説明

電気二重層キャパシタ用の電解液、これを用いた電気二重層キャパシタ及びその製造方法

【課題】安定した品質の電気二重層キャパシタが得られる電気二重層キャパシタ用の電解液、これを用いた電気二重層キャパシタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】支持塩と、スルホランと、鎖状スルホンとを含有することよりなる。さらに、有機フッ素化合物を含有することが好ましく、前記支持塩は、5−アゾニアスピロ[4.4]ノナンテトラフルオロボレートを含有し、5−アゾニアスピロ[4.4]ノナンテトラフルオロボレートの含有量は、1.5〜3.6mol/dmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ用の電解液、これを用いた電気二重層キャパシタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、蓋体と容器本体とで密封された収納容器内に、一対の分極性電極とこの一対の分極性電極の間に介在されたセパレータと、前記一対の分極性電極及びセパレータに含浸された電解液とを備えるものである。このような電気二重層キャパシタは、携帯電話、PDA、携帯用ゲーム機等の各種小型電子機器において、メモリのバックアップ用電源や時計機能のバックアップ用電源等として利用され、この種の電気二重層キャパシタとしては、円盤状のボタン型が多用されている。
ボタン型の電気二重層キャパシタは、容器本体に蓋体をかしめて密封する構造である。このため、気密が万全とはいえず、湿気等により内部に水分等が侵入しやすく、浸入した水分により分極性電極や電解液が劣化し、長期に保存・使用するのが難しかった。加えて、電気二重層キャパシタには、さらなる小型化、薄型化の要求がなされていた。
【0003】
こうした問題に対し、矩形状のチップ型の電気二重層キャパシタが提案されている(例えば、特許文献1)。
一般に、チップ型の電気二重層キャパシタは、開口部周縁に金属リングが設けられた容器本体内に、分極性電極、セパレータ及び電解液を収納した後、容器本体の開口部を封口板と呼ばれる蓋体で閉じ、加熱して蓋体と容器本体とを接合させて製造される。特許文献1に記載された電気二重層キャパシタは、容器本体の開口部周縁に設けられた金属リングと蓋体とが、ニッケルや銀ろう等のろう材により接合されているため、収納容器の内部が気密性に優れたものである。この接合方法による加熱温度は、300℃以上とされる。
また、例えば、蓋体と容器本体との接合方法としては、金属メッキされた蓋体及び金属リングを用い、蓋体で容器本体の開口部を閉じ、金属メッキが溶融する温度まで加熱するものが挙げられる。この接合方法における加熱温度は、金属メッキがニッケルメッキである場合、800〜1500℃とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−216952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、電気二重層キャパシタに用いる電解液は、分極性電極やセパレータへの含浸を良好とし、内部抵抗を低減させるため、低融点で低粘性のエチルメチルカーボネート(EMC)やジメチルカーボネート(DMC)等の対称又は非対称の直鎖アルキルのカーボネート溶媒が用いられる。EMCやDMCは、沸点が比較的低温(200℃未満)であるため耐熱性が低く、チップ型の電気二重層キャパシタの蓋体と容器本体とを接合する際に容易に蒸発して蒸気圧が高くなったり、あるいは突沸したりする。このため、電解液の残存量のバラつきが大きくなり、電気二重層キャパシタの放電容量等の品質が不安定になるという問題があった。加えて、蓋体と容器本体とを溶接する際、溶媒の沸点が低いために、電解液の蒸気圧が高まることで内圧が高まり、収納容器が破損するおそれがある。
また、ボタン型及びチップ型の電気二重層キャパシタは、リフローハンダ付けにより基板上へ面実装される。電気二重層キャパシタは、リフローハンダ付けにおいて240〜260℃程度で加熱されるため、蒸気圧の上昇により封止部を脆弱させ電解液が漏出し、品質が不安定になるおそれがあった。
加えて、電気二重層キャパシタは、常にメイン電源から2.0V以上の電圧、又は3.0V以上の高電圧で印加された状態で使用されることが多い。電解液は、高電圧で印加されると電解液の溶質又は溶媒の分解が促進され、機能の低下を生じやすい。特に、電圧を印加する雰囲気温度が高い場合に、機能の低下が著しい。このため、高電圧で印加される電気二重層キャパシタには、電解液の増量が必要であるが、電解液を増量すると、蓋体と容器本体との溶接やリフローハンダ付けの際に、電解液が漏れやすくなり、品質が不安定になるという問題がある。
そこで、本発明は、安定した品質の電気二重層キャパシタが得られる電気二重層キャパシタ用の電解液、これを用いた電気二重層キャパシタ及びその製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気二重層キャパシタ用の電解液は、支持塩と、スルホランと、鎖状スルホンとを含有することを特徴とする。
本発明の電気二重層キャパシタ用の電解液は、有機フッ素化合物を含有することが好ましく、前記支持塩は、5−アゾニアスピロ[4.4]ノナンテトラフルオロボレートを含有し、5−アゾニアスピロ[4.4]ノナンテトラフルオロボレートの含有量は、1.5〜3.6mol/dmであることが好ましい。
【0007】
本発明の電気二重層キャパシタは、蓋体と容器本体とで密封された収納容器内に、セパレータを介して対向配置された少なくとも一対の分極性電極と、本発明の前記電解液とを備えることを特徴とする。
前記収納容器内は、[(収納容器内の空隙の体積)/(収納容器の容積)]×100で表される空隙率が10〜30体積%であることが好ましく、前記一対の分極性電極は、負極側電極の表面積が正極側電極の表面積より大きいことが好ましい。
【0008】
本発明の電気二重層キャパシタの製造方法は、本発明の前記電気二重層キャパシタの製造方法であって、前記容器本体内にセパレータを介して一対の分極性電極を対向配置させる電極配置工程と、前記容器本体内に前記電解液を注入する注入工程と、前記注入工程の後に前記容器本体を前記蓋体で密封する密封工程とを有することを特徴とする。
前記密封工程は、前記蓋体と前記容器本体とを溶接することが好ましく、前記注入工程の後段かつ前記密封工程の前段で、前記電解液を200℃以上900℃未満で1msec以上加熱する予備加熱工程を有することが好ましく、前記予備加熱工程は、前記蓋体への通電により加熱することがより好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定した品質の電気二重層キャパシタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電気二重層キャパシタの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる電気二重層キャパシタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態にかかる電気二重層キャパシタについて、以下に図面を参照して説明する。
図1に示す電気二重層キャパシタ1は、いわゆるチップ型のもので、長さ2〜3mm×幅2〜3mm×高さ0.2〜1mmの略直方体のものである。電気二重層キャパシタ1は、収納容器2に、負極側電極42と正極側電極44とからなる一対の分極性電極40がセパレータ46を介して対向配置され、電解液50が収納されたものである。そして、分極性電極40とセパレータ46には、収納容器2内に収納された電解液50が含浸されている。
【0012】
収納容器2は、有底四角筒状の容器本体20と、容器本体20の開口部を塞ぐ平板状の封口板である蓋体10と、容器本体20の開口部周縁に設けられたシールリング30とを備え、シールリング30を介して蓋体10と容器本体20とが密封されたものである。収納容器2の壁の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.15〜0.25mmである。
容器本体20は、平面視略矩形の平板状の基材22及び基材22の一方の面に設けられた中間層26を備える底壁部21と、底壁部21の周縁に立設された四角筒状の側壁部24とを備えるものである。
中間層26の略中央には、中間層26を貫通する保護層27が設けられている。
シールリング30は、容器本体20の開口部周縁、即ち側壁部24の上端面23に、ろう材32により接合されている。
【0013】
負極側電極42は、蓋体10に電気的に接続されていればよく、例えば、無定形の炭素や黒鉛を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤からなる負極集電体43により蓋体10に接着されていることが好ましい。正極側電極44は、負極集電体43と同様の正極集電体45に電気的に接続されている。
【0014】
容器本体20の外部底面及び外部側面には、第一の外部端子60と第二の外部端子70とが設けられている。第一の外部端子60は、ろう材32と側壁部24との間に設けられた第一の金属層62と接続され、これにより第一の金属層62、ろう材32、シールリング30及び負極集電体43を介して、負極側電極42と電気的に接続されている。第二の外部端子70は、基材22と中間層26との間に設けられ保護層27に接続された第二の金属層72と接続され、これにより、第二の金属層72、保護層27及び正極集電体45を介して正極側電極44と電気的に接続されている。
【0015】
電解液50は、支持塩を非水溶媒に溶解させたものであり、非水溶媒はスルホランと鎖状スルホンとを含有するものである。常温(25℃)で固体であるスルホラン(テトラヒドロチオフェン1,1−ジオキシド)及び鎖状スルホンは、混合することで液体(イオン液体)の非水溶媒となり、この非水溶媒を用いた電解液50は、分極性電極40及びセパレータ46に含浸できる。
【0016】
収納容器2内の電解液50の量は、特に限定されないが、例えば、下記(i)式で表される空隙率が、好ましくは10〜30体積%、より好ましくは15〜30体積%となるように決定できる。10体積%未満であると、電気二重層キャパシタ1は、製造中に、電解液50の膨張による内圧の変化によって収納容器2が損壊するおそれがある。30体積%超であると、短期間で放電容量が低下する傾向となる。これは、以下の原因によると考えられる。例えば、3V超の電圧で充電した場合、電解液50の支持塩や非水溶媒が分解して、負極側電極42と正極側電極44との間(電極間)のセパレータ46に残存する電解液50が減少し、セパレータ46の表面近傍では電解液50が著しく減少する。セパレータ46の表面近傍の電解液50が著しく減少すると、電極間に形成される液絡の断面積が減少し、電極間には、充放電における電流の集中に伴う過電圧が生じる。この過電圧が支持塩や非水溶媒の分解をさらに促進して、電解液50が著しく劣化する。そして、電解液50の分解に伴って生じる分解成分は、セパレータ46の表面に被膜を形成して、さらなる抵抗の増大と過電圧の上昇とを促進し、短期間で放電容量を低下させると考えられる。
空隙率は、例えば、後述する注入工程における電解液50の注入量を調節したり、予め低沸点(200℃未満)の溶媒や水を電解液50に配合し、後述する予備加熱工程で前記の低沸点の溶媒を蒸発させることで調整することができる。
【0017】
空隙率(体積%)=[(収納容器の空隙の体積)/(収納容器の容積)]×100・・・・(i)
【0018】
上記(i)式中、「収納容器の容積」は、蓋体10と容器本体20とで囲われた空間の体積である。「収納容器の空隙の体積」は、収納容器2の内部に生じた空隙3の体積である。
【0019】
スルホランは、下記(a)式で表される物質であり、沸点(bp)285℃である。
【0020】
【化1】

【0021】
非水溶媒中のスルホランの含有量は、電気二重層キャパシタ1の製造における予備加熱工程又は密封工程での加熱条件や、使用に際しての加熱条件等を勘案して決定でき、例えば、25〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましく、55〜70質量%がさらに好ましい。25質量%未満であると、電解液50は粘度が上昇して流動性が低くなる。このため、例えば、後述する注入工程において、電解液50の注入量がバラついて電解液50の残存量が不安定になり、安定した品質の電気二重層キャパシタ1を得られにくくなる。90質量%超であると、非水溶媒中の支持塩量が不十分となり、電気二重層キャパシタ1の放電容量を十分に確保できないおそれがある。加えて、90質量%超であると、鎖状スルホン又は支持塩の含有量が不十分となり、低温環境(−20℃以下)下での放電容量の確保が困難となる場合がある。
【0022】
鎖状スルホンとは、テトラヒドロチオフェン1,1−ジオキシドのイオウ(S)に、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族のアルキル基が計2個結合した構造を有するものである。鎖状スルホンを構成する2つのアルキル基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
鎖状スルホンは、電解液50に求める耐熱性等を勘案して決定でき、例えば、下記(b)式で表されるジメチルスルホン(DMS)、下記(c)式で表されるエチルメチルスルホン(EMS)が好ましく、中でも、アルキル基を非対称とすることで、融点が下げられたエチルメチルスルホンが好ましい。
これらは、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
非水溶媒中の鎖状スルホンの含有量は、電気二重層キャパシタ1の製造における予備加熱工程又は密封工程での加熱条件や、使用に際しての加熱条件等を勘案して決定でき、例えば、10〜80質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましく、15〜25質量%がさらに好ましい。10質量%未満であると、非水溶媒が固化し、粘度が著しく上昇して流動性が不十分となり、例えば、後述する注入工程で電解液50の注入が困難となる。このため、電解液50の量が不十分となって電気二重層キャパシタ1の性能を十分に確保できず、安定した品質の電気二重層キャパシタ1を得られにくくなる。80質量%超であると、非水溶媒が固化し、粘度が著しく上昇して流動性が不十分となり、後述する注入工程で電解液50の注入が困難となる。このため、電解液50の量が不十分となって電気二重層キャパシタ1の性能を十分に確保できず、安定した品質の電気二重層キャパシタ1を得られにくくなる。
【0026】
非水溶媒中のスルホランと鎖状スルホンとの合計量は、電気二重層キャパシタ1の製造における予備加熱工程又は密封工程での加熱条件や、使用に際しての加熱条件等を勘案して決定でき、例えば、40〜90質量%が好ましく、65〜90質量%がより好ましく、75〜85質量%がさらに好ましい。40質量%未満であると、電解液50は粘度が上昇して流動性が低くなる。このため、例えば、後述する注入工程において、電解液50の注入量がバラついて電解液50の残存量が不安定になり、安定した品質の電気二重層キャパシタ1を得られにくくなる。90質量%超であると、非水溶媒中の支持塩量が不十分となり、電気二重層キャパシタ1の放電容量を十分に確保できないおそれがある。加えて、90質量%超であると、支持塩の含有量が不十分となり、低温環境(−20℃以下)下での放電容量の確保が困難となる場合がある。
【0027】
非水溶媒中のスルホランと鎖状スルホンとの含有比率は、スルホランが多いほど、耐熱性が向上する一方、鎖状スルホンが少なすぎると、イオン液体とならず、非水溶媒の流動性が不十分となる。従って、電気二重層キャパシタ1の製造における加熱条件や、使用条件等を勘案して決定でき、例えば、スルホラン:鎖状スルホン=1:9〜9:1(質量比)が好ましく、5:5〜9:1がより好ましく、7:3〜9:1がさらに好ましい。
【0028】
非水溶媒は、スルホラン及び鎖状スルホン以外に、必要に応じて他の溶媒(任意溶媒)を含有することができる。任意溶媒の種類は、電解液50に求める耐熱性や粘度等を勘案して決定でき、構造中に酸素原子を有する非プロトン性の極性溶媒が好ましい。任意溶媒としては、例えば、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸nプロピル等のギ酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のプロピオン酸エステル、酪酸メチル、酪酸エチル等の酪酸エステル等の脂肪族モノカルボン酸エステル等の鎖状エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート、鎖状エーテル、グリコールエーテル等が挙げられる。
非水溶媒が任意溶媒を含有する場合、非水溶媒中の任意溶媒の含有量は、0.1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましい。
【0029】
支持塩は、例えば、4級アンモニウム塩、4級フォスフォニウム塩等が挙げられ、4級アンモニウム塩としては、脂肪鎖のみを有する化合物、脂肪鎖と脂肪環を有する脂環式化合物、もしくは脂肪環のみを有するスピロ化合物が挙げられる。なお、スピロ化合物は、4面体構造の原子1個を2つの環が共有しているものである。
塩を構成する対イオンとしては、PF、BF、N(CFSO、C(CFSO等が挙げられる。
このような4級アンモニウム塩の内、脂肪鎖のみを有する化合物としては、下記(1)式で表されるトリエチルメチルアンモニウム(TEMA)塩、(2)式で表されるテトラエチルアンモニウム(TEA)塩等が挙げられる(式(1)、(2)中、Xは対イオンを表す)。スピロ化合物としては、例えば、下記(3)式で表される5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンテトラフルオロボレート(スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウム:SBP−BF)、(4)式で表される6−アゾニアスピロ[5,5]ウンデカンテトラフルオロボレート、(5)式で表される3−アゾニアスピロ[2,6]ノナンテトラフルオロボレート、(6)式で表される4−アゾニアスピロ[3,5]ノナンテトラフルオロボレート等が挙げられる。また、4級フォスフォニウム塩としては、下記(7)式で表される5−フォスフォニルスピロ[4,4]ノナンテトラフルオロボレートが挙げられる。支持塩としては、4級アンモニウム塩が好ましく、スピロ化合物がより好ましく、5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンテトラフルオロボレートがさらに好ましい。4級アンモニウム塩のスピロ化合物は電気伝導率が高いため、放電容量を増大できる。
【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
電解液50中の支持塩の含有量は、支持塩の種類等を勘案して決定できる。例えば、支持塩をSBP−BFとする場合、後述する注入工程で用いられる電解液50中の支持塩の含有量は、好ましくは1.0〜3.6mol/dm、より好ましくは1.5〜3.6mol/dmである。1.0mol/dm未満であると、3V超の電圧で充電した場合、電解液50の劣化が著しくなり、短期間で放電容量が低下しやすくなる。3.6mol/dm超とすると、非水溶媒へのSBP−BFの溶解量が飽和し、後述する注入工程において、ノズルの詰まり等の製造上の問題を来たすおそれがある。
また、非水溶媒及び支持塩は、後述する予備加熱工程や密封工程で蒸発する。この際、非水溶媒中のスルホラン、鎖状スルホン、任意溶媒は、支持塩に比べて容易に蒸発するため、最終製品の電気二重層キャパシタ1における電解液50中の支持塩の含有量が高まる。このため、注入工程で充填される電解液50中の支持塩の含有量は、非水溶媒の種類等を勘案して、最終製品の電気二重層キャパシタ1における電解液50中の支持塩の含有量が、好ましくは1.0〜3.6mol/dm、より好ましくは1.5〜3.6mol/dmとなるように調節されていてもよい。
なお、支持塩は、電気二重層キャパシタ1に電圧を印加すると、分解し減少する。このため、高電圧を印加する用途においては、支持塩が過剰(過飽和)な状態にあってもよい。あるいは、後述する予備加熱工程や密封工程の加熱条件によって、収納容器2に密封された電解液50中の支持塩が、過飽和状態を経た後、溶解できずに一時的に析出した状態であってもよい。この際、電解液50は、過飽和状態にある支持塩と分解生成物とによって支持塩の溶解度が変化し、支持塩が再溶解し、支持塩の濃度が高められ、低温環境下での高い放電容量を確保できる。このように、支持塩を過飽和状態とすることで、分解した分の支持塩を補給することができる。
【0038】
電解液50は、有機フッ素化合物を含有することができる。後述する密封工程において、有機フッ素化合物は、蓋体10又はシールリング30のニッケルメッキと反応して、蓋体10又はシールリング30の表面に不動態であるフッ化ニッケルを生成する。このため、電解液50中へのニッケルの溶出が抑制されて、不純物(ニッケル)の混入による電解液50の劣化が抑制される。この結果、電気二重層キャパシタ1は、高い放電容量を長期に維持できる。
有機フッ素化合物としては、有機化合物の一部又は全部の置換基がフッ素に置換されたもの等が挙げられ、例えば、芳香族炭化水素にフッ素が導入されたもの(フッ素化芳香族化合物)、飽和炭化水素にフッ素が導入されたもの(フッ素化飽和炭化水素)、鎖状の不飽和炭化水素にフッ素が導入されたもの、ギ酸エスエル、酢酸エステル、酪酸エステル等のエステル化合物にフッ素が導入されたもの(フッ素化エステル)、エーテル化合物にフッ素が導入されたもの(フッ素化エーテル)、ケトン化合物にフッ素が導入されたもの(フッ素化ケトン)、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等にフッ素が導入されたフッ素化カーボネート等が挙げられる。
フッ素化芳香族化合物としては、例えば、デカフルオロベンゾフェノン(bp:206℃、mp(融点):92〜94℃)、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(bp:116、mp:−35℃)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(bp:170℃(10torr)、mp:106〜109℃)、オクタフルオロナフタレン(bp:209℃、mp:87〜88℃)、1−フルオロナフタレン(bp:215〜217℃、mp:−13℃)、オクタフルオロトルエン(bp:104℃、mp:−65.6℃)、アリルペンタフルオロベンゼン(bp:148〜149℃、mp:−64℃)、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン(bp:95、mp:−42℃)、1,2,3,5−テトラフルオロベンゼン(bp:83℃、mp:−48℃)、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン(bp:90℃、mp:4℃)、1,2,3−トリフルオロベンゼン(bp:94〜95℃)、1,2,4−トリフルオロベンゼン(bp:88〜91℃、mp:−12℃)、1,3,5−トリフルオロベンゼン(bp:75〜76℃、mp:−5.5℃)、1,2−ジフルオロベンゼン(bp:92℃、mp:−34℃)、1,3−ジフルオロベンゼン(bp:83℃、mp:−59℃)、1,4−ジフルオロベンゼン(bp:88〜89℃、mp:−13℃)、α,α,α−トリフルオロトルエン(bp:102℃、mp:−29℃)、フルオロベンゼン(bp:85℃、mp:−42℃)、(トリフルオロメトキシ)ベンゼン(bp:102℃)、1−エチニル−4フルオロベンゼン(bp:55℃(40mmHg)、mp:27〜28℃)、1,4−ビス(ジフルオロメチル)ベンゼン(bp:70℃(2.7KPa))、1−アセトキシ−4−フルオロベンゼン(bp:197℃)、2,4,6−トリメチルフルオロベンゼン(bp:163〜165℃)、2,6−ジフルオロトルエン(bp:112℃)、o−フルオロトルエン(bp:114℃、mp:−62℃)、m−フルオロトルエン(bp:115℃、mp:−87℃)、p−フルオロトルエン(bp:116℃、mp:−53℃)、2,4−ジフルオロトルエン(bp:114〜116℃)、3−フルオロ−o−キシレン(bp:148〜152℃)、2−フルオロスチレン(bp:29〜30℃)、4−フルオロスチレン(bp:67℃(50mmHg)、mp:−36℃)、パーフルオロデカリン(シス型及びトランスの混合物として、bp:142℃、mp:−10℃)等が挙げられる。
フッ素化飽和炭化水素としては、環状及び鎖状のいずれであってもよく、例えば、1−フルオロヘキサン(bp:93℃)、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン(bp:101〜102℃、mp:−55℃)、1−フルオロペンタン(bp:62〜63℃)、1−フルオロノナン(bp:166〜169℃)、パーフルオロ−2−メチル−2−ペンテン(bp:53〜61℃)等が挙げられる。
鎖状の不飽和炭化水素にフッ素が導入された化合物としては、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン(bp:58℃)等が挙げられる。
フッ素化エステルとしては、フルオロ酢酸エチル(bp:117℃)、4,4,4−トリフルオロアセト酢酸エチル(bp:131℃、mp:−39℃)、2−フルオロフェニル酢酸メチル等が挙げられる。
フッ素化エーテルは、酸素を中心とした対称形であってもよいし、非対称形であってもよいが、非対称形が好ましい。フッ素化エーテルとしては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル(bp:30℃)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(bp:92℃)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(bp:50℃、mp:−94℃)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル(bp:57.5℃、mp:−90.8℃)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル(bp:36〜37℃、mp:−107℃)、F−(CFCFCFO)CFCF(ただし、nは、(CFCFCFO)の繰り返し数を表す数である)で表されるパーフルオロポリエーテル等が挙げられる。フッ素化エーテルの市販品としては、ノベックTM7000(COCH)、ノベックTM7100(COCH)、ノベックTM7200(COC)、ノベックTM7300(CCF(OCH)C)(以上、パーフルオロエーテル住友スリーエム株式会社製)等が挙げられる。
パーフルオロポリエーテルの市販品としては、例えば、デムナムTMS−20(平均分子量:2700、流動点:−75℃)、デムナムTMS−65(平均分子量:4500、流動点:−65℃)、デムナムTMS−200(平均分子量:8400、流動点:−53℃)(以上、パーフルオロポリエーテル、ダイキン工業株式会社製)等が挙げられる。
フッ素化ケトンとしては、例えば、1,1,1−トリフルオロアセトン(bp:22℃、mp:−78℃)、シクロプロピル−4−フルオロフェニルケトン(bp:119〜120℃、mp:−15℃)、シクロブチル−4−フルオロフェニルケトン(bp:125〜127℃)等が挙げられる。
【0039】
有機フッ素化合物のbpは、スルホランのbp(285℃)よりも低いことが好ましく、240℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。有機フッ素化合物のbpがスルホランのbpより低ければ、電解液50の粘度を低減し、電解液50を分極性電極40又はセパレータ46へ十分かつ速やかに含浸できる。加えて、有機フッ素化合物のbpがスルホランのbpより低ければ、有機フッ素化合物は、後述する予備加熱工程において容易に蒸発する。このため、bpが上記上限値以下の有機フッ素化合物を用いることで、空隙率を容易に調整できる。
有機フッ素化合物のbpの下限は、特に限定されないが、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。bpが30℃以上であれば、後述する予備加熱工程、密封工程やリフローハンダ付けの際に、電解液50が容易に突沸したりすることなく、収納容器2内の電解液50の残量が均一となる。
【0040】
有機フッ素化合物のmpは、特に限定されないが、室温(25℃)以下が好ましく、−30℃以下がより好ましい。mpが室温以下であれば、電解液50の粘度を低減し、電解液50を分極性電極40又はセパレータ46へ十分かつ速やかに含浸できる。加えて、mpが−30℃以下であれば、低温環境下での放電容量の確保がより容易である。
【0041】
上述した有機フッ素化合物の中でも、デカフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、1−フルオロナフタレン、オクタフルオロナフタレン、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,3−トリフルオロベンゼン、1−エチニル−4フルオロベンゼン、2−フルオロスチレン、パーフルオロ−2−メチル−2−ペンテン、(パーフルオロブチル)エチレン、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン、1,2,3,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,4−トリフルオロベンゼン、1,3,5−トリフルオロベンゼン、1,2−ジフルオロベンゼン、1,3−ジフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、フルオロベンゼン、(トリフルオロメトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(ジフルオロメチル)ベンゼン、4−フルオロスチレン、パーフルオロデカリン(シス型及びトランスの混合物)、1−フルオロヘキサン、1−フルオロペンタン、1−フルオロノナン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、オクタフルオロトルエン、アリルペンタフルオロベンゼン、α,α,α−トリフルオロトルエン、1−アセトキシ−4−フルオロベンゼン、2,4,6−トリメチルフルオロベンゼン、2,6−ジフルオロトルエン、o−フルオロトルエン、m−フルオロトルエン、p−フルオロトルエン、2,4−ジフルオロトルエン、3−フルオロ−o−キシレン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、フルオロ酢酸エチル、4,4,4−トリフルオロアセト酢酸エチルが好ましく、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン、1,2,3,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,4−トリフルオロベンゼン、1,3,5−トリフルオロベンゼン、1,2−ジフルオロベンゼン、1,3−ジフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、フルオロベンゼン、(トリフルオロメトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(ジフルオロメチル)ベンゼン、4−フルオロスチレン、パーフルオロデカリン(シス型及びトランスの混合物)、1−フルオロヘキサン、1−フルオロペンタン、1−フルオロノナン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、オクタフルオロトルエン、アリルペンタフルオロベンゼン、α,α,α−トリフルオロトルエン、1−アセトキシ−4−フルオロベンゼン、2,4,6−トリメチルフルオロベンゼン、2,6−ジフルオロトルエン、o−フルオロトルエン、m−フルオロトルエン、p−フルオロトルエン、2,4−ジフルオロトルエン、3−フルオロ−o−キシレン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、フルオロ酢酸エチル、4,4,4−トリフルオロアセト酢酸エチルがより好ましく、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、オクタフルオロトルエン、アリルペンタフルオロベンゼン、α,α,α−トリフルオロトルエン、1−アセトキシ−4−フルオロベンゼン、2,4,6−トリメチルフルオロベンゼン、2,6−ジフルオロトルエン、o−フルオロトルエン、m−フルオロトルエン、p−フルオロトルエン、2,4−ジフルオロトルエン、3−フルオロ−o−キシレン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、フルオロ酢酸エチル、4,4,4−トリフルオロアセト酢酸エチルがさらに好ましい。これらの有機フッ素化合物であれば、電解液50の粘度低減と、低温環境下での放電容量の確保とをより容易に両立できる。
【0042】
後述する注入工程に用いられる電解液50中の有機フッ素化合物の含有量は、電解液50に求める粘度等を勘案して決定でき、例えば、0.1〜50質量%が好ましく、0.1〜20質量%が好ましい。0.1質量%未満であると、電解液50の粘度を十分に低減できなかったり、フッ化ニッケルの生成が不十分となるおそれがある。50質量%超であると、非水溶媒への支持塩の溶解量が低減し、放電容量が低下するおそれがある。
また、最終製品の電気二重層キャパシタ1における電解液50中の有機フッ素化合物の含有量は、10質量ppm〜30質量%が好ましく、10質量ppm〜10質量%がより好ましい。10質量ppm未満であると、低温環境下での放電容量を十分に高められないおそれがあり、30質量%超であると電解液50中の支持塩濃度が低下し、充放電の特性が低下するためである。
【0043】
電解液50は、例えば、スルホランと鎖状スルホンと、必要に応じて任意溶媒とを混合して非水溶媒とし、該非水溶媒に支持塩を添加し攪拌して溶解することで調製できる。さらに、必要に応じ、有機フッ素化合部物を支持塩と共に、非水溶媒に添加し、混合してもよい。
【0044】
負極側電極42は、例えば、おが屑、椰子殻、ピッチ、コークス、フェノール樹脂等の有機系物質を水蒸気又はアルカリ等を単独もしくは併用した賦活処理にて得られる粉末状の活性炭を、バインダーと共に圧延ロール又はプレス成形したものが挙げられる。また、例えば、フェノール系、レーヨン系、アクリル系、ピッチ系等の繊維を不融化及び炭化賦活処理して活性炭もしくは活性炭素繊維とし、これをフェルト状、繊維状、紙状又は焼結体状にしたものが挙げられる。
負極側電極42の密度は、特に限定されず、0.1〜0.9g/cmが好ましく、0.40〜0.75g/cmがより好ましい。0.1g/cm未満であると負極側電極42のエネルギー密度が低下すると共に、負極側電極42が電解液50の含浸により膨張した際に、電極粒子間の距離が広がり電気抵抗が増加するおそれがある。0.9g/cm超であると負極側電極42を成形する際に、多大な圧力を要するばかりでなく、負極側電極42への電解液50の含浸量が著しく低下するためである。
【0045】
負極側電極42の活物質である活性炭は、出発材料、炭化処理法又は賦活条件により種々多様な細孔分布と表面状態のものが得られる。このような多様な表面状態及び細孔分布を有する活性炭の中でも、負極側電極42の活物質に用いる活性炭の比表面積は、1000m/g以上が好ましく、1700m/g以上がより好ましく、2400m/g以上がさらに好ましい。1000m/g以上であれば、十分な静電容量を得られる。
活性炭の細孔容積は、0.4cm/g以上が好ましく、0.7cm/g以上がより好ましい。細孔容積が0.4cm/g以上であれば、十分な静電容量を得られる。
また、活性炭の細孔は、細孔半径1nm未満の細孔が全細孔中に占める割合(微小細孔割合)である(細孔半径1nm未満の細孔数)/(全細孔数)で表される値が、好ましくは75%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下である。75%以下であれば、十分な静電容量を得られるためである。
また、活性炭の細孔は、細孔半径1〜3nmの細孔が全細孔中に占める割合(中細孔割合)である(細孔半径1〜3nmの細孔数)/(全細孔数)で表される値が、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。20%以上であれば、十分な静電容量を得られ、70%以上であれば、スルホランを含有する電解液50との組み合わせにより、3V以上の高電圧の連続印加に対する劣化防止性能がさらに向上する。
【0046】
バインダーとしては、従来公知の物質を用いることができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸系のポリマー、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、中でも、PTFEが最も好ましい。負極側電極42中のバインダーの含有量は、例えば、2〜14質量%が好ましく、耐久性の向上と製造中のハンドリング性の向上との観点から、4〜12質量%がより好ましい。
【0047】
負極側電極42には、必要に応じて導電性付与剤を添加することができ、導電性付与剤としては、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック等の無定形炭素や、カーボンファイバー(CF)、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)、粉末黒鉛等の結晶性の炭素質材料やNi、Ti等の耐蝕性の高い金属粉末等が挙げられ、中でもカーボンブラックが好ましく、ファーネスブラックがより好ましい。
【0048】
正極側電極44は、負極側電極42と同様のものが挙げられる。
負極側電極42と正極側電極44とは、同じであっても異なっていてもよく、支持塩の種類等を勘案して決定できる。ここで、電気二重層キャパシタ1の充電時の印加電圧が高い場合には、支持塩中のカチオンは、負極側電極42に吸着し、電極表面で分解され、電解液50中の濃度が低下したものとなる。この支持塩の濃度の低下に伴い、電気二重層キャパシタ1の放電容量が低下する。同様に、支持塩中のアニオンは、正極側電極44に吸着し、電極表面で分解され、電解液50中の濃度が低下したものとなる。この支持塩の濃度の低下に伴い、電気二重層キャパシタ1の放電容量が低下する。電気二重層キャパシタ1において、例えば、支持塩として4級アンモニウム塩等を用いる場合には、カチオンの分解が顕著であり、負極側電極42に印加される電圧を下げ、ポテンシャルウィンドウ内で操作する必要がある。このため、[負極側電極42の表面積]/[正極側電極44の表面積]で表される表面積比は、1.0〜1.2の範囲が好ましく、1.05超1.15未満の範囲がより好ましい。
表面積比が1.0未満であると、負極側電極42に印加される電圧を下げるのが困難である。加えて、表面積比が1.05超であれば、負極側電極42の表面に吸着するイオン種の密度を5%以下に下げることができ、正負極の同一の電位にある状態から、負極側電極42に印加される電位を正極側電極44に印加される電位から概ね5%下げることができる。このため、負極側電極42に印加される電圧を5%程度低減でき、支持塩中のカチオンの分解を抑制できる。
また、表面積比が1.2超であると、負極側電極42に比べ正極側電極44の電圧が上昇し、支持塩以外に非水溶媒等の分解が生じやすくなり、電気二重層キャパシタ1が劣化しやすくなる。加えて、表面積比が1.15未満であれば、負極側電極42と正極側電極44との電圧のバランスが向上し、電気二重層キャパシタ1の劣化を抑制できる。
表面積比は、負極側電極42の体積を正極側電極44の体積より大きくしたり、負極側電極42の材質を正極側電極44の比表面積より大きい比表面積の材質としたりすることで、1.0超に調節される。
【0049】
セパレータ46の厚みは、特に限定されないが、例えば、負極側電極42と正極側電極44とで挟持された部分である介在部46aの厚みが、好ましくは30〜100μm、より好ましくは40〜70μmとされる。介在部46aの厚みが30μm未満であると、負極側電極42と正極側電極44とを分離する機能が損なわれ、ショートするおそれがある。介在部46aの厚みが100μm超であると、電極間の抵抗が大きくなり、放電容量が低下するおそれがある。
介在部46aにおける空隙率(介在部空隙率)は、40〜94体積%が好ましく、60〜90体積%がより好ましい。介在部空隙率が上記範囲内であれば、介在部46aにおける電解液50の量が十分量となり、放電容量がより低下しにくくなると共に、毛細管現象によって電解液50が介在部46aに適宜補充され、放電容量を長期に維持しやすくなる。なお、介在部空隙率は、下記(ii)式で表されるものである。
介在部空隙率(体積%)=[(介在部の空隙の体積)/(介在部の体積)]×100・・・・(ii)
【0050】
セパレータ46には、介在部46aの外側に広がった部分である外周部46bが形成されてる。外周部46bの厚みは、介在部46aの厚みと同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、電解液50との接触面積を高め、介在部46aに電解液50を効率的に補充する観点から、外周部46bの厚みは介在部46aの厚みよりも厚いことが好ましい。
外周部46bの空隙率(外周部空隙率)は、介在部空隙率と同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、放電容量を長期に維持する観点から、外周部空隙率/介在部空隙率で表されるセパレータ粗密度は、1超が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.2以上がさらに好ましい。セパレータ粗密度が大きいほど、介在部46aに電解液50を効率的に補充し、放電容量を長期に維持しやすくできる。セパレータ粗密度の上限値は、特に限定されないが、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2.5以下がさらに好ましい。上記上限値超とすると、介在部46aの空隙率が小さくなりすぎて、介在部46aにおける電解液50の量が不十分となり、放電容量が低下するおそれがある。加えて、上記上限値超とすると、介在部46aの厚みが薄くなりすぎて、セパレータ46の破断等によってショートしやすくなるおそれがある。さらに、上記上限値超とすると、セパレータ46を圧縮する際の反発力によって、蓋体10で密封する際に、密封不良が生じるおそれがある。なお、外周部空隙率は、下記(iii)式で表されるものである。
外周部空隙率(体積%)=[(外周部の空隙の体積)/(外周部の体積)]×100・・・・(iii)
【0051】
セパレータ46は、従来、電気二重層キャパシタのセパレータに用いられるものを適用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のマイクロポーラスフィルム、ホウ珪酸ガラス、アルカリガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ソーダ石灰シリカガラス、無アルカリガラス等のガラスの繊維積層体(ガラス繊維積層体)、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリイミド等の樹脂からなる不織布等が挙げられる。中でも、ガラス繊維積層体が好ましく、ホウ珪酸ガラス、アルカリガラス、石英ガラスの繊維積層体がより好ましく、ホウ珪酸ガラスの繊維積層体がさらに好ましい。ガラス繊維積層体は、機械強度に優れると共に、大きなイオン透過度を有するため、内部抵抗を低減して放電容量の向上を図れる。
【0052】
ガラス繊維積層体は、ガラス繊維同士がバインダーで接着されて、全体として一体化されると共に、空隙が形成されたものである。ガラス繊維積層体は、ガラス製の繊維(ガラス繊維)とバインダーとの混合物を任意の形状に成形し、例えば、25〜250℃で加熱する熱処理が施されたものである。加熱温度は、水溶性のバインダーを用いる場合、120℃以下が好ましい。120℃超であると、バインダーが変質し、疎水性を示すので好ましくない。ただし、後述するセパレータ加熱処理において、バインダーが完全に炭化される場合には、この限りではない。
【0053】
セパレータ46は、できうる限り不純物を含有しないことが好ましく、特に、カドミウム、マンガン、亜鉛、銅、ニッケル、クロム、鉄等の金属を含有しないことが好ましい。
セパレータ46中の各金属の含有量は、カドミウム1μg/g未満、マンガン0.5μg/g未満、亜鉛5μg/g未満、銅4μg/g未満、ニッケル1μg/g未満、クロム1μg/g未満、鉄25μg/g未満が好ましい。
【0054】
ガラス繊維積層体を構成するガラス繊維は、繊維径10μm以下が好ましく、繊維径1μm以下がより好ましい。繊維径が10μm以下であれば、繊維を積層する際に、セパレータ46内に形成される空隙の個々の大きさを小さくすることでき、毛細管現象による電解液50のセパレータ46への含浸がより速やかになる。加えて、セパレータ46の保液力が高まり、電極間のイオン伝導度を低減できるため、電気二重層キャパシタ1内の抵抗をより低減できる。
加えて、ガラス繊維積層体を構成するガラス繊維は、繊維径1μm超10μm以下のガラス繊維と繊維径1μm以下のガラス繊維とが混在していてもよい。この場合、ガラス繊維は、繊維径1μmのガラス繊維を80質量%以上含むことが好ましい。繊維径1μm以下のガラス繊維を80質量%以上含むことで、電解液50がセパレータ46へさらに含浸しやすくなり、かつ電極間の抵抗をさらに低減できる。
【0055】
バインダーは、水溶性であれば特に限定されず、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAS)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、変性ポリアクリル樹脂等が挙げられる。バインダーとしてポリアクリル酸を用いる場合、架橋型アクリル酸を用いることが好ましい。なお、バインダーは、親水性を有するものであるが、熱処理後に撥水性を発揮してもよい。
【0056】
蓋体10は、コバール(鉄、ニッケル及びコバルトの合金)や、ニッケルを50質量%程度含有するニッケル鉄合金等の導電性の金属製の平板に、ニッケルメッキが施されたものである。
シールリング30は、コバール等にニッケルメッキが施されたもの等が挙げられる。
蓋体10とシールリング30とは、接合時の材質の膨張度と、接合後の冷却によって生じる収縮時の応力とにより、封止部が脆弱することを防止するため、同じ熱膨張係数を有する材料を用いることが好ましい。同様に、シールリング30と容器本体20とは、熱による残留応力によって容器本体2が損壊するのを防止するため、熱膨張係数の近い材質を選択することが好ましい。ここで、例えば、収納容器2の主成分として用いられるアルミナ(Al)は、線膨張係数の代表値(400℃)が7.1×10−6−1であり、蓋体10又はシールリング30の主成分として用いられるコバールは、線膨張係数の代表値が4.9×10−6−1である。
ろう材32は、金ろう、銀ろう、銀銅ろう等、従来公知のろう材が挙げられる。
【0057】
基材22は、セラミック、ガラス、プラスチック、アルミナ等の絶縁性を有する耐熱材料が挙げられる。
側壁部24は、基材22と同様の材質である。側壁部24は、例えば、グリーンシートを焼成することにより得られる。
中間層26は、基材22と同様の材質である。中間層26は、例えば、側壁部24と同様にグリーンシートを用い、基材22に第二の金属層72を設けた後、第二の金属層72を覆うようにセラミック、ガラス、アルミナ等のグリーンシートを塗布し、焼成することにより設けることもできる。
保護層27は、アルミニウム、タングステン、金、銀等の導電性の金属、又は導電性フィラーである炭素を含有する導電性樹脂等が挙げられ、中でもアルミニウム、導電性樹脂が好ましい。保護層27は、中間層26を設ける際に、導電性の金属や導電性樹脂等を任意の位置に、任意の数量を設け、焼結することで設けることができる。
【0058】
第一の外部端子60は、ニッケル、金等の導電性の金属の平板又は薄膜であり、例えば、容器本体20に導体印刷し、焼成することで設けられるものである。第一の外部端子60の表面には、基板上へ溶着できるように、ニッケル、金、ハンダ等の溶着層が設けられていることが好ましい。この溶着層は、メッキ、蒸着等の気相法により設けることができる。
第二の外部端子70は、第一の外部端子60と同様である。
【0059】
第一の金属層62は、タングステン、ニッケル、金、銀等の導電性の金属の平板又は薄膜であり、例えば、グリーンシートに前記金属をプリントし、焼成することにより設けられるものである。中でも、第一の金属層62は、タングステンであることが好ましい。第二の金属層72は、第一の金属層62と同様である。
【0060】
次に、電気二重層キャパシタ1の製造方法を説明する。
まず、中間層26、保護層27、第一の外部端子60、第一の金属層62、第二の外部端子70及び第二の金属層72が設けられた容器本体20を用意する。容器本体20の開口部周縁、即ち側壁部24の上端面23に、ろう材32によりシールリング30を接合する。次いで、シールリング30とろう材32と上端面23とを覆うようにニッケルメッキを施す。ニッケルメッキとしては、例えば、電解ニッケルメッキや無電解ニッケルメッキが挙げられる。
【0061】
容器本体20の内底面に、正極集電体45で正極側電極44を接着し、接着した正極側電極44上にセパレータ46を載置し、容器本体20内に、任意の量の電解液50を注入する(注入工程)。電解液50の注入量は、非水溶媒の種類、電気二重層キャパシタ1の空隙率等を勘案して決定できる。
ここで、セパレータ46としてバインダーを含むガラス繊維積層体を用いる場合、電解液50を注入する前に、セパレータ46を加熱してもよい(セパレータ加熱処理)。セパレータ46を加熱することで、バインダーが炭化して、減量又は消失する。バインダーが減量又は消失することで、セパレータ46の介在部空隙率や外周部空隙率が高まり、電解液50がセパレータ46により多量にかつ速やかに含浸できる。セパレータ加熱処理における加熱温度は、例えば、250〜350℃が好ましい。250℃未満であると、バインダーを十分に減量できないおそれがあり、350℃超であると、活性炭を用いた分極性電極40は、機械的な強度が損なわれ、形状を維持できないおそれがある。
【0062】
蓋体10の一方の面に、負極集電体43で負極側電極42を接着し、負極側電極42がセパレータ46に当接するように、蓋体10をシールリング30上に載置する。あるいは、セパレータ46に当接するように負極側電極42を載置し、予め負極集電体43を設けた蓋体10をシールリング30上に載置する(電極配置工程)。
【0063】
次いで、蓋体10とシールリング30とを部分的に溶融しながら溶着して、非密封体とする。蓋体10とシールリング30との部分的な溶接の方法は、例えば、抵抗溶接、レーザー溶接、熱溶接等により、蓋体10のニッケルメッキと、シールリング30を覆うニッケルメッキとを部分的に溶着させるものが挙げられ、中でも抵抗溶接が好ましい。「部分的に溶接」とは、蓋体10とシールリング30とを、溶接部分が離間したスポット溶接等で溶接することを意味する。
【0064】
蓋体10とシールリング30とを部分的に溶接した非密封体を200℃以上、900℃未満で加熱する(予備加熱工程)。予備加熱工程では、水分等の不純物を電解液50から除去したり、非水溶媒や有機フッ素化合物の一部を蒸発させ、電解液50中の支持塩の濃度を増大させたりできる。加えて、加熱することで電解液50の粘度を低減し、電解液50を分極性電極40又はセパレータ46へ十分に含浸できる。予備加熱工程における加熱の方法は、特に限定されず、例えば、蓋体10への通電による方法や、赤外線、レーザー照射、温風による加熱方法が挙げられ、中でも蓋体10に通電する方法が好ましい。蓋体10に通電することで、電解液50の温度が短時間で上昇し、効率的に電解液50中の不純物を除去できる。また、蓋体10への通電は、上述の蓋体10とシールリング30との部分的な溶接を兼ねることができるため、電気二重層キャパシタ1の製造効率の向上が図れる。
加熱時間は、非水溶媒の種類や加熱方法等を勘案して決定でき、例えば、1msec以上が好ましい。この際、電解液50は、高い沸点のスルホランを含有するため、容易に突沸したりすることなく、収納容器2内の電解液50の残量が均一となる。加えて、予備加熱工程で、低沸点の不純物を除去することで、後述する密封工程やリフローハンダ付けにて、低沸点の不純物が気化して電気二重層キャパシタ1が損壊するのを防止できる。
【0065】
非密封体の蓋体10とシールリング30とを溶接し、蓋体10と容器本体20とで収納容器2内を密封する(密封工程)。蓋体10とシールリング30との溶接方法は、特に限定されず、例えば、抵抗溶接によるシーム溶接等が挙げられる。シーム溶接では、蓋体10のニッケルメッキと、シールリング30を覆うニッケルメッキとが溶着される。この際、電解液50に有機フッ素化合物が含有されていると、蓋体10又はシールリング30の表面にフッ化ニッケルの被膜が形成される。
密封工程において、電解液50は、ニッケルメッキの融点(800〜1455℃)に晒されるものの、高い沸点のスルホランを含有するため、容易に突沸したりすることなく、収納容器2内の電解液50の残量が均一となる。加えて、電解液50が容易に突沸しないため、密封工程中に収納容器2が破損するのを防止できる。さらに、電解液50は、有機フッ素化合物を含有していると、分極性電極40又はセパレータ46により速やかに含浸する。
こうして、電解液50の量が均一な電気二重層キャパシタ1を得ることができる。
【0066】
本実施形態の電解液は、非水溶媒に鎖状スルホンを含有するため、常温では固体のスルホランを含んでいても液体であり、セパレータや分極性電極に含浸でき、電気二重層キャパシタの機能を発揮できる。
【0067】
本実施形態の電気二重層キャパシタは、非水溶媒にスルホランを含有する電解液を備えるため、予備加熱工程又は密封工程時に、電解液が突沸しにくく、電解液の残量が安定し、品質が安定する。加えて、リフローハンダ付け時において、電解液の漏出や、電解液の急激な気化による収納容器の破損を防止できる。さらに、電解液の量を多くできるため、3.0V以上の高電圧で印加する条件下においても、電気二重層キャパシタを長期にわたって使用できる。
【0068】
本実施形態の電気二重層キャパシタの製造方法によれば、スルホランを含有する電解液を用いるため、蓋体と容器本体との溶接時において電解液が容易に漏出することなく、安定した品質の電気二重層キャパシタを得ることができる。加えて、予備加熱工程を設けることで、電解液の劣化の原因となる水分等の不純物を除去したり、余分な非水溶媒を蒸発させ支持塩の濃度を高めたりすることができ、電気二重層キャパシタを高電圧で印加する条件下においても、電気二重層キャパシタを長期にわたって使用できる。
【0069】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
上述の実施形態の電気二重層キャパシタは、チップ型のものであるが、本発明はこれに限定されず、例えば、ボタン型のものであってもよい。
ただし、機密性が高く、かつ蓋体と容器本体とを高温で溶接するチップ型において、本発明の効果が顕著に現れる。
【0070】
上述の実施形態では、有底四角筒状の容器本体と平板状の蓋体とを備え、容器本体に外部端子が設けられたチップ型のものであるが、本発明はこれに限定されず、例えば、図2に示すチップ型のものであってもよい。
【0071】
図2に示す電気二重層キャパシタ100は、収納容器102に、負極側電極42と正極側電極44とからなる一対の分極性電極40がセパレータ46を介して対向配置され、電解液50が収納されたものである。そして、分極性電極40とセパレータ46には、収納容器102内に収納された電解液50が含浸されている。
【0072】
収納容器102は、有蓋四角筒状の容器本体110と、容器本体110の開口部を塞ぐ平板状の蓋体120と、容器本体110の開口部周縁に設けられたシールリング130とを備え、シールリング130を介して蓋体120と容器本体110とが密封されたものである。
容器本体110は、平面視略矩形の平板状の天壁部112と、天壁部112の周縁から下方に延設された矩形筒状の側壁部114と、側壁部114の下端に、側壁部114の軸線から離れる方向に延設された鍔部116とを備えるものである。
蓋体120は、上層122と下層124とからなる二層構造とされている。上層122面の略中央には、平面視略矩形の第一の導体部145が設けられ、上層122の周縁近傍には、ロ字状の第二の導体部132が設けられている。下層124には、側面から底面にかけて第一の外部端子160と第二の外部端子170とが設けられ、上層122と下層124との間には、蓋体120の略中央から周縁に向かって延びる引出導体部172が設けられている。第一の外部端子160は第二の導体部132と接続され、第二の外部端子170は引出導体部172と接続されている。引出導体部172は、上層122を貫通するビア導体部174により第一の導体部145と接続されている。
【0073】
容器本体110の材質は、蓋体10の材質と同様である。
蓋体120の材質は、基材22の材質と同様である。
シールリング130の材質は、シールリング30の材質と同様である。
第一の外部端子160は、第一の外部端子60と同様であり、第二の外部端子170は、第二の外部端子70と同様である。
第一の導体部145は、正極集電体45と同様であり、第二の導体部132は、第一の金属層62と同様である。
引出導体部172は、第一の金属層62と同様である。
【0074】
電気二重層キャパシタ100のようなチップ型のものとしては、例えば、特開2010−141026号公報に記載の電気化学デバイス等が挙げられる。
【0075】
上述の実施形態では、第二の金属層が中間層と基材との間に設けられているが、本発明はこれに限定されず、第二の金属層が中間層上に設けられていてもよい。ただし、電解液が第二の金属層に直接接触するとショートするおそれがあるため、第二の金属層は、中間層と基材との間に設ける等により、電解液と接触しないようにすることが好ましい。
【0076】
上述の実施形態では、予備加熱工程が設けられているが、本発明はこれに限定されず、予備加熱工程が設けられていなくてもよい。電解液中の不純物等を除去し、高い放電容量を長期に維持する観点から、予備加熱工程を設けることが好ましい。
【0077】
上述の実施形態では、電極配置工程で、蓋体とシールリングとを部分的に溶接しているが、本発明はこれに限定されず、蓋体をシールリング上に載置するだけでもよい。
【0078】
上述の実施形態では、蓋体と容器本体との密封が、蓋体のニッケルメッキとシールリングのニッケルメッキとを溶着させる方法であるが、本発明はこれに限定されず、例えば、蓋体とシールリングとをろう材により接合してもよい。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例1−1)
スルホラン(表中、SLと記載):ジメチルスルホン(表中、DMSと記載)=8:2(質量比)で混合して非水溶媒とし、この非水溶媒に、支持塩としてSBP−BFを1.5mol/dmとなるように溶解して、電解液を調製した。
得られた電解液を用い、図1に示す電気二重層キャパシタと同様の電気二重層キャパシタを次のように作製した。
市販の活性炭(比表面積:1900m/g、細孔容積:0.85cm/g、微小細孔割合:4%、中細孔割合:95%、個数平均粒径:12μm(レーザー式により測定))を厚さ0.25mm±0.05mmのシート状に圧延し、1.7mm×1.0mmに切断したものを正極側電極及び負極側電極とした。コバールの平板に電解ニッケルメッキを施した蓋体に、負極側電極を導電性接着剤により接着した。セラミックの基材とセラミックの中間層からなる底壁部と、セラミックの側壁部とを備えた容器本体の開口部周縁に、コバールのシールリングを銀ろうにより接合した。容器本体の内底面に、正極側電極を導電性接着剤により接着し、ポリテトラフルオロエチレン製の微孔性シート(2.25mm×1.72mm)をセパレータとして、正極性電極上に載置した。正極側電極上に容器本体内に電解液2μLを注入し、負極側電極がセパレータに当接するように蓋体をシールリング上に載置した。次いで、スポット溶接により蓋体とシールリングとを部分的に溶接して非密封体とした。この際、蓋体を250℃、5msecで加熱した(予備加熱工程)。
次いで、抵抗溶接法のシーム溶接により、収納容器を密封し、電気二重層キャパシタを得た。なお、得られた電気二重層キャパシタの空隙率は25体積%、表面積比=1.0であった。
【0081】
得られた電気二重層キャパシタ6個について、24℃の環境下、電圧3.3Vで2時間印加した。その後、24℃の環境下、定電流5μA(放電電流)で2.0Vになるまで放電し、下記(I)式により放電容量を算出し、その平均値を初期容量とした。
【0082】
放電容量(μAh)=放電電流(5μA)×放電時間(h) ・・・(I)
【0083】
また、電気二重層キャパシタ6個について、24℃の環境下、電圧3.3Vで2時間印加した。その後、−20℃の環境下、定電流5μA(放電電流)で2.0Vになるまで放電し、上記(I)式により放電容量を算出し、その平均値を低温容量とした。
求めた初期容量と低温容量とから、下記(II)式により低温容量維持率を算出した。
【0084】
低温容量維持率(%)=低温容量÷初期容量×100 ・・・・(II)
【0085】
(実施例1−2)
非水溶媒をスルホラン:エチルメチルスルホン(EMS)=8:2(質量比)とした以外は、実施例1−1と同様にして電気二重層キャパシタを得、低温容量維持率を求めた。
【0086】
(比較例1)
非水溶媒をスルホラン:プロピオン酸メチル(MP)=8:2(質量比)とした以外は、実施例1−1と同様にして電気二重層キャパシタを得、低温容量維持率を求めた。
【0087】
【表1】

【0088】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1−1〜1−2は、いずれも低温容量維持率が80%以上であった。一方、鎖状スルホンに換えてプロピオン酸メチルを用いた比較例1は、低温容量維持率が54.3%であった。
これらの結果から、本発明を適用した電気二重層キャパシタは、−20℃の環境下において、安定して十分な機能を発揮できることが判った。
【0089】
(実施例2−1)
SBP−BFの濃度を1.0mol/dmとした以外は、実施例1−2と同様にして電気二重層キャパシタを得た。得られた電気二重層キャパシタ10個について、70℃の環境下、電圧3.3Vで印加した後、20日間、60℃で保管した。保管後の電気二重層キャパシタを、24℃の環境下、定電流5μAで2.0Vになるまで放電して放電容量を求め、その平均値を高温容量とした。求めた高温容量と、別途求めた初期容量から、下記(III)式により高温容量維持率を算出した。
【0090】
高温容量維持率(%)=高温容量÷初期容量×100 ・・・(III)
【0091】
(実施例2−2)
SBP−BFの濃度を1.5mol/dmとした以外は、実施例2−1と同様にして電気二重層キャパシタを得、高温容量維持率を求めた。
【0092】
(実施例2−3)
SBP−BFの濃度を3.6mol/dmとした以外は、実施例2−1と同様にして電気二重層キャパシタを得、高温容量維持率を求めた。
【0093】
【表2】

【0094】
表2に示すように、本発明を適用した実施例2−1〜2−3は、いずれも容量維持率が80%超であった。また、支持塩の濃度が高まるにつれ、高温容量維持率が高くなっていた。
【0095】
(実施例3−1〜3−10)
予備加熱工程を表3に示す温度及び時間とした以外は、実施例2−1と同様にして各例の電気二重層キャパシタを10個製造し、損壊の有無について確認した。加えて、損壊しなかった電気二重層キャパシタについて、高温容量維持率を求めた。
【0096】
(比較例2)
非水溶媒をプロピレンカーボネート(PC):ジメチルカーボネート(DMC)=8:2(質量比)とした以外は、実施例3−2と同様にして電気二重層キャパシタを10個製造し、損壊の有無について確認した。加えて、損壊しなかった電気二重層キャパシタについて、高温容量維持率を求めた。
【0097】
【表3】

【0098】
表3に示すように、本発明を適用した実施例3−1〜3−10は、いずれも損壊した個数が2個以下であり、かつ高温容量維持率がいずれも30%以上であった。
加えて、加熱温度200℃又は300℃の予備加熱工程を設けた実施例3−1〜3−6は、予備加熱工程を設けなかった実施例3−10に比べ、相対的に高温容量維持率が高く、損壊が少ないものであった。
一方、非水溶媒をPC−DMCとした比較例2は、予備加熱工程での非水溶媒の蒸発量が多かったため、損壊は見られなかったものの、高温容量維持率が10%と、極めて低いものであった。
【0099】
(実施例4−1〜4−5)
表4に示す空隙率となるように、電解液を注入した以外は、実施例2−1と同様にして電気二重層キャパシタを10個製造し、損壊の有無について確認した。加えて、損壊しなかった電気二重層キャパシタについて、高温容量維持率を求めた。
【0100】
(比較例3)
非水溶媒をPC:DMC=8:2(質量比)とした以外は、実施例4−1と同様にして電気二重層キャパシタを10個製造し、損壊の有無について確認した。加えて、損壊しなかった電気二重層キャパシタについて、高温容量維持率を求めた。
【0101】
【表4】

【0102】
表4に示すように、空隙率を高くするほど、電気二重層キャパシタの損壊を防止できることが判った。加えて、本発明を適用した実施例4−1〜4−5は、いずれも高温容量維持率が30%以上であった。
一方、非水溶媒をPC−DMCとした比較例3は、予備加熱工程での非水溶媒の蒸発量が多かったため、損壊は見られなかったものの、高温容量維持率が5%と、極めて低いものであった。
【0103】
(実施例5−1〜5−4)
表5の組成に従い、非水溶媒と有機フッ素化合物とを混合したものに、SBP−BFを1.5mol/dmとなるように溶解して、電解液を調製した。
市販の活性炭(比表面積:1900m/g、細孔容積:0.85cm/g、微小細孔割合:4%、中細孔割合:95%、個数平均粒径:12μm(レーザー式により測定))を厚さ0.2mm、φ3.95mmの円盤状に成形して試験用電極とした。
この試験用電極に、各例の電解液1.5μLを滴下し、滴下した電解液が試験用電極に吸収されるまでの時間を測定した。電解液が試験用電極に吸収されたことは、目視で判定した。
また、各例の電解液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして電気二重層キャパシタを得た。得られた電気二重層キャパシタについて、低温容量維持率と高温容量維持率とを求めた。
【0104】
【表5】

【0105】
表5に示すように、有機フッ素化合物を含有する実施例2〜4は、有機フッ素化合物を含有しない実施例1に比べて、含浸時間が短縮されていた。加えて、実施例2〜4は、実施例1に比べて、低温容量維持率及び高温容量維持率が高まっていた。
【0106】
(実施例6−1〜6−5)
セパレータを表6に示す仕様とした以外は、実施例1−1と同様にして電気二重層キャパシタを得た。得られた電気二重層キャパシタについて、高温容量維持率を求めた。
【0107】
【表6】

【0108】
表6の実施例6−1〜6−4に示すように、ガラス繊維積層体をセパレータとした場合、セパレータ粗密度が大きいほど、高温容量維持率が高まっていた。
【符号の説明】
【0109】
1、100 電気二重層キャパシタ
2、102 収納容器
10、120 蓋体
20、110 容器本体
40 分極性電極
42 負極側電極
44 正極側電極
46 セパレータ
50 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持塩と、スルホランと、鎖状スルホンとを含有することを特徴とする電気二重層キャパシタ用の電解液。
【請求項2】
有機フッ素化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の電気二重層用キャパシタ用の電解液。
【請求項3】
前記支持塩は、5−アゾニアスピロ[4.4]ノナンテトラフルオロボレートを含有し、
5−アゾニアスピロ[4.4]ノナンテトラフルオロボレートの含有量は、1.5〜3.6mol/dmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気二重層キャパシタ用の電解液。
【請求項4】
蓋体と容器本体とで密封された収納容器内に、セパレータを介して対向配置された少なくとも一対の分極性電極と、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解液とを備えることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項5】
前記収納容器内は、[(収納容器内の空隙の体積)/(収納容器の容積)]×100で表される空隙率が10〜30体積%であることを特徴とする請求項4に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項6】
前記一対の分極性電極は、負極側電極の表面積が正極側電極の表面積より大きいことを特徴とする請求項4又は5に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタの製造方法であって、
前記容器本体内にセパレータを介して一対の分極性電極を対向配置させる電極配置工程と、
前記容器本体内に前記電解液を注入する注入工程と、
前記注入工程の後に前記容器本体を前記蓋体で密封する密封工程とを有することを特徴とする電気二重層キャパシタの製造方法。
【請求項8】
前記密封工程は、前記蓋体と前記容器本体とを溶接することを特徴とする請求項7に記載の電気二重層キャパシタの製造方法。
【請求項9】
前記注入工程の後段かつ前記密封工程の前段で、前記電解液を200℃以上900℃未満で1msec以上加熱する予備加熱工程を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の電気二重層キャパシタの製造方法。
【請求項10】
前記予備加熱工程は、前記蓋体への通電により加熱することを特徴とする請求項9に記載の電気二重層キャパシタの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−64922(P2012−64922A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137328(P2011−137328)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】