説明

電極処理装置および水晶振動子製造システム

【課題】水晶振動子の電極に対して所定の処理を行う電極処理装置、および、特定物質の検出用の水晶振動子を製造する水晶振動子製造システムを提供する。
【解決手段】キャリア9では、所定の方向に一列に並ぶ水晶振動子81を振動子列80として、複数の振動子列80が当該方向に垂直な配列方向に配列した状態で保持される。主感応膜形成部6では、複数の処理槽61の内部に複数の振動子列80がそれぞれ配置され、複数の処理槽61において複数の振動子列80の電極に対する処理が同時に行われる。このように、振動子列80毎に処理槽61が設けられることにより、3次元的流動が抑制され、不均一、あるいは、不良水晶振動子の発生が抑制され、また、処理中の各振動子列80において他の振動子列80からの不要物の付着が防止され、各水晶振動子81への他の水晶振動子81からの影響が制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子の電極に対して所定の処理を行う電極処理装置、および、特定物質の検出用の水晶振動子を製造する水晶振動子製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の物質の濃度を検出する装置において水晶振動子が多く用いられており、板状の水晶片の両主面に1対の電極がそれぞれ形成された水晶振動子において、電極上に当該物質を吸着する感応膜を形成することにより、当該物質の検出用の水晶振動子(すなわち、当該装置における検出部となる水晶振動子)が製造される。感応膜は、例えば、電極上に形成された金属酸化物等の薄膜(以下、「中間膜」という。)上に形成され、特許文献1では、蒸気状態の金属酸化物前駆体を電極に接触させることにより電極上に金属酸化物前駆体の薄膜を形成し、金属酸化物前駆体の薄膜を加水分解することにより金属酸化物の薄膜である中間膜を形成し、その後、水晶振動子を有機材料を含む処理液が貯溜された処理槽に所定の時間だけ浸漬することにより中間膜上に感応膜を形成する手法が開示されている。
【0003】
また、特許文献1では背景技術として、金属酸化物前駆体の溶液を用いて金属酸化物の薄膜を形成する手法も開示されており、このように、処理液中に水晶振動子を浸漬することにより電極上に成膜を行う場合には、高価な真空成膜装置を用いて成膜を行う場合に比べて(真空成膜装置を用いる水晶振動子への成膜に関して、例えば特許文献2参照)、1回の成膜処理にて多数の水晶振動子に対して、安価に薄膜を形成することが可能となる。
【特許文献1】特開2007−61752号公報
【特許文献2】特開平5−320902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、多数の水晶振動子を水平面上の直交する2方向に配列して保持しつつ、大型の処理槽内の処理液中に水晶振動子を浸漬することにより電極上に成膜を行う際に、水晶振動子の処理槽への進入動作や振動、あるいは、水晶振動子自体の温度のばらつき、または、処理液や処理蒸気の温度不均一、それらを供給する際の運動エネルギー、周囲の空気流等により、処理中の処理液や処理蒸気の偏った3次元的流動が発生し、成膜が不均一、あるいは、成膜不良が発生する。また、万一、一の水晶振動子に不要物が付着していると、処理中に当該不要物が周囲の水晶振動子にも付着して、多くの水晶振動子が不良となる場合がある。したがって、処理中の3次元的流動を抑制する、あるいは、処理中の各水晶振動子において他の水晶振動子からの影響を制限する手法が必要となる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、処理中の3次元的流動を抑制する、あるいは、処理中の各水晶振動子において他の水晶振動子からの影響を制限することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された水晶振動子において、前記1対の電極の少なくとも1つの電極に対して所定の処理を行う電極処理装置であって、所定の方向に一列に並ぶ水晶振動子を振動子列として、複数の振動子列を前記所定の方向に垂直な配列方向に配列した状態で保持する保持部と、前記複数の振動子列が内部にそれぞれ配置されることにより、前記複数の振動子列において、前記少なくとも1つの電極に対して同時に処理を行う複数の処理槽とを備える。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電極処理装置であって、前記保持部が、前記複数の振動子列をそれぞれ保持する複数のホルダと、前記複数のホルダを前記配列方向に配列して支持する保持部本体とを備える。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電極処理装置であって、前記保持部本体が、前記複数の振動子列を前記複数の処理槽内に配置する際に、アームにより下方から支持される鍔部を有する。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の電極処理装置であって、前記複数の処理槽内に処理液が貯溜され、前記処理において前記処理液中に前記複数の振動子列が浸漬され、前記処理が、前記少なくとも1つの電極上に薄膜を形成する処理である。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電極処理装置であって、前記複数の処理槽に処理液を供給する共通の処理液タンクをさらに備える。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の電極処理装置であって、前記複数の処理槽内に処理蒸気が供給され、前記処理が、前記少なくとも1つの電極上に薄膜を形成する処理である。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項4ないし6のいずれかに記載の電極処理装置であって、各水晶振動子において、前記1対の電極および前記水晶片の前記1対の電極が形成された部位が第1振動子とされ、前記両主面にさらに形成された他の1対の電極および前記水晶片の前記他の1対の電極が形成された部位が第2振動子とされ、前記他の1対の電極を含むとともに前記少なくとも1つの電極を除く残りの電極が成膜対象外とされる。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の電極処理装置であって、前記薄膜が形成された前記第1振動子が、アルコール検出用の振動子である、または、アルコール検出用の前記第2振動子からの出力補正用の振動子である。
【0014】
請求項9に記載の発明は、特定物質の検出用の水晶振動子を製造する水晶振動子製造システムであって、板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された複数の水晶振動子のそれぞれにおいて、前記1対の電極の少なくとも1つの電極上に中間膜を形成する中間膜形成部と、前記中間膜上に前記特定物質を吸着する感応膜を形成する感応膜形成部とを備え、前記中間膜形成部または前記感応膜形成部が、請求項1ないし8のいずれかに記載の電極処理装置を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、処理中の3次元的流動を抑制する、あるいは、処理中の各水晶振動子において他の水晶振動子からの影響を制限することができる。
【0016】
また、請求項2の発明では、多数の水晶振動子を直交する2方向に配列しつつ容易に保持することができ、請求項3の発明では、保持部本体を容易に支持することができる。
【0017】
また、請求項4および6の発明では、複数の振動子列において電極上に形成される膜を均一にすることができ、請求項5の発明では、複数の振動子列において電極上に形成される膜をさらに均一にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は水晶振動子81の正面図であり、図2は水晶振動子81の背面図である。図1および図2の水晶振動子81は、後述の水晶振動子製造システム1(図3参照)における処理対象となるものである。
【0019】
水晶振動子81は、例えば、直径9ミリメートル(mm)の略円形の板状(円形以外であってもよい。)の水晶片82を有し、図1に示す水晶片82の一の主面821上には、例えば金(Au)にて形成される2つの矩形の電極831,841が形成される。これらの電極831,841は端部(図1中の下側の端部)にて同様の材料にて形成される矩形の補助部851を介して互いに電気的に接続される。図2に示す水晶片82の他の主面822上には、電極831,841にそれぞれ対向する位置に(すなわち、主面822に垂直な方向において重なる位置に)電極831,841と同形状の電極832,842が同様に金にて形成される。電極832,842は離間しており、各電極832,842の外側(水晶片82の外縁側)には、電極832,842と電気的に接続する矩形の補助部852,853が同様の材料にて形成される。
【0020】
水晶振動子81は、所定の金属にて形成される引出線である3本のリード871,872,873を有し、これらのリード871〜873は、図1および図2の横方向に並んだ状態で、絶縁性材料にて形成されるブロック状の部材86(リード871〜873から周囲に突出する部材と捉えることができるため、以下、「フランジ部86」という。)にて固定される。リード871〜873は、フランジ部86の水晶片82側の面861および当該面861とは反対側の面862の双方から突出しており、面862から突出する部位は互いに平行に直線状に伸びている。また、両端のリード872,873の面861から突出する部位は、互いに離れるようにして外側に湾曲し、さらにその先端側にて面861から離れるように面861の垂線におよそ沿う方向に湾曲している。リード871〜873の面861から突出する部位の端部(以下、「サポータ」という。)8711,8721,8731は、水晶振動子81の側面から見て二股に分かれており、水晶片82は各サポータ8711,8721,8731にて挟持され、リード871〜873およびフランジ部86(「ベース」と総称される。)に対して固定される。
【0021】
中央のリード871のサポータ8711は、図1に示す水晶片82の主面821上にて補助部851に導電性接着剤にて接着され、両端のリード872,873のサポータ8721,8731は、図2に示す水晶片82の主面822上にて補助部852,853に導電性接着剤にてそれぞれ接着される。
【0022】
水晶振動子81において、両主面821,822にそれぞれ形成された1対の電極841,842、および、水晶片82の電極841,842が形成された部位は1つの振動子(以下、「第1振動子」と呼ぶ。)881となっており、両主面821,822にそれぞれ形成された他の1対の電極831,832、および、水晶片82の電極831,832が形成された部位も、第1振動子と独立して振動する1つの振動子(以下、「第2振動子」と呼ぶ。)882となっている。
【0023】
図3は、本発明の一の実施の形態に係る水晶振動子製造システム1の構成を示す図である。図3の水晶振動子製造システム1は、水晶振動子81の電極841(図1参照)に所定の薄膜を多層に形成することにより、アルコール検出用の水晶振動子(エチルアルコールを検出する装置(いわゆる、匂いセンサ)における検出部となる水晶振動子)を製造するものである。水晶振動子製造システム1では、後述するように複数の水晶振動子81が保持部であるキャリア9にて保持され、キャリア9内の全ての水晶振動子81に対して同様の処理が行われる(すなわち、バッチ式の処理が行われる。)。
【0024】
図3の水晶振動子製造システム1は、硫酸(HSO)および過酸化水素(H)を含む洗浄液を用いて水晶片82の表面(電極を含む。)のコンタミネーションや有機物等の不要物を除去する前洗浄部31、電極に対してチオール処理等の前処理を施す前処理部32、水晶片82の主面821上の1つの電極841上にエチルアルコールを検出するための多層膜を形成することにより電極841,842にて構成される主感応電極対を形成する主感応電極形成部4、キャリア9を前洗浄部31、前処理部32および主感応電極形成部4に搬送する搬送部2、並びに、水晶振動子製造システム1の各構成要素を制御する全体制御部10を備える。
【0025】
主感応電極形成部4は、電極841上に中間膜を形成する中間膜形成部5、中間膜が形成された直後の水晶片82を純水(純水の蒸気であってもよい。後述の洗浄部42において同様。)にて洗浄するとともに乾燥する洗浄部41、中間膜上にアルコール検出用の膜(すなわち、エチルアルコールを選択的に吸着させるための構造を有する膜であり、以下、「主感応膜」という。)を形成する主感応膜形成部6、並びに、主感応膜が形成された直後の水晶片82を純水にて洗浄するとともに乾燥する洗浄部42を備える。水晶振動子製造システム1では、処理前のキャリア9が載置される投入部11(ローダ)から、全体処理後のキャリア9が載置される払出部12(アンローダ)に向かって前洗浄部31、前処理部32、並びに、主感応電極形成部4の中間膜形成部5、洗浄部41、主感応膜形成部6および洗浄部42が順に一列に配列され、これらの構成のそれぞれでは、キャリア9を単位とする処理が行われる。
【0026】
ここで、キャリア9について説明する。図4はキャリア9の正面図であり、図5はキャリア9の側面図である。図4および図5に示すように、キャリア9は直方体の複数の辺に対応するフレーム(ただし、直方体の底面の外縁を構成する4つの辺に対応する部位(梁)は存在しない。)により形成されるキャリア本体91、および、それぞれが長いブロック状の複数のホルダ92を有する。
【0027】
図6に示すように、各ホルダ92は2つの分割部材921に分離可能とされ、当該2つの分割部材921の互いに対向する面(1つの部材(ホルダ92)として結合された際に当接する面)に形成される凹部923にてフランジ部86を挟持することにより、複数の水晶振動子81がホルダ92にて保持される。実際には、図5に示すように、複数の水晶振動子81は、水晶片82を下方に向けた状態で、ホルダ92の長手方向に配列して保持される。以下の説明では、各ホルダ92に保持されて、ホルダ92の長手方向に一列に並ぶ水晶振動子81を「振動子列80」と呼ぶ。
【0028】
各ホルダ92の端部には水平方向(図5の紙面に垂直な方向)に伸びる貫通孔が形成されており、図4に示すように、複数のホルダ92の貫通孔にはボルト922が通されるとともに、ボルト922の両端部はキャリア本体91の鉛直方向(図4の上下方向)に伸びる2本の梁にそれぞれ固定される。これにより、図4の複数のホルダ92は、ボルト922が伸びる方向(以下、「配列方向」という。)に配列した状態で、キャリア本体91により強固に支持され、複数のホルダ92にそれぞれ保持される複数の振動子列80(図5参照)がホルダ92の長手方向に垂直な配列方向に配列される。図4および図5ではキャリア9を簡略化して図示しており、実際には、キャリア9にて20〜40個のホルダ92が保持され、各ホルダ92には10〜20個の水晶振動子81が取り付けられることにより、キャリア9にて200〜800個の水晶振動子81が水平面上の直交する2方向に配列して保持されている。
【0029】
キャリア本体91の下部において底面に相当する矩形の四隅には下方に突出する4個の脚部913がそれぞれ形成される。また、キャリア本体91の上部には図4の横方向の両外側にそれぞれ突出するとともに、ホルダ92の長手方向に長くされる2つの鍔部912が形成される。
【0030】
キャリア9には、さらに、複数の水晶振動子81のうちの1つの水晶振動子81の発振周波数を取得する測定部(図示省略)が設けられ、測定部の出力値は無線発信器を介して全体制御部10(図3参照)に送信される。後述するアルコール検出用の水晶振動子の製造では、測定部の出力値に基づいて成膜処理の良否の判定(および、必要に応じて成膜処理の終了点の検出)がリアルタイムにて行われる(いわゆる、インサイチュウモニタリングが行われる)ことにより、不良となっているにもかかわらず、当該キャリア9の水晶振動子81に対して後続の処理が行われることが防止される。なお、不良となった水晶振動子81は、強酸性や強アルカリ性の溶液に浸漬することにより、電極上の膜が除去され、再度、アルコール検出用の水晶振動子の製造に用いられる。
【0031】
キャリア9が図3の搬送部2により搬送される際には、搬送部2の支持部21が有する2つの支持アーム211が開いた状態で、支持部21が昇降機構22により図3中にて二点鎖線にて示す位置まで下降し、2つの支持アーム211が鍔部912に係合可能な位置まで閉じた後、支持部21が上昇する。これにより、支持アーム211がキャリア本体91の鍔部912の下面に当接して、キャリア本体91が容易に支持される。続いて、横行機構23により、支持部21が昇降機構22と共にキャリア9に対する次の処理が行われる構成(例えば、洗浄部41)の上方まで移動し、支持部21が下降してキャリア9が内部に載置される。そして、支持アーム211が開いた後、支持部21が上昇して、キャリア9の搬送が完了する。
【0032】
図7は主感応膜形成部6の構成を示す図である。主感応膜形成部6は、シクロデキストリンを含む処理液を貯溜するとともに互いに同様の形状となっている複数の処理槽61、複数の処理槽61が配置される無蓋の箱型の本体部60、並びに、処理液を貯溜するとともに供給ライン63および排出ライン64を介して処理槽61および後述の回収部612にそれぞれ接続される処理液タンク62を備える。既述のように、本実施の形態では、水晶振動子81の電極841が主感応膜形成部6および中間膜形成部5における主感応膜の形成対象(すなわち、成膜対象)とされており、他の電極831,832,842、並びに、補助部851〜853は予めマスクにより覆われている。
【0033】
図7に示す複数の処理槽61は本体部60内にて図7の横方向に一列に配列されており、図7および本体部60の内部を処理槽61の配列方向に沿って見た場合の図8に示すように、各処理槽61は、水平かつ配列方向に垂直な方向に長い形状となっている。図7および複数の処理槽61の斜視図である図9に示すように、互いに隣接する2つの処理槽61の間、および、端に位置する処理槽61の外側には、処理槽61から溢れる(オーバーフローする)処理液を回収する回収部612が設けられる。本実施の形態では、各処理槽61を挟む2つの回収部612が、当該処理槽61の全周を囲むように連続しており、当該処理槽61の長手方向(図8の横方向)の端部近傍から溢れる処理液も回収可能となっている。
【0034】
図7に示すように、複数の処理槽61は、キャリア9におけるホルダ92の配列方向のピッチに等しいピッチにて配列され、後述する主感応膜の形成時には、キャリア9が本体部60内の所定位置に載置されることにより、複数の振動子列80(図8参照)が複数の処理槽61内にそれぞれ(1対1にて)配置される。
【0035】
図7に示す排出ライン64の本体部60側の部位は分岐して複数の分岐排出ライン641となっており、複数の分岐排出ライン641は複数の回収部612にそれぞれ接続される。処理槽61から溢れて回収部612内に流入する処理液は、分岐排出ライン641を通過して処理液タンク62に排出される。供給ライン63の本体部60側の部位も分岐して複数の分岐供給ライン631となっており、複数の分岐供給ライン631は複数の処理槽61にそれぞれ接続される。供給ライン63には、処理液タンク62内の処理液を送出する図示省略のポンプが設けられ、処理液タンク62内の処理液はポンプにより分岐供給ライン631を介して処理槽61に供給される。
【0036】
主感応膜形成部6における処理槽61内の処理液の交換は、処理液タンク62から複数の処理槽61に処理液を同時に供給しつつ、処理槽61から溢れる処理液が回収部612を介して回収されることにより行われる。処理液タンク62では、処理液の濃度や温度が調整されるとともに、処理液中の不要物が除去されることにより、処理槽61から排出された処理液の再利用が実現される。なお、各処理槽61にも排出ラインが接続され、処理液の交換時に、処理槽61内から処理液タンク62へと処理液が直接排出されてもよい。
【0037】
図10は中間膜形成部5の構成を示す図である。中間膜形成部5は、所定の無機化合物の蒸気(以下、「処理蒸気」という。)が内部に供給されるとともに互いに同様の形状となっている複数の処理槽51、複数の処理槽51が配置される無蓋の箱型の本体部50、処理蒸気を発生するとともに供給ライン53および排出ライン54を介して処理槽51および後述の回収部512にそれぞれに接続される処理蒸気発生部52を備える。
【0038】
図10に示す中間膜形成部5では、図7の主感応膜形成部6と同様に、複数の処理槽51が本体部50内にて図10の横方向に一列に配列されており、各処理槽51は、水平かつ配列方向に垂直な方向に長い形状となっている。互いに隣接する2つの処理槽51の間、および、端に位置する処理槽51の外側には、処理槽51内を通過した処理蒸気を回収する回収部512が設けられ、本実施の形態では、各処理槽51を挟む2つの回収部512が、当該処理槽51の全周を囲むように連続しており、当該処理槽51の長手方向(図10の紙面に垂直な方向)の端部近傍からも処理蒸気の回収が可能となっている。
【0039】
図10に示すように、複数の処理槽51は、キャリア9におけるホルダ92の配列方向のピッチに等しいピッチにて配列され、後述する中間膜の形成時には、キャリア9が本体部50内の所定位置に載置されることにより、複数の振動子列80が複数の処理槽51内にそれぞれ配置される。
【0040】
また、供給ライン53の本体部50側の部位は分岐して複数の分岐供給ライン531となっており、複数の分岐供給ライン531は複数の処理槽51にそれぞれ接続される。処理蒸気発生部52は、キャリアガスを供給するガス供給部を有し、処理蒸気発生部52にて蒸気状態とされた物質(処理蒸気)が、キャリアガスと共に供給ライン53を移動して、処理槽51内に供給される。これにより、中間膜形成部5では、電極841上に所定の無機化合物の薄膜(例えば、酸化膜)が中間膜として形成される。
【0041】
排出ライン54の本体部50側の部位は分岐して複数の分岐排出ライン541となっており、複数の分岐排出ライン541は複数の回収部512にそれぞれ接続される。処理槽51から回収部512内に流入する処理蒸気は、分岐排出ライン541を通過して処理蒸気発生部52に排出される。
【0042】
以上のように、図3の水晶振動子製造システム1では、主感応電極形成部4の中間膜形成部5および主感応膜形成部6のそれぞれが、所定の薄膜を成膜対象の電極上に形成する成膜装置となっている。なお、中間膜は、特開2007−61752号公報(特許文献1)の手法のように、中間膜形成部5により金属酸化物の前駆体の薄膜が電極841上に形成され、洗浄部41により当該前駆体の薄膜が純水にて洗浄されることにより加水分解されて金属酸化物の薄膜となるものであってもよい。
【0043】
実際には、水晶振動子製造システム1では、前洗浄部31、前処理部32、並びに、主感応電極形成部4の洗浄部41,42のそれぞれも、主感応膜形成部6および中間膜形成部5と同様に、複数の処理槽を有し、処理を行う際には、キャリア9内の複数の振動子列80が複数の処理槽内にそれぞれ配置される。
【0044】
図11は、水晶振動子製造システム1がアルコール検出用の水晶振動子を製造する処理の流れを示す図である。図3の水晶振動子製造システム1では、複数の水晶振動子81を保持するキャリア9が投入部11に載置されると、搬送部2の支持アーム211によりキャリア本体91の鍔部912を下方から支持しつつ(図4参照)、キャリア9が前洗浄部31内に搬入され、複数の振動子列80が複数の処理槽内にそれぞれ配置される。各処理槽では、勢いよく流動する洗浄液を用いて水晶片82が洗浄される(ステップS11)。既述のように、電極831,832,842、および、補助部851〜853は予めマスクにより覆われているため、実際には、水晶片82の他の部位(主として電極841の表面)が洗浄されるとともに親水化されることとなる(後述の処理において同様)。前洗浄部31では、洗浄液による洗浄後、純水による洗浄および乾燥が行われる。
【0045】
続いて、キャリア9は前処理部32へと搬送され、複数の振動子列80が複数の処理槽内にそれぞれ配置される。各処理槽では、温度および濃度が調整された所定の溶液中に振動子列80の水晶片82が予め定められた時間だけ浸漬されることにより、水晶片82の電極841に対してチオール処理等の前処理が施され、電極841の表面に水酸基が導入される(ステップS12)。これにより、後続の処理にて形成される中間膜と電極841との密着性が確保される。前処理部32においても、前処理の後、純水による洗浄および乾燥が行われる。
【0046】
前処理が完了すると、キャリア9が図10の中間膜形成部5の複数の処理槽51の上方に配置され、続いて、キャリア9が下降して複数の振動子列80が複数の処理槽51の内部にそれぞれ配置される。詳細には、各水晶振動子81の水晶片82が処理槽51内に配置される。そして、処理蒸気発生部52から複数の処理槽51内に処理蒸気が同時に供給されることにより、複数の振動子列80の電極841上への中間膜の形成が同時に開始される。
【0047】
このとき、各処理槽51では、分岐供給ライン531から連続的に供給される処理蒸気(およびキャリアガス)が、処理槽51内の下部に設けられる拡散板511にて拡散されて処理槽51内を上方に向かって移動する。また、既述のように、処理槽51の外周が回収部512により囲まれ、処理槽51内の処理蒸気が処理槽51の上部全域にておよそ均等に排気される。その結果、処理槽51では振動子列80の電極841に対して均一な成膜処理が可能となる。
【0048】
水晶片82が予め定められた時間(例えば、20分)だけ処理槽51内の処理蒸気雰囲気中にて保持されると、キャリア9が中間膜形成部5から取り出される。これにより、複数の振動子列80において、電極841上に所定の厚さの中間膜が形成される(ステップS13)。
【0049】
中間膜形成部5における成膜処理(すなわち、中間膜の形成)が完了すると、キャリア9は洗浄部41に搬送され、複数の振動子列80が複数の処理槽内にそれぞれ配置される。各処理槽では、各水晶振動子81の水晶片82の両主面821,822に対向して設けられるノズルから純水が噴射されて、中間膜が形成された直後の水晶片82が純水にて洗浄され、その後、当該ノズル(別のノズルであってもよい。)からの乾燥空気や窒素ガスの噴射により乾燥される(洗浄部42において同様)(ステップS14)。洗浄部41(並びに、洗浄部42、前洗浄部31および前処理部32)における乾燥では、エチルアルコール、あるいは、界面活性剤を含むHFE(ハイドロフルオロエーテル)やHFC(ハイドロフルオロカーボン)等の純水よりも沸点が低い液体の乾燥媒体が用いられてもよい。この場合、水晶片82の表面に付着する純水が当該乾燥媒体に置換され、乾燥を短時間にて行うことが可能となる。
【0050】
洗浄部41での処理が完了すると、キャリア9が図7の主感応膜形成部6の複数の処理槽61の上方に配置され、続いて、キャリア9が下降して複数の振動子列80が複数の処理槽61の内部にそれぞれ配置される。詳細には、複数の振動子列80の水晶片82(の全体)が、複数の処理槽61内の処理液中に浸漬され、複数の振動子列80の電極841上への主感応膜の形成が同時に開始される。主感応膜形成部6では、成膜処理時に処理槽61に対する処理液の供給および排出が行われず、主感応膜となる物質の拡散が律速となる条件下にて、再現性の高い成膜(すなわち、処理液の流動がほとんど生じないディップ方式の成膜)が行われる。水晶片82が予め定められた時間(例えば、20分)だけ処理液中に保持されると、水晶片82が処理槽61から取り出される。これにより、複数の振動子列80において、エチルアルコールと包接錯体を形成するシクロデキストリンの薄膜が、主感応膜として所定の厚さにて電極841の中間膜上に形成される(ステップS15)。
【0051】
主感応膜形成部6における成膜処理(すなわち、主感応膜の形成)が完了すると、キャリア9は図3の洗浄部42に搬送され、洗浄部41と同様に、主感応膜が形成された直後の水晶片82が純水にて洗浄され、その後、窒素ガスの噴射により乾燥される(ステップS16)。
【0052】
水晶振動子製造システム1の全体制御部10では、キャリア9に対するステップS13〜S16の処理の回数がカウントされており、所定回数に到達していないことが確認されると(ステップS17)、上記ステップS13〜S16の処理が繰り返され、電極841の主感応膜上に中間膜および主感応膜が形成される。このようにして、上記ステップS13〜S16の処理が所定回数(例えば、2回以上10回以下)だけ繰り返されることにより(ステップS17)、電極841上に中間膜および主感応膜が交互積層され、これらの膜を有する電極841と、電極841に対向する電極842との集合である主感応電極対が完成する。なお、製造する水晶振動子に求められる性能等によっては、ステップS13〜S16の処理は1回のみであってもよい。
【0053】
実際には、複数のキャリア9に対して前洗浄部31、前処理部32、並びに、主感応電極形成部4の中間膜形成部5、洗浄部41、主感応膜形成部6および洗浄部42における処理が並行して行われる。
【0054】
なお、仮に、電極に対して処理を行うこれらの電極処理装置(すなわち、前洗浄部31、前処理部32、中間膜形成部5、洗浄部41、主感応膜形成部6および洗浄部42)において異なる保持部にて水晶振動子81を保持する場合には、処理が行われる毎に水晶振動子81の保持部からの取り外し、および、次の処理用の保持部への取り付けが必要となり、取り外し作業、および、取り付け作業の際に、水晶振動子81に不要物が付着する(水晶振動子81が汚染される)ことがあるが、既述のように、水晶振動子製造システム1の全ての電極処理装置では、キャリア9を単位として処理が行われるため、上記のような水晶振動子81への不要物の付着を防止することができる。また、水晶振動子の製造に要する時間(ターンアラウンドタイム)を短くするとともに、水晶振動子の製造コストを削減することも可能となる。
【0055】
また、本実施の形態における図1の水晶振動子81では、電極831上に、空気中の水分、および、主感応膜に吸着されるエチルアルコール以外の物質のうち少なくとも一方を吸着させるための有機化合物を含む膜(実際には、エチルアルコールと包接錯体を形成しない膜であり、以下、「副感応膜」という。)が予め形成されている。具体的には、電極831上に無機化合物の中間膜、および、副感応膜が多層に(1層ずつであってもよい。)交互積層されており、これらの膜を有する電極831と、電極831に対向する電極832との集合が、後述するように、主感応電極対からの出力の補正に用いられる副感応電極対となっている。
【0056】
もちろん、図11の処理にて主感応電極対が形成された後に、副感応電極対が形成されてもよく、副感応電極対の形成では、処理蒸気および処理液の種類が主感応電極形成部4の中間膜形成部5および主感応膜形成部6のものと相違する点を除き、上記水晶振動子製造システム1と同様の構成とされるもの(すなわち、中間膜形成部および副感応膜形成部を有する水晶振動子製造システム)が用いられてもよい。このような水晶振動子製造システムでは、水晶振動子81の電極831が成膜対象とされ、他の電極832,841,842、並びに、補助部851〜853は予めマスクにより覆われる。
【0057】
ここで、主感応電極対および副感応電極対を有する水晶振動子(専用の発振回路と合わせて、ツインセンサとも呼ばれる。)について説明する。既述のように、水晶振動子では、1対の電極841,842(すなわち、主感応電極対)を有する第1振動子881、および、他の1対の電極831,832(すなわち、副感応電極対)を有する第2振動子882が形成されており、第1および第2振動子881,882のそれぞれは、所定の基準環境下(常温および常湿、かつ、エチルアルコールの濃度がほぼ0%)において一定の発振周波数(以下、「基準周波数」という。)を示すものとなっている。
【0058】
また、主感応電極対における主感応膜はエチルアルコールを吸着するものとされ、水晶振動子がエチルアルコールを含む雰囲気中に置かれると、エチルアルコールの吸着により主感応膜の質量が増大する。したがって、当該雰囲気中では第1振動子881における発振周波数が基準周波数から変化する。このとき、第1振動子881における発振周波数の変化は、正確には、エチルアルコールの吸着の影響以外に、基準環境からの温度および湿度の変化、並びに、主感応膜に吸着されるエチルアルコール以外の物質の影響も含んでいる。副感応電極対における副感応膜は水分および主感応膜に吸着されるエチルアルコール以外の物質のうち少なくとも一方を吸着するものとされ、当該雰囲気中では、基準環境からの温度および湿度の変化や、当該物質の影響により第2振動子882における発振周波数が基準周波数から変化する。よって、第1振動子881における発振周波数の変化量から第2振動子882における発振周波数の変化量を引く(または、これらの変化量を用いた所定の演算を行う)ことにより、第1振動子881におけるエチルアルコール以外の要因による周波数変化をキャンセルして、エチルアルコールの濃度を精度よく検出することが可能となる。以上のように、水晶振動子では、第1振動子881がアルコール検出用の振動子となり、第2振動子882が、第1振動子881からの出力補正用の振動子となっている。実際の水晶振動子では、主感応電極対において主感応膜を多層に積層することにより、感度を向上することが実現されている。
【0059】
なお、副感応電極対が副感応膜を有していないアルコール検出用の水晶振動子が製造されてもよく、この場合であっても、副感応電極対を有する第2振動子882では、基準環境からの温度の変化の影響による周波数変化が発生するため、第1振動子881における周波数変化に対する温度補償が可能となる。
【0060】
ところで、図12に示すように、キャリア9にて多数の水晶振動子81を水平面上の直交する2方向に配列して保持しつつ、1つの大型の処理槽93内の処理液中にこれらの水晶振動子81を浸漬することにより電極上に成膜を行う比較例の成膜装置では、成膜処理時に処理槽93に対する処理液の供給および排出を行わない場合でも、処理槽93内では意図しない処理液の僅かな流動(すなわち、3次元的流動)が位置に応じて生じ、仕切りが無い状態にて処理液が自由に流れるため、薄膜となる物質の拡散が律速となる条件下での成膜を全ての水晶振動子81において均一に行うことが困難となるが(すなわち、複数の振動子列80において配列方向の位置に応じて成膜条件が相違してしまう。)、中間膜形成部5および主感応膜形成部6のそれぞれでは、各処理槽51,61が、処理液、または、処理蒸気の意図しない流動が制限可能となる配列方向に狭い形状とされ、同様の形状の複数の処理槽51,61のそれぞれの内部に1つの振動子列80のみが配置される。これにより、処理中の処理液または処理蒸気の3次元的流動が抑制され、複数の振動子列80において、成膜条件を一定として電極上に形成される膜を均一にする(膜厚および膜質を均一にする)ことができ、アルコール検出用の水晶振動子の生産性(歩留まりを含む。)を向上することができる。
【0061】
また、図12の比較例の装置では、万一、1つの水晶振動子81に多量の不要物が付着していると、処理中に当該不要物が周囲の水晶振動子81に付着して、多くの水晶振動子81が不良となってしまう。
【0062】
これに対し、図3の水晶振動子製造システム1の前洗浄部31、前処理部32、中間膜形成部5、主感応膜形成部6、並びに、洗浄部41,42のそれぞれでは、複数の振動子列80が複数の処理槽51,61の内部にそれぞれ配置され、複数の処理槽51,61において複数の振動子列80の電極に対して同じ処理が同時に行われる。このように、振動子列80毎に処理槽51,61が設けられることにより、処理中の各振動子列80において他の振動子列80からの影響が生じることが防止され、各水晶振動子81において他の水晶振動子81からの影響が制限される。その結果、上記のように、万一、1つの水晶振動子81に多量の不要物が付着している場合であっても、処理中に当該不要物が他の振動子列80の水晶振動子81に付着して、多くの水晶振動子81が不良となることを防止することができる。
【0063】
さらに、図7の主感応膜形成部6では、複数の処理槽61に処理液を供給する共通の処理液タンク62が設けられることにより、同一の濃度および温度の処理液を複数の処理槽61にて貯溜させることができ、処理槽61毎に処理液タンクを設ける場合に比べて、複数の振動子列80において電極上に形成される膜をさらに均一にすることができる。
【0064】
図13および図14は主感応膜形成部の他の例を示す図である。図13は主感応膜形成部6の1つの処理槽61内の水晶片82を主面822側から見た図であり、図14は水晶片82を主面821側から見た図である。図13および図14では、処理槽61内を抽象的に示している。図13および図14の主感応膜形成部6を有する水晶振動子製造システム1では、図1および図2の水晶振動子81のベース(すなわち、リード871〜873およびフランジ部86)を省略したものが処理対象となっており、主感応膜形成部6は、水晶片82が後述の水晶片支持部71にて支持される点を除き、図7の主感応膜形成部6と同様の構成となっている。
【0065】
図13および図14の主感応膜形成部6では、水晶片82は電極832,842が図13の縦方向(液面に垂直な方向)に並ぶ状態にて、水晶片支持部71により支持されている。水晶片支持部71は導電性を有する3個の支持要素711,712,713(ただし、耐薬品性を有する絶縁性材料にて被覆されている。)を有し、各支持要素711〜713の先端には水晶片82を挟持するクランプ部721が設けられる。実際には、キャリア9の各ホルダ92には、それぞれが水晶片82を保持する複数の水晶片支持部71が固定されており、複数の水晶振動子81が振動子列80としてホルダ92の長手方向に一列に並んでいる。また、主感応膜形成部6には複数の処理槽61が設けられ、複数の振動子列80が複数の処理槽61内にそれぞれ配置される。
【0066】
既述のように、図14の水晶片82において、1対の電極841,842の電極841と、他の1対の電極831,832の電極841と同じ主面821に形成される電極831とは、補助部851を介して互いに電気的に接続しており、支持要素711のクランプ部721はこの補助部851に接続される。また、図13に示すように、支持要素712のクランプ部721は電極832に連続する補助部852に接続され、支持要素713のクランプ部721は電極842に連続する補助部853に接続される。支持要素711〜713は測定部(図示省略)に接続され、第1および第2振動子881,882(図13参照)のそれぞれの発振周波数が取得可能とされる。図13の主感応膜形成部6を有する水晶振動子製造システム1では、中間膜形成部も同様の構成とされる。
【0067】
図13の主感応膜形成部6および中間膜形成部では、互いに対向する電極841,842の双方が成膜対象とされており、成膜対象の1対の電極841,842が処理槽61内の処理液中に浸漬され、成膜対象外の他の1対の電極831,832が処理液外に配置されるように(すなわち、水晶片82が部分的に浸漬される。)、水晶片82が支持されて成膜が行われる。これにより、成膜対象の電極841,842のみに薄膜を形成するとともに、薄膜を形成する物質が成膜対象外の残りの電極831,832に付着することを(マスクを形成することなく)確実に防止することができる。主感応電極対(および副感応電極対)が形成された水晶振動子(ただし、ベースは形成されていない。)は、例えば、専用の電気的回路が形成されたプリント基板に組み込まれ、アルコールの濃度を検出する装置が完成する。
【0068】
なお、副感応電極対も図13および図14の主感応膜形成部6と同様の中間膜形成部および副感応膜形成部を有する水晶振動子製造システムにて形成されてもよく、この場合、電極831,832が処理槽内の処理液中に位置し、電極841,842が処理液外に位置するように、水晶片82を図13および図14に示す姿勢から外周に沿って180度だけ回転させた姿勢にて、水晶片82が水晶片支持部により支持される。
【0069】
また、図13および図14の主感応膜形成部6にて処理液中に浸漬される1対の電極841,842の一方の電極にマスクが形成され、他方の電極のみが成膜対象とされてもよく、この場合、他の電極処理装置(前洗浄部31、前処理部32、並びに、洗浄部41,42)でも同様に、当該他方の電極のみが処理対象とされる。さらに、図3の水晶振動子製造システム1にて、電極841,842の双方が成膜対象とされ、電極831,832(および、補助部851〜853)のみにマスクが形成されてもよい。以上のように、水晶振動子81の電極に対して所定の処理を行う電極処理装置では、1対の電極841,842の少なくとも1つの電極が成膜対象とされ、他の1対の電極831,832を含むとともに当該少なくとも1つの電極を除く残りの電極が処理対象外とされる(副感応電極対の形成に係る電極処理装置において同様)。
【0070】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0071】
図15に示すように水晶片82の主面821上の電極831,841が分離した水晶振動子81aが、水晶振動子製造システム1における処理対象とされてもよい。ただし、図1に示す水晶片82では、電極831,841が接続していることにより、図15に示す水晶片82のように電極831,841が分離している場合に比べて、電極831,841の表面をより平滑化する(粗さを低くする)ことができ、電極841上により好ましい(欠陥が少ない)薄膜を形成することが容易に可能となる。また、水晶振動子81においてベースを設ける場合には、電極831,841を接続させることにより、部品点数(リードの個数)を少なくすることができ、水晶振動子81の製造に係るコストを削減することができる。
【0072】
また、図16および図17に示すように、水晶片82の両主面821,822に1対の電極831a,832aのみが形成された水晶振動子81bが、水晶振動子製造システム1における処理対象とされてもよく、この場合、当該1対の電極831a,832aの少なくとも一方の電極に薄膜が形成される。
【0073】
図6のホルダ92では、リード871〜873が並ぶ方向がホルダ92の長手方向に平行となるように、複数の水晶振動子81が配列されるが、図18に示すように、各ホルダ92aにおいてリード871〜873が並ぶ方向がホルダ92の長手方向に垂直となるように、複数の水晶振動子81が配列されてもよい(水晶片支持部71を用いる場合において同様)。図6のホルダ92における水晶振動子81の配列では、処理槽51,61の配列方向のピッチを狭くすることができるのに対し、図18のホルダ92aでは、1つのホルダ92aにて、より多くの水晶振動子81を保持する(収納効率を向上する)ことができる。なお、図18のホルダ92aでは、2つの分割部材921aにより、水晶振動子81のフランジ部86が挟持されている。
【0074】
また、キャリア9では、キャリア本体91が複数のホルダ92を配列方向に配列した状態で支持することにより、多数の水晶振動子81を直交する2方向に配列しつつ容易に保持することが可能となるが、複数の振動子列80が列方向(各振動子列80にて水晶振動子81が並ぶ方向)に垂直な配列方向に配列されるのであるならば、複数の振動子列80は、キャリア9とは異なる設計の保持部にて保持されてもよい。
【0075】
キャリア9の鍔部912を下方から支持するアームは、水晶振動子製造システム1の前洗浄部31、前処理部32、主感応膜形成部6、中間膜形成部5、並びに、洗浄部41,42のそれぞれにおいて個別に設けられるものであってもよい。例えば、これらの構成のそれぞれに支持アームを有する昇降機構を設け、搬送部2の横行機構23により処理槽の上方に配置されるキャリア9の鍔部912が、当該昇降機構の支持アームにより下方から支持され、続いて、キャリア9が支持アームと共に下降して、複数の振動子列80を複数の処理槽内にそれぞれ配置することも可能である。
【0076】
図7の主感応膜形成部6では、処理液の回収や補充等が電極に対する成膜時以外に行われ、成膜時には処理槽に対する処理液の供給および排出が行われないが、電極上に形成される薄膜の剥がれが生じにくい場合には、成膜時に分岐供給ライン631からの処理液の緩やかな供給、および、回収部612からの処理液の緩やかな排出が行われてもよい。また、主感応膜形成部にて処理蒸気を用いた成膜が行われ、中間膜形成部にて処理液を用いた成膜が行われてもよい。
【0077】
洗浄部41,42は、主感応膜形成部6と同様に、複数の処理槽内に貯溜される洗浄用の処理液(例えば、純水)中に複数の振動子列80をそれぞれ浸漬して洗浄を行うもの、あるいは、処理槽内に処理蒸気を供給して洗浄を行うものであってもよく、このような洗浄部では、多数の水晶振動子81に対する洗浄処理を均一に行うことができる。以上のように、各処理槽内にて処理液を貯溜する、または、各処理槽に処理蒸気を供給する電極処理装置では、複数の振動子列80を複数の処理槽内にそれぞれ配置することにより、多数の水晶振動子81に対する処理の均一性を向上することが可能となる。
【0078】
複数の振動子列80がそれぞれ配置される複数の処理槽を設けることにより、処理中の各振動子列80において他の振動子列80からの影響を排除する上記手法は、主感応膜の形成、および、中間膜の形成のいずれかのみにて用いられてもよい。水晶振動子製造システム1では、成膜に係る主感応膜形成部または中間膜形成部が上記手法を用いる電極処理装置を有することにより、アルコール検出用の水晶振動子を安定した品質にて製造することが実現される(副感応膜の形成に係る水晶振動子製造システムにおいて同様)。また、主感応膜形成部および中間膜形成部において、洗浄処理も同一の処理槽にて行われてもよい。
【0079】
アルコール検出用の水晶振動子の製造において、主感応膜形成部にて形成される主感応膜は、シクロデキストリン以外のエチルアルコールと包接錯体を形成する有機化合物を含むものであってもよい。また、水晶振動子製造システム1では、エチルアルコール以外の特定物質(例えば、毒性ガス、可燃性ガス、煙(火災時の煙等)、特定の危険物、環境ホルモン、特定の汚染物質(土壌汚染物質等)、エチルアルコールまたは薬物の摂取による代謝物、疾病による代謝物等)の検出用の水晶振動子が製造されてもよく、水晶振動子製造システム1における成膜に係る各電極処理装置(中間膜形成部および主感応膜形成部)にて用いられる処理液および処理蒸気は、水晶振動子の用途に応じた薄膜となる物質を含むものに適宜変更される。
【0080】
この場合に、主感応膜形成部6にて、特定分子が吸着された状態で主感応膜を形成した後、洗浄の過程で特定分子を主感応膜から脱離させ、その特定分子が抜けた跡を吸着サイトとして最終的な主感応膜が形成されてもよい(副感応膜において同様)。その特定分子を脱離させるにあたっては、空気もしくは窒素等の不活性ガスの熱風を特定分子が吸着された主感応膜に向けて噴射し、特定分子を蒸発、熱分解する方法、酸またはアルカリ性を有する所定の液を主感応膜に付与し特定分子を化学分解する方法、主感応膜が形成された電極に電圧を付与することにより特定分子を電気分解する方法、もしくは、特定分子を主感応膜よりも強固に吸着する錯体を生成する液体を付与して主感応膜から特定分子を脱離させ、最終的な主感応膜を形成する等の方法を採用することができる。実際には、電極上に形成された主感応膜を加熱することにより、不要な水分等を蒸発させて主感応膜を乾燥させ、強固にすることも可能となるため(キュア処理と捉えることもできる。)、上記実施の形態のように、匂い分子を含まない主感応膜が形成される場合に、当該主感応膜を加熱する処理が行われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】水晶振動子の正面図である。
【図2】水晶振動子の背面図である。
【図3】水晶振動子製造システムの構成を示す図である。
【図4】キャリアの正面図である。
【図5】キャリアの側面図である。
【図6】ホルダの構成を示す図である。
【図7】主感応膜形成部の構成を示す図である。
【図8】本体部の内部を示す図である。
【図9】複数の処理槽を示す斜視図である。
【図10】中間膜形成部の構成を示す図である。
【図11】アルコール検出用の水晶振動子を製造する処理の流れを示す図である。
【図12】比較例の成膜装置の構成を示す図である。
【図13】主感応膜形成部の他の例を示す図である。
【図14】主感応膜形成部の他の例を示す図である。
【図15】水晶振動子の他の例を示す図である。
【図16】水晶振動子のさらに他の例を示す図である。
【図17】水晶振動子のさらに他の例を示す図である。
【図18】ホルダの他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 水晶振動子製造システム
5 中間膜形成部
6 主感応膜形成部
9 キャリア
31 前洗浄部
32 前処理部
41,42 洗浄部
51,61 処理槽
62 処理液タンク
80 振動子列
81,81a,81b 水晶振動子
82 水晶片
91 キャリア本体
92,92a ホルダ
211 支持アーム
821,822 主面
831,831a,832,832a,841,842 電極
881 第1振動子
882 第2振動子
912 鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された水晶振動子において、前記1対の電極の少なくとも1つの電極に対して所定の処理を行う電極処理装置であって、
所定の方向に一列に並ぶ水晶振動子を振動子列として、複数の振動子列を前記所定の方向に垂直な配列方向に配列した状態で保持する保持部と、
前記複数の振動子列が内部にそれぞれ配置されることにより、前記複数の振動子列において、前記少なくとも1つの電極に対して同時に処理を行う複数の処理槽と、
を備えることを特徴とする電極処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電極処理装置であって、
前記保持部が、
前記複数の振動子列をそれぞれ保持する複数のホルダと、
前記複数のホルダを前記配列方向に配列して支持する保持部本体と、
を備えることを特徴とする電極処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電極処理装置であって、
前記保持部本体が、前記複数の振動子列を前記複数の処理槽内に配置する際に、アームにより下方から支持される鍔部を有することを特徴とする電極処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電極処理装置であって、
前記複数の処理槽内に処理液が貯溜され、前記処理において前記処理液中に前記複数の振動子列が浸漬され、
前記処理が、前記少なくとも1つの電極上に薄膜を形成する処理であることを特徴とする電極処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電極処理装置であって、
前記複数の処理槽に処理液を供給する共通の処理液タンクをさらに備えることを特徴とする電極処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電極処理装置であって、
前記複数の処理槽内に処理蒸気が供給され、
前記処理が、前記少なくとも1つの電極上に薄膜を形成する処理であることを特徴とする電極処理装置。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかに記載の電極処理装置であって、
各水晶振動子において、前記1対の電極および前記水晶片の前記1対の電極が形成された部位が第1振動子とされ、前記両主面にさらに形成された他の1対の電極および前記水晶片の前記他の1対の電極が形成された部位が第2振動子とされ、
前記他の1対の電極を含むとともに前記少なくとも1つの電極を除く残りの電極が成膜対象外とされることを特徴とする電極処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電極処理装置であって、
前記薄膜が形成された前記第1振動子が、アルコール検出用の振動子である、または、アルコール検出用の前記第2振動子からの出力補正用の振動子であることを特徴とする電極処理装置。
【請求項9】
特定物質の検出用の水晶振動子を製造する水晶振動子製造システムであって、
板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された複数の水晶振動子のそれぞれにおいて、前記1対の電極の少なくとも1つの電極上に中間膜を形成する中間膜形成部と、
前記中間膜上に前記特定物質を吸着する感応膜を形成する感応膜形成部と、
を備え、
前記中間膜形成部または前記感応膜形成部が、請求項1ないし8のいずれかに記載の電極処理装置を備えることを特徴とする水晶振動子製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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