説明

電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子用セパレータの製造方法

【課題】少なくとも一方の表面に無機層を備えるように電気化学素子用セパレータを製造しようとすると、必然的にシート同士の間に無機層が挟まれた態様で基材同士を接合することになる。その結果、無機層の存在によって基材同士の接合が防げられて、接合部分で基材同士の剥離が発生しやすい態様でしか、欠点を発生せずある程度の長さをもつ長尺状の電気化学素子用セパレータを製造することができなかった。

【解決手段】
本発明によれば、シート表面に無機層を備えてなる基材同士が端部で接合してなる電気化学素子用セパレータであるにも関わらず、「基材同士の間に、接着性樹脂が介在している」ことによって、接合部分で基材同士が剥離しにくい、電気化学素子用セパレータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池及びキャパシタなど電気化学素子の、耐熱性や充放電特性など諸機能を高められるように、前記電気化学素子を構成する電気化学素子用セパレータは、少なくとも一方の表面に無機層を備えていると共に、搬送性や加工性に優れているように、ある程度の長さをもつ長尺状であるのが好ましい。
【0003】
また、電気化学素子に短絡の発生や機能低下などが発生しないように、電気化学素子用セパレータは異物の混入や無機層の剥落など欠点が存在しない態様であるのが好ましい。
【0004】
上述のような電気化学素子用セパレータを製造する方法として、
1.シート表面に無機層を備えてなる基材を、欠点を発生させることなくある程度の長さをもつ長尺状の態様で製造して、電気化学素子用セパレータとする方法、
2.シート表面に無機層を備えてなる基材を、欠点を発生させることなく複数枚製造した後、前記基材の端部同士を積層して接合することである程度の長さをもつ長尺状の態様にして、電気化学素子用セパレータとする方法、
3.シート表面に無機層を備えてなる基材を、ある程度の長さをもつ長尺状の態様で製造し、前記基材から欠点部分を除去した後、分断された基材の端部同士を積層して接合して、電気化学素子用セパレータとする方法、
などの方法が検討されている。
【0005】
しかし、電気化学素子用セパレータの長さが長くなれば長くなるほど欠点の発生する確率が高まるため、第1案として挙げた製造方法を用いて、欠点を発生せずある程度の長さをもつ長尺状の態様で、電気化学素子用セパレータを製造することは困難であった。
【0006】
そこで、本願発明者らは、超音波あるいは加熱加圧などによる前記基材同士の接合方法を検討することで、第2案および第3案として挙げた、電気化学素子用セパレータの製造方法を試みた。
【0007】
しかし、少なくとも一方の表面に無機層を備えるように電気化学素子用セパレータを製造しようとすると、必然的にシート同士の間に無機層が挟まれた態様で基材同士を接合することになる。
【0008】
その結果、無機層の存在によって基材同士の接合が防げられて、接合部分で基材同士の剥離が発生しやすい態様でしか、欠点を発生せずある程度の長さをもつ長尺状の電気化学素子用セパレータを製造することができなかった。
【0009】
上述のようにして製造された電気化学素子用セパレータは、搬送時や加工時に剥離を生じやすく、電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子の生産性向上を妨げる要因であった。また、前記電気化学素子用セパレータを使用して電気化学素子を製造すると、基材同士の剥離の発生に伴い、前記電気化学素子に短絡が発生し易くなるものであった。
【0010】
特に、前記電気化学素子用セパレータを捲回して使用した場合など、前記電気化学素子用セパレータに力を作用させて電気化学素子を製造した場合に、短絡が顕著に発生するものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、接合部分で基材同士が剥離しにくい、電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子用セパレータの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、
「シート表面に無機層を備えてなる基材同士が端部で接合してなる、少なくとも一方の表面に無機層を備えた電気化学素子用セパレータであり、前記基材同士の間に、接着性樹脂が介在していることを特徴とする、電気化学素子用セパレータ。」
である。
【0013】
請求項2に係る発明は、
「1.シート表面に無機層を備えてなる基材の端部に、接着性樹脂層を形成する工程、
2.前記接着性樹脂層に、シート表面に無機層を備えてなる別の基材の端部を、積層する工程、
3.前記接着性樹脂層を構成する接着性樹脂を溶融させて、前記基材同士を端部で接合する工程、
を備えることを特徴とする、少なくとも一方の表面に無機層を備えた電気化学素子用セパレータの製造方法。」
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に係る発明は、シート表面に無機層を備えてなる基材同士が端部で接合してなる電気化学素子用セパレータであるにも関わらず、「基材同士の間に、接着性樹脂が介在している」ことによって、接合部分で基材同士が剥離しにくい、電気化学素子用セパレータである。
【0015】
本発明の請求項2に係る発明は、「1.シート表面に無機層を備えてなる基材の端部に、接着性樹脂層を形成する工程、
2.前記接着性樹脂層に、シート表面に無機層を備えてなる別の基材の端部を、積層する工程、
3.前記接着性樹脂層を構成する接着性樹脂を溶融させて、前記基材同士を端部で接合する工程」を備えていることによって、接着性樹脂を介在させることで基材同士を接合できるため、接合部分で基材同士が剥離しにくい、電気化学素子用セパレータの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る電気化学素子用セパレータを主面側から見た、模式的平面図である。
【図2】(a)図1に係る電気化学素子用セパレータの長辺方向における模式的断面図である。(b)本発明に係る、別の電気化学素子用セパレータの長辺方向における模式的断面図である。
【図3】(a)(b)本発明に係る、更に別の電気化学素子用セパレータの長辺方向における模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る電気化学素子用セパレータについて、図1〜図3の各図を用いて説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る電気化学素子用セパレータ(10)を主面側から見た、模式的平面図である。
【0019】
図1における本発明に係る電気化学素子用セパレータ(10)は、基材(1)と別の基材(1’)が、前記基材の端部同士の間に接着性樹脂(図1では図示せず)を介在している状態で接合して、接合部分(2)を形成している。なお、基材(1)は表面に無機層(5a、5a(図2参照))を備えており、別の基材(1’)は表面に無機層(5a’、5a’(図2参照))を備えている。
【0020】
なお、図1では、前記電気化学素子用セパレータ(10)を主面側から見た際に、別の基材(1’)により隠されている基材(1)の末端を破線で図示している。
【0021】
図2(a)は、図1に係る電気化学素子用セパレータ(10)の長辺方向における模式的断面図である。
【0022】
図2(a)は、シート(4)における両方の表面側(紙面上の上下方向側)に無機層(5a、5a)を備えてなる基材(1)と、シート(4’)における両方の表面側(紙面上の上下方向側)に別の無機層(5a’、5a’)を備えてなる基材(1’)が端部で接合してなる電気化学素子用セパレータ(10)を図示している。
【0023】
図2(b)は、本発明に係る、別の電気化学素子用セパレータ(10)の長辺方向における模式的断面図である。
【0024】
図2(b)は、シート(4)における一方の表面側(紙面上の上方向側)のみに無機層(5b)を備えてなる基材(1)と、シート(4’)における一方の表面側(紙面上の上方向側)のみに無機層(5b’)を備えてなる基材(1’)が端部で接合してなる電気化学素子用セパレータ(10)を図示している。
【0025】
そして図2(a)(b)では、基材(1)の端部と別の基材(1’)の端部との間に接着性樹脂(3)が介在することで基材(1)と別の基材(1’)とが端部で接合されて、電気化学素子用セパレータ(10)が形成されている。
【0026】
図3(a)(b)は、本発明に係る、更に別の電気化学素子用セパレータの長辺方向における模式的断面図であり、3枚の基材(1、1’、1’’)をそれぞれの端部で接合してなる、電気化学素子用セパレータ(10)を図示している。
【0027】
なお、図3(a)(b)では、電気化学素子用セパレータ(10)、3枚の基材(1、1’、1’’)、接着性樹脂(3)、接合部分(2)のみを図示している。
【0028】
図3(a)は、基材(1)における一方の表面側(紙面上の上方向側)に、別の基材(1’、1’’)を端部で接合した態様を図示しており、図3(b)は、基材(1)における両方の表面側(紙面上の上下方向側)に、別の基材(1’、1’’)を端部で接合した態様を図示している。
【0029】
図3(a)(b)では接合している基材の数は3枚であるが、本発明は接合する基材の数を増やすことで、電気化学素子用セパレータ(10)における長辺方向の長さを長くすることができる。
【0030】
なお、本発明に係る電気化学素子用セパレータ(10)では、接合部分(2)の面積は、適宜調整することができる。
【0031】
以下、本発明に係る電気化学素子用セパレータ(10)について、図1および図2(a)に基づき詳細を説明する。
【0032】
シート(4、4’)は、例えば、不織布や織物や編物などの布帛、フィルム、パンチメタルなどの多孔素材、発泡体などから、適宜選択して構成することができる。また、これらのシート(4、4’)は単体あるいは複数組み合わされてなるものを利用することができる。
【0033】
シート(4、4’)を構成する成分は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマー、あるいは、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合した無機ポリマーなどの公知の無機系化合物が重合してなるポリマーからなることができる。
【0034】
なお、これらのポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、またポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
更には、ポリマーを混ぜ合わせたものでも良く、特に限定されるものではない。
【0035】
シート(4、4’)が布帛から構成されている場合、布帛を構成する繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0036】
布帛を構成する繊維は、一種類あるいは複数種類のポリマーから構成されてなるものでも構わない。複数種類のポリマーからなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型などの態様であることができる。
【0037】
また、布帛を構成する繊維同士を一体化するため、繊維同士をバインダで一体化する、あるいは、布帛を構成する繊維のうち1種類以上の繊維が熱接着性を備える場合には、布帛を加熱処理することで前記繊維を溶融して一体化することができる。
【0038】
前記布帛が不織布である場合、不織布として例えば、カード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせて不織布の態様とする乾式不織布、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き不織布の態様とする湿式不織布、直接法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法など)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集してなる不織布などが挙げられる。
【0039】
また、このようにして製造された不織布における繊維の絡合の程度を調整するため、不織布をニードルパンチ装置や水流絡合装置に供することができる。
【0040】
本発明に係るシート(4、4’)の長辺方向および短辺方向の長さ、目付、厚さなどの諸特性は、電気化学素子によって異なるため特に限定されるべきものではない。
【0041】
シート(4、4’)の目付とは、シート(4、4’)の面積1mあたりの質量をいい、5〜15g/mであるのが好ましく、6〜13g/mであるのがより好ましく、8〜12g/mであるのが最も好ましい。
【0042】
また、シート(4、4’)の厚さとは、厚さ測定器(デジマチック標準外側マイクロメータ(MCC−MJ/PJ)1/1000mm (株)ミツトヨ)により計測した、シート(4、4’)における、5点の厚さの算術平均値をいい、10〜50μmであるのが好ましく、15〜30μmであるのがより好ましく、20〜25μmであるのが最も好ましい。
【0043】
本発明において無機層(以降、特定の無機層を指すものでない場合は番号を振らない)とは、後述する無機化合物からなる層をいう。また、本発明において「表面に無機層を備え」る態様とは、表面に無機化合物が存在する態様のことを指し、基材(1、1’)の表面における無機層が存在する面積が0%よりも多ければ、表面に無機層を備えた電気化学素子用セパレータ(10)を調製することができる。
【0044】
基材(1、1’)および電気化学素子用セパレータ(10)の表面における無機層が存在する面積は適宜調整することができる。
【0045】
電気化学素子用セパレータ(10)の耐熱性や充放電特性など諸機能を高められるように、一方の表面全体に無機層を備える基材(1、1’)を用いて、少なくとも一方の表面全体に無機層を備えた電気化学素子用セパレータ(10)を調製するのが好ましく、両方の表面全体に無機層を備える基材(1、1’)を用いて、両方の表面全体に無機層を備えた電気化学素子用セパレータ(10)を調製するのがより好ましい。
【0046】
無機化合物の形状が粒子形状である場合、粒子形状は、粉砕品などの異形状、球状(真球状、略球状)、ラグビーボール状、柱状、板状などのいずれでもよい。
【0047】
粒子の粒子径は、大塚電子(株)製FPRA1000(測定範囲3nm〜5000nm)を用いて動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、散乱強度から得られた粒子径測定データから求める。つまり、粒子径測定を5回行い、その測定して得られた粒子径測定データを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示したデータにおける粒子の累積高さ50%点の粒子径D50とする。なお、測定に使用する分散液は温度25℃に調整し、25℃の水を散乱強度のブランクとして用いる。
【0048】
このようにして算出される粒子の累積高さ50%点の粒子径D50は、特に限定されるべきものではないが、電気化学素子用セパレータ(10)の耐熱性や充放電特性など諸機能が高められるように、0.2μm〜3μmの範囲内にあるのが好ましく、0.5μm〜2μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.5μm〜1μmの範囲内にあるのが最も好ましい。
【0049】
無機化合物として以下の素材が挙げられ、これらを1種単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。なお、本発明では金属など無機成分の酸化物も無機化合物とみなす。
【0050】
例えば、酸化鉄、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、アルミナ−シリカ複合酸化物、TiO、SnO、BaTiO、ZrO、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイトなどの粘土;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物などが挙げられる。
【0051】
2種類以上の素材を併用して無機層を調製する場合、2種類以上の素材を混合して無機化合物を調製する、一方の素材にもう一方の素材を被覆して無機化合物を調製する、2種類以上の素材における断面が海島状やサイドバイサイド状あるいはオレンジ状で存在しているように無機化合物を調製するなどすることができる。
【0052】
また、基材(1、1’)が備える無機化合物の総質量は、特に限定されるべきものではないが、電気化学素子用セパレータ(10)の耐熱性や充放電特性など諸機能が高められるように、4g/m〜30g/mであるのが好ましく、8g/m〜25g/mであるのがより好ましく、12g/m〜25g/mであるのが最も好ましい。
【0053】
シート(4、4’)表面に無機層を備えている態様として、
1.シート(4、4’)表面に無機化合物が部分的に埋没している態様、
2.シート(4、4’)表面に無機化合物が付着あるいは接着している態様、
3.シート(4、4’)表面に無機化合物が薄膜状態で存在している態様、
などを挙げることができる。
【0054】
なお、無機層をなす無機化合物の素材や形状、無機化合物の担持量などは、基材内の各表面及び/又は基材間で互いに異なるものとしてもよい。
【0055】
本発明において接着性樹脂(3)とは、基材(1、1’)の端部同士の間に介在すると共に溶融して、無機層(図2(a)における5a’、5a)同士あるいは無機層とシート(図2(b)における5bと4’)を融着一体化することで、基材(1、1’)の端部同士を接合できる働きを示す樹脂をいう。
【0056】
接着性樹脂(3)を構成する成分は、前記基材(1、1’)の端部同士を接合できる樹脂であれば特に限定されるものではなく、接着性樹脂(3)はシート(4、4’)を構成する成分として挙げた上述のポリマーのうち、熱可塑性あるいは熱硬化性を有する樹脂から構成することができる。
【0057】
なお、上述のポリマーのうち熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用することができ、上述のポリマーのうち熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを使用することができる。
【0058】
前記基材(1、1’)同士を接合する際に、シート(4、4’)や無機層の物性変化や変性を防ぐことができるように、接着性樹脂(3)として熱可塑性樹脂を採用する場合、シート(4、4’)や無機層が溶融あるいは変性する温度よりも、低い融点を有する接着性樹脂(3)を用いるのが好ましい。
【0059】
また、電気化学素子用セパレータ(10)が加熱あるいは冷却された際に、接着性樹脂(3)が収縮あるいは膨張することで、接合部分(2)で基材(1、1’)同士が剥離するのを防ぐことができるように、本発明に係る接着性樹脂(3)は少なくとも一方方向において、低い熱収縮性及び低い熱膨張性を有するものであるのが好ましい。
【0060】
そのため、接着性樹脂(3)から構成された素材(以降、接着性樹脂素材と称する)の少なくとも一方方向における、熱収縮性又は熱膨張性の程度を表す熱変位率(%)は2%以下であるのが好ましく、1%以下であるのがより好ましく、0%であるのが最も好ましい。本発明では、後述する測定から求められた接着性樹脂(3)又は接着性樹脂素材の熱収縮率又は熱膨張率のうち、高い値を熱変位率(%)とする。
【0061】
本発明でいう熱収縮性又は熱膨張性の程度を表す熱変位率(%)とは、接着性樹脂(3)のフィルムを(株)マック・サイエンス社製の熱機械分析(TMA)装置(TMA4000)に供することで、得られた測定値から算出する値をいう。
【0062】
以下に、その詳細を説明する。
【0063】
熱収縮率の測定は、接着性樹脂(3)からなる接着性樹脂素材から短冊形状の接着性樹脂素材(長辺20mm、短辺5mm)を切り出し、前記短冊形状の接着性樹脂素材の長辺方向における両端に、約10mm離間するようにTMA取り付け器具を設ける。次いで、前記短冊形状の接着性樹脂素材が自重で弛まないように前記短冊形状の接着性樹脂素材の長辺方向に1mgの引張荷重を作用させる。長辺方向に1mgの引張荷重を作用させた時の、前記短冊形状の接着性樹脂素材におけるTMA取り付け器具間の長さA(mm)を測定する。
そして、前記短冊形状の接着性樹脂素材を昇温速度5℃/minで加熱して、TMA取り付け器具間の長さが15mmとなるまでの挙動を計測し、前記短冊形状の接着性樹脂素材の長辺方向における長さが最も短くなった時の長さB(mm)を測定する。
このようにして測定した値(A、B)を、以下の式に算入することで、接着性樹脂(3)の熱収縮率(%)を算出する。

熱収縮率(%)={(A−B)/A } ×100
【0064】
更に、熱膨張率の測定は膨張・圧縮モード用のプローブ(直径約3mmで円柱状)を用い、接着性樹脂(3)からなる接着性樹脂素材から短冊形状の接着性樹脂素材(長辺20mm、短辺5mm)を切り出し、前記短冊形状の接着性樹脂素材を平板上に載せて前記短冊形状の接着性樹脂素材の厚さ方向に1mgの加重を作用させる。厚さ方向に1mgの加重を作用させた時の、前記短冊形状の接着性樹脂素材の荷重を受けている部分の厚さC(mm)を測定する。
そして、前記短冊形状の接着性樹脂素材を昇温速度5℃/minで加熱して、前記短冊形状の接着性樹脂素材の厚さが実質的に0mmとなるまでの挙動を計測して、前記短冊形状の接着性樹脂素材の厚さが最も厚くなった時の厚さD(mm)を測定する。
このようにして測定した値(C、D)を、以下の式に算入することで、接着性樹脂(3)の熱膨張率(%)を算出する。

熱膨張率(%)={(D−C)/C } ×100
【0065】
なお、接着性樹脂素材の一方方向(例えば、長辺方向)と平行をなす方向が長辺となるように、切り出された短冊形状の接着性樹脂素材の熱変位率(%)を測定することで、前記接着性樹脂素材の一方方向の熱変位率(%)を算出し、接着性樹脂素材の一方方向と垂直をなす方向が長辺となるように、切り出された短冊形状の接着性樹脂素材の熱変位率(%)を測定することで、前記接着性樹脂素材の一方方向と垂直をなす方向(例えば、短辺方向)の熱変位率(%)を算出する。
【0066】
以下、本発明に係る電気化学素子用セパレータ(10)の製造方法について、図1および図2(a)に基づき詳細を説明する。
【0067】
本発明に係る電気化学素子用セパレータ(10)を製造するため、シート(4、4’)表面に無機層を備えてなる基材(1、1’)を製造する。
【0068】
シート(4、4’)表面に無機層を備えてなる基材(1、1’)を調製する方法として、
1.無機化合物を溶媒に分散させたスラリー溶液、あるいは無機化合物とバインダを混合した混合物をシート(4、4’)へ噴霧又は塗工する、あるいは前記スラリー溶液や前記混合物中にシート(4、4’)を含浸する方法、
2.シート(4、4’)を構成する素材の融点以上の高い温度に加熱した粒子形状の無機化合物を、シート(4、4’)の表面に接触させて担持させる方法(特開2004-3070号公報に開示の担持方法など)、
3.シート(4、4’)の表面を、無機化合物で鍍金するなどして被覆する方法、
などの公知の方法から適宜選択することができる。
【0069】
次いで、本発明に係る電気化学素子用セパレータ(10)の製造方法では、上述のようにして製造した基材(1)の端部に、接着性樹脂層(図示せず)を形成する。
【0070】
基材(1)の端部に接着性樹脂層を形成する方法として、
1.前記基材(1)の端部に、接着性樹脂素材を積層する方法、
2.前記基材(1)の端部に、接着性樹脂(3)の溶液を噴霧あるいは塗工する方法
などを挙げることができる。
【0071】
基材(1)の端部に接着性樹脂素材を積層する方法を採用する場合、接着性樹脂素材は、例えば、不織布や織物や編物などの布帛、フィルム、パンチメタルなどの多孔素材、発泡体などから、適宜選択して構成することができる。
【0072】
積層される接着性樹脂素材がフィルムなど空隙を有していない態様であると、電気化学素子用セパレータ(10)に力を作用させた場合にも、接合部分(2)が強固に一体化されているために伸張し難い、引っ張り強度に優れる電気化学素子用セパレータ(10)を製造できるため好ましい。
この理由は明らかになっていないが、接着性樹脂フィルムなど空隙を有していない態様の接着性樹脂素材を用いることで、接合部分(2)における基材(1、1’)間に接着性樹脂(3)が均一に分布して、基材(1、1’)同士がより強固に一体化して接合できるためだと考えられる。
【0073】
次いで、上述のようにして形成した接着性樹脂層に、シート(4’)表面に無機層を備えてなる別の基材(1’)の端部を積層して、少なくとも一方の表面に無機層を備えた態様の積層物を形成し、接着性樹脂層を構成する接着性樹脂(3)を溶融させることで、前記基材(1、1’)の端部同士を一体化して接合する。
【0074】
基材(1、1’)の端部同士を接合するために、例えば、ヒートシーラー、キャンドライヤやカレンダなどの加熱ローラ、熱風ドライヤ、熱風乾燥機、電気炉、ヒートプレートなど公知の装置を使用することができる。
【0075】
上述の装置を使用して基材(1、1’)の端部同士を接合する時に、接着性樹脂層を構成する接着性樹脂(3)を溶融させると共に、シート(4、4’)や無機層に物性変化や変性が発生するのを防ぐことができるように、上述の装置の加熱温度などを調整して使用するのが好ましい。
【0076】
基材(1、1’)の端部同士を接合する際に、各部材が積層している部分の全域を接合する以外にも、積層している部分の一部のみを接合してもよい。
【0077】
積層している部分の一部のみを接合する場合、最終的に得られる電気化学素子用セパレータ(10)における短辺を横断するようにして、線状あるいは帯状に接合部分を形成すると、必要最低限度の接合処理によって、接合部分に剥離が生じにくい電気化学素子用セパレータ(10)を製造することができ好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0079】
まず、芯成分がポリプロピレン(融点170℃)、鞘部がポリエチレン(融点135℃)からなる芯鞘型複合繊維(繊度:0.8dtex、繊維長:10mm)70重量部と、ポリプロピレン極細繊維(融点:160℃ 繊維径:2μm、繊維長:2mm)30重量部とを混合してなるスラリーを作製し、湿式抄造法により繊維ウェブを製造した。
その後、前記繊維ウェブに温度140℃の熱風を10秒間処理した後、80℃のロールカレンダーに供することで、不織布(厚さ25μm、目付10g/m)を製造した。
【0080】
次に、無機粒子としてシリカ粒子(アドマテックス(株)社製、SO-C2、D50=0.42μm)95重量部と、バインダとしてスチレンブタジエンゴム(日本ゼオン(株) BM-400)5重量部を水に分散させた、固形分濃度が65重量部のセラミックスラリーを用意した。
グラビアロールを用いたキスコーター法によって、不織布の両主面へ前記セラミックススラリーを均等量となるように担持させ乾燥することで、無機層を両表面全体に備える基材(厚さ35μm、目付35g/m、シリカ粒子の総担持量25g/m、各表面のシリカ粒子の担持量12.5g/m)を製造した。
【0081】
前記基材から、長辺20cm、短辺5cmの短冊形状に切断したサンプルを2枚得た。
【0082】
なお、このようにして得られたサンプルを後述の試験に供した結果を、参考例として表1にまとめた。
【0083】
(実施例1)
接着性樹脂素材として長辺5cm、短辺2cmのポリエチレン製フィルム(ワコー樹脂(株)社製、融点:130℃、目付:30g/m2、厚さ:30μm)を用意した。なお、前記ポリエチレン製フィルムにおける、長辺方向の熱変位率は1.8%、短辺方向の熱変位率は0%であった。
次いで、前記サンプルの末端と前記ポリエチレン製フィルムの長辺とが接するようにして、前記サンプルに前記ポリエチレン製フィルムを積層した。
そして、もう一方のサンプルの末端と前記ポリエチレン製フィルムの長辺とが接するようにして、前記ポリエチレン製フィルムにもう一方のサンプルを積層して、図1および図2(a)に図示する態様で長辺38cm、短辺5cmの短冊形状の積層物を形成した。

基材同士とポリエチレン製フィルムとを積層している部分に対して、インパルス式ヒートシーラー(富士インパルス製卓上シーラーP200)を用いて、積層物における各基材とポリエチレン製フィルムを積層した部分の中央を通過するように、短辺方向へ2mm幅で直線状に前記ポリエチレン製フィルムを溶融させて基材同士の端部を接合して、両表面全体に無機層を備えた電気化学素子用セパレータ(長辺38cm、短辺5cmの短冊形状、接合部分の厚み:80μm)を製造した。

(実施例2)
接着性樹脂素材として、ナイロン樹脂(東レ(株)製、NYLON RESIN CM831)70重量部と他種のナイロン樹脂(東レ(株)製、NYLON RESIN CM833)30重量部の混合樹脂からなる、長辺5cm、短辺2cmの低融点ナイロンメルトブロー不織布(融点:80℃、目付:22g/m2、厚さ:100μm)を用意した。なお、前記低融点ナイロンメルトブロー不織布における、長辺方向の熱変位率は0%、短辺方向の熱変位率は0%であった。
以降の工程は実施例1と同様にして、両表面全体に無機層を備えた電気化学素子用セパレータ(長辺38cm、短辺5cmの短冊形状、接合部分の厚み:140μm)を製造した。

(比較例1)
接着性樹脂素材を使用することなくヒートシールを行い、基材同士を接合したこと以外は実施例1と同様にして、両表面全体に無機層を備えた電気化学素子用セパレータ(長辺38cm、短辺5cmの短冊形状)を製造した。
【0084】
以上に説明したのと同様にして、参考例、実施例1-2、比較例1の電気化学素子用セパレータを、各々10枚ずつ製造した。
【0085】
参考例、実施例1-2、比較例1の電気化学素子用セパレータを、引張強さ試験機(オリエンテック製、テンシロンUTM−III−100、チャック間距離:100mm)に供して、速度300mm/minの条件で各電気化学素子用セパレータの長辺方向における引張り強度(破断点荷重、破断伸度)を測定した。
【0086】
なお、実施例1-2および比較例1の電気化学素子用セパレータを測定に供する場合には、つかみ間隔の中間位置に接合部分を配置して測定を行った。
【0087】
参考例、実施例1-2、比較例1の各電気化学素子用セパレータにおける、各々10枚ずつの破断点荷重と破断伸度の測定値から平均値を算出することで、各電気化学素子用セパレータの引張り強度を評価した。
【0088】
なお、破断伸度(%)の値が小さい電気化学素子用セパレータは、伸張し難い電気化学素子用セパレータであることを意味する。また、破断点荷重(N/5cm)の値が大きい電気化学素子用セパレータは、力の作用を受けた際の強度に優れる電気化学素子用セパレータであることを意味する。
【0089】
また、実施例1-2および比較例において、上述の引張り強度の測定を行った際に、接合部分で、基材同士の剥離が生じたかどうか、また、基材同士の剥離が生じなかった場合には、破断が生じた場所を評価した。
【0090】
各電気化学素子用セパレータの評価結果を表1にまとめた。
【0091】
【表1】

○:接合部分で、基材同士の剥離が生じなかった。また、基材部分で破断が生じた。
×:接合部分で、基材同士の剥離が生じた。
【0092】
表1の結果から、比較例1の電気化学素子用セパレータは接合部分で剥離が生じたのに対し、実施例1-2の電気化学素子用セパレータは接合部分で剥離が生じなかった。
【0093】
このことから本発明は、接合部分で基材同士が剥離しにくい、電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子用セパレータの製造方法であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、接合部分で基材同士が剥離し難い、電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子用セパレータの製造方法を提供することができる。
そのため、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池及びキャパシタなど電気化学素子用に使用できる、電気化学素子用セパレータ及び前記電気化学素子用セパレータの製造方法を提供できる。

【符号の説明】
【0095】
1・・・基材
1’、1’’・・・別の基材
2・・・接合部分
3・・・接着性樹脂
4、4’・・・シート
5a、5a、5a’、5a’、5b、5b’・・・無機層
10・・・電気化学素子用セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート表面に無機層を備えてなる基材同士が端部で接合してなる、少なくとも一方の表面に無機層を備えた電気化学素子用セパレータであり、前記基材同士の間に、接着性樹脂が介在していることを特徴とする、電気化学素子用セパレータ。
【請求項2】
1.シート表面に無機層を備えてなる基材の端部に、接着性樹脂層を形成する工程、
2.前記接着性樹脂層に、シート表面に無機層を備えてなる別の基材の端部を、積層する工程、
3.前記接着性樹脂層を構成する接着性樹脂を溶融させて、前記基材同士を端部で接合する工程、
を備えることを特徴とする、少なくとも一方の表面に無機層を備えた電気化学素子用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−226946(P2012−226946A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92973(P2011−92973)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】