説明

電極カテーテル

【課題】肺静脈への挿入と電極位置の保持を容易にするとともに血栓の生成を抑え、患者への負担を軽減する電極カテーテルを提供する。
【解決手段】電極カテーテル1Aは、可撓性を有するチューブ10と、基端がチューブ10の先端に接続され、それぞれの先端が接合された複数の脊柱20aを束ねた集合体20と、集合体20の脊柱20aの表面に設けられた電極30と、チューブ10の内腔から集合体20の中心を通り、脊柱20aの先端に一端が固定された集合体牽引ワイヤーと、チューブ10の内腔に設けられ、チューブ10の先端に一端が接続されたチューブ牽引ワイヤーと、チューブ10の基端に設けられ、集合体牽引ワイヤーの他端及びチューブ牽引ワイヤーの他端と接続された制御用ハンドル40とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極カテーテルに関し、特に、心臓の電気生理学的検査において、左心房肺静脈内へ容易に挿入し、安定したマッピングを可能にした電極カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の電気生理学的検査において、左心房肺静脈内への電極カテーテルの挿入が一般的に行われている。しかし、4つの肺静脈内への電極アプローチを行う際、カテーテルのコントロールが難しく、挿入に時間もかかるという問題があった。
【0003】
これに関連する技術として、先端が円の形状をした電極カテーテルを肺静脈内に挿入し留置する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、この特許文献1に記載された従来の電極カテーテルは、先端部分が円の形状をしているために肺静脈内へ挿入するのが難しく、挿入後も円の断面が斜めになる等の理由から形状の保持に時間を要するという問題がある。
【0005】
また、他の技術として、先端がバスケット形の電極アセンブリされた電極カテーテルを用いた技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
この特許文献2に記載された従来の電極カテーテルは、肺静脈内でバスケットが拡張され、形状を保持しやすくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4350346号公報
【特許文献2】特許第4118666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に記載された電極カテーテルは、肺静脈口への位置合わせが難しいため挿入までに時間を要するという問題がある。
【0009】
また、以下に示す構造的な問題がある。
(1)肺静脈口までの誘導にはガイドシースが使用されるが、ガイドシースによりカテーテル外径が太くなり、血管への負担が増える。
(2)バスケット形状のため、バスケットの両端に血栓ができやすい。
(3)特にバスケット基端のルーメンに血栓ができやすく、ルーメン内に血液が侵入して凝固し、バスケットの拡張及び収縮の可動が阻害される。
【0010】
従って、本発明の目的は、肺静脈への挿入と電極位置の保持を容易にするとともに血栓の生成を抑え、患者への負担を軽減する電極カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の電極カテーテルを提供する。
【0012】
[1]可撓性を有するチューブと、
基端が前記チューブの先端に接続され、それぞれの先端が接合された複数の脊柱を束ねた集合体と、
前記集合体の前記脊柱の表面に設けられた電極と、
前記チューブの内腔から前記集合体の中心を通り、前記集合体の前記脊柱の前記先端に一端が固定された集合体牽引ワイヤーと、
前記チューブの内腔に設けられ、前記チューブの先端に一端が接続されたチューブ牽引ワイヤーと、
前記チューブの基端に設けられ、前記集合体牽引ワイヤーの他端及び前記チューブ牽引ワイヤーの他端と接続された制御用ハンドルとを有することを特徴とする電極カテーテル。
【0013】
[2]前記集合体は、前記制御用ハンドルの操作により、前記集合体牽引ワイヤーに引っ張られることで、前記脊柱の中央部が放射状に広がることを特徴とした前記[1]に記載の電極カテーテル。
【0014】
[3]前記チューブは、前記制御用ハンドルの操作により、前記チューブ牽引ワイヤーに引っ張られることで、前記チューブの先端が屈曲することを特徴とした前記[1]又は[2]に記載の電極カテーテル。
【0015】
[4]前記制御用ハンドルは、前記集合体の操作及び前記チューブの操作をそれぞれ独立して行うことを特徴とした前記[3]に記載の電極カテーテル。
【0016】
[5]前記チューブの基端及び前記制御用ハンドルの間に設けられ、注水用チューブが接続された分岐部をさらに有することを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の電極カテーテル。
【0017】
[6]前記チューブは、内腔に注水用チューブと接続されたルーメンが設けられ、前記ルーメンは前記集合体牽引ワイヤーを収納することを特徴とする前記[5]に記載の電極カテーテル。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、肺静脈への挿入と電極位置の保持を容易にするとともに血栓の生成を抑え、患者への負担を軽減することができる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、集合体を開かずにすぼめて挿入することができるため、ガイドシースが不要となり、使用する医療用具を減らすことができ、コストダウンにつながる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、集合体の向きを操作でき、肺静脈口への誘導が容易となる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、制御用ハンドルは集合体の操作及びチューブの操作をそれぞれ独立して行うことができる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、肺静脈への挿入と電極位置の保持を容易にするとともに血栓の生成を抑え、患者への負担を軽減することができる。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、集合体の端末に生成しやすい血栓によるバスケット拡張可動の妨害を抑制できるとともに、カテーテル外径を太くすることなく、血管への負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る電極カテーテルの構成の一例を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係るチューブの先端と集合体の基端との接合部の構成の一例を示す概略断面図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、電極カテーテルの制御用ハンドルを操作した場合の集合体及びチューブの動作例を示す概略図である。
【図4】図4は、第2の実施の形態に係る注水機能を備えた電極カテーテルの構成の一例を示す概略図である。
【図5】図5は、注水用チューブと制御用ハンドルが接続される接続用分岐部の内部構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施の形態]
(電極カテーテルの構成)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る電極カテーテルの構成の一例を示す概略図である。
【0027】
電極カテーテル1Aは、可撓性を有するチューブ10と、チューブ10の先端に取り付けられた集合体20と、接続部70と、制御用ハンドル40と、コネクタ50とを備え、コネクタ50を介して図示しない医療計測機器等に接続された状態で使用されて、例えば心電位等を検出する。
【0028】
チューブ10は、長さ、太さ、材質等を適宜調節・選択できるが、例えば、内径1.9mm、外径2.3mm、長さ約1300mmで、熱可塑性プラスチック組成物としてショアD40〜74硬度のポリアミドエラストマー又はポリアミド樹脂を用いることができる。また、チューブ10は、外層の下に補強層として網目状の編組17が設けられる。
【0029】
集合体20は、4〜8本の脊柱20aを有し、脊柱20aの先端は後述する集合体牽引ワイヤー12とともに溶接にて接合され、好ましくはポリアミドエラストマーからなるプラスチック製のキャップ20bに覆われる。また、脊柱20aは、例えば、内径0.4mm、外径0.6mm、長さ30mmで、熱可塑性プラスチック組成物としてショアD35〜55硬度のポリアミドエラストマー又はポリウレタン樹脂等を用いることができ、その表面にプラチナ合金管からなる電極30が長さ方向に1〜3個で、予め定めた間隔で配置される。なお、キャップ20bの表面にプラチナ合金管からなる電極を配置してもよい。
【0030】
制御用ハンドル40は、チューブ10の基端に接続部70を経て設けられ、制御用ハンドル40の基端に5〜12極のコネクタ50を有する。
【0031】
また、制御用ハンドル40は、電極数が11〜20極の場合には、図1(b)に示すように、制御用ハンドル40の基端に2本のケーブル60が接続され、ケーブル60はさらにコネクタ51と接続される。電極カテーテル1Aは、コネクタ50及び51を介して図示しない医療計測機器等に接続された状態で使用されて、例えば心電位等を検出する。
【0032】
なお、図1に示す例は、集合体20に電極30が4〜20極設けられた場合であり、各電極30は、チューブ10の中を通るリード線31(図2参照)に電気的に接続され、リード線31を結線してコネクタ50に接続される。
【0033】
図2は、本発明の実施の形態に係るチューブ10の先端と集合体20の基端との接合部の構成の一例を示す概略断面図である。
【0034】
チューブ10は、その内腔に内径1.0mm、外径1.2の耐水性の高いポリエチレンテレフタレート又は滑り性の高いポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系材料をチューブ状にした注水用のルーメン11を有し、ルーメン11の先端は集合体20の基端中心に位置する。また、ルーメン11は、その内腔に曲げ剛性が高く、高強度の金属体からなる集合体牽引ワイヤー12を有する。
【0035】
集合体牽引ワイヤー12は、例えば、ニッケル・チタン合金又はステンレス鋼からなる直径0.25mmの芯材であり、後述するチューブ10の屈曲する部位においては直径が0.15mmになるようにテーパー形状に外径を切り替えることでチューブ10の可撓性を補強するとともに、チューブ10の先端部の屈曲を容易にする。また、ルーメン11は、液体の噴出量を多くするために集合体牽引ワイヤー12の直径を均一に0.15mmにしてもよい。
【0036】
集合体20は、集合体牽引ワイヤー12が接続されており、その内部には曲げ剛性が高く、高強度の金属体からなる芯材21と、電極30と接続されるリード線31が設けられている。
【0037】
集合体20を構成する芯材21は、例えば、ニッケル・チタン合金又はステンレス鋼からなる幅0.25mm、厚さ0.1mmの平角材の表面にポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性プラスチック組成物が0.02mmの厚さで被覆されたものである。
【0038】
集合体20の先端は、複数の芯材21と集合体牽引ワイヤー12とで接合され、集合体20の基端は、内径1.2mm、外径1.32mmのステンレス鋼からなる内層管14と内径1.54mm、外径1.64mmの外層管15で挟んで接合され、内層管14の内側にはルーメン11と集合体牽引ワイヤー12が配置される。
【0039】
チューブ10の先端を屈曲させるためのチューブ牽引ワイヤー13と屈曲の形状を確定する平板材16とは、それぞれ内層管14に接合される。例えば、平板材16はニッケル・チタン合金又はステンレス鋼からなる幅0.8mm、厚さ0.07mmの金属体である。また、屈曲の形状に合わせて、平板材16の長さや厚さを任意に変えて調整してもよい。
【0040】
(動作)
図3(a)及び(b)は、電極カテーテル1Aの制御用ハンドル40を操作した場合の集合体20及びチューブ10の動作例を示す概略図である。
【0041】
図3(a)に示すように、制御用ハンドル40の摘み部41をRaの方向に回転すると、集合体牽引ワイヤー12が引っ張られることで集合体20の先端が基端方向に引っ張られ、集合体20の脊柱20aの中心が放射状に開く。
【0042】
また、図3(b)に示すように、制御用ハンドル40の摘み部41をPaの方向にスライドすると、チューブ牽引ワイヤー13が引っ張られることで内層管14が平板材16を屈曲させ、チューブ10の先端が屈曲する。
【0043】
制御用ハンドル40の摘み部41に対し、図3(a)又は(b)と逆の操作をすると、集合体20又はチューブ10の先端は元の形状に戻る。また、摘み部41を回転させることでチューブ10の先端を屈曲させ、摘み部41をスライドさせることで集合体20を開かせるようにしてもよく、組み換えは自由である。
【0044】
(第1の実施の形態の効果)
上記した第1の実施の形態によると、バスケット基端部に該当するチューブ10の先端を制御用ハンドル40を操作することにより屈曲させる機能を設けたため、バスケットに該当する集合体20の向きを操作でき、肺静脈口への誘導が容易となる。また、集合体20を開かずにすぼめて挿入することができるため、ガイドシースが不要となり、使用する医療用具を減らすことができ、コストダウンにつながる。また、ガイドシースが不要であるため、カテーテルの外径を小さくでき、患者への負担を軽減することができる。
【0045】
[第2の実施の形態]
図4は、第2の実施の形態に係る注水機能を備えた電極カテーテルの構成の一例を示す概略図である。
【0046】
電極カテーテル1Bは、第1の実施の形態の電極カテーテル1Aの接続部70に代えて、チューブ10の基端と制御用ハンドル40の間に注水用チューブ72の接続用分岐部71を有する。接続用分岐部71は、分岐された注水用チューブ72を有し、注水用チューブ72から注入された生理食塩水又は造影剤等の液体をチューブ10の内腔を経て集合体20に供給し、注入された液体は集合体20の基端から噴出される(以下、「フラッシュ」という。)。
【0047】
図5は、注水用チューブ72と制御用ハンドル40が接続される接続用分岐部71の内部構造を示す概略断面図である。
【0048】
接続用分岐部71は、二層構造を有し、注水用チューブ72は接続用分岐部71の内層に接続される。接続用分岐部71の内層は、ルーメン11と接続され、内腔に制御用ハンドル40に接続された集合体牽引ワイヤー12が貫通して配置される。接続用分岐部71は、内層の基端にシリコンゴムからなる弁73を有し、弁73は、注水時の制御用ハンドル40への流水を防ぐ。
【0049】
チューブ10は、接続用分岐部71の外層と接続され、チューブ牽引ワイヤー13とリード線31は接続用分岐部71の内層と外層の空間を抜けて制御用ハンドル40に接続される。
【0050】
(第2の実施の形態の効果)
上記した第2の実施の形態によると、第1の実施の形態の効果に加え、注水用チューブ72から液体を注水し、バスケットに該当する集合体20の基端からフラッシュできる機能を設けたため、バスケット端末に生成しやすい血栓を、へパリン剤を注入することにより抑制することができる。
【0051】
また、バスケットに該当する集合体20の操作用の集合体牽引ワイヤー12用のルーメンとフラッシュ用ルーメンをルーメン11によって共用したため、バスケットに該当する集合体20の端末に生成しやすい血栓によるバスケット拡張可動の妨害を抑制できる。また、ルーメン11を共用することでカテーテル外径を太くすることなく、血管への負担を軽減することができる。
【0052】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1A、1B 電極カテーテル
10 チューブ
11 ルーメン
12 集合体牽引ワイヤー
13 チューブ牽引ワイヤー
14 内層管
15 外層管
16 平板材
20 集合体
20a 脊柱
20b キャップ
21 芯材
30 電極
31 リード線
40 制御用ハンドル
41 摘み部
50 コネクタ
51 コネクタ
60 ケーブル
70 接続部
71 接続用分岐部
72 注水用チューブ
73 弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するチューブと、
基端が前記チューブの先端に接続され、それぞれの先端が接合された複数の脊柱を束ねた集合体と、
前記集合体の前記脊柱の表面に設けられた電極と、
前記チューブの内腔から前記集合体の中心を通り、前記集合体の前記脊柱の前記先端に一端が固定された集合体牽引ワイヤーと、
前記チューブの内腔に設けられ、前記チューブの先端に一端が接続されたチューブ牽引ワイヤーと、
前記チューブの基端に設けられ、前記集合体牽引ワイヤーの他端及び前記チューブ牽引ワイヤーの他端と接続された制御用ハンドルとを有することを特徴とする電極カテーテル。
【請求項2】
前記集合体は、前記制御用ハンドルの操作により、前記集合体牽引ワイヤーに引っ張られることで、前記脊柱の中央部が放射状に広がることを特徴とした請求項1に記載の電極カテーテル。
【請求項3】
前記チューブは、前記制御用ハンドルの操作により、前記チューブ牽引ワイヤーに引っ張られることで、前記チューブの先端が屈曲することを特徴とした請求項1又は2に記載の電極カテーテル。
【請求項4】
前記制御用ハンドルは、前記集合体の操作及び前記チューブの操作をそれぞれ独立して行うことを特徴とした請求項3に記載の電極カテーテル。
【請求項5】
前記チューブの基端及び前記制御用ハンドルの間に設けられ、注水用チューブが接続された分岐部をさらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電極カテーテル。
【請求項6】
前記チューブは、内腔に注水用チューブと接続されたルーメンが設けられ、前記ルーメンは前記集合体牽引ワイヤーを収納することを特徴とする請求項5に記載の電極カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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