説明

電極用スラリーの製造方法及び電極用スラリーの製造装置

【課題】 混練から貯留までの間の水分混入による特性低下を防止した電極用スラリーの製造方法を提供する。水分による特性低下を防止しうる電極用スラリーの製造装置を提供する。
【解決手段】 活物質粒子SXと樹脂SYとを含む電極用スラリーSCの製造方法は、攪拌により、活物質粒子と樹脂とを互いに分散させた分散スラリーSCとする攪拌工程と、分散スラリーを貯留部103まで流動させて貯留する流動貯留工程と、を備え、攪拌工程及び流動貯留工程を、分散スラリーが存在することとなる場所PS2の何れにおいても、分散スラリーのスラリー温度TS、及び、この分散スラリーが接する部材110Bの部材温度TTを、この場所PS2の雰囲気PS2Gの露点温度TGよりも高い状態としつつ行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の活物質層に用いる電極用スラリーの製造方法、及び、これを製造する電極用スラリーの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車やノート型パソコン、ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器の駆動用電源に、二次電池が利用されている。
このような二次電池に用いる電極の製造において、特許文献1では、活物質(活物質粒子)、導電剤、結着材(樹脂)及び有機溶剤(溶剤)からなるスラリーを湿式混練する際に、水分露点−20℃以下の空気、窒素ガス又は希ガス雰囲気下で行う技術が挙げられている。このような雰囲気下で湿式混練すると、混練時の水分混入による活物質の分解反応の発生を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開番号 WO98/54774号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電極の製造方法では、混練時の水分混入については記載しているが、混練後のスラリーを流動させて容器等に貯留する場合については記載がない。しかるに、この混練後のスラリーに水分が混入した場合にも、水分による活物質の分解反応や結着材の固化など、水分混入によるスラリー(或いはこれを用いた電極)の特性低下を発生させる虞がある。特に、混練時に昇温したスラリーを、混練時或いは混練後に冷却すべく、混練機器や、容器,流動路をなす部材を冷却すると、結露を生じやすく、スラリーに水分が混入して、分解反応や固化など特性低下の不具合が発生し易い。
【0005】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、混練から貯留までの間の水分混入による分解反応や固化など、水分混入による特性低下を防止した電極用スラリーの製造方法を提供することを目的とする。また、水分によるスラリーの特性低下を防止しうる電極用スラリーの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そして、その解決手段は、溶剤と活物質粒子と上記溶剤に溶解した樹脂とを含む電極用スラリーの製造方法であって、攪拌により、上記活物質粒子と上記樹脂とを互いに分散させた分散スラリーとする攪拌工程と、攪拌された上記分散スラリーを貯留部まで流動させて、上記貯留部で貯留する流動貯留工程と、を備え、上記攪拌工程及び上記流動貯留工程を、上記分散スラリーが存在することとなる場所の何れにおいても、当該場所における上記分散スラリーのスラリー温度、及び、この分散スラリーが接する部材の部材温度を、この場所において分散スラリーに接する雰囲気の露点温度よりも高い状態としつつ行う電極用スラリーの製造方法である。
【0007】
本発明の電極用スラリーの製造方法では、上述の攪拌工程と流動貯留工程とを備え、分散スラリーが存在することとなる場所の何れにおいても、分散スラリー及びこの分散スラリーが接する部材の温度を、雰囲気の露点温度(以下、単に露点ともいう)よりも高い状態で、攪拌工程及び流動貯留工程を行う。このため、分散スラリーが存在することとなる何れの場所においても、結露を防止して、攪拌工程及び流動貯留工程を行うことができる。従って、結露に起因する水分が分散スラリーに混入したことによる分解反応や固化など、水分混入による不具合を防止して、良好な特性の電極用スラリーを製造することができる。
【0008】
なお、活物質粒子とは、例えば、LiNiO2、LiCoO2、LiNiCoMnO2等の正極活物質や、黒鉛粒子、低結晶性炭素等の負極活物質が挙げられる。また、樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリイミド、アクリル系バインダ等が挙げられる。溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0009】
また、攪拌の手法としては、スラリー内で、これに含まれる溶剤に、活物質粒子、及び、溶剤に溶解した樹脂を分散させる手法であれば良く、例えば、プライミクス(株)社製のT.K.フィルミックスによる手法が挙げられる。また、流動貯留工程において、攪拌した分散スラリーを貯留部まで流動させるにあたり、分散スラリーが外気(室内の空気)に触れていても(オープンエア)良いし、逆に、攪拌工程を行う機器や流動路、貯留の容器等が閉じた空間をなして、外気と通じていなくても(クローズエア)良い。
また、電極スラリーとしては、分散スラリーをそのまま使用しても、さらに、他の物質を加えたり加工を施しても良い。
【0010】
さらに、上述の電極用スラリーの製造方法であって、前記流動貯留工程は、前記分散スラリーを流動させつつ冷却する冷却工程を含む電極用スラリーの製造方法とすると良い。
【0011】
攪拌工程において、活物質粒子と樹脂とを分散させる際に、スラリーの温度が上昇することがある。このようにして、高温になった分散スラリーでは、熱によって樹脂が変質して固化が進行して、電極用スラリーの特性を低下させることがあるなど、分散スラリーを高温のままにしておくのは好ましくない。
これに対し、本発明の電極用スラリーの製造方法では、流動貯留工程が冷却工程を有する。このため、分散スラリーの流通時にこれを冷却することができる。従って、水分の混入のみならず、高温による特性の低下をも防止した電極用スラリーを製造できる。
【0012】
さらに、上述のいずれかの電極用スラリーの製造方法であって、前記流動貯留工程に先立って、前記分散スラリーが流動する流動路全体に亘ってドライエアを流通させて、上記流動路をなす部材のうち、少なくとも上記分散スラリーに接する部位を乾燥させる乾燥工程を備える電極用スラリーの製造方法とすると良い。
【0013】
本発明の電極用スラリーの製造方法では、上述の乾燥工程を備える。このため、流動路をなす部材のうち、少なくとも分散スラリーに接する部位に付着していた水分の、分散スラリーへの混入を防止することができる。
【0014】
さらに、上述の電極用スラリーの製造方法であって、前記乾燥工程は、前記流動路内に位置する流動路内雰囲気の雰囲気露点温度が、所定値以下となるまで、前記ドライエアを流通させる電極用スラリーの製造方法とすると良い。
【0015】
本発明の電極用スラリーの製造方法では、雰囲気露点が所定値以下となるまでドライエアを流通させる。このため、流動路における結露を確実に防止できる。
【0016】
さらに、上述の電極用スラリーの製造方法であって、前記乾燥工程は、前記流動路内雰囲気の流通を開閉するバルブを介して、前記流動路に接続された露点計により、上記バルブを閉じて前記雰囲気露点温度を計測する電極用スラリーの製造方法とすると良い。
【0017】
流動路内雰囲気の雰囲気露点を露点計で計測するにあたり、ドライエアを流通させたままで測定するよりも、流動路内雰囲気が露点計の周囲で動かない状態で露点を計測した方が、より安定して雰囲気露点を測定できる。
この知見を基に、本発明の電極用スラリーの製造方法では、流動路と露点計との間にバルブを設け、このバルブを介して、流動路に接続した露点計を用い、バルブを閉じて雰囲気露点を計測するので、より安定して雰囲気露点を計測することができる。
【0018】
さらに、他の解決手段は、溶剤と活物質粒子と上記溶剤に溶解した樹脂とを含む電極用スラリーの製造装置であって、上記溶剤、上記活物質粒子及び上記樹脂を含む処理前スラリーを攪拌して、上記活物質粒子と上記樹脂とを分散させた分散スラリーを形成する攪拌手段と、上記分散スラリーを流動させて上記攪拌手段から貯留部まで導く流動路をなす流動路部材と、を備え、上記攪拌手段及び上記流動路部材は、上記分散スラリーが存在することとなる場所の何れにおいても、当該場所における上記分散スラリーのスラリー温度及び、この分散スラリーが接する部材の部材温度を、この場所において分散スラリーに接する雰囲気の露点温度よりも高い状態としてなる電極用スラリーの製造装置である。
【0019】
本発明の電極用スラリーの製造装置では、攪拌手段及び流動路部材のうち、分散スラリーが存在することとなる何れの場所においても、分散スラリー及びこの分散スラリーが接する部材の温度を、雰囲気の露点温度よりも高い状態にできる。このため、攪拌手段及び流動路部材の、分散スラリーが存在することとなる何れの場所においても結露を防止できる。従って、この装置によれば、水分の混入による分解反応や固化など、水分混入による特性低下を防止して、良好な特性の電極用スラリーを製造できる。
【0020】
さらに、上述の電極用スラリーの製造装置であって、前記流動路部材は、前記分散スラリーを流動させつつ冷却する冷却手段を有する電極用スラリーの製造装置とすると良い。
【0021】
本発明の電極用スラリーの製造装置では、流動路部材は冷却手段を有している。このため、分散スラリーが流動路部材を流動する際、冷却手段を用いて分散スラリーを冷却することができる。従って、この装置によれば、水分混入を防止するのみならず、高温となることによる特性の低下を防止して、良好な特性の電極用スラリーを製造できる。
【0022】
さらに、上述のいずれかの電極用スラリーの製造装置であって、前記流動路全体に亘って、ドライエアを流通させるドライエア流通手段を備える電極用スラリーの製造装置とすると良い。
【0023】
本発明の電極用スラリーの製造装置では、上述のドライエア流通手段を備える。このため、分散スラリーを流動させるのに先立ち、このドライエア流通手段を用いて、流動路全体に亘って、これを乾燥させることができる。また流動路のうち、少なくとも分散スラリーに接する雰囲気の露点を下げて、流動路内の結露を防止することができる。
【0024】
さらに、上述の電極用スラリーの製造装置であって、前記流動路内に位置する流動路内雰囲気の雰囲気露点温度を計測する露点計を備える電極用スラリーの製造装置とすると良い。
【0025】
本発明の電極用スラリーの製造装置では、露点計を備える。このため、例えば、流動路内雰囲気が、分散スラリーや流動路部材に触れても結露を生じない所定値以下となるまで、流動路部材にドライエアを流通させて、確実に流動路内雰囲気の雰囲気露点を下げるなど、適切な露点管理ができる。かくして、流動路内での結露を確実に防止することができる。
【0026】
さらに、上述の電極用スラリーの製造装置であって、前記露点計は、前記流動路内雰囲気の流通を開閉するバルブを介して、前記流動路に接続されてなる電極用スラリーの製造装置とすると良い。
【0027】
本発明の電極用スラリーの製造装置では、露点計が上述のバルブを介して流動路に接続されているので、露点の計測前はバルブを開け、計測の際にはバルブを閉じることで、流動路内雰囲気の雰囲気露点を安定して計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態1にかかる製造装置の説明図である。
【図2】実施形態1のフィルタ部の説明図である。
【図3】実施形態1にかかる製造装置の部分断面図(図1のA部)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施形態1)
次に、本発明の実施形態1について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態1にかかる正極板用スラリーSCの製造方法及び正極板用スラリーSCの製造装置100について説明する。なお、正極板用スラリーSCは、正極基板に塗布して乾燥させれば電池の正極板の活物質層を構成する。
【0030】
まず、本実施形態1にかかる正極板用スラリーSCの製造装置100について、図1〜3を参照しつつ説明する。
この製造装置100は、攪拌タンク102と、第2流動路部材110Bと、ドライエア供給機構150と、露点計測機構140とを備える。また、これらのほかに、供給タンク101と、第1流動路部材110Aと、フィルタ部111と貯留タンク103とを備える。この製造装置100は、第1流動路部材110Aが供給タンク101の下側(図1中、下方)と攪拌タンク102の上側(図1中、上方)との間を接続し、第2流動路部材110Bが攪拌タンク102の下側(図1中、下方)に接続している。そして、第2流動路部材110Bの先端に位置し、図1中、下方に向く流出口110BEの下方に、貯留タンク103を配置している。また、第2流動路部材110Bの途中には、ドライエア供給機構150、露点計測機構140及びフィルタ部111がそれぞれ接続されている。
なお、この製造装置100において、供給タンク101、第1流動路部材110A、攪拌タンク102、第2流動路部材110B、ドライエア供給機構150、露点計測機構140及びフィルタ部111は、閉じた空間(クローズエア)をなしている。
【0031】
このうち、供給タンク101は、内部に収容物を収容可能な円筒容器である(図1参照)。この内部には、正極活物質SX、溶剤SWに溶解した結着材SY及び導電助材SZを分散していない処理前スラリーSBを収容する。
また、管状の第1流動路部材110Aは、その内部に第1流動路PS1を含む(図1参照)。なお、第1流動路部材110Aには液送ポンプ170が配置されており、これを用いて、第1流動路PS1に流動体を流動させることができる。
【0032】
また、貯留タンク103は、内部に収容物を収容可能な円筒容器である(図1参照)。この貯留タンク103は、内部に収容物を攪拌可能なプロペラ形状の攪拌はね103Wを含む。
また、フィルタ部111は、図2に示すように、フィルタケース111Rの内側に、円板メッシュ形状のメッシュフィルタ部111A、円回転しながらメッシュフィルタ部111Aを擦るヘラ状のスクレイパー部111B、及び、スクレイパー部111Bを円回転させる回転軸部111Cを有する。このフィルタ部111は、第2流動路部材110Bのうち、貯留タンク103に流動体を流出する流出口110BEの手前に配置されている。
【0033】
また、内部に流動体を一旦収容可能な円筒容器の攪拌タンク102は、プライミクス(株)社製のT.K.フィルミックスである。この攪拌タンク102は、攪拌タンク102のタンク内部PSTにおいて流動体を攪拌するプロペラ形状の攪拌はね102Wと、この攪拌はね102Wを回転させるモータ部102Mとを有する(図1参照)。このうち攪拌はね102Wは、大きな剪断力で内容物を攪拌する。
【0034】
さらに、この攪拌タンク102は、この攪拌タンク102自体、さらには、これに一旦収容する流動体を冷却可能な第1冷却機構120を有する。
この第1冷却機構120は、冷媒(図示しない)を送り出すポンプ(図示しない)を含む本体部120Aと、本体部120Aに接続する管状の第1冷媒配管部120B,第2冷媒配管部120Dと、攪拌タンク102の外側を螺旋状に包囲してなる金属管状の螺旋配管部120Cとを含む(図1参照)。冷媒は、本体部120Aから第1冷媒配管部120Bを流れて、螺旋配管部120Cを通過している際に、攪拌タンク102を冷却する。螺旋配管部120Cを通過した冷媒は、第2冷媒配管部120Dを流れて、本体部120Aに戻る。
【0035】
また、管状の第2流動路部材110Bは、この内部に第2流動路PS2を含む。また、この第2流動路部材110Bは、第2流動路PS2から分岐する第1分岐部110BP及び第2分岐部110BQと、次述する第2冷却機構130の冷却器130Cを螺旋状に包囲してなる金属管状の螺旋部110BZとを含む。
【0036】
さらに、この第2流動路部材110Bは、この第2流動路部材110B自体、さらにはこれに流動する流動体を冷却可能な第2冷却機構130を有する。
この第2冷却機構130は、冷媒(図示しない)を送り出すポンプ(図示しない)を含む本体部130Aと、本体部130Aに接続する管状の第1冷媒配管部130B,第2冷媒配管部130Dと、金属からなり、冷媒を内部で循環可能な円筒形状の冷却器130Cとを含む。冷媒は、本体部130Aから第1冷媒配管部130Bを流れて、冷却器130Cを通過している際に、第2流動路部材110Bの螺旋部110BZを冷却する。そして、冷却器130Cを循環した冷媒は、第2冷媒配管部130Dを流れて、本体部130Aに戻る。
【0037】
また、ドライエア供給機構150は、ドライエアDAを供給可能なドライエア供給機151、このドライエア供給機151と第2流動路部材110Bの第1分岐部110BPとの間を結ぶ、管状のドライエア配管152、及び、このドライエア配管152を開閉可能なバルブ153を有する。
【0038】
また、露点計測手段140は、露点計141、この露点計141と、第2流動路部材110Bの第2分岐部110BQとの間を結ぶ、管状の計測用配管142、及び、この計測用配管142を開閉可能なバルブ143を有する。
【0039】
なお、供給タンク101から第2流動路PS2までの間はクローズエアであるので、第1流動路PS1、攪拌タンク102及び第2流動路PS2の雰囲気の露点は、一様になっている。このため、露点計141による流動路内雰囲気PS2Gの露点を計測すれば、正極板用スラリーSCが存在することとなる場所(攪拌タンク102及び第2流動路PS2)の露点と見なすことができる。
【0040】
また、本実施形態1の製造装置100では、ドライエア供給機構150及び露点計140を用いて、攪拌タンク102のタンク温度TF及び第2流動路部材110Bの部材温度TTを、計測した流動路内雰囲気PS2Gの雰囲気露点TGよりも高い状態にする。
具体的に、製造装置100では、雰囲気露点TGに対し、露点の所定値TKを設けている。雰囲気露点TGが所定値TK以下の場合には、第1冷却機構120及び第2冷却機構130を用いたとしても攪拌タンク102のタンク温度TF、及び、第2流動路部材110Bの部材温度TTが雰囲気露点TGよりも低くならないように、所定値TKを決めている。つまり、製造装置100において、(タンク温度TF,部材温度TT)>所定値TK≧雰囲気露点TGが成立する。なお、雰囲気露点TGが、露点の所定値TKよりも高ければ、ドライエア供給機構150を用いて雰囲気露点TGを所定値TK以下にする。
【0041】
また、本実施形態1の正極板用スラリーSCは、後述するように、攪拌タンクにおいて昇温する。このため、攪拌タンク102での正極板用スラリーSCは第1冷却機構120で冷却されるが、この正極板用スラリーSCのスラリー温度TSは、攪拌タンク102のタンク温度TFよりも低くなることはない(スラリー温度TS>タンク温度TF)。さらに、第2流動路部材110Bでの正極板用スラリーSCは第2冷却機構130で冷却されるが、このスラリー温度TSは、第2流動路部材110Bの部材温度TTよりも低くなることはない(スラリー温度TS>部材温度TT)。
【0042】
以上より、正極板用スラリーSCが存在することとなる何れの場所(攪拌タンク102及び第2流動路部材110B)においても結露を防止できる。従って、本実施形態1にかかる製造装置100によれば、水分の混入による分解反応や固化など、水分混入による特性低下を防止して、良好な特性の正極板用スラリーSCを製造できる。
【0043】
また、本実施形態1にかかる正極板用スラリーSCの製造装置100では、攪拌タンク102は第1冷却機構120を、第2流動路部材110Bは第2冷却機構130をそれぞれ有している。このため、正極板用スラリーSCが攪拌タンク102を流動する際、第1冷却機構120を用いて正極板用スラリーSCを冷却することができる。また、正極板用スラリーSCが第2流動路部材110Bを流動する際、第2冷却機構130を用いて正極板用スラリーSCを冷却することができる。従って、製造装置100によれば、水分混入を防止するのみならず、高温となることによる特性の低下を防止して、良好な特性の正極板用スラリーSCを製造できる。
【0044】
また、上述のドライエア供給機構150を備えるので、正極板用スラリーSCを流動させるのに先立ち、このドライエア供給機構150を用いて、第2流動路PS2全体に亘って、これを乾燥させることができる。また第2流動路PS2のうち、少なくとも正極板用スラリーSCに接する流動路内雰囲気PS2Gの露点を下げて、第2流動路PS2内の結露を防止することができる。
【0045】
また製造装置100では、露点計141を備える。このため、例えば、流動路内雰囲気PS2Gが、正極板用スラリーSCや第2流動路部材110Bに触れても結露を生じない所定値TK以下となるまで、第2流動路部材110BにドライエアDAを流通させて、確実に流動路内雰囲気PS2Gの雰囲気露点TGを下げるなど、適切な露点管理ができる。。かくして、第2流動路PS2内での結露を確実に防止することができる。
【0046】
さらに、露点計141がバルブ143を介して第2流動路PS2に接続されているので、雰囲気露点TGの計測前はバルブ143を開け、計測の際にはバルブ143を閉じることで、流動路内雰囲気PS2Gの雰囲気露点TGを安定して計測することができる。
【0047】
次に、上述の製造装置100を用いた正極板用スラリーSCの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
この正極板用スラリーSCの製造方法では、攪拌により、正極活物質SX及び結着材SYを互いに分散させた正極板用スラリーSCとする攪拌工程と、攪拌された正極板用スラリーSCを貯留タンク103まで流動させて、貯留タンク103で貯留する流動貯留工程とを備える。さらに、流動貯留工程に先立ち、正極板用スラリーSCが流通する第2流動路PS2全体に亘ってドライエアDAを流通させ、第2流動路PS2をなす第2流動路部材110Bのうち、正極板用スラリーSCに接する部材内側部110BHを乾燥させる乾燥工程を備える。
【0048】
まず、乾燥工程について図3を参照して説明する。この乾燥工程では、ドライエア供給機構150を用いて第2流動路部材110BにドライエアDAを流入させる。具体的には、ドライエア供給機構150のドライエア供給機151から供給するドライエアDAを、バルブ153を開けたドライエア配管152及び第1分岐部110BPを経由して、第2流動路部材110Bの第2流動路PS2に流し込む。
第2流動路部材110Bに流入したドライエアDAは、第1分岐部110BPから螺旋部110BZ側(図3中、右方向)、及び、第1分岐部110BPから攪拌タンク102側(図3中、左方向)にそれぞれ流れる。このうち、螺旋部110BZ側に向かって流れるドライエアDAは、第2流動路PS2の螺旋部110BZ及び第2流動路PS2の途中に配置したフィルタ部111を流れて、流出口110BEから外部へ流れ出る。一方、攪拌タンク102側に向かって流れるドライエアDAは、第2流動路PS2を流れた後、攪拌タンク102、及び、第1流動路部材110A内の第1流動路PS1を流れて、供給タンク101から外部へ出る(図1参照)。つまり、ドライエアDAは、第2流動路PS2全体と、攪拌タンク102にタンク内部PST全体とに亘って流通するので、乾燥工程では第2流動路部材110Bの部材内側部110BH及び攪拌タンク102を乾燥させる。
【0049】
なお、上述の乾燥工程では、ドライエアDAを供給しつつ、露点計測機構140の露点計141を用いて、第2流動路PS2の流動路内雰囲気PS2Gの雰囲気露点TGを計測する。このとき、流動路内雰囲気PS2Gの流通を開閉するバルブ143を一旦閉じる。 流動路内雰囲気PS2Gの雰囲気露点TGを露点計141で計測するにあたり、ドライエアDAを流通させたままで測定するよりも、流動路内雰囲気PS2Gが露点計141の周囲で動かない状態で雰囲気露点TGを計測した方が、より安定して雰囲気露点TGを測定できる。そこで、乾燥工程では、雰囲気露点TGの計測前はバルブ143を開けて、計測用配管142を第2流動路PS2の流動路内雰囲気PS2Gと同じにしておく。そして、計測の際にはバルブ143を閉じて計測する。これにより、より安定して流動路内雰囲気PS2Gの雰囲気露点TGを計測することができる。
【0050】
露点計141を用いて雰囲気露点TGが、前述の所定値TK以下となったところで、ドライエアDAを供給しつつ、攪拌タンク102の第1冷却機構120、及び、第2流動路部材110Bの第2冷却機構130をそれぞれ稼働させる。これにより、第1冷却機構120が攪拌タンク102自身を、第2冷却機構130が第2流動路部材110Bの部材内側部110BHをそれぞれ冷却する。
攪拌タンク102のタンク温度TF及び部材内側部110BHの部材温度TTがいずれも所定の温度になったところで、ドライエア供給機構150によるドライエアDAの供給を停止(バルブ153を閉じる)し、乾燥工程を終了させる。
【0051】
次に、攪拌工程について図1を参照しつつ説明する。
この攪拌工程では、まず、製造装置100の供給タンク101の内部に、溶剤SW、粒子形状の正極活物質SX、溶剤SWに溶解した樹脂からなる結着材SY、及び、アセチレンブラックからなる導電助材SZを含む処理前スラリーSBを収容させる。このうち、溶剤SWはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなり、正極活物質SXはLiNiO2からなり、結着材SYはポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる。
なお、これらの重量比を、正極活物質SX:結着材SY:導電助材SZ=93:4:3とした。
【0052】
供給タンク101に処理前スラリーSBを収容したら、第1流動路部材110Aに配置した液送ポンプ170を用いて、第1流動路部材110Aの第1流動路PS1に処理前スラリーSBを流動させる。そして、第1流動路部材110Aが接続する攪拌タンク102に処理前スラリーSBを到達させ、攪拌タンク102に収容する。
【0053】
攪拌タンク102では、処理前スラリーSBを、攪拌はね102W及びモータ部102Mを用いて攪拌して、正極活物質SX、結着材SY及び導電助材SZを分散させる。これにより、正極活物質SX、結着材SY及び導電助材SZを分散させた正極板用スラリーSCができる。
なお、本実施形態1の正極板用スラリーSCは、攪拌の際、大きな剪断力を攪拌はね102Wから受けたことによって昇温してしまう。しかし、攪拌工程前及び攪拌工程中に、第1冷却機構120によって、攪拌タンク102自身が冷却されるので、正極板用スラリーSCを、例えば、結着材21Yの融点にまで昇温するのを防止する。
攪拌タンク102でできた正極板用スラリーSCは、第1流動路部材110Aから新たに収容される処理前スラリーSBに押し出されるようにして、第2流動路部材110Bの第2流動路PS2に流れ込む。
【0054】
次に、流動貯留工程では、上述の正極板用スラリーSCを貯留タンク103まで流動させて、貯留タンク103で貯留する。
具体的には、正極板用スラリーSCを第2流動路部材110Bの第2流動路PS2を流動させる。そして、第2流動路部材110Bの流出口110BEから流出する正極板用スラリーSCを、貯留タンク103に収容し貯留する。
【0055】
なお、フィルタ部111では、正極板用スラリーSCをメッシュフィルタ部111A上に、一旦堆積させる。そして、スクレイパー部111Bを用いて、メッシュフィルタ部111A上の正極板用スラリーSCを擦る。これにより、正極板用スラリーSC中の気泡をなくしたり、正極板用スラリーSCから異物を排除することができる。
また、第2流動路部材110Bの螺旋部110BZでは、正極板用スラリーSCの流動前及び流動中に、第2冷却機構130によって、螺旋部110BZの部材内側部110BHが冷却されているので、正極板用スラリーSCをさらに冷却することができる。
また、貯留タンク103では、攪拌はね103Wを回転させて、貯留した正極板用スラリーSCの凝結を防ぐ。
【0056】
以上より、本実施形態1にかかる正極板用スラリーSCの製造方法では、上述の攪拌工程と流動貯留工程とを備え、正極板用スラリーSCが存在することとなる場所の何れにおいても、正極板用スラリーSC及びこの正極板用スラリーSCが接する部材内側部110BHの温度T2を、雰囲気露点TGよりも高い状態で、攪拌工程及び流動貯留工程を行う。このため、正極板用スラリーSCが存在することとなる何れの場所においても、結露を防止して、攪拌工程及び流動貯留工程を行うことができる。従って、結露に起因する水分が分散スラリーに混入したことによる分解反応や固化など、水分混入による不具合を防止して、良好な特性の正極板用スラリーSCを製造することができる。
【0057】
また、流動貯留工程が冷却工程を有するので、正極板用スラリーSCの流通時にこれを冷却することができる。従って、水分の混入のみならず、高温による特性の低下をも防止した正極板用スラリーSCを製造できる。
【0058】
また、上述の乾燥工程を備えるので、第2流動路PS2をなす第2流動路部材110Bのうち、少なくとも正極板用スラリーSCに接する部材内側部110BHに付着していた水分の、正極板用スラリーSCへの混入を防止することができる。
【0059】
また、雰囲気露点TGが所定値TK以下となるまでドライエアDAを流通させる。このため、第2流動路PS2における結露を確実に防止できる。
【0060】
また、本実施形態1にかかる正極板用スラリーSCの製造方法では、第2流動路PS2と露点計141との間にバルブ143を設け、このバルブ143を介して、第2流動路PS2に接続した露点計141を用い、バルブ143を閉じて雰囲気露点TGを計測するので、より安定して雰囲気露点TGを計測することができる。
【0061】
以上において、本発明を実施形態1に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態1では、正極板用スラリーSCを製造する製造装置100について示したが、正極板用スラリーに限らず、負極板用スラリーを製造する製造装置としても良い。また、製造装置100のうち供給タンク101から第2流動路部材110Bまでの間をクローズエアにして、流動貯留工程における分散スラリー(電極用スラリー)を外気に触れないようにした。しかし、例えば、製造装置を、分散スラリーが外気(室内の空気)に触れるような形態(例えば、管状の第2流動路部材110Bに外気が流入する形態や第2流動路部材110Bの上方が開いた形態)にして、流動貯留工程において分散スラリーが外気に触れても良い。
また、電極用スラリーを、攪拌工程でできた分散スラリーをそのまま使用したが、分散スラリーに、さらに他の物質を加えたり加工を施しても良い。
【符号の説明】
【0062】
100 製造装置
102 攪拌タンク(攪拌手段)
103 貯留タンク(貯留部)
110B 第2流動路部材(部材,流動路部材)
110BH 部材内側部(部位)
130 第2冷却機構(冷却手段)
141 露点計
143 バルブ
150 ドライエア供給機構(ドライエア流通手段)
DA ドライエア
PS2 第2流動路(場所,流動路)
PS2G 流動路内雰囲気(雰囲気)
PST タンク内流路(場所)
SC 正極板用スラリー(分散スラリー,電極用スラリー)
SB 処理前スラリー
SW 溶剤
SX 正極活物質(活物質粒子)
SY 結着材(樹脂)
TF タンク温度(部材温度)
TG 雰囲気露点
TK 所定値
TS スラリー温度
TT 部材温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤と活物質粒子と上記溶剤に溶解した樹脂とを含む電極用スラリーの製造方法であって、
攪拌により、上記活物質粒子と上記樹脂とを互いに分散させた分散スラリーとする攪拌工程と、
攪拌された上記分散スラリーを貯留部まで流動させて、上記貯留部で貯留する流動貯留工程と、を備え、
上記攪拌工程及び上記流動貯留工程を、
上記分散スラリーが存在することとなる場所の何れにおいても、当該場所における上記分散スラリーのスラリー温度、及び、この分散スラリーが接する部材の部材温度を、この場所において分散スラリーに接する雰囲気の露点温度よりも高い状態としつつ行う
電極用スラリーの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極用スラリーの製造方法であって、
前記流動貯留工程は、
前記分散スラリーを流動させつつ冷却する冷却工程を含む
電極用スラリーの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電極用スラリーの製造方法であって、
前記流動貯留工程に先立って、前記分散スラリーが流動する流動路全体に亘ってドライエアを流通させて、上記流動路をなす部材のうち、少なくとも上記分散スラリーに接する部位を乾燥させる乾燥工程を備える
電極用スラリーの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電極用スラリーの製造方法であって、
前記乾燥工程は、
前記流動路内に位置する流動路内雰囲気の雰囲気露点温度が、所定値以下となるまで、前記ドライエアを流通させる
電極用スラリーの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電極用スラリーの製造方法であって、
前記乾燥工程は、
前記流動路内雰囲気の流通を開閉するバルブを介して、前記流動路に接続された露点計により、上記バルブを閉じて前記雰囲気露点温度を計測する
電極用スラリーの製造方法。
【請求項6】
溶剤と活物質粒子と上記溶剤に溶解した樹脂とを含む電極用スラリーの製造装置であって、
上記溶剤、上記活物質粒子及び上記樹脂を含む処理前スラリーを攪拌して、上記活物質粒子と上記樹脂とを分散させた分散スラリーを形成する攪拌手段と、
上記分散スラリーを流動させて上記攪拌手段から貯留部まで導く流動路をなす流動路部材と、を備え、
上記攪拌手段及び上記流動路部材は、
上記分散スラリーが存在することとなる場所の何れにおいても、当該場所における上記分散スラリーのスラリー温度及び、この分散スラリーが接する部材の部材温度を、この場所において分散スラリーに接する雰囲気の露点温度よりも高い状態としてなる
電極用スラリーの製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電極用スラリーの製造装置であって、
前記流動路部材は、
前記分散スラリーを流動させつつ冷却する冷却手段を有する
電極用スラリーの製造装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の電極用スラリーの製造装置であって、
前記流動路全体に亘って、ドライエアを流通させるドライエア流通手段を備える
電極用スラリーの製造装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電極用スラリーの製造装置であって、
前記流動路内に位置する流動路内雰囲気の雰囲気露点温度を計測する露点計を備える
電極用スラリーの製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電極用スラリーの製造装置であって、
前記露点計は、
前記流動路内雰囲気の流通を開閉するバルブを介して、前記流動路に接続されてなる
電極用スラリーの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−210738(P2011−210738A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161776(P2011−161776)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【分割の表示】特願2009−23605(P2009−23605)の分割
【原出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】