説明

電極用材料

【目的】 本発明は、優れた導電性と均一な表面抵抗を具備した上に寸法安定性に優れ、肌触りがよく、剛性と適度の柔軟性及び曲げ強度を兼備する電極用材料を提供することを目的とする。
【構成】本発明の電極用材料は、平均径が0.01〜3.0μm、平均長が1〜500μm、平均アスペクト比が5〜500、比抵抗が10-3乃至104 Ω・cmであるセラミック繊維及び/又は平均径が0.5〜3.0μm、平均長が0.5〜20mm、平均アスペクト比が200〜10000、比抵抗が10-3乃至104 Ω・cmであるカーボン繊維を1〜50重量%含有し、残部が熱可塑性樹脂からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電極用材料及び該材料を成形してなる電極用成形物に関する。
【0002】
【従来の技術】生体等油性面をもった対象に用いられる電極、例えば心電図測定用電極には、該油性面に対する親和性、粘着性、水分による変形等に対応することが要求される。従来、このような目的に用いられる電極材料としては水溶性乃至は親水性のポリマーに電解質を含有させたものや高分子電解質が知られており、これらはいずれも含水ゲル状態で用いられている。しかしながら、これら電極材料には、水による膨潤や溶解により本来の形状が容易に変形するのが避けられないという欠点があり、保管や運搬に際して問題となる上、例えば便座に取りつけて心電図測定用の電極として使用する場合等には耐久性が不十分であった。
【0003】この様な欠点を改良する電極材料として、例えば、ゴム成分中に導電性物質であるカーボンブラック粒子を分散させた導電性組成物が提案されている(特開昭63−131406号公報)。斯かる導電性組成物はマトリックスとしてゴムを用いることにより人体等の油性面に対する親和性及び粘着性を良好にし、且つ水分等による変形を防止することを目的としたものである。しかしながら、上記導電性組成物は、皮膚に対する電気的な接触抵抗が高いために導電性が所望の範囲に達しないという欠点を有している。
【0004】また、ゴム等の連続層中に電解質を水と共に分散乃至乳化させて導電性組成物とすることも考えられるが、この様な方法によってもやはり充分な導電性を得ることができず、しかも水が系外にブリードし易いという難点も生ずる。
【0005】加えて、上記した従来の電極材料はいずれも、自由に製品設計することができないばかりか、強度の点でも不十分であった。
【0006】一方、導電性繊維を含む熱可塑性樹脂組成物を射出成形すると、成形物表面に導電性繊維の充填比率が比較的低い厚さ300μm〜400μm程度の表面スキン層を生じることが知られている。該表面スキン層が生じる原因は、溶融した熱可塑性樹脂が高い粘性を示し、金型内流動時には噴水ながれ、いわゆるファウンティンフローを起こしていることと、射出された樹脂は金型壁面に瞬間的に熱を奪われて固化するためであると考えられている。表面スキン層には導電性繊維の充填率が比較的低いため、その厚さが200μm程度を超えると表面電気抵抗値が所望の範囲より著しく高くなり、且つその抵抗値にもばらつきが生じるため、斯かる表面スキン層を有する成形品を、例えば心電図測定用の電極として用いると正確な測定値を得ることが出来ない。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前述のような従来技術では解決しきれなかった課題を解決すべく鋭意研究努力を重ねた結果、需要者が要求する導電性と均一な表面抵抗を具備した上に寸法安定性に優れ、肌触りがよく、剛性と適度の柔軟性及び曲げ強度を兼備する電極用材料を得ることに成功し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】即ち、本発明は、平均径が0.01〜3.0μm、平均長が1〜500μm、平均アスペクト比が5〜500μm、比抵抗が10-3乃至104 Ω・cmであるセラミック繊維及び/又は平均径が0.5〜3.0μm、平均長が0.5〜20mm、平均アスペクト比が200〜10000、比抵抗が10-3乃至104 Ω・cmであるカーボン繊維を1〜50重量%含有し、残部が熱可塑性樹脂であることを特徴とする電極用材料及び該材料を成形してなる電極用成形物に係る。
【0009】本発明では、電極用材料を製造する際に導電性を付与した微小な繊維状物質、即ちセラミック繊維及び/又はカーボン繊維を配合した熱可塑性樹脂を使用することを必須とする。
【0010】本発明で使用されるセラミック繊維としては、例えばチタン酸アルカリ繊維、チタン酸アルカリ土類繊維、チタン酸アルミニウム繊維、チタニア繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ホウ酸マグネシウム繊維、アルミナ繊維、ケイ酸繊維、窒化ケイ素繊維等の金属酸化物系化合物や金属窒化物系化合物であって、単結晶又は多結晶であるものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。上記セラミック繊維は、繊維表面に金属、金属酸化物、カーボン等を付着又は沈着させることによって導電性が付与され得る。繊維表面に金属、金属酸化物、カーボン等を付着又は沈着させるには、例えば該繊維を還元ガス雰囲気下で還元焼成する方法、CVD法(化学蒸着法)、無電解メッキ法、浸漬法、スプレーコート法等の公知の方法を広く適用することができる。
【0011】また、本発明において、カーボン繊維としては公知の方法、例えば特開平4−185720号公報に記載の方法で製造されたものを広く用いることができる。
【0012】本発明で用いられるセラミック繊維及びカーボン繊維は、比抵抗が10-3乃至104 Ω・cmであることが必要である。またセラミック繊維は、平均径が0.01〜3.0μm、平均長が1〜500μm、平均アスペクト比が5〜500の範囲内であり、カーボン繊維は平均径が0.5〜3.0μm、平均長が0.5〜20mm、平均アスペクト比が200〜10000であることが必要である。ここに、平均径とは、該繊維が円形でない場合には相当直径を意味する。
【0013】本発明では、この大きさの繊維を用いることは、後述する表面スキン層を薄くするためにも重要である。またこの大きさの繊維を用いることにより製造された電極用材料は、表面平滑性に優れており、対人体用電極としての好ましい触感をもつ。更に成形品の先端まで繊維で補強されるために、製品の細部に強い負荷の加わる様な用途に使用しても、変形や破損が少ない。上記よりも大きい繊維を用いると、表面に局部的な表面抵抗の不均一な部分を生じ易くなり、不適当である。
【0014】本発明の電極用材料へのセラミック繊維及び/又はカーボン繊維の配合量は通常1〜50重量%であるが、3〜40重量%が好ましく、5〜30重量%が特に好ましい。配合量が1重量%未満であれば、該樹脂を添加した効果が乏しくなり、一方逆に50重量%を越えると、後記する熱可塑性樹脂の特性を阻害するため電極材料としての特性の調整が困難になる。
【0015】本発明においては、セラミック繊維やカーボン繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性を高めたり混合分散性を高めたりするために、これら繊維に公知の各種表面処理を施してもよい。例えば、シラン系やチタネート系のカップリング剤等の表面処理剤を用いて表面処理すればよい。
【0016】本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、従来公知のものを広く使用でき、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン6−12等のポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステルエラストマー樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。また、熱可塑性組成物を発泡させたものも、本発明の熱可塑性樹脂として使用することができる。
【0017】本発明の電極用材料には、安定剤、酸化防止剤、滑剤、金属粉、カーボンブラック、通常の太さのカーボン繊維、成形の際に金型からの離型性を良くするための添加剤等の公知の各種配合剤を適宜配合することができる。
【0018】本発明による電極用材料を所望の形状に成形する際には、射出成形法を採用するのが好ましいが、その他の公知の成形法を用いて所望の製品を製造することができる。
【0019】射出成形法により電極用材料を成形するに際しては、得られる電極用成形物の表面スキン層を200μm以下にするのがよく、望ましくは100μm以下とするのがよい。表面スキン層が200μm以上であると、成形物の体積抵抗値と表面抵抗値が部分的に相違することがあり、また表面抵抗値が高くなるため、特に精度が要求される測定用の電極としては好ましくないためである。
【0020】本発明者らは、表面スキン層の形成にはセラミック繊維やカーボン繊維の樹脂に対する配合比率、射出成形時の射出圧力、射出温度、成形(材料)温度、射出速度、金型温度等の条件が関係しており、これらを適宜調整することによってスキン層の厚さが200μm以下である成形品を得ることができることを見い出した。
【0021】これらの条件は、用いる熱可塑性樹脂によって異なるが、射出圧力は通常より高めがよく、射出量は通常より低めの方がよい。金型温度については通常よりも高めとするのがよい。表1に日精樹脂工業(株)製のFS150射出成形機による主要な樹脂についての好ましい条件を示す。
【0022】
【表1】


【0023】本発明電極用材料を成形してなる成形物は、各種の測定用電極として用いることができる。例えば、便座に取り付けて、心電図測定用電極として用いることができる。その際、本成形物は、便座の皮膚と接触しうる部分の少なくとも1箇所に取り付ければよい。具体的な設置例を図1に示した。
【0024】また、本発明電極用材料を成形してなる成形物は、表面抵抗値が優れて均一なため、導電性物質を接触させた場合に、接触面積に比例した抵抗が得られるという特徴を有している。またいかなる部分も均一な抵抗値を示すため、接触させた長さに比例した抵抗値が得られるという特徴を有している。そのため、深度測定装置用電極や位置測定センサー等の材料として好適に使用することができる。
【0025】
【発明の効果】本発明の電極用材料を用いて製造した電極用成形物は以下に示す好ましい特徴を具備する。
【0026】1.電気抵抗値が低く、微小な電流の計測にも問題がない。
【0027】2.成形品の電気抵抗値が成形品の全部分に亙って一様であり、しかも計測対象物との接触位置の違いによる計測値の相違が殆ど問題にならない位に電気抵抗値が低い。
【0028】3.成形品は、長期に亙って使用による変形、酸化による変質等を受けることが殆んどない。
【0029】4.表面が滑らかで肌触りがよい。
【0030】5.剛性と適度の柔軟性及び曲げ強度を兼備している。
【0031】本発明の電極用成形物は、表面抵抗値と体積抵抗値が殆んど変化なく、人体からの微小な電圧をも感知し得るものである。従って本発明の電極用成形物を取り付けた便座は、将来高齢化社会を向えるに当り家庭で健康管理ができる機能を有しており、社会的に見ても有効なものと言える。本発明の電極用材料は熱可塑性樹脂をベースにしているので、特に水洗が可能である特徴を有しており、それ故多くの用途に使用され得る。
【0032】
【実施例】以下に実施例及び比較例を掲げて本発明をより一層明らかにする。
【0033】実施例1チタン酸カリウム繊維を不活性雰囲気中で1000℃にて還元焼成した導電性チタン酸カリウム繊維(繊維径0.3μm、繊維長15μm、比抵抗10-2Ω・cm、大塚化学(株)製)を後記表2に示す配合割合(重量%)で溶融した芳香族ポリアミド樹脂(ナイロンMXD6,商品名:レニー6000)に270℃に設定した二軸押出機にて混入し、押出し造粒し、本発明組成物を得た。
【0034】得られた組成物を、射出圧力800kg/cm2 、成形温度290℃、射出量100cm3 /秒、金型温度130℃の条件で射出成形し、物性測定用テストピースを作成した。
【0035】得られたテストピースについて、機械物性、電気物性を調べた。結果を表2に示す。
【0036】〔機械物性及び電気物性測定条件〕
表面抵抗及び表面抵抗値(導電性)のバラツキ;JIS K 6911に従った。而してテストピース内の導電性バラツキは以下の基準に従って評価した。
【0037】○…1×10-1.0〜1×10+1.0Ω/□の範囲内×…1×10-1.0〜1×10+1.0Ω/□の範囲外曲げ強度;ASTM D790に従った。
【0038】表面粗さ;静電塗装性試験用プレートにつき、測定長8mmにて、サーフコム304B〔東京精密(株)〕で測定した(Rmax )。
【0039】比較例1表2に示す各原料を用い、実施例1と同様にしてテストピースを製造し、上記と同様の試験を行なった。結果を表2に併記する。
【0040】
【表2】


【0041】実施例2熱可塑性樹脂としてPBT樹脂を使用し、実施例1とほぼ同操作にて各種試験に供した。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】


【0043】実施例3チタン酸カリウム繊維としてアンチモンドープ、酸化すず被覆の導電性チタン酸カリウム繊維(繊維径0.35μm、繊維長15μm、比抵抗100 Ω・cm)を用い、且つ熱可塑性樹脂としてABS樹脂を用い、実施例1とほぼ同操作にて各種試験に供した。結果を表4に示す。
【0044】
【表4】


【0045】実施例4カーボン繊維として平均径1.5μm、平均長7.5mm、比抵抗10-2Ω・cmの極細カーボン繊維を用い、且つ熱可塑性樹脂としてABS/PBTアロイ樹脂を用い、実施例3とほぼ同操作にて各種試験に供した。結果を表5に示す。
【0046】
【表5】


【0047】実施例5実物大の心電図測定用便座及び付帯部品を成形し、これに実施例3のNo.3の電極用材料を成形して得られる電極用成形物を取り付けた。この心電図測定用便座を一例を図1に示す。図1における1及び2は共に電極用成形物を取り付けたところであり、1の場所に大腿部を、2の場所に手のひらを載せることにより、心電図が計測できるようになっている。この便座を用い、5名の心電図を測定した。その結果を図2に示す。
【0048】実施例6ポリフェニレンスルフィド樹脂にカーボン繊維として平均1.5μm、平均長15mm、比抵抗10-2Ω・cmの極細カーボン繊維7wt%、チタン酸カリウム繊維を不活性雰囲気中で1000℃にて還元焼成した導電性チタン酸カリウム繊維(繊維径0.3μm、繊維長15μm、比抵抗10-2Ω・cm)を7wt%、ポリテトラフルオロエチレンパウダー5wt%、通常の炭素繊維5wt%及びケッチェンEC0.5wt%を270℃に設定した二軸押出機にて混練し、押出し、造粒して本発明組成物を得た。
【0049】上記で得られた本発明組成物を図3に示す形状に射出成形して成形品を得た。この成形品の表面スキン層を測定したところ30μmであった。更にこの成形品を図4に示す装置の一部に使用して、電極材料としてのインピーダンス測定を行なった。結果を図5に示す。
【0050】図5から明らかなように、本発明組成物を用いて作成した針状の電極は各部分に抵抗値の均一性があり、食塩水の深さを電気的に読み取ることができた。またこの性質を応用して、狭くて細かい部分の深さ、例えば歯周ポケットの深さ等を測定するのに有効であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電極用成形物を取り付けた心電図測定用便座の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の電極用成形物を取り付けた心電図測定用便座を用いて測定した5名の心電図である。
【図3】実施例6で作成した成形品の側面図である。
【図4】実施例6におけるインピーダンス測定のための装置の概略図である。
【図5】成形品を生理食塩水に浸漬した深さとインピーダンスとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 本発明の電極用成形物
2 本発明の電極用成形物
3 本発明の成形品
4 生理食塩水
5 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 平均径が0.01〜3.0μm、平均長が1〜500μm、平均アスペクト比が5〜500、比抵抗が10-3乃至104 Ω・cmであるセラミック繊維及び/又は平均径が0.5〜3.0μm、平均長が0.5〜20mm、平均アスペクト比が200〜10000、比抵抗が10-3乃至104 Ω・cmであるカーボン繊維を1〜50重量%含有し、残部が熱可塑性樹脂であることを特徴とする電極用材料。
【請求項2】 請求項1に記載の電極用材料を成形してなる電極用成形物。
【請求項3】 表面スキン層の厚さが200μm以下である請求項2に記載の成形物。
【請求項4】 皮膚と接触する部分の少なくとも1か所に請求項3に記載の成形物をとりつけてなる便座。

【図3】
image rotate


【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate