説明

電極シート製造装置

【課題】製造コストの低減が可能な電極シート製造装置を提供する。
【解決手段】電極シート製造装置1は、連続的に搬送される集電体シートcの表面に電極活物質を含む分散層を形成する。電極シート製造装置1は、集電体シートcの表面に電極活物質を含むスラリーを塗布する塗布部12と、該塗布部12より集電体シートcの搬送方向の下流にあり、集電体シートcを加熱する乾燥装置2と、を有する。乾燥装置2は、蛇行した集電体シートcの搬送路を形成する可動ローラ14a,14bを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極シート製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、正極および負極の2種類の電極を備えている。これらの電極では、金属からなる集電体の表面にそれぞれに対応する電極活物質を含む分散層が形成されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の各電極は、一般的に、大面積の電極シートが形成された後に、該電極シートが切り分けられることにより製造される。これにより、効率的な電極の製造が可能である。電極シートの表面の分散層は、連続的に搬送されている集電体シートの表面に、電極活物質を含むスラリーが塗布され、該スラリーが加熱されてスラリーの溶媒成分が蒸発させられることにより形成される。すなわち、集電体シートの表面のスラリーが乾燥させられると電極シートの分散層となる。
【0004】
図1は一般的なリチウムイオン二次電池用電極シート製造装置101の概略構成図である。電極シート製造装置101では、まず供給ローラ111から集電体シートcが供給されると、その後、集電体シートcの表面に塗布部112によってスラリーが塗布される。塗布部112によって表面にスラリーが塗布された集電体シートcは、スラリーを乾燥させる乾燥装置102内の複数のサポートローラ113を順次経由して、ニップローラ115まで搬送される。乾燥装置102のニップローラ115に到達した集電体シートcの表面にはスラリーが乾燥した分散層が形成されている。すなわち、この時点で電極シートが完成している。ニップローラ115を通過した電極シートは回収ローラ116に巻き付けられて回収される。
【0005】
リチウムイオン二次電池用電極シート製造装置が特許文献1に開示されている。この電極シート製造装置は、図1に示した電極シート製造装置に類似した構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−040300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車の普及などにより、安価な電池が求められている。そのため、電極シートの製造コストの低減が要求されている。しかし、電極シートを製造するためには、上述したように、集電体シートの表面にスラリーを形成し、該スラリーを加熱乾燥させる必要がある。電極シートの製造コストは、電極シートの表面のスラリーを加熱乾燥させるためにかかる消費電力が大きいほど高くなる。
【0008】
そこで、本発明は、低消費電力でスラリーを乾燥可能なリチウムイオン二次電池用電極シート製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の電極シート製造装置は、連続的に搬送される集電体シートの表面に電極活物質を含む分散層を形成するリチウムイオン二次電池用電極シート製造装置であって、集電体シートの表面に電極活物質を含むスラリーを塗布する塗布部と、該塗布部よりも集電体シートの搬送方向の下流にあり、集電体シートを加熱する乾燥部と、を有し、前記乾燥部は、蛇行した集電体シートの搬送路を形成する蛇行機構を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低消費電力でスラリーを乾燥可能なリチウムイオン二次電池用電極シート製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一般的な電極シート製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電極シート製造装置の概略構成図である。
【図3】図1に示した電極シート製造装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図2は本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用電極シート製造装置1の概略構成図である。
【0014】
本実施形態に係る電極シート製造装置1では、供給ローラ11から回収ローラ16まで集電体シートcが等速で連続的に搬送される。そのために、供給ローラ11と回収ローラ16とは、集電体シートcが等速で搬送されるように、それぞれ適切な速度で回転駆動させられる。
【0015】
電極シート製造装置1では、まず供給ローラ11から集電体シートcが供給されると、その後、集電体シートcの表面に塗布部12によってスラリーが塗布される。集電体シートcには、正極と負極とのそれぞれに適した金属箔が用いられる。スラリーは、電極活物質等が溶媒に分散されたものである。正極用のスラリーには、一例として正極活物質であるリチウム金属酸化物などが溶媒に分散されたものを用いることができる。一方、負極用のスラリーには、負極活物質であるカーボン材料が溶媒に分散されたものが用いることができる。溶媒には、一般的に有機系のものが用いられる。
【0016】
本実施形態では、正極用の集電体シートcには厚さ20μmのアルミニウム箔が用いられている。正極活物質には、マンガン酸リチウムやニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウムなどが適宜用いられ、溶媒には、N−メチル−2−ピロリドンが用いられている。正極用のスラリーには、正極活物質以外に、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:PolyVinylidene DiFluoride)からなるバインダ、およびアセチレンブラックからなる導電体が溶媒に分散されている。
【0017】
また、負極用の集電体シートcには、厚さ10μmの銅箔が用いられている。負極活物質にはグラファイト粉末が用いられ、溶媒には、N−メチル−2−ピロリドンが用いられている。負極用のスラリーには、負極活物質以外に、PVDFからなるバインダ、およびアセチレンブラックからなる導電体が溶媒に分散されている。
【0018】
塗布部12によって表面にスラリーが塗布された集電体シートcは、塗布部12よりも集電体シートcの搬送方向の下流にある、スラリーを乾燥させる乾燥部である乾燥装置2内に入り、サポートローラ13の矢印A方向にあるニップローラ15まで搬送される。ここで、乾燥装置2は、第1の乾燥部21と第2の乾燥部22とを備えている。
【0019】
第1の乾燥部21は、第2の乾燥部22における可動ローラ14a,14bと接触したスラリー表面が可動ローラ14a,14bに転写しない程度にスラリーの乾燥を行う部分である。第2の乾燥部22には、加熱部22a,22b、および複数の可動ローラ14a,14bが設けられている。
【0020】
加熱部22a,22bは、第2の乾燥部22の筐体内にあり、可動ローラ14a,14bにより形成される集電体シートcの搬送路を間に挟む位置に配設されている。すなわち、加熱部22aは第2の乾燥部22の筐体の天井面付近に配置され、加熱部22bは第2の乾燥部22の筐体における天井面と対向する底面付近に配置されている。加熱部22a,22bとしては、電力を熱に変換するヒータが用いられ、該ヒータに加熱されることで第2の乾燥部22内が高温に保たれている。
【0021】
可動ローラ14a,14bは、円柱の形状をしており、円柱の軸を中心に回転可能である。本実施形態においては、第2の乾燥部22の筐体の天井面側にある可動ローラを14aとし、第2の乾燥部22の筐体の底面側にある可動ローラを14bとすると、集電体シートcは、可動ローラ14aと可動ローラ14bとを交互に順次経由してニップローラ15に達する。
【0022】
すなわち、可動ローラ14aは集電体シートcの搬送方向を加熱部22aのある方向から加熱部22bのある方向へと反転させ、可動ローラ14bは集電体シートcの搬送方向を加熱部22bのある方向から加熱部22aのある方向へと反転させる。このように、可動ローラ14a,14bは、集電体シートcの乾燥装置2内での搬送路を蛇行させる蛇行機構である。これにより、本実施形態に係る電極シート製造装置1では、集電体シートcがサポートローラ13から矢印A方向に直線的にニップローラ15まで搬送される場合よりも、集電体シートcの乾燥装置2内での搬送路が約10倍長くなっている。
【0023】
乾燥装置2内で集電体シートcの表面のスラリーが乾燥するための要素として、主に、集電体シートcの加熱温度および加熱時間が挙げられる。したがって、乾燥装置2内の温度を所定の温度に一定に保つ場合、集電体シートcの加熱時間、すなわち集電体シートcが乾燥装置2内に留まる時間が重要である。集電体シートcは等速で搬送されているため、集電体シートcが乾燥装置2内に留まる時間は乾燥装置2内での集電体シートcの搬送路の長さに依存する。
【0024】
本実施形態に係る電極シート製造装置1では、第1の乾燥部21でスラリーの表面をある程度乾燥させた後に集電体シートcが送り込まれる第2の乾燥部22における可動ローラ14a,14bによって集電体シートcの搬送路が蛇行させられている。当該蛇行させられた集電体シートcの搬送路は、直線的な搬送路に比べてかなり長くなる。そのため、集電体シートcは、スラリーの表面だけでなく内部まで乾燥するのに十分に長い時間、乾燥装置2内に留まることができる。
【0025】
一方、可動ローラ14a,14bが設けられていない集電体シートcを直線的に配置する一般的な乾燥装置の場合、乾燥時間を十分に確保するためには、乾燥部分の炉長を矢印A方向に長くする必要があるため、加熱部も同様に長くなる。特に、このような乾燥装置の場合、装置の清掃等のためのスペースを確保するために、集電体シートcから天井までの距離と底面側までの距離とを十分に広げておく必要がある。そのため、一般的な乾燥装置では、本実施形態に係る乾燥装置2に比べて、乾燥させる集電体シートcの体積に対して乾燥部の容積が大きくなり、さらに乾燥部内を所定の温度に保つために要する消費電力も大きくなる。また、乾燥装置が大型化するほど、スラリーの乾燥の時間が長くなってしまうので、消費電力の増大だけでなく、作業効率の低下も生じる。
【0026】
また、一般的な乾燥装置の場合、図2に示した乾燥装置2と同じ炉長にすると、集電体シートcに塗工したスラリーが十分乾燥しなくなる。このような乾燥装置では、集電体シートcの表面のスラリーを十分に乾燥させるためには、乾燥装置内の温度を高く設定する必要があるので、結果として乾燥装置の消費電力は大きくなってしまう。また、清掃時には作業上安全な温度になるまで冷却する必要があるが、装置運転時と清掃時との温度差が大きいために作業効率も低下する。
【0027】
したがって、本実施形態に係る電極シート製造装置1では、乾燥装置2が小型であり、かつ、乾燥装置2内の温度を高く設定する必要がないため、消費電力の低減が図れる。具体的には、電極シート製造装置1の消費電力は、乾燥対象となるスラリーの条件、電極シートの厚み、大きさ等によって異なるが、一般的な乾燥装置を用いた場合に比べて、30〜75%となった。また、電極シート製造装置1の設置面積は、一般的な乾燥装置を用いた場合に比べて、20〜75%にすることができる。
【0028】
なお、乾燥装置2内の気圧を低くすることによっても、スラリーの乾燥を促進することが可能であり、乾燥装置2は内部を減圧するポンプ等の減圧機構を備えていてもよい。
【0029】
可動ローラ14a,14bを通過した集電体シートcは、集電体シートcを挟持する一対のローラであるニップローラ15に到達する。ニップローラ15に到達した集電体シートcの表面には、スラリーが乾燥した分散層が形成されており、電極シートが完成している。ニップローラ15を通過した電極シートは、第2の乾燥部22の外に出て、回収ローラ16に巻き付けられて回収される。その後、電極シートは、各電極に切り分けられる。
【0030】
図3は本実施形態に係る電極シート製造装置1の停止時の概略構成図である。電極シート製造装置1では、可動ローラ14a,14bが、図2に示す第1の位置と、図3に示す第2の位置と、を移動可能である。
【0031】
電極シート製造装置1は、停止時に、可動ローラ14a,14bがともに互いに近接する方向に移動し、集電体シートcのサポートローラ13からニップローラ15までの搬送路が直線的になる。この状態で、乾燥装置2内の清掃が行われる。
【0032】
すなわち、可動ローラ14a,14bが乾燥装置2内の中央領域に集まっているため、可動ローラ14a,14bの清掃が容易となるだけでなく、熱源から遠い位置での清掃となるため安全性が向上する。
【0033】
さらに、本実施形態に係る電極シート製造装置1では、集電体シートcが別の集電体シートcに手動で切り替えられる際に、供給ローラから回収ローラまでの搬送路に予め集電体シートcが配置される。これにより、切り替え後の集電体シートcにスラリーを塗布できるようになる。このような手動での集電体シートcの切り替えは、図3に示すように第2の乾燥部22内の集電体シートcの搬送路を直線的にしておくことで安全に短時間で行うことができるようになる。
【0034】
このように、本実施形態に係る電極シート製造装置1では、乾燥装置2内の清掃が短時間で十分に行われることが可能である。乾燥装置2内の清掃時間は、可動ローラ14a,14bが図2に示すような搬送路を蛇行させるような第1の位置にある場合に比べて短くなる。清掃時間は集電体シートcの切り替え、品種の変更等の条件によっても異なるが、蛇行しているままの状態に比べて20〜75%となった。
【0035】
なお、図3に示した可動ローラ14a,14bが第2の位置にある場合、集電体シートcの搬送路がサポートローラ13からニップローラ15まで厳密に一直線状でなくてもよい。可動ローラ14a,14bの第2の位置は、少なくとも第1の位置よりも集電体シートcの搬送路を短くする位置であれば、乾燥装置2内の清掃が容易となる効果が得られる。
【符号の説明】
【0036】
1 電極シート製造装置
2 乾燥装置
11 供給ローラ
12 塗布部
13 サポートローラ
14a,14b 可動ローラ
15 ニップローラ
16 回収ローラ
21 第1の乾燥部
22 第2の乾燥部
22a,22b 加熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送される集電体シートの表面に電極活物質を含む分散層を形成するリチウムイオン二次電池用電極シート製造装置であって、
集電体シートの表面に電極活物質を含むスラリーを塗布する塗布部と、該塗布部よりも集電体シートの搬送方向の下流にあり、集電体シートを加熱する乾燥部と、を有し、
前記乾燥部は、蛇行した集電体シートの搬送路を形成する蛇行機構を備えていることを特徴とする電極シート製造装置。
【請求項2】
前記蛇行機構は回転可能な複数のローラを備えている、請求項1に記載の電極シート製造装置。
【請求項3】
前記各ローラは、集電体シートの搬送方向を反転させる、請求項2に記載の電極シート製造装置。
【請求項4】
前記各ローラは、前記搬送路を蛇行させる第1の位置と、該第1の位置より前記搬送路を短くする第2の位置と、の間を移動可能である、請求項2または3に記載の電極シート製造装置。
【請求項5】
前記第2の位置にある前記複数のローラは、集電体シートを直線的に搬送する、請求項4に記載の電極シート製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−238474(P2011−238474A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109131(P2010−109131)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(310010081)NECエナジーデバイス株式会社 (112)
【Fターム(参考)】