説明

電気化学発光技術による化合物のモニターリング

【課題】本発明は、電気化学発光性化合物に共有結合でつないだ化学的に変換しうる第一の化合物からなる検知可能な化合物を提供する。これら化合物は、第一の化合物の状態をモニターし、そしてこのモニターリングから情報を引き出す方法およびキットに有用である。図は、非接合還元剤としてTPAの使用と関連する反応段階を描いたECLの提案機構を示す。
【解決手段】試料中の対象分析物を測定するための化合物であって、金属の配位錯体を含む電気化学発光標識を含んでなり、該標識はβ−ラクタム及びβ−ニコチンアミドアデニンコファクターから選ばれた触媒基質に結合しているが、該触媒基質と対応する触媒産物とは、電気化学発光標識と反応して電気化学発光標識に電気化学発光を起こさせる能力において異なっている、上記化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に分析生化学を指向するものである。更に詳しく言えば、本発明は、電気化学発光性化合物に共有結合により結合された化学変換の可能な第一の化合物を有する検知可能な化合物の化学変換をモニターするために有用である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
例えば、生物学的試料中に見出されるような酵素を含めて、化学的、生物化学的、および生物学的物質を検出し、定量する迅速な、きわめて特異的、鋭敏な、そして正確な方法に対して常に発展しつつある分野がある。典型的な生物学的試料中の酵素のような、関心をもたれる特定の被検物質の量は、きわめて少量であることが多いので、分析に携わる生物化学者は、分析性能特性、例えば感度、を向上させるために進行する努力に忙殺される。
【0003】
分析感度を向上させる一つの方法は、対象とする被検物質と関連した検知可能な標識により生ずる信号を増幅することであった。この点に関しては発光標識が関心をもたれている。こような標識として、ホトルミネセンス、化学発光、あるいは電気化学発光技術により発光させることのできるものが知られている。「ホトルミネセンス」は、物質による光(別の言い方をすれば、電磁放射線あるいはemr)の吸収後に物質が発光する過程である。蛍光とリン光は二つの異なるタイプのホトルミネセンスである。「化学発光」過程は、化学反応による発光種の生成を必要とする。「電気化学発光」は、適当な周囲の化学的環境中で、ある種が電気化学的エネルギーに暴露したときその種が発光する過程である。
【0004】
これら三通りの発光技術の各々における信号は、光子基準で個々の光子に対応させることのできる公知の装置(例えば、光電子増倍管あるいは pmt)の使用により非常に効果的な増幅(即ち、高ゲイン)が可能である。しかし、発光種を発生させる様式は、ホトルミネセンス、化学発光、および電気化学的発光の方法の中で、あるいは方法の間で、著しく相違する。更にまた、これら機構上の差異は、電気化学発光〔以後は、時折「ECL」と表示する〕がホトルミネセンスおよび化学発光と比較して、生物分析の手段として持っている実質的な利点の原因をなしている。電気化学発光について可能な利点の若干をあげると次のようになる:(1)装置の設備がより簡単で安価;(2)標識が安定で危険が無い;および(3)検出限界が低く、信号対雑音比が高く、バックグランド レベルが低い、といった分析性能特性の向上。
【0005】
前述したように、生物分析化学測定技術に関しては、電気化学発光がホトルミネセンスおよび化学発光両方よりも勝れた重要な利点をもつ。更にまた、ECLの幾つかの応用が開発され文献に報告された。米国特許第5,147,806号、第5,068,808号、第5,061,445号、第5,296,191号、第5,247,243号、第5,221,605号、第5,238,808号および第5,310,687号明細書(参考のためその開示をここに取り入れる)は、幾つかの方法、装置、化学部分、発明、および関連するECLの利点を詳述している。
【0006】
同時出願中の一般に譲渡された米国特許願連続第08/368,429号明細書(1995年1月4日提出)(参考のためその開示をここに取り入れる)は、ベータ−ラクタムおよびベータ−ラクタマーゼ(いずれも共有結合を介して電気化学発光性化合物に結合されていない)と関連してECLの幾つかの点を詳述している。
【0007】
上に示した記録は、どれも本発明を開示も示唆もしていない。更にまた、これらの書類により教示された電気化学発光技術と比較して、本発明の実施は、熟練した生物分析化学者に対して重要な利点を提供するものである。従って、本発明は、測定種に対して改善された分析性能特性(例えば、信号出力、検出限界、感度など)の達成に関して未だ満されていない当業者の要望を満足するものであり、この分野で特許枢を受けられる利点に相当するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の要約
本発明は、化合物の電気化学発光のモニターリングに役立つ化合物、方法、およびキットを指向するものである。これら化合物、方法、およびキットに共通する本発明の決定的な特徴は、電気化学発光性化合物に共有結合で結合された化学的に変換できる第一の化合物からなる検知可能な化合物である。
【0009】
手短かに言えば、これら検知可能な化合物およびそれらの使用法は、その特質の故に、電気化学発光測定法の分野における特許枢を受けられる進歩に相当する。これら特質には次のものがある:
1.それらは電気化学発光性である、
2.それらは、電気化学発光性化合物に共有結合で結合された化学的に変換できる第一の化合物をモニターするために使用できる。
3.上記モニターリングは、試料溶液中の別個の非接合化合物(例えば、酵素)の分析を行なう際に不可欠の工程となるよう拡張できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
申請人の本発明は、下記の本発明の非独占的、非限定的な目的の中ですぐ下に述べられている。
【0011】
本発明の第一の目的は、電気化学発光性化合物に対して共有結合で結合された化学変換可能な第一の化合物からなる電気化学発光性の検知可能な化合物を提供することにある。
【0012】
本発明の第二の目的は、第一の化合物の化学変換をモニターするための電気化学発光法を提供することにある。この第二の目的と一致して、第一の化合物の化学変換がこの検定法の実施の際に不可欠の工程である検定法が提供される。
【0013】
本発明の第三の目的は、本発明を実施するために、そして本発明の上記第一および第二の目的を履行するために役立つキットを提供することにある。この第三の目的と一致して、検知可能な化合物を含む少なくとも一セットの溶液が含まれたキットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、(C)電気化学発光性化合物に(B)共有結合で結合した(A)化学的に変換可能な第一の化合物からなる、検知可能な化合物に関する。検知可能な化合物のこれら三つの部分〔(A)、(B)、および(C)〕の各々の顕著な特徴を、個々に下に説明する。検知可能な化合物の使用法は(D)に示し、また本発明の特定の例は(E)に示す。
【0015】
(A)化学的に変換可能な第一の化合物
「化学的に変換可能な第一の化合物(複数のことがある)」(以後は「CTFC」)および「電気化学発光性化合物(複数のことがある)」(以後は「EC」)は、各々その化合物の幾つかの小さな変動に関係なくそれぞれの化合物を指す。当業者は、小さな変動があったとしても、その文脈からCTFCかECのいずれかの特定の使用法に当てはまることを理解するであろう。下記の説明は、この関係の理解に役立つであろう。
【0016】
用語CTFCは、次の小さな変動を包含する:(i)還元または酸化反応により起こる形式的なレドックス状態におけるある種の変化、およびCTFCとECとの間の共有結合を破壊しないCTFCに対するある種の化学変化(例えば、CTFCによるH+1の放出);および(ii)化学変換(例えば、CTFCの加水分解)のいずれかが起こる前の測定可能な発光と比較して、検知可能な化合物の測定可能な発光を変化させるある種の化学変換。
【0017】
このような化学変換の前後において、検知可能な化合物の測定可能な発光を比較するとき、幾つかの組み合わせが可能であるが、これについて下記のチャートに詳しく示す。
変換前の測定可能な発光 変換後の測定可能な発光
なし あり(ゼロから増加)
あり なし(ゼロへ減少)
あり あり(ゼロ以外から増加)
あり あり(ゼロ以外から減少)
あり あり(変化なし)操作不能
なし なし 操作不能
【0018】
このチャートに記されている通り、検知可能化合物の測定可能な発光は、CTFCの化学変換により変わる、即ち化学変換の前後において測定された発光は互に異なる。しかし、このような化学変換のどれかの、前後いずれか、あるいは前後両方で何等かの測定可能な発光がなければならない。従って、上記チャートの15番目と16番目のエントリーは、本発明により包含される化合物を表わしていないが、一方初めの四つのエントリーは本発明により包含される化合物を表わしている。
【0019】
図3(a〜c)は、ECに共有結合された接合還元剤としてのCTFCの使用と関連する反応段階を描いたECLの提案された機構を示す。更に詳しく言えば、ECは図3(a〜c)中一貫してルテニウム(II)トリス−ビピリジル陽イオン(以後は、「Ru(bpy)+2」と記す)により例示してある。図3(a〜c)は、これら二つの化合物における(即ち、CTFCにおける、またECにおける)企図された小さい変動を例示している。
【0020】
図3(a)は、ECに共有結合されたCTFCからなる検知可能な化合物に対して仮定されたECL機構を描いたものである。下記のチャートは描かれた反応を更に説明する。
記 号 定 義
CTFC 電気化学的に未変化のCTFC(出発化合物)。
CTFC・+1 ラジカル、電気化学的に酸化されたCTFC。
CTFC(−H+1) CTFC+1からH+1が離れることより生じた電気
化学的に中性のラジカル、CTFCで、TPAと
同様の仕方で高エネルギー還元剤として作用しう
る。
CTFC(−H+1,−e−1) 電気化学的に中性の非ラジカルCTFC、共有結
合したECへ電子(e−1)を分子内供与すること
CTFC(−H+1)により生成。
Ru(bpy)+2 電気化学的酸化前の非励起EC。
Ru(bpy)+3 電気化学的酸化後の非励起EC。
Ru(bpy)+2 CTFC(−H+1)により分子内的に還元され
た後の励起EC。
Ru(bpy)+2 励起されたECによる光の放出より生じた非励起、
再生EC。
hν 励起されたECにより放出された光。
【0021】
図3(b)は、図3(a)に関して、図3(a)の反応と類似の反応のすべてを示すが、ただしCTFCと第二の化合物(以後は「SC」と記す)との間の相互作用によりつくられる化学的に変換されて生じたγCTFCを表わすため、一貫して記号γCTFCを使用した。
【0022】
図3(c)は、CTFCとSCとの相互作用の結果γCTFCを生ずる概略の描写を示す。
【0023】
図3(a),(b),(c)に描かれた検知可能な化合物は、本発明化合物を表わすのであって、このものはCTFCの化学変換の前後両方で測定可能な発光を起こすことができる。従って、この化合物は前述したチャートに含まれる測定可能な発光の第三および第四の可能な組み合わせを例示する。描かれた反応は、CTFCが化学的に変換される前後両方でついに測定可能な発光を起こす仮定の反応機構と一致する。前述したチャートの第一および第二エントリー内に入る本発明化合物については(即ち、CTFCの化学変換の前または(専ら)後のいずれかで測定可能な発光を起こすだけの化合物については)、図3(a)または(専ら)図3(b)いずれかの反応機構のみがどれか特定の化合物を代表する。
【0024】
(i)の小さな変動に関しては、電気化学的レドックス反応と非電気化学的レドックス反応の両方が包含される。これに加えて、このような変化は、(a)CTFCの形として高エネルギー還元剤の形成へと通じる段階;および(b)ECによる実際の発光へ導く段階を含めて、仮定された電気化学発光の機構に不可欠であり、かつこの機構と関連する。
【0025】
(ii)の小さな変動に関しては、電気化学発光機構において高エネルギー還元剤として作用するCTFCの分子内電子供与能に影響を与える化学変換が包含される。NaOHまたは酵素いずれかによるCTFC/基質の加水分解は、このような化学変換の一例である。
【0026】
CTFCの決定的な特徴は、仮定されたあらゆる反応を通してECに共有結合したままとなっていることである。従って、CTFCにおける、あるいはCTFCへの、前述した変化は、CTFCからECへの共有結合を破壊/切断するかもしれない変化を特定的に排除することが分かる。また、CTFCにおける、およびCTFCへの、変化はCTFCの分子内電子供与能を変化させ、従って測定可能な発光がこのような変化の前後で相違することも分かる。CTFCは、このようなどの変化の前または(専ら)後のいずれか、あるいは前後両方で、測定可能な発光があるように選ばれる。
【0027】
用語CTFCの説明とここに包含される小さな変動の説明に話を戻すと、これら変動の範囲は当業者にとって明白であろう。
【0028】
CTFCは、ECを発光させるECL機構に関与することができなければならない。特定的には、CTFCは分子内で電子をECに与え、従ってECは還元されて励起(即ち、発光性)状態になることができるように高エネルギー還元剤として機能しなければならない。励起された状態のECを生成させるのに適した高エネルギー還元剤は、しばしば不対電子をもち、ラジカルとして知られている。図1はTPAを非接合高エネルギー還元剤として使用するECL提案機構を例示する。この機構は、TPA前駆物質の最初の電気化学的酸化(トリガーリング)の後に、その場で実際の高エネルギー還元剤を発生させる。本発明に係るCTFCに対して適した候補は、本明細書中の開示に基づき、当業者のよく知るところである。
【0029】
申請人は、検知可能な化合物の観察された挙動を説明する理論的な支えを理解することを要求しない。これら観察された特性に対する特定の科学的説明に拘束されることは望まないが、申請人は下記の説明(I)と(II) を仮定している。(I)共有結合されたCTFCが電子をECに分子内で供与することにより、高エネルギー還元剤として作用する能力は、CTFCが適当な化学変換を受けたか、未だ受けたことがないかによって変化する。この相違は、関与する特定のCTFCにより、前に論議された四通りの組み合わせのいずれか一つにおいて、測定された発光を増加または減少させることができる。SCとの相互作用の結果生じたCTFCの化学変換は、CTFCの構造変化のために分子内電子供与能のこの相違を起こすようであり、そしてこの変化は(i)還元性の電子が通過しなければならない経路、(ii) 還元性の電子がこのような経路の何れかを通って移動し始める能力、あるいは(iii)立体化学的/空間的配向の考察に影響するかもしれない。(II)共有結合したCTFCが、電子をECに分子内的に供与することにより高エネルギー還元剤として作用する能力は、同じ(非接合)CTFCが分子間で電子をECに供与する能力と比較してより大である。これと相応じて、本発明に係る検知可能な化合物に対し測定された発光は、高エネルギー還元剤が電気化学発光性化合物に共有結合していない電気化学発光性化合物の測定された発光と比較してより大である。
【0030】
非接合高エネルギー還元剤は本発明の主題ではないが、それらは機構上の差の重要性をうまく説明する。しかし、ある種の電気化学発光技術は、このような非接合高エネルギー還元剤に焦点を当てている。図1と図2は、このような非接合還元剤を用いる提案された電気化学発光機構を例示する。特定的には、図1はトリ−n−プロピルアミン(以後は、「TPA」と記す)をこのような還元剤として使用する電気化学発光反応を描いているのに対し、図2は、同様に、還元剤としてβ−ラクタムとのこれら反応を描いている。非接合TPAおよびRu(bpy)+2を使用する図1に示された仮定の電気化学発光機構は以前に文献に報告されている。図2に示されたβ−ラクタム(非接合)について仮定された電気化学発光機構〔前記の通り、β−ラクタムを電気化学発光技術において、非接合、高エネルギー還元剤として使用する方法は、同時出願中の一般に譲渡された米国特許願の主題である〕および本発明に係る接合高エネルギー還元剤について仮定された電気化学発光機構は、一部は図1に示されたTPA−誘発電気化学発光に対する機構的説明から誘導されたものであり、後者の説明と一致すると考えられる。
【0031】
申請人等は、例えば、非接合還元剤としてのβ−ラクタムが、何故接合還元剤としての(即ち、CTFCとして)β−ラクタムよりも少ない電気化学発光を発生するのかという理由に関して、下記の説明に理論を立てている。非接合β−ラクタムは、先ず溶液中に拡散してECに十分接近し、次にECに対し電子を分子間供与しなければならない。更にまた、この拡散過程中に、非接合β−ラクタムは、非常に反応性に富むラジカル種なので、利用しうるどの種(EC以外の)とも反応しうる。これとは全く異なって、CTFCは遊離種として溶液中に拡散しなくともよい。CTFCは共有結合したECへ電子をただ分子内的にのみ供与する必要がある。
【0032】
上記の分析は、当業者が本発明を実施することができるようにCTFCの特質を十分詳細に教示している。上記教示を強調するために、申請人等は後にCTFCとして特別に明確にされた化合物を使用する実施例を提供する。しかし、申請人の発明は特定の化合物に限定されるのではなく、どちらかといえば申請人の発明は、上記説明により教示される通り、適当なCTFCにのみ限定されるのである。
【0033】
(B)共有結合
この共有結合は、ECのキレート形成配位子の一つをCTFCに共有結合でつなぐリンカー基からなる。従って、リンカー基の末端近くはリンカー基の原子とECのキレート形成配位子の一つの原子との間の共有結合で終りかつこの結合中に伸びているのに対し、リンカー基の遠い端はリンカー基の原子とCTFCの原子との間の共有結合で終りかつこの結合中へと伸びる。
【0034】
このリンカー基は、申請人の検知可能な化合物が働くことを確かにするため、次の特質をもたねばならない。下に詳述するように、これら特質を二つの主要なカテゴリー、即ち非妨害性と促進性、に分ける。
【0035】
非妨害性の特質はリンカー基がもたねばならない性質であって、さもないとその存在が本発明の実施可能性を妨害するであろうからである。特定的には、本発明の企図された実施の間に、結合基は(i)電気化学的反応を妨げてはならず、(ii)CTFCとSCとの間の相互作用を妨げてはならず、(iii)全体としての電気化学発光機構を妨げてはならず、(iv) 本発明の必要な反応によってそれ自身が破壊されてはならない。例えば、ECの中心金属陽イオンの電位に近い形式上の酸化電位を有する電気化学的に酸化可能な種を含むリンカー基は、効果的な結合基として働かない。
【0036】
リンカー基の促進性の特質は、とりわけCTFCがECの中心金属陽イオンへ電子を分子内で移す能力に関する特質である。これら促進性の特質には、結合基の長さとこのような長さ内の結合の性質がある。第一に、CTFCとECとの間に介在するリンカー基の長さは、(i)適当な分子内電子移動を起こさせねばならず、そして(ii) 立体的な、あるいは他の考慮すべき事柄のために、必要な反応を起こすことを妨げてはならない。
【0037】
CTFCからECへの電子の「分子内」移動という用語は、結合を通しての移動と空間を通っての移動の両方を包含する。しかし、このような「分子内」移動は、結合基を介して互いに共有結合でつながれた供与化合物(即ち、CTFC)と相当する受容化合物(即ち、EC)との間の移動に限る。検知可能な化合物の共有結合部分は、これら二つの型の分子内移動の少なくとも一つを許さなければならない。
【0038】
結合を通しての分子内移動については、リンカー基は、電子が結合基の結合を通ってECの中心金属陽イオンに達するように移動することができるために十分な非局在化した伝導性電子(即ち、共役π−系)を供給しなければならない。
【0039】
空間を通しての分子内移動に関しては、そのリンカー基は、CTFCがECの中心金属陽イオンの比較的すぐそばに近づくことができねばならない。リンカー基は、リンカー基の遠い端に付いたCTFCが金属陽イオンに向かって揺れもどり、そして電子がCTFCとECとを隔てている空間を通って分子内で移動できるように、十分長く、かつ十分立体化学的にたわみ易くなければならない。リンカー基の適当な長さに対するもう一つの制限は、それが記述した揺れまわる効果(この効果は空間を通しての分子内移動に必要であると考えられる)の振動数が有意に減少する程長くてはならないということである。過度に長いリンカー基の場合には、生ずる発光の量が低下するであろう。
【0040】
例えば、空間を通して分子内移動が可能な程十分には長くなく/たわみ性でなく、かつ非局在化した電子をもたない飽和結合のみを含む結合基(例えば、アルキル鎖)は、効果的なリンカー基ではない筈である。
【0041】
非接合性高エネルギー還元剤と共に使用される電気化学発光性化合物と比較して、リンカー基が検知可能化合物に与える利点は幾つかある。本発明に係る検知可能化合物は、溶液中の遊離種の拡散の使用を回避する。可能な利点は、非接合高エネルギー還元剤と共に使用する分子間移動と比較して、ECの励起発光形のより迅速な発生および本申請人の発明に係るより効果的な分子内移動と関連したより高い信号である。
【0042】
この結合はまたCTFCとECの比が1対1であることを確実にする。この比は、TPA非接合β−ラクタムを高エネルギー還元剤として使用する電気化学発光技術と関連した比とは似ていない。本発明に係る検知可能な化合物のこれら二つの部分間のこの比の故に、申請人等は、CTFCにおける化学変換を定性的にまた定量的にモニターすることができる。公知の電気化学発光技術とは異なり、モニターされる化合物は、同時に(i)ECに共有結合されそして(ii)電子をECへ分子内共与することができる。
【0043】
本発明において、リンカー基として試験すべき適当な候補は当業者にとって入手可能である。とりわけ、Methods in Engymology, K. Mosbach 編、136巻、3〜30頁、Academic Press,NY(1987)は、NADおよびATPを含めて、固定化された活性補酵素に対する「スペーサー モレキュール」シリーズを開示している。この論説(これは参考のため、完全にここに取り入れている)のスペーサー分子はこのような適当な候補の例である。
【0044】
上記分析は、その開示と関連して、当業者が本発明を実施できるよう十分に詳述された共有結合の特質を教示している。従って、当業者は、結合基として適当な候補を選ぶことができ、そして日常的な実験の実施により、どれが具合よく働きどれがそうでないかを決定できる。上記教示を強調するために、申請人等は本質を明らかにされたリンカー基を有する特別な検知可能化合物を使用する例を後に提供する。しかし、申請人の発明はこのような例示されたリンカー基に限定されない。むしろ、本発明は当業者に対して本明細書中に教示された共有結合にのみ限定される。
【0045】
(C)電気化学発光性化合物
検知可能な化合物の第三の、そして最終の部分はECである。幾つかの状況におけるこれら、およびそれらの応用は文献に報告されている。例えば、参考として以前に取り入れた発行米国特許参照。このような公知のECの特質および実体は、当業者のよく知るところであり、ここで詳しく繰り返す必要はないであろう。従って、電気化学発光性化合物という用語は、その境界および範囲が当業者にとって公知の技術用語である。特定の検知可能な化合物(EC部分を含めて)の非限定的、非独占的な例とその使用法は後に提供する。
【0046】
しかし、本発明はECそれ自身を指向するものでも、またその公知の応用のいずれを指向するものでもない。本発明はECの新規かつ精巧な使用法、即ちECに共有結合されたCTFCからなる検知可能な化合物における使用法に向けられている。従って、当業者は、現存するECの知識と合わせて本明細書中の開示に従い本発明を実施できる。それにも拘らず、申請人等は本発明において効果をもたらすECを提供するためのガイドラインを提供する。
【0047】
(A)において前に議論された用語CTFCにより包含される小さな変動は同様にして用語ECのそれにも当てはまるので、ここで再び調べる必要はない。従って、例えば電気化学的酸化および分子内還元、ならびに励起/非励起状態によるECの形式上のレドックス状態の変化は用語ECにより包含され、そしてこのような変化はECの受け入れられるように異なった形式に相当するものである。下記の式(I)は、本発明に使用するのに適した電気化学発光性化合物を描いている:
M(L)a(L)b(L)c(L)d(L)e(L)f (I)
式中、
Mはルテニウムまたはオスミウムからなる中心金属陽イオンであり;
からLは各々Mの配位子であり、その各々は単座または多座でよく、その各々は同じでも、または互に異なってもよく、aからeは各々0か1であるが、ただし、
Mの配位子は、化合物が電気化学発光を誘発できる数と組成のものであり;また更に、
中心金属Mへ配位子によって与えられる結合の総数は、Mの配位数に等しいことを条件とする。
【0048】
本発明の実施において、特に適当な電気化学発光性化合物の例として、中心金属がルテニウムRuまたはオスミウムOsである化合物が挙げられる。とりわけ好ましい化合物はRu(bpy)+2である。
【0049】
(i)電気化学発光性化合物は技術用語であり、(ii)このようなECを提供するガイドライン;本明細書中で用いた用語ECは当業者にとって明白であることが確立された。それにも拘らず、申請人等は、ECの実体を明らかにする非限定的、非独占的な個々の例を提供することによって、後にこの教示を強調することにする。
【0050】
(D)検知可能な化合物の使用
本発明に係る検知可能な化合物の実体、特質、および理論的基準については前に詳しく述べた。従って、本節はこのような検知可能な化合物の使用を詳記する。
【0051】
検知可能な化合物を使用する電気化学発光法は、二つの主なカテゴリー、即ちモニター法と検定法に分けて考察することができる。
【0052】
検知可能な化合物は、CTFCの有効分子内供与能を変化させるCTFCの化学変換をモニターするために使用できる。これらモニター法は、主として特定のSCの存在/量を定性的に確認するために設計されたのでもなく、定量的に確認するために設計されたわけでもない。むしろ、このモニター法は、CTFCにおける化学変換の存在/程度を定性的にかつ(または)定量的に指示するために設計されたのであって、試料溶液中のどの特定のSCがこのような化学変換に応答するのかを目指した同定を必要としない。
【0053】
CTFCと相互作用することができ、かつCTFCに化学変換を起こさせることのできる少なくとも一種のSCを含むことが予期される試料溶液に対して、検知可能な化合物を暴露した後の検知可能な化合物の測定された発光(i)を、所定の標準の測定された発光(ii) と比較することにより、CTFCが効果的にモニターされる。更に詳しく言えば、CTFCにおけるこのような化学変換の存在と程度をモニターできる。このモニター法の所定の発光標準は次のようにして発生させる。
【0054】
この校正曲線の作成を、CTFCにおける化学変換の前に測定可能な発光を生じうる検知可能な化合物について例示する。ある特定の検知可能な化合物の種々な既知量(CTFCと相互作用して化学変換を起しうるSCを意図的に存在させずに)を、一連の試料溶液として調整する。これら試料溶液の各々を、電気化学発光セルの電極にかけられた陽電圧バイアスの形で電気化学的エネルギーに暴露し電気化学発光を起こさせる。この結果生じた発光を実験的に測定し、記録する。モニターリング技術に対する所定の発光標準は、第一軸上に実験的に測定された発光を、また第二軸上に特定の検知可能化合物の既知量をとった校正曲線からなる。既知量の検知可能な化合物を含みまた第二の化合物を含むことが予期される試料も含む溶液の実験的に測定された発光を、校正曲線からの対応する発光値と比較することにより、CTFCが効果的にモニターされる。試料溶液中の第二の化合物と相互作用により起こるCTFCの変化は、校正曲線から測定可能な差(偏差)を生ずるであろう。
【0055】
このモニターリング法は、CTFCに対する活性について予期される溶液を選別するために使用できる。特定的には、一連の試料溶液を検知可能化合物でモニターできるであろう。ある特定の試料溶液について、陽性の電気化学発光の試験結果(即ち、所定の標準より高いか低いかの結果)は、その特定の試料溶液中の少なくとも一種のSCの指標となる。従って該溶液は、更に詳細な調査のための適当な候補となるであろう。
【0056】
検定法は、それが特定のSCの存在および(または)量について特定的に試験するために設計されている点で、モニターリング法の拡張である。同様に、検定法はそれなりにECへのCTFCの効果的な分子内供与能を変えるCTFCの化学変換に基づいている。
【0057】
CTFCと相互作用することができ、かつCTFCにおける化学変換を行なうことができる。特定のSCを含むことが予期される試料溶液に検知可能化合物を暴露後、検知可能化合物の測定された発光(i)を、予定された標準の測定された発光(ii)と比較することにより、特定のSCが効果的に検定される。更に詳しく言えば、特定のSCの存在と量を検定できる。この検定法の所定の発光標準は次のようにして発生させる。
【0058】
ある特定の検知可能化合物の既知量を、各々が種々な既知量の特定のSC、即ち本発明に従って検知可能化合物のCTFCと相互作用しうるSC、を含む一連の試料溶液に暴露する。この暴露は求める相互作用に有利なかつそれと一致する条件下で行なう。このような相互作用の後、これら試料溶液の各々に電気化学発光を起こさせ、実験的に測定された発光を記録する。検定法に対する所定の発光標準は、第一軸上に実験的に測定された発光を、そして第二軸上には特定のSCの既知量をとった校正曲線からなる。
【0059】
モニターリング法および検定法両方について、実験的に測定された発光は、適用できる所定の発光校正曲線に対する発光より大きいかあるいは小さいかのいずれかであろう。換言すれば、CTFCと少なくとも一種の第二化合物との間の相互作用は、そのCTFC(これは相応に、実験的に測定された発光を増加または減少させるであろう)の効果的な分子内電子供与能を増加させるか、または減少させるかのいずれかである。
【0060】
検知可能化合物の特に適当な応用は、CTFC第一化合物が基質からなり、そしてSCが該基質に対して特異的である酵素からなる場合には、モニターリング法と検定法である。とりわけ好ましい基質はβ−ラクタムである。このようなβ−ラクタムは、対応するβ−ラクタマーゼについて試験する検定法で有用である。
【0061】
本発明に係る検知可能化合物のもう一つの応用は、対にした再生反応機構を利用するもので、この機構は溶液中の別個の非接合基質から、適当な酵素および共媒介物質 (co−mediator) への暴露を経て、溶液中の別個の非接合生成物への変換を含む。CTFCと、溶液中での基質種から溶液中での生成物種への酵素で触媒され共媒介された変換との間の相互作用は、溶液中の基質、溶液中の酵素、および(または)CTFCに対して特異的でありうる検定に対する理論上の支えを形づくる。
【0062】
本発明に係る検知可能化合物のもう一つの使用法は、本発明方法を実行するように特別に設計されたキットである。従って、二つの型のキットが提供される。モニターリングキットは各々多数の試料標準溶液からなり、各々は意図的にSCを存在させずに既知量の特定の検知可能化合物を含む。これらモニターリングキットは、所定の発光標準校正曲線を決定するために使用できる。検定キットの各各は多数の試料溶液からなり、そして各溶液は、既知量の特定の検知可能化合物とそれに加えて対応する多数の試験溶液を含み、更に各試験溶液は、記載のように検知可能化合物と相互作用しうる種々な既知量の特定のSCを含む。
【0063】
(E)例
本発明について以前に詳述したにも拘らず、本申請人等は、特別な例を本発明の理解を助けるものとして下に提供するが、これはただ例示のみを目的としているのである。特に本発明が表題を付した保護に関してこれらの例は非限定的であり非独占的である。従って、請求の範囲に記載された本申請人等の発明の範囲は、明細書全体の教示に照して決定さるべきであって、このような請求項中に個々の例の特別な制限を取り入れることはない。
【0064】
例 1 Ru(bpy)+2−標識β−ラクタム抗生物質の調整
(a)Ru(bpy)+2−標識したアンピシリン(Ru−AMP) の調整
アセトニトリル(250μl)中Ru(bpy)+2−NHSエステル(15.1mg)を、0.2M重炭酸ナトリウム,pH8.0(250μl)、中アンピシリン(29.1mg)と混合し、反応を室温で2時間進行させた(図4)。Ru−AMPは、ProgelTM−TSJ CM−5PWカラム(7.5cm×7.5mm)(Supelco, Inc., Bellefonte, PA)を装置したWaters HPLCシステム(Milford, MA)を使用し、そして1.0ml/分、20〜180mMリン酸ナトリウム、pH7.0の15分直線勾配を用いることにより精製した。基質は、ルテニウム錯体の吸光度を測定することにより(453nmにおける分子吸光係数は13,700M−1cm−1である)分光光度法で定量した。ヘキサフルオロリン酸アンモニウム塩の生成後、Ru−AMPの構造と純度は質量分析法およびプロトンNMR(図5〜図6)により確認した。
【0065】
(b)Ru(bpy)+2−標識した6−アミノペニシラン酸の調整
(以後、「Ru−APA」と記す)
アセトニトリル(250μl)中Ru(bpy)+2−NHSエステル(15mg)(IGEN,Inc., Gaithersburg, MD)を、0.2M重炭酸ナトリウム、pH8.0(350μl)中で6−アミノペニシラン酸(12.4mg)と混合し、反応を室温で2時間進行させた(図7)。Ru−APAは、ProgrlTM−TSK CM−5PWカラム(7.5cm×7.5mm)(Supelco, Inc.,Bellefonte, PA )を装置したWaters HPLCシステム(Milford MA) を用い、1.0ml/分、20〜100mMリン酸ナトリウム、pH7.0の20分直線勾配を使用することにより精製した。基質は、ルテニウム錯体の吸光度(分子吸光係数は、453nmにおいて13,700M−1cm−1である)を測定することにより分光光度法で定量した。
【0066】
(c)他のRu(bpy)+2−標識したβ−ラクタムの調整
他のβ−ラクタム、例えばその構造中に第一級アミンを含む7−アミノセファロスポラン酸も、Ru(bpy)+2−NHSエステルと反応して前記と同様の接合体を生成しうる。その反応および精製条件は同様であるが、潜在的に幾分異なる。しかしその異なり方は、当業者により解決できるものである。図8は、5種類の特定のβ−ラクタムの構造を示す。
【0067】
例 2 Ru−AMPの加水分解のECL検定
Ru−AMP(接合)のECL特性を、Ru(bpy)+2とアンピシリンとの混合物(非接合)のそれと比較する実験を行なった。ECL特性は、NaOHおよび酵素による加水分解の前後両方で比較した(図9、左側)。
【0068】
Ru−AMPはβ−ラクタマーゼの非常に良い基質であることが分かった。Bacillus cereusから得られるβ−ラクタマーゼI(0.3nM)によるRu−AMP(33μM)の加水分解を、0.1Mリン酸ナトリウム、pH7.0中25.0℃において、Hitachi U3200分光光度計(Danbury, CT) を使用し、240nmで分光光度法によりモニターした。半減期(t1/2)分析し、Ru−AMPの酵素加水分解に対して3.9×10−1−1のKcat/kmを得た。
【0069】
Ru(bpy)+2とアンピシリンの等モル混合物のECL特性(加水分解または未加水分解)を、同濃度のRu−AMP 接合体(加水分解または未加水分解)と比較した。別の実験で、アンピシリンおよびRu−AMPを、250mM NaOH(塩基加水分解)またはBacillus cereusから得たβ−ラクタマーゼ(441nM)(酵素加水分解)のいずれかにより加水分解した。
【0070】
塩基加水分解については、5M NaOH 50μlを、24.85μM Ru−AMPまたは25μMアンピシリンと25μM Ru(bpy)+2との混合物のいずれかを含む脱イオン水の1.0ml溶液へ加えた。30分のインキュベーション後、溶液を5M HCL 50μlで中和した。未加水分解対照実験に対しては、24.85μM Ru−AMPまたは25μMアンピシリンと25μM Ru(bpy)+2とを含む混合物のいずれかの溶液へHO 50μlを加えた。30分のインキュベーション後、これらの溶液へ5M NaCl 50μlを加えた。図10に示した結果は、(1)NaOHまたはβ−ラクタマーゼいずれかによるアンピシリンの加水分解が、混合物のECLの増加を起こすこと、および(2)加水分解により起きたECLの増加は、光放出性ルテニウム錯体をアンピシリンに共有結合させたとき劇的に大となることを実証している。塩基加水分解の場合に、アンピシリンをアンピシリンとRu(bpy)+2との混合物中で加水分解するとECLが1.5倍増加するのに対し、Ru−AMPを加水分解したときにはECLが5.2倍増加する。酵素加水分解においても同様な結果が得られた、即ちアンピシリンをアンピシリンとRu(bpy)+2との混合物として加水分解するとECLが2.1倍増加したのに対し、Ru−AMPを加水分解したときにはECLが9.8倍増加した。これらの結論を確立するデータを図10に示す。該図は、
Ru(bpy)+2単独、
Ru(bpy)+2 + 未加水分解アンピシリン、
Ru(bpy)+2 + NaOH加水分解アンピシリン、
未加水分解Ru−AMP、
NaOH−加水分解Ru−AMP、
Ru(bpy)+2 + 未加水分解アンピシリン、
Ru(bpy)+2 + β−ラクタマーゼ−加水分解アンピシリン、
未加水分解Ru−AMP、および
β−ラクタマーゼ−加水分解Ru−AMP
の実験的に測定された電気化学発光(左から右)を示している。
【0071】
この研究は、酵素加水分解を用いる第二の実験で確証を得た。この加水分解は、酵素とのインキュベーション時間を30分から60分に延長した点が異なる(図11)。この場合、酵素加水分解は、アンピシリンとRu(bpy)+2とが接合していないときECLに2.5倍増加を起こさせ、Ru−AMP接合体を加水分解したときはECLに11.1倍の増加を起こさせる。これら結論を確立するデータは図11に見られる。該図は
Ru(bpy)+2単独、
Ru(bpy)+2 + 未加水分解アンピシリン、
Ru(bpy)+2 + β−ラクタマーゼ−加水分解アンピシリン、
未加水分解Ru−AMP、および
β−ラクタマーゼ−加水分解Ru−AMP
の実験的に測定された発光(左から右)を示したものである。
【0072】
これらの結果は、Ru(bpy)+2−接合が、β−ラクタム環を加水分解したとき実験的に測定された発光を劇的に増加させる分子内効果を起こさせることを示している。
【0073】
図12は、低濃度のRu−AMPを加水分解により検出できることを示す。この検出の低限は50nMであることが分かった(加水分解したRu−AMPに対する464相対ECLカウント対未加水分解Ru−AMPに対する装置の平均の読み−152相対カウント)。これは(非接合)アンピシリン加水分解の検出に対する低限(5000nM)に有利にたとえられる。
【0074】
例 3 Ru−APA加水分解のECL検定
Ru−APAはRu−AMPのそれとは異なるECL特性(加水分解の前後)を有するかもしれないということが考えられた。この差異は、APAとAMPとの間の構造の差、とりわけRu(bpy)+2−NHSエステルを接合するために用いたβ−ラクタム環と第一級アミノ基との間の距離の差の結果であろう(図9、右側)。Ru−AMPにおけるβ−ラクタム環は、Ru−APAの場合よりアミノ基から遠い三結合の長さである。特に、Ru−APA(または、他のβ−ラクタム接合体)の加水分解は、Ru−AMP加水分解よりもECLにより幾分敏感に検出できる。
【0075】
Ru−APA接合体のECL特性を、非接合Ru(bpy)+2と6−APAとの混合物のそれと比較した。ECL特性をNaOHおよび酵素による加水分解の前後で比較した。次にそのデータを例2記載のRu−AMPについての同様な実験の結果と対比させた。
【0076】
例 2
Ru−APAはβ−ラクタマーゼの非常に良い基質であることが分かった。Bacillus cereusから得たβ−ラクタマーゼI(0.6nM)によるRu−APA(23μM)の加水分解を、0.1Mリン酸ナトリウム、pH7.0、中25.0℃において、Hitachi U3200分光光度計(Danbury, CT)使用することにより240nmで分光光度法によりモニターした。半減期(t1/2)を分析し、Ru−APAの酵素加水分解に対し9.8×10−1−1のkcat/kmを得た。この速度は、酵素がRu−APAをRu−AMPより4倍低い効率で加水分解したが、β−ラクタマーゼによるRu−APAの加水分解の方が依然著しく能率的であることを示す。
【0077】
Ru(bpy)+2とAPA(加水分解および未加水分解)との等モル混合物のECL特性を、同濃度のRu−APA接合体(加水分解または未加水分解)と比較した。別の実験で、6−APAおよびRu−APAを250mM NaOH(塩基加水分解)か、またはBacillus cereus から得た347nMβ−ラクタマーゼ(酵素加水分解)かのいずれかにより加水分解した。
【0078】
塩基加水分解については、23.0μM Ru−APAかまたは23.0μMAPAと23.0μM Ru(bpy)+2とを含む混合物かのいずれかを含む脱イオン水の1.0ml溶液へ、50μlの5M NaOHを加えた。60分のインキュベーション後、溶液を50μlの5M HClで中和した。未加水分解対照実験については、23.0μM Ru−APAかまたは23.0μM APAと23.0μMRu(bpy)+2との混合物かいずれかの溶液へ50μlのHO を加えた。60分のインキュベーション後、これら溶液へ50μlの5M NaClを加えた。図13中に示された結果は、(1)NaOHまたはβ−ラクタマーゼいずれかによる6−APA(接合または非接合)加水分解はECLの増加を起こすこと、および(2)加水分解により起きたECLの増加は、発光性ルテニウム錯体が6−APAに対し共有結合でつながっているとき劇的により大であることを実証している。塩基加水分解の場合、6−APA(非接合)を6−APAとRu(bpy)+2との混合物として加水分解したとき、ECLが1.9倍増加したのに対し、Ru−APA(接合)を加水分解したときには、ECLが13.2倍増加した。酵素加水分解の場合も同様に、6−APA(非接合)を6−APAとRu(bpy)+2との混合物として加水分解したとき、ECLが1.4倍増加したのに対し、Ru−APA(接合)を加水分解したときには、ECLが31.8倍増加した。これらの結論を確立するデータは図13に見られるが、該図は、
Ru(bpy)+2単独、
Ru(bpy)+2 + 未加水分解6−APA、
Ru(bpy)+2 + NaOH加水分解6−APA、
未加水分解Ru−APA、
NaOH−加水分解Ru−APA、
Ru(bpy)+2 + 未加水分解6−APA、
Ru(bpy)+2+β−ラクタマーゼ−加水分解6−APA、
未加水分解Ru−APA、および
β−ラクタマーゼ−加水分解APA
の実験的に測定された発光(左から右へ)を示すものである。
【0079】
この研究は、6−APAと電気化学発光性ルテニウム錯体との接合が分子内効果を生じ、β−ラクタム環が加水分解されたとき電気化学発光を増大させることを明白に実証するものである。更にまた、アンピシリン接合体に関する例2に記載の結果との比較は、Ru−APAの加水分解の方がRu−AMPの加水分解よりもはるかに大きい電気化学発光信号を生ずることを示す。Ru−APAにおいてはRu−AMPにおけるよりルテニウム原子がβ−ラクタム環に近いので、これらの結果はルテニウム錯体とβ−ラクタム環との間の距離が重大な効果を及ぼすことを示している。未だ試験されていない他のβ−ラクタム−Ru(bpy)+2接合体は、β−ラクタム加水分解をしたとき電気化学発光に尚一層劇的な変化を与えるかもしれない。
【0080】
図14は、非常に低濃度のRu−APAの加水分解をECLにより検知できることを示す。更に詳しく言えば、図14は、実験的に測定された電気化学発光に及ぼす未加水分解(黒塗りのまる)および加水分解(白抜きのまる)Ru−APA濃度の効果を示す。検出の低限は、50nMであることが分かった(加水分解されたRu−APAに対する−33の相対的ECLカウントの機械の読み対未加水分解Ru−APA(接合)に対する平均−648の相対ECLカウント)。これは(非接合)APA加水分解の検出低限(10μM Ru(bpy)+2の存在下で50μMであった)に対して有利に比較される。
【0081】
β−ラクタムをECL標識、Ru(bpy)+2に接合することの利点を量的に計る実験を行なった。10μM Ru−APAを加水分解したときのECLの増加を、10μM Ru(bpy)+2の存在下で種々な濃度の6−APA(非接合)を加水分解したECL標準曲線と比較した。6−APA標準曲線の補外により、その結果(図15)は、10μM Ru−APA(接合)の加水分解時のECL変化が、10μM Ru(bpy)+2存在下での1250μM6−APA(非接合)の加水分解におけるECL変化と等価であることを実証している。このことは、Ru(bpy)+2と6−APAとの接合が6−APA加水分解中に見られたECL変化に125倍の増加を生ずることを示す。これらの結論を確立するデータは、Ru−APA(接合)とRu(bpy)+2+6−APA(非接合)の電気化学発光効果の比較を示す図15に見られる。三角は、10μMの未加水分解(白抜きの三角)Ru−APAおよび加水分解(黒塗りの三角)Ru−APAの電気化学発光を表わす。まるは、10μM Ru(bpy)+2存在下での未加水分解(黒塗りのまる)および加水分解(白抜きのまる)6−APA(0〜1000μM)の電気化学発光効果を表わす。図15の補外は、10μMのRu−APAを加水分解したときの電気化学発光の変化が、10μM Ru(bpy)+2存在下で1250μMの遊離6−APAを加水分解したときの電気化学発光の変化と等価であることを示している。
【0082】
例 4 Ru(bpy)+2−標識されたβ−ニコチンアミドアデニン補助因子の調製
(a) オキシドレダクターゼ酵素の理論および検定におけるそれらの使用法
β−ニコチンアミドアデニン補助因子(例えば、NAD、NADH、NADP、NADPH)は、代謝物の還元または酸化の間に、酸化剤または還元剤としてオキシドレダクターゼ酵素により自然界で広く使用されている。このような酵素は、多くのデヒドロゲナーゼ(ラクテートデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼなど)を含んでいる。これら補助因子の酸化形(NADまたはNADP)は、ECLにおけるTPA様の効果を殆どあるいは全く有しない。しかし、還元形(NADHまたはNADPH)は、Ru(bpy)+2電気化学発光の増進にTPAのように行動する(1,2)。従って、ECLはこれら補助因子の還元形の酵素接触形成あるいは消失の測定に使用できる。この故に、デヒドロゲナーゼの基質(グルコース、エタノールなど)はECLにより検出できる。それは適当な酵素によるそれらの化学変換が化学量論的にニコチンアミドアデニン補助因子の酸化または還元を起こすからである。
【0083】
還元されたニコチンアミド補助因子(NADHまたはNADPH)は、TPAおよびβ−ラクタムのようにECL反応の間に破壊されるとは考えられず、そうではなくて、それらの酸化形(NADまたはNADP)に変換される。このことは、適当なデヒドロゲナーゼ酵素の存在下で、ニコチンアミドアデニン補助因子が再使用されて電気化学発光性化合物に共有結合で結ばれている単一の補助因子分子が多重ECL反応に関与しうるようになることを意味する(図16)。また、図16において、Ru(bpy)+2も再生され電気化学発光性化合物に共有結合されたこのような補助因子からなる単一の検知可能化合物が、多分あいついで多数の光子を放出できるようになることに注目すべきである。
【0084】
ニコチンアミドアデニン補助因子は、TPAを使用する現在の電気化学発光技術を超える利点をもつ。特定的に言えば、これら補助因子は(i)再生させるECL反応機構に与かることができ、(ii)デヒドロゲナーゼおよびそれらの対応する基質を検知し定量するために使用できる。一つの欠点は、ECL信号(即ち、実験的に測定される発光)が、TPAとのECL反応におけるよりNADHまたはNADPHとのECL反応における方が小さいということである。この不利益は、Ru(bpy)+2の誘導体とニコチンアミドアデニン補助因子との接合体を使用することにより軽減または回避できるであろう。前記の例で示したように、高エネルギー還元剤として作用することができ、かつ電子を共有結合で結ばれた電気化学発光性化合物へ分子内で供与できる化学的に変換可能な第一の化合物(例えば、β−ラクタム)へRu(bpy)+2を接合させると、発生するECL信号はCTFCをECと接合しないときよりはるかに大となる。同様に、Ru(bpy)+2−ニコチンアミドアデニン補助因子(還元形)接合体も、Ru(bpy)+2と還元補助因子との非接合混合物より大きなECLを有するであろう。同様に、補助因子の還元形(NADHまたはNADPH)と酸化形(NADまたはNADP)との間のECL信号の差は、補助因子をRu(bpy)+2に共有結合でつないだ場合の方が、それらが接合していないときよりも大であろう。
【0085】
ニコチンアミドアデニン補助因子誘導体の接合体は公知であり、酵素的に機能性である(3,4)。一つのこのような補助因子誘導体、N−(〔6−アミノヘキシル〕カルバモイルメチル)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、は市販されている(Sigma Chem. Co., St. Louis, MO)。この化合物の第一級アミノ基は、この化合物を前記の同じRu(bpy)+2−NHSエステル(IGEN, Inc., Gaithersburg, MDから得られる)へ同じ方法か類似の方法により結合させるために使用できる(図17)(3,4)。他の同様なカップリング法も有効であろう。接合体(Ru−NAD)は、Ru−AMPおよびRu−APAの精製について説明したのと同様の方法でHPLCにより精製できる。上記四つの参考文献は(1)Downey,T.M. & Nieman,T.A. (1992)Anal. Chem. 64,261〜268;(2)Martin,A.F. & Nieman,T.A. (1993)Anal. Chem. Acta.281,475〜481;(3)Mansson, M.O., Larsson,P.O.,& Mosbach, K.(1982)Methods Enzym.89,457〜468;および(4)Persson, M., Mansson, M.O.,Bulow, L., Mosbach,K. (1991)Bio /Technology,280〜284。これら4文献の各々は参考のため取り入れている。図17はRu−NADの調製を示す。
【0086】
Ru−NAD(Ru−NAD)の酸化形は、デヒドロゲナーゼ酵素あるいはデヒドロゲナーゼの基質(あるいはいずれかを生ずる何らかの化合物)を検出し定量するためにECL装置で酵素検定に使用できる。この検定法は従来からの実施計画(時間、温度、pH、緩衝剤、塩、基質および酵素濃度など)に従って実行されるが、ただし普通に含まれるNADは除外し、その代りRu−NADを使用する。Ru−NADの濃度は、基質特異性、溶解性、コストまたは他の因子における差異のため従来の検定法より低いこともあれば、高いこともある。インキュベーションの後、混合物をECL装置(IGEN, Inc., Gaithersburg, MD)で分析する。更にRu(bpy)+2を追加はしない。Ru−NADの還元はECL信号がバックグランドを超えて増加することにより識別され、当面のことと関係のあるデヒドロゲナーゼおよび基質の存在を指示するものであろう。
【0087】
同様に、Ru−NADの還元形(Ru−NADH)の酸化もECLにより検出できる。この場合にもまた、条件および関係する酵素と酵素基質の存在は、非接合NADHを含む検定法に対する公知の条件から考慮され、誘導されるであろう。NADHはこの検定から省き、Ru−NADH(従来からの濃度ではないかもしれない適当な濃度で)を含めることになろう。インキュベーションの後、混合物をECL装置で分析する。初期Ru−NADH信号からのどのECL減少も、若干のRu−NADHが酸化されたことを示し、そして関係する酵素または基質の存在の証拠であろう。
【0088】
(b) ルテニウム−標識N〔6−アミノヘキシル〕(カルバモイルメチル)
−NADの調製
アセトニトリルとNaHCO(0.2M,pH8.6)の1:1混合物0.4ml中にN〔6−アミノヘキシル〕−(カルバモイルメチル)NAD(Li塩、Sigma Chem. Co., St. Louis, MO)6.6mgを含む溶液に、アセトニトリルとNaHCO(0.2M,pH8.6)の1:1混合物0.2ml中Ru(bpy)+2のNHSエステル(IGEN, Inc., Gaithersburg, MD) を加えた。反応混合物を室温で一晩進行させた。翌朝、反応を止め、溶媒を除去し、化合物をサイズ排除クロマトグラフィー(BioRad Bio−Gel P −2,BioRad Laboratories, Richmond, CA)により精製した。プロトンNMRは化合物が正しいこと、しかし完全には純粋でないことを示した。この化合物(Ru−NAD)を、トリフルオロ酢酸の濃度を増加させて変えながら(0,0.05,0.2,0.3M)溶離するSp−Sephadex(Pharmacia,Uppsala,スウェーデン)のカラム上で再精製した。NMRは化合物が純粋なRu−NADであることを示した。
【0089】
(c) 酵素補助因子としてのRu−NAD
Ru−NADが酵素補助因子として機能を有するかどうかを決定するため、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼによるD−グルコース−6−リン酸の酸化を含む反応を試験した。反応を340nmで分光光度法によりモニターした。この波長はNADとNADHとの相互変換を観察するために普通に使用されるものである。33mM MgClを含む55mM Tris緩衝液、pH7.8、中63μM Ru−NAD、400μMグルコース−6−リン酸、および22nM酵素の混合物をキュベット中30℃でインキュベートした。吸光度の連続読み取りは、吸光度がNADの酵素還元に特有の仕方でおよそ40分にわたり増加することを示した。これはRu−NADが機能的な補助因子としてグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼにより実際に受け入れられたことを示す。
【0090】
(d) Ru−NADのECLに及ぼす酵素還元の効果
Ru−NADは、補助因子としてデヒドロゲナーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼにより受け入れられることが分かった。この酵素によるグルコース−6−リン酸の酸化とRu−NADの同時還元を含む実験を行なった。この場合、ECL測定は(1)NADH(NADではなく)の効果がRu−NADH(Ru−NADではなく)にも存在するかどうか、そして(2)NADHとのRu(bpy)+2の接合が、非接合Ru(bpy)+2とNADHとの混合物のECLと比較して、ECL測定感度の増加を起すかどうかを決定するためになされた。この結果を下に示す。(すべての溶液は基質、グルコース−6−リン酸を含み、Ru−NADを含まない溶液は1.0μM Ru(bpy)+2を含んだ)。
試 料 ECLカウント
21μM NAD 45,500
21μM NAD+酵素 45,200
21μM NADH 47,900
21μM NADH+酵素 40,800
21μM Ru−NAD 71,700
21μM Ru−NAD+酵素 132,000
【0091】
これらの結果は、酵素をRu−NADに加えるとECL信号が増加することを示している。また、これらの結果は、ECL効果を見るには余りに低い非接合NAD濃度において、Ru−NADが酵素を加えたときに明らかに大量のECLを与えることを示す。結論として、Ru−NADはECL装置において遊離Ru(bpy)+2+遊離NADと同様に行動するが(酵素の添加はECLの増加を起こす)、Ru−NADの方がはるかに敏感に検出される。このことは、Ru−NAD還元またはRu−NADH酸化のECLにより、低濃度のデヒドロゲナーゼまたはそれらの基質を敏感に検出できることを示した。
【0092】
本発明が表題を与えた特許保護の範囲は前述の本文により制限されない。むしろ本発明は請求の範囲およびそれに包含されるすべての具体例によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、非接合性還元剤としてのTPAの使用に関連する反応段階を描いたECL提案機構を示す。
【図2】図2は、非接合性還元剤としてのβ−ラクタムの使用に関連する反応段階を描いたECL提案機構を示す。
【図3】図3の(a)〜(c)は、接合性還元剤としての化学的に変換可能な第一の化合物の使用に関連する反応段階を描いたECL提案機構を示す。
【図4】図4は、Ru−AMPの合成を示す。
【図5】図5は、Ru−AMPのヘキサフルオロリン酸アンモニウム塩の質量スペクトルを示す。
【図6】図6は、Ru−AMPのヘキサフルオロリン酸アンモニウム塩のプロトンNMRスペクトルを示す。
【図7】図7は、Ru−APAの合成を示す。
【図8】図8は、5種の特異的β−ラクタムの構造を示す。
【図9】図9は、Ru−AMP(左側)およびRu−APA(右側)のNaOH による、あるいはβ−ラクタマーゼ酵素による加水分解を示す。
【図10】図10は一連の異なる試料に対する測定されたECLの比較を示す。
【図11】図11は、一連の異なる試料に対する測定されたECLの比較を示す。
【図12】図12は、測定されたECLに及ぼす非加水分解(黒塗りのまる)および加水分解(白抜きのまる)Ru−AMP濃度の効果を示す。
【図13】図13は、一連の異なる試料に対する測定されたECLの比較を示す。
【図14】図14は、測定されたECLに及ぼす非加水分解(黒塗りのまる)および加水分解(白抜きのまる)Ru−APA濃度の効果を示す。
【図15】図15は、一連の異なる試料に対する測定されたECLの比較を示す。
【図16】図16は、NADHで促進されたRu(bpy)+2のECLと関連する反応段階を描いたECL提案機構を示す。
【図17】図17は、Ru−NADの合成を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の対象分析物を測定するための化合物であって、金属の配位錯体を含む電気化学発光標識を含んでなり、該標識はβ−ラクタム及びβ−ニコチンアミドアデニンコファクターから選ばれた触媒基質に結合しているが、該触媒基質と対応する触媒産物とは、電気化学発光標識と反応して電気化学発光標識に電気化学発光を起こさせる能力において異なっている、上記化合物。
【請求項2】
試料中の対象分析物を電気化学発光的に測定するためのシステムであって、該システムは:
(a)請求項1の化合物;
(b)該化合物を電気化学エネルギーに曝すための電圧源;及び
(c)放出された発光を検出又は測定するための検出器を含んでなる上記システム。
【請求項3】
請求項1記載の化合物において、触媒基質はβ−ラクタムである上記化合物。
【請求項4】
請求項3記載の化合物において、β−ラクタムは、ペニシリンG、アンピシリン、モキサラクタム、アモキシシリン、セフォキシチン、6−アミノペニシラン酸、7−アミノセファロスポラン酸、セファロスポリンC、セファクロール、およびセフロキシムからなる群から選ばれる、上記化合物。
【請求項5】
請求項1記載の化合物において、標識は構造:


を有する上記化合物。
【請求項6】
請求項1記載の化合物において、標識は構造:


を有する上記化合物。
【請求項7】
請求項1記載の化合物において、標識は構造:


式中、Rはリボースであり、Pはホスフェートである、
を有する上記化合物。
【請求項8】
化合物の化学変換をモニターする電気化学発光法であって、
(a)金属の配位錯体を含む電気化学発光標識を含んでなる化合物であって、該標識はβ−ラクタム及びβ−ニコチンアミドアデニンコファクターから選ばれた基質に結合しており、該基質は電気化学発光標識に電気化学発光を起こさせるように誘導するのに適した条件下で電気化学発光標識と反応するものである上記化合物を、該基質に特異的であり、かつ相互作用時に該基質の化学変換を触媒することのできる少なくとも一つの酵素を含むことが予期される試料溶液に接触させ、
(b)標識を電気化学エネルギーに暴露して電気化学発光を起こさせ、
(c)標識により放出された発光を測定し、そして
(d)測定された発光を所定の標準と比較することにより、第一の化合物のこのような化学変換の存在をモニターする、
ことを含んでなる上記方法。
【請求項9】
基質はβ−ラクタムであり、酵素はβ−ラクタマーゼである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
β−ラクタムは6−アミノペニシラン酸、アムピシリン、7−アミノセファロスポラン酸、ペニシリンG、アモキシシリン、モキサラクタム、セフォチン、セファロスポリンC、セファクロール、およびセフロキシムからなる群から選ばれる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
標識は式:


を有する、請求項8記載の方法。
【請求項12】
標識は、式:


を有する、請求項8記載の方法。
【請求項13】
標識は、式:


式中、Rはリボースであり、Pはホスフェートである、
を有する、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−176939(P2007−176939A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335216(P2006−335216)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【分割の表示】特願平9−502020の分割
【原出願日】平成8年6月7日(1996.6.7)
【出願人】(504208614)イゲン,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】