説明

電気二重層キャパシタ

【課題】耐過充電特性及び保存特性に優れた電気二重層キャパシタを提供すること。
【解決手段】本発明の電気二重層キャパシタ11は、容器17内に正極21、負極22、セパレータ23及び非水電解液を収容した構造を備える。正極21及び負極22のうちの少なくとも一方が、活性炭とフッ素系結着剤とを含む混合物からなる。非水電解液が、有機溶媒と第4級アンモニウム塩とを含んでいる。フッ素系結着剤として、例えば、テトラフルオロエチエンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタに係り、特には容器内に正極、負極、セパレータ及び非水電解液を収容した電気二重層キャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の電気化学デバイスが実用化されている。なかでもコイン型の電気二重層キャパシタ(EDLC)は、比較的エネルギー密度が高く、小型かつ軽量であるという特徴を備えていることから、小型の電気機器のバックアップ用電源として広く採用されている。そして、このようなコイン型の電気二重層キャパシタは、例えばプリント配線板上にリフローはんだ付けにより表面実装した状態で使用される(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0003】
一般的にコイン型の電気二重層キャパシタは、容器内にセパレータを介して正極及び負極を配置するとともに、これらを非水電解液とともに収容して密封封止した構造を備えている。そしてこのようなコイン型の電気二重層キャパシタは、非水系の電解液として有機溶媒系の電解液をよく用いているが、近年では有機溶媒とイオン液体との混合物である非水電解液を用いることも提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−64435号公報
【特許文献2】特開2007−207942号公報
【特許文献3】特開2007−112811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のコイン型の電気二重層キャパシタにおいては、活物質である活性炭の結着性を高めて微粉化を防ぐことが好ましく、そのために例えば活性炭に結着剤を混合したものが電極材料として用いられる。さらにこの場合には、結着性に優れたフッ素系結着剤を使用すれば、保存特性の向上について好結果が期待できるものと考えられていた。しかしながら、活性炭とフッ素系結着剤とを含む混合物からなる電極材料を使用し、有機溶媒とイオン液体との混合物である非水電解液を使用した電気二重層キャパシタを実際に試作したところ、期待するほど耐過充電特性を向上することができなかった。このように、上記従来のコイン型の電気二重層キャパシタには、耐過充電特性及び保存特性に関し、依然として改善の余地があった。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐過充電特性及び保存特性に優れた電気二重層キャパシタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明者らは、活性炭とフッ素系結着剤とを含む混合物からなる電極材料を使用し、有機溶媒とイオン液体との混合物である非水電解液を使用した場合の問題の所在について検討したところ、非水電解液は一般的にフッ素系結着剤に対する濡れ性が悪く、このことが耐過充電特性の低下に関与していると推測した。そして、上記濡れ性を改善する方策として、本発明者らは非水電解液を構成するイオン液体の組成に着目して鋭意研究を行ったところ、有機溶媒と第4級アンモニウムとを含む非水電解液を選択した場合に上記濡れ性が改善されうることを新規に知見した。そこで、本発明者らはこの知見に基づき下記の課題解決手段[1]〜[5]を想到することができたのである。以下にそれらを列挙する。
【0008】
[1]容器内に正極、負極、セパレータ及び非水電解液を収容した電気二重層キャパシタにおいて、前記正極及び前記負極のうちの少なくとも一方が活性炭とフッ素系結着剤とを含む混合物からなり、前記非水電解液が、有機溶媒と第4級アンモニウム塩とを含むことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【0009】
従って、手段1に記載の発明によると、フッ素系結着剤に対する非水電解液の濡れ性が改善される結果、非水電解液がフッ素系結着剤に弾かれにくくなり、活物質である活性炭と馴染みやすくなる。よって、過充電時においても正極や負極に対して非水電解液が効率よく作用し、放電容量の急激な低下等が防止され、耐過充電特性を向上させることができる。また、正極や負極の形成にあたりフッ素系結着剤の併用が可能となる結果、活物質である活性炭の結着性が高められる。よって、活性炭の微粉化による電極劣化を防ぐことができ、長期にわたり放電性能を維持することができる。つまり、保存特性を向上させることができる。
【0010】
[2]前記フッ素系結着剤が、溶融して前記活性炭の表面に被膜を形成していることを特徴とする手段1に記載の電気二重層キャパシタ。
【0011】
従って、手段2に記載の発明によると、フッ素系結着剤が活性炭の表面に溶融結着して被膜を形成しているため、その被膜を介して非水電解液を活性炭の表面全体に均一にかつ比較的大きい面積で接触させることができる。よって、耐過充電特性及び保存特性をより確実に向上させることができる。
【0012】
[3]前記フッ素系結着剤が、テトラフルオロエチエンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)であることを特徴とする手段1または2に記載の電気二重層キャパシタ。
【0013】
従って、手段3に記載の発明によると、FEPは連続使用温度100℃以上の耐熱性を有するフッ素樹脂であるため、これをフッ素系結着剤として用いた場合、例えばリフロー温度に耐えうる高温用の電気二重層キャパシタを比較的容易に得ることができる。また、FEPを使用した正極や負極であれば、高温時における非水電解液との反応が抑制されるため、微粉化による電極劣化や非水電解液の劣化なども未然に防止することができる。よって、電気二重層キャパシタの特性の低下が防止され、保存特性をより確実に向上させることができる。
【0014】
[4]前記有機溶媒がプロピレンカーボネート(PC)であることを特徴とする手段1乃至3のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ。
【0015】
従って、手段4に記載の発明によると、有機溶媒としてPCを選択することで、過充電時における有機溶媒の分解が抑制されやすくなる結果、キャパシタ内のガス発生が抑制される。よって、容器の膨れが防止されるとともに、放電容量の急激な低下等も防止される。このことは耐過充電特性の向上にも寄与する。
【0016】
[5]前記正極及び前記負極のうちの少なくとも一方が炭素導電剤を含むことを特徴とする手段1乃至4のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ。
【0017】
従って、手段5に記載の発明によると、正極や負極がさらに炭素導電剤を含んだものであると導電性が向上するため、大電流放電が期待できるようになる。また、このことは耐過充電特性の向上にも寄与する。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、手段1〜5に記載の発明によると、耐過充電特性及び保存特性に優れた電気二重層キャパシタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を具体化した一実施形態のコイン型の電気二重層キャパシタを示す概略断面図。
【図2】実施例で行った評価試験(放電容量維持率と保存日数との関係)の結果を示すグラフ。
【図3】実施例で行った評価試験(内部抵抗の相対値と保存日数との関係)の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をコイン型の電気二重層キャパシタに具体化した実施の形態を図1に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1に示されるように、本実施形態の電気二重層キャパシタ11は、非水電解液電気化学素子の一種であって、電気二重層という物理現象を利用して電荷を蓄えるタイプのデバイスである。この電気二重層キャパシタ11は、正極端子を兼ねる有底円筒状の正極缶(第1外装金属)12と、負極端子を兼ねる有底円筒状の負極缶(第2外装金属)13とを備えている。正極缶12及び負極缶13はともにステンレス製であり、これら部材により1つの容器17が構成されている。正極缶12の外縁部と負極缶13の外縁部との間には、隙間を密封封止するための合成樹脂製のガスケット15が挟み込まれて、かしめ付けられている。なお、本実施形態ではPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂製のガスケット15が使用されている。正極缶12及び負極缶13により形成される収容空間14内には、円盤状をした正極21(即ち、一方の分極性電極)、同じく円盤状をした負極22(即ち、他方の分極性電極)、セパレータ23が配置されている。正極21は正極導電塗料26上に支持されており、その正極導電塗料26を介して正極缶12の内面に接触するように設けられている。負極22は負極導電塗料27上に支持されており、その負極導電塗料27を介して負極缶13の内面に接触するように設けられている。セパレータ23は正極21と負極22とを隔離すべくそれらの間に介在されている。
【0022】
この電気二重層キャパシタ11における正極21及び負極22は、活物質としての活性炭と、フッ素系結着剤とを含む混合物からなる。この混合物にさらに炭素導電剤を加えたものを使用してもよい。ここで、活性炭としては、例えば、おが屑、椰子殻、ピッチ等に賦活処理を施して得られる粉末状活性炭を用いることができる。また、フェノール系、レーヨン系、アクリル系、ピッチ系等の繊維に不融化及び炭化賦活処理を施した活性炭を用いることもできる。これらのなかでも、椰子殻活性炭を選択することが耐過充電特性の向上の観点から特に好適である。
【0023】
炭素導電剤としては、例えば、鱗片状黒鉛や土状黒鉛等の天然黒鉛、人工黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維等を用いることができる。なかでも、導電性カーボンブラック類を使用することが好ましい。その具体例としては、チャンネルブラック、オイルファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等があるが、加電圧時に溶出するような不純物が少ないという点でアセチレンブラック(AB)を選択することが特に好ましい。その他、カーボンナノチューブ等の炭素材料を炭素導電剤として用いることも可能である。
【0024】
フッ素系結着剤(バインダ)としては、フッ素樹脂を主体とし、非水電解液に不溶のものを用いることができる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性PTFE、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体(ETFE)、フッ素ゴム等が挙げられる。フッ素系結着剤として、これらのなかの1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらのなかで特に好ましいものとしては、例えば連続使用温度100℃以上の耐熱性を有するFEP、ETFE等を挙げることができる。
【0025】
活性炭、炭素導電剤及びフッ素系結着剤を混合する場合、通常は活物質である活性炭を重量比で最も多くする一方、炭素導電剤及びフッ素系結着剤についてはそれよりも重量比で少なくする必要がある。電極材料において例えば活性炭は、60重量%〜99重量%混合され、好ましくは85重量%〜95重量%混合されることがよい。フッ素系結着剤に関しては、15重量%〜1重量%混合され、好ましくは8重量%〜3重量%混合されることがよい。その理由は、フッ素系結着剤が少なすぎても多すぎても、耐過充電特性の向上及び保存特性の向上が達成されにくくなるおそれがあるからである。
【0026】
そして、正極21及び負極22は、活性炭、導電剤、結着剤を混合したものを乾燥及びプレスして圧着作製することができる。
【0027】
この電気二重層キャパシタ11におけるセパレータ23は、非水電解液が通過しやすいこと、絶縁体であること、化学的に安定であること、という要件を満たす材料であれば特に制限されず、自由に選択することができる。その好適例としては、例えば、レーヨン系抄紙、ポリオレフィン系多孔質フィルム、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ガラス繊維不織布、セルロース等を挙げることができる。セパレータ23の厚みは限定されないが、例えば10μm〜250μm程度であることがよい。
【0028】
この電気二重層キャパシタ11における電解液としては、有機溶媒と、イオン液体の1種である第4級アンモニウム塩とを含む非水系の電解液を使用する必要がある。
【0029】
有機溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類等が用いられ、具体的には、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、2メチル−γ−ブチロラクトン、アセチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシエタン、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル、テトラヒドロフラン(THF)、アルキルテトラヒドロフラン、ジアルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、アルキル−1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、無水マレイン酸、スルホラン、3−メチルスルホラン等を挙げることができる。これらの物質は1種類だけ用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、PC、EC、BCといった環状炭酸エステルを選択することが好ましく、特に耐高電圧タイプの有機溶媒であるPCを選択することが好ましい。しかも、イオン液体と組み合わせる有機溶媒としてPCを選択することは、過充電時における有機溶媒の分解抑制につながる点で好ましい。
【0030】
第4級アンモニウム塩は、イオン液体としての性質を有する塩の一種である。「イオン液体」とは、一般に室温でも液体で存在する有機塩のことを指し、常温溶融塩(あるいは室温溶融塩)とも呼称されている。一般的にイオン液体は、優れた耐熱性を有する、不燃性を有する、粘度が比較的低い、支持電解質を加えなくても通電可能である、電位窓が広い、イオン伝導性が高い、というように電気化学素子材料として好ましい諸特性を有している。
【0031】
第4級アンモニウム塩としては、例えば、ピラゾリウム塩、ピリジニウム塩、トリアゾリウム塩、ピリダジニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、イミダゾリウム塩、などがある。なお、以下に挙げる第4級アンモニウム塩は1種類のみを使用してもよいほか、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
ピラゾリウム塩としては1,2−ジメチルピラゾリウムテトラフルオロボレート、1−メチル−2−エチルピラゾリウムテトラフルオロボレート、1−プロピル−2−メチルピラゾリウムテトラフルオロボレート、1−メチル−2−ブチルピラゾリウムテトラフルオロボレートなどを例示することができる。
【0033】
ピリジニウム塩としては、N−メチルピリジニウムテトラフルオロボレート、N−エチルピリジニウムテトラフルオロボレート、N−プロピルピリジニウムテトラフルオロボレート、N−ブチルピリジニウムテトラフルオロボレートなどを例示することができる。トリアゾリウム塩としては、1−メチルトリアゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチルトリアゾリウムテトラフルオロボレート、1−プロピルトリアゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチルトリアゾリウムテトラフルオロボレートなどを例示することができる。
【0034】
ピリダジニウム塩としては、1−メチルピリダジニウムテトラフルオロボレート、1−エチルピリダジニウムテトラフルオロボレート、1−プロピルピリダジニウムテトラフルオロボレート、1−ブチルピリダジニウムテトラフルオロボレートなどを例示することができる。
【0035】
テトラアルキルアンモニウム塩としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラプロピルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリメチルエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、ジメチルジエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリメチルプロピルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリメチルブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、ジメチルエチルプロピルアンモニウムテトラフルオロボレート、メチルエチルプロピルブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジメチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、N−エチル−N−メチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムテトラフルオロボレート、N−エチル−N−プロピルピロリジニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジメチルピペリジニウムテトラフルオロボレート、N−メチル−N−エチルピペリジニウムテトラフルオロボレート、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムテトラフルオロボレート、N−エチル− N−プロピルピペリジニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジメチルモルホリニウムテトラフルオロボレート、N−メチル−N−エチルモルホリニウムテトラフルオロボレート、N−メチル−N−プロピルモルホリニウムテトラフルオロボレート、N−エチル−N−プロピルモルホリニウムテトラフルオロボレートなどを例示することができる。
【0036】
イミダゾリウム塩としては、1,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,3−ジエチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどを例示することができる。
【0037】
カチオンとして第4級アンモニウムイオンを含むイオン液体におけるアニオンは、特に限定されず、上記のテトラフルオロホウ酸イオン以外のものから選択することもできる。上記アニオンの具体例としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、有機ホウ酸イオンなどがある。
【0038】
非水電解液における有機溶媒として例えばPCを選択した場合、PC及び第4級アンモニウム塩の比率(体積比)は、前者よりも後者を少なくすることが好ましく、具体的には70:30〜90:10とすることが好ましく、特には75:25〜85:15とすることがより好ましい。その理由は、PCが70体積%未満(第4級アンモニウム塩が30体積%超)であると、粘度が高くなり非水電解液としての使用に適さなくなる可能性があるからである。逆に、PCが90体積%超(第4級アンモニウム塩が10体積%未満)であると、第4級アンモニウム塩の使用によるPCの分解抑制効果を十分に得ることができなくなる可能性があるからである。
【0039】
以下、本実施形態を具体化した実施例について説明する。
【実施例】
【0040】
ここでは、表1に示すように、下記の8種類の電気二重層キャパシタ11を実際に作製した。
【0041】
実施例1の電気二重層キャパシタ11は、基本的に図1に示す構造を有している。正極21及び負極22としては、椰子殻活性炭、炭素導電剤としてのAB、フッ素系結着剤としてのFEPを90:5:5の重量比で混合したもの(即ちFEPを10重量%含むもの)を出発材料とした。これらを混合したものを乾燥及びプレスして正極21及び負極22をそれぞれ圧着作製した。これを、有機溶剤とともにペースト状にした正極導電塗料26、負極導電塗料27と接触するように容器17内に配置した。電気二重層キャパシタ11のセル外寸は、直径4.8mmφ×全高1.4mmとした。なお、電極作製にあたっては、FEPが椰子殻活性炭やABの表面に溶融結着して好適な被膜を形成するように工程途中で加熱を行った。非水電解液としては、有機溶媒としてのPCと、イオン液体である第4級アンモニウム塩(アニオン:テトラフルオロホウ酸イオン、カチオン:イミダゾリウムイオン)との混合物を用い、その体積比を80:20とした。
【0042】
実施例2の電気二重層キャパシタ11では、椰子殻活性炭、AB、FEPを90:7:3の重量比で混合したもの(即ちFEPを3重量%含むもの)を出発材料とし、正極21及び負極22を作製した。それ以外の事項については実施例1と同様とした。
【0043】
実施例3の電気二重層キャパシタ11では、椰子殻活性炭、AB、FEPを90:2:8の重量比で混合したもの(即ちFEPを8重量%含むもの)を出発材料とし、正極21及び負極22を作製した。それ以外の事項については実施例1と同様とした。
【0044】
実施例4の電気二重層キャパシタ11では、フッ素系結着剤としてFEPの代わりにETFEを使用し、これを5重量%混合した。それ以外の事項については実施例1と同様とした。
【0045】
実施例5の電気二重層キャパシタ11では、フッ素系結着剤としてFEPの代わりにPVFを使用し、これを5重量%混合した。それ以外の事項については実施例1と同様とした。
【0046】
比較例1の電気二重層キャパシタ11では、椰子殻活性炭、ABを95:5の重量比で混合したもの(即ちFEPを含まないもの)を出発材料とし、正極21及び負極22を作製した。それ以外の事項については実施例1と同様とした。
【0047】
比較例2の電気二重層キャパシタ11では、第4級アンモニウム塩以外のもの(ホスホニウム塩)を含むイオン液体とPCとの混合物である非水電解液を用いた。それ以外の事項については実施例1と同様とした。
【0048】
比較例3の電気二重層キャパシタ11では、現行品であるPCベースの有機溶媒(支持電解質としてLiClOを含む)を使用して第4級アンモニウム塩を全く含まない非水電解液とし、それ以外の事項については実施例1と同様とした。
【0049】
そして、上記構成の実施例1〜5及び比較例1〜3の電気二重層キャパシタ11を各々50個程度作製し、最高温度240℃のリフロー炉に投入した。次いで、常温常湿で24時間放置した後、試験前の放電容量と内部抵抗とを測定した。次に、長期保存時の耐過充電特性を調べるための試験として、高温環境下(60℃)にて3.3Vの電圧で連日充電を行った。その際、10日おきに放電容量と内部抵抗とを測定し、平均値を求めた。その結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例3についての放電容量の保存による推移を図2のグラフに示し、内部抵抗の保存による推移を図3のグラフに示す。
【表1】

【0050】
表1、図2から明らかなように、実施例1〜5では放電容量の低下が極めて小さくなり、しかも放電容量が急激に低下するようなこともなかった。また、これらのものにおいては、容器17の膨れ等も特に認められなかった。つまり、実施例1〜5のものは、優れた耐過充電特性を備えていることがわかった。これに対して、比較例1〜3では放電容量の低下が比較的大きかった。なかでも比較例3では放電容量の低下が最も多く、放電容量の急激な低下も認められた。そのため、比較例1〜3は、実施例1〜5ほど優れた耐過充電特性を備えていないことが明らかであった。ちなみに、比較例3の一部のものについては、容器17の膨れ等が認められた。
【0051】
また、実施例1では内部抵抗の上昇が比較的穏やかであったのに対し、比較例3では比較的早期から内部抵抗の急激な上昇が認められた(図3参照)。なお、具体的なデータは割愛するが、実施例2〜5については実施例1と同様の傾向が見られ、比較例1、2については比較例3と同様の傾向が見られた。従って、実施例1〜5のものは、長期にわたり好適な放電性能を維持できるということ、言い換えると優れた保存特性を備えていることがわかった。さらに、実施例1〜5のものにおける非水電解液は、比較的粘度も低くて好適な物性を備えていた。また、30日経過後に正極21及び負極22の観察を行ったところ、少なくとも実施例1〜5のものでは微粉化が好適に抑えられており、電極劣化が何ら認められなかった。
【0052】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態の電気二重層キャパシタ11では、フッ素系結着剤に対する非水電解液の濡れ性が改善される結果、非水電解液がフッ素系結着剤に弾かれにくくなり、活物質である活性炭と馴染みやすくなる。よって、過充電時においても正極21や負極22に対して非水電解液が効率よく作用し、放電容量の急激な低下等が防止され、耐過充電特性を向上させることができる。また、正極21や負極22の形成にあたりフッ素系結着剤の併用が可能となる結果、活物質である活性炭の結着性が高められる。よって、活性炭の微粉化による電極劣化を防ぐことができ、長期にわたり放電性能を維持することができる。つまり、保存特性を向上させることができる。
【0053】
(2)本実施形態の電気二重層キャパシタ11では、フッ素系結着剤であるFEPが活性炭の表面に溶融結着して被膜を形成している。そのため、その被膜を介して非水系電解液を活性炭の表面全体に均一にかつ比較的大きい面積で接触させることができる。よって、耐過充電特性及び保存特性をより確実に向上させることができる。
【0054】
(3)本実施形態の電気二重層キャパシタ11では、フッ素系結着剤としてFEPを用いている。FEPは連続使用温度100℃以上の耐熱性を有するフッ素樹脂であるため、これをフッ素系結着剤として用いた場合、230℃〜270℃程度のリフロー温度に耐えうる高温用の電気二重層キャパシタ11を比較的容易に得ることができる。つまり、耐過充電特性に優れた高品質なリフロー用の電気二重層キャパシタ11を実現することができる。また、FEPを使用した正極21や負極22であれば、高温時における非水電解液との反応が抑制されるため、微粉化による電極劣化や非水電解液の劣化なども未然に防止することができる。よって、電気二重層キャパシタ11の特性の低下が防止され、保存特性をより確実に向上させることができる。
【0055】
(4)本実施形態の電気二重層キャパシタ11では、有機溶媒としてPCを選択しているため、過充電時における有機溶媒の分解が抑制されやすくなる結果、キャパシタ内のガス発生が抑制される。よって、容器17の膨れが防止されるとともに、放電容量の急激な低下等も防止される。このことは耐過充電特性の向上にも寄与する。しかも、本実施形態では、PCと当該PCよりも体積比で少量の第4級アンモニウム塩とを含む非水電解液を用いている。このような組成物は、粘度がそれほど高くならないため、非水電解液としての使用に好適な性状を有するものとなる。また、本実施形態では、正極21及び負極22の両方が活性炭と炭素導電剤とを含む混合物からなるものとしている。そして、これらが上記組成の非水電解液の下で機能することも、耐過充電特性の向上を図るうえで貢献していると考えられる。特にここでは、活性炭として椰子殻活性炭を選択し、炭素導電剤としてABを選択していることから、大電流放電が期待できるとともに、耐過充電特性及び保存特性をより確実に向上することができるものと考えられる。
【0056】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、本発明をコイン型の電気二重層キャパシタとして具体化したが、これに代えて円筒型の電気二重層キャパシタ、角型の電気二重層キャパシタ、ラミネート型の電気二重層キャパシタとして具体化してもよい。
【0058】
・上記実施形態では、正極21及び負極22の両方について活性炭とフッ素系結着剤とを含む混合物からなるものとしたが、正極21のみまたは負極22のみを上記混合物からなるものとしてもよい。
【0059】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
(1)上記手段1乃至5のいずれか1項において、前記電気二重層キャパシタはリフロー用の電気二重層キャパシタであること。
(2)上記手段1乃至5のいずれか1項において、前記電気二重層キャパシタはコイン型をしたリフロー用の電気二重層キャパシタであること。
(3)上記手段5において、前記炭素導電剤がアセチレンブラック(AB)であること。
(4)上記手段1乃至5のいずれか1項において、前記活性炭が椰子殻活性炭であること。
(5)上記手段1乃至5のいずれか1項において、前記有機溶媒が環状炭酸エステルであること。
(6)上記手段1乃至5のいずれか1項において、前記非水電解液が、有機溶媒と前記有機溶媒よりも体積比で少量の第4級アンモニウム塩とを含むこと。
(7)容器内に正極、負極、セパレータ及び非水電解液を収容した電気二重層キャパシタにおいて、前記正極及び前記負極の両方が、椰子殻活性炭と炭素導電剤としてのアセチレンブラックとフッ素系結着剤とを含む混合物からなり、前記非水電解液が、有機溶媒としてのプロピレンカーボネートと第4級アンモニウム塩とを含むことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【符号の説明】
【0060】
11…電気二重層キャパシタ
17…容器
21…正極
22…負極
23…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に正極、負極、セパレータ及び非水電解液を収容した電気二重層キャパシタにおいて、
前記正極及び前記負極のうちの少なくとも一方が活性炭とフッ素系結着剤とを含む混合物からなり、前記非水電解液が、有機溶媒と第4級アンモニウム塩とを含むことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項2】
前記フッ素系結着剤が、溶融して前記活性炭の表面に被膜を形成していることを特徴とする請求項1に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項3】
前記フッ素系結着剤が、テトラフルオロエチエンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項4】
前記有機溶媒がプロピレンカーボネートであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項5】
前記正極及び前記負極のうちの少なくとも一方が炭素導電剤を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−212742(P2012−212742A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76907(P2011−76907)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000177081)FDK鳥取株式会社 (28)
【Fターム(参考)】