電気機器の円筒形整流子のための整流子リングの製造方法、ならびに電気機器
本発明は、電気機器の整流子(2)のための整流子リング(6)の製造方法、ならびに電気機器に関する。導電性の成形可能な帯状材料(34)から前記整流子リング(6)の整流子片(8)が形成される。なお該整流子片は、前記帯状材料の長手方向に延在する少なくとも1つの切欠部を有している。その後、形成された整流子片のうち所期の数の整流子片が整流子リングになるよう閉じられ、前記整流子片(8)が閉じられて整流子リング(6)になった後に、非導電性の変形耐性材料からなる補強リング(14,15,16)が前記切欠部(18;18,20)に挿入され、前記整流子リング(6)の整流子片(8)の可塑性変形によって前記切欠部(18:18,20)に固定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、電気機器の整流子のための整流子リングの製造方法、ならびに、請求項8の上位概念に記載の電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
DE19543998A1およびDE19743086A1から、いわゆる円筒形整流子(Rollkommutator)を製造するための冒頭に述べた形式の方法が既に公知である。この方法においては、整流子片を形成するために、銅または別の成形可能な導電性金属からなるあらかじめ型押し加工されて所期の断面が設けられた無端帯材に、該無端帯材の運動方向に対して直角な方向に切り込みが成形される。整流子片は、幅狭のウェブを介して隣接する整流子片と接続されており、DE19543998A1による整流子の場合には、帯材の縦方向に延在する複数の燕尾状切欠部を有する。このように成形された無端帯材から所期の数の整流子片が切り離され、ローラ工具によって丸められて整流子リングになるように閉じられる。
【0003】
引き続きこの閉じられた整流子リングに、該整流子リングと同軸に配向されるように中空シリンダ状の支持体が挿入され、その後、整流子リングの内側周囲と前記支持体の外側周囲の間の中間室に流動性絶縁材料が注入される。この流動性絶縁材料は、整流子リングの内側周囲を取り囲む燕尾状切欠部と、整流子片同士の間の軸方向の切り込みとを充填し、注入後には硬化する。これによって支持体と整流子リングとの間に確実な形状結合が形成され、隣接する整流子片同士は炭素ブラシのコンタクト面において互いに電気的に絶縁される。
【0004】
整流子が装備された電気機器は、動作中に30000回転毎分に至る回転数を以て回転し得るので、整流子リングには強力な遠心力が及ぼされる。この強力な遠心力により、適当な対抗処置が無い場合には、金属製の整流子リングの望ましくない変形が引き起こされ、場合によってはこれにより炭素ブラシと整流子との間の火花形成が増加してしまう可能性がある。これに対処するためにDE10319460からは、とりわけ整流子の端部に溝状の切欠きを設けることが公知である。この溝状の切欠きには予荷重のかけられたリングアンカが係合し、該リングアンカは、各整流子片を、整流子リングの支持体に半径方向内方へと予荷重をかけて保持している。これによって少なくとも整流子片の端部は、整流子の動作回転数が高い場合に支持体ないし絶縁材料から半径方向外側へ遊離することが阻止される。もっとも、不均衡を回避するためにリングアンカは回転対称に構成すべきであり、このことによって、引張強度が高く引き延ばしできない材料からなる、予荷重をかけることが可能なこのリングアンカの構成は、格段に困難になってしまう。さらに、整流子リングにおける予荷重可能なリングアンカの製造および取り付けも、比較的高コストである。
【0005】
このような従来技術から出発した本発明の課題は、冒頭に述べた形式の方法を改善して円筒形整流子の整流子リングの補強を容易にすること、および、簡単に製造可能かつ取付可能な補強された整流子リングを備える冒頭に述べた形式の電気機器を提供することである。
【0006】
発明の開示
本発明の方法によればこの課題は、整流子片を閉じた後に、非導電性の変形耐性材料からなる補強リングを切欠部に挿入し、閉じられた整流子リングの整流子片の可塑性変形により前記補強リングを前記切欠部に固定することによって解決される。
【0007】
このような手段によれば、一方では、補強リングを任意の適当な材料から任意の形状で製造することが可能となる。他方では、この補強リングは整流子リングの変形によって切欠部に確実に保持されるので、さらなる加工処理プロセスの際に誤って紛失する危険から保護されることとなる。さらにはこのようにすれば、完成した整流子の温度耐性およびスキッド耐性(Schleuderfestigkeit)を改善することができ、整流子リングの変形によって補強リングの面倒な予荷重を省略することができる。
【0008】
電気機器に関しては、上述の課題は、整流子片の切欠部を画定する少なくとも1つの部分が補強リングを固定するために可塑性に変形されており、ここで整流子片が補強リングに対して押圧されることによって解決される。
【0009】
整流子片における切欠部は、有利には、閉じられた整流子リングの軸方向に開口しており、補強リングを前記軸方向に切欠部に挿入することができる。整流子リングの変形後にこの切欠部を軸方向に開いたままにしてもよいが、切欠部を硬化した注型材料または絶縁材料によって封止することも可能であり、これらの注型材料または絶縁材料は、完成した整流子においては整流子リングと整流子の支持体とを接続している。この場合、注型材料または絶縁材料は、整流子片と整流子片の間の中間室へ入り込むだけではなく前記切欠部の中にも入り込み、これによって補強リングは切欠部に付加的に固定されることとなる。
【0010】
整流子リングの整流子片が、補強リング1つに対してただ1つの切欠部を有する場合には、この切欠部は、目的に適うように電気機器の電機子軸受の領域に配置されている。しかしながら整流子片が2つの切欠部を有することも可能であり、これらの整流子片は、切欠部1つにつき1つの補強リングを固定できるように整流子リングの互いに反対の端部に配置されている。
【0011】
補強リングを整流子片の可塑性変形によって切欠部に固定することは、有利には、切欠部の少なくとも1つの縁部領域のかしめによって実行することができる。しかしながら補強リングを、以下のようにして切欠部に固定することも可能である。すなわち切欠部を画定する部分ないし切欠部の画定部を、閉じられた整流子リングにおいて整流子の回転軸方向に内側に曲げた状態にしておき、心棒を、整流子リングによって取り囲まれた開口部に貫通挿入することによって、前記切欠部の画定部を、対向する補強リングの内側周囲面に対して内側から押圧することにより、補強リングを切欠部に固定することも可能である。
【0012】
基本的には補強リングを、炭素ブラシのための回転面(Laufflaeche)として使用される整流子リングの周囲面へと半径方向に通じている整流子片切欠部に固定させることも可能である。しかしながらこの解決方法は、軸方向に開口した切欠部よりも不利である。なぜなら、円周方向に閉じられている補強リングは軸方向に開口した切欠部にしか挿入できず、その後この切欠部は、開口した側において整流子リングを変形することによって閉じなければならず、これによって整流子片のより強力な変形が必要となるからである。
【0013】
補強リングは、有利には、繊維強化樹脂または繊維強化プラスチック材料から形成され、非常に簡単かつ低コストで製造することができる。
【0014】
以下、図面に図示したいくつかの実施例に基づき本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、電気機器のためのいわゆる円筒形整流子の部分断面斜視図である。
【図2】図2は、整流子の部分断面図である。
【図3】図3は、整流子の整流子リングを製造するために使用される、異形成形された金属製帯状材料の断面斜視図である。
【図4】図4は、整流子リングの整流子片の成形後の、帯状材料の断片の端部を示す図である。
【図5】図5は、整流子片を整流子リングになるように閉じた後の、帯状材料の断片の端部を示す図である。
【図6】図6は、整流子片に切り欠かれた溝に補強リングを挿入した後の、図5の端部を示す図である。
【図7】図7は、図5の整流子リングの線VII-VIIに沿った断面図である。
【図8】図8は、図6の、溝に補強リングを挿入した後の整流子リングのVIII-VIIIに沿った断面図である。
【図9】図9は、整流子リングの可塑性変形によって溝に補強リングが固定された後の、図8に相応した図である。
【図10】図10は、図7に相応した、2つの補強リングを備えた整流子リングの断面図である。
【図11】図11は、図8に相応した、図10の整流子リングを示す図である。
【図12】図12は、図9に相応した、図10の整流子リングを示す図である。
【0016】
本発明の実施形態
図1および2に図示された電気機器の中空の整流子2は、電気機器のロータのロータ軸に取り付けるためのものである。整流子2は実質的に、該整流子の内側周囲に配置された螺旋状に曲げられた筒状の支持体4と、前記整流子2の外側周囲に配置された金属製の整流子リング6と、樹脂またはプラスチック材料からなる硬化された絶縁材料または注型材料10とからなる。前記整流子リング6は、複数の軸方向の整流子片8を含み、前記絶縁材料または注型材料10は、前記整流子リング6を支持体4に形状結合し、前記整流子リング6のそれぞれ隣接した整流子片8同士の間の空隙12を充填する。整流子2はさらに、1つの補強リング14(図1,8,9)または2つの補強リング15および16(図11,12)を含む。これらの補強リングは、それぞれ対応した、整流子リング6の整流子片8の実質的にリング状である各収容溝18ないし20および22に配置されている。補強リング14,15,16は、整流子リング6が、高回転数での動作中に発生する遠心力によって変形してしまうこと、ないしは支持体4から遊離してしまうことを阻止する。
【0017】
整流子2の縦断面図を見ると、整流子リング6の整流子8は、図2、7〜12において最も良好に図示されているように、L字型の断面を有している。整流子2の回転軸24に対して平行な長い脚部26は、該脚部の外側27とともに、整流子2の周囲を滑走する炭素ブラシに対する対応コンタクト部を形成している。その一方で、前記長い脚部26の端部にて放射状に突出した短い脚部28は、巻線接続部として使用され、該巻線接続部は、整流子2をロータ軸に取り付けた後にロータ巻線と接続される。整流子リング6は、該整流子リング6の内側周囲に切り欠かれた3つの燕尾状の固定溝30を有し、これらの固定溝30は整流子8の間の空隙12と同じように、整流子リング6を支持体4に取り付ける際に流動性の絶縁材料または注型材料10によって充填される。
【0018】
整流子2の、互いに反対側に位置する2つの端部において、絶縁材料または注型材料10はそれぞれ1つのつば32ないし34を形成しており、これらのつばは、整流子6の整流子片8の隣接する端面の一部に部分的に重なり、収容溝18ないし収容溝20および22を封止している。
【0019】
1つの補強リング14ないし2つの補強リング15,16は、ガラス繊維、炭素繊維、またはアラミド繊維によって強化されたプラスチックまたは樹脂材料から形成され、それぞれ矩形の断面を有する。
【0020】
整流子リング6を製造するために、銅または別の成形可能な導電性金属からなる異形成形された帯状材料34が使用され、これについては図3に部分的に図示されている。この異形成形された帯状材料34の断面は実質的に整流子片8の断面に相応するが、しかしながら以下のような相違点を有する。すなわち1つの補強リング14を収容するために使用される収容溝18、ないし、複数の補強リング15,16を収容するために使用される複数の収容溝20,22が、収容溝に隣接する整流子片8の端面の方向に向かって拡大しており、それぞれ対応する補強リング14,15,16の断面積と比較して若干大きい溝断面積を有するという相違点を有するのである。特に、収容溝18ないし20および22の、対向する2つの画定部の少なくとも1つが、収容溝に隣接する端面の方向に向かって逸れている。
【0021】
さらなる方法ステップにおいては、帯状材料34の長手方向に対して横方向に延在する平行な切り込み38,40(図4)が、帯状材料34の背中合わせの両側に形成される。これによって、収容溝18が設けられた図3の帯状材料34の端面を見た場合に、図4に図示されるような多数の平行な整流子片8を備える断面図が生じ、これらの整流子片8は、隣り合う2つの整流子片8とはそれぞれ上側および下側の切り込み38ないし40まで分離されており、かつ薄いウェブ42によってそれぞれこれらの整流子片8と接続されている。
【0022】
後続の方法ステップにおいては、帯状材料34を複数のウェブ42のうちの1つに沿って切断することにより、縦方向に切り込みがつけられた帯状材料34から予め決められた数の整流子片8が切断される。
【0023】
次いで、切り離された整流子片8はさらなる方法ステップにおいて、図5に部分的に図示されるように、ローラ工具によって整流子リング6を閉じるように形成される。この際、長い脚部26の間にある下側の切り込み40は閉じられて幅狭のスリットになり、その一方で短い脚部28の間にある上側の切り込み28はより拡がる。
【0024】
この方法ステップにおいて、かつては長い脚部26の1つまたは2つの端部を一直線に貫いて延在していた各収容溝18,20,33も、図5にその収容溝18の実施例が図示されているように、それぞれ多角形に形成された収容溝18,20,33になる。
【0025】
図6に収容溝18の実施例として図示されているように、次の方法ステップにおいて、隣接する整流子リング6の端面に通じる、軸方向に開口した収容溝18,20,22に、それぞれに対応する補強リング14ないし15,16が軸方向に挿入される。
【0026】
後続の方法ステップにおいて、補強リング14ないし15,16は、整流子リングの可塑性の変形によって対応する収容溝18ないし20,22に固定される。これに関して、整流子リング6のそれぞれ隣接する端部は、補強リング14ないし15,16を対応する収容溝18ないし20,22に固着させるために、図9ないし12に図示されるように整流子片8の内側周囲と外側周囲に対して内側および外側から半径方向に作用する圧力Fによって可塑性に変形しつつ互いに押し合わされ、溝18,20,22の対向し合う内側および外側の画定部は、整流子片8の領域にて補強リング14,15,16の内側ないし外側の周囲面に対して押圧される。
【0027】
このことは、図1〜9に図示した整流子リング6において例えば以下のようにして実施することも可能である。すなわち、整流子リング6の内側周囲面50の内径に相応する外径と、先細になった前端とを備えた円筒形の心棒を、短い脚部28ないしコイル接続部が設けられた整流子リング6の端部から図9の矢印Aの方向に向かって、整流子リング6によって取り囲まれた中空室52を通して押し出して、かつては端面54に向かって拡がっていた溝18の内側画定部56を、整流子片8の領域において、補強リング14の内側周囲面に対して外側に押圧するようにして実施することも可能である。
【0028】
これらの場合には、整流子リング6の周囲を取り囲む中空円筒形の受け(図示しない)が、整流子片8の端部の過度な拡がりを阻止する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、電気機器の整流子のための整流子リングの製造方法、ならびに、請求項8の上位概念に記載の電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
DE19543998A1およびDE19743086A1から、いわゆる円筒形整流子(Rollkommutator)を製造するための冒頭に述べた形式の方法が既に公知である。この方法においては、整流子片を形成するために、銅または別の成形可能な導電性金属からなるあらかじめ型押し加工されて所期の断面が設けられた無端帯材に、該無端帯材の運動方向に対して直角な方向に切り込みが成形される。整流子片は、幅狭のウェブを介して隣接する整流子片と接続されており、DE19543998A1による整流子の場合には、帯材の縦方向に延在する複数の燕尾状切欠部を有する。このように成形された無端帯材から所期の数の整流子片が切り離され、ローラ工具によって丸められて整流子リングになるように閉じられる。
【0003】
引き続きこの閉じられた整流子リングに、該整流子リングと同軸に配向されるように中空シリンダ状の支持体が挿入され、その後、整流子リングの内側周囲と前記支持体の外側周囲の間の中間室に流動性絶縁材料が注入される。この流動性絶縁材料は、整流子リングの内側周囲を取り囲む燕尾状切欠部と、整流子片同士の間の軸方向の切り込みとを充填し、注入後には硬化する。これによって支持体と整流子リングとの間に確実な形状結合が形成され、隣接する整流子片同士は炭素ブラシのコンタクト面において互いに電気的に絶縁される。
【0004】
整流子が装備された電気機器は、動作中に30000回転毎分に至る回転数を以て回転し得るので、整流子リングには強力な遠心力が及ぼされる。この強力な遠心力により、適当な対抗処置が無い場合には、金属製の整流子リングの望ましくない変形が引き起こされ、場合によってはこれにより炭素ブラシと整流子との間の火花形成が増加してしまう可能性がある。これに対処するためにDE10319460からは、とりわけ整流子の端部に溝状の切欠きを設けることが公知である。この溝状の切欠きには予荷重のかけられたリングアンカが係合し、該リングアンカは、各整流子片を、整流子リングの支持体に半径方向内方へと予荷重をかけて保持している。これによって少なくとも整流子片の端部は、整流子の動作回転数が高い場合に支持体ないし絶縁材料から半径方向外側へ遊離することが阻止される。もっとも、不均衡を回避するためにリングアンカは回転対称に構成すべきであり、このことによって、引張強度が高く引き延ばしできない材料からなる、予荷重をかけることが可能なこのリングアンカの構成は、格段に困難になってしまう。さらに、整流子リングにおける予荷重可能なリングアンカの製造および取り付けも、比較的高コストである。
【0005】
このような従来技術から出発した本発明の課題は、冒頭に述べた形式の方法を改善して円筒形整流子の整流子リングの補強を容易にすること、および、簡単に製造可能かつ取付可能な補強された整流子リングを備える冒頭に述べた形式の電気機器を提供することである。
【0006】
発明の開示
本発明の方法によればこの課題は、整流子片を閉じた後に、非導電性の変形耐性材料からなる補強リングを切欠部に挿入し、閉じられた整流子リングの整流子片の可塑性変形により前記補強リングを前記切欠部に固定することによって解決される。
【0007】
このような手段によれば、一方では、補強リングを任意の適当な材料から任意の形状で製造することが可能となる。他方では、この補強リングは整流子リングの変形によって切欠部に確実に保持されるので、さらなる加工処理プロセスの際に誤って紛失する危険から保護されることとなる。さらにはこのようにすれば、完成した整流子の温度耐性およびスキッド耐性(Schleuderfestigkeit)を改善することができ、整流子リングの変形によって補強リングの面倒な予荷重を省略することができる。
【0008】
電気機器に関しては、上述の課題は、整流子片の切欠部を画定する少なくとも1つの部分が補強リングを固定するために可塑性に変形されており、ここで整流子片が補強リングに対して押圧されることによって解決される。
【0009】
整流子片における切欠部は、有利には、閉じられた整流子リングの軸方向に開口しており、補強リングを前記軸方向に切欠部に挿入することができる。整流子リングの変形後にこの切欠部を軸方向に開いたままにしてもよいが、切欠部を硬化した注型材料または絶縁材料によって封止することも可能であり、これらの注型材料または絶縁材料は、完成した整流子においては整流子リングと整流子の支持体とを接続している。この場合、注型材料または絶縁材料は、整流子片と整流子片の間の中間室へ入り込むだけではなく前記切欠部の中にも入り込み、これによって補強リングは切欠部に付加的に固定されることとなる。
【0010】
整流子リングの整流子片が、補強リング1つに対してただ1つの切欠部を有する場合には、この切欠部は、目的に適うように電気機器の電機子軸受の領域に配置されている。しかしながら整流子片が2つの切欠部を有することも可能であり、これらの整流子片は、切欠部1つにつき1つの補強リングを固定できるように整流子リングの互いに反対の端部に配置されている。
【0011】
補強リングを整流子片の可塑性変形によって切欠部に固定することは、有利には、切欠部の少なくとも1つの縁部領域のかしめによって実行することができる。しかしながら補強リングを、以下のようにして切欠部に固定することも可能である。すなわち切欠部を画定する部分ないし切欠部の画定部を、閉じられた整流子リングにおいて整流子の回転軸方向に内側に曲げた状態にしておき、心棒を、整流子リングによって取り囲まれた開口部に貫通挿入することによって、前記切欠部の画定部を、対向する補強リングの内側周囲面に対して内側から押圧することにより、補強リングを切欠部に固定することも可能である。
【0012】
基本的には補強リングを、炭素ブラシのための回転面(Laufflaeche)として使用される整流子リングの周囲面へと半径方向に通じている整流子片切欠部に固定させることも可能である。しかしながらこの解決方法は、軸方向に開口した切欠部よりも不利である。なぜなら、円周方向に閉じられている補強リングは軸方向に開口した切欠部にしか挿入できず、その後この切欠部は、開口した側において整流子リングを変形することによって閉じなければならず、これによって整流子片のより強力な変形が必要となるからである。
【0013】
補強リングは、有利には、繊維強化樹脂または繊維強化プラスチック材料から形成され、非常に簡単かつ低コストで製造することができる。
【0014】
以下、図面に図示したいくつかの実施例に基づき本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、電気機器のためのいわゆる円筒形整流子の部分断面斜視図である。
【図2】図2は、整流子の部分断面図である。
【図3】図3は、整流子の整流子リングを製造するために使用される、異形成形された金属製帯状材料の断面斜視図である。
【図4】図4は、整流子リングの整流子片の成形後の、帯状材料の断片の端部を示す図である。
【図5】図5は、整流子片を整流子リングになるように閉じた後の、帯状材料の断片の端部を示す図である。
【図6】図6は、整流子片に切り欠かれた溝に補強リングを挿入した後の、図5の端部を示す図である。
【図7】図7は、図5の整流子リングの線VII-VIIに沿った断面図である。
【図8】図8は、図6の、溝に補強リングを挿入した後の整流子リングのVIII-VIIIに沿った断面図である。
【図9】図9は、整流子リングの可塑性変形によって溝に補強リングが固定された後の、図8に相応した図である。
【図10】図10は、図7に相応した、2つの補強リングを備えた整流子リングの断面図である。
【図11】図11は、図8に相応した、図10の整流子リングを示す図である。
【図12】図12は、図9に相応した、図10の整流子リングを示す図である。
【0016】
本発明の実施形態
図1および2に図示された電気機器の中空の整流子2は、電気機器のロータのロータ軸に取り付けるためのものである。整流子2は実質的に、該整流子の内側周囲に配置された螺旋状に曲げられた筒状の支持体4と、前記整流子2の外側周囲に配置された金属製の整流子リング6と、樹脂またはプラスチック材料からなる硬化された絶縁材料または注型材料10とからなる。前記整流子リング6は、複数の軸方向の整流子片8を含み、前記絶縁材料または注型材料10は、前記整流子リング6を支持体4に形状結合し、前記整流子リング6のそれぞれ隣接した整流子片8同士の間の空隙12を充填する。整流子2はさらに、1つの補強リング14(図1,8,9)または2つの補強リング15および16(図11,12)を含む。これらの補強リングは、それぞれ対応した、整流子リング6の整流子片8の実質的にリング状である各収容溝18ないし20および22に配置されている。補強リング14,15,16は、整流子リング6が、高回転数での動作中に発生する遠心力によって変形してしまうこと、ないしは支持体4から遊離してしまうことを阻止する。
【0017】
整流子2の縦断面図を見ると、整流子リング6の整流子8は、図2、7〜12において最も良好に図示されているように、L字型の断面を有している。整流子2の回転軸24に対して平行な長い脚部26は、該脚部の外側27とともに、整流子2の周囲を滑走する炭素ブラシに対する対応コンタクト部を形成している。その一方で、前記長い脚部26の端部にて放射状に突出した短い脚部28は、巻線接続部として使用され、該巻線接続部は、整流子2をロータ軸に取り付けた後にロータ巻線と接続される。整流子リング6は、該整流子リング6の内側周囲に切り欠かれた3つの燕尾状の固定溝30を有し、これらの固定溝30は整流子8の間の空隙12と同じように、整流子リング6を支持体4に取り付ける際に流動性の絶縁材料または注型材料10によって充填される。
【0018】
整流子2の、互いに反対側に位置する2つの端部において、絶縁材料または注型材料10はそれぞれ1つのつば32ないし34を形成しており、これらのつばは、整流子6の整流子片8の隣接する端面の一部に部分的に重なり、収容溝18ないし収容溝20および22を封止している。
【0019】
1つの補強リング14ないし2つの補強リング15,16は、ガラス繊維、炭素繊維、またはアラミド繊維によって強化されたプラスチックまたは樹脂材料から形成され、それぞれ矩形の断面を有する。
【0020】
整流子リング6を製造するために、銅または別の成形可能な導電性金属からなる異形成形された帯状材料34が使用され、これについては図3に部分的に図示されている。この異形成形された帯状材料34の断面は実質的に整流子片8の断面に相応するが、しかしながら以下のような相違点を有する。すなわち1つの補強リング14を収容するために使用される収容溝18、ないし、複数の補強リング15,16を収容するために使用される複数の収容溝20,22が、収容溝に隣接する整流子片8の端面の方向に向かって拡大しており、それぞれ対応する補強リング14,15,16の断面積と比較して若干大きい溝断面積を有するという相違点を有するのである。特に、収容溝18ないし20および22の、対向する2つの画定部の少なくとも1つが、収容溝に隣接する端面の方向に向かって逸れている。
【0021】
さらなる方法ステップにおいては、帯状材料34の長手方向に対して横方向に延在する平行な切り込み38,40(図4)が、帯状材料34の背中合わせの両側に形成される。これによって、収容溝18が設けられた図3の帯状材料34の端面を見た場合に、図4に図示されるような多数の平行な整流子片8を備える断面図が生じ、これらの整流子片8は、隣り合う2つの整流子片8とはそれぞれ上側および下側の切り込み38ないし40まで分離されており、かつ薄いウェブ42によってそれぞれこれらの整流子片8と接続されている。
【0022】
後続の方法ステップにおいては、帯状材料34を複数のウェブ42のうちの1つに沿って切断することにより、縦方向に切り込みがつけられた帯状材料34から予め決められた数の整流子片8が切断される。
【0023】
次いで、切り離された整流子片8はさらなる方法ステップにおいて、図5に部分的に図示されるように、ローラ工具によって整流子リング6を閉じるように形成される。この際、長い脚部26の間にある下側の切り込み40は閉じられて幅狭のスリットになり、その一方で短い脚部28の間にある上側の切り込み28はより拡がる。
【0024】
この方法ステップにおいて、かつては長い脚部26の1つまたは2つの端部を一直線に貫いて延在していた各収容溝18,20,33も、図5にその収容溝18の実施例が図示されているように、それぞれ多角形に形成された収容溝18,20,33になる。
【0025】
図6に収容溝18の実施例として図示されているように、次の方法ステップにおいて、隣接する整流子リング6の端面に通じる、軸方向に開口した収容溝18,20,22に、それぞれに対応する補強リング14ないし15,16が軸方向に挿入される。
【0026】
後続の方法ステップにおいて、補強リング14ないし15,16は、整流子リングの可塑性の変形によって対応する収容溝18ないし20,22に固定される。これに関して、整流子リング6のそれぞれ隣接する端部は、補強リング14ないし15,16を対応する収容溝18ないし20,22に固着させるために、図9ないし12に図示されるように整流子片8の内側周囲と外側周囲に対して内側および外側から半径方向に作用する圧力Fによって可塑性に変形しつつ互いに押し合わされ、溝18,20,22の対向し合う内側および外側の画定部は、整流子片8の領域にて補強リング14,15,16の内側ないし外側の周囲面に対して押圧される。
【0027】
このことは、図1〜9に図示した整流子リング6において例えば以下のようにして実施することも可能である。すなわち、整流子リング6の内側周囲面50の内径に相応する外径と、先細になった前端とを備えた円筒形の心棒を、短い脚部28ないしコイル接続部が設けられた整流子リング6の端部から図9の矢印Aの方向に向かって、整流子リング6によって取り囲まれた中空室52を通して押し出して、かつては端面54に向かって拡がっていた溝18の内側画定部56を、整流子片8の領域において、補強リング14の内側周囲面に対して外側に押圧するようにして実施することも可能である。
【0028】
これらの場合には、整流子リング6の周囲を取り囲む中空円筒形の受け(図示しない)が、整流子片8の端部の過度な拡がりを阻止する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の整流子のための整流子リングの製造方法であって、
導電性の成形可能な帯状材料から前記整流子リングの整流子片が形成され、
なお該整流子片は、前記帯状材料の長手方向に延在する少なくとも1つの切欠部を有しており、
その後、形成された整流子片のうち所期の数の整流子片が整流子リングになるよう閉じられる、
形式の製造方法において、
前記整流子片(8)が閉じられて整流子リング(6)になった後に、非導電性の変形耐性材料からなる補強リング(14,15,16)が前記切欠部(18;18,20)に挿入され、前記整流子リング(6)の整流子片(8)の可塑性変形によって前記切欠部(18:18,20)に固定される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記整流子片(8)の前記切欠部(18;18,20)は、前記整流子リング(6)の軸方向に開口している、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記整流子リング(6)の互いに反対側に位置する両端部に、補強リング(14,15,16)のための少なくとも1つの切欠部がそれぞれ配置されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記補強リング(14;15,16)は、前記切欠部(18;18,20)の少なくとも1つの縁部領域のかしめによって固定される、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記補強リング(14;15,16)は、前記整流子リング(6)によって取り囲まれた開口部(52)を拡げることによって前記切欠部(18;18,20)に固定される、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記補強リング(14;15,16)は、繊維強化樹脂または繊維強化プラスチックから形成される、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記補強リング(14;15,16)は、長方形または正方形の断面を有する、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
整流子を備える電気機器であって、
前記整流子は、整流子リングを含み、
該整流子リングは、導電性の成形可能な材料からなる多数の整流子片と、環状に延在する整流子片の切欠部に配置された少なくとも1つの補強リングとを含む、
形式の電気機器において、
前記整流子片(8)の、前記切欠部(18;18,20)を画定する少なくとも1つの部分は、前記補強リング(14;15,16)を固定するために可塑性に変形されている、
ことを特徴とする電気機器。
【請求項9】
前記補強リング(14;15,16)は、前記切欠部(18;18,20)にかしめられている、
ことを特徴とする請求項8記載の電気機器。
【請求項10】
前記切欠部(18)は、電機子軸受の領域に配置されている、
ことを特徴とする請求項8または9記載の電気機器。
【請求項11】
複数の整流子片(8)は、幅狭のウェブ(42)によって一体的に互いに接続されている、
ことを特徴とする請求項8〜10記載の電気機器。
【請求項1】
電気機器の整流子のための整流子リングの製造方法であって、
導電性の成形可能な帯状材料から前記整流子リングの整流子片が形成され、
なお該整流子片は、前記帯状材料の長手方向に延在する少なくとも1つの切欠部を有しており、
その後、形成された整流子片のうち所期の数の整流子片が整流子リングになるよう閉じられる、
形式の製造方法において、
前記整流子片(8)が閉じられて整流子リング(6)になった後に、非導電性の変形耐性材料からなる補強リング(14,15,16)が前記切欠部(18;18,20)に挿入され、前記整流子リング(6)の整流子片(8)の可塑性変形によって前記切欠部(18:18,20)に固定される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記整流子片(8)の前記切欠部(18;18,20)は、前記整流子リング(6)の軸方向に開口している、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記整流子リング(6)の互いに反対側に位置する両端部に、補強リング(14,15,16)のための少なくとも1つの切欠部がそれぞれ配置されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記補強リング(14;15,16)は、前記切欠部(18;18,20)の少なくとも1つの縁部領域のかしめによって固定される、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記補強リング(14;15,16)は、前記整流子リング(6)によって取り囲まれた開口部(52)を拡げることによって前記切欠部(18;18,20)に固定される、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記補強リング(14;15,16)は、繊維強化樹脂または繊維強化プラスチックから形成される、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記補強リング(14;15,16)は、長方形または正方形の断面を有する、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
整流子を備える電気機器であって、
前記整流子は、整流子リングを含み、
該整流子リングは、導電性の成形可能な材料からなる多数の整流子片と、環状に延在する整流子片の切欠部に配置された少なくとも1つの補強リングとを含む、
形式の電気機器において、
前記整流子片(8)の、前記切欠部(18;18,20)を画定する少なくとも1つの部分は、前記補強リング(14;15,16)を固定するために可塑性に変形されている、
ことを特徴とする電気機器。
【請求項9】
前記補強リング(14;15,16)は、前記切欠部(18;18,20)にかしめられている、
ことを特徴とする請求項8記載の電気機器。
【請求項10】
前記切欠部(18)は、電機子軸受の領域に配置されている、
ことを特徴とする請求項8または9記載の電気機器。
【請求項11】
複数の整流子片(8)は、幅狭のウェブ(42)によって一体的に互いに接続されている、
ことを特徴とする請求項8〜10記載の電気機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2011−502460(P2011−502460A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530485(P2010−530485)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064592
【国際公開番号】WO2009/056537
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064592
【国際公開番号】WO2009/056537
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】
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