説明

電極パッド及びこれを備えた気道確保装置

【課題】簡易な作業で確実に気道を確保することができる電極パッド及びこれを備えた気道確保装置を提供すること。
【解決手段】電気刺激を供給可能な刺激供給装置3と、刺激供給装置3に電気的に接続可能な一対の電極4、5と、一対の電極4、5に対してそれぞれ電気的に接続され、導電性を有するとともに患者の皮膚に貼着可能な貼着面10aを有する一対の導電部6、7とを備え、貼着面10aは、患者Jを側方から見た状態において、患者Jの舌骨J1の少なくとも一部と、舌骨J1から上に延びるオトガイ舌骨筋J3の少なくとも一部と、舌骨J1から下に延びる胸骨舌骨筋J4の少なくとも一部とを含む範囲を被覆可能な大きさをそれぞれ有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気道閉塞状態にある患者の気道を確保するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気道閉塞状態(例えば、睡眠時無呼吸又は麻酔処置時における気道閉塞状態)にある患者に対して気道を確保するために次のようなことが行われている。
【0003】
まず、患者を仰向けに寝かせる。次に、この患者の下顎を上に引き上げる(患者の正面側に引く)。これにより、下顎の周辺組織、具体的には患者の首の正面側の組織が持ち上がり、当該正面側の組織よりも下にある気道が開く。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のように患者の下顎を引き上げる場合、気道を十分に確保することが困難である。具体的に、従来では、下顎に繋がる軟質組織を介して首の正面側の組織を間接的に引き上げるため、下顎を大きく引き上げないと十分に気道を確保することができない。そして、下顎を大きく引き上げるためには、大掛かりで煩雑な作業を要する。
【0005】
本発明の目的は、簡易な作業で確実に気道を確保することができる電極パッド及びこれを備えた気道確保装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本願発明者は、下顎の下に位置する舌骨(図4及び図5の符号J1で示す)に繋がるオトガイ舌骨筋(図4及び図5の符号J3で示す)及び胸骨舌骨筋(図4及び図5の符号J4で示す)に着目して、本発明に想到した。
【0007】
具体的に、舌骨J1が患者Jの正面側に動くと患者の気管J2が開き、舌骨J1が患者Jの背面側に動くと気管J2が狭くなることが知られている。ここで、本願発明者は、舌骨J1を運動させるためのオトガイ舌骨筋J3及び胸骨舌骨筋J4が患者Jの首の正面側の皮膚の近くに位置する点に着目して、これらの舌骨筋J3、J4に対して首の外側から電気刺激を与えるための次の発明に想到した。
【0008】
本発明は、電気刺激を供給可能な刺激供給装置に接続可能であり、前記刺激供給装置から供給された電気刺激を患者に与えるための電極パッドであって、前記刺激供給装置に電気的に接続可能な一対の電極と、前記一対の電極に対してそれぞれ電気的に接続され、導電性を有するとともに患者の皮膚に貼着可能な貼着面を有する一対の導電部とを備え、前記一対の導電部の貼着面は、患者を側方から見た状態において、患者の舌骨の少なくとも一部と、前記舌骨から上に延びるオトガイ舌骨筋の少なくとも一部と、前記舌骨から下に延びる胸骨舌骨筋の少なくとも一部とを含む範囲を被覆可能な大きさをそれぞれ有する、電極パッドを提供する。
【0009】
また、本発明は、患者の気道を確保するための気道確保装置であって、電気刺激を供給可能な刺激供給装置と、前記刺激供給装置に接続可能であり、前記刺激供給装置から供給された電気刺激を患者に与えるための前記電極パッドとを備えている、気道確保装置を提供する。
【0010】
これら本発明では、一対の導電部の貼着面が患者を側方から見た状態において、患者の舌骨の少なくとも一部と、オトガイ舌骨筋の少なくとも一部と、胸骨舌骨筋の少なくとも一部とを含む範囲を被覆可能な大きさを有する。そのため、これら導電部に対して刺激供給装置から電気刺激が供給されることにより、オトガイ舌骨筋及び胸骨舌骨筋を収縮させることができる。この収縮により、舌骨を患者の正面側に運動させて、気道を広げることができる。
【0011】
したがって、本発明によれば、電極パッドを患者の首筋に貼着するという簡易な作業で確実に気道を確保することができる。
【0012】
上記気道確保装置において、前記刺激供給装置は、前記電極パッドに電気刺激を供給可能な刺激供給部と、前記電極パッドが貼着された患者の筋肉に生じている電気信号を前記一対の電極を介して検出する信号検出部と、前記信号検出部により検出された電気信号に基づいて前記刺激供給部による電気刺激の供給時期を制御する刺激制御部とを備えていることが好ましい。
【0013】
この態様では、刺激供給装置が刺激供給部と信号検出部と刺激制御部とを有するため、気道を確保するのに適した時期に電気刺激を与えることができる。具体的に、睡眠時無呼吸等の気道閉塞状態においても、吸気予定の時期には、気道を広げる方向に筋肉を運動させようとする電気信号が筋肉に供給されている。しかし、この電気信号に見合って筋肉が運動していないため気道閉塞状態となっている。前記態様では、筋肉に供給される電気信号を検出するとともに検出された電気信号に基づいて電気刺激の供給時期を制御する。そのため、吸気予定の時期と電気刺激の供給時期とを近づけることができる。
【0014】
前記気道確保装置において、前記刺激制御部は、前記信号検出部により検出された電気信号のうち、患者が吸気しようとする吸気意図信号を特定するとともに、この吸気意図信号の検出時から所定の供給期間にわたり電気刺激を供給するように前記刺激供給部を制御することが好ましい。
【0015】
この態様では、吸気意図信号の検出時から所定の供給期間にわたり電気刺激を供給する。これにより、患者が吸気しようとする期間中に気道を広げることができるため、患者に確実に吸気を行わせることができる。なお、電気刺激の供給を所定の供給期間に設定している理由は、患者の吸気期間がある一定の範囲(約2秒〜約6秒の範囲)内に概ね収まることにある。
【0016】
前記気道確保装置において、前記刺激制御部は、前記供給期間の満了時から電気刺激の供給が停止されるように前記刺激供給部を制御するとともに、前記供給期間の満了時から電気信号の検出が開始されるように前記信号検出部を制御することが好ましい。
【0017】
前記態様では、電気刺激の供給と電気信号の検出とを交互に行うことにより、一対の電極を電気刺激の供給及び信号検出の双方に有効に活用することができる。
【0018】
前記気道確保装置において、前記刺激制御部は、所定の検出期間中、患者の筋肉に生じている電気信号を検出するとともに、前記信号検出部により検出された電気信号に基づいて患者が吸気しようとする吸気意図信号の開始時期の周期を特定し、前記検出期間の経過後には、前記吸気意図信号の開始時期の周期に合わせて電気刺激が供給されるように前記刺激供給部を制御することが好ましい。
【0019】
この態様では、検出された電気信号に基づいて吸気意図信号の開始時期の周期を特定し、この吸気意図信号の開始時期の周期に合わせて電気刺激を供給する。つまり、前記態様では、検出期間中に検出された吸気意図信号の開始時期の周期を、以後の吸気意図信号の開始時期と仮定して電気刺激を供給する。そのため、吸気意図信号の検出時に電気刺激を供給する場合と比較して、電気信号の検出回数を減らすことができる。
【0020】
前記電極パッドにおいて、間隙が形成されるように前記一対の導電部を連結する連結部材をさらに備え、前記連結部材は、正面視で前記間隙と患者の正中線とを位置決めした状態で患者に貼着された場合に、前記舌骨の少なくとも一部、前記オトガイ舌骨筋の少なくとも一部、及び前記胸骨舌骨筋の少なくとも一部が前記一対の導電部により左右方向に挟持可能となるように、前記一対の導電部を連結することが好ましい。
【0021】
この態様では、一対の導電部によりオトガイ舌骨筋及び胸骨舌骨筋を左右両側から挟んだ状態で電気刺激を供給することができる。これにより、舌骨を運動させるための電気刺激を各筋肉に対してより有効に供給することができる。また、前記態様では、一対の導電部が連結部により連結されている。そのため、一対の導電部の間の間隙を患者の正中線に位置決めすることにより一対の導電部を患者の首の左右両側面に容易に配置することができるとともに、一対の導電部を別々に扱うよりもその取り扱いが容易となる。
【0022】
前記電極パッドにおいて、前記一対の導電部は、前記間隙を基準として左右対称の形状を有することが好ましい。
【0023】
この態様では、一対の導電部が間隙を基準として左右対称の形状を有する。そのため、オトガイ舌骨筋及び胸骨舌骨筋に対して左右両側から均等に電気刺激を供給することができる。
【0024】
前記電極パッドにおいて、前記連結部材は、前記間隙として直線状の間隙が形成されるように、前記一対の導電部を連結することが好ましい。
【0025】
この態様では、一対の導電部間に直線状の間隙が形成されている。そのため、この間隙を正中線に沿わせるように位置決めすることにより、一対の導電部を患者の首の左右両側に容易に配置することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡易な作業で確実に気道を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る気道確保装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1の電極パッドの具体的構成を示す平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】患者の組織を説明するための側面概略図であり、舌骨が背面側に位置する状態を示す。
【図5】患者の組織を説明するための底面外略図である。
【図6】患者からの検出信号と電気刺激の供給状態とを示すタイミングチャートである。
【図7】図1の刺激供給装置により実行される処理を示すフローチャートである。
【図8】患者の組織を説明するための側面概略図であり、舌骨が表面側に運動した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0029】
図1を参照して、気道確保装置1は、電極パッド2と、この電極パッド2を介して患者Jに電気刺激を供給する刺激供給装置3とを備えている。
【0030】
図2を参照して、電極パッド2は、刺激供給装置3に電気的に接続された第1電極4及び第2電極5と、第1電極4に対して電気的に接続されるとともに導電性を有する第1導電部6と、第2電極5に対して電気的に接続されるとともに導電性を有する第2導電部7と、直線状の間隙D1が形成されるように第1導電部6と第2導電部7とを連結する連結シート8とを備えている。
【0031】
電極パッド2は、左右方向の中心線C1を基準として左右対称の形状を有する。具体的に、第1電極4と第2電極5とは、前記中心線C1を基準として左右対称に配置されているとともに同じ形状を有する。また、第1導電部6と第2導電部7とは、前記中心線C1を基準として左右対称に配置されているとともに左右対称の形状を有する。そのため、以下の説明では、第1電極4及び第1導電部6を説明し、第2電極5及び第2導電部7の説明を省略する。
【0032】
図1及び図2を参照して、第1電極4は、後述する刺激供給装置3に対して電気的に接続された電極である。具体的に、第1電極4は、円形の電極板4aと、この電極板4aを刺激供給装置3に接続するための接続部4bとを有する。具体的に、接続部4bは、電極板4aの表面に立設されている。
【0033】
第1導電部6は、前記第1電極4に対して電気的に接続されているとともに導電性を有する導電層9と、この導電層9上に積層されているとともに患者Jの皮膚に貼着可能な貼着層10とを有する。導電層9は、導電性のインク(例えば、導電性を有するカーボンインク[ペースト])を後述する連結シート8上に印刷することにより形成されている。図2では、第1電極4の電極板4a以外の範囲に形成された導電層9を示しているが、導電層9は、電極板4aを覆うように形成されていてもよい。貼着層10は、患者Jの皮膚に貼着可能で、かつ、導電性を有するゲルである。具体的に、本実施形態では、イオン化合物(例えば、塩化ナトリウム、過塩素酸リチウム、塩化カリウム、塩化リチウム等)を含有させたポリヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロゲルや、イオン化合物を含有させたポリウレタンゲルなどからなるものであって、その電気抵抗が0.5〜200KΩ・cm程度となるように前記化合物の含有量を調整したものが貼着層10として使用されている。また、本実施形態では、貼着層10の連結シート8と反対側の表面が貼着面10aを構成する。
【0034】
貼着面10aは、図4に示すように、患者Jを側方から見た状態において、患者Jの舌骨J1(実線でのハッチングで示す)の略全体と、舌骨J1から上に延びるオトガイ舌骨筋J3(一点差線でのハッチングで示す)の下部と、舌骨J1から下に延びる胸骨舌骨筋J4(一点差線でのハッチングで示す)の上部とを含む範囲を被覆可能な大きさを有する。ここで、舌骨J1は、気管J2よりも正面側に設けられているとともに、図5に示すように下顎J7を下から見たときに患者Jの正面側が凸の円弧状に形成されている。舌骨J1が背面側に運動すると、当該舌骨J1よりも背面側の組織が背面側に押されることにより気管J2内の空間、つまり気道が狭くなる。オトガイ舌骨筋J3は、舌骨J1から上に向かう従い正面側に延びる筋肉である。胸骨舌骨筋J4は、舌骨J1から首の正面側の皮膚に沿って下に延びる筋肉である。これらオトガイ舌骨筋J3及び胸骨舌骨筋J4の双方が収縮することにより、図8に示すように、舌骨J1が正面側に運動し、当該舌骨J1よりも背面側の組織が正面側に移動することにより気道が広くなる。
【0035】
なお、本実施形態に係る貼着面10aは、患者Jの下顎J7を下から見た状態において、図5に示すように、舌骨J1の上に設けられた顎舌骨筋J5の一部と、舌骨J1の下に設けられた顎第二腹筋J6の一部とを含む範囲を被覆可能な大きさを有する。これらの筋肉J5、J6が収縮することによっても、舌骨J1は、正面側に運動する。
【0036】
連結シート8は、電極パッド2の中心線C1に沿った直線状の間隙D1が形成されるように前記各導電部6、7を連結する。具体的には図2に示すように、連結シート8のうち間隙D1に相当する部分には、前記導電層9が非設置である。また、連結シート8は、前記導電層9よりも導電性の小さな材料(例えば、Polyethylene Terephthalate)からなる。なお、本実施形態では、連結シート8のうち間隙D1に相当する部分に貼着層10が設けられているが、この貼着層10を介した両導電部6、7間の通電は、前記間隙D1及び/又は両電極4、5間に印加される電圧及び/又は周波数(例えば、間隙20mm、電圧30V、周波数150Hz)を調整することによって抑制されている。電圧及び/又は周波数の調整を調整することなく両導電部6、7間の通電を阻止するために、連結シート8の間隙D1に相当する部分の貼着層10を省略することもできる。
【0037】
次に、前記電極パッド2を患者Jに貼着する手順について説明する。まず、両導電部6、7間の直線状の間隙D1を患者Jの正中線(左右方向の中心線)に合わせて位置決めする。具体的には、患者Jを正面から見た時に、電極パッド2の中心線C1を患者Jの正中線に合致させる。この状態で、電極パッド2の間隙D1の部分を患者Jの首の正面に貼着するとともに、この間隙D1の左右両側に位置する各導電部6、7を患者Jの背面側に湾曲させながら患者Jの首の側面に貼着する。これにより、図4に示すように、患者Jのオトガイ舌骨筋J3及び胸骨舌骨筋J4が両導電部6、7によって左右に挟まれる。図5に示すように、本実施形態では、患者Jの顎舌骨筋J5及び顎第二腹筋J6も両導電部6、7によって左右に挟まれる。詳しくは後述するが、このように患者Jに貼着された状態で、刺激供給装置3から電気刺激が供給されることにより、患者Jの舌骨J1が正面側に運動して、患者Jの気道が確保される。
【0038】
刺激供給装置3は、前記電気パッド2に電気刺激を供給可能な刺激供給部11と、前記電極パッド2が貼着された患者Jの筋肉に生じている電気信号を前記両電極4、5を介して検出する信号検出部12と、信号検出部12により検出された電気信号に基づいて刺激供給部11による電気刺激の供給時期を制御する刺激制御部14と、制御の開始又は終了のための指令を刺激制御部14に対して入力するための操作部15とを備えている。
【0039】
刺激供給部11は、両電極4、5に電気的に接続され、前記両電極4、5に対して低周波の電気刺激(例えば、電圧30V、周波数150Hz)を供給する。
【0040】
信号検出部12は、両電極4、5に電気的に接続され、前記両電極4、5と導通する筋肉に生じている電気信号を検出する。具体的に、信号検出部12は、図6に示すような電気信号Siを検出する。
【0041】
刺激制御部14は、前記信号検出部12により検出された電気信号Siのうち患者Jが吸気しようとする吸気意図信号を特定する。具体的に、刺激制御部14は、図6に示す電気信号Siのうち50Hz以上の周波数及び0.1mV以上の振幅で振動する部分を吸気意図信号であると判定する。また、刺激制御部14は、図6に示すように、前記吸気意図信号が検出された時点から所定の供給期間(例えば、2秒間)にわたり電気刺激を供給し(図6においてONで示す)、前記供給期間の経過後には電気信号の供給を停止する(図6においてOFFで示す)。具体的に、図6に示す例において、刺激制御部14は、時点t1で吸気意図信号の検出を特定し、時点t1〜時点t2の期間中電気刺激を供給している。そして、刺激制御部14は、時点t2から電気信号の検出を開始し、時点t3において再び吸気意図信号の検出を特定し、時点t3〜時点t4の期間中電気信号を供給している。その後も同様に、刺激制御部14は、時点t4から電気信号の検出を開始し、時点t5において吸気意図信号の検出を特定している。
【0042】
以下、前記刺激制御部14により実行される処理について、図7を参照して説明する。なお、刺激制御部14による処理の開始に先立って、上述のように電極パッド2が患者Jの首に貼着されているものとする。
【0043】
刺激制御部14による処理は、操作部15による開始操作がされることにより開始される(ステップS1でYES)。前記処理が開始されると、図6に示すように、各電極4、5が貼着された患者Jの筋肉に生じている電気信号Siが前記信号検出部12により検出される(ステップS2)。
【0044】
次いで、信号検出部12により検出された電気信号Siが吸気意図信号であるか否かが判定される(ステップS3)。ここで、図6に示す時点t1よりも前の期間、時点t2〜t3の期間、又は時点t4〜t5の期間のように、吸気意図信号が検出されていないと判定されると(ステップS3でNO)、繰り返し電気信号Siの検出を行う。一方、図6に示す時点t1、時点t3及び時点t5のように、吸気意図信号が検出されたと判定されると(ステップS3でYES)、電気信号Siの検出を停止する(ステップS4)。
【0045】
次いで、前記刺激供給部11により電気刺激を供給する(ステップS5)。この電気刺激は、所定の期間(本実施形態では2秒間)継続して供給される(ステップS6でYESと判定されるまでステップS5が実行される)。具体的に、図6に示す例では、時点t1〜時点t2の期間、時点t3〜時点t4の期間、及び時点t5から2秒間、電気刺激が供給される。この電気刺激の供給により患者Jの筋肉(特に、オトガイ舌骨筋J3、胸骨舌骨筋J4、顎舌骨筋J5及び顎第二腹筋J6)が収縮し、気管J2が広がることにより気道が確保される。具体的に、図4に示すように舌骨J1が背面側に位置することにより気管J2の一部が狭くなっている患者Jに対して電気刺激が供給されると、図5に示すようにオトガイ舌骨筋J3及び胸骨舌骨筋J4が収縮することにより、舌骨J1が患者Jの正面側に運動する。これにより、舌骨J1の背面側に位置する組織も正面側へ移動し、この組織の背面側に位置する気管J2が広がる。なお、本実施形態では、顎舌骨筋J5及び顎第二腹筋J6に対しても前記電気刺激が供給されるため、これらの筋肉J5、J6の収縮によっても舌骨J1が正面側に運動する。したがって、前記ステップS5により電気刺激が供給されている期間中は、患者Jの気道を広く確保することができる。これにより、患者Jは、速やかに吸気することができる。そして、前記所定の期間が経過すると(ステップS6でYES)、電気刺激の提供が停止され(ステップS7)、前記ステップS2にリターンする。
【0046】
なお、本実施形態では、ステップS1において操作部15による開始操作が入力された後(ステップS1でYESと判定された後)、前記ステップS2〜S7と並行して、操作部15による停止操作が入力されたか否かが判定される(ステップS8)。このステップS8において停止操作が入力されたと判定されると(ステップS8でYES)、前記ステップS2〜S7の実行にかかわらず、刺激制御部14の処理が終了する。
【0047】
以上説明したように、前記実施形態では、一対の導電部6、7の貼着面10aが患者Jを側方から見た状態において、舌骨J1の略全体と、オトガイ舌骨筋J3の下部と、胸骨舌骨筋J4の上部とを含む範囲を被覆可能な大きさを有する。そのため、これら導電部6、7に対して刺激供給装置3から電気刺激が供給されることにより、オトガイ舌骨筋J3及び胸骨舌骨筋J4を収縮させることができる。この収縮による、舌骨J1を患者の正面側に運動させて気道を広げることができる。
【0048】
したがって、前記実施形態によれば、電極パッド2を患者の首筋に貼着するという簡易作業で確実に気道を確保することができる。
【0049】
なお、貼着面10aは、患者Jを側方から見た状態において、舌骨J1の少なくとも一部と、オトガイ舌骨筋J3の少なくとも一部と、胸骨舌骨筋J4の少なくとも一部とを含む範囲を被覆可能な大きさを有していればよい。この大きさを持つ貼着面10aに対して刺激供給装置3から電気刺激を供給することにより、舌骨J1を患者の正面側に運動させて気道を広げることができる。
【0050】
前記実施形態では、刺激供給装置3が刺激供給部11と信号検出部12と刺激制御部14とを有するため、気道を確保するのに適した時期に電気刺激を与えることができる。具体的に、睡眠時無呼吸等の気道閉塞状態においても、吸気予定の時期には、気道を広げる方向に筋肉を運動させようとする電気信号Siが筋肉に供給されている。しかし、この電気信号Siに見合って筋肉が運動していないため気道閉塞状態となっている。前記実施形態では、筋肉に供給される電気信号Siを検出するとともに検出された電気信号Siに基づいて電気刺激の供給時期を制御する。そのため、吸気予定の時期と電気刺激の供給時期とを近づけることができる。
【0051】
前記実施形態では、吸気意図信号の検出時から所定の供給期間(本実施形態では2秒間)にわたり電気刺激を供給する。これにより、患者Jが吸気しようとする期間中に気道を広げることができるため、患者Jに確実に吸気を行わせることができる。なお、電気刺激の供給を所定の供給期間に設定している理由は、患者の吸気期間がある一定の範囲(約2秒〜約6秒の範囲)内に概ね収まることにある。
【0052】
前記実施形態では、電気刺激の供給と電気信号の検出とを交互に行うことにより、一対の電極を電気刺激の供給及び電気信号の検出の双方に有効に活用することができる。
【0053】
前記実施形態では、一対の導電部6、7によりオトガイ舌骨筋J3及び胸骨舌骨筋J4を左右両側から挟んだ状態で電気刺激を供給することができる。これにより、舌骨J1を運動させるための電気刺激を各筋肉に対してより有効に供給することができる。また、前記実施形態では、一対の導電部6、7が連結シート8により連結されている。そのため、一対の導電部6、7の間の間隙D1を患者Jの正中線に位置決めすることにより一対の導電部6、7を患者Jの首の左右両側面に容易に配置することができるとともに、一対の導電部6、7を別々に扱うよりもその取り扱いが容易となる。
【0054】
前記実施形態では、一対の導電部6、7が間隙D1を基準として左右対称の形状を有する。そのため、オトガイ舌骨筋J3及び胸骨舌骨筋J4に対して左右両側から均等に電気刺激を供給することができる。
【0055】
前記実施形態では、一対の導電部6、7間に直線状の間隙D1が形成されている。そのため、この間隙D1を正中線に沿わせるように位置決めすることにより、一対の導電部6,7を患者Jの首の左右両側に容易に配置することができる。
【0056】
なお、前記実施形態では、吸気意図信号の検出時から所定の供給期間にわたり電気信号を供給しているが、これに限定されない。例えば、一定期間(例えば、1分間)電気信号Siを検出するとともに、検出された電気信号Siに基づいて吸気意図信号の開始時期の周期を特定し、この吸気意図信号の開始時期の周期に合わせて電気刺激を供給することもできる。つまり、検出期間中に検出された吸気意図信号の開始時期の周期を、以後の吸気意図信号の開始時期と仮定して電気信号を供給することもできる。このようにすれば、吸気意図信号の検出時に電気信号を供給する場合と比較して、電気信号Siの検出回数を減らすことができる。
【符号の説明】
【0057】
D1 間隙
J 患者
J1 舌骨
J2 気管
J3 オトガイ舌骨筋
J4 胸骨舌骨筋
J7 下顎
Si 電気信号
1 気道確保装置
2 電極パッド
3 刺激供給装置
4 第1電極
5 第2電極
6 第1導電部
7 第2導電部
8 連結シート(連結部材の一例)
10a 貼着面
11 刺激供給部
12 信号検出部
14 刺激制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気刺激を供給可能な刺激供給装置に接続可能であり、前記刺激供給装置から供給された電気刺激を患者に与えるための電極パッドであって、
前記刺激供給装置に電気的に接続可能な一対の電極と、
前記一対の電極に対してそれぞれ電気的に接続され、導電性を有するとともに患者の皮膚に貼着可能な貼着面を有する一対の導電部とを備え、
前記一対の導電部の貼着面は、患者を側方から見た状態において、患者の舌骨の少なくとも一部と、前記舌骨から上に延びるオトガイ舌骨筋の少なくとも一部と、前記舌骨から下に延びる胸骨舌骨筋の少なくとも一部とを含む範囲を被覆可能な大きさをそれぞれ有する、電極パッド。
【請求項2】
患者の気道を確保するための気道確保装置であって、
電気刺激を供給可能な刺激供給装置と、
前記刺激供給装置に接続可能であり、前記刺激供給装置から供給された電気刺激を患者に与えるための請求項1に記載の電極パッドとを備えている、気道確保装置。
【請求項3】
前記刺激供給装置は、前記電極パッドに電気刺激を供給可能な刺激供給部と、前記電極パッドが貼着された患者の筋肉に生じている電気信号を前記一対の電極を介して検出する信号検出部と、前記信号検出部により検出された電気信号に基づいて前記刺激供給部による電気刺激の供給時期を制御する刺激制御部とを備えている、請求項2に記載の気道確保装置。
【請求項4】
前記刺激制御部は、前記信号検出部により検出された電気信号のうち、患者が吸気しようとする吸気意図信号を特定するとともに、この吸気意図信号の検出時から所定の供給期間にわたり電気刺激を供給するように前記刺激供給部を制御する、請求項3に記載の気道確保装置。
【請求項5】
前記刺激制御部は、前記供給期間の満了時から電気刺激の供給が停止されるように前記刺激供給部を制御するとともに、前記供給期間の満了時から電気信号の検出が開始されるように前記信号検出部を制御する、請求項4に記載の気道確保装置。
【請求項6】
前記刺激制御部は、所定の検出期間中、患者の筋肉に生じている電気信号を検出するとともに、前記信号検出部により検出された電気信号に基づいて患者が吸気しようとする吸気意図信号の開始時期の周期を特定し、前記検出期間の経過後には、前記吸気意図信号の開始時期の周期に合わせて電気刺激が供給されるように前記刺激供給部を制御する、請求項3に記載の気道確保装置。
【請求項7】
間隙が形成されるように前記一対の導電部を連結する連結部材をさらに備え、
前記連結部材は、正面視で前記間隙と患者の正中線とを位置決めした状態で患者に貼着された場合に、前記舌骨の少なくとも一部、前記オトガイ舌骨筋の少なくとも一部、及び前記胸骨舌骨筋の少なくとも一部が前記一対の導電部により左右方向に挟持可能となるように、前記一対の導電部を連結する、請求項1に記載の電極パッド。
【請求項8】
前記一対の導電部は、前記間隙を基準として左右対称の形状を有する、請求項7に記載の電極パッド。
【請求項9】
前記連結部材は、前記間隙として直線状の間隙が形成されるように、前記一対の導電部を連結する、請求項7又は8に記載の電極パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−239575(P2012−239575A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111202(P2011−111202)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年4月28日 公益社団法人 日本麻酔科学会第58回学術集会のホームページ https://member.anesth.or.jp/App/datura/news2011/j20110428.htmlにおいて、https://member.anesth.or.jp/sm/58/にてポスターP1−30−4として発表
【出願人】(511121171)
【Fターム(参考)】