説明

電極及び電気デバイス

【課題】電極の吸液性を高めることと電極の密着性を向上させることとの両立を図り得る電極を提供する。
【解決手段】CMCを含有する活物質層(6)を集電体(5)上に設置すると共に、活物質層(6)の集電体側とは反対側に電解質層を設置した電極(4)であって、活物質層(6)に、エーテル化度の異なるCMCを含有する活物質層を少なくとも2つ以上含み、相対的に高いエーテル化度のCMCを含有する活物質層を電解質層側に、相対的に低いエーテル化度のCMCを含有する活物質層を集電体(5)側に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極及び、二次電池などの電気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
負極における電極の密着性を担う電極合材として、水系バインダであるスチレンブタジエンラバー(SBR)及び増粘剤であるカルボキシルメチルセルロース(以下「CMC」という。)がある。これらの電極合材を負極活物質に混合し層状にして負極活物質層を形成し、この負極活物質層を負極集電体上に設置したものがある(特許文献1参照)。このものでは、CMCのエーテル化度を低くすることで、負極の密着性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−342966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、負極や正極の電極に要求される特性はセパレータ側と集電体側とで異なることを本発明者が新たに見い出している。すなわち、本発明者の知見によれば、セパレータ側では電極の吸液性が高いことが、集電体側では電極の密着性が良いことが要求されるということである。このため、上記特許文献1の技術のように、CMCのエーテル化度を低くすることで電極全体の密着性を高めるだけだと、その一方で電極全体の吸液性が低下し、電池の入出力特性が低下してしまう。
【0005】
そこで本発明は、電極の吸液性を高めることと電極の密着性を向上させることとの両立を図り得る電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電極は、CMCを含有する活物質層を集電体上に設置すると共に、活物質層の集電体側とは反対側に電解質層を設置した電極である。さらに、本発明の電極は、前記活物質層に、エーテル化度の異なるCMCを含有する活物質層を少なくとも2つ以上含み、エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層を前記電解質層側に、エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層を前記集電体側に配置している。
【発明の効果】
【0007】
本の発明によれば、相対的に低いエーテル化度のCMCを含有する活物質層は電極の密着性を向上させ、相対的に高いエーテル化度のCMCを含有する活物質層は入出力特性を向上させることが可能となり、これらの活物質層を活物質層に含ませることで、電極の吸液性を高めることと電極の密着性を向上させることとを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態のラミネート型電池の概略図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】第1実施形態の負極4の拡大概略図である。
【図4】第2実施形態の負極4の拡大概略図である。
【図5】第3実施形態の負極4の拡大概略図である。
【図6】第4実施形態の負極4の拡大概略図である。
【図7】第5実施形態の負極4の拡大概略図である。
【図8】第6実施形態の負極4の拡大概略図である。
【図9】第7実施形態の負極4の拡大概略図である。
【図10】実施例及び比較例の電極強度及び放電レートの特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張している箇所があり、その箇所においては実際の比率と異なっている。
【0010】
(第1実施形態)
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池1について説明する。図1はリチウムイオン二次電池1の概略斜視図、図2は図1のA−A線断面図である。
【0011】
図1、図2に示すように、リチウムイオン二次電池1は、実際に充放電反応が進行する略四角薄板状の発電要素2が、電池外装材であるラミネートフィルム14の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートフィルムを電池外装材として用いて、その周辺部(周縁部)を熱融着にて接合することにより、発電要素2を収納し密封した構成を有している。ここで高分子−金属複合ラミネートフィルムとしては、金属フィルムを高分子フィルム(樹脂フィルム)でサンドイッチした三層構造のものが一般的である。
【0012】
こうした積層型の電池1は、缶型電池と区分けするために「ラミネート型電池」といわれる。缶型電池は、市販されている単1電池や単3電池のように堅い円筒状の金属製外枠の中に2つの各電極が巻き込んで収納されているものである。一方、ラミネート型電池とは、略四角薄板状の発電要素2の周辺部(周縁部)を熱融着にて接合することにより、発電要素を密封したものをいう。以下では、リチウムイオン二次電池1を、「ラミネート型電池」という。あるいは単に「電池」ともいう。
【0013】
発電要素2は、負極4、セパレータ12、正極8をこの順に積層した構成を有している。ここで、負極4は四角薄板状の負極集電体5の両面に負極活物質層6、6を配置したものである。同様に正極8は四角薄板状の正極集電体9の両面に正極活物質層10、10を配置したものである。セパレータ12は主に多孔質の熱可塑性樹脂から形成されている。セパレータ12が電解液を保持することで、セパレータ12と一体に電解質層が形成されている。
【0014】
これにより、隣接する負極4、セパレータ12及び正極8は、一つの単電池層13(単電池)を構成する。従って、本実施形態のラミネート型電池1は、単電池層13を積層することで、電気的に並列接続された構成を有するともいえる。また、単電池層13の外周には、隣接する負極集電体5と正極集電体9との間を絶縁するためのシール部(絶縁層)を設けてもよい。発電要素2の両最外層に位置する最外層負極集電体5には、いずれも片面のみに負極活物質層6を配置している。なお、図2とは負極及び正極の配置を逆にすることで、発電要素2の両最外層に最外層正極集電体が位置するようにし、該最外層正極集電体の片側のみに正極活物質層を配置するようにしてもよい。
【0015】
負極集電体5及び正極集電体9には、各電極(負極及び正極)と導通する強電タブ15、16を取り付け、ラミネートフィルム14の端部に挟まれるようにラミネートフィルム14の外部に導出させている。強電タブ15、16は、必要に応じて正極端子リード(図示せず)及び負極端子リード(図示せず)を介して、各電極の負極集電体5及び正極集電体9に超音波溶接や抵抗溶接により取り付けてもよい。ここで、図1、図2に示す電池1は上から見たとき四辺を有し、このうち平行な二辺より強電タブ15、16を外部に導出させているが、2つの強電タブ15、16を一つの辺のみより外部に導出させてもかまわない。
【0016】
なお、リチウムイオン二次電池の他の形態としては、集電体の一方の面に正極活物質層を、他方の面に負極活物質層を形成している双極型電極を、セパレータを介して積層した双極型二次電池が挙げられる。上記の電池1とこの双極型二次電池とは、双方の電池内の電気的な接続状態(電極構造)が異なることを除いては、基本的には同様である。
【0017】
このように構成されるラミネート型電池1を金属製の電池ケースの内部に積層して収納し、積層した複数のラミネート型電池1を各強電タブを用いて直列接続することで所定電圧を有する電池パックが構成される。さらに複数の電池パックを電気的に組み合わせることで所定電圧を有する組電池が構成され、この組電池が電気自動車やハイブリッド車などの輸送機関に搭載されることとなる。
【0018】
さて、負極や正極の電極に要求される特性はセパレータ側と集電体側とで異なることを本発明者が新たに見い出している。すなわち、本発明者の知見によれば、セパレータ側では電極の吸液性が高いことが、集電体側では電極の密着性が良いことが要求されるということである。
【0019】
この点に関し、負極における電極の密着性を担う電極合材として、水系バインダ(結着剤)であるスチレンブタジエンラバー(SBR)及び増粘剤であるCMCがある。これらの電極合材を負極活物質に混合し層状にして負極活物質層を形成し、この負極活物質層を負極集電体上に設置した従来装置がある。
【0020】
しかしながら、従来装置には本発明者の知見は一切記載されていない。このため、従来装置のように、CMCのエーテル化度を低くすることで負極全体の密着性を高めるだけだと、その一方で負極全体の吸液性が低下し、ラミネート型電池1の入出力特性が低下してしまう。
【0021】
そこで本実施形態では、CMCを含有する負極活物質層6(活物質層)を負極集電体5(集電体)上に設置すると共に、負極活物質層6の負極集電体5側とは反対側にセパレータ12(電解質層)を設置した負極4(電極)であって、負極活物質層6に、エーテル化度の異なるCMCを含有する活物質層を少なくとも2つ以上含み、エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する負極活物質層をセパレータ12側に、エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する負極活物質層を負極集電体5側に配置する。
【0022】
これを図3を参照して説明すると、図3は第1実施形態の負極4及びセパレータ12の拡大概略図である。
図3に示したように、負極活物質層6をエーテル化度の相対的に高いCMCを含有する負極活物質層21と、エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する負極活物質層22との2つの負極活物質層から構成する。以下、エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する負極活物質層を「第1負極活物質層」と、エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する負極活物質層を「第2負極活物質」という。このうち負極活物質層6の表面には第1負極活物質層21を、負極集電体5側には第2負極活物質層22を配置する。第1負極活物質層21に含有させるCMCのエーテル化度は具体的には1.2、第2負極活物質層22に含有させるCMCのエーテル化度は具体的には0.6とする。
【0023】
ここで、CMCはセルロースの水酸基の一部をカルボキシル基に置換させて作られ、そのカルボキシル基に置換した際にエーテル結合ができる。その置換の度合を「エーテル化度」と呼んでいる。
【0024】
CMCのエーテル化度とCMCを含有させた負極活物質層の物性との間には次の関係がある。すなわち、CMCのエーテル化度を高くするとCMCを含有させた負極活物質層の粘度が小さくなって負極活物質層の硬さは小さく(柔らかく)なる。一方、CMCのエーテル化度を低くするとCMCを含有させた負極活物質層の粘度が大きくなって負極活物質層の硬さは大きく(硬く)なる。言い換えると、CMCのエーテル化度を高くしたとき、CMCを含有させた負極活物質層は吸液性が高く、Liイオンの移動抵抗が低く、入出力特性に優れることとなる。一方、CMCのエーテル化度を低くしたときCMCを含有させた負極活物質層は負極集電体との密着性に優れることとなる。
【0025】
ここで、負極4の「吸液性」とは、負極活物質層6の内部に電解液が入り込む性質のことをいい、「吸液性が高い」とは負極活物質層6の内部に電解液が入り込み易いことをいう。また、「入出力特性」とは、CMCを含有させた負極活物質層6を含めたラミネート型電池1全体としての特性であり、入力特性と出力特性を合わせた表現である。ここで、「入力特性」とはラミネート型電池1の充電特性、「出力特性」とはラミネート型電池1の放電特性のことである。「入力特性に優れる」とは、ラミネート型電池1を充電し易いこと、具体的には短時間で満充電まで充電できることをいう。「出力特性に優れる」とは、ラミネート型電池1から放電し易いこと、具体的には大きい電流で長い時間放電できることをいう。
【0026】
負極4の「密着性」とは、積層状態にある負極活物質層6が負極集電体5から剥離しない性質のことをいう。「密着性に優れる」とは負極活物質層6が負極集電体5から容易に剥離しないことをいう。
【0027】
従って、第1負極活物質層21を充放電反応が起こりやすい負極表面層(セパレータ12側)に配置することで、入出力特性の高い負極4となる。また、第2負極活物質層22を負極集電体5側に配置することで、負極集電体5との密着性に優れた負極4となる。
【0028】
ここで、第1実施形態の作用効果を説明する。
【0029】
第1実施形態では、CMCを含有する負極活物質層6(活物質層)を負極集電体5(集電体)上に設置すると共に、負極活物質層6の負極集電体5側とは反対側にセパレータ12(電解質層)を設置した負極4(電極)であって、負極活物質層6に、エーテル化度の異なるCMCを含有する負極活物質層を2つ(少なくとも2つ以上)含み、第1電極活物質層21(エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層)をセパレータ12側に、第2電極活物質層22(エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層)を負極集電体5側に配置している。特に負極4の密着性が必要とされる箇所は、負極集電体5と負極活物質層6との界面である。第1実施形態によれば、この界面に第2負極活物質層22を設けることで、負極4の密着性を向上できる。また、第1実施形態によれば、高い入出力特性が必要とされるセパレータ12側の負極活物質層6には、第1負極活物質層21を設けることで、吸液性の高い負極4表面を得ることができる。
【0030】
なお、第1実施形態では、図3に示したように第1、第2の2つの負極活物質層21、22の厚みW1、W2を同じにしている場合を挙げたが、これに限定されるものでない。第1負極活物質層21の厚みW1と第2負極活物質層22の厚みW2との比率は任意でよい。次に述べる第2実施形態はこの比率を特定するものである。
【0031】
(第2実施形態)
図4は第2実施形態の負極4の拡大概略図である。第1実施形態の図3と同一部分には同一の番号を付している。
【0032】
第2実施形態は、図3の第1実施形態を前提として、さらに第1負極活物質層21の厚みW3を第2負極活物質層22の厚みW4より厚くする。逆に言うと、第2負極活物質層22の厚みW4を第1負極活物質層21の厚みW3より薄くする。これは、第2負極活物質層22は負極集電体5から剥離しなければ(剥離強度さえ確保できれば)薄くてもかまわないためである。好ましくは、第1負極活物質層21の厚みW3を第2負極活物質層22の厚みW4より4倍厚くする。
【0033】
特に負極4の密着性が必要とされるのは、負極集電体5と負極活物質層6との界面が主であるため、その界面近傍に、薄くても第2電極活物質層22が存在すればよい。反対にセパレータ12側に存在する第1電極活物質層21の厚みW3は厚いほど、高い入出力特性に優れることとなる。第2実施形態によれば、第1負極活物質層21(エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層)の厚みW3を、第2負極活物質層22(エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層)の厚みW4より厚くするので、最低限の負極4の密着性を確保しつつ、ラミネート型電池1の入出力特性を一段と高めることができる。
【0034】
(第3実施形態)
図5は第3実施形態の負極4の拡大概略図である。第2実施形態の図4と同一部分には同一の番号を付している。
【0035】
第3実施形態は、図4の第2実施形態を前提として、第1負極活物質層21を、さらにエーテル化度の異なるCMCを含有する第3、第4の2つの電極活物質層21a、21bから構成する。すなわち、第3負極活物質層21aはエーテル化度の相対的に高いCMCを含有する負極活物質層とする。一方、第4負極活物質層21bは第3負極活物質層21aに含有されているCMCのエーテル化度より低くかつ第2負極活物質層22に含有されているCMCのエーテル化度より高いエーテル化度のCMCを含有する負極活物質層とする。そして、第3負極活物質層21aをセパレータ12側に、第4負極活物質層21bを第2負極活物質層22側に配置する。具体的には第3負極活物質層21aに含有されているCMCのエーテル化度を1.2、第4負極活物質層21bに含有されているCMCのエーテル化度を0.8、第2負極活物質層22に含有されているCMCのエーテル化度を0.6とする。つまり、第3実施形態は、負極活物質層6に、エーテル化度の異なるCMCを含有する負極活物質層を3つ含み、エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する負極活物質層(21a)をセパレータ12側に、エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する負極活物質層(22)を負極集電体側5に配置するものである。
【0036】
なお、図5には第3、第4の負極活物質層21a、21bの厚みの合計(W5+W6)を第2実施形態の第1負極活物質層21の厚みW3と同じにした場合を挙げているが、これに限られるものでない。3つの負極活物質層21a、21b、22の厚みの比率は任意でよい。
【0037】
第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。すなわち、第3実施形態によれば、負極集電体5と負極活物質層6との界面にエーテル化度の相対的に低いCMCを含有する負極活物質層(22)を設けることで、負極4の密着性が向上させることができる。第3実施形態によれば、高い入出力特性が必要なセパレータ12側の負極活物質層には、エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する負極活物質層(21a)を設けることで、吸液性の高い負極4表面を得ることができる。
【0038】
(第4、第5の実施形態)
図6、図7は第4、第5の実施形態の負極4の拡大概略図である。第1実施形態の図3と同一部分には同一の番号を付している。
【0039】
第4実施形態は、図6に示したように第1実施形態を前提としてさらに第1負極活物質層21の面方向端部(図6で左右方向端部)に第2負極活物質層22からセパレータ12まで延設される延設部22bを設けたものである。第2負極活物質層22に延設部22bを設けたのは、次の理由による。すなわち、第1負極活物質層21の面方向端部21cが第2負極活物質層22から剥離しやすいので、剥離し易い面方向端部21cにのみ密着性の相対的に高い負極活物質層である第2負極活物質層22の延設部22bを配置することとしたものである。
【0040】
一方、第5実施形態は、図7に示したように第2負極活物質層22の面方向端部22aの厚みW8を、第1負極活物質層21の面方向端部21cの厚みW7より厚くしたものである。第5実施形態において、第1負極活物質層21の面方向端部21cの厚みW7をゼロとしたものが第4実施形態に相当する。
【0041】
第4、第5の実施形態によれば、負極活物質層6(活物質層)の面方向端部に密着性に優れる第2負極活物質層22(エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層)が厚みW8として十分存在するか、または負極活物質層6(活物質層)の面方向端部が第2負極活物質層22(エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層)のみである(W7=0)ので、負極4の面方向端部の密着性をさらに向上できる。
【0042】
(第6、第7の実施形態)
図8、図9は第6、第7の実施形態の負極4の拡大概略図である。第1実施形態の図3と同一部分には同一の番号を付している。
【0043】
第6実施形態は、図8に示したように第1実施形態を前提としてさらに第2負極活物質層22の面方向端部(図8で左右方向端部)に第1負極活物質層21から負極集電体5まで延設される延設部21dを設けたものである。第1負極活物質層21に延設部21dを設けたのは、次の理由による。すなわち、発電要素2を電池外装材で被覆した後に電解液を注入したとき、負極活物質層21、22の面方向端部21c、22aが、注入された電解液が負極活物質層内部に浸透するための入口となる。そこで、電解液の浸透入口である面方向端部に吸液性の相対的に高い負極活物質層である第1負極活物質層21の延設部21dを配置することとしたものである。
【0044】
一方、第7実施形態は、図9に示したように第1負極活物質層21の面方向端部21cの厚みW9を、第2負極活物質層22の面方向端部22aの厚みW10より厚くしたものである。第7実施形態において、第2負極活物質層22の面方向端部22aの厚みW9をゼロとしたものが第6実施形態に相当する。
【0045】
第6、第7の実施形態によれば、負極活物質層6(活物質層)の面方向端部に吸液性の優れる第1負極活物質層21(エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層)が厚みW9として存在するか、または負極活物質層6(活物質層)の面方向端部が第1負極活物質層21(エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層)のみである(W10=0)ので、負極4の吸液性が向上し、電解液を負極活物質層6内部へと容易に含浸させることができる。
【実施例】
【0046】
上記第1〜第3の3つの実施形態の効果を確かめるため、3つの実施例と3つの比較例を製作した。
【0047】
<正極スラリー・正極の作製>
正極活物質としてLiMn2O4(平均粒子径20μm、導電助剤としてアセチレンブラックおよび結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を86:6:8の質量比で混合して正極スラリーを得た。アルミニウム製の板状集電体(厚み20μm)の両面に正極スラリーを塗布して、130℃で熱風乾燥した後にロール圧延し、シート状に形成した。正極(正極板)の厚さは、262μmであった。
【0048】
<負極スラリー・負極の作製>
負極活物質として黒鉛(平均粒子径10μm)、結着剤としてSBRおよび増粘剤としてCMCを97:2:1の質量比で混合して負極スラリーを得た。銅製の板状集電体(厚み10μm)の両面に負極スラリーを塗布して、130℃で熱風乾燥した後にロール圧延し、シート状に形成した。負極(負極板)の厚さは、122μmであった。
【0049】
その際、エーテル化度の異なるCMCを用いて3種(1.2、0.6、0.8の3種)の負極スラリーを作製した。以下、エーテル化度が1.2、0.6、0.8の各CMCを含有する負極スラリーを負極スラリーA、B、Cとする。また、エーテル化度が1.2、0.6、0.8の各CMCを含有する負極活物質層を、負極活物質層A、B、Cとする。
【0050】
<実施例の説明>
[実施例1]
負極スラリーBを負極集電体上に、負極スラリーAをその負極スラリーBの上にドクターブレードにより塗工させ負極を得た。これを、100℃の乾燥炉において、十分に水分を揮発させた後にロール圧延し、シート状に形成した。負極集電体に対しての片側厚みについては、負極活物質層Aを30μm、負極活物質層Bを30μmとした。実施例1は図3の第1実施形態に相当するものである。
【0051】
[実施例2]
負極スラリーBを負極集電体上に、負極スラリーAをその負極スラリーBの上にドクターブレードにより塗工させ負極を得た。これを、100℃の乾燥炉において、十分に水分を揮発させた後にロール圧延し、シート状に形成した。負極集電体に対しての片側厚みについては、負極活物質層Aを50μm、負極活物質層Bを10μmとした。実施例2は図4の第2実施形態に相当するものである。
【0052】
[実施例3]
負極スラリーBを負極集電体上に、負極スラリーAをその負極スラリーBの上にドクターブレードにより塗工させ負極を得た。これを、100℃の乾燥炉において、十分に水分を揮発させた後にロール圧延し、シート状に形成した。負極集電体に対しての片側厚みについては、負極活物質層Aを10μm、負極活物質層Bを50μmとした。
【0053】
[比較例1]
負極スラリーAを負極集電体上にドクターブレードにより塗工させ負極極を得た。これを、100℃の乾燥炉において、十分に水分を揮発させた後にロール圧延し、シート状に形成した。負極集電体に対しての片側厚みについては、負極活物質層Aを60μmとした。
【0054】
[比較例2]
負極スラリーBを負極集電体上にドクターブレードにより塗工させ負極を得た。これを、100℃の乾燥炉において、十分に水分を揮発させた後にロール圧延し、シート状に形成した。負極集電体に対しての片側厚みについては、負極活物質層Bを60μmとした。
【0055】
[比較例3]
負極スラリーCを負極集電体上にドクターブレードにより塗工させ負極を得た。これを、100℃の乾燥炉において、十分に水分を揮発させた後にロール圧延し、シート状に形成した。負極の集電体に対しての片側厚みについては、負極活物質層Cを60μmとした。
【0056】
得られた正極(正極板)を電極部サイズが34mm×24mmとなりように打ち抜き、アルミニウム製の強電タブを超音波溶接により接合した。また、得られた負極(負極板)を電極部サイズが36mm×26mmとなりように打ち抜き、ニッケル製の強電タブを超音波溶接により接合した。
【0057】
<電池の作製>
セパレータとして、ポリエチレン製微多孔質膜(厚さ=25μm)を準備した。また、電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)の混合電解液(EC:DEC=1:1体積比)に1.0MのLiPF6の電解質を保持させたものを用いた。
【0058】
上記で作製、準備した負極活物質層を含む負極(負極板)を3枚、セパレータを4枚、および正極(正極板)を2枚、上下の両側に負極活物質層が配置されるように、負極、セパレータ、正極、セパレータ……の順に、図2に示したのと同様に積層して発電要素を作製した。
【0059】
得られた発電要素を電池外装材である高分子−アルミ複合ラミネートフィルム製のバッグ中に収納し、上記で準備した電解液を注入した。真空条件下において、両電極に接続された強電タブが導出するように高分子−アルミ複合ラミネートフィルム製バッグの開口部を封止し、試験用電池を完成させた。
【0060】
<エージング工程>
上記で作製した試験用電池に対して、45℃、6日間の条件でエージング処理を施した。
【0061】
<試験用セルの評価>
各試験用電池について、25℃の大気中で、定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.1C、電圧:4.2V)で13時間充電処理を行なった。次いで10分間休止後、定電流方式(CC、電流:0.1C)で2.5Vまで放電処理を行なった。
【0062】
続いて、さらに10分間休止後、定電流定電圧方式(CCCV、電流:1C、電圧:4.2V)で3時間充電して、充電容量を測定した。その後、定電流(CC、電流:0.2C)で2.5Vまで放電させ、放電容量を測定し、0.2C容量とした。さらに10分間休止後、定電流定電圧方式(CCCV、電流:1C、電圧:4.2V)で3時間充電して、充電容量を測定した。その後、定電流(CC、電流:3C)で2.5Vまで放電させ、放電容量を測定し、3C容量とした。放電レート特性は、この3C容量を分子とし先の0.2C容量を分母として計算し、3C/0.2C放電率を求めた。
【0063】
このようにして求めた放電レート特性結果を電極強度の結果と共に次の表1に示す。
【0064】
【表1】

表1中の電極強度しては、電池組立前の電極についてテープ剥離試験を行った。また、表1をわかりやすくするため、表1の結果を二次元データとして図10に示す。図10より、3つの実施例によれば、放電レート特性と剥離強度とを比較例よりも共に高めることができている。
【0065】
実施形態では、CMCを負極活物質に混合し層状にして負極活物質層を形成し、この負極活物質層を負極集電体上に設置した場合で説明したが、CMCを正極活物質に混合し層状にして正極活物質層を形成し、この正極活物質層を正極集電体上に設置した場合にも、本発明の適用がある。この場合には、CMCを含有する正極活物質層を正極集電体上に設置すると共に、正極活物質層の正極集電体側とは反対側に電解質層を設置した正極であって、正極活物質層に、エーテル化度の異なるCMCを含有する正極活物質層を少なくとも2つ以上含み、エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する正極活物質層を電解質層側に、エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する正極活物質層を正極集電体側に配置する正極とする。
【0066】
実施形態では、電気デバイスとして、ラミネートフィルムを外装材にするリチウムイオン二次電池を例示したが、これに限られない。金属板を外装材にするものや、他のタイプの二次電池、さらには一次電池にも適用できる。また、電池だけでなく電気二重層キャパシタのような電気化学キャパシタにも適用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 ラミネート型電池
4 負極(電極)
5 負極集電体(集電体)
6 負極活物質層(活物質層)
12 セパレータ
21 第1負極活物質層
21c 面方向端部
21d 延設部
22 第2負極活物質層
22a 面方向端部
22b 延設部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CMCを含有する活物質層を集電体上に設置すると共に、活物質層の集電体側とは反対側に電解質層を設置した電極であって、
前記活物質層に、エーテル化度の異なるCMCを含有する活物質層を少なくとも2つ以上含み、
エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層を前記電解質層側に、エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層を前記集電体側に配置することを特徴とする電極。
【請求項2】
前記エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層の厚みを、前記エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層の厚みより厚くすることを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層の面方向端部の厚みを、前記エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層の面方向端部の厚みより厚くするかまたは前記エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層の面方向端部に前記エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層を前記電解質層まで延設することを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層の面方向端部の厚みを、前記エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層の面方向端部の厚みより厚くするかまたは前記エーテル化度の相対的に低いCMCを含有する活物質層の面方向端部に前記エーテル化度の相対的に高いCMCを含有する活物質層を前記集電体まで延設することを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一つに記載の電極を有することを特徴とする電気デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−45558(P2013−45558A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181545(P2011−181545)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】