説明

電気・磁気刺激方法、電気・磁気刺激装置及び電気・磁気刺激評価方法

【課題】 パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側策硬化症、脊髄損傷、虚血、低酸素症又は外傷から生じる中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させる。
【解決手段】 脳及び脊髄に電気及び又は磁気刺激を与えて損傷後の黒質神経細胞の細胞死を抑制して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させる電気・磁気刺激方法及びその装置。
【選択図面】なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側策硬化症、脊髄損傷、虚血、低酸素症又は外傷から生じる中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させる電気・磁気刺激方法、電気・磁気刺激装置及び電気・磁気刺激評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高頻度経頭蓋的磁気刺激(rTMS)は、神経損傷疾患および精神医学領域で異状の治療療法として潜在的有効性が確認されている。しかしながら、rTMSの治療法の効果の基礎となるメカニズムは知られていない。
【0003】
また、高頻度経頭蓋的磁気刺激(rTMS)は、精神神経疾患のなかでもパーキンソン病や鬱病に効果があるという報告がされている。しかし、脳の磁気刺激について安全性を考慮した上での治療効果について、そのメカニズムを探る研究が行われた結果、磁気刺激法については治療効果は認められるが、そのメカニズムについては未だ解明されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、薬理的手法により脳損傷モデルラットを作製し、高頻度経頭蓋的磁気刺激が損傷を受けた神経細胞とグリア細胞に対してどのような作用を及ぼすかについて免疫組織化学的な手法と行動学的手法、およびイメージング技法で研究解析を行い、一過性の磁気刺激により損傷後の黒質神経細胞の細胞死が抑制されること及び行動異常が改善されることを明らかにして、中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させる電気・磁気刺激方法、電気・磁気刺激装置及び電気・磁気刺激評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る電気・磁気刺激方法は、脳及び脊髄に電気及び又は磁気刺激を与えて損傷後の黒質神経細胞の細胞死を抑制して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させる。
【0006】
請求項2係る電気・磁気刺激方法は、繊維性瘢痕除去剤を投与して脳及び脊髄に電気及び又は磁気刺激を与えて損傷後の繊維性瘢痕及び又はグリア性瘢痕の形成を抑制して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させる。
【0007】
請求項3に係る電気・磁気刺激方法は、請求項1又は2記載において、刺激強度;0.1テラスから2テラス、好ましくは0.6〜1.2テラス、周波数;15Hz〜35Hz、電流密度;20〜200A/m2、刺激波形;二相性の正弦波、パルス幅;200〜300μ秒、かつ200パルスを5分〜10分間隔で3〜10ターム(合計600〜2000パルス)を供給してなることを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る電気・磁気刺激方法は、請求項1又は2記載において、前記中枢神経系損傷疾患が、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側策硬化症、脊髄損傷、虚血、低酸素症又は外傷から生じてなることを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る電気・磁気刺激装置は、刺激強度;0.1テラスから2テラス、好ましくは0.6〜1.2テラス、周波数;15Hz〜35Hz、電流密度;20〜200A/m2、刺激波形;二相性の正弦波、パルス幅;200〜300μ秒を供給してなる磁気コイルを備える。
【0010】
請求項6係る電気・磁気刺激装置は、請求項5記載において、前記磁気刺激コイルは、内径;10mm〜50mm、外径;60mm〜250mm、厚さ;10mm〜20mmを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項7に係る電気・磁気刺激評価方法は、脳及び脊髄に電気・磁気刺激を与えて損傷後の繊維性瘢痕及び又はグリア性瘢痕の形成を抑制して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させ、その後脊髄損傷、パーキソン病患者の下肢及び又は腕の運動誘発電位を測定して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経の再生を評価する。
【発明の効果】
【0012】
脳及び脊髄に電気及び又は磁気刺激を与えて損傷後の繊維性瘢痕及び又はグリア性瘢痕の形成を抑制することにより、中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施例では、神経毒MPTP(1メチル4フェニル基1、2、3、6−tetrahydropyridine)を投与することによって、神経損傷モデルラットを作成しました。その損傷ラットにrTMSを与えることによりラットの行動異常の回復効果を調査解析した。
【0014】
雄ウィスターネズミ(5〜6週令、70〜90g、埼玉Experimental Animals Supply)が、使用された。 1組のネズミ(刺激されたものと1つのにせのコントロール)は個々の檻の中に収容された。ネズミは、黒質におけるニューロンの損傷を引き起こすために1日に、2時間の間隔で、4回のMPTP(塩水で溶かされた20mg/kgi.p.)注射か、生理食塩注射がなされた。ネズミは、1日に2時間の間隔で4回のMPTP注射(生理食塩水で溶かされたmg/kg)がなされた。
【0015】
磁気刺激装置で使用された円形磁気コイル(内径=15mm、外径=75mm)は、11mmの距離をもってネズミの頭(前頭葉から頭頂にかけて)に置かれた。コイルは、コイルの中心で間隔238μsのbiphasicパルスと最大1.25T(脳で計算された最大渦電流=5.5A/m)を生じる。磁気刺激装置は日本光電製SMN−1200もしくはこれに準ずるものである。手足大腿二頭筋におけるモーターで励起されたポテンシャル(MEP)は、TMS強度に相当して測定された。MEPピークが、MEPの最大のピークの5%以上である時、モータの閾値は、TMS強度として決定される。
【0016】
MPTPの最後の注射後48時間、ネズミは1日に8秒(=2000パルス)間に25パルス/秒列を受けた。パルス列は、10〜15分間隔で行なわれた。 シャムなコントロールネズミは刺激の間、同じノイズにさらされた。
【0017】
SalineかMPTPが投与された24時間後に行動実験が行われました。機能的観察バッテリー(FOB)は一連の観測であり、そして、テストはネズミの全体の神経学的な保全を評価するために使用された。FOBは、MPTP及び又はrTMSの行動効果を評価するのに使用され、かつ全ての測定は、檻の中に動物がいる間に行われた。
【0018】
蓋が、かごから取り外された後に、檻から、異常なモータ信号及び 含む行動の応答に及ぼす檻の観測が、MPTP注射後、12時0分から15時0分、1日、2日、3日、6日間で昼間の3分間行われた。以前に報告された方法によると、異常なモータ信号は、強度に依存して0〜4のスケールで以下の如くに評価された;
【0019】
0=変化無し、1=時々/温和、2=間欠的/穏健、3=頻繁/著しい、4=連続/厳しい;鎮静及び行動の表現は、0=ノイズに応答無し、1=頭を下げて、背中を丸め、目を閉じ、ノイズに応答して頭を持ち上げ、3=ノイズに応答して目を開く、4=ノイズで起きることができない。統計分析には、マン−ホイットニーのU−テストによるクラスカル−ワリスのランクテストが使用された。
【0020】
また、蹴って立つ(踏査の振舞い)回数数は、3分間数えられた。同じ観察者は、研究のすべての部分を指揮し、そしてそれぞれのネズミの処理状態に問題にしなかった。
結果は平均±SEMとして提示される。
【0021】
統計分析はソフトウェアパッケージ(GBスタットversion6.0、Dynamicマイクロシステムズ、シルバースプリング、MD)で実行された。統計的な重要性は、グループ間で繰り返し測定(グループ及び日数)のため相違の双方分析(ANOVA)を使用することで決定された。Student t−テストは、各日でMPTPかrTMS処理されたグループの間の統計分析に使用された。承認時に、ポストpost hoc New−man−Keulst テストが使用された。0.05未満の確率水準が、統計的に重要であると考えられる。イメージは、IP Lab Spectrumソフトウェアを使用することで分析した。有限要素法(FEM)を使用してTMSの分布を計算して求めた。
【0022】
ラットはMPTP注射の後48時間後に磁気刺激を与えた。使用した磁気刺激コイルは、内径;10mm〜50mm、外径;60mm〜250mm、厚さ;10mm〜20mmを備える。刺激条件は、刺激強度;0.1テラスから2テラス、好ましくは0.6〜1.2テラス、周波数;15Hz〜35Hz、電流密度;20〜200A/m2、刺激波形;二相性の正弦波、パルス幅;200〜300μ秒、かつ200パルスを5分〜10分間隔で3〜10ターム(合計600〜2000パルス)を供給する。
【0023】
そして、チロシン水酸化酵素(TH)とNeuNによる抗体を用いて黒質における神経細胞を解析した。MPTP−rTMSグループは機能的観察では姿勢スコアはかなり低い。それに比べて、探索行動数はMPTP−shamグループより大きい。そして、これらの行動解析のパラメータはコントロールレベルに回復した。 これらの結果から、高頻度経頭蓋的磁気刺激(rTMS)が損傷ラットにおいてドーパミン系システムの修復に寄与していることが示唆された。
【0024】
経頭蓋的磁気刺激の効果について神経毒であるMPTP(1−methyl−4−phenyl−1,2,3,6−tetrahydropyridine)を用いて脳損傷モデルラットを作製し、25Hzの高頻度経頭蓋的磁気刺激を暴露することで得られる効果について黒質および海馬領域において解析した。
【0025】
その結果、脳損傷ラットにおいて磁気刺激は損傷を受けた神経細胞を細胞死から保護する効果があるということが行動学的および組織化学的に明らかになった。また、コントロールとして行った生理食塩水投与のみのラットへの磁気刺激では特に刺激によるダメージなどの悪影響はみられなかった。
【0026】
哺乳類の中枢神経系では、損傷後の神経軸索の再生がきわめて困難であり、これが現在脊髄損傷による後遺症で多くの人が不自由を極めている現況である。
【0027】
そこで、新生仔から成体にいたるマウスを用いて黒質線条体ドーパミン神経路を切断し、その後の軸索再生を詳細に観察した。その結果、新生仔では切断後のドーパミン線維が容易に再生するが、軸索再生が起こらなくなる時期から損傷部に4型コラーゲンやラミニンを含む繊維性瘢痕が形成されることを見出した。
【0028】
さらに、軸索再生がまったくおこらなくなる生後14日以降にコラーゲン合成を阻害するDPY(2,2−dipyridyl)を術直後、切断部位に投与すると、繊維性瘢痕の形成は完全に抑制され、多数の再生ドーパミン線維が切断を越えて線条体まで伸長した。この結果から損傷部における繊維性瘢痕の形成が再生軸索の伸長を阻んでいると結論した。
【0029】
磁気刺激により、脳損傷ラットにおいて磁気刺激が損傷を受けた神経細胞を細胞死から保護する効果があるということが、行動学的および組織化学的に明らかになった。つまり一過性の磁気刺激により損傷後の黒質神経細胞の細胞死が抑制され、パーキンソン病に特異的な行動異常も改善されることが明らかとなった。
【0030】
そのメカニズムとしてDPYの存在から推測すると磁気刺激により本来損傷部位に形成されるはずの4型コラーゲンやラミニンを含む繊維性瘢痕が形成されるのが抑制されたと考えられる。よって磁気刺激とDPYを同時に使用することで損傷後の繊維性瘢痕の形成をより完全に抑制することができ、黒質から線状体への神経再生促進に貢献すると考慮する。
【0031】
脳及び脊髄に電気・磁気刺激を与えて損傷後の繊維性瘢痕及び又はグリア性瘢痕の形成を抑制して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させ、その後脊髄損傷、パーキソン病患者の下肢及び又は腕の運動誘発電位を測定して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経の再生を評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側策硬化症、脊髄損傷、虚血、低酸素症又は外傷から生じる中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳及び脊髄に電気及び又は磁気刺激を与えて損傷後の黒質神経細胞の細胞死を抑制して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させる電気・磁気刺激方法。
【請求項2】
繊維性瘢痕除去剤を投与して脳及び脊髄に電気及び又は磁気刺激を与えて損傷後の繊維性瘢痕及び又はグリア性瘢痕の形成を抑制して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させる電気・磁気刺激方法。
【請求項3】
刺激強度;0.1テラスから2テラス、好ましくは0.6〜1.2テラス、周波数;15Hz〜35Hz、電流密度;20〜200A/m2、刺激波形;二相性の正弦波、パルス幅;200〜300μ秒、かつ200パルスを5分〜10分間隔で3〜10ターム(合計600〜2000パルス)を供給してなることを特徴とする請求項1又は2記載の電気・磁気刺激方法。
【請求項4】
前記中枢神経系損傷疾患が、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側策硬化症、脊髄損傷、虚血、低酸素症又は外傷から生じてなることを特徴とする請求項1又は2記載の電気・磁気刺激方法。
【請求項5】
刺激強度;0.1テラスから2テラス、好ましくは0.6〜1.2テラス、周波数;15Hz〜35Hz、電流密度;20〜200A/m2、刺激波形;二相性の正弦波、パルス幅;200〜300μ秒を供給してなる磁気コイルを備える電気・磁気刺激装置。
【請求項6】
前記磁気刺激コイルは、内径;10mm〜50mm、外径;60mm〜250mm、厚さ;10mm〜20mmを備えることを特徴とする請求項5記載の電気・磁気刺激装置。
【請求項7】
脳及び脊髄に電気・磁気刺激を与えて損傷後の繊維性瘢痕及び又はグリア性瘢痕の形成を抑制して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させ、その後脊髄損傷、パーキソン病患者の下肢及び又は腕の運動誘発電位を測定して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経の再生を評価する電気・磁気刺激評価方法。