電極合材スラリーの乾燥方法
【課題】リチウムイオン電池などの電極合材スラリーの乾燥方法において、そのスラリー中の分散粒子の凝集過程を解析する簡便な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】導電助剤及びバインダーを含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする。また、導電助剤、バインダー及び活物質を含むリチウムイオン電池などの電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする。
【解決手段】導電助剤及びバインダーを含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする。また、導電助剤、バインダー及び活物質を含むリチウムイオン電池などの電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極合材スラリーの乾燥方法に関し、特に、インピーダンスの測定を利用したリチウムイオン電池などの電極合材スラリーの乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの電極合材スラリー中では活物質、導電助剤、バインダー、分散剤、及び溶剤が均一に分散している必要があるだけではなく、乾燥プロセスにおいて活物質同士が凝集せずに、活物質と導電助剤が電気的に接続され、導電ネットワークが形成される必要がある。しかし、スラリーの中の粒子が導電ネットワークを形成するに至る乾燥プロセスは十分に解明されているとはいえない。
また、電極構造や、電池特性を予測する上で、乾燥過程の電極合材スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することは重要であるが、現在、リチウムイオン電池などの電極合材スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析する簡易な方法は見出されていない。
【0003】
従来技術として、一対の電極間のインピーダンスの時間変化を演算し、チャンバ内の微粒子数を算出するインピーダンス計測装置を備える微粒子測定装置が公知であり(特許文献1参照)、特許文献1には、「ある時間におけるインピーダンス値と、電圧印加直後の初期インピーダンス値との差分、言い換えれば変化分から、微細孔にトラップされた微生物数を推定することが可能である。そして、トラップされた微生物数は懸濁液中に含まれる微生物濃度に依存するものであるから、懸濁液中の微生物数を測定することが可能になる。」(段落[0072])と記載されているが、インピーダンスの時間変化を測定することにより、懸濁液(スラリー)中の分散粒子の凝集過程を解析することは示唆されていない。
【0004】
特許文献2には、「粒子状物質が懸濁された懸濁液を収容するチャンバと、前記懸濁液内に配される一対の電極と、該一対の電極間にプログラム化電圧シグナルを印加するための装置と、前記一対の電極間のインピーダンスの時間変化を検出するインピーダンス検出装置からなることを特徴とする特性分析装置。」(請求項33)の発明が記載されているが、この発明は、「誘電泳動力を用いた粒子状物質の特性分析、特に電気的な特性分析、あるいは移動、分別、ならびに濃縮の操作を行うにあたって、印加する交流電圧周波数の最適化を簡便かつ短時間に行うことを可能とする特性分析方法ならびに特性分析方法を提供することを目的とする」(段落[0001])ものであり、インピーダンスの時間変化を測定することにより、懸濁液(スラリー)の乾燥過程における、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することを示唆するものではない。
【0005】
特許文献3には、「流体の粒子特性を測定する方法であって、流体に一つまたは複数の周波数で電気信号を加えるステップと;一つまたは複数の周波数での流体のインピーダンス量特性を測定するステップと;インピーダンス量測定値から粒子特性を推定するステップとを具備してなることを特徴とする方法。」(請求項1)の発明が記載されているが、この発明は、「部品の故障を診断する目的で、機械システムの潤滑油或は作動油に含まれる粒子分を観察する、装置及び方法に関する」(段落[0001])ものであり、インピーダンスの時間変化を測定することにより、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することを示唆するものではない。
【0006】
また、インピーダンスを測定して、リチウムイオン電池などの特性を評価することは周知である(例えば、引用文献4〜7参照)が、これらの文献には、いずれも、完成した電池の電極のインピーダンスを測定することが記載されているだけであり、電極合材スラリーの乾燥過程におけるインピーダンスの時間変化を測定することにより、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することは示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−192479号公報
【特許文献2】WO2007/091450
【特許文献3】特表2003−523517号公報
【特許文献4】特開2009−97878号公報
【特許文献5】特開2003−308885号公報
【特許文献6】特開2003−45500号公報
【特許文献7】特開2000−30763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術に示されていない課題を解決しようとするものであり、リチウムイオン電池などの電極合材スラリーの乾燥方法において、そのスラリー中の分散粒子の凝集過程を解析する簡便な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)導電助剤及びバインダーを含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする電極合材スラリーの乾燥方法である。
(2)導電助剤、バインダー及び活物質を含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする電極合材スラリーの乾燥方法である。
(3)前記電極合材スラリーがリチウムイオン電池の電極合材スラリーであることを特徴とする前記(2)の電極合材スラリーの乾燥方法である。
(4)前記電極合材スラリーを基材に塗布し、加熱することにより乾燥させることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項の電極合材スラリーの乾燥方法である。
(5)前記インピーダンスの時間変化の測定を、前記電極合材スラリーに交流電圧を印加し、時間経過ごとの電流実効値と位相差を測定することにより行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項の電極合材スラリーの乾燥方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極合材スラリーの乾燥方法を採用することにより、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することが可能となり、さらに、電極構造や、電池特性を予測することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、導電助剤及びバインダーを含む電極合材スラリー、又は、導電助剤、バインダー及び活物質を含む電極合材スラリーの乾燥過程において、インピーダンスの時間変化を測定したところ、スラリー中の分散粒子が凝集し、粒子間距離が小さくなることにより、容量が増加しインピーダンスが減少するという現象を知見して、本発明に到達した。
【0012】
本発明の乾燥方法に用いる電極合材スラリーの導電助剤としては、アセチレンブラック、ホウ素変性アセチレンブラックなどの炭素が好ましく、バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、
などが好ましく、活物質としては、LiFePO4、LiMn2O4、LiCoO2などが好ましい。また、分散剤としては、アクリル系の分散剤などを用いることができ、分散媒としては、イオン交換水、N-メチルピロリドン(NMP)などを用いることができる。
【0013】
電極合材スラリーの乾燥は、前記電極合材スラリーを基材に塗布し、加熱することにより行う。基材としては、アルミ箔などが好ましく、加熱温度は、60〜160℃が好ましい。
【0014】
本発明においては、リチウムイオン電池などの電極合材スラリーの乾燥過程におけるスラリー中の分散粒子の凝集過程の解析方法として、交流インピーダンス法を用いる。
インピーダンスの時間変化の測定は、乾燥過程の前記電極合材スラリーに、交流電圧を印加し、時間経過ごとの電流実効値と位相差を測定することにより行う。印加する交流電圧は、100〜3000Hz、10〜100mVp-pとすることが好ましい。周波数が低すぎると装置が安定しない、電気分解を起こす恐れ等が出てくる。また、周波数が高すぎると装置が追従しない、接触抵抗の影響が大きいなどの問題が出てくる。したがって、上記の範囲の周波数が好ましい。
ここで、印加した交流電圧実効値Vrmsを電流実効値Irmsで割るとインピーダンス│Z│になる。式で示すと以下のようになる。実効値とp-p(ピークtoピーク)の関係も示す。
│Z│=Vrms/Irms=Vp-p/Ip-p、2√2×Vrms=Vp-p、2√2×Irms=Ip-p
また、位相差とは、印加した交流電圧の位相φvと電流の位相φiの差である。交流電流と交流電圧の波のズレを表している。
【0015】
乾燥過程における電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することにより、次のようなことが分かった。
(a)乾燥開始からのインピーダンスが一定に保たれている間は、分散媒の導電率が高いなどの理由(このような状況はイオン性界面活性剤の使用などによって起こる)により、分散媒のインピーダンスが支配的になっているためと考えられる。したがって、インピーダンスが一定に保たれている時間が長い場合には、分散粒子が凝集し難く、その時間が短い場合には、分散粒子が凝集し易い。
(b)インピーダンスの減少が緩やかな場合には、分散粒子が徐々に凝集し、その減少が急激な場合には、分散粒子が急激に凝集している。
【0016】
乾燥プロセスとして望ましいのは、分散粒子が徐々に凝集して、電気的ネットワークが均一に形成されることである。そのためには、インピーダンスが単調に減少するパターンがよいと考えられる。望ましくないパターンの例としては一旦減少したインピーダンスが再び増加するようなパターンである。そのようなパターンでは分散粒子の部分的な凝集が起きており、形成された電気的ネットワークが不均一である可能性がある。また、乾燥した後に塗膜にひび割れが発生すると、それによってインピーダンスが急激に増加する。
乾燥途中のインピーダンスは粒子同士の接触状態を直接反映するものであり、完成後の電池の内部抵抗を予測するのに役立つ。
以上のような観点から、乾燥過程における電極合材スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することにより、電極、電池としての良否を予測することができ、また、電極合材スラリー中の導電助剤、バインダー及び活物質などの種類に応じて、適切な乾燥条件を設定することができる。
【実施例1】
【0017】
<セルの作製>
4mm×30mmのアルミ箔(厚み0.1mm)を2枚用意し、1mmの間隔を空けてエポキシ樹脂(マルトー、ペトロポキシ154)にアルミ箔を貼り付け、スラリーのインピーダンスを測定するためのセルを作製した。
【0018】
<電極合材スラリーの作製>
次に、電極合材スラリーを作製した。活物質にLiFePO4(PT30、宝泉(株)製、以下同じ)、導電助材にアセチレンブラック(IC2、Gulf oil製、以下同じ)、バインダーにSBR(分散剤を含むスチレンブタジエンラバー、JSR(株)製、以下同じ)を用いた。固形分重量比はLiFePO4:アセチレンブラック:SBR=5:1:2とした。作製手順は、以下のとおりである。SBRが水に48%分散してあるバインダーの分散液1.00gにイオン交換水を6.00g添加、その後、LiFePO4を1.22g、アセチレンブラックを0.24g添加し、スパチュラでの撹拌と超音波で2分間分散させた。
【0019】
<インピーダンスの測定>
セルを載置したホットプレート(マルトー,MS160)の温度を60℃に設定しておき、上記のように作製した電極合材スラリーをセルのアルミ箔に塗布すると同時に80℃まで温度を上げて乾燥させた(図11及び図12参照)。乾燥と同時に、スラリーに2017Hz、0.1Vp-pの交流電圧を印加し、時間経過ごとの電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。測定装置にはポテンショスタット(東方技研、2020)、ファンクションジェネレータ(NF回路ブロック、WF1945B)、ロックインアンプ(NF回路ブロック、LI575)、レコーダー(グラフテック、GL900)、オシロスコープ(テクトロニクス、2247A)を使用した。
【0020】
実施例1における電流実効値と位相差の測定結果を図1に示す。縦軸(左)は電流値[μArms]、縦軸(右)は位相差[degree]、横軸は時間[sec]をそれぞれ示す(以下、図2〜6において同じ)。
図1から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時40μArmsで、そこから400秒付近までは緩やかに上昇していき、500秒付近で急激な立ち上がりが見られた。その後600秒で160μArmsまで上昇、そこから700秒にかけて急激に減少した。位相差は、0秒の時22°、そこから500秒付近まで20〜25°の間で緩やかな上昇・下降を繰り返し、600秒にかけて30°まで上昇した。その後、電流値と同様に急激に減少した。
この電極合材スラリーでは、600秒(10分)過ぎまで80℃で乾燥させると、分散粒子の部分的な凝集が起きる可能性があるので、長時間80℃で乾燥させることは好ましくないことが分かる。
【実施例2】
【0021】
実施例1と同様の電極合材スラリーを用いて、再現実験を行った。
【0022】
実施例2における電流実効値と位相差の測定結果を図2に示す。
図2から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時点の25μArmsから250秒付近までは緩やかに上昇していき、そこから300秒の時80μArms、350秒の時180μArms、400秒の時240μArms、と急激に上昇した。その後500秒まで大きな変化は見られなかった。位相差は、0秒時点の23°から250秒付近まで大きな変化は見られなかったが、そこから300秒の時10°、350秒の時0°、400秒の時-4°、と急激に減少した。400秒から500秒にかけては大きな変化は見られなかった。
【実施例3】
【0023】
導電助材にアセチレンブラック、バインダーにSBRとCMC(カルボキシメチルセルロース、関東化学(株)製、以下同じ)を用いて、固形分重量比をアセチレンブラック:SBR:CMC=1:2:1とした以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製し、同様の条件で電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。
【0024】
実施例3における電流実効値と位相差の測定結果を図3に示す。
図3から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時50μArmsで、そこから300秒付近までは緩やかに上昇していき、そこから急激な立ち上がりが見られた。その後450秒まで上昇を続け、電流値370μArmsまで上昇した。位相差は、0秒の時17°だったが、300秒付近まで徐々に減少していき、2°まで減少した。そこから一旦は減少が止まったが、380秒から420秒にかけ、0°まで急激に減少した。
【実施例4】
【0025】
実施例1と同様の電極合材スラリーを用いて、再現実験を行った。
【0026】
実施例4における電流実効値と位相差の測定結果を図4に示す。
図4から、次のようなことが分かる。電流値は0秒の時30μArmsで、そこから300秒付近までは緩やかに上昇していき、約120μArmsで一定になった。位相差は、0秒の時19°だったが、100秒で21°まで上昇した。そこから300秒まで緩やかに減少した。その後急激に減少し450秒で-2°になった。
【実施例5】
【0027】
導電助材にアセチレンブラック、バインダーにPVDF(KFポリマー1120、クレハ(株)製)を用いて、固形分重量比をアセチレンブラック:PVDF=1:2とし、分散媒をNMP(N-メチルピロリドン)とした以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製した。はじめにホットプレートを100℃にしておき、スラリー塗布後、120℃に加温した以外は、実施例1と同様の条件で電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。
【0028】
実施例5における電流実効値と位相差の測定結果を図5に示す。
図5から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時20μArmsで、そこから50秒の時50μArms、100秒の時150μArms、150秒の時500μArmsというように上昇した。位相差は、0秒の時13°だったが50秒の時5°、100秒の時0°、130秒の時-5°というように減少した。
【実施例6】
【0029】
活物質にLiMn2O4(三井金属(株)製、以下同じ)、導電助材にアセチレンブラック、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をLiMn2O4:アセチレンブラック:SBR=5:1:2とした以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製し、同様の条件で電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。
【0030】
実施例6における電流実効値と位相差の測定結果を図6に示す。
図6から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時58μArms、そこから50秒でやや減少するも、徐々に上昇していき150秒の時63μArmsとなった。その後、340秒で60μArmsまで緩やかに減少し、再び上昇し420秒の時65μArmsとなった。位相差は、0秒時点の17°のまま測定終了まで大きな変化は見られなかった。
【実施例7】
【0031】
実施例6と同様の電極合材スラリーを用いて、再現実験を行った。
【0032】
実施例7における電流実効値の測定結果を図7に示す。縦軸は電流値[μArms]、横軸は時間[sec]を示す。
図7から、次のようなことが分かる。0秒の時3.2μArms、そこから100秒の時2.8μArms、200秒の時2.6μArms、300秒の時2.4μArms、400秒の時2.2μArmsというように徐々に減少していった。その後、500秒の時2.3μArms、570秒の時2.6μArmsと上昇し、そこから600秒にかけて急激に減少し1.8μArmsとなった。
【実施例8】
【0033】
活物質にLiMn2O4、導電助材にホウ素変性アセチレンブラック(アクリル系の分散剤002を含むNB4、御国色素(株)製、以下同じ)、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をLiMn2O4:ホウ素変性アセチレンブラック:SBR=5:1:0.5とした以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製し、同様の条件で電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。
【0034】
実施例8における電流実効値の測定結果を図8に示す。縦軸は電流値[μArms]、横軸は時間[sec]を示す。
図8から、次のようなことが分かる。0秒時点の30μArmsから130秒まで大きな変化はなかったが、150秒の時100μArms、160秒の時170μArms、170秒の時240μArms、180秒の時270μArms、190秒の時400μArms、196秒の時480μArmsと、急激に上昇していった。
【実施例9】
【0035】
以下の(1)〜(4)のスラリーをそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製し、同様の条件で電流実効値(インピーダンス)の測定を行った。
(1)NB4+SBR:導電助材にホウ素変性アセチレンブラック(NB4)、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をホウ素変性アセチレンブラック:SBR=2:1としたスラリー
(2)IC2+SBR:導電助材にアセチレンブラック、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をアセチレンブラック:SBR=1:2としたスラリー
(3)NB4+SBR+スピネル:活物質にLiMn2O4(スピネル)、導電助材にホウ素変性アセチレンブラック(NB4)、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をLiMn2O4:ホウ素変性アセチレンブラック:SBR=5:1:0.5としたスラリー
(4)IC2+SBR+スピネル:活物質にLiMn2O4(スピネル)、導電助材にアセチレンブラック(IC2)、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をLiMn2O4:アセチレンブラック:SBR=5:1:2としたスラリー
【0036】
実施例9における電流実効値の測定結果を図9に示す。縦軸は電流値[μArms]、横軸は時間[sec]を示す。
図9から、次のようなことが分かる。どの電極合材スラリーにおいても、乾燥時間が経過すると電流実効値が増大(インピーダンスが低下)する傾向が見られたが、導電助剤、活物質の種類の種類によって、インピーダンスの時間変化に差が見られた。(4)のスラリー(IC2+SBR+スピネル)は、インピーダンスの低下は僅かであったが、(1)のスラリー(NB4+SBR)は、100秒を経過した時点からインピーダンスの低下が著しかった。
【実施例10】
【0037】
実施例9と同一の電極合材スラリー(1)〜(4)を用いて、実施例1と同様の条件で位相差の測定を行った。
【0038】
実施例10における位相差の測定結果を図10に示す。縦軸は位相差[degree]、横軸は時間[sec]を示す。
図10から、次のようなことが分かる。どの電極合材スラリーにおいても、乾燥時間が経過すると位相差が低下する傾向が見られた。特に、(1)のスラリー(NB4+SBR)は、50秒を経過した時点から位相差の低下が著しかった。
【実施例11】
【0039】
実施例9の(1)のスラリー(NB4+SBR)と(2)のスラリー(C2+SBR)を乾燥させた後の電極の内部抵抗を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
乾燥時に電流実効値が単調に増加(インピーダンスが単調に減少)した「アセチレンブラック及びSBRを含有する電極合材スラリー」(C2+SBR)の方が、乾燥時にインピーダンスが著しく減少した「ホウ素変性アセチレンブラック及びSBRを含有する電極合材スラリー」(NB4+SBR)よりも、電極の内部抵抗は小さかった。C2+SBRの方が、分散粒子が徐々に凝集して、電気的ネットワークが均一に形成されたためであると考えられる。
【0042】
上記のように、電極合材スラリーの種類によって、乾燥過程のインピーダンスや位相差の時間変化が異なることが分かった。したがって、乾燥過程の電極合材スラリーのインピーダンスを測定することによって、粒子の凝集過程の違いを捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】アセチレンブラック、SBR及びLiFePO4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例1)
【図2】アセチレンブラック、SBR及びLiFePO4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例2)
【図3】アセチレンブラック、SBR及びCMCを含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例3)
【図4】アセチレンブラック、SBR及びLiFePO4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例4)
【図5】アセチレンブラック及びPVDFを含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例5)
【図6】アセチレンブラック、SBR及びLiMn2O4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例6)
【図7】アセチレンブラック、SBR及びLiMn2O4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値の時間変化(実施例7)
【図8】ホウ素変性アセチレンブラック、SBR及びLiMn2O4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値の時間変化(実施例8)
【図9】種々の電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値の時間変化(実施例9)
【図10】種々の電極合材スラリーの乾燥時における位相差の時間変化(実施例10)
【図11】電極合材スラリーの乾燥前の電極写真
【図12】電極合材スラリーの乾燥後の電極写真
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の電極合材スラリーの乾燥方法を用いることで、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することが可能となり、電極構造や、電池特性を予測する上での指針となる可能性を期待できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極合材スラリーの乾燥方法に関し、特に、インピーダンスの測定を利用したリチウムイオン電池などの電極合材スラリーの乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの電極合材スラリー中では活物質、導電助剤、バインダー、分散剤、及び溶剤が均一に分散している必要があるだけではなく、乾燥プロセスにおいて活物質同士が凝集せずに、活物質と導電助剤が電気的に接続され、導電ネットワークが形成される必要がある。しかし、スラリーの中の粒子が導電ネットワークを形成するに至る乾燥プロセスは十分に解明されているとはいえない。
また、電極構造や、電池特性を予測する上で、乾燥過程の電極合材スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することは重要であるが、現在、リチウムイオン電池などの電極合材スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析する簡易な方法は見出されていない。
【0003】
従来技術として、一対の電極間のインピーダンスの時間変化を演算し、チャンバ内の微粒子数を算出するインピーダンス計測装置を備える微粒子測定装置が公知であり(特許文献1参照)、特許文献1には、「ある時間におけるインピーダンス値と、電圧印加直後の初期インピーダンス値との差分、言い換えれば変化分から、微細孔にトラップされた微生物数を推定することが可能である。そして、トラップされた微生物数は懸濁液中に含まれる微生物濃度に依存するものであるから、懸濁液中の微生物数を測定することが可能になる。」(段落[0072])と記載されているが、インピーダンスの時間変化を測定することにより、懸濁液(スラリー)中の分散粒子の凝集過程を解析することは示唆されていない。
【0004】
特許文献2には、「粒子状物質が懸濁された懸濁液を収容するチャンバと、前記懸濁液内に配される一対の電極と、該一対の電極間にプログラム化電圧シグナルを印加するための装置と、前記一対の電極間のインピーダンスの時間変化を検出するインピーダンス検出装置からなることを特徴とする特性分析装置。」(請求項33)の発明が記載されているが、この発明は、「誘電泳動力を用いた粒子状物質の特性分析、特に電気的な特性分析、あるいは移動、分別、ならびに濃縮の操作を行うにあたって、印加する交流電圧周波数の最適化を簡便かつ短時間に行うことを可能とする特性分析方法ならびに特性分析方法を提供することを目的とする」(段落[0001])ものであり、インピーダンスの時間変化を測定することにより、懸濁液(スラリー)の乾燥過程における、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することを示唆するものではない。
【0005】
特許文献3には、「流体の粒子特性を測定する方法であって、流体に一つまたは複数の周波数で電気信号を加えるステップと;一つまたは複数の周波数での流体のインピーダンス量特性を測定するステップと;インピーダンス量測定値から粒子特性を推定するステップとを具備してなることを特徴とする方法。」(請求項1)の発明が記載されているが、この発明は、「部品の故障を診断する目的で、機械システムの潤滑油或は作動油に含まれる粒子分を観察する、装置及び方法に関する」(段落[0001])ものであり、インピーダンスの時間変化を測定することにより、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することを示唆するものではない。
【0006】
また、インピーダンスを測定して、リチウムイオン電池などの特性を評価することは周知である(例えば、引用文献4〜7参照)が、これらの文献には、いずれも、完成した電池の電極のインピーダンスを測定することが記載されているだけであり、電極合材スラリーの乾燥過程におけるインピーダンスの時間変化を測定することにより、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することは示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−192479号公報
【特許文献2】WO2007/091450
【特許文献3】特表2003−523517号公報
【特許文献4】特開2009−97878号公報
【特許文献5】特開2003−308885号公報
【特許文献6】特開2003−45500号公報
【特許文献7】特開2000−30763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術に示されていない課題を解決しようとするものであり、リチウムイオン電池などの電極合材スラリーの乾燥方法において、そのスラリー中の分散粒子の凝集過程を解析する簡便な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)導電助剤及びバインダーを含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする電極合材スラリーの乾燥方法である。
(2)導電助剤、バインダー及び活物質を含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする電極合材スラリーの乾燥方法である。
(3)前記電極合材スラリーがリチウムイオン電池の電極合材スラリーであることを特徴とする前記(2)の電極合材スラリーの乾燥方法である。
(4)前記電極合材スラリーを基材に塗布し、加熱することにより乾燥させることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項の電極合材スラリーの乾燥方法である。
(5)前記インピーダンスの時間変化の測定を、前記電極合材スラリーに交流電圧を印加し、時間経過ごとの電流実効値と位相差を測定することにより行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項の電極合材スラリーの乾燥方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極合材スラリーの乾燥方法を採用することにより、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することが可能となり、さらに、電極構造や、電池特性を予測することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、導電助剤及びバインダーを含む電極合材スラリー、又は、導電助剤、バインダー及び活物質を含む電極合材スラリーの乾燥過程において、インピーダンスの時間変化を測定したところ、スラリー中の分散粒子が凝集し、粒子間距離が小さくなることにより、容量が増加しインピーダンスが減少するという現象を知見して、本発明に到達した。
【0012】
本発明の乾燥方法に用いる電極合材スラリーの導電助剤としては、アセチレンブラック、ホウ素変性アセチレンブラックなどの炭素が好ましく、バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、
などが好ましく、活物質としては、LiFePO4、LiMn2O4、LiCoO2などが好ましい。また、分散剤としては、アクリル系の分散剤などを用いることができ、分散媒としては、イオン交換水、N-メチルピロリドン(NMP)などを用いることができる。
【0013】
電極合材スラリーの乾燥は、前記電極合材スラリーを基材に塗布し、加熱することにより行う。基材としては、アルミ箔などが好ましく、加熱温度は、60〜160℃が好ましい。
【0014】
本発明においては、リチウムイオン電池などの電極合材スラリーの乾燥過程におけるスラリー中の分散粒子の凝集過程の解析方法として、交流インピーダンス法を用いる。
インピーダンスの時間変化の測定は、乾燥過程の前記電極合材スラリーに、交流電圧を印加し、時間経過ごとの電流実効値と位相差を測定することにより行う。印加する交流電圧は、100〜3000Hz、10〜100mVp-pとすることが好ましい。周波数が低すぎると装置が安定しない、電気分解を起こす恐れ等が出てくる。また、周波数が高すぎると装置が追従しない、接触抵抗の影響が大きいなどの問題が出てくる。したがって、上記の範囲の周波数が好ましい。
ここで、印加した交流電圧実効値Vrmsを電流実効値Irmsで割るとインピーダンス│Z│になる。式で示すと以下のようになる。実効値とp-p(ピークtoピーク)の関係も示す。
│Z│=Vrms/Irms=Vp-p/Ip-p、2√2×Vrms=Vp-p、2√2×Irms=Ip-p
また、位相差とは、印加した交流電圧の位相φvと電流の位相φiの差である。交流電流と交流電圧の波のズレを表している。
【0015】
乾燥過程における電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することにより、次のようなことが分かった。
(a)乾燥開始からのインピーダンスが一定に保たれている間は、分散媒の導電率が高いなどの理由(このような状況はイオン性界面活性剤の使用などによって起こる)により、分散媒のインピーダンスが支配的になっているためと考えられる。したがって、インピーダンスが一定に保たれている時間が長い場合には、分散粒子が凝集し難く、その時間が短い場合には、分散粒子が凝集し易い。
(b)インピーダンスの減少が緩やかな場合には、分散粒子が徐々に凝集し、その減少が急激な場合には、分散粒子が急激に凝集している。
【0016】
乾燥プロセスとして望ましいのは、分散粒子が徐々に凝集して、電気的ネットワークが均一に形成されることである。そのためには、インピーダンスが単調に減少するパターンがよいと考えられる。望ましくないパターンの例としては一旦減少したインピーダンスが再び増加するようなパターンである。そのようなパターンでは分散粒子の部分的な凝集が起きており、形成された電気的ネットワークが不均一である可能性がある。また、乾燥した後に塗膜にひび割れが発生すると、それによってインピーダンスが急激に増加する。
乾燥途中のインピーダンスは粒子同士の接触状態を直接反映するものであり、完成後の電池の内部抵抗を予測するのに役立つ。
以上のような観点から、乾燥過程における電極合材スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することにより、電極、電池としての良否を予測することができ、また、電極合材スラリー中の導電助剤、バインダー及び活物質などの種類に応じて、適切な乾燥条件を設定することができる。
【実施例1】
【0017】
<セルの作製>
4mm×30mmのアルミ箔(厚み0.1mm)を2枚用意し、1mmの間隔を空けてエポキシ樹脂(マルトー、ペトロポキシ154)にアルミ箔を貼り付け、スラリーのインピーダンスを測定するためのセルを作製した。
【0018】
<電極合材スラリーの作製>
次に、電極合材スラリーを作製した。活物質にLiFePO4(PT30、宝泉(株)製、以下同じ)、導電助材にアセチレンブラック(IC2、Gulf oil製、以下同じ)、バインダーにSBR(分散剤を含むスチレンブタジエンラバー、JSR(株)製、以下同じ)を用いた。固形分重量比はLiFePO4:アセチレンブラック:SBR=5:1:2とした。作製手順は、以下のとおりである。SBRが水に48%分散してあるバインダーの分散液1.00gにイオン交換水を6.00g添加、その後、LiFePO4を1.22g、アセチレンブラックを0.24g添加し、スパチュラでの撹拌と超音波で2分間分散させた。
【0019】
<インピーダンスの測定>
セルを載置したホットプレート(マルトー,MS160)の温度を60℃に設定しておき、上記のように作製した電極合材スラリーをセルのアルミ箔に塗布すると同時に80℃まで温度を上げて乾燥させた(図11及び図12参照)。乾燥と同時に、スラリーに2017Hz、0.1Vp-pの交流電圧を印加し、時間経過ごとの電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。測定装置にはポテンショスタット(東方技研、2020)、ファンクションジェネレータ(NF回路ブロック、WF1945B)、ロックインアンプ(NF回路ブロック、LI575)、レコーダー(グラフテック、GL900)、オシロスコープ(テクトロニクス、2247A)を使用した。
【0020】
実施例1における電流実効値と位相差の測定結果を図1に示す。縦軸(左)は電流値[μArms]、縦軸(右)は位相差[degree]、横軸は時間[sec]をそれぞれ示す(以下、図2〜6において同じ)。
図1から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時40μArmsで、そこから400秒付近までは緩やかに上昇していき、500秒付近で急激な立ち上がりが見られた。その後600秒で160μArmsまで上昇、そこから700秒にかけて急激に減少した。位相差は、0秒の時22°、そこから500秒付近まで20〜25°の間で緩やかな上昇・下降を繰り返し、600秒にかけて30°まで上昇した。その後、電流値と同様に急激に減少した。
この電極合材スラリーでは、600秒(10分)過ぎまで80℃で乾燥させると、分散粒子の部分的な凝集が起きる可能性があるので、長時間80℃で乾燥させることは好ましくないことが分かる。
【実施例2】
【0021】
実施例1と同様の電極合材スラリーを用いて、再現実験を行った。
【0022】
実施例2における電流実効値と位相差の測定結果を図2に示す。
図2から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時点の25μArmsから250秒付近までは緩やかに上昇していき、そこから300秒の時80μArms、350秒の時180μArms、400秒の時240μArms、と急激に上昇した。その後500秒まで大きな変化は見られなかった。位相差は、0秒時点の23°から250秒付近まで大きな変化は見られなかったが、そこから300秒の時10°、350秒の時0°、400秒の時-4°、と急激に減少した。400秒から500秒にかけては大きな変化は見られなかった。
【実施例3】
【0023】
導電助材にアセチレンブラック、バインダーにSBRとCMC(カルボキシメチルセルロース、関東化学(株)製、以下同じ)を用いて、固形分重量比をアセチレンブラック:SBR:CMC=1:2:1とした以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製し、同様の条件で電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。
【0024】
実施例3における電流実効値と位相差の測定結果を図3に示す。
図3から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時50μArmsで、そこから300秒付近までは緩やかに上昇していき、そこから急激な立ち上がりが見られた。その後450秒まで上昇を続け、電流値370μArmsまで上昇した。位相差は、0秒の時17°だったが、300秒付近まで徐々に減少していき、2°まで減少した。そこから一旦は減少が止まったが、380秒から420秒にかけ、0°まで急激に減少した。
【実施例4】
【0025】
実施例1と同様の電極合材スラリーを用いて、再現実験を行った。
【0026】
実施例4における電流実効値と位相差の測定結果を図4に示す。
図4から、次のようなことが分かる。電流値は0秒の時30μArmsで、そこから300秒付近までは緩やかに上昇していき、約120μArmsで一定になった。位相差は、0秒の時19°だったが、100秒で21°まで上昇した。そこから300秒まで緩やかに減少した。その後急激に減少し450秒で-2°になった。
【実施例5】
【0027】
導電助材にアセチレンブラック、バインダーにPVDF(KFポリマー1120、クレハ(株)製)を用いて、固形分重量比をアセチレンブラック:PVDF=1:2とし、分散媒をNMP(N-メチルピロリドン)とした以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製した。はじめにホットプレートを100℃にしておき、スラリー塗布後、120℃に加温した以外は、実施例1と同様の条件で電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。
【0028】
実施例5における電流実効値と位相差の測定結果を図5に示す。
図5から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時20μArmsで、そこから50秒の時50μArms、100秒の時150μArms、150秒の時500μArmsというように上昇した。位相差は、0秒の時13°だったが50秒の時5°、100秒の時0°、130秒の時-5°というように減少した。
【実施例6】
【0029】
活物質にLiMn2O4(三井金属(株)製、以下同じ)、導電助材にアセチレンブラック、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をLiMn2O4:アセチレンブラック:SBR=5:1:2とした以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製し、同様の条件で電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。
【0030】
実施例6における電流実効値と位相差の測定結果を図6に示す。
図6から、次のようなことが分かる。電流値は、0秒の時58μArms、そこから50秒でやや減少するも、徐々に上昇していき150秒の時63μArmsとなった。その後、340秒で60μArmsまで緩やかに減少し、再び上昇し420秒の時65μArmsとなった。位相差は、0秒時点の17°のまま測定終了まで大きな変化は見られなかった。
【実施例7】
【0031】
実施例6と同様の電極合材スラリーを用いて、再現実験を行った。
【0032】
実施例7における電流実効値の測定結果を図7に示す。縦軸は電流値[μArms]、横軸は時間[sec]を示す。
図7から、次のようなことが分かる。0秒の時3.2μArms、そこから100秒の時2.8μArms、200秒の時2.6μArms、300秒の時2.4μArms、400秒の時2.2μArmsというように徐々に減少していった。その後、500秒の時2.3μArms、570秒の時2.6μArmsと上昇し、そこから600秒にかけて急激に減少し1.8μArmsとなった。
【実施例8】
【0033】
活物質にLiMn2O4、導電助材にホウ素変性アセチレンブラック(アクリル系の分散剤002を含むNB4、御国色素(株)製、以下同じ)、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をLiMn2O4:ホウ素変性アセチレンブラック:SBR=5:1:0.5とした以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製し、同様の条件で電流実効値(インピーダンス)と位相差の測定を行った。
【0034】
実施例8における電流実効値の測定結果を図8に示す。縦軸は電流値[μArms]、横軸は時間[sec]を示す。
図8から、次のようなことが分かる。0秒時点の30μArmsから130秒まで大きな変化はなかったが、150秒の時100μArms、160秒の時170μArms、170秒の時240μArms、180秒の時270μArms、190秒の時400μArms、196秒の時480μArmsと、急激に上昇していった。
【実施例9】
【0035】
以下の(1)〜(4)のスラリーをそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様に電極合材スラリーを作製し、同様の条件で電流実効値(インピーダンス)の測定を行った。
(1)NB4+SBR:導電助材にホウ素変性アセチレンブラック(NB4)、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をホウ素変性アセチレンブラック:SBR=2:1としたスラリー
(2)IC2+SBR:導電助材にアセチレンブラック、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をアセチレンブラック:SBR=1:2としたスラリー
(3)NB4+SBR+スピネル:活物質にLiMn2O4(スピネル)、導電助材にホウ素変性アセチレンブラック(NB4)、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をLiMn2O4:ホウ素変性アセチレンブラック:SBR=5:1:0.5としたスラリー
(4)IC2+SBR+スピネル:活物質にLiMn2O4(スピネル)、導電助材にアセチレンブラック(IC2)、バインダーにSBRを用いて、固形分重量比をLiMn2O4:アセチレンブラック:SBR=5:1:2としたスラリー
【0036】
実施例9における電流実効値の測定結果を図9に示す。縦軸は電流値[μArms]、横軸は時間[sec]を示す。
図9から、次のようなことが分かる。どの電極合材スラリーにおいても、乾燥時間が経過すると電流実効値が増大(インピーダンスが低下)する傾向が見られたが、導電助剤、活物質の種類の種類によって、インピーダンスの時間変化に差が見られた。(4)のスラリー(IC2+SBR+スピネル)は、インピーダンスの低下は僅かであったが、(1)のスラリー(NB4+SBR)は、100秒を経過した時点からインピーダンスの低下が著しかった。
【実施例10】
【0037】
実施例9と同一の電極合材スラリー(1)〜(4)を用いて、実施例1と同様の条件で位相差の測定を行った。
【0038】
実施例10における位相差の測定結果を図10に示す。縦軸は位相差[degree]、横軸は時間[sec]を示す。
図10から、次のようなことが分かる。どの電極合材スラリーにおいても、乾燥時間が経過すると位相差が低下する傾向が見られた。特に、(1)のスラリー(NB4+SBR)は、50秒を経過した時点から位相差の低下が著しかった。
【実施例11】
【0039】
実施例9の(1)のスラリー(NB4+SBR)と(2)のスラリー(C2+SBR)を乾燥させた後の電極の内部抵抗を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
乾燥時に電流実効値が単調に増加(インピーダンスが単調に減少)した「アセチレンブラック及びSBRを含有する電極合材スラリー」(C2+SBR)の方が、乾燥時にインピーダンスが著しく減少した「ホウ素変性アセチレンブラック及びSBRを含有する電極合材スラリー」(NB4+SBR)よりも、電極の内部抵抗は小さかった。C2+SBRの方が、分散粒子が徐々に凝集して、電気的ネットワークが均一に形成されたためであると考えられる。
【0042】
上記のように、電極合材スラリーの種類によって、乾燥過程のインピーダンスや位相差の時間変化が異なることが分かった。したがって、乾燥過程の電極合材スラリーのインピーダンスを測定することによって、粒子の凝集過程の違いを捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】アセチレンブラック、SBR及びLiFePO4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例1)
【図2】アセチレンブラック、SBR及びLiFePO4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例2)
【図3】アセチレンブラック、SBR及びCMCを含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例3)
【図4】アセチレンブラック、SBR及びLiFePO4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例4)
【図5】アセチレンブラック及びPVDFを含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例5)
【図6】アセチレンブラック、SBR及びLiMn2O4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値と位相差の時間変化(実施例6)
【図7】アセチレンブラック、SBR及びLiMn2O4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値の時間変化(実施例7)
【図8】ホウ素変性アセチレンブラック、SBR及びLiMn2O4を含む電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値の時間変化(実施例8)
【図9】種々の電極合材スラリーの乾燥時における電流実効値の時間変化(実施例9)
【図10】種々の電極合材スラリーの乾燥時における位相差の時間変化(実施例10)
【図11】電極合材スラリーの乾燥前の電極写真
【図12】電極合材スラリーの乾燥後の電極写真
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の電極合材スラリーの乾燥方法を用いることで、スラリー中の分散粒子の凝集過程を解析することが可能となり、電極構造や、電池特性を予測する上での指針となる可能性を期待できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電助剤及びバインダーを含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする電極合材スラリーの乾燥方法。
【請求項2】
導電助剤、バインダー及び活物質を含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする電極合材スラリーの乾燥方法。
【請求項3】
前記電極合材スラリーがリチウムイオン電池の電極合材スラリーであることを特徴とする請求項2に記載の電極合材スラリーの乾燥方法。
【請求項4】
前記電極合材スラリーを基材に塗布し、加熱することにより乾燥させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極合材スラリーの乾燥方法。
【請求項5】
前記インピーダンスの時間変化の測定を、前記電極合材スラリーに交流電圧を印加し、時間経過ごとの電流実効値と位相差を測定することにより行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極合材スラリーの乾燥方法。
【請求項1】
導電助剤及びバインダーを含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする電極合材スラリーの乾燥方法。
【請求項2】
導電助剤、バインダー及び活物質を含む電極合材スラリーの乾燥方法において、乾燥過程における前記電極合材スラリーのインピーダンスの時間変化を測定することを特徴とする電極合材スラリーの乾燥方法。
【請求項3】
前記電極合材スラリーがリチウムイオン電池の電極合材スラリーであることを特徴とする請求項2に記載の電極合材スラリーの乾燥方法。
【請求項4】
前記電極合材スラリーを基材に塗布し、加熱することにより乾燥させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極合材スラリーの乾燥方法。
【請求項5】
前記インピーダンスの時間変化の測定を、前記電極合材スラリーに交流電圧を印加し、時間経過ごとの電流実効値と位相差を測定することにより行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極合材スラリーの乾燥方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−113821(P2011−113821A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269377(P2009−269377)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(591064508)御国色素株式会社 (28)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(591064508)御国色素株式会社 (28)
【Fターム(参考)】
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