説明

電気光学素子、電気光学素子の製造方法及び走査型光学装置

【課題】大きな偏角を得ることができるとともに、省電力化を図ることが可能な電気光学素子、電気光学素子の製造方法及び走査型光学装置を提供すること。
【解決手段】内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって入射されたレーザ光を走査する光学素子13,23と、該光学素子13,23の対向する2つの面にそれぞれ配置された第1電極11,21及び第2電極12,22とを備え、光学素子13,23が射出端面20bから入射端面10aに向かって第1電極11,21と前記第2電極12,22との間の電極間距離Q,Pが連続的または段階的に小さくなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学素子、電気光学素子の製造方法及び走査型光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光などのビーム状の光を被投射面上でラスタースキャンして画像を表示する走査型画像表示装置が提案されている。この装置では、レーザ光の供給を停止することで完全な黒を表現できるため、例えば液晶ライトバルブを用いたプロジェクタ等に比べて高コントラストの表示が可能である。また、レーザ光を使用した画像表示装置は、レーザ光が単一波長であるために色純度が高い、コヒーレンスが高いためにビームを整形しやすい(絞りやすい)等の特性を持つことから、高解像度、高色再現性を実現する高画質ディスプレイとして期待されている。また、走査型画像表示装置は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどと異なり、固定された画素を持たないため、画素数という概念がなく、解像度を変換し易いという利点も持っている。
【0003】
走査型画像表示装置で画像を生成するには、ポリゴンミラー、ガルバノミラーなどのスキャナを用いて光を2次元に走査する必要がある。1個のスキャナを水平方向、垂直方向の2方向に振りつつ光を2次元に走査する方法もあるが、その場合、走査系の構成や制御が複雑になるという問題がある。そこで、光を1次元に走査するスキャナを2組用意し、各々に水平走査と垂直走査を受け持たせるようにした走査型画像表示装置が提案されている。従来は、双方のスキャナともにポリゴンミラーやガルバノミラーを使用するのが普通であり、双方のスキャナに回転多面鏡(ポリゴンミラー)を用いた投写装置が下記の特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平1−245780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1ではポリゴンミラーを用いた装置が紹介されているが画像フォーマットの高解像度化に伴い、スキャン周波数も高くなってきており、ポリゴンミラーやガルバノミラーでは限界を迎えつつある。そこで、近年、高速側のスキャナにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したシステムが発表されている。MEMS技術を利用したスキャナ(以下、単にMEMSスキャナという)とは、シリコン等の半導体材料の微細加工技術を用いて製作するものであり、トーションバネ等で支持したミラーを静電力等により駆動するものである。このスキャナは、静電力とバネの復元力との相互作用でミラーを往復運動させて、光を走査することができる。MEMSスキャナを用いることにより、従来のスキャナに比べて高周波数、大偏角のスキャナを実現することができる。これにより、高解像度の画像を表示することが可能になる。
【0005】
ところで、高速のMEMSスキャナを実現するには、ミラーを共振点で往復運動させなければならないため、光利用効率などを考えると、走査線が視聴者から見て左から右へスキャンした後に、次の走査線は右から左にスキャンする(両側スキャン)システムとなる。
一方、画像信号はCRT(Cathode Ray Tube)をベースに規格が決まっているため、左から右へスキャンした後は短い時間で左に戻り、再度右へスキャンする(片側スキャン)に合わせたフォーマットとなっている。したがって、MEMSスキャナの場合、一部のデータは入力された信号の順番を反転して表示しなければならないため、信号の制御が複雑となる。
そこで、MEMSスキャン以外の走査手段としては、電気光学(EO:Electro Optic)スキャナが考えられる。EOスキャナとはEO結晶に電圧を加えることにより、その結晶中を透過する光の進行方向を変える素子である。このようにEOスキャナでは、電圧によりスキャン角を制御できるので、CRTと同様に片側スキャンによる描画が可能となる。
【0006】
また、EOスキャナとは、EO結晶が一対の電極に挟持されており、この電極に電圧を印加することにより電子が注入され電子分布に偏りが生じる。そのため、カー効果による屈折率変化にも分布が生じ、入射された光が屈折率の高い側に曲がっていくので、光の走査を可能にしている。また、EO結晶内部の屈折率分布の傾きが、電子注入量、つまり、印加電圧によるため、印加電圧を変化させることで、EO結晶から射出される光のスキャン角度を制御することができる。
【0007】
このようなEOスキャナには、以下の課題が残されている。
EO結晶は、射出される光の偏角と、内部に生じる電界強度とには相関があるが、有効な偏角を得るために必要な電界強度は極めて高い。それ故に、大きな電界強度を効率良く得るためには電極間の距離を狭くする必要が生じる。しかしながら、EOスキャナの構造上、電極間は走査される光の光路にもあたるため、あまり狭くすると内部を進行するレーザ光が電極に当たってしまい、EO結晶の射出端面から光が射出されないという問題が生じる。また、EO結晶の射出端面から射出されたとしても、電極間が狭い、すなわち、厚みの薄いEO結晶では、大きな偏角を得ることができない。すなわち、構造上、電界強度の効率の向上と、偏角の増大との両立は困難である。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、大きな偏角を得ることができるとともに、省電力化を図ることが可能な電気光学素子、電気光学素子の製造方法及び走査型光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の電気光学素子は、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって入射されたレーザ光を走査する光学素子と、該光学素子は、対向する第1電極及び第2電極とを備え、前記光学素子が射出端面から入射端面に向かって前記第1電極と前記第2電極との間の電極間距離が連続的または段階的に小さくなることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る電気光学素子では、第1電極及び第2電極に電圧を印加することにより光学素子に電界が生じる。この電界により、光学素子の屈折率分布が一方向に向かって連続的に増加あるいは減少する。このため、光学素子の内部に生じる電界と垂直な方向に進行するレーザ光は、屈折率が低い側から高い側に向かって曲げられる。
本発明の電気光学素子においては、光学素子が射出端面から入射端面に向かって第1電極と第2電極との間の電極間距離が連続的または段階的に小さくなっている。すなわち、光学素子の入射端面側を進行するレーザ光は、射出端面側を進行するレーザ光に比べてそれほど偏向されていないため、入射端面側の第1電極と第2電極との間の電極間距離を射出端面側に比べて短くしても、第1電極及び第2電極がレーザ光の進路を妨げることはない。したがって、入射端面から射出端面に向かって、第1電極と第2電極との間の電極間距離が一定である光学素子に比べて、印加する電圧が小さくて良いため、同じ走査角(偏角)を得るのに必要な消費電力を抑制することが可能となる。
【0011】
また、本発明の電気光学素子は、前記光学素子が複数の素子部からなり、各該素子部の前記電極間距離は一定であるとともに、前記素子部同士の前記電極間距離は異なり、前記電極間距離が相対的に短い素子部を前記入射端面側から順に、接触させ配置したことが好ましい。
【0012】
本発明に係る電気光学素子では、光学素子が複数の素子部からなるため、射出端面から射出されるレーザ光の偏角に応じた電極間距離となる光学素子を用いれば良い。したがって、適切な電極間距離となるような素子部を備えることで、より省電力化を図ることが可能となる。
【0013】
また、本発明の電気光学素子において、前記複数の素子部には、個々に電圧が印加されることが好ましい。
本発明に係る電気光学素子では、複数の素子部には、個々に電圧が印加されるため、個々に素子部の制御が可能となる。したがって、複数の素子部の内部の屈折率勾配を個々に調整することが可能となる。
【0014】
また、本発明の電気光学素子において、前記複数の素子部には、前記素子部同士の境界面と該境界面を通過するレーザ光の中心軸との交点を含む前記境界面に直交する面内の屈折率を略一致させるような電圧が印加されることが好ましい。
【0015】
本発明に係る電気光学素子では、複数の素子部には、素子部同士の境界面と、該境界面を通過するレーザ光との交点を含む境界面に直交する面内の屈折率を略一致させるような電圧を印加する。これにより、光学素子の内部を進行するレーザ光が隣接する素子部の境界面を通過する際、境界面において屈折することがない。したがって、レーザ光のビーム径が太くなることがないため、同じ大きさ(一定の大きさ)のビーム径のレーザ光を走査することができるので、高精度なレーザ光の走査を行うことが可能となる。さらに、例えば、本発明の走査型光学装置を画像表示装置として用いた場合、各画素の大きさが変わることがないので、高画質な画像を被投射面に表示させることが可能となる。
【0016】
また、本発明の電気光学素子において、前記複数の素子部は、前記第1電極が配置された面あるいは前記第2電極が配置された面が同一面上に配置されていることが好ましい。
本発明に係る電気光学素子では、複数の素子部は、第1電極が配置された面あるいは第2電極が配置された面が同一面上に配置すれば良いため、複数の素子部のアライメントが容易となる。
【0017】
また、本発明の電気光学素子は、前記光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することが好ましい。
本発明に係る電気光学素子では、光学素子が、高い誘電率を有する誘電体材料であるKTa1−xNb3(タンタル酸ニオブ酸カリウム)の組成を有する結晶である(以下、KTN結晶と称す)。KTN結晶は、立方晶から正方晶さらに菱面体晶へと温度により結晶系を変える性質を有しており、立方晶においては、大きい2次の電気光学効果を有することが知られている。特に、立方晶から正方晶への相転移温度に近い領域では、比誘電率が発散する現象が起こり、比誘電率の自乗に比例する2次の電気光学効果はきわめて大きい値となる。したがって、KTa1−xNb3の組成を有する結晶は、他の結晶に比べて屈折率を変化させる際に必要になる印加電圧を低く抑えることが可能となる。これにより、省電力化を実現可能な電気光学素子を提供することが可能となる。
【0018】
上記の電気光学素子の製造方法であって、前記素子部を個別に形成し、前記素子部同士を接着することを特徴とする。
本発明に係る電気光学素子の製造方法では、素子部を個別に形成することにより、素子部として誘電体結晶を用いた場合、結晶から複数の素子部を切断する際、取り個数を多くすることができる。すなわち、第1電極と第2電極との間の電極間距離が段階的に大きくなる光学素子を一体に形成すると、切れ端が生じ結晶に無駄が出てしまう。しかしながら、本発明のように、素子部を個別に形成することにより、結晶には切れ端がなく素子部を製造することができる。これにより、素子部の無駄を省くことができるため、歩留まりの向上も期待できる。
【0019】
本発明の走査型光学装置は、レーザ光を射出する光源装置と、該光源装置から射出したレーザ光を被投射面に向けて走査する走査手段とを備え、該走査手段が、上記の電気光学素子を有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る走査型光学装置では、光源装置から射出した光は、走査手段により被投射面に向けて走査される。このとき、上述したように、偏角の大きい電気光学素子を用いることにより、高解像度に対応可能な走査手段を用いた走査型光学装置となる。したがって、省電力化を図りつつ、画質の劣化を生じさせることなく画像をより鮮明に被投射面に表示できる走査型光学装置を得ることが可能となる。
【0021】
また、本発明の走査型光学装置は、前記電気光学素子が、水平走査を行うことが好ましい。
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子が水平走査を行い、垂直走査として例えば、安価なポリゴンミラー等を用いることにより、安価かつ高性能な走査型光学装置を実現することができる。
なお、ここで言う「水平走査」とは、2方向の走査のうち、高速側の走査であり、垂直走査とは低速側の走査である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る電気光学素子、電気光学素子の製造方法及び走査型光学装置の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0023】
[第1実施形態]
電気光学素子1は、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、内部を進行するレーザ光を走査するものである。具体的には、電気光学素子1は、図1に示すように、レーザ光が入射する入射端面10aを有する第1電気光学素子10と、レーザ光が射出する射出端面20bを有する第2電気光学素子20とを備えている。この第1電気光学素子10及び第2電気光学素子20は、それぞれの中心軸10c,20cが一致するように、第1電気光学素子10の射出端面10bと第2電気光学素子20の入射端面20aとが接触して配置されている。
また、第1電気光学素子10と第2電気光学素子20とは、構成は同一であり、大きさ及び印加される電圧が異なるため、構成については第1電気光学素子10についてのみ説明する。
【0024】
第1電気光学素子10は、第1電極11と、第2電極12と、光学素子(素子部)13とを備えている。
光学素子13は、電気光学効果を有する誘電体結晶(電気光学結晶)であり、本実施形態ではKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1−xNb3)の組成を有する結晶材料で構成されている。また、光学素子13は、立方体状であり光学素子13の上面(一方の面)13aには第1電極11が形成され、下面(反対の面)13bには第2電極12が形成されている。この第1電極11及び第2電極12には、電圧を印加する電源E1が接続されている。また、第1電極11及び第2電極12は、図1に示すように、光学素子13内を進行するレーザ光Lの進行方向の寸法がほぼ同じである。これにより、第1電極11と第2電極12との間の光学素子13に電界が生じるようになっている。例えば、第1電極11に−100Vの電圧が印加され第2電極12に0Vの電圧が印加されると、第2電極12から第1電極11に向かって(矢印Aに示す方向)電界が生じ、第1電極11に+100Vの電圧が印加され第2電極12に0Vの電圧が印加されると、第1電極11から第2電極12に向かって(矢印Cに示す方向)電界が生じるようになっている。
また、第1電極11と第2電極12間との電極間距離、すなわち、光学素子13の電界方向A,Cの寸法をPとする。
【0025】
次に、第1電気光学素子に印加される電圧波形について説明する。
電源E1により第1電極11に印加される電圧の波形は、例えば、図2の一点鎖線で示すように、鋸歯状の波形W1である。第1電極11には、初期電圧値S1a(例えば、−100V)から0Vまで徐々に下がる電圧を印加し、0Vから最大電圧値S2a(例えば、+100V)まで徐々に上がる電圧を印加する。また、第1電極11に印加される電圧が最大電圧値S2aになると、初期電圧値S1aが印加される。また、第1電極11に印加される電圧が0Vのときの光学素子13から射出されるレーザ光の光路をOとする。なお、第2電極12に印加される電圧は0Vに固定されている。
【0026】
次に、第2電気光学素子について説明する。
第2電気光学素子20は、第1電気光学素子10と同様の第1電極21と、第2電極22と、立方体状の光学素子(素子部)23とを備えている。この第1電極21は光学素子23の上面23aに形成され、第2電極22は光学素子23の下面23bに形成されている。また、この第1電極21及び第2電極22には、電圧を印加する電源E2が接続されており、第2電極22に印加される電圧は0Vに固定されている。
さらに、第1電極21と第2電極22との間の電極間距離、すなわち、光学素子23の電界方向A,Cの寸法をQとすると、光学素子13の寸法Pは、光学素子23の寸法Qの約半分となっている。
【0027】
次に、第2電気光学素子に印加される電圧波形について説明する。
電源E2により第1電極21に印加される電圧の波形は、例えば、図2の破線で示すように、鋸歯状の波形W2である。この波形W2は、波形W1と同一の位相であり、振幅(初期電圧値S1b,最大電圧値S2b)が異なる。
すなわち、第1電極21には、初期電圧値S1b(例えば、−200V)から0Vまで徐々に下がる電圧を印加し、0Vから最大電圧値S2b(例えば、+200V)まで徐々に上がる電圧を印加する。また、第1電極11に印加される印加電圧が最大電圧値S2bになると、初期電圧値S1bが印加される。
【0028】
電気光学素子の製造方法について説明する。
平板状のKTN結晶から第1電気光学素子10の光学素子13の大きさに対応する結晶を切り取る。また別の平板状のKTN結晶から第2電気光学素子20の光学素子23の大きさに対応する結晶を切り取る。そして、光学素子13の上面13a及び下面13bに、蒸着あるいはスパッタ等により第1電極11及び第2電極12を形成する。同様に、光学素子23の上面23a及び下面23bにも第1電極21及び第2電極22を形成する。その後、第1電気光学素子10と第2電気光学素子20とを光学接着剤により貼り合わせる。また、光学接着剤としては光学素子13及び光学素子23の屈折率に近いものが好ましい。これにより、第1電気光学素子10から第2電気光学素子20に向かうレーザ光が、光学接着剤で反射するのを防止することができるので、電気光学素子1の内部に迷光が発生するのを抑制することが可能となる。
なお、第1電気光学素子10と第2電気光学素子20との接合は接着剤を介さない直接接合であっても良い。
【0029】
次に、電気光学素子1から射出されるレーザ光の走査について説明する。
この電源E1及び電源E2により、第1電極11及び第1電極21に印加する電圧を変化させることで、第2電気光学素子20の射出端面20bから射出されるレーザ光は、光路Oを基準にスキャン範囲(走査範囲)内を1次元方向に走査される。
具体的には、第1電気光学素子10の第1電極11に初期電圧値−100Vの電圧が印加され、第2電気光学素子20の第1電極21に初期電圧値−200Vの電圧が印加されると、図1に示すように、第1電気光学素子10及び第2電気光学素子20には、矢印Aに示す方向に電界が生じる。これにより、光学素子13を進行するレーザ光Lは、第1電極11側に曲げられ、射出端面10bより射出される。そして、レーザ光L1は、第1電気光学素子10と第2電気光学素子20との境界面Kにおいて屈折することなく、第2電気光学素子20の入射端面20aより入射する。第2電気光学素子20に入射したレーザ光L1は、光学素子23に生じる電界により第1電極21側に曲げられ射出端面20bより射出される。
【0030】
そして、第1電極11に初期電圧値−200Vから0Vまで徐々に電圧が印加され、第1電極21に初期電圧値−100Vから0Vまで徐々に電圧が印加される。これにより、光学素子13及び光学素子23を進行するレーザ光は、スキャン範囲の中央に向かって照射し、徐々に小さな偏角で第2電気光学素子20の射出端面20bから射出される。その後、第1電気光学素子10の第1電極11及び第2電気光学素子20の第1電極21に印加される電圧が0Vとなると、第2電気光学素子20の射出端面20bから射出されたレーザ光L2は、光路O上を進行しスキャン範囲の中央部分を照射する。
【0031】
次いで、第1電極11に0Vから+100Vまで徐々に電圧が印加され、第1電極21に0Vから+200Vまで徐々に電圧が印加される。これにより、光学素子13及び光学素子23の内部に生じる電界方向は矢印Cとなり、光学素子13及び光学素子23の内部を進行するレーザ光は第2電極12及び第2電極22側に曲げられる。そして、光学素子13及び光学素子23の内部を進行するレーザ光は、徐々に大きな偏角で第2電気光学素子20の射出端面20bから射出される。
その後、第1電極11に最大電圧値+100Vの電圧が印加され、第1電極21に+200Vの電圧が印加される。これにより、光学素子13及び光学素子23の内部を進行するレーザ光L3は、射出端面20bから射出され、スキャン範囲の端部に到達する。
【0032】
次に、従来の電気光学素子と本発明の電気光学素子とを比較する。
従来の電気光学素子100は、図3に示すように、入射端面100aから射出端面100bまでの幅が一定(第2電気光学素子と同じ寸法Q)である光学素子103を有し、本実施形態の電気光学素子1と同様に、光学素子103には第1電極101及び第2電極102が形成されている。ここで、従来の電気光学素子100の第1電極101に−200Vから+200Vの電圧を印加し、本実施形態の電気光学素子1の第1電極11及び第1電極21にも−200Vから+200Vの電圧を印加する。このとき、本実施形態の電気光学素子1から射出されるレーザ光(実線)のスキャン範囲は、同じ電圧が印加されていても寸法の小さい光学素子13の方が屈折率変化が大きくなるので、従来の電気光学素子100から射出されるレーザ光(破線)のスキャン範囲に比べて大きくなる。すなわち、本実施形態の電気光学素子1において、従来の電気光学素子100と同じ偏角量にするためには、第1電極11及び第2電極21に印加する電圧を第1電極101に印加する電圧に比べて小さくて済むことになる。
【0033】
本実施形態に係る電気光学素子1では、光学素子23、光学素子13の順に段階的に小さくなる構成、すなわち、光学素子23と、この光学素子23の寸法Qに比べて小さい寸法Pの光学素子13とが接触して設けられた構成になっている。つまり、内部を進行するレーザ光の偏角量が小さい入射端面10a側の光学素子13の寸法Pを小さくても、第1,第2電極11,12がレーザ光の進路を妨げることがない。したがって、光学素子13の寸法Pが小さくしても射出端面20bよりレーザ光を射出させることができるので、従来の電気光学素子100と同じ走査角(偏角)を得るには、第1電極11及び第1電極21に印加する電圧が小さくて済む。これにより、電気光学素子1の駆動に要する消費電力を抑制することが可能となる。
つまり、本実施形態の電気光学素子1は、大きな偏角を得ることができるとともに、省電力化を図ることが可能な可能である。
【0034】
なお、本実施形態では、第1電気光学素子10及び第2電気光学素子20を用い、電気光学素子1として2段構成にしたが、3つ以上の素子部を設け多段構成にしても良い。このように、素子部を3つ以上設けることにより、各素子部の電極に印加する電圧をさらに細かく制御することができる。したがって、入射端面側の素子部の寸法をさらに小さくすることができるため、電極に印加される電圧をより小さくすることが可能となる。したがって、電極に効率良く電圧を印加することができるため、電気光学素子全体として更なる消費電力の抑制が期待できる。
また、第1電気光学素子10の第1電極11及び第2電気光学素子20の第1電極21に同一の電圧を印加する場合は、電源E1及び電源E2を別々に設けず、共通の電源を備えても良い。これにより、本実施形態の電気光学素子1から射出されるレーザ光(実線)のスキャン範囲は、従来の電気光学素子と同じ電圧が印加されていても寸法の小さい光学素子13の方が屈折率変化が大きくなるので、従来の電気光学素子100から射出されるレーザ光(破線)のスキャン範囲に比べて大きくなる。
また、光学素子13と光学素子23とを一体となるように形成しても良い。
また、第1電気光学素子10と第2電気光学素子20とは接触された構成としたが、必ずしも接触していなくても良い。すなわち、後段のスキャナ(本実施形態では第2電気光学素子20)の電極にレーザ光が妨げられない程度に、第1電気光学素子10と第2電気光学素子20とが離間して配置されていても良い。
【0035】
[第1実施形態の変形例1]
図1に示す第1実施形態では、第1電気光学素子10の中心軸10cと第2電気光学素子20の中心軸20cとを一致させたが、光学素子13の上面13aと光学素子23の上面23aとが同一面上(面一)となる電気光学素子30であっても良い。このような変形例1について、図4を参照して説明する。
この構成では、図4に示すように、レーザ光は第1電気光学素子10の入射端面10aの第1電極11に近い側から入射される。これにより、本変形例1の電気光学素子30は、入射したレーザ光を基準に片側に走査する片側走査を行う。つまり、第1,第2電気光学素子10,20の屈折率分布により、光学素子13,23に入射したレーザ光は第2電極12,22側のみに曲げられる。これにより、光学素子13の第1電極11に近い側からレーザ光を入射させることにより、スキャン範囲を大きく取ることが可能となっている。
このように、本変形例1の電気光学素子30では、第1電気光学素子10及び第2電気光学素子20が、光学素子13の上面13aと光学素子23の上面23aとが同一面上になるように配置されているため、第1電気光学素子10と第2電気光学素子20とのアライメントが容易となる。
【0036】
なお、光学素子13の下面13bと光学素子23の下面23bとがが同一面上になるように、第1電気光学素子10と第2電気光学素子20とを配置しても良い。この構成の場合、入射端面10aの第2電極12に近い側からレーザ光を入射させることによりスキャン範囲を大きく取ることが可能となる。
【0037】
[第1実施形態の変形例2]
また、図1に示す第1実施形態では、入射端面10a側の光学素子13の寸法Pは、射出端面20b側の光学素子23の寸法Qに比べて小さくなる構成、すなわち、段階的に小さくなる構成にしたが、連続的に小さくなる電気光学素子35であっても良い。このような変形例2について、図5を参照して説明する。
すなわち、電気光学素子35は、図5に示すように、射出端面35bから入射端面35aに向かって、第1電極36と第2電極37との間の電極間距離が連続的に小さくなる光学素子38を備えている。また、第1電極36はレーザ光の進行方向に複数の電極部36a,36b,36cを有している。第2電極37も同様に複数の電極部37a,37b,37cを有している。この構成により、第1電極36には、電極部36a,36b,36cの順に大きな電圧が印加されるようになっている。
このような光学素子38として、例えば、スキャン範囲の端部に到達するレーザ光の軌跡に沿った形状にすることで、光学素子38の大きさを最小限に抑えることが可能となる。なお、光学素子38の形状としては、中心軸に対して垂直な断面形状が矩形に限らず円形状であっても良い。
【0038】
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態について、図6を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上述した第1実施形態に係る電気光学素子1と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態に係る電気光学素子40では、第1電極11及び第2電極21に印加する電圧の点で第1実施形態と異なる。
【0039】
まず、図6に示すように、第1電気光学素子10と第2電気光学素子20との境界面Kと、境界面Kを通過するレーザ光Lの中心軸O1との交点を含む境界面Kに直交する面をMとする。
そして、第1電気光学素子10の第1電極11及び第2電気光学素子20の第1電極21には、面Mでの光学素子13の屈折率と光学素子23の屈折率とが略一致するような電圧が印加されるようになっている。
ここで、面Mにおいて光学素子13と光学素子23との屈折率が一致しない電圧が第1電極11,21に印加される場合、レーザ光は、図6の破線に示すように、光学素子13と光学素子23との屈折率の違いにより、第2電気光学素子20を進行するレーザ光のビーム径N1は次第に大きくなる。すなわち、本実施形態のように屈折率が一致する場合のビーム径N2は一定であるのに対し、ビーム径N1は大きくなってしまうため、このような電気光学素子を例えば画像表示装置に用いると、画素ごとの大きさにバラツキが生じてしまう。
【0040】
具体的には、第1電極11に初期電圧値−100Vの電圧が印加され、第1電極21に初期電圧値−200Vの電圧が印加されると、図6に示すように、第1電気光学素子10及び第2電気光学素子20には、矢印Aに示す方向に電界が生じる。これにより、光学素子13を進行するレーザ光Lは、第1電極11側に曲げられ、射出端面10bより射出される。そして、レーザ光Lは、第1電気光学素子10及び第2電気光学素子20の境界面Kにおいて屈折することなく、第2電気光学素子20の入射端面20aより入射する。第2電気光学素子20に入射したレーザ光は、光学素子23に生じる電界により第1電極21側に曲げられ射出端面20bより射出される。
【0041】
本実施形態に係る電気光学素子40では、第1実施形態の電気光学素子1と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の電気光学素子20では、光学素子13の内部を進行するレーザ光Lが、隣接する光学素子23との境界面Kを通過する際、境界面Kにおいて屈折することがない。したがって、レーザ光のビーム径が太くなることがないため、同じ大きさ(一定の大きさ)のビーム径のレーザ光を走査することができるので、高精度なレーザ光の走査を行うことが可能となる。さらに、例えば、本発明の電気光学素子40を画像表示装置として用いた場合、画素ごとの大きさにバラツキが生じないため、高画質な画像を被投射面に表示させることが可能となる。
【0042】
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3実施形態について、図7を参照して説明する。
本実施形態では、上記第1実施形態の電気光学素子1を走査手段として備える画像表示装置(走査型光学装置)50について説明する。
【0043】
本実施形態に係る画像表示装置50は、図7に示すように、赤色のレーザ光を射出する赤色光源装置(光源装置)50Rと、緑色のレーザ光を射出する緑色光源装置(光源装置)50Gと、青色のレーザ光を射出する青色光源装置(光源装置)50Bと、クロスダイクロイックプリズム51と、クロスダイクロイックプリズム51から射出されたレーザ光をスクリーン55の水平方向に走査する電気光学素子1と、電気光学素子1から射出されたレーザ光をスクリーン55の垂直方向に走査するガルバノミラー52と、ガルバノミラー52から走査されたレーザ光が投影されるスクリーン(被投射面)55とを備えている。
【0044】
次に、以上の構成からなる本実施形態の画像表示装置50を用いて、画像をスクリーン55に投射する方法について説明する。
各光源装置50R,50G,50Bから射出されたレーザ光は、クロスダイクロイックプリズム51で合成され電気光学素子1に入射する。電気光学素子1に入射したレーザ光は、スクリーン55の水平方向に走査され、ガルバノミラー52により垂直方向に走査されてスクリーン55に投影される。
【0045】
本実施形態に係る画像表示装置50では、走査手段として偏角の大きい電気光学素子1を用いているため、DCI(Digital Cinema Initiatives)仕様の4k等の解像度に対応可能となる。したがって、省電力化を図りつつ、画質の劣化を生じさせることなく、画像をより鮮明にスクリーンに表示させることができる。
しかも、電気光学素子1からなる走査手段は、MEMSスキャナより高速に走査することができるため、本実施形態のように、水平走査として電気光学スキャナを用い、走査自由度が高い垂直走査としてガルバノミラー52(動くことにより光を反射させる可動型の走査手段)を用いることにより、高性能な画像表示装置の実現が期待できる。なお、ガルバノミラー52に代えて、可動型の走査手段の一つである安価なポリゴンミラーにより走査を行っても良い。安価なポリゴンミラーを使用することで、コストを抑えつつ高性能な画像表示を行うことが可能となる。
【0046】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態において、光学素子としてKTN結晶を例に挙げて説明したが、これに限ることはなく、屈折率が線形的に変化する素子であれば良い。例えば、LiNbO(ニオブ酸リチウム)等の電気光学効果を有する誘電体結晶であっても良いが、LiNbO3等の組成を有する結晶は、KTN結晶に比べて走査偏角が小さく、また、駆動電圧が高いため、KTN結晶を用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電気光学素子を示す要部断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電気光学素子の電気光学素子の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【図3】本発明の電気光学素子と従来の電気光学素子とのスキャン範囲を比較した要部断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る電気光学素子の変形例を示す要部断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る電気光学素子の他の変形例を示す要部断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電気光学素子を示す要部断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る走査型光学装置を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0048】
K…境界面、M…面、1,30,35,40…電気光学素子、10…第1電気光学素子(素子部)、10a…入射端面、11,21…第1電極、12,22…第2電極、13,23,38…光学素子、20…第2電気光学素子(素子部)、20b…射出端面、50…画像表示装置(走査型光学装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって入射されたレーザ光を走査する光学素子と、
該光学素子は、対向する第1電極及び第2電極とを備え、
前記光学素子が射出端面から入射端面に向かって前記第1電極と前記第2電極との間の電極間距離が連続的または段階的に小さくなることを特徴とする電気光学素子。
【請求項2】
前記光学素子が複数の素子部からなり、
各該素子部の前記電極間距離は一定であるとともに、前記素子部同士の前記電極間距離は異なり、
前記電極間距離が相対的に短い素子部を前記入射端面側から順に、接触させ配置したことを特徴とする請求項1に記載の電気光学素子。
【請求項3】
前記複数の素子部には、個々に電圧が印加されることを特徴とする請求項2に記載の電気光学素子。
【請求項4】
前記複数の素子部には、前記素子部同士の境界面と該境界面を通過するレーザ光の中心軸との交点を含む前記境界面に直交する面内の屈折率を略一致させるような電圧が印加されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電気光学素子。
【請求項5】
前記複数の素子部は、前記第1電極が配置された面あるいは前記第2電極が配置された面が同一面上に配置されていることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の電気光学素子。
【請求項6】
前記光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電気光学素子。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の電気光学素子の製造方法であって、
前記素子部を個別に形成し、前記素子部同士を接着することを特徴とする電気光学素子の製造方法。
【請求項8】
レーザ光を射出する光源装置と、
該光源装置から射出したレーザ光を被投射面に向けて走査する走査手段とを備え、
該走査手段が、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電気光学素子を有することを特徴とする走査型光学装置。
【請求項9】
前記電気光学素子が、水平走査を行うことを特徴とする請求項8に記載の走査型光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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