説明

電気式ループ滅菌器

【課題】安全キャビネット内で使用しても、ガスバーナーを使用したときのごとき滅菌時に上昇気流が生じず作業室内の気流ハランスを乱すことのない滅菌器を得る。また、熱殺菌のためのループに電圧を負荷している時間を少なくすることによって消費電力を少なくする。
【解決手段】揺動自在に支持されたブロック体の一端に可動電極支持体を介して可動電極を設けると共に、ブロック体の他端にクランプを設け、かつ、前記ブロック体の揺動時におけるクランプの揺動軌跡内に固定電極を設けてなり、可動電極とクランプとの間に金属製のループを差し渡しブロック体を揺動することによりクランプと固定電極とにより金属製ループをニップし、両電極間に通電し金属製ループを発熱させる。また、ブロック体に設けた可動電極支持体は、該支持体が支持する可動電極とブロック体に設けたクランプとの間隔を調節可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物の培養等を行う実験において、寒天培地上に微生物等の試料を塗り広げる操作で使用するループ,エーゼ,ニードル(以下ループと称する)を滅菌する電気式ループ滅菌器に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を取り扱う実験では、各種のループやエーゼ,ニードル(以下ループと略す)を使用し、微生物等の試料を寒天培地上に塗り広げる操作がある。一度使用したループは、試料間の交叉汚染を防ぐ為に、通常ガスバーナーにて火炎滅菌し再使用することが多い。その実験試料が感染性を有する場合マニュアルで操作するときは、作業者の空気感染防止の為、この滅菌操作を安全キャビネット1内に行う必要がある。。安全キャビネット1は図1aの如く、精密に調整された流入空気2と給気空気3の気流バランスにより、感染性実験試料4から発生する汚染エアロゾル5を安全キャビネット1の作業空間6に封じ込めている。尚、図1aにおいて7は循環ファン,8は排気フィルター,9は給気フィルター,10は前面パネル,11は浄化排気である。
【0003】
しかし、安全キャビネット1内で、前述のガスバーナー12による滅菌操作をすると、図1bの如く、炎による強い上昇気流13に起因し、作業空間6の風速バランスが維持できない。この対策として、図2に示す電気ヒーター14を利用したループ専用の滅菌器15が市販されている。この滅菌器15は、有底筒状のルツボ碍子16の周囲にヒーター14を配し、その外周を断熱材17で囲い筒状体開口部のループ挿入口18からループ20の金属部分21を挿入し加熱するものである。然し、ヒーター14が滅菌可能な温度(約800℃)に達するまで電源投入後より10分程度掛かり、かつ滅菌が必要な実験中は電源を切ることは出来ず、常時約150W程度の電気を消費することになる。よって安全キャビネットの風速バランスを乱すことなく、ループを短時間で滅菌可能な、消費電力の少ない滅菌器が必要であった。
【0004】
また、複数の釣菌針を連続して保持し、それら釣筋針に通電して発熱させるスクリーニング装置(特許文献1、9頁参照)があるが、装置が大規模となり、安全キャビネット内でマニュアルで使用することは出来ない。
【特許文献1】特開2002−171995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みて、安全キャビネット内で使用しても、ガスバーナーを使用したときのごとき滅菌時に上昇気流が生じず、作業室内の気流バランスを乱すことのない滅菌器を得ることを目的とする。
また、本発明は、熱殺菌のためのループに電圧を負荷している時間を少なくすることによって消費電力を少なくするとを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明にあっては、揺動自在に支持されたブロック体の一端に可動電極支持体を介して可動電極を設けると共に、ブロック体の他端にクランプを設け、かつ、前記ブロック体の揺動時におけるクランプの揺動軌跡内に固定電極を設けてなり、可動電極とクランプとの間に金属製のループを差し渡しブロック体を揺動することによりクランプと固定電極とにより金属製ループをニップし、両電極間に通電し金属製ループを発熱させる。
請求項2記載の発明にあっては、ブロック体に設けた可動電極支持体は、該支持体が支持する可動電極とブロック体に設けたクランプとの間隔を調節可能とした。
請求項3記載の発明にあっては、ブロック体には、ブロック体に設けたクランプが固定電極と離れる方向にブロック体を付勢するスプリングを設けることによって、ループに通電するためブロック体に押圧力を手動により加えない限り、クランプと固定電極とは離れる方向にブロック体が揺動し通電を断ち過加熱を防止している。
【発明の効果】
【0007】
揺動自在に支持されたブロック体の一端に可動電極支持体を介して可動電極を設けると共に、ブロック体の他端にクランプを設け、かつ、前記ブロック体の揺動時におけるクランプの揺動軌跡内に固定電極を設けてなり、可動電極とクランプとの間に金属製のループを差し渡しブロック体を揺動することによりクランプと固定電極とにより金属製ループをニップし、両電極間に通電し金属製ループを発熱させる。また、ブロック体に設けた可動電極支持体は、該支持体が支持する可動電極とブロック体に設けたクランプとの間隔を調節可能としたため、滅菌時に安全キャビネット内において使用しても、キャビネット内に上昇気流が生ずることがなく、キャビネット内作業空間の気流バランスを乱すことはない。
【0008】
また、市販品の電気ヒーター式滅菌器の常時150W程度の電力消費に比べ、本発明の滅菌器は、ループに電圧を負荷している間の約3秒程度のみ30〜70Wの電力消費であり、両電極に負荷する電圧は低電圧(最大でも5V)に保てるので作業者が電極間に触れても感電することはない。
【0009】
本発明滅菌器は、ループに直接電流を流し、ループを発熱させるがループは熱容量が少ない為、周囲の空気温度はほとんど変化せず、上昇気流がほとんど発生しないので安全キャビネットの作業空間内の気流のバランスを乱すことがない。
また、使用電力も30〜70W程度の電気容量にて発熱滅菌し、かつ滅菌時間は約3秒程度であり、消費電力が極めて少ないという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明、電気式ループ滅菌器30の最良の実施形態を図面と共に次に説明する。図3は、電気式ループ滅菌器30の平面図、図4は同正面図、図5は同左側面図、図6A,Bはループ31及びループフォルダー32の側面図、図7は前記滅菌器をケースに入れた状態の側面図である。
【0011】
電気式ループ滅菌器30はベース33に立設した支腕34に、ブロック体35を軸36により揺動自在に支持している。37は可動電極支持体で、長さ方向中心線上に長さ調節用長孔38を有し、該長孔38に挿入されブロック体35に螺合したローレット39,39によってブロック体35に取付位置調節自在に固定されている。可動電極支持体37はローレット39をゆるめることで、ブロック体35上でその位置を変更出来る。
【0012】
可動電極支持体37の上端にはループホルダー32を受けるため先端がV字状に開いた可動電極40が設けられている。
ブロック体35の下端上面にはL字状のクランプ41を設けている。42は固定電極で、倒コ字状にベース33に設けられ、上部の水平に延びる部分42aはL字状クランプ41の上位に位置し、ブロック体35が図5において反時計針方向に旋回したときに、クランプ41は前記電極42の上記水平に延びる部分42aにその下面から当接する。ブロック体35はスプリング43で常時図5において時計針方向に旋回するように付勢されておりクランプ41と固定電極の水平部分42aとは離れた状態を保っている。
【0013】
本発明ループ滅菌器30は可動電極40と固定電極42との間にループ31を介在させ、ループ31に通電することで発熱滅菌をするものであるが、上記可動電極40と固定電極42とに負荷する電圧は図8に示す制御回路51により切替可能としている。電源には一般の商用電源を入力し、ダイオードD52とコンデンサC53にてDC141Vへ全波整流後、DC5V電源回路54に供給し、電極間に負荷する2.5〜5V電圧を作っている。細い又は電気抵抗の少ないループは発熱しやすく3V程度の電圧が好ましい。このループの場合は高/中/低切替スイッチ55の信号を出力制御回路56に入力し、固定電極42と可動電極40との電極間の電圧をそれぞれ全開(5V)/70%(3.5V相当)/50%(2.5V相当)に制御することで加熱溶断することはない。本電気式滅菌器は装置を小型化するために、直流回路としたが、交流回路でも電極間を5V程度の制御をすることで、同様な滅菌が可能である。
また、図8に示す如く、滅菌時のループの過電流による熱溶断を防止する為、電極間に流れる電流をサーキットプロテクター(過電流遮断器)57により15A以内に制御している。15Aを超えた場合は、瞬時に電気を遮断する。
【0014】
本発明電気式ループ滅菌器30を使用する際は、螺子39をゆるめ滅菌するループ31の長さに応じて可動電極支持体37をブロック体35に対して移動してループホルダー32先端の金属部分が可動電極40のV字内に位置し、ループ31の先端がブロック35端部に設けられているクランプ41に当接するようにする。そして、ループフォルダー32を可動電極40のV字内に押し込む如き感触でスプリング43の引張り力に抗して矢印方向に手で押し付けブロック体35を軸36を中心に図5において反時計針方向に旋回するようにすると、クランプ41は持ち上がり、クランプ41に当接しているループ31の先端部分は、クランプ41の旋回動につれクランプ41と固定電極42の水平部分42aとにニップされることになり、固定電極42と可動電極40との間には電気回路が生じ、ループ31に通電しループ31は発熱し赤変する。上記色変化の状態を見て可動電極へのループフォルダー32の押圧を解くとスプリング43の引張り力でブロック体35は時計針方向に旋回しクランプ41は固定電極42との接触を解き通電が解除される。このように本発明では、ループの置き忘れによる長時間通電をさせない機構を有し、ループの溶断を防止している。
上記操作において、クランプ41と固定電極42とによってループ31の先端が強固にニップされるために、ループ31に若干の錆が生じていても通電を保つことが出来る。
【0015】
次に、ループ31の発熱時間と必要電力との関係について述べる。
試作の電気バーナーの電極に、それぞれのループを接触させ、約3秒以内に発熱する必要な電圧とその時の電流を図1に示す電圧(電流)計で測定し、発熱に必要な電力量(W)を計算した。測定結果を表1(電圧3V)と表2(電圧5V)に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
本発明滅菌器30は、安全キャビネット1内に置くときは、図7に示す如くケース内に入れて作業空間の隅に置くようにするのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】aは気流バランスが精密に調整された状態の安全キャビネットの作業空間を示す断面図、bは気流バランスが乱れた状態の安全キャビネットの作業空間を示す断面図。
【図2】電気モーターを利用したループ専用の滅菌器の断面図。
【図3】本発明滅菌器の平面図。
【図4】同正面図。
【図5】同左側面図。
【図6】A,Bはループホルダーに支持されたループの側面図。
【図7】本発明滅菌器をケースに収容した状態を示す側面図。
【図8】電極の制御回路図。
【符号の説明】
【0020】
30 電気式ループ滅菌器
31 ループ
32 ループフォルダー
33 ベース
34 支腕
35 ブロック体
36 軸
37 可動電極支持体
38 長さ調節用長孔
39 ローレット
40 可動電極
41 クランプ
42 固定電極
43 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動自在に支持されたブロック体の一端に可動電極支持体を介して可動電極を設けると共に、ブロック体の他端にクランプを設け、かつ、前記ブロック体の揺動時におけるクランプの揺動軌跡内に固定電極を設けてなり、可動電極とクランプとの間に金属製のループを差し渡しブロック体を揺動することによりクランプと固定電極とにより金属製ループをニップし、両電極間に通電し金属製ループを発熱させることを特徴とする電気式ループ滅菌器。
【請求項2】
ブロック体に設けた可動電極支持体は、該支持体が支持する可動電極とブロック体に設けたクランプとの間隔を調節可能としたことを特徴とする請求項1記載の電気式ループ滅菌器。
【請求項3】
ブロック体には、ブロック体に設けたクランプが固定電極と離れる方向にブロック体を付勢するスプリングを設けたことを特徴とする請求項1記載の電気式ループ滅菌器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−113930(P2008−113930A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301263(P2006−301263)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(591066465)日本エアーテック株式会社 (27)
【Fターム(参考)】