説明

電子顕微鏡

【課題】安全性(感電防止機構)を備えつつ操作性が考慮された高電圧印加試料ホルダーを装着可能な電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】本発明は、試料を装填する試料台に電圧を印加する機能を備えた試料ホルダーと、前記試料台に印加される電圧を供給する電圧源と、一端が前記試料ホルダーに接続される電圧ケーブルとを備え、更に、前記電圧ケーブルの他端が接続される中継器が、電子顕微鏡の鏡筒を支持する架台上に設置されたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡に関するものであり、特に試料に対して安全に高電圧を印加できるシステムを具備した電子顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡は、電子銃より放出された一次電子線を磁界レンズによって試料上にフォーカスし、試料からの二次荷電粒子を検出し、試料の拡大像を得る。走査電子顕微鏡は、これに対物レンズの上方に設置された磁界式もしくは電界式の偏向器により、一次電子線を試料上で走査する機能が加わる。
【0003】
一般に、走査電子顕微鏡においては、試料をアース電位にして試料を観察するが、試料に電圧を印加して試料像を観察する場合もある。特に最近では、リターディング法(Deceleration法)が一般的になってきている。これは、試料に数百〜数kV程度の負電圧(リターディング電圧)を印加し、一次電子線を試料直前で減速させて試料像を観察する手法である。
【0004】
リターディング法において、一次電子線が電子銃によって加速された電圧(加速電圧)をVacc、試料に印加された電圧(リターディング電圧)をVrとすると、一次電子線が試料に到達する時点での電圧(照射電圧。ランディングエネルギーとも称する)Viは、Vi=Vacc−Vrで表される。リターディング法を用いると、用いない場合(試料をアース電位においた場合)に比べて、照射電圧が同一であっても高い画質の画像を得ることができる。例えば、Vacc=1kVでVr=0.5kVのときと、Vacc=0.5kVでVr=0Vのときとでは、照射電圧Viは、同じ0.5kVであるが、前者のほうが分解能(試料像が鮮明に見える度合い)を改善することができる。また、リターディング手段を用いることにより、電子銃で実現できる最低加速電圧(例えばVacc=0.5kV)よりも低い照射電圧(例えばVi=0.1kV)で試料像を観察することも可能になる。これにより、試料の最表面の形態観察を高分解能で実現することができる。そのほか、リターディング法による観察では、試料帯電抑制や試料ダメージ軽減など、種々の効果がある。
【0005】
走査電子顕微鏡は、対物レンズと試料の配置関係により、アウトレンズ型、セミインレンズ型、インレンズ型の3種類に分類することができる。アウトレンズ型の走査電子顕微鏡は、試料が対物レンズのレンズ磁界から完全に離れた位置に配置され、インレンズ型では、試料が対物レンズのレンズ磁界中に配置される。セミインレンズ型は、アウトレンズ型とインレンズ型の中間であり、対物レンズのレンズ磁界の一部が漏洩する位置に試料が配置される。以上、3種の走査電子顕微鏡のうち、高分解能な画像を取得できる点では、対物レンズのレンズパワーを最も効率的に活用できるインレンズ型の走査電子顕微鏡が有利である。
【0006】
インレンズ形の対物レンズを用いた走査電子顕微鏡(以降、インレンズSEM)においては、試料をレンズ磁界中に配置するという要請から試料をレンズ磁極間に配置する必要がある。従って、試料を専用の試料ホルダーの先端に装填して対物レンズ内に挿入し、拡大像を観察する。
【0007】
ところが、リターディング法は試料に一次電子線の加速電圧と同レベル(同じオーダー)の電圧を印加する観察手法であり、専用の試料ホルダーの先端に装填された試料を対物レンズの磁極間に挿入するという性質上、放電や安全性の問題などから、従来、インレンズSEMではリターディング法は採用されてこなかった。
【0008】
一方、リターディング電圧ほど高電圧ではないが、別の目的で試料ホルダーに電圧を印加する技術は、主として透過電子顕微鏡あるいは走査透過電子顕微鏡の分野では従来から存在する。例えば、特許文献1には、試料ホルダーに搭載された複数の試料の弁別を目的として試料ホルダーにメモリを搭載し、メモリの駆動電源となる外部電源と試料ホルダーとをケーブルで接続した発明が開示されている。
【0009】
この際の安全性を確保する対策として、特許文献1では高電圧を導入するコネクタに、ケーブルが接続されたか否かを判定するケーブル接続センサを設けている。これにより、ケーブル接続センサがケーブル接続状態を検出しない場合、あるいは電子顕微鏡の本体側が試料ホルダー上のメモリを認識できない場合には、試料ホルダーへの電圧印加が禁止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−327710号公報(米国特許7381968号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
リターディング法をインレンズ型SEMに採用する場合、試料ホルダーを対物レンズ内に挿入するという観察方式上、試料ホルダーに高圧ケーブルを接続してリターディング電圧を印加せざるをえない。走査電子顕微鏡の電源は、通常、架台の内部に格納されるか、あるいは本体部とは別の電源ユニットとして設けられる場合が一般的である。従って、リターディング法を採用するインレンズ型SEMでは、架台内部あるいは別ユニットから試料ホルダーまで長い高圧ケーブルを引き回して接続せざるを得ない。
【0012】
一方、インレンズ型SEMにおいては、観察中であっても試料ホルダーを走査電子顕微鏡本体から引き抜くことが可能であるため、このような長い電源ケーブルを試料ホルダーに接続すると、高圧ケーブルが装置のオペレータに絡まって、誤って操作中に試料ホルダーを走査電子顕微鏡本体から引き抜いてしまう可能性が生じる。
【0013】
試料ホルダーを高電圧が印加された状態で引き抜いてしまうと、オペレータが感電する危険や、電子光学鏡筒内部で放電が発生し、装置を破損する可能性もある。
【0014】
特許文献1では、電圧印加開始前の試料ホルダー(コネクタ)とケーブルの接続状態を問題にしており、装置が稼動中の安全性については特に問題とはしていない。しかしながら、インレンズSEMでリターディング法を実施する場合、試料ホルダーに対して従来よりも格段に大きな電圧が印加されるため、オペレータの安全性については従来よりも細心の注意をもって検討する必要がある。
【0015】
本発明は、試料ホルダーを電子光学鏡筒に挿入して観察を行う走査電子顕微鏡に対してリターディング方式を採用した場合に、装置の稼動中であっても、従来よりも安全に走査電子顕微鏡の操作を行うことが可能な電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した課題を解決するために、本発明は、試料を装填する試料台に電圧を印加する機能を備えた試料ホルダーと、前記試料台に印加される電圧を供給する電圧源と、一端が前記試料ホルダーに接続される電圧ケーブルとを備え、更に、前記電圧ケーブルの他端が接続される中継器が、電子顕微鏡の鏡筒を支持する架台あるいはカバー内に設置されたことを特徴とする。
【0017】
この場合、前記電圧ケーブルの長さは前記試料ホルダーの長さよりも短いことが望ましい。従って、上記架台あるいはカバー内で、上記試料ホルダーを電子光学鏡筒に挿入した状態での端部から半径が試料ホルダーの長さよりも小さい円の内部に上記中継器を配置すれば、電圧ケーブルの長さを試料ホルダーの長さよりも短くすることができる。
【発明の効果】
【0018】
架台あるいはカバー内に中継器が設置されるため、高圧ケーブルを電源から引き回す必要がなくなるため、装置の稼動中に誤って試料ホルダーを引き抜く危険性が低減される。
【0019】
また、電圧ケーブルの長さを前記試料ホルダーの長さよりも短く設定することにより、リターディング電圧が印加された状態での電子光学鏡筒への試料ホルダーの挿入を防止することができる。
【0020】
以上のように、本発明によれば、試料ホルダーを電子光学鏡筒に挿入して観察を行う走査電子顕微鏡に対してリターディング方式を採用した場合において、従来よりも感電の虞が少ない電子顕微鏡を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1の電子顕微鏡の全体外観図である。
【図2A】実施例1の試料ホルダーと試料ステージを示す説明図である。
【図2B】実施例1の試料ホルダーを挿入した状態における中継器の配置を示す上面図である。
【図3A】実施例1の中継器周辺の詳細例を示した説明図である。
【図3B】実施例1の中継器周辺の他の詳細例を示した説明図である。
【図4】図3Bに示した詳細例にかかる中継器内部の配線構造を示した透視図である。
【図5】実施例2の電子顕微鏡の全体外観図である。
【図6】実施例2の中継器の配置について示した説明図である。
【図7】実施例3の電子顕微鏡の全体外観図である。
【図8】実施例3の電子顕微鏡における試料ホルダーと対物レンズの位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施例1)
以下、図面を参照し、本発明の実施例について詳細に説明する。本実施例では、サイドエントリー式試料ホルダーを備えた電子顕微鏡の構成例について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施例の概略図であり、試料ホルダー先端の試料台に試料を装填し、かつ試料ホルダーを介して試料台に電圧を印加することが可能な電子顕微鏡である。
【0024】
一次電子線を試料に照射し、一次電子線照射により得られる二次荷電粒子を検出して画像信号として出力する電子光学鏡筒1は、架台2の上面に支持されている。さらに電子光学鏡筒1には、試料位置を移動させるための試料ステージ3が装着されており、そこに試料が搭載された高電圧印加用の試料ホルダー4が挿入される。
【0025】
一方、架台2の内部には、試料に印加される電圧を供給するための高電圧源7が配置されており、オペレータからは直接触れられないようになっている。
【0026】
高電圧源7から発生した電圧は、高電圧源7から延びた電圧ケーブル8を介して、架台2上に設置された中継器6に導入され、そこから電圧ケーブル5を介して試料ホルダー4に導入されて、試料台上の試料に電圧が印加される。中継器6には電圧ケーブル5との接続端子を備えており、リターディング観察時には中継器6にケーブルを接続して使用する。
【0027】
試料ステージ3に試料ホルダー4が挿入されている様子を図2Aに示す。試料ホルダー4は、電子光学鏡筒1の側面から真空フィードスルーを介して鏡筒内部に挿入されるサイドエントリー型試料ステージ3へ装着されている。また、試料ホルダー4は、グリップ11と、高真空状態の電子光学鏡筒1内部へ挿入されるためのOリング12と、試料ホルダー4の挿入方向をガイドするためのガイドピン14と、試料13を搭載する試料台15と、試料台15を試料ホルダー4および電子光学鏡筒1から絶縁するためのシャフト16によって構成される。
【0028】
また、グリップ11から電圧ケーブル5が伸びており、その端部には中継器6と接続するためのBNCコネクタA(オス側端子)17が設けられている。BNCコネクタA17部から印加された高電圧は、電圧ケーブル5を介し、グリップを含めたホルダー内部にある電圧導入線18によって試料台15に供給されることにより、一次電子線19に対してリターディング電圧として作用する。ここで、図2Aに示すように、試料ホルダー4のグリップ端面から試料台15の端面までの長さLと、電圧ケーブル5の長さlとは、L>lの関係がある。
【0029】
前述のように、試料ホルダーの本体部の長さLと電圧ケーブル5の長さlがL>lの関係を満たす場合、試料ホルダー4を試料ステージ3に装着する際には、先に試料ホルダー4を装着したあとに、電圧ケーブル5を中継器6に接続する必要がある。これは、電圧ケーブル5の長さが試料ホルダー本体部の長さよりも短いため、先に電圧ケーブル5を中継器6に接続してしまうと、試料ステージ3に試料ホルダー4を装着できないためである。
【0030】
上記LとlとがL>lの関係を満たすためには、中継器6の架台2上での配置を工夫する必要がある。図2Bには、試料ホルダー4が挿入された状態の電子顕微鏡の上面図を示す。図示されるように試料ホルダー4の一端はほぼ電子光学鏡筒1の中央部まで達しており、もう一方の端部、つまりグリップ11の電圧ケーブル5の接続部は電子光学鏡筒1からはグリップ11の長さ分だけ外側に突き出た位置に配置される。中継器6(厳密にはケーブルとの接続端子の位置)が、この突き出た位置の架台への投影点を中心とする半径Lの円の内部に含まれるように架台上に配置されていれば、上記L>lの関係は満たされる。
【0031】
実際には、電圧ケーブル5にはある程度の弛みを持たせる必要があるため、L>lの関係を満たすためには中継器6をかなりの程度まで電子光学鏡筒1に近づけて配置する必要がある。
【0032】
次に、図3および図4を用いて中継器6の詳細について説明する。
【0033】
図3Aは、実施例1の中継器周辺の詳細例を示した説明図である。特に、図3Aに、中継器6の内部配線と試料ホルダー4との結線図とを示す。中継器6内にはコネクタ装着検知スイッチ24が設けられ、一方、架台2内部に配置された高電圧源7には、電源31が設けられる。なお、電源31は、高電圧を発生させるための電力供給装置である。また、高電圧源7は、電源31からの供給に基づき、高電圧を発生させる高電圧供給装置であり、電源31と一体的に設けられていても良いし、個別に設けられていても良い。
【0034】
試料ホルダー4と高電圧源7との導通は高電圧制御部としての高電圧制御手段32により制御される。
【0035】
コネクタ検知部としてのコネクタ装着検知スイッチ24は、高電圧源7の電源31に連動して作動し、コネクタ装着検知スイッチ24が動作する(装着を検知しない)と、高電圧制御手段32により高電圧源7の電源31とBNCコネクタ、すなわち試料ホルダー4との導通が遮断される。
【0036】
また、高圧制御手段32は、試料ステージ3の真空状態を監視する真空監視手段33にも連動しており、試料ステージ3に試料ホルダー4が挿入され、真空度がしきい値まで到達していない場合は、高圧制御手段32により高電圧源7と試料ホルダー4との導通が遮断するように構成されている。これにより、試料ホルダー4の挿入経路あるいは電子光学鏡筒3の内部が不十分な真空度にある状態でのリターディング電圧印加が防止される。従って、放電事故を防止することができる。
【0037】
なお、コネクタ装着検知スイッチ24は、高電圧制御手段32に連動していてもよい。
【0038】
また、先に電圧ケーブル5を中継器6に接続してしまっても、試料ステージ3には試料ホルダー4が入っていないので、真空監視手段33により高圧制御手段32が遮断されている状態になる。また、これとは逆に、試料ホルダー4を試料ステージ3から外す場合には、電圧ケーブル5を中継器6から外した後に、試料ホルダー4を試料ステージ3から外す必要がある。これにより、高電圧が試料ホルダー4に印加された状態では、試料ステージ3から試料ホルダー4を外す操作ができなくなる。
【0039】
以上のように、図3Aに示す構成では、電圧ケーブル5が中継器6に適切に接続されない場合にはリターディング電圧が中継器6のケーブル接続端子に印加されないため、中継器6と電圧ケーブル5との接続不良にもとづく感電事故を防止することができる。
【0040】
図3Bは、実施例1の中継器周辺の他の詳細例を示した説明図である。また、図4は、図3Bに示した詳細例にかかる中継器内部の配線構造を示した透視図である。
【0041】
図3Bおよび図4には、高圧ガードを設けることにより、更に安全性を高めた中継器の構成を示している。初めに、本構成例の外観から説明する。
【0042】
図4には、高圧ガードを備える中継器の透視図を示している。電圧ケーブル5に設けられたBNCコネクタA17は、高圧ガード21の穴を通して、中継器6のBNCコネクタB(メス側端子)22に接続する。高圧ガード21に設けられたつまみ25の先端部は先端ねじ26になっており、つまみ25を回すことで先端ねじ26を中継器6側のねじ27と嵌合させ、高圧ガード21を中継器6に固定することができるようになっている。
【0043】
BNCコネクタA17がBNCコネクタB22に挿入(接続)されると、スイッチプレート23が押され、コネクタ装着検知スイッチ24が動作する。また、先端ねじ26がねじ27に装着されることにより、高圧ガード21に設けられたピン28がねじ27上部の穴に挿入され、中継器6の第二のスイッチとなる高圧ガード装着検知スイッチ29を動作させる。
【0044】
図3Bには、中継器6の内部配線と試料ホルダー4との結線図を示している。高圧ガード装着検知スイッチ29は、高電圧源7や他の高電圧使用部の状態を制御する高電圧制御手段32に連動しており、高圧ガード装着検知スイッチ29が動作する(装着を検知しない)と、高圧制御手段32が高電圧源7とBNCコネクタとの導通を遮断するように構成されている。
【0045】
図3Bおよび図4に示す構成の場合、コネクタ装着検知スイッチ24および高圧ガード装着検知スイッチ29の2つが装着を検知し、さらに試料ステージ3に試料ホルダー4が挿入され、真空があるレベルまで引かれていることを真空監視手段33が検知する必要がある。このとき、高電圧源7の電源31と、高圧制御手段32が動作し、所望の高電圧が高電圧源7から出力され、電圧ケーブル8を介してBNCコネクタA17に到達し、そこから試料ホルダー4に高電圧を導入することができる。
【0046】
次に、高電圧が印加された状態で、中継器6から試料ホルダー4から延びた電圧ケーブル5のBNCコネクタA17を外す操作が行われた場合を説明する。BNCコネクタA17を外す前に、必ず中継器6に設けられた高圧ガード21を外さなければならない。高圧ガード21が未装着の状態では、高圧制御手段32が遮断されるため、高電圧がOFFとなる。また、高圧ガード21の固定方法はねじ式になっているので、取り外しに時間を要する。このため、試料ホルダー4に帯電していた電位もねじの取り外しの時間内で除電される。以上の状態により、BNCコネクタA17を外す際に、高電圧に触れる危険性を減らすことができる。
【0047】
以上のように、上述した図3Aの構成では、試料ホルダー4に高電圧を印加状態でもコネクタA17を外すことで高電圧を遮断できるが、この場合、試料ホルダー4に帯電した電荷がオペレータの手等に放電(電撃)する可能性がある。これに対し、図3Bに示す構成では、コネクタA17を外す前に高圧ガード21を外すことで高電圧を遮断することができる。これにより試料ホルダー4の帯電は除去できるため、電撃を防止できる。すなわち、高圧ガード21を外すことで高電圧を遮断し、その後、コネクタA17を外す迄の時間のタイムラグにより、試料ホルダー4の帯電が除去されることで、電撃を防止することができる。
【0048】
以上の構成により、試料ホルダー4の試料ステージ3への装着操作、および取り外し操作の際には、高電圧部への接触を回避できる。従って、オペレータが直接触手する試料ホルダー4のような形態においても、試料台15に高電圧を印加するための安全なシステムを提供することができる。
【0049】
なお、図3A、図3Bにおいて、中継器6の結線図の一実施例を示したが、コネクタ装着検知スイッチと高圧ガード装着検知スイッチの連動先は同じ部位でも良く、この事例に限ることはない。また、図4において、中継器6のスイッチ構造や部品を掲載したが、スイッチは機械的なスイッチに限ることは無く、磁気センサや光学式のスイッチを使用して形成しても良い。
【0050】
(実施例2)
図5には、本実施例の電子顕微鏡の外観全体図を示す。本実施例の電子顕微鏡は、実施例1で説明した電子顕微鏡の機能と同等の機能に加えて、電子光学鏡筒1および架台2を囲むカバー41が設けられた電子顕微鏡である。
【0051】
電子顕微鏡は、周辺の騒音や空調による空気の流れにより、一次電子線が揺らされ、試料像にノイズとなって現れることがある。また、周囲の気温が変化して電子光学鏡筒やステージが伸縮することにより、試料像にドリフト(像の流れ)が発生することがある。これらの現象は、高倍率像の取得の際に、より顕著に発生する。図5に示すように、カバー41を設けることにより、騒音、空調、気温の変化を抑えることができるため、これらの弊害を取り除くことができる。従って、高倍率像を取得することが多いリターディング法を実施する際は、カバーの設置が好適となる。
【0052】
本実施例では、試料ステージ3から試料ホルダー4を取り出すための第一の扉42と、電子光学鏡筒1の正面からアクセスして、機械的な電子光学軸調整などのメンテナンスを行うための第二の扉43をカバー41に設けた。中継器6は、カバー41内に設置され、好適には、第一の扉42付近の架台2上に設置され、この第一の扉42を開くことでコネクタの取り付けなどが行われる。ここで、試料ホルダー4から伸びた電圧供給ケーブル5は、中継器6のBNCコネクタB22に接続される。好適には、コネクタの取付け取外し等の作業性を向上させるべく、中継器6は、BNCコネクタB22の取り付け面を、カバー41での第一の扉42または第二の扉43の取り付け面(扉を開けた際の開放面)に対して平行になるように架台2上に配置すると良い。図5に示した例では、中継器6はBNCコネクタB22の取り付け面が第二の扉43に面するよう配置されており、さらに第一の扉42付近に設定されているので、第一の扉42からコネクタの中継器6への接続および取り外しが容易に行える。なお、図5では、中継器6は箱状になっているが、図6に示した例のように、中継器6がカバー41内に設けた壁面に埋め込まれていてもよい。さらに、図6(a)のBNCコネクタB22の向きは、図5に示したBNCコネクタB22の向きと同じであるが、図6(b)のように、BNCコネクタB22が中継器6の上面を向いていてもよい。
【0053】
(実施例3)
本実施例では、インレンズSEMの構成例について説明する。
【0054】
図7には、本実施例の電子顕微鏡の外観全体図を示す。本実施例のインレンズ型走査電子顕微鏡は、実施例1で説明した電子顕微鏡の機能と同等の機能に加えて、電子光学鏡筒1および架台2を囲むカバー41が設けられた電子顕微鏡である。
【0055】
カバー41には、試料ステージ3から試料ホルダー4を取り出すための第一の扉42と、電子光学鏡筒1の正面からアクセスして、機械的な電子光学軸調整などのメンテナンスを行うための第二の扉43が設けられている。さらに、第二の扉43でメンテナンスを行う際に、操作画面45を確認しやすいように第三の扉44が設けられている。操作画面45は、図7中の点線で示される台上に搭載されて使用されるが、図示したように画面の向きを適当に変えることができる。従って、第三の扉44を開放すれば、図7に矢印で示すように、第二の扉43経由でSEM本体にアクセスする際にオペレータが操作画面を目視することが可能となる。
【0056】
中継器6は、第一の扉42付近の架台2上に設置され、コネクタの取り付けなどが行われる。
【0057】
図8は、本実施例の試料ホルダーを電子光学鏡筒1内部へ挿入した状態での試料ホルダーと対物レンズの配置関係を示す。電子光学鏡筒1内には、ポールピースを備えた対物レンズが設けられている。ポールピースは、上磁極51と下磁極52により構成される。また、電子光学鏡筒1の側面には試料ステージ3が設けられ、対物レンズの上磁極51と下磁極52間に試料13を装填した試料ホルダー4を装着する。このように、インレンズSEMは短焦点の状態で強励磁を実現することができるため、試料の高分解能観察に好適となっている。この状態で高電圧源7で発生した高電圧は、電圧ケーブル5を介して試料ホルダー4内部にある電圧導入線18によって試料台15に供給され、一次電子線19に対して作用する。
【0058】
このように、図5から図7の実施例で記述した電子顕微鏡によって、リターディング法による低い照射電圧での高分解能観察を、安全かつ使い勝手良く実現することができる。また、装置周辺の騒音や空調の影響を受け難い、安定した高倍率観察を実現することができる。さらに、図8の実施例のようにインレンズSEMと組合せることにより、リターディング法による低い照射電圧での超高分解能観察を実現することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 電子光学鏡筒
2 架台
3 サイドエントリー型試料ステージ(試料ステージ)
4 試料ホルダー
5 電圧ケーブル(電圧供給ケーブル)
6 中継器
7 高電圧源
8 電圧ケーブル
11 グリップ
12 Oリング
13 試料
14 ガイドピン
15 試料台
16 シャフト
17 コネクタA(BNCコネクタA)
18 電圧導入線
19 一次電子線
21 高圧ガード
22 BNCコネクタB
23 スイッチプレート
24 コネクタ装着検知スイッチ
25 つまみ
26 先端ねじ(つまみ先端ねじ)
27 ねじ
28 ピン
29 高圧ガード装着検知スイッチ
31 電源
32 高電圧制御手段(高圧制御手段)
33 真空監視手段
41 カバー
42 第一の扉
43 第二の扉
44 第三の扉
45 操作画面
51 上磁極
52 下磁極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次電子線を試料に照射し、当該一次電子線照射により得られる二次荷電粒子を検出して画像信号として出力する電子光学鏡筒と、当該電子光学鏡筒を支持する架台とを備えた電子顕微鏡において、
前記試料を載置する試料台を有し、当該試料台に電圧を印加する機能を備えた試料ホルダーと、
前記試料台に印加される電圧を供給する電圧源と、
一端が前記試料ホルダーに接続される電圧ケーブルとを備え、
更に、前記電圧ケーブルの他端が接続される中継器が前記架台上に設置されたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の電子顕微鏡において、
前記電圧ケーブルの長さが前記試料ホルダーの長さよりも短いことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1に記載の電子顕微鏡において、
前記電圧ケーブルのもう一方の端部に前記中継器との接続端子を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1に記載の電子顕微鏡において、
前記中継器が、前記ケーブルの接続を検知する検知手段を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1に記載の電子顕微鏡において、
前記中継器が、前記試料台と前記電圧源との導通をオンオフするための第1のスイッチを備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5に記載の電子顕微鏡において、
前記中継器が、前記電圧源の起動をオンオフする第2のスイッチを備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項5に記載の電子顕微鏡において、
前記中継器および前記電圧ケーブルの前記中継器側の端部に設けられたBNC端子を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項7に記載の電子顕微鏡において、
前記第2のスイッチが前記中継器側のBNC端子の根元に設けられ、
前記第1のスイッチが前記中継器側のBNC端子の近傍に設けられ、
更に、前記中継器および前記電圧ケーブルのBNC端子を締め付けるリング状のキャップを備えることにより、前記第1のスイッチおよび第2のスイッチをオンできるよう構成したことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1に記載の電子顕微鏡において、
前記電子光学鏡筒および架台を覆う多面体形状のカバーと、
当該カバーの側面に設けられた扉とを備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項9に記載の電子顕微鏡において、
前記カバーの側面に、第1の扉および第2の扉が設けられていることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項9に記載の電子顕微鏡において、
前記中継器に設けられる前記電圧ケーブルとの接続面が、前記扉に対する前記中継器の背面以外の面に設けられることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項12】
一次電子線を試料に走査し、当該一次電子線走査により得られる二次荷電粒子を検出して画像信号として出力する電子光学鏡筒と、当該電子光学鏡筒を支持する架台とを備えた走査電子顕微鏡において、
前記試料を載置する試料台を有し、当該試料台に電圧を印加する機能を備えた試料ホルダーと、
前記試料台に印加される電圧を供給する電圧源と、
一端が前記試料ホルダーに接続される電圧ケーブルとを備え、
更に、前記電圧ケーブルの他端が接続される中継器が前記架台上に設置されたことを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項12に記載の走査電子顕微鏡において、
前記試料ホルダーが前記電子光学鏡筒の側面から真空フィードスルーを介して鏡筒内部に挿入されるサイドエントリー型ステージであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項12に記載の走査電子顕微鏡において、
前記電子光学鏡筒がインレンズ型の対物レンズを備えたことを特徴とする走査電子顕微鏡。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−25911(P2013−25911A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157407(P2011−157407)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】