説明

電気化学ルミネセンスを使用した水伝播性寄生虫の検出

【課題】水伝播性寄生虫、例えばクリプトスポリジウム(Cryptosporidium)の検出または定量方法。
【解決手段】検出または定量は、水を濾過し寄生虫またはその断片を含むと思われるスラッジを得て、該スラッジの試料を抽出培地に抽出して該寄生虫の抗原性派生体を形成し、該抽出スラッジの試料および該抗原性派生体に特異的な抗体を含む測定混合物を形成し、該抗体と該抗原性派生体が結合するように該測定混合物をインキュベートし、そして抗体および抗原性派生体の結合複合体を電気化学ルミネセンス測定にかけ、これによって該水中のクリプトスポリジウムを検出または定量するステップからなる電気化学ルミネセンス測定によって遂行される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
クリプトスポリジウムおよびクリプトスポリジウム症
クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)は、脊椎動物の消化管内に一般的に見出される原生動物寄生虫の一属である。クリプトスポリジウムには命名された8つの種が存在する。C.parvumはヒトを含め、79種の哺乳類に感染性があり、急性胃腸炎の原因となる。ほとんどの寄生虫と違って、C.parvumは哺乳類の間で宿主特異性に欠け、多数の宿主種に交差感染することができる。
【0002】
クリプトスポリジウムは糞便−口腔経路を経て接合子嚢(oocyst)として伝播される。汚水、近接ヒトからヒトの接触および感染家畜、動物園の動物あるいは飼い慣らされた動物の排泄物との接触により寄生虫の伝播がもたらされる。宿主の外部にいるとき、すなわち外生期には、クリプトスポリジウムは胞子を形成する接合子嚢として存在する。接合子嚢は強靭な、2層の壁内に4つのスポロゾイトから構成されている。接合子嚢の殻壁は、内部および外部層および一端にある縫合部に明確に区分される。脱嚢中に、縫合部が溶解し開口し、それを通してスポロゾイトは接合子嚢を離れる。適当な宿主に摂取されると、脱嚢スポロゾイト,その生存体は胃腸管または気道の細胞に寄生する。生殖の後、接合子嚢内への再胞子形成が起こる。胃腸管内の接合子嚢は糞便により排泄されるが気道内のものは呼吸および鼻分泌物中の体内に存在する。
【0003】
クリプトスポリジウムによる感染例は、先進国でも発展途上国でも一般的に遭遇するものである。後進国におけるクリプトスポリジウム症の幾分か高い流行は貧弱な衛生、栄養不良、汚染飲料水および感染したヒトおよび動物への近接接触に起因している。
【0004】
クリプトスポリジウム症に関連する最も共通の臨床的徴候は下痢であり、それは激しくて体重減少および脱水症となり得る。他の共通の臨床的徴候には、腹部痙攣、発熱、吐き気、嘔吐、頭痛、疲労、筋肉痛および食欲不振がある。クリプトスポリジウムによる感染は一般に小腸で起こるが、しかし肺、食道、胃、およびその他の臓器でも起こっている。寄生虫感染に関連する臨床症状は感染した器官に依存する。
【0005】
症状の範囲および疾病の重症度は個人個人により大きく変化し、そして生命を脅かす場合もある。急性腸炎の症状は一般に、その他の点では免疫学的に健康な個体でも1ないし2週間持続する。クリプトスポリジウム症はエイズ患者、栄養失調者、遺伝性免疫不全症の個体、および免疫抑制剤を投与されているヒトにおいてより高い危険性を表わす。
【0006】
クリプトスポリジウムの全ての感染は、接合子嚢の摂取または吸入により始まる。寄生虫は接合子嚢の形で伝播されるので、接合子嚢は厳しい環境条件で生存するように進化してきており、自然のストレスおよび化学殺菌消毒剤に異常なほどの抵抗性を示す。更に、原生動物寄生虫を包んでいる外在接合子嚢の存在によって、寄生虫は通常の水処理工程に対してより強力な抵抗性を持つことになる。感染の拡散を予防または制限する対策は、環境中の感染性接合子嚢を排除したり、減らすことに専念することである。ヒトにおいての感染排除方法としては、ヒトとヒトとの伝播を最小にすること、および給水の汚染に効果的に対処するよう努めることである。
【0007】
近年における大きな飲料水媒介性伝染病の発生は、環境を通しての伝播を理解する重要性に注意を向けさせた。地表水は感染した動物の排泄物により自然に汚染されている。多くの廃棄物処分の実状は汚染水の経路および流路をもたらしている。水経路の糞便汚染は近年C.parvum感染の大量発生を引き起こしている。これらの行為により汚染された水は、飲料水供給や灌漑中の食用農作物の汚染を導いている。
【0008】
クリプトスポリジウムの化学組成および分解物
C.parvumのタンパク質、炭水化物、および脂質組成は多様で複雑である。成分の多くは抗原性であり、それゆえ免疫応答標的として機能する。粉砕した接合子嚢、精製接合子嚢および精製スポロゾイトから得た<14から7200kDaにわたる糖タンパク質が、SDS−PAGEゲル電気泳動により同定された。これら接合子嚢由来タンパク質の多くはグリコシル化されている。特異的な糖質部分が同定された。末端N−アセチル−D−グリコサミン残基を有するスポロゾイト糖タンパク質は寄生虫の接着において機能したり、侵入の際に多少の手助けとなっていることが決定された。これら糖質は接合子嚢表面に発現され、免疫検出法において有用なものである。クリプトスポリジウムのスポロゾイトは、約37℃、約90分間温めると、接合子嚢の一極にある縫合部を通して自然に脱嚢することができる。このことは接合子嚢壁破壊するための機械的方法を行うことを不要にしている。
【0009】
C.parvum接合子嚢を次亜塩素酸ナトリウム(「漂白剤」)で前処理すると、接合子嚢内壁および外壁が分離する。つまり、C.parvumが脱嚢しているときには還元剤で接合子嚢を前処理する必要はないが、脱嚢過程で0.01MシステインHClを含有するPBS中で漂白剤処理接合子嚢をインキュベートすると、脱嚢の速度が少し増加する。漂白剤で前処理していない接合子嚢は、約37℃に加温すると幾分か脱嚢する。トリプシンおよび胆汁酸塩、または胆汁酸塩のみを使用すると、非漂白剤処理接合子嚢の脱嚢を増加または速めることができる。
【0010】
従来のクリプトスポリジウム測定法
免疫学的技術が環境の検体中のC.parvumを検出するために使用されてきた。クリプトスポリジウムの特異的抗原に対するモノクローナル抗体の利用はこれら方法の開発を促進した。
【0011】
免疫蛍光測定(IFA)は、検体中のクリプトスポリジウム接合子嚢を検出したり、特異的抗体の存在を検出するために使用される最も一般的な測定である。これらの方法は、抗体と結合して、紫外線に露光したとき蛍光を発する蛍光色素を用いる。典型的なIFA測定においては、水はポリプロピレンカートリッジフィルターまたは平面膜フィルターを通して濾過される。両フィルターで濾液を得て、それを顕微鏡により分析する前に精製する。濾液をフィルターから分離し、そして遠心分離する。余分な破片はショ糖溶液浮遊により除去する。上清をクリプトスポリジウムに対するフルオレセイン結合抗体で標識し、エピフルオレセンス(epifluorescence)顕微鏡により検査した。
【0012】
クリプトスポリジウムの接合子嚢を検出するために使用される、幾つかの市販の免疫蛍光測定法および試薬には以下のものがある:(1)HydroFluor Combo;接合子嚢特異的モノクローナル抗体(IgM、OW3)に基いた免疫蛍光測定系、(2)Detect IF Cryptosporidium; 接合子嚢特異的モノクローナル抗体(IgM、C1)に基いた免疫蛍光測定系、および(3)Crypto IF Kit;接合子嚢特異的モノクローナル抗体に基いた免疫蛍光測定系。
【0013】
免疫蛍光測定法の欠点としては、低い回収効率、長時間の処理、高度に訓練された分析者の必要性、高コスト、生存可能なまたは毒性の株を除去することが不可能、および類似の大きさおよび形の藻類とプローブの交差反応性がある。加えて、IFA検出法はしばしば、蛍光抗体で標識された接合子嚢を顕微鏡下で水スラッジを観察するという、時間がかかり、技術を要する工程を含んでいる。また、抗体によって非特異的に結合した破片から接合子嚢を区別するのは、しばしば困難である。処理方法は高価であり、しばしば完了するのに日時を要する。
【0014】
接合子嚢反応性モノクローナル抗体を使用する固相酵素免疫検定法(ELISA)もまた、汚染水試料中のクリプトスポリジウムを検出するのに使われる。二つの基本的なELISAテストが過去に、試料中のクリプトスポリジウム抗原を検出するのに用いられた:(1)抗原検出のための二重抗体サンドイッチ法、および(2)抗体検出のための固相酵素間接免疫検定法。
【0015】
二重抗体サンドイッチ法においては、抗血清がウェル(well)に吸着される。試験抗原を加えると、もし相補性があれば、抗体に結合する。そして試験抗原に特異的な酵素結合抗体は、抗原に結合し、サンドイッチを形成する。そして酵素基質を加えると、反応の結果、可視色調変化が生じる。間接免疫吸着測定法においては、抗原がウェルに吸着される。そして試験抗血清を、抗原に結合する相補的抗体と共に加える。酵素結合抗ヒトガンマグロブリンをそこに加える。それは結合抗体に結合する。そして酵素基質を加えると、可視色調変化を生じる。酵素を基本とする測定法において遭遇する困難として、測定混合物の成分による酵素の脱活性がある。更なる困難が洗滌工程において存在し、強い力が抗体−抗原相互作用を上回ってしまうことにある。この結果、測定の精密さを失うことになる。
【0016】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基く検出測定も臨床または環境試料中の接合子嚢検出に使われてきた。C.parvumの幾つかのDNAおよびRNAの配列が決定され、寄生虫検出のための測定標的になることが報告されている。
【0017】
フローサイトメトリーは水試料の寄生虫汚染を検出するのに用いられる別の方法である。フローサイトメトリー法は全接合子嚢を定量することができるが、多くの準備や時間が必要となり、そして非常に高価な装置を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
多くの問題が、水および環境試料中のクリプトスポリジウムを検出する従来法に関連している。これら述べたことと、精密さと再現性のある測定法が一般的に欠如していることに加えて、先行技術においては一般的に、試料の測定を行うための研究室あるいは別の遠隔地に運ぶことが必要である。先行技術には、汚染水試料中のクリプトスポリジウムを正確に検出するために必要な信頼性、速さおよび感度が欠けている。
【0019】
水およびその他の環境試料中の感染性C.parvum接合子嚢の検出には、汚染された水供給源を検出して処置することが必須である。そのため、特異的で、迅速でそして高い感度の測定法を、寄生虫の存在を正確かつ信頼性をもって検出するために開発することが重大である。酵素免疫測定法および免疫蛍光法の公知方法はこれらの要請を満たしていない。水およびその他の環境試料中に見出される接合子嚢の起源、生存力および病原性は公知方法を用いては信頼性をもって検出することはできない。寄生虫の早期検出を行うため、その場で実行できる通常の疫学的サーベイランスおよび環境モニタリングが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明の目的
本発明の第一の目的は、環境試料中のクリプトスポリジウムの接合子嚢の検出または定量のための迅速、鋭敏かつ精密な測定を提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は、環境試料中のクリプトスポリジウムのスポロゾイトの検出または定量のための迅速、鋭敏かつ精密な測定方法を提供することである。
【0022】
本発明の更なる目的は、環境試料中のクリプトスポリジウムの接合子嚢およびスポロゾイトの同時検出または定量のための迅速、鋭敏かつ精密な測定方法を提供することである。
【0023】
本発明の更なる目的は、労働集約的でない、信頼性のある測定機器を必要とする、分散した施設、即ち、水処理プラントにおける、C.parvumの迅速定量測定法を提供することである。
【0024】
発明の要旨
従来の測定法に固有の問題は、本発明の電気化学ルミネセンス(ECL)に基く測定により解決される。これらの測定によって水起源のクリプトスポリジウムを検出することができる。これらECL測定は、分散した施設におけるC.parvumの検出または定量のための迅速測定であり、即ち、水は処理プラントで測定される。簡便な定量測定法であることが、従来の方法を超えた主な改良である。それらは正確でそして感度があり、過大な労働なしで小時間で実行される。
【0025】
この測定法は、接合子嚢全体または接合子嚢の断片を、信頼性があり、正確でそして廉価な方法を用いて検出または定量することができ、そして簡便な装置を用いて迅速に実行される。
【0026】
本発明は、広くは次のステップからなる電気化学ルミネセンス測定による水中のクリプトスポリジウムの検出または定量方法に関する:
(a)水を濾過してクリプトスポリジウムの接合子嚢を含有するスラッジを得て;
(b)スラッジの試料を抽出培地中に抽出して接合子嚢の少なくとも一つの抗原性派生体(antigenic derivative)を形成させ;
(c)抽出スラッジの試料、および抗原性派生体に特異的な抗体を含む測定混合物を形成させ;
(d)測定混合物を、抗体と抗原性派生体とが結合するようにインキュベートし;そして
(e)抗体と抗原性派生体との結合複合体を電気化学ルミネセンス測定にかけ、それによって濾過水中のクリプトスポリジウムの検出または定量を行う。
【0027】
測定混合物は、抽出スラッジの試料、抗原断片の第1エピトープに特異的な第1抗体で標識した磁気粒子、抗原性派生体の第2エピトープに特異的な第2抗体からなる標識したプローブ、およびECL測定試薬を含有している。第2エピトープは第1エピトープと同じでもまたは異なっていてもよい。
【0028】
本発明の方法はまた、クリプトスポリジウムのスポロゾイト抗原の検出または定量、ならびにクリプトスポリジウム接合子嚢の外壁および接合子嚢に含有されるスポロゾイトが同時に測定される測定方法に使用することができる。
【0029】
本発明はまた、水濾過から得た有機スラッジよりの接合子嚢壁および/またはスポロゾイト中の抗原性派生体の抽出のための抽出培地、および抽出スラッジ中の抗原性派生体に特異的な抗体を含む、水中のクリプトスポリジウムに対する電気化学ルミネセンス測定を行うためのキットに関する。水中のクリプトスポリジウムに対する電気化学ルミネセンス測定を行うためのキットはまた、抽出されたクリプトスポリジウム接合子嚢の抗原性派生体のエピトープに特異的な抗体で標識した磁気粒子、抗原性派生体のエピトープに特異的な抗体を含むECL標識プローブ、および測定試薬を含む、電気化学ルミネセンス測定の成分を含んでいる。
【0030】
環境試料中のクリプトスポリジウムを検出するための方法および測定は、従来の検出方法以上の顕著な進歩性を示す。この測定を濾過の現場で生のスラッジで行うことができ、そのため分析のために別の場所に検体を運ぶ必要がない。本発明を使用して得た結果は精密、正確、迅速そして従来の方法に固有の問題を克服する。
【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、生水の濾過から得たスラッジ中のクリプトスポリジウム検出のための電気化学ルミネセンス測定に関する。接合子嚢および/またはスポロゾイトの存在および量が両方とも、これら測定法により決定される。従って、この測定法によって、水が現に生存寄生虫で汚染されているか、または水試料中に空の接合子嚢が残存しているかが検出される。生水の濾過から採取されたスラッジは、検出のために寄生虫から可溶性の形で抗原を遊離するように直ちに処理される。
【0032】
生存する寄生虫も死亡した寄生虫も、濾過試料から検出することができる。それゆえ測定によって、水の以前の汚染(生存寄生虫なし)、と共に現時点の汚染(感染性、スポロゾイト含有寄生虫)に関する定性的および定量的情報が提供される。
【0033】
本方法は一般的に次のステップからなる:
(a)水を濾過してクリプトスポリジウムの接合子嚢を含有するスラッジを得て;
(b)スラッジの試料を抽出培地中に抽出して少なくとも一つの抗原性派生体を含む接合子嚢の派生体を形成させ;
(c)抽出スラッジの試料および抗原性派生体に特異的な抗体を含む測定混合物を形成させ;
(d)測定混合物を、抗体と抗原性派生体とが結合するようにインキュベートし;そして
(e)抗体と抗原性派生体との結合複合体に対する電気化学ルミネセンス測定を実行し、その結果クリプトスポリジウムの検出または定量を行う。
【0034】
接合子嚢およびスポロゾイトの壁中のグリコシル化タンパク質は、これらの測定法において抗原性派生体として働く。C.parvumのタンパク質、糖質、および脂質組成は多様でそして複雑である。これらの多くは抗原性があり、その結果免疫応答標的として機能する。C.parvum抗原の同定およびキャラクタリゼーションは、接合子嚢およびスポロゾイトを精製するプロトコールにより容易なものとなる。破砕された接合子嚢、精製された接合子嚢殻および精製されたスポロゾイトからの、<14から7200kDaにわたる、多くのタンパク質/糖タンパク質分子がタンパク染色ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で同定されている。接合子嚢およびスポロゾイトの壁中のこれらグリコシル化タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を、これら免疫測定法において使用することができる。
【0035】
mAb OW3は、hsp70および78kDaのグルコース調節タンパク質の両方に著しい相同性のある推定670アミノ酸をコードするC.parvumスポロゾイトを同定する。このmAbはウエスタンブロットで>200kDaのC.parvum接合子嚢壁抗原を認識する。この分子は接合子嚢壁の成分であるが、C.parvum hsp70のGly−Gly−Met−Pro反復が高度に免疫性であり、単にCOWP−190と共通の抗原性における特徴を有している。C.parvum接合子嚢の外壁内の抗原性部分を検出するために開発されたmAb OW−IGOはまた、発生途中の大接合子(macrogamete)、小接合子母細胞(microgametocyte)、および芽胞形成接合子嚢の寄生体性小胞(parasitophorous vacuole)中の細繊維物質を標識する。この抗体はウエスタンブロットで、250および40kDaの主要バンドおよび付随的な小バンドを認識する。大部分のウエスタンブロット活性は過ヨウ素酸塩処理によって消失するが、このことは外壁に糖質があることを重ねて示唆している。
【0036】
生水の濾過から採取されたスラッジは、免疫測定法で検出できるように処理され、寄生虫から抗原を遊離させる。抗原の抽出および可溶化には胆汁酸の存在下、約40℃で寄生虫を処理することが必要である。この処理はプロテアーゼ酵素を活性化し接合子嚢壁の分解を助ける。試料はトリスのような塩基で処理され、pHを5.5から8の間にする。試料を、緩衝溶液中高温でインキュベートしたイオン性または非イオン性界面活性剤および/または尿素またはホルムアミドのような破壊試薬で処理する。試料は、そして、メルカプト−エタノールまたはジチオスレイトールのような還元剤で処理される。過剰の胆汁酸または界面活性剤−試薬は、別の非イオン性界面活性剤またはBSAまたはその他の動物血清アルブミンまたは免疫グロブリンを抽出物に加えることによって分離または隔離し、標的抗原を、特異的相補抗体と直ぐに結合するように溶液中に残すようにする。過剰のカイトロピック剤(chaitropic agents)は、透析または酵素的方法またはクロマトグラフィー、または稀釈によるそれらの効果により除去することができる。過剰の還元剤は、酸素(または空気)飽和バッファー、ジアミド、ヨード溶液(0.05N水中)、t−ブチルヒドロペルオキシド、フェリシアン化物、過酸化水素、ヨードアセトアミド、N−メチルマレイミド、2−(2−ピリジルジチオ)エタノールを用いた処理により除去される。
【0037】
本発明の測定法は寄生虫接合子嚢を、高温、in vitro、で胆汁酸と共に処理し、脱嚢を誘発し、そして接合子嚢およびスポロゾイトの両方から抗原を遊離する処置を採用している。これらの抗原は免疫測定法で検出および定量することができる。
【0038】
接合子嚢膜およびスポロゾイトから遊離された抗原からなる処理スラッジ懸濁液中の抗原は、必要ならば、抗原性派生体に特異的な抗体、例えば、>200kDaの接合子嚢壁抗原に特異的な抗体OW3などと共にインキュベートされる。抗体OW3はウエスタンブロット実験から特徴づけられた直鎖反復エピトープを認識する。直鎖エピトープは界面活性剤処理後も分解されず、そのため、スラッジの可溶化後も抗体に対して活性のままである。抗原が溶液中にあれば、ECLイムノアッセイを実行することができる。
【0039】
ECL測定技術は、目的の分析体の存在と濃度の敏感で精密な測定を提供する。そのような技術において、電気化学ルミネセンスは、適当な時間適当な方法でECLセルの作用電極に電圧を加えることによって誘発される。ECL標識により発生するルミネセンスが測定され、そして分析体の存在または量を指示する。
【0040】
電気化学ルミネセンス測定は、測定操作中に分離工程の必要がある場合でも、またない場合でも、分析体の異なった濃度に対する最大信号変調において実行することができるので、分析体の濃度の広範な範囲にわたる精密かつ感度のよい測定が可能である。非分離測定は、測定で結合成分の1またはそれ以上に結合する測定試料中に懸濁した微小粒子状物質を用いる方法を含む。
【0041】
ECL技術のより完全な説明については、参考文献として、国際出願公開PCT/US85/01253(WO86/02734)、国際出願PCT/US87/00987、および国際出願PCT/US88/03947が挙げられる。これらの公開および以下に参照されるものは参考文献として編入されている。電気化学ルミネセンス部分からのルミネセンスは吸収され、分散され、または別に微小粒子状物質からの干渉にあうことは、文献から予想されたことではあるが、米国特許出願No.539,389(国際出願PCT/US89/04919)は、不活性な微小粒子状物質は測定系の結合反応剤の一つに特異的に結合するという、発光現象に基く、高感度、特異的結合測定方法を開示している。その出願の測定法は不均一系(1またはそれ以上の分離工程)測定形式で行われており、均一系(非分離)測定形式においては最も都合よく使うことができる。
【0042】
標識した種からの信号は、その種を測定工程にかける前に濃縮することによって増強することができる。米国特許出願シリアルNo.08/255,824、国際出願公開PCT/US92/00982、は粒子を基本とした電気化学ルミネセンス測定法に関し、ここで粒子は、電極に粒子を集める磁場をつくるための磁石を使って電極に近接して接触するようになっている。
【0043】
電気化学ルミネセンス測定において使用される粒子は、有利なものとして、直径0.01〜200μmのものであり、分析物に直接的または間接的に結合することができる表面成分を有している。粒子はECL系に懸濁され、そして都合よく磁気的に反応する。
【0044】
測定には電解質を必要とする。一般的に、電解質は液相中にあり、例えば水中の塩溶液として存在する。電解質は、本発明のいくつかの実施態様において、リン酸ナトリウム/塩化ナトリウム水溶液またはリン酸ナトリウム/フッ化ナトリウム水溶液のような緩衝液系である。
【0045】
国際出願公開PCT/US89/04859に記載されているように、典型的なものとして、酸化されそして自然に分解して高還元種に転換し、この種が今度は電気化学ルミネセンス現象を促進する(より大きな分子の)アミンまたはアミン部分である、還元剤を含むことが望ましい。広範なアミンおよび相当するアミン部分を、本発明を実施する際に利用することができる。本発明において有利に利用することができるアミン(およびそれらから誘導される相当する部分)は、脂肪族アミン、例えば一級、二級および三級アルキルアミンで、置換脂肪族アミンと同様にそのアルキル基が1〜3の炭素原子を有しているものが含まれる。トリプロピルアミンが特に好ましい。
【0046】
国際出願公開PCT/US89/04915に記載されているように、本発明の測定は、好ましくは、その存在で電磁波の放射の望ましい増加が起こる、典型的には式
【化1】


(式中、Rは水素またはC2n+1,R’はC2n,Xは0〜70,およびnは1〜20)の充分な量で利用される促進剤の存在下で実行される。
【0047】
本発明の測定を遂行するための装置は、粒子結合ECL部分を電気化学ルミネセンスへと誘起する反応を開始させる電位を供与する作用電極または他のトリガリング(triggering)表面、および電極において粒子結合ECL部分を集める作用を有する磁石を包含する。更に、本発明のECL測定を実施するための装置の詳細は国際出願公開PCT/US89/04854およびPCT/US90/01370に開示されている。
【0048】
本発明の測定は通常の形式のいずれにおいても、即ち、直接、間接、前進、反転または競合形式で行うことができる。一般に診断の分野および特にECL検出でよく知られているサンドイッチ型免疫測定法が好ましい。そのような測定は2抗体:例えば、ビオチンで標識されて固相表面に結合している「第1」または捕捉抗体、およびRu(bpy)2+のような電気化学ルミネセンス種で標識された「第2」または標識抗体によって結合された分析物(抗原)を含む。それゆえ、そのような測定において、ストレプトアビジン被覆固相支持体がビオチニル化第1抗体に結合される。第1抗体は分析体(もし存在するなら、抗原)に結合される。その抗原はRu(bpy)2+−標識第2抗体に結合される。
【0049】
本発明においては、関連する抗原の第1エピトープに特異的なモノクローナル抗体 −接合子嚢抗原の測定の場合においてはOW3、スポロゾイト抗原の測定の場合においてはE3E− がビオチンに結合される。関連する抗原の第2エピトープ(第1エピトープと同じでもよい)に特異的なモノクローナル抗体はECL標識(「TAG」)に結合される。抽出したスラッジとビオチニル化第1抗体の溶液は結合されそしてインキュベートされる。TAG−標識抗体が加えられ、TAG−標識抗体と分析体が結合するようにインキュベートされる。このインキュベーションの後、ストレプトアビジン被覆ビーズの懸濁液が加えられ、第1抗体のビオチンと結合する。
【0050】
接合子嚢抗原免疫複合体がORIGEN(商標)アナライザーのようなアナライザーを使用して検出される。ORIGEN(商標)アナライザーおよび試薬はIgen,Inc.,Gaithersburg,MDより得られる。本工程において定量される免疫複合体は、抗体、OW3の複合体にビオチンによって結合したストレプトアビジン被覆常磁性ビーズからなる、ここでOW3はOW3特異的抗原に結合され、この抗原は次に別のOW3抗体に結合され、そして電気化学ルミネセンス部分に結合してアナライザーで光を発生する。磁性ビーズおよび結合サンドイッチは流動細胞についた磁石により電極の表面に運ばれる。電極には電圧がかけられる。ELC部分により生じた光は光電子増倍管により検出および定量される。
【0051】
水濾過から採取したスラッジの処理で生成した可溶性物質は濾過水中のC.parvumからの抗原性派生体の全てを含む。その結果、可溶化物質の単一の調製物を、含有しているクリプトスポリジウム接合子嚢およびスポロゾイトの両方の、測定に使用することができる。寄生虫のヒト感染性形状を構成しているから水中の生存スポロゾイトの数と、同様に接合子嚢からそれらが遊離される可能性があるので接合子嚢の数の両方を定量することが重要である。後者の測定は、生存接合子嚢の現在の状態、または汚染の経歴を示す、生存不能の接合子嚢の濃度で代表される。
【0052】
モノクローナル抗体3E3は、高度に免疫原性の27kDaスポロゾイト表面抗原(p27)に対し特異性を有する。3E3モノクローナル抗体はビオチンに結合し、そして反応混合物から精製される。同じ高度免疫原性27kDaスポロゾイト表面抗原(p27)に対して調製されたポリクローナル抗血清はTAGに結合し、そして反応混合物から精製される。(測定稀釈液中の)ビオチニル化抗体の溶液が処理したスラッジに加えられ、約1時間、約37℃でインキュベートされる。(測定稀釈液中の)TAG−標識抗血清の溶液が、次いで混合物に加えられ、同じ条件下でインキュベートされる。このインキュベーションに続いて、ストレプトアビジン被覆ビーズの懸濁液が加えられ、約30分室温でインキュベートされる。スポロゾイト抗原免疫複合体が上記したアナライザー(例えばORIGENアナライザー)を用いて検出される。
【0053】
接合子嚢またはスポロゾイト抗原の一つまたは両方の検出または定量測定は本質的に同時に、即ち、逐次、行うことができる。従来の方法を超えた顕著な優位性は、水試料が実際生存スポロゾイトで感染されているか、あるいは単に非感染性の空接合子嚢が存在するだけなのかを決定できることにある。さらに、水濾過に採取されたスラッジが多くの前処理なしに直接分析できることである。
【0054】
本発明の方法および測定は更に以下の実施例に関連して記載される。
【実施例】
【0055】
実施例1
水試料採取
携帯用/清浄水100〜1000リットルをcuno−typeフィルターで濾過した。スラッジ濾過物と一緒に濾過膜をカットし、ホルダーからはずした。膜シートをプラスチック容器中に置き、0.1%Tween80界面活性剤溶液を容器に加えた。フィルターを20分間攪拌し、スラッジ懸濁液を遠心ボトルに傾斜する。第2の界面活性剤溶液1リットルを容器に加え、そしてフィルターを再び20分間攪拌する。第2のリットルを遠心ボトルに傾斜し、そしてスラッジ濾過懸濁液2リットルを7,280g、12分間遠心分離した。ボトルを遠心機から取り出し上清液を注意して吸引し、ボトル中に約20〜30ml溶液にペレットを残す。残った液体を激しく振とうしてペレットを再懸濁し、そして50ml遠心分離管に移す。ボトルを0.1%Tween80溶液ですすぎ、50ml遠心分離管に加え、必要ならば、〜5ml蒸留水を用いて遠心分離管を釣り合わせる。50ml管を2,190g,10分間遠心分離し、上清液を傾斜する。2つのペレットを合わせ再懸濁する。濃縮物の最終容積はピペットマンを使ってマイクロリットルまで測る。
【0056】
実施例2
クリプトスポリジウム抗原の可溶化
実施例1で得た再懸濁濃縮物の容積の50%を清潔な50ml遠心分離管にピペットで移す。10倍濃度ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)の原液をHClでpH2.5に調節する。低pHのHBSS10倍濃度の予め決められた量およびウシ胆汁酸塩の5%原液の予め決められた量をスラッジ懸濁液に加え、0.5%胆汁酸塩および1xHBSSの最終濃度にする。スラッジ懸濁液を次いで40℃、2時間インキュベートする。インキュベーションの後、溶液をトリス塩基でpH7に調節し、そしてドデシル硫酸ナトリウムの3%原液を加え、最終濃度0.3%にする。200mMメルカプト−エタノールまたは100mMジチオスレイトールの予め決められた量を加え、20mMメルカプト−エタノールまたは10mMジチオトレイトールの最終濃度にする。懸濁液を混合し、40℃にて1時間インキュベートする。N−メチルマレイミドを最終濃度20mMになるよう加える。Triton X−100の5%原液を0.5%の最終濃度になるよう加え、そしてウシ血清アルブミンをインキュベーション混合物に2%の最終濃度になるように加えて過剰の界面活性剤を隔離し、それによって界面活性剤の存在下での免疫反応性を改善する。溶液を混合し、抽出混合物の最終容積をピペットマンでマイクロリットルまで測る。
【0057】
この抽出物はフィルターを通過した容積の50%に等しい。分析される抽出物の容積は以下のようにして計算することができる。抽出容積のマイクロリットルを試料採取した水のリットル数で割る。この結果は、水試料のリットル当り抽出マイクロリットルの容積比率を与える。分析されるに等しい水試料は少なくともフィルターを通過した水の容積の10%でなければならない。このようにして、抽出物の20%が分析される。分析されるイムノアッセイ容積は20と50マイクロリットルの間でなければならない。
【0058】
実施例3
OW3/ORIGEN TAG−NHSエステル複合体の調製
OW3タンパク質0.5mgをポリプロピレンバイアル中の500μl PBS,pH7.8に溶解する。限外濾過濃縮装置をバッファー交換およびタンパク質濃縮をするために使用する。ORIGEN TAG−NHSエステル原液をDMSO 50μlをTAG−NH3エステル(Igen)の75μgに加えることにより調製する。バイアルを穏やかに回しバイアルの底および低い側をDMSOで濡らす。このDMSOの容積で75pgのORIGEN TAG−NHSエステルを溶解し、1.5μg/μl原液を得る。
【0059】
ORIGEN TAG−NHSエステルの25:1モル比を1mg/mlで上記のOW3溶液に加える。分子量、それぞれ、1057および750,000に基いて、ORIGEN TAG−NHSエステルの35μg/μlをタンパク質溶液に加える。残ったORIGEN TAG−NHSエステルは破棄する。バイアル内容物は渦巻き回転させ、室温で60分間暗黒下インキュベートする。反応を2Mグリシン20μlを加えることにより停止し、更に、暗黒下室温で10分間インキュベートする。
【0060】
非結合ORIGEN TAG標識は混合物を、アジ化ナトリウムまたはチメロサール含有PBSで予め平衡化したPD−10カラム(Pharmacia製プレパックSephadex G−25カラム)にかけて除去した。カラムの長時間の分離時間のために、結合体を光線から遮蔽するためアルミニウムホイルで覆った。二つの黄色のバンドが、処理した遊離ORIGEN TAGから結合体の分離として、生じた。標識タンパク質が最初に溶出し、次いで非結合ORIGEN TAGに相当する二番目のバンドが溶出した。8つの0.5ml分画を試料容積を、樹脂床に入った後に採取する。
【0061】
モル/リットルでのタンパク質濃度を、標準的なタンパク測定法を用いて決定した(例えば、Bradford,Lowry,またはPierce BCAタンパク質アッセイキット)。280nmのODでの吸収の読みは、TAGがこの波長では吸収が変るので、採用しなかった。タンパク質含有分画を集めてプールし、最終的にプールしたタンパク質濃度およびモル濃度を決定した。回収されたタンパク質の割合は採用した分離技術によって、70〜90%の範囲であった。
【0062】
TAG−OW3の455nmにおける吸収を1cmパスのキュベットを用いて測定する。吸収の値は13,700で割り算し、ORIGEN TAG濃度モル/リットルを得る。ORIGEN TAG:OW3の比率は、予め得られたORIGEN TAG濃度を予め得られたタンパク質濃度で割って計算する。
【0063】
P27抗原認識抗体の標識
スポロゾイト(p27)抗原を、クリプトスポリジウムは感染した仔ウシからの高度に濃縮された形で得たものであることを除いて、実施例2に記載した方法で調製した抽出物から得た3E3抗体を用いて固相で免疫精製により調製した。ウサギを通常の方法に従って免疫した。抗体は標準技術を使って調製した。これらの抗体は実施例3に記載したプロトコールに従って標識した。
【0064】
続く方法は、ORIGEN TAG エステル17.6μg(TAG産物75pgから調製された1.5μg/μlのうち11.7μl)をタンパク質溶液に加える以外は、OW3について上記に記載した通りである。
【0065】
実施例4
OW3抗原のビオチニル化
OW3抗原1.5mgを150mM塩化ナトリウム含有150mMリン酸カリウムバッファー、pH7.8,1.5mlに溶解し、0.5ml分画に分けた。
【0066】
滅菌蒸留水0.5ml中ORIGENビオチン−LC−スルホ−NHSエステル1mgを、使用直前に2mg/ml溶液になるよう溶解する。ORIGENビオチン−LC−NHSエステルが、バッファー0.5ml中抗体0.5mgに対し、10:1、20:1または40:1のモル比になるように、ビオチニル化試薬をそれぞれ、9.3、18.5または37μlを適量の抗体に加えた。溶液を60分間室温でインキュベートし、そして2Mグリシン20μlを加えて停止した。
【0067】
未反応のORIGENビオチン−LC−スルホ−NHSエステルを0.02%NaN含有PBSの所望の最終バッファーに対して抗体溶液を透析することにより除去する。適当なサイズの脱塩カラム(例えば、PD−10ディスポーザブルカラム、Pharmacia)またはスピンカラムでのゲル濾過、またはCentricon−30(Amicon)のようなmicrocentratorの使用は、未反応のORIGENビオチン−LC−スルホ−NHSエステルの除去に採用することができる。ビオチニル化抗体は使用するまで4℃で保存する。
【0068】
3E3抗体のビオチニル化
この方法はOW3抗体について上に記載したとおりである。
【0069】
実施例5
接合子嚢抗原の測定
処理したスラッジ(実施例2)の30μl試料を、12×70mm試験管にピペットで入れる。ORIGEN Assay Diluent(IGENから入手可)中ビオチニル化OW3抗体(実施例4)2mg/ml溶液25μlを試験管に加える、次いで、ORIGEN Assay Diluent(実施例3)中TAG−標識OW3抗体2mg/ml溶液25μlを加える。混合物を37℃、2時間インキュベートし、定期的に混合する。インキュベーションに続いて、ORIGEN Assay Diluent中Dynal 2.8ミクロン・ストレプトアビジン被覆ビーズの1mg/ml懸濁液25μl(25μgに等しい)を加える。混合物を再び30分間、室温でインキュベートする。イムノアッセイインキュベーション混合物をORIGEN Assay Bufferで300μlに稀釈する。
【0070】
試験管をORIGEN Analyzerの円形板(カルーセル)におき、テストサイクルをスタートさせる。ペリスタポンプを使って、カルーセルチューブから試料の適量を機器で吸引し、それを電気化学的フローセル(electrochemical flow cell)に移す。常磁性ビーズをフローセルに関連した磁石により電極に集める。その後、電圧を電極にかける。TAGにより生じる光を光電子増倍管により検出または定量する。
【0071】
免疫測定法は、フローサイトメトリーを用いた一般的に受け入れられる操作により数えられたクリプトスポリジウム接合子嚢の既知の量に対する測定により検定される。測定溶液は感染患者の糞から新しく単離された接合子嚢から調製される。
【0072】
スポロゾイト抗原の測定
スポロゾイト抗原のための測定方法は、3E3抗体を使用する以外は接合子嚢抗原について上記に記載した通りである。
【0073】
免疫測定法は、生存スポロゾイトを含有するクリプトスポリジウム接合子嚢の既知の量に対する測定により検定される。測定溶液は感染患者の糞から新しく単離された接合子嚢から調製され、そしてフローサイトメトリーを用いた一般的に受け入れられる操作によりカウントされる。
【0074】
実施例6
接合子嚢およびスポロゾイト抗原に対する同時的測定
実施例7および8のECLイムノアッセイは同時に(同時にまたは急速に連続してのいずれか)実施することができる。実施例1で得られた濃縮物は実施例2に記載したようにして可溶化される。可溶化した産物は二つの同じ部分に分けられる。それらの部分は、実施例3から5に記載された方法を使用して測定される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水を濾過してクリプトスポリジウム(Cryptosporidium)の接合子嚢を含有するスラッジを得て、
(b)該スラッジの試料を抽出培地中に抽出して該接合子嚢の少なくとも1つの抗原性派生体(antigenic derivative)を形成させ、
(c)(i)該抽出したスラッジの試料、および
(ii)該抗原性派生体に特異的な抗体、
を含む測定混合物を形成させ、
(d)該測定混合物を、該抗体と該抗原性派生体とが結合するようにインキュベートし、そして
(e)抗体と抗原性派生体との結合複合体について電気化学ルミネセンス測定を行い、これによって該水中のクリプトスポリジウムの検出または定量を行う、
ステップからなる、電気化学ルミネセンス測定による水中のクリプトスポリジウムの検出または定量方法。
【請求項2】
(a)生水を濾過して濾液およびクリプトスポリジウムの接合子嚢を含有する有機スラッジを生成し、
(b)該有機スラッジの試料を
(i)培地を低pHに緩衝化することができる物質、および
(ii)少なくとも1つの界面活性剤(surfactant)、
を含む抽出培地中に抽出して、少なくとも1つの抗原性派生体を含む該接合子嚢の派生体を形成させ、
(c)(i)抽出したスラッジの試料、
(ii)該抗原性派生体の第1エピトープに特異的な捕捉抗体で標識した磁気粒子、
(iii)該抗原性派生体の第2エピトープに特異的な標識抗体を含む標識プローブであって、該第1および第2エピトープは同じかまたは異なるエピトープであり、そして該標識は電気化学ルミネセンス部分を含む、および
(iv)ECL測定試薬、
を含む測定混合物を形成させ、
(d)該測定混合物をインキュベートして磁気粒子−捕捉抗体−抗原性派生体−標識抗体−ECL標識を形成させ、そして
(e)ステップ(d)において形成された複合体について電気化学ルミネセンス測定を行い、これによって該水中のクリプトスポリジウムを検出または定量する、
ステップからなる、電気化学ルミネセンス測定による水中のクリプトスポリジウムの検出または定量方法。
【請求項3】
混合物の該測定のpHを、該電気化学ルミネセンス測定を行う前に約4〜8のpH範囲に緩衝化する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
該測定混合物のpHを、該測定混合物を稀釈することにより上昇させる、請求項2記載の方法。
【請求項5】
該測定混合物のpHを塩基溶液で緩衝化する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
インキュベーションを室温より高い温度で行う、請求項2記載の方法。
【請求項7】
(a)水を濾過してクリプトスポリジウムの接合子嚢を含有するスラッジを得て、
(b)該スラッジの試料を抽出培地中に抽出して、該接合子嚢の外壁からの少なくとも1つの抗原性派生体および該接合子嚢内に含有されるスポロゾイトの少なくとも1つの抗原性派生体を含む、該接合子嚢の抗原性派生体を形成させ、
(c)(i)該抽出したスラッジの第1の試料、および
(ii)該接合子嚢の外壁上の抗原性派生体に特異的な第1抗体、
を含む第1の測定混合物を形成させ、
(d)(i)該抽出したスラッジの第2の試料、および
(ii)該スポロゾイトの該抗原性派生体に特異的な第2抗体、
を含む第2の測定混合物を形成させ、
(e)該第1抗体と該接合子嚢の外壁からの該抗原性派生体とが結合するように該第1の測定混合物をインキュベートし、
(f)該第2抗体と該スポロゾイトの該抗原性派生体とが結合するように該第2の測定混合物をインキュベートし、
(g)該第1抗体と抗原性派生体との結合複合体について第1の電気化学ルミネセンス測定を行い、そして
(h)該第2抗体と該スポロゾイトの抗原性派生体との結合複合体について第2の電気化学ルミネセンス測定を行い、
そして、それによって、接合子嚢外壁および該接合子嚢に含有されるスポロゾイトの両者を検出または定量する、
ステップからなる、クリプトスポリジウムの接合子嚢外壁、および該接合子嚢に含有されるスポロゾイトを同時に測定する電気化学ルミネセンス測定による水中のクリプトスポリジウムの検出または定量方法。
【請求項8】
(a)(i)抽出培地および接合子嚢の派生体を含有する、抽出した水濾過スラッジを含む試料であって、少なくとも1つの抗原性派生体を含み、
(ii)該抗原性派生体に特異的な抗体、
を含む、測定混合物を形成させ、
(b)該抗体と該抗原性派生体とが結合するように該混合物をインキュベートし、そして、
(c)抗体と抗原性派生体との結合複合体について電気化学ルミネセンス測定を行う、
ステップからなる、未処理水濾液から得られたスラッジ中のクリプトスポリジウムを検出または定量する電気化学ルミネセンス測定法。
【請求項9】
(a)(i)抽出したスラッジの試料、
(ii)該抗原性派生体の第1エピトープに特異的な捕捉抗体で標識した磁気粒子、
(iii)該抗原性派生体の第2エピトープに特異的な第2抗体からなる標識プローブであって、該標識は電気化学ルミネセンス部分からなり、該第1および第2エピトープは同じかまたは異なっていてもよい、
(iv)ECL測定試薬、
を含む測定混合物を形成させ、
(b)該測定混合物をインキュベートして磁気粒子−捕捉抗体−抗原性派生体−標識抗体−ECL標識を形成させ、そして
(c)ステップ(b)において形成された該複合体について磁気電極上で電気化学ルミネセンス測定を行い、
そして、それによって、該スラッジ中のクリプトスポリジウムを検出または定量する、
ステップからなる、未処理水濾液から得られたスラッジ中のクリプトスポリジウムを検出または定量する電気化学ルミネセンス測定法。
【請求項10】
(a)(i)抽出培地、および接合子嚢の外壁からの少なくとも1つの抗原性派生体を含有する、抽出した水濾過スラッジを含む、第1の試料、
(ii)該接合子嚢の外壁上の抗原性派生体に特異的な第1抗体、
を含む、第1の測定混合物を形成させ、
(b)(i)抽出培地、およびスポロゾイトの少なくとも1つの抗原性派生体を含有する、抽出した水濾過スラッジを含む、第2の試料、
(ii)該スポロゾイトの抗原性派生体に特異的な第2抗体、
を含む、第2の測定混合物を形成させ、
(c)該第1抗体と該接合子嚢の外壁からの該抗原性派生体とが結合するように該第1の測定混合物をインキュベートし、
(d)該第2抗体と該接合子嚢の外壁からの該抗原性派生体とが結合するように該第2の測定混合物をインキュベートし、
(e)該第1抗体と抗原性派生体の結合複合体について第1の電気化学ルミネセンス測定を行い、
(f)該第2抗体と該スポロゾイトの抗原性派生体の結合複合体について第2の電気化学ルミネセンス測定を行い、
そして、それによって、接合子嚢外壁および該接合子嚢に含有されるスポロゾイトの両者を検出または定量する、
ステップからなる、接合子嚢外壁および該接合子嚢中に含有されるスポロゾイトを測定する、クリプトスポリジウムを検出または定量する電気化学ルミネセンス測定法。
【請求項11】
(a)抽出培地を低pHに緩衝化することができる物質および界面活性剤を含む、抽出培地、および
(b)少なくとも1つの抗原性派生体を含む接合子嚢の派生体、
を含む、クリプトスポリジウムの接合子嚢の抽出物。
【請求項12】
(a)抽出培地を低pHに緩衝化することができる物質および界面活性剤を含む、抽出培地、および
(b)接合子嚢外壁からの少なくとも1つの抗原性派生体、および該接合子嚢中に含有されるスポロゾイトの抗原性派生体の1つを含む、該接合子嚢の派生体、
を含む、クリプトスポリジウムの接合子嚢の抽出物。
【請求項13】
(a)水濾過スラッジ、
(b)少なくとも1つの酸および少なくとも1つの界面活性剤を含む、スラッジ抽出培地、および
(c)抗体および抽出したスラッジの抗原性派生体を含む、複合体、
を含む、物質組成物。
【請求項14】
(a)水濾過スラッジ、
(b)少なくとも1つの酸および少なくとも1つの界面活性剤を含むスラッジ抽出培地、および
(c)クリプトスポリジウム接合子嚢の抗原性派生体の第1エピトープに対する第1抗体で標識した磁気粒子、および該抗原性派生体の第2エピトープに対する電気化学ルミネセンス標識した第2抗体を含む、複合体であって、該第1および第2エピトープは同じかまたは異なっていてもよい、
を含む、物質組成物。
【請求項15】
(a)少なくとも1つの酸および少なくとも1つの界面活性剤を含む、水濾過から得られた有機スラッジ抽出のための抽出培地、および
(b)抽出したスラッジの抗原性派生体に特異的な抗体、
を含む、水中のクリプトスポリジウムについて電気化学ルミネセンス測定を行うためのキット。
【請求項16】
(a)少なくとも1つの酸および少なくとも1つの界面活性剤を含む、水濾過から得られた有機スラッジの抽出のための抽出培地、および
(b)(i)抽出したクリプトスポリジウム接合子嚢の抗原性派生体の第1エピトープに特異的な第1抗体で標識した磁気粒子、および
(ii)該抗原性派生体の第2エピトープに特異的な第2抗体を含む標識プローブであって、該標識は電気化学ルミネセンス部分を含み、該第1および第2エピトープは同じかまたは異なっていてもよい、を含む電気化学ルミネセンス測定の構成分、
を含む、水中のクリプトスポリジウムについて電気化学ルミネセンス測定を行うためのキット。


【公開番号】特開2006−330002(P2006−330002A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215178(P2006−215178)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【分割の表示】特願平10−540621の分割
【原出願日】平成10年3月11日(1998.3.11)
【出願人】(505000103)バイオヴェリス コーポレイション (7)
【Fターム(参考)】