説明

電気化学セル用包装材料

【課題】本発明は、耐電解液性及び成形性に優れる電気化学セル用包装材料を提供する。
【解決手段】少なくとも最外層の保護層111と基材層112と金属箔層114と最内層の熱接着性樹脂層116とを順次積層して構成される電気化学セル用包装材料110であって、保護層111の樹脂組成物にアクリロイル基の官能基数が5以上10以下の多官能ウレタンアクリレートと、光重合開始剤と、コールターカウンター法による平均粒径が0.2〜10μmの球状フィラーと、を含めた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル用包装材料に関し、特に、耐電解液性及び成形性に優れる電気化学セル用包装材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は電気化学セル用包装材料の層構造を示す概略断面図である。電気化学セル用包装材料210は基材層212、金属箔層214、熱接着性樹脂層216が順次積層しており、熱接着性樹脂層216同士を対向させて周縁部をヒートシールすることにより電気化学セルの外装体が形成される。このとき、外装体は電解液、セパレータ等の電池要素を収納するための空間が設けられる。この収納空間は矩形状に断裁された包装材料をプレス成形して形成される。
【0003】
このような外装体を備えるリチウムイオン電池の製造工程において、外装体内部に電解液を封入する際に電解液が外装体上面に付着することがある。このとき、電解液により基材層212表面が腐食(白化)する場合がある。このため、外装体の外観不良が問題となっていた。
【0004】
特許文献1では、基材層212の上面に電離放射線硬化樹脂からなる硬化樹脂層を形成した包装材料が開示されている。電離放射線硬化樹脂には紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂などが挙げられている。また、プレス成形時の成形性を高めるために硬化樹脂層表面に更に滑剤が塗布されている。硬化樹脂層により基材層212を電解液から保護することができる。また、滑剤によりプレス成形の金型と硬化樹脂層の間で十分な滑性が得られ、安定した成形性が得られる。
【0005】
また、特許文献2ではコーティング層を有する延伸フィルムを基材層212として用いた包装材料が開示されている。コーティング層は塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、セルロースエステル、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂から選ばれた少なくとも1種から構成される。コーティング層により基材層表面を保護することができる。また、コーティング層を含む基材層の引張強さ及び伸びに優れ、安定した成形性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−56823号公報
【特許文献2】特許第3567229号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の包装材料によると、硬化樹脂層表面に塗布された滑剤に電解液が付着すると滑剤が剥がれて包装材料の成形性が低下する問題があった。また、滑剤を用いるとプレス成形の金型に滑剤が堆積して成形性が低下する問題があった。
【0008】
また、特許文献2の包装材料によると、プレス成形の金型とコーティング層の間の滑性について検討されていないため包装材料の成形性が安定しない問題があった。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑み、耐電解液性及び成形性に優れる電気化学セル用包装材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、少なくとも最外層の保護層と基材層と金属箔層と最内層の熱接着性樹脂層とを順次積層して構成される電気化学セル用包装材料であって、前記保護層の樹脂組成物がアクリロイル基の官能基数が5以上10以下の多官能ウレタンアクリレートと、光重合開始剤と、コールターカウンター法による平均粒径が0.2〜10μmの球状フィラーと、を含むことを特徴としている。
【0011】
また本発明は、上記構成の電気化学セル用包装材料において、前記保護層の樹脂組成物における前記球状フィラーの含有比率が5〜50重量%であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の構成によれば、アクリロイル基の官能基数が5以上10以下の多官能ウレタンアクリレートが安定した耐電解液性を示す。このため、保護層が基材層表面を保護して基材層が腐食(白化)するのを防ぐことができる。また、コールターカウンター法による平均粒径が0.2〜10μmの球状フィラーが保護層に含まれるため、電気化学セル用包装材料表面が一定の滑性を有する。これにより、プレス成形時の成形性が安定する。また、光重合開始剤を含むため、保護層を簡易に形成することができる。なお、球状フィラーの平均粒径が0.2μmより小さいと十分な滑性が得られない。また、コールターカウンター法による平均粒径が10μmより大きいと保護層の樹脂組成物が脆くなる。
【0013】
本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の電気化学セル用包装材料において、保護層の樹脂組成物における球状フィラーの含有比率を50重量%以下にすることにより、保護層表面の膜荒れを防ぐことができる。これにより、電気化学セル用包装材料表面の外観不良を防ぐことができる。また、球状フィラーの含有比率を5重量%以上にすることにより、保護層表面に一定の滑性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る電気化学セル用包装材料の層構造を示す概略断面図
【図2】本発明の実施形態に係る電気化学セル用包装材料を外装体に用いたリチウムイオン電池の斜視図
【図3】図2中のリチウムイオン電池のA−A’線断面図
【図4】実施例における成形性及び耐電解液性の評価をまとめた表
【図5】従来の電気化学セル用包装材料の層構造を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の電気化学セル用包装材料について説明する。図1は電気化学セル用包装材料110の層構造を示す概略断面図であり、図2は電気化学セル用包装材料110を外装体に用いたリチウムイオン電池121の斜視図であり、図3は図2中のリチウムイオン電池121のA−A’線断面図である。
【0016】
多層フィルムである電気化学セル用包装材料110は、保護層111、基材層112、接着層113、金属箔層114、酸変性ポリオレフィン層115、熱接着性樹脂層116が順次積層して構成されている。金属箔層114の両面には化成処理が施され、金属箔層114と酸変性ポリオレフィン層115及び金属箔層114と接着層113との層間接着強度が高められている。
【0017】
また、保護層111はエンボス時の金型との摩擦抵抗を小さくする目的で樹脂組成物に球状フィラー111aが添加されている。また、電解液が付着した場合に基材層112を保護する目的で保護層111の樹脂組成物にはアクリロイル基の官能基数が5以上10以下の多官能ウレタンアクリレートが含まれる。
【0018】
なお、本実施形態に係る電気化学セル用包装材料110は上記各層を含むとともに各層間に異なる層を介在させてもよい。また、電気化学セル用包装材料110を構成する各層の樹脂組成物については後で詳細に説明する。
【0019】
リチウムイオン電池121は電気化学セル用包装材料110から作製される外装体120内部にリチウムイオン電池本体122を密封収納して構成される。外装体120は収納部を有する凹部120aと収納部を覆うシート部120bにより構成される。凹部120aは底面120cと底面120cの外周縁から上方に起立する側壁120dと側壁120dの上端縁から外方へ水平方向に延出するフランジ120eにより構成される。
【0020】
凹部120aは矩形状の電気化学セル用包装材料110をプレス成形して作製する。成形工程は、まず、電気化学セル用包装材料110の保護層111側を凹状のメス型成形金型に向けて載置する。次に、熱接着性樹脂層116側からオス型の成形金型で所定の成形深さに冷間成形する。これにより、底面120cと側壁120dとフランジ120eが連接して形成される。このとき、メス型成形金型と保護層111間の摩擦抵抗は球状フィラー111aにより抑えられる。したがって、プレス成形時における電気化学セル用包装材料110の破断を防ぎ安定した成形性が得られる。
【0021】
凹部120aの底面120cと側壁120dで囲まれる収納空間にリチウムイオン電池本体122が収納される。リチウムイオン電池本体122に連結される正極タブ123a及び負極タブ123bはフランジ120eにおいてタブフィルム(不図示)を介在させて凹部120aとシート部120bにより挟持されながら外部に延出する。
【0022】
リチウムイオン電池本体122は、正極活物質及び正極集電体(不図示)から成る正極と、負極活物質及び負極集電体(不図示)から成る負極と、正極及び負極間に充填される電解質(不図示)とを含むセル(不図示)により構成される。セルは正極集電体が延出する正極板と負極集電体が延出する負極板を複数積層して構成される。正極板と負極板はセパレータ(不図示)を介して交互に複数積層される。積層された複数の正極集電体、負極集電体は重畳してそれぞれ一枚の正極タブ123a、負極タブ123bに連結する。
【0023】
次に、電気化学セル用包装材料110を構成する各層について詳細に説明する。保護層111は樹脂組成物が主剤である多官能ウレタンアクリレートと、光重合開始剤と、球状フィラー111aと、を含む。多官能ウレタンアクリレートは分子中に少なくとも5以上10以下のアクリロイル基を有する。なお、5以上10以下のアクリロイル基を有する多官能ウレタンアクリレートを単独または2種以上を混合して使用しても良い。ここで、多官能ウレタンアクリレートにおける光官能基の含有比率は50〜95%である。
【0024】
これら反応時間の短縮を目的として触媒を添加してもよい。触媒としては、塩基性触媒及び酸性触媒のいずれかが用いられる。塩基性触媒としては、例えばピリジン、ピロール、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、アンモニアなどのアミン類、トリブチルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン等のフォスフィン類を挙げることができる。また、酸性触媒としては、例えばナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、トリブトキシアルミニウム、トリチタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラブトキシド等の金属アルコキシド類、塩化アルミニウム等のルイス酸類、2−エチルヘキサンスズ、オクチルスズトリラウリレート、ジブチルスズジラウリレート、オクチルスズジアセテート等のスズ化合物である。これら触媒の添加量は、ポリイソシアネートを100重量部に対して、通常0.1重量部以上1重量部以下である。
【0025】
さらに、反応に際しては反応中の重合を防止するために重合禁止剤(例えば、メトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、フェノチアジン等)を使用することが好ましく、該重合禁止剤の使用量は反応混合物に対して0.01重量%以上1重量%以下であり、好ましくは0.05重量%以上0.5重量%以下である。反応温度は60〜150℃であり、好ましくは80〜120℃である。
【0026】
光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類等が挙げられる。また、具体的には、市場より、チバ・スペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、イルガキュア907(2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、BASF社製ルシリンTPO(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)等を容易に入手出来る。また、これらは、単独又は2種以上を混合して使用しても良い。
【0027】
光重合開始剤成分の使用量は、保護層111の樹脂組成物の固形分を100重量%とした場合、0重量%以上10重量%以下であり、好ましくは1重量%以上7重量%以下である。
【0028】
また、上記の光重合開始剤は硬化促進剤と併用することもできる。併用しうる硬化促進剤としては、例えばトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、2−メチルアミノエチルベンゾエート、ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミノエステル、EPAなどのアミン類、2−メルカプトベンゾチアゾールなどの水素供与体が挙げられる。これらの硬化促進剤の使用量は、保護層111の樹脂組成物の固形分を100重量%とした場合、0重量%以上5重量%以下である。
【0029】
保護層111の樹脂組成物には、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、重合禁止剤、架橋剤などを本発明の感光性樹脂組成物に添加し、それぞれ目的とする機能性を付与することも可能である。レベリング剤としてはフッ素系化合物、シリコーン系化合物、アクリル系化合物等が、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物等、光安定化剤としてはヒンダードアミン系化合物、ベンゾエート系化合物等、酸化防止剤としてはフェノール系化合物等、重合禁止剤としては、メトキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン等が、架橋剤としては、前記ポリイソシアネート類、メラミン化合物等が挙げられる。
【0030】
保護層111は基材層112の上面に樹脂組成物の乾燥後の膜厚が通常0.1μm以上50μm以下、好ましくは1μm以上2μm以下になるように塗布し、乾燥後紫外線を照射して硬化膜を形成させることにより得ることができる。
【0031】
保護層111の樹脂組成物の塗布方法としては、例えば、バーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、マイクログラビア塗工、マイクロリバースグラビアコーター塗工、ダイコーター塗工、ディップ塗工、スピンコート塗工、スプレー塗工などが挙げられる。
【0032】
硬化のために紫外線を照射するが、電子線などを使用することもできる。紫外線により硬化させる場合、光源としては、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプなどを有する紫外線照射装置が使用され、必要に応じて光量、光源の配置などが調整される。高圧水銀灯を使用する場合、80〜120W/cm2のエネルギーを有するランプ1灯に対して搬送速度5〜60m/分で硬化させるのが好ましい。一方、電子線により硬化させる場合は、100〜500eVのエネルギーを有する電子線加速装置を使用するのが好ましく、その際光重合開始剤は使用しなくてもよい。
【0033】
また、保護層111の樹脂組成物にはコールターカウンター法による平均粒径が0.2〜10μmの球状フィラー111aが添加されている。球状フィラー111aとしてシリカ系、アクリル系、アルミナ系、酸化チタンなどを使用することができる。また、顔料として使用されるカーボンブラックやキナクリドン、モノアゾイエロー、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等も使用することができる。なお、球状フィラー111aの平均粒径が0.2μmより小さいと十分な滑性が得られない。また、平均粒径が10μmより大きいと保護層111の樹脂組成物が脆くなる。
【0034】
また、保護層111の樹脂組成物における球状フィラー111aの含有比率は5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。また、球状フィラー111aの含有比率を5重量%以上にすることにより、保護層111表面に一定の滑性を付与することができる。
また、球状フィラー111aの含有比率を50重量%以下にすることにより、保護層111表面の膜荒れを防ぐことができる。これにより、電気化学セル用包装材料110表面の外観不良を防ぐことができる。なお、コールターカウンター法とは、粒径、粒径分布の測定法の一つであり、電解溶液中に1個の小孔のある隔壁を設け、その両側に電極をおいて電圧を加えると、電流が流れるが、その抵抗は隔壁の小孔部の体積で決まる。この電解質溶液中に球状フィラー111aを分散させて希薄な懸濁液とし、隔壁の一方から吸引すると、粒子が小孔中を通過するとき、その体積分だけ電解質が減るので、電気抵抗が増大する。したがって、この抵抗の変化量が粒子体積を、抵抗変化の発生数が粒子を示すから、粒径分布が得られる。
【0035】
基材層112は、延伸ポリエステルまたは延伸ナイロンフィルムを用いることができ、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロンとしては、ポリアミド樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0036】
また、基材層112は耐ピンホール性および電池の外装体とした時の絶縁性を向上させるために、ポリエステルフィルム又はナイロンフィルムの他、異なる材質のフィルムを積層化することも可能である。
【0037】
金属箔層114は、外部からリチウムイオン電池121の内部に水蒸気が浸入することを防止するための層で、金属箔層単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成形性)を安定化し、かつ耐ピンホール性をもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウムを用いる。
【0038】
また、ピンホールの発生を改善し、リチウムイオン電池の外装体のタイプをエンボスタイプとする場合、エンボス成形におけるクラックなどの発生のないものとするために、金属箔層114として用いるアルミニウムの材質を、鉄含有量が0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%とすることが望ましい。
【0039】
これによって、鉄を含有していないアルミニウムと比較して、アルミニウムの展延性がよく、外装体として折り曲げによるピンホールの発生が少なくなり、包装材料料をエンボス成形する時に側壁を容易に形成することができる。なお、鉄含有量が、0.3重量%未満の場合は、ピンホールの発生の防止、エンボス成形性の改善等の効果が認められず、アルミニウムの鉄含有量が9.0重量%を超える場合は、アルミニウムとしての柔軟性が阻害され、包装材料として製袋性が悪くなる。
【0040】
また、冷間圧延で製造されるアルミニウムは焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性・腰の強さ・硬さが変化するが、本発明において用いるアルミニウムは焼きなましをしていない硬質処理品より、多少または完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウムがよい。
【0041】
また、化成処理は、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン、リン酸亜鉛等の非クロム系(塗布型)化成処理等により金属箔層114面に形成されるものであるが、連続処理が可能であると共に水洗工程が不要で処理コストを安価にすることができるという点などから塗布型化成処理、特にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物、リン化合物、を含有する処理液で処理するのが最も好ましい。
【0042】
また、化成処理の形成方法は、処理液をバーコー卜法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法等の周知の塗布法を選択して成形すればよい。また、化成処理を施す前に金属箔層114表面に、予め、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、酸活性化法等の周知の脱脂処理法で処理を施しておく方が、化成処理の機能を最大限に発現させるとともに、長期間維持することができる点から好ましい。
【0043】
熱接着性樹脂層116は、熱接着性樹脂層116と正極タブ123a又は負極タブ123bとの間にタブフィルムを介在させるか否かで樹脂種が異なる。タブフィルムを介在させる場合には、プロピレン系樹脂の単体ないし混合物などからなるフィルムを用いればよく、タブフィルムを介在させない場合、不飽和カルボン酸でグラフト変性した酸変性オレフィン樹脂からなるフィルムを用いればよい。
【0044】
また、熱接着性樹脂層116としてはポリプロピレンが好適に用いられるが、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンの単層または多層、または、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンのブレンド樹脂からなる単層または多層からなるフィルムとしても使用できる。
【0045】
前記各タイプのポリプロピレン、すなわち、ランダムプロピレン、ホモプロピレン、ブロックプロピレンおよび、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンには、低結晶性のエチレンーブテン共重合体、低結晶性のプロピレンーブテン共重合体、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー、シリカ、ゼオライト、アクリル樹脂ビーズ等のアンチブロッキング剤(AB剤)、脂肪酸アマイド系のスリップ剤等を添加してもよい。
【0046】
酸変性ポリオレフィン層115は金属箔層114と熱接着性樹脂層116とを安定して接着するために酸変性ポリプロピレンが好適に用いられる。酸変性ポリオレフィン層115は熱接着性樹脂層116に用いる樹脂種により適宜選択して用いる必要があり、酸変性ポリプロピレン以外の酸変性ポリオレフィン樹脂を用いる場合、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等があり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよい。
【0047】
また、酸変性ポリプロピレンを用いる場合、
(1)ビガット軟化点115℃以上、融点150℃以上のホモタイプ
(2)ビガット軟化点105℃以上、融点130℃以上のエチレンープロピレンとの共重合体(ランダム共重合タイプ)
(3)融点110℃以上である不飽和カルボン酸を用い酸変性重合した単体又はブレンド物等を用いることができる。
【0048】
接着層113は、基材層112と金属箔層114を強固に接着するものである。これらの層間接着はドライラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法、熱ラミネート法等の方法を用いることができる。
【0049】
ドライラミネート法により貼り合わせを行う際には、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系、ポリエーテル系、シアノアクリレート系、ウレタン系、有機チタン系、ポリエーテルウレタン系、エポキシ系、ポリエステルウレタン系、イミド系、イソシアネート系、ポリオレフィン系、シリコーン系の各種接着剤を用いることができる。
【0050】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
また、電気化学セルとはリチウムイオン電池以外にニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムメタル一次電池あるいは二次電池、リチウムポリマー電池等の化学電池及び電気二重層キャパシタ、キャパシタ、電解コンデンサを含み、電気化学セル本体とは包装材料封入前の正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、正極及び負極間に充填される電解質とを含むセル(蓄電部)と、セル内の正極及び負極に連結される電極端子等、電気エネルギーを発生させる電気デバイス要素全てを含むものである。
【0052】
[実施例]
以下、本発明の作用及び効果について、実施例を用いて具体的に説明する。実施例は、電気化学セル用包装材の耐電解液性及び成形性について評価したものである。
【0053】
アルミニウム(厚さ40μm)の両面に化成処理を施し、一方の化成処理面に、延伸ナイロンフィルム(厚さ25μm)を2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介してドライラミネート法により貼り合わせた。次に、他の化成処理面に酸変性ポリプロピレンフィルム(厚さ23μm、以下酸変性PPと略す)とポリプロピレンフィルム(厚さ23μm、以下PPフィルムと略す)の2層共押出しフィルムを積層した。次に、延伸ナイロンフィルムの上面に乾燥後の膜厚が2μmになるように光硬化樹脂を塗布し、乾燥後紫外線を照射して硬化膜を形成した。これにより、光硬化樹脂/延伸ナイロンフィルム/アルミニウム/酸変性PP/PPフィルムから構成される積層フィルムを得た。
【0054】
なお、化成処理層にはフェノール樹脂、フッ化クロム化合物、リン酸からなる処理液をロールコート法により塗布し、皮膜温度が180℃以上となる条件において焼付けた。ここで、クロムの塗布量は10mg/m2(乾燥重量)とした。
【0055】
光硬化樹脂には官能基にアクリロイル基を有する多官能ウレタンアクリレートを用いた。また、光硬化樹脂にアクリロイル基の官能基数が5の多官能ウレタンアクリレート(株式会社日立化成工業社製、製品名;ヒタロイド7903−1)を用いて得られた積層フィルムを本発明1に係る電気化学セル用包装材料とした。なお、本発明1に係る電気化学セル用包装材料において、微粒子フィラー(コールターカウンター法による平均粒径3〜5μm)が光硬化樹脂の樹脂組成物に対して10〜17重量%添加されている。また、多官能ウレタンアクリレートは主剤として光硬化樹脂の樹脂組成物に対して80〜90重量%含まれる。
【0056】
また、光硬化樹脂にアクリロイル基の官能基数が6の多官能ウレタンアクリレート(株式会社日本化薬社製、製品名;UX−5000)を用いて得られた積層フィルムを本発明2に係る電気化学セル用包装材料とした。なお、本発明2に係る電気化学セル用包装材料において、微粒子フィラー(コールターカウンター法による平均粒径3〜5μm)が光硬化樹脂の樹脂組成物に対して10〜17重量%添加されている。また、多官能ウレタンアクリレートは主剤として光硬化樹脂の樹脂組成物に対して80〜90重量%含まれる。
【0057】
また、光硬化樹脂にアクリロイル基の官能基数が6の多官能ウレタンアクリレート(株式会社日本化薬社製、製品名;UX−5000)とアクリロイル基の官能基数が10の多官能ウレタンアクリレート(株式会社日本化薬社製、製品名;PPHA−40H)を混合して得られた積層フィルムを本発明3に係る電気化学セル用包装材料とした。なお、本発明3に係る電気化学セル用包装材料において、微粒子フィラー(コールターカウンター法による平均粒径3〜5μm)が光硬化樹脂の樹脂組成物に対して10〜17重量%添加されている。また、多官能ウレタンアクリレートは主剤として光硬化樹脂の樹脂組成物に対して80〜90重量%含まれる。
【0058】
また、光硬化樹脂にアクリロイル基の官能基数が5の多官能ウレタンアクリレート(株式会社日立化成工業社製、製品名;ヒタロイド7903−1)を用いて得られた積層フィルムを比較例1に係る電気化学セル用包装材料とした。なお、比較例1に係る電気化学セル用包装材料において、光硬化樹脂の樹脂組成物には微粒子フィラーが添加されていない。
【0059】
また、光硬化樹脂にアクリロイル基の官能基数が4の多官能ウレタンアクリレート(株式会社日立化成工業社製、製品名;ヒタロイド7902−3)を用いて得られた積層フィルムを比較例2に係る電気化学セル用包装材料とした。なお、比較例2に係る電気化学セル用包装材料において、光硬化樹脂の樹脂組成物には微粒子フィラーが添加されていない。
【0060】
また、光硬化樹脂にアクリロイル基の官能基数が3の多官能ウレタンアクリレート(株式会社日立化成ポリマー社製、製品名;テスラック2328)を用いて得られた積層フィルムを比較例3に係る電気化学セル用包装材料とした。なお、比較例3に係る電気化学セル用包装材料において、光硬化樹脂の樹脂組成物には微粒子フィラーが添加されていない。
【0061】
また、光硬化樹脂にアクリロイル基の官能基数が2の多官能ウレタンアクリレート(株式会社日本化薬社製、製品名;UX−3204)を用いて得られた積層フィルムを比較例4に係る電気化学セル用包装材料とした。なお、比較例4に係る電気化学セル用包装材料において、光硬化樹脂の樹脂組成物には微粒子フィラーが添加されていない。
【0062】
[耐電解液性の評価]
本発明1〜3及び比較例1〜4に係る積層フィルムの光硬化樹脂に電解液(エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1の液に1molの6フッ化リン酸リチウムを添加)を1cc滴下した。30分経過後イソプロピレンアルコール(IPA)を染み込ませたワイプで滴下した電解液をふき取った。次に光硬化樹脂側の表面が白化しているか否かを目視により評価した。その結果を図4に示す。
【0063】
図4の表から明らかなように、本発明1〜本発明3及び比較例1に係る積層フィルムは良好な耐電解液性を示すことが判明した。具体的には、比較例2〜4に係る積層フィルムにおいて白化の発生が観察された(×)。一方、本発明1〜本発明3及び比較例1に係る積層フィルムにおいて白化の発生が観察されなかった(○)。
【0064】
このことから、アクリロイル基の官能基数が5以上10以下の多官能ウレタンアクリレートが安定した耐電解液性を示すことがわかった。
【0065】
[成形性の評価]
本発明1〜3及び比較例1〜4に係る積層フィルムを80mm×120mmに裁断した。次に各サンプルを30mm×50mmの口径の成形金型(メス型)とこれに対応した成形金型(オス型)にて、4.5mmの深さに冷間成形した。このとき、本発明1〜3及び比較例1〜4に係る各積層フィルム表面にピンホールが発生しているか否かを目視により評価した。その結果を図4に示す。
【0066】
図4の表から明らかなように、本発明1〜本発明3に係る積層フィルムは良好な成形性を示すことが判明した。具体的には、比較例1〜4に係る積層フィルムにおいてピンホールの発生が観察された(×)。一方、本発明1〜本発明3に係る積層フィルムにおいてピンホールの発生が観察されなかった(○)。
【0067】
このことから、平均粒径が0.2〜10μmの球状フィラーを含む場合、電気化学セル用包装材料表面に一定の滑性が付与される。これにより、プレス成形時の成形性が安定することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムメタル一次電池あるいは二次電池、リチウムポリマー電池等の化学電池及び電気二重層キャパシタ、キャパシタ、電解コンデンサを包装する外装体として用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
110 電気化学セル用包装材料
111 保護層
111a 球状フィラー
112 基材層
113 接着層
114 金属箔層
115 酸変性ポリオレフィン層
116 熱接着性樹脂層
120 外装体
120a 凹部
120b シート部
120c 底面
120d 側壁
120e フランジ
121 リチウムイオン電池
122 リチウムイオン電池本体
123a 正極タブ
123b 負極タブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最外層の保護層と基材層と金属箔層と最内層の熱接着性樹脂層とを順次積層して構成される電気化学セル用包装材料であって、前記保護層の樹脂組成物がアクリロイル基の官能基数が5以上10以下の多官能ウレタンアクリレートと、光重合開始剤と、コールターカウンター法による平均粒径が0.2〜10μmの球状フィラーと、を含むことを特徴とする電気化学セル用包装材料。
【請求項2】
前記保護層の樹脂組成物における前記球状フィラーの含有比率が5〜50重量%であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル用包装材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−212544(P2012−212544A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77223(P2011−77223)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】