電極体成形装置および電極体製造方法
【課題】 扁平形状をした捲回型の電極体を,スプリングバックを低減させつつ製造することのできる電極体成形装置および電極体製造方法を提供すること。
【解決手段】 プレス装置100は,互いに電極体20の平面部24に対応する圧迫面130において対向する上プレスヘッド110および下プレスヘッド120を備えている。そして,圧迫面130の両端には,圧迫面130より高さ方向に突出するとともに,曲面部25を圧迫するR押さえ面が形成されている。また,圧迫面130上には,非プレス時には中央部141が両端部142よりも電極体20に向けて突出する凸湾曲状であり,プレス時には電極体20の平面部24に全体が密着する平板状となる板バネ140を備えている。
【解決手段】 プレス装置100は,互いに電極体20の平面部24に対応する圧迫面130において対向する上プレスヘッド110および下プレスヘッド120を備えている。そして,圧迫面130の両端には,圧迫面130より高さ方向に突出するとともに,曲面部25を圧迫するR押さえ面が形成されている。また,圧迫面130上には,非プレス時には中央部141が両端部142よりも電極体20に向けて突出する凸湾曲状であり,プレス時には電極体20の平面部24に全体が密着する平板状となる板バネ140を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,二次電池に用いられる扁平形状をした捲回型の電極体を製造する電極体成形装置および電極体製造方法に関する。さらに詳細には,正極板と負極板との間にセパレータを挟み込みつつ中空の円筒形状に捲回してなる電極体を,扁平形状に成形する電極体成形装置および電極体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,携帯電話,ノート型パソコン,ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器や,ハイブリッド自動車,電気自動車などの車両の普及により,これらの駆動用電源に用いられる二次電池の需要は増大している。このような二次電池は,その内部に充放電を行う電極体を有している。
【0003】
扁平形状をした捲回型の電極体は,一般的に,電極板とセパレータとを中空の円筒形状に捲回後,これを直径方向に両側から押し潰すようにプレスすることにより成形される。ここにおいて,電極体は,電極板にシワを発生させないように製造されなければならない。シワの発生した箇所では,電極板の集電体と活物質層とが剥離してしまうおそれがあるからである。
【0004】
例えば,特許文献1には,扁平形状をした捲回型の電極体を,電極板とセパレータとを円筒形状に捲回後,仮潰し工程と扁平プレス工程との2工程を行うことにより製造する技術が開示されている。仮潰し工程では,円筒形状の電極体に対し,これを押圧する圧迫面に電極体の捲回軸に向かって突出した突起を有する仮潰しヘッドにより両側からプレスし,8の字形状に成形している。さらに,扁平プレス工程では,8の字形状の電極体に対し,そのくびれ部分に沿った形状の板バネを有するプレスヘッドにより両側からプレスし,扁平形状に成形している。これにより,8の字形状の電極体のくびれ部分に集中する応力を緩和させ,扁平形状をした捲回型の電極体をシワを発生させずに成形できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−224050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,特許文献1では,電極体の扁平プレス工程後において,スプリングバック(弾性復元力)が大きいという問題があった。すなわち,プレスヘッドから解放された電極体は扁平プレス中の扁平形状を維持できず,その厚さ方向にある程度もとの形状に戻ってしまうのである。
【0007】
電極体は扁平プレス工程後,例えば図12に示すような搬送治具190に挿入され,次の工程へと移送される。さらに,図13に示すような把持治具191に把持され,次の工程を行う設備へと移し替えられる。そして,スプリングバックの大きい電極体においては,搬送治具190に挿入される際や,把持治具191により把持される際に,シワが発生してしまうおそれがあった。
【0008】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点の解決を目的としてなされたものである。すなわちその課題とするところは,扁平形状をした捲回型の電極体を,スプリングバックを低減させつつ製造することのできる電極体成形装置および電極体製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の電極体成形装置は,中空円筒形状に捲回された電極体を,対向して設けられた第1および第2プレスヘッドで,直径方向に両側から挟み込んで押圧することにより,その外周面に平面部と曲面部とを形成しつつ扁平形状に成形する電極体成形装置であって,第1および第2プレスヘッドには,押圧時に電極体の外周面の平面部に対応する圧迫面と,圧迫面の両端に位置し,少なくとも押圧時には圧迫面より高さ方向に突出するとともに,電極体の外周面の曲面部を圧迫するR押さえ面とが設けられており,第1および第2プレスヘッドの圧迫面上にはそれぞれ,非押圧時には中央部が両端部よりも電極体に向けて突出する凸湾曲状であるとともに,押圧時には電極体の平面部に全体が密着する平板状となる板バネが備えられていることを特徴とする電極体成形装置である。
【0010】
本発明者らは,扁平形状をした捲回型の電極体の曲面部を圧迫して変形させることにより,スプリングバックが低減されることを発見した。そして,本形態の電極体成形装置は,電極体の曲面部を圧迫するR押さえ面を有している。さらに,R押さえ面は,板バネが平板状となり,電極体に平面部が形成された後に曲面部を圧迫するよう構成されている。これにより,R押さえ面の圧迫による押圧力が,電極体の平面部にかかることがなく,この部分にシワを発生させるおそれがない。
【0011】
また上記に記載の電極体成形装置において,R押さえ面は,電極体の幅方向外側ほど圧迫面からの突出高さが高い傾斜平面であり,R押さえ面の圧迫面からの立ち上がり角が25°以上39.6°未満の範囲内であることが好ましい。R押さえ面が平面である場合において,電極体のスプリングバックを,後工程においてシワの発生するおそれがない好ましい範囲に抑制することができるからである。
【0012】
また上記に記載の電極体成形装置において,R押さえ面は,電極体の幅方向外側ほど圧迫面からの突出高さが高く,かつ,その中腹部分が凸状となっている凸曲面であり,R押さえ面の形状は,電極体の曲面部のうちR押さえ面により変形させられる潰し代体積が,R押さえ面を圧迫面からの立ち上がり角が39.6°である傾斜平面と仮定した場合の潰し代体積に対して26.7%以上100%未満の範囲内となる形状であることが好ましい。電極体を構成する材料には,やわらかく損傷しやすいものが用いられる場合がある。このような場合には,R押さえ面の形状を,電極体を傷付けにくい曲面形状とすることが考えられる。すなわち,R押さえ面の形状が平面でない場合においては,R押さえ面の形状を,これにより変形させられる部分の体積の大きさにより規定する。これにより,R押さえ面の形状を,電極体のスプリングバックを低減させつつ,電極体を損傷しにくい形状とすることができる。
【0013】
また上記に記載の電極体成形装置において,第1および第2プレスヘッドは,圧迫面と板バネとの間に,板バネを圧迫面から離隔させる向きに付勢する補助バネを有するものであることが好ましい。電極体を扁平形状に成形後に非押圧状態となる第1および第2プレスヘッドの板バネを,再び平板状から凸湾曲状に確実に戻すことができるからである。
【0014】
また本発明は,中空円筒形状に捲回された電極体を,対向して設けられた第1および第2プレスヘッドで,直径方向に両側から挟み込んで押圧することにより,その外周面に平面部と曲面部とを形成しつつ扁平形状に成形する扁平プレス工程により扁平電極体を製造する電極体製造方法であって,第1および第2プレスヘッドとして,押圧時に電極体の外周面の平面部に対応する圧迫面と,圧迫面の両端に位置し,少なくとも押圧時には圧迫面より高さ方向に突出するとともに,電極体の外周面の曲面部を圧迫するR押さえ面とが設けられており,さらに,圧迫面上に,非押圧時には中央部が両端部よりも電極体に向けて突出する凸湾曲状であるとともに,押圧時には電極体の平面部に全体が密着する平板状となる板バネが備えられているものを用いることを特徴とする電極体製造方法にも及ぶ。
【0015】
また本発明は,上記に記載の電極体製造方法において,扁平プレス工程を,中空円筒形状に捲回された電極体をその内部に挿入した2つの部材で幅方向に拡げつつ,その幅方向中央部を高さ方向に上下から型で押圧する仮潰し工程の後で行うことを特徴とする電極体製造方法も含んでいる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,扁平形状をした捲回型の電極体を,スプリングバックを低減させつつ製造することのできる電極体成形装置および電極体製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る電池の断面図である。
【図2】実施形態に係る電池の電極体を説明するための図である。
【図3】実施形態に係る仮潰し装置の概略構成図である。
【図4】実施形態に係る仮潰し装置のロッドの動作を説明するための図である。
【図5】実施形態に係る仮潰し装置の仮潰しヘッドの動作を説明するための図である。
【図6】第1の形態に係るプレス装置の概略構成図である。
【図7】第1の形態に係るプレス装置において,上プレスヘッドが,電極体と接触する位置まで下降したときの状態を示した図である。
【図8】第1の形態に係るプレス装置において,上プレスヘッドが,電極体をほぼ扁平形状に変形させる位置まで下降した状態を示した図である。
【図9】第1の形態に係るプレス装置において,上プレスヘッドが,その下端まで下降したときの状態を示した図である。
【図10】第1の形態に係るプレス装置の板バネを規定するための実験に用いる実験装置の概略構成図である。
【図11】第1の形態に係るプレス装置の板バネを規定するための実験の結果を示すグラフ図である。
【図12】扁平形状に成形された電極体を搬送する搬送治具を示した図である。
【図13】扁平形状に成形された電極体を把持する把持治具を示した図である。
【図14】第1の形態に係るプレス装置のR押さえ面の角度を説明するための図である。
【図15】第1の形態に係るプレス装置のR押さえ面の角度とスプリングバックとの関係を調査した結果を示すグラフ図である。
【図16】第2の形態に係るプレス装置の概略構成図である。
【図17】第2の形態に係るプレス装置において,上プレスヘッドが,その下端まで下降したときの状態を示した図である。
【図18】第2の形態に係るプレス装置において,R押さえ面が,電極体を圧迫している状態を示す図である。
【図19】第3の形態のプレス装置の概略構成図である。
【図20】潰し代を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池について本発明を具体化したものである。
【0019】
[第1の形態]
図1に本形態に係る電池10の断面図を示す。図1に示すように,電池10は,電極体20と,電解液30と,これら電極体20および電解液30を収容する電池ケース40とを備えるリチウムイオン二次電池である。電池ケース40は電池ケース本体41と封口板42とを備えている。また,封口板42は,絶縁部材43と安全弁44とを備えている。
【0020】
図2は,電極体20の斜視図である。電極体20は,図2に示すように,扁平形状をした捲回型の電極体である。電極体20は,正極板と負極板とをこれらの間にセパレータを挟み込みつつ捲回することにより製造されたものである。そして,電極体20の捲回軸の軸方向は,図2における奥行き方向である。また,電極体20の図2において左右方向を幅方向とし,上下方向を高さ方向とする。
【0021】
正極板は,集電体であるアルミニウム箔の表面に,正極活物質層を形成してなる帯状のものである。正極活物質層には,例えば,コバルト酸リチウム(LiCoO2),マンガン酸リチウム(LiMnO2),ニッケル酸リチウム(LiNiO2)などの,リチウムイオンを吸蔵および放出することができる正極活物質が含まれている。
【0022】
負極板は,集電体である銅箔の表面に,負極活物質層を形成してなる帯状のものである。負極活物質層には,例えば,炭素系材料,リチウム遷移金属複合酸化物,リチウム遷移金属複合窒化物などの,リチウムイオンを吸蔵および放出することができる負極活物質が含まれている。
【0023】
セパレータは,正極板と負極板との短絡を防止しつつ,リチウムイオンを透過させることができる多孔質部材である。この多孔質部材の材質として,ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE)などが例示される。
【0024】
電極体20は,図1および図2に示すように,蓄電部21,正極端部22,負極端部23に分けられる。図1における正極端部22は,電極体20の図中左右方向(軸方向)の左端部分である。負極端部23は,電極体20の図1中左右方向の右端部分である。蓄電部21は,正極端部22と負極端部23とで挟まれた,電極体20の図1中左右方向の中央部分である。
【0025】
正極端部22は,正極板のみで構成されている部分である。また,正極板の正極端部22の部分においては,正極活物質層が形成されておらず,アルミニウム箔が露出している。負極端部23は,負極板のみで構成されている部分である。また,負極板の負極端部23の部分においては,負極活物質層が形成されておらず,銅箔が露出している。
【0026】
蓄電部21は,正極板,負極板,セパレータにより構成されている部分である。そして,正極板の蓄電部21の部分においては,正極活物質層が形成されている。また,負極板の蓄電部21の部分においては,負極活物質が形成されている。このため,蓄電部21は,充放電に寄与することができる部分である。
【0027】
そして,図1に示すように,電池10においては,正極端部22には,正極端子50が接続されている。また,負極端部23には,負極端子60が接続されている。正極端子50および負極端子60はそれぞれ,電極体20と接続されていない側の端を,ケース蓋42に設けられた絶縁部材43を介し,電池ケース40の外部に突出させている。電池10は,正極端子50および負極端子60を介し,電極体20の蓄電部21において,充電および放電を行うものである。
【0028】
扁平形状をした捲回型の電極体20の外周面には,図2に示すように,平面部24と曲面部25とがある。平面部24は,電極体20の外周面うち,幅方向(図1では上下方向)の中央の平面である部分である。曲面部25は,電極体20の外周面のうち,幅方向の両端の曲面である部分である。また,図2に示すように,平面部24の幅方向の長さをXとし,曲面部25の外周の長さをYとしている。電極体20の平面部24と曲面部25とは,正極板,負極板,セパレータを中空の円筒形状に捲回後,これを扁平形状に成形することにより形成されたものである。
【0029】
[電極体の製造方法]
電極体20は,中空の円筒形状に捲回後,概略,次の工程により扁平形状に成形される。
1.仮潰し工程
2.扁平プレス工程
そして以下,上記1から2の工程に沿って順に説明する。
【0030】
まず,「1.仮潰し工程」について図3から図5を用いて説明する。この工程は,図3から図5に示す仮潰し装置70により行われる。また,図3に示す電極体20は,正極板,負極板,セパレータを重ね合わせつつ,中空の円筒形状に捲回された直後のものである。図3から図5において,電極体20の軸方向は,図中奥行き方向である。また,図3から図5において,電極体20の幅方向は図中左右方向であり,高さ方向は図中上下方向である。そして,仮潰し装置70は,円筒形状の電極体20を,図5に示すような8の字形状に成形するためのものである。
【0031】
まず,本形態の仮潰し装置70について,図3を用いて説明する。仮潰し装置70は,円筒形状の電極体20を長円形状に開くためのロッド80およびロッド81と,仮潰しを行うための上仮潰しヘッド90および下仮潰しヘッド93とを備えている。
【0032】
ロッド80およびロッド81は,図3中の奥行き方向の長さが電極体20よりも長い,円柱形状をした部材である。ロッド80とロッド81とは,図3において左右方向に互いに離れる向きに動くことができる。
【0033】
上仮潰しヘッド90の下側には,平坦な圧迫面91が形成されている。また,圧迫面91の中央には,下向きに突出した突起部92が形成されている。突起部92の先端は,電極体20を傷付けないようにするため,R形状をしている。上仮潰しヘッド90形状は,図3において奥行き方向に同じ形状である。なお,圧迫面91および突起部92の奥行き方向の長さは,電極体20と同じくらいである。さらに,上仮潰しヘッド90は,図3において上下方向に動くことができる。
【0034】
下仮潰しヘッド93は,上仮潰しヘッド90を,電極体20を挟んで上下に対称に反した形状をしている。すなわち,下仮潰しヘッド93には,圧迫面94と突起部95とが上側に形成されている。
【0035】
そして,下仮潰しヘッド93は,図3において上下方向に動くことができる。上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とは,上下方向に互いに近づく向き,または互いに離れる向きに同時に動くことができる。つまり,上仮潰しヘッド90が下向きに動くときには下仮潰しヘッド93は上向きに動き,上仮潰しヘッド90が上向きに動くときには下仮潰しヘッド93は下向きに動くのである。さらに,上仮潰しヘッド90および下仮潰しヘッド93の動く方向は,ロッド80およびロッド81の動く方向に対して直行している。上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とは,互いに近づく向きに動くことにより,これらの間に電極体20を挟み込むことができる。
【0036】
次に,仮潰し装置70を用いた仮潰し工程について説明する。図3に示すように,仮潰し装置70に移送されてきた円筒形状の電極体20には,その内部に空間Zが存在する。空間Zには,ロッド80およびロッド81が挿入されている。
【0037】
空間Zに挿入されているロッド80およびロッド81は,図4に示すように,互いに離れる向きに動く。そして,電極体20は,ロッド80およびロッド81に押されることにより,その幅方向に長い長円形状に開かれる。
【0038】
次に,上仮潰しヘッド90は下降する。また同時に,下仮潰しヘッド93は,上昇する。このため,図5に示すように,長円形状に開かれていた電極体20は,その高さ方向に,上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とに挟み込まれる。これにより,電極体20の幅方向の中央部分においては,突起部92と突起部95とにより,その内面側がくっつくまで押圧されている。一方,電極体20の中央を除く部分においては,空間Zを残しつつ,圧迫面91と圧迫面94とに挟み込まれている。よって,電極体20の中央部分においては,その外形の上面および下面がへこむことにより,くびれ部26が形成されている。一方,電極体20の中央を除く部分においては,くびれ部26が形成された中央部分よりも膨らんでいる。本発明においては,電極体20のこの形状を,8の字形状という。そして,電極体20は,図5に示すように,仮潰し装置70により,横を向いた8の字形状に成形されている。
【0039】
その後,上仮潰しヘッド90および下仮潰しヘッド93は,図3に示す元の位置まで移動し,電極体20を解放する。また,ロッド80およびロッド81は,電極体20の空間Zから軸方向に引き抜かれる。しかし,仮潰し後の電極体20は塑性変形しているため,8の字形状を保ったままとなる。以上により,電極体20の「1.仮潰し工程」が完了する。
【0040】
次いで,「2.扁平プレス工程」について図6から図9を用いて説明する。この工程は,図6から図9に示すプレス装置100により行われる。また,図6に示す電極体20は,仮潰し装置70により8の字形状に成形された後,プレス装置100へ移送されてきたものである。そして,プレス装置100は,図6に示す8の字形状の電極体20を,図9に示すような扁平形状に成形するためのものである。なお,図6から図9においても,電極体20の軸方向は,図中奥行き方向である。また,電極体20の幅方向は図中左右方向であり,高さ方向は図中上下方向である。
【0041】
まず,本形態のプレス装置100について図6を用いて説明する。プレス装置100は,上プレスヘッド110と下プレスヘッド120とを備えている。上プレスヘッド110および下プレスヘッド120はともに,圧迫面130,板バネ140,可動部150,スプリング160,R押さえ面170を備えている。
【0042】
上プレスヘッド110には,その下側に平坦な圧迫面130が形成されている。一方,下プレスヘッド120には,その上側に平坦な圧迫面130が形成されている。上プレスヘッド110と下プレスヘッド120とは,互いに圧迫面130において対面している。
【0043】
上プレスヘッド110と下プレスヘッド120とは,互いに電極体20を挟んで上下を対称に反しただけであって,同じ構成のものである。しかし動作に関しては,上プレスヘッド110は上下に動作可能であるのに対し,下プレスヘッド120は固定である点について異なる。
【0044】
また,圧迫面130の左右方向における長さを,Aとする。圧迫面130の長さAは,図2に示す電極体20の平面部24の長さXと同じ長さである。そして,圧迫面130は,電極体20の平面部24となる部分のみを圧迫することができる。なお,圧迫面130の図6において奥行き方向の長さは,電極体20の長さと同じ位である。
【0045】
板バネ140は,図6に示すように,中央部141が電極体20に向けて突出する凸湾曲状である。詳細には,板バネ140の形状は,8の字形状の電極体20のくびれ部26に沿うような曲率をした形状をしている。板バネ140は,圧迫面130の上に,その中央部141を突出させつつ,両端部142において圧迫面130と接するように配置されている。板バネ140の中央部141の圧迫面130側は,可動部150の先端に溶接などにより固定されている。板バネ140の両端部142は,圧迫面130と接しているだけであって,固定されている訳ではない。
【0046】
また,凸湾曲状である板バネ140の長さを,Bとする。そして,板バネ140の長さBは,圧迫面130の長さAと同じである。つまり,板バネ140の長さBは,電極体20の平面部24の長さXとも同じ長さである。なお,板バネ140の図6において奥行き方向の長さは,電極体20の長さと同じ位である。
【0047】
板バネ140は,プレスを行う前の図6においては凸湾曲状であるが,プレス中の図8および図9においては,電極体20に押し付けられることにより平板状となる。すなわち,プレス中の板バネ140は,その圧迫面130側の面の全体が圧迫面130と密着するまで弾性変形する。これにより,板バネ140は,圧迫面130による圧迫を受け,電極体20の平面部24のみをその全体にわたって圧迫することができる。
【0048】
可動部150およびスプリング160は,プレス中に平板状となった板バネ140を,プレス終了後において確実に凸湾曲状に押し戻すためのものである。可動部150およびスプリング160は,圧迫面130の左右方向の中央に形成された凹部131に組付けられている。可動部150は,凹部131に沿って,上下方向にのみ移動することができる。スプリング160は,可動部150を,圧迫面130より突出する向きに付勢するための圧縮バネである。よって,スプリング160は,可動部150が凹部131の中に引っこむ際には縮むことができる。
【0049】
そして,可動部150は,スプリング160により,板バネ140の中央部141を,圧迫面130より突き出す向きに付勢している。なお,可動部150は,プレス後の板バネ140を,図6に示されるような凸湾曲状に確実に戻すことができる構成であれば良い。本形態においては,板バネ140の図6中奥行き方向の長さがそれほど長くないため,可動部150により,板バネ140の図中奥行き方向の中央部分のみを付勢する構成である。詳細には,凹部131は,圧迫面130の図6中奥行き方向の中央部分に形成された穴である。可動部150は,穴である凹部131の内壁に沿った円柱形状の部材である。
【0050】
しかし,板バネ140の図6中奥行き方向の長さが長い場合には,例えば,穴である凹部131と円柱形状である可動部150とを,図6中奥行き方向に複数設けても良い。また例えば,凹部131は図6中奥行き方向に長い溝であって,可動部150は図6中奥行き方向に長い直方体形状の部材であっても良い。このようにすることで,可動部150により,板バネ140が傾かないように,中央部141を付勢することができるからである。
【0051】
R押さえ面170は,図6に示す電極体20の幅方向の両端部分を圧迫するためのものである。電極体20の幅方向の両端部分は,図2に示す電極体20でいう,曲面部25である。R押さえ面170は,圧迫面130の左右方向両端より外側に,圧迫面130から突出するように形成された平面である。そして,R押さえ面170は,圧迫面130に対し,所定の角度θ1をなすように形成されている。角度θ1については,後に詳述する。なお,R押さえ面170の図6において奥行き方向の長さは,電極体20の長さと同じ位である。
【0052】
次に,プレス装置100を用いた扁平プレス工程について説明する。図6に示すように,プレス装置100に移送されてきた電極体20は,8の字形状をしている。電極体20は,プレス装置100に移送されてくるとともに,下プレスヘッド120の板バネ140の上に載置される。その後,上プレスヘッド110は下降し,電極体20は上プレスヘッド110と下プレスヘッド120との間に挟み込まれる。
【0053】
図7は,上プレスヘッド110が,電極体20と接触する位置まで下降したときの状態を示している。図7に示す状態においては,上プレスヘッド110および下プレスヘッド120の板バネ140はともに,まだほとんど変形していない。このため,電極体20は,プレス装置100の押圧をほとんど受けておらず,8の字形状のままである。
【0054】
そして,8の字形状の電極体20の上面は,上プレスヘッド110の板バネ140と密着している。また,8の字形状の電極体20の下面は,下プレスヘッド120の板バネ140と密着している。板バネ140が,電極体20の上面および下面に形成されたくびれ部26に沿った形状をしているからである。また,図7に示す状態においては,R押さえ面170はまだ,電極体20に接触していない。
【0055】
図8は,さらに上プレスヘッド110が,電極体20をほぼ扁平形状に変形させる位置まで下降した状態である。図8における板バネ140は,電極体20からの反力を受け,完全に平板状となっている。このため,電極体20の幅方向の中央部分には,平面部24が形成されている。また,電極体20の幅方向の両端部分には,曲面部25がほとんど形成されている。しかし,まだ曲面部25は,完全に形成されていない。すなわち,扁平プレスが完了した訳ではなく,この後,電極体20は高さ方向にさらに押し潰されることとなる。
【0056】
プレス装置100の板バネ140と電極体20とは,図7から図8にかけて,これらの接触面において滑ることなく変形している。板バネ140は,圧迫面130の圧迫と電極体20の反力とを受け,その両端部142を圧迫面130に沿って左右方向の外側に滑らせながら平板状になっている。電極体20においては,板バネ140とともに変形しているため,摩擦力を受けることなく潰されている。このため,電極体20には,その幅方向の中央部分に応力が集中することがなく,シワが発生するおそれがない。そして,R押さえ面170は,電極体20の幅方向の両端部分の外形に接触している。しかし,R押さえ面170は,電極体20に接触しているだけであって圧迫はしていない。
【0057】
ここで,板バネ140は,R押さえ面170が電極体20に接触する直前に,完全に平板状となるように規定されている。すなわち,板バネ140は,硬過ぎても軟らか過ぎても好ましくないのである。
【0058】
板バネ140が硬過ぎる場合には,R押さえ面170が,電極体20の幅方向の両端部分の外形を,電極体20に平面部24が形成される前に圧迫することとなる。すなわち,R押さえ面170の圧迫による押圧力は,8の字形状のままの電極体20のくびれた中央部分にかかることとなる。このため,板バネ140が硬過ぎる場合には,電極体20の幅方向の中央部分にシワが発生してしまうのである。
【0059】
また,板バネ140が軟らか過ぎる場合には,板バネ140が,8の字形状の電極体20のくびれ部26に密着することができない。板バネ140のバネ力が,電極体20の反力に負けてしまうからである。このため,板バネ140と電極体20との間に隙間が形成されて摩擦が発生し,電極体20にシワが発生してしまうおそれがある。よって,板バネ140が凸湾曲状から平板状に弾性変形するために必要とする荷重Wは,以下の方法により,適切な値に規定されている。
【0060】
図10は,荷重Wを規定するための実験に用いた実験装置180の概略構成図である。実験装置180は,上プレスヘッド181と下プレスヘッド183とを備えたプレス装置である。上プレスヘッド181と下プレスヘッド183とは,互いの圧迫面182と圧迫面184とにおいて対面している。
【0061】
また,圧迫面182と圧迫面184との間にあるのは,本形態に用いる電極体20である。そして,図10に示す電極体20は,円筒形状に捲回された直後のものである。圧迫面182と圧迫面184とはそれぞれ,電極体20の外周面に接している。本実験では,実験装置180により,円筒形状の電極体20が完全な扁平形状になるまで荷重を掛けた。
【0062】
図11は,本実験の結果を示すグラフ図である。図11中,実線で示す曲線が,本実験の結果である。また,横軸は,実験装置180により電極体20に掛けられた荷重である。縦軸は,電極体20の高さ方向の厚みである。図11に示すように,実験装置180により電極体20に掛けられる荷重が大きくなるにつれ,電極体20の厚みは薄くなっている。
【0063】
そして,実線で示す曲線には,傾きが大きい領域T1と傾きが小さい領域T2とが存在する。詳細には,傾きが大きい領域T1は,実線で示す曲線のうち,傾きが大きい部分の中でさらに直線で近似したときのR2乗値が0.98以上である領域のことである。傾きが小さい領域T2は,実線で示す曲線のうち,傾きが小さい部分の中でさらに直線で近似したときのR2乗値が0.98以上である領域のことである。なお,R2乗値とは,回帰式と実測値との当てはまり具合を表わす指標であり,回帰式と実測値との相関が強いほど1に近い値を示し,回帰式と実測値との相関が弱いほど0に近づく値である。
【0064】
また,図11には,傾きが大きい領域T1を直線で近似したものを,近似直線U1として一点鎖線で示している。さらに,傾きが小さい領域T2を直線で近似したものを,近似直線U2として一点鎖線で示している。近似直線U1と近似直線U2とは,点Vにおいて交差している。そして,荷重Wは,この点Vにおける荷重の値となるように規定されているのである。
【0065】
図9は,上プレスヘッド110が,その下端まで下降した状態を示している。すなわち,プレス装置100が,電極体20を,完全な扁平形状となるまでプレスしている状態である。よって,この状態での電極体20には,平面部24および曲面部25が完全に形成されている。そして,R押さえ面170は,曲面部25を圧迫している。曲面部25は,R押さえ面170の圧迫を受けることにより,所定量潰れるように変形している。以上により,「2.扁平プレス工程」が完了する。
【0066】
上プレスヘッド110は,電極体20を完全な扁平形状に成形した後,再び上端まで上昇し,電極体20を解放する。プレス装置100から解放された電極体20は,自身の弾性力により,高さ方向にある程度もとの形状へと戻る。すなわち,電極体20には,スプリングバックが発生する。また,電極体20において,プレス中の高さ方向の厚さとプレスから解放された後の高さ方向の厚さとの差の値を,スプリングバック量とする。しかし,電極体20のスプリングバック量の値は,小さい。つまり,電極体20のスプリングバックは,曲面部25が変形していることにより,低減されているのである。
【0067】
また,電極体20は,解放されるとともにプレス装置100から取り出され,後工程へと送られる。詳細には,例えば図12に示すような搬送治具190に挿入されつつ次工程へと搬送される。さらに,図13に示すような把持治具191により把持され,次の工程を行う設備へと移し替えられる。この時,スプリングバックが大きい電極体の場合には,形状が安定しておらず,変形しやすい状態のまま後工程へと送られている。このため,搬送治具190の内壁と擦れたり,また擦れることによりよれてしまったりするおそれがある。また,形状が不安定なまま把持治具191に把持されることにより,変形するおそれもある。すなわち,スプリングバックの大きい電極体には,後工程において,シワが発生するおそれがあるのである。
【0068】
しかし,本形態のプレス装置100により成形された電極体20には,後工程において,シワが発生するおそれがない。スプリングバックが低減されているからである。また,電極体20を解放した後の上プレスヘッド110および下プレスヘッド120の板バネ140は,その後,可動部150による付勢を受け,元の凸湾曲状に戻ることとなる。
【0069】
ここにおいて,R押さえ面170による曲面部25への圧迫は,強過ぎても弱過ぎても好ましくない。すなわち,R押さえ面170が曲面部25を強く圧迫し過ぎた場合,電極体20の電極板が折れてしまい,集電体から活物質層が剥がれてしまうおそれがあるからである。さらに,多孔質であるセパレータの細孔を,潰してしまうおそれもある。また,R押さえ面170による曲面部25の圧迫が弱い場合には,スプリングバックの抑制効果は小さい。そこで,本形態においては,R押さえ面170の形状は,以下のように規定されている。
【0070】
図14は,電極体20の曲面部25と,これを圧迫しているR押さえ面170とを示している。前述したように,本形態のR押さえ面170の形状は,圧迫面130に対して角度θ1をなす平面である。また,図14に示す潰し代27は,曲面部25のうち,R押さえ面170により変形させられている部分である。さらに,図14に示すR押さえ面170は,曲面部25を最大に変形させている時のものである。すなわち,潰し代27の面積が最大となる時である。
【0071】
また,図14に示す電極体20の外周面のうち,平面部24と曲面部25との境界を示す2つの点を,点Eとする。さらに,2つの点Eを結んだ直線を,直線EEとする。そして,R押さえ面170により最大に変形させられた時の曲面部25の形状は,2つのR押さえ面170と直線EEとで囲まれた三角形である。
【0072】
曲面部25を最大に変形させる時のR押さえ面170の長さCは,曲面部25の外周の長さYの半分であるY/2と同じ長さである。ここで,長さYは,曲面部25の外周の半径rを用いることにより,π・rで表わされる。よって,曲面部25を最大に変形させる時のR押さえ面170の長さCは,次式で表わされる。
C=(π・r)/2 (1)
【0073】
また,長さCは,角度θ1を用いることにより,次式で表わされる。
C=r/sinθ1 (2)
そして,式(1)および式(2)より,sinθ1は,次式で表わされる。
sinθ1=2/π (3)
これより,式(3)より求められる角度θ1は,約39.6°である。なお,式(3)より,曲面部25を最大に変形させる時のR押さえ面170の角度θ1の値は,曲面部25の外周の半径rに関係なく一定である。
【0074】
よって,圧迫面130とR押さえ面170との角度θ1は,39.6°より小さいことが好ましい。角度θ1をこれ以上の値とした場合,R押さえ面170が曲面部25を強く圧迫し過ぎることとなるからである。
【0075】
さらに,本発明者らは,角度θ1を39.6°より小さい範囲で変化させ,角度θ1とスプリングバックとの関係を調査する実験を行った。図15は,その関係を調査した結果を示すグラフ図である。横軸は,角度θ1である。縦軸は,スプリングバック量である。図15に示すように,スプリングバックは,角度θ1を大きくするほど低減されている。
【0076】
また,本形態においては,スプリングバック量が8mm以下であることが好ましい。後工程においてシワが発生しないからである。そして,スプリングバック量が8mm以下となる角度θ1は,図15より,25°以上であった。従って,本形態における角度θ1の範囲は,25°≦θ1<39.6°の範囲に規定されている。
【0077】
[効果の確認]
本発明者らは,この発明の効果を,以下の実験により確認した。この実験においては,実施例1,比較例1,比較例2の扁平形状の電極体を,それぞれ異なる方法で作製し,スプリングバックとシワの有無とについて評価した。
【0078】
実施例1,比較例1,比較例2の電極体の作製方法はいずれも,電極板とセパレータとを円筒形状に捲回後,8の字形状に仮潰しされるまでの工程は同じである。さらに,実施例1は,前述した本形態のプレス装置100を用いて扁平形状に成形された電極体である。なお,実施例1の作製には,圧迫面130とR押さえ面170との角度θ1の値を35°としたプレス装置100を用いた。
【0079】
比較例1は,本形態のプレス装置100のうち,R押さえ面170を備えていないプレス装置を用いて扁平形状に成形された電極体である。すなわち,比較例1の電極体は,扁平形状に成形された際,曲面部を全く圧迫されていない。
【0080】
比較例2は,本形態のプレス装置100のうち,板バネ140を備えていないプレス装置を用いて扁平形状に成形された電極体である。比較例2に用いたプレス装置には板バネ140がないため可動部150やスプリング160もなく,圧迫面130には凹部131が形成されていないものを用いている。なお,比較例2を作製したプレス装置においても,圧迫面130とR押さえ面170との角度θ1の値を35°とした。そして,比較例2の電極体は,扁平形状に成形された際,R押さえ面170により曲面部を圧迫されている。
【0081】
表1に,実施例1,比較例1,比較例2をそれぞれ,スプリングバックとシワの有無とについて評価した結果を示す。なお,スプリングバックの評価は8mmを基準とし,8mm以下である場合「○」とし,8mmより大きい場合「×」としている。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように,実施例1においては,スプリングバック量が8mmより小さく,シワも発生していなかった。一方,比較例1においては,シワの発生はなかったものの,スプリングバック量が8mmよりも大きく,その評価は「×」であった。比較例2においては,スプリングバック量は8mm以下であったものの,シワが発生していた。
【0084】
よって,表1に示すように,比較例1の電極板においては,扁平形状に成形された時にはシワが発生していない。しかし,スプリングバックが大きく,後工程でシワが発生するおそれがある。また,比較例2の電極板においては,スプリングバックが低減されていることが確認された。しかし,扁平形状に成形された時すでに,シワが発生していた。一方,本形態のプレス装置100を用いて作製された実施例1の電極体においては,シワが発生しておらず,スプリングバックも低減されていることが確認された。
【0085】
以上,詳細に説明したように,本発明のプレス装置100は,互いに電極体20の平面部24に対応する圧迫面130において対向する上プレスヘッド110および下プレスヘッド120を備えている。そして,圧迫面130の両端には,圧迫面130より突出するとともに曲面部25を圧迫する,圧迫面130と角度θ1をなすR押さえ面が形成されている。また,角度θ1の範囲は,25°≦θ1<39.6°の範囲である。さらに,圧迫面130上には,非プレス時には中央部141が両端部142よりも電極体20に向けて突出する凸湾曲状であり,プレス時には電極体20の平面部24に全体が密着する平板状となる板バネ140を備えている。これにより,シワのない扁平形状をした捲回型の電極体を,スプリングバックを低減させつつ製造することのできる電極体成形装置および電極体製造方法が実現されている。
【0086】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本形態では,リチウムイオン二次電池について本発明を適用したが,その他の二次電池についても本発明を適用することができる。
【0087】
また例えば,本形態においては,中空の円筒形状に捲回された電極体20を,ロッド80,81により長円形状に開き,上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とにより8の字形状に成形した後,プレス装置100により扁平形状に成形しているが,これに限るものではない。中空の円筒形状に捲回された電極体20の内部に存在する空間Zが十分に大きい場合,上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とによる8の字形状への成形は省略することもできる。すなわち,中空の円筒形状に捲回された電極体20を,ロッド80,81により長円形状に開いた状態で,プレス装置100により扁平形状に成形することもできる。
【0088】
[第2の形態]
第2の形態について説明する。本形態に係る電池10は第1の形態と同様である。また,本形態においても第1の形態と同様に,電極体20は,中空の円筒形状に捲回後,概略,次の工程により扁平形状に成形される。
1.仮潰し工程
2.扁平プレス工程
本形態においても,「1.仮潰し工程」については第1の形態と同じである。しかし,本形態では,「2.扁平プレス工程」に用いるプレス装置が第1の形態と異なる。
【0089】
よって,本形態の「2.扁平プレス工程」について,図16から図18を用いて説明する。この工程は,図16から図18に示すプレス装置200により行われる。また,図16に示す電極体20は,仮潰し装置70により8の字形状に成形された後,移送されてきたものである。そして,プレス装置200は,8の字形状の電極体20を,図18に示すような扁平形状に成形するためのものである。
【0090】
まず,本形態のプレス装置200について図16を用いて説明する。プレス装置200は,上プレスヘッド210と下プレスヘッド220とを備えている。上プレスヘッド210および下プレスヘッド220はともに,第1の形態と同じ圧迫面130,板バネ140,可動部150,スプリング160を備えている。本形態においても,上プレスヘッド210は上下に動作可能である。また,下プレスヘッド220は固定である。
【0091】
プレス装置200はさらに,上R押さえ部211,212および下R押さえ部221,222を備えている。上R押さえ部211,212は,上プレスヘッド210の左右方向の外側に位置している。上R押さえ部211,212は,上プレスヘッド210の動作とは別に,上下に動作可能である。下R押さえ部221,222は,下プレスヘッド220の左右方向の外側に位置している。下R押さえ部221,222は上下に動作可能である。
【0092】
上R押さえ部211,212にはそれぞれ,下側にR押さえ面170が形成されている。下R押さえ部221,222にはそれぞれ,上側にR押さえ面170が形成されている。本形態においても,R押さえ面170は,圧迫面130に対し,所定の角度θ1をなすように形成された平面である。さらに,角度θ1の範囲は,25°≦θ1<39.6°の範囲に規定されている。しかし,本形態のR押さえ面170は,図16に示すプレス前の状態においては,圧迫面130より引っこんでいる。
【0093】
次に,プレス装置200を用いた扁平プレス工程について説明する。図16に示すように,プレス装置200に移送されてきた電極体20は,8の字形状をしている。電極体20は,プレス装置200に移送されてくるとともに,下プレスヘッド220の板バネ140の上に載置される。その後,上プレスヘッド210は下降し,電極体20は上プレスヘッド210と下プレスヘッド220との間に挟み込まれる。
【0094】
図17は,上プレスヘッド210が,その下端まで下降したときの状態を示した図である。すなわち,上プレスヘッド210が,電極体20を扁平形状に変形させる位置まで下降した状態である。よって,電極体20の幅方向の中央部分には,平面部24が形成されている。しかし,まだ,R押さえ面170は,曲面部25と接触しておらず,曲面部25を圧迫していない。
【0095】
その後,図18に示すように,上R押さえ部211,212は,R押さえ面170が圧迫面130より完全に突出するまで下降する。また同時に,下R押さえ部221,222は,R押さえ面170が圧迫面130より完全に突出するまで上昇する。これにより,R押さえ面170は,電極体20の曲面部25を圧迫している。曲面部25は,R押さえ面170の圧迫を受けることにより,所定量潰れるように変形している。
【0096】
よって,本形態のプレス装置200を用いて製造された電極体20においても,第1の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち,電極体20を,シワを発生させることなく扁平形状に成形することができる。さらに,扁平形状に成形後の電極体20においては,スプリングバックが低減されている。
【0097】
また,本形態のプレス装置200においては,R押さえ面170が,圧迫面130とは別に動作可能である。このため,平面部24を形成し,これを確実に固定しつつ曲面部25を圧迫することができる。これにより,R押さえ面170の押圧力が電極体20の中央部分に加わるおそれがなく,電極体20の中央部分のシワの発生を確実に抑制することができる。さらに,圧迫面130とR押さえ面170とを個別に動作させることにより,平面部24を圧迫する荷重と,曲面部25を圧迫する荷重とを個別に設定することができる。従って,平面部24と曲面部25とのそれぞれを,最適な荷重で押圧することができる。
【0098】
[第3の形態]
第3の形態について説明する。本形態に係る電池10は第1の形態と同様である。また,本形態においても第1の形態と同様に,電極体20は,中空の円筒形状に捲回後,概略,次の工程により扁平形状に成形される。
1.仮潰し工程
2.扁平プレス工程
本形態においても,「1.仮潰し工程」については第1の形態と同じである。しかし,本形態では,「2.扁平プレス工程」に用いるプレス装置が第1の形態と異なる。
【0099】
本形態では,「2.扁平プレス工程」において,図19に示すプレス装置300を用いる。プレス装置300は,図19に示すように,上プレスヘッド310と下プレスヘッド320とを備えている。上プレスヘッド310および下プレスヘッド320はともに,第1の形態と同じ圧迫面130,板バネ140,可動部150,スプリング160を備えている。本形態においても,上プレスヘッド310は図19中上下に動作可能である。また,下プレスヘッド320は固定である。
【0100】
本形態の上プレスヘッド310および下プレスヘッド320はともに,第1の形態とは異なるR押さえ面370を備えている。R押さえ面370は,本形態においても,電極体20の曲面部25を圧迫するためのものである。R押さえ面370は,図19に示すように,圧迫面130の左右方向両端より外側に,圧迫面130から突き出すように形成されている。そして,R押さえ面370の断面形状は,丸みを帯びた凸状の曲面である。
【0101】
ここにおいて,本形態のR押さえ面370の形状は,圧迫面130との角度で規定することができない。曲面だからである。そこで,本形態のR押さえ面370の形状は,これにより変形させられる電極体20の曲面部25の部分である潰し代の大きさにより規定されている。そして,本形態のR押さえ面370による潰し代の大きさは,第1の形態において規定した圧迫面130とR押さえ面170との角度θ1の範囲(25°≦θ1<39.6°)を基に,以下のように規定されている。なお,本形態において,角度θ1は,本形態のR押さえ面370の形状を規定するために用いるものであって,本形態には存在していない。
【0102】
まず,図14を用いて前述したように,曲面部25のうち,第1の形態のR押さえ面170により変形させられる部分は潰し代27である。ここで,図20を用いて,第1の形態の潰し代27についてさらに説明する。図20は,図14のうち上部の曲面部25とR押さえ面170とを示した図である。すなわち,図20は,本形態のR押さえ面370による潰し代を示した図ではない。
【0103】
図20において,点Dは,曲面部25の外形である円弧の中心点である。点Eは,前述ではあるが,電極体20の外形のうち,平面部24と曲面部25との境界を示す点である。点Fは,曲面部25の外形とR押さえ面170との交点である。
【0104】
図20に示すように,点Dと点Eとを結ぶ直線を,直線DEとする。点Dと点Fとを結ぶ直線を,直線DFとする。直線DEおよび直線DFの長さはともに,曲面部25の外形の半径rである。また,点Eと点Fとを結ぶ直線を,直線EFとする。
【0105】
さらに,点Eと点Fとを,曲面部25の外形である円弧上で結ぶ曲線を,円弧Gとする。直線DEと直角を成し,直線DEと点Fとを結ぶ直線を,直線hとする。加えて,直線DEと直線EFとの角度および直線DFと直線EFとの角度を,角度θ2とする。直線DEと直線DFとの角度を,角度θ3とする。
【0106】
平面部24の外形と直線DEとは,点Eにおいて直角に交わっているため,角度θ2は次式で表わされる。
θ2=90°−θ1 (4)
そして,直線DE,直線EF,直線DFにより形成されている三角形の内角の和は180°であるため,角度θ3は次式で表わされる。
θ3=180°−2θ2 (5)
すなわち,式(4)と式(5)とにより,次の関係が成り立つ。
θ3=2θ1 (6)
【0107】
また,潰し代27の面積Iは,直線DE,円弧点G,直線DFで囲まれた扇形部分の面積Jと,直線DE,直線EF,直線DFで囲まれた三角形部分の面積Kとの差により求めることができる。面積Jは,次式で表わされる。
J=π・r2・(θ3/360) (7)
また,直線hの長さは,r・sinθ3であるため,面積Kは,次式で表わされる。
K=(r2・sinθ3)/2 (8)
【0108】
よって,潰し代27の面積Iは,関係(6),式(7),式(8)より,半径rと角度θ1を用いて次式で表わされる。
I={π・r2・(2θ1/360)}−{(r2・sin2θ1)/2} (9)
【0109】
ここにおいて,角度θ1の範囲は,第1の形態において前述したように25°≦θ1<39.6°の範囲である。そして,この範囲は,式(9)を用いることにより,角度θ1が最大となる39.6°の時の面積Iを100%とした潰し代割合Ipで表わすと,26.7%≦Ip<100%で表わされる。よって,第1の形態において,潰し代27の潰し代割合Ipは,26.7%≦Ip<100%の範囲内となっている。
【0110】
そして,本形態のR押さえ面370により変形させられる曲面部25の部分である潰し代の大きさにおいても,第1の形態のR押さえ面170により変形させられる曲面部25の部分である潰し代27の大きさと同程度であることが好ましい。すなわち,本形態のR押さえ面370による潰し代の,第1の形態における角度θ1が39.6°のときのR押さえ面170による潰し代27に対する割合である潰し代割合Ipにおいても,26.7%≦Ip<100%を満たすことが好ましい。よって,本形態のR押さえ面370の断面形状は,これにより変形させられる曲面部25の部分である潰し代の潰し代割合Ipが,26.7%≦Ip<100%を満たすような凸状の曲面となるように規定されている。
【0111】
よって,本形態のプレス装置300を用いて製造される電極体20においても,R押さえ面370による曲面部25への圧迫が弱過ぎることがなく,電極体20のスプリングバックを低減することができる。また,R押さえ面370が曲面部25を強く圧迫し過ぎることがなく,電極体20を損傷させるおそれもない。さらに,本形態のように,R押さえ面に丸みを付けることにより,電極体20に損傷しやすい材質のものを用いた場合においても,電極体20を傷付けずに圧迫することができる。加えて,本形態のプレス装置300においても,電極体20にシワを発生させるおそれがない。
【0112】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本形態においては,R押さえ面370が,上プレスヘッド310および下プレスヘッド320に形成されている。すなわち,圧迫面130と同時に動作する。しかし,第2の形態のように,R押さえ面370を,圧迫面130とは別に動作することができる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0113】
20…電極体
24…平面部
25…曲面部
100…プレス装置
110…上プレスヘッド
120…下プレスヘッド
130…圧迫面
140…板バネ
141…中央部
142…両端部
150…可動部
160…スプリング
170…R押さえ面
【技術分野】
【0001】
本発明は,二次電池に用いられる扁平形状をした捲回型の電極体を製造する電極体成形装置および電極体製造方法に関する。さらに詳細には,正極板と負極板との間にセパレータを挟み込みつつ中空の円筒形状に捲回してなる電極体を,扁平形状に成形する電極体成形装置および電極体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,携帯電話,ノート型パソコン,ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器や,ハイブリッド自動車,電気自動車などの車両の普及により,これらの駆動用電源に用いられる二次電池の需要は増大している。このような二次電池は,その内部に充放電を行う電極体を有している。
【0003】
扁平形状をした捲回型の電極体は,一般的に,電極板とセパレータとを中空の円筒形状に捲回後,これを直径方向に両側から押し潰すようにプレスすることにより成形される。ここにおいて,電極体は,電極板にシワを発生させないように製造されなければならない。シワの発生した箇所では,電極板の集電体と活物質層とが剥離してしまうおそれがあるからである。
【0004】
例えば,特許文献1には,扁平形状をした捲回型の電極体を,電極板とセパレータとを円筒形状に捲回後,仮潰し工程と扁平プレス工程との2工程を行うことにより製造する技術が開示されている。仮潰し工程では,円筒形状の電極体に対し,これを押圧する圧迫面に電極体の捲回軸に向かって突出した突起を有する仮潰しヘッドにより両側からプレスし,8の字形状に成形している。さらに,扁平プレス工程では,8の字形状の電極体に対し,そのくびれ部分に沿った形状の板バネを有するプレスヘッドにより両側からプレスし,扁平形状に成形している。これにより,8の字形状の電極体のくびれ部分に集中する応力を緩和させ,扁平形状をした捲回型の電極体をシワを発生させずに成形できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−224050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,特許文献1では,電極体の扁平プレス工程後において,スプリングバック(弾性復元力)が大きいという問題があった。すなわち,プレスヘッドから解放された電極体は扁平プレス中の扁平形状を維持できず,その厚さ方向にある程度もとの形状に戻ってしまうのである。
【0007】
電極体は扁平プレス工程後,例えば図12に示すような搬送治具190に挿入され,次の工程へと移送される。さらに,図13に示すような把持治具191に把持され,次の工程を行う設備へと移し替えられる。そして,スプリングバックの大きい電極体においては,搬送治具190に挿入される際や,把持治具191により把持される際に,シワが発生してしまうおそれがあった。
【0008】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点の解決を目的としてなされたものである。すなわちその課題とするところは,扁平形状をした捲回型の電極体を,スプリングバックを低減させつつ製造することのできる電極体成形装置および電極体製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の電極体成形装置は,中空円筒形状に捲回された電極体を,対向して設けられた第1および第2プレスヘッドで,直径方向に両側から挟み込んで押圧することにより,その外周面に平面部と曲面部とを形成しつつ扁平形状に成形する電極体成形装置であって,第1および第2プレスヘッドには,押圧時に電極体の外周面の平面部に対応する圧迫面と,圧迫面の両端に位置し,少なくとも押圧時には圧迫面より高さ方向に突出するとともに,電極体の外周面の曲面部を圧迫するR押さえ面とが設けられており,第1および第2プレスヘッドの圧迫面上にはそれぞれ,非押圧時には中央部が両端部よりも電極体に向けて突出する凸湾曲状であるとともに,押圧時には電極体の平面部に全体が密着する平板状となる板バネが備えられていることを特徴とする電極体成形装置である。
【0010】
本発明者らは,扁平形状をした捲回型の電極体の曲面部を圧迫して変形させることにより,スプリングバックが低減されることを発見した。そして,本形態の電極体成形装置は,電極体の曲面部を圧迫するR押さえ面を有している。さらに,R押さえ面は,板バネが平板状となり,電極体に平面部が形成された後に曲面部を圧迫するよう構成されている。これにより,R押さえ面の圧迫による押圧力が,電極体の平面部にかかることがなく,この部分にシワを発生させるおそれがない。
【0011】
また上記に記載の電極体成形装置において,R押さえ面は,電極体の幅方向外側ほど圧迫面からの突出高さが高い傾斜平面であり,R押さえ面の圧迫面からの立ち上がり角が25°以上39.6°未満の範囲内であることが好ましい。R押さえ面が平面である場合において,電極体のスプリングバックを,後工程においてシワの発生するおそれがない好ましい範囲に抑制することができるからである。
【0012】
また上記に記載の電極体成形装置において,R押さえ面は,電極体の幅方向外側ほど圧迫面からの突出高さが高く,かつ,その中腹部分が凸状となっている凸曲面であり,R押さえ面の形状は,電極体の曲面部のうちR押さえ面により変形させられる潰し代体積が,R押さえ面を圧迫面からの立ち上がり角が39.6°である傾斜平面と仮定した場合の潰し代体積に対して26.7%以上100%未満の範囲内となる形状であることが好ましい。電極体を構成する材料には,やわらかく損傷しやすいものが用いられる場合がある。このような場合には,R押さえ面の形状を,電極体を傷付けにくい曲面形状とすることが考えられる。すなわち,R押さえ面の形状が平面でない場合においては,R押さえ面の形状を,これにより変形させられる部分の体積の大きさにより規定する。これにより,R押さえ面の形状を,電極体のスプリングバックを低減させつつ,電極体を損傷しにくい形状とすることができる。
【0013】
また上記に記載の電極体成形装置において,第1および第2プレスヘッドは,圧迫面と板バネとの間に,板バネを圧迫面から離隔させる向きに付勢する補助バネを有するものであることが好ましい。電極体を扁平形状に成形後に非押圧状態となる第1および第2プレスヘッドの板バネを,再び平板状から凸湾曲状に確実に戻すことができるからである。
【0014】
また本発明は,中空円筒形状に捲回された電極体を,対向して設けられた第1および第2プレスヘッドで,直径方向に両側から挟み込んで押圧することにより,その外周面に平面部と曲面部とを形成しつつ扁平形状に成形する扁平プレス工程により扁平電極体を製造する電極体製造方法であって,第1および第2プレスヘッドとして,押圧時に電極体の外周面の平面部に対応する圧迫面と,圧迫面の両端に位置し,少なくとも押圧時には圧迫面より高さ方向に突出するとともに,電極体の外周面の曲面部を圧迫するR押さえ面とが設けられており,さらに,圧迫面上に,非押圧時には中央部が両端部よりも電極体に向けて突出する凸湾曲状であるとともに,押圧時には電極体の平面部に全体が密着する平板状となる板バネが備えられているものを用いることを特徴とする電極体製造方法にも及ぶ。
【0015】
また本発明は,上記に記載の電極体製造方法において,扁平プレス工程を,中空円筒形状に捲回された電極体をその内部に挿入した2つの部材で幅方向に拡げつつ,その幅方向中央部を高さ方向に上下から型で押圧する仮潰し工程の後で行うことを特徴とする電極体製造方法も含んでいる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,扁平形状をした捲回型の電極体を,スプリングバックを低減させつつ製造することのできる電極体成形装置および電極体製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る電池の断面図である。
【図2】実施形態に係る電池の電極体を説明するための図である。
【図3】実施形態に係る仮潰し装置の概略構成図である。
【図4】実施形態に係る仮潰し装置のロッドの動作を説明するための図である。
【図5】実施形態に係る仮潰し装置の仮潰しヘッドの動作を説明するための図である。
【図6】第1の形態に係るプレス装置の概略構成図である。
【図7】第1の形態に係るプレス装置において,上プレスヘッドが,電極体と接触する位置まで下降したときの状態を示した図である。
【図8】第1の形態に係るプレス装置において,上プレスヘッドが,電極体をほぼ扁平形状に変形させる位置まで下降した状態を示した図である。
【図9】第1の形態に係るプレス装置において,上プレスヘッドが,その下端まで下降したときの状態を示した図である。
【図10】第1の形態に係るプレス装置の板バネを規定するための実験に用いる実験装置の概略構成図である。
【図11】第1の形態に係るプレス装置の板バネを規定するための実験の結果を示すグラフ図である。
【図12】扁平形状に成形された電極体を搬送する搬送治具を示した図である。
【図13】扁平形状に成形された電極体を把持する把持治具を示した図である。
【図14】第1の形態に係るプレス装置のR押さえ面の角度を説明するための図である。
【図15】第1の形態に係るプレス装置のR押さえ面の角度とスプリングバックとの関係を調査した結果を示すグラフ図である。
【図16】第2の形態に係るプレス装置の概略構成図である。
【図17】第2の形態に係るプレス装置において,上プレスヘッドが,その下端まで下降したときの状態を示した図である。
【図18】第2の形態に係るプレス装置において,R押さえ面が,電極体を圧迫している状態を示す図である。
【図19】第3の形態のプレス装置の概略構成図である。
【図20】潰し代を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池について本発明を具体化したものである。
【0019】
[第1の形態]
図1に本形態に係る電池10の断面図を示す。図1に示すように,電池10は,電極体20と,電解液30と,これら電極体20および電解液30を収容する電池ケース40とを備えるリチウムイオン二次電池である。電池ケース40は電池ケース本体41と封口板42とを備えている。また,封口板42は,絶縁部材43と安全弁44とを備えている。
【0020】
図2は,電極体20の斜視図である。電極体20は,図2に示すように,扁平形状をした捲回型の電極体である。電極体20は,正極板と負極板とをこれらの間にセパレータを挟み込みつつ捲回することにより製造されたものである。そして,電極体20の捲回軸の軸方向は,図2における奥行き方向である。また,電極体20の図2において左右方向を幅方向とし,上下方向を高さ方向とする。
【0021】
正極板は,集電体であるアルミニウム箔の表面に,正極活物質層を形成してなる帯状のものである。正極活物質層には,例えば,コバルト酸リチウム(LiCoO2),マンガン酸リチウム(LiMnO2),ニッケル酸リチウム(LiNiO2)などの,リチウムイオンを吸蔵および放出することができる正極活物質が含まれている。
【0022】
負極板は,集電体である銅箔の表面に,負極活物質層を形成してなる帯状のものである。負極活物質層には,例えば,炭素系材料,リチウム遷移金属複合酸化物,リチウム遷移金属複合窒化物などの,リチウムイオンを吸蔵および放出することができる負極活物質が含まれている。
【0023】
セパレータは,正極板と負極板との短絡を防止しつつ,リチウムイオンを透過させることができる多孔質部材である。この多孔質部材の材質として,ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE)などが例示される。
【0024】
電極体20は,図1および図2に示すように,蓄電部21,正極端部22,負極端部23に分けられる。図1における正極端部22は,電極体20の図中左右方向(軸方向)の左端部分である。負極端部23は,電極体20の図1中左右方向の右端部分である。蓄電部21は,正極端部22と負極端部23とで挟まれた,電極体20の図1中左右方向の中央部分である。
【0025】
正極端部22は,正極板のみで構成されている部分である。また,正極板の正極端部22の部分においては,正極活物質層が形成されておらず,アルミニウム箔が露出している。負極端部23は,負極板のみで構成されている部分である。また,負極板の負極端部23の部分においては,負極活物質層が形成されておらず,銅箔が露出している。
【0026】
蓄電部21は,正極板,負極板,セパレータにより構成されている部分である。そして,正極板の蓄電部21の部分においては,正極活物質層が形成されている。また,負極板の蓄電部21の部分においては,負極活物質が形成されている。このため,蓄電部21は,充放電に寄与することができる部分である。
【0027】
そして,図1に示すように,電池10においては,正極端部22には,正極端子50が接続されている。また,負極端部23には,負極端子60が接続されている。正極端子50および負極端子60はそれぞれ,電極体20と接続されていない側の端を,ケース蓋42に設けられた絶縁部材43を介し,電池ケース40の外部に突出させている。電池10は,正極端子50および負極端子60を介し,電極体20の蓄電部21において,充電および放電を行うものである。
【0028】
扁平形状をした捲回型の電極体20の外周面には,図2に示すように,平面部24と曲面部25とがある。平面部24は,電極体20の外周面うち,幅方向(図1では上下方向)の中央の平面である部分である。曲面部25は,電極体20の外周面のうち,幅方向の両端の曲面である部分である。また,図2に示すように,平面部24の幅方向の長さをXとし,曲面部25の外周の長さをYとしている。電極体20の平面部24と曲面部25とは,正極板,負極板,セパレータを中空の円筒形状に捲回後,これを扁平形状に成形することにより形成されたものである。
【0029】
[電極体の製造方法]
電極体20は,中空の円筒形状に捲回後,概略,次の工程により扁平形状に成形される。
1.仮潰し工程
2.扁平プレス工程
そして以下,上記1から2の工程に沿って順に説明する。
【0030】
まず,「1.仮潰し工程」について図3から図5を用いて説明する。この工程は,図3から図5に示す仮潰し装置70により行われる。また,図3に示す電極体20は,正極板,負極板,セパレータを重ね合わせつつ,中空の円筒形状に捲回された直後のものである。図3から図5において,電極体20の軸方向は,図中奥行き方向である。また,図3から図5において,電極体20の幅方向は図中左右方向であり,高さ方向は図中上下方向である。そして,仮潰し装置70は,円筒形状の電極体20を,図5に示すような8の字形状に成形するためのものである。
【0031】
まず,本形態の仮潰し装置70について,図3を用いて説明する。仮潰し装置70は,円筒形状の電極体20を長円形状に開くためのロッド80およびロッド81と,仮潰しを行うための上仮潰しヘッド90および下仮潰しヘッド93とを備えている。
【0032】
ロッド80およびロッド81は,図3中の奥行き方向の長さが電極体20よりも長い,円柱形状をした部材である。ロッド80とロッド81とは,図3において左右方向に互いに離れる向きに動くことができる。
【0033】
上仮潰しヘッド90の下側には,平坦な圧迫面91が形成されている。また,圧迫面91の中央には,下向きに突出した突起部92が形成されている。突起部92の先端は,電極体20を傷付けないようにするため,R形状をしている。上仮潰しヘッド90形状は,図3において奥行き方向に同じ形状である。なお,圧迫面91および突起部92の奥行き方向の長さは,電極体20と同じくらいである。さらに,上仮潰しヘッド90は,図3において上下方向に動くことができる。
【0034】
下仮潰しヘッド93は,上仮潰しヘッド90を,電極体20を挟んで上下に対称に反した形状をしている。すなわち,下仮潰しヘッド93には,圧迫面94と突起部95とが上側に形成されている。
【0035】
そして,下仮潰しヘッド93は,図3において上下方向に動くことができる。上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とは,上下方向に互いに近づく向き,または互いに離れる向きに同時に動くことができる。つまり,上仮潰しヘッド90が下向きに動くときには下仮潰しヘッド93は上向きに動き,上仮潰しヘッド90が上向きに動くときには下仮潰しヘッド93は下向きに動くのである。さらに,上仮潰しヘッド90および下仮潰しヘッド93の動く方向は,ロッド80およびロッド81の動く方向に対して直行している。上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とは,互いに近づく向きに動くことにより,これらの間に電極体20を挟み込むことができる。
【0036】
次に,仮潰し装置70を用いた仮潰し工程について説明する。図3に示すように,仮潰し装置70に移送されてきた円筒形状の電極体20には,その内部に空間Zが存在する。空間Zには,ロッド80およびロッド81が挿入されている。
【0037】
空間Zに挿入されているロッド80およびロッド81は,図4に示すように,互いに離れる向きに動く。そして,電極体20は,ロッド80およびロッド81に押されることにより,その幅方向に長い長円形状に開かれる。
【0038】
次に,上仮潰しヘッド90は下降する。また同時に,下仮潰しヘッド93は,上昇する。このため,図5に示すように,長円形状に開かれていた電極体20は,その高さ方向に,上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とに挟み込まれる。これにより,電極体20の幅方向の中央部分においては,突起部92と突起部95とにより,その内面側がくっつくまで押圧されている。一方,電極体20の中央を除く部分においては,空間Zを残しつつ,圧迫面91と圧迫面94とに挟み込まれている。よって,電極体20の中央部分においては,その外形の上面および下面がへこむことにより,くびれ部26が形成されている。一方,電極体20の中央を除く部分においては,くびれ部26が形成された中央部分よりも膨らんでいる。本発明においては,電極体20のこの形状を,8の字形状という。そして,電極体20は,図5に示すように,仮潰し装置70により,横を向いた8の字形状に成形されている。
【0039】
その後,上仮潰しヘッド90および下仮潰しヘッド93は,図3に示す元の位置まで移動し,電極体20を解放する。また,ロッド80およびロッド81は,電極体20の空間Zから軸方向に引き抜かれる。しかし,仮潰し後の電極体20は塑性変形しているため,8の字形状を保ったままとなる。以上により,電極体20の「1.仮潰し工程」が完了する。
【0040】
次いで,「2.扁平プレス工程」について図6から図9を用いて説明する。この工程は,図6から図9に示すプレス装置100により行われる。また,図6に示す電極体20は,仮潰し装置70により8の字形状に成形された後,プレス装置100へ移送されてきたものである。そして,プレス装置100は,図6に示す8の字形状の電極体20を,図9に示すような扁平形状に成形するためのものである。なお,図6から図9においても,電極体20の軸方向は,図中奥行き方向である。また,電極体20の幅方向は図中左右方向であり,高さ方向は図中上下方向である。
【0041】
まず,本形態のプレス装置100について図6を用いて説明する。プレス装置100は,上プレスヘッド110と下プレスヘッド120とを備えている。上プレスヘッド110および下プレスヘッド120はともに,圧迫面130,板バネ140,可動部150,スプリング160,R押さえ面170を備えている。
【0042】
上プレスヘッド110には,その下側に平坦な圧迫面130が形成されている。一方,下プレスヘッド120には,その上側に平坦な圧迫面130が形成されている。上プレスヘッド110と下プレスヘッド120とは,互いに圧迫面130において対面している。
【0043】
上プレスヘッド110と下プレスヘッド120とは,互いに電極体20を挟んで上下を対称に反しただけであって,同じ構成のものである。しかし動作に関しては,上プレスヘッド110は上下に動作可能であるのに対し,下プレスヘッド120は固定である点について異なる。
【0044】
また,圧迫面130の左右方向における長さを,Aとする。圧迫面130の長さAは,図2に示す電極体20の平面部24の長さXと同じ長さである。そして,圧迫面130は,電極体20の平面部24となる部分のみを圧迫することができる。なお,圧迫面130の図6において奥行き方向の長さは,電極体20の長さと同じ位である。
【0045】
板バネ140は,図6に示すように,中央部141が電極体20に向けて突出する凸湾曲状である。詳細には,板バネ140の形状は,8の字形状の電極体20のくびれ部26に沿うような曲率をした形状をしている。板バネ140は,圧迫面130の上に,その中央部141を突出させつつ,両端部142において圧迫面130と接するように配置されている。板バネ140の中央部141の圧迫面130側は,可動部150の先端に溶接などにより固定されている。板バネ140の両端部142は,圧迫面130と接しているだけであって,固定されている訳ではない。
【0046】
また,凸湾曲状である板バネ140の長さを,Bとする。そして,板バネ140の長さBは,圧迫面130の長さAと同じである。つまり,板バネ140の長さBは,電極体20の平面部24の長さXとも同じ長さである。なお,板バネ140の図6において奥行き方向の長さは,電極体20の長さと同じ位である。
【0047】
板バネ140は,プレスを行う前の図6においては凸湾曲状であるが,プレス中の図8および図9においては,電極体20に押し付けられることにより平板状となる。すなわち,プレス中の板バネ140は,その圧迫面130側の面の全体が圧迫面130と密着するまで弾性変形する。これにより,板バネ140は,圧迫面130による圧迫を受け,電極体20の平面部24のみをその全体にわたって圧迫することができる。
【0048】
可動部150およびスプリング160は,プレス中に平板状となった板バネ140を,プレス終了後において確実に凸湾曲状に押し戻すためのものである。可動部150およびスプリング160は,圧迫面130の左右方向の中央に形成された凹部131に組付けられている。可動部150は,凹部131に沿って,上下方向にのみ移動することができる。スプリング160は,可動部150を,圧迫面130より突出する向きに付勢するための圧縮バネである。よって,スプリング160は,可動部150が凹部131の中に引っこむ際には縮むことができる。
【0049】
そして,可動部150は,スプリング160により,板バネ140の中央部141を,圧迫面130より突き出す向きに付勢している。なお,可動部150は,プレス後の板バネ140を,図6に示されるような凸湾曲状に確実に戻すことができる構成であれば良い。本形態においては,板バネ140の図6中奥行き方向の長さがそれほど長くないため,可動部150により,板バネ140の図中奥行き方向の中央部分のみを付勢する構成である。詳細には,凹部131は,圧迫面130の図6中奥行き方向の中央部分に形成された穴である。可動部150は,穴である凹部131の内壁に沿った円柱形状の部材である。
【0050】
しかし,板バネ140の図6中奥行き方向の長さが長い場合には,例えば,穴である凹部131と円柱形状である可動部150とを,図6中奥行き方向に複数設けても良い。また例えば,凹部131は図6中奥行き方向に長い溝であって,可動部150は図6中奥行き方向に長い直方体形状の部材であっても良い。このようにすることで,可動部150により,板バネ140が傾かないように,中央部141を付勢することができるからである。
【0051】
R押さえ面170は,図6に示す電極体20の幅方向の両端部分を圧迫するためのものである。電極体20の幅方向の両端部分は,図2に示す電極体20でいう,曲面部25である。R押さえ面170は,圧迫面130の左右方向両端より外側に,圧迫面130から突出するように形成された平面である。そして,R押さえ面170は,圧迫面130に対し,所定の角度θ1をなすように形成されている。角度θ1については,後に詳述する。なお,R押さえ面170の図6において奥行き方向の長さは,電極体20の長さと同じ位である。
【0052】
次に,プレス装置100を用いた扁平プレス工程について説明する。図6に示すように,プレス装置100に移送されてきた電極体20は,8の字形状をしている。電極体20は,プレス装置100に移送されてくるとともに,下プレスヘッド120の板バネ140の上に載置される。その後,上プレスヘッド110は下降し,電極体20は上プレスヘッド110と下プレスヘッド120との間に挟み込まれる。
【0053】
図7は,上プレスヘッド110が,電極体20と接触する位置まで下降したときの状態を示している。図7に示す状態においては,上プレスヘッド110および下プレスヘッド120の板バネ140はともに,まだほとんど変形していない。このため,電極体20は,プレス装置100の押圧をほとんど受けておらず,8の字形状のままである。
【0054】
そして,8の字形状の電極体20の上面は,上プレスヘッド110の板バネ140と密着している。また,8の字形状の電極体20の下面は,下プレスヘッド120の板バネ140と密着している。板バネ140が,電極体20の上面および下面に形成されたくびれ部26に沿った形状をしているからである。また,図7に示す状態においては,R押さえ面170はまだ,電極体20に接触していない。
【0055】
図8は,さらに上プレスヘッド110が,電極体20をほぼ扁平形状に変形させる位置まで下降した状態である。図8における板バネ140は,電極体20からの反力を受け,完全に平板状となっている。このため,電極体20の幅方向の中央部分には,平面部24が形成されている。また,電極体20の幅方向の両端部分には,曲面部25がほとんど形成されている。しかし,まだ曲面部25は,完全に形成されていない。すなわち,扁平プレスが完了した訳ではなく,この後,電極体20は高さ方向にさらに押し潰されることとなる。
【0056】
プレス装置100の板バネ140と電極体20とは,図7から図8にかけて,これらの接触面において滑ることなく変形している。板バネ140は,圧迫面130の圧迫と電極体20の反力とを受け,その両端部142を圧迫面130に沿って左右方向の外側に滑らせながら平板状になっている。電極体20においては,板バネ140とともに変形しているため,摩擦力を受けることなく潰されている。このため,電極体20には,その幅方向の中央部分に応力が集中することがなく,シワが発生するおそれがない。そして,R押さえ面170は,電極体20の幅方向の両端部分の外形に接触している。しかし,R押さえ面170は,電極体20に接触しているだけであって圧迫はしていない。
【0057】
ここで,板バネ140は,R押さえ面170が電極体20に接触する直前に,完全に平板状となるように規定されている。すなわち,板バネ140は,硬過ぎても軟らか過ぎても好ましくないのである。
【0058】
板バネ140が硬過ぎる場合には,R押さえ面170が,電極体20の幅方向の両端部分の外形を,電極体20に平面部24が形成される前に圧迫することとなる。すなわち,R押さえ面170の圧迫による押圧力は,8の字形状のままの電極体20のくびれた中央部分にかかることとなる。このため,板バネ140が硬過ぎる場合には,電極体20の幅方向の中央部分にシワが発生してしまうのである。
【0059】
また,板バネ140が軟らか過ぎる場合には,板バネ140が,8の字形状の電極体20のくびれ部26に密着することができない。板バネ140のバネ力が,電極体20の反力に負けてしまうからである。このため,板バネ140と電極体20との間に隙間が形成されて摩擦が発生し,電極体20にシワが発生してしまうおそれがある。よって,板バネ140が凸湾曲状から平板状に弾性変形するために必要とする荷重Wは,以下の方法により,適切な値に規定されている。
【0060】
図10は,荷重Wを規定するための実験に用いた実験装置180の概略構成図である。実験装置180は,上プレスヘッド181と下プレスヘッド183とを備えたプレス装置である。上プレスヘッド181と下プレスヘッド183とは,互いの圧迫面182と圧迫面184とにおいて対面している。
【0061】
また,圧迫面182と圧迫面184との間にあるのは,本形態に用いる電極体20である。そして,図10に示す電極体20は,円筒形状に捲回された直後のものである。圧迫面182と圧迫面184とはそれぞれ,電極体20の外周面に接している。本実験では,実験装置180により,円筒形状の電極体20が完全な扁平形状になるまで荷重を掛けた。
【0062】
図11は,本実験の結果を示すグラフ図である。図11中,実線で示す曲線が,本実験の結果である。また,横軸は,実験装置180により電極体20に掛けられた荷重である。縦軸は,電極体20の高さ方向の厚みである。図11に示すように,実験装置180により電極体20に掛けられる荷重が大きくなるにつれ,電極体20の厚みは薄くなっている。
【0063】
そして,実線で示す曲線には,傾きが大きい領域T1と傾きが小さい領域T2とが存在する。詳細には,傾きが大きい領域T1は,実線で示す曲線のうち,傾きが大きい部分の中でさらに直線で近似したときのR2乗値が0.98以上である領域のことである。傾きが小さい領域T2は,実線で示す曲線のうち,傾きが小さい部分の中でさらに直線で近似したときのR2乗値が0.98以上である領域のことである。なお,R2乗値とは,回帰式と実測値との当てはまり具合を表わす指標であり,回帰式と実測値との相関が強いほど1に近い値を示し,回帰式と実測値との相関が弱いほど0に近づく値である。
【0064】
また,図11には,傾きが大きい領域T1を直線で近似したものを,近似直線U1として一点鎖線で示している。さらに,傾きが小さい領域T2を直線で近似したものを,近似直線U2として一点鎖線で示している。近似直線U1と近似直線U2とは,点Vにおいて交差している。そして,荷重Wは,この点Vにおける荷重の値となるように規定されているのである。
【0065】
図9は,上プレスヘッド110が,その下端まで下降した状態を示している。すなわち,プレス装置100が,電極体20を,完全な扁平形状となるまでプレスしている状態である。よって,この状態での電極体20には,平面部24および曲面部25が完全に形成されている。そして,R押さえ面170は,曲面部25を圧迫している。曲面部25は,R押さえ面170の圧迫を受けることにより,所定量潰れるように変形している。以上により,「2.扁平プレス工程」が完了する。
【0066】
上プレスヘッド110は,電極体20を完全な扁平形状に成形した後,再び上端まで上昇し,電極体20を解放する。プレス装置100から解放された電極体20は,自身の弾性力により,高さ方向にある程度もとの形状へと戻る。すなわち,電極体20には,スプリングバックが発生する。また,電極体20において,プレス中の高さ方向の厚さとプレスから解放された後の高さ方向の厚さとの差の値を,スプリングバック量とする。しかし,電極体20のスプリングバック量の値は,小さい。つまり,電極体20のスプリングバックは,曲面部25が変形していることにより,低減されているのである。
【0067】
また,電極体20は,解放されるとともにプレス装置100から取り出され,後工程へと送られる。詳細には,例えば図12に示すような搬送治具190に挿入されつつ次工程へと搬送される。さらに,図13に示すような把持治具191により把持され,次の工程を行う設備へと移し替えられる。この時,スプリングバックが大きい電極体の場合には,形状が安定しておらず,変形しやすい状態のまま後工程へと送られている。このため,搬送治具190の内壁と擦れたり,また擦れることによりよれてしまったりするおそれがある。また,形状が不安定なまま把持治具191に把持されることにより,変形するおそれもある。すなわち,スプリングバックの大きい電極体には,後工程において,シワが発生するおそれがあるのである。
【0068】
しかし,本形態のプレス装置100により成形された電極体20には,後工程において,シワが発生するおそれがない。スプリングバックが低減されているからである。また,電極体20を解放した後の上プレスヘッド110および下プレスヘッド120の板バネ140は,その後,可動部150による付勢を受け,元の凸湾曲状に戻ることとなる。
【0069】
ここにおいて,R押さえ面170による曲面部25への圧迫は,強過ぎても弱過ぎても好ましくない。すなわち,R押さえ面170が曲面部25を強く圧迫し過ぎた場合,電極体20の電極板が折れてしまい,集電体から活物質層が剥がれてしまうおそれがあるからである。さらに,多孔質であるセパレータの細孔を,潰してしまうおそれもある。また,R押さえ面170による曲面部25の圧迫が弱い場合には,スプリングバックの抑制効果は小さい。そこで,本形態においては,R押さえ面170の形状は,以下のように規定されている。
【0070】
図14は,電極体20の曲面部25と,これを圧迫しているR押さえ面170とを示している。前述したように,本形態のR押さえ面170の形状は,圧迫面130に対して角度θ1をなす平面である。また,図14に示す潰し代27は,曲面部25のうち,R押さえ面170により変形させられている部分である。さらに,図14に示すR押さえ面170は,曲面部25を最大に変形させている時のものである。すなわち,潰し代27の面積が最大となる時である。
【0071】
また,図14に示す電極体20の外周面のうち,平面部24と曲面部25との境界を示す2つの点を,点Eとする。さらに,2つの点Eを結んだ直線を,直線EEとする。そして,R押さえ面170により最大に変形させられた時の曲面部25の形状は,2つのR押さえ面170と直線EEとで囲まれた三角形である。
【0072】
曲面部25を最大に変形させる時のR押さえ面170の長さCは,曲面部25の外周の長さYの半分であるY/2と同じ長さである。ここで,長さYは,曲面部25の外周の半径rを用いることにより,π・rで表わされる。よって,曲面部25を最大に変形させる時のR押さえ面170の長さCは,次式で表わされる。
C=(π・r)/2 (1)
【0073】
また,長さCは,角度θ1を用いることにより,次式で表わされる。
C=r/sinθ1 (2)
そして,式(1)および式(2)より,sinθ1は,次式で表わされる。
sinθ1=2/π (3)
これより,式(3)より求められる角度θ1は,約39.6°である。なお,式(3)より,曲面部25を最大に変形させる時のR押さえ面170の角度θ1の値は,曲面部25の外周の半径rに関係なく一定である。
【0074】
よって,圧迫面130とR押さえ面170との角度θ1は,39.6°より小さいことが好ましい。角度θ1をこれ以上の値とした場合,R押さえ面170が曲面部25を強く圧迫し過ぎることとなるからである。
【0075】
さらに,本発明者らは,角度θ1を39.6°より小さい範囲で変化させ,角度θ1とスプリングバックとの関係を調査する実験を行った。図15は,その関係を調査した結果を示すグラフ図である。横軸は,角度θ1である。縦軸は,スプリングバック量である。図15に示すように,スプリングバックは,角度θ1を大きくするほど低減されている。
【0076】
また,本形態においては,スプリングバック量が8mm以下であることが好ましい。後工程においてシワが発生しないからである。そして,スプリングバック量が8mm以下となる角度θ1は,図15より,25°以上であった。従って,本形態における角度θ1の範囲は,25°≦θ1<39.6°の範囲に規定されている。
【0077】
[効果の確認]
本発明者らは,この発明の効果を,以下の実験により確認した。この実験においては,実施例1,比較例1,比較例2の扁平形状の電極体を,それぞれ異なる方法で作製し,スプリングバックとシワの有無とについて評価した。
【0078】
実施例1,比較例1,比較例2の電極体の作製方法はいずれも,電極板とセパレータとを円筒形状に捲回後,8の字形状に仮潰しされるまでの工程は同じである。さらに,実施例1は,前述した本形態のプレス装置100を用いて扁平形状に成形された電極体である。なお,実施例1の作製には,圧迫面130とR押さえ面170との角度θ1の値を35°としたプレス装置100を用いた。
【0079】
比較例1は,本形態のプレス装置100のうち,R押さえ面170を備えていないプレス装置を用いて扁平形状に成形された電極体である。すなわち,比較例1の電極体は,扁平形状に成形された際,曲面部を全く圧迫されていない。
【0080】
比較例2は,本形態のプレス装置100のうち,板バネ140を備えていないプレス装置を用いて扁平形状に成形された電極体である。比較例2に用いたプレス装置には板バネ140がないため可動部150やスプリング160もなく,圧迫面130には凹部131が形成されていないものを用いている。なお,比較例2を作製したプレス装置においても,圧迫面130とR押さえ面170との角度θ1の値を35°とした。そして,比較例2の電極体は,扁平形状に成形された際,R押さえ面170により曲面部を圧迫されている。
【0081】
表1に,実施例1,比較例1,比較例2をそれぞれ,スプリングバックとシワの有無とについて評価した結果を示す。なお,スプリングバックの評価は8mmを基準とし,8mm以下である場合「○」とし,8mmより大きい場合「×」としている。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように,実施例1においては,スプリングバック量が8mmより小さく,シワも発生していなかった。一方,比較例1においては,シワの発生はなかったものの,スプリングバック量が8mmよりも大きく,その評価は「×」であった。比較例2においては,スプリングバック量は8mm以下であったものの,シワが発生していた。
【0084】
よって,表1に示すように,比較例1の電極板においては,扁平形状に成形された時にはシワが発生していない。しかし,スプリングバックが大きく,後工程でシワが発生するおそれがある。また,比較例2の電極板においては,スプリングバックが低減されていることが確認された。しかし,扁平形状に成形された時すでに,シワが発生していた。一方,本形態のプレス装置100を用いて作製された実施例1の電極体においては,シワが発生しておらず,スプリングバックも低減されていることが確認された。
【0085】
以上,詳細に説明したように,本発明のプレス装置100は,互いに電極体20の平面部24に対応する圧迫面130において対向する上プレスヘッド110および下プレスヘッド120を備えている。そして,圧迫面130の両端には,圧迫面130より突出するとともに曲面部25を圧迫する,圧迫面130と角度θ1をなすR押さえ面が形成されている。また,角度θ1の範囲は,25°≦θ1<39.6°の範囲である。さらに,圧迫面130上には,非プレス時には中央部141が両端部142よりも電極体20に向けて突出する凸湾曲状であり,プレス時には電極体20の平面部24に全体が密着する平板状となる板バネ140を備えている。これにより,シワのない扁平形状をした捲回型の電極体を,スプリングバックを低減させつつ製造することのできる電極体成形装置および電極体製造方法が実現されている。
【0086】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本形態では,リチウムイオン二次電池について本発明を適用したが,その他の二次電池についても本発明を適用することができる。
【0087】
また例えば,本形態においては,中空の円筒形状に捲回された電極体20を,ロッド80,81により長円形状に開き,上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とにより8の字形状に成形した後,プレス装置100により扁平形状に成形しているが,これに限るものではない。中空の円筒形状に捲回された電極体20の内部に存在する空間Zが十分に大きい場合,上仮潰しヘッド90と下仮潰しヘッド93とによる8の字形状への成形は省略することもできる。すなわち,中空の円筒形状に捲回された電極体20を,ロッド80,81により長円形状に開いた状態で,プレス装置100により扁平形状に成形することもできる。
【0088】
[第2の形態]
第2の形態について説明する。本形態に係る電池10は第1の形態と同様である。また,本形態においても第1の形態と同様に,電極体20は,中空の円筒形状に捲回後,概略,次の工程により扁平形状に成形される。
1.仮潰し工程
2.扁平プレス工程
本形態においても,「1.仮潰し工程」については第1の形態と同じである。しかし,本形態では,「2.扁平プレス工程」に用いるプレス装置が第1の形態と異なる。
【0089】
よって,本形態の「2.扁平プレス工程」について,図16から図18を用いて説明する。この工程は,図16から図18に示すプレス装置200により行われる。また,図16に示す電極体20は,仮潰し装置70により8の字形状に成形された後,移送されてきたものである。そして,プレス装置200は,8の字形状の電極体20を,図18に示すような扁平形状に成形するためのものである。
【0090】
まず,本形態のプレス装置200について図16を用いて説明する。プレス装置200は,上プレスヘッド210と下プレスヘッド220とを備えている。上プレスヘッド210および下プレスヘッド220はともに,第1の形態と同じ圧迫面130,板バネ140,可動部150,スプリング160を備えている。本形態においても,上プレスヘッド210は上下に動作可能である。また,下プレスヘッド220は固定である。
【0091】
プレス装置200はさらに,上R押さえ部211,212および下R押さえ部221,222を備えている。上R押さえ部211,212は,上プレスヘッド210の左右方向の外側に位置している。上R押さえ部211,212は,上プレスヘッド210の動作とは別に,上下に動作可能である。下R押さえ部221,222は,下プレスヘッド220の左右方向の外側に位置している。下R押さえ部221,222は上下に動作可能である。
【0092】
上R押さえ部211,212にはそれぞれ,下側にR押さえ面170が形成されている。下R押さえ部221,222にはそれぞれ,上側にR押さえ面170が形成されている。本形態においても,R押さえ面170は,圧迫面130に対し,所定の角度θ1をなすように形成された平面である。さらに,角度θ1の範囲は,25°≦θ1<39.6°の範囲に規定されている。しかし,本形態のR押さえ面170は,図16に示すプレス前の状態においては,圧迫面130より引っこんでいる。
【0093】
次に,プレス装置200を用いた扁平プレス工程について説明する。図16に示すように,プレス装置200に移送されてきた電極体20は,8の字形状をしている。電極体20は,プレス装置200に移送されてくるとともに,下プレスヘッド220の板バネ140の上に載置される。その後,上プレスヘッド210は下降し,電極体20は上プレスヘッド210と下プレスヘッド220との間に挟み込まれる。
【0094】
図17は,上プレスヘッド210が,その下端まで下降したときの状態を示した図である。すなわち,上プレスヘッド210が,電極体20を扁平形状に変形させる位置まで下降した状態である。よって,電極体20の幅方向の中央部分には,平面部24が形成されている。しかし,まだ,R押さえ面170は,曲面部25と接触しておらず,曲面部25を圧迫していない。
【0095】
その後,図18に示すように,上R押さえ部211,212は,R押さえ面170が圧迫面130より完全に突出するまで下降する。また同時に,下R押さえ部221,222は,R押さえ面170が圧迫面130より完全に突出するまで上昇する。これにより,R押さえ面170は,電極体20の曲面部25を圧迫している。曲面部25は,R押さえ面170の圧迫を受けることにより,所定量潰れるように変形している。
【0096】
よって,本形態のプレス装置200を用いて製造された電極体20においても,第1の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち,電極体20を,シワを発生させることなく扁平形状に成形することができる。さらに,扁平形状に成形後の電極体20においては,スプリングバックが低減されている。
【0097】
また,本形態のプレス装置200においては,R押さえ面170が,圧迫面130とは別に動作可能である。このため,平面部24を形成し,これを確実に固定しつつ曲面部25を圧迫することができる。これにより,R押さえ面170の押圧力が電極体20の中央部分に加わるおそれがなく,電極体20の中央部分のシワの発生を確実に抑制することができる。さらに,圧迫面130とR押さえ面170とを個別に動作させることにより,平面部24を圧迫する荷重と,曲面部25を圧迫する荷重とを個別に設定することができる。従って,平面部24と曲面部25とのそれぞれを,最適な荷重で押圧することができる。
【0098】
[第3の形態]
第3の形態について説明する。本形態に係る電池10は第1の形態と同様である。また,本形態においても第1の形態と同様に,電極体20は,中空の円筒形状に捲回後,概略,次の工程により扁平形状に成形される。
1.仮潰し工程
2.扁平プレス工程
本形態においても,「1.仮潰し工程」については第1の形態と同じである。しかし,本形態では,「2.扁平プレス工程」に用いるプレス装置が第1の形態と異なる。
【0099】
本形態では,「2.扁平プレス工程」において,図19に示すプレス装置300を用いる。プレス装置300は,図19に示すように,上プレスヘッド310と下プレスヘッド320とを備えている。上プレスヘッド310および下プレスヘッド320はともに,第1の形態と同じ圧迫面130,板バネ140,可動部150,スプリング160を備えている。本形態においても,上プレスヘッド310は図19中上下に動作可能である。また,下プレスヘッド320は固定である。
【0100】
本形態の上プレスヘッド310および下プレスヘッド320はともに,第1の形態とは異なるR押さえ面370を備えている。R押さえ面370は,本形態においても,電極体20の曲面部25を圧迫するためのものである。R押さえ面370は,図19に示すように,圧迫面130の左右方向両端より外側に,圧迫面130から突き出すように形成されている。そして,R押さえ面370の断面形状は,丸みを帯びた凸状の曲面である。
【0101】
ここにおいて,本形態のR押さえ面370の形状は,圧迫面130との角度で規定することができない。曲面だからである。そこで,本形態のR押さえ面370の形状は,これにより変形させられる電極体20の曲面部25の部分である潰し代の大きさにより規定されている。そして,本形態のR押さえ面370による潰し代の大きさは,第1の形態において規定した圧迫面130とR押さえ面170との角度θ1の範囲(25°≦θ1<39.6°)を基に,以下のように規定されている。なお,本形態において,角度θ1は,本形態のR押さえ面370の形状を規定するために用いるものであって,本形態には存在していない。
【0102】
まず,図14を用いて前述したように,曲面部25のうち,第1の形態のR押さえ面170により変形させられる部分は潰し代27である。ここで,図20を用いて,第1の形態の潰し代27についてさらに説明する。図20は,図14のうち上部の曲面部25とR押さえ面170とを示した図である。すなわち,図20は,本形態のR押さえ面370による潰し代を示した図ではない。
【0103】
図20において,点Dは,曲面部25の外形である円弧の中心点である。点Eは,前述ではあるが,電極体20の外形のうち,平面部24と曲面部25との境界を示す点である。点Fは,曲面部25の外形とR押さえ面170との交点である。
【0104】
図20に示すように,点Dと点Eとを結ぶ直線を,直線DEとする。点Dと点Fとを結ぶ直線を,直線DFとする。直線DEおよび直線DFの長さはともに,曲面部25の外形の半径rである。また,点Eと点Fとを結ぶ直線を,直線EFとする。
【0105】
さらに,点Eと点Fとを,曲面部25の外形である円弧上で結ぶ曲線を,円弧Gとする。直線DEと直角を成し,直線DEと点Fとを結ぶ直線を,直線hとする。加えて,直線DEと直線EFとの角度および直線DFと直線EFとの角度を,角度θ2とする。直線DEと直線DFとの角度を,角度θ3とする。
【0106】
平面部24の外形と直線DEとは,点Eにおいて直角に交わっているため,角度θ2は次式で表わされる。
θ2=90°−θ1 (4)
そして,直線DE,直線EF,直線DFにより形成されている三角形の内角の和は180°であるため,角度θ3は次式で表わされる。
θ3=180°−2θ2 (5)
すなわち,式(4)と式(5)とにより,次の関係が成り立つ。
θ3=2θ1 (6)
【0107】
また,潰し代27の面積Iは,直線DE,円弧点G,直線DFで囲まれた扇形部分の面積Jと,直線DE,直線EF,直線DFで囲まれた三角形部分の面積Kとの差により求めることができる。面積Jは,次式で表わされる。
J=π・r2・(θ3/360) (7)
また,直線hの長さは,r・sinθ3であるため,面積Kは,次式で表わされる。
K=(r2・sinθ3)/2 (8)
【0108】
よって,潰し代27の面積Iは,関係(6),式(7),式(8)より,半径rと角度θ1を用いて次式で表わされる。
I={π・r2・(2θ1/360)}−{(r2・sin2θ1)/2} (9)
【0109】
ここにおいて,角度θ1の範囲は,第1の形態において前述したように25°≦θ1<39.6°の範囲である。そして,この範囲は,式(9)を用いることにより,角度θ1が最大となる39.6°の時の面積Iを100%とした潰し代割合Ipで表わすと,26.7%≦Ip<100%で表わされる。よって,第1の形態において,潰し代27の潰し代割合Ipは,26.7%≦Ip<100%の範囲内となっている。
【0110】
そして,本形態のR押さえ面370により変形させられる曲面部25の部分である潰し代の大きさにおいても,第1の形態のR押さえ面170により変形させられる曲面部25の部分である潰し代27の大きさと同程度であることが好ましい。すなわち,本形態のR押さえ面370による潰し代の,第1の形態における角度θ1が39.6°のときのR押さえ面170による潰し代27に対する割合である潰し代割合Ipにおいても,26.7%≦Ip<100%を満たすことが好ましい。よって,本形態のR押さえ面370の断面形状は,これにより変形させられる曲面部25の部分である潰し代の潰し代割合Ipが,26.7%≦Ip<100%を満たすような凸状の曲面となるように規定されている。
【0111】
よって,本形態のプレス装置300を用いて製造される電極体20においても,R押さえ面370による曲面部25への圧迫が弱過ぎることがなく,電極体20のスプリングバックを低減することができる。また,R押さえ面370が曲面部25を強く圧迫し過ぎることがなく,電極体20を損傷させるおそれもない。さらに,本形態のように,R押さえ面に丸みを付けることにより,電極体20に損傷しやすい材質のものを用いた場合においても,電極体20を傷付けずに圧迫することができる。加えて,本形態のプレス装置300においても,電極体20にシワを発生させるおそれがない。
【0112】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本形態においては,R押さえ面370が,上プレスヘッド310および下プレスヘッド320に形成されている。すなわち,圧迫面130と同時に動作する。しかし,第2の形態のように,R押さえ面370を,圧迫面130とは別に動作することができる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0113】
20…電極体
24…平面部
25…曲面部
100…プレス装置
110…上プレスヘッド
120…下プレスヘッド
130…圧迫面
140…板バネ
141…中央部
142…両端部
150…可動部
160…スプリング
170…R押さえ面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒形状に捲回された電極体を,対向して設けられた第1および第2プレスヘッドで,直径方向に両側から挟み込んで押圧することにより,その外周面に平面部と曲面部とを形成しつつ扁平形状に成形する電極体成形装置において,
前記第1および第2プレスヘッドには,
押圧時に電極体の外周面の前記平面部に対応する圧迫面と,
前記圧迫面の両端に位置し,少なくとも押圧時には前記圧迫面より高さ方向に突出するとともに,電極体の外周面の前記曲面部を圧迫するR押さえ面とが設けられており,
前記第1および第2プレスヘッドの前記圧迫面上にはそれぞれ,非押圧時には中央部が両端部よりも電極体に向けて突出する凸湾曲状であるとともに,押圧時には電極体の前記平面部に全体が密着する平板状となる板バネが備えられていることを特徴とする電極体成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電極体成形装置において,
前記R押さえ面は,電極体の幅方向外側ほど前記圧迫面からの突出高さが高い傾斜平面であり,
前記R押さえ面の前記圧迫面からの立ち上がり角が25°以上39.6°未満の範囲内であることを特徴とする電極体成形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電極体成形装置において,
前記R押さえ面は,電極体の幅方向外側ほど前記圧迫面からの突出高さが高く,かつ,その中腹部分が凸状となっている凸曲面であり,
前記R押さえ面の形状は,
電極体の前記曲面部のうち前記R押さえ面により変形させられる潰し代体積が,
前記R押さえ面を前記圧迫面からの立ち上がり角が39.6°である傾斜平面と仮定した場合の潰し代体積に対して26.7%以上100%未満の範囲内となる形状であることを特徴とする電極体成形装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の電極体成形装置において,
前記第1および第2プレスヘッドは,前記圧迫面と前記板バネとの間に,前記板バネを前記圧迫面から離隔させる向きに付勢する補助バネを有するものであることを特徴とする電極体成形装置。
【請求項5】
中空円筒形状に捲回された電極体を,対向して設けられた第1および第2プレスヘッドで,直径方向に両側から挟み込んで押圧することにより,その外周面に平面部と曲面部とを形成しつつ扁平形状に成形する扁平プレス工程により扁平電極体を製造する電極体製造方法において,
前記第1および第2プレスヘッドとして,
押圧時に電極体の外周面の前記平面部に対応する圧迫面と,
前記圧迫面の両端に位置し,少なくとも押圧時には前記圧迫面より高さ方向に突出するとともに,電極体の外周面の前記曲面部を圧迫するR押さえ面とが設けられており,さらに,
前記圧迫面上に,非押圧時には中央部が両端部よりも電極体に向けて突出する凸湾曲状であるとともに,押圧時には電極体の前記平面部に全体が密着する平板状となる板バネが備えられているものを用いることを特徴とする電極体製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電極体製造方法において,
前記扁平プレス工程を,中空円筒形状に捲回された電極体をその内部に挿入した2つの部材で幅方向に拡げつつ,その幅方向中央部を高さ方向に上下から型で押圧する仮潰し工程の後で行うことを特徴とする電極体製造方法。
【請求項1】
中空円筒形状に捲回された電極体を,対向して設けられた第1および第2プレスヘッドで,直径方向に両側から挟み込んで押圧することにより,その外周面に平面部と曲面部とを形成しつつ扁平形状に成形する電極体成形装置において,
前記第1および第2プレスヘッドには,
押圧時に電極体の外周面の前記平面部に対応する圧迫面と,
前記圧迫面の両端に位置し,少なくとも押圧時には前記圧迫面より高さ方向に突出するとともに,電極体の外周面の前記曲面部を圧迫するR押さえ面とが設けられており,
前記第1および第2プレスヘッドの前記圧迫面上にはそれぞれ,非押圧時には中央部が両端部よりも電極体に向けて突出する凸湾曲状であるとともに,押圧時には電極体の前記平面部に全体が密着する平板状となる板バネが備えられていることを特徴とする電極体成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電極体成形装置において,
前記R押さえ面は,電極体の幅方向外側ほど前記圧迫面からの突出高さが高い傾斜平面であり,
前記R押さえ面の前記圧迫面からの立ち上がり角が25°以上39.6°未満の範囲内であることを特徴とする電極体成形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電極体成形装置において,
前記R押さえ面は,電極体の幅方向外側ほど前記圧迫面からの突出高さが高く,かつ,その中腹部分が凸状となっている凸曲面であり,
前記R押さえ面の形状は,
電極体の前記曲面部のうち前記R押さえ面により変形させられる潰し代体積が,
前記R押さえ面を前記圧迫面からの立ち上がり角が39.6°である傾斜平面と仮定した場合の潰し代体積に対して26.7%以上100%未満の範囲内となる形状であることを特徴とする電極体成形装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の電極体成形装置において,
前記第1および第2プレスヘッドは,前記圧迫面と前記板バネとの間に,前記板バネを前記圧迫面から離隔させる向きに付勢する補助バネを有するものであることを特徴とする電極体成形装置。
【請求項5】
中空円筒形状に捲回された電極体を,対向して設けられた第1および第2プレスヘッドで,直径方向に両側から挟み込んで押圧することにより,その外周面に平面部と曲面部とを形成しつつ扁平形状に成形する扁平プレス工程により扁平電極体を製造する電極体製造方法において,
前記第1および第2プレスヘッドとして,
押圧時に電極体の外周面の前記平面部に対応する圧迫面と,
前記圧迫面の両端に位置し,少なくとも押圧時には前記圧迫面より高さ方向に突出するとともに,電極体の外周面の前記曲面部を圧迫するR押さえ面とが設けられており,さらに,
前記圧迫面上に,非押圧時には中央部が両端部よりも電極体に向けて突出する凸湾曲状であるとともに,押圧時には電極体の前記平面部に全体が密着する平板状となる板バネが備えられているものを用いることを特徴とする電極体製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電極体製造方法において,
前記扁平プレス工程を,中空円筒形状に捲回された電極体をその内部に挿入した2つの部材で幅方向に拡げつつ,その幅方向中央部を高さ方向に上下から型で押圧する仮潰し工程の後で行うことを特徴とする電極体製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−84445(P2013−84445A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223531(P2011−223531)
【出願日】平成23年10月10日(2011.10.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月10日(2011.10.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]