説明

電極板用クロスバーおよび電極板

【課題】耐久性並びに導電性の両面で優れ、しかも構成が簡単であることから製作の手間やコストの面からも優れる電極板用クロスバーおよび電極板を提供する。
【解決手段】耐食性金属からなるクロスバー本体11と、クロスバー本体の先端下部に設けられて電解槽側の電気接点部と電気的に接続される銅製の電気接点部12とを有する。銅製の電気接点部は、クロスバー本体の先端下部に嵌合された状態でろう付けされるコ字状の銅製ブロック13により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解精錬や電解採取に利用される電極板用クロスバーおよび該クロスバーを備える電極板に関する。
【背景技術】
【0002】
電解精錬や電解採取では、電解液に浸されて電解を行うための電極板が使用されている。電極板は、電解液に浸される板本体とこの板本体を支持するクロスバーから構成される。板本体には、チタン、ステンレス鋼、鉛などの耐食性に優れた金属が使用される場合が多い。また、板本体として、銅やアルミニウムを使用する場合もあるが、いずれも陰極側の電極板として使用されるので、腐食から守られる環境下で使用されている。これに対し、クロスバーには、電気抵抗が小さい理由から銅が一般的に使用されている。
ところで、銅製のクロスバーは、電気伝導性に優れるものの耐食性に劣る欠点をもつ。このような欠点を補うため、例えば、下記の特許文献1には、銅製の芯棒の周りをステンレススチール等の耐食性金属からなる被覆材で覆ったものが提案されている。このような構造のクロスバーでは、電解液から生じる腐食性のガスやミストから芯棒を保護することができる。
【特許文献1】特開2001‐158988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述したクロスバーにあっては、銅製の芯棒とそれを覆う被覆材との間に電解液が侵入し、そこに滞留する状況が生じることがわかった。この場合、銅製の芯棒と被覆材との間に滞留する電解液によって隙間腐食が進行し、寿命が逆に短くなるおそれがあった。また、複雑な形状であることから、製作に多大な手間とコストがかかる問題もあった。
【0004】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、耐久性並びに導電性の両面で優れ、しかも構成が簡単であることから製作の手間やコストの面からも優れる電極板用クロスバー並びにこの電極板用クロスバーを備えた電極板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は以下の手段を提案している。すなわち、本発明の電極板用クロスバーでは、耐食性金属からなるクロスバー本体と、前記クロスバー本体の先端下部に設けられて電解槽側の電気接点部と電気的に接続される銅製の電気接点部と、を有することを特徴とする。
【0006】
上記のように構成された電極板用クロスバーでは、電解槽の上方で使用される際に、電解液から生じる腐食性のガスやミストがかかったとしても、クロスバー本体が耐食性金属からなっているので、腐食に対して強く耐久性に優れる。ここで耐食性金属とは、電気接点部の構成材料である銅よりも耐食性に優れる金属及び合金をいう。
また、電解槽側の電気接点部と電気的に接続される電気接点部が銅製であるため、当該クロスバー側の電気接点部と通常銅で作られる電解槽側の電気接点部との間の電気的な接触抵抗を、従来使用されている銅製のクロスバーを用いる場合と同程度に小さくできる。
さらに、大部分を占めるクロスバー本体の一部のみが銅製の電気接点部となっているため、全体構成を簡素化することができ、これにより製作の手間がかからずコストも低減できる。
【0007】
また、本発明の電極板用クロスバーでは、前記銅製の電気接点部が前記クロスバー本体の先端下部に嵌合されるコ字状の銅製ブロックにより構成されるのが好ましい。
この場合、銅製ブロックをクロスバー本体に取り付けるにあたり、単に該クロスバー本体の先端下部に嵌合させるだけで足り、銅製ブロックのクロスバーへの取付作業が容易である。
【0008】
また、本発明の電極板用クロスバーでは、前記銅製ブロックが、前記クロスバー本体の先端下部に嵌合された状態でろう付けされていることが好ましい。
この場合、銅製ブロックをクロスバー本体に面接触させることができるので、両者間の電気抵抗を小さくできる。加えて、ろう付けにより接合させるため、双方の金属が溶けて合金化する溶接により接合する場合に比べ、電気抵抗をより小さくできる。
【0009】
また、本発明の電極板は、請求項1〜3にいずれか1項に記載の電極板用クロスバーと、該電極板用クロスバーにより支持されて前記電解槽内の電解液に浸される板本体とを備えることを特徴とする。
上記電極板では、前述の電極板用クロスバーと同様な作用効果を奏する。
【0010】
また、本発明の電極板では、前記板本体が耐食性金属からなる材料により構成されていることが好ましい。
この場合、板本体が耐食性金属からなっているので、腐食に対して強く耐久性に優れる。
【0011】
また、本発明の電極板では、前記板本体と前記クロスバー本体が耐食性金属からなる同じ材料により構成されているのが好ましい。
この場合、板本体とクロスバー本体が耐食性金属からなる同じ材料により構成されるので、それら両者間の電気抵抗が小さく、しかも、両者を一体に構成した場合には構成の簡素化並びにさらなる強度アップが図れる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、腐食に対して強く耐久性に優れる。また導電性の面においても優れる。さらに構成が簡単であることから製作の手間がかからずコストの面でも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る電極用クロスバー及び電極板を銅精錬に用いた実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1〜図3は、本発明の第1実施形態を示し、図1は電極板の使用状態を示す正面図、図2は図1のII円部の拡大図、図3は電極板用クロスバーの先端の分解斜視図である。
図1に示すように、電極板1は、電解槽Dの上部に配置される電極板用クロスバー10と、この電極板用クロスバー10により支持されて電解槽D内の電解液に浸される板本体20とを備える。
【0014】
電極板用クロスバー10は、図2に示すように例えばチタンあるいはステンレス鋼等の耐食性金属からなるクロスバー本体11と、クロスバー本体11の先端下部に設けられて電解槽D側のディストリビュータ(電気接点部)Daと電気的に接続される銅製の電気接点部12とを有する。
電極板用クロスバー10は断面長方形とされた棒状のものである。電気接点部12は、クロスバー本体10の左右の先端下部にそれぞれ嵌合されるコ字状の銅製ブロック13により構成されている(図3参照)。コ字状の銅製ブロック13は、クロスバー本体11の先端部表面および先端部裏面に当接される起立板部13a、13aと、それら起立板部13aの下面同士をつなぐ底板部13bとからなっている。起立板部13a、13aの内面の離間距離Laは、電極板用クロスバー10の幅寸法Lbと同程度かそれよりもわずかに大きい値(1.0〜1.05倍)に設定されている。そして、コ字状の銅製ブロック13は、クロスバー本体の左右の先端下部に嵌合された状態でろう付けされることで、クロスバー本体に隙間なく固着されている。
【0015】
板本体20は、前記クロスバー本体11と同様に耐食性金属から構成されており、好ましくはクロスバー本体11と同じ材料により構成されている。つまり、クロスバー本体11がチタン製であれば板本体20もチタン製であり、クロスバー本体11がステンレス鋼製であれば板本体20もステンレス鋼製であることが好ましい。板本体20とクロスバー本体11とは例えば溶接等の固着手段により固着されている。
なお、クロスバー本体11と板本体20の組み合わせとしては、上記例の他に、例えば、クロスバー本体11がステンレス鋼製で板本体20がチタン製、クロスバー本体11がチタン製で板本体20がステンレス鋼製、さらにクロスバー本体11が鉛製で板本体20が鉄の周りを銅で囲みさらにその外側を鉛で囲んでなる鉛ホモゲン製が挙げられる。
【0016】
上記構成の電極板1によれば、使用中に電極板用クロスバー10へ電解液から生じる腐食性のガスやミストがかかったとしても、クロスバー本体11が耐食性金属からなっているので、腐食に対して強く耐久性に優れる。また、電解槽側の電気接点部であるディストリビュータDaと電気的に接続されるコ字状のブロック13が銅製であるため、電極板用クロスバー10側の電気接点部12と通常銅で作られる電解槽DのディストリビュータDaとの間の電気的な接触抵抗を、従来使用されている銅製のクロスバーを用いた場合と同程度に小さくできる。
【0017】
さらに、電極板用クロスバー10の一部のみが銅製の電気接点部12となっているため、背景技術で説明したような芯棒の周り全体を耐食性金属からなる被覆材で覆う構造に比べて、構成を簡素化することができる。これにより電極板用クロスバー10や電極板1を製作するときの手間がかからずコストも低減できる。
【0018】
また、板本体20とクロスバー本体11とを耐食性金属により構成しているので、それら部材を、腐食に対して強く耐久性に優れるものとすることができる。さらに、板本体20とクロスバー本体11を同じ材料により構成しているので、それら両者間の電気抵抗を小さくでき、しかも、両者を溶接等により一体に構成すれば、さらなる構成の簡素化並びに強度アップを図ることができる。
【0019】
また、クロスバー本体11の先端下部に嵌合されるコ字状の銅製ブロック13によって電気接点部12を構成し、しかもこの銅製ブロック13を、クロスバー本体11の先端下部に嵌合させた状態でろう付けして固着しているので、銅製ブロック13をクロスバー本体11に確実に面接触させることができ、このため両者間の電気抵抗を小さくできる。また、ろう付けにより固着しているので、双方の金属を溶かして合金化して固着する溶接を採用する場合に比べ、銅製ブロック13とクロスバー本体11との間の電気抵抗をより小さくすることができる。
【0020】
なお、銅製ブロック13を、ろう付けすることなく、単にクロスバー本体11の先端下部に嵌合させるだけでクロスバー本体11の先端に取り付けることも可能であるが、この場合、銅製ブロック13のクロスバー本体11への取付作業が容易になる。
<第2の実施形態>
【0021】
図4は本発明の第2実施形態の要部を示すものであって、(a)は電極板用クロスバーの先端部の正面図、(b)は電極板用クロスバーの先端部の側面図である。
なお、説明の便宜上、前述した第1実施形態で使用した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。この点は以下の実施形態においても同様である。
第2実施形態においても、クロスバー本体11の先端下部に、電解槽側のディストリビュータと電気的に接続される銅製の電気接点部32が設けられている。この電気接点部32は、耐食性金属からなるクロスバー本体11の先端下部に銅が肉盛溶接され、その後、この肉盛溶接部分が切削あるいは研削加工されることにより、所定形状に仕上げられたものである。
【0022】
このような肉盛溶接により得られる銅製の電気接点部32を有する電極板用クロスバー10においても、第1実施形態と同様、電解槽のディストリビュータとの間の電気的な接触抵抗を、従来使用されている銅製のクロスバーを用いる場合と同程度にまで小さくできる。また、第2実施形態の電極板用クロスバー10によれば、腐食等によって電気接点部32が減少した場合でも、その減少した分だけ後加工により肉盛溶接すれば初期の状態に復帰させることができ、補修が容易に行える利点がある。
<第3の実施形態>
【0023】
図5、図6は本発明の第3実施形態の要部を示すものであって、図5は電極板用クロスバーの先端部の斜視図、図6は電極板用クロスバーの先端部の分解斜視図である。
第3実施形態においても、クロスバー本体11の先端下部に、電解槽側のディストリビュータと電気的に接続される銅製の電気接点部42が設けられている。
この電気接点部42は、L字状に曲げられた互いに対をなす銅製の板片42a,42aが、耐食性金属からなるクロスバー本体11の先端部を囲むように、該クロスバー本体11に取り付けられて構成されるものである。
【0024】
すなわち、銅製の板片42a、42aが、それらの隅部をクロスバー本体11の先端部の互いに対向する角部に合致するよう、該クロスバー本体11に嵌め合わされ、この状態で、それら銅製の板片42a、42a同士の突合せ部分、並びに、銅製の板片42aとクロスバー本体11との突合せ部分でありかつ外部に露出する部分をそれぞれ溶接されることにより、それら銅製の板材42a、42aがクロスバー本体11の先端部に固着され、この固着された銅製の板材42a、42aによって電気接点部42が構成されている。
【0025】
このように銅製の板材42a、42aがクロスバー本体11の先端部に巻きつけられることにより得られる銅製の電気接点部42においても、第1、第2実施形態と同様、電解槽のディストリビュータとの間の電気的な接触抵抗を、従来使用されている銅製のクロスバーを用いる場合と同程度にまで小さくできる。
【0026】
本発明に係る電極板用クロスバーを電解槽のディストリビュータDaに接触させた際の、両者間の電気抵抗を5回測定した。なお、比較のため、従来用いていた銅製の電極板用クロスバーを用いた場合、並びにステンレス鋼からなる電極板用クロスバーを用いた場合についても測定した。
すなわち、サンプルとして断面30mm角で長さが100mmの電極板用クロスバーを4種類用意した。イのサンプルは従来から用いていた銅製の電極板用クロスバー、ロのサンプルはステンレス鋼製のクロスバー本体の先端に前記第1実施形態で示した銅製ブロック13を嵌合させ、さらにその嵌合部分をろう付けしたもの、ハのサンプルはステンレス鋼製のクロスバー本体の先端に前記第1実施形態で示した銅製ブロック13を単に嵌合させただけのもの、二のサンプルはステンレス鋼の電極板用クロスバーである。
その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
この表から明らかなように、ステンレス鋼の電極板用クロスバーを用いた場合(サンプルニ)は平均で1.6Ωの電気抵抗があり、実際の使用に堪えないことがわかった。これに比べて、本発明の実施形態であるハ(ステンレス鋼製のクロスバー本体の先端に銅製ブロックを単に嵌合させただけのもの)の場合は、平均で0.1Ω程度と低い電気抵抗に抑えられることがわかった。さらに、本発明の実施形態であるロ(ハのものにさらにろう付けしたもの)の場合は、従来の銅製の電極板用クロスバーを用いるときと何ら遜色なく電気抵抗が非常に低いことがわかった。
【0029】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述したが、本発明は、この実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、前記した実施形態では、電極板用クロスバー10と板本体20とを溶接により固着しているが、これに限られることなく、図7に示すように、板本体21に形成したボルト孔21aを利用し、螺子止めによって板本体21を電極板用クロスバー10に固着してもよい。この場合、本発明に係る電極板用クロスバー10を、銅またはアルミニウム製の陰極板を支持するためのもの、あるいは鉛不溶性陽極板を支持するためものとしても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態の電極板の使用状態を示す正面図ある。
【図2】図2は図1のII円部の拡大図である。
【図3】第1実施形態の電極板用クロスバーの先端の分解斜視図である。
【図4】図4は本発明の第2実施形態の要部を示すものであって、(a)は電極板用クロスバーの先端部の正面図、(b)は電極板用クロスバーの先端部の側面図である。
【図5】図5本発明の第3実施形態の要部を示すものであって、電極板用クロスバーの先端部の斜視図である。
【図6】図6は本発明の第3実施形態の電極板用クロスバーの先端部の分解斜視図である。
【図7】図7は本発明の変形例を示す板本体の正面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 電極板
10 電極板用クロスバー
11 クロスバー本体
12 銅製の電気接点部
13 コ字状の銅製ブロック
20 板本体
32 銅製の電気接点部
42 銅製の電気接点部
42a 銅製の板片
D 電解槽
Da ディストリビュータ(電解槽側の電気接点部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐食性金属からなるクロスバー本体と、
前記クロスバー本体の先端下部に設けられて電解槽側の電気接点部と電気的に接続される銅製の電気接点部と、
を有することを特徴とする電極板用クロスバー。
【請求項2】
前記銅製の電気接点部が前記クロスバー本体の先端下部に嵌合されるコ字状の銅製ブロックにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電極板用クロスバー。
【請求項3】
前記銅製ブロックが、前記クロスバー本体の先端下部に嵌合された状態でろう付けされていることを特徴とする請求項2に記載の電極板用クロスバー。
【請求項4】
請求項1〜3にいずれか1項に記載の電極板用クロスバーと、該電極板用クロスバーにより支持されて前記電解槽内の電解液に浸される板本体とを備えることを特徴とする電極板。
【請求項5】
前記板本体は耐食性金属からなる材料により構成されていることを特徴とする請求項4に記載の電極板。
【請求項6】
前記板本体と前記クロスバー本体は耐食性金属からなる同じ材料により構成されていることを特徴とする請求項5に記載の電極板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−150634(P2010−150634A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332513(P2008−332513)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(593127647)大阪化工株式会社 (8)
【Fターム(参考)】