説明

電気光学素子及び走査型光学装置

【課題】大きな偏角を得ることができるとともに、省電力化を図ることが可能な電気光学素子及び走査型光学装置を提供すること。
【解決手段】内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって入射されたレーザ光を走査する光学素子13と、該光学素子13の対向する2つの面にそれぞれ配置された第1電極11及び第2電極12とを備え、第1電極11及び第2電極12のうち少なくとも一方の電極が透明電極であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学素子及び走査型光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の投射型画像表示装置では、光源として超高圧水銀ランプなどの放電ランプが用いられるのが一般的である。しかし、このような放電ランプは、寿命が比較的短い、瞬時点灯が難しい、色再現性範囲が狭い、ランプから放射された紫外線が液晶ライトバルブを劣化させてしまうことがある等の課題がある。そこで、このような放電ランプの代わりに、単色光を照射するレーザ光源を用いた投射型画像表示装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
このようなレーザ光を用いた投射型画像表示装置としては、走査手段(スキャナ)を利用したレーザスキャン型の画像表示装置がある。そして、レーザスキャン型の画像表示装置に用いられる走査手段には、高速走査と大きな偏角との両立が要求されている。特に、VGA(Video Graphics Array)やXGA(Extended Graphics Array),HDTV(High Definition Television)等のフォーマットを持つ映像信号の表示には数十kHzの走査速度でレーザ光を走査する必要がある。そこで、15°〜30°の偏角が見込めるという理由で、走査手段として共振型のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)スキャナを用いた画像表示装置が一般的である。
【特許文献1】特開2003−75767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、MEMSスキャナには、以下のような課題が残されている。すなわち、1つ目の課題としては、MEMSスキャナは共振スキャナであるため、正弦関数的な不等速な往復動作しかできない。2つ目の課題としては、MEMSスキャナはQ値が高いため、共振周波数を外れると実用的な偏角を得ることができない。これにより、MEMSスキャナを含む系の共振周波数を正確に制御するか、あるいは系の共振周波数の変化に追従して駆動周波数を変化させる必要がある。前者は技術的難易度が高く、後者はMEMSスキャナの2軸目との同期を細かく取らなければならないという問題が生じる。
【0004】
3つ目の課題としては、MEMSスキャナは走査速度に限界があるため、DCI(Digital Cinema Initiatives)仕様の4k(4096×2160)等の解像度になると表示が難しい。MEMSスキャン以外の走査手段としては、音響光学スキャナや電気光学スキャナが挙げられるが、これらのスキャナは従来、走査偏角がMEMSスキャナに比べて小さく、実用的な走査偏角を得ることができないという問題がある。
【0005】
そこで、電気光学スキャナを用いて大きな偏角を得るために、図8(a)に示すように、素子101の電極間の寸法Nを長くすることが考えられる。しかしながら、電極間の寸法を長くすると、素子101の電極間の寸法Nが短い場合と同じ電界を生じさせるためには、より大きな電圧をかける必要がある。その結果、消費電力が大きくなり高コスト化を招いてしまう。そこで、図8(b)に示すように、大きな偏角を得るために、光が進行する方向の素子102の寸法Mを長くしつつ、低電圧駆動を行うために電極間を短くすることが考えられる。しかしながら、この構成では、内部を進行し屈折率分布により下方に曲げられた光は、素子の寸法Mが長すぎると下方の電極105に当たってしまうため、素子102の内部を進行した光が素子102の射出端面から射出されないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、大きな偏角を得ることができるとともに、省電力化を図ることが可能な電気光学素子及び走査型光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の電気光学素子は、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって入射されたレーザ光を走査する光学素子と、該光学素子の対向する2つの面にそれぞれ配置された第1電極及び第2電極とを備え、前記第1電極及び第2電極のうち少なくとも一方の電極が透明電極であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る電気光学素子では、第1電極及び第2電極に電圧を印加することにより光学素子に電界が生じる。この電界により、光学素子の屈折率分布が一方向に向かって連続的に増加あるいは減少する。このため、光学素子の内部に生じる電界と垂直な方向に進行するレーザ光は、屈折率が低い側から高い側に向かって曲げられる。このとき、第1電極及び第2電極のうち少なくとも一方の電極が透明電極であるため、光学素子の光射出端面から射出されず、第1電極あるいは第2電極に向かって曲げられたレーザ光は透明電極に入射する。なお、レーザ光が透明電極側に向かって曲がるように、光学素子に電界を生じさせる必要がある。そして、光学素子と透明電極との界面で屈折して、透明電極の射出側の端面より射出される。したがって、より大きな偏角を得るために、従来のように光学素子の電界の方向と垂直な方向の寸法を長くし、第1電極と第2電極との距離を短くしても、入射したレーザ光を射出させることができる。これにより、レーザ光が電極に当たらないように、光学素子の電界の方向の寸法を長くする必要がないため、第1電極及び第2電極に印加する電圧を低くすることができるので省電力化を図りつつ、効率良く光学素子に電界を発生させることができる。
【0009】
また、本発明の電気光学素子は、前記透明電極の光射出端面が、前記光学素子の光射出端面に対して傾斜していることが好ましい。
【0010】
本発明に係る電気光学素子では、光学素子の内部を進行し透明電極に入射した光は、透明電極の内部を進行し透明電極の光射出端面から射出される。このとき、透明電極の光射出端面が、光学素子の光射出端面に対して傾斜していない場合、すなわち、光学素子の一方の面及び反対の面に垂直である場合に比べ、光学素子の光射出端面に対して傾斜している場合の方が、透明電極の光射出端面における光の出射角が大きくなる。すなわち、本発明のように透明電極の光射出端面を傾斜させることで、光射出端面から射出される光の偏角(走査角)をより大きくすることができる。
【0011】
また、本発明の電気光学素子は、前記透明電極上に光透過性を有する光学部材が配置されていることが好ましい。
【0012】
本発明に係る電気光学素子では、光学素子の内部を進行し透明電極に入射した光は、透明電極の内部を進行する。そして、透明電極の光射出端面から射出されず、透明電極上に設けられた光学部材に向かった光は、透明電極と光学部材との界面で屈折して、光学部材の射出側の端面より射出される。すなわち、光学部材を配置しない場合(空気)に比べ、透明電極と光学部材との界面に入射する光の臨界角が大きくなるため、この界面における光の全反射を抑えることが可能となる。したがって、光学部材を設けることにより、透明電極の光射出端面より射出されない光は、光学部材の射出側の端面より射出されるため、確実に電気光学素子より光を射出させることができる。また、光学部材を設けることにより、光学素子の電界が生じる方向の寸法を長くせずに、素子全体の電界方向の寸法を長くすることができるため、より大きな偏角を得ることが可能となる。このように、光学部材を用いて素子全体の電界方向の寸法を長くすることにより、光学素子を厚くする場合に比べてコストを抑えることが可能となる。
【0013】
また、本発明の電気光学素子は、前記光学部材の屈折率が、前記透明電極の屈折率より高いことが好ましい。
本発明に係る電気光学素子では、光学部材の屈折率が透明電極の屈折率より高いため、透明電極の光学素子と対向する面と反対の面に設けられた光学部材に向かった光が透明電極と光学部材との界面において全反射するのを確実に防止することが可能となる。したがって、光学部材に向かった光は、確実に光学部材の内部を進行して、光学部材の射出側の端面より射出される。これにより、光学素子の内部に迷光が発生するのを抑えることができるため、レーザ光の走査を良好に行うことが可能な電気光学素子を提供することができる。
【0014】
また、本発明の電気光学素子は、前記光学部材の光射出端面が、前記光学素子の光射出端面に対して傾斜していることが好ましい。
本発明に係る電気光学素子では、透明電極の光射出端面を傾斜させた場合と同様の効果を得ることができる。さらに、光学部材の光射出端面を傾斜させた場合、透明電極を傾斜させる場合に比べ光射出端面に傾斜加工が施し易い。その結果、光学部材の光射出端面を短時間で精度良く所望の傾斜角度に傾斜させることが可能となる。
【0015】
また、本発明の電気光学素子は、前記光学素子の光射出端面側に遮光部材が設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る電気光学素子では、遮光部材を光学素子のレーザ光が入射する面と反対の面側に設けることにより、光学素子と透明電極との屈折率の違いにより生じるフレネル反射光が光学素子の光射出端面より射出されるのを防止することができる。さらには、光学素子と透明電極との界面や透明電極と光学部材との界面において光が全反射を起こしても、遮光部材により光が光学素子の光射出端面から射出されることはない。
【0017】
また、電気光学素子が何らかの要因で故障した場合、電気光学素子には電圧が印加されていない状態、すなわち、電気光学素子に電界が生じていない状態となり、レーザ光の走査が停止する。このとき、遮光部材が光学素子のレーザ光が入射する面と反対の面に設けられているため、電気光学素子から射出された光が遮光部材によって遮られることになる。したがって、レーザ光が、装置外部のある部分(一点)を照射し続けることを防止することができる。
なお、電気光学素子の故障としては、電圧が印加され続ける故障と、電圧が印加されない故障とが考えられるが、電圧が印加されない故障の方が起こりやすいため、この場合を想定している。
【0018】
また、本発明の電気光学素子は、前記光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することが好ましい。
【0019】
本発明に係る電気光学素子では、光学素子が、高い誘電率を有する誘電体材料であるKTa1−xNb3(タンタル酸ニオブ酸カリウム)の組成を有する結晶である(以下、KTN結晶と称す)。KTN結晶は、立方晶から正方晶さらに菱面体晶へと温度により結晶系を変える性質を有しており、立方晶においては、大きい2次の電気光学効果を有することが知られている。特に、立方晶から正方晶への相転移温度に近い領域では、比誘電率が発散する現象が起こり、比誘電率の自乗に比例する2次の電気光学効果はきわめて大きい値となる。したがって、KTa1−xNb3の組成を有する結晶は、他の結晶に比べて屈折率を変化させる際に必要になる印加電圧を低く抑えることが可能となる。これにより、省電力化を実現可能な電気光学素子を提供することが可能となる。
【0020】
本発明の走査型光学装置は、光を射出する光源装置と、該光源装置から射出した光を被投射面に向けて走査する走査手段とを備え、該走査手段が、上記の電気光学素子を有することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る走査型光学装置では、光源装置から射出した光は、走査手段により被投射面に向けて走査される。このとき、上述したように偏角の大きい電気光学素子を用いることにより、高解像度に対応可能な走査手段を用いた走査型光学装置となる。したがって、画質の劣化を生じさせることなく画像をより鮮明に被投射面に表示できる走査型光学装置を得ることが可能となる。
【0022】
また、本発明の走査型光学装置は、前記電気光学素子が、水平走査を行うことが好ましい。
【0023】
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子が水平走査を行い、垂直走査として例えば、安価なポリゴンミラー等を用いることにより、安価かつ高性能な走査型光学装置を実現することができる。
なお、ここで言う「水平走査」とは、2方向の走査のうち、高速側の走査であり、垂直走査とは低速側の走査である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明に係る電気光学素子及び走査型光学装置の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0025】
[第1実施形態]
電気光学素子1は、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、内部を進行するレーザ光を走査するものである。具体的には、電気光学素子1は、図1に示すように、第1電極11と、第2電極12と、光学素子13とを備えている。この第1電極11及び第2電極12は、ITO(インジウムスズ酸化物、屈折率:2.0)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)等の透明導電体により形成された透明電極である。
【0026】
光学素子13は、電気光学効果を有する誘電体結晶(電気光学結晶)であり、本実施形態ではKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1−xNb3、屈折率:2.4)の組成を有する結晶材料で構成されている。また、光学素子13は、光学素子13の上面(一方の面)13aには第1電極11が配置され、下面(反対の面)13bには第2電極12が配置されている。この第1電極11及び第2電極12には、電圧を印加する電源Eが接続されている。また、第1電極11及び第2電極12は、図1に示すように、光学素子13内を進行するレーザ光Lの進行方向の寸法がほぼ同じである。これにより、第1電極11と第2電極12との間の光学素子13に電界が生じるようになっている。例えば、第1電極11に−250Vの電圧が印加され第2電極12に0Vの電圧が印加されると、第2電極12から第1電極11に向かって(矢印Aに示す方向)電界が生じ、第1電極11に+250Vの電圧が印加され第2電極12に0Vの電圧が印加されると、第1電極11から第2電極12に向かって(矢印Cに示す方向)電界が生じるようになっている。
【0027】
次に、電気光学素子から射出されるレーザ光の走査について説明する。
電源Eにより第1電極11に印加される電圧の波形は、例えば、図2に示すように、鋸歯状の波形である。第1電極11には、初期電圧値S1(例えば、−250V)から0Vまで徐々に印加電圧が下がる電圧パターンV1と0Vから最大電圧値S2(例えば、+250V)まで徐々に印加電圧が上がる電圧パターンV2とが連続的に印加される。また、第1電極11に印加される印加電圧が最大電圧値S2になると、初期電圧値S1が印加される。また、第1電極11に印加される電圧が0Vのときの光学素子13から射出されるレーザ光の光路をOとする。すなわち、第1電極11に印加する電圧を変化させることで、光学素子13の入射端面13cから入射し光射出端面13dから射出される光は、光路Oを基準に上下方向にスキャン範囲(走査範囲)内を1次元方向に走査される。なお、第2電極12に印加される電圧は0Vに固定されている。
【0028】
初期電圧値−250Vを第1電極11に印加すると、図3に示すように、光学素子13の内部に生じる電界方向は矢印Aとなり、光学素子13の内部を進行するレーザ光Lは第1電極11側に曲げられる。このレーザ光は、光学素子13と第1電極11との界面で屈折し、第1電極11内に入射する。第1電極11の内部を進行したレーザ光L1は第1電極11の光射出端面11aより射出される。そして、第1電極11に印加される印加電圧を図2の電圧パターンV1に示すように、徐々に下げて行く。これにより、光学素子13の内部を進行するレーザ光L2は、スキャン範囲の中央に向かって照射し、徐々に小さな偏角で光学素子13の光射出端面13dから射出される。その後、第1電極11に印加される電圧が0Vとなると、光学素子13の光射出端面13dから射出されたレーザ光L3は、光路O上を進行しスキャン範囲の中央部分を照射する。
【0029】
次いで、第1電極11に印加される印加電圧を図2の電圧パターンV2に示すように、徐々に上げて行く。これにより、光学素子13の内部に生じる電界方向は矢印Cとなり、光学素子13の内部を進行するレーザ光Lは第2電極12側に曲げられる。そして、光学素子13の内部を進行するレーザ光L4は、徐々に大きな偏角で光学素子13の光射出端面13dから射出される。
その後、第1電極11に最大電圧値+250Vの電圧が印加されると、光学素子13の内部を進行するレーザ光L5は、光学素子13と第2電極12との界面で屈折し、第2電極12内に入射する。第2電極12の内部を進行したレーザ光L5は第2電極12の光射出端面12aより射出される。
【0030】
本実施形態に係る電気光学素子1では、より大きな偏角を得るために光学素子13の電界の方向A,Cと垂直な方向の寸法を長くし、低電圧駆動を行うために第1電極11と第2電極12との距離を短くしても、第1,第2電極11,12が透明電極であるため、第1,第2電極11,12にレーザ光の射出が妨げられることはない。これにより、レーザ光が第1,第2電極11,12にかからないように、光学素子13の電界方向A,Cの寸法を長くする必要がないため、第1電極11及び第2電極12に印加する電圧の省電力化を図りつつ、効率良く光学素子13に電界を発生させることができる。
つまり、本実施形態の電気光学素子1は、大きな偏角を得ることができるとともに、省電力化を図ることが可能である。
【0031】
なお、光学素子13及び透明電極の屈折率は一例である。また、本実施形態では、光学素子13の屈折率が透明電極の屈折率より高いとしたが、第1電極11及び第2電極12の屈折率は、光学素子13の屈折率より大きいことが好ましい。これにより、光学素子13と第1電極11,第2電極12との界面においてレーザ光が全反射することを防止できる。したがって、光学素子13の内部に迷光が発生するのを抑えることが可能となる。
また、本実施形態では、光学素子13に入射したレーザ光を第1電極11側及び第2電極12側の両側に走査したが、片側の走査であっても良い。この走査の場合、電圧印加により屈折率が高くなる側の電極のみ透明電極で形成しても良い。また、片側の走査の場合、光学素子13の入射端面13cの第1電極11側からレーザ光を入射させ、第1電極11に電圧パターンV1あるいは電圧パターンV2のみ印加することにより、レーザ光の偏角をより大きくすることが可能となる。
【0032】
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態について、図4を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上述した第1実施形態に係る電気光学素子1と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態に係る電気光学素子20では、光学ガラス材料からなる第1,第2ガラス板21,22を備える点において、第1実施形態と異なる。なお、本実施形態は、第1実施形態において第1,第2電極11,12の光射出端面11a,12aよりレーザ光が射出されない場合に有効である。
【0033】
第1ガラス板(光学部材)21は、図4に示すように、第1電極11の光学素子13と対向する面11bと反対の面11cに接して設けられている。第2ガラス板(光学部材)22は、第2電極12の光学素子13と対向する面12bと反対の面12cに接して設けられている。これら第1,第2ガラス板21,22は、光透過性を有する基材である。
【0034】
これにより、第1実施形態と同様に第1電極11に入射したレーザ光L1は、第1電極11と第1ガラス板21との界面において屈折し第1ガラス板21内に入射する。第1ガラス板21内を進行したレーザ光は、第1ガラス板21の光射出端面21aから射出される。
同様に、第1電極11に入射したレーザ光L5は、第2電極12と第2ガラス板22との界面において屈折し第2ガラス板22内に入射する。第2ガラス板22内を進行したレーザ光は、第2ガラス板22の光射出端面22aから射出される。
【0035】
このとき、電気光学素子20から射出されるレーザ光の射出角(偏角)θは、図4に示すように、レーザ光Lが光学素子13に入射したときの入射部の屈折率をn1とする。また、レーザ光L4が光学素子13の光射出端面13dから射出される場合の光学素子13の射出部の屈折率をn2とし、レーザ光L5が第2電極12を通過した後、第2ガラス板22の光射出端面22aから射出される場合の光学素子13と第2電極12との界面の光学素子の屈折率をn2とすると、
【0036】
【数1】

【0037】
で表される。
また、n1は変動が小さいので固定値nとみなすと、[数1]はΔnの関数とみなせる。さらに電気光学効果がカー効果であるなら、固定値nの変化は電界強度の自乗に比例する効果であるため、[数1]から射出角(偏角)θは電界強度に比例する効果であることが分る。仮にn=2.4としΔn=0.01とおくと、θ≒12.7度となる。電界強度は素子の厚みに反比例するため、光学素子13の電界方向A,Cの寸法が小さくなるほど、印加電圧に対する射出偏角が増す。したがって、光学素子13を薄くすることで、光学素子13をより低電圧で駆動させ、さらには大きな偏角を得ることが可能となる。
【0038】
本実施形態に係る電気光学素子20では、第1実施形態の電気光学素子1と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の電気光学素子20では、第1,第2電極11,12の光射出端面11a,12aよりレーザ光が射出されない場合、光学素子13の内部を進行するレーザ光は、第1,第2ガラス板21,22により光学素子13の光射出端面13d側、すなわち、第1ガラス板21の光射出端面21a及び第2ガラス板22の光射出端面22aから射出される。
したがって、レーザ光をより確実に光学素子13の光射出端面13d側から射出させ、かつ、大きな偏角でレーザ光を走査することが可能な電気光学素子20を提供することが可能となる。
また、第1実施形態では、透明電極を厚く形成するのは難しいが、本実施形態では第1,第2ガラス板21,22を用いるだけで良いので、簡易な構成により光学素子18の光射出端面18d側からレーザ光を射出させることができる。
【0039】
なお、本実施形態では、光学素子13に入射したレーザ光を第1電極11側及び第2電極12側の両側に走査したが、片側の走査であっても良い。この走査の場合、電圧印加により屈折率が高くなる側の電極のみ透明電極で形成し、この透明電極側にのみガラス板を配置しても良い。
また、第1ガラス板21及び第2ガラス板22の屈折率が、第1,第2電極11,12の屈折率より高いことが好ましい。この構成では、第1電極11,第2電極12と光学素子13との界面においてレーザ光が全反射するのを防止することが可能となる。これにより、光学素子13の内部において迷光が発生するのを抑えることができるため、レーザ光の走査を良好に行うことができる。
また、光学部材として光学ガラスからなるガラス板を用いたが、これに限るものではなく光透過性を有する部材であれば良い。光学部材としては、例えば光学素子13と同様のKTN結晶から構成されていても良い。
【0040】
[第2実施形態の変形例]
電気光学素子25は、図5に示すように、光学素子13に入射したレーザ光を第1電極11側及び第2電極12側の片側に走査する場合、光学素子13の光射出端面13d側に遮光板(遮光部材)26が設けられていても良い。この構成では、第2電極12側にのみ第2ガラス板22が設けられている。
また、遮光板26は、光学素子13の光射出端面13dに接触して設けられている。この遮光板26により、光学素子13と第2電極12との屈折率の違いにより界面においてフレネル反射が生じた場合、このフレネル反射光LFが光学素子13の光射出端面13dより射出されるのを防止することができる。
なお、本変形例のように光学素子13の光射出端面13dに遮光板26を設けた構成の場合、光学素子13に入射したレーザ光は、第2電極12の光射出端面12a、あるいは、第2ガラス板22の光射出端面22aから射出される。
【0041】
また、電気光学素子25が何らかの要因で故障した場合、電気光学素子25には電圧が印加されていない状態、すなわち、電気光学素子25に電界が生じていない状態となり、レーザ光の走査が停止する。このとき、遮光板26は、光学素子13の光射出端面13d、すなわち、光学素子13に電界が生じていなときのレーザ光が光学素子13から射出される光路O上に設けられているため、電気光学素子25から射出された光が遮光板26によって遮られることになる。したがって、レーザ光が、装置外部のある部分(一点)を照射し続けることを防止することができる。
なお、本変形例では、遮光板26を光学素子13の光射出端面13dに接触して設けたが、光射出端面13d側に間隔をあけて配置されていても良い。
【0042】
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3実施形態について、図6を参照して説明する。
本実施形態に係る電気光学素子30では、第1,第2ガラス板21,22の光射出端面21a,22aが傾斜している点において、第2実施形態と異なる。
【0043】
第1ガラス板21の光射出端面21aは、図6に示すように、第1ガラス板21の第1電極11に対向する面21bの反対の面21cとθAの角度、すなわち、光学素子13の光射出端面13dに対して傾斜している。傾斜角θAは直角ではない角度であり、本実施形態では68度となっている。また、光射出端面21aは、直方体状のガラス板を切削加工することにより形成されている。
なお、第2ガラス板22の光射出端面22aと、第2電極12に対向する面22bの反対の面22cとのなす角は、第1ガラス板21の光射出端面21aと同様に68度となっている。
【0044】
ここで、光射出端面21a,22aはどちらも同様に傾斜しているため、光射出端面22aと、傾斜していない場合の光射出端面とを比較する。すなわち、図6に示すように、第2ガラス板22の光射出端面22aと面22cとのなす角が垂直である場合(図6に示す破線)の出射角θ2より、本実施形態の光射出端面22aにおける出射角θ1の方が大きくなる。すなわち、本実施形態のように光射出端面22aを傾斜させた方が、光射出端面22aから射出された光の偏角は大きくなる。
【0045】
本実施形態に係る電気光学素子30では、第2実施形態の電気光学素子20と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の電気光学素子30では、光射出端面22aを面22cに対して傾斜させることで、光射出端面22aから射出される光の偏角(走査角)をより大きくすることができる。
なお、第1実施形態の第1電極11の光射出端面11a及び第2電極12の光射出端面12aが第1,第2ガラス板21,22と同様に傾斜していても良い。
さらに、傾斜は直面に限らず、曲面であっても良い。
【0046】
[第4実施形態]
次に、本発明に係る第4実施形態について、図7を参照して説明する。
本実施形態では、上記第1実施形態の電気光学素子1を走査手段として備える画像表示装置(走査型画像表示装置)40について説明する。
【0047】
本実施形態に係る画像表示装置40は、図7に示すように、赤色のレーザ光を射出する赤色光源装置(光源装置)40Rと、緑色のレーザ光を射出する緑色光源装置(光源装置)40Gと、青色のレーザ光を射出する青色光源装置(光源装置)40Bと、クロスダイクロイックプリズム41と、クロスダイクロイックプリズム41から射出されたレーザ光をスクリーン45の水平方向に走査する電気光学素子1と、電気光学素子1から射出されたレーザ光をスクリーン45の垂直方向に走査するガルバノミラー42と、ガルバノミラー42から走査されたレーザ光が投影されるスクリーン(被投射面)45とを備えている。
【0048】
次に、以上の構成からなる本実施形態の画像表示装置40を用いて、画像をスクリーン45に投射する方法について説明する。
各光源装置40R,40G,40Bから射出されたレーザ光は、クロスダイクロイックプリズム41で合成され電気光学素子1に入射する。電気光学素子1に入射したレーザ光は、スクリーン45の水平方向に走査され、ガルバノミラー42により垂直方向に走査されてスクリーン45に投影される。
【0049】
本実施形態に係る画像表示装置40では、走査手段として偏角の大きい電気光学素子1を用いているため、DCI(Digital Cinema Initiatives)仕様の4k等の解像度に対応可能となる。したがって、画質の劣化を生じさせることなく、画像をより鮮明にスクリーン45に表示させることができる。
しかも、電気光学素子1からなる走査手段は、MEMSスキャナより高速に走査することができるため、本実施形態のように、高速走査が必要とされる水平走査側に電気光学スキャナを用い、垂直走査側に走査自由度が高いガルバノミラー(動くことにより光を反射させる可動型の走査手段)42を用いることにより、高性能な画像表示装置の実現が期待できる。なお、ガルバノミラー42に代えて、可動型の走査手段の一つである安価なポリゴンミラーにより走査を行っても良い。すなわち、電気光学素子1の走査の精度が良いため、画像表示装置としては、ガルバノミラーほど精度の良いミラーを用いなくても、コストを抑えつつ高性能な画像表示を行うことが可能となる。
【0050】
なお、本実施形態の画像表示装置40において、第1実施形態の電気光学素子1を用いて説明したが、第2,第3実施形態(変形例を含む)の電気光学素子を用いることも可能である。
また、電気光学素子を用いた走査型光学装置として画像表示装置について説明したが、第1〜第3実施形態の電気光学素子をレーザプリンタ(走査型光学装置)に応用することも可能である。
【0051】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態において、光学素子としてKTN結晶を例に挙げて説明したが、これに限ることはなく、屈折率が線形的に変化する素子であれば良い。例えば、LiNbO(ニオブ酸リチウム)等の電気光学効果を有する誘電体結晶であっても良いが、LiNbO3等の組成を有する結晶は、KTN結晶に比べて走査偏角が小さく、また、駆動電圧が高いため、KTN結晶を用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電気光学素子を示す要部断面図である。
【図2】図1の電気光学素子の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【図3】図2の電圧波形を入力したときの光の走査を示す要部断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る電気光学素子を示す要部断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る電気光学素子の変形例を示す要部断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る電気光学素子を示す要部断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る走査型光学装置を示す斜視図である。
【図8】従来の走査型光学装置に用いられる電気光学素子を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1,20,25,30…電気光学素子、11…第1電極、12…第2電極、13…光学素子、11a…第1電極の光射出端面、12a…第2電極の光射出端面、21…第1ガラス板(光学部材)、22…第2ガラス板(光学部材)、21a…第1ガラス板の光射出端面(光学部材の光射出端面)、21b…第2ガラス板の光射出端面(光学部材の光射出端面)、26…遮光板(遮光部材)、40…画像表示装置(走査型光学装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって入射されたレーザ光を走査する光学素子と、
該光学素子の対向する2つの面にそれぞれ配置された第1電極及び第2電極とを備え、
前記第1電極及び第2電極のうち少なくとも一方の電極が透明電極であることを特徴とする電気光学素子。
【請求項2】
前記透明電極の光射出端面が、前記光学素子の光射出端面に対して傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の電気光学素子。
【請求項3】
前記透明電極上に光透過性を有する光学部材が配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気光学素子。
【請求項4】
前記光学部材の屈折率が、前記透明電極の屈折率より高いことを特徴とする請求項3に記載の電気光学素子。
【請求項5】
前記光学部材の光射出端面が、前記光学素子の光射出端面に対して傾斜していることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の電気光学素子。
【請求項6】
前記光学素子の光射出端面側に遮光部材が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電気光学素子。
【請求項7】
前記光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電気光学素子。
【請求項8】
光を射出する光源装置と、
該光源装置から射出した光を被投射面に向けて走査する走査手段とを備え、
該走査手段が、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電気光学素子を有することを特徴とする走査型光学装置。
【請求項9】
前記電気光学素子が、水平走査を行うことを特徴とする請求項8に記載の走査型光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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