電気光学装置、電気光学装置の駆動方法および電子機器
【課題】電気光学装置においてコントラスト比の高い表示を実現する。
【解決手段】初期化期間に、電源線116を低位側の電位とし、陰極線118を高位側の電位として、トランジスター131のゲートノードg・ソースノードs間の保持電圧がクリアされるとともに、OLED140の陽極が電源線116の低位側の電位にセットされ、セット期間に、電源線116が高位側の第1電位になって、トランジスター131のゲート・ソース間に閾値電圧がセットされ、セット期間の終了後に、陰極線118が低位側の電位になり、書込期間に、トランジスターのゲートノードgに、階調レベルに応じた電位が供給される。
【解決手段】初期化期間に、電源線116を低位側の電位とし、陰極線118を高位側の電位として、トランジスター131のゲートノードg・ソースノードs間の保持電圧がクリアされるとともに、OLED140の陽極が電源線116の低位側の電位にセットされ、セット期間に、電源線116が高位側の第1電位になって、トランジスター131のゲート・ソース間に閾値電圧がセットされ、セット期間の終了後に、陰極線118が低位側の電位になり、書込期間に、トランジスターのゲートノードgに、階調レベルに応じた電位が供給される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示品位の低下を抑えた電気光学装置、電気光学装置の駆動方法および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode、以下「OLED」という)素子などの発光素子を用いた電気光学装置が各種提案されている。この電気光学装置では、表示すべき画像の画素に対応して画素回路が設けられる。当該画素回路は、上記発光素子のほか、当該発光素子に電流を供給するトランジスターを含む回路構成が一般的である。このような回路構成において、トランジスターの閾値電圧や移動度などの特性が画素回路毎に相違していると、表示画面の一様性を損なうような表示ムラが発生する。このため、トランジスターの閾値電圧や移動度などの特性を補償する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−32863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この技術では、低輝度側の階調表現を改善しようとすると、高輝度側の階調表現が悪化し、逆に、高輝度側の階調表現を改善しようとすると、低輝度側の階調表現が悪化する、という問題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、低輝度側の階調表現と高輝度側の階調表現との双方を改善することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明に係る電気光学装置にあっては、ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給する第1トランジスターと、前記第1トランジスターにより供給された電流に応じた輝度で発光する発光素子と、を含み、前記第1トランジスターおよび前記発光素子が、第1電源と第2電源との間に直列に接続された画素回路を有する電気光学装置であって、第1期間に、前記第1電源が高位側の第1電位または低位側の第2電位のうち、第2電位になり、前記第2電源が高位側の第3電位または低位側の第4電位のうち、第3電位になって、前記第1トランジスターのゲート・ソース間が所定電圧にクリアされるとともに、前記発光素子のうち前記第1トランジスターとの接続側の端子が前記第2電位にセットされ、前記第1期間に続く第2期間に、前記第1電源が前記第1電位になり、前記第2電源が前記第3電位に維持されて、前記第1トランジスターのゲート・ソース間が閾値電圧にセットされ、前記第2期間の終了後に、前記第2電源が前記第4電位になり、前記第2期間の後の第3期間に、前記第1トランジスターのゲートに、階調レベルに応じた電位が供給されることを特徴とする。
本発明によれば、第1期間および第2期間では、第2電源が高位側の電位となり、発光素子を非発光状態にさせることができるので、低輝度側の階調表現が改善されるとともに、第1トランジスターが発光素子に電流を供給するとき、第1電源および第2電源の電圧が高められるので、輝度を高められる。
【0006】
本発明において、前記第1トランジスターのゲートには、前記第1期間および第2期間において当該第1トランジスターをオンさせる初期化電位が供給され、前記所定電圧が前記初期化電位と前記第2電位との差になる構成が好ましい。この構成において、前記画素回路は、前記第1トランジスターのゲートと前記データ線との間に電気的に接続された第2トランジスターを含み、前記第2トランジスターは、前記第1期間、前記第2期間および前記第3期間において導通状態になり、前記データ線には、前記第1期間および第2期間に、前記初期化電位が供給され、前記第3期間に、階調レベルに応じた電位となっている態様としても良い。この態様において、前記データ線と、前記初期化電位が給電される給電線との間に電気的に接続された第3トランジスターを有し、前記第3トランジスターは、前記第1期間および第2期間において導通状態になるようにしても良い。
【0007】
本発明において、前記第2電位は、前記階調に応じた電位の最低値以上である構成が好ましい。この構成によれば、第1期間において、発光素子のうち前記第2電源の非接続側の端子を、各画素にわたって、より均等に初期化することが可能になる。
本発明において、前記第1期間に、前記発光素子が逆バイアスとすれば、発光素子に電流が流れないので、非発光状態となる。
なお、本発明は、電気光学装置のほか、電気光学装置の駆動方法や、当該電気光学装置を有する電子機器として概念することも可能である。電子機器は、典型的には表示装置であり、電子機器としてはパーソナルコンピューターや携帯電話機が挙げられる。もっとも、本発明に係る電気光学装置の用途は、表示装置に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(光ヘッド)にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る電気光学装置の構成を示すブロック図である。
【図2】電気光学装置における画素回路を示す図である。
【図3】電気光学装置における動作を示す図である。
【図4】画素回路の動作を説明するため図である。
【図5】画素回路の動作を説明するため図である。
【図6】画素回路の動作を説明するため図である。
【図7】画素回路の動作を説明するため図である。
【図8】画素回路の動作を説明するため図である。
【図9】実施形態に係る電気光学装置を用いた電子機器(その1)を示す図である。
【図10】実施形態に係る電気光学装置を用いた電子機器(その2)を示す図である。
【図11】実施形態に係る電気光学装置を用いた電子機器(その3)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電気光学装置の構成を示すブロック図である。この図に示されるように、この電気光学装置10は、表示部100の周辺に、走査線駆動回路160、電源線駆動回路170およびデータ線駆動回路180が配置された構成となっている。
【0010】
表示部100には、表示すべき画像の画素に対応した画素回路110がマトリクス状に配列されている。詳細には、表示部100において、m行の走査線112が図において横方向に延在して設けられ、また、n列のデータ線114が図において縦方向に延在し、かつ、各走査線112と互いに電気的な絶縁を保って設けられている。そして、画素回路110は、m行の走査線112とn列のデータ線114との交差部に対応して、それぞれ設けられている。このため、画素回路110のマトリクス配列は、縦m行×横n列となる。
ここで、m、nは、いずれも自然数である。走査線112および画素回路110のマトリクスの行(ロウ)を区別するために、図において上から順に1、2、3、…、(m−1)、m行と呼ぶ場合がある。同様にデータ線114および画素回路110のマトリクスの列(カラム)を区別するために、図において左から順に1、2、3、…、(n−1)、n列と呼ぶ場合がある。
また、表示部100には、1行毎に個別の電源線116(第1電源)および陰極線118(第2電源)がそれぞれ設けられ、ともに1行分の画素回路110にわたって共用されている。
【0011】
走査線駆動回路160は、フレームの期間にわたって走査線112を1行毎に順番に走査するための走査信号を生成するものである。ここで、1、2、3、…、(m−1)、m行目の走査線112に供給される走査信号を、それぞれGwr(1)、Gwr(2)、Gwr(3)、…、Gwr(m-1)、Gwr(m)と表記している。なお、フレームの期間とは、電気光学装置10が1カット(コマ)分の画像を表示するのに要する期間をいい、垂直走査周波数が60Hzであれば、その1周期分の16.67ミリ秒の期間である。
また、走査線駆動回路160は、制御信号Giniを信号線122に供給する。この制御信号Giniは、各行の走査期間のうち、後述する初期化期間およびセット期間においてHレベルとなり、他の期間においてLレベルとなる信号である。
【0012】
電源線駆動回路170は、1、2、3、…、(m−1)、m行目の電源線116および陰極線118の電位を、走査線駆動回路160による走査線112の走査に同期して、それぞれ切り替えるものである。詳細には、電源線駆動回路170は、電源線116については、第1電位としての高位側の電位Vel_Hまたは第2電位としての低位側の電位Vel_Lのいずれかに切り替えて供給する。図1においては、1、2、3、…、(m−1)、m行目の電源線116に供給される電源電位を、各行で区別するために、それぞれVel(1)、Vel(2)、Vel(3)、…、Vel(m-1)、Vel(m)と表記している。
また、電源線駆動回路170は、陰極線118については、第3電位としての高位側の電位Vct_Hまたは第4電位としての低位側の電位Vct_Lのいずれかに切り替えて供給する。1、2、3、…、(m−1)、m行目の陰極線118に供給される電源電位を、それぞれVct(1)、Vct(2)、Vct(3)、…、Vct(m-1)、Vct(m)と表記している。
【0013】
データ線駆動回路180は、1行分の走査線112が走査される期間のうち、書込期間において、当該走査される走査線112に位置する画素の階調レベルに応じた電位のデータ信号を、データ線114に出力するものである。ここで、1、2、…、n列目のデータ線114に供給されるデータ信号を、それぞれVd(1)、Vd(2)、Vd(3)、…、Vd(n)と表記している。
なお、データ信号Vd(1)〜Vd(n)の電位をVdataとしたとき、当該電位の最高値Vdata(max)は最大輝度の白レベルに相当し、最低値Vdata(min)は最小輝度の黒レベルに相当する。
【0014】
nチャネル型のトランジスター120は、第3トランジスターとしてデータ線114毎に設けられる。トランジスター120にあっては、ゲートノードが信号線122に接続され、ソースまたはドレインノードの一方が初期間電位としての電位Viniを給電する給電線124に接続され、ソースまたはドレインノードの他方がデータ線114に接続されている。
【0015】
なお、本実施形態では、便宜的に走査線駆動回路160、電源線駆動回路170およびデータ線駆動回路180に分けているが、これらをまとめて、画素回路110を駆動するための駆動回路として概念することも可能である。
【0016】
図2を参照して画素回路110について説明する。なお、この図においては、i行目及び当該i行目に対し下側で隣り合う(i+1)行目の走査線112と、j列目及び当該j列目に対し右側で隣り合う(j+1)列目のデータ線114との交差に対応する2×2の計4画素分の画素回路110が示されている。
ここで、i、(i+1)は、マトリクスの行を一般的に示す場合の記号であって、1以上m以下の整数である。同様に、j、(j+1)は、マトリクスの列を一般的に示す場合の記号であって、1以上n以下の整数である。
【0017】
図2に示されるように、各画素回路110は、それぞれNチャネル型のトランジスター131、132と、容量素子135、136と、OLED140とを含む構成である。各画素回路110については電気的にみれば互いに同一構成なので、i行j列に位置するもので代表して説明する。
【0018】
i行j列の画素回路において、トランジスター132のゲートノードがi行目の走査線112に接続されている。トランジスター132において、ドレインノードまたはソースノードの一方がデータ線114に接続され、ドレインノードまたはソースノードの他方が、容量素子135の一端とトランジスター131のゲートノードgとにそれぞれ接続されている。
【0019】
容量素子135の他端は、トランジスター131のソースノードsと、容量素子136の一端と、OLED140の陽極とにそれぞれ接続されている。トランジスター131のドレインノードdは、i行目の電源線116に接続されている。容量素子136の他端は、各画素回路110にわたって共通に接地されている。本実施形態において、接地レベルは、例えば走査信号のLレベルに相当する電位である。
ここで、トランジスター131が第1トランジスターとなり、トランジスター132が第2トランジスターとなる。
【0020】
OLED140の陰極は、行毎に個別に、かつ、帯状に形成された陰極線118であり、i行目の画素回路110の1行分にわたって共通となっている。一方、OLED140の陽極は、画素回路110毎に個別に設けられた画素電極である。OLED140は、例えばガラス基板において、互いに対向する陽極と透明性を有する陰極とで有機EL材料からなる発光層を挟持した素子である。OLED140において、発光閾値電圧を超えた状態で陽極から陰極に向かって順方向に電流が流れると、当該電流に応じた輝度にて光が発生するとともに、基板とは反対側の陰極を通過し、観察者側に視認される構成となっている。
【0021】
なお、図2において、Gwr(i)、Gwr(i+1)は、それぞれi、(i+1)行目の走査線112に供給される走査信号である。Vel(i)、Vel(i+1)は、それぞれi、(i+1)行目の電源線116に供給される電源電位であり、Vct(i)、Vct(i+1)は、それぞれi、(i+1)行目の陰極線118に供給される電源電位である。
【0022】
表示部100は、一般にガラス基板などの透明性を有する絶縁基板に形成される。このため、表示部100の画素回路110におけるトランジスター131、132は、例えば薄膜トランジスターであり、非晶質シリコンや低温ポリシリコンで形成される。低温ポリシリコンで形成する場合、走査線駆動回路160、電源線駆動回路170およびデータ線駆動回路180を構成する能動素子や、トランジスター120については、画素回路110とともに、上記絶縁基板に形成することができる。
【0023】
図3を参照して電気光学装置10の動作について説明する。なお、図3は、電気光学装置10における各部の動作を説明するための図であるが、電圧振幅を示す縦スケールは、説明便宜のために波形同士で異ならせている場合がある。
この図に示されるように、走査線駆動回路160が走査信号Gwr(1)〜Gwr(m)の電位を切り替えることによって、1フレームの期間において1〜m行目の走査線112が1水平走査期間(H)毎に順番に走査される。
1水平走査期間(H)での動作は、各行の画素回路110にわたって共通である。そこで以下については、主にi行目の走査線112が水平走査される走査期間において、当該i行目にあって、j列目のデータ線114との交差に対応するi行j列の画素回路110について着目して説明する。
【0024】
本実施形態において、i行目の走査期間は、大別すると、時間の順で、初期化期間→セット期間→待機期間→書込期間というサイクルに分けられる。そして、書込期間の終了後(後述する条件を満たした後)から、次のフレームの初期化期間が開始するまでが発光期間となり、これらのサイクルが繰り返される。なお、セット期間は、トランジスター131の閾値電圧Vthを容量素子135にセットする期間であり、書込期間には、トランジスター131の移動度μの補償期間も含まれる。
【0025】
<発光期間>
説明の便宜上、i行目の走査期間の前に、前提となる発光期間から説明する。図3に示されるように、発光期間では、走査信号Gwr(i)がLレベルである。このため、i行j列の画素回路110においては、トランジスター132はオフであり、ゲートノードgは、データ線114から電気的に切り離された状態にある。
一方、電位Vel(i)は高位側の電位Vel_Hであり、逆に電位Vct(i)は低位側の電位Vct_Lである。容量素子135には、すなわちトランジスター131におけるゲート・ソース間には、後述するように階調レベルに応じた電位に対してトランジスター131の特性を相殺するように補償された電圧がセットされている。このため、OLED140には、図4に示されるように当該ゲート・ソース間の電圧Vgsに応じた電流Idsが供給されるので、OLED140は、階調レベルに応じた輝度で、トランジスター131における特性を相殺した状態で発光することになる。このとき、ソースノードs(容量素子136の一端)は、発光期間において当該電流Idsに応じ電位に保持されることになる。
【0026】
<初期化期間>
次に、i行目の走査期間に至る。走査期間の最初は第1期間の初期化期間である。図3に示されるように、i行目の初期化期間では、制御信号Giniおよび走査信号Gwr(i)がそれぞれHレベルとなる。このため、図5に示されるように、各列のトランジスター120がオンし、i行j列におけるトランジスター132がオンする。したがって、ゲートノードgは、トランジスター132、データ線114およびトランジスター120を介して給電線124に電気的に接続されるので、電位Viniにセットされる(図3参照)。
【0027】
一方、電源線116における電位Vel(i)は、電源線駆動回路170によって低位側の電位Vel_Lに切り替えられる。ここで、電位Vel_Lと電位Viniとの差分の電圧は、トランジスター131の閾値電圧Vthを十分に上回るように設定される。このため、トランジスター131がオン状態になるので、図3または図5に示されるように、ソースノードsは、電源線116の電位Vel_Lになる。
【0028】
したがって、トランジスター131のゲート・ソース間の電圧Vgs(容量素子の135の保持電圧)は(Vini−Vel_L)に初期化されるとともに、容量素子136の保持電圧がリセットされる。
このリセット動作をi行目における1〜n列の画素回路110でみたとき、各画素回路110では、発光期間において、容量素子135が電流Idsに応じた電圧Vgsをそれぞれ保持し、容量素子136がソースノードsの電位に応じた電圧をそれぞれ保持していたが、この初期化期間によって容量素子135、136の電圧保持状態が、発光期間の電流状態に関係なく、i行目の画素回路110にわたってそれぞれ均等に初期化される。
ここで、電位Vel_Lについては、データ信号の最低値、すなわち黒レベルに相当する電位Vdata(min)に一致するように設定される。このように設定されると、発光期間から初期化期間になったとき、ソースノードsの電位は、当該発光期間における輝度状態に拘わらず、必ず減少することになるので、i行目の各画素回路110における初期化を、より均等に揃えることができる。
【0029】
初期化期間において、OLED140の陽極(ソースノードs)は低位側の電位Vel_Lに切り替えられ、陰極は高位側の電位Vct_Hに切り替えられる。本実施形態では、Vel_L<Vct_Hとなるように設定される。したがって、発光期間においてオン状態にあったOLED140は、初期化期間において逆バイアスとなるので、オフ状態(非発光状態)に変化する。
【0030】
<セット期間>
初期化期間に続いて、第2期間のセット期間に至る。図3に示されるように、セット期間では、初期化期間と比較して、i行目の電源線116における電位Vel(i)が高位側の電位Vel_Hに切り替えられる。
これにより、図6に示されるように、電流が電源線116から、オン状態にあるトランジスター131のドレイン・ソース間を流れるので、ソースノードsは、電位Vel_Lから上昇し始める(図3参照)。ただし、本実施形態では、セット期間において走査信号Gwr(i)および制御信号Giniが引き続きHレベルであり、ゲートノードgが電位Viniに固定されている。このため、ソースノードsの電位は、それよりも閾値電圧Vthだけ低い電位(Vini−Vth)で飽和する。
【0031】
換言すれば、ゲートノードgおよびソースノードsの間の電圧Vgsは、時間経過とともに徐々に減少し、やがてトランジスター131の閾値電圧Vthに収束する。このようにして、セット期間の終了に至るまでに、トランジスター131のゲート・ソース間には、当該トランジスター131自身の閾値電圧Vthがセットされることになる。
一方、セット期間において、OLED140の陰極は電位Vct_Hである。本実施形態では、OLED140の陽極であるソースノードsの飽和電位(Vini−Vth)と、電位Vct_Hとの差分の電圧は、OLED140の発光閾値電圧を下回るように設定される。このため、セット期間においても、OLED140は、オフ状態を維持することになる。
【0032】
<待機期間>
次にi行目の待機期間に至ると、図3に示されるように、セット期間と比較して、走査信号Gwr(i)および制御信号GiniがそれぞれLレベルになり、i行目の陰極線118における電位Vct(i)が低位側の電位Vct_Lに切り替わる。このため、i行j列の画素回路110にあっては、図7に示されるように、トランジスター132がオフするので、トランジスター131のゲートノードgは、j列目のデータ線114から電気的に切り離された状態、すなわちハイ・インピーダンス状態になる。
また、各列のトランジスター120もオフするので、各データ線114は、給電線124から電気的に切り離される。このため、各データ線114についても、それぞれハイ・インピーダンス状態になるが、寄生容量によって直前状態の電位Viniに維持される。
【0033】
OLED140は、上述したように陽極と陰極とで発光層を挟持した構成であるので、陽極と陰極との間には並列に容量が寄生する(図示省略)。このため、陰極線118における電位Vct(i)が低位側の電位Vct_Lに切り替わると、容量素子136とOLED140の寄生容量との接続点であるソースノードsの電位は、電位Vct(i)の電位変動分である(Vct_H−Vct_L)を容量素子136と寄生容量との容量比に応じて分圧した分だけ低下する。ただし、ゲートノードgがハイ・インピーダンス状態であるので、ゲートノードgの電位は、図3に示されるように、ソースノードsの電位変化に連動し、かつ、閾値電圧Vthを維持しつつ、低下することになる。
【0034】
なお、待機期間において、OLED140の陽極(ソースノードs)の電位が低下し、陰極についても、電位Vct_Lに低下する。このときの差分の電圧がOLED140の発光閾値電圧を下回るように、容量素子136の容量や陰極線118の電位低下分(Vct_H−Vct_L)が適切に設定される。このため、待機期間においても、OLED140はオフ状態を維持することになる。
【0035】
<書込期間>
続いて、第3期間としての書込期間に至る。i行目の書込期間では、図3に示されるように、走査信号Gwr(i)が再度Hレベルに遷移する一方、j列目のデータ線114にあっては、i行j列の階調に応じた電位Vdataのデータ信号がデータ線駆動回路180によって供給される。このため、図8に示されるように、トランジスター132がオンするので、ゲートノードgには、データ線114に供給されたデータ信号Vd(j)の電位Vdata、すなわちi行j列の画素に指定された階調レベルに応じた電位が書き込まれる。
また、待機期間にソースノードsに連動して低下したときのゲートノードgの電位は、データ信号が取り得る電位のうち、最低値の黒レベルに相当する電位Vdata(min)以下となるように設定される。このため、ゲートノードgは、書込期間において電位Vdataが供給されたときに、黒レベル以外であれば、必ず上昇することになる(図3参照)。
一方、容量素子136の他端は接地されており、電位が固定であるので、容量素子135、136の接続点であるソースノードsの電位は、ゲートノードgの電位上昇分を容量素子135、135の容量比で分圧した分だけ上昇することになる。
このため、図8に示されるように、トランジスター131のドレインノードdからソースノードsに向かって電流が流れる。
【0036】
このときに流れる電流によって、トランジスター131のゲート・ソース間の電圧Vgsが、次のように負帰還制御(移動度補償)される。
すなわち、トランジスター131の移動度μが小さければ、ドレインノードdからノードsに流れる電流が少なくなる。このため、ソースノードsの電位上昇量ΔVが小さくなり(図3参照)、その分、電圧Vgsの変化量(負帰還量)が大きくなるので、移動度μが小であるトランジスター131に対して、電流が多く流れる方向に制御が働く。
反対に、トランジスター131の移動度μが大きければ、ドレインノードdからソースノードsに流れる電流が多くなる。このため、ソースノードsの電位上昇量ΔVが大きくなり、その分、電圧Vgsの変化量(負帰還量)が小さくなるので、移動度μが大であるトランジスター131に対して、電流が少なく流れる方向に制御が働く。
このようにして、結局、図3に示されるように、トランジスター131のゲート・ソース間の電圧Vgsは、書込期間が終了するまでに、階調レベルに応じた電位Vdata、閾値電圧Vthおよび移動度μを、それぞれ反映させた電圧(Vdata+Vth−ΔV)に収束することになる。
【0037】
<発光期間>
そして、書込期間が終了すると、図3に示されるように、走査信号の電位Gwr(i)が再びLレベルとなる。このため、図4に示されるようにトランジスター132がオフするので、ゲートノードgは、ハイ・インピーダンス状態になる。このとき、トランジスター131におけるゲート・ソース間の電圧Vgs(容量素子135の両端電圧)は、書込期間の終了時における電圧(Vdata+Vth−ΔV)に維持されるから、トランジスター131には当該電圧に応じた電流Idsが流れて、容量素子136が充電される。
この結果、図3に示されるように、容量素子136の一端であるソースノードsの電位は時間の経過とともに再上昇する。ゲートノードgはハイ・インピーダンス状態であるので、ゲートノードgの電位は、ソースノードsの電位上昇に連動して上昇する。すなわち、ゲートノードgおよびソースノードsは、書込期間の終了時の電圧Vgsを維持した状態で、それぞれ上昇する。
ソースノードsの電位が上昇する過程において、OLED140の両端電圧が発光閾値電圧を超えると、電流Idsの一部がOLED140にも流れ始めて、発光開始となる。まもなく容量素子136への充電が完了すると、電流IdsがすべてOLED140に流れるので、当該OLED140は、当該電流Idsに応じた輝度で発光し続けることになる。
【0038】
ゲート・ソース間の電圧Vgsが(Vdata+Vth−ΔV)であるから、トランジスター131によってOLED140に供給される電流Idsは、当該トランジスター131が飽和領域で動作する場合を考えると、まず、閾値電圧Vthの影響が相殺される。また、電圧Vgsがトランジスター131の移動度μに応じて負帰還制御されているので、画素回路110毎に、トランジスター131の移動度μが相違しても、電流Idsのバラツキによる影響が抑えられる。
【0039】
このような動作は、i行目の走査期間において、着目したj列目の画素回路110以外においても時間的に並列して実行される。さらに、このような動作は、1フレームの期間において1、2、3、…、(m−1)、m行目の順番で実行されるとともに、フレーム毎に繰り返される。
この動作において、各画素回路110にけるOLED140には、トランジスター131の閾値電圧Vthや移動度μのバラツキが補償された電流がそれぞれ供給される。したがって、本実施形態によれば、画素回路110毎にトランジスター131の特性がばらついても、そのばらつきに起因した輝度のムラが抑制されるので、高品位な表示が可能となる。
【0040】
ところで、輝度を高めるためには、単純には、電源線116と陰極線118との電位差を、すなわち画素回路110の電源電圧を高めれば良い。ただし、電源電圧を高める場合に、OLED140の陰極が連続的に形成されて全画素回路110にわたって共通電位で一定とした従来構成では、次のような問題点が発生する。
詳細には、セット期間においてソースノードsの電位は、トランジスター131のオン状態とさせる電位Viniに対して、閾値電圧Vthだけ低い電位となる。このため、電源電圧を高めた場合に、陽極(ソースノードs)と陰極との電位差がOLED140の発光閾値電圧を超えて、OLED140が発光してしまい、低輝度側の表現を阻害する。これを回避するためには、共通の陰極の電位を高めれば良いが、高い電源電圧を確保できず、OLED140を高輝度で発光させることができなくなる。
このため、OLED140の陰極側の電源電位を一定とした従来構成では、低輝度側の階調表現と高輝度側の階調表現とが両立しない、という問題があった。
【0041】
これに対して、本実施形態において、i行目の初期化期間およびセット期間では、陰極線118の電源電位Vct(i)が、高位側の電位Vct_Hになる。これにより、画素回路110の電源電圧、すなわちトランジスター131のドレインノードdとOLED140の陰極との間の電源電圧は相対的に低くなるので、初期化期間およびセット期間でOLED140をオフ状態とさせることが容易となる。換言すれば、初期化期間およびセット期間においてOLED140がオン状態となって発光してしまうことが回避されるので、低輝度側の階調表現が改善される。
一方、i行目の書込期間および発光期間では、電源電位Vel(i)と電源電位Vct(i)とが互いに離れる方向の電位に、すなわち電源電位Vel(i)が高位側の電位Vel_Hに、電源電位Vct(i)が低位側の電位Vct_Lに、それぞれ切り替えられるので、画素回路110の電源電圧が相対的に高くなる。このため、OLED140に供給される電流が多くなるので、輝度を高めることが可能になる。
したがって、本実施形態では、低輝度側と高輝度側との双方が改善されるので、コントラスト比の高い画像表示が可能になる。
【0042】
本発明は、上述した実施形態に限られず、種々の変形・適用が可能である。
例えば上述した実施形態にあっては、行毎の電源線116に、走査線112の走査に同期して電位Vel_Hまたは電位Vel_Lのいずれかを供給する構成としたが、電位Vel_Hを給電する高位側電源線と電位Vel_Lを給電する低位側電源線とを設けるとともに、いずれかの電源線を選択するスイッチを画素回路110内に設けて、トランジスター131のドレインノードdに供給する構成としても良い。
同様に、行毎の陰極線118に、電位Vct_Hまたは電位Vct_Lのいずれかを供給する構成としたが、電位Vct_Hを給電する高位側電源線と電位Vct_Lを給電する低位側電源線とを設けるとともに、いずれかの電源線を選択するスイッチを画素回路110内に設けて、OLED140の陰極に供給する構成としても良い。
【0043】
また、実施形態では、データ線駆動回路180が、各列のデータ線114にそれぞれデータ信号を供給する構成としたが、データ線114を複数本毎にグループ化するとともに、1のグループに属する複数のデータ線114に対し、待機期間において順番にデータ信号を選択して供給する構成としても良い。この構成によれば、待機期間に供給されたデータ信号がデータ線114に寄生する容量によって保持されて、書込期間においてゲートノードgに書き込まれることになる。いずれにしても、データ線114は、少なくとも書込期間において、階調レベルに応じた電位となっていれば良い。
【0044】
一方、トランジスター131、132についてはそれぞれNチャネル型としたが、いずれか一方を、または、双方をPチャネル型としても良い。
また、実施形態においては、発光素子としてOLED140を例示したが、無機EL素子やLED(Light Emitting Diode)素子など、電流に応じた輝度で発光する素子が適用可能である。
【0045】
<電子機器>
次に、本発明に係る電気光学装置を適用した電子機器のいくつかについて説明する。
図9は、上述した実施形態に係る電気光学装置10を表示装置として採用した電子機器(その1)としてのパーソナルコンピューターの外観を示す図である。パーソナルコンピューター2000は、表示装置としての電気光学装置10と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。電気光学装置10において、発光素子にOLED140を使用した場合、視野角が広く見易い画面表示が可能になる。
【0046】
図10は、実施形態に係る電気光学装置10を表示装置として採用した電子機器(その2)である携帯電話機の外観を示す図である。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001や方向キー3002などのほか、受話口3003、送話口3004とともに上述した電気光学装置10を備える。方向キー3002を操作することによって、電気光学装置10に表示される画面がスクロールする。
【0047】
図11は、実施形態に係る電気光学装置10を表示装置として採用した電子機器(その3)としての携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の外観を示す図である。携帯情報端末4000は、複数の操作ボタン4001や方向キー4002などのほか、上述した電気光学装置10を備える。携帯情報端末4000では、所定の操作によって住所録やスケジュール帳などの各種の情報が電気光学装置10に表示されるとともに、表示された情報が方向キー4002の操作に応じてスクロールする。
【0048】
なお、本発明に係る電気光学装置が適用される電子機器としては、図9から図11までに示した例のほか、テレビ、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンター、スキャナー、複写機、ビデオプレーヤー、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。
【符号の説明】
【0049】
10…電気光学装置、110…画素回路、112…走査線、114…データ線、116…電源線、118…陰極線、120…トランジスター、131…トランジスター、132…トランジスター、135…容量素子、136…容量素子、140…発光素子、160…走査線駆動回路、170…電源線駆動回路、180…データ線駆動回路、2000…パーソナルコンピューター、3000…携帯電話機、4000…携帯情報端末。
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示品位の低下を抑えた電気光学装置、電気光学装置の駆動方法および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode、以下「OLED」という)素子などの発光素子を用いた電気光学装置が各種提案されている。この電気光学装置では、表示すべき画像の画素に対応して画素回路が設けられる。当該画素回路は、上記発光素子のほか、当該発光素子に電流を供給するトランジスターを含む回路構成が一般的である。このような回路構成において、トランジスターの閾値電圧や移動度などの特性が画素回路毎に相違していると、表示画面の一様性を損なうような表示ムラが発生する。このため、トランジスターの閾値電圧や移動度などの特性を補償する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−32863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この技術では、低輝度側の階調表現を改善しようとすると、高輝度側の階調表現が悪化し、逆に、高輝度側の階調表現を改善しようとすると、低輝度側の階調表現が悪化する、という問題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、低輝度側の階調表現と高輝度側の階調表現との双方を改善することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明に係る電気光学装置にあっては、ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給する第1トランジスターと、前記第1トランジスターにより供給された電流に応じた輝度で発光する発光素子と、を含み、前記第1トランジスターおよび前記発光素子が、第1電源と第2電源との間に直列に接続された画素回路を有する電気光学装置であって、第1期間に、前記第1電源が高位側の第1電位または低位側の第2電位のうち、第2電位になり、前記第2電源が高位側の第3電位または低位側の第4電位のうち、第3電位になって、前記第1トランジスターのゲート・ソース間が所定電圧にクリアされるとともに、前記発光素子のうち前記第1トランジスターとの接続側の端子が前記第2電位にセットされ、前記第1期間に続く第2期間に、前記第1電源が前記第1電位になり、前記第2電源が前記第3電位に維持されて、前記第1トランジスターのゲート・ソース間が閾値電圧にセットされ、前記第2期間の終了後に、前記第2電源が前記第4電位になり、前記第2期間の後の第3期間に、前記第1トランジスターのゲートに、階調レベルに応じた電位が供給されることを特徴とする。
本発明によれば、第1期間および第2期間では、第2電源が高位側の電位となり、発光素子を非発光状態にさせることができるので、低輝度側の階調表現が改善されるとともに、第1トランジスターが発光素子に電流を供給するとき、第1電源および第2電源の電圧が高められるので、輝度を高められる。
【0006】
本発明において、前記第1トランジスターのゲートには、前記第1期間および第2期間において当該第1トランジスターをオンさせる初期化電位が供給され、前記所定電圧が前記初期化電位と前記第2電位との差になる構成が好ましい。この構成において、前記画素回路は、前記第1トランジスターのゲートと前記データ線との間に電気的に接続された第2トランジスターを含み、前記第2トランジスターは、前記第1期間、前記第2期間および前記第3期間において導通状態になり、前記データ線には、前記第1期間および第2期間に、前記初期化電位が供給され、前記第3期間に、階調レベルに応じた電位となっている態様としても良い。この態様において、前記データ線と、前記初期化電位が給電される給電線との間に電気的に接続された第3トランジスターを有し、前記第3トランジスターは、前記第1期間および第2期間において導通状態になるようにしても良い。
【0007】
本発明において、前記第2電位は、前記階調に応じた電位の最低値以上である構成が好ましい。この構成によれば、第1期間において、発光素子のうち前記第2電源の非接続側の端子を、各画素にわたって、より均等に初期化することが可能になる。
本発明において、前記第1期間に、前記発光素子が逆バイアスとすれば、発光素子に電流が流れないので、非発光状態となる。
なお、本発明は、電気光学装置のほか、電気光学装置の駆動方法や、当該電気光学装置を有する電子機器として概念することも可能である。電子機器は、典型的には表示装置であり、電子機器としてはパーソナルコンピューターや携帯電話機が挙げられる。もっとも、本発明に係る電気光学装置の用途は、表示装置に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(光ヘッド)にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る電気光学装置の構成を示すブロック図である。
【図2】電気光学装置における画素回路を示す図である。
【図3】電気光学装置における動作を示す図である。
【図4】画素回路の動作を説明するため図である。
【図5】画素回路の動作を説明するため図である。
【図6】画素回路の動作を説明するため図である。
【図7】画素回路の動作を説明するため図である。
【図8】画素回路の動作を説明するため図である。
【図9】実施形態に係る電気光学装置を用いた電子機器(その1)を示す図である。
【図10】実施形態に係る電気光学装置を用いた電子機器(その2)を示す図である。
【図11】実施形態に係る電気光学装置を用いた電子機器(その3)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電気光学装置の構成を示すブロック図である。この図に示されるように、この電気光学装置10は、表示部100の周辺に、走査線駆動回路160、電源線駆動回路170およびデータ線駆動回路180が配置された構成となっている。
【0010】
表示部100には、表示すべき画像の画素に対応した画素回路110がマトリクス状に配列されている。詳細には、表示部100において、m行の走査線112が図において横方向に延在して設けられ、また、n列のデータ線114が図において縦方向に延在し、かつ、各走査線112と互いに電気的な絶縁を保って設けられている。そして、画素回路110は、m行の走査線112とn列のデータ線114との交差部に対応して、それぞれ設けられている。このため、画素回路110のマトリクス配列は、縦m行×横n列となる。
ここで、m、nは、いずれも自然数である。走査線112および画素回路110のマトリクスの行(ロウ)を区別するために、図において上から順に1、2、3、…、(m−1)、m行と呼ぶ場合がある。同様にデータ線114および画素回路110のマトリクスの列(カラム)を区別するために、図において左から順に1、2、3、…、(n−1)、n列と呼ぶ場合がある。
また、表示部100には、1行毎に個別の電源線116(第1電源)および陰極線118(第2電源)がそれぞれ設けられ、ともに1行分の画素回路110にわたって共用されている。
【0011】
走査線駆動回路160は、フレームの期間にわたって走査線112を1行毎に順番に走査するための走査信号を生成するものである。ここで、1、2、3、…、(m−1)、m行目の走査線112に供給される走査信号を、それぞれGwr(1)、Gwr(2)、Gwr(3)、…、Gwr(m-1)、Gwr(m)と表記している。なお、フレームの期間とは、電気光学装置10が1カット(コマ)分の画像を表示するのに要する期間をいい、垂直走査周波数が60Hzであれば、その1周期分の16.67ミリ秒の期間である。
また、走査線駆動回路160は、制御信号Giniを信号線122に供給する。この制御信号Giniは、各行の走査期間のうち、後述する初期化期間およびセット期間においてHレベルとなり、他の期間においてLレベルとなる信号である。
【0012】
電源線駆動回路170は、1、2、3、…、(m−1)、m行目の電源線116および陰極線118の電位を、走査線駆動回路160による走査線112の走査に同期して、それぞれ切り替えるものである。詳細には、電源線駆動回路170は、電源線116については、第1電位としての高位側の電位Vel_Hまたは第2電位としての低位側の電位Vel_Lのいずれかに切り替えて供給する。図1においては、1、2、3、…、(m−1)、m行目の電源線116に供給される電源電位を、各行で区別するために、それぞれVel(1)、Vel(2)、Vel(3)、…、Vel(m-1)、Vel(m)と表記している。
また、電源線駆動回路170は、陰極線118については、第3電位としての高位側の電位Vct_Hまたは第4電位としての低位側の電位Vct_Lのいずれかに切り替えて供給する。1、2、3、…、(m−1)、m行目の陰極線118に供給される電源電位を、それぞれVct(1)、Vct(2)、Vct(3)、…、Vct(m-1)、Vct(m)と表記している。
【0013】
データ線駆動回路180は、1行分の走査線112が走査される期間のうち、書込期間において、当該走査される走査線112に位置する画素の階調レベルに応じた電位のデータ信号を、データ線114に出力するものである。ここで、1、2、…、n列目のデータ線114に供給されるデータ信号を、それぞれVd(1)、Vd(2)、Vd(3)、…、Vd(n)と表記している。
なお、データ信号Vd(1)〜Vd(n)の電位をVdataとしたとき、当該電位の最高値Vdata(max)は最大輝度の白レベルに相当し、最低値Vdata(min)は最小輝度の黒レベルに相当する。
【0014】
nチャネル型のトランジスター120は、第3トランジスターとしてデータ線114毎に設けられる。トランジスター120にあっては、ゲートノードが信号線122に接続され、ソースまたはドレインノードの一方が初期間電位としての電位Viniを給電する給電線124に接続され、ソースまたはドレインノードの他方がデータ線114に接続されている。
【0015】
なお、本実施形態では、便宜的に走査線駆動回路160、電源線駆動回路170およびデータ線駆動回路180に分けているが、これらをまとめて、画素回路110を駆動するための駆動回路として概念することも可能である。
【0016】
図2を参照して画素回路110について説明する。なお、この図においては、i行目及び当該i行目に対し下側で隣り合う(i+1)行目の走査線112と、j列目及び当該j列目に対し右側で隣り合う(j+1)列目のデータ線114との交差に対応する2×2の計4画素分の画素回路110が示されている。
ここで、i、(i+1)は、マトリクスの行を一般的に示す場合の記号であって、1以上m以下の整数である。同様に、j、(j+1)は、マトリクスの列を一般的に示す場合の記号であって、1以上n以下の整数である。
【0017】
図2に示されるように、各画素回路110は、それぞれNチャネル型のトランジスター131、132と、容量素子135、136と、OLED140とを含む構成である。各画素回路110については電気的にみれば互いに同一構成なので、i行j列に位置するもので代表して説明する。
【0018】
i行j列の画素回路において、トランジスター132のゲートノードがi行目の走査線112に接続されている。トランジスター132において、ドレインノードまたはソースノードの一方がデータ線114に接続され、ドレインノードまたはソースノードの他方が、容量素子135の一端とトランジスター131のゲートノードgとにそれぞれ接続されている。
【0019】
容量素子135の他端は、トランジスター131のソースノードsと、容量素子136の一端と、OLED140の陽極とにそれぞれ接続されている。トランジスター131のドレインノードdは、i行目の電源線116に接続されている。容量素子136の他端は、各画素回路110にわたって共通に接地されている。本実施形態において、接地レベルは、例えば走査信号のLレベルに相当する電位である。
ここで、トランジスター131が第1トランジスターとなり、トランジスター132が第2トランジスターとなる。
【0020】
OLED140の陰極は、行毎に個別に、かつ、帯状に形成された陰極線118であり、i行目の画素回路110の1行分にわたって共通となっている。一方、OLED140の陽極は、画素回路110毎に個別に設けられた画素電極である。OLED140は、例えばガラス基板において、互いに対向する陽極と透明性を有する陰極とで有機EL材料からなる発光層を挟持した素子である。OLED140において、発光閾値電圧を超えた状態で陽極から陰極に向かって順方向に電流が流れると、当該電流に応じた輝度にて光が発生するとともに、基板とは反対側の陰極を通過し、観察者側に視認される構成となっている。
【0021】
なお、図2において、Gwr(i)、Gwr(i+1)は、それぞれi、(i+1)行目の走査線112に供給される走査信号である。Vel(i)、Vel(i+1)は、それぞれi、(i+1)行目の電源線116に供給される電源電位であり、Vct(i)、Vct(i+1)は、それぞれi、(i+1)行目の陰極線118に供給される電源電位である。
【0022】
表示部100は、一般にガラス基板などの透明性を有する絶縁基板に形成される。このため、表示部100の画素回路110におけるトランジスター131、132は、例えば薄膜トランジスターであり、非晶質シリコンや低温ポリシリコンで形成される。低温ポリシリコンで形成する場合、走査線駆動回路160、電源線駆動回路170およびデータ線駆動回路180を構成する能動素子や、トランジスター120については、画素回路110とともに、上記絶縁基板に形成することができる。
【0023】
図3を参照して電気光学装置10の動作について説明する。なお、図3は、電気光学装置10における各部の動作を説明するための図であるが、電圧振幅を示す縦スケールは、説明便宜のために波形同士で異ならせている場合がある。
この図に示されるように、走査線駆動回路160が走査信号Gwr(1)〜Gwr(m)の電位を切り替えることによって、1フレームの期間において1〜m行目の走査線112が1水平走査期間(H)毎に順番に走査される。
1水平走査期間(H)での動作は、各行の画素回路110にわたって共通である。そこで以下については、主にi行目の走査線112が水平走査される走査期間において、当該i行目にあって、j列目のデータ線114との交差に対応するi行j列の画素回路110について着目して説明する。
【0024】
本実施形態において、i行目の走査期間は、大別すると、時間の順で、初期化期間→セット期間→待機期間→書込期間というサイクルに分けられる。そして、書込期間の終了後(後述する条件を満たした後)から、次のフレームの初期化期間が開始するまでが発光期間となり、これらのサイクルが繰り返される。なお、セット期間は、トランジスター131の閾値電圧Vthを容量素子135にセットする期間であり、書込期間には、トランジスター131の移動度μの補償期間も含まれる。
【0025】
<発光期間>
説明の便宜上、i行目の走査期間の前に、前提となる発光期間から説明する。図3に示されるように、発光期間では、走査信号Gwr(i)がLレベルである。このため、i行j列の画素回路110においては、トランジスター132はオフであり、ゲートノードgは、データ線114から電気的に切り離された状態にある。
一方、電位Vel(i)は高位側の電位Vel_Hであり、逆に電位Vct(i)は低位側の電位Vct_Lである。容量素子135には、すなわちトランジスター131におけるゲート・ソース間には、後述するように階調レベルに応じた電位に対してトランジスター131の特性を相殺するように補償された電圧がセットされている。このため、OLED140には、図4に示されるように当該ゲート・ソース間の電圧Vgsに応じた電流Idsが供給されるので、OLED140は、階調レベルに応じた輝度で、トランジスター131における特性を相殺した状態で発光することになる。このとき、ソースノードs(容量素子136の一端)は、発光期間において当該電流Idsに応じ電位に保持されることになる。
【0026】
<初期化期間>
次に、i行目の走査期間に至る。走査期間の最初は第1期間の初期化期間である。図3に示されるように、i行目の初期化期間では、制御信号Giniおよび走査信号Gwr(i)がそれぞれHレベルとなる。このため、図5に示されるように、各列のトランジスター120がオンし、i行j列におけるトランジスター132がオンする。したがって、ゲートノードgは、トランジスター132、データ線114およびトランジスター120を介して給電線124に電気的に接続されるので、電位Viniにセットされる(図3参照)。
【0027】
一方、電源線116における電位Vel(i)は、電源線駆動回路170によって低位側の電位Vel_Lに切り替えられる。ここで、電位Vel_Lと電位Viniとの差分の電圧は、トランジスター131の閾値電圧Vthを十分に上回るように設定される。このため、トランジスター131がオン状態になるので、図3または図5に示されるように、ソースノードsは、電源線116の電位Vel_Lになる。
【0028】
したがって、トランジスター131のゲート・ソース間の電圧Vgs(容量素子の135の保持電圧)は(Vini−Vel_L)に初期化されるとともに、容量素子136の保持電圧がリセットされる。
このリセット動作をi行目における1〜n列の画素回路110でみたとき、各画素回路110では、発光期間において、容量素子135が電流Idsに応じた電圧Vgsをそれぞれ保持し、容量素子136がソースノードsの電位に応じた電圧をそれぞれ保持していたが、この初期化期間によって容量素子135、136の電圧保持状態が、発光期間の電流状態に関係なく、i行目の画素回路110にわたってそれぞれ均等に初期化される。
ここで、電位Vel_Lについては、データ信号の最低値、すなわち黒レベルに相当する電位Vdata(min)に一致するように設定される。このように設定されると、発光期間から初期化期間になったとき、ソースノードsの電位は、当該発光期間における輝度状態に拘わらず、必ず減少することになるので、i行目の各画素回路110における初期化を、より均等に揃えることができる。
【0029】
初期化期間において、OLED140の陽極(ソースノードs)は低位側の電位Vel_Lに切り替えられ、陰極は高位側の電位Vct_Hに切り替えられる。本実施形態では、Vel_L<Vct_Hとなるように設定される。したがって、発光期間においてオン状態にあったOLED140は、初期化期間において逆バイアスとなるので、オフ状態(非発光状態)に変化する。
【0030】
<セット期間>
初期化期間に続いて、第2期間のセット期間に至る。図3に示されるように、セット期間では、初期化期間と比較して、i行目の電源線116における電位Vel(i)が高位側の電位Vel_Hに切り替えられる。
これにより、図6に示されるように、電流が電源線116から、オン状態にあるトランジスター131のドレイン・ソース間を流れるので、ソースノードsは、電位Vel_Lから上昇し始める(図3参照)。ただし、本実施形態では、セット期間において走査信号Gwr(i)および制御信号Giniが引き続きHレベルであり、ゲートノードgが電位Viniに固定されている。このため、ソースノードsの電位は、それよりも閾値電圧Vthだけ低い電位(Vini−Vth)で飽和する。
【0031】
換言すれば、ゲートノードgおよびソースノードsの間の電圧Vgsは、時間経過とともに徐々に減少し、やがてトランジスター131の閾値電圧Vthに収束する。このようにして、セット期間の終了に至るまでに、トランジスター131のゲート・ソース間には、当該トランジスター131自身の閾値電圧Vthがセットされることになる。
一方、セット期間において、OLED140の陰極は電位Vct_Hである。本実施形態では、OLED140の陽極であるソースノードsの飽和電位(Vini−Vth)と、電位Vct_Hとの差分の電圧は、OLED140の発光閾値電圧を下回るように設定される。このため、セット期間においても、OLED140は、オフ状態を維持することになる。
【0032】
<待機期間>
次にi行目の待機期間に至ると、図3に示されるように、セット期間と比較して、走査信号Gwr(i)および制御信号GiniがそれぞれLレベルになり、i行目の陰極線118における電位Vct(i)が低位側の電位Vct_Lに切り替わる。このため、i行j列の画素回路110にあっては、図7に示されるように、トランジスター132がオフするので、トランジスター131のゲートノードgは、j列目のデータ線114から電気的に切り離された状態、すなわちハイ・インピーダンス状態になる。
また、各列のトランジスター120もオフするので、各データ線114は、給電線124から電気的に切り離される。このため、各データ線114についても、それぞれハイ・インピーダンス状態になるが、寄生容量によって直前状態の電位Viniに維持される。
【0033】
OLED140は、上述したように陽極と陰極とで発光層を挟持した構成であるので、陽極と陰極との間には並列に容量が寄生する(図示省略)。このため、陰極線118における電位Vct(i)が低位側の電位Vct_Lに切り替わると、容量素子136とOLED140の寄生容量との接続点であるソースノードsの電位は、電位Vct(i)の電位変動分である(Vct_H−Vct_L)を容量素子136と寄生容量との容量比に応じて分圧した分だけ低下する。ただし、ゲートノードgがハイ・インピーダンス状態であるので、ゲートノードgの電位は、図3に示されるように、ソースノードsの電位変化に連動し、かつ、閾値電圧Vthを維持しつつ、低下することになる。
【0034】
なお、待機期間において、OLED140の陽極(ソースノードs)の電位が低下し、陰極についても、電位Vct_Lに低下する。このときの差分の電圧がOLED140の発光閾値電圧を下回るように、容量素子136の容量や陰極線118の電位低下分(Vct_H−Vct_L)が適切に設定される。このため、待機期間においても、OLED140はオフ状態を維持することになる。
【0035】
<書込期間>
続いて、第3期間としての書込期間に至る。i行目の書込期間では、図3に示されるように、走査信号Gwr(i)が再度Hレベルに遷移する一方、j列目のデータ線114にあっては、i行j列の階調に応じた電位Vdataのデータ信号がデータ線駆動回路180によって供給される。このため、図8に示されるように、トランジスター132がオンするので、ゲートノードgには、データ線114に供給されたデータ信号Vd(j)の電位Vdata、すなわちi行j列の画素に指定された階調レベルに応じた電位が書き込まれる。
また、待機期間にソースノードsに連動して低下したときのゲートノードgの電位は、データ信号が取り得る電位のうち、最低値の黒レベルに相当する電位Vdata(min)以下となるように設定される。このため、ゲートノードgは、書込期間において電位Vdataが供給されたときに、黒レベル以外であれば、必ず上昇することになる(図3参照)。
一方、容量素子136の他端は接地されており、電位が固定であるので、容量素子135、136の接続点であるソースノードsの電位は、ゲートノードgの電位上昇分を容量素子135、135の容量比で分圧した分だけ上昇することになる。
このため、図8に示されるように、トランジスター131のドレインノードdからソースノードsに向かって電流が流れる。
【0036】
このときに流れる電流によって、トランジスター131のゲート・ソース間の電圧Vgsが、次のように負帰還制御(移動度補償)される。
すなわち、トランジスター131の移動度μが小さければ、ドレインノードdからノードsに流れる電流が少なくなる。このため、ソースノードsの電位上昇量ΔVが小さくなり(図3参照)、その分、電圧Vgsの変化量(負帰還量)が大きくなるので、移動度μが小であるトランジスター131に対して、電流が多く流れる方向に制御が働く。
反対に、トランジスター131の移動度μが大きければ、ドレインノードdからソースノードsに流れる電流が多くなる。このため、ソースノードsの電位上昇量ΔVが大きくなり、その分、電圧Vgsの変化量(負帰還量)が小さくなるので、移動度μが大であるトランジスター131に対して、電流が少なく流れる方向に制御が働く。
このようにして、結局、図3に示されるように、トランジスター131のゲート・ソース間の電圧Vgsは、書込期間が終了するまでに、階調レベルに応じた電位Vdata、閾値電圧Vthおよび移動度μを、それぞれ反映させた電圧(Vdata+Vth−ΔV)に収束することになる。
【0037】
<発光期間>
そして、書込期間が終了すると、図3に示されるように、走査信号の電位Gwr(i)が再びLレベルとなる。このため、図4に示されるようにトランジスター132がオフするので、ゲートノードgは、ハイ・インピーダンス状態になる。このとき、トランジスター131におけるゲート・ソース間の電圧Vgs(容量素子135の両端電圧)は、書込期間の終了時における電圧(Vdata+Vth−ΔV)に維持されるから、トランジスター131には当該電圧に応じた電流Idsが流れて、容量素子136が充電される。
この結果、図3に示されるように、容量素子136の一端であるソースノードsの電位は時間の経過とともに再上昇する。ゲートノードgはハイ・インピーダンス状態であるので、ゲートノードgの電位は、ソースノードsの電位上昇に連動して上昇する。すなわち、ゲートノードgおよびソースノードsは、書込期間の終了時の電圧Vgsを維持した状態で、それぞれ上昇する。
ソースノードsの電位が上昇する過程において、OLED140の両端電圧が発光閾値電圧を超えると、電流Idsの一部がOLED140にも流れ始めて、発光開始となる。まもなく容量素子136への充電が完了すると、電流IdsがすべてOLED140に流れるので、当該OLED140は、当該電流Idsに応じた輝度で発光し続けることになる。
【0038】
ゲート・ソース間の電圧Vgsが(Vdata+Vth−ΔV)であるから、トランジスター131によってOLED140に供給される電流Idsは、当該トランジスター131が飽和領域で動作する場合を考えると、まず、閾値電圧Vthの影響が相殺される。また、電圧Vgsがトランジスター131の移動度μに応じて負帰還制御されているので、画素回路110毎に、トランジスター131の移動度μが相違しても、電流Idsのバラツキによる影響が抑えられる。
【0039】
このような動作は、i行目の走査期間において、着目したj列目の画素回路110以外においても時間的に並列して実行される。さらに、このような動作は、1フレームの期間において1、2、3、…、(m−1)、m行目の順番で実行されるとともに、フレーム毎に繰り返される。
この動作において、各画素回路110にけるOLED140には、トランジスター131の閾値電圧Vthや移動度μのバラツキが補償された電流がそれぞれ供給される。したがって、本実施形態によれば、画素回路110毎にトランジスター131の特性がばらついても、そのばらつきに起因した輝度のムラが抑制されるので、高品位な表示が可能となる。
【0040】
ところで、輝度を高めるためには、単純には、電源線116と陰極線118との電位差を、すなわち画素回路110の電源電圧を高めれば良い。ただし、電源電圧を高める場合に、OLED140の陰極が連続的に形成されて全画素回路110にわたって共通電位で一定とした従来構成では、次のような問題点が発生する。
詳細には、セット期間においてソースノードsの電位は、トランジスター131のオン状態とさせる電位Viniに対して、閾値電圧Vthだけ低い電位となる。このため、電源電圧を高めた場合に、陽極(ソースノードs)と陰極との電位差がOLED140の発光閾値電圧を超えて、OLED140が発光してしまい、低輝度側の表現を阻害する。これを回避するためには、共通の陰極の電位を高めれば良いが、高い電源電圧を確保できず、OLED140を高輝度で発光させることができなくなる。
このため、OLED140の陰極側の電源電位を一定とした従来構成では、低輝度側の階調表現と高輝度側の階調表現とが両立しない、という問題があった。
【0041】
これに対して、本実施形態において、i行目の初期化期間およびセット期間では、陰極線118の電源電位Vct(i)が、高位側の電位Vct_Hになる。これにより、画素回路110の電源電圧、すなわちトランジスター131のドレインノードdとOLED140の陰極との間の電源電圧は相対的に低くなるので、初期化期間およびセット期間でOLED140をオフ状態とさせることが容易となる。換言すれば、初期化期間およびセット期間においてOLED140がオン状態となって発光してしまうことが回避されるので、低輝度側の階調表現が改善される。
一方、i行目の書込期間および発光期間では、電源電位Vel(i)と電源電位Vct(i)とが互いに離れる方向の電位に、すなわち電源電位Vel(i)が高位側の電位Vel_Hに、電源電位Vct(i)が低位側の電位Vct_Lに、それぞれ切り替えられるので、画素回路110の電源電圧が相対的に高くなる。このため、OLED140に供給される電流が多くなるので、輝度を高めることが可能になる。
したがって、本実施形態では、低輝度側と高輝度側との双方が改善されるので、コントラスト比の高い画像表示が可能になる。
【0042】
本発明は、上述した実施形態に限られず、種々の変形・適用が可能である。
例えば上述した実施形態にあっては、行毎の電源線116に、走査線112の走査に同期して電位Vel_Hまたは電位Vel_Lのいずれかを供給する構成としたが、電位Vel_Hを給電する高位側電源線と電位Vel_Lを給電する低位側電源線とを設けるとともに、いずれかの電源線を選択するスイッチを画素回路110内に設けて、トランジスター131のドレインノードdに供給する構成としても良い。
同様に、行毎の陰極線118に、電位Vct_Hまたは電位Vct_Lのいずれかを供給する構成としたが、電位Vct_Hを給電する高位側電源線と電位Vct_Lを給電する低位側電源線とを設けるとともに、いずれかの電源線を選択するスイッチを画素回路110内に設けて、OLED140の陰極に供給する構成としても良い。
【0043】
また、実施形態では、データ線駆動回路180が、各列のデータ線114にそれぞれデータ信号を供給する構成としたが、データ線114を複数本毎にグループ化するとともに、1のグループに属する複数のデータ線114に対し、待機期間において順番にデータ信号を選択して供給する構成としても良い。この構成によれば、待機期間に供給されたデータ信号がデータ線114に寄生する容量によって保持されて、書込期間においてゲートノードgに書き込まれることになる。いずれにしても、データ線114は、少なくとも書込期間において、階調レベルに応じた電位となっていれば良い。
【0044】
一方、トランジスター131、132についてはそれぞれNチャネル型としたが、いずれか一方を、または、双方をPチャネル型としても良い。
また、実施形態においては、発光素子としてOLED140を例示したが、無機EL素子やLED(Light Emitting Diode)素子など、電流に応じた輝度で発光する素子が適用可能である。
【0045】
<電子機器>
次に、本発明に係る電気光学装置を適用した電子機器のいくつかについて説明する。
図9は、上述した実施形態に係る電気光学装置10を表示装置として採用した電子機器(その1)としてのパーソナルコンピューターの外観を示す図である。パーソナルコンピューター2000は、表示装置としての電気光学装置10と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。電気光学装置10において、発光素子にOLED140を使用した場合、視野角が広く見易い画面表示が可能になる。
【0046】
図10は、実施形態に係る電気光学装置10を表示装置として採用した電子機器(その2)である携帯電話機の外観を示す図である。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001や方向キー3002などのほか、受話口3003、送話口3004とともに上述した電気光学装置10を備える。方向キー3002を操作することによって、電気光学装置10に表示される画面がスクロールする。
【0047】
図11は、実施形態に係る電気光学装置10を表示装置として採用した電子機器(その3)としての携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の外観を示す図である。携帯情報端末4000は、複数の操作ボタン4001や方向キー4002などのほか、上述した電気光学装置10を備える。携帯情報端末4000では、所定の操作によって住所録やスケジュール帳などの各種の情報が電気光学装置10に表示されるとともに、表示された情報が方向キー4002の操作に応じてスクロールする。
【0048】
なお、本発明に係る電気光学装置が適用される電子機器としては、図9から図11までに示した例のほか、テレビ、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンター、スキャナー、複写機、ビデオプレーヤー、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。
【符号の説明】
【0049】
10…電気光学装置、110…画素回路、112…走査線、114…データ線、116…電源線、118…陰極線、120…トランジスター、131…トランジスター、132…トランジスター、135…容量素子、136…容量素子、140…発光素子、160…走査線駆動回路、170…電源線駆動回路、180…データ線駆動回路、2000…パーソナルコンピューター、3000…携帯電話機、4000…携帯情報端末。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給する第1トランジスターと、
前記第1トランジスターにより供給された電流に応じた輝度で発光する発光素子と、
を含み、
前記第1トランジスターおよび前記発光素子が、第1電源と第2電源との間に直列に接続された画素回路を有する電気光学装置であって、
第1期間に、前記第1電源が高位側の第1電位または低位側の第2電位のうち、第2電位になり、前記第2電源が高位側の第3電位または低位側の第4電位のうち、第3電位になって、前記第1トランジスターのゲート・ソース間が所定電圧にクリアされるとともに、前記発光素子のうち前記第1トランジスターとの接続側の端子が前記第2電位にセットされ、
前記第1期間に続く第2期間に、前記第1電源が前記第1電位になり、前記第2電源が前記第3電位に維持されて、前記第1トランジスターのゲート・ソース間が閾値電圧にセットされ、
前記第2期間の終了後に、前記第2電源が前記第4電位になり、
前記第2期間の後の第3期間に、前記第1トランジスターのゲートに、階調レベルに応じた電位が供給される
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記第1トランジスターのゲートには、
前記第1期間および第2期間において当該第1トランジスターをオンさせる初期化電位が供給され、
前記所定電圧が前記初期化電位と前記第2電位との差になる
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記画素回路は、
前記第1トランジスターのゲートと前記データ線との間に電気的に接続された第2トランジスターを含み、
前記第2トランジスターは、前記第1期間、前記第2期間および前記第3期間において導通状態になり、
前記データ線には、
前記第1期間および第2期間に、前記初期化電位が供給され、前記第3期間に、階調レベルに応じた電位となっている
ことを特徴とする請求項2に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記データ線と、前記初期化電位が給電される給電線との間に電気的に接続された第3トランジスターを有し、
前記第3トランジスターは、前記第1期間および第2期間において導通状態になる
ことを特徴とする請求項3に記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記第2電位は、
前記階調に応じた電位の最低値以上である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項6】
前記第1期間に、前記発光素子が逆バイアスとなる
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項7】
ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給する第1トランジスターと、
前記第1トランジスターにより供給された電流に応じた輝度で発光する発光素子と、
を含み、
前記第1トランジスターおよび前記発光素子が、第1電源と第2電源との間に直列に接続された画素回路を有する電気光学装置の駆動方法であって、
第1期間に、前記第1電源を、高位側の第1電位または低位側の第2電位のうち、第2電位とし、前記第2電源を、高位側の第3電位または低位側の第4電位のうち、第3電位として、前記第1トランジスターのゲート・ソース間を所定電圧にクリアするとともに、前記発光素子のうち前記第1トランジスターとの接続側の端子を前記第2電位にセットし、
前記第1期間に続く第2期間に、前記第1電源を前記第1電位とし、前記第2電源を前記第3電位に維持して、前記第1トランジスターのゲート・ソース間に閾値電圧をセットし、
前記第2期間の終了後に、前記第2電源を前記第4電位とし、
前記第2期間の後の第3期間に、前記第1トランジスターのゲートに、階調レベルに応じた電位を供給する
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の電気光学装置を有する
ことを特徴とする電子機器。
【請求項1】
ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給する第1トランジスターと、
前記第1トランジスターにより供給された電流に応じた輝度で発光する発光素子と、
を含み、
前記第1トランジスターおよび前記発光素子が、第1電源と第2電源との間に直列に接続された画素回路を有する電気光学装置であって、
第1期間に、前記第1電源が高位側の第1電位または低位側の第2電位のうち、第2電位になり、前記第2電源が高位側の第3電位または低位側の第4電位のうち、第3電位になって、前記第1トランジスターのゲート・ソース間が所定電圧にクリアされるとともに、前記発光素子のうち前記第1トランジスターとの接続側の端子が前記第2電位にセットされ、
前記第1期間に続く第2期間に、前記第1電源が前記第1電位になり、前記第2電源が前記第3電位に維持されて、前記第1トランジスターのゲート・ソース間が閾値電圧にセットされ、
前記第2期間の終了後に、前記第2電源が前記第4電位になり、
前記第2期間の後の第3期間に、前記第1トランジスターのゲートに、階調レベルに応じた電位が供給される
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記第1トランジスターのゲートには、
前記第1期間および第2期間において当該第1トランジスターをオンさせる初期化電位が供給され、
前記所定電圧が前記初期化電位と前記第2電位との差になる
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記画素回路は、
前記第1トランジスターのゲートと前記データ線との間に電気的に接続された第2トランジスターを含み、
前記第2トランジスターは、前記第1期間、前記第2期間および前記第3期間において導通状態になり、
前記データ線には、
前記第1期間および第2期間に、前記初期化電位が供給され、前記第3期間に、階調レベルに応じた電位となっている
ことを特徴とする請求項2に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記データ線と、前記初期化電位が給電される給電線との間に電気的に接続された第3トランジスターを有し、
前記第3トランジスターは、前記第1期間および第2期間において導通状態になる
ことを特徴とする請求項3に記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記第2電位は、
前記階調に応じた電位の最低値以上である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項6】
前記第1期間に、前記発光素子が逆バイアスとなる
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項7】
ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給する第1トランジスターと、
前記第1トランジスターにより供給された電流に応じた輝度で発光する発光素子と、
を含み、
前記第1トランジスターおよび前記発光素子が、第1電源と第2電源との間に直列に接続された画素回路を有する電気光学装置の駆動方法であって、
第1期間に、前記第1電源を、高位側の第1電位または低位側の第2電位のうち、第2電位とし、前記第2電源を、高位側の第3電位または低位側の第4電位のうち、第3電位として、前記第1トランジスターのゲート・ソース間を所定電圧にクリアするとともに、前記発光素子のうち前記第1トランジスターとの接続側の端子を前記第2電位にセットし、
前記第1期間に続く第2期間に、前記第1電源を前記第1電位とし、前記第2電源を前記第3電位に維持して、前記第1トランジスターのゲート・ソース間に閾値電圧をセットし、
前記第2期間の終了後に、前記第2電源を前記第4電位とし、
前記第2期間の後の第3期間に、前記第1トランジスターのゲートに、階調レベルに応じた電位を供給する
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の電気光学装置を有する
ことを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−44986(P2013−44986A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183375(P2011−183375)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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