説明

電極

【課題】冷陰極蛍光ランプの高輝度化に貢献することができる電極を提供する。
【解決手段】冷陰極蛍光ランプに用いられるカップ状の電極であり、カップ状に形成された基材と、この基材の内周面のうち底部に形成された金属層とを具える。金属層は、めっきにより形成されている。また、金属層は、周期表1族,2族,及び3族から選択される1種以上の金属元素と酸素とを含む化合物粒子を含有する。めっきにより金属層を形成することで金属層と化合物粒子との密着性に優れることから、この電極は、長期に亘り、放電性に優れる化合物粒子を保持することができ、高輝度化に貢献することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極蛍光ランプに利用される電極に関する。特に、長期に亘り高輝度である冷陰極蛍光ランプが得られる電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のバックライト用光源といった種々の電気機器の光源として、冷陰極蛍光ランプが利用されている。このランプは、代表的には、内壁面に蛍光体層を有する円筒状のガラス管と、この管の両端に配置される一対のカップ状の電極とを具え、管内にArといった希ガス及び水銀が封入されている。電極は、ニッケルからなるものが代表的であり、リード線が接続されて、リード線を介して電極に電圧が印加される。
【0003】
昨今、冷陰極蛍光ランプの更なる高輝度化が望まれている。高輝度化には、放電性の向上(電子を放出し易くすること)が効果的である。特許文献1〜3は、ニッケルよりも仕事関数が小さく、電子放出性に優れるバリウム(Ba)やセシウム(Cs)といった金属の酸化物からなるエミッタを電極に付着させたり、電極の表面側に含有させた構成を開示している。
【0004】
【特許文献1】特開平08-055603号公報
【特許文献2】特開2002-175775号公報
【特許文献3】特開2005-183172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の電極は、電極とエミッタとの密着性が不十分であり、エミッタの脱落などにより高輝度化に十分に寄与することが難しい。
【0006】
特許文献1,2に記載されるようにペーストや水溶液を電極に塗布して加熱処理する場合、エミッタが剥離し易く(特許文献3明細書0007)、ランプの寿命が極端に短くなるため、実用に適していない。一方、特許文献3に記載の電極は、エミッタの粉末とニッケル粉末とを混合して焼結した後、圧延して得られた板とニッケル板とを貼り合わせてクラッド材とし、このクラッド材を更に圧延して電極素材(板材)とし、この素材にカップ状加工を施すことで製造される。焼結体は、一般に、気孔(ポア)といった欠陥が多いため、Arイオンのスパッタリング作用により電極が削られるとエミッタが脱落し易く、長期に亘りエミッタを保持することが難しい。
【0007】
そこで、本発明の目的は、発光効率が高く、その効果を長期に亘り維持することができる冷陰極蛍光ランプ用の電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
周期表1族〜3族の金属元素は、一般に、仕事関数が低く、2次電子の放出性が良好であるため、冷陰極蛍光ランプの電極材料(陰極材料)に望ましい。しかし、これらの金属元素は、大気中で酸化され易いことから、バルク材をそのまま電極に用いたり、従来のニッケル電極にコーティングすることが実用上不可能である。一方、これらの金属元素の酸化物は、大気中で安定に存在するものの、加工性に劣ることから、この酸化物をそのまま電極に用いることも実質的にできない。他方、従来のようにバリウムやセシウムの酸化物粉末を塗布するなどの構成では、電極の基材との密着性に劣る。これに対し、本発明者らは、周期表1族〜3族の金属元素と酸素との化合物の微粉末をめっき中に分散させた構造とすると、めっき層が微粉末を十分に保持することができることから、発光効率に優れ、かつその効果が長期に亘り維持可能な冷陰極蛍光ランプが得られる、との知見を得た。本発明はこの知見に基づくものであり、エミッタとして機能する化合物粒子を保持する金属層をめっきにより形成する。
【0009】
本発明電極は、冷陰極蛍光ランプに用いられるものであり、カップ状に形成された基材と、この基材の内周面のうち底部に形成された金属層とを具える。この金属層は、めっきにより形成されている。また、この金属層は、周期表1族,2族,及び3族から選択される1種以上の金属元素と酸素とを含む化合物粒子を含有する。
【0010】
上記構成を具える本発明電極は、化合物粒子が金属層に十分に保持されることで、化合物粒子の存在により放電性が高められて発光効率を向上することができ、冷陰極蛍光ランプの長期に亘る高輝度化に寄与することができる。また、金属層をめっきにより形成することで、化合物粒子が分散した状態の金属層を容易に形成できる。更に、めっきにより形成された金属層は、加工性に優れており、金属層を形成した素材(基材を構成するもの)をカップ状に加工することも可能である。加えて、金属層をめっきにより形成することで、複数の基材又は素材に対して金属層の形成を一度に行えるため、電極の生産性に優れる。
【0011】
本発明電極において基材は、ニッケル又はニッケル合金が好ましい。Ni及び不純物からなるニッケル(いわゆる純ニッケル)、又は添加元素と残部がNi及び不純物からなるニッケル合金は、塑性加工性に優れ、カップ状の電極を容易に製造できる。また、ニッケルやニッケル合金は、融点が低く、コバールなどからなるリード線を溶接により容易に接合できる。
【0012】
ニッケル合金は、例えば、特開2007-173197号公報に開示されるもの、具体的にはTi,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,及び希土類元素(Yを除く)から選ばれる1種以上の元素を合計で0.001質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなるものが好ましい。このニッケル合金は、1.ニッケルよりも仕事関数が小さいため放電し易い、2.スパッタリングされ難い、3.アマルガムを形成し難い、4.酸化膜を形成し難いため、放電が阻害され難い、といった様々な利点を有する。上記添加元素は、Niとの金属間化合物をつくり、ニッケル母材中に存在する。
【0013】
本発明電極において金属層は、めっきにて形成されたものとする。めっきは、無電解めっきや電気めっき(電解めっき)などが利用できる。めっき液は、添加する原料粉末(化合物粒子となるもの)が溶解しない液性であればよく、粉末の組成に応じて適宜選択することができる。例えば、粉末が酸に可溶な場合、めっき液は、アルカリ性のめっき液、有機溶媒、溶融塩、イオン液体などから選択することができる。より具体的には、例えば、有機溶媒は、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなど、溶融塩は、LiCl-KClなど、イオン液体は、EMI-BF4やTMHA-TFSIなど種々のものが挙げられる。上記例示以外のめっき液を用いてもよい。
【0014】
なお、金属層がめっきで形成されていることは、不純物の組成、金属層の組織、金属層の硬さなどを調べることで判別することができる。例えば、金属層が電解ニッケルめっきからなる場合、結晶粒径が小さいため(平均粒径:0.01〜1μm程度)、結晶粒の大きさを調べたり、更にめっきの形成に用いる添加剤の分解により共析するC,Sといった元素(不純物)がめっきに混入することから、これらの元素の存在を調べることが挙げられる。或いは、例えば、金属層が無電解ニッケルめっきからなる場合、めっきの形成に用いる還元剤に由来するP,Bといった元素(不純物)がめっきに混入することから、これらの元素の存在を調べたり、このめっきは熱力学的に不安定なアモルファス相を有することから、組織の状態を調べることが挙げられる。
【0015】
上記金属層は、カップ状の基材の内周面において少なくとも底部に具えるものとする。カップ状の電極は、ホローカソード効果により、スパッタリング現象をある程度抑制できることから、結果として、この現象に伴う水銀の消費による輝度の低下を抑制することができる。そして、カップ状の電極は、その内周面のうち、特に底部及びその近傍から放電していくため、放電性に優れる化合物粒子を含有する金属層をこの底部に具えておくことで、放電性を高められる。内周面において、底部だけでなく、底部から電極の長さの1/3までの領域にも上記金属層を具える構成であると、放電性をより高められる。内周面全面に亘って金属層を具えていてもよいし、外周面にも金属層を具えていてもよい。
【0016】
本発明電極において金属層は、ニッケル又はニッケル合金により構成されていることが好ましい。
【0017】
ニッケルやニッケル合金は、めっきが容易であり、また、基材がニッケルやニッケル合金で構成される場合、密着性に優れる。更に、ニッケルめっきやニッケル合金めっきは色むらなどが少なく、良好な外観が得られ易く、商品価値を高められる。
【0018】
本発明電極において金属層の厚さは、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0019】
金属層の厚さを1μm以上とすることで、化合物粒子を保持し易くなることから、高輝度状態を持続可能な時間を長くすることができる。この効果は、金属層の厚さが厚い程好ましくなるが、100μmを超えると、化合物粒子の消滅以外の要因(例えば、水銀の減少など)でランプが寿命となると考えられるため、不経済である。より好ましい厚さは、10μm以上50μm以下である。金属層の厚さは部分的に異なっていてもよいが、基材の内周面の底部に具える金属層は、上記範囲を満たすことが好ましい。金属層の厚さは、以下のように測定する。電極の断面を光学顕微鏡(500〜1000倍)で観察し、この観察像の全域に亘って厚さを測定し、この平均値を当該断面における厚さとする。n=5個の断面について厚さを測定し、5個の厚さの平均を金属層の厚さとする。
【0020】
上記金属層には、化合物粒子の全周面が金属層の構成金属で覆われた状態(金属層に埋設された状態)の粒子や、粒子の外周面の少なくとも一部が露出された状態の粒子が存在する。これら化合物粒子において金属層から露出した部分に、ガラス管に封入されたArイオンが衝突することで2次電子が放出される。金属層中に埋設された状態にある化合物粒子は、Arイオンのスパッタリング作用により粒子近傍の金属層が削られることで露出されるようになり、上述のようにArイオンの衝突により2次電子を放出するようになる。即ち、本発明電極は、冷陰極蛍光ランプの点灯時、化合物粒子の少なくとも一部が自動的に金属層から露出されるため、高い放電性を維持することができる。なお、金属層を形成後、化合物粒子の一部を露出させるための処理を行ってもよい。
【0021】
本発明電極において化合物粒子は、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属の酸化物、マグネシウムの酸化物及び希土類元素の酸化物から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。
【0022】
より具体的には、アルカリ金属の酸化物:Li2O,Na2O,K2O,Rb2O,Cs2O、アルカリ金属塩:Li2TiO3,Na2Ti3O7,K2TiO3,Rb2TiO3,Cs2TiO3など、アルカリ土類金属及びマグネシウムの酸化物:MgO,CaO,SrO,BaO、希土類元素の酸化物:Sc2O3,Y2O3,La2O3,CeO2,Pr2O3,Nd2O3,Sm2O3,Eu2O3,Gd2O3,Tb2O3,Dy2O3,Ho2O3,Er2O3,Tm2O3,Yb2O3,Lu2O3から選択される1種又は2種以上を組み合わせてもよい。これらの酸化物や塩は、仕事関数が低く、放電性に優れる。特に、アルカリ金属の酸化物のうち、原子半径が大きいRb2O,Cs2Oは、仕事関数が低く好ましい。なお、金属層中の化合物粒子や基材の組成は、例えば、EDX付きSEMやX線回折などを利用することで測定することができる。
【0023】
本発明電極において化合物粒子は、最大径が10μm以下であることが好ましい。
【0024】
電極全体でみたときの2次電子の放出効率は、化合物粒子が金属層から露出している面積と共に増大する傾向にある。一方、同じ体積割合で化合物粒子が金属層に存在する場合、粒子が小さいほど粒子の表面積が増えるため、金属層から露出する粒子の面積割合も大きくなり、電子の放出効率が向上する。また、化合物粒子が大きいと、Arイオンのスパッタリング作用により、粒子を保持する金属層が削られた際に粒子が金属層から脱落し易くなる。従って、化合物粒子は、小さい方が好ましく、その最大径は、1μm以下がより好ましく、下限は特に設けない。金属層中の化合物粒子の最大径の測定方法は、後述する。
【0025】
化合物粒子の粒径は、金属層を形成する際に添加する原料粉末の大きさに依存し、原料粉末の大きさがほぼ維持される。従って、化合物粒子の粒径が所望の大きさとなるように、原料粉末を調整するとよい。所望の大きさの市販の粉末を用いてもよいし、市販の粉末を粉砕して所望の大きさのものを篩いなどで選別して用いてもよい。
【0026】
なお、化合物粒子の形状は、電子の放出性に特に影響を与えないため、問わない。上述のように粉砕する場合、球形状(断面円形状)、断面楕円状、断面矩形状、針状などの種々の形状があり得る。アスペクト比(最小長さ(短辺の長さ、例えば、楕円状の粒子の場合:短径、矩形状の粒子の場合:最大対角線に対する垂線のうち最大のもの)と最大長さ(長辺の長さ、例えば、楕円状の粒子の場合:長径、矩形状の粒子の場合:最大対角線)との比)が比較的大きい形状であると、金属層の単位体積当たりにおける化合物粒子の接触面積が大きくなることから、金属層からの化合物粒子の脱落の抑制に効果的である。具体的には、アスペクト比が1:2〜1:50を満たすような形状、代表的には断面楕円状や断面矩形状などが好ましい。アスペクト比が1:50を超えると、例えば、短辺の長さが200nm(0.2μm)の場合、長辺の長さが10μmを超え、結果として、粒子径が増大する。化合物粒子の形状は、原料粉末の形状に依存するため、例えば、アスペクト比が大き過ぎる粒子を除去したものを原料粉末として用いることで、金属層中の化合物粒子のアスペクト比を制御できる。金属層中の化合物粒子のアスペクト比は、例えば、金属層の表面をX線顕微鏡で観察した観察像を市販の画像解析ソフトにより画像処理して化合物粒子を抽出し、抽出した粒子の最大長さ及び最小長さを測定し、この測定結果を用いることで求められる。
【0027】
本発明電極において化合物粒子の含有量は、1体積%以上30体積%以下であることが好ましい。
【0028】
金属層を100体積%とするとき、化合物粒子の含有量を1体積%以上とすることで、発光効率の向上への寄与が大きく、30体積%以下とすることで、粒子を保持する金属層の構成金属量の相対的な減少を抑制して高い保持力を維持して、粒子の脱落の増加による発光効率の不安定化を抑制することができる。より好ましい含有量は、5体積%以上15体積%以下である。金属層中の化合物粒子の含有量の測定方法は、後述する。
【発明の効果】
【0029】
本発明電極は、高輝度であり、更に高輝度の状態を長期に亘り維持可能な冷陰極蛍光ランプの実現に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
《試験例1 金属層の有無》
カップ状の基材に金属層を具える電極を作製し、更に、この電極を用いた冷陰極蛍光ランプを作製して、ランプの性能を評価した。
【0031】
<一体部材の作製>
基材とインナーリード線とが一体となった一体部材を以下のように作製する。ニッケル(LC-Ni(Ni201))の鋳塊に熱間圧延を施し、得られた圧延板材に熱処理を施した後、表面切削を行う。得られた表面処理材に冷間圧延及び熱処理を繰り返し行った後、最終熱処理(軟化処理)を行って、厚さ:0.1mmの軟化処理材を作製する。この軟化処理材を所定の大きさに切断し、得られた板状材に冷間プレス加工を施して、カップ状の基材を作製する(直径φ1.6mm×長さ3.0mm)。得られた基材の外周面において底部に、コバール製のインナーリード線にガラスビーズを溶着させたものをレーザで溶接して接合し、ガラスビーズ付きインナーリード線と基材とが一体となった一体部材を作製する。なお、基材の底部にインナーリード線を接合した後、ガラスビーズを溶着させてもよい。
【0032】
得られた一体部材の基材に以下のように金属層を形成する。なお、金属層の形成に際して、基材に導通が必要な場合(後述する試験例4,5)は、インナーリード線を用いることで導通を確保する。
【0033】
<金属層の形成>
(粉末の準備)
めっき液(後述)に混合する化合物からなる粉末を準備する。ここでは、市販のY2O3粉末をボールミルで粉砕し、市販の精密篩いを用いて、粒径別に以下の4種類に篩い分ける。なお、粉砕後の粒子の形状を調べたところ、概ねアスペクト比が1:2〜1:50を満たしていた。
粉末種別:1-A 10μm超50μm以下
1-B 5μm超10μm以下
1-C 1μm超5μm以下
1-D 1μm以下
【0034】
(金属層の形成工程)
金属層は、脱脂・親水化処理→触媒の付与→触媒の活性化→無電解めっき、という工程で形成する。なお、一体部材において基材以外の箇所は予め、市販のPTFE製マスキングテープを使用してマスキングを行った。
【0035】
[脱脂・親水化処理工程]
用意した一体部材を、上村工業株式会社製スルカップMTE-1-A(50ml/L,50℃,1L)に5分間浸漬した後水洗し、基材表面の脱脂・親水化処理を行った。
【0036】
[触媒の付与工程]
次に、上記処理後の一体部材を、無電解ニッケルめっき用触媒(上村工業株式会社製スルカップPED-104(270g/L)とスルカップAT-105(30ml/L)との混合液1L,30℃)に2分浸漬し、基材に触媒を付与した。
【0037】
[触媒の活性化工程]
続いて、触媒を付与した基材を、上村工業株式会社製スルカップAL-106(10%水溶液,1L,25℃)に30秒浸漬し、触媒を活性化した。
【0038】
[無電解めっき工程]
上村工業株式会社製ニボジュールU-77(60℃、1L)に、用意した各Y2O3粉末をそれぞれ10g/Lの割合で添加した液をめっき液とし、上記活性化処理までを行った一体部材を6時間(360分)浸漬し、厚さが20μmの無電解ニッケルめっき層を形成した。この工程により、カップ状の基材の内外周面の全面に亘って金属層(めっき層)が形成された電極とインナーリード線とを具える電極部材が得られた。なお、めっき後、電極の5個の任意の断面について、金属層の厚さを光学顕微鏡観察像(1000倍)から測定したところ、形成した厚さと同等であった。
【0039】
<化合物粒子の測定>
得られた電極部材について、金属層中の化合物粒子の最大径(μm)、化合物粒子の含有量(体積%)を測定した。最大径は以下のように求めた。金属層の表面をX線顕微鏡で観察し(視野:200μm×200μm)、化合物粒子が分散された観察像(投影像)を取得し、市販の画像解析ソフトを用いてこの観察像を画像処理して、化合物粒子を抽出する。視野内の全ての化合物粒子についてそれぞれ最大長さを測定し、その最大値をこの視野の最大長さとし、5視野の平均を最大径として表1に示す。含有量は、以下のように求めた。電極の質量、及び金属層のみの質量を測定しておき、電極を硝酸などで溶解して、基材・金属層の構成金属・化合物粒子を溶解する。得られた溶液をICP発光分光分析装置で調べて、金属(ここではY)の濃度から化合物の含有量を算出する。そして、金属層の質量と算出した化合物の含有量との差から、金属層の構成金属の質量が求められる。これらの算出結果と、組成分析に基づく密度とを利用して、体積%に換算する。その結果を表1に示す。金属層のみの質量は、めっき前の基材の質量を予め測定しておき、電極の質量と基材の質量との差を演算することで求められる。或いは、電極から基材部分を研磨などにより除去することで、金属層のみの質量を測定できる。研磨前に電極を切断したり、押し潰して変形させると研磨が行い易い。
【0040】
<ランプの作製>
また、得られた電極部材を用いて冷陰極蛍光ランプを作製し、200時間ごとの輝度を測定した。その結果を表1に示す。比較として金属層を有していない電極を具える冷陰極蛍光ランプを作製した。この比較ランプ(試料No.100)は、金属層を形成する前の一体部材をそのまま冷陰極蛍光ランプに用いた。
【0041】
冷陰極蛍光ランプは、以下のように作製した。電極部材に具えるインナーリードの端部にアウターリード線を接合した接合部材を一対用意し、内壁面に蛍光体層(ここではハロリン酸塩蛍光体層)を有し、両端が開口した円筒状のガラス管の一端に一方の接合部材を挿入し、ガラスビーズと管の一端とを溶着して、管の一端を封止すると共に、接合部材の電極を管内に固定する。次に、ガラス管の他端から真空引きして希ガス(ここではArガス)及び水銀を導入し、他方の接合部材を挿入して電極を固定すると共にガラス管を封止する。この手順により、一対のカップ状の電極の開口部が対向配置された冷陰極蛍光ランプが得られる。
【0042】
<ランプの評価>
輝度は、金属層を有していない電極を具える試料No.100の初期値(0hr)を100とし、その他の試料の輝度を相対的に表して評価した。接合部材ごとに一対の接合部材を5組用意してランプを5個作製し、各ランプの輝度を測定し、5個の平均値を各試料の値として輝度を評価した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように化合物粒子を含有する金属層を具える試料No.1-1〜1-4は、初期輝度が高く、かつ、長時間経過後の輝度の低下度合いも小さく、高輝度状態を長期に亘り維持できることが分かる。特に、化合物粒子の大きさが小さいほど、高輝度であることが分かる。
【0045】
《試験例2 金属層の厚さ》
試験例1に対して、めっき液の浸漬時間を変化させて、金属層の厚さを変えた電極を作製し、更に、この電極を用いた冷陰極蛍光ランプを作製して、試験例1と同様にランプの性能を評価した。その結果を表2に示す。
【0046】
この試験では、めっき液の浸漬時間を変えた以外の点は、試験例1と同様にして電極及び冷陰極蛍光ランプを作製した(浸漬時間;試料No.2-1:3.6分、試料No.2-2:36分、試料No.2-3:1800分)。なお、めっき後、電極の5個の任意の断面について、金属層の厚さを光学顕微鏡観察像(1000倍)から測定したところ、形成した厚さと同等であった。また、得られた電極(電極部材)について、試験例1と同様にして化合物粒子の含有量(体積%)を測定した。その結果も表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、化合物粒子の含有量が概ね等しい場合、金属層の厚さが厚いほど、長時間経過後の輝度の低下度合いが小さいことが分かる。この理由は、金属層の厚さが薄いと、Arイオンによるスパッタリング作用で金属層が削られるのと同時に、化合物粒子が脱落して、基材が露出してくるためであると考えられる。また、金属層の厚さが100μmを超える試料No.2-3は、100μm以下である試料No.1-4と同等の傾向を示すため、100μm以下で十分であると考えられる。
【0049】
《試験例3 化合物粒子の含有量》
試験例1に対して、めっき液に添加する原料粉末の添加量を変化させて、化合物粒子の含有量が異なる金属層を具える電極を作製し、更に、この電極を用いた冷陰極蛍光ランプを作製して、試験例1と同様にランプの性能を評価した。その結果を表3に示す。
【0050】
この試験では、めっき液への原料粉末の添加量を表3に示すように変えた以外の点は、試験例1と同様にして電極及び冷陰極蛍光ランプを作製した。また、得られた電極(電極部材)について、試験例1と同様にして化合物粒子の含有量(体積%)を測定した。その結果も表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3に示すように、金属層の厚さが等しい場合、化合物粒子の含有量が多いほど、初期輝度が高いことが分かる。しかし、化合物粒子が多い試料No.3-3は、長時間経過後の輝度の低下度合いが比較的大きい。この理由は、含有量が多いと、経時的に脱落する化合物粒子が多くなるためであると考えられる。
【0053】
《試験例4 めっき方法》
試験例1に対して、異なるめっき液を用いて金属層を形成した電極を作製し、更に、この電極を用いて冷陰極蛍光ランプを作製して、試験例1と同様にランプの性能を評価した。その結果を表4に示す。
【0054】
この試験では、めっき工程の条件を変えた以外の点は、試験例1と同様にして電極及び冷陰極蛍光ランプを作製した。また、得られた電極(電極部材)について、試験例1と同様にして化合物粒子の含有量(体積%)を測定した。その結果も表4に示す。
【0055】
[めっき工程]
DMSO2(ジメチルスルホン):温度120℃、1Lに、無水塩化ニッケルを100g/L添加し、更に試験例1で用意した粉末種別1-DのY2O3の粉末を10g/L添加したものをめっき液として、電気めっきを行った。このめっきは、触媒を活性化した一体部材のインナーリードを−極とし、ニッケル板(住友金属鉱山株式会社製 SKニッケル)を+極とし、電流密度:5A/dm2で20分行い、厚さが20μmのニッケルめっきを形成した。また、このめっきは、グローブボックス内で行った。なお、めっき後、電極の5個の任意の断面について、金属層の厚さを光学顕微鏡観察像(1000倍)から測定したところ、形成した厚さと同等であった。
【0056】
【表4】

【0057】
表4に示すように、金属層の形成方法(めっき液の種類)に関わらず、化合物粒子を含有する金属層を具える電極を用いることで、初期輝度が高く、かつ長期に亘り高輝度な状態が維持可能な冷陰極蛍光ランプが得られることが分かる。
【0058】
《試験例5 化合物粒子の種類》
試験例4に対して、組成が異なる原料粉末を用いて金属層を形成した電極を作製し、更に、この電極を用いた冷陰極蛍光ランプを作製して、試験例1と同様にランプの性能を評価した。その結果を表5に示す。
【0059】
この試験では、金属層の形成を試験例4と同様に有機溶媒を用いた電気めっきで行った(めっき条件は試験例4と同様)。めっき液に添加する原料粉末として表5に示す組成の試薬(市販品)を用意し、試験例1と同様にボールミルで粉砕して篩い分けし、各粉末とも1μm以下のものを用意した。用意した各粉末を試験例4に示すめっき液に混合して電気めっきを行い、得られた電極を用いて冷陰極蛍光ランプを作製した。また、得られた電極(電極部材)について、試験例1と同様にして化合物粒子の含有量(体積%)を測定した。その結果も表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
表5に示すように化合物粒子を含有する金属層を具える電極を用いることで、初期輝度が高く、かつ長期に亘り高輝度な状態を維持することができる冷陰極蛍光ランプが得られることが分かる。
【0062】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、基材や金属層をニッケル合金で形成してもよい。また、化合物粒子は、複数の異なる組成のものが組み合わせて含有された構成としてもよい。更に、金属層を形成した素材を用意し、この素材にカップ状の加工を施して電極を作製してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明電極は、冷陰極蛍光ランプに好適に利用でき、この冷陰極蛍光ランプは、例えば、パソコンの液晶モニタや液晶テレビなどの液晶表示装置のバックライト用光源、小型ディスプレイのフロントライト用光源、複写機やスキャナなどの原稿照射用光源、複写機のイレイサー用光源といった種々の電気機器の光源に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷陰極蛍光ランプに用いられるカップ状の電極であって、
カップ状に形成された基材と、前記基材の内周面のうち底部に、めっきにより形成された金属層とを具え、
前記金属層は、周期表1族,2族,及び3族から選択される1種以上の金属元素と酸素とを含む化合物粒子を含有することを特徴とする電極。
【請求項2】
前記金属層は、ニッケル又はニッケル合金により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記化合物粒子は、最大径が10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記化合物粒子の含有量は、1体積%以上30体積%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記金属層の厚さは、1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
前記化合物粒子は、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属の酸化物、マグネシウムの酸化物及び希土類元素の酸化物から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極。

【公開番号】特開2009−218150(P2009−218150A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62334(P2008−62334)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591200623)住電ファインコンダクタ株式会社 (21)
【Fターム(参考)】