電気化学的エネルギー貯蔵用の鉄オキシフルオライド電極
本発明は、メタロライト複合体、フッ化鉄複合体および鉄オキシフルオライド複合体を含む、電気化学的エネルギー貯蔵システムを提供するものである。本発明は、更にメタロライト複合体の製造方法をも提供するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本特許出願は、2008年、5月23日付で出願された、米国仮特許出願第61/055,791号に係る優先権の利益を請求するものである。該米国仮特許出願の内容全体を、参考としてここに組入れる。
【0002】
(政府投資に係る陳述)
この発明は、米国政府による支援の下で行われた。該政府は、この発明における幾分かの権利を共有する。
【0003】
本発明は、電気的エネルギーを貯蔵しおよび供給する手段としての、イオンを取込み、また放出する物質を利用する、一次および二次化学的エネルギー貯蔵システム、特に蓄電池等のシステムに関するものである。
【背景技術】
【0004】
リチウム再充電式バッテリは、携帯式エレクトロニクス用途用の、最初のエネルギー貯蔵デバイスである。しかし、該電池のエネルギー密度の改善に対する重大な必要性が、残されている。このようなエネルギー密度増大の実現に対する主な制限因子は、該電池の正電極材料である。
【0005】
あらゆるリチウム二次バッテリは、リチウムの挿入に際して、結晶構造を維持している層間化合物製の正電極を使用している。該ホスト構造は、その格子がLi+の挿入の際に僅かに膨張し、収縮しまたは変形した場合においてさえ、そのまま維持される。該層間化合物の全てにおいて存在する遷移金属は、多重電子移動を可能とし、結果として高い容量の実現を可能とするが、制限されたリチウム空格子点は、該構造に対する更なるリチウムの組込みおよび結果としてのより多くの電子の電荷移動を阻害する。更に、該遷移金属ジカルコゲニド結合の共有原子価は、電池反応の電圧を低下する。最も普及している遷移金属ジカルコゲニドは、共通の結晶構造を持ち、かつ一群の層状の、高度に異方性の化合物を生成する。
【0006】
この挿入過程とは対照的に、該ホスト金属が、その金属状態にまで完全に還元されるにつれ、転化過程は、該ホスト金属のレドックス電位全てを完全に利用することができる。金属フッ化物の特殊な場合において、この遷移は、金属フルオライド化合物が著しくイオン性であるという事実のために、レドックス電位が、溶液内の自由イオンの電位に近づくにつれて、準-イオン-様の挙動をとる。該金属フルオライドの転化反応は、LiFおよび2-5nmなる大きさの金属(Me)生成物の生成へと導く。該MeFx構造の可逆性およびその結果としての再生は、これらの熱力学的に極めて安定な反応生成物間の極めて小さな拡散距離のために、その後の充電の際に起り得る。実際の結果は、層状の層間化合物に関する274mAh/gから該可逆性転化金属トリフルオライドに関する>700mAh/gまでに及ぶ、該正電極の比容量における理論的な改善である。これは、以下の式[1]で表すことができる:
【0007】
xLi+ + xe- + MeFx ←→ xLiF + Me [1]
【0008】
フッ化物が可逆的に転化する能力に関する理論的な証明は、別々にしかも並行して行われた以下の成果によって明らかにされている:Hong(Li, H.等, Adv. Mater. 15:736-739. 2003)およびBadway(Badway, F.等, J Electrochem. Soc. 150(10):A1318-A1327. 2003; Badway, F.等, J Electrochem. Soc. 150(9):A1209-A1218. 2003)。Hongの研究は、TiF3化合物の使用を含んでいた。可逆的転化は、TiF3の再生を示唆するラマンスペクトル法を利用することにより確認されたが、その電気化学的データは、多重サイクルの可逆性を示した。Badwayの方法は、典型的にはより絶縁性の高い、より高い電圧の金属フルオライドに着目した。FeF3、FeF2、NiF2およびCoF2ナノ複合体は、電気化学的諸特性の発揮を可能とするために、導電性炭素マトリックスを用いて作られた。これらナノ複合体は、アモルファス炭素マトリックスによって封入されたMeFx(10-30nm)のナノ微結晶領域(nanocrystalline region)を持つ、比較的小さな表面積を持つものであった。600mAh/gおよび400mAh/gなる値を越える比容量が、夫々FeF3およびNiF2について、70℃において明らかにされた。この方法は、FeF3、FeF2、NiF2、CoF2、並びにCrF3、CrF2およびBiF3を含む広範囲に渡る化合物の理論的な電圧の実現へと導いた。
【0009】
このナノ複合体の利用は、CFxの値に近い理論的容積エネルギー密度を持つ、ほぼ理論的比容量を実現する。これら材料の例外的なレート能力(rate capability)およびその可逆性は、その場でのX-線回折法(XRD)およびX-線吸収スペクトル法(XAS)の利用によって、起ることが示されている。可逆性は、更に3LiF+Feナノ複合体の予備的な製造およびサイクル処理、これによるLi-イオン配置において利用されるはずの、第一の充電中のリチウムの遊離によって示された。
【0010】
該MeF3構造の多くは、角部に割当てられたMeF6八面体構造および空状態の「A」サイトからなる、基本的な立方型電池ユニットに基く、PdF3-ReO3構造に関連付けられている。これら結晶構造の割当て対する妨害は殆ど無く、そのため該ReO3構造から該PdF3構造に移動する際の、大きな結晶学的な歪がある。これらの構造は、空の八面体状の間隙を形成し、該間隙は、リチウムイオンの拡散を可能とする。カチオン空格子点は、多くのMeF6材料が、挿入状態を維持することを可能とし、またそのためにLixMeF3化合物、例えばTiF3、FeF3、およびVF3が生成される(Arai, H.等, J Power Sources. 68:716. 1997)。他の研究において、該MeF3化合物が、1e-挿入領域を維持し、引続き2e-転化反応を伴って、以下の反応[2]をもたらすことを明らかにしている:
【0011】
Li+ + e- + MeF3 ←→ LiMeF3
【0012】
2Li+ + 2e- + LiMeF3 ←→ 3LiF + Me [2]
【0013】
FeF3ナノ複合体の場合、該挿入メカニズムは、全く迅速であり、しかも極めて可逆性に富むことが分かった。
【0014】
新規な機械化学的に誘発される反応を利用して、金属フルオライドナノ複合体電極材料の合成に関する多くの研究が報告されている。絶縁性化合物CF1およびMeF2化合物の高エネルギー粉砕(milling)は、該MeF2化合物のMeF3への酸化を伴う、固体レドックス反応を結果する。この反応は、HT(高温製造された)CF1の酸化力による、MeF2化合物のMeF3への酸化により誘発された。得られた生成物は、以下の反応式[3]により表すことのできる、導電性炭素マトリックス中の、MeF3の微細なナノ複合体であった:
【0015】
CF1 + MeF2 → C + MeF3 [3]
【0016】
この機械化学的に誘導された酸化反応は、反応CrF2→CrF3およびFeF2→FeF3に対して上首尾で行われた。このような材料は、良好な可逆性とそれぞれ600mAh/gおよび500mAh/gを越える、優れた容量を示した。この技術は、CF1の理論的酸化能力以下の、Me2+→Me3+レドックスレベルを持つ、全ての金属フルオライドに対して適用された。
【0017】
最大の比エネルギー密度を持つ、フッ化鉄ナノ複合体の以前の製造方法は、導電性マトリックス、例えば炭素と共に、様々なフッ化鉄成分を、高エネルギー粉砕する工程からなっていた。このようなナノ複合体は、既存の材料に対して、エネルギー密度における顕著な改善をもたらしたが、該材料のレート能力(出力密度)における大幅な改善が必要とされる。その上、極めて小さなサイクル間容量減衰を伴って、該材料を反復的に放電および充電することができるように、該材料のサイクル効率における改善も必要となる。
【0018】
一つの新規な方法は、該活性電極材料として、鉄のオキシフルオライド材料を使用することである。このような材料は、以前に単離されていたが、リチウムバッテリ用の可能な電極材料として検討されたことはない。Brink等(F.J. Brink, R.L. WhitersおよびJ.G. Thompson, J. Solid State Chem., 155, 359-365. 2000)は、FeF2およびFeOFプリカーサを用いた、FeOxF2-x固溶体の固体合成について以前に報告したが、この製造技術の重大な欠点の一つは、これが前もってFeOFを合成する必要がある点にあり、これは925℃以下の温度にて製造することができない。更に、該FeOxF2-x固溶体の合成は、制御された雰囲気下で、かつ極めて高い温度(850℃にて3時間)条件下で製造されたが、この製造法は、巨大結晶性化合物の生成をもたらした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、電気化学的エネルギー貯蔵用の新規正電極材料および鉄金属およびフルオロ珪酸(H2SiF6)の水性溶液から、ナノ構造を持つ鉄(オキシ)フルオライドを合成するための溶液製造法をここに提供するものである。該溶液合成の原理は、高価でない、市販品として容易に入手できるプリカーサを使用して、FeF2からFeOFまでの全範囲に及ぶ組成を持つ、ナノ構造化された鉄(オキシ)フルオライド材料FeOxF2-xの、低温での製造工程を含む。FeSiF6水和物中間体の製造および該中間体の後の空気中におけるアニール処理は、該(オキシ)フルオライド材料の製造にとって決定的な段階である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
一局面によれば、本発明は、鉄オキシフルオライド複合体を含む、電気化学的エネルギー貯蔵電池用の正電極材料として使用するための組成物を提供する。一態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)で表される鉄オキシフルオライド化合物を含む。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の追加の金属を含む。他の態様によれば、該少なくとも1種の追加の金属は、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、鉄オキシフルオライドナノ微結晶(nanocrystallite)である。別の態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶は、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する。他の態様によれば、上記式において、x=yである。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更にイオン-および/または電子-伝導性マトリックスを含む。更なる態様によれば、該導電性マトリックスは炭素である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、混合導体である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属酸化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫酸塩(sulfate)である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、無機リン酸塩(phosphate)である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸鉄リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属窒化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属リン化物である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、正方晶系ルチル型構造を有し、また3.30Å未満の「c」格子パラメータを有するものである。
【0021】
もう一つの局面によれば、本発明は、メタロライト(metallolyte)複合体の製造方法を提供するものであり、この方法は、以下の諸工程:(a) Me種およびフルオロ珪酸を含む出発溶液(starting solution)を提供する工程;(b) 該出発溶液を反応させて、MeSiF6水性溶液を生成する工程;(c) 該MeSiF6水性溶液を、所定温度にて乾燥してMeSiF6水和物を含む粉末体とする工程;(d) 該粉末体を雰囲気中で熱処理して、メタロライト複合体を製造する工程を含み、ここで、Meは金属である。一態様によれば、該製造されるメタロライト複合体は、金属オキシフルオライドである。もう一つの態様によれば、該製造される金属複合体は、鉄オキシフルオライド化合物である。他の態様によれば、該製造されるメタロライト複合体は、金属フルオライドである。他の態様によれば、該製造されるメタロライト複合体は、フッ化鉄化合物である。他の態様によれば、Meは、Li、Ag、Fe、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、Nb、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、およびCuからなる群から選択される。他の態様によれば、MeSiF6はFeSiF6である。他の態様によれば、該工程(b)の反応は、約40℃〜約45℃なる範囲内の温度にて行われる。他の態様によれば、該工程(b)の反応は、約12時間〜約24時間なる範囲内で行われる。他の態様によれば、該工程(c)は、約110℃なる温度にて、空気中で行われる。他の態様によれば、該工程(c)は、約200℃なる温度にて、約2時間〜約3時間なる範囲内の期間に渡り、空気中で行われ、次いで更に約110℃なる温度にて加熱する段階を伴う。他の態様によれば、該工程(d)は、約150℃〜約300℃なる範囲内の温度にて行われる。他の態様によれば、該工程(d)は、アルゴン雰囲気中で行われる。他の態様によれば、該工程(d)は、空気雰囲気中で行われる。他の態様によれば、該工程(b)の終わりにおいて、該MeSiF6水性溶液に無機リン酸塩が添加され、それにより金属フルオライドまたはオキシフルオライド成分およびリン酸塩をベースとする成分を含むメタロライト複合体が製造され、ここでMeは金属である。他の態様によれば、該工程(c)の終わりにおいて、前記MeSiF6水和物粉末体に無機リン酸塩が添加され、それにより金属フルオライドまたはオキシフルオライド成分およびリン酸塩をベースとする成分を含むメタロライト複合体が製造され、ここでMeは金属である。他の態様によれば、該添加される無機リン酸塩成分は、約1%の無機リン酸塩成分〜約50%の無機リン酸塩成分を含む。他の態様によれば、該製造されたメタロライト複合体は、正方晶系ルチル型構造を有し、また3.30Å未満の「c」格子パラメータを有するものである。他の態様によれば、該製造されたメタロライト複合体は、ナノ粒子である。他の態様によれば、該MeはFeである。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1であり、好ましくはx=yである)で表されるものである。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の追加の金属を含む。他の態様によれば、該少なくとも1種の追加の金属は、化学量論的割合で組み合わされた、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶は、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する。他の態様によれば、該メタロライト複合体は、更に導電性マトリックスを含む。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、炭素である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、混合導体である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属酸化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、無機リン酸塩である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属窒化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸鉄リチウムである。
【0022】
更に別の局面によれば、本発明は電気化学電池を提供するものであり、該電気化学的電池は、負電極、鉄オキシフルオライド複合体を含む正電極、および該負電極と該正電極との間に設けられたセパレータを含む。一態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)で表される鉄オキシフルオライド化合物を含む。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の追加の金属を含む。他の態様によれば、該少なくとも1種の追加の金属は、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶は、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する。他の態様によれば、該式において、x=yである。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に導電性マトリックスを含む。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、炭素である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、混合導体である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属酸化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、無機リン酸塩である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属窒化物またはリン化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属リン化物である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、正方晶系ルチル型構造を有し、また3.30Å未満の「c」格子パラメータを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の鉄オキシフルオライド組成物に及ぼす、アニール温度、時間および雰囲気の効果を示す、XRDデータを示すものである。市販のFeF2のXRDスペクトルを、比較のために付加した。
【図2】図2は、アニール期間(時間)に対してプロットした、ルチルのa-およびc-格子パラメータ(Å)を示す。該ルチル型の構造は、高温度および/または長いアニール期間において、一次相として維持されたが、その(hkl)反射のシフトにおける系統的な増大を示した。該(hkl)ピークの系統的なシフトは、該a-格子パラメータの低下が、極めて低く維持されているので、該ルチル型構造の該c-格子パラメータおよび/またはそのc/a比の連続的な減少として解釈された。
【図3】図3は、c-格子パラメータに対してプロットされた材料の酸素含有率を示す図である。上記溶液調製工程は、FeOxF2-x化合物の製造を可能とし、ここでxは、Ar中で4時間に渡りアニールした場合には、純粋なFeF2の全xの範囲に拡がっており、また250℃にて8時間に渡りアニールした場合には、純粋なFeOFに対する全xの範囲に拡がっている。
【図4】図4は、炭素をベースとするFeF2ナノ複合体が、その初期の正方晶系P42/mnm系の対称性を維持していることを示す、XRDデータを示す図である。
【図5】図5は、サイクル数の関数としてプロットされた、FeF2ナノ複合体の放電比容量を示す図である。全てのサンプルが、貧弱なサイクル寿命を示した。改善されたサイクル安定性は、空気中で粉砕された(milled)該ナノ複合体に関して観測され、これをHe中で粉砕したものと比較した。
【図6】図6は、ブラッグ反射の広がりを例示するXRDデータを示すものであり、一方FeF3の初期菱面体晶系R-3c構造が、微粉化に際の雰囲気とは無関係に、粉砕後にも維持されている。これは、FeF3の結晶サイズの減少を示すものである。
【図7】図7は、サイクス数に対して、FeF3をベースとするナノ複合体の放電比容量(mAh/g)をプロットしたグラフを示す。空気中での粉砕は、He中での粉砕を越える、改善された電気化学的性能を誘発した。
【図8】図8は、炭素をベースとするナノ複合体が、全て、その初期の正方晶系P42/mnm系の対称性を維持したことを例示する、XRDデータを示す図である。空気中での粉砕は、該鉄(オキシ)フルオライドコア構造に大きな影響を及ぼすことはない。
【図9】図9は、FeF2をベースとするナノ複合体(市販の、および溶液製造法によるフルオライドから製造した)と比較して示された、サイクル数に対して、該オキシフルオライドをベースとするナノ複合体の放電比容量(mAh/g)をプロットしたグラフを示す。全てのオキシフルオライドをベースとするナノ複合体が、該FeF2をベースとするナノ複合体と比較して、改善されたサイクル安定性を示した。
【図10】図10は、c-格子パラメータに対する、容量保持率(capacity retention)(第2サイクルに対する第30サイクルにおいて観測された放電容量の比として定義される)を示す図である。データは、c-格子パラメータにおける低下によって測定される、酸素含有率の増加に伴って、改善された容量保持率を表すものである。
【図11】図11は、He中で、鉄(オキシ)フルオライドおよびFeF3の混合物を炭素と共に粉砕することにより得た、ナノ複合体のXRDパターンを示す図である。FeF2と結合した正方晶系P42/mnm相またはFeF3と結合した菱面体晶系R-3c相が、維持されていた。
【図12】図12は、空気中で、鉄(オキシ)フルオライドおよびFeF3の混合物を炭素と共に粉砕することにより得た、ナノ複合体のXRDパターンを示す図である。FeF2と結合した正方晶系P42/mnm相またはFeF3と結合した菱面体晶系R-3c相が、維持されていた。
【図13】図13は、鉄(オキシ)フルオライド+FeF3の混合物の、空気中での粉砕が、He中での粉砕により得たナノ複合体と比較して、同様なエネルギー密度と共に、改善されたサイクル安定性をもたらすことを示す。
【図14】図14は、(i) 空気中で、粉砕後のアニール温度を200℃から400℃まで高めるのに伴う、オキシフルオライドをベースとするナノ複合体のXRDパターンの進展;および(ii) 粉砕後に得られた該ナノ複合体と共に、初期オキシフルオライドのXRDパターンを示す図である。ナノ複合体オキシフルオライドの酸素含有率は、該正方晶系P42/mnm(hkl)回折ピークの大きな角度に向かうシフトによって示されるように、粉砕後のアニール温度と共に増大した。FeOxF2-x相のFe2O3+FeF3への部分的な分解は、24°領域における回折ピークの強度増加によって示されるように、より高い温度におけるアニール後により顕著となる。粉砕後のアニールは、また300℃にて酸素中でも行った。あらゆる粉砕後のアニールは、2時間に渡り行われた。
【図15】図15は、サイクル数の関数としてプロットされた放電比エネルギー密度(mWh/g)を示す。サイクル安定性は、350℃までは、粉砕後のアニール温度と共に改善され、一方で350℃を越える温度の上昇は、該ナノ複合体の電気化学的性能にとって有害であった。
【図16】図16は、粉砕後のアニール温度を200℃から450℃まで高めるのに伴って、正方晶系FeOxF2-xの(101)および(211)ピークが、大きな角度に向かってシフトすることを例示する、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体のXRDデータを示す図である。該粉砕後のアニール温度の増大は、ナノ構造化されたオキシフルオライドの酸素含有率における系統的な増加へと導く。
【図17】図17は、サイクル数の関数としてプロットされた、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体の放電比エネルギー密度(mWh/g)を示す。1.5〜4.5Vなる範囲の電圧および50mA/gなる定電流の下での、60℃におけるサイクル対リチウム金属の関係は、300℃までの粉砕後のアニール温度増加に伴う、該ナノ複合体の電気化学的性能の系統的な改善を立証している。
【図18】図18は、酸素中での粉砕後のアニール温度を200℃から300℃まで高めるのに伴って、正方晶系FeOxF2-x相の(101)および(211)ピークが、大きな角度に向かってシフトすることを例示する、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体のXRDデータを示す図である。該酸素中での粉砕後のアニール温度増加は、ナノ構造化されたFeOxF2-xオキシフルオライドの酸素含有率における系統的な増加へと導く。
【図19】図19は、サイクル数の関数としてプロットされた、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体の放電比エネルギー密度(mWh/g)を示す。該材料の容量保持率は、200℃における該酸素中での粉砕後のアニールによって改善される。より高温度にて行われる酸素中での粉砕後のアニールは、該ナノ複合体の電気化学的性能にとって有害である。
【図20】図20は、上記溶液製造法により得た、ナノ構造化されたFeOxF2-xから製造した、2種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体の放電比エネルギー密度(mWh/g)を、市販のFeF2をベースとするナノ複合体と比較して示した図である。これらの電池は、2.4〜4.5Vなる範囲の電圧にて、60℃でサイクルさせた。ナノ構造化されたFeOxF2-xから製造したこれら両ナノ複合体は、マクロ-FeF2をベースとするナノ複合体と比較して、より一層改善された電気化学的性能を示し、サイクルの際の、より高いエネルギー密度およびより良好な容量保持率を示した。
【図21】図21は、ヘキサフルオロ珪酸の水性溶液に添加された、10質量%Mn-90質量%Fe、25質量%Mn-75質量%Feおよび50質量%Mn-50質量%Fe混合物を用いて得たナノ複合体の、XRDパターンを示す図である。100質量%Feサンプルに関するXRDを、比較の目的で加えた。全てのサンプルは、空気中で15質量%の活性炭(Aスプラ(ASupra))と共に4時間、空気中で1時間アニールされた、マンガンまたはニッケル置換されているFeSiF6水和物を、粉砕することにより得た。該ナノ複合体は、次いで粉砕後に、空気中で2時間、300℃におけるアニール処理に付された。
【図22】図22は、鉄にニッケルを添加することにより得た製品に関するXRDパターンを示す。全てのナノ複合体は、正方晶系P42/mnm構造に維持された。
【図23】図23は、サイクル数の関数としてプロットされた、MnおよびNi置換したナノ複合体に関する、放電比エネルギー密度を示す図である。
【図24】図24は、少量のリン酸リチウムの添加が、(FeF3+リン酸リチウム)ナノ複合体の電気化学的に活性なFeF3の大部分に対して、如何なる観測し得る構造変化をももたらさないことを例示する、XRDデータを示す。
【図25】図25は、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す。1.5〜4.5Vなる範囲の電圧下で、60℃および50mA/gでの、リチウム金属に対する電気化学的テストは、リン酸リチウムの添加により容量保持率が改善されることを明らかにしている。
【図26】図26は、空気中で200℃にて4時間アニールされ、またLiH2PO4の存在下または不在下における、活性炭と共に粉砕された後の、FeSiF6水和物に関するXRDパターンを示す図である。
【図27】図27は、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す。10質量%のLiH2PO4の添加は、サイクルの安定性を改善し、しかも両粉砕雰囲気において、放電容量を維持していた。
【図28】図28は、サイクル数の関数としてプロットされた、LiH2PO4と共に粉砕された、FeF3、FeF2および鉄オキシフルオライドをベースとする複合体の放電比容量(mAh/g)を示す図である。該オキシフルオライドは、最良の電気化学的性能を示すことが明らかとなった。
【図29】図29は、サイクル数の関数としてプロットされた、鉄オキシフルオライドナノ複合体に関する放電比容量(mAh/g)を示す図である。VC添加剤(1質量%および2質量%)は、サイクル寿命を改善した。
【図30】図30は、上記溶液製造法で得た材料の例示的XRDパターンを示す図である。菱面体晶系R-3mのFeSiF6・6H2O化合物は、完全に正方晶系FeF2およびFeOxFy化合物に変換され、これらは、夫々200℃にてアルゴン中および空気中で、4時間に渡る熱処理により得られた。
【図31】図31は、市販のおよび溶液法に基づいて(即ち、アルゴン中で該FeSiF6水和物中間体をアニールすることによって)得たFeF2を、200℃にて空気中でアニールした後に得た、XRDパターンを、同様な条件下で、該FeSiF6水和物を直接熱処理(空気中)した際に発生した化合物と比較して示した図である。
【図32】図32は、He中で1時間、夫々0,10および20質量%のFeS2および15%の活性炭と共に、市販のFeF2を粉砕することにより得た3種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す図である。この金属硫化物の添加は、改善された容量残量を与え、しかも活性炭のみを用いて製造したこれらのナノ複合体に比して、放電容量が維持されあるいは改善された。
【図33】図33は、He中で1時間、夫々0,10および20質量%のNiS2および15%の活性炭と共に、市販のFeF2を粉砕することにより得た3種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す図である。この金属硫化物の添加は、改善された容量残量を与え、しかも活性炭のみを用いて製造した該ナノ複合体に比して、放電容量が維持されあるいは改善された。
【図34】図34は、10質量%のFeS2を添加しまたは添加せずに、15%の活性炭と共に空気中で1時間粉砕することにより得た、2種のオキシフルオライドをベースとするナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す図である。この金属硫化物の添加は、改善された容量残量を与え、しかも金属硫化物なしに製造した該ナノ複合体に比して、放電容量が維持されあるいは改善された。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(詳細な説明)
鉄オキシフルオライド組成物
本発明は、鉄オキシフルオライド複合体を含む、電気化学的エネルギー貯蔵電池用の電極材料として使用するための組成物およびその製法を提供する。
【0025】
一局面によれば、本発明は、鉄オキシフルオライド複合体を含む、電気化学的エネルギー貯蔵電池用の電極材料として使用するための組成物を提供する。
【0026】
一態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)で表される鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、x=yである。幾つかのこのような態様によれば、xは、純粋なFeF2からFeOFまでの全xの範囲に渡っている。
【0027】
本明細書で使用する様な用語「元素(element)」とは、標準的な化学的手段によって、より単純な物質に分解することのできない単純な物質を意味する。
【0028】
本明細書で使用する様な用語「鉄オキシフルオライド化合物(iron oxyfluoride compound)」とは、元素としての鉄(Fe)、フッ素(F)、酸素(O)および場合により少なくとも1種の追加の金属(Me)からなる任意の組合せを包含する。鉄オキシフルオライド化合物は、ナノ粒子径を有していても有していなくてもよい、一次粒子内に組込むことができる。
【0029】
幾つかの態様によれば、本発明の鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の、Fe以外の金属を意味する、追加の金属を含む。当業者は、本発明の鉄オキシフルオライド化合物において使用するための金属を、容易に同定することができる。このような金属は、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbを含むが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書で使用する用語「ドメインサイズ(domain size)」とは、第一の物質(primary material)が第二の物質の境界と接触する前の、該第一の物質の長さを意味する。該第二の物質は、粒子、微結晶、鉄オキシフルオライドの微結晶、または他のこのような物質を含むが、これらに限定されない。本明細書で使用する用語「粒子(particle)」とは、物質構造の個々別々の単位を意味する。粒子サイズの範囲は、以下のようにまとめることができる:(1) 亜原子粒子:プロトン、中性子、電子、重陽子等であり、これらは、包括的に素粒子と呼ばれている;(2) 分子状粒子:数Å〜1/2μmなる範囲内の径を持つ原子および分子を含む;(3) コロイド状粒子:電子顕微鏡により解像され、また1mμ〜光学顕微鏡の下限(1μm)なる範囲内の径を持つ巨大分子、ミセル、およびカーボンブラック等の超微粒子を包含する;(4) 微粒子:光学顕微鏡により解像し得る単位(バクテリアを含む);(5) 巨大粒子:肉眼により解像できるあらゆる粒子。本明細書で使用する用語「マクロ構造(macrostructure)」とは、巨視的サイズを持つ物質を意味する。本明細書で使用する用語「粒径(particle size)」とは、一般に工業的物質が構成される固体粒子に対して言われる。該粒子が小さいほど、与えられた質量の、全露出表面積は、より大きい。活性は表面積の直接的な関数である。即ち、より微細な物質は、物理的にも化学的にも、より一層効率的に反応する。
【0031】
用語「結晶(crystal)」とは、原子またはイオンの反復的な3-次元パターンによって形成され、また一定の、構成部分またはこのようなパターンの単位格子間の距離を持つ均質な固体を意味する。用語「結晶構造(crystal structure)」または「結晶格子(crystal lattice)」は、ここでは該結晶内での原子またはイオンの配列または構成を表すために、互換的に使用される。ここで用いる用語「微結晶(crystallite)」とは、結晶の構成原子、イオンまたは分子が、歪みまたは他の欠陥なしに、完全な格子を形成している該結晶の部分を意味する。単結晶は極めて大きい可能性があるが、微結晶は、通常微視的なものであり、またドメインであると考えることができる。
【0032】
上記用語「ナノ微結晶(nanocrystallite)」および「ナノ粒子(nanoparticle)」は、互換的に使用され、また約100nm〜約1nmなる範囲内のサイズを持つ微結晶を意味する。当分野において周知の如く、微結晶のサイズは、X-線回折(XRD)におけるピーク幅解析および高解像度透過型電子回折法等の通常の方法によって測定することができる。本明細書で使用する該用語「ナノ微結晶(nanocrystallite)」とは、<100nmなるサイズを持つ個々の微結晶またはマトリックス内に組込まれて、ナノ複合体を生成する、<100nmなるサイズを持つ微結晶を意味する。該最終的なナノ複合体は、100nmよりも大きなサイズを持つものでも、そうでなくてもよい。
【0033】
もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、鉄オキシフルオライドナノ複合体である。
【0034】
本明細書で使用する用語「ルチル(rutile)」とは、二酸化チタンの構造と類似する構造を意味する。ルチル構造は、端部に分配されたAX6の八面体形を、c-軸に沿って持ち、一方でab面内の角部を分け合っている、正方晶系P42/mnm系の対称性(夫々(100)および(001)方向における、a-およびc-格子パラメータ)をもって結晶化する。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、正方晶系型ルチル構造を持つことが立証されている、鉄オキシフルオライド化合物を含む。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、「c」格子パラメータが<3.30Åであることが立証されている、鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に酸化鉄の表面層を持つ鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該表面層は、約1nm〜約10nmなる範囲の薄い表面層である。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更にコア材料よりも高い酸素含有率を持つ鉄オキシフルオライドの表面層を持つ、鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該表面層は、約1nm〜約10nmなる範囲の薄い表面層である。
【0035】
幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物の比容量は、可逆的である。本明細書で使用する様な用語「比容量(specific capacity)」とは、単位重量当たりのミリアンペア時(mAh)によって表される、該鉄オキシフルオライド化合物が含むエネルギー量を意味する。本明細書で使用する用語「可逆的比容量(reversible specific capacity)」とは、本発明の鉄オキシフルオライド化合物が、放電の方向とは逆の方向に、該化合物を通して電流を流すことによって、再充電し得ることを意味する。
【0036】
本明細書で使用する様な用語「複合体(composite)」とは、少なくとも1つのまたはそれ以上の別々の成分、構成成分、または元素を含む化合物を意味する。これらの成分、構成成分または元素は、金属フルオライド、金属オキシフルオライド、導電性マトリックス、炭素、金属酸化物、金属硫化物、無機リン酸塩、金属窒化物、金属リン化物、リン酸リチウム、リン酸鉄、リン酸鉄リチウム、フルオロリン酸鉄リチウム、Li3PO4、LiH2PO4、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、Nb、およびFeまたはこれらの組合せを含むことができるが、これらに限定されない。該複合体の成分は粒子、微結晶、粉末、溶液、固体、ナノ微結晶、またはナノ粒子の形状であり得るが、これらに限定されない。
【0037】
別の態様によれば、本発明は、径において約1nm〜約100nmなる範囲内の、第一ドメインサイズを有する鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約90nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約80nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約70nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約60nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約50nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約40nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約30nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約20nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約15nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約10nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約5nmなる範囲にある。
【0038】
幾つかのこのような態様によれば、該フッ化鉄化合物は、粒子の形状にある。幾つかのこのような態様によれば、該フッ化鉄化合物は、ナノ粒子の形状にある。幾つかのこのような態様によれば、該フッ化鉄化合物は、結晶の形状にある。幾つかのこのような態様によれば、該フッ化鉄化合物は、ナノ結晶の形状にある。
【0039】
他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に導電性マトリックスを含む。本明細書で使用する該用語「導電性マトリックス(conductive matrix)」とは、導電性物質を含むマトリックスを意味し、該導電性物質の幾つかは、イオン-および/または電子-伝導体であり得る。他の態様によれば、該導電性物質は、混合導体(mixed conductor)である。該マトリックスがイオン-および電子-伝導性両者を保持する物質は、通常「混合導体」と呼ばれる。高エネルギー密度のカソード材料用の、鉄オキシフルオライドをベースとする混合導体は、該混合導体のマトリックスまたは構成組織中の該鉄オキシフルオライド化合物を安定化するために使用でき、また該鉄オキシフルオライド化合物の電気化学的活性の発揮を可能とする。様々な導電性マトリックスが、電子および/またはイオンの該鉄オキシフルオライド化合物への伝達を可能とするために使用でき、該マトリックスは粒子形状であっても、そうでなくてもよい。適当な導電性マトリックスは、炭素、金属酸化物、金属硫化物、無機リン酸塩、金属リン化物、および金属窒化物を含むが、これらに限定されない。
【0040】
幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約50質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約45質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約40質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約35質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約30質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約25質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約20質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約15質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約10質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約5質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。
【0041】
もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に炭素を含む。幾つかのこのような態様によれば、該炭素は活性炭である。本明細書で使用する該用語「活性炭(activated carbon)」とは、炭素を著しく多孔質のものとするために、また結果的に極めて大きな利用可能な表面積を持つように加工された炭素の一形態を意味する。1gの活性炭素は、約500m2〜約2000m2なる範囲内の表面積を持つことができる。幾つかのこのような態様によれば、該活性炭素は、Aスプラ(ASupraTM)(ノリット(Norit)社製)である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に金属酸化物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該金属酸化物の金属はVである。幾つかのこのような態様によれば、該金属酸化物の金属はMoである。
【0042】
もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更にリン酸またはフルオロリン酸リチウム、鉄または鉄リチウムを含む。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、一般式:LiαH3-αPO4(ここで、0<α≦3)で表されるものである。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、Li3PO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、LiH2PO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄は、FePO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄は、FeFPO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄リチウムは、LiFePO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄リチウムは、Li3Fe2(PO4)3である。幾つかのこのような態様によれば、該フルオロリン酸鉄リチウムは、LiFePO4Fである。
【0043】
溶液製造工程
一般に、本明細書で使用する用語「溶液製造工程(solution fabrication process)」とは、金属としての鉄およびフルオロ珪酸(H2SiF6)の水性溶液から、ナノ構造化された鉄(オキシ)フルオライド材料を合成するための技術を意味する。この溶液合成原理は、安価な市販品として入手できるプリカーサを用いて、FeF2からFeOFまでの全範囲に渡る組成を持つ、ナノ構造化された鉄(オキシ)フルオライド材料:FeOxFyの低温製造を含む。該FeSiF6水和物中間体の製造および空気中でのその後の該中間体のアニールは、該鉄(オキシ)フルオライド材料の製造にとって決定的な段階である。
【0044】
該用語「フルオロ珪酸(fluorosilicic acid)」とは、H2SiF6を意味する。
【0045】
本明細書で使用する該用語「メタロライト複合体(metallolyte composite)」とは、金属(Me)元素を含む化学反応の結果得られる、材料、化合物、物質または生成物を意味する。メタロライト複合体は、少なくとも1種の金属オキシフルオライド、金属フルオライド、またはこれらの誘導体を含み、また追加の成分を含むことができ、該追加の成分は、例えば導電性マトリックス、炭素、金属酸化物、金属硫化物、無機リン酸塩、金属フルオロリン酸塩、金属硫化物、および金属窒化物、リン酸リチウム、Li3PO4、LiH2PO4、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、Nb、およびFe、フッ化鉄、鉄オキシフルオライド、鉄オキシフルオライド複合体、鉄オキシフルオライド化合物、鉄フルオライド複合体、鉄フルオライド化合物、またはこれらの組合せを含むが、これらに限定されるものではない。
【0046】
一局面によれば、本発明は、メタロライト複合体の製造方法を提供するものであり、該方法は、以下の工程:(a) Me種およびフルオロ珪酸を含む出発溶液を製造する工程;(b) 該出発溶液を反応させて、MeSiF6水性溶液を生成する工程;(c) 該MeSiF6水性溶液を、所定温度にて、粉末状態にまで乾燥する工程;(d) 更に、該粉末体を所定雰囲気内で熱処理して、メタロライト複合体を製造する工程を含み、ここで該Meは金属である。
【0047】
一態様によれば、該Me種はFeである。もう一つの態様によれば、該Me種は第一列の遷移金属である。このような金属は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、およびCuを含む。
【0048】
もう一つの態様によれば、該Me種はBiである。もう一つの態様によれば、該Me種はSnである。もう一つの態様によれば、該Me種はSbである。もう一つの態様によれば、該Me種はPbである。もう一つの態様によれば、該Me種はMoである。もう一つの態様によれば、該Me種はNbである。もう一つの態様によれば、該Me種はLiである。もう一つの態様によれば、該Me種はAgである。
【0049】
他の態様によれば、MeSiF6水和物は、FeSiF6水和物である。もう一つの態様によれば、FeSiF6水和物は、FeSiF6.6H2Oである。
【0050】
もう一つの態様によれば、上記出発溶液からMeSiF6溶液を生成する上記工程(b)は、約40℃〜約45℃なる範囲内の温度にて行われる。幾つかのこのような態様によれば、該出発溶液からMeSiF6溶液を生成する該反応は、一夜に渡り行われる。幾つかのこのような態様においては、該出発溶液からMeSiF6溶液を生成する該反応は、該反応の開始時点から12-24時間以内で行われる。
【0051】
もう一つの態様によれば、上記乾燥工程(c)は、空気中で約110℃にて行われる。幾つかのこのような態様によれば、該乾燥工程(c)は、(i) 攪拌式ホットプレート上で、約200℃にて約2-3時間、該MeSiF6水性溶液を攪拌する段階;および(ii) 更に、空気中で110℃にて、該溶液を乾燥する段階を含む。幾つかのこのような態様によれば、該乾燥工程(c)は、ホットプレート上で行われる。
【0052】
もう一つの態様によれば、上記熱処理工程(d)は、約150℃〜約300℃なる範囲の温度にて行われる。
【0053】
もう一つの態様によれば、該熱処理工程(d)は、アルゴン雰囲気中で行われる。幾つかのこのような態様によれば、製造される該メタロライト複合体は、金属フッ化物である。幾つかのこのような態様によれば、製造される該メタロライト複合体は、複数の金属フルオライドである。
【0054】
本明細書で使用する用語「雰囲気(atmosphere)」とは、いずれかのガス状覆い(envelope)または媒体を意味する。
【0055】
もう一つの態様によれば、該熱処理工程(d)は、空気雰囲気内で行われる。本明細書で使用する様な用語「空気(air)」とは、地球上の雰囲気(または空気)を意味し、また惑星としての地球の重力により保持されている、地球を取巻いているガス層を意味する。乾燥空気は、大雑把に(体積基準で)78.08%の窒素、20.95%の酸素、0.93%のアルゴン、0.038%の二酸化炭素、および痕跡量の他のガスを含む。空気は、また平均して約1%の、変動する量の水蒸気をも含む。幾つかのこのような態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、金属オキシフルオライドである。幾つかのこのような態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、複数の金属オキシフルオライドである。
【0056】
幾つかのこのような態様によれば、該金属オキシフルオライドの酸素含有率は、そのアニール温度および該熱処理工程(d)の期間と相関関係にある。
【0057】
もう一つの態様によれば、該メタロライト複合体は、鉄および他の成分を含有する混合物の、著しく高い衝撃エネルギーを持つ粉砕により製造できる。非-限定的な例として、鉄(オキシ)フルオライド化合物を、他の成分と共に粉砕する(mill)場合、該鉄(オキシ)フルオライドは化学変化を受け、結果としてそのX-線回折(XRD)特性は、新規な、高度に電気化学的に活性な物質の特徴を呈するが、該鉄(オキシ)フルオライドの主な電気化学的様相を維持している。鉄(オキシ)フルオライドは、容易に、周知の方法、例えばXRDおよび高解像度の透過型電子回折法によって特徴付けることができる。
【0058】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体はフッ化鉄複合体を含む。もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体はフッ化鉄化合物を含む。
【0059】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、鉄オキシフルオライド複合体を含む。もう一つの態様によれば、該メタロライト複合体は、鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)で表される鉄オキシフルオライド化合物である。幾つかのこのような態様によれば、該一般式において、x=yである。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の追加の金属を含む。このような金属は、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbを含むが、これらに限定されるものではない。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶の主ドメインは、約1nm〜約100nmなる範囲内の長さを持つものである。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶の該主ドメインは、約1nm〜約20nmなる範囲内の長さを持つものである。
【0060】
もう一つの態様によれば、該メタロライト複合体は、導電性マトリックスを含む。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、炭素である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、混合導体である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、金属酸化物である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、無機リン酸塩である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、金属窒化物またはリン化物である。
【0061】
もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更にリン酸またはフルオロリン酸リチウム、鉄または鉄リチウムを含む。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、一般式:LiαH3-αPO4(ここで、0<α≦3)で表されるものである。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、Li3PO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、LiH2PO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄は、FePO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄は、FeFPO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄リチウムは、LiFePO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄リチウムは、Li3Fe2(PO4)3である。幾つかのこのような態様によれば、該フルオロリン酸鉄リチウムは、LiFePO4Fである。
【0062】
もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩5質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩10質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩15質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩20質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩25質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩30質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩35質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩40質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩45質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩50質量%である。
【0063】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、正方晶系型ルチル構造を持つものであり、かつ3.30Å未満の「c」格子パラメータを有する。もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、ナノ粒子である。
【0064】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、鉄(オキシ)フルオライド化合物のナノ粒子である。もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、ナノ構造化された鉄(オキシ)フルオライド化合物である。もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、導電性の、鉄(オキシ)フルオライドをベースとする化合物である。
【0065】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、転化反応の証拠となる鉄オキシフルオライド化合物である。本明細書で使用する該用語「転化反応(conversion reaction)」とは、鉄オキシフルオライド化合物が、蓄電池の放電中に完全に還元されて、鉄金属Fe0、フッ化リチウムLiF、およびLiyFe1-z/2OxF2-x-z化合物(ここで、y≦x≦1、z≦2-x、またここでyは0であり得る)の混合物となる反応を意味する。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライドは、付随するマグネシウムまたはカルシウム化合物製品の生成を伴って、金属としての鉄に還元される可能性がある。
【0066】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、可逆的転化反応の証拠となる、鉄オキシフルオライド化合物である。本明細書で使用する該用語「可逆的転化反応(reversible conversion reaction)」とは、該鉄オキシフルオライド化合物が、蓄電池の充電中に再生され得る反応を意味する。
【0067】
電気化学電池
本発明のもう一つの態様によれば、電気化学電池、例えば一次または充電式蓄電池が提供され、これは、本発明の鉄オキシフルオライド複合体を、カソード材料として使用する。この電池は、いずれかの公知の方法で製造できる。本発明の鉄オキシフルオライド複合体電極(カソード)材料は、ポリマーマトリックスおよび付随的化合物並びに一般的に使用されるセパレータおよび電解液溶媒および溶質を含む、殆どの他の一次または二次電池組成物の要素と共に十分に機能する。例えば、公知の充電式電気化学的-電池の製造において、通常使用される電解液組成物は、本発明の電池において同様に十分に機能する。これらの電解液組成物は、1種またはそれ以上の金属塩、例えばリチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、およびイットリウムの塩を含むが、これらに限定されない金属塩を含むことができる。このような金属塩は、溶融塩溶液または迅速なフッ化物の拡散を与える塩であり得る。通常の環式および非-環式溶媒、例えばエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびこれらの混合物中に溶解されたリチウム塩、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4等を使用することができる。本発明の鉄オキシフルオライド複合体の最適化に関連して、電解質成分の特定の組合せは、電池製造業者にとって好ましいものとなり、また該電池の意図した用途に依存する可能性があるが、LiBF4等の溶質の使用に対して考慮する必要があり、該溶質は、電池のサイクル中に、加水分解的に、幾つかの金属フルオライドの最適性能に影響を及ぼす恐れがあるHFを形成することは稀である。このような理由から、例えばLiBF4:プロピレンカーボネート電解液は、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート混合物に分散させたLiPF6の長期に渡り使用される標準的な溶液を含むものに対して使用することができる。
【0068】
更に、本発明の鉄オキシフルオライド複合体は、ポリエチレンオキサイド(PEO)等の化合物由来の、固体イオン伝導性マトリックスを利用する固体ポリマー電池に組込むことができる。本発明の鉄オキシフルオライド複合体は、また薄膜堆積技術によって製造することができ、またガラス状の電解液を利用する、固体薄膜リチウムバッテリに組込むことができる。最後に、このような電極材料は、電解液としてイオン性液状溶媒を用いる電池に組込むことができる。
【0069】
同様に、電気化学的電池の負電極部材は、有利には、広範に利用されている公知のイオン源、例えばリチウム金属およびリチウム合金、例えばリチウムスズ、リチウムケイ素、リチウムアルミニウム等で構成されるもの、リチア処理された(lithiated)炭素、例えばコークス、ハードカーボン、グラファイト、ナノチューブ、またはC60、およびリチア処理された金属窒化物等のいずれかを含み得る。電気化学的電池の該負電極部材は、また更にマグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、またはイットリウムをベースとする負電極を含むこともできる。
【0070】
ある範囲に渡る値が与えられている場合、他において関係が明確に述べられていない限り、該範囲およびあらゆる他の述べられた範囲の上限と下限との間の、該下限値の1/10までの各値および該述べられた範囲内に入る値は、本発明の範囲内に入る。これらより狭い範囲内に独立して含まれる可能性のある、これらより狭い範囲の上限および下限は、本発明の範囲内に含まれ、但し該述べられた範囲におけるあらゆる具体的に排除された限界を除く。該述べられた範囲が、該限界の一方または両者を含む場合、これらの含められた限界の何れかまたは両者を排除する範囲も、本発明に含まれる。
【0071】
特に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明の属する分野における当業者により、通常理解されるものと同様な意味を持つ。ここに記載されたものと類似または同一のあらゆる方法および物質も、本発明の実施またはテストにおいて使用することができるが、好ましい方法並びに物質を、次に説明する。ここに述べられた全ての刊行物は、該刊行物が引用された点に関連する、方法および/または物質を開示しかつ説明するための、参考としてここに組入れる。
【0072】
本明細書および添付した特許請求の範囲において使用しているような、単数形「不定冠詞 (a)」、「および(and)」並びに「定冠詞(the)」は、文脈においてそうでないものと明確に述べられていない限り、複数形をも含むものであることを述べておかなければならない。本明細書において使用する全ての技術的および科学的用語は、夫々同一の意味を持つものである。
【0073】
本明細書において論じられた刊行物は、本特許出願の出願日前のその開示についてのみ与えられるものである。ここでは、本発明が、先行発明であるこのような刊行物に先行するものである権利を持たないことを承認したものと考えるべきではない。更に、与えられた刊行日は、実際の刊行日と異なる可能性があり、夫々個々に確認する必要があるかもしれない。
【0074】
以上本発明を特定の態様を参照して説明してきたが、当業者は、本発明の真の精神および範囲を逸脱することなしに、様々な変更を加えることができ、また等価なもので置換することができることを理解すべきである。更に、多くの改良を行って、特定の状況、物質、組成物、工程、処理段階(1または複数)を、本発明の目的とする精神および範囲に取入れることができる。全てのこのような改良は、ここに添付する特許請求の範囲内に含まれるものとする。
【実施例】
【0075】
以下の実施例は、当業者に対して、本発明を如何にして製造し、使用するかに関する完全な開示および説明を与える目的で提示されるものであり、また本発明者等がその発明であると考えるその範囲を限定するものでも、また以下の実施例が実施された実験の全てまたは唯一実施された実験であることを意味するものでもない。使用した数値(例えば、量、温度等)に関連して、正確さを保証すべく努力したが、幾分かの実験的誤差およびずれは、斟酌されるべきである。特に述べない限り、「部」は「質量部」であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度単位であり、また圧力は大気圧またはその近傍である。更に、該オキシフルオライド組成物は、全ての実施例において、FeOxF2-x(ここで、0<x≦1)として表されているが、1:1の酸素とフッ素との置換からのずれが起る可能性があり、また該オキシフルオライド組成物は、より正確には、FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)として表すことができる。
【0076】
実施例1.1:溶液製造法の方法論
調節可能な酸素含有率を持つナノ構造化された鉄オキシフルオライド物質を、金属としての鉄およびフルオロ珪酸(H2SiF6)の水性溶液から、溶液製造法により製造した。簡単に説明すると、粉末状態にある金属としての鉄(10g)を、141gの20-25質量%のフルオロ珪酸の水溶液中に溶解した。この混合物を40-45℃にて一夜放置して、該金属とフルオロ珪酸とを反応させた。過剰量の鉄金属を濾別した後、得られた緑色の溶液を、乾燥粉末が生成するまで、110℃にて空気中に放置した。別の製造経路は、該溶液を、110℃にて乾燥する前に、200℃にて2-3時間乾燥(例えば、攪拌式ホットプレート上で)することからなっていた。後者の方法は、処理時間を大幅に短縮した。これら2つの経路は、粉末状態にあるFeSiF6水和物化合物の合成を結果した。
【0077】
図30は、菱面体晶系R-3m型のFeSiF6.6H2O化合物に関するX-線回折パターンを例示するものであり、該化合物は、後に夫々アルゴンおよび空気中で、200℃にて加熱処理した際に、(110)、(101)、(111)、(210)、(211)および(220)回折ピークを持つ、正方晶系P42/mnm型のFeF2およびFeOxF2-xに完全に変換される。該FeF2およびFeOxF2-x化合物両者は、ルチル-型の構造で結晶化し、該オキシフルオライド化合物の該(hkl)回折ピーク全てが、純粋なフッ化物と比較して、大きな角度に向かってシフトすることが分かった。
【0078】
以下の表1は、本発明の化合物の単位格子体積(unit cell volume)および格子パラメータを示す。アルゴンを用いた熱処理後の、該溶液法により得たFeF2の格子パラメータは、市販のサンプルのものと十分に一致している(表1参照)。これとは対照的に、大きな角度に向かってシフトする(hkl)ブラッグ反射を示した、空気中で合成した該材料は、正方晶系のa-およびより詳しくはc-格子パラメータの減少を示した(表1参照)。アルゴン中での処理により得たFeF2と比較して、空気中での処理により得たFeOxF2-x化合物のルチル-型単位格子の収縮は、Fe2+のFe3+への酸化に由来するものであり、これは、同時に発生するO2-のフルオライドアニオンの小格子(sublattice)への直接的な置換よりも、そのサイズにおいてより小さい。該O2-およびF-アニオン両者は、そのサイズが小さいので、置換が、全アニオン小格子に渡りランダムに発生する可能性がある。
【0079】
表1
【0080】
図31は、無視できない酸素含有率を持つ鉄オキシフルオライドを得るための、FeSiF6水和物の空気中での熱処理の重要性を示すものである。図31は、市販のおよび溶液製造法による(即ち、アルゴン中で該FeSiF6水和物中間体をアニールすることにより得た)FeF2を空気中で200℃にてアニールした後に得られる構造上のパターンを、同様な条件下で、FeSiF6水和物を直接熱処理(空気中)した際に生成するものと比較して示した図である。これら2つの型のFeF2サンプルは、空気中でアニールした際に、単位格子体積の変動を殆どまたは全く示さずに、FeF2の初期の構造上の諸特性を維持していた。該熱処理期間の24時間への増大は、該FeF2の構造に大幅な影響を与えなかった。該市販のサンプルにおいて観測された唯一の変化は、少量のFe1.9F4.950.95H2O水和物の生成からなっていた。これとは対照的に、空気中で直接アニール処理された該FeSiF6.6H2O化合物は、大幅な体積収縮を示した(表1参照)。後者は、c-格子パラメータにおける減少によって引起され、これは、該フルオライド構造へのかなりの量の酸素の導入と関連する、(hkl)回折ピークの大きな角度に向かうシフトと一致している。
【0081】
実施例1.2:鉄(オキシ)フルオライド組成物に及ぼすアニール温度、時間および雰囲気の効果:X-線回折:
ここに記載された溶液製造法を使用して、FeF2化合物を合成した。このFeF2化合物は、市販品として得られるFeF2とは全く異なっていた。アルゴン(Ar)雰囲気の下で合成した場合、該合成されたFeF2化合物は、如何なる第二の相の存在の証拠も示さず、一方市販品として得た該FeF2は、少量のFe2F5.2H2O水和物を含んでいた。更に、該溶液製造法により得た化合物に関連するより広い回折ピークは、この新たに製造された物質の微結晶サイズ(22nm)が、市販品の値(>100nm)よりも一桁小さいことを示している(図1参照)。この微結晶のサイズは、(110)回折ピークを用いて、シェラー(Scherrer)の式によって決定された。
【0082】
150℃程度の低い温度にて空気中でアニールした場合、該FeSiF6水和物は、FeF2(Ar中でアニールした際に得られる)のものと類似する、P42/mnm空間群を持つルチル-型の正方晶系物質に添加されるが、図1に示したように、大きな角度に向かってシフトした全ての(hkl)由来の回折ピークを持つ。図1に示したように、該ルチル型の構造は、より高い温度および/またはより長いアニール期間に対して維持されたが、該(hkl)反射のシフトにおける系統的な増加を示した。このシフトは、空気中での該熱処理の温度および期間を調節することにより制御できた。図2に示したように、該(hkl)ピークの系統的なシフトは、該a-格子パラメータの減少が極めて小さい値に維持されているので、該c-格子パラメータおよびより詳しくはルチル型構造のc/a比の連続的な減少に換算された。200℃にて僅か1.5時間のアニール後に、該c-格子パラメータは、純粋なFeF2に対する3.30Åなる値に比して、3.21Åまで低下した。これは、空気中で24時間に渡りアニールした後には、更に3.12Åまで低下した。より低いc-格子パラメータが、200℃でアニールしたものではなく、200℃を越える温度にて、24時間までのアニール期間を使用して得られた。例えば、250℃にて8時間後には、該c-格子パラメータは、3.04Åまで低下した。
【0083】
該溶液製造法によって合成された該鉄オキシフルオライド材料の酸素含有率を、XRD解析により得たc-格子パラメータおよびBrink等(F.J.Brink, R.L.WhitersおよびL.Noren, J. Solid State Chem., 161, 31-37 (2001))により確立された相図を利用して評価した。図3は、c-格子パラメータに対してプロットした、該鉄オキシフルオライド材料の酸素含有率を示す。該溶液製造法は、FeOxF2-x化合物の製造を可能とする。ここでxは、純粋なFeF2(Ar中で4時間アニールした場合)から純粋なFeOF(250℃にて8時間アニールした場合)に及ぶ全ての範囲(図3)に渡る。しかしながら、FeOFのFe2O3およびFeF3への僅かな分解が、アニール温度を300℃まで高め、空気中で4時間アニールした場合に得られた。これは、低強度の付随的な反射の出現により明らかであり、該付随的反射は、両相に関係していると考えられる(図1)。同一の空間群R-3cにおいても結晶化する、FeF3およびα-Fe2O3の格子パラメータの類似性と組合せた、広く且つ低強度の回折ピークが、これら2つの相の識別を困難なものとしている。
【0084】
実施例2:炭素-鉄(オキシ)フルオライドナノ複合体
実施例2.1:炭素-FeF2ナノ複合体の合成
炭素-フッ化鉄ナノ複合体を、活性炭と、(i) 溶液製造法で得たFeF2、または(ii) 市販のFeF2と共に機械的に粉砕することにより製造した。ヘリウム(He)で満たしたグローブボックス中、または湿度<1%の乾燥室(空気)中で、粉砕容器を満たし、また封止した。空気またはHe中での高エネルギー粉砕は、該フッ化鉄コア結晶構造に対して著しい影響を及ぼさなかった。該炭素をベースとするナノ複合体は、図4に示した如く、XRDによって立証されるように、その初期の正方P42/mnm晶系の対称性を維持していた。しかし、粉砕は、格子パラメータにおける僅かな変動を誘起し、これは55o 2θ領域における(220)および(002)ブラッグピークの分離によって補正された。この現象は、該溶液製造法で得たFeF2について一層顕著であり、ここで該分離は、a-格子パラメータの僅かな増加に由来し、これはc-格子パラメータの僅かな減少と同時に起る(表2参照)。
【0085】
表2
【0086】
最後に、粉砕は、回折ピークの広がりをもたらす。これは、(110)ブラッグピークを用いた上記シェラーの式に基いて決定された、該フッ化鉄ナノ結晶領域の、12-15nmへの減少と関連しており(表2参照)、また初めにマクロ構造状態にあった市販の物質についてより顕著であった。
【0087】
該粉砕雰囲気は、該溶液製造法により得たFeF2および該市販のFeF2から得たナノ複合体のバルク構造に対して著しい影響を及ぼさなかったが、これは該物質の電気化学的性能に著しい影響を及ぼした。2-電極式コイン型電池(Hohsen, CR2032, 径20mmおよび厚み3.2mm)を用いて電気化学的テストを行った。ここで、該電池は、He-充填ドライボックス内で、リチウム箔対電極およびエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート電解液(50:50容量%)中に1MのLiPF6を分散させた液で飽和させたガラス繊維セパレータ(GF/D、ファットマン(Whatman)製)を用いて組立てた。これら電池を、60℃にて、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧にて、50mA/gなる定電流条件下で、充-放電サイクルに掛けた。15%の活性炭を含む該ナノ複合体の放電容量を、サイクル数の関数としてプロットし、かつ全てのサンプルが貧弱なサイクル寿命を示している、図5に示されるように、He中で粉砕されたナノ複合体と比較して、改善されたサイクル安定性が、空気中で粉砕されたナノ複合体について観測された。該フッ化鉄(FeF2)の源とは無関係に、即ち該フッ化鉄が市販品であれ、溶液製造法により作られたものであれ、このような改善が観測された。
【0088】
両FeF2源を用いてHe中で粉砕したものと比較して、ブルナウアー(Brunauer)、エメット(Emmet)およびテラー(Teller)(BET)の表面積における僅かな増加が、空気中で粉砕した後に得られたナノ複合体について観測された(表2参照)。理論に拘泥するものではないが、これらの結果は、該物質の表面形態および化学的性質における変動が、空気中での粉砕中に最も起り易いことを示唆しており、更にまた、バルクの化学的性質ではなく寧ろ表面の化学的性質が、空気中での粉砕により製造したナノ複合体について観測される、改善された安定性の源であることを示唆している。従って、酸化鉄またはオキシフルオライドの薄い表面層の形成は、サイクル安定性にとって有益であり得る。
【0089】
実施例2.2:炭素-FeF3ナノ複合体の合成:
炭素-フッ化鉄ナノ複合体を、活性炭とFeF3とを機械的に粉砕することによって製造した。粉砕用セルに、15%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)、ノリット(Norit)社製]を含む材料1gを投入し、空気中またはHe中で粉砕した。図6は、粉砕前後のFeF3に関するXRDデータを示す。該粉砕用雰囲気とは無関係に、FeF3の微結晶サイズの減少(図6)(ブラッグ反射の広がりによって示される)が、粉砕の後に観測されたが、FeF3の初期菱面体晶系R-3c構造は維持されていた。図7は、サイクル数に対して、放電比容量(mAh/g)をプロットした図である。空気中での粉砕は、前記FeF2ナノ複合体について見られた結果と同様に、He中での粉砕を越えて改善された、電気化学的性能を誘発した(図7参照)。これら材料を、リチウム(Li)金属に対して、60℃にて、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧にて、50mA/gなる定電流条件下での、充-放電サイクルに掛けた。理論に拘泥するものではないが、該粉砕用の雰囲気(milling atmosphere)は、FeF3のバルク構造および化学的性質に影響を及ぼさなかったので、この改善は、該FeF3の表面において起る変化に由来するものであると考えられる。
【0090】
実施例2.3:炭素-鉄オキシフルオライドナノ複合体の合成:
炭素-鉄オキシフルオライドナノ複合体を、上記溶液製造法で作成した鉄(オキシ)フルオライド材料を用いて製造した。該鉄(オキシ)フルオライド材料(FeOxF2-x)は、様々な組成を持つものであり、また純粋なFeF2からFeOFに至る全範囲に渡る組成を含んでいた。これらの鉄(オキシ)フルオライドを、15%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)、ノリット(Norit)社製]と共に1時間粉砕した。全体で1gの材料を、焼入れ鋼ミル用セルに、1%未満の水分を含む乾燥室内で装入した。
【0091】
空気中での粉砕は、該鉄(オキシ)フルオライドのコア構造に著しい影響を与えることはなかった。図8は、XRDデータを示すものであり、該データは、該炭素をベースとするナノ複合体が、全て、初めの鉄オキシフルオライドの正方P42/mnm晶系の対称性を維持していることを示している。粉砕の際のc-格子パラメータの変動は、統計的に有意なものではなかった。Brink等(F.J.Brink, R.L.WhitersおよびL.Noren, J. Solid State Chem., 161:31-37 (2001))により報告された相図に基けば、該c-格子パラメータが、3.212±.004〜3.023±.013なる範囲に及んでいるので、該FeOxF2-xオキシフルオライドをベースとするナノ複合体の酸素含有率は、x=0.28からx=1までに渡っている。
【0092】
痕跡量のFe3F8.2H2Oが、空気中で、200℃にて1.5〜4時間アニールされた、溶液製造法由来の鉄オキシフルオライドを用いて製造したナノ複合体において観測された。更に、最初にマクロ構造を有していた市販のFeF2の場合に、より顕著であった、該回折ピークの僅かな広がりは、得られたナノ複合体の該鉄(オキシ)フルオライドナノ結晶領域が、粉砕の際に7-15nmまで低下した。これは、(110)ブラッグピークを用いて上記シェラーの式に基いて決定された。
【0093】
該ナノ複合体を含むカソードを、60℃にて、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧にて、定電流(50mA/g)条件下で、リチウム金属の対電極を使用した、2-電極式コイン型電池においてテストした。その電解液は、エチレンカーボネート-ジメチルカーボネート(EC-DMC 50:50(v/v))中に1MのLiPF6を分散させた液からなっていた。図9は、サイクル数の関数としてプロットされた、15%の活性炭を含むオキシフルオライドをベースとするナノ複合体の放電比容量(mAh/g)を示す図であり、また作成された(即ち、市販品および溶液製造法によるFeF2から作成された)FeF2をベースとするナノ複合体と比較した。全てのオキシフルオライドをベースとするナノ複合体は、該FeF2をベースとするナノ複合体と比較して、改善されたサイクル安定性を示した。
【0094】
容量保持率を、該ナノ複合体のc-格子パラメータに対して、2サイクル目の放電容量対30サイクル目の放電容量の比をプロットすることにより、30サイクル後に評価した。図10に示した如く、(実施例1において立証された如く、表面への酸素の導入とは逆に)該フルオライド構造への酸素の導入は、サイクル寿命に有益な影響を与えることが観測された。該サイクル効率は、該市販のFeF2および溶液製造法によるFeF2材料に対する40-50%から、該オキシフルオライド材料に対する79-89%へと上昇した。比較のために、FeF3をベースとするナノ複合体は、同一のプロトコールの下でテストした場合、54.1%なるサイクル効率を示した。
【0095】
該著しい増大が、最小限の酸素置換によって誘発された後、図10のデータは、3.21-3.09Åなる範囲内で、c-格子パラメータの減少に伴って、容量保持率が連続的に増加することを示唆しており、これは、該FeOxF2-x化合物における0.28〜0.75なる範囲の酸素含有率(x)における増加に相当する(凡その値)。純粋なFeOFを生成するために該酸素含有率を増加することにより、サイクル効率が更に改善されることはない。しかし、更なるサイクル寿命の改善は、該オキシフルオライドの製造の際に、酸化が、純粋なFeOFを越えて進められた場合に達成され、これは少量のFe2O3およびFeF3の生成に導く。該オキシフルオライド構造への酸素の導入によってもたらされる、サイクル寿命におけるこの改善は、初期放電容量を犠牲にして達成された。
【0096】
実施例2.4:炭素-フッ化鉄-鉄オキシフルオライドナノ複合体の合成:
炭素-鉄(オキシ)フルオライドナノ複合体を製造した。FeF3と市販のFeF2との混合物または溶液製造法によるオキシフルオライドを、高エネルギー粉砕を利用して、活性炭素と共に1時間粉砕した。様々な組成が使用できた。本実施例においては、該ナノ複合体を、43.5質量%のFeF2またはオキシフルオライド、43.5質量%のFeF3および13質量%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)、ノリット(Norit)社製]を含む混合物から製造した。材料(1g)を、He中または空気中で粉砕した。図11に示したような、He中で粉砕することにより得たナノ複合体のXRDパターンおよび図12に示したような、空気中で粉砕することにより得たナノ複合体のXRDパターンは、何れの場合にも、FeF2またはオキシフルオライドと関連する正方晶系P42/mnm相およびFeF3と関連する菱面体晶系R-3c相が維持されていることを示している。
【0097】
60℃にて、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧にて、50mA/gなる定電流条件下で、リチウム金属に対する2-電極式コイン型電池において、充-放電サイクルを行った。図13は、サイクル数に対して、放電比エネルギー密度(mWh/g)をプロットしたグラフを示す。FeOxF2-x+FeF3混合物の空気中での粉砕は、He中で粉砕することにより得たナノ複合体と比較して、同様なエネルギー密度と共に、改善されたサイクル安定性をもたらした(図13参照)。これらの結果は、前の実施例において論じた該FeOxF2-xナノ複合体およびFeF3-ナノ複合体について観測された結果と一致する。更に、FeOxF2-xオキシフルオライドを製造するための、該ルチル型構造への酸素の導入は、FeF3の存在下においてさえ、純粋なフルオライドFeF2と比較して、該材料のサイクル安定性にとって有益であった。
【0098】
実施例2.5:炭素-フッ化鉄ナノ複合体の合成:粉砕後のアニール:
前の実施例では、初めのオキシフルオライドの酸素含有率を、粉砕前に、如何にして変更できるかを示した。しかし、該ナノ複合体の酸素含有率は、また酸素-含有雰囲気中で、高い温度にて粉砕後のアニールを行うことによって、高めることができる。
【0099】
実施例2.5.1:粉砕後のアニール温度の効果:
本態様においては、200℃にて4時間上記FeSiF6水和物粉末をアニールした後に得られるオキシフルオライドを、15質量%の活性炭と共に空気中で1時間の溶液製造法で粉砕することにより製造したナノ複合体に及ぼす、粉砕後のアニール温度の効果を検討した。空気中における粉砕後のアニール温度の、200℃から400℃への増加に伴う、該ナノ複合体のXRDパターンを得た。粉砕後のアニールは、また300℃にて酸素中でも行った。全ての粉砕後のアニールは、2時間実施した。
【0100】
図14は、粉砕および粉砕後の熱処理後に得たナノ複合体と共に、初期オキシフルオライドのXRDパターンを示す。該ナノ複合体オキシフルオライドの酸素含有率は、該正方晶系P42/mnm(hkl)回折ピークの大きな角度に向かう系統的なシフトによって示されるように、粉砕後のアニール温度と共に増大した。該FeOxF2-x相のFe2O3+FeF3への部分的な分解は、角度2θ24°領域における回折ピークの強度増加によって示されるように、より高温度でのアニール後により顕著なものとなる。
【0101】
該ナノ複合体を、60℃にて、1.5〜4.5Vにて、50mA/gなる条件下で、2-電極式コイン型電池を用いて、リチウム金属に対してテストした。図15に示したように、その放電比エネルギー密度をサイクルの関数としてプロットした。該材料の電気化学的性能に及ぼす影響は、250℃以上において顕著となり、改善されたサイクル安定性および低い放電エネルギーを伴う。しかし350℃を越える温度増加は、有害であった。空気中での300℃における粉砕後のアニールは有益であったが、酸素中での300℃における粉砕後のアニールは、該材料の電気化学的性能にとって有害であると考えられた。最適な性能は、制限された酸化によって得られた。
【0102】
実施例2.5.2:粉砕後のアニール温度の効果:
本態様においては、13%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)]と共に、鉄オキシフルオライドおよびFeF3の50質量%-50質量%混合物から得たナノ複合体を、空気中で2時間、粉砕後のアニール処理に掛けた。図16は、これについて得られたXRDパターンを示す。図16は、アニール温度を200℃から450℃に高めた際に、該正方晶系FeOxF2-xの(101)および(211)ピークが、大きな角度に向かって系統的にシフトすることを示している。該粉砕後のアニール温度における増加は、該ナノ構造化されたオキシフルオライドの酸素含有率の増加へと導く。前に実施例2.4において観測された、高温度におけるFeOxF2-xの分解は、初期FeF3の存在のために、このサンプル中で検出することは一層困難であろう。事実、FeF3およびFe2O3の(012)反射は、それぞれ23.8°および24.1°に現れる。
【0103】
60℃、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧、50mA/gなる定電流条件下での、2-電極式コイン型電池におけるリチウム金属に対するサイクルは(図17参照)、300℃までの温度上昇に伴う、該ナノ複合体の電気化学的性能の系統的な改善を明らかにする。更なる温度の上昇は、該材料の電気化学的諸特性の劣化をもたらした。FeOxF2-x-FeF3をベースとするナノ複合体の最適な性能を得るためには、該粉砕後の温度は、200〜300℃なる範囲内にある。
【0104】
実施例2.5.3:粉砕後のアニール温度の効果:
本態様においては、13%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)]と共に、オキシフルオライドおよびFeF3の50質量%-50質量%混合物から得たナノ複合体を、酸素中で2時間、粉砕後のアニール処理に掛けた。実施例2.5.2は、空気中での粉砕後のアニール処理を説明するものである。図18は、これらのナノ複合体に見られたXRDデータを示す。該空気中での粉砕後のアニール処理について観測されたように、アニール温度を200℃から300℃に高めるのに伴って、該正方晶系FeOxF2-xの(101)および(211)ピークは、大きな角度に向かって系統的にシフトする(図18参照)。従って、該酸素中での粉砕後の、アニール温度における上昇は、該ナノ構造化されたオキシフルオライドの酸素含有率の系統的な増大に導く。
【0105】
酸素中で粉砕後のアニール処理に掛けた、該FeOxF2-x-FeF3をベースとするナノ複合体を、2-電極式コイン型電池におけるリチウム金属に対してテストした。60℃、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧、50mA/gなる定電流条件下で、サイクルを行った。図19は、以下の4つの条件下での、サイクル数に対する放電比エネルギー密度をプロットしたものである:(1)粉砕後のアニールなし;(2) 200℃にて2時間;(3) 250℃にて2時間;(4) 300℃にて2時間。該材料の容量保持率は、200℃における酸素中での粉砕後のアニールによって改善された(図19参照)。より高温度下で行った、酸素中での粉砕後のアニールは、該ナノ複合体の電気化学的性能にとって有害である。
【0106】
実施例2.6:2.4-4.5Vなる範囲に渡るサイクル:
本態様においては、電気化学的テストを、2.4-4.5Vなる範囲に狭めた。以前の電気化学的テストは、1.5〜4.5Vなる範囲内で行われた。図20は、以下の3例に関して、サイクル数に対する放電比エネルギー密度を示す:(1) 上記溶液製造法により得たナノ構造化されたFeOxF2-xから製造したナノ複合体;(2) (粉砕後)300℃にて2時間に渡り加熱処理された、ナノ構造化されたFeOxF2-xから製造したナノ複合体;および(3) マクロ-FeF2をベースとするナノ複合体。ナノ構造化されたFeOxF2-xから製造したナノ複合体(1)および(2)両者は、該マクロ-FeF2をベースとするナノ複合体(3)と比較して、これらが、サイクルに掛けた際に、高いエネルギー密度およびより良好な容量保持率を示す点において、より改善された電気化学的性能を示した。
【0107】
実施例3:マンガンおよびニッケル置換:
本態様においては、上記溶液製造法において、金属としての鉄にマンガンおよびニッケルを添加した。図21は、(1) 10質量%のMn-90質量%のFe、(2) 25質量%のMn-75質量%のFeおよび(3) 50質量%のMn-50質量%のFe混合物を、該ヘキサフルオロ珪酸の水性溶液に添加した際に得られたナノ複合体のXRDパターンを示す。100質量%のFeサンプルに関するXRDパターンを、比較の目的で加えた。図22は、同様な割合で鉄にニッケルを添加した場合に得られたパターンを示す。全てのサンプルは、空気中で4時間アニールされた、該マンガンまたはニッケル置換されたFeSiF6水和物を、15質量%の活性炭[Aスプラ(ASupra)]と共に、空気中で1時間粉砕することによって得た。次いで、該ナノ複合体を、300℃、2時間の粉砕後のアニール処理に掛けた。図21および図22は、全てのナノ複合体が、正方晶系P42/mnm構造を維持していることを示す。以下の表3に示すように、添加されたマンガンの量に伴う、回折ピークの小さい角度に向かう系統的なシフトは、ルチル型の構造における、Fe2+のより大きなMn2+による置換の際の、正方晶系単位格子体積の増加と関連している。ニッケルを添加した場合には、該構造の体積変化は、さほど大きくはない。ニッケルの場合には、相分離が生じ、鉄オキシフルオライドとフッ化ニッケルとのナノ複合体を生成するものと考えられる。
【0108】
表3
【0109】
図23は、サイクル数の関数としてプロットされた、MnおよびNi置換した鉄オキシフルオライドナノ複合体の、放電比エネルギー密度を示す。これらの材料を、60℃、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧、50mA/gなる定電流条件下でテストした。このテストは、全てのナノ複合体が電気化学的活性を示し、10〜50質量%のMnまたはNiの添加が、電気化学的性能を改善しないことを示している。このことは、より高い置換度において、より一層間違いのないものであった。
【0110】
実施例4:リチウムをベースとするリン酸塩の添加:
理論により何ら制限されるものではないが、これら実施例においては、リン酸リチウムをベースとする化合物を、プリカーサとして使用したが、製造後に、様々な量のリン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸鉄、フルオロリン酸鉄、およびフルオロリン酸鉄リチウムが、鉄フルオライド/オキシフルオライドと、リン酸リチウム化合物との間の化学反応を通して形成される可能性があるものと思われる。更に、同様な電気化学的性能における改善が、(NH4)2HPO4およびNH4H2PO4プリカーサの使用により観測されたが、このことは、鉄フルオライド/オキシフルオライドとの化学反応の結果として生成されるフルオロリン酸鉄またはリン酸鉄の存在が、観測された通り、改善されたサイクル安定性に導くことを示唆している。
【0111】
実施例4.1:リチウムをベースとするリン酸塩およびフッ化鉄ナノ複合体:
本態様においては、FeF3ナノ複合体を、10質量%のリチウムをベースとするリン酸塩、例えば、Li3PO4およびLiH2PO4および15質量%の活性炭(Aスプラ)を用いて製造した。該材料(全体で1g)を粉砕用セルに装入し、≦1%の水分を含む乾燥室で、空気中で封止した。図24は、得られたナノ複合体のXRDパターンを示す。これは、リン酸リチウムの添加が、該電気化学的に活性なフルオライドFeF3の本体に対して、如何なる構造変化をももたらさなかったことを示している。図25は、以下の3種のこのようなナノ複合体に関する、サイクル数に対する、放電比容量(mAh/g)をプロットしたものである:(1) 空気中で1時間粉砕されたFeF3および15%のAスプラ;(2) 空気中で1時間粉砕されたFeF3および10%のLi3PO4および15%のAスプラ;および(3) 空気中で1時間粉砕されたFeF3および10%のLiH2PO4および15%のAスプラ。60℃、1.5〜4.5V、および50mA/gなる条件下での、リチウム金属に対する電気化学的テストは、リン酸リチウムの添加が、容量保持率を改善することを示した(図25参照)。リン酸水素リチウムLiH2PO4を用いて製造したナノ複合体は、Li3PO4を用いて製造したナノ複合体よりも優れた性能を示した。
【0112】
実施例4.2:リチウムをベースとするリン酸塩および鉄オキシフルオライドナノ複合体:
本態様においては、鉄オキシフルオライドをベースとするナノ複合体を、リチウムをベースとするリン酸塩を用いて製造した。空気中で4時間アニール処理したFeSiF6水和物を、15質量%の活性炭Aスプラ(ASupra)および10質量%のLiH2PO4と共に、空気およびヘリウム中で粉砕した。更に、電気化学的性能に及ぼすLiH2PO4の影響を評価するために、該オキシフルオライドを、15質量%の活性炭のみを用いて空気中で粉砕した。図26に示された、LiH2PO4を使用しまたは使用せずに得た、該鉄オキシフルオライドナノ複合体のXRDパターンは、該鉄オキシフルオライド化合物のルチル型構造が、粉砕後に維持されていることを立証している。
【0113】
図27は、以下のような3種のナノ複合体に関する、サイクル数に対する、放電比容量(mAh/g)をプロットしたものである:(1) FeSiF6水和物を、200℃にて空気中で4時間アニールし、次いで15%のAスプラと共に空気中で1時間粉砕して得たもの;(2) FeSiF6水和物を、200℃にて空気中で4時間アニールし、次いで10%のLiH2PO4および15%のAスプラと共にHe中で1時間粉砕して得たもの;および(3) FeSiF6水和物を、200℃にて空気中で4時間アニールし、次いで10%のLiH2PO4および15%のAスプラと共に空気中で1時間粉砕して得たもの。これは、10%のLiH2PO4の添加が、サイクル安定性を改善し、しかも粉砕用雰囲気両者において、放電容量(図27)を維持していたことを示している。該複合体の電気化学的テストを、60℃、1.5〜4.5V、および50mA/gなる条件下で、リチウムに対して行った。更に、上記と同様な量および方法で添加される、リン酸水素アンモニウムプリカーサ((NH4)2HPO4またはNH4H2PO4)の使用は、顕著な改善をもたらした。
【0114】
実施例4.3:リチウムをベースとするリン酸塩、鉄(オキシ)フルオライドナノ複合体:
本態様においては、以下の3つの型のナノ複合体を、機械的粉砕によって製造した:(1) 溶液製造法によるFeOxFy、鉄オキシフルオライド;(2) 市販のFeF2;および(3) 市販のFeF3を、夫々10%のLiH2PO4と共に粉砕した。先ず該材料(1g)を、粉砕セルに投入し、Heで満たされたグローブボックス内に封入した。第二に、得られたナノ複合体(0.56g)を、15%の活性炭(Aスプラ)と共に、同様にHe中で1時間粉砕した。得られたこれらサンプルを、60℃、1.5〜4.5V、50mA/gなる定電流条件下で、電気化学的にリチウムに対してテストした。図28は、サイクル数に対して、放電比容量(mAh/g)をプロットしたものである。この図は、該オキシフルオライドが、純粋なフルオライドよりも良好な電気化学的性能を呈することを示している。如何なるリン酸塩も使用することなしに、15%の炭素を用いて製造したナノ複合体について観測された如く、該フルオライド構造への酸素の添加は、サイクル安定性を改善し、しかも純粋なフッ化鉄と比較して高い容量を維持することが立証された。
【0115】
実施例5:VC添加剤の利用
本態様においては、3.073±0.01Åなるc-格子パラメータを有するFeOxF2-x-ナノ複合体(ほぼFeO0.85F1.15なる組成に相当する)を、60℃、1.5〜4.5V、50mA/gなる定電流条件下で、リチウムに対してサイクルさせた。該FeOxF2-x材料は、FeSiF6水和物を、200℃にて4時間空気中でアニールすることにより上記溶液製造法で作成したオキシフルオライドを、粉砕した後に得られた。15%の活性炭と共に空気中で1時間粉砕した後、該サンプルを、空気中で2時間の、300℃における熱処理に掛けた。電気化学的テストを、(1) 1MのLiPF6のEC:DMC(50:50容量%)溶液を電解液とし、(2) 電解液と添加剤としての1質量%のVC、および(3)電解液と添加剤としての2質量%のVCを使用して行った。図29は、サイクル数に対して、放電比容量(mAh/g)をプロットしたものである。この図は、上記濃度での該VC添加剤が、一般的にサイクル寿命を改善することを示している。より高濃度のVCは、放電容量を僅かに低下する。
【0116】
実施例6:金属硫化物および鉄および鉄オキシフルオライドナノ複合体
本態様においては、10-20%の金属硫化物および15%の活性炭(Aスプラ)を使用して、フッ化鉄および鉄オキシフルオライドからナノ複合体を製造した。金属硫化物は、FeS2およびNiS2を含んでいた。該フッ化鉄の粉砕は、ヘリウム中で行い、一方該オキシフルオライドは、空気中で粉砕した。本態様において使用したフッ化鉄FeF2は、市販品として入手したものであり、一方該鉄オキシフルオライドは、上記溶液製造法に従って合成された。
【0117】
全ての電池を、60℃、1.5〜4.5V、50mA/gなる定電流条件下で、リチウム金属に対してテストした。
【0118】
図32は、以下の3種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電(即ち、比)容量(mAh/g)を示す:(1) 15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2;(2) 10%のFeS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2;および(3) 20%のFeS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2。図32は、金属硫化物の添加が、改善された容量保持率を与え、かつ活性炭のみを使用して製造したこれらナノ複合体と比較して、放電容量を維持または改善することを示している。
【0119】
図33は、以下の3種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電(即ち、比)容量(mAh/g)を示す:(1) 15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2;(2) 10%のNiS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2;および(3) 20%のNiS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2。図33は、金属硫化物の添加が、改善された容量保持率を与え、かつ活性炭のみを使用して製造したこれらナノ複合体と比較して、放電容量を維持または改善することを示している。
【0120】
図34は、以下の2種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電(即ち、比)容量(mAh/g)を示す:(1) 上記溶液製造法によって、15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、空気中で1時間粉砕することにより得た、鉄オキシフルオライド;および(2) 上記溶液製造法によって、10%のFeS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、空気中で1時間粉砕することにより得た、鉄オキシフルオライド。図34は、金属硫化物の添加が、改善された容量保持率を与え、かつ金属硫化物の使用なしに製造したナノ複合体と比較して、放電容量を維持または改善することを示している。
【0121】
上記全ての実施例において、金属硫化物の添加は、改善された容量保持率を与え、かつ活性炭のみを使用して製造したナノ複合体と比較して、放電容量を維持または改善する。該フッ化鉄およびオキシフルオライドに添加された該金属硫化物の更なる研究は、金属硫酸塩の存在を明らかにした。硫酸鉄(Fe2(SO4)3)を含む金属または無機硫酸塩および硫酸水素アンモニウム(NH4HSO4)の検討も、これらが、活性炭のみを使用して製造したナノ複合体と比較して、改善されたサイクル安定性を示すことを明らかにした。
以上、本発明を、本発明の原理を例示するが、本発明を該例示された態様に限定するものではない、態様を参照しつつ説明した。以上の詳細な説明を読み、理解した際には、その他の点に対する改良並びに変更を行うこともできる。本発明の範囲は、上記の詳細な説明を読み、理解した際に、その他の点に対して行うことのできる、全ての改良並びに変更をも、これらが添付した特許請求の範囲、あるいはその等価なものの範囲内に入るものである限り、包含するものである。
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本特許出願は、2008年、5月23日付で出願された、米国仮特許出願第61/055,791号に係る優先権の利益を請求するものである。該米国仮特許出願の内容全体を、参考としてここに組入れる。
【0002】
(政府投資に係る陳述)
この発明は、米国政府による支援の下で行われた。該政府は、この発明における幾分かの権利を共有する。
【0003】
本発明は、電気的エネルギーを貯蔵しおよび供給する手段としての、イオンを取込み、また放出する物質を利用する、一次および二次化学的エネルギー貯蔵システム、特に蓄電池等のシステムに関するものである。
【背景技術】
【0004】
リチウム再充電式バッテリは、携帯式エレクトロニクス用途用の、最初のエネルギー貯蔵デバイスである。しかし、該電池のエネルギー密度の改善に対する重大な必要性が、残されている。このようなエネルギー密度増大の実現に対する主な制限因子は、該電池の正電極材料である。
【0005】
あらゆるリチウム二次バッテリは、リチウムの挿入に際して、結晶構造を維持している層間化合物製の正電極を使用している。該ホスト構造は、その格子がLi+の挿入の際に僅かに膨張し、収縮しまたは変形した場合においてさえ、そのまま維持される。該層間化合物の全てにおいて存在する遷移金属は、多重電子移動を可能とし、結果として高い容量の実現を可能とするが、制限されたリチウム空格子点は、該構造に対する更なるリチウムの組込みおよび結果としてのより多くの電子の電荷移動を阻害する。更に、該遷移金属ジカルコゲニド結合の共有原子価は、電池反応の電圧を低下する。最も普及している遷移金属ジカルコゲニドは、共通の結晶構造を持ち、かつ一群の層状の、高度に異方性の化合物を生成する。
【0006】
この挿入過程とは対照的に、該ホスト金属が、その金属状態にまで完全に還元されるにつれ、転化過程は、該ホスト金属のレドックス電位全てを完全に利用することができる。金属フッ化物の特殊な場合において、この遷移は、金属フルオライド化合物が著しくイオン性であるという事実のために、レドックス電位が、溶液内の自由イオンの電位に近づくにつれて、準-イオン-様の挙動をとる。該金属フルオライドの転化反応は、LiFおよび2-5nmなる大きさの金属(Me)生成物の生成へと導く。該MeFx構造の可逆性およびその結果としての再生は、これらの熱力学的に極めて安定な反応生成物間の極めて小さな拡散距離のために、その後の充電の際に起り得る。実際の結果は、層状の層間化合物に関する274mAh/gから該可逆性転化金属トリフルオライドに関する>700mAh/gまでに及ぶ、該正電極の比容量における理論的な改善である。これは、以下の式[1]で表すことができる:
【0007】
xLi+ + xe- + MeFx ←→ xLiF + Me [1]
【0008】
フッ化物が可逆的に転化する能力に関する理論的な証明は、別々にしかも並行して行われた以下の成果によって明らかにされている:Hong(Li, H.等, Adv. Mater. 15:736-739. 2003)およびBadway(Badway, F.等, J Electrochem. Soc. 150(10):A1318-A1327. 2003; Badway, F.等, J Electrochem. Soc. 150(9):A1209-A1218. 2003)。Hongの研究は、TiF3化合物の使用を含んでいた。可逆的転化は、TiF3の再生を示唆するラマンスペクトル法を利用することにより確認されたが、その電気化学的データは、多重サイクルの可逆性を示した。Badwayの方法は、典型的にはより絶縁性の高い、より高い電圧の金属フルオライドに着目した。FeF3、FeF2、NiF2およびCoF2ナノ複合体は、電気化学的諸特性の発揮を可能とするために、導電性炭素マトリックスを用いて作られた。これらナノ複合体は、アモルファス炭素マトリックスによって封入されたMeFx(10-30nm)のナノ微結晶領域(nanocrystalline region)を持つ、比較的小さな表面積を持つものであった。600mAh/gおよび400mAh/gなる値を越える比容量が、夫々FeF3およびNiF2について、70℃において明らかにされた。この方法は、FeF3、FeF2、NiF2、CoF2、並びにCrF3、CrF2およびBiF3を含む広範囲に渡る化合物の理論的な電圧の実現へと導いた。
【0009】
このナノ複合体の利用は、CFxの値に近い理論的容積エネルギー密度を持つ、ほぼ理論的比容量を実現する。これら材料の例外的なレート能力(rate capability)およびその可逆性は、その場でのX-線回折法(XRD)およびX-線吸収スペクトル法(XAS)の利用によって、起ることが示されている。可逆性は、更に3LiF+Feナノ複合体の予備的な製造およびサイクル処理、これによるLi-イオン配置において利用されるはずの、第一の充電中のリチウムの遊離によって示された。
【0010】
該MeF3構造の多くは、角部に割当てられたMeF6八面体構造および空状態の「A」サイトからなる、基本的な立方型電池ユニットに基く、PdF3-ReO3構造に関連付けられている。これら結晶構造の割当て対する妨害は殆ど無く、そのため該ReO3構造から該PdF3構造に移動する際の、大きな結晶学的な歪がある。これらの構造は、空の八面体状の間隙を形成し、該間隙は、リチウムイオンの拡散を可能とする。カチオン空格子点は、多くのMeF6材料が、挿入状態を維持することを可能とし、またそのためにLixMeF3化合物、例えばTiF3、FeF3、およびVF3が生成される(Arai, H.等, J Power Sources. 68:716. 1997)。他の研究において、該MeF3化合物が、1e-挿入領域を維持し、引続き2e-転化反応を伴って、以下の反応[2]をもたらすことを明らかにしている:
【0011】
Li+ + e- + MeF3 ←→ LiMeF3
【0012】
2Li+ + 2e- + LiMeF3 ←→ 3LiF + Me [2]
【0013】
FeF3ナノ複合体の場合、該挿入メカニズムは、全く迅速であり、しかも極めて可逆性に富むことが分かった。
【0014】
新規な機械化学的に誘発される反応を利用して、金属フルオライドナノ複合体電極材料の合成に関する多くの研究が報告されている。絶縁性化合物CF1およびMeF2化合物の高エネルギー粉砕(milling)は、該MeF2化合物のMeF3への酸化を伴う、固体レドックス反応を結果する。この反応は、HT(高温製造された)CF1の酸化力による、MeF2化合物のMeF3への酸化により誘発された。得られた生成物は、以下の反応式[3]により表すことのできる、導電性炭素マトリックス中の、MeF3の微細なナノ複合体であった:
【0015】
CF1 + MeF2 → C + MeF3 [3]
【0016】
この機械化学的に誘導された酸化反応は、反応CrF2→CrF3およびFeF2→FeF3に対して上首尾で行われた。このような材料は、良好な可逆性とそれぞれ600mAh/gおよび500mAh/gを越える、優れた容量を示した。この技術は、CF1の理論的酸化能力以下の、Me2+→Me3+レドックスレベルを持つ、全ての金属フルオライドに対して適用された。
【0017】
最大の比エネルギー密度を持つ、フッ化鉄ナノ複合体の以前の製造方法は、導電性マトリックス、例えば炭素と共に、様々なフッ化鉄成分を、高エネルギー粉砕する工程からなっていた。このようなナノ複合体は、既存の材料に対して、エネルギー密度における顕著な改善をもたらしたが、該材料のレート能力(出力密度)における大幅な改善が必要とされる。その上、極めて小さなサイクル間容量減衰を伴って、該材料を反復的に放電および充電することができるように、該材料のサイクル効率における改善も必要となる。
【0018】
一つの新規な方法は、該活性電極材料として、鉄のオキシフルオライド材料を使用することである。このような材料は、以前に単離されていたが、リチウムバッテリ用の可能な電極材料として検討されたことはない。Brink等(F.J. Brink, R.L. WhitersおよびJ.G. Thompson, J. Solid State Chem., 155, 359-365. 2000)は、FeF2およびFeOFプリカーサを用いた、FeOxF2-x固溶体の固体合成について以前に報告したが、この製造技術の重大な欠点の一つは、これが前もってFeOFを合成する必要がある点にあり、これは925℃以下の温度にて製造することができない。更に、該FeOxF2-x固溶体の合成は、制御された雰囲気下で、かつ極めて高い温度(850℃にて3時間)条件下で製造されたが、この製造法は、巨大結晶性化合物の生成をもたらした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、電気化学的エネルギー貯蔵用の新規正電極材料および鉄金属およびフルオロ珪酸(H2SiF6)の水性溶液から、ナノ構造を持つ鉄(オキシ)フルオライドを合成するための溶液製造法をここに提供するものである。該溶液合成の原理は、高価でない、市販品として容易に入手できるプリカーサを使用して、FeF2からFeOFまでの全範囲に及ぶ組成を持つ、ナノ構造化された鉄(オキシ)フルオライド材料FeOxF2-xの、低温での製造工程を含む。FeSiF6水和物中間体の製造および該中間体の後の空気中におけるアニール処理は、該(オキシ)フルオライド材料の製造にとって決定的な段階である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
一局面によれば、本発明は、鉄オキシフルオライド複合体を含む、電気化学的エネルギー貯蔵電池用の正電極材料として使用するための組成物を提供する。一態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)で表される鉄オキシフルオライド化合物を含む。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の追加の金属を含む。他の態様によれば、該少なくとも1種の追加の金属は、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、鉄オキシフルオライドナノ微結晶(nanocrystallite)である。別の態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶は、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する。他の態様によれば、上記式において、x=yである。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更にイオン-および/または電子-伝導性マトリックスを含む。更なる態様によれば、該導電性マトリックスは炭素である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、混合導体である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属酸化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫酸塩(sulfate)である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、無機リン酸塩(phosphate)である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸鉄リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属窒化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属リン化物である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、正方晶系ルチル型構造を有し、また3.30Å未満の「c」格子パラメータを有するものである。
【0021】
もう一つの局面によれば、本発明は、メタロライト(metallolyte)複合体の製造方法を提供するものであり、この方法は、以下の諸工程:(a) Me種およびフルオロ珪酸を含む出発溶液(starting solution)を提供する工程;(b) 該出発溶液を反応させて、MeSiF6水性溶液を生成する工程;(c) 該MeSiF6水性溶液を、所定温度にて乾燥してMeSiF6水和物を含む粉末体とする工程;(d) 該粉末体を雰囲気中で熱処理して、メタロライト複合体を製造する工程を含み、ここで、Meは金属である。一態様によれば、該製造されるメタロライト複合体は、金属オキシフルオライドである。もう一つの態様によれば、該製造される金属複合体は、鉄オキシフルオライド化合物である。他の態様によれば、該製造されるメタロライト複合体は、金属フルオライドである。他の態様によれば、該製造されるメタロライト複合体は、フッ化鉄化合物である。他の態様によれば、Meは、Li、Ag、Fe、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、Nb、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、およびCuからなる群から選択される。他の態様によれば、MeSiF6はFeSiF6である。他の態様によれば、該工程(b)の反応は、約40℃〜約45℃なる範囲内の温度にて行われる。他の態様によれば、該工程(b)の反応は、約12時間〜約24時間なる範囲内で行われる。他の態様によれば、該工程(c)は、約110℃なる温度にて、空気中で行われる。他の態様によれば、該工程(c)は、約200℃なる温度にて、約2時間〜約3時間なる範囲内の期間に渡り、空気中で行われ、次いで更に約110℃なる温度にて加熱する段階を伴う。他の態様によれば、該工程(d)は、約150℃〜約300℃なる範囲内の温度にて行われる。他の態様によれば、該工程(d)は、アルゴン雰囲気中で行われる。他の態様によれば、該工程(d)は、空気雰囲気中で行われる。他の態様によれば、該工程(b)の終わりにおいて、該MeSiF6水性溶液に無機リン酸塩が添加され、それにより金属フルオライドまたはオキシフルオライド成分およびリン酸塩をベースとする成分を含むメタロライト複合体が製造され、ここでMeは金属である。他の態様によれば、該工程(c)の終わりにおいて、前記MeSiF6水和物粉末体に無機リン酸塩が添加され、それにより金属フルオライドまたはオキシフルオライド成分およびリン酸塩をベースとする成分を含むメタロライト複合体が製造され、ここでMeは金属である。他の態様によれば、該添加される無機リン酸塩成分は、約1%の無機リン酸塩成分〜約50%の無機リン酸塩成分を含む。他の態様によれば、該製造されたメタロライト複合体は、正方晶系ルチル型構造を有し、また3.30Å未満の「c」格子パラメータを有するものである。他の態様によれば、該製造されたメタロライト複合体は、ナノ粒子である。他の態様によれば、該MeはFeである。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1であり、好ましくはx=yである)で表されるものである。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の追加の金属を含む。他の態様によれば、該少なくとも1種の追加の金属は、化学量論的割合で組み合わされた、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶は、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する。他の態様によれば、該メタロライト複合体は、更に導電性マトリックスを含む。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、炭素である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、混合導体である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属酸化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、無機リン酸塩である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属窒化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸鉄リチウムである。
【0022】
更に別の局面によれば、本発明は電気化学電池を提供するものであり、該電気化学的電池は、負電極、鉄オキシフルオライド複合体を含む正電極、および該負電極と該正電極との間に設けられたセパレータを含む。一態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)で表される鉄オキシフルオライド化合物を含む。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の追加の金属を含む。他の態様によれば、該少なくとも1種の追加の金属は、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶は、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する。他の態様によれば、該式において、x=yである。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に導電性マトリックスを含む。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、炭素である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、混合導体である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属酸化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、無機リン酸塩である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、リン酸鉄リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、フルオロリン酸リチウムである。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属窒化物またはリン化物である。他の態様によれば、該導電性マトリックスは、金属リン化物である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、正方晶系ルチル型構造を有し、また3.30Å未満の「c」格子パラメータを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の鉄オキシフルオライド組成物に及ぼす、アニール温度、時間および雰囲気の効果を示す、XRDデータを示すものである。市販のFeF2のXRDスペクトルを、比較のために付加した。
【図2】図2は、アニール期間(時間)に対してプロットした、ルチルのa-およびc-格子パラメータ(Å)を示す。該ルチル型の構造は、高温度および/または長いアニール期間において、一次相として維持されたが、その(hkl)反射のシフトにおける系統的な増大を示した。該(hkl)ピークの系統的なシフトは、該a-格子パラメータの低下が、極めて低く維持されているので、該ルチル型構造の該c-格子パラメータおよび/またはそのc/a比の連続的な減少として解釈された。
【図3】図3は、c-格子パラメータに対してプロットされた材料の酸素含有率を示す図である。上記溶液調製工程は、FeOxF2-x化合物の製造を可能とし、ここでxは、Ar中で4時間に渡りアニールした場合には、純粋なFeF2の全xの範囲に拡がっており、また250℃にて8時間に渡りアニールした場合には、純粋なFeOFに対する全xの範囲に拡がっている。
【図4】図4は、炭素をベースとするFeF2ナノ複合体が、その初期の正方晶系P42/mnm系の対称性を維持していることを示す、XRDデータを示す図である。
【図5】図5は、サイクル数の関数としてプロットされた、FeF2ナノ複合体の放電比容量を示す図である。全てのサンプルが、貧弱なサイクル寿命を示した。改善されたサイクル安定性は、空気中で粉砕された(milled)該ナノ複合体に関して観測され、これをHe中で粉砕したものと比較した。
【図6】図6は、ブラッグ反射の広がりを例示するXRDデータを示すものであり、一方FeF3の初期菱面体晶系R-3c構造が、微粉化に際の雰囲気とは無関係に、粉砕後にも維持されている。これは、FeF3の結晶サイズの減少を示すものである。
【図7】図7は、サイクス数に対して、FeF3をベースとするナノ複合体の放電比容量(mAh/g)をプロットしたグラフを示す。空気中での粉砕は、He中での粉砕を越える、改善された電気化学的性能を誘発した。
【図8】図8は、炭素をベースとするナノ複合体が、全て、その初期の正方晶系P42/mnm系の対称性を維持したことを例示する、XRDデータを示す図である。空気中での粉砕は、該鉄(オキシ)フルオライドコア構造に大きな影響を及ぼすことはない。
【図9】図9は、FeF2をベースとするナノ複合体(市販の、および溶液製造法によるフルオライドから製造した)と比較して示された、サイクル数に対して、該オキシフルオライドをベースとするナノ複合体の放電比容量(mAh/g)をプロットしたグラフを示す。全てのオキシフルオライドをベースとするナノ複合体が、該FeF2をベースとするナノ複合体と比較して、改善されたサイクル安定性を示した。
【図10】図10は、c-格子パラメータに対する、容量保持率(capacity retention)(第2サイクルに対する第30サイクルにおいて観測された放電容量の比として定義される)を示す図である。データは、c-格子パラメータにおける低下によって測定される、酸素含有率の増加に伴って、改善された容量保持率を表すものである。
【図11】図11は、He中で、鉄(オキシ)フルオライドおよびFeF3の混合物を炭素と共に粉砕することにより得た、ナノ複合体のXRDパターンを示す図である。FeF2と結合した正方晶系P42/mnm相またはFeF3と結合した菱面体晶系R-3c相が、維持されていた。
【図12】図12は、空気中で、鉄(オキシ)フルオライドおよびFeF3の混合物を炭素と共に粉砕することにより得た、ナノ複合体のXRDパターンを示す図である。FeF2と結合した正方晶系P42/mnm相またはFeF3と結合した菱面体晶系R-3c相が、維持されていた。
【図13】図13は、鉄(オキシ)フルオライド+FeF3の混合物の、空気中での粉砕が、He中での粉砕により得たナノ複合体と比較して、同様なエネルギー密度と共に、改善されたサイクル安定性をもたらすことを示す。
【図14】図14は、(i) 空気中で、粉砕後のアニール温度を200℃から400℃まで高めるのに伴う、オキシフルオライドをベースとするナノ複合体のXRDパターンの進展;および(ii) 粉砕後に得られた該ナノ複合体と共に、初期オキシフルオライドのXRDパターンを示す図である。ナノ複合体オキシフルオライドの酸素含有率は、該正方晶系P42/mnm(hkl)回折ピークの大きな角度に向かうシフトによって示されるように、粉砕後のアニール温度と共に増大した。FeOxF2-x相のFe2O3+FeF3への部分的な分解は、24°領域における回折ピークの強度増加によって示されるように、より高い温度におけるアニール後により顕著となる。粉砕後のアニールは、また300℃にて酸素中でも行った。あらゆる粉砕後のアニールは、2時間に渡り行われた。
【図15】図15は、サイクル数の関数としてプロットされた放電比エネルギー密度(mWh/g)を示す。サイクル安定性は、350℃までは、粉砕後のアニール温度と共に改善され、一方で350℃を越える温度の上昇は、該ナノ複合体の電気化学的性能にとって有害であった。
【図16】図16は、粉砕後のアニール温度を200℃から450℃まで高めるのに伴って、正方晶系FeOxF2-xの(101)および(211)ピークが、大きな角度に向かってシフトすることを例示する、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体のXRDデータを示す図である。該粉砕後のアニール温度の増大は、ナノ構造化されたオキシフルオライドの酸素含有率における系統的な増加へと導く。
【図17】図17は、サイクル数の関数としてプロットされた、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体の放電比エネルギー密度(mWh/g)を示す。1.5〜4.5Vなる範囲の電圧および50mA/gなる定電流の下での、60℃におけるサイクル対リチウム金属の関係は、300℃までの粉砕後のアニール温度増加に伴う、該ナノ複合体の電気化学的性能の系統的な改善を立証している。
【図18】図18は、酸素中での粉砕後のアニール温度を200℃から300℃まで高めるのに伴って、正方晶系FeOxF2-x相の(101)および(211)ピークが、大きな角度に向かってシフトすることを例示する、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体のXRDデータを示す図である。該酸素中での粉砕後のアニール温度増加は、ナノ構造化されたFeOxF2-xオキシフルオライドの酸素含有率における系統的な増加へと導く。
【図19】図19は、サイクル数の関数としてプロットされた、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体の放電比エネルギー密度(mWh/g)を示す。該材料の容量保持率は、200℃における該酸素中での粉砕後のアニールによって改善される。より高温度にて行われる酸素中での粉砕後のアニールは、該ナノ複合体の電気化学的性能にとって有害である。
【図20】図20は、上記溶液製造法により得た、ナノ構造化されたFeOxF2-xから製造した、2種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、(FeOxF2-x+FeF3)-ナノ複合体の放電比エネルギー密度(mWh/g)を、市販のFeF2をベースとするナノ複合体と比較して示した図である。これらの電池は、2.4〜4.5Vなる範囲の電圧にて、60℃でサイクルさせた。ナノ構造化されたFeOxF2-xから製造したこれら両ナノ複合体は、マクロ-FeF2をベースとするナノ複合体と比較して、より一層改善された電気化学的性能を示し、サイクルの際の、より高いエネルギー密度およびより良好な容量保持率を示した。
【図21】図21は、ヘキサフルオロ珪酸の水性溶液に添加された、10質量%Mn-90質量%Fe、25質量%Mn-75質量%Feおよび50質量%Mn-50質量%Fe混合物を用いて得たナノ複合体の、XRDパターンを示す図である。100質量%Feサンプルに関するXRDを、比較の目的で加えた。全てのサンプルは、空気中で15質量%の活性炭(Aスプラ(ASupra))と共に4時間、空気中で1時間アニールされた、マンガンまたはニッケル置換されているFeSiF6水和物を、粉砕することにより得た。該ナノ複合体は、次いで粉砕後に、空気中で2時間、300℃におけるアニール処理に付された。
【図22】図22は、鉄にニッケルを添加することにより得た製品に関するXRDパターンを示す。全てのナノ複合体は、正方晶系P42/mnm構造に維持された。
【図23】図23は、サイクル数の関数としてプロットされた、MnおよびNi置換したナノ複合体に関する、放電比エネルギー密度を示す図である。
【図24】図24は、少量のリン酸リチウムの添加が、(FeF3+リン酸リチウム)ナノ複合体の電気化学的に活性なFeF3の大部分に対して、如何なる観測し得る構造変化をももたらさないことを例示する、XRDデータを示す。
【図25】図25は、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す。1.5〜4.5Vなる範囲の電圧下で、60℃および50mA/gでの、リチウム金属に対する電気化学的テストは、リン酸リチウムの添加により容量保持率が改善されることを明らかにしている。
【図26】図26は、空気中で200℃にて4時間アニールされ、またLiH2PO4の存在下または不在下における、活性炭と共に粉砕された後の、FeSiF6水和物に関するXRDパターンを示す図である。
【図27】図27は、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す。10質量%のLiH2PO4の添加は、サイクルの安定性を改善し、しかも両粉砕雰囲気において、放電容量を維持していた。
【図28】図28は、サイクル数の関数としてプロットされた、LiH2PO4と共に粉砕された、FeF3、FeF2および鉄オキシフルオライドをベースとする複合体の放電比容量(mAh/g)を示す図である。該オキシフルオライドは、最良の電気化学的性能を示すことが明らかとなった。
【図29】図29は、サイクル数の関数としてプロットされた、鉄オキシフルオライドナノ複合体に関する放電比容量(mAh/g)を示す図である。VC添加剤(1質量%および2質量%)は、サイクル寿命を改善した。
【図30】図30は、上記溶液製造法で得た材料の例示的XRDパターンを示す図である。菱面体晶系R-3mのFeSiF6・6H2O化合物は、完全に正方晶系FeF2およびFeOxFy化合物に変換され、これらは、夫々200℃にてアルゴン中および空気中で、4時間に渡る熱処理により得られた。
【図31】図31は、市販のおよび溶液法に基づいて(即ち、アルゴン中で該FeSiF6水和物中間体をアニールすることによって)得たFeF2を、200℃にて空気中でアニールした後に得た、XRDパターンを、同様な条件下で、該FeSiF6水和物を直接熱処理(空気中)した際に発生した化合物と比較して示した図である。
【図32】図32は、He中で1時間、夫々0,10および20質量%のFeS2および15%の活性炭と共に、市販のFeF2を粉砕することにより得た3種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す図である。この金属硫化物の添加は、改善された容量残量を与え、しかも活性炭のみを用いて製造したこれらのナノ複合体に比して、放電容量が維持されあるいは改善された。
【図33】図33は、He中で1時間、夫々0,10および20質量%のNiS2および15%の活性炭と共に、市販のFeF2を粉砕することにより得た3種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す図である。この金属硫化物の添加は、改善された容量残量を与え、しかも活性炭のみを用いて製造した該ナノ複合体に比して、放電容量が維持されあるいは改善された。
【図34】図34は、10質量%のFeS2を添加しまたは添加せずに、15%の活性炭と共に空気中で1時間粉砕することにより得た、2種のオキシフルオライドをベースとするナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電比容量(mAh/g)を示す図である。この金属硫化物の添加は、改善された容量残量を与え、しかも金属硫化物なしに製造した該ナノ複合体に比して、放電容量が維持されあるいは改善された。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(詳細な説明)
鉄オキシフルオライド組成物
本発明は、鉄オキシフルオライド複合体を含む、電気化学的エネルギー貯蔵電池用の電極材料として使用するための組成物およびその製法を提供する。
【0025】
一局面によれば、本発明は、鉄オキシフルオライド複合体を含む、電気化学的エネルギー貯蔵電池用の電極材料として使用するための組成物を提供する。
【0026】
一態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)で表される鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、x=yである。幾つかのこのような態様によれば、xは、純粋なFeF2からFeOFまでの全xの範囲に渡っている。
【0027】
本明細書で使用する様な用語「元素(element)」とは、標準的な化学的手段によって、より単純な物質に分解することのできない単純な物質を意味する。
【0028】
本明細書で使用する様な用語「鉄オキシフルオライド化合物(iron oxyfluoride compound)」とは、元素としての鉄(Fe)、フッ素(F)、酸素(O)および場合により少なくとも1種の追加の金属(Me)からなる任意の組合せを包含する。鉄オキシフルオライド化合物は、ナノ粒子径を有していても有していなくてもよい、一次粒子内に組込むことができる。
【0029】
幾つかの態様によれば、本発明の鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の、Fe以外の金属を意味する、追加の金属を含む。当業者は、本発明の鉄オキシフルオライド化合物において使用するための金属を、容易に同定することができる。このような金属は、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbを含むが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書で使用する用語「ドメインサイズ(domain size)」とは、第一の物質(primary material)が第二の物質の境界と接触する前の、該第一の物質の長さを意味する。該第二の物質は、粒子、微結晶、鉄オキシフルオライドの微結晶、または他のこのような物質を含むが、これらに限定されない。本明細書で使用する用語「粒子(particle)」とは、物質構造の個々別々の単位を意味する。粒子サイズの範囲は、以下のようにまとめることができる:(1) 亜原子粒子:プロトン、中性子、電子、重陽子等であり、これらは、包括的に素粒子と呼ばれている;(2) 分子状粒子:数Å〜1/2μmなる範囲内の径を持つ原子および分子を含む;(3) コロイド状粒子:電子顕微鏡により解像され、また1mμ〜光学顕微鏡の下限(1μm)なる範囲内の径を持つ巨大分子、ミセル、およびカーボンブラック等の超微粒子を包含する;(4) 微粒子:光学顕微鏡により解像し得る単位(バクテリアを含む);(5) 巨大粒子:肉眼により解像できるあらゆる粒子。本明細書で使用する用語「マクロ構造(macrostructure)」とは、巨視的サイズを持つ物質を意味する。本明細書で使用する用語「粒径(particle size)」とは、一般に工業的物質が構成される固体粒子に対して言われる。該粒子が小さいほど、与えられた質量の、全露出表面積は、より大きい。活性は表面積の直接的な関数である。即ち、より微細な物質は、物理的にも化学的にも、より一層効率的に反応する。
【0031】
用語「結晶(crystal)」とは、原子またはイオンの反復的な3-次元パターンによって形成され、また一定の、構成部分またはこのようなパターンの単位格子間の距離を持つ均質な固体を意味する。用語「結晶構造(crystal structure)」または「結晶格子(crystal lattice)」は、ここでは該結晶内での原子またはイオンの配列または構成を表すために、互換的に使用される。ここで用いる用語「微結晶(crystallite)」とは、結晶の構成原子、イオンまたは分子が、歪みまたは他の欠陥なしに、完全な格子を形成している該結晶の部分を意味する。単結晶は極めて大きい可能性があるが、微結晶は、通常微視的なものであり、またドメインであると考えることができる。
【0032】
上記用語「ナノ微結晶(nanocrystallite)」および「ナノ粒子(nanoparticle)」は、互換的に使用され、また約100nm〜約1nmなる範囲内のサイズを持つ微結晶を意味する。当分野において周知の如く、微結晶のサイズは、X-線回折(XRD)におけるピーク幅解析および高解像度透過型電子回折法等の通常の方法によって測定することができる。本明細書で使用する該用語「ナノ微結晶(nanocrystallite)」とは、<100nmなるサイズを持つ個々の微結晶またはマトリックス内に組込まれて、ナノ複合体を生成する、<100nmなるサイズを持つ微結晶を意味する。該最終的なナノ複合体は、100nmよりも大きなサイズを持つものでも、そうでなくてもよい。
【0033】
もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、鉄オキシフルオライドナノ複合体である。
【0034】
本明細書で使用する用語「ルチル(rutile)」とは、二酸化チタンの構造と類似する構造を意味する。ルチル構造は、端部に分配されたAX6の八面体形を、c-軸に沿って持ち、一方でab面内の角部を分け合っている、正方晶系P42/mnm系の対称性(夫々(100)および(001)方向における、a-およびc-格子パラメータ)をもって結晶化する。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、正方晶系型ルチル構造を持つことが立証されている、鉄オキシフルオライド化合物を含む。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、「c」格子パラメータが<3.30Åであることが立証されている、鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に酸化鉄の表面層を持つ鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該表面層は、約1nm〜約10nmなる範囲の薄い表面層である。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更にコア材料よりも高い酸素含有率を持つ鉄オキシフルオライドの表面層を持つ、鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該表面層は、約1nm〜約10nmなる範囲の薄い表面層である。
【0035】
幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物の比容量は、可逆的である。本明細書で使用する様な用語「比容量(specific capacity)」とは、単位重量当たりのミリアンペア時(mAh)によって表される、該鉄オキシフルオライド化合物が含むエネルギー量を意味する。本明細書で使用する用語「可逆的比容量(reversible specific capacity)」とは、本発明の鉄オキシフルオライド化合物が、放電の方向とは逆の方向に、該化合物を通して電流を流すことによって、再充電し得ることを意味する。
【0036】
本明細書で使用する様な用語「複合体(composite)」とは、少なくとも1つのまたはそれ以上の別々の成分、構成成分、または元素を含む化合物を意味する。これらの成分、構成成分または元素は、金属フルオライド、金属オキシフルオライド、導電性マトリックス、炭素、金属酸化物、金属硫化物、無機リン酸塩、金属窒化物、金属リン化物、リン酸リチウム、リン酸鉄、リン酸鉄リチウム、フルオロリン酸鉄リチウム、Li3PO4、LiH2PO4、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、Nb、およびFeまたはこれらの組合せを含むことができるが、これらに限定されない。該複合体の成分は粒子、微結晶、粉末、溶液、固体、ナノ微結晶、またはナノ粒子の形状であり得るが、これらに限定されない。
【0037】
別の態様によれば、本発明は、径において約1nm〜約100nmなる範囲内の、第一ドメインサイズを有する鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約90nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約80nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約70nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約60nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約50nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約40nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約30nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約20nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約15nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約10nmなる範囲にある。幾つかのこのような態様によれば、該第一ドメインサイズは、径において、約1nm〜約5nmなる範囲にある。
【0038】
幾つかのこのような態様によれば、該フッ化鉄化合物は、粒子の形状にある。幾つかのこのような態様によれば、該フッ化鉄化合物は、ナノ粒子の形状にある。幾つかのこのような態様によれば、該フッ化鉄化合物は、結晶の形状にある。幾つかのこのような態様によれば、該フッ化鉄化合物は、ナノ結晶の形状にある。
【0039】
他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に導電性マトリックスを含む。本明細書で使用する該用語「導電性マトリックス(conductive matrix)」とは、導電性物質を含むマトリックスを意味し、該導電性物質の幾つかは、イオン-および/または電子-伝導体であり得る。他の態様によれば、該導電性物質は、混合導体(mixed conductor)である。該マトリックスがイオン-および電子-伝導性両者を保持する物質は、通常「混合導体」と呼ばれる。高エネルギー密度のカソード材料用の、鉄オキシフルオライドをベースとする混合導体は、該混合導体のマトリックスまたは構成組織中の該鉄オキシフルオライド化合物を安定化するために使用でき、また該鉄オキシフルオライド化合物の電気化学的活性の発揮を可能とする。様々な導電性マトリックスが、電子および/またはイオンの該鉄オキシフルオライド化合物への伝達を可能とするために使用でき、該マトリックスは粒子形状であっても、そうでなくてもよい。適当な導電性マトリックスは、炭素、金属酸化物、金属硫化物、無機リン酸塩、金属リン化物、および金属窒化物を含むが、これらに限定されない。
【0040】
幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約50質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約45質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約40質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約35質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約30質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約25質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約20質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約15質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約10質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。幾つかの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、約1〜約5質量%なる範囲内の導電性マトリックスを含む。
【0041】
もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に炭素を含む。幾つかのこのような態様によれば、該炭素は活性炭である。本明細書で使用する該用語「活性炭(activated carbon)」とは、炭素を著しく多孔質のものとするために、また結果的に極めて大きな利用可能な表面積を持つように加工された炭素の一形態を意味する。1gの活性炭素は、約500m2〜約2000m2なる範囲内の表面積を持つことができる。幾つかのこのような態様によれば、該活性炭素は、Aスプラ(ASupraTM)(ノリット(Norit)社製)である。他の態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更に金属酸化物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該金属酸化物の金属はVである。幾つかのこのような態様によれば、該金属酸化物の金属はMoである。
【0042】
もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更にリン酸またはフルオロリン酸リチウム、鉄または鉄リチウムを含む。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、一般式:LiαH3-αPO4(ここで、0<α≦3)で表されるものである。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、Li3PO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、LiH2PO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄は、FePO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄は、FeFPO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄リチウムは、LiFePO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄リチウムは、Li3Fe2(PO4)3である。幾つかのこのような態様によれば、該フルオロリン酸鉄リチウムは、LiFePO4Fである。
【0043】
溶液製造工程
一般に、本明細書で使用する用語「溶液製造工程(solution fabrication process)」とは、金属としての鉄およびフルオロ珪酸(H2SiF6)の水性溶液から、ナノ構造化された鉄(オキシ)フルオライド材料を合成するための技術を意味する。この溶液合成原理は、安価な市販品として入手できるプリカーサを用いて、FeF2からFeOFまでの全範囲に渡る組成を持つ、ナノ構造化された鉄(オキシ)フルオライド材料:FeOxFyの低温製造を含む。該FeSiF6水和物中間体の製造および空気中でのその後の該中間体のアニールは、該鉄(オキシ)フルオライド材料の製造にとって決定的な段階である。
【0044】
該用語「フルオロ珪酸(fluorosilicic acid)」とは、H2SiF6を意味する。
【0045】
本明細書で使用する該用語「メタロライト複合体(metallolyte composite)」とは、金属(Me)元素を含む化学反応の結果得られる、材料、化合物、物質または生成物を意味する。メタロライト複合体は、少なくとも1種の金属オキシフルオライド、金属フルオライド、またはこれらの誘導体を含み、また追加の成分を含むことができ、該追加の成分は、例えば導電性マトリックス、炭素、金属酸化物、金属硫化物、無機リン酸塩、金属フルオロリン酸塩、金属硫化物、および金属窒化物、リン酸リチウム、Li3PO4、LiH2PO4、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、Nb、およびFe、フッ化鉄、鉄オキシフルオライド、鉄オキシフルオライド複合体、鉄オキシフルオライド化合物、鉄フルオライド複合体、鉄フルオライド化合物、またはこれらの組合せを含むが、これらに限定されるものではない。
【0046】
一局面によれば、本発明は、メタロライト複合体の製造方法を提供するものであり、該方法は、以下の工程:(a) Me種およびフルオロ珪酸を含む出発溶液を製造する工程;(b) 該出発溶液を反応させて、MeSiF6水性溶液を生成する工程;(c) 該MeSiF6水性溶液を、所定温度にて、粉末状態にまで乾燥する工程;(d) 更に、該粉末体を所定雰囲気内で熱処理して、メタロライト複合体を製造する工程を含み、ここで該Meは金属である。
【0047】
一態様によれば、該Me種はFeである。もう一つの態様によれば、該Me種は第一列の遷移金属である。このような金属は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、およびCuを含む。
【0048】
もう一つの態様によれば、該Me種はBiである。もう一つの態様によれば、該Me種はSnである。もう一つの態様によれば、該Me種はSbである。もう一つの態様によれば、該Me種はPbである。もう一つの態様によれば、該Me種はMoである。もう一つの態様によれば、該Me種はNbである。もう一つの態様によれば、該Me種はLiである。もう一つの態様によれば、該Me種はAgである。
【0049】
他の態様によれば、MeSiF6水和物は、FeSiF6水和物である。もう一つの態様によれば、FeSiF6水和物は、FeSiF6.6H2Oである。
【0050】
もう一つの態様によれば、上記出発溶液からMeSiF6溶液を生成する上記工程(b)は、約40℃〜約45℃なる範囲内の温度にて行われる。幾つかのこのような態様によれば、該出発溶液からMeSiF6溶液を生成する該反応は、一夜に渡り行われる。幾つかのこのような態様においては、該出発溶液からMeSiF6溶液を生成する該反応は、該反応の開始時点から12-24時間以内で行われる。
【0051】
もう一つの態様によれば、上記乾燥工程(c)は、空気中で約110℃にて行われる。幾つかのこのような態様によれば、該乾燥工程(c)は、(i) 攪拌式ホットプレート上で、約200℃にて約2-3時間、該MeSiF6水性溶液を攪拌する段階;および(ii) 更に、空気中で110℃にて、該溶液を乾燥する段階を含む。幾つかのこのような態様によれば、該乾燥工程(c)は、ホットプレート上で行われる。
【0052】
もう一つの態様によれば、上記熱処理工程(d)は、約150℃〜約300℃なる範囲の温度にて行われる。
【0053】
もう一つの態様によれば、該熱処理工程(d)は、アルゴン雰囲気中で行われる。幾つかのこのような態様によれば、製造される該メタロライト複合体は、金属フッ化物である。幾つかのこのような態様によれば、製造される該メタロライト複合体は、複数の金属フルオライドである。
【0054】
本明細書で使用する用語「雰囲気(atmosphere)」とは、いずれかのガス状覆い(envelope)または媒体を意味する。
【0055】
もう一つの態様によれば、該熱処理工程(d)は、空気雰囲気内で行われる。本明細書で使用する様な用語「空気(air)」とは、地球上の雰囲気(または空気)を意味し、また惑星としての地球の重力により保持されている、地球を取巻いているガス層を意味する。乾燥空気は、大雑把に(体積基準で)78.08%の窒素、20.95%の酸素、0.93%のアルゴン、0.038%の二酸化炭素、および痕跡量の他のガスを含む。空気は、また平均して約1%の、変動する量の水蒸気をも含む。幾つかのこのような態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、金属オキシフルオライドである。幾つかのこのような態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、複数の金属オキシフルオライドである。
【0056】
幾つかのこのような態様によれば、該金属オキシフルオライドの酸素含有率は、そのアニール温度および該熱処理工程(d)の期間と相関関係にある。
【0057】
もう一つの態様によれば、該メタロライト複合体は、鉄および他の成分を含有する混合物の、著しく高い衝撃エネルギーを持つ粉砕により製造できる。非-限定的な例として、鉄(オキシ)フルオライド化合物を、他の成分と共に粉砕する(mill)場合、該鉄(オキシ)フルオライドは化学変化を受け、結果としてそのX-線回折(XRD)特性は、新規な、高度に電気化学的に活性な物質の特徴を呈するが、該鉄(オキシ)フルオライドの主な電気化学的様相を維持している。鉄(オキシ)フルオライドは、容易に、周知の方法、例えばXRDおよび高解像度の透過型電子回折法によって特徴付けることができる。
【0058】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体はフッ化鉄複合体を含む。もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体はフッ化鉄化合物を含む。
【0059】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、鉄オキシフルオライド複合体を含む。もう一つの態様によれば、該メタロライト複合体は、鉄オキシフルオライド化合物を含む。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、式:FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)で表される鉄オキシフルオライド化合物である。幾つかのこのような態様によれば、該一般式において、x=yである。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、更に少なくとも1種の追加の金属を含む。このような金属は、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbを含むが、これらに限定されるものではない。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライド化合物は、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶の主ドメインは、約1nm〜約100nmなる範囲内の長さを持つものである。幾つかのこのような態様によれば、該鉄オキシフルオライドナノ微結晶の該主ドメインは、約1nm〜約20nmなる範囲内の長さを持つものである。
【0060】
もう一つの態様によれば、該メタロライト複合体は、導電性マトリックスを含む。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、炭素である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、混合導体である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、金属酸化物である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、金属硫化物である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、無機リン酸塩である。幾つかのこのような態様によれば、該導電性マトリックスは、金属窒化物またはリン化物である。
【0061】
もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライド複合体は、更にリン酸またはフルオロリン酸リチウム、鉄または鉄リチウムを含む。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、一般式:LiαH3-αPO4(ここで、0<α≦3)で表されるものである。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、Li3PO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸リチウムは、LiH2PO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄は、FePO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄は、FeFPO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄リチウムは、LiFePO4である。幾つかのこのような態様によれば、該リン酸鉄リチウムは、Li3Fe2(PO4)3である。幾つかのこのような態様によれば、該フルオロリン酸鉄リチウムは、LiFePO4Fである。
【0062】
もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩5質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩10質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩15質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩20質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩25質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩30質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩35質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩40質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩45質量%である。もう一つの態様によれば、添加される該無機リン酸塩の量は、無機リン酸塩50質量%である。
【0063】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、正方晶系型ルチル構造を持つものであり、かつ3.30Å未満の「c」格子パラメータを有する。もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、ナノ粒子である。
【0064】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、鉄(オキシ)フルオライド化合物のナノ粒子である。もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、ナノ構造化された鉄(オキシ)フルオライド化合物である。もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、導電性の、鉄(オキシ)フルオライドをベースとする化合物である。
【0065】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、転化反応の証拠となる鉄オキシフルオライド化合物である。本明細書で使用する該用語「転化反応(conversion reaction)」とは、鉄オキシフルオライド化合物が、蓄電池の放電中に完全に還元されて、鉄金属Fe0、フッ化リチウムLiF、およびLiyFe1-z/2OxF2-x-z化合物(ここで、y≦x≦1、z≦2-x、またここでyは0であり得る)の混合物となる反応を意味する。もう一つの態様によれば、該鉄オキシフルオライドは、付随するマグネシウムまたはカルシウム化合物製品の生成を伴って、金属としての鉄に還元される可能性がある。
【0066】
もう一つの態様によれば、生成される該メタロライト複合体は、可逆的転化反応の証拠となる、鉄オキシフルオライド化合物である。本明細書で使用する該用語「可逆的転化反応(reversible conversion reaction)」とは、該鉄オキシフルオライド化合物が、蓄電池の充電中に再生され得る反応を意味する。
【0067】
電気化学電池
本発明のもう一つの態様によれば、電気化学電池、例えば一次または充電式蓄電池が提供され、これは、本発明の鉄オキシフルオライド複合体を、カソード材料として使用する。この電池は、いずれかの公知の方法で製造できる。本発明の鉄オキシフルオライド複合体電極(カソード)材料は、ポリマーマトリックスおよび付随的化合物並びに一般的に使用されるセパレータおよび電解液溶媒および溶質を含む、殆どの他の一次または二次電池組成物の要素と共に十分に機能する。例えば、公知の充電式電気化学的-電池の製造において、通常使用される電解液組成物は、本発明の電池において同様に十分に機能する。これらの電解液組成物は、1種またはそれ以上の金属塩、例えばリチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、およびイットリウムの塩を含むが、これらに限定されない金属塩を含むことができる。このような金属塩は、溶融塩溶液または迅速なフッ化物の拡散を与える塩であり得る。通常の環式および非-環式溶媒、例えばエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびこれらの混合物中に溶解されたリチウム塩、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4等を使用することができる。本発明の鉄オキシフルオライド複合体の最適化に関連して、電解質成分の特定の組合せは、電池製造業者にとって好ましいものとなり、また該電池の意図した用途に依存する可能性があるが、LiBF4等の溶質の使用に対して考慮する必要があり、該溶質は、電池のサイクル中に、加水分解的に、幾つかの金属フルオライドの最適性能に影響を及ぼす恐れがあるHFを形成することは稀である。このような理由から、例えばLiBF4:プロピレンカーボネート電解液は、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート混合物に分散させたLiPF6の長期に渡り使用される標準的な溶液を含むものに対して使用することができる。
【0068】
更に、本発明の鉄オキシフルオライド複合体は、ポリエチレンオキサイド(PEO)等の化合物由来の、固体イオン伝導性マトリックスを利用する固体ポリマー電池に組込むことができる。本発明の鉄オキシフルオライド複合体は、また薄膜堆積技術によって製造することができ、またガラス状の電解液を利用する、固体薄膜リチウムバッテリに組込むことができる。最後に、このような電極材料は、電解液としてイオン性液状溶媒を用いる電池に組込むことができる。
【0069】
同様に、電気化学的電池の負電極部材は、有利には、広範に利用されている公知のイオン源、例えばリチウム金属およびリチウム合金、例えばリチウムスズ、リチウムケイ素、リチウムアルミニウム等で構成されるもの、リチア処理された(lithiated)炭素、例えばコークス、ハードカーボン、グラファイト、ナノチューブ、またはC60、およびリチア処理された金属窒化物等のいずれかを含み得る。電気化学的電池の該負電極部材は、また更にマグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、またはイットリウムをベースとする負電極を含むこともできる。
【0070】
ある範囲に渡る値が与えられている場合、他において関係が明確に述べられていない限り、該範囲およびあらゆる他の述べられた範囲の上限と下限との間の、該下限値の1/10までの各値および該述べられた範囲内に入る値は、本発明の範囲内に入る。これらより狭い範囲内に独立して含まれる可能性のある、これらより狭い範囲の上限および下限は、本発明の範囲内に含まれ、但し該述べられた範囲におけるあらゆる具体的に排除された限界を除く。該述べられた範囲が、該限界の一方または両者を含む場合、これらの含められた限界の何れかまたは両者を排除する範囲も、本発明に含まれる。
【0071】
特に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明の属する分野における当業者により、通常理解されるものと同様な意味を持つ。ここに記載されたものと類似または同一のあらゆる方法および物質も、本発明の実施またはテストにおいて使用することができるが、好ましい方法並びに物質を、次に説明する。ここに述べられた全ての刊行物は、該刊行物が引用された点に関連する、方法および/または物質を開示しかつ説明するための、参考としてここに組入れる。
【0072】
本明細書および添付した特許請求の範囲において使用しているような、単数形「不定冠詞 (a)」、「および(and)」並びに「定冠詞(the)」は、文脈においてそうでないものと明確に述べられていない限り、複数形をも含むものであることを述べておかなければならない。本明細書において使用する全ての技術的および科学的用語は、夫々同一の意味を持つものである。
【0073】
本明細書において論じられた刊行物は、本特許出願の出願日前のその開示についてのみ与えられるものである。ここでは、本発明が、先行発明であるこのような刊行物に先行するものである権利を持たないことを承認したものと考えるべきではない。更に、与えられた刊行日は、実際の刊行日と異なる可能性があり、夫々個々に確認する必要があるかもしれない。
【0074】
以上本発明を特定の態様を参照して説明してきたが、当業者は、本発明の真の精神および範囲を逸脱することなしに、様々な変更を加えることができ、また等価なもので置換することができることを理解すべきである。更に、多くの改良を行って、特定の状況、物質、組成物、工程、処理段階(1または複数)を、本発明の目的とする精神および範囲に取入れることができる。全てのこのような改良は、ここに添付する特許請求の範囲内に含まれるものとする。
【実施例】
【0075】
以下の実施例は、当業者に対して、本発明を如何にして製造し、使用するかに関する完全な開示および説明を与える目的で提示されるものであり、また本発明者等がその発明であると考えるその範囲を限定するものでも、また以下の実施例が実施された実験の全てまたは唯一実施された実験であることを意味するものでもない。使用した数値(例えば、量、温度等)に関連して、正確さを保証すべく努力したが、幾分かの実験的誤差およびずれは、斟酌されるべきである。特に述べない限り、「部」は「質量部」であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度単位であり、また圧力は大気圧またはその近傍である。更に、該オキシフルオライド組成物は、全ての実施例において、FeOxF2-x(ここで、0<x≦1)として表されているが、1:1の酸素とフッ素との置換からのずれが起る可能性があり、また該オキシフルオライド組成物は、より正確には、FeOxF2-y(ここで、0<y≦1であり、また0<x≦1である)として表すことができる。
【0076】
実施例1.1:溶液製造法の方法論
調節可能な酸素含有率を持つナノ構造化された鉄オキシフルオライド物質を、金属としての鉄およびフルオロ珪酸(H2SiF6)の水性溶液から、溶液製造法により製造した。簡単に説明すると、粉末状態にある金属としての鉄(10g)を、141gの20-25質量%のフルオロ珪酸の水溶液中に溶解した。この混合物を40-45℃にて一夜放置して、該金属とフルオロ珪酸とを反応させた。過剰量の鉄金属を濾別した後、得られた緑色の溶液を、乾燥粉末が生成するまで、110℃にて空気中に放置した。別の製造経路は、該溶液を、110℃にて乾燥する前に、200℃にて2-3時間乾燥(例えば、攪拌式ホットプレート上で)することからなっていた。後者の方法は、処理時間を大幅に短縮した。これら2つの経路は、粉末状態にあるFeSiF6水和物化合物の合成を結果した。
【0077】
図30は、菱面体晶系R-3m型のFeSiF6.6H2O化合物に関するX-線回折パターンを例示するものであり、該化合物は、後に夫々アルゴンおよび空気中で、200℃にて加熱処理した際に、(110)、(101)、(111)、(210)、(211)および(220)回折ピークを持つ、正方晶系P42/mnm型のFeF2およびFeOxF2-xに完全に変換される。該FeF2およびFeOxF2-x化合物両者は、ルチル-型の構造で結晶化し、該オキシフルオライド化合物の該(hkl)回折ピーク全てが、純粋なフッ化物と比較して、大きな角度に向かってシフトすることが分かった。
【0078】
以下の表1は、本発明の化合物の単位格子体積(unit cell volume)および格子パラメータを示す。アルゴンを用いた熱処理後の、該溶液法により得たFeF2の格子パラメータは、市販のサンプルのものと十分に一致している(表1参照)。これとは対照的に、大きな角度に向かってシフトする(hkl)ブラッグ反射を示した、空気中で合成した該材料は、正方晶系のa-およびより詳しくはc-格子パラメータの減少を示した(表1参照)。アルゴン中での処理により得たFeF2と比較して、空気中での処理により得たFeOxF2-x化合物のルチル-型単位格子の収縮は、Fe2+のFe3+への酸化に由来するものであり、これは、同時に発生するO2-のフルオライドアニオンの小格子(sublattice)への直接的な置換よりも、そのサイズにおいてより小さい。該O2-およびF-アニオン両者は、そのサイズが小さいので、置換が、全アニオン小格子に渡りランダムに発生する可能性がある。
【0079】
表1
【0080】
図31は、無視できない酸素含有率を持つ鉄オキシフルオライドを得るための、FeSiF6水和物の空気中での熱処理の重要性を示すものである。図31は、市販のおよび溶液製造法による(即ち、アルゴン中で該FeSiF6水和物中間体をアニールすることにより得た)FeF2を空気中で200℃にてアニールした後に得られる構造上のパターンを、同様な条件下で、FeSiF6水和物を直接熱処理(空気中)した際に生成するものと比較して示した図である。これら2つの型のFeF2サンプルは、空気中でアニールした際に、単位格子体積の変動を殆どまたは全く示さずに、FeF2の初期の構造上の諸特性を維持していた。該熱処理期間の24時間への増大は、該FeF2の構造に大幅な影響を与えなかった。該市販のサンプルにおいて観測された唯一の変化は、少量のFe1.9F4.950.95H2O水和物の生成からなっていた。これとは対照的に、空気中で直接アニール処理された該FeSiF6.6H2O化合物は、大幅な体積収縮を示した(表1参照)。後者は、c-格子パラメータにおける減少によって引起され、これは、該フルオライド構造へのかなりの量の酸素の導入と関連する、(hkl)回折ピークの大きな角度に向かうシフトと一致している。
【0081】
実施例1.2:鉄(オキシ)フルオライド組成物に及ぼすアニール温度、時間および雰囲気の効果:X-線回折:
ここに記載された溶液製造法を使用して、FeF2化合物を合成した。このFeF2化合物は、市販品として得られるFeF2とは全く異なっていた。アルゴン(Ar)雰囲気の下で合成した場合、該合成されたFeF2化合物は、如何なる第二の相の存在の証拠も示さず、一方市販品として得た該FeF2は、少量のFe2F5.2H2O水和物を含んでいた。更に、該溶液製造法により得た化合物に関連するより広い回折ピークは、この新たに製造された物質の微結晶サイズ(22nm)が、市販品の値(>100nm)よりも一桁小さいことを示している(図1参照)。この微結晶のサイズは、(110)回折ピークを用いて、シェラー(Scherrer)の式によって決定された。
【0082】
150℃程度の低い温度にて空気中でアニールした場合、該FeSiF6水和物は、FeF2(Ar中でアニールした際に得られる)のものと類似する、P42/mnm空間群を持つルチル-型の正方晶系物質に添加されるが、図1に示したように、大きな角度に向かってシフトした全ての(hkl)由来の回折ピークを持つ。図1に示したように、該ルチル型の構造は、より高い温度および/またはより長いアニール期間に対して維持されたが、該(hkl)反射のシフトにおける系統的な増加を示した。このシフトは、空気中での該熱処理の温度および期間を調節することにより制御できた。図2に示したように、該(hkl)ピークの系統的なシフトは、該a-格子パラメータの減少が極めて小さい値に維持されているので、該c-格子パラメータおよびより詳しくはルチル型構造のc/a比の連続的な減少に換算された。200℃にて僅か1.5時間のアニール後に、該c-格子パラメータは、純粋なFeF2に対する3.30Åなる値に比して、3.21Åまで低下した。これは、空気中で24時間に渡りアニールした後には、更に3.12Åまで低下した。より低いc-格子パラメータが、200℃でアニールしたものではなく、200℃を越える温度にて、24時間までのアニール期間を使用して得られた。例えば、250℃にて8時間後には、該c-格子パラメータは、3.04Åまで低下した。
【0083】
該溶液製造法によって合成された該鉄オキシフルオライド材料の酸素含有率を、XRD解析により得たc-格子パラメータおよびBrink等(F.J.Brink, R.L.WhitersおよびL.Noren, J. Solid State Chem., 161, 31-37 (2001))により確立された相図を利用して評価した。図3は、c-格子パラメータに対してプロットした、該鉄オキシフルオライド材料の酸素含有率を示す。該溶液製造法は、FeOxF2-x化合物の製造を可能とする。ここでxは、純粋なFeF2(Ar中で4時間アニールした場合)から純粋なFeOF(250℃にて8時間アニールした場合)に及ぶ全ての範囲(図3)に渡る。しかしながら、FeOFのFe2O3およびFeF3への僅かな分解が、アニール温度を300℃まで高め、空気中で4時間アニールした場合に得られた。これは、低強度の付随的な反射の出現により明らかであり、該付随的反射は、両相に関係していると考えられる(図1)。同一の空間群R-3cにおいても結晶化する、FeF3およびα-Fe2O3の格子パラメータの類似性と組合せた、広く且つ低強度の回折ピークが、これら2つの相の識別を困難なものとしている。
【0084】
実施例2:炭素-鉄(オキシ)フルオライドナノ複合体
実施例2.1:炭素-FeF2ナノ複合体の合成
炭素-フッ化鉄ナノ複合体を、活性炭と、(i) 溶液製造法で得たFeF2、または(ii) 市販のFeF2と共に機械的に粉砕することにより製造した。ヘリウム(He)で満たしたグローブボックス中、または湿度<1%の乾燥室(空気)中で、粉砕容器を満たし、また封止した。空気またはHe中での高エネルギー粉砕は、該フッ化鉄コア結晶構造に対して著しい影響を及ぼさなかった。該炭素をベースとするナノ複合体は、図4に示した如く、XRDによって立証されるように、その初期の正方P42/mnm晶系の対称性を維持していた。しかし、粉砕は、格子パラメータにおける僅かな変動を誘起し、これは55o 2θ領域における(220)および(002)ブラッグピークの分離によって補正された。この現象は、該溶液製造法で得たFeF2について一層顕著であり、ここで該分離は、a-格子パラメータの僅かな増加に由来し、これはc-格子パラメータの僅かな減少と同時に起る(表2参照)。
【0085】
表2
【0086】
最後に、粉砕は、回折ピークの広がりをもたらす。これは、(110)ブラッグピークを用いた上記シェラーの式に基いて決定された、該フッ化鉄ナノ結晶領域の、12-15nmへの減少と関連しており(表2参照)、また初めにマクロ構造状態にあった市販の物質についてより顕著であった。
【0087】
該粉砕雰囲気は、該溶液製造法により得たFeF2および該市販のFeF2から得たナノ複合体のバルク構造に対して著しい影響を及ぼさなかったが、これは該物質の電気化学的性能に著しい影響を及ぼした。2-電極式コイン型電池(Hohsen, CR2032, 径20mmおよび厚み3.2mm)を用いて電気化学的テストを行った。ここで、該電池は、He-充填ドライボックス内で、リチウム箔対電極およびエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート電解液(50:50容量%)中に1MのLiPF6を分散させた液で飽和させたガラス繊維セパレータ(GF/D、ファットマン(Whatman)製)を用いて組立てた。これら電池を、60℃にて、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧にて、50mA/gなる定電流条件下で、充-放電サイクルに掛けた。15%の活性炭を含む該ナノ複合体の放電容量を、サイクル数の関数としてプロットし、かつ全てのサンプルが貧弱なサイクル寿命を示している、図5に示されるように、He中で粉砕されたナノ複合体と比較して、改善されたサイクル安定性が、空気中で粉砕されたナノ複合体について観測された。該フッ化鉄(FeF2)の源とは無関係に、即ち該フッ化鉄が市販品であれ、溶液製造法により作られたものであれ、このような改善が観測された。
【0088】
両FeF2源を用いてHe中で粉砕したものと比較して、ブルナウアー(Brunauer)、エメット(Emmet)およびテラー(Teller)(BET)の表面積における僅かな増加が、空気中で粉砕した後に得られたナノ複合体について観測された(表2参照)。理論に拘泥するものではないが、これらの結果は、該物質の表面形態および化学的性質における変動が、空気中での粉砕中に最も起り易いことを示唆しており、更にまた、バルクの化学的性質ではなく寧ろ表面の化学的性質が、空気中での粉砕により製造したナノ複合体について観測される、改善された安定性の源であることを示唆している。従って、酸化鉄またはオキシフルオライドの薄い表面層の形成は、サイクル安定性にとって有益であり得る。
【0089】
実施例2.2:炭素-FeF3ナノ複合体の合成:
炭素-フッ化鉄ナノ複合体を、活性炭とFeF3とを機械的に粉砕することによって製造した。粉砕用セルに、15%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)、ノリット(Norit)社製]を含む材料1gを投入し、空気中またはHe中で粉砕した。図6は、粉砕前後のFeF3に関するXRDデータを示す。該粉砕用雰囲気とは無関係に、FeF3の微結晶サイズの減少(図6)(ブラッグ反射の広がりによって示される)が、粉砕の後に観測されたが、FeF3の初期菱面体晶系R-3c構造は維持されていた。図7は、サイクル数に対して、放電比容量(mAh/g)をプロットした図である。空気中での粉砕は、前記FeF2ナノ複合体について見られた結果と同様に、He中での粉砕を越えて改善された、電気化学的性能を誘発した(図7参照)。これら材料を、リチウム(Li)金属に対して、60℃にて、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧にて、50mA/gなる定電流条件下での、充-放電サイクルに掛けた。理論に拘泥するものではないが、該粉砕用の雰囲気(milling atmosphere)は、FeF3のバルク構造および化学的性質に影響を及ぼさなかったので、この改善は、該FeF3の表面において起る変化に由来するものであると考えられる。
【0090】
実施例2.3:炭素-鉄オキシフルオライドナノ複合体の合成:
炭素-鉄オキシフルオライドナノ複合体を、上記溶液製造法で作成した鉄(オキシ)フルオライド材料を用いて製造した。該鉄(オキシ)フルオライド材料(FeOxF2-x)は、様々な組成を持つものであり、また純粋なFeF2からFeOFに至る全範囲に渡る組成を含んでいた。これらの鉄(オキシ)フルオライドを、15%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)、ノリット(Norit)社製]と共に1時間粉砕した。全体で1gの材料を、焼入れ鋼ミル用セルに、1%未満の水分を含む乾燥室内で装入した。
【0091】
空気中での粉砕は、該鉄(オキシ)フルオライドのコア構造に著しい影響を与えることはなかった。図8は、XRDデータを示すものであり、該データは、該炭素をベースとするナノ複合体が、全て、初めの鉄オキシフルオライドの正方P42/mnm晶系の対称性を維持していることを示している。粉砕の際のc-格子パラメータの変動は、統計的に有意なものではなかった。Brink等(F.J.Brink, R.L.WhitersおよびL.Noren, J. Solid State Chem., 161:31-37 (2001))により報告された相図に基けば、該c-格子パラメータが、3.212±.004〜3.023±.013なる範囲に及んでいるので、該FeOxF2-xオキシフルオライドをベースとするナノ複合体の酸素含有率は、x=0.28からx=1までに渡っている。
【0092】
痕跡量のFe3F8.2H2Oが、空気中で、200℃にて1.5〜4時間アニールされた、溶液製造法由来の鉄オキシフルオライドを用いて製造したナノ複合体において観測された。更に、最初にマクロ構造を有していた市販のFeF2の場合に、より顕著であった、該回折ピークの僅かな広がりは、得られたナノ複合体の該鉄(オキシ)フルオライドナノ結晶領域が、粉砕の際に7-15nmまで低下した。これは、(110)ブラッグピークを用いて上記シェラーの式に基いて決定された。
【0093】
該ナノ複合体を含むカソードを、60℃にて、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧にて、定電流(50mA/g)条件下で、リチウム金属の対電極を使用した、2-電極式コイン型電池においてテストした。その電解液は、エチレンカーボネート-ジメチルカーボネート(EC-DMC 50:50(v/v))中に1MのLiPF6を分散させた液からなっていた。図9は、サイクル数の関数としてプロットされた、15%の活性炭を含むオキシフルオライドをベースとするナノ複合体の放電比容量(mAh/g)を示す図であり、また作成された(即ち、市販品および溶液製造法によるFeF2から作成された)FeF2をベースとするナノ複合体と比較した。全てのオキシフルオライドをベースとするナノ複合体は、該FeF2をベースとするナノ複合体と比較して、改善されたサイクル安定性を示した。
【0094】
容量保持率を、該ナノ複合体のc-格子パラメータに対して、2サイクル目の放電容量対30サイクル目の放電容量の比をプロットすることにより、30サイクル後に評価した。図10に示した如く、(実施例1において立証された如く、表面への酸素の導入とは逆に)該フルオライド構造への酸素の導入は、サイクル寿命に有益な影響を与えることが観測された。該サイクル効率は、該市販のFeF2および溶液製造法によるFeF2材料に対する40-50%から、該オキシフルオライド材料に対する79-89%へと上昇した。比較のために、FeF3をベースとするナノ複合体は、同一のプロトコールの下でテストした場合、54.1%なるサイクル効率を示した。
【0095】
該著しい増大が、最小限の酸素置換によって誘発された後、図10のデータは、3.21-3.09Åなる範囲内で、c-格子パラメータの減少に伴って、容量保持率が連続的に増加することを示唆しており、これは、該FeOxF2-x化合物における0.28〜0.75なる範囲の酸素含有率(x)における増加に相当する(凡その値)。純粋なFeOFを生成するために該酸素含有率を増加することにより、サイクル効率が更に改善されることはない。しかし、更なるサイクル寿命の改善は、該オキシフルオライドの製造の際に、酸化が、純粋なFeOFを越えて進められた場合に達成され、これは少量のFe2O3およびFeF3の生成に導く。該オキシフルオライド構造への酸素の導入によってもたらされる、サイクル寿命におけるこの改善は、初期放電容量を犠牲にして達成された。
【0096】
実施例2.4:炭素-フッ化鉄-鉄オキシフルオライドナノ複合体の合成:
炭素-鉄(オキシ)フルオライドナノ複合体を製造した。FeF3と市販のFeF2との混合物または溶液製造法によるオキシフルオライドを、高エネルギー粉砕を利用して、活性炭素と共に1時間粉砕した。様々な組成が使用できた。本実施例においては、該ナノ複合体を、43.5質量%のFeF2またはオキシフルオライド、43.5質量%のFeF3および13質量%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)、ノリット(Norit)社製]を含む混合物から製造した。材料(1g)を、He中または空気中で粉砕した。図11に示したような、He中で粉砕することにより得たナノ複合体のXRDパターンおよび図12に示したような、空気中で粉砕することにより得たナノ複合体のXRDパターンは、何れの場合にも、FeF2またはオキシフルオライドと関連する正方晶系P42/mnm相およびFeF3と関連する菱面体晶系R-3c相が維持されていることを示している。
【0097】
60℃にて、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧にて、50mA/gなる定電流条件下で、リチウム金属に対する2-電極式コイン型電池において、充-放電サイクルを行った。図13は、サイクル数に対して、放電比エネルギー密度(mWh/g)をプロットしたグラフを示す。FeOxF2-x+FeF3混合物の空気中での粉砕は、He中で粉砕することにより得たナノ複合体と比較して、同様なエネルギー密度と共に、改善されたサイクル安定性をもたらした(図13参照)。これらの結果は、前の実施例において論じた該FeOxF2-xナノ複合体およびFeF3-ナノ複合体について観測された結果と一致する。更に、FeOxF2-xオキシフルオライドを製造するための、該ルチル型構造への酸素の導入は、FeF3の存在下においてさえ、純粋なフルオライドFeF2と比較して、該材料のサイクル安定性にとって有益であった。
【0098】
実施例2.5:炭素-フッ化鉄ナノ複合体の合成:粉砕後のアニール:
前の実施例では、初めのオキシフルオライドの酸素含有率を、粉砕前に、如何にして変更できるかを示した。しかし、該ナノ複合体の酸素含有率は、また酸素-含有雰囲気中で、高い温度にて粉砕後のアニールを行うことによって、高めることができる。
【0099】
実施例2.5.1:粉砕後のアニール温度の効果:
本態様においては、200℃にて4時間上記FeSiF6水和物粉末をアニールした後に得られるオキシフルオライドを、15質量%の活性炭と共に空気中で1時間の溶液製造法で粉砕することにより製造したナノ複合体に及ぼす、粉砕後のアニール温度の効果を検討した。空気中における粉砕後のアニール温度の、200℃から400℃への増加に伴う、該ナノ複合体のXRDパターンを得た。粉砕後のアニールは、また300℃にて酸素中でも行った。全ての粉砕後のアニールは、2時間実施した。
【0100】
図14は、粉砕および粉砕後の熱処理後に得たナノ複合体と共に、初期オキシフルオライドのXRDパターンを示す。該ナノ複合体オキシフルオライドの酸素含有率は、該正方晶系P42/mnm(hkl)回折ピークの大きな角度に向かう系統的なシフトによって示されるように、粉砕後のアニール温度と共に増大した。該FeOxF2-x相のFe2O3+FeF3への部分的な分解は、角度2θ24°領域における回折ピークの強度増加によって示されるように、より高温度でのアニール後により顕著なものとなる。
【0101】
該ナノ複合体を、60℃にて、1.5〜4.5Vにて、50mA/gなる条件下で、2-電極式コイン型電池を用いて、リチウム金属に対してテストした。図15に示したように、その放電比エネルギー密度をサイクルの関数としてプロットした。該材料の電気化学的性能に及ぼす影響は、250℃以上において顕著となり、改善されたサイクル安定性および低い放電エネルギーを伴う。しかし350℃を越える温度増加は、有害であった。空気中での300℃における粉砕後のアニールは有益であったが、酸素中での300℃における粉砕後のアニールは、該材料の電気化学的性能にとって有害であると考えられた。最適な性能は、制限された酸化によって得られた。
【0102】
実施例2.5.2:粉砕後のアニール温度の効果:
本態様においては、13%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)]と共に、鉄オキシフルオライドおよびFeF3の50質量%-50質量%混合物から得たナノ複合体を、空気中で2時間、粉砕後のアニール処理に掛けた。図16は、これについて得られたXRDパターンを示す。図16は、アニール温度を200℃から450℃に高めた際に、該正方晶系FeOxF2-xの(101)および(211)ピークが、大きな角度に向かって系統的にシフトすることを示している。該粉砕後のアニール温度における増加は、該ナノ構造化されたオキシフルオライドの酸素含有率の増加へと導く。前に実施例2.4において観測された、高温度におけるFeOxF2-xの分解は、初期FeF3の存在のために、このサンプル中で検出することは一層困難であろう。事実、FeF3およびFe2O3の(012)反射は、それぞれ23.8°および24.1°に現れる。
【0103】
60℃、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧、50mA/gなる定電流条件下での、2-電極式コイン型電池におけるリチウム金属に対するサイクルは(図17参照)、300℃までの温度上昇に伴う、該ナノ複合体の電気化学的性能の系統的な改善を明らかにする。更なる温度の上昇は、該材料の電気化学的諸特性の劣化をもたらした。FeOxF2-x-FeF3をベースとするナノ複合体の最適な性能を得るためには、該粉砕後の温度は、200〜300℃なる範囲内にある。
【0104】
実施例2.5.3:粉砕後のアニール温度の効果:
本態様においては、13%の活性炭[Aスプラ(ASupraTM)]と共に、オキシフルオライドおよびFeF3の50質量%-50質量%混合物から得たナノ複合体を、酸素中で2時間、粉砕後のアニール処理に掛けた。実施例2.5.2は、空気中での粉砕後のアニール処理を説明するものである。図18は、これらのナノ複合体に見られたXRDデータを示す。該空気中での粉砕後のアニール処理について観測されたように、アニール温度を200℃から300℃に高めるのに伴って、該正方晶系FeOxF2-xの(101)および(211)ピークは、大きな角度に向かって系統的にシフトする(図18参照)。従って、該酸素中での粉砕後の、アニール温度における上昇は、該ナノ構造化されたオキシフルオライドの酸素含有率の系統的な増大に導く。
【0105】
酸素中で粉砕後のアニール処理に掛けた、該FeOxF2-x-FeF3をベースとするナノ複合体を、2-電極式コイン型電池におけるリチウム金属に対してテストした。60℃、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧、50mA/gなる定電流条件下で、サイクルを行った。図19は、以下の4つの条件下での、サイクル数に対する放電比エネルギー密度をプロットしたものである:(1)粉砕後のアニールなし;(2) 200℃にて2時間;(3) 250℃にて2時間;(4) 300℃にて2時間。該材料の容量保持率は、200℃における酸素中での粉砕後のアニールによって改善された(図19参照)。より高温度下で行った、酸素中での粉砕後のアニールは、該ナノ複合体の電気化学的性能にとって有害である。
【0106】
実施例2.6:2.4-4.5Vなる範囲に渡るサイクル:
本態様においては、電気化学的テストを、2.4-4.5Vなる範囲に狭めた。以前の電気化学的テストは、1.5〜4.5Vなる範囲内で行われた。図20は、以下の3例に関して、サイクル数に対する放電比エネルギー密度を示す:(1) 上記溶液製造法により得たナノ構造化されたFeOxF2-xから製造したナノ複合体;(2) (粉砕後)300℃にて2時間に渡り加熱処理された、ナノ構造化されたFeOxF2-xから製造したナノ複合体;および(3) マクロ-FeF2をベースとするナノ複合体。ナノ構造化されたFeOxF2-xから製造したナノ複合体(1)および(2)両者は、該マクロ-FeF2をベースとするナノ複合体(3)と比較して、これらが、サイクルに掛けた際に、高いエネルギー密度およびより良好な容量保持率を示す点において、より改善された電気化学的性能を示した。
【0107】
実施例3:マンガンおよびニッケル置換:
本態様においては、上記溶液製造法において、金属としての鉄にマンガンおよびニッケルを添加した。図21は、(1) 10質量%のMn-90質量%のFe、(2) 25質量%のMn-75質量%のFeおよび(3) 50質量%のMn-50質量%のFe混合物を、該ヘキサフルオロ珪酸の水性溶液に添加した際に得られたナノ複合体のXRDパターンを示す。100質量%のFeサンプルに関するXRDパターンを、比較の目的で加えた。図22は、同様な割合で鉄にニッケルを添加した場合に得られたパターンを示す。全てのサンプルは、空気中で4時間アニールされた、該マンガンまたはニッケル置換されたFeSiF6水和物を、15質量%の活性炭[Aスプラ(ASupra)]と共に、空気中で1時間粉砕することによって得た。次いで、該ナノ複合体を、300℃、2時間の粉砕後のアニール処理に掛けた。図21および図22は、全てのナノ複合体が、正方晶系P42/mnm構造を維持していることを示す。以下の表3に示すように、添加されたマンガンの量に伴う、回折ピークの小さい角度に向かう系統的なシフトは、ルチル型の構造における、Fe2+のより大きなMn2+による置換の際の、正方晶系単位格子体積の増加と関連している。ニッケルを添加した場合には、該構造の体積変化は、さほど大きくはない。ニッケルの場合には、相分離が生じ、鉄オキシフルオライドとフッ化ニッケルとのナノ複合体を生成するものと考えられる。
【0108】
表3
【0109】
図23は、サイクル数の関数としてプロットされた、MnおよびNi置換した鉄オキシフルオライドナノ複合体の、放電比エネルギー密度を示す。これらの材料を、60℃、1.5〜4.5Vなる範囲の電圧、50mA/gなる定電流条件下でテストした。このテストは、全てのナノ複合体が電気化学的活性を示し、10〜50質量%のMnまたはNiの添加が、電気化学的性能を改善しないことを示している。このことは、より高い置換度において、より一層間違いのないものであった。
【0110】
実施例4:リチウムをベースとするリン酸塩の添加:
理論により何ら制限されるものではないが、これら実施例においては、リン酸リチウムをベースとする化合物を、プリカーサとして使用したが、製造後に、様々な量のリン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸鉄、フルオロリン酸鉄、およびフルオロリン酸鉄リチウムが、鉄フルオライド/オキシフルオライドと、リン酸リチウム化合物との間の化学反応を通して形成される可能性があるものと思われる。更に、同様な電気化学的性能における改善が、(NH4)2HPO4およびNH4H2PO4プリカーサの使用により観測されたが、このことは、鉄フルオライド/オキシフルオライドとの化学反応の結果として生成されるフルオロリン酸鉄またはリン酸鉄の存在が、観測された通り、改善されたサイクル安定性に導くことを示唆している。
【0111】
実施例4.1:リチウムをベースとするリン酸塩およびフッ化鉄ナノ複合体:
本態様においては、FeF3ナノ複合体を、10質量%のリチウムをベースとするリン酸塩、例えば、Li3PO4およびLiH2PO4および15質量%の活性炭(Aスプラ)を用いて製造した。該材料(全体で1g)を粉砕用セルに装入し、≦1%の水分を含む乾燥室で、空気中で封止した。図24は、得られたナノ複合体のXRDパターンを示す。これは、リン酸リチウムの添加が、該電気化学的に活性なフルオライドFeF3の本体に対して、如何なる構造変化をももたらさなかったことを示している。図25は、以下の3種のこのようなナノ複合体に関する、サイクル数に対する、放電比容量(mAh/g)をプロットしたものである:(1) 空気中で1時間粉砕されたFeF3および15%のAスプラ;(2) 空気中で1時間粉砕されたFeF3および10%のLi3PO4および15%のAスプラ;および(3) 空気中で1時間粉砕されたFeF3および10%のLiH2PO4および15%のAスプラ。60℃、1.5〜4.5V、および50mA/gなる条件下での、リチウム金属に対する電気化学的テストは、リン酸リチウムの添加が、容量保持率を改善することを示した(図25参照)。リン酸水素リチウムLiH2PO4を用いて製造したナノ複合体は、Li3PO4を用いて製造したナノ複合体よりも優れた性能を示した。
【0112】
実施例4.2:リチウムをベースとするリン酸塩および鉄オキシフルオライドナノ複合体:
本態様においては、鉄オキシフルオライドをベースとするナノ複合体を、リチウムをベースとするリン酸塩を用いて製造した。空気中で4時間アニール処理したFeSiF6水和物を、15質量%の活性炭Aスプラ(ASupra)および10質量%のLiH2PO4と共に、空気およびヘリウム中で粉砕した。更に、電気化学的性能に及ぼすLiH2PO4の影響を評価するために、該オキシフルオライドを、15質量%の活性炭のみを用いて空気中で粉砕した。図26に示された、LiH2PO4を使用しまたは使用せずに得た、該鉄オキシフルオライドナノ複合体のXRDパターンは、該鉄オキシフルオライド化合物のルチル型構造が、粉砕後に維持されていることを立証している。
【0113】
図27は、以下のような3種のナノ複合体に関する、サイクル数に対する、放電比容量(mAh/g)をプロットしたものである:(1) FeSiF6水和物を、200℃にて空気中で4時間アニールし、次いで15%のAスプラと共に空気中で1時間粉砕して得たもの;(2) FeSiF6水和物を、200℃にて空気中で4時間アニールし、次いで10%のLiH2PO4および15%のAスプラと共にHe中で1時間粉砕して得たもの;および(3) FeSiF6水和物を、200℃にて空気中で4時間アニールし、次いで10%のLiH2PO4および15%のAスプラと共に空気中で1時間粉砕して得たもの。これは、10%のLiH2PO4の添加が、サイクル安定性を改善し、しかも粉砕用雰囲気両者において、放電容量(図27)を維持していたことを示している。該複合体の電気化学的テストを、60℃、1.5〜4.5V、および50mA/gなる条件下で、リチウムに対して行った。更に、上記と同様な量および方法で添加される、リン酸水素アンモニウムプリカーサ((NH4)2HPO4またはNH4H2PO4)の使用は、顕著な改善をもたらした。
【0114】
実施例4.3:リチウムをベースとするリン酸塩、鉄(オキシ)フルオライドナノ複合体:
本態様においては、以下の3つの型のナノ複合体を、機械的粉砕によって製造した:(1) 溶液製造法によるFeOxFy、鉄オキシフルオライド;(2) 市販のFeF2;および(3) 市販のFeF3を、夫々10%のLiH2PO4と共に粉砕した。先ず該材料(1g)を、粉砕セルに投入し、Heで満たされたグローブボックス内に封入した。第二に、得られたナノ複合体(0.56g)を、15%の活性炭(Aスプラ)と共に、同様にHe中で1時間粉砕した。得られたこれらサンプルを、60℃、1.5〜4.5V、50mA/gなる定電流条件下で、電気化学的にリチウムに対してテストした。図28は、サイクル数に対して、放電比容量(mAh/g)をプロットしたものである。この図は、該オキシフルオライドが、純粋なフルオライドよりも良好な電気化学的性能を呈することを示している。如何なるリン酸塩も使用することなしに、15%の炭素を用いて製造したナノ複合体について観測された如く、該フルオライド構造への酸素の添加は、サイクル安定性を改善し、しかも純粋なフッ化鉄と比較して高い容量を維持することが立証された。
【0115】
実施例5:VC添加剤の利用
本態様においては、3.073±0.01Åなるc-格子パラメータを有するFeOxF2-x-ナノ複合体(ほぼFeO0.85F1.15なる組成に相当する)を、60℃、1.5〜4.5V、50mA/gなる定電流条件下で、リチウムに対してサイクルさせた。該FeOxF2-x材料は、FeSiF6水和物を、200℃にて4時間空気中でアニールすることにより上記溶液製造法で作成したオキシフルオライドを、粉砕した後に得られた。15%の活性炭と共に空気中で1時間粉砕した後、該サンプルを、空気中で2時間の、300℃における熱処理に掛けた。電気化学的テストを、(1) 1MのLiPF6のEC:DMC(50:50容量%)溶液を電解液とし、(2) 電解液と添加剤としての1質量%のVC、および(3)電解液と添加剤としての2質量%のVCを使用して行った。図29は、サイクル数に対して、放電比容量(mAh/g)をプロットしたものである。この図は、上記濃度での該VC添加剤が、一般的にサイクル寿命を改善することを示している。より高濃度のVCは、放電容量を僅かに低下する。
【0116】
実施例6:金属硫化物および鉄および鉄オキシフルオライドナノ複合体
本態様においては、10-20%の金属硫化物および15%の活性炭(Aスプラ)を使用して、フッ化鉄および鉄オキシフルオライドからナノ複合体を製造した。金属硫化物は、FeS2およびNiS2を含んでいた。該フッ化鉄の粉砕は、ヘリウム中で行い、一方該オキシフルオライドは、空気中で粉砕した。本態様において使用したフッ化鉄FeF2は、市販品として入手したものであり、一方該鉄オキシフルオライドは、上記溶液製造法に従って合成された。
【0117】
全ての電池を、60℃、1.5〜4.5V、50mA/gなる定電流条件下で、リチウム金属に対してテストした。
【0118】
図32は、以下の3種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電(即ち、比)容量(mAh/g)を示す:(1) 15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2;(2) 10%のFeS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2;および(3) 20%のFeS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2。図32は、金属硫化物の添加が、改善された容量保持率を与え、かつ活性炭のみを使用して製造したこれらナノ複合体と比較して、放電容量を維持または改善することを示している。
【0119】
図33は、以下の3種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電(即ち、比)容量(mAh/g)を示す:(1) 15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2;(2) 10%のNiS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2;および(3) 20%のNiS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、He中で1時間粉砕された、市販品として得られるFeF2。図33は、金属硫化物の添加が、改善された容量保持率を与え、かつ活性炭のみを使用して製造したこれらナノ複合体と比較して、放電容量を維持または改善することを示している。
【0120】
図34は、以下の2種のナノ複合体に関する、サイクル数の関数としてプロットされた、放電(即ち、比)容量(mAh/g)を示す:(1) 上記溶液製造法によって、15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、空気中で1時間粉砕することにより得た、鉄オキシフルオライド;および(2) 上記溶液製造法によって、10%のFeS2および15%の活性炭(Aスプラ BM)と共に、空気中で1時間粉砕することにより得た、鉄オキシフルオライド。図34は、金属硫化物の添加が、改善された容量保持率を与え、かつ金属硫化物の使用なしに製造したナノ複合体と比較して、放電容量を維持または改善することを示している。
【0121】
上記全ての実施例において、金属硫化物の添加は、改善された容量保持率を与え、かつ活性炭のみを使用して製造したナノ複合体と比較して、放電容量を維持または改善する。該フッ化鉄およびオキシフルオライドに添加された該金属硫化物の更なる研究は、金属硫酸塩の存在を明らかにした。硫酸鉄(Fe2(SO4)3)を含む金属または無機硫酸塩および硫酸水素アンモニウム(NH4HSO4)の検討も、これらが、活性炭のみを使用して製造したナノ複合体と比較して、改善されたサイクル安定性を示すことを明らかにした。
以上、本発明を、本発明の原理を例示するが、本発明を該例示された態様に限定するものではない、態様を参照しつつ説明した。以上の詳細な説明を読み、理解した際には、その他の点に対する改良並びに変更を行うこともできる。本発明の範囲は、上記の詳細な説明を読み、理解した際に、その他の点に対して行うことのできる、全ての改良並びに変更をも、これらが添付した特許請求の範囲、あるいはその等価なものの範囲内に入るものである限り、包含するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄オキシフルオライド複合体を含む、電気化学的エネルギー貯蔵電池用の正電極材料として使用するための組成物。
【請求項2】
前記鉄オキシフルオライド複合体が、式:FeOxF2-yで表される鉄オキシフルオライド化合物であって、式中、0<y≦1であり、かつ0<x≦1である、鉄オキシフルオライド化合物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、更に少なくとも1種の追加の金属を含む、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種の追加の金属が、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
前記鉄オキシフルオライドナノ微結晶が、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記式において、x=yである、請求項2記載の組成物。
【請求項8】
前記鉄オキシフルオライド複合体が、更に導電性マトリックスを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記導電性マトリックスが、炭素である、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記導電性マトリックスが、混合導体である、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
前記導電性マトリックスが、金属酸化物である、請求項8記載の組成物。
【請求項12】
前記導電性マトリックスが、金属硫化物である、請求項8記載の組成物。
【請求項13】
前記導電性マトリックスが、金属硫酸塩である、請求項8記載の組成物。
【請求項14】
前記導電性マトリックスが、無機リン酸塩である、請求項8記載の組成物。
【請求項15】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄である、請求項8記載の組成物。
【請求項16】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸鉄である、請求項8記載の組成物。
【請求項17】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄リチウムである、請求項8記載の組成物。
【請求項18】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸鉄リチウムである、請求項8記載の組成物。
【請求項19】
前記導電性マトリックスが、金属窒化物である、請求項8記載の組成物。
【請求項20】
前記導電性マトリックスが、金属リン化物である、請求項8記載の組成物。
【請求項21】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、正方晶系ルチル型構造を有し、かつ3.30Å未満の「c」格子パラメータを有する、請求項2記載の組成物。
【請求項22】
メタロライト複合体の製造方法であって、以下の諸工程:
(a) Me種およびフルオロ珪酸を含む出発溶液を提供する工程;
(b) 該出発溶液を反応させて、MeSiF6水性溶液を生成する工程;
(c) 該MeSiF6水性溶液を、所定温度にて乾燥してMeSiF6水和物を含む粉末体とする工程;
(d) 該粉末体を雰囲気中で熱処理して、メタロライト複合体を製造する工程;
を含み、Meが金属であることを特徴とする、前記方法。
【請求項23】
製造される前記メタロライト複合体が、金属オキシフルオライドである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
製造される前記金属複合体が、鉄オキシフルオライド化合物である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
製造される前記メタロライト複合体が、金属フッ化物である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
製造される前記メタロライト複合体が、フッ化鉄化合物である、請求項22記載の方法。
【請求項27】
前記Meが、Li、Ag、Fe、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、Nb、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、およびCuからなる群から選択される、請求項22記載の方法。
【請求項28】
前記MeSiF6がFeSiF6である、請求項22記載の方法。
【請求項29】
前記工程(b)の反応が、約40℃〜約45℃の温度にて行われる、請求項22記載の方法。
【請求項30】
前記工程(b)の反応が、約12時間〜約24時間の範囲内で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項31】
前記工程(c)が、約110℃の温度にて、空気中で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項32】
前記工程(c)が、約200℃で、約2時間〜約3時間、空気中で行われ、次いで更に約110℃の温度にて加熱することを伴う、請求項22記載の方法。
【請求項33】
前記工程(d)が、約150℃〜約300℃の温度にて行われる、請求項22記載の方法。
【請求項34】
前記工程(d)が、アルゴン雰囲気中で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項35】
前記工程(d)が、空気雰囲気中で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項36】
前記工程(b)の終わりにおいて、前記MeSiF6水性溶液に無機リン酸塩を添加し、それにより金属フルオライドまたはオキシフルオライド成分とリン酸塩をベースとする成分とを含むメタロライト複合体を製造し、Meが金属である、請求項22記載の方法。
【請求項37】
前記工程(c)の終わりにおいて、前記MeSiF6水和物粉末体に無機リン酸塩を添加し、それにより金属フルオライドまたはオキシフルオライド成分とリン酸塩をベースとする成分とを含むメタロライト複合体を製造し、Meが金属である、請求項22記載の方法。
【請求項38】
前記添加される無機リン酸塩成分が、約1%の無機リン酸塩成分〜約50%の無機リン酸塩成分を含む、請求項22記載の方法。
【請求項39】
前記製造されたメタロライト複合体が、正方晶系ルチル型構造を有し、かつ3.30Å未満の「c」格子パラメータを有する、請求項22記載の方法。
【請求項40】
前記製造されたメタロライト複合体が、ナノ粒子である、請求項22記載の方法。
【請求項41】
前記MeがFeである、請求項22記載の方法。
【請求項42】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、式:FeOxF2-yで表され、ここで、0<y≦1であり、かつ0<x≦1であり、好ましくはx=yである、請求項24記載の方法。
【請求項43】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、更に少なくとも1種の追加の金属を含む、請求項24記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも1種の追加の金属が、化学量論的割合で組み合わされた、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である、請求項24記載の方法。
【請求項46】
前記鉄オキシフルオライドナノ微結晶が、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する、請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記メタロライト複合体が、更に導電性マトリックスを含む、請求項22記載の方法。
【請求項48】
前記導電性マトリックスが、炭素である、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記導電性マトリックスが、混合導体である、請求項47記載の方法。
【請求項50】
前記導電性マトリックスが、金属酸化物である、請求項47記載の方法。
【請求項51】
前記導電性マトリックスが、金属硫化物である、請求項47記載の方法。
【請求項52】
前記導電性マトリックスが、金属硫酸塩である、請求項47記載の方法。
【請求項53】
前記導電性マトリックスが、無機リン酸塩である、請求項47記載の方法。
【請求項54】
前記導電性マトリックスが、金属窒化物である、請求項47記載の方法。
【請求項55】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄である、請求項47記載の方法。
【請求項56】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸鉄である、請求項47記載の方法。
【請求項57】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄リチウムである、請求項47記載の方法。
【請求項58】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸鉄リチウムである、請求項47記載の方法。
【請求項59】
負電極、鉄オキシフルオライド複合体を含む正電極、および該負電極と該正電極との間に設けられたセパレータを含む、電気化学電池。
【請求項60】
前記鉄オキシフルオライド複合体が、式:FeOxF2-yで表される鉄オキシフルオライド化合物であって、式中、0<y≦1であり、かつ0<x≦1である、鉄オキシフルオライド化合物を含む、請求項59記載の電気化学電池。
【請求項61】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、更に少なくとも1種の追加の金属を含む、請求項60記載の電気化学電池。
【請求項62】
前記少なくとも1種の追加の金属が、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される、請求項60記載の電気化学電池。
【請求項63】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である、請求項60記載の電気化学電池。
【請求項64】
前記鉄オキシフルオライドナノ微結晶が、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する、請求項63記載の電気化学電池。
【請求項65】
前記式において、x=yである、請求項60記載の電気化学電池。
【請求項66】
前記鉄オキシフルオライド複合体が、更に導電性マトリックスを含む、請求項59記載の電気化学電池。
【請求項67】
前記導電性マトリックスが、炭素である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項68】
前記導電性マトリックスが、混合導体である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項69】
前記導電性マトリックスが、金属酸化物である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項70】
前記導電性マトリックスが、金属硫化物である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項71】
前記導電性マトリックスが、金属硫酸塩である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項72】
前記導電性マトリックスが、無機リン酸塩である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項73】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項74】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄リチウムである、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項75】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸リチウムである、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項76】
前記導電性マトリックスが、金属窒化物または金属リン化物である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項77】
前記導電性マトリックスが、金属リン化物である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項78】
鉄オキシフルオライド化合物が、正方晶系ルチル型構造を有し、かつ3.30Å未満の「c」格子パラメータを有する、請求項60記載の電気化学電池。
【請求項1】
鉄オキシフルオライド複合体を含む、電気化学的エネルギー貯蔵電池用の正電極材料として使用するための組成物。
【請求項2】
前記鉄オキシフルオライド複合体が、式:FeOxF2-yで表される鉄オキシフルオライド化合物であって、式中、0<y≦1であり、かつ0<x≦1である、鉄オキシフルオライド化合物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、更に少なくとも1種の追加の金属を含む、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種の追加の金属が、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
前記鉄オキシフルオライドナノ微結晶が、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記式において、x=yである、請求項2記載の組成物。
【請求項8】
前記鉄オキシフルオライド複合体が、更に導電性マトリックスを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記導電性マトリックスが、炭素である、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記導電性マトリックスが、混合導体である、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
前記導電性マトリックスが、金属酸化物である、請求項8記載の組成物。
【請求項12】
前記導電性マトリックスが、金属硫化物である、請求項8記載の組成物。
【請求項13】
前記導電性マトリックスが、金属硫酸塩である、請求項8記載の組成物。
【請求項14】
前記導電性マトリックスが、無機リン酸塩である、請求項8記載の組成物。
【請求項15】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄である、請求項8記載の組成物。
【請求項16】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸鉄である、請求項8記載の組成物。
【請求項17】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄リチウムである、請求項8記載の組成物。
【請求項18】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸鉄リチウムである、請求項8記載の組成物。
【請求項19】
前記導電性マトリックスが、金属窒化物である、請求項8記載の組成物。
【請求項20】
前記導電性マトリックスが、金属リン化物である、請求項8記載の組成物。
【請求項21】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、正方晶系ルチル型構造を有し、かつ3.30Å未満の「c」格子パラメータを有する、請求項2記載の組成物。
【請求項22】
メタロライト複合体の製造方法であって、以下の諸工程:
(a) Me種およびフルオロ珪酸を含む出発溶液を提供する工程;
(b) 該出発溶液を反応させて、MeSiF6水性溶液を生成する工程;
(c) 該MeSiF6水性溶液を、所定温度にて乾燥してMeSiF6水和物を含む粉末体とする工程;
(d) 該粉末体を雰囲気中で熱処理して、メタロライト複合体を製造する工程;
を含み、Meが金属であることを特徴とする、前記方法。
【請求項23】
製造される前記メタロライト複合体が、金属オキシフルオライドである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
製造される前記金属複合体が、鉄オキシフルオライド化合物である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
製造される前記メタロライト複合体が、金属フッ化物である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
製造される前記メタロライト複合体が、フッ化鉄化合物である、請求項22記載の方法。
【請求項27】
前記Meが、Li、Ag、Fe、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、Nb、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、およびCuからなる群から選択される、請求項22記載の方法。
【請求項28】
前記MeSiF6がFeSiF6である、請求項22記載の方法。
【請求項29】
前記工程(b)の反応が、約40℃〜約45℃の温度にて行われる、請求項22記載の方法。
【請求項30】
前記工程(b)の反応が、約12時間〜約24時間の範囲内で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項31】
前記工程(c)が、約110℃の温度にて、空気中で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項32】
前記工程(c)が、約200℃で、約2時間〜約3時間、空気中で行われ、次いで更に約110℃の温度にて加熱することを伴う、請求項22記載の方法。
【請求項33】
前記工程(d)が、約150℃〜約300℃の温度にて行われる、請求項22記載の方法。
【請求項34】
前記工程(d)が、アルゴン雰囲気中で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項35】
前記工程(d)が、空気雰囲気中で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項36】
前記工程(b)の終わりにおいて、前記MeSiF6水性溶液に無機リン酸塩を添加し、それにより金属フルオライドまたはオキシフルオライド成分とリン酸塩をベースとする成分とを含むメタロライト複合体を製造し、Meが金属である、請求項22記載の方法。
【請求項37】
前記工程(c)の終わりにおいて、前記MeSiF6水和物粉末体に無機リン酸塩を添加し、それにより金属フルオライドまたはオキシフルオライド成分とリン酸塩をベースとする成分とを含むメタロライト複合体を製造し、Meが金属である、請求項22記載の方法。
【請求項38】
前記添加される無機リン酸塩成分が、約1%の無機リン酸塩成分〜約50%の無機リン酸塩成分を含む、請求項22記載の方法。
【請求項39】
前記製造されたメタロライト複合体が、正方晶系ルチル型構造を有し、かつ3.30Å未満の「c」格子パラメータを有する、請求項22記載の方法。
【請求項40】
前記製造されたメタロライト複合体が、ナノ粒子である、請求項22記載の方法。
【請求項41】
前記MeがFeである、請求項22記載の方法。
【請求項42】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、式:FeOxF2-yで表され、ここで、0<y≦1であり、かつ0<x≦1であり、好ましくはx=yである、請求項24記載の方法。
【請求項43】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、更に少なくとも1種の追加の金属を含む、請求項24記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも1種の追加の金属が、化学量論的割合で組み合わされた、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である、請求項24記載の方法。
【請求項46】
前記鉄オキシフルオライドナノ微結晶が、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する、請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記メタロライト複合体が、更に導電性マトリックスを含む、請求項22記載の方法。
【請求項48】
前記導電性マトリックスが、炭素である、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記導電性マトリックスが、混合導体である、請求項47記載の方法。
【請求項50】
前記導電性マトリックスが、金属酸化物である、請求項47記載の方法。
【請求項51】
前記導電性マトリックスが、金属硫化物である、請求項47記載の方法。
【請求項52】
前記導電性マトリックスが、金属硫酸塩である、請求項47記載の方法。
【請求項53】
前記導電性マトリックスが、無機リン酸塩である、請求項47記載の方法。
【請求項54】
前記導電性マトリックスが、金属窒化物である、請求項47記載の方法。
【請求項55】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄である、請求項47記載の方法。
【請求項56】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸鉄である、請求項47記載の方法。
【請求項57】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄リチウムである、請求項47記載の方法。
【請求項58】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸鉄リチウムである、請求項47記載の方法。
【請求項59】
負電極、鉄オキシフルオライド複合体を含む正電極、および該負電極と該正電極との間に設けられたセパレータを含む、電気化学電池。
【請求項60】
前記鉄オキシフルオライド複合体が、式:FeOxF2-yで表される鉄オキシフルオライド化合物であって、式中、0<y≦1であり、かつ0<x≦1である、鉄オキシフルオライド化合物を含む、請求項59記載の電気化学電池。
【請求項61】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、更に少なくとも1種の追加の金属を含む、請求項60記載の電気化学電池。
【請求項62】
前記少なくとも1種の追加の金属が、Li、Mn、Ni、Co、Cu、Ti、V、Cr、Ag、Bi、Sn、Sb、Pb、Mo、およびNbからなる群から選択される、請求項60記載の電気化学電池。
【請求項63】
前記鉄オキシフルオライド化合物が、鉄オキシフルオライドナノ微結晶である、請求項60記載の電気化学電池。
【請求項64】
前記鉄オキシフルオライドナノ微結晶が、約1nm〜約100nmの第一ドメインサイズを有する、請求項63記載の電気化学電池。
【請求項65】
前記式において、x=yである、請求項60記載の電気化学電池。
【請求項66】
前記鉄オキシフルオライド複合体が、更に導電性マトリックスを含む、請求項59記載の電気化学電池。
【請求項67】
前記導電性マトリックスが、炭素である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項68】
前記導電性マトリックスが、混合導体である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項69】
前記導電性マトリックスが、金属酸化物である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項70】
前記導電性マトリックスが、金属硫化物である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項71】
前記導電性マトリックスが、金属硫酸塩である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項72】
前記導電性マトリックスが、無機リン酸塩である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項73】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項74】
前記導電性マトリックスが、リン酸鉄リチウムである、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項75】
前記導電性マトリックスが、フルオロリン酸リチウムである、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項76】
前記導電性マトリックスが、金属窒化物または金属リン化物である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項77】
前記導電性マトリックスが、金属リン化物である、請求項66記載の電気化学電池。
【請求項78】
鉄オキシフルオライド化合物が、正方晶系ルチル型構造を有し、かつ3.30Å未満の「c」格子パラメータを有する、請求項60記載の電気化学電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公表番号】特表2011−523171(P2011−523171A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511728(P2011−511728)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/044797
【国際公開番号】WO2009/143324
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510310347)ラトガーズ ザ ステイト ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/044797
【国際公開番号】WO2009/143324
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510310347)ラトガーズ ザ ステイト ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】
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