説明

電気リン光に基づく高効率有機発光デバイス

【課題】発光効率の高い有機エレクトロルミネッセンスデバイスの発光層に用いるリン光性化合物とそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスデバイスを提供する。
【解決手段】イリジウム及びオスミウムから選択される金属の錯体をリン光性化合物である発光材料として用いて、有機エレクトロルミネッセンスデバイスを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(I.発明の分野)
本発明は、有機金属リン光性ドーパント化合物を含む発光層を含んでなり、励起子阻止層を含む有機発光デバイス(OLED)に関する。
【背景技術】
【0002】
(II.発明の背景)
II.A. 一般的背景
有機発光デバイス(OLED)は、数種類の有機層から構成されており、それらの層の一つは、そのデバイスを横切るように電圧を印加することによってエレクトロルミネッセンスにすることができる有機材料から構成されている(C.W. Tang et al., Appl. Phys. Lett., 1987, 51, 913)。ある種のOLEDは、LCDに基づいたフルカラーフラットパネルディスプレイに対する実際的な代替技術として用いるのに十分な輝度、十分な色の範囲および十分な作動寿命を有することが示されている(S.R. Forrest, P.E. Burrows and M.E. Thompson, Laser Focus World, Feb. 1995)。このようなデバイスに用いられる有機薄膜の多くは可視スペクトル領域では透明であるので、赤(R)、緑(G)および青色(B)発光OLEDを垂直積層形態に配置し、単純な構成法、小さなR-G-B画素サイズおよび大きな充填比(fill factor)を提供する全く新しい種類のディスプレイ画素を実現することができる(国際特許出願PCT/US95/15790号明細書)。
【0003】
高分解能の独立してアドレス可能な積層型R-G-B画素の実現に向けた重要な段階を意味する透明なOLED(TOLED)が、国際特許出願PCT/US97/02681号明細書に報告され、そこでは、TOLEDはスイッチを切った場合には71%を上回る透明度を有し、且つそのデバイスのスイッチを入れた場合には、最上部および最下部のデバイス表面から高効率(約1%の量子効率)で発光した。このTOLEDは、正孔注入電極(hole-injecting electrode)として透明なインジウムスズ酸化物(ITO)を用い、電子注入のためにMg-Ag-ITO電極層を用いた。Mg-Ag-ITO層のITO側を、TOLEDの最上部に積層した第二の、異なる色を発光するOLEDの正孔注入接点(hole-injecting contact)として用いるデバイスが開示された。この積層型OLED(SOLED)の各層は独立してアドレス可能であり、それ自身の特徴的な色を発光した。この着色した発光は、隣接して積層した透明な独立してアドレス可能な1つ又は複数の有機層、透明接点およびガラス基材を透過し、従ってこの装置は赤および青色発光層の相対出力を変化させることによって作り出すことができる任意の色を発光することができた。
【0004】
色を調整可能なディスプレイ装置の外部電源で、強度および色の両方を独立して変化させ制御することができる集積型SOLEDが、PCT/US95/15790号出願明細書に開示されている。従って、PCT/US95/15790号出願明細書では、コンパクトな画素サイズによって可能となる画像の高分解能をもたらす集積型フルカラー画素を達成するための原理が説明されている。更に、従来技術による方法と比較して比較的低価格の作成法を、このような装置の製造に用いることができる。
【特許文献1】国際特許出願PCT/US97/02681号明細書
【特許文献2】PCT/US95/15790号出願明細書
【特許文献3】米国特許第6,048,630号明細書
【非特許文献1】C.W. Tang et al., Appl. Phys. Lett., 1987, 51, 913
【非特許文献2】S.R. Forrest, P.E. Burrows and M.E. Thompson, Laser Focus World, Feb. 1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
II.B. 発光の背景
構造が有機光電子材料の層の使用に基づいているデバイスは、一般に光放射を生じさせる、よく見られる機構に依存している。典型的には、この機構は、捕捉された電荷の放射的再結合に基づいている。具体的には、OLEDは、このデバイスの陽極と陰極を分離する少なくとも2つの薄い有機層から構成されている。これらの層の一つの材料は、具体的には正孔を輸送する材料の能力に基づいて選択され(「正孔輸送層」(HTL))、別の層の材料は具体的には、電子を輸送するその能力によって選択される(「電子輸送層」(ETL))。このような構成では、陽極に加えた電位が陰極に加えた電位より高いときには、このデバイスは順バイアス(forward bias)を有するダイオードと考えることができる。これらのバイアス条件下では、陽極は正孔(正電荷キャリヤー)を正孔輸送層へ注入し、陰極は電子を電子輸送層へ注入する。従って、陽極に隣接する部分の発光媒体は、正孔注入および正孔輸送ゾーンを形成し、陰極に隣接する部分の発光媒体は電子注入および電子輸送ゾーンを形成する。注入された正孔および電子は、それぞれ反対に帯電した電極に移動する。電子と正孔が同一分子上に局在していると、Frenkel励起子が形成される。この短寿命状態の再結合は、ある条件下では、優先的に発光機構を介して起こる緩和を伴う、その導電電位から価電子帯へ降下する電子としてみることができる。典型的な薄層有機デバイスの作動の機構のこの見方のもとでは、エレクトロルミネッセント層は各電極からの移動性電荷キャリヤー(電子および正孔)を受け取るルミネッセンスゾーンを含んでいる。
【0006】
OLEDからの発光は、典型的には蛍光またはリン光によるものである。リン光の使用には問題がある。リン光効率は高電流密度では急速に低下することが指摘されている。長いリン光寿命が発光部位の飽和を引起こし、三重項−三重項消滅により効率の損失を生じることがある。蛍光とリン光とのもう一つの差異は、導電性ホストからルミネッセントゲスト分子への三重項のエネルギー移動は、典型的には一重項のエネルギー移動よりも遅い;複数の一重項のエネルギー移動を支配するロングレンジ双極子−双極子カップリング(Foerster移動)は、(理論的には)スピンの対称性保存の原理によって三重項については禁止されている。従って、三重項については、エネルギー移動は典型的には隣接分子への励起子の拡散によって起こる(Dexter移動);ドナーおよびアクセプター励起子波動関数の有意な重なりがエネルギー移動にとって重要である。もう一つの問題は、典型的な一重項拡散距離が約200Åであるのと比較して、三重項拡散距離は一般に長い(例えば、>1400Å)ことである。従って、リン光デバイスがそれらの電位に達するようにするには、デバイスの構造を三重項特性に対して最適化する必要がある。本発明では、長い三重項拡散距離の特性を利用して外部量子効率を向上させる。
【0007】
リン光をうまく利用することにより、有機エレクトロルミネッセントデバイスが極めて有望になる。例えば、リン光の利点は、リン光デバイス中で、(部分的に)三重項に基づく(EL中で正孔と電子の再結合によって形成される)全ての励起子が、ある種のエレクトロルミネッセント材料におけるエネルギー移動およびルミネッセンスに関与しうることである。対照的に、蛍光デバイス中の一重項に基づく励起子のごく少ない割合だけしか、蛍光ルミネッセンスを生じない。
【0008】
II.C. 材料の背景
II.C.1. 基本的ヘテロ構造
典型的には、少なくとも1個の電子輸送層と少なくとも1個の正孔輸送層を有するので、様々な材料の層(複数)を有し、ヘテロ構造を形成する。エレクトロルミネッセント発光を生じる材料は、電子輸送層または正孔輸送層として機能する材料と同じであることがある。電子輸送層または正孔輸送層が発光層としても機能するこのようなデバイスは、単一へテロ構造を有するといわれる。あるいは、エレクトロルミネッセント材料は、正孔輸送層と電子輸送層との間の別個の発光層に存在してもよく、二重ヘテロ構造とよばれる。
【0009】
すなわち、電荷担体層中、すなわち正孔輸送層中または電子輸送層中に主要成分として存在し、かつ電荷担体材料並びに発光材料として機能する発光材料の他に、この発光材料は電荷担体層中にドーパントとして比較的低濃度で存在することがある。ドーパントが存在する場合にはいつでも、電荷担体中の主要材料はホスト化合物または受容化合物とよばれることがある。ホストおよびドーパントとして存在する材料は、ホストからドーパント材料へのエネルギー移動が高水準となるように選択される。更に、これらの材料は、OLEDにとって許容可能な電気特性を生み出すことができることが必要である。更に、このようなホスト材料およびドーパント材料は、好都合な製造技術、特に真空蒸着法を用いることによってOLEDに容易に組込むことができる材料を用いてOLEDに組込むことができることが好ましい。
【0010】
II.C.2 励起子阻止(ブロッキング)層
本発明の(および以前に米国特許出願番号第09/153,144号明細書に開示された)デバイスに用いられる励起子阻止層は、励起子の拡散を実質的に阻止し、従って発光層内に励起子を実質的に保持して、デバイス効率を高める。本発明の阻止層の材料は、その最低空軌道(LUMO)と最高被占軌道(HOMO)との間のエネルギー差(「バンドギャップ」)によって特徴づけられる。本発明によれば、このバンドギャップが、阻止層を通る励起子の拡散を実質的に防止し、その上、完成したエレクトロルミネッセントデバイスの作動電圧に対する影響は極めて少ない。従って、このバンドギャップは、発光層で生じるエネルギー準位より大きいことが好ましく、それによってこのような励起子が阻止層中に存在することができない。具体的には、阻止層のバンドギャップは、ホストの三重項状態と基底状態との間のエネルギーの差と少なくも同じ大きさである。
【0011】
II.D. 色
色については、OLEDは、三原色である、赤、緑および青の一つに相当し、OLEDまたはSOLEDの着色層として用いることができる、選択されたスペクトル領域近くに中心のある比較的狭いバンドでのエレクトロルミネッセント発光をもたらす材料を用いて作製するのが望ましい。このような化合物は、真空蒸着法を用いて薄層として容易に蒸着されることができ、それにより、真空蒸着した有機材料から専ら調製されるOLED中に容易に組込むことができることも望ましい。
【0012】
米国特許第6,048,630号明細書は、飽和した赤色を発光する発光性化合物を含むOLEDに関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(III.発明の概要)
本発明は有機発光デバイスを目的とし、その発光層が、任意選択によるホスト材料を伴っていてもよい発光性分子を含み、この分子は、ヘテロ構造を通して電圧を印加した場合に冷光を発する(ルミネンス)のに適合しており、ここで発光性分子がリン光性有機金属錯体の群から選択される。前記発光性分子は、さらに、リン光性有機金属イリジウムまたはオスミウム錯体の群から選択でき、さらに、リン光性シクロメタル化イリジウムまたはオスミウム錯体の群から選択できる。発光性分子の具体例は、下記式:
【化1】

[本明細書のこれ以後の図において、窒素から金属(ここでは、Ir)への供与結合は直線として表示する。]
の fac−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3と表される)である。
【0014】
層の一般的配置は、正孔輸送層、発光層、および電子輸送層である。正孔伝導性発光層については、発光層と電子輸送層との間に励起子阻止層を有することができる。電子伝導性発光層については、発光層と正孔輸送層との間に励起子阻止層を有することができる。発光層は、正孔輸送層と同じか(この場合には、励起子阻止層は陽極付近または陽極にある)、または電子輸送層と同じである(この場合には、励起子阻止層は陰極付近または陰極にある)ことがある。
【0015】
発光層は、ホスト材料を伴って形成してもよく、ホスト材料中で発光性分子はゲストとして存在し、あるいは発光層は発光性分子自身から形成してもよい。前者の場合には、ホスト材料は、置換トリアリールアミンの群から選択された正孔輸送マトリックスであってよい。ホスト材料の一例は、式:
【化2】

を有する4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)である。発光層はまた、上記ホスト材料中にドーパントとして存在し、上記発光性ドーパント分子が冷光を発する場合(ルミネッセンス)に、放射された光の波長に影響を与える双極子モーメントを有する分極性分子を含むこともできる。
【0016】
電子輸送材料から形成される層を用いて、電子を発光性分子および(任意選択により)ホスト材料を含んでなる発光層中に輸送する。電子輸送材料は、金属キノキソレート、オキシダゾール、およびトリアゾールの群から選択される電子輸送マトリックスであることができる。電子輸送材料の一例は、トリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)である。
【0017】
正孔輸送材料から形成される層を用いて、正孔を発光性分子および(任意選択により)ホスト材料を含んでなる発光層中に輸送する。正孔輸送材料の一例は、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル[「α-NPD」]である。
【0018】
励起子阻止層(「バリヤー層」)を用いて励起子をルミネッセント層(「ルミネッセントゾーン」)に閉じ込めるのが極めて好ましい。正孔輸送ホストについては、阻止層をルミネッセント層と電子輸送層との間に配置することができる。このようなバリヤー層のための材料の一例は、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バソキュープロインまたはBCPともよばれる)であり、式:
【化3】

を有する。
【0019】
(下記の例1の場合と同様に)正孔伝導性ホストと電子輸送層との間に阻止層を有する場合については、下記の特性が求められ、これは相対的重要性の順に列挙されている。
1. 阻止層のLUMOとHOMOとのエネルギー差は、ホスト材料の三重項と基底状態の一重項とのエネルギーの差より大きい。
2. ホスト材料の三重項は阻止層によって消光されない。
3. 阻止層のイオン化電位(IP)は、ホストのイオン化電位より大きい(正孔はホスト中に保持されていることを意味する)。
4. 阻止層のLUMOのエネルギー準位と、ホストのLUMOのエネルギー準位とは、デバイスの全導電率の変化が50%未満となるように、エネルギーが十分に接近している。
5. 遮蔽層は、発光層から隣接層への励起子の輸送を効果的に阻止するために十分な層の厚みを有することを条件としてできるだけ薄い。
[発光性(「発光」)分子を正孔輸送ホストなしで用いる場合については、阻止層の選択についての上記規則は、「ホスト」の文言を「発光分子」で置き換えることによって変更される。]
【0020】
電子伝導性ホストと正孔輸送層との間に阻止層を有する補足的な場合については、(重要性の順に列挙される)以下の特性が求められる。
1. 阻止層のLUMOとHOMOとのエネルギーの差は、ホスト材料の三重項と基底状態の一重項との間のエネルギー差より大きい。
2. ホスト材料中の三重項は、阻止層によって消光されない。
3. 阻止層のLUMOのエネルギーは、(電子輸送性)ホストのLUMOのエネルギーより大きい(電子はホスト中に保持されていることを意味する)。
4. 阻止層のイオン化電位と、ホストのイオン化電位とは、正孔が阻止体(blocker)からホスト中に容易に注入されるようなものであり、デバイスの全導電率の変化は50%未満である。
5. 阻止層は、発光層から隣接層中への励起子の輸送を効果的に阻止するために十分な層の厚みを有することを条件としてできるだけ薄い。
[発光性(「発光(emitting)」分子を電子輸送ホストなしで用いる場合については、阻止層の選択についての上記規則は、「ホスト」の文言を「発光分子(emitting molecule)」で置き換えることによって変更される。]
【0021】
(V. 発明の詳細な説明)
本発明は、総括的には有機発光デバイスのヘテロ構造を横切って電圧を印加した場合に冷光を発し(ルミネッセンス)、かつ、リン光性有機金属錯体の群から選択される発光性分子、並びにその発光デバイスの発光を最適化する構造およびその構造の関連する分子に関する。「有機金属」という用語は、例えば、「無機化学(Inorganic Chemistry)」(第2版), Gary L. Miessler and Donald A. Tarr著, Prentice-Hall (1998)に示されているように、当業者によって一般に理解されている通りである。本発明はさらに、有機発光デバイスの発光層内の発光性分子に関するものであり、この分子はリン光性シクロメタル化イリジウム錯体から構成される。エレクトロルミネッセンスに関しては、このクラスの分子は、赤、青、または緑に見える発光をうみだすことができる。CIEチャートの説明を含めた、色の外観についての議論は、カラー化学(Color Chemistry), VCH Publishers, 1991、およびH.J.A. Dartnall, J.K. Bowmaker, and J.D. Mollon, Proc. Roy. Soc. B (ロンドン), 1983, 220, 115-130に見いだすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を、本発明の具体的な好ましい態様について詳細に説明するが、これらの態様は単なる説明用の例としてだけのものであり、本発明はこれらに限定されないことを理解されたい。
【0023】
〔実施例〕
(実施例1)
この実施例では、緑色の電気リン光性(エレクトロフォスフォレッセンス)材料であるfac−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)を用いるOLEDを説明する。この化合物は、下記の式で表される:
【化4】

短い三重項寿命と、妥当な光ルミネッセント効率の偶然の調和が、Ir(ppy)3を基剤とするOLEDに、ピーク量子効率およびピーク電力効率がそれぞれ8%(28 cd/A)および約30 lm/Wを達成することを可能にしている。印加したバイアスが4.3Vでは、ルミネッセンスは100 cd/m2に達し、量子効率および電力効率はそれぞれ7.5%(26 cd/A)および19 lm/Wである。
【0024】
有機層を、透明な導電性インジウムスズ酸化物をプレコーティングした清浄なガラス基板上へ、高真空(10-6トール)熱蒸発によって蒸着させた。正孔をCBP中のIr(ppy)3からなるルミネッセント層に輸送するために、4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ)ビフェニル(α-NPD)の400Åの厚みの層を用いる。電子をIr(ppy)3:CBP層に輸送し、かつ陰極でのIr(ppy)3ルミネッセンス吸収を減少させるために、電子輸送材料であるトリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq 3)の200Åの厚みの層を用いる。直径が1 mmの開口部を有するシャドウマスクを用いて、1000Åの厚みの25:1のMg:Agの層からなり、500Åの厚みのAgキャップを有する陰極を画定した。以前と同様に(O'Brien, et al., App. Phys. Lett. 1999, 74, 442-444)、本発明者らは、CBPとAlq3の間に挿入した2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バソキュープロインまたはBCP)の薄い(60Å)バリヤー層が、励起子をルミネッセントゾーン内に閉じ込めてそれにより高効率を保つために必要であることを発見した。O'Brien et al., App. Phys. Lett. 1999, 74, 442-444では、この層が、ドーピングした領域の外側へ三重項が拡散することを防止すると主張されていた。CBPが正孔を容易に輸送することができ、ルミネッセント層内での励起子形成をさせるためにBCPが必要とされうることも示唆された。いずれの場合にも、BCPを用いることは、明らかに、励起子をルミネッセント領域内に閉じ込める働きをする。OLEDで用いた材料の幾つかの分子構造式は、エネルギー準位案の図と共に図1に示されている。
【0025】
図2は、Ir(ppy)3に基づく幾つかのOLEDの外部量子効率を示す。ドーピングした構造は、電流の増加と共に量子効率が徐々に低下することを示している。Alq3:PtOEP系についての結果と同様に、ドーピングしたデバイスは、約6-8%のIr(ppy)3:CBPの質量比に対し、最大効率を達成する(約8%)。従って、Ir(ppy)3 :CBPにおけるエネルギー移動経路は、PtOEP:Alq3 (Baldo, et al., Nature, 1998, 395, 151; O'Brien, 1999, 上記引用)における経路 、すなわちホストからの三重項の近距離のDexter移動を経由するものと同様と思われる。低いIr(ppy)3濃度では、ルミネッセンス団(lumophores)は、励起したAlq3分子のDexter移動半径より離れていることがしばしばであり、一方、高濃度では、凝集体の消光が増加する。三重項移動については、双極子−双極子(Foerster)移動は禁制であり、PtOEP:Alq3系では、直接的な電荷捕獲が重要であることは発見されていないことに留意されたい。
【0026】
(実施例2)
ドーピングしたデバイスに加えて、ルミネッセント領域がIr(ppy)3の均質なフィルム(film)であるヘテロ構造を作成した。純Ir(ppy)3での効率の(約0.8%への)低下は、減衰(わずか約100nsの寿命しかもたない)にあらわれ、且つ、モノ指数関数的挙動(mono-exponential behavior)から著しく外れている。BCPバリヤー層をもたない6%Ir(ppy)3:CBPデバイスも、BCPバリヤー層を有する6%Ir(ppy)3:Alg3デバイスと共に示されている。ここでは、極めて低い量子効率が、電流とともに増大することが観察されている。この挙動は、ルミネッセント領域または陰極の隣接部位のいずれにおいても、Alq3中への励起子の移動にともなって、非放射性部位が飽和することを示唆している。
【0027】
(例3)
図3では、例1の装置について、ルミネッセンスと電力効率を電圧の関数としてプロットしている。ピーク電力効率は約30 lm/Wで、量子効率は8%(28 cd/A)である。100 cd/m2では、4.3Vの電圧では、電力効率19 lm/Wで量子効率7.5%(26 cd/A)が得られる。CBP中のIr(ppy)3の過渡応答は、脱気トルエン中室温での2μsの測定寿命(例えば、King, et al., J. Am. Chem. Soc., 1985, 107, 1431-1432)と比較して、約500 nsのモノ指数関数的リン光減衰である。これらの寿命は短く、強いスピン−軌道カップリングを示唆しており、過渡応答におけるIr(ppy)3蛍光の非存在と一緒とあわせて、Ir(ppy)3が一重項から三重項状態へ強い項間交差(intersystem crossing)を有すると本発明者らは考えている。従って、総ての発光は、長寿命の三重項状態から生じる。あいにく、三重項の遅い緩和がエレクトロルミネッセンスにおける障害(ボトルネック)となるおそれがあり、Ir(ppy)3の一つの主要な利点は短い三重項寿命をもつことである。リン光の障害は、これによって実質的に緩和される。これによって、電流が増加しても効率の漸減しかもたらさず、最大ルミネッセンスは約100,000 cd/m2となる。
【0028】
(例4)
図4では、Ir(ppy)3の発光スペクトルとCommission de L'Eclairage (CIE)座標が、最高の効率のデバイスについて示されている。ピーク波長はλ=510nmであり、半値全幅は70nmである。スペクトルおよびCIE座標(x=0.27, y=0.63)は、電流から独立している。非常に高い電流密度でさえ(約100 mA/cm2)、CBPからの青色発光は無視し得る程度であり、エネルギー移動が完全であることを示唆している。
【0029】
当業者に知られている他の手法を、本発明に関連して用いることができる。例えば、LiF陰極(Hung, et al., Appl. Phys. Lett., 1997, 70, 152-154)、成形基材(G. Gu, et al., Optics Letters, 1997, 22, 396-398)、および駆動電圧を低下させ且つ量子効率を増加させる新規な正孔輸送材料(B.Kippelen,et al.,MRS(San Francisco,Spring,1999))の使用を、本課題に応用することもできる。これらの方法により、蛍光性の小分子デバイスにおける電力効率が約20 lm/Wとなった(Kippelen,同上)。100cd/m2でのこれらのデバイス(Kido and Iizumi, App. Phys. Lett., 1998, 73, 2721)における量子効率は、典型的には、
【化5】

であり(本発明より低い)、従って電力効率が>40 lm/Wである緑色発光電気リン光デバイスを期待することができる。純粋な有機材料(Hoshino and Suzuki, Appl. Phys. Lett., 1996, 69, 224-226)は、時として室温で強いリン光を示すためには不十分なスピン軌道カップリングしかもたない可能性がある。純粋な有機リン光体の可能性を除外すべきではないが、好ましい化合物は、芳香族リガンドを有する遷移金属錯体であることがある。遷移金属は一重項および三重項状態を混合することによって、項間交差を増大させ、三重項励起状態の寿命を短くする。
【0030】
本発明は、本実施例の発光性分子に限定されない。通常の技術を有する者であれば、Ir(ppy)3(すぐ下のもの)の有機成分を変更して所望する特性を得ることができる。
【化6】

芳香族構造のアルキル置換または原子の変更を行うことができる。
【化7】

Ir(ppy)3に関連したこれらの分子は、市販のリガンドから形成することができる。R基はアルキルまたはアリールであることができ、(立体的理由により)リガンド上の3,4,7および/または8位にあることが好ましい。これらの化合物は様々な色の発光をし、様々なキャリヤー輸送速度を有することができる。従って、上記三種類の分子における基本的Ir(ppy)3構造に対する修飾によって、発光特性を望ましい方法で変更することができる。
【0031】
その他の可能な発光体を、下記に示す。
【化8】

この分子は、Ir(ppy)3と比較してブルーシフトした発光を有することが予想される。RおよびR’は、独立してアルキルまたはアリールであることができる。
【0032】
オスミウムの有機金属化合物を、本発明で用いることができる。例は、下記のものである。
【化9】

これらのオスミウム錯体は6d電子を有する八面体状(Ir類似体と等電子)となり、良好な項間交差効率を有することができる。RおよびR’は、アルキルおよびアリールからなる群から独立して選択される。それらは、文献には報告されていないと思われる。
【化10】

式中、Xは、NまたはPからなる群から選択することができる。RおよびR’は、アルキルおよびアリールからなる群から独立して選択される。
【0033】
実施例1の正孔輸送層の分子を、下記に示す。
【化11】

本発明は、OLEDの正孔輸送層中で機能することが当業者に知られているその他の正孔輸送分子を用いても実施できる。
【0034】
実施例1の発光層中でホストとして用いられる分子を、下記に示す。
【化12】

本発明は、OLEDの発光層のホストとして機能することが当業者に知られているその他の分子を用いても実施できる。例えば、ホスト材料は、正孔輸送性マトリックスであることができ、置換トリアリールアミンおよびポリビニルカルバゾールからなる群から選択することができる。
【0035】
実施例1の励起子阻止層として用いられる分子を、下記に示す。本発明は、本発明の概要に記載されている要件に合致するという条件で、励起子阻止層のために用いられるその他の分子を用いても実施できる。
【化13】

励起子阻止層の成分のために適する分子は、正孔阻止層のために適する分子と、必ずしも同じではない。例えば、分子が正孔阻止体として機能する能力は、印加された電圧によって変化し、印加された電圧が高くなるほど、正孔阻止能は小さくなる。励起子を阻止する能力は、印加された電圧から概略独立している。
【0036】
本発明のOLEDは、OLEDから構成される実質的に任意の種類のデバイス、例えば、大型ディスプレイ、輸送手段(ビヒクル)、コンピューター、テレビ、プリンター、大面積壁、劇場またはスタジアムのスクリーン、広告掲示板、またはサインに組込まれるOLEDに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】例1のエレクトロルミネッセントデバイスのエネルギー準位構造案。最高被占軌道(HOMO)エネルギーおよび最低空軌道(LUMO)エネルギーを示している(I.G. Hill and A. Kahn, J. Appl. Physics (1999)を参照されたい)。Ir(ppy)3についてのHOMOおよびLUMO準位は知られていないことに留意されたい。挿入図は、(a) Ir(ppy)3、(b) CBP、および(c) BCPの化学構造式を示す。
【図2】Ir(ppy)3:CBPルミネッセント層を用いるOLEDの外部量子効率。ピーク効率は、CBPに対して6%のIr(ppy)3質量比について観測される。100%Ir(ppy)3デバイスは、図1に示したものとは若干異なる構造を有する。それにおいては、Ir(ppy)3層は厚みが300Åであり、BCP阻止層はない。BCP層なしで成長させた6%Ir(ppy)3:CBPデバイスの効率も示す。
【図3】6%Ir(ppy)3:CBPデバイスの電力効率およびルミネッセンス。100cd/m2において、このデバイスは4.3Vを必要とし、その電力効率は19 lm/Wである。
【図4】6%Ir(ppy)3:CBPのエレクトロルミネッセントスペクトル。挿入図:CBP中のIr(ppy) 3のCommission Internationale de L'Eclairage (CIE)色度座標を、蛍光緑色発光体Alq3およびポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)と比較して示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、発光層とを含み、前記発光層が前記陽極と前記陰極との間に配置されており、前記発光層が、芳香族配位子を有するリン光性有機金属オスミウム錯体を含む、有機発光デバイス。
【請求項2】
前記リン光性有機金属オスミウム錯体が、リン光性シクロメタル化オスミウム錯体である、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項3】
前記リン光性有機金属オスミウム錯体が、金属−窒素結合を有するシクロメタル化環を有する、請求項2に記載の有機発光デバイス。
【請求項4】
前記発光層がホスト材料をさらに含有し、前記リン光性有機金属オスミウム錯体が前記ホスト材料中にドーパントとして存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項5】
前記リン光性有機金属オスミウム錯体が、下記式:
【化1】

で示されるfac-トリス(2−フェニルピリジン)オスミウムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項6】
前記リン光性有機金属オスミウム錯体が下記式:
【化2】

(上記式中、Rはアルキル基、又はアリール基である。)
で示される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項7】
前記R基がアルキル基である、請求項6に記載の有機発光デバイス。
【請求項8】
前記R基がアリール基である、請求項6に記載の有機発光デバイス。
【請求項9】
陽極と、陰極と、発光層とを含み、前記発光層が前記陽極と前記陰極との間に配置されており、前記発光層が、リン光性有機金属イリジウム錯体を含む、有機発光デバイス。
【請求項10】
前記リン光性有機金属イリジウム錯体が、リン光性シクロメタル化イリジウム錯体である、請求項9記載の有機発光デバイス。
【請求項11】
前記リン光性有機金属イリジウム錯体が、金属−窒素結合を有するシクロメタル化環を有する、請求項9又は10に記載の有機発光デバイス。
【請求項12】
前記発光層がホスト材料をさらに含有し、前記リン光性有機金属イリジウム錯体が前記ホスト材料中にドーパントとして存在する、請求項9〜11のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−254755(P2007−254755A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140927(P2007−140927)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【分割の表示】特願2000−619011(P2000−619011)の分割
【原出願日】平成12年5月11日(2000.5.11)
【出願人】(591003552)ザ、トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ (68)
【出願人】(500223316)ザ ユニバーシティー オブ サザン カリフォルニア (3)
【Fターム(参考)】