説明

電気化学分子認識プローブ

【課題】目的物質へのラベル化および測定溶液へのマーカーの添加を必要とせず、かつ目的物質の認識に伴い電気化学信号が増加するsignal-on型の検出法を実現するための分子認識プローブおよび分子認識センサを提供する。
【解決手段】電気化学活性団と、前記電気化学活性団の電気化学活性を抑制する活性抑制団と、目的物質を特異的に分子認識するレセプターと、分子認識の結果立体構造を変化させる分子領域とを備え、分子認識前は前記電気化学活性団が前記活性抑制団により活性を抑制され、分子認識後は活性を取り戻すように分子認識プローブを構成する、或いは、アンカー領域を前記分子認識プローブに備え、これを電極表面に固定することによって分子認識センサを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、目的の分子を認識することで電気化学活性を発現する分子、特に目的の核酸を配列特異的に認識することで電気化学活性を発現する分子、およびこれに基づく分子認識プローブと分子認識センサに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の分子の共存した溶液中で特定の分子を検出するためには、その分子特有の物理的・化学的特徴を指標に何らかの物理的・化学的摂動を与え、得られる信号変化から同定を行う。
目的とする分子に特有な特徴がない場合には、特徴のある分子団等によりラベル化し、ラベルを目印に目的の分子を検出する。また、その目的とする分子へのラベル化が困難な場合には、その分子を特異的に認識する分子認識試薬を用い、分子認識試薬側に特徴を持たせることで目的の分子を検出することが多い。特に、測定対象が多数の場合には後者の方法を用いることが多い。
【0003】
近年、核酸やタンパク質、ペプチドなどの生体物質のハイスループットスクリーニングやゲノム解析、プロテオーム解析、メタボローム解析などの網羅的生体活動解析のニーズが高まっているが、測定対象の規模の増加に伴い、従来のラベル化法に変わる新しい検出法が望まれている。
現在、例えばゲノム解析における核酸の検出においては、測定対象となる核酸(ターゲット核酸)そのものに蛍光団を直接ラベル化し、チップや基板上に固定した相補的配列を有する核酸(プローブ核酸)との配列特異的なハイブリッド形成の後、蛍光発光を直接検出することでターゲット核酸を同定している。
しかし、多種類の核酸を測定対象とする場合、こういったラベル化作業を全ての核酸に対して行うのは大変煩雑であり、ラベル化フリーの核酸検出法が望まれている。このような状況は、多くのタンパク質やペプチドを取り扱わねばならないプロテオーム解析やメタボローム解析でも同様である。
【0004】
例えば、ラベル化フリーの核酸検出法のうち最もよく使用されている手法に分子ビーコン法がある。この手法は、図6に示すように、プローブ核酸の両端に蛍光団(F)とその蛍光を消光する消光団(Q)とをそれぞれ修飾し、ターゲット核酸とハイブリッド形成していない時には、蛍光団の近傍に消光団が位置するようにヘアピン構造を取らせ、蛍光を発光させないようにしておき、ターゲット核酸とハイブリッド形成して両者が離れることで初めて蛍光団が蛍光を発光するようにすることで、目的の核酸の存在を知ることができるものである(特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
しかし、蛍光分光に基づく検出法は高感度検出が可能な一方、高エネルギーで高価で大掛かりな測定装置を必要とする。
本発明者らは従来、蛍光分光法に代わるより簡便な手法について研究してきた。その過程で、電気化学に基づく手法は、低エネルギーで安価で小規模な装置で検出が可能なため、簡便な検出を可能とすることを示してきた。特に、生体内での遺伝子やタンパク質の働きにおける正常時からのずれを指標とした診断技術であるトキシコゲノミクスやファーマコゲノミクスなど患者の病態予測や治療法の選択を可能とする技術が、研究所レベルの研究から臨床レベルの診断へと応用の幅を広げようとしている昨今では、簡便な診断ツールの必要性はますます増加している。
【0006】
電気化学に基づくラベル化フリーの分子認識法には、例えば本発明者らが開発してきたイオンチャンネルセンサがある(特許文献2、3、非特許文献2)。これは、生体膜に存在するイオンチャネルタンパクが少量のリガンドの結合により生体膜内外における多量のイオンの流れを制御することに着目し、分子認識とそれに続く信号増幅とにより目的物質を検出するセンサである。目的物質への選択的な結合能を有する分子をレセプターとして電極表面に固定し、測定溶液中に電気化学活性物質(マーカー)を溶解しておく。目的物質がレセプターと結合して電極表面に濃縮されることで、マーカーの電極表面での電子移動反応が促進されたり抑制されたりするように仕組んでおくことで、少量の目的物質の存在を多量の電子の流れとして検出することができる。この原理の最大の利点は、目的物質に電気化学活性がなくとも(ラベル化しなくとも)目的物質を電気化学的に検出できる点である。この原理を用いることにより、数多くの分子やイオン、糖鎖やペプチド、核酸の高感度検出に成功した。
【0007】
本発明者らはこの原理をさらに進め、電気化学活性を有するレセプターを開発し、目的物質へのラベル化が不要であるのみならずマーカーの添加も不要なより簡便な手法を提案した(非特許文献3)。例えば、核酸検出用のレセプター(プローブ核酸)では、プローブ核酸の一端をフェロセンなどの電気化学活性団で修飾し、他端を電極表面に固定する。核酸は一本鎖の状態では柔軟性に富む構造をしているが、二本鎖となると剛直な構造となることが知られている。この核酸の性質により、プローブ核酸末端のフェロセンはハイブリッド形成により、自由に電極表面へ電子移動反応が起こせる状態から困難な状態へと変化するため、観測される電流値の減少によりターゲット核酸を配列特異的に検出することができることを見出した。同様の手法により、タンパク質、分子やイオンなどその他の化学種を目的物質とした検出も試みられている(非特許文献4〜7)。
【0008】
しかし、末端に電気化学活性種を有するレセプターを用いた検出法では、その原理を電極表面からの距離に依存した電子移動反応の制御に依らざるを得ず、したがって、分子認識イベントを電子移動反応の減少によって知らせるような仕組みとせざるを得ない。電気化学的な検出原理に基づくプローブ核酸では、ほぼ全てがこの仕組みに基づくものである。一般に、分子認識に伴い信号が減少する系(signal-off型)では、検出感度が小さいことが知られている。これに対し、分子認識に伴い信号が増加する系(signal-on型)では、高感度な検出を望むことができる。電気化学的手法の簡便性を生かし、ラベル化およびマーカーが共に不要な分析法を開発するためには、signal-on型の手法を開発する必要がある。しかし、現状ではそのような手法の開発はなされていない。
【特許文献1】国際特許公開WO95/13399
【特許文献2】特許第3,956,214号公報
【特許文献3】米国特許7,169,614号明細書
【非特許文献1】Nature Biotechnol. vol.14, 303-308 (1996)
【非特許文献2】Anal. Chem. vol.76, No.17, 320A-326A (2004)
【非特許文献3】Analyst vol.132, 784-791 (2007)
【非特許文献4】Angew. Chem. Int. Ed. vol.44, 5456-5459(2005)
【非特許文献5】Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.100, 9134-9137(2003)
【非特許文献6】J. Am. Chem. Soc. vol.128, 3138-3139(2006)
【非特許文献7】J. Am. Chem. Soc. vol.129, 262-263 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、目的物質へのラベル化および測定溶液へのマーカーの添加を必要とせず、かつ目的物質の認識に伴い電気化学信号が増加するsignal-on型の検出法を実現するための分子認識プローブおよび分子認識センサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、電気化学活性団と、前記電気化学活性団の電気化学活性を抑制する活性抑制団と、目的物質を特異的に分子認識するレセプターと、分子認識の結果立体構造を変化させる分子領域とを備え、分子認識前は前記電気化学活性団が前記活性抑制団により活性を抑制され、分子認識後は活性を取り戻すように分子認識プローブを構成することにより、或いは、アンカー領域を前記分子認識プローブに備え、これを電極表面に固定することによって分子認識センサを構成することによって上記目的が達成できるという知見を得た。
【0011】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
[1]電気化学活性団と、前記電気化学活性団の電気化学活性を抑制する活性抑制団と、目的物質を特異的に分子認識するレセプター領域と、分子認識の結果立体構造を変化させる構造変化領域とを備え、分子認識前は前記電気化学活性団が前記活性抑制団により活性を抑制され分子認識後は活性を取り戻すことを特徴とする分子認識プローブ。
[2]固体表面上に固定できるアンカー領域を備えたことを特徴とする前記[1]の分子認識プローブ。
[3]前記電気化学活性団が、メタロセン又はその誘導体であることを特徴とする前記[1]又は[2]の分子認識プローブ。
[4]前記活性抑制団が、前記電気化学活性団を内包することを特徴とする前記[1]〜[3]の分子認識プローブ。
[5]前記活性抑制団が、シクロデキストリン又はカリックスアレン或いはこれらの誘導体であることを特徴とする前記[4]の分子認識プローブ。
[6]前記[1]〜[5]のいずれか1つの分子認識プローブを固体表面に固定化することで作製した電気化学センサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上に説明したような特徴を持つので、目的物質へのラベル化および測定溶液へのマーカーの添加を必要とせず、かつ目的物質の認識に伴い電気化学信号が増加するsignal-on型の検出法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、目的物質へのラベル化および測定溶液へのマーカーの添加を必要とせず、かつ目的物質の認識に伴い電気化学信号が増加するsignal-on型の検出法を実現するための分子認識プローブおよび分子認識センサを提供するという課題を、電気化学活性団と、前記電気化学活性団の電気化学活性を抑制する活性抑制団と、目的物質を特異的に分子認識するレセプターと、分子認識の結果立体構造を変化させる分子領域とを備え、分子認識前は前記電気化学活性団が前記活性抑制団により活性を抑制され分子認識後は活性を取り戻すように分子認識プローブを構成し、またはアンカー領域を前記分子認識プローブに備え、これを電極表面に固定することによって分子認識センサを構成することによって実現したものである。
【0014】
すなわち、本発明の分子認識プローブは、具体的には、目的物質を選択的に分子認識するレセプターであって、分子認識に伴ってその立体構造を変化させるレセプターに対し、その両端にそれぞれ電気化学活性団とこの電気化学活性団の活性を抑制する活性抑制団とを備えた分子である。また、本発明の分子認識センサは、この分子認識プローブを電極表面に固定して構成したセンサである。
【0015】
図1は、本発明の分子認識プローブを示す模式的に示す図であり、図2は、該分子認識プローブに固体表面上に固定できるアンカー領域を設けることにより、前記分子認識プローブを電極に固定したセンサを模式的に示す図である。
図中、Eは、電気化学活性団を表し、Qは、該電気化学活性団の電気化学活性を抑制する活性抑制団を表しており、これらの図では、EとQの間に存在するレセプターの一例として核酸を用いた例を示している。
【0016】
図1,2に示すように、該構成を有する本発明の分子認識プローブは、目的物質と分子認識を起こす前は、電気化学活性団と活性抑制団とが互いに近傍に位置するため、電気化学活性団は活性を抑制され電気化学信号は得られないが、目的物質と分子認識を起こした後は、レセプターが分子認識に伴ってその立体構造を変化させるため、電気化学活性団は活性抑制団から離れ活性を取り戻し、電気化学信号を得ることができる。
この際、分子認識プローブはバルク測定溶液中で電気化学信号を発生し、分子認識センサは電極表面上で電気化学信号を発生する。最終的には、どちらの場合も電極を用いて電気化学信号を測定する。
前記分子認識プローブは、分子認識前の状態では、電気化学活性団と活性抑制団とを互いに近傍に位置させるため、両者が内包錯体や電荷移動錯体などを形成することで、比較的弱い力により結び付いている状態が望ましい。また同様の目的のため、例えばレセプター領域として核酸を用いている場合には、図6に示すようなステム構造を形成していても良い。
【0017】
本発明において、電気化学活性団の電気化学活性の変化は、電流値の増減であっても電圧値の増減であっても良い。
図3は、レセプターが分子認識に伴ってその立体構造が変化して酸化還元電位がシフトすることにより電流値が増大することを模式的に示す図である。
【0018】
このように、本発明によれば、目的物質へのラベル化および測定溶液中へのマーカーの添加を必要とせず、かつ目的物質の認識に伴い電気化学信号が増加するsignal-on型の検出法を実現することができる。
【0019】
本発明において、前記レセプター領域としては、核酸、タンパク質、ペプチド、イオノフォア等が挙げられる。
また、本発明において、前記構造変化領域としては、核酸、タンパク質、ペプチド、イオノフォアおよびその他のリンカーが挙げられる。
これらに用いられる核酸としては、具体的には、DNA、RNA、PNA(Peptide Nucleic Acid、ペプチド核酸)、LNA(Locked Nucleic Acid)が挙げられる。
さらに、前記レセプター領域が、前記構造変化領域を兼ねるものであってもよい。
【0020】
本発明において、前記電気化学活性団としては、キノン類及びその誘導体、ナフトキノン類及びその誘導体、アントラキノン類及びその誘導体、ピリジン類及びその誘導体、ビピリジン類及びその誘導体、チアジン類及びその誘導体、及びフェロセン等のメタロセン及びその誘導体などの有機金属錯体であることが好ましい。
【0021】
本発明における活性抑制団は、前記電気化学活性団の電気化学活性を抑制することが可能なものである。
また、本発明においては、前記活性抑制団が、前記電気化学活性団を内包するものであってもよく、このような活性抑制団としては、シクロデキストリン、又はカリックスアレン、或いはそれらの誘導体が挙げられる。
【0022】
本発明においては、前記分子認識プローブに固体表面上に固定できるアンカー領域を設けることにより、前記分子認識プローブを電極に固定したセンサとすることができる。
このようなアンカー領域としては、電極材料である金属と共有結合することが可能なものが用いられ、具体的には、チオール類、チオエーテル類、チオエステル類、リポ酸誘導体、システイン誘導体およびその他の硫黄化合物等が挙げられる。
また、前記アンカー領域として、他の電極材料である金属酸化物と共有結合することが可能なものが用いられ、具体的には、シラン類が挙げられる。
さらに、前記アンカー領域が、抗原抗体反応、His-Tag、核酸のハイブリッド形成、ビオチン−アビジン結合およびその他の結合形成により固体表面上に固定できるものが好ましい。
【0023】
図4は、本発明の分子認識プローブの一例として、電気化学活性団、レセプター、及び活性抑制団に、ぞれぞれ、フェロセン、ペプチド核酸、及びβ−シクロデキストリンを用いた例を模式的に記載したものであり、図5は、それにアンカーの一例を付加したものである。
【0024】
以下、本発明の分子認識プローブに用いられる電気化学活性団及び活性抑制団について、合成例を用いて具体的に説明する。
電気化学活性団の合成
電気化学活性団として5’-dimethoxytrityl-3’-cyanoethyldiisopropyl-5-[5-(ferrocenylmethoxy)- hexynyl]-2’-deoxyuridineを以下の手順で合成した。
まず、5-hexynyl ferrocenylmethyl ether(化合物A)及び5’-dimethoxytrityl-5-iodo-2’- deoxyuridine(化合物B)を合成した。次いで、化合物A及び化合物Bより5’-dimethoxytrityl-5- [5-(ferrocenylmethoxy)-hexynyl]-2’-deoxyuridine(化合物C)を合成し、最終的にこれを5’- dimethoxytrityl-3’-cyanoethyldiisopropyl-5-[5-(ferrocenyl-methoxy)hexynyl]-2’-deoxyuridine(化合物D)に変換した。
以下にその詳細を述べる。
【0025】
メカニカル攪拌機を備えた4ツ口フラスコに窒素下、N,N-dimethylaminomethyl-ferrocene 3.0 g(12.34 mmol)、ブチロニトリル51 mL、ヨウ化メチル 1.75 g(12.34 mmol)、5-hexyn-1-ol 1.42 g(14.48 mmol)、炭酸カリウム6.1 g(44.4 mmol)を仕込み、還流下で4.5時間反応した。室温まで冷却後、不溶解物をろ過し、ろ液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:1にて溶出)で精製、有効フラクションを減圧濃縮し、残渣をヘキサンでトリチュレーションして析出した固体をろ過、減圧乾燥して化合物Aを1.75 g(5.91 mmol)得た。収率48%。
【0026】
メカニカル攪拌機を備えた4ツ口フラスコに窒素下、5-iodo-2’-deoxyuridine 23.5 g(66.4 mmol)、ピリジン587.5 mL、4-ジメチルアミノピリジン0.81 g(6.6 mmol)を仕込み、4,4-dimethoxytrityl chloride 29.7 g(87.6 mmol)を加え室温で一晩反応した。5%炭酸ナトリウム水溶液を加え減圧濃縮後、さらにトルエン置換した。残渣をクロロホルムにて抽出し、有機層を硫酸マグネシウムにて脱水、ろ過、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=50:1にて溶出)で精製し、化合物Bを30.5 g(46.5 mmol)得た。収率70%。
【0027】
メカニカル攪拌機を備えた4ツ口フラスコに窒素下、化合物B 5.5 g(8.38 mmol)、アセトニトリル55 mL、トリエチルアミン55 mL、化合物A 3.64 g(12.3 mmol)を仕込み、反応系を窒素置換(減圧脱気→窒素置換を5回繰り返した)。ここにヨウ化銅(I) 0.55 g(2.9 mmol)、bis(triphenylphosphine)palladium(II) dichloride 0.55 g(0.78 mmol、化合物Bに対して9.3 mol%)を室温で加えた後、69℃まで昇温させ同温度で3時間反応した。氷水冷却下、5%EDTA水溶液を加え、溶媒を減圧留去し残渣をクロロホルム抽出した。有機層を硫酸ナトリウムにて脱水、ろ過、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=50:1およびヘキサン/酢酸エチル=1:1にて溶出)で精製し、化合物Cを3.2 g(3.88 mmol)得た。収率46%。
【0028】
メカニカル攪拌機を備えた4ツ口フラスコに窒素下、乾燥トルエンで2回および乾燥アセトニトリルで1回共沸脱水した化合物C 2.37 g(2.87 mmol)、モレキュラーシーブ(4Å)で予備乾燥後水素化カルシウムにて脱水蒸留したアセトニトリルを仕込み、塩氷浴で冷却した。0℃でジイソプロピルエチルアミン2 mL(11.48 mmol)を加えた後、2-cyanoethyl diiopropylchlorophosphoramidite 0.942 mL(4.01 mmol)を滴下した。1℃で30分反応した後、ジイソプロピルエチルアミン1 mL(5.74 mmol)、2-cyanoethyl diiopropylchlorophosphoramidite 0.47 mL(2.0 mmol)を加え、さらに30分反応した。飽和炭酸ナトリウム水溶液を加えクロロホルム抽出、有機層を飽和食塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムにて脱水、ろ過、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル/トリエチルアミン=40:10:0.5にて抽出)で精製し、化合物D 2.495 g(2.43 mmol)を得た。収率85%。
【0029】
活性抑制団の合成
活性抑制団として、mono(2,3-di-O-methyl-6-amino-6-deoxy)hexakis(2,3,6-tri-O-methyl)-β- cyclodextrinを以下の手順で合成した。
まず、β-cyclodextrinをモノトシル化してmono-6-O-(p-toluenesulfonyl)-β- cyclodextrin(化合物E)を合成し、このトシル基をアジドへと変換後、全ての水酸基をメチル化しmono(2,3-di-O-methyl-6-deoxy-6-azido) hexakis(2,3,6-tri-O-methyl)-β-cyclodextrin(化合物F)を合成し、さらにアジドを還元することでmono(2,3-di-O-methyl-6-deoxy-6-amino) hexakis(2,3,6-tri-O-methyl)-β- cyclodextrin(化合物G)を合成した。
以下にその詳細を述べる。
【0030】
β-cyclodextrin 10 g(8.8 mmol)を水酸化ナトリウム(0.4 mol/L、200 mL)に溶解し、氷冷下でp-toluenesulfonyl chloride 10 g(52 mmol)を加えた。1時間攪拌後ろ過し、水50 mLにて洗浄した。ろ液を氷冷し塩酸(2 mol/L)を加えて中和し、室温で一晩放置した。析出した結晶をろ過し、水50 mLにて洗浄した。結晶を乾燥して化合物Eを5.94 g(4.61 mmol)得た。収率52%。
【0031】
化合物Eの3.78 g(2.95 mmol)をDMF 60 mLに溶解して、アジ化ナトリウム 1.3 g(20.4 mmol)を加え、120℃で2時間攪拌した。攪拌後ろ過し、DMF 30 mLにて洗浄した後、氷冷下でろ液に水素化ナトリウム 7.1 g(177 mmol)、臭化メチル 11 mL(177 mmol)を加えて室温で一晩攪拌した。再び氷冷し、メタノール3 mLを加えて室温で10分攪拌した。酢酸エチル450 mLにより希釈し、水450 mLおよび飽和食塩水450 mLにて洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後ろ液を濃縮することで6.59 gの残渣を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン→ジクロロメタン/メタノール=9:1にて溶出)で精製し化合物Fを3.58 g(2.49 mmol)得た。収率84%。
【0032】
化合物Fの4.3 g(3.0 mmol)をメタノール50 mLに溶解して、パラジウム炭素(Pd 5%、50% wet)0.5 gを加えた後、水素雰囲気下にて室温で一晩攪拌した。ろ過した後ろ液を濃縮することで4.1 gの残渣を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン→ジクロロメタン/メタノール=10:1にて溶出)で精製し化合物Gを2.1 g(1.5 mmol)得た。収率50%。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の分子認識プローブを模式的に示す図。
【図2】本発明の分子認識プローブを電極に固定した本発明の電気化学センサを模式的に示す図。
【図3】レセプターが分子認識に伴ってその立体構造が変化して酸化還元電位がシフトすることにより電流値が増大することを模式的に示す図。
【図4】本発明の分子認識プローブの一例を模式的に示す図。
【図5】図4に示す分子認識プローブにアンカーの一例を付加したものを示す図。
【図6】従来の分子ビーコン法を模式的に示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学活性団と、前記電気化学活性団の電気化学活性を抑制する活性抑制団と、目的物質を特異的に分子認識するレセプター領域と、分子認識の結果立体構造を変化させる構造変化領域とを備え、分子認識前は前記電気化学活性団が前記活性抑制団により活性を抑制され分子認識後は活性を取り戻すことを特徴とする分子認識プローブ。
【請求項2】
固体表面上に固定できるアンカー領域を備えたことを特徴とする請求項1に記載の分子認識プローブ。
【請求項3】
前記電気化学活性団が、メタロセン又はその誘導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分子認識プローブ。
【請求項4】
前記活性抑制団が、前記電気化学活性団を内包することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分子認識プローブ。
【請求項5】
前記活性抑制団が、シクロデキストリン又はカリックスアレン或いはこれらの誘導体であることを特徴とする請求項4に記載の分子認識プローブ。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の分子認識プローブを固体表面に固定化することで作製した電気化学センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−8253(P2010−8253A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168546(P2008−168546)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)