説明

電気化学表示素子の駆動方法、および表示装置

【課題】簡単な駆動方法で、画面むらが少ない表示画像を表示できる電気化学表示素子の駆動方法、画面むらが少ない表示画像を表示できる表示装置を提供する。
【解決手段】対向する電極間に画素電圧を所定の時間印加することにより金属を析出または溶解して画像を表示するマトリクス状に配列された電気化学表示素子の駆動方法であって、金属の析出または溶解を開始させる時に印加する画素電圧の絶対値が最も低く、時間とともに印加する画素電圧の絶対値を段階的に増加させることを特徴とする電気化学表示素子の駆動方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学表示素子の駆動方法、および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューターの動作速度の向上、ネットワークインフラの普及、データストレージの大容量化と低価格化に伴い、従来紙への印刷物で提供されたドキュメントや画像等の情報を、より簡便な電子情報として入手し、電子情報を閲覧する機会が益々増大している。
【0003】
このような電子情報の閲覧をするために、従来の液晶ディスプレイやCRT、また近年では、有機ELディスプレイ等の発光型が主として用いられている。しかし、特に、発光型のディスプレイの欠点として、フリッカーで目が疲労する、持ち運びに不便、読む姿勢が制限される、長時間読むと消費電力が嵩む等が知られている。
【0004】
これらの欠点を補う表示装置として、外光を利用し、像保持の為に電力を消費しない(メモリー性)反射型ディスプレイが知られている。
【0005】
メモリー性反射型ディスプレイに用いられる表示方式として、金属または金属塩の溶解析出を利用するエレクトロデポジション方式(以下、ED方式と略す)が知られている。ED方式は、3V以下の低電圧で駆動が可能で、簡便なセル構成、黒と白のコントラストや黒品質に優れる等の利点がある(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0006】
ED方式の電気化学表示素子を駆動するときは、素子の電極間に閾値以上の一定の電圧を、ある時間印加する。表示状態は電圧や時間で制御が可能である。例えば電圧をより高く設定するとより短い時間で表示状態を変化させることができる。
【0007】
このような表示特性に着目し、電流密度が一定値以上になる高い電圧の強調パルス電圧を印加した後、強調パルス電圧より低い電圧の書き込み電圧を印加して、画素の表示が目的の反射率になるまでの時間を短縮する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)
しかしながら、特許文献3に開示されている方法では、最初に高い電圧の強調パルス電圧を印加するので、電圧の印加を開始した直後に非常に大きな電流が流れてしまう。
【0008】
一般に、電気化学表示素子などを用いた表示装置では、ITO(酸化インジウムスズ)などから成る透明電極が透明基板の全面に成膜され、各画素を構成する電気化学表示素子の共通電極になっている。ITOは比抵抗が大きいため、各電気化学表示素子を駆動した時に大電流がITO膜を流れると、ITO膜の抵抗成分のため給電点に対し大きな電位差が発生する。電位差は、給電点と各電気化学表示素子との距離によって異なるため、給電点から同じ電圧をITO膜に供給したとしても、各電気化学表示素子の透明基板上の位置によって各電気化学表示素子には異なる電圧が印加されることになり、表示された画像には画面むらが発生する。そのため、特許文献3に開示されている方法では、電圧の印加を開始した直後に非常に大きな電流が流れ、表示された画像に大きな画面むらが発生する。
【0009】
このような問題を解決するため、透明電極駆動部からの距離に応じて対向電極に印加する選択電圧の大きさ、または印加時間を設定して画像の書き込みや消去を画面全体で均一になるようにする方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3428603号公報
【特許文献2】特開2003−241227号公報
【特許文献3】特許第3985667号公報
【特許文献4】特開2005−257956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4に開示されている方法は、透明電極駆動部からの距離に応じて、電圧降下に相当する電圧を初期電圧に加えて各画素に同じタイミングで印加するという複雑な駆動方法である。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、簡単な駆動方法で、画面むらが少ない表示画像を表示できる電気化学表示素子の駆動方法、画面むらが少ない表示画像を表示できる表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、下記構成により達成することができる。
【0014】
1.対向する電極間に画素電圧を所定の時間印加することにより金属を析出または溶解して画像を表示するマトリクス状に配列された電気化学表示素子の駆動方法であって、
前記画素電圧の絶対値を前記金属の析出または溶解を開始させる時から時間とともに段階的に増加させることを特徴とする電気化学表示素子の駆動方法。
【0015】
2.電圧の絶対値が2段階に変化する前記画素電圧を前記対向する電極間に印加することを特徴とする前記1に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【0016】
3.電圧の絶対値が3段階に変化する前記画素電圧を前記対向する電極間に印加することを特徴とする前記1に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【0017】
4.前記画素電圧の絶対値が増加するタイミングは、
前記画素電圧の印加に伴って増加する前記電気化学表示素子の抵抗値の変化率が所定値を越える抵抗変化点に達した時点であることを特徴とする前記1から3の何れか1項に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【0018】
5.前記画素電圧を変化させるタイミングは、
金属の析出または溶解を開始させてから50msec以内の時点と、
増加する前記電気化学表示素子の抵抗値の変化率が所定値を越える抵抗変化点に達した時点と、
であることを特徴とする前記3に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【0019】
6.前記画素電圧を印加する時間を、複数の単位時間に分割し、前記画素電圧を印加する単位時間の回数を制御して階調表示を行うことを特徴とする前記1から5の何れか1項に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【0020】
7.前記画素電圧を前記電気化学表示素子に印加する回路素子の抵抗値を制御して、前記画素電圧の絶対値を変化させることを特徴とする前記1から6の何れか1項に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【0021】
8.前記1から7の何れか1項に記載の電気化学表示素子の駆動方法を用いて電気化学表示素子を駆動することを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡単な駆動方法で、画面むらが少ない表示画像を表示できる電気化学表示素子の駆動方法、画面むらが少ない表示画像を表示できる表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ED方式の電気化学表示素子1の基本的な構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る表示装置の構成を示す図である。
【図3】第1の実施形態の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、白書き込みを行う時の電気化学素子1を流れる電流と抵抗のグラフである。
【図4】第2の実施形態の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、白書き込みを行う時の電気化学素子1を流れる電流と抵抗のグラフである。
【図5】第1の実施形態の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、黒書き込みを行う時の電気化学素子1を流れる電流と抵抗のグラフである。
【図6】第2の実施形態の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、黒書き込みを行う時の電気化学素子1を流れる電流と抵抗のグラフである。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る表示装置の黒書き込み動作時における各部の電圧の変化を説明するタイムチャートである。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る表示装置の黒書き込み動作時における各部の電圧の変化を説明するタイムチャートである。
【図9】実施例で試作した表示パネル50の画像むらを評価する方法を説明する説明図である。
【図10】従来の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、白書き込みを行う時の電気化学素子1を流れる電流と抵抗のグラフである。
【図11】従来の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、黒書き込みを行う時の電気化学素子1を流れる電流と抵抗のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。
【0025】
図1は、ED方式の電気化学表示素子1の基本的な構成を示す概略断面図である。
【0026】
図1に示すED方式の電気化学表示素子1は、透明なITO電極32と画素電極30との間に電解液31を保持している。ITO電極32と画素電極30には電源34が接続されている。
【0027】
図1(a)はITO電極32側に黒を表示している状態である。
【0028】
図1(a)のように電源34からITO電極32に、画素電極30の電圧より低い電圧を印加すると図中の矢印方向に電流が流れ、ITO電極32側の電解液31中に含まれる銀の析出反応が生じる。
【0029】
35は析出した銀であり、析出した銀35は光を吸収するので、ITO電極32から見た電気化学表示素子1の濃度が高くなる。36は溶解した銀である。
【0030】
図1(b)はITO電極32に白を表示している状態である。
【0031】
図1(b)のように電源34からITO電極32に、画素電極30の電圧より高い電圧を印加すると、図中の矢印方向に電流が流れ、ITO電極32側の電解液31中に含まれる銀の溶解反応が生じる。析出した銀は溶解し、一定時間電圧を図1(a)と逆方向に印加するとITO電極32から見た電気化学表示素子1の濃度は初期状態の白色になる。白黒の濃度制御は、銀の析出量を制御することで行う。
【0032】
電解液31に含まれる銀は、銀を化学構造物中に有する化合物を用いても良い。例えば、酸化銀、硫化銀、金属銀、銀コロイド粒子、ハロゲン化銀、銀錯体化合物、銀イオン等の化合物を用いても良い。
【0033】
図2は、本発明の実施形態の電気化学表示素子の駆動方法に係る表示装置100の構成を示す図である。図2では説明を簡単にするため3行×3列の画素を有する表示装置の構成を示したが、本発明はこの画素数に限定されるものではなくn行×m列の画素を有する表示装置に適用できる。
【0034】
図2に示す各画素は、電気化学表示素子1、駆動トランジスタ2、スイッチングトランジスタ4から構成される。図4ではn行×m列の画素の電気化学表示素子1をそれぞれPnmと表記している。例えば1行、1列目の画素の電気化学表示素子1はP11、1行、2列目の画素の電気化学表示素子1はP12、というように順に表記している。
【0035】
符号5a、5b、5cは走査線で、行方向に並んだ画素それぞれのスイッチングトランジスタ4のゲートを互いに接続し、ゲートドライバ12に接続されている。符号8a、8b、8cは信号線で列方向に並んだ画素それぞれのスイッチングトランジスタ4のソースを互いに接続し、ソースドライバ14に接続されている。ゲートドライバ12が走査線5a、5b、5cに出力電圧G1、G2、G3を出力することにより、スイッチングトランジスタ4のオン/オフの制御を行い、駆動トランジスタ2に制御電圧を印加する行を選択する。駆動トランジスタ2のドレイン側は各画素の電気化学表示素子1の画素電極30に接続されている。また、駆動トランジスタ2のソース側はバスライン6に接続され、バス電圧Vが印加されている。図2の点線で囲んだ部分が表示パネル50である。
【0036】
バス電源21は、制御部71と表示コントローラ11の制御に基づいてバス電圧Vを出力しバスライン6に供給する。
【0037】
ソースドライバ14は、信号線8a、8b、8c毎にドライバ回路を有し、制御部71と表示コントローラ11の制御に基づいて出力側に接続された信号線8a、8b、8cに出力電圧S1、S2、S3を出力する。ソースドライバ14のドライバ回路はオン、オフの2値ドライバであり、制御部71と表示コントローラ11の制御に基づいてソースドライバ14に入力された制御電圧Vまたはオフ電圧である0Vを出力する。
【0038】
制御電圧電源15は、制御部71と表示コントローラ11の制御に基づいて制御電圧Vを出力しソースドライバ14に供給する。
【0039】
コモン電源13は、コモンバス7によって各画素のITO電極32と接続されている。r11〜r33は、各画素のITO電極32間の等価抵抗成分であり、各画素の電気化学表示素子1に電流i11〜i33が流れるとITO電極32間に電位差が発生する。
【0040】
図2の例では、1行目の電気化学表示素子1の中で、コモン電源13から最も遠いP11のITO電極32とコモン電源13の間には、Vx1=i11×r11+(i11+i12)×r12+(i11+i12+i13)×r13の電位差が発生する。一方、コモン電源13から最も近いP13のITO電極32とコモン電源13の間に発生する電位差は、Vx2=i13×r13である。
【0041】
このようにコモン電源13からの距離と、電気化学表示素子1に流れる電流に応じて電気化学表示素子1のITO電極32との間には電位差が発生する。電気化学表示素子1毎に電位差が異なると、電気化学表示素子1には異なる電圧が印加されることになり、表示された画像には画面むらが発生する。本発明では、後に説明するよう電気化学表示素子1に大電流が流れないように電気化学表示素子1を駆動して画面むらの発生を抑えている。
【0042】
コモン電源13は、表示コントローラ11の出力に応じて複数の電圧に切り替えて出力する。制御部71が表示コントローラ11を設定すると、表示コントローラ11は、所定のタイミングでコモン電源13を制御し、コモン電圧Vの電圧を切り替える。
【0043】
本実施形態では、ITO電極32側に銀を析出させ黒く表示させる時は、コモン電源13はコモン電圧Vをバス電圧Vより低い正の電圧Vに切り替えてITO電極32に供給する。また、ITO電極32側に銀を溶解させ白く表示させる時は、コモン電源13はコモン電圧Vをバス電圧Vより高い正の電圧Vに切り替えてITO電極32に供給する。
【0044】
駆動トランジスタ2がオンになると、電気化学表示素子1の画素電極30にはVが印加され、ITO電極32にはVまたはVが印加される。したがって、ITO電極32にバス電圧Vより低いVが印加されるとITO電極32側に銀が析出し黒くなり、ITO電極32にバス電圧Vより高いVが印加されるとITO電極32側の銀が溶解し白くなる。
【0045】
制御電圧電源15が駆動トランジスタ2のドレイン、ソース間を低抵抗のオン状態にする電圧Vs1を出力し、ソースドライバ14の出力電圧S1、S2、S3がVS1であるものとする。スイッチングトランジスタ4がオンになると、駆動トランジスタ2のゲートにVS1が印加され、駆動トランジスタ2はオンになり電気化学表示素子1にはコモン電圧Vとバス電圧Vとの差が印加される。その後、スイッチングトランジスタ4がオフになってもゲートの図示せぬ浮遊容量により、駆動トランジスタ2はオン状態を保持する。
【0046】
ソースドライバ14の出力電圧が駆動トランジスタ2をオフ状態にする0Vのとき、スイッチングトランジスタ4がオンになると、駆動トランジスタ2のゲートに0Vが印加され、駆動トランジスタ2はオフになる。
【0047】
制御部71は、表示コントローラ11を制御し、コモン電源13が所定のタイミングでコモン電圧Vを切り替え、それぞれの電気化学表示素子1の画素電極30に所定の電圧を印加させる。
【0048】
記憶部10は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記録媒体から構成され、制御部71は記憶部10に記憶されているプログラムに基づいて表示装置100全体を制御する。
【0049】
次に、従来の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、ITO電極32側に析出している銀を溶解させて最高濃度Dmaxの黒を表示している状態から白を表示させる(以下、白書き込みと呼ぶ)時に、電気化学素子1を流れる電流について図10を用いて説明する。
【0050】
図10(a)は、ITO電極32に印加するコモン電源13の出力電圧Vcのタイムチャート、図10(b)は、電気化学素子1を流れる電流密度Idと電気化学素子1の抵抗Rのグラフ、図10(c)は、電気化学素子1の表示濃度Dのグラフである。
【0051】
t=0の時点では、図10(c)のようにITO電極32側から見た表示濃度Dは、最高濃度DmaxでありITO電極32側に銀が十分に析出しているものとする。また、t=0までの時点では、画素電極30とITO電極32には同じ電圧Vが印加されているものとする。
【0052】
この状態からITO電極32側の銀を溶解させ、白を表示させる時、従来は、図10(a)のようにコモン電源13から一定の電圧Vw1をITO電極32に印加していた。ITO電極32に印加されるVw1は画素電極30に印加されているVより高い電圧であり、図1(b)のようにITO電極32側の銀が溶解し、図10(c)のようにITO電極32側から見た表示濃度Dが時間tとともに低下する。また、ITO電極32と画素電極30との間に印加される画素電圧VはVw1−Vであり、Vの絶対値は|Vw1−V|である。
【0053】
電流密度Idと抵抗Rは図10(b)に示すように、電圧Vw1がITO電極32に印加され銀の溶解が始まったt=0msecから50msecまでは電気化学素子1の抵抗Rが小さく、電流密度Idの絶対値が非常に大きい。電気化学表示素子1の抵抗値Rは、t=200msecから徐々に増加し、タイミングtw2では抵抗値Rの変化率が所定値を越える。タイミングtw2の抵抗値を抵抗変化点Rp1と呼ぶ。
【0054】
電流密度Idの絶対値は、t=0msecから200msecまで徐々に減少し、t=200msecからtw2までは大きく減少する。tw2以降は電流密度Idの絶対値が非常に小さくなる。
【0055】
次に、本発明の実施形態の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、白書き込みを行う時に、電気化学素子1を流れる電流について図3と図4を用いて説明する。
【0056】
図3(a)、図4(a)は、ITO電極32に印加するコモン電源13の出力電圧Vcのタイムチャート、図3(b)、図4(b)は、電気化学素子1を流れる電流密度Idと電気化学素子1の抵抗Rのグラフである。
【0057】
なお、t=0の時点では、図10(c)と同様にITO電極32側から見た表示濃度Dは、最高濃度DmaxでありITO電極32側に銀が十分に析出しているものとする。また、t=0までの時点では、画素電極30とITO電極32には同じ電圧Vが印加されているものとする。
【0058】
第1の実施形態では、図3(a)のようにITO電極32側に析出している銀の溶解を開始させる時にITO電極32に印加する電圧はVw2であり、tw2からVw1に増加する。すなわち、画素電圧Vの絶対値は|Vw2−V|から|Vw1−V|に段階的に増加する。V=|Vw2−V|を印加しているt=0〜tw2の間、図3(b)に示すように電流密度Idの絶対値は、図10(b)より低くなっている。タイミングt=tw2以降は、従来例と同じV=|Vw1−V|を印加するので電気化学素子1には同じ電流密度Idの電流が流れ、反応速度も変わらない。
【0059】
このように、ITO電極32側に析出している銀の溶解を開始するタイミングt=0からtw2まで絶対値の低い画素電圧Vを印加した後、画素電圧Vを増加させると、電気化学素子1を流れる電流を抑制することができる。また、本実施形態のように、電気化学表示素子1の抵抗値Rが低いtw2までITO電極32に電圧Vw2を印加し、電気化学表示素子1の抵抗値Rが抵抗変化点Rp1以上になるtw2以降はVw2より電圧の高いVw1を印加すると、電気化学素子1を流れる電流が多い期間だけ電流を抑制できる。
【0060】
なお、tw2以降に印加する画素電圧Vは、銀の溶解を開始させる時にITO電極32に画素電圧Vする電圧より絶対値が高い任意の電圧に設定すれば良い。
【0061】
第2の実施形態では、反応初期のt=0msecから50msecまでは電気化学素子1の抵抗Rが小さく、電流密度Idの絶対値が非常に大きい点に着目し、反応初期の50msecまではさらに絶対値の低い画素電圧Vを印加する。
【0062】
図4(a)のようにITO電極32側に析出している銀の溶解を開始する時にITO電極32に印加する電圧はVw3であり、tw1からVw2に、tw2からVw1に増加する。すなわち、画素電圧Vの絶対値は|Vw3−V|から|Vw2−V|に、次に|Vw1−V|に3段階に増加する。V=|Vw1−V|を印加しているt=0〜tw1の間、図4(b)に示すように電流密度Idの絶対値は、図3(b)より低くなっている。タイミングt=tw1以降は、第1の実施形態と同様の画素電圧を印加するので電気化学素子1には同じ電流密度Idの電流が流れ、反応速度も変わらない。tw1は電流密度Idの絶対値が非常に大きい0msec<tw1≦50msecの間に設定することが好ましい。
【0063】
なお、tw1以降に印加する画素電圧Vの絶対値は、銀の析出を開始させる時にITO電極32に印加する画素電圧Vの絶対値より高い任意の電圧に、tw2以降に印加する画素電圧Vの絶対値は、tw1〜tw2の間にITO電極32に印加する画素電圧Vの絶対値より高い任意の電圧に、それぞれ設定すれば良い。
【0064】
このように、ITO電極32側に析出している銀の溶解を開始するタイミングt=0からtw1まで絶対値の低い画素電圧Vを印加し、tw1以降画素電圧Vを増加させると、特に反応の初期に電気化学素子1を流れる電流を抑制することができる。また、第1の実施形態と同様に、t=tw1からtw2までに印加する画素電圧Vより電圧の絶対値を増加させた画素電圧Vをtw2から印加するので、電気化学素子1を流れる電流を抑制することができる。
【0065】
次に、従来の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、ITO電極32側に析出させて最低濃度Dminの白を表示している状態から黒を表示させる(以下、黒書き込みと呼ぶ)時に、電気化学素子1を流れる電流について図11を用いて説明する。
【0066】
図11(a)は、ITO電極32に印加するコモン電源13の出力電圧Vcのタイムチャート、図11(b)は、電気化学素子1を流れる電流密度Idと電気化学素子1の抵抗Rのグラフ、図11(c)は、電気化学素子1の表示濃度Dのグラフである。
【0067】
t=0の時点では、図11(c)のようにITO電極32側から見た表示濃度Dは、最低濃度DminでありITO電極32側の銀が十分に溶解しているものとする。また、t=0までの時点では、画素電極30とITO電極32には同じ電圧Vが印加されているものとする。
【0068】
この状態からITO電極32側の銀を析出させ、黒を表示させる時、従来は、図11(a)のようにコモン電源13から一定の電圧Vb1をITO電極32に印加していた。ITO電極32に印加されるVb1は画素電極30に印加されているVより低い電圧であり、図11(a)のようにITO電極32側の銀が析出し、図11(c)のようにITO電極32側から見た表示濃度Dが時間tとともに増加する。また、ITO電極32と画素電極30との間に印加される画素電圧VはVb1−Vであり、Vの絶対値は|Vb1−V|である。
【0069】
電流密度Idと抵抗Rは図11(b)に示すように、電圧Vw1がITO電極32に印加され銀の析出が始まったt=0msecから50msecまでは電気化学素子1の抵抗Rが小さく、電流密度Idの絶対値が非常に大きい。電気化学表示素子1の抵抗値Rは、t=100msecから徐々に増加し、タイミングtb2では抵抗値Rの変化率が所定値を越える。タイミングtb2の抵抗値を抵抗変化点Rp2と呼ぶ。
【0070】
電流密度Idの絶対値はt=0msecから200msecまで徐々に減少し、t=200msecからtb2までは大きく減少する。tb2以降は電流密度Idの絶対値が非常に小さくなる。
【0071】
次に、本発明の実施形態の電気化学表示素子の駆動方法で電気化学素子1を駆動し、黒書き込みを行う時に、電気化学素子1を流れる電流について図5と図6を用いて説明する。
【0072】
図5(a)、図6(a)は、コモン電源13の出力電圧VcでありITO電極32に印加する電圧のタイムチャート、図5(b)、図6(b)は、電気化学素子1を流れる電流密度Idと電気化学素子1の抵抗Rのタイムチャートである。
【0073】
なお、t=0の時点では、図11(c)と同様にITO電極32側から見た表示濃度Dは、最低濃度Dminであり画素電極30側に銀が十分に析出しているものとする。また、t=0までの時点では、画素電極30とITO電極32には同じ電圧Vが印加されているものとする。
【0074】
第1の実施形態では、図5(a)のようにITO電極32側に析出している銀の溶解を開始させる時にITO電極32に印加する電圧はVb2であり、tb2からVb1に低下する。すなわち、画素電圧Vの絶対値は|Vb2−V|から|Vb1−V|に段階的に増加する。V=|Vb2−V|を印加しているt=0〜tb2の間、図5(b)に示すように電流密度Idの絶対値は、図11(b)より低くなっている。タイミングt=tb2以降は、従来例と同じV=|Vb1−V|を印加するので電気化学素子1には同じ電流密度Idの電流が流れ、反応速度も変わらない。
【0075】
このように、ITO電極32側に銀の析出を開始するタイミングt=0からtb2まで絶対値の低い画素電圧Vを印加した後、画素電圧Vを増加させると、電気化学素子1を流れる電流を抑制することができる。また、本実施形態のように、電気化学表示素子1の抵抗値Rが低いtb2までITO電極32に電圧Vb2を印加し、電気化学表示素子1の抵抗値Rが抵抗変化点Rp2以上になるtb2以降はVb2より電圧の低いVb1を印加すると、電気化学素子1を流れる電流が多い期間だけ電流を抑制できる。
【0076】
なお、tb2以降に印加する画素電圧Vは、銀の溶解を開始させる時にITO電極32に印加する画素電圧Vより絶対値が高い任意の電圧に設定すれば良い。
【0077】
第2の実施形態では、反応初期のt=0msecから50msecまでは電気化学素子1の抵抗Rが小さく、電流密度Idの絶対値が非常に大きい点に着目し、反応初期の50msecまではさらに絶対値の低い画素電圧Vを印加する。
【0078】
図6(a)のようにITO電極32側に銀の析出を開始する時にITO電極32に印加する電圧はVb3であり、tb1からVb2に、tb2からVb1に低下する。すなわち、画素電圧Vの絶対値は|Vb3−V|から|Vb2−V|に、次に|Vb1−V|に3段階に増加する。V=|Vb1−V|を印加しているt=0〜tb1の間、図6(b)に示すように電流密度Idの絶対値は、図5(b)より低くなっている。タイミングt=tb1以降は、第1の実施形態と同様の画素電圧を印加するので電気化学素子1には同じ電流密度Idの電流が流れ、反応速度も変わらない。tb1は電流密度Idが非常に大きい0msec<tb1≦50msecの間に設定することが好ましい。
【0079】
なお、tb1以降に印加する画素電圧Vの絶対値は、銀の析出を開始させる時にITO電極32に印加する画素電圧Vの絶対値より高い任意の電圧に、tb2以降に印加する画素電圧Vの絶対値は、tb1〜tb2の間にITO電極32に印加する画素電圧Vの絶対値より高い任意の電圧に、それぞれ設定すれば良い。
【0080】
このように、ITO電極32側に銀の析出を開始するタイミングt=0からtb1まで絶対値の低い画素電圧Vを印加し、tb1以降画素電圧Vの絶対値を増加させると、特に反応の初期に電気化学素子1を流れる電流を抑制することができる。また、第1の実施形態と同様に、t=tb1からtb2までに印加する画素電圧Vより電圧の絶対値を増加させた画素電圧Vをtb2から印加するので、電気化学素子1を流れる電流を抑制することができる。
【0081】
次に、画素電圧を印加する時間を、複数の単位時間に分割し、画素電圧を印加する単位時間の回数を制御して階調表示を行う電気化学素子の駆動方法を図7、図8のタイムチャートを用いて説明する。
【0082】
図7、8では、図2に示す3×3画素の表示装置100の全ての電気化学素子1が最低濃度Dminの白を表示している状態から、最高濃度Dmaxの黒を表示させる例を説明する。図7、図8の横軸は時間軸であり、F1〜F9は第1フレーム〜第9フレームと呼び、画像の書き込みを行う単位時間を表す。この例では、F1〜F9までの期間、所定の画素電圧Vを電気化学素子1に印加すると、最高濃度Dmaxの黒を表示するものとする。FNと表記するときのNはフレーム番号であり、書き込みを開始してからのフレームの回数を表す。
【0083】
図7は、駆動トランジスタ2をオンまたはオフに制御して電気化学素子1を駆動する例であり、図8は、駆動トランジスタ2の抵抗値を制御して電気化学素子1を駆動する例である。
【0084】
最初に、図7のタイムチャートを用いて第3の実施形態について説明する。
【0085】
まず、各フレームFにおけるゲートドライバ12の出力電圧G1、G2、G3について説明する。
【0086】
ゲートドライバ12の1行目の出力電圧G1がΔTの間‘H’になると、1行目のスイッチングトランジスタ4がオンになる。すると、1行目のP11、P12、P13に接続されている駆動トランジスタ2のゲート電圧は、それぞれソースドライバ14の出力S1、S2、S3に設定され図示せぬ浮遊容量に保持される。そのため、ソースドライバ14の出力がVS1のときスイッチングトランジスタ4がオンになると、駆動トランジスタ2はオンになり、次にソースドライバ14の出力が0Vのときスイッチングトランジスタ4がオンになるまで駆動トランジスタ2はオン状態を保持する。
【0087】
なお、本実施形態では、駆動トランジスタ2のゲート電圧VgがVS1になると、駆動トランジスタ2のドレイン、ソース間は低抵抗値のオン状態になり、画素電極30にはバス電源21の出力電圧Vが印加されるものとする。
【0088】
次に、ゲートドライバ12の2行目の出力電圧G2がΔTの間‘H’になり、2行目のP21、P22、P23に接続されている駆動トランジスタ2のゲート電圧はそれぞれソースドライバ14の出力S1、S2、S3に設定され図示せぬ浮遊容量に保持される。同様に、3行目のP31、P32、P33に接続されている駆動トランジスタ2のゲート電圧もそれぞれソースドライバ14の出力S1、S2、S3に設定され図示せぬ浮遊容量に保持される。
【0089】
フレームF1では、コモン電源13の出力電圧はバス電源21の電圧Vより低い電圧Vb3である。G1が’H’の間、1行目のスイッチングトランジスタ4がオンになり、駆動トランジスタ2はオン状態で保持され、P11、P12、P13のITO電極32にそれぞれVb3が印加される。G2が’H’になるとP21、P22、P23のITO電極32にそれぞれVb3が印加され、G3が’H’になるとP31、P32、P33のITO電極32にそれぞれVb3が印加される。
【0090】
なお、図7では、P11、P12、P13のITO電極32の電圧VP11、VP12、VP13のタイムチャートだけを図示している。
【0091】
フレームF2からフレームF6では、コモン電源13の出力電圧はVb3より低い電圧Vb2である。同様に、G1が’H’の間、1行目のスイッチングトランジスタ4がオンになり、駆動トランジスタ2はオン状態で保持され、P11、P12、P13のITO電極32にそれぞれVb2が印加される。
【0092】
図7の例では2行目、3行目の電気化学表示素子1のITO電極32にも同じ電圧が印加される。
【0093】
このように、図7の例では、電気化学表示素子1の画素電圧Vの絶対値は|Vb3−V|から|Vb2−V|に、次に|Vb1−V|の3段階に増加するので、電気化学表示素子1を流れる電流を減少させることができる。例えば、図7の例では、フレームの単位時間を50msにすると、図6で説明したタイミングに近いタイミングで画素電圧Vを3段階に増加させることができる。
【0094】
なお、フレームF1の時のバス電源21の電圧VをVb2にして画素電圧Vの絶対値を2段階に増加させても良い。
【0095】
図7の例では、全ての電気化学表示素子1を黒く表示させる例を説明したが、例えばフレームF6から以降G1が’H’の時のS1の出力を0にすると、1行1列目のP11にはフレームF6から以降、画素電圧Vは印加されず、F5までに印加された画素電圧Vに相当する濃度が表示される。このように任意の電気化学表示素子1を所定の濃度に表示させ、階調表示をすることができる。
【0096】
次に、図8の第4の実施形態について動作を説明する。
【0097】
図8の例では、フレームF1からフレームF9まで、コモン電源13の出力電圧はバス電源Vの電圧より低い一定の電圧Vb1である。一方、ソースドライバ14の出力S1、S2、S3はフレームFb1からFb6までVS2であり、フレームFb6からFb9までVS1の2段階に切り替わる。
【0098】
本実施形態では、駆動トランジスタ2のゲート電圧VgがVS2になると、駆動トランジスタ2のドレイン、ソース間は所定の抵抗値rDSになるものとする。画素電極30には電気化学表示素子1の抵抗値Rと抵抗値rDSとの分圧が印加されるので、電気化学表示素子1の抵抗値Rが低い反応の初期は、抵抗値rDSによる電圧降下が大きいため電気化学表示素子1に印加される画素電圧Vの絶対値は|Vb1−V|より小さくなる。
【0099】
フレームFb7からFb9では、駆動トランジスタ2のゲート電圧VgがVS1になるので、駆動トランジスタ2のドレイン、ソース間は低抵抗値のオン状態になり、画素電極30にはバス電源21の出力電圧Vが印加される。
【0100】
このように、図8の例では、電気化学表示素子1の画素電圧Vの絶対値は|Vb1−V|より低い状態から|Vb1−V|に、2段階で増加するので、電気化学表示素子1を流れる電流を減少させることができる。
【0101】
なお、ソースドライバ14の出力S1、S2、S3を3段階に変化させ抵抗値rDSを3段階に切り替えても良い。
【0102】
また、図7の例と同様の手順で、任意のフレームまで電気化学表示素子1に画素電圧Vを印加して任意の電気化学表示素子1を所定の濃度に表示させ、階調表示をすることができる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
以下説明する各実施例と各比較例では、下記の条件で作製したITO電極32を作成した基板と画素電極30を作成した基板、および電解液を用いて作製した表示パネルを用いた。ただし、実施例1、2と比較例1ではクロムの上に金を成膜した画素電極30を用い、実施例3と比較例3では銀ペーストから成る画素電極30を用いている点が異なる。
【0105】
(電解液31の作製)
ジメチルスルホキシド2.5g中に、ヨウ化ナトリウム90mg、ヨウ化銀75mgを加えて完全に溶解させた後に、ポリビニルピロリドン(平均分子量15000)を150mg加えて120℃に加熱しながら1時間攪拌し、電解液を得た。
【0106】
(ITO電極32の作製)
第1のガラス基板上に、透明電極材料であるITOをスパッタ法にて150nmに成膜し、ITO電極32とした。ITO電極32の抵抗は8Ω□であった。
【0107】
(画素電極30の作製)
実施例1、2と比較例1では、第2のガラス基板上に、金とクロムをスパッタ法を用いて成膜した。ガラス基板上にまずクロムを5nmスパッタし、その上に金を100nmスパッタした(クロムは金とガラス基板の密着層である)。
【0108】
実施例3と比較例2では、第2のガラス基板上に、銀ペーストをスクリーン印刷で成膜し、画素電極30とした。銀ペーストの厚みは、0.8μmとした。
【0109】
(絶縁膜の作製)
a−Si TFTを作成した後、絶縁膜を作成した。なお、TFTのサイズは3.5inchとした。
【0110】
塗布型感光性絶縁膜材料として、JSR社製のPC403を用いた。これを厚み2μmとなるようにスピンコータを用いて1000rpmで第2のガラス基板上に成膜した。次に、露光量200mJ/cmでUVパターン露光した。現像は、TMAH2.38%水溶液で1分。焼成は220℃で1時間行なった。
【0111】
このようにして、150μm×150μmの電極開口部が、50×50=2500個並んだ絶縁膜を作成した。
【0112】
(表示パネル構成)
絶縁膜を作製した後、その上に散乱層を形成した。PVA水溶液に二酸化チタンの粒子を分散させたインクをスクリーン印刷で形成し、80℃で乾燥させた。その上にビーズスペーサ(25μmのシリカ球)を散布した。
【0113】
第1のガラス基板にエポキシ樹脂をスクリーン印刷でパターンしシールとした後、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを貼り合せた。次に、真空注入法で電解液を注入し、注入口をアクリルのUV硬化樹脂で封止して、実施例と比較例に用いる表示パネル50をそれぞれ作製した。
【0114】
[実施例1]
図4で説明した駆動方法を用いて画素電圧Vを3段階に変化させて表示パネル50の全画素を駆動し、白書き込みを行った。
【0115】
白書き込み開始から50msまではV=1.0V、50msから300msまではV=1.1V、300ms以降はV=1.5Vとした。
【0116】
次に、図6で説明した駆動方法を用いて画素電圧Vを3段階に変化させて表示パネル50の全画素を駆動し、黒書き込みを行った。
【0117】
黒書き込み開始から50msまではV=−1.0V、50msから300msまではV=−1.1V、300ms以降はV=−1.5Vとした。
【0118】
[実施例2]
図3で説明した駆動方法を用いて画素電圧Vを2段階に変化させて表示パネル50の全画素を駆動し、白書き込みを行った。
【0119】
白書き込み開始から300msまではV=1.1V、300ms以降はV=1.5Vとした。
【0120】
次に、図5で説明した駆動方法を用いて画素電圧Vを3段階に変化させて表示パネル50の全画素を駆動し、黒書き込みを行った。
【0121】
黒書き込み開始から300msまではV=−1.1V、300ms以降はV=−1.5Vとした。
【0122】
[実施例3]
銀ペーストから成る画素電極30を用いた表示パネル50に実施例1と同じ駆動条件で白書き込みと黒書き込みを行った。
【0123】
[比較例1]
画素電圧Vを1.5Vにして表示パネル50の全画素を駆動し、白書き込みを行った。画素電圧Vを−1.5Vにして表示パネル50の全画素を駆動し、黒書き込みを行った。
【0124】
[比較例2]
銀ペーストから成る画素電極30を用いた表示パネル50に比較例1と同じ条件で白書き込みと黒書き込みを行った。
【0125】
[評価方法]
(書き込み電流の測定)
白書き込み時と黒書き込み時に表示パネル50に流れる電流値を測定し、得られた電流値を画素数の2500で割り、一画素当たりの電流密度に換算した。
【0126】
(表示パネルの反射率測定)
黒書き込み後に、図9に示すようにコモンバス7からの距離X1=1cmの画素Pnmと、距離X2=4cmの画素Pnlの反射率を輝度計で測定した。また、目視で画面むらの評価を行った。
【0127】
[評価結果]
書き込み開始から20ms後の電流密度を測定した結果を表1に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
実施例1〜3は何れも比較例1、2と比較して、白書き込み開始または黒書き込み開始から20ms後の電流密度Idが減少しており、書き込み初期のピーク電流を抑制できることが確認できた。
【0130】
実施例1は、白書き込み開始から20ms後の電流密度、黒書き込み開始から20ms後の電流密度の何れも比較例1と比べて約33%減少し、実施例2は比較例1と比較して、約20%減少している。このように、画素電圧Vを3段階に変化させると、より書き込み初期のピーク電流を抑制できることが確認できた。
【0131】
実施例3は、白書き込み開始から20ms後の電流密度と黒書き込み開始から20ms後の電流密度は、それぞれ比較例2と比べて約30%減少している。このことから、本発明の駆動方法は銀ペーストから成る画素電極30を用いた表示パネル50に適用しても、クロムの上に金をスパッタした画素電極30を用いた表示パネル50と同等の効果が得られることが確認できた。
【0132】
表2は表示パネルの反射率を測定した結果である。
【0133】
【表2】

【0134】
表2に示すように、比較例1、2のコモンバス7からの距離1cmの画素と、距離4cmの画素との反射率の差はそれぞれ4%もあり、目視でも画面むらが目立った。一方、実施例1〜3のコモンバス7からの距離1cmの画素と、距離4cmの画素との反射率の差は2%以下であり、目視では画面むらは認められない。また、画素電圧Vを3段階に変化させた実施例1と実施例3の反射率の差は1%であり、2段階に変化させた実施例2と比べてより画面むらが改善されている。
【0135】
このように、実施例1〜3は比較例1、2と比較して、コモンバス7からの距離1cmの画素と、距離4cmの画素の反射率との差が小さく画素むらが改善できることが確認できた。
【0136】
以上このように、本発明によれば、簡単な駆動方法で、画面むらが少ない表示画像を表示できる電気化学表示素子の駆動方法、画面むらが少ない表示画像を表示できる表示装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0137】
1 電気化学表示素子
2 駆動トランジスタ
4 スイッチングトランジスタ
5a、5b、5c 走査線
8a、8b、8c 信号線
10 記憶部
11 表示コントローラ
12 ゲートドライバ
13 コモン電源
14 ソースドライバ
21 バス電源
30 画素電極
31 電解液
32 ITO電極
34 電源
50 表示パネル
71 制御部
100 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する電極間に画素電圧を所定の時間印加することにより金属を析出または溶解して画像を表示するマトリクス状に配列された電気化学表示素子の駆動方法であって、
前記画素電圧の絶対値を前記金属の析出または溶解を開始させる時から時間とともに段階的に増加させることを特徴とする電気化学表示素子の駆動方法。
【請求項2】
電圧の絶対値が2段階に変化する前記画素電圧を前記対向する電極間に印加することを特徴とする請求項1に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【請求項3】
電圧の絶対値が3段階に変化する前記画素電圧を前記対向する電極間に印加することを特徴とする請求項1に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【請求項4】
前記画素電圧の絶対値が増加するタイミングは、
前記画素電圧の印加に伴って増加する前記電気化学表示素子の抵抗値の変化率が所定値を越える抵抗変化点に達した時点であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【請求項5】
前記画素電圧を変化させるタイミングは、
金属の析出または溶解を開始させてから50msec以内の時点と、
増加する前記電気化学表示素子の抵抗値の変化率が所定値を越える抵抗変化点に達した時点と、
であることを特徴とする請求項3に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【請求項6】
前記画素電圧を印加する時間を、複数の単位時間に分割し、前記画素電圧を印加する単位時間の回数を制御して階調表示を行うことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【請求項7】
前記画素電圧を前記電気化学表示素子に印加する回路素子の抵抗値を制御して、前記画素電圧の絶対値を変化させることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の電気化学表示素子の駆動方法。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の電気化学表示素子の駆動方法を用いて電気化学表示素子を駆動することを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−217274(P2010−217274A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61063(P2009−61063)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】