説明

電気二重層キャパシタの電極用炭素材の原料炭組成物

【課題】 電気二重層キャパシタの体積あたりの静電容量を大きくすることができる電極用炭素材を製造することが可能な原料炭組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 賦活処理を施されることで、電気二重層キャパシタの電極用炭素材となる原料炭組成物であって、マイクロ強度の値が5〜30%であり、揮発分が1.3質量%以上6質量%未満であることを特徴とする電気二重層キャパシタ電極用炭素材の原料炭組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタの電極材料として好適な原料炭組成物、これを用いた電極用炭素材、並びにその電極用炭素材を含む電極を備えた電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気二重層キャパシタの静電容量は、電気二重層キャパシタを構成するアノード及びカソードとして備えられている分極性電極(炭素電極等)の表面積にほぼ比例するとの考え方がある。そのため、分極性電極として炭素電極を使用する場合、炭素電極用の炭素材料の表面積を増大させて静電容量を大きくするための様々な検討がなされてきた。
【0003】
例えば、炭素電極用の炭素材料としては従来から主として活性炭が用いられており、このような活性炭は、ヤシ殻、木粉、石炭、フェノール樹脂を炭化して得たいわゆる難黒鉛化性炭素に対して水蒸気等を用いたガス賦活やアルカリ金属水酸化物等を用いた薬品賦活を行うことで一般に製造されている。しかしながら、このような難黒鉛化性炭素から製造した活性炭の場合、単位体積当たりの静電容量が比表面積の増加の割には上昇しないという問題があった。すなわち、難黒鉛化性炭素の賦活反応が、ガス賦活法、薬品賦活法とも粒子表面からの酸化反応による細孔の形成によるものであるため、賦活が進行するにつれて酸化によるロスが多くなり、嵩密度の低い活性炭となっていた。このような活性炭を電極材に用いた場合、電極の嵩密度も低くなるため、電極の単位質量当たりの静電容量が増加しても電極の単位体積当たりの静電容量密度の上昇には限界があった。さらに、このような活性炭は難黒鉛化性のために電気伝導性が劣っており、電極の内部抵抗を高くする原因にもなっていた。
【0004】
これに対して、メソフェーズピッチやそれを紡糸したメソフェーズピッチ系炭素繊維を不融化・炭素化して得られる、さらには石油コークスや石炭ピッチコークス等を炭素化して得られる易黒鉛化性原料を、アルカリ金属水酸化物で賦活した活性炭が提案されている。このような易黒鉛化性原料をアルカリ金属水酸化物で賦活した場合、活性炭の収率が高く嵩密度の高い活性炭が得られるため、嵩密度の高い電極を製造することが可能になり、単位容積当たりの静電容量密度を高めることができた。また、易黒鉛化性炭素から製造した活性炭は難黒鉛化性炭素から製造したものに比べて一般に電気伝導性が高いため、電極の内部抵抗の低減を図り易いという利点もあった。
【0005】
しかし、メソフェーズピッチやそれを紡糸したメソフェーズピッチ系炭素繊維はそれ自体が高価な原料であり、さらに賦活に先立って不融化・炭素化処理を施す必要があることから、工程が複雑となり、益々製造コストを押し上げてしまうという問題があった。さらに、不融化反応により酸素が導入されるため、黒鉛化性が低下し、結果的に電極の内部抵抗がそれ程低下しないという問題もあった。
【0006】
一方、特開平10−199767号公報(特許文献1)には、石油コークスまたは石炭ピッチコークスを炭素化処理し、揮発分が1.0〜5.0質量%でかつH/C原子比が0.05〜0.30の条件を満足するようにした後、アルカリ金属水酸化物で賦活処理する方法が提案されている。
【0007】
また、特開2003−51430号公報(特許文献2)には、ASTMD-409-71規定の粉砕強度指数HGIを50以上、微結晶炭素の層間距離d002を0.343nm以下、結晶子の大きさLc002を3.0nm以下にした原料炭組成物をアルカリ賦活処理することで、体積あたりの静電容量の大きな電気二重層キャパシタ電極用炭素材料が得られることが記載されている。
【特許文献1】特開平10−199767号公報
【特許文献2】特開2003−51430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、原料炭組成物の物性に言及した文献は存在するが、製造されたキャパシタの静電容量との関係において十分な性能を示す指標ではなく、近年の静電容量が30F/ccを越えるような高性能化の要求に応えるためにはさらなる改良が求められている。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、電気二重層キャパシタの体積あたりの静電容量を大きくすることができる電極用炭素材を製造することが可能な原料炭組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の事項に関する。
【0011】
1. 賦活処理を施されることで、電気二重層キャパシタの電極用炭素材となる原料炭組成物であって、マイクロ強度の値が5〜30%であり、揮発分が1.3質量%以上6質量%未満であることを特徴とする電気二重層キャパシタ電極用炭素材の原料炭組成物。
【0012】
2. 黒鉛類似の微結晶炭素を有することを特徴とする上記1記載の原料炭組成物。
【0013】
3. 気孔率が20〜30%であることを特徴とする上記1記載の原料組成物。
【0014】
4. 上記1〜3のいずれかに記載の原料炭組成物を賦活処理することにより得られる電気二重層キャパシタの電極用炭素材。
【0015】
5. 前記賦活処理がアルカリ金属化合物を用いた賦活処理であることを特徴とする上記4記載の電気二重層キャパシタの電極用炭素材。
【0016】
6. 前記アルカリ金属化合物が水酸化ナトリウムであることを特徴とする上記5記載の電気二重層キャパシタの電極用炭素材。
【0017】
7. 上記4〜6のいずれかに記載の電極用炭素材を含む電極を備えることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【発明の効果】
【0018】
本発明の原料炭組成物を賦活処理して得られる電極用炭素材(活性炭)を、電気二重層電極に用いることにより、体積あたりの静電容量の大きな電気二重層キャパシタを得ることができる。
【0019】
この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は、原料炭組成物を賦活処理するときに、原料炭の気孔壁の硬さが静電容量に関係する細孔の発達に大きな影響を与え、硬すぎると細孔が発達せず、一方柔らかい場合は賦活処理の際の反応が進行しやすいが、電気二重層キャパシタに好適な細孔の発達が得られないと考えている。そして、電極用炭素材(活性炭)の静電容量発現に好適な細孔は、単純に表面積が大きければよいというものでもないということもわかった。
【0020】
マイクロ強度の値は、一種のボールミル粉砕特性の指数で、H.E.Blaydenの方法に従って測定され、100%の値は実質的に粉砕がなされていないことを示し、0%の値は粉砕されやすいことを示す。コークス類の強度を示すその他の指標として、ドラム強度試験、落下強度試験等が用いられるが、これらはコークス中のひび割れなどに左右され、コークスかたまりとしての強度を示すのに対し、マイクロ強度(microstrength)は、コークス固有の強度すなわち気孔壁を主体とした強度を表すとされる。
【0021】
本発明では、原料炭の適度なマイクロ強度を設定することにより、賦活処理によって最適な細孔が発達するため、大きな静電容量を示す電極用炭素材が得られると考えられる。
【0022】
従って、本発明の原料炭組成物から得た本発明の電極用炭素材を含む電極を用いれば、静電容量の大きな電気二重層キャパシタが得られることから、本発明は自動車用動力電源、各種家電製品用待機電源、各種携帯機器用電源等の各種用途に非常に有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明の原料炭組成物のマイクロ強度は前述の通り、5〜30%であり、好ましくは5〜20%である。マイクロ強度の値は、例えば原料炭組成物を製造する際の出発原料油の種類を変更したり、原料炭組成物を製造する際の炭素化の処理温度を適切に選択することにより変更することができる。
【0025】
マイクロ強度(microstrength)は、コークスの強度を表す指標として常用されるものであり、H.E.Blaydenの方法に従って測定される。詳細測定方法は次のとおりである。即ち、鋼製シリンダー(内径25.4mm,長さ304.8mm)に20〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(即ち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる。)、48meshで篩い分け、篩い上の重量を試料に対するパーセントで表示する。
【0026】
前述のとおり、特開2003−51430号公報(特許文献2)には、ASTMD-409-71に規定される粉砕強度指数HGI(Hardgrobe Grindability Index)が50以上、好ましくは50〜80の原料炭組成物が記載されている。マイクロ強度とHGIとの関係は、マイクロ強度が大きくなるとき(この指標では硬いことを意味する)HGIが小さくなる(この指標では硬いことを意味する)という関係を示す領域がある一方で、マイクロ強度が大きくなるときにHGIが大きくなる(この指標では柔らかくなることを意味する)という関係を示す領域があるため、互いに相関性がないと考えられる。これは、マイクロ強度が気孔壁の強度を表しているのに対して、HGIはバルクの強度を表しているためと考えられる。
【0027】
従って、本発明の原料炭組成物、上記のマイクロ強度の値の規定に加えて、HGIが50〜80であってもよく、またそれ以外の値を示してもいずれでも構わない。
【0028】
原料炭組成物は、黒鉛類似の微結晶炭素を有することが好ましい。黒鉛類似の微結晶炭素とは、黒鉛のような規則的積層とは異なり、黒鉛に類似してはいるが不規則な積層をしているものを言う(例えば、[J.Biscoe and B.E.Warren,J.Appl. Phys.,13,364(1942)]を参照。)。
【0029】
具体的には、X線回折による測定で、黒鉛では回折ピークが層間隔d002=0.335nmに鋭いピークとして観察されるのに対して、黒鉛類似の微結晶炭素を有する場合は、層間隔d002が黒鉛より広い位置にブロードなピークとして観察される。本発明の原料炭組成物では、d002が0.3470nm以下が好ましく、平均層間距離d002が0.347nmを超える場合、黒鉛結晶が十分に発達していないため賦活処理において適当な比表面積を得ることができなくなることがある。特に、アルカリ金属化合物により賦活処理を施す場合、賦活過程で生成したアルカリ金属が黒鉛結晶の層間に侵入することが困難になる傾向があるため、適度な比表面積が得られにくい。一方、より高い比表面積を得るという観点からは平均層間距離d002は低いほど好ましいが、一般的に平均層間距離d002が黒鉛結晶の理論値(0.3354nm)未満になることはない。
【0030】
X線回折によって求められる黒鉛結晶の平均層間距離d002とは、以下のようにしてX線回折法により測定することができる。すなわち、試料(原料炭組成物)に対して15%のシリコン粉末を混合して測定用セルに充填し、CuKα線を線源とし、反射式ディフラクトメーター法によって広角X線回折線を測定し、学振法に基づき(002)面の平均層間距離(d002)を求めたものである。
【0031】
原料炭組成物の揮発分は、好ましくは1.3質量%以上かつ6質量%未満である。特に1.5質量%以上が好ましく、また5質量%以下が好ましい。この範囲では、原料炭組成物の炭素化が進んでおり、賦活処理の反応性(例えば、アルカリ金属水酸化物等の賦活剤との反応性)が比較的低く、賦活処理後に大きな比表面積が得られない場合もあるが、賦活して得られた炭素材(活性炭)をキャパシタに用いると大きな静電容量が得られる。これは、マイクロ強度で表される気孔壁の強度が、静電容量の発現に最適な細孔の形成に適したものになっているためと考えられる。
【0032】
揮発分は、JIS M8812「石炭類及びコークス類−工業分析法」に記載の方法に準拠して測定されたものである。
【0033】
また、原料炭組成物の気孔率は20〜30%が好ましい。気孔率が小さ過ぎるとその後の賦活処理によって所望の細孔が得られず、大き過ぎても賦活処理の反応が進みすぎることがあるからである。尚、気孔率は、粒度3.5〜4メッシュの試料30gを用いて水置換法によってピクノメーターにより求めた見かけ密度(AD)と、粒度200メッシュ以細の試料10gを用いてn−ブチルアルコール置換法によってピクノメーターにより求めた真密度(RD)とから、気孔率(%)=(1−AD/RD)×100によって求められる。
【0034】
本発明の原料炭組成物としては、前記特定性状を有するものであり、その素材としては特に限定されないが、通常易黒鉛化性炭素としての性質を示すものが好ましい。このような易黒鉛化性炭素から製造した炭素材は難黒鉛化性炭素から製造したものに比べて電気伝導性が高く、得られる電極の内部抵抗がより低下する傾向にある。易黒鉛化性炭素は、例えば、塩化ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどの脂肪族系高分子化合物のほか、タール、メソフェーズピッチ、ポリイミドなどの芳香族系高分子化合物を、約800℃以下で焼成処理することによって得ることができる。また、石油系ピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ材料を焼成処理して得られる石油コークスや石炭コークスも易黒鉛化性炭素として用いることができる。なかでも、コストの観点および電気二重層キャパシタにしたときの内部抵抗の観点から石油コークスおよび石炭コークスが好ましく、特に石油コークスが好ましい。
【0035】
次に、本発明の原料炭組成物を製造するための方法について説明する。一般に、炭素化温度が高くなると揮発分が減少し、それに伴って平均層間距離d002も減少するが、揮発分と平均層間距離d002の関係は原料油の特性及び炭素化条件によっても異なる。
【0036】
例えば、硫黄分が0.4質量%以下、好ましくは0.2質量%以下であり、かつアスファルテン量が2.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以下である原料油(例えば、石油系重質油)を用い、この原料油を400〜900℃、好ましくは430〜800℃の温度で、通常0.5時間〜100時間程度、不活性雰囲気下で炭素化する方法により本発明の原料炭組成物が得られる。炭素化の処理は多段階で行ってもよい。
【0037】
次に、本発明の電気二重層キャパシタの電極用炭素材について説明する。本発明の電極用炭素材は、前記本発明の原料炭組成物を賦活処理して得られるものであり、比表面積は特に大きい必要はなく、BET法による比表面積は例えば200〜2500m2/g、好ましくは500〜2000の範囲である。
【0038】
賦活処理としては、例えば、薬剤による賦活反応、ガスによる賦活反応が挙げられ、薬剤による賦活反応がより好ましく、特にアルカリ金属化合物を用いた賦活反応が好ましい。このようなアルカリ金属化合物を用いた賦活処理によれば、アルカリ金属が黒鉛結晶の層間に侵入して反応することにより、得られる炭素材の比表面積が向上する。
【0039】
賦活処理において、アルカリ金属化合物としては各種炭酸塩や水酸化物を用いることができ、具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられ、中でも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が特に好ましい。また、これらのアルカリ金属化合物を2種以上併用(例えば、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムとの併用)してもよい。これらの中でも特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0040】
賦活方法は、通常、アルカリ金属化合物等の賦活剤と原料炭組成物を混合し、加熱することにより行なわれる。原料炭組成物とアルカリ金属水酸化物等の賦活剤との混合割合は、特に限定されないが、通常、両者の質量比(原料炭組成物:賦活剤)が1:0.5〜1:10の範囲が好ましく、1:1〜1:5の範囲がより好ましい。一般にアルカリ金属化合物等の賦活剤が少なすぎると賦活反応が十分に進行せず必要な比表面積を得ることができない傾向にあり、他方、アルカリ金属化合物等の賦活剤が多すぎると比表面積は増加するものの、賦活のコストが増大すると共に賦活収率が低下し、さらに得られる炭素材の嵩密度が低下して単位体積当たりの静電容量が低下する傾向にある。
【0041】
また、賦活処理の際の加熱温度は特に限定されないが、その下限は、通常500℃、好ましくは600℃であり、上限は、通常1000℃、好ましくは900℃、さらに好ましくは800℃である。一般に、賦活処理の際の温度が低い場合は賦活反応が進行せず、十分な比表面積が得られない傾向にある。他方、賦活処理の際の温度が高過ぎる場合も比表面積が低下し、単位体積当たりの静電容量の低下につながる傾向にある。賦活処理の際の加熱時間は特に限定されないが、通常10分から10時間、好ましくは30分から5時間程度である。なお、賦活処理の際は非酸化性雰囲気下で原料炭組成物を賦活剤と共に加熱することが望ましい。
【0042】
また、ガスにより賦活処理する場合としては、例えば、原料炭組成物を二酸化炭素(燃焼ガス)、酸素、塩化水素、塩素、水蒸気等に例示される弱酸化性の賦活ガスの雰囲気下で加熱処理する方法が挙げられる。この時の温度は、通常500〜1000℃程度が望ましい。なお、ガスによる賦活方法と薬剤による賦活方法とを組み合わせて行ってもよい。また、このような賦活反応は、電気炉、固定床、流動床、移動床、ロータリーキルン等の何れの形で行うことも可能である。
【0043】
なお、本発明の原料炭組成物として易黒鉛化性炭素を用い、それを例えばアルカリ金属水酸化物で賦活処理したときの比表面積発現のメカニズムは、ヤシ殻炭のような難黒鉛化性炭素をガス賦活した場合のような粒子表面からの酸化反応による細孔形成によるものだけではなく、分解したアルカリ金属が黒鉛結晶の層間に侵入し炭素と直接反応することで、内部からも細孔が形成され、比表面積を増大させるものである。そして、アルカリ金属が炭素の内部に侵入するには炭素の黒鉛結晶が充分に発達していることが重要である。従って、このようなアルカリ金属水酸化物による賦活処理で十分な比表面積を発現するためには、原料炭組成物の内部にアルカリ金属が侵入するのに充分な結晶性を有しており、かつアルカリ金属との間に充分な反応性を有していることが必要であり、本発明の原料炭組成物はこの条件を満たすものである。
【0044】
なお、このように得られた本発明の電極用炭素材については、以下の各種物性を有することが好ましい。すなわち、例えば、細孔容積については、好ましくは0.60〜1.30cm3/g、より好ましくは0.70〜1.20cm3/gであり、平均細孔径については、好ましくは、1.5〜2.5nm、より好ましくは1.7〜2.3nmである。また、電極用炭素材としては硫黄分は少ないほど好ましく、係る硫黄分は500ppm以下であることが特に好ましい。
【0045】
本発明の原料炭組成物はこのように賦活処理された後に、通常、酸洗浄、水洗、乾燥、粉砕工程を経て電気二重層キャパシタ用の電極用炭素材となる。なお、アルカリ金属化合物による賦活反応の場合、炭素材中におけるアルカリ金属の量については電気二重層キャパシタとして悪影響を及ぼす可能性のある水準よりも低い量(好ましくは1000ppm以下)であれば特に限定されないが、通常、例えばpHが7〜8程度になるように洗浄するとともに、アルカリ金属分を出来るだけ除去するよう洗浄することが望ましい。また、粉砕工程は、公知の方法により行われ、通常、平均粒径0.5〜50μm、好ましくは1〜20μm程度の微粉体とされることが望ましい。
【0046】
次に、本発明の電気二重層キャパシタについて説明する。本発明の電気二重層キャパシタは、前記本発明の電極用炭素材を含む電極を備えることを特徴とするものである。
【0047】
このような電極としては、例えば、電極用炭素材と結着剤、さらに好ましくは導電材を加えて構成され、またさらに集電体と一体化した電極であってもよい。
【0048】
このような結着剤としては公知のものを用いることができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フルオロオレフィン/ビニルエーテル共重合体架橋ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等が挙げられる。電極中における結着剤の含有量は特に限定されないが、電極用炭素材と結着剤の合計量に対して、通常0.1〜30質量%程度の範囲内で適宜選択される。
【0049】
また、導電材としては、カーボンブラック、粉末グラファイト、酸化チタン、酸化ルテニウム等の粉末が用いられる。電極中における導電材の配合量は、配合目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜50質量%、好ましくは2〜30質量%程度の範囲内で適宜選択される。
【0050】
なお、電極用炭素材、結着剤、導電材を混合する方法としては、公知の方法が適宜適用され、例えば、結着剤を溶解する性質を有する溶媒を上記成分に加えてスラリー状としたものを集電体上に均一に塗布する方法や、あるいは溶媒を加えないで上記成分を混練した後に常温または加熱下で加圧成形する方法が採用される。
【0051】
このような集電体としては、公知の材質および形状ものを使用することができ、例えばアルミニウム、チタン、タンタル、ニッケル、ステンレス等の合金を用いることができる。
【0052】
本発明の電気二重層キャパシタの単位セルは、一般に上記電極を一対用い、セパレーター(ポリプロピレン繊維不織布、ガラス繊維不織布、合成セルロース紙等)を介して対向させ、電解液中に浸漬することによって形成される。
【0053】
本発明の電気二重層キャパシタに用いる電解液としては、公知の水系電解液、有機系電解液を使用することができるが、有機系電解液を用いることがより好ましい。このような有機系電解液としては、電気化学の電解液の溶媒として使用されているものを用いることができ、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、スルホラン誘導体、3−メチルスルホラン、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、グルタロニトリル、バレロニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、メチルフォルメート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等を挙げることができる。なお、これらの電解液を混合して使用してもよい。
【0054】
また、有機電解液中の支持電解質としては、特に限定されないが、電気化学の分野又は電池の分野で通常使用される塩類、酸類、アルカリ類等の各種のものが使用でき、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩、環状4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等が挙げられ、(C254NBF4、(C253(CH3)NBF4、(C254PBF4、(C253(CH3)PBF4等が好ましいものとして挙げられる。電解液中のこれらの塩の濃度は、通常0.1〜5mol/l、好ましくは0.5〜3mol/l程度の範囲内で適宜選択される。
【0055】
本発明の電気二重層キャパシタのより具体的な構成は特に限定されないが、例えば、厚さ10〜500μmの薄いシート状またはディスク状の一対の電極(正極と負極)の間にセパレータを介して金属ケースに収容したコイン型、一対の電極をセパレータを介して捲回してなる捲回型、セパレータを介して多数の電極群を積み重ねた積層型等が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で得られた原料油、原料炭組成物および炭素材の諸物性は以下のようにして測定した。
【0057】
(1)硫黄分
JIS M8813「石炭類及びコークス類−元素分析方法」に記載の方法に準拠して測定した。
【0058】
(2)アスファルテン分
IP 143/90「Determination of Asphaltenes ( Heptane Insolubles )」に記載の方法に準拠して測定した。
【0059】
(3)揮発分
JIS M8812「石炭類及びコークス類−工業分析法」に記載の方法に準拠して測定した。
【0060】
(4)黒鉛類似微結晶の平均層間距離
試料(原料炭組成物)に対して15%のシリコン粉末を混合して測定用セルに充填し、CuKα線を線源とし、X線回折装置(理学電機株式会社製、商品名:RINT1400VX)を用いて反射式ディフラクトメーター法によって広角X線回折線を測定し、学振法に基づき(002)面の平均層間距離(d002)を求めた。
【0061】
(5)偏光顕微鏡観察
顕微鏡に偏光板としてポラライザーとアナライザーを用い、これらの振動方向を直交させた直交ニコル下で検体を観察した。検体が等方性ならば、載物台に載せた検体視野は暗く、検体を回転しても何の変化がなく、一方、光学的に異方性の場合であれば、載物台を回転すると、明暗が規則的に変化する。
【0062】
<実施例1>
(i)原料炭組成物の製造
石油重質油の流動接触分解装置のボトム油90Vol%に減圧蒸留装置の残渣油を10Vol%ブレンドした(硫黄分0.17質量%、アスファルテン量0.9質量%)。この重質油混合物を500℃、1.0時間で炭素化(コーキング)させることにより、揮発分5.8質量%、マイクロ強度7%の原料炭組成物を得た。なお、このようにして得られた原料炭組成物は、偏光顕微鏡観察*で、組織を観察すると光学的異方性組織で流れ模様が主体であった。また、微結晶炭素の平均層間距離d002は0.346nmであり、気孔率は22%であった。
【0063】
(ii)炭素材の製造
上記の原料炭組成物100質量部に対して水酸化カリウムが200質量部となるように混合し、窒素ガス雰囲気中、750℃で1時間賦活反応を進行させ、反応後に水洗及び酸洗浄(HClを使用)して炭素材に残存ずる金属カリウムを除去し、乾燥して電気二重層キャパシタの電極用炭素材を得た。この炭素材の比表面積は1980m2/gであった。また、細孔容積は0.95cm3/g、細孔直径は1.9nmであった。
【0064】
(iii)電極の作製
平均粒径10μmに粉砕した上記炭素材80質量部にカーボンブラックを10質量部、ポリテトラフルオロエチレン粉末を10質量部加え、乳鉢でペースト状となるまで混錬した。次いで、得られたペーストを180kPaのローラープレスで圧延して、厚さ200μmの電極シートを作製した。
【0065】
(iv)セルの組立て
上記電極シートから直径16mmの円盤状ディスクを2枚打ち抜き、120℃、0.1Torrで2時間真空乾燥した後、露点−85℃の窒素雰囲気下のグローブボックス中にて、有機電解液(トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液、濃度:1モル/リットル)を真空含浸せしめた。次に、2枚の電極を各々正極、負極とし、両極間にガラス繊維セパレータ(ADVANTEC社製、商品名:GA−200、厚さ:200μm)、両端にはアルミ箔の集電体を取り付け、宝泉社製の2極式セルに組み込んで電気二重層キャパシタ(コイン型セル)を作製した。
【0066】
(v)静電容量の測定
上記コイン型セルに1F当たり10mAの定電流で2.7Vまで充電した。充電終了後12時間2.7Vに保持した後、10mAの定電流放電を行なった。そして、放電時のエネルギー量から以下の式:
合計放電エネルギーW[W・s]={静電容量C[F]×(放電開始電圧V[V])2}/2
に従って静電容量を算出した。
【0067】
その結果、単位質量あたりの静電容量に電極の充填密度を乗じた単位体積当たりの静電容量(F/cc)は32F/ccであった。また、内部抵抗は21Ωであった。以上の結果から、本発明の電気二重層キャパシタによれば30F/cc以上という非常に高レベルの静電容量が達成されることが確認された。表1にその他の実施例、比較例と共にまとめて結果を示す。
【0068】
<実施例2>
実施例1の原料炭組成物をさらに不活性ガス雰囲気で、650℃で1時間処理し、揮発分3.3質量%、マイクロ強度13%の原料炭組成物を得た。また、微結晶炭素の平均層間距離d002は0.344nmであり、気孔率は24%であった。その後、実施例1と同様にアルカリ賦活処理して電極用炭素材を得た。この炭素材の比表面積は900m2/g、細孔容積は0.47cm3/g、細孔直径は2.0nmであった。この炭素材を用いて、実施例1と同様に電極を作製し、セルを組み立て、静電容量を測定した結果、単位体積当たりの静電容量(F/cc)は34F/ccであった。
【0069】
<実施例3>
実施例1の原料炭組成物を不活性ガス雰囲気で、さらに750℃で1時間処理し、揮発分1.7質量%、マイクロ強度18%の原料炭組成物を得た。また、微結晶炭素の平均層間距離d002は0.343nmであり、気孔率は25%であった。その後、実施例1と同様にアルカリ賦活処理して電極用炭素材を得た。この炭素材の比表面積は600m2/g、細孔容積は0.30cm3/g、細孔直径は2.1nmであった。)この炭素材を用いて、実施例1と同様に電極を作製し、セルを組み立て、静電容量を測定した結果、単位体積当たりの静電容量(F/cc)は35F/ccであった。
【0070】
<実施例4>
実施例1の原料組成物を用い、原料炭組成物100質量部に対して水酸化ナトリウムが200質量部となるように混合し、窒素ガス雰囲気中、600℃で1時間賦活反応を進行させた、
その後、実施例1と同様にアルカリ賦活処理して電極用炭素材を得た。この炭素材の比表面積は800m2/g、細孔容積は0.45cm3/g、細孔直径は2.2nmであった。この炭素材を用いて、実施例1と同様に電極を作製し、セルを組み立て、静電容量を測定した結果、単位体積当たりの静電容量(F/cc)は40F/ccであった。
【0071】
<比較例1>
石油重質油の流動接触分解装置のボトム油90Vol%に減圧蒸留装置の残渣油を10Vol%ブレンドし、この重質混合油を470℃で1時間処理して炭素化させることにより、揮発分11質量%、マイクロ強度3%、気孔率17%、d0020.350の原料炭組成物を得た。なお、このようにして得られた原料炭組成物は、偏光顕微鏡観察で、組織を観察すると光学的異方性組織で流れ模様が主体であった。
【0072】
得られた原料炭組成物を実施例1と同様にアルカリ賦活処理して電極用炭素材を得た。この炭素材の比表面積は2200m2/g、細孔容積は1.027cm3/g、細孔直径は1.8nmであった。
【0073】
この炭素材を用いて、実施例1と同様に電極を作製し、セルを組み立て、静電容量を測定した結果、単位体積当たりの静電容量(F/cc)は25F/ccであった。
【0074】
<比較例2>
石油重質油の流動接触分解装置のボトム油10Vol%に減圧蒸留装置の残渣油を90Vol%ブレンドし(硫黄分4.5質量%、アスファルテン量15.0質量%)、500℃で炭素化させることにより、揮発分6.3質量%,マイクロ強度22%の原料炭組成物を得た。なお、このようにして得られた原料炭組成物は、偏光顕微鏡観察で、組織を観察すると光学的異方性組織でモザイク模様が主体であった。
【0075】
得られた原料炭組成物を実施例1と同様にアルカリ賦活処理して電極用炭素材を得た。この炭素材の比表面積は1100m2/gであった。また、細孔容積は0.575cm3/g、細孔直径は2.0nmであった。
【0076】
この炭素材を用いて、実施例1と同様に電極を作製し、セルを組み立て、静電容量を測定した結果、単位体積当たりの静電容量(F/cc)は25F/ccであった。
【0077】
<比較例3>
比較例1の原料炭組成物を不活性ガス雰囲気で、650℃で1時間処理し、揮発分3.6質量%,マイクロ強度4%、気孔率39%の原料炭組成物を得た。実施例1と同様にして、セルを組み立て、静電容量を測定した結果、単位体積当たりの静電容量(F/cc)は25F/ccであった。
【0078】
<比較例4>
実施例1の原料炭組成物を不活性ガス雰囲気で、さらに900℃で1時間処理し、揮発分1.0質量%、マイクロ強度25%、気孔率35%、d0020.343の原料炭組成物を得た。その後、実施例1と同様にアルカリ賦活して比表面積50m2/gの電極用炭素材を得た。実施例1と同様にして、セルを組み立て、静電容量を測定した結果、単位体積当たりの静電容量(F/cc)は15F/ccであった。
【0079】
実施例および比較例の結果をまとめて表1に示す。
【0080】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
賦活処理を施されることで、電気二重層キャパシタの電極用炭素材となる原料炭組成物であって、
マイクロ強度の値が5〜30%であり、揮発分が1.3質量%以上6質量%未満であることを特徴とする電気二重層キャパシタ電極用炭素材の原料炭組成物。
【請求項2】
黒鉛類似の微結晶炭素を有することを特徴とする請求項1記載の原料炭組成物。
【請求項3】
気孔率が20〜30%であることを特徴とする請求項1記載の原料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の原料炭組成物を賦活処理することにより得られる電気二重層キャパシタの電極用炭素材。
【請求項5】
前記賦活処理がアルカリ金属化合物を用いた賦活処理であることを特徴とする請求項4記載の電気二重層キャパシタの電極用炭素材。
【請求項6】
前記アルカリ金属化合物が水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項5記載の電気二重層キャパシタの電極用炭素材。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の電極用炭素材を含む電極を備えることを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【公開番号】特開2006−93401(P2006−93401A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276917(P2004−276917)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】