説明

電気化学反応装置及び酸素富化器

【課題】酸素富化器において、ランタンガレートからなる固体電解質と介装部材との接合を良好にした装置を提供する。
【解決手段】ランタンガレートからなる板状の固体電解質(10)及びこの固体電解質の表裏面の中央部に対して設けられた電極(11、12)を有する電気化学セル(1)と、上記電気化学セルに対向して配設されるとともに、上記電極に臨む位置に開口が形成された基材(70)と、上記電気化学セルの外周部と上記基材との間に介装されるとともに、上記固体電解質及び基材に接合された介装部材(3)とを備えた電気化学反応装置とした。さらに、この介装部材と上記固体電解質とを、少なくともLaを含有する結晶化ガラス(30)によって互いに接合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルを備えた電気化学反応装置に関するものであり、特に電気化学セルの一種である酸素透過性セルを備えた酸素富化器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から電気化学セルの一種である酸素透過性セルにおいては、図4に示すように、例えば、ランタンガレートからなる薄板状の固体電解質90の片面に負極91が設けられるとともに、他方の面に正極92が設けられている。そして、所定の温度下において、電極91、92間に直流電源Vを供給することにより、負極91側から正極92側に向けて酸素イオンが透過する。
【0003】
さらに、この酸素透過性セルの負極91側の外方には、空気の通路93aが形成された金属板からなるセパレータ93が配置されるとともに、正極92側の外方には、酸素の通路94aが形成された金属板からなるセパレータ94が配置されており、これらのセパレータ93、94により上記酸素透過性セルが挟まれて、酸素富化器が構成されている。
【0004】
これらのセパレータ93、94は、それぞれ中央部であって、かつ酸素透過性セルの対向面に、上記空気通路93aの排出口又は酸素通路94aの供給口が形成されている。そして、これらの上記空気通路93aの排出口及び酸素通路94aの供給口には、それぞれパンチングプレート95が配置されるとともに、このパンチングプレート95の表面に集電体96が配置されており、この集電体96がそれぞれ上記負極91又は正極92に対向するように配設されている。
【0005】
上述の酸素富化器によれば、起動時に400℃〜800℃に加熱するとともに、負極91側に配置されているセパレータ93の空気通路93aに空気を供給することにより、空気中の酸素分子(O2)が負極91近傍に供給されて、負極91において電子を受け取り酸素イオン(O2-)にイオン化される。そして、このイオンが電流として固体電解質90中を正電圧がかかる正極92側に移動し、正極92側にて電子を放出して、再び酸素分子に戻ることにより、酸素が正極92側に配置されているセパレータ94の酸素通路94aへ供給される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本出願人らは、起動時に400℃〜800℃に加熱することによってセパレータ93と固体電解質90とがそれぞれ厚み方向と面方向とに熱膨張して、両者間に熱歪みが生じることを防止すべく、上記セパレータ94と上記固体電解質90との外周部間に上記熱歪みを吸収する介装部材を設けた酸素富化器を提案している。この介装部材は、複数枚の板状の金属箔が積層されたもので、一端側が上記セパレータ94に溶接あるいは溶着されることにより接合されている。
【0007】
しかしながら、上記介装部材は、他端側をランタンガレートからなる上記固体電解質90に対して、溶接あるいは溶着によって接合することができない。このため、介装部材を固体電解質90に接合するための接合方法の開発が要請されていた。
【0008】
このような中で、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定のガラス素材によるガラス接合が上記ランタンガレートとの接合性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、ランタンガレートからなる板状の固体電解質及びこの固体電解質の表裏面の中央部に対して設けられた電極を有する電気化学セルと、上記電気化学セルに対向して配設されるとともに、上記電極に臨む位置に開口が形成された基材と、上記電気化学セルの外周部と上記基材との間に介装されるとともに、上記固体電解質及び基材に接合された介装部材とを備えた電気化学反応装置であって、上記介装部材と上記固体電解質とは、少なくともLaを含有する結晶化ガラスによって互いに接合されている電気化学反応装置である。
【0010】
ここで、電気化学セルとは、電子の授受に伴って化学反応を行うセルを意味し、酸素透過性セルの他に、酸化剤ガスと燃料ガスとにより発電する発電セルや、水を電気分解する電解セルを含むものである。よって、電気化学反応装置とは、上述の電気化学セルを有する装置を意味し、酸素富化器の他に、燃料電池や、水の電気分解装置等として利用されるものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電気化学反応装置において、上記結晶化ガラスの熱膨張係数が10×10-6/K以上であって、かつ12×10-6/K以下であることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電気化学反応装置において、上記介装部材が板状のフェライト系ステンレス箔であることを特徴とするものである。
【0013】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3に記載の電気化学反応装置において、上記介装部材として上記基材の開口部と連通する開口が形成された複数層のシート材が厚さ方向に積層されるとともに、当該積層間がそれぞれ気密性を有するように面方向の異なる位置において一体化されてなり、上記積層方向の一端側のシート材が全周にわたって上記電気化学セルに接合されるとともに、他端側の上記シート材が全周にわたって上記基材に接合されていることを特徴とするものである。
【0014】
そして、請求項5に記載の発明に係る酸素富化器は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電気化学反応装置の電気化学セルとして、酸素透過性セルが用いられており、上記基材には、内部に上記酸素透過性セルから放出された酸素を流通させる通路が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1ないし4に記載の発明によれば、ランタンガレートからなる板状の固体電解質の外周部と介装部材とを結晶化ガラスにより接合したため、上記固体電解質と介装部材とが異質材料からなる場合にも接合することができる。また、結晶化ガラスに少なくともLaを含有させているため、固体電解質と介装部材とを接合させる際、ランタンガレートと結晶化ガラスとに含有されるLaがバッファーとなって固体電解質の外周部と結晶化ガラスとを強固に密着させることができるものと推側される。その結果、この結晶化ガラスによって固体電解質の外周部と介装部材とが接合して、固体電解質から結晶化ガラスが介装部材とともに剥がれ落ちることを防止できる。
【0016】
特に、請求項2に記載の発明によれば、結晶化ガラスの熱膨張係数を10×10-6/K以上であって、かつ12×10-6/K以下としたため、固体電解質(ランタンガレートの熱膨張係数10.8×10-6/K)と熱膨張係数が近似している。このため、常温から上記電気化学セルの反応温度まで昇温させた場合に、その過程において、固体電解質と結晶化ガラスとの間に生じる熱歪みにより、固体電解質10が破損することを防止できる。
【0017】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、上記介装部材は、板状のフェライト系ステンレス箔(熱膨張係数10.4×10-6/K)であるため、上記固体電解質と熱膨張係数が近似している。このため、常温から上記電気化学セルの反応温度まで昇温させた場合に生じる固体電解質と介装部材と間の熱歪みを最小限に抑制することができる。その結果、より確実に固体電解質10が破損することを防止できる。
また、上記ステンレス箔は、基材としてステンレス鋼等の鋼板を用いることにより容易に溶接または溶着によって接合することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、介装部材として複数層のシート材を厚さ方向に積層し、かつ当該積層間がそれぞれ気密性を有するように面方向の異なる位置において一体化して、上記積層方向の一端側のシート材を上記電気化学セルに接合するとともに、他端側のシート材を上記基材に接合したため、介装部材によって、上記電気化学セルと上記基材との間の熱歪みを吸収することができる。その結果、固体電解質が破損する恐れのない電気化学反応装置を提供することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、上記電気化学セルを酸素透過性セルとしたため、酸素透過性セルの中央部に対にして設けられた電極に直流電源を接続することにより、上記基材の中央部から供給された空気中の酸素が基材内の通路に供給される。その結果、電気化学セルを利用して、空気から酸素を分離し、所望の場所に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る電気化学反応装置の一実施形態として、酸素富化器について説明する。
【0021】
本実施形態における酸素富化器は、図1及び図2に示すように、板状の酸素透過性セル(電気化学セル)1と、この酸素透過性セル1と平行に配設されたセパレータ2と、このセパレータ2と上記酸素透過性セル1との外周部間に設けられた介装部材3とから概略構成されている。
【0022】
この酸素透過性セル1は、矩形(正方形を含む、以下同様。)状の薄膜素材からなる固体電解質10と、この固体電解質10の中央部であって、上記セパレータ2との対向面に配設された正極12と、この固体電解質10の中央部であって、上記セパレータ2の反対面に配設された負極11とにより構成されている。
【0023】
この固体電解質10としては、例えば、(La0.8・Sr0.2)(Ga0.8・Mg0.1・Co0.1)O3又は(La0.8・Sr0.2)(Ga0.8・Mg0.1・Ni0.1)O3等のペロブスカイト型結晶構造を有するランタンガレート系材料からなる板状体が用いられており、その熱膨張係数は、約10.8×10-6 /Kである。また、固体電解質10の膜厚は、使用する際の温度条件と、その際に要求される酸素透過量とに応じて定められており、本実施形態においては30〜200μmの範囲に設定されている。
【0024】
また、負極11および正極12は、それぞれ、SSC:(Sm0.5 Sr0.5)CoO3、BLC:(Ba0.6La0.4)CoO3、LSC:(La0.6Sr0.4)CoO3、LSM:(La0.85Sr0.15)MnO3、LSCF6428:(La0.6Sr0.4)(Fe0.2Co0.8)O3、LSCF6482:(La0.6Sr0.4)(Fe0.8Co0.2)O3等の電気伝導性の高い材料から構成されている。
【0025】
上記セパレータ2は、SUS430等の導電性部材からなる矩形状の基材20であり、上記酸素透過性セル1に対向する面の中央部に上記正極12に対応する形状の凹部(開口部)21が形成されている。また、凹部21内には、底部から上記酸素透過性セル1に向けて突出する複数本の柱状部材22が均等に配設されている。
【0026】
そして、凹部21内には、上記酸素透過性セル1の対向面に板状の集電体4が設けられるとともに、この集電体4と柱状部材22との間にパンチングプレート5が介装されている。この集電体4及びパンチングプレート5は、上記酸素透過性セル1と平行に配設され、その外周が凹部21内の内周と略同一の大きさに形成されている。また、集電体4は、SUS430等のステンレス鋼素材からなり、パンチングプレート5は、集電体4と同一素材からなるとともに、複数の穴が穿設されている。
【0027】
また、セパレータ2は、基材20の外周部から上記凹部21内の上記パンチングプレート5に囲まれた空間に貫通する気体の通路24が形成されている。そして、上記基材20の側壁と一体的に設けられて、上記基材20の外方に延在するとともに、上記通路24に連通する配管25が備えられている。この通路24とそれに連通する配管25とにより酸素の排気路Bが形成されている。
【0028】
上記介装部材3は、上記正極12に対応する開口3aが形成された矩形状の環状のシート材31が2枚積層されることにより構成されており、各シート材31は、SUS430等のフェライト系ステンレス箔からなる。このため、熱膨張係数が10.4×10-6/Kであり、固体電解質10と熱膨張係数の差が小さく、起動時の加熱により固体電解質10と介装部材3とがそれぞれ熱膨張した場合に発生する両者の間の熱歪みを最小限に抑えられる。
【0029】
このうちセパレータ2対向面側に配設されたシート材31aは、その外周がセパレータ2の外周と略同一の大きさに形成されているとともに、その外周部がセパレータ2の外周部と同質材であるためにそのまま溶接あるいは溶着されている。
他方、酸素透過性セル1対向面側に配設されたシート材31bは、その開口3aが上記シート材31aの開口3aと略同一の大きさに形成されているとともに、その内周部が上記シート材31aの内周部に溶接あるいは溶着されて一体化されている。そして、その外周が酸素透過性セル1の外周と略同一の大きさに形成されている。
【0030】
さらに、このシート材31bの外周部と、上記固体電解質10とは、異質材であるためにガラス接合されている。
このガラス接合には、熱膨張係数が10×10-6/K以上であって、かつ12×10-6/K以下であるとともに、0.3〜5質量%のLa23及び0.5〜5質量%のAl23を含有するSi−Ca−Ba−Al−O系の結晶化ガラス30が用いられている。
そして、この結晶化ガラス30をシート材31bと固体電解質10とにスクリーン印刷して、乾燥させた後、シート材31bと固体電解質10とを貼り合わせ、次いで加熱炉内において加熱処理を行うことによって上記シート材31bの外周部と固体電解質10とが強固に接合されている。
【0031】
ここで、上記結晶化ガラス30には、固体電解質10に含有されているLaが含まれているため、固体電解質10と結晶化ガラス30とに含有されているLaが互いにバッファーになって固体電解質10と結晶化ガラス30とを強固に密着させているものと推測される。その結果、この結晶化ガラスによって固体電解質10とシート材31bとが強固に接合されて、固体電解質10から結晶化ガラス30が介装部材3とともに剥がれ落ちないようになっている。
【0032】
さらに、結晶化ガラス30にはAlが含有されており、このAlが固体電解質10に含有されているGaと同族であるために類似の結晶構造を有し、このAlとGaとが互いにバッファーとなって固体電解質10と結晶化ガラス30とを一層強固に密着させているものと推測される。
【0033】
また、結晶化ガラス30は、その熱膨張係数が10×10-6/K以上であって、かつ12×10-6/K以下であるため、固体電解質10と熱膨張係数の差が小さく、起動時の加熱による固体電解質10と結晶化ガラス30との熱歪みによって固体電解質10が割れることを防止できる。
【0034】
さらに、上述のようにして構成された本実施形態の酸素富化器には、上記酸素透過性セル1の外方を取り囲むようにして、アルミナファイバーシートからなる絶縁シート6が配設されている。
【0035】
また、上記酸素透過性セル1に対して上記セパレータ2の反対側に、上記酸素透過性セル1と平行に配設されたセパレータ7が設けられている。このセパレータ7は、上述のセパレータ2と同様に、矩形状の基材70からなり、中央部には凹部71が形成されている。そして、この凹部71には柱状部材72が設けられているとともに、集電体8及びパンチングプレート9が配設されている。
【0036】
また、セパレータ7は、基材70の外周部から上記凹部71の上記パンチングプレート9に囲まれた空間に貫通する偶数本(図中2本)の気体の通路74が基材70の中心に対して点対称になるように対をなして形成されている。そして、上記基材70の側壁と一体的に設けられて、上記基材70の外方に延在するとともに、上記通路74に連通する偶数本(図中2本)の配管75が対をなして備えられている。この一方の通路74とそれに連通する配管75とにより空気の吸気路Aが形成されるとともに、他方の通路74とそれに連通する配管75とにより気体の排気路Cが形成されており、これらの吸気路Aと排気路Cとが対をなして配設されている。
【0037】
このようにして構成されたセパレータ7は、上記セパレータ2とともに上記酸素透過性セル1及び上記絶縁シート6を挟み込むようにして配設される。そして、これらのセパレータ2、7には、電気回路(図示を略す)が接続されており、上記負極11に負電圧がかかるとともに、上記正極12に正電圧がかかるようになっている。
【0038】
上述の酸素富化器を用いた場合の作用について、説明する。
まず、セパレータ2、7及び介装部材3を介して負極11に負電圧をかけるとともに、正極12に正電圧をかける。すると、空気が吸気路Aから凹部71に供給され、柱状部材72に衝突しながら、凹部71の中央に向けて移動しつつ、パンチングプレート9の穴を通過して、負極11近傍に供給される。このようにして、凹部71全体から負極11近傍に均一的に空気が供給される。
【0039】
すると、空気中の酸素は、負極11において、電子を受け取り、酸素イオン(O2-)になり、この酸素イオンが電流として固体電解質10中を正極12側に移動し、正極12において電子を放出して酸素分子となる。その際、酸素富化器は、起動時に400〜800℃に加熱されているため、固体電解質10とセパレータ2の基材20とがそれぞれ熱膨張することにより両者間に熱歪みが生じており、この熱歪みを介装部材3が吸収している。
【0040】
次いで、酸素は、正極12から集電体4、さらにパンチングプレート5の穴を通過して、凹部21内に供給された後に、排気路Bから排出される。
他方、空気以外の成分は、再度パンチングプレート9の穴を通過して、セパレータ7の凹部71に排出され、排気路Cから排出される。
このため、空気から酸素のみを取り出すことが可能となる。
【0041】
上述のように本実施形態の酸素富化器は、0.3〜5質量%のLa23及び0.5〜5質量%のAl23を含有する結晶化ガラス30によって、フェライト系ステンレス箔からなる介装部材3とランタンガレートからなる固体電解質10の外周部とが強固に接合されている。また、上記結晶化ガラス30の熱膨張係数が10×10-6/K以上であって、かつ12×10-6/K以下であるため、結晶化ガラス30と固体電解質10との熱歪みによって固体電解質10が割れることを防止できる。
その結果、起動時の加熱により固体電解質10と結晶化ガラス30とがそれぞれ熱膨張した場合にも、固体電解質10から結晶化ガラス30と介装部材3とが剥がれ落ちることを防止することができるとともに、両者間の熱歪みによって固体電解質10が割れることを防止できる。
【0042】
また、介装部材3は、セパレータ2に外周部が溶接等されたシート材31aの内周部とシート材31bの内周部とが溶接等されるとともに、シート材31bの外周部が固体電解質10にガラス接合されてなり、外周部と内周部とが交互に接合されて積層されている。
このため、シート材31の面方向に対して可撓性を有し、上記酸素透過性セル1とセパレータ2とがそれぞれ熱膨張した場合にも、両者間の熱歪みを吸収することができる。
その結果、固体電解質10が破損する恐れのない酸素富化器を提供することができるとともに、上記酸素透過性セル1と上記セパレータ2との間の気密性を確保することができる。
【0043】
さらに、上記セパレータ2、7と介装部材3とを導電性部材としたため、上記酸素透過性セル1の中央部に設けられた負極11及び正極12に直流電源を直接接続しなくても、上記セパレータ2、7を介して間接的に接続することにより、上記セパレータ7の空気吸気路Aから供給された空気中の酸素が負極11において酸素イオンになる。次いで、この酸素イオンが正極12側に移動して、電子を放出し、酸素分子としてセパレータ2内の通路に供給されて、酸素排気路Bから排出される。他方、空気中の酸素以外の成分は、そのまま排気路Cから排出される。このため、配線構造の簡易な酸素富化器によって、空気から酸素を分離して、供給することができる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られず、例えば、酸素透過性セル1、セパレータ2の基材20及び介装部材3が横断面円形状であってもよい。また、介装部材3は、3枚のシート材が厚さ方向に向けて接合一体化されたものであっても、1枚のシート材が厚さ方向に向けて屈曲成形されて、厚み方向に複数層積層されたものであってもよい。厚み方向の積層数が、多ければ多いほど熱歪みの吸収量が増加する。
【実施例】
【0045】
まず、5cm角、厚さ200μmの(La0.8・Sr0.2)(Ga0.8・Mg0.1・Co0.1)O3からなるランタンガレート板を用意し、この板中央部の3cm角に下記組成からなる結晶化ガラスをスクリーン印刷した後、1150℃にて30分間熱処理した。その際、ランタンガレートは、亀裂が入ることもなく、その反りも1mm以下であり、ランタンガレートと結晶化ガラスとは、密着したままの状態であった。
【0046】
次に、上述の結晶化ガラスが印刷されたランタンガレート板を、走査型電子顕微鏡により観察し、SEM像及びCOMPO像をそれぞれ図3に示した。
なお、結晶化ガラスの組成は、2.3質量%のAl2 3 、2.0質量%のB23、48質量%のBaO、0.01質量%のBi23、11質量%のCaO、4.2質量%のLa23、0.17質量%のMgO、0.11質量%のNa2O、0.02質量%のPbO、31質量%のSiO2、0.62質量%のSrO、0.21質量%のZnO、0.01質量%未満のK2O及び0.02質量%未満のLi2Oからなる。
【0047】
図3から判るように、ランタンガレートと結晶化ガラスとの間にバッファー層が形成されている。
このバッファー層は、少なくともランタンガレートのLaが拡散して、形成されているものと推測される。また、SrやGaも拡散しているものと推測され、上記ランタンガレートと結晶化ガラスとの密着性を向上させているものと考えられる。
さらに検討すると、Laが結晶化ガラスのLaと、Srが結晶化ガラスのCaと、Gaが結晶化ガラスのAlと、それぞれ同元素や同族の元素であるため、ランタンガレートと結晶化ガラスとの密着性を向上させるものと推認される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る電気化学反応装置の一実施形態である酸素富化器を示す断面図である。
【図2】図1に示す酸素富化器の斜視図である。
【図3】結晶化ガラスが印刷されたランタンガレート板の縦断面図であり、(a)がSEM像であり、(b)がCOMPO像である。
【図4】従来の酸素富化器を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・ 酸素透過性セル(電気化学セル)
3・・・ 介装部材
10・・・ 固体電解質
11、12・電極
30・・・ 結晶化ガラス
70・・・ 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンガレートからなる板状の固体電解質及びこの固体電解質の表裏面の中央部に対して設けられた電極を有する電気化学セルと、
上記電気化学セルに対向して配設されるとともに、上記電極に臨む位置に開口が形成された基材と、
上記電気化学セルの外周部と上記基材との間に介装されるとともに、上記固体電解質及び基材に接合された介装部材とを備えた電気化学反応装置であって、
上記介装部材と上記固体電解質とは、少なくともLaを含有する結晶化ガラスによって互いに接合されていることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項2】
上記結晶化ガラスは、熱膨張係数が10×10-6/K以上であって、かつ12×10-6/K以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学反応装置。
【請求項3】
上記介装部材は、板状のフェライト系ステンレス箔であることを特徴とする請求項2に記載の電気化学反応装置。
【請求項4】
上記介装部材は、上記基材の開口部と連通する開口が形成された複数層のシート材が厚さ方向に積層されるとともに、当該積層間がそれぞれ気密性を有するように面方向の異なる位置において一体化されてなり、上記積層方向の一端側のシート材が全周にわたって上記電気化学セルに接合されるとともに、他端側の上記シート材が全周にわたって上記基材に接合されていることを特徴とする請求項1ないし3に記載の電気化学反応装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電気化学反応装置の電気化学セルとして、酸素透過性セルが用いられており、上記基材には、内部に上記酸素透過性セルから放出された酸素を流通させる通路が形成されていることを特徴とする酸素富化器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−126735(P2007−126735A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322450(P2005−322450)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】