる。ここで、振幅A、持続時間t1およびt2は、残留磁場を消磁するのに最適な値に、あらかじめ実験的に決定される。
【0070】
制御部73は、駆動電圧源36および駆動電流源37の出力電圧および出力電流を制御すると共に、AC電流源72のAC電流波形の出力タイミングを制御する。
つづいて、本実施の形態3にかかる透過型電子顕微鏡9の動作について説明する。図8は、本実施の形態3にかかる透過型電子顕微鏡9の動作を示すフローチャートである。まず、オペレータは、透過型電子顕微鏡9の電源を入力する(ステップS800)。この入力により、電源部20を構成する加速電源31、電子銃電源32、モノクロメータ電源33、フィルタ電源35およびスリット電源がオンとされる。なお、この電源入力の後に、透過型電子顕微鏡9が動作可能な程度に電源出力が安定する迄、数時間を要する。
【0071】
その後、制御部73は、透過型電子顕微鏡9各部の初期設定を行う(ステップS801)。この初期設定では、3端子スイッチ41および42は、フィルタ電源75側に接続される。
【0072】
その後、オペレータは、入力部23から、モノクロメータ12をオン状態としてデータの収集を行うか、オフ状態でデータの収集を行うかの設定を行う(ステップS802)。そして、制御部22は、モノクロメータ12の設定がオフであるかどうかを判定する(ステップS803)。
【0073】
ここで、制御部73は、モノクロメータ12の設定がオフである場合には(ステップS403肯定)、駆動電流源37の出力電流を0A(アンペア)に調整し(ステップS804)、図7に示すようなAC電流波形を磁性体45に印加しAC励磁を行う(ステップS805)。その後、3端子スイッチ41の切り換え端子をモノクロメータ電源33の出力端子側、すなわち駆動電流源37の接地電位であり筐体47の電位でもある端子に切り換えて接続する(ステップS806)。
【0074】
また、制御部73は、モノクロメータ12の設定がオンである場合には(ステップS803否定)、3端子スイッチ42の切り換え端子を駆動電流源37の出力端子側に切り換えて接続する(ステップS807)。そして、制御部73は、駆動電流源37の出力電流を設定値とし(ステップS808)、図7に示すようなAC電流波形を磁性体45に印加しAC励磁を行う(ステップS809)。
【0075】
その後、オペレータは、入力部23から、加速電圧、画像のコントラスト、照射電流、試料位置、スリット46の開口幅および倍率等のデータ取得条件を設定し(ステップS810)、データの取得を行う(ステップS811)。
【0076】
その後、オペレータは、モノクロメータ12の設定を切り換えて再度データの取得を行うかどうかを判定する(ステップS812)。そして、モノクロメータ12の設定を切り換えて再度データの取得を行う場合には(ステップS812肯定)、ステップS800で電源のオンオフを行うこと無くステップS802に移行し、モノクロメータ12のオンオフ設定を行い、このオンオフ設定に基づいて、ステップS804〜806、あるいは、ステップS807〜809を実行する。また、モノクロメータ12のオンオフを切り換えない場合には(ステップS812否定)、本処理を終了する。
【0077】
図9は、モノクロメータ12の設定変更が行われた際に、駆動電流源37およびAC電流源72から出力される電流波形を示す図である。横軸は時間、縦軸は駆動電流源37およびAC電流源72の出力が加算された出力電流である。例えば、時間T1に駆動電流源37の出力電流の設定を設定#1から設定#2に変更する場合には、出力電流の変更と同時に図7に示す様なAC電流が重畳される。また、時間T2にモノクロメータ12がオフに設定された場合には、駆動電流源37の出力電流が0Aとされ、この出力電流の変更と同時に図7に示す様なAC電流が重畳される。そして、AC電流の減衰が終了した後に、3端子スイッチ42は、モノクロメータ電源33の出力端子に切り換え接続を行う。この様に、設定変更の切り換え初期に、出力電流にAC電流を重畳し残留磁化の消磁を行う。
【0078】
上述してきたように、本実施の形態3では、モノクロメータ12の設定変更時に、駆動電流源37の出力にAC電流を重畳し、消磁を行うこととしているので、駆動電流源37の出力電流の再設定、さらにはモノクロメータ12のオンオフ設定の様な駆動電流源37の出力電流の大きな変化の際にも、磁性体45に残存する残留磁化の消磁を行い、確実で高い信頼性を持ってモノクロメータ12を動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】透過型電子顕微鏡の全体構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1にかかる電源部の構成を示すブロック図である。
【図3】モノクロメータに内蔵されるウイーンフィルタの構成を示す外観図である。
【図4】実施の形態1にかかる透過型電子顕微鏡の動作を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態2にかかる電源部の構成を示すブロック図である。
【図6】実施の形態3にかかる電源部の構成を示すブロック図である。
【図7】AC電流源の出力電流波形の一例を示す説明図である。
【図8】実施の形態3にかかる透過型電子顕微鏡の動作を示すフローチャートである。
【図9】実施の形態3にかかるフィルタ電源の設定変更時の出力電流を示す説明図である。
【符号の説明】
【0080】
1 電子ビーム
9 透過型電子顕微鏡
10 鏡筒部
11 電子銃
12 モノクロメータ
13 集束レンズ
14 試料
15 拡大レンズ
16 蛍光板
17 のぞき窓
20、60、70 電源部
21 ドライブ部
22、73 制御部
23 入力部
31 加速電源
32 電子銃電源
33 モノクロメータ電源
34 スリット電源
35、55、75 フィルタ電源
36 駆動電圧源
37 駆動電流源
40、50 電源切換手段
41、42 3端子スイッチ
43 ウイーンフィルタ
44 電極板
45 磁性体
46 スリット
47 筐体
51 フィラメント
52 グリッド
53 アノード
56、57 2端子スイッチ
58 抵抗
72 AC電流源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する電子銃と、
前記電子ビームのエネルギーを単色化するウイーンフィルタを有するモノクロメータと、
前記モノクロメータの前記ウイーンフィルタが内蔵される筐体を電気的に安定させ、かつ前記電子ビームを加速する筐体電圧を発生するモノクロメータ電源と、
前記筐体電圧を接地電位として、前記ウイーンフィルタに出力される駆動電圧および駆動電流を発生する出力可変のフィルタ電源と、
前記モノクロメータ電源あるいは前記フィルタ電源の出力と前記ウイーンフィルタとを電気的に切り換え接続する電源切換手段と、
前記電子ビームを単色化しない際に、前記駆動電圧の出力を概ね零ボルトとし、前記モノクロメータ電源の出力および前記ウイーンフィルタを電気的に接続する制御部と、
を備える電子顕微鏡。
【請求項2】
前記電源切換手段は、前記モノクロメータ電源、前記フィルタ電源および前記ウイーンフィルタの3つの入出力端子が電気的に各端子と接続される3端子スイッチを備えることを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡。
【請求項3】
前記電源切換手段は、前記フィルタ電源および前記ウイーンフィルタを電気的に接続する電源ライン、並びに、前記モノクロメータ電源の入出力端子が電気的に各端子と接続される2端子スイッチを備えることを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡。
【請求項4】
前記フィルタ電源は、前記駆動電圧の出力端子に電気抵抗を備えることを特徴とする請求項2あるいは3に記載の電子顕微鏡。
【請求項5】
前記フィルタ電源は、前記駆動電流の出力端子と電気的に接続され、AC電流を重畳するAC電流源を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電子顕微鏡。
【請求項6】
前記制御部は、前記フィルタ電源から出力される駆動電流の大きさを変更する際に、前記変更の直後に前記AC電流を重畳することを特徴とする請求項5に記載の電子顕微鏡。
【請求項7】
前記制御部は、前記電子ビームを単色化しない際に、前記駆動電流の出力を概ね零アンペアとし、前記AC電流を前記出力に重畳の後に、前記モノクロメータ電源の出力および前記ウイーンフィルタを電気的に接続することを特徴とする請求項5または6に記載の電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−269101(P2006−269101A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81338(P2005−81338)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】