説明

電極材料およびその製造方法ならびにリチウムイオン二次電池

【課題】化学量論組成がNa0.33の相を有するナトリウムバナジウム酸化物を含み、高容量かつサイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池を作製可能である電極材料およびそれを効率的に製造できる製造方法、ならびに当該電極材料を用いたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】電極材料は、結晶相に化学量論組成のNa0.33あるいはNa1.015を有し、Na(0<x<0.33)で表わされるナトリウムバナジウム酸化物を活物質として使用した。これにより、Naを欠損させた組成とすることで電池容量の向上が図れるとともに、ナトリウムの存在により良好なサイクル特性を維持することができる。また、電極材料の製造方法は、原料としてNaOHとNHVOとを用いるので、比較的低温の熱処理で本発明の電極材料を効率的に製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池の技術に関し、特に電極材料およびその製造方法、ならびに当該電極材料を用いたリチウムイオン二次電池に有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
エネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池(LIB)を電気自動車(EV)の蓄電源とする取り組みが数多くなされているが、EVの走行距離を伸長させるためには、LIBをさらに高いエネルギー密度としなければならない。また、EVとしてLIBを適用するためには安全であることも必要であるが、とりわけ、充電状態における正極の構造安定性を高めることが重要な解決課題となっている。
【0003】
このような背景のもと、LIB正極材料(電極材料)の活物質としては、V等のバナジウム酸化物が、多数の原子価を有しており高容量のポテンシャルがあり、充電末組成も熱的に安定である。そのため、バナジウム酸化物を、従来のコバルト酸、マンガン酸またはニッケル酸とリチウムとの化合物に代わって使用することについて検討が進められている。
【0004】
例えば、本出願人は特許文献1で、バナジウム酸化物において、結晶構造の隙間に、リチウムイオンよりもイオン半径の大きい、ナトリウムイオン、セシウムイオン等のイオンをドープして、充放電に伴う結晶構造の崩壊を抑制し、リチウムイオンの結晶構造内への円滑な出入りを確保することを提案している。
【0005】
また、特許文献2で、バナジウムイオンよりもイオン半径の大きい周期表第V族、第VI族のイオンをドープして、特許文献1の提案と同様にリチウムイオンの結晶構造内への円滑な出入りを確保することを提案している。
【0006】
一方、非特許文献1では、ナトリウムイオンを予め含んだナトリウムバナジウム酸化物の使用を目的として、化学量論組成のナトリウムバナジウム酸化物Na0.33の電気化学的特性が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−300234号公報
【特許文献2】特開2008−300233号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Bach, J.P.Pereira-Ramos, N.Baffier, R.Messina, Journal of Electrochem.Soc., 137, (1990)1042-1048.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および2の提案では、推測される層状の結晶構造を基に、イオン半径の大きなイオンをドープすることに着目しているにすぎず、具体的にどのような結晶構造を有する成分を使用した場合に、電池容量やサイクル特性に優れるかについては検討されていなかった。
【0010】
一方、非特許文献1で提案されているNa0.33は、この化学量論組成のみのナトリウムバナジウム酸化物を用いたのでは、容量が低く、サイクル特性も良好でないことがある。そのため、化学量論組成がNa0.33の相を有しつつ、化合物としては組成が異なるナトリウムバナジウム酸化物の開発が望まれていた。また、そのようなナトリウムバナジウム酸化物を効率的に得るには、原料等の製造方法の観点からの検討も望まれる。
【0011】
本発明の目的は、化学量論組成がNa0.33の相を有するナトリウムバナジウム酸化物を含み、高容量かつサイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池を作製可能である電極材料およびそれを効率的に製造できる製造方法、ならびに当該電極材料を用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【0012】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0014】
代表的な実施の形態による電極材料は、化学量論組成Na0.33および/またはNa1.015の結晶相を有し、Na(0<x<0.33)で表わされるナトリウムバナジウム酸化物を含む。
【0015】
また、代表的な実施の形態による電極材料の製造方法は、原料として水酸化ナトリウム(NaOH)とメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)とを用いて前記電極材料を製造する。
【0016】
また、代表的な実施の形態によるリチウムイオン二次電池は、前記電極材料を使用した正極を有する。
【発明の効果】
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0018】
すなわち、本発明の電極材料は、化学量論組成Na0.33あるいはNa1.015の結晶相を有しつつ、Na(0<x<0.33)で表わされるナトリウムバナジウム酸化物を含む。つまり、Na0.33の化学量論組成のみのナトリウムバナジウム酸化物に比して、Naを欠損させた組成とすることにより、電池容量の向上を図るとともに、ナトリウムの存在により良好なサイクル特性を維持することができる。これにより、高容量かつサイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池を作製可能となる。
【0019】
また、本発明の電極材料の製造方法は、原料として水酸化ナトリウム(NaOH)とメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)とを用いるので、本発明の電極材料を効率的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ナトリウムバナジウム酸化物の結晶構造を模式的に示した説明図である。
【図2】(a)はNa0.33(Na1.015)、(b)はNa(0<x<0.33)の結晶構造を模式的に示した説明図である。
【図3】本発明の電極材料の製造工程を示すフロー図である。
【図4】本発明のリチウムイオン二次電池の一例の概要構成を示す断面図である。
【図5】本発明のリチウムイオン二次電池の他の一例の概要構成を示す断面図である。
【図6】本発明の正極材料粉末のX線回折結果を示すグラフである。
【図7】初期放電容量の測定結果を示すグラフである。
【図8】容量維持率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の電極材料は、活物質として、ナトリウムバナジウム酸化物(ナトリウムバナジウム複合酸化物)を含んでいる。これにより、活物質が予め有しているナトリウムイオンにより、結晶構造の崩壊が抑制あるいは回避され、結晶構造の隙間へのリチウムイオンの出入り、つまりドープ、脱ドープが円滑に確保される。具体的には、図1に示すように、バナジウム酸化物の結晶構造が、平坦な層状であると仮定した場合に、バナジウム酸化物の層間に、リチウムイオンよりもイオン半径が大きいナトリウムイオンが介在し、リチウムイオンの層間への出入りが円滑に確保される。なお、本明細書では、ドープとは、吸蔵、担持、吸着、挿入等により、正極等における活物質にリチウムイオンが入る現象を意味し、脱ドープとは、放出、脱離等により、活物質からリチウムイオンが出る現象を意味する。
【0022】
ナトリウムバナジウム酸化物としては、化学量論組成がNa0.33あるいはNa1.015の結晶相を有し、Na(0<x<0.33)で表わされる活物質を使用する。つまり、化学量論組成のナトリウムバナジウム酸化物Na0.33やNa1.015よりもナトリウムを欠いた組成とする。
【0023】
図2に示すように、図1と同様に、結晶を平坦な層状と仮定した場合に、化学量論組成のナトリウムバナジウム酸化物(図2(a)参照)に対して、Na(0<x<0.33)(図2(b)参照)では、ナトリウムを欠いた箇所に空孔が形成される。これにより、空孔にもリチウムイオンが移動可能となるので、その移動自由度が高くなり、得られる電池の容量を向上させることができるのである。また、部分的にナトリウムを欠いても、ナトリウムイオンは存在することと、化学量論組成のナトリウムバナジウム酸化物の結晶相を有することから、結晶構造は大きく崩れることなく維持され、良好なサイクル特性を有することができる。
【0024】
上記のxの値としては、電池容量の観点からは、0に近い程、空孔が多く形成されて容量が向上するので好ましいが、サイクル特性の向上を図ることも考慮すると、0.06≦x≦0.3の範囲内であることが好ましく、0.06≦x≦0.2の範囲内であることがより好ましい。
【0025】
結晶相のNa0.33あるいはNa1.015は、いずれもX線回折において、2θ=10〜15°の間の002面のピークに最も強い回折線を確認することができる。
【0026】
充電時には、Na0.33は、バナジウム酸化物の層(VO層)が同程度の起伏の凹凸状に形成され、その間にナトリウムが介在した構造を採っていると考えられる。また、Na1.015は、VO層が一定周期で起伏が異なる凹凸状に形成され、その間にナトリウムが介在するとともに、VO層が層間の酸素原子により結合された、いわゆる一次元トンネル構造を採っていると考えられる。つまり、Na0.33とNa1.015とでは、組成比や結晶系は同じであっても、元素の配置は異なっており、結晶相としてのNa0.33とNa1.015は、厳密には区別することができる。ただし、両者は、電気化学的応答は同等であるため、ナトリウムバナジウム酸化物は、Na0.33およびNa1.015のいずれか一方または双方を含み得るのである。なお、一次元トンネル構造については、例えば2008年8月11日付けのNature Materials電子版などに記載されている。
【0027】
ここで、本発明のナトリウムバナジウム酸化物では、Na0.33あるいはNa1.015の相を有する結晶構造が存在していればよい。具体的には、使用する活物質は、ナトリウムバナジウム酸化物Na(0<x<0.33)であって、Na量が0.33あるいは1.0である場合にNa0.33あるいはNa1.015の結晶相を有すればよい。つまり、ナトリウムバナジウム酸化物の結晶構造は、充放電により変動し得るのである。
【0028】
ナトリウムバナジウム酸化物Na(0<x<0.33)の原料としては、これを合成可能なものであれば特に制限はないが、効率的に当該酸化物を得る観点からは、水酸化ナトリウム(NaOH)とメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)とを用いることが好ましい。NHVOによれば、高純度かつ低コストで目的のバナジウム酸化物が得られる。また、NaOHは融点が低く、固体との適合性が良いため、比較的に低い温度でも反応が可能となる。
【0029】
NaOHとNHVOとの配合比は、Naのxの値が所望の値となるように、両者の組成から計算した量を、それぞれ配合すればよい。つまり、例えば、xの値が0.1のNaを得る場合には、モル比でNaOH/NHVO=0.05となるように配合すればよい。また、xの値が0.2のNaを得る場合には、モル比でNaOH/NHVO=0.1となるように配合すればよい。
【0030】
NaOHとNHVOは、固相反応(固相法)、液相反応(液相法)のいずれによって反応させてもよいが、溶液を介さずに行えることから、固相反応によるのが好ましい。つまり、粉砕等により準備した原料粉末を高温で熱処理し、ナトリウムバナジウム酸化物を合成することが好ましい。なお、固相反応においては、広義には液から水や有機溶媒などの液体を抜いていくことにより所望の化合物を合成する、いわゆるゾルゲル法を含める場合があるが、本発明においては、固相反応は、ゾルゲル法を含めず、固体間で合成を行う一般的な方法のみを意味する。
【0031】
固相反応時の熱処理温度は、通常200℃より高くかつ700℃以下であり、反応を迅速に行う観点からは、250〜700℃が好ましく、300〜700℃がより好ましい。熱処理温度が200℃以下では、ナトリウムバナジウム酸化物の合成が困難になり、700℃を超えると、バナジウム酸化物が溶融してしまう。なお、熱処理の時間は通常4〜24時間である。また、熱処理は、安全性や気体との反応による不純物の生成を少なくする観点から、通常窒素やアルゴンガスによる不活性雰囲気下で行われる。
【0032】
通常知られている固相反応を行う際の熱処理温度は600℃以上であるが、本発明では、原料としてNaOHとNHVOとを用いることにより、熱処理温度を低くして製造効率の向上を図ることができる。つまり、NHVOが熱分解してバナジウム化合物となる過程で、融点の低いNaOHが溶融し、溶融したNaOHがバナジウム化合物を覆うような状態で反応が進むため、熱処理温度を低くできると考えられる。
【0033】
以上の好適なナトリウムバナジウム酸化物の製造方法の流れを示すと、概ね図3に示す通りである。すなわち、まず原料準備工程S10で、NaOH(S11)とNHVO(S12)の粉末をそれぞれ準備する。そして、合成工程S20で、固相反応によりナトリウムバナジウム酸化物の電極材料粉末を得る。
【0034】
以上説明したように、本発明の電極材料は、ナトリウムバナジウム酸化物を含んでいるので、予めナトリウムイオンによりリチウムイオンの出入りが円滑に確保され、良好なサイクル特性を有することができる。そして、化学量論組成よりもナトリウムが少ないナトリウムバナジウム酸化物としたことにより、電池容量の向上が図られる。
【0035】
また、結晶相に化学量論組成を有しつつ、全体の組成としてはNa(0.06≦x≦0.3)とすることで、結晶構造が安定化して、さらなるサイクル特性の向上が図られる。
【0036】
さらに、NaOHとNHVOとを原料とすることにより、高純度かつ低コストでナトリウムバナジウム酸化物を得られるとともに、固相反応において500℃以下と比較的低い温度での熱処理が可能となる。
【0037】
本発明の電極材料は、リチウムイオン二次電池の正極材料の活物質として好適に使用することができる。
【0038】
つづいて、本発明のリチウムイオン二次電池について説明する。本発明のリチウムイオン二次電池は、上述の本発明の電極材料により作製した正極と、負極と、溶媒に溶解した電解質とを備え、必要に応じてさらにリチウム極を備えている。
【0039】
正極は、本発明の電極材料を、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダーと、好ましくは導電性粒子とともに混合し、N‐メチルピロリドン(NMP)等の溶媒を用いて正極材料のスラリー状の塗布層とし、これを集電体上に塗布することで作製できる。この塗布層は、例えば10〜100μmの厚さに形成することが好ましい。
【0040】
導電性粒子としては、ケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム、タングステン等の金属、酸化インジウム、酸化スズ等の導電性金属酸化物等が挙げられる。これらの導電性粒子は、電極材料の活物質重量の1〜30%の割合で添加することが好ましい。
【0041】
集電体としては、塗布層と接する面が導電性を示す導電性基体が使用される。この導電性基体は、金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン等の導電性材料で形成することができる。導電性材料としては、例えば、銅、金、アルミニウムもしくはそれらの合金または導電性カーボンが好ましい。また、集電体は、非導電性材料で形成された基体本体を導電性材料で被覆した構成としてもよい。
【0042】
負極は、通常使用されているリチウム系材料の活物質を、本発明の電極材料と同様に、バインダーと共に混合してスラリーを形成し、集電体に塗布することで得ることができる。このリチウム系材料としては、例えば、リチウム系金属材料、金属とリチウム金属との金属間化合物材料、リチウム化合物、またはリチウムインターカレーション炭素材料が挙げられる。リチウム系金属材料としては、例えば金属リチウムやリチウム合金(例えばLi-Al合金)が挙げられる。金属とリチウム金属との金属間化合物材料としては、例えばスズやケイ素が挙げられる。リチウム化合物としては、例えば窒化リチウムが挙げられる。
【0043】
リチウムインターカレーション炭素材料としては、例えば、黒鉛、炭素系材料、ポリアセン系物質等を使用することができる。炭素系材料としては、例えば、難黒鉛化炭素材料等が挙げられる。ポリアセン系物質としては、例えば、ポリアセン系骨格を有する不溶かつ不融性の基体であるPAS等が挙げられる。これらのリチウムインターカレーション炭素材料は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。
【0044】
リチウムイオンをドープ、脱ドープ可能な炭素材料等を使用する場合には、リチウム極を別途設けることで、初期充電時にリチウムイオンを、リチウム極から負極にプレドープさせる。リチウム極は、リチウムイオン供給源に上述した集電体を貼り付けることにより形成される。リチウムイオン供給源としては、金属リチウムあるいはリチウム−アルミニウム合金等が使用できる。すなわち、少なくともリチウム元素を含有し、リチウムイオンを供給することのできる物質であれば使用可能である。リチウムイオンは、上述の電極材料に対し、モル比で0.1〜6の割合でドープされることが好ましい。リチウムイオンのドープ量がモル比で0.1未満であると、ドープ効果が充分に発揮されず、他方リチウムイオンのドープ量が6を超えると、電極材料が金属にまで還元されてしまうことがある。リチウム極としては、リチウムインターカレーション炭素材料以外の負極材料として例示したリチウム系材料を使用することができる。
【0045】
電解質としては、例えば、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiPF、LiClO等のリチウム塩を使用することができる。
【0046】
この電解質を溶解する溶媒は非水系溶媒である。非水系溶媒としては、例えば、鎖状カーボネート、環状カーボネート、環状エステル、ニトリル化合物、酸無水物、アミド化合物、ホスフェート化合物、アミン化合物等の電解液が挙げられる。なお、電解液は、非水系溶媒の溶液であってもよいし、この電解液を含むポリマーゲル(ポリマーゲル電解質)であってもよい。
【0047】
非水系溶媒の具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、n−メチルピロリジノン、N,N’−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等が挙げられる。また、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合物、スルホランとテトラヒドロフランとの混合物等も挙げられる。
【0048】
図4は、本発明のリチウムイオン二次電池の一例の概要構成を示す断面図である。図4に示すリチウムイオン二次電池10は、正極11と、負極12とが電解質層13を介し、対向して配置されている。
【0049】
正極11は、本発明の電極材料を含む正極活物質層11aと、正極集電体11bとから構成されている。そして、正極活物質層11aは、塗布層として正極集電体11bの電解質層13側の面に塗布されている。
【0050】
負極12は、負極活物質層12aと、負極集電体12bとから、正極11と同様に構成されており、負極活物質層12bが塗布層として負極集電体12bの電解質層13側の面に塗布されている。
【0051】
図5は、本発明のリチウムイオン二次電池の他の一例の概要構成を示す断面図である。図5に示すリチウムイオン二次電池20は、正極21と負極22とが、セパレータ23を介して交互に複数積層された電極ユニット24を備えている。電極ユニット24は、その最外層側に、負極22が配置されている。すなわち、電極ユニット24は、両負極22の間に、正極21と負極22とがセパレータ23を介して複数積層されている。
【0052】
最外層に配置された負極22のさらに外側には、リチウム極25がセパレータ23を介して対向して配置されている。リチウム極25は、例えば、金属リチウム25aが、リチウム極集電体25b上に設けられている。リチウム極集電体25bは、多数の孔(貫通孔)が形成されたいわゆる多孔質体になっている。リチウム極25から溶出したリチウムイオンは、負極22にプレドープされるようになっている。
【0053】
正極21は、本発明の電極材料を含む正極活物質層21aが、正極集電体21bの両面に設けられている。正極集電体21bは、リチウム極集電体25bと同様に多孔質体になっている。同様に、負極22は、負極活物質層22aが集電体22bの両面に設けられており、負極集電体22bは多孔質体になっている。また、セパレータ23は、電解液、正極活物質、負極活物質等に対して耐久性があり、通気孔を有するポリオレフィンの多孔質体等を用いて形成されている。
【0054】
なお、複数の正極集電体21bはリード26を介して互いに接続されている。同様に、複数の負極集電体22bおよびリチウム極集電体25bはリード27を介して互いに接続されている。
【0055】
リチウムイオン二次電池20は、このような電極ユニット24が、図示しないラミネートフィルムでパッケージングされ、その内部に電解液が浸されて構成されている。
【0056】
また、リチウムイオン二次電池としては、図4および図5に示した以外の構成であってもよく、例えば、金属リチウムを負極として設けておき、正極へリチウムイオンをドープした後、負極を入れ替える方式のものであってもよい。
【0057】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の電極材料を正極材料として使用したので、高容量かつ良好なサイクル特性とすることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されない。
【0059】
(実施例1)
〔正極の作製〕原料として、水酸化ナトリウム(NaOH)およびメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)の粉末を準備し、NaOH/NHVO=0.05のモル比となるように配合して固相反応させ、本発明の正極材料としてのNa0.10を合成した。固相反応は、5gの原料粉末を用い、窒素雰囲気下で、昇温速度10K/分の条件で300℃まで昇温し、300℃まで温度が上がったならば、その温度で5時間熱処理をすることにより行った。この正極材料粉末90重量%を、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むバインダー5重量%、導電性カーボンブラック5%重量と混合し、溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)を用いてスラリーにした。その後、スラリーを、多孔質のAl箔上に、ドクターブレード法によって塗工した。スラリーは、片面当たりの合材密度が、2g/cmとなるように、均一に塗布して成型し、24×36mm四方に裁断して正極とした。
【0060】
ここで、X線回折装置により正極材料粉末の結晶構造を解析したところ、図6に示すように、2θ=10〜15°の間の002面のピークに最も強い回折線が得られ、2θ=25〜30°の間の11(−)1面のピークに2番目に強い回折線が得られた。このことから、Na0.33あるいはNa1.015の結晶相を有することを確認した。また、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置により、正極材料粉末のNaとVの含有量を求め、それよりNa/V元素比を算出したところ、Na/V=0.05となることを確認した。以上のX線回折とICP分析結果より、Na構造であってx=0.10となるナトリウムバナジウム化合物(ナトリウムバナジウム酸化物)の形成を確認した。
【0061】
〔負極の作製〕グラファイトと、バインダーとしてPVDFとを、重量比94:6で混合し、NMPで希釈したスラリーを調製した。このスラリーを、片面当たりの合材密度1.5mg/cmとなるように、貫通孔を有する銅製集電体両面または片面に均一に塗布したものを成型し、26×38mm四方に裁断して負極とした。
【0062】
〔電池の作製〕上述の作製した正極12枚と負極13枚(内片面塗布2枚)とを、セパレータとしてのポリオレフィン系微多孔膜を介して積層した。なお、片面塗布の負極2枚は最外層に塗布した。そして、さらにセパレータを介して、ステンレス多孔箔に金属リチウムを貼り付けたリチウム極を最外層に配置して、正極、負極、リチウム極およびセパレータからなる電極積層ユニットを作製した。この電極積層ユニットをアルミニウムのラミネートフィルムでパッケージングし、ホウフッ化リチウム(LiBF)を1モル/Lで溶解したエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/3(重量比)の電解液を注入した。これにより、リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0063】
〔初期放電容量および容量維持率の測定〕作製したリチウムイオン二次電池を、20日間放置した後、1セルを分解した。金属リチウムはいずれも完全に消失していたことから、必要量のリチウムイオンが予め負極に担持吸蔵、すなわちプレドープされたことが確認された。
【0064】
また、残りの1セルの電池を用いて、0.1C放電にて、電池容量の指標としての活物質あたりの初期放電容量(mAh/g活物質)、およびサイクル特性の指標としての20サイクル充放電を0.2Cに加速して繰り返した後の放電容量の初期0.2C放電容量に対する割合(容量維持率(%))を測定した。その結果、初期放電容量は活物質あたり335mAh/g、容量維持率は85%であった。これらは、初期放電容量については図7、容量維持率については図8のグラフに各々示す。なお、後述の各例の結果も同様にして示す。
【0065】
(実施例2)
実施例1において、NaOH/NHVO=0.10のモル比となるように配合して固相反応させ、本発明の正極材料としてのNa0.20を合成した以外は同様にして、正極材料粉末およびリチウムイオン二次電池を得た。
【0066】
正極材料粉末は、X線回折装置により解析したところ、図6に示すように、実施例1と同様にNa0.33あるいはNa1.015の結晶相を有することを確認した。また、ICP発光分光分析装置により、実施例1と同様にNa/V元素比を算出したところ、Na/V=0.10となることを確認した。以上より、Na構造であってx=0.20となるナトリウムバナジウム化合物の形成を確認した。
【0067】
得られたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にして、初期放電容量および容量維持率を測定したところ、初期放電容量は活物質あたり307mAh/g、容量維持率は84%であった。
【0068】
(実施例3)
実施例1において、NaOH/NHVO=0.15のモル比となるように配合して固相反応させ、本発明の正極材料としてのNa0.30を合成した以外は同様にして、正極材料粉末およびリチウムイオン二次電池を得た。
【0069】
正極材料粉末は、X線回折装置により解析したところ、図6に示すように、実施例1と同様にNa0.33あるいはNa1.015の結晶相を有することを確認した。また、ICP発光分光分析装置により、実施例1と同様にNa/V元素比を算出したところ、Na/V=0.15となることを確認した。以上より、Na構造であってx=0.30となるナトリウムバナジウム化合物の形成を確認した。
【0070】
得られたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にして、初期放電容量および容量維持率を測定したところ、初期放電容量は活物質あたり268mAh/g、容量維持率は81%であった。
【0071】
(実施例4)
実施例1において、NaOH/NHVO=0.01のモル比となるように配合して固相反応させ、本発明の正極材料としてのNa0.02を合成した以外は同様にして、正極材料粉末およびリチウムイオン二次電池を得た。
【0072】
正極材料粉末は、X線回折装置により解析したところ、図6に示すように、実施例1と同様にNa0.33あるいはNa1.015の結晶相を有することを確認した。また、ICP発光分光分析装置により、実施例1と同様にNa/V元素比を算出したところ、Na/V=0.01となることを確認した。以上より、Na構造であってx=0.02となるナトリウムバナジウム化合物の形成を確認した。
【0073】
得られたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にして、初期放電容量および容量維持率を測定したところ、初期放電容量は活物質あたり360mAh/g、容量維持率は78%であった。
【0074】
(実施例5)
実施例1において、NaOH/NHVO=0.03のモル比となるように配合して固相反応させ、本発明の正極材料としてのNa0.06を合成した以外は同様にして、正極材料粉末およびリチウムイオン二次電池を得た。
【0075】
正極材料粉末は、X線回折装置により解析したところ、図6に示すように、実施例1と同様にNa0.33あるいはNa1.015の結晶相を有することを確認した。また、ICP発光分光分析装置により、実施例1と同様にNa/V元素比を算出したところ、Na/V=0.03となることを確認した。以上より、Na構造であってx=0.06となるナトリウムバナジウム化合物の形成を確認した。
【0076】
得られたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にして、初期放電容量および容量維持率を測定したところ、初期放電容量は活物質あたり356mAh/g、容量維持率は83%であった。
【0077】
(比較例)
実施例1において、NaOH/NHVO=0.165のモル比となるように配合して固相反応させ、本発明の正極材料としてのNa0.33を合成した以外は同様にして、正極材料粉末およびリチウムイオン二次電池を得た。
【0078】
正極材料粉末は、X線回折装置により解析したところ、Na0.33あるいはNa1.015の結晶相を有することを確認した。また、ICP発光分光分析装置により、実施例1と同様にNa/V元素比を算出したところ、Na/V=0.165となることを確認した。以上より、Na構造であってx=0.33となるナトリウムバナジウム化合物の形成を確認した。
【0079】
得られたリチウムイオン二次電池について、実施例1〜5と同様にして、初期放電容量および容量維持率を測定したところ、初期放電容量は活物質あたり230mAh/g、容量維持率は75%であった。
【0080】
図7の結果から、得られたリチウムイオン二次電池は、化学量論組成Na0.33あるいはNa1.015よりもナトリウムの量を少なくする程、初期放電容量が向上し、特にNa/V=0.01となる実施例4では、360mAh/gまで向上した。そのため、化学量論組成からナトリウム添加量を少なくすることで、結晶構造中に空孔が形成され、リチウムイオンの移動自由度が高くなると考えられる。
【0081】
また、図8の結果から、実施例1〜5のリチウムイオン二次電池では、いずれも概ね80%以上の容量維持率を有しており、比較例1のリチウム二次電池よりもサイクル特性が良好であった。特に、Na/V=0.03〜0.10となる実施例1、2および5では、85%に近い容量維持率を有し、サイクル特性の向上が図られた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極材料の分野で特に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
10 リチウムイオン二次電池
11 正極
11a 正極活物質層
11b 正極集電体
12 負極
12a 負極活物質層
12b 負極集電体
13 電解質層
20 リチウムイオン二次電池
21 正極
21a 正極活物質層
21b 正極集電体
22 負極
22a 負極活物質層
22b 負極集電体
23 セパレータ
24 電極ユニット
25 リチウム極
25a 金属リチウム
25b リチウム極集電体
26 リード
27 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学量論組成Na0.33および/またはNa1.015の結晶相を有し、Na(0<x<0.33)で表わされるナトリウムバナジウム酸化物を含むことを特徴とする電極材料。
【請求項2】
請求項1に記載の電極材料において、
前記ナトリウムバナジウム酸化物Naのxの値が0.06≦x≦0.3であることを特徴とする電極材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電極材料を製造する方法であって、原料として水酸化ナトリウム(NaOH)とメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)とを用いて製造することを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電極材料の製造方法において、
前記水酸化ナトリウム(NaOH)と前記メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)との固相反応によりナトリウムバナジウム酸化物を合成することを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電極材料の製造方法において、
前記固相反応は、200℃より高くかつ700℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の電極材料を使用した正極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−103195(P2011−103195A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257143(P2009−257143)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】